外傷性脳損傷または脊髄損傷を治療する製剤における補体副経路阻害作用剤の使用方法
【課題】動物において外傷性脳損傷(TBI)または脊髄損傷(SCI)に起因する生理学的損傷の少なくとも1つの徴候を軽減または防止するか、または動物のTBIからの回復を促進する方法の提供。
【解決手段】TBIまたはSCIを経験した動物の補体副経路を選択的に阻害する方法で、補体副経路のプロパージンに代表されるタンパク質の発現または活性を選択的に阻害する抗体、同抗体の抗原結合フラグメント、または抗原結合ポリペプチドを作用剤とする方法。
【解決手段】TBIまたはSCIを経験した動物の補体副経路を選択的に阻害する方法で、補体副経路のプロパージンに代表されるタンパク質の発現または活性を選択的に阻害する抗体、同抗体の抗原結合フラグメント、または抗原結合ポリペプチドを作用剤とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、外傷性脳損傷、脊髄損傷、または関連状態に起因する生理的障害を、補体副経路を選択的に阻害すること、また、特定の実施形態では、B因子を阻害することにより治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
補体の活性化は、主として、3つの経路、いわゆる古典経路、レクチン経路および副経路を介して生じる。副経路の活性化に関与する主要タンパク質は、B因子(fB)およびD因子(fD)である。これらのタンパク質は協働してC3の活性化を開始かつ/または増幅し、それによって、多くの炎症反応が引き起こされる。第3のタンパク質、プロパージンは、C3とB因子との複合体を安定化させるが、副経路の機能に不可欠というわけではない。B因子も免疫複合体の可溶化に役立ち、B細胞増殖因子としての役割を果たすと報告されており、単球を活性化し得る(例えば、非特許文献1、2、3参照)。B因子欠損マウス(fB−/−マウス)が作製されたが、これらのマウスでは、T細胞依存性抗原に対するIgG1抗体応答および内毒素性ショックに対する感受性は正常なように見える(例えば、非特許文献4参照)。
【0003】
通常、補体副経路は、細菌、寄生虫、ウイルスまたは菌類によって活性化されるが、IgA Absおよび特定のIgL鎖もこの経路を活性化すると報告されている。副経路の活性化は、循環B因子が活性化C3(C3bまたはC3H2O)に結合した時点で開始される。次いで、この複合体は、循環D因子によって切断されて、酵素活性フラグメント、C3bBbを生成する。C3bBbはC3を切断してC3bを生成し、C3bは炎症を促進すると共に、活性化プロセスをさらに増幅させて、正のフィードバックループを生成する。両成分(B因子とD因子)とも副経路の活性化に必要である。
【0004】
最近の研究で、補体の副経路が数種の動物病態モデルの発症に重要な役割を果たすことが示されている。例えば、虚血再潅流傷害(I/R)後の腎臓内での補体活性化は、ほぼ例外なく副経路を介しており(例えば、非特許文献5参照)、副経路は炎症性関節炎の発症に重要な役割を果たしている。恐らく最も驚くべきことに、副経路欠損マウスは、従来、補体の古典経路によって仲介されると推測されていたモデルであるループス胃炎のMRL/lprモデルの胃炎(例えば、非特許文献6参照)および抗リン脂質性胎児死亡(例えば、非特許文献7参照)から保護されることが論証された。さらに、ナタフら(Nataf et al)は、C3(−/−)マウスとB因子(−/−)マウスの実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルでは、マクロファージおよびT細胞による柔組織浸潤がほとんどなく、またそれらの野生型同腹子に比べて、EAE誘発C3(−/−)マウスとB(−/−)マウスの中枢神経系(CNS)が脱髄から保護される(例えば、非特許文献8参照)ことを示している。その後のEAEモデルのC4(−/−)マウスにおける自己免疫病理学研究により、C4遺伝子の欠失は、完全にインタクトな補体系を有するコントロールに比べて、ミエリンオリゴデンドロサイト誘発性EAEの発現時間または重症度および速度を有意に変えないことが示されたが、これは、脱髄疾患の発症に対するマウス補体の寄与が副経路を介して実現されることを示している(例えば、非特許文献9参照)。
【0005】
外傷性脳損傷(traumatic brain injury、本明細書ではTBIとも称される)は、個人の健康に極めて有害な影響を及ぼす状態であり、現在のところ有効な治療法はない。補体の活性化はTBI後の脳損傷の発症に関与することが示された(例えば、非特許文献10、11、12、13、14、15、16、17、18参照)。しかし、これらの研究は、例えばC3などの補体を活性化する全3経路が集束する点における補体カスケード作用に集中している(例えば、前掲の非特許文献18参照)。したがって、本発明以前には、補体経路の1つが、TBIの結果として選択的もしくは排他的に活性化されるか、またはTBIの発症に必要とされるかどうかを示す報告はなかった。
【0006】
頭部損傷患者の管理における当座の目標は、低血圧、低酸素血症血、高炭酸および高血糖を速やかに補正して、二次性脳障害を防止することである。頭部外傷患者の初期管理における主要優先事項は、適切な脳潅流圧(CPP)を維持することであり、脳潅流圧は約9.333〜10.666kPa(70〜80mmHg)でなければならない。別の治療的アプローチは、適切なCPPを維持するために、頭蓋内圧(ICP)を低下させることを目指す。治療様式には、頭蓋内血腫の外科的排出による腫瘤病変の減少、浸透圧剤(マンニトール)を用いた脳浮腫の減少、および脳室内カテーテルを介した脳脊髄液(CSF)の治療的排出が含まれる。重篤なTBIを有する患者は、できるだけ早く集中治療室(ICU)に移し、標準プロトコールに従って治療する。ICU治療の目標には、適切なガス交換と循環安定性の達成および維持、低酸素血症および高炭酸の防止、遅発型二次性頭蓋内病変を検出するための反復的定期的コンピュータ断層撮影(CT)スキャン、ストレスや疼痛を回避するための深い鎮静および鎮痛、最適なCPP〔>約9.333kPa(70mmHg)〕および脳酸素平衡の達成および維持、異常高熱(<38℃)の回避、高血糖および低ナトリウム血の防止、日常的な頭位挙上の阻止、ストレス潰瘍の予防および腸粘膜整合性の維持、ならびに悪化因子(例えば、肺炎または髄膜炎)の予防が含まれる。高ICP〔>約2kPa(15mmHg)、>5分〕の場合、患者は、(1)鎮静、鎮痛、筋弛緩の深化、(2)脳室内カテーテルを介したCSF排出、(3)中等度過呼吸(特定状況下)、(4)浸透圧療法、(5)中等度低体温(±34℃)、および(6)バルビツール剤昏睡によって治療可能である。
【0007】
脊髄損傷(spinal cord injury、本明細書ではSCIとも称される)も、個人の健康に極めて有害な影響を及ぼす中枢神経系の状態であり、今のところ有効な治療法がない。補体の活性化は、SCI後損傷の発症に関与することが示されている(例えば、非特許文献19、20、21参照)。しかし、TBIの場合と同様に、これらの研究は、補体を活性化する全3経路が集束する点における補体カスケード作用に集中しているか、SCI後に全補体経路が果たす役割を示唆している。したがって、本発明の前には、補体経路の1つがSCIの結果として優先的もしくは排他的に活性化されるか、またはSCIの発症に必要とされるかどうかを示す報告は存在しなかった。
【0008】
SCIは、一般的には、例えば運動性や感覚などの機能の喪失をもたらす脊髄の損傷と定義される。損傷の主な原因は、(例えば、自動車事故、被弾、落下などによる)外傷または病気(ポリオ、二分脊椎、フリードライヒ運動失調症など)である。脊髄が切断されるから機能喪失が起るとは限らない。実際、SCIを有する個人のほとんどは、脊髄は無傷だが、脊髄への障害が機能の喪失をもたらす。SCIを有する個人は、感覚または運動機能の喪失の他に、腸や膀胱の機能不全、性的および受胎能力不全、血圧を効率的に調節する能力の不全、体温調節能力の低下、損傷レベル以下での発汗不能、ならびに慢性疼痛も経験し得る。上位損傷(C−1、C−2)は、呼吸能力を含めた多くの不随意機能の喪失をもたらし、人工呼吸器または横隔膜ペースメーカーなどの蘇生器を必要とし得る。
【0009】
現在のところ、SCIの治療法は存在しない。SCI患者の管理における当座の目標は、損傷が発生した後できる限り速やかに障害を減少させることに集中している。メチルプレドニゾロンなどのステロイド薬は、損傷時の二次性障害の一般的原因である浮腫を減少させる。脊髄損傷には数種の短期的治療法がある。第1に、(例えば、ハロー、キャスト、ギブスおよびストラップを用いて)損傷脊髄領域の脊椎を固定して、脊髄へのさらなる障害を防ぐ。損傷によって生じた脊髄浮腫を減少させるために、通常、損傷後24時間の間にステロイド薬を投与するが、もっと典型的なアプローチは、神経障害を有する患者に、外傷を受けてから8時間以内にステロイド薬を投与して治療を開始する方法である(例えば、非特許文献22参照)。多くの場合、発症し得る合併症に応じて他の治療法が必要である。通常、脊椎への外傷性損傷は脊椎の骨や靭帯への損傷を含むので、外科手術を実施し得る。ある種の外科手術の目的は、脊髄を圧迫しているか、脊髄に圧入している骨を除去する方法(減圧法)か、椎体または靭帯が損傷を受けている場合には脊髄損傷部位の脊椎を安定化または再整列する方法である。正常な椎体に金属の棒またはケージやスクリューを取り付けて折れた椎体の動きを阻止したり、骨移植片または同様な目的のものを用いて椎体を「融合」させたりし得る。錘(おもり)や滑車(牽引と称される)を用いて脊椎を引き伸ばす方法も脊椎を整列させるのに役立ち得る。
【0010】
TBI患者の治療プロトコールにも拘わらず、TBI治療から発生し得る合併症としては、脳血管痙攣または心臓血管陥凹、肝毒、免疫抑制、および肺感染の発症率の増加を挙げることができる。さらに、SCIの治療により生理的障害はかなり減少させ得るが、多くのプロトコールは、主に、さらなる障害の可能性を低減させたり、患者を安定化させたりするのに役立つという点で有用なものである。どのプロトコールも、TBIまたはSCIに起因する生理的障害の発生を阻止するのに十分満足のいくものでないことが判明している。
【0011】
したがって、当技術分野においては、毒性が低く、TBIおよびSCIに起因する障害の根本原因に特異的な治療法および試薬が依然として求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】高橋(Takahashi)、1980年
【非特許文献2】ホール(Hall)、1982年
【非特許文献3】ピータース(Peters)、1988年
【非特許文献4】松本(Matsumoto)、1997年
【非特許文献5】サーマンら(Thurman,et al)、2003年、J Immunol 第170巻、p.1517−1523
【非特許文献6】渡邊ら(Watanabe et al)、2000年、J Immunol 第164巻、p.786−794
【非特許文献7】ジラルディら(Girardi et al)、2003年、J Clin Invest 第112巻、p.1644−1654
【非特許文献8】ナタフら(Nataf et al)、2000年、J.Immunol.第165巻、p.5867−5873
【非特許文献9】ブースら(Boos et al)、2005年、Glia 第49巻、p.158−160
【非特許文献10】ベランダーら(Bellander et al)、2001年、J.Neurotrauma 第18巻、p.1295−1311
【非特許文献11】カックゾロフスキーら(Kaczorowski et al)、1995年、J.Cereb.Blood Flow Metab.第15巻、p.860−864
【非特許文献12】キーリングら(Keeling et al)、2000年、J.Neuroimmunol.第105巻、p.20−30
【非特許文献13】シュミットら(Schmidt et al)、2004年、Eur.J.Trauma、第30巻、p.135−149
【非特許文献14】ナタフら(Nataf et al)、1999年、Trends Neurosci 第22巻、p.397−402
【非特許文献15】シュタヘルら(Stahel et al)、1998年、Brain Res.Rev.第27巻、p.243−256
【非特許文献16】シュタヘルら、2001年、J.Neurotrauma 第18巻、p.773−781
【非特許文献17】ファンベークら(Van Beek et al)、2003年、Ann NY Acad Sci 第992巻、p.56−71
【非特許文献18】ランカンら(Rancan et al)、2003年、J.Cereb.Blood Flow & Metab.第23巻、p.1070−1074
【非特許文献19】アンダーソンら(Anderson et al)、2004年、J Neurotrauma 第21巻(12)、p.1831−46
【非特許文献20】レイノルズら(Reynolds et al)、2004年、Ann NY Acad Sci.第1035巻、p.165−78
【非特許文献21】レブハンら(Rebhun et al)、1991年、Ann Allergy 第66巻(4)、p.335−8
【非特許文献22】ブラッケン(Bracken)、2001年、Spine 第26巻(24S)、p.S37−S54
【発明の概要】
【0013】
(発明の開示)
本発明の1つの実施形態は、動物の外傷性脳損傷(TBI)に起因する生理的障害の少なくとも1つの症状を軽減または防止するか、動物のTBIからの回復を促進する方法に関する。この方法は、TBIを経験した動物の補体副経路を選択的に阻害する工程を含む。1つの態様において、症状は、脳血管痙攣、心臓血管陥凹、肝毒、免疫抑制、および/または肺感染症から選択される。別の態様において、症状は、低血圧、低酸素血症、高炭酸症および/または低血糖症からなる群から選択される。
【0014】
本発明の別の実施形態は、動物の脊髄損傷(SCI)に起因する生理的障害の少なくとも1つの症状を軽減または防止するか、動物のSCIからの回復を促進する方法に関する。この方法は、SCIを経験した動物の補体副経路を選択的に阻害する工程を含む。1つの態様において、症状は脊髄の浮腫である。
【0015】
本発明のさらに別の実施形態は、外傷性脳損傷(TBI)を治療するための医薬組成物における補体副経路を選択的に阻害する作用剤の利用に関する。
本発明の別の実施形態は、脊髄損傷(SCI)を治療するための医薬組成物における補体副経路を選択的に阻害する作用剤の利用に関する。
【0016】
上述の方法または利用のいずれにおいても、阻害工程は、補体副経路のタンパク質の発現または活性を選択的に阻害する作用剤を動物に投与する工程を含み得る。補体副経路のタンパク質は、B因子、D因子および/またはプロパージンから選択するのが好ましい。そのような作用剤としては、補体副経路タンパク質の発現阻害剤、補体副経路タンパク質の生物活性阻害剤、および/または補体副経路タンパク質の拮抗剤が挙げられるが、それらには限定されない。
【0017】
1つの態様において、上述の方法または利用のいずれにも用いられる作用剤は、抗体、その抗原結合フラグメント、または抗原結合ポリペプチドであり、いずれも補体副経路タンパク質に選択的に結合してタンパク質を阻害する。1つの態様において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、第3ショートコンセンサスリピート(SCR)ドメイン内のB因子に選択的に結合して、抗体がC3bBb複合体の形成を阻止する。1つの態様において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、B因子に結合し、D因子によるB因子の切断を防止または阻害する。1つの態様において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトB因子の第3ショートコンセンサスリピート(SCR)ドメインに結合する。別の態様において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、以下のエピトープから選択されるB因子の第3SCRドメイン内エピトープに選択的に結合する:(a)ほぼTyr139位〜ほぼSer185位を含むヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部、または非ヒトB因子配列のそれと等価な位置を含むB因子エピトープ;(b)ほぼTyr139位〜ほぼSer141位を含むヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部、または非ヒトB因子配列のそれと等価な位置を含むB因子エピトープ;(c)ほぼGlu182位〜ほぼSer185位を含むヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部、または非ヒトB因子配列のそれと等価な位置を含むB因子エピトープ;および/または(d)以下の位置:Tyr139、Cys140、Ser141、Glu182、Gly184、もしくはSer185の1または複数を含むヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部または非ヒトB因子配列のそれと等価な位置を含むB因子エピトープ。1つの態様において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、1または複数の以下のアミノ酸位置:Ala137、Tyr139、Ser141、Glu182、Ser185、Thr189、Glu190およびSer192または非ヒトB因子配列のそれと等価な位置を含むB因子の第3SCRドメイン(配列番号2)内エピトープに選択的に結合する。別の態様において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、以下のアミノ酸位置:Ala137、Tyr139、Ser141、Glu182、Ser185、Thr189、Glu190、およびSer192、または非ヒトB因子のそれと等価な位置を含むか、それらの位置からなるB因子の第3SCRドメイン内エピトープに選択的に結合する。さらに別の態様において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号2の少なくともアミノ酸位置Ala137−Ser192または非ヒトB因子配列のそれと等価な位置により規定されるB因子第3SCRドメインの一部の3次元構造内非線形エピトープに選択的に結合する。さらに別の態様において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、多様な哺乳類種のB因子に選択的に結合して、C3bBb複合体の形成を阻止する。1つの態様において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトや、非ヒト霊長類、マウス、ラット、ブタ、ウマおよびウサギからなる群から選択される動物のB因子に選択的に結合する。上述のいずれの抗体に関しても、その抗体には、非補体活性化イソタイプもしくはサブクラスの抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、二重特異性抗体、および/または一価抗体が含まれるが、それらには限定されない。1つの態様において、抗体の抗原結合フラグメントはFabフラグメントである。本発明の1つの好ましい態様において、抗体は、(ATCC寄託番号PTA―6230により産生される)モノクローナル抗体1379、またはその抗原結合フラグメントである。
【0018】
TBIに関連する方法および使用方法では、1つの好ましい実施形態において、作用剤は動物の静脈内または脳に投与する。SCIに関連する方法および使用方法では、1つの好ましい実施形態において、作用剤は、動物の静脈内または脊髄もしくは脊髄の硬膜上腔に投与する。作用剤は、動物のTBIまたはSCIに起因する生理的障害の少なくとも1つの症状を、作用剤を投与しない場合に比べて測定可能な程度まで軽減させるのに有効な量で動物に投与するのが好ましい。TBIに関し、1つの態様において、作用剤は、脳潅流圧(CPP)を約9.033〜10.666kPa(70〜80mmHg)に維持するのに有効な量、または頭蓋内圧(ICP)を低下させるのに有効な量で投与する。SCIに関し、1つの態様において、作用剤は、脊髄の浮腫を減少させるのに有効な量で投与する。1つの態様において、作用剤は、血液脳関門を通過し得る化合物もしくは組成物および/または注射可能な賦形剤を含むがそれらには限定されない医薬として許容される担体中で投与される。
【0019】
TBIに関して上述した方法および使用方法の1つの態様では、身体障害、認識障害、心理社会的−行動−情緒障害からなる群から選択されるTBI症状を治療するための別の化合物を動物に投与する工程がさらに含まれる。そのような化合物としては、浸透圧剤、鎮静剤、鎮痛剤、筋弛緩剤、および/またはバルビツール剤が挙げられるが、それらには限定されない。
【0020】
SCIに関して上述した方法および利用の1つの態様において、動物にステロイドを投与するさらなる工程が存在する。
TBIに関して上述した方法および利用の1つの態様において、方法は、頭蓋内血腫の外科的排出による腫瘤病変の減少、浸透圧剤による脳浮腫の軽減、脳室内カテーテルを介した脳脊髄液(CSF)の治療的排出、コンピュータ断層撮影(CT)スキャン、鎮静、鎮痛、筋弛緩、中等度過呼吸、中等度低体温、および/またはバルビツール剤による昏睡から選択されるプロトコールによって動物のTBIを治療する工程をさらに含み得る。
【0021】
SCIに関して上述した方法または利用の1つの態様において、方法はさらに、ステロイドの投与、脊椎の固定、減圧手術、椎体安定化手術、椎体再整列手術、および/または牽引から選択されるプロトコールにより動物のSCIを治療する工程を含み得る。
【0022】
上述の方法および利用のいずれにおいても、動物は、ヒトを含むがヒトには限定されない哺乳類であるのが好ましい。
本発明のさらなる実施形態は、(1)外傷性脳損傷(TBI)を経験した動物のTBIに起因する生理的障害の少なくとも1つの症状を軽減もしくは防止する方法、または(2)脊髄損傷(SCI)を経験した動物のSCIに起因する生理的障害の少なくとも1つの症状を軽減もしくは防止する方法に関し、これらの方法はそれぞれ、動物に、B因子の第3ショートコンセンサスリピート(SCR)ドメインに結合するかSCRドメインをブロックすることによりB因子を阻害する作用剤を投与する工程を含む。これらの実施形態の1つの好ましい態様において、作用剤は、B因子に選択的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントである。
【0023】
本発明の別の実施形態は、(a)補体副経路のタンパク質の発現または生物活性を選択的に阻害する、単離抗体、その抗原結合フラグメント、および/または抗原結合ポリペプチドから選択される第1作用剤と、(b)外傷性脳損傷(TBI)の症状を治療するための第2作用剤とを含む組成物に関する。1つの態様において、第2作用剤は、身体障害、認識障害、および/または心理社会学的−行動−感情障害から選択されるTBIの症状を治療するための化合物である。別の態様において、第2作用剤は、浸透圧剤、鎮静剤、鎮痛剤、筋弛緩剤、およびバルビツール剤からなる群から選択される。
【0024】
本発明のさらに別の実施形態は、(a)補体副経路のタンパク質の発現または生物活性を選択的に阻害する、単離抗体、その抗原結合フラグメント、および/または抗原結合ポリペプチドから選択される第1作用剤と、(b)脊髄損傷(SCI)の症状を治療するための第2作用剤とを含む組成物に関する。1つの態様において、第2作用剤はステロイドである。
【0025】
上述の組成物のいずれにおいても、第1作用剤には、B因子、D因子および/またはプロパージンから選択されるタンパク質の発現または生物活性を阻害する作用剤が含まれるが、それには限定されない。1つの態様において、第1作用剤は、第3ショートコンセンサスリピート(SCR)ドメイン内のB因子に結合して、C3bBbの形成を阻害または防止する。別の態様において、第1作用剤は、抗体またはその抗原結合フラグメントである。好ましい1態様において、抗体はモノクローナル抗体1379である。本発明の方法および利用に用いるための上記作用剤はいずれも本発明の組成物に使用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】B因子−Ig融合タンパク質の構築を示す略図。
【図2A】ザイモサンアッセイで10μgの血清を含有する反応物に3μgを加えたときに抗B因子が補体副経路を完全に阻害したことを示す線グラフ。
【図2B】ウサギ赤血球溶解アッセイで、10μlのヒト血清に6μgの抗体を加えたときに、抗B因子が補体副経路を完全に阻害したことを示す線グラフ。
【図3】抗B因子をマウスに投与すると補体副経路が阻害されることを示す線グラフ。
【図4】ヒトB因子表面上のmAb1379のエピトープマッピングモデルを示す略図。
【図5】マッピングされたエピトープ領域全体をカバーするようにFabの抗原結合面がモデル化された、B因子に結合するmAb1379のモデル化複合体(1つのFabフラグメント)を示す略図。
【図6】Crry−IgがTBI後の神経障害を阻止することを示す線グラフ。
【図7】Crry−IgがTBI後の体重減少を阻止することを示す線グラフ。
【図8】抗B因子(mAb1379)を投与するとTBIに関連する脳損傷が減少することを示す棒グラフ。
【図9】抗B因子(mAb1379)を投与すると脊髄損傷からの回復が促進されることを示す線グラフ。
【図10】脳損傷C57BL/6(fB+/+)マウスの血清では高いC5aレベルが、機能的補体副経路を欠損するB因子遺伝子欠損(fB−/−)マウスでは有意に低下していることを示すグラフ。
【図11】ウエスタンブロット分析で測定した、外傷性脳損傷(TBI)後のfB−/−マウスの血清および脳における抗アポトーシスメディエータBcl−2のアップレギュレーションを示すウエスタンブロットのデジタル画像。
【図12】閉鎖性頭部外傷から4時間後のB因子遺伝子欠損マウスの損傷半球における神経細胞死の低下を示すデジタル画像。
【図13】閉鎖性頭部外傷から24時間後のB因子遺伝子欠損マウスの損傷半球における神経細胞死の低下を示すデジタル画像。
【図14】閉鎖性頭部外傷から7日後のB因子遺伝子欠損マウスの損傷半球における神経細胞死の低下を示すデジタル画像。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、概して、外傷性脳損傷(TBI)に起因する生理的障害の誘発には副経路を介した補体カスケードの活性化が必要であり、補体副経路の阻害がTBIまたは脊髄損傷(SCI)に起因する障害の軽減(または回復の促進)に十分であるという本発明者らの発見に関する。より具体的に言えば、本発明らは、本明細書で、副経路の阻害がTBI実験モデルで生理的障害(例えば、脳障害)を阻害し、また、SCI実験モデルでも障害を阻害する(回復促進により測定)という発見を開示する。したがって、本発明は、補体副経路の選択的阻害により、TBI、SCIまたは他の神経もしくは脳障害を予防かつ/または治療するための化合物、組成物法ならびにそのような予防法および/または治療法における上記化合物または組成物の利用に関する。
【0028】
第1に、本発明者らは、全外傷後活性化度および脳損傷後の二次性神経細胞死の要因としての補体副経路活性化の主要な役割を初めて明らかにした。さらに、本発明者らは、C3補体転換酵素Crry−Igを用いたC3阻害による補体経路の全体的阻害に加えて、B因子の阻害による補体副経路の特異的阻害がいずれもTBIに関連する障害を阻害することを論証した。これは、補体副経路の特異的かつ選択的阻害による、TBIに関連する生理的障害および作用の阻害能力についての最初の開示であると思われる。
【0029】
第2に、本発明者らは、B因子阻害による補体副経路の阻害がSCI関連障害を阻害することを明らかにした。これは、副補体系を特異的かつ選択的に阻害することによりSCIに関連する生理的障害および作用を阻害する能力についての最初の開示であると考えられる。
【0030】
特異的治療標的としての補体副経路のB因子および他のタンパク質(例えば、D因子またはプロパージン)を同定することにより、補体副経路の選択的阻害によるTBIまたはSCIに起因する生理的障害または作用の阻害に使用し得る合理的方策および主要化合物が得られる。
【0031】
活性化の種々の段階で補体系を阻害すべくいくつかの阻害剤がすでに開発されている〔ホーラーズ(Holers)、V.M.2003年、Clin Immunol 第107巻、p.140−151〕が、副経路特異的阻害剤は広く報告されてはいない。副経路特異的阻害は、既存の補体カスケード阻害剤に比べていくつかの利点を有する。先ず、TBIまたはSCIに起因する生理的障害が主として補体副経路の活性化により仲介されることを本発明者らが発見したために、この経路の特異的阻害剤は、全補体阻害剤としても有効であると思われるにもかかわらず、免疫抑制性副作用は少ないであろう。さらに、C4−/−マウス(補体の古典経路、副経路およびレクチン経路に一般的なC4補体成分を欠くマウス)は、全身性実験的細菌感染症に罹り易いように見えるが、fB−/−(B因子欠損)マウスはそうではないということは、古典経路をインタクトなままにしておくことによって、副経路阻害剤は、重篤な感染症をもたらす危険性が低いことを示唆している。先天性B因子欠損ヒト患者は1人だけ報告されている〔デンセンら(Densen et al)、1996年、Mol Immunol 第33巻、p.68(要約 270)〕が、遺伝子標的B因子欠損マウス(fB−/−)の研究では、まだ、この因子の免疫調節効果は論証されていない〔デンセンら、前掲;松本ら(Matsumoto et al)、1997年、Proc Natl Acad Sci USA 第94巻、p.8720−8725〕。それに対し、先天性古典経路成分欠損患者は、感染〔最も一般的には、スタフィロコッカス(Staphylococcusおよびストレプトコッカス(Streptococcus)〕の危険性が高いようである。古典経路成分またはC3(補体経路すべてに共通)も自己免疫に関係する可能性があり〔フィゲロア(Figueroa)およびデンセン(Densen)、1991年、Clin Microbiol Rev 第4巻、p.359−395〕、それは、B因子欠損がMRL/lprマウスを糸球体腎炎発症から保護するが、C3欠損は保護しない理由を説明している可能性がある(渡邊ら、前掲)。副経路を選択的に阻害することにより、C3a受容体ならびに補体受容体1−4およびC5aのC3由来リガンド生成が阻止される。活性化プロセス中に生成されるB因子のBaまたはBb活性化産物の受容体がまだ十分に明らかにされていないために、実際には、副経路ブロッキング効果はもっと直接的であるかもしれない。したがって、副経路の阻害は、補体の古典経路の阻害よりも、耐性が高く、さらに有効であると見込まれる。
【0032】
TBIやSCIおよび関連状態を治療するために本発明の方法に使用する補体副経路特異的阻害剤の大きな潜在的治療効果を前提として、本発明者らは、数種のB因子阻害モノクローナル抗体を開発し、そのうちの1種をTBI実験モデルとSCI実験モデルでテストした。これらの抗体は、2005年11月24日に公開された米国特許出願公開番号2005−0260198−A1号および2005年8月25日に公開されたPCT公開番号WO2005/077417号に詳細に記載されており、両文献はその全体が本明細書に文献援用される。
【0033】
手短に言えば、抗体を産生させるために、遺伝子標的B因子欠損マウス(fB−/−)に、ヒンジ部に結合させたB因子の第2および第3ショートコンセンサスリピート(SCR)ドメイン、マウスIgG1アイソタイプのCH2およびCH3ドメインからなる融合タンパク質を注射した(図1参照)。これらのSCRドメインを選択したのは、それらがfB−/−マウスのB因子遺伝子の欠失セグメントの一部だからである。B因子に対する免疫応答を調べるために(例えばELISAを用いて)マウスをスクリーニングにかけ、融合タンパク質注入マウスのうちの1匹の脾臓細胞を骨髄腫細胞に融合させた。1379と名付けた得られたハイブリドーマの1つは、試験管内(図2Aおよび2B)および生体内(図3)で補体副経路の活性化を阻害するIgG1抗体を産生する。具体的に言うと、この抗体は、副経路活性について2種の試験管内アッセイでテストしたところ、ヒト血清による赤血球の溶解を完全に阻止し得ることを示したので、この試薬の補体副経路活性化を完全にブロックする能力が確認された。マウスを、阻害抗体を1回注射した後のいろいろな時期に副経路の阻害に関してテストしたところ、1mgの抗体で、静脈内注射後1時間以内および腹腔内注射後2時間以内に完全阻害が得られた(図3)。1mgを腹腔内注射したマウスは、注射後24時間の時点で副経路の完全阻害を保持し、2mg注射したマウスは、注射後48時間まで完全阻害を保持した。また、本発明者らは、2mgの1379抗体を1日おきに14日間繰り返し腹腔内注射し、補体副経路の完全阻害が最終注射後少なくとも48時間維持されることを示した。さらに、この抗体から作ったFabフラグメントも、インタクトな1379抗体と同様に、ほぼ等モルレベルで副経路を完全阻害した。
【0034】
1379抗体は、マウス、ラット、ヒト、ヒヒ、アカゲザル、カニクイザル、ブタ、ウサギおよびウマを含めた動物の血清の副経路活性化を阻害する(表1)。
【0035】
【表1】
本発明者らが作製した抗B因子抗体のパネルを表2に示す。上述のように、本発明者らは、mAb1379がマウスおよびヒトのB因子に結合して阻害することを示した。それに対し、mAb624と称される抗体は、マウスとヒトのB因子に結合することはできるが、ヒトの副経路を阻害しない。競合アッセイで明らかにされたように、抗体624、691および1231は1379による結合をブロックしない。したがって、これらの抗体はタンパク質に別の部位で結合するに違いなく、これは、これらの抗体がB因子に結合はするが、その試験管内でその機能を阻害しない理由を説明している。しかし、抗体395、1322および1060は1379の競合的阻害剤である。
【0036】
【表2】
この抗体が第3ショートコンセンサスリピート(SCR)ドメイン内のB因子に結合して、C3bBb複合体の形成を阻止することを論証するためにエピトープマッピングを用いた。さらに、mAb1379抗体のエピトープをマッピングする実験で、B因子上のエピトープまたは抗体結合部位が線形ではないことが示された。種々の実験で、ヒトB因子のSCR2および3にいくつかのアラニン置換を導入し、SCR1には導入しないと、139−Tyr−140−cys−141−SerがHis−Cys−Proで置換された変異体(これらの位置は配列番号2で表される成熟ヒトB因子に関連する)および182−Glu−183−Gly−184−Gly−185−SerがGly−Asn−Gly−Valで置換された異性体を含む、B因子に対する1379抗体の結合の喪失または実質的喪失が生じることが示された。
【0037】
mAb1379が認識するヒトB因子の予測された保存結合表面またはエピトープをモデル化した。手短に言うと、解明されたCR2−SCR1−2の3次元構造〔プロテインデータバンク(PDB)id 1GHQ〕に基づいてヒトB因子の3次構造を構築した。図4は、(配列番号2に関する)mAb1379エピトープに対応するアミノ酸位置を示すB因子構造モデルを示している。mAb1379抗体の立体構造エピトープを構成すると思われる残基は、Ala137、Tyr139、Ser141、Glu182、Ser185、Thr189、Glu190およびSer192であるが、このエピトープは、図4に示されている残基の極くわずかか、実質的にすべて、またはそれより多い残基を含み得る。図5は、B因子に結合するmAb1379のモデル化複合体(1Fabフラグメント)を示す略図であり、このFabの抗原結合面は図4に規定されているようなマッピングされたエピトープ領域全体をカバーするようにモデル化されている。
【0038】
本発明者らが作製し、前掲の米国特許出願公開番号2005−0260198−A1およびPCT公開番号WO2005/077417号に詳述されている抗体は、前臨床原理実証実験が行われるヒトや他の多くの動物種が共有するB因子上の部位を認識するので、ヒト疾患モデルでの発見をヒト治療で容易に実行することができる。これらの抗体は、タンパク質の広範種阻害を示す最初の抗B因子抗体であると考えられる。したがって、B因子に対する新規阻害試薬を開発し得るB因子上の固有部位も同定された。
【0039】
本発明において、発明者らは、副経路の阻害が外傷性脳損傷(TBI)の生理的損傷を阻害し、また脊髄損傷(SCI)の生理的障害も阻止することを発見し、本明細書でそれをはじめて報告するが、この情報は、TBIおよびSCI治療用の新規治療用試薬の設計、単離および/または同定に用い得る。さらに、本発明者らがすでに作製し、記載した抗体は、本発明の方法で用いるのに優れた作用剤である。
【0040】
本発明の1つの実施形態は、動物の外傷性脳損傷(TBI)に起因する(に関連する)少なくとも1種の症状または状態(不能、減退、生理的障害)を軽減または予防するか、TBIに起因する障害からの回復を促進(強化)する方法に関し、この方法は、TBIを経験した動物の補体副経路を選択的に阻害する工程を含む。本発明の別の実施形態は、動物の脊髄損傷(SCI)に起因する(に関連する)少なくとも1種の症状または状態(不能、減退、生理的障害)を軽減または予防するか、TBIに起因する障害からの回復を促進(強化)する方法に関し、この方法は、SCIを経験した動物の補体副経路を選択的に阻害する工程を含む。1つの好ましい実施形態において、方法は、動物に、補体副経路を阻害する作用剤、特に、B因子を阻害する作用剤を投与する工程を含む。1つの特に好ましい実施形態において、作用剤は抗B因子抗体またはその抗原結合フラグメントである。
【0041】
したがって、本発明の方法は、それぞれTBIまたはSCIに起因する生理的障害を有するか、障害を発症する恐れのある動物の補体副経路を選択的に阻害する工程を含む。本発明によれば、動物の補体副経路を阻害するとは、補体副経路の一部である少なくとも1種のタンパク質またはそのようなタンパク質をコードする核酸分子の発現および/または生物活性を阻害することを意味する。そのようなタンパク質には、B因子、D因子またはプロパージンが含まれるが、それらには限定されない。補体副経路を「選択的に」阻害するとは、本発明の方法が補体副経路を選択的または排他的に阻害するが、補体の古典経路またレクチン経路を含めた他の補体経路の活性化は阻害しないか、少なくとも実質的に阻害しないことを意味する。例えば、本発明の新規B因子抗体およびその抗原結合フラグメントは、補体副経路を選択的に阻害する試薬の1例である。特定タンパク質を「選択的に」阻害するとは、本発明の方法が、特定タンパク質の発現および/または生物活性を選択的または排他的に阻害するが、〔そのような生物活性が特定タンパク質と下流事象などを共有するものでない限り〕他のタンパク質の発現および/または生物活性を阻害しないか、少なくとも実質的に阻害しないことを意味する。
【0042】
本発明によれば、外傷性脳損傷(TBI)とは、例えば頭部への衝撃または揺動などの任意のタイプの頭部への外傷に起因する損傷、創傷または障害と定義される。より具体的に言えば、TBIは、外部の物理的な力に起因する脳への後天的損傷であり、全体的もしくは部分的機能障害、心理社会的障害、またはその両方をもたらす。この用語は、例えば、認識、言語、記憶、注意、推論、抽象的思考、判断、問題解決、感覚、知覚、および運動能力;心理社会的行動;身体機能;情報処理;および発語などの1または複数の領域に障害をもたらす開放性および閉鎖性頭部損傷に適用する。この用語は、通常、先天性もしくは変性脳損傷、または出産時外傷により引き起こされる脳損傷には適用されないが、後者タイプの外傷も本発明の方法を用いて治療し得る。TBIは、身体障害(例えば、発語、視覚、聴覚および他の感覚障害;頭痛;細かい運動神経の欠如;筋肉の痙直;半身もしくは全身の不全麻痺もしくは麻痺および発作性疾患;平衡障害;ならびに他の歩行障害)、認識障害(例えば、短期および長期記憶障害、集中力欠損、思考力減退および注意持続時間の短縮、ならびに認知能力、コミュニケーション能力、読み書き能力、計画能力、順序を連続して受容する能力、および判断能力の低下)、ならびに、心理社会的−行動−情緒障害(例えば、倦怠感、気分変動、否認、自己中心性、不安神経症、抑うつ症、自尊心の低下、性機能障害、不穏状態、モチベーションの欠如、自己監視不能、感情制御困難、対処不能、焦燥、過度な笑いまたは泣き叫びや、他人との関係障害)を含めた多様な生理的および精神的症状、状態または障害をもたらし得る。TBIの診断についての詳細な論考は上記に提示されている。
【0043】
TBIの診断法は当技術分野では十分に確立されている。通常、TBIは、外傷歴、臨床状態、およびX線およびコンピュータ断層撮影(CT)スキャンなどの画像研究に基づいて診断する。特に重要なのは、蘇生後グラスゴー・コーマ・スケール(GCS)スコアの使用である〔ティーズデイル(Teasdale)およびジェネット(Jennett)、1974年、Lancet 2(7872)、p.81−84〕。というのは、このパラメータが結果の予測に重要な判断材料だからである。GCSを評価する際、スコアの計算には最良反応(best response)を用いる。軽度頭部外傷を有する患者(GCS14または15点)は、救急科に通された全頭部外傷患者の約80%を構成する。中等度頭部外傷はGCSスコア9〜13点に相当し、軽度頭部外傷患者に比べて高い頭蓋内病変リスクに関連する。GCSスコア8点以下は、眼を開けたり、指示に従ったり、言葉で応答したりできない状態と定義される植物状態の患者に相当する。したがって、重度頭部外傷は、GCSスコア3〜8点と定義される。患者を評価する際、GCSおよび意識レベルの評価に加えて、神経学的検査には、通常、瞳孔サイズや瞳孔反応、および末梢運動機能の簡易評価が含まれる。臨床検査には、さらに、頭皮裂傷の検査、頭蓋骨陥入骨折の触診、および眼窩周囲の斑状出血(「アライグマの目」)、耳介後斑状出血(「バトル徴候」)、CSF漏出による鼻漏/耳漏、および第VII神経麻痺を含めた、頭蓋底骨折の間接徴候の検出が含まれる。特定の状況下では、CTスキャンを実施する。昏睡状態または意識変容状態の他の原因は、例えば、薬剤、代謝機能不全、内部もしくは外部出血源、先在の非外傷性脳損傷(例えば、虚血性もしくは出血性脳損傷)、癲癇、脳底動脈血栓症、細菌性髄膜炎、脳膿瘍もしくは脳腫瘍のスクリーニングにより調査分析し得る。閉鎖性頭部外傷の形態学的分類は、マーシャル(Marshall)や同僚のガイドラインに従ったCTスキャンでの発見に基づいている〔マーシャルら(Marshall et al)、J.Neurosurg.1991年、第75巻、p.S14−S20〕。頭蓋内病変は、限局性(硬膜下、硬膜外、脳内出血;排出対非排出)または広範性(グレードI〜IV)であり得る。TBIの評価に用いるパラメータの詳細な論考は、例えば、ヴォスら(Vos et al)、2002年、Eur.J.Neurol.第9巻、p.207−219およびゲーツ(Gaetz)、2004年、Clin.Neurophysiol.第115巻、p.4−18に記載されている。
【0044】
本発明によれば、脊髄損傷(SCI)は、例えば、運動または感情などの機能の喪失をもたらす脊髄に対する外傷、創傷、または障害と定義される。損傷の主な原因は、(例えば、自動車事故、被弾、落下などによる)外傷または病気(ポリオ、二分脊椎、フリードライヒ運動失調症など)である。脊髄が切断されるから機能喪失が起るとは限らない。SCIを有する個人は大抵、脊髄は無傷であるが、その障害が機能の喪失をもたらす。SCIを有する個人は、感覚または運動機能喪失の他に、腸や膀胱の機能不全、性的および受胎能力不全、血圧を効率的に調節する能力の不全、体温調節能力の低下、損傷レベル以下の発汗不能、ならびに慢性疼痛を含めた症状、状態、または障害も経験し得る。SCI患者は、通常、損傷レベル(例えば、第8頚椎または第12胸椎またはその下)により定義されるレベルのSCIをも有し得る。上位損傷(C−1、C−2)は、呼吸能力を含めた多くの不随意機能の喪失をもたらす可能性があり、人工呼吸器または横隔膜ペースメーカーなどの蘇生器を必要とし得る。
【0045】
脊髄損傷の診断法は当技術分野では十分に確立されている。緊急治療室では、医師が負傷者を入念に検査し、感覚機能や動きをテストし、事故に関する質問をして、脊髄損傷を除外し得る。負傷者が頚痛を訴えるか、完全に覚醒していないか、明らかな衰弱または神経損傷の徴候があれば、緊急診断テストを必要とし得る。そのようなテストには、X線、コンピュータ断層撮影(CT)スキャン、磁気共鳴影像法(MRI)、または脊髄造影法が含まれる。種々の神経学的検査も実施し得る。SCIの影響は、損傷の種類やレベルによってさまざまである。SCIは、一般に、2種の損傷、すなわち、完全損傷と不完全損傷に分けることができる。完全損傷とは、損傷レベル以下が機能しない(すなわち、感覚や随意運動がない)ことを意味する。身体の両側が等しく侵されている。不完全損傷とは、主要損傷レベル以下が測定可能な程度機能することを意味する。不完全損傷患者は、片側の手足を反対側の手足より良く動かせたり、動かせない身体部分を感じることができたり、または身体の片側が反対側より良く機能したりし得る。SCIの急性期治療が進歩すると共に、不完全損傷がより一般的になっている。
【0046】
損傷レベルは、SCIで身体のどの部分が麻痺したり、機能喪失したりするかを予測するのに非常に役立つ。頚部(首)損傷は、通常、四肢麻痺をもたらす。C−4レベル以上の損傷はヒトの呼吸に人工呼吸器を必要とし得る。C−5損傷では、肩や上腕二頭筋はコントロールできるが、手首や手はコントロールできないことが多い。C−6損傷では、概して、手首はコントロールできるが、手は機能しない。C−7およびT−1損傷を有する個人は、腕を伸ばすことはできるが、手と指を機敏に動かすことはできない。胸部以下に損傷を受けると、四肢麻痺が生じるが、手は影響を受けない。T−1〜T−8では、ほとんどの場合、手はコントロールできるが、腹筋をコントロールできないために胴体のコントロールは良くできない。下位T損傷(T−9〜T−12)では、胴体のコントロールおよび腹筋のコントロールは良好である。座位バランスは極めて良好である。腰部および仙骨損傷では、股関節屈筋や肢のコントロールが低下する。四肢麻痺患者は、脊髄の8つの頚髄の1つに対する持続的な損傷を有し、対麻痺患者は、脊髄の胸部、腰部または仙骨部に病変を有する。
【0047】
本発明は、上記で詳述したTBIまたはSCIに起因する生理的障害およびそのような損傷に関連する症状または状態(不能、減退)の阻害に関する。そのようなものとして、生理的障害またはその状態のすべての影響が完全に予防または撤回されることを要求されている訳ではないが、本発明の作用は患者に有意な治療効果を及ぼし得る。そのようなものとして、治療効果は、必ずしもTBIもしくはSCIに起因する特定の状態もしくは生理的障害の完全な予防または治療ではなく、TBIもしくはSCIに起因する症状もしくは生理的障害の軽減もしくは予防、そのような症状もしくは障害の発症の(量的もしくは質的)減少もしくは防止、そのような症状もしくは生理的影響の重症度の軽減、および/またはTBIもしくはSCI経験後の患者の回復促進を含む結果を包含し得る。具体的に言えば、本発明の組成物は、患者に投与すると、脳損傷もしくは脊髄損傷および/または損傷に関連する(に起因する)症状もしくは状態、損傷の徴候または損傷の要因をも低減もしくは軽減すると共に、損傷からの回復を促進させるのが好ましい。そのようなものとして、患者をTBIもしくはSCI(または関連状態)に起因する生理的影響もしくは症状から保護するとは、障害の発生および/または障害作用の重症度を予防または軽減させること、および障害作用王がすでに発生しているか、発生し始めている患者を治療することを含む。有益な効果は、当業者および/または患者の治療にあたる熟練臨床医が容易に評価し得る。例えば、TBIまたはSCIの診断について上述した方法の多くは、本発明の方法を用いる治療の前後に患者を評価して治療が成功したかどうかを判断するのに用いる。本発明に従って治療を受けた患者を、そのような治療を受けなかった患者と比べて評価するのに用いた少なくとも1つの臨床もしくは生物学的スコア、値、または測度の重度または発生には、有意なまたは有用な違いがあるのが好ましい。
【0048】
TBIまたはSCIに起因する生理的障害およびそのような障害に関連する症状または状態(不能、減退)を抑制するための本発明による補体副経路の阻害は、補体副経路タンパク質の発現(転写もしくは翻訳)または生物活性に直接影響を与えるか、補体副経路のタンパク質に結合するか、副経路を介した補体の活性化に寄与するタンパク質の能力に直接影響を与えることによって達成し得る。より具体的に言えば、1つの実施形態において、タンパク質の発現は、そのタンパク質の転写または翻訳に関連する。したがって、本発明の方法は、(例えば、タンパク質の発現を阻害する作用剤を投与して、タンパク質発現が低下するように動物を遺伝子修飾することにより)タンパク質を天然に発現する動物におけるタンパク質の転写および/または翻訳を阻害し得る。別の実施形態において、補体副経路の阻害は、本明細書においては、例えば、補体副経路内のタンパク質の発現および/または生物活性を測定可能な程度まで低減させることにより、補体経路の活性を測定可能な程度(検出可能な程度)低減(すなわち、減少、ダウンレギュレーション、阻害)することと定義され、これには、タンパク質または分子が補体副経路において作用する能力をブロックまたは阻害することが含まれる。
【0049】
タンパク質発現を阻害する方法には、タンパク質の発現を(直接または間接に)阻害する作用剤を投与する方法、およびタンパク質発現を低下させるように動物を遺伝子修飾する方法(例えば、本発明に用いたfB−/−マウスに留意されたい)が含まれるか、それらには限定されない。タンパク質発現は、動物に、タンパク質発現を直接阻害する作用剤(試薬、化合物、薬物)を投与して阻害するのが好ましい。そのような作用剤としては、タンパク質をコードするRNAに特異的なリボザイムまたはRNAi;タンパク質をコードする遺伝子もしくはRNAに結合して、タンパク質の発現を阻害するDNA結合タンパク質または薬物;タンパク質に結合するアプタマー;細胞内でタンパク質に結合してタンパク質を発現する細胞によるタンパク質の分泌を阻止するタンパク質または薬物;および高ストリンジェンシー条件下に動物の細胞内タンパク質をコードする遺伝子にハイブリダイズしてタンパク質の発現を低減させる単離核酸分子(例えば、アンチセンス核酸分子)が挙げられるが、それらには限定されない。タンパク質の発現を選択的に阻害するそのような化合物は、当業者には周知の技術を用いて製造し得る。
【0050】
したがって、本発明の方法は、動物のTBIまたはSCIに関連する生理的障害を軽減させるように、補体副経路タンパク質に直接作用して、補体副経路の1種以上のタンパク質の発現および/または生物活性を選択的に阻害する多様な作用剤〔すなわち、調節化合物(regulatory compounds)〕の利用を含む。本発明に有用な作用剤には、例えば、タンパク質、核酸分子、抗体、および合理的な薬物設計の産物である化合物(すなわち、薬剤)が含まれる。そのような作用剤は、本明細書では、概して阻害剤と称される。
【0051】
本発明によれば、阻害剤は、直接阻害または競合阻害によりタンパク質(例えば、補体副経路タンパク質)の発現および/または生物活性を阻害する作用剤であり、そのような作用剤には、B因子、D因子またはプロパージンに作用を及ぼす作用剤が含まれる。本発明の1つの実施形態において、補体副経路または補体副経路タンパク質を阻害するとは、本明細書においては、補体副経路のタンパク質の生物活性を測定可能な程度(検出可能な程度)低減(すなわち、減少、ダウンレギュレーション、阻害)することと定義される。タンパク質の生物活性または生物作用とは、生体内(すなわち、タンパク質の天然の生理的環境内)または試験管内(すなわち、実験室条件下)で測定または観察されるような天然型タンパク質が示すか行う任意の機能を指す。例えば、B因子の生物活性としては、活性化C3との結合、免疫複合体の可溶化、B細胞増殖因子活性、および単球活性化が含まれるが、それらには限定されない。D因子の生物活性には、C3と複合体を形成したときのB因子切断触媒作用、BaおよびBb形成の触媒作用が挙げられるが、それらには限定されない。プロパージンの生物活性には、細胞または免疫複合体結合C3bBbとの結合および安定化と、C3/C5転換酵素の安定化が含まれるが、それらには限定されない。
【0052】
本発明によれば、タンパク質の生物活性は、タンパク質が別のタンパク質(例えば、C3)と結合する能力および/または別のタンパク質を活性化する能力を直接阻止または阻害して(低減、減少させて)、そのような結合に起因する下流事象を阻止することよって阻害し得る。補体副経路の生物活性は、この経路の少なくとも1種のタンパク質を阻害する作用剤を投与して阻害するのが好ましく、そのような作用剤には、補体副経路のタンパク質が別のタンパク質と結合する能力および/または別のタンパク質を活性化する能力を阻害または防止するように、補体副経路タンパク質に結合するか、そのようなタンパク質と競合する作用剤が含まれるが、それには限定されない。
【0053】
補体副経路のタンパク質を阻害する作用剤には、合理的な薬物設計の産物である化合物、天然産物、および部分的に特定された調節特性を有する化合物が含まれるが、それらには限定されない。所与のタンパク質の拮抗剤を含む調節剤は、タンパク質化合物、炭水化物化合物、脂質化合物、核酸化合物、天然有機化合物、合成的に誘導された有機化合物もしくは薬物、抗体(その抗原結合フラグメントを含む)、またはそのフラグメントであり得る。本発明に有用な1種の特定タイプの作用剤は、補体副経路タンパク質の拮抗剤を含む補体副経路の拮抗剤である。本発明によれば、「拮抗剤」とは、所与のタンパク質の作用を阻害する(例えば、中和する、低減させる、低下させる、ブロックする、無効にする、または変更する)化合物を指す。より具体的に言えば、拮抗剤は、所与のタンパク質に関して、所与のタンパク質の生物活性がその天然作用に拮抗する(例えば、対向する、逆行する、反する)形で低減またはブロックされるように作用し得る。拮抗剤には、抗体またはその抗原結合フラグメント、タンパク質、ペプチド、(リボザイムおよびアンチセンスを含めた)核酸、または拮抗作用をもたらす薬物/化合物/ペプチド設計もしくは選択の産物が含まれるが、それらには限定されない。例えば、本発明は、抗体拮抗剤、タンパク質/ペプチド拮抗剤、核酸拮抗剤、または小分子拮抗剤(例えば、小分子阻害剤)を含めた、天然タンパク質、B因子、D因子またはプロパージンの拮抗剤を含む。
【0054】
1つの実施形態において、本発明の調節剤には、補体副経路の1種以上のタンパク質の産生および/または機能を調節する、ペプチド、オリゴヌクレオチド、炭水化物および/または合成有機分子を含めた薬物が含まれる。そのような作用剤は、例えば、分子多様性ストラテジー(化学的に多様な大型分子ライブラリーの高速構築を可能にする関連方法の組み合わせ)、特に化学または組み合わせライブラリー由来の天然または合成化合物のライブラリー(すなわち、配列またはサイズは異なるが、同じ構成要素を有する化合物のライブラリー)、または合理的薬物設計から得ることができる。例えば、マウリックら(Maulik et al)、1997年、Molecular Biotechnology:Therapeutic Applications and Strategies、Wiley−Liss,Inc.参照。この文献はその全体が本明細書に文献援用される)。
【0055】
分子多様性ストラテジーにおいては、例えば、生物学的、酵素的および/または化学的アプローチを用いて、ペプチド、オリゴヌクレオチド、炭水化物および/または合成有機分子から大型の化合物ライブラリーを合成する。分子多様性ストラテジーの開発における重要なパラメータには、サブユニットの多様性、分子サイズ、およびライブラリーの多様性が含まれる。そのようなライブラリースクリーニングの一般目標は、所望の標的に対する高親和性リガンドを得るために組み合わせ選択を順次適用し、次いで、ランダムまたは有向設計ストラテジーによりリード分子を最適化することである。分子多様性法は、マウリックら、前掲に詳述されている。
【0056】
合理的薬物設計法において、調節化合物の3次元構造は、例えば、核磁気共鳴(NMR)またはX線結晶学によって解析し得る。次いで、この3次元構造を、例えば、コンピュータモデリングにより潜在的調節剤などの潜在的化合物構造の予測に用い得る。予測された化合物構造は、例えば、分子多様性法により得られたリード化合物を最適化するのに用い得る。さらに、予測化合物構造は、例えば、化学合成または組み換えDNA技術を用いるか、天然源(例えば、植物、動物、細菌および菌類)から模倣配列を単離することにより形成し得る。
【0057】
さまざまな他の構造ベース薬物設計法が、マウリックら、1997年、前掲に開示されている。マウリックらは、例えば、ユーザーが適切に選択されたフラグメントからなるフラグメントライブラリーから新規分子を創出するプロセスを方向づける有向設計法;ユーザーがフラグメントおよびそれらの組み合わせをランダムに変異させるために遺伝子または他のアルゴリズムを用い、同時に候補リガンドの適性評価に選択基準を適用するランダム設計法;ユーザーが3次元受容体構造と小型フラグメントプローブとの相互作用エネルギーを計算し、次いで有利なプローブ部位を結合するグリッドベースアプローチ法を開示している。
【0058】
補体副経路のタンパク質(またはその発現)を阻害する作用剤として有用な単離核酸分子は、アンチセンス核酸分子、リボザイム、siRNA、またはアプタマーである。本明細書において、アンチセンス核酸分子とは、高ストリンジェンシー条件下にタンパク質をコードする遺伝子にハイブリダイズしてそのタンパク質の発現を低減させる単離核酸分子と定義される。そのような核酸分子は、分子が高ストリンジェンシー条件下に天然タンパク質をコードする遺伝子またはRNAのコード鎖または相補鎖にハイブリダイズし得るタンパク質をコードする遺伝子に十分に似ている。RNA干渉(RNAi)は、相補遺伝子の発現を阻害または抑制するのに、二本鎖RNA、哺乳類系では低分子干渉RNA(siRNA)を用いるプロセスである。標的細胞において、siRNAは、ほどかれて、RNA誘導型サイレンシング複合体(RISC)と結合し、次いで、siRNAに相補的なmRNA配列に誘導され、そこで、RISCがmRNAを切断する。リボザイムは、標的RNA部分に結合することによって機能し、特定の切断部位でリン酸ジエステル骨格を切断して標的RNAを不活化するRNAセグメントである。アプタマーは、所定の特異的標的分子に高い親和性および特異性をもって結合する能力に基づいてランダム化組み合わせ核酸ライブラリーから選択された短鎖の合成核酸(通常はRNAであるがDNAも含む)である。アプタマーは、明確な3次元構造を取り、構造の違いが極めて少ない化合物を区別し得る。
【0059】
遺伝子は、コードするタンパク質の産生を制御する(例えば、転写、翻訳または翻訳後制御を含むが、それらには限定されない)調節領域およびそのコード領域を含む。B因子、D因子またはプロパージンを含めた補体副経路の種々のタンパク質をコードする遺伝子が同定されており、当該技術分野では周知である。単離核酸分子は、その天然環境から取り出された(すなわち、ヒトの操作を受けた)核酸分子であり、DNA、RNA、またはDNAもしくはRNAの誘導体を包含し得る。そのようなものとして、「単離」(isolated)とは、核酸分子がどの程度精製されているかを示してはいない。本発明の単離核酸分子は、その天然源から単離するか、組み換えDNA技術〔例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅、クローニング〕または化学合成を用いて産生させ得る。
【0060】
本明細書において、ハイブリダイゼーション条件への言及は、核酸分子を類似核酸分子の同定に用いる標準ハイブリダイゼーション条件に関連する。そのような標準条件は、例えば、サムブルックら(Sambrook et al)、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Labs Press,1989年に開示されている。サムブルックら、同書は、その全体が本明細書に文献援用される(特に、p.9.31−9.62参照)。さらに、ヌクレオチドのさまざまなミスマッチ度を可能にするハイブリダイゼーションを達成するのに適切なハイブリダイゼーションおよび洗浄条件の計算式が、例えば、メインコスら(Meinkoth et al)、1984年、Anal.Biochem.第138巻、p.267−284に開示されており、メインコスら、同書は、その全体が本明細書に文献援用される。
【0061】
本発明のある好ましい実施形態において、TBIまたはSCIに起因する生理的障害〔およびそのような障害に関連する症状または状態(不能、減退)〕を抑制するために補体副経路タンパク質の阻害に用いる作用剤は、抗体またはその抗原結合フラグメントである。同様に、本発明に用いるには、抗原結合ポリペプチドも特に好ましい。1つの態様において、抗体は、補体副経路タンパク質が本来なら(天然または生理的条件下に)相互作用する別のタンパク質に結合するのを阻害または防止するように補体副経路タンパク質に選択的に結合する。別の態様において、抗体は、補体副経路タンパク質が本来なら相互作用する別のタンパク質の活性化を阻害または防止するように補体副経路タンパク質に選択的に結合するが、補体副経路タンパク質は少なくとも部分的に同別のタンパク質に結合してもよい。TBIまたはSCIに起因する生理的障害を抑制する補体副経路の選択的阻害に用いるのに特に好ましい抗体およびその抗原結合フラグメント(例えば、本明細書に記載のB因子抗体、特に、本明細書で詳述するmAb1379)を以下に詳細に説明する。
【0062】
本発明に有用な抗体またはその抗原結合フラグメントは、B因子、D因子またはプロパージンから選択されるタンパク質に結合するのが好ましい。最も好ましくは、本発明は、B因子に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントと、TBIまたはSCIに起因する生理的障害を阻害するためのその利用とを含む。本発明のB因子に選択的に結合して補体副経路を阻害する抗体(およびその抗原結合フラグメント)を詳細に説明、例証する。1つの実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、動物種、特に哺乳類種間に保存されているようなタンパク質(例えば、B因子)の保存された結合表面またはエピトープに結合する(すなわち、抗体は2種以上の異なる哺乳類種由来のタンパク質に対して交差反応性である)。具体的に言えば、本発明は、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、ブタ、ウマおよびウサギを含むがそれらには限定されない少なくとも2種、好ましくは数種の異なる哺乳類種由来のB因子に結合する抗体を含む。本発明は、ヒト由来と、少なくとも1種の他の動物種、好ましくは、非ヒト霊長類、マウス、ラット、ブタ、ウマおよびウサギを含むがそれらには限定されない少なくとも1種の他の哺乳類種由来のB因子に結合する抗体を含むのが好ましい。1つの実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、B因子の第3ショートコンセンサスリピート(SCR)に結合する。1つの実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、D因子によるB因子の切断を阻止するB因子領域に結合する。1つの実施形態において、抗体はモノクローナル抗体である。1つの実施形態において、抗体は、本明細書では1379と称される抗体(すなわち、ATCC寄託番号(Deposit Designation)PTA−6230を有する同じ番号のハイブリドーマ細胞系から産生された抗体)またはその抗原結合フラグメントである。
【0063】
本明細書で1379(またはmAb1379)と称するハイブリドーマは、2004年9月21日に、特許手続上の微生物寄託国際的承認に関するブタペスト条約の条項の元に、American Type Culture Collection〔(ATCC)、米国バージニア州マナサス(Manassas)20110−2209のユニバーシティー通り(University Blvd)10801に所在〕に寄託し、ATCC寄託番号PTA−6230を受けた。
【0064】
本発明によれば、タンパク質、タンパク質の一部(例えば、フラグメント、部分、ドメインなど)またはタンパク質の領域もしくはエピトープの最小サイズは、抗体作製用のエピトープもしくは保存結合表面として、または試験管内アッセイにおける標的として機能するのに十分なサイズである。1つの実施形態において、本発明のタンパク質は、(例えば、抗体エピトープまたはアッセイで検出可能なペプチドに好適な)少なくとも約4、5、6、7または8アミノ酸の長さ、少なくとも約25アミノ酸の長さ、少なくとも約50アミノ酸の長さ、少なくとも約100アミノ酸の長さ、または少なくとも150アミノ酸の長さなど、4アミノ酸からタンパク質もしくはその一部の全長までまたはそれ以上の整数(例えば、8、9、10、...25、26、...500、501、...)の長さである。
【0065】
ヒトB因子および他の相補タンパク質をコードする遺伝子およびコード領域のヌクレオチド配列ならびにそのようなタンパク質のアミノ酸配列は、当技術分野では周知である。例えば、ヒトB因子および他の相補タンパク質をコードする遺伝子は、NCBIデータベースアクセス番号(Database Accession No.)NG 000013で検出される。B因子のコード配列はNCBIデータベースアクセス番号NM 001710、B因子プレプロタンパク質のアミノ酸配列はNCBIデータベースアクセス番号NP 001701またはP00751で検出される。NCBIデータベースアクセス番号P00751のアミノ酸配列は、ヒトプレプロタンパク質のB因子配列であり、本明細書では配列番号1で表される。他の動物種由来の配列も当技術分野では周知である。比較として、マウスのB因子配列(例えば、本明細書では配列番号6で表されるNCBIデータベースアクセス番号P04186参照)では、第3SCRドメインは、この761アミノ酸プレタンパク質の160−217位に位置しており、成熟マウスのB因子タンパク質は、配列番号6の23−761位にわたっている。ヒトD因子のコード配列は、NCBIデータベースアクセス番号NM_001928.2で検出され、ヒトD因子プレプロタンパク質のアミノ酸配列はNCBIデータベースアクセス番号NP_001991で検出される(本明細書では配列番号7で表される)。ヒトプロパージンのコード配列はNCBIデータベースアクセス番号NM_002621.1で検出され、ヒトプロパージンのアミノ酸配列はNCBIデータベースアクセス番号NP_002612で検出される(本明細書では配列番号8で表される)。
【0066】
配列番号1で表されるヒトB因子プレタンパク質は、シグナルペプチドがアミノ酸位置1−25に及ぶ764アミノ酸タンパク質である。B因子の成熟鎖は、配列番号1の26−764位に相当し、本明細書では配列番号2で表される。ヒトB因子の3つのSCR領域は、本明細書では、配列番号3(配列番号1のほぼ35位〜ほぼ100位、または配列番号2のほぼ5位〜ほぼ75位に及ぶSushi 1としても知られているSCR1)、配列番号4(配列番号1のほぼ101位〜ほぼ160位、または配列番号2のほぼ76位〜ほぼ135位に及びSushi2としても知られているSCR2)、および配列番号5(配列番号1のほぼ 163位〜ほぼ220位、または配列番号2のほぼ138位〜ほぼ195位に及びSushi3としても知られているSCR3)で表される。
【0067】
ウルカド(Hourcade)、1995年、J.Biol.Chem.に記載されているフラグメントを用いたB因子のエピトープマッピングによれば、1つの好ましい実施形態において、本発明に有用な抗B因子抗体は、好ましくは、第3SCRドメインの一部内またはそれを含むエピトープまたは保存された結合表面、より好ましくは、成熟B因子タンパク質(配列番号2)に関してほぼTyr139位〜ほぼSer185位からなる配列の少なくとも一部を含むヒトB因子エピトープ、成熟B因子タンパク質(配列番号2)に関してほぼTyr139位〜ほぼSer141位からなる配列の少なくとも一部を含むヒトB因子エピトープ、成熟B因子タンパク質(配列番号2)に関してほぼGlu182位〜ほぼSer185位からなる配列の少なくとも一部を含むヒトB因子エピトープ、以下の位置:Tyr139、cys140、Ser141、Glu182、Gly184、もしくはSer185または非ヒトB因子配列のそれらと等価の位置の1または複数からなるヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部を含むB因子エピトープ、または非ヒト動物種に関して等価位置の少なくとも一部を含むB因子エピトープに結合する。当業者であれば、ヒトB因子の配列と別の動物種由来のB因子配列とを整列させて、上記アミノ酸位置に対応するSCR領域およびSCR領域の特定部分の位置を決定することは容易にできる。例えば、タツソーヴァ(Tatusova)およびマッデン(Madden)、1999年、「Blast 2 sequences − a new tool for comparing protein and nucleotide sequences」、FEMS Microbiol Lett.第174巻、p.247−250に記載されているようなBLAST2配列を用いて、2つの特定配列を相互整列させることができる。上記文献はその全体が本明細書に文献援用される。
【0068】
本発明に有用な例として役立つ抗体のさらなるエピトープモデリングおよびマッピングによれば、別の好ましい実施形態において、本発明に有用な抗B因子抗体は、配列番号2に関して、以下のアミノ酸位置:A137、Y139、S141、E182、S185、T189、E190およびS192、またはそれらと等価の非ヒトB因子配列位置の少なくとも1または複数を含むB因子の3番目のSCRドメインの一部内にあるか、第3SCRドメインの一部を含むエピトープ(保存された結合表面)に結合するのが好ましい。本発明の1つの態様において、エピトープは、配列番号2の以下のアミノ酸位置:Ala137、Tyr139、Ser141、Glu182、Ser185、Thr189、Glu190およびSer192、またはそれらと等価の非ヒトB因子配列位置のすべてもしくは実質的にすべて(少なくとも5、6、7位置)を含むB因子の第3SCRドメインの一部内にあるか、第3SCRドメインの一部を含む。さらに別の態様において、本発明に有用な抗B因子抗体が認識するエピトープは、配列番号2の以下のアミノ酸位置:Ala137、Tyr139、Ser141、Glu182、Ser185、Thr189、Glu190およびSer192、またはそれらと等価の非ヒトB因子配列位置からなるB因子の第3SCRドメインの一部内にあるか、第3SCRドメインの一部を含む。
【0069】
1つの実施形態において、本発明に有用なB因子抗体が認識するエピトープは、より具体的には、B因子の第3SCRドメインの一部の3次元構造内に位置する非線形エピトープであると定義し得る。このエピトープを含む部分は、配列番号2または非ヒトB因子配列を天然の全長B因子配列に存在するように立体配座的に配列したときに、そのような配列の実質的にすべての(例えば、少なくとも約90%の)アミノ酸位置、すなわち配列番号2のAla137−Ser192、または非ヒトB因子配列のそれと等価な位置により規定されるB因子の3次元構造である。mAb1379のエピトープを明らかにするB因子の3次元構造モデルが、例えば、図4および図5に示されている。本明細書において、タンパク質の「3次元構造」または「三次構造」とは、3次元内のタンパク質成分の配置を指す。そのような用語は当業者には周知である。本明細書において、用語「モデル」とは、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの3次元構造を有形媒体で表示することを指す。例えば、モデルは、電子ファイル内、コンピュータスクリーン上、紙上(すなわち、2次元媒体上)および/または棒球(ball−and−stick)図形としての3次元構造の表示であり得る。
【0070】
本発明によれば、所与のタンパク質もしくはペプチドまたは他の分子の「エピトープ」とは、一般に、抗体に関して、抗体またはその抗原結合フラグメントが結合し、その抗体が産生されるであろう大型分子上の部分または部位と定義される。用語エピトープは、所与のタンパク質または抗原の用語「抗原決定基」、「抗体結合部位」または「保存された結合表面」とほとんど同じ意味で用い得る。より具体的に言えば、エピトープは、抗体結合に関与するアミノ酸残基と、それらの3次元空間内の立体構造(例えば、立体構造エピトープまたは保存された結合表面)とによって規定される。エピトープは、約4−6アミノ酸残基ほどの小型ペプチド内に含まれていたり、またはタンパク質の大型セグメント内に存在することがあり、エピトープの3次元構造に言及する場合、特に抗体結合エピトープに関しては、近接アミノ酸残基からなる必要はない。抗体結合エピトープは、しばしば、連続エピトープ(すなわち、線形エピトープ)というよりも、立体構造エピトープ、言い換えれば、抗体が結合するタンパク質またはポリペプチドの表面上に3次元配列されたアミノ酸残基で規定されたエピトープである。上述のように、立体構造エピトープは、近接アミノ酸残基配列からなるのではなく、アミノ酸残基は、主要タンパク質配列中に広く散らばっていて、タンパク質がその3次元天然立体配座に折り重なる過程で集って結合表面を形成するのであろう。mAb1379が認識するエピトープは、線形エピトープではない立体構造エピトープである。
【0071】
当業者は、突然変異解析(例えば、部位特異的突然変異誘発法);タンパク質分解からの保護(タンパク質フットプリント法);例えば、合成ペプチドおよびペプスキャン、BIACOREまたはELISAを用いたミモトープ解析;抗体競合マッピング;組み合わせペプチドライブラリースクリーニング;マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析法;または{例えば、MOLSCRIPT 2.0〔アバター・ソフトウエア社(Avatar Software AB)、スエーデン、SE−11731 ストックホルム市、ヘレネブログスガタン(Helenebrogsgatan) 21C所在〕、グラフ表示プログラム O〔ジョーンズら(Jones et al)、Acta Crystallography、第A47巻、p.110、1991年〕、グラフ表示プログラム GRASP、またはグラフ表示プログラム INSIGHTを含むがそれらには限定されない適当なソフトウエアプログラムを用いた}3次元モデリングを含めた既知技術を用いて立体構造エピトープおよび/または連続エピトープを同定かつ/またはアセンブルすることができる。例えば、B因子の3次元構造のモデルを作り、この構造に結合する抗体の立体構造エピトープを予測するために、分子置換または他の技術および関連タンパク質の既知3次元構造を利用することができる。実際には、抗体結合エピトープの規定には、そのような技術の1つを用いるか、そのような技術を組み合わせて用い得る。図4および5は、本発明に有用なB因子抗体のエピトープを同定するための、ミモトープ解析および突然変異解析によって得られた情報と組み合せた3次元モデリングの利用を示している。
【0072】
本明細書において、用語「〜に選択的に結合する」とは、あるタンパク質の別のタンパク質(例えば、抗体、そのフラグメント、または抗原との結合パートナー)との特異的結合を指し、この特異的結合における結合レベルは、標準アッセイ(例えば、イムノアッセイ)で測定すると、アッセイのバックグラウンドコントロールより統計的に有意に高い。例えば、イムノアッセイを実施する場合、コントロールは、通常、抗体またはその抗原結合フラグメントのみを入れた(すなわち、抗原不在)反応ウェル/チューブを含み、ここで、抗原不在下における抗体またはその抗原結合フラグメントによる反応度(例えば、ウェルとの非特異的結合)の量は、バックグラウンドとみなされる。結合は、ウエスタンブロット、イムノブロット、酵素免疫測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、免疫沈降、表面プラズモン共鳴、化学発光、蛍光偏光、リン光、免疫組織化学法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析、マイクロサイトメトリー(microcytometry)、マイクロアレイ、顕微鏡検査、蛍光活性化細胞分類(FACS)を含むがそれらには限定されない当技術分野では標準的な多様な方法を用いて測定し得る。
【0073】
本発明の1つの実施形態は、TBIまたはSCIに関連する生理的障害および作用を阻害するために、B因子と抗B因子抗体(例えば、モノクローナル抗体1379)との結合の競合的阻害剤である抗体またはその抗原結合フラグメントの利用を含む。本発明によれば、本発明のB因子と抗B因子抗体との結合の競合的阻害剤は、本発明の既知抗B因子抗体(例えば、mAb1379)とB因子との結合を阻害するように本発明の既知抗B因子抗体と同じか、それと類似のエピトープでB因子に結合する阻害剤(例えば、別の抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたはポリペプチド)である。競合的阻害剤は、標的(例えば、B因子)に、抗B因子抗体より高い標的親和性で結合し得る。競合的阻害剤は、(例えば、補体副経路を阻害してTBIまたはSCIに起因する生理的障害または作用を阻害するために)本明細書で抗B因子抗体1379に関して説明したものと同じように利用することができる。例えば、本発明の1つの実施形態は、B因子に特異的に結合する単離抗体またはその抗原結合フラグメントの利用に関し、単離抗体またはそのフラグメントは、B因子に特異的に結合するためにmAb1379を競合的に阻害し、単離抗体またはそのフラグメントがB因子に結合すると、補体副経路が阻害されるか、あるいは、mAb1379の補体副経路阻害能が阻害される。別の実施形態は、B因子に特異的に結合する単離抗体またはそのフラグメントの利用に関し、単離抗体またはそのフラグメントは、B因子に特異的に結合するために二次抗体またはそのフラグメントを競合的に阻害し、二次抗体またはそのフラグメントは、B因子の第3SCRドメインに結合する。
【0074】
競合アッセイは、当技術分野における標準技術(例えば、競合的ELISAまたは他の結合アッセイ)を用いて実施し得る。例えば、競合的阻害剤は、そのB因子と既知標識抗B因子抗体(例えば、mAb1379)との結合を阻害する能力に基づいて検出かつ定量し得る。ヒトB因子存在下の抗体間競合アッセイは、米国特許出願公開番号2005−0260198−A1号およびPCT公開番号WO2005/077417号、前掲に記載されている。B因子と抗B因子1379との結合の競合的阻害剤も、米国特許出願公開番号2005−0260198−A1号およびPCT公開番号WO2005/077417号、前掲に記載されている。
【0075】
本発明によれば、抗体は、免疫グロブリンドメインを含むことを特徴とし、そのようなものとして、抗体は、タンパク質の免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーである。一般に、抗体分子は2種の鎖を含んでいる。鎖の1種は、重鎖またはH鎖と称され、他方は軽鎖またはL鎖と称されている。これら2種の鎖は、等モル比で存在し、各抗体分子は、通常、2つのH鎖と2つのL鎖を有する。2つのH鎖はジスルフィド結合によってつながれ、各H鎖はジスルフィド結合によってL鎖につながれている。L鎖には、ラムダ(λ)鎖とカッパ(κ)鎖と称される2種の鎖しかない。それに対し、H鎖には、アイソタイプと称される5つの主要H鎖クラスが存在する。これら5つのクラスには、免疫グロブリンM(IgMまたはμ)、免疫グロブリンD(IgDまたはδ)、免疫グロブリンG(IgGまたはλ)、免疫グロブリンA(IgAまたはα)、および免疫グロブリンE(IgEまたはε)が含まれる。そのようなアイソタイプ間の顕著な特徴は、免疫グロブリンの定常ドメインによって定義されており、以下に詳細に説明する。ヒト免疫グロブリン分子は、9つのアイソタイプ、すなわち、IgM;IgD;IgE;IgG1(γ1)、IgG2(γ2)、IgG3(γ3)およびIgG4(γ4)を含むIgGの4つのサブクラス;IgA1(α1)およびIgA2(α2)を含むIgAの2つのサブクラスから構成されている。ヒトでは、IgGサブクラス3とIgMが最も強力な補体活性化因子(古典補体系)であり、IgGサブクラス1と、それほどではないにせよ2とが、古典補体系の中〜低活性化因子である。IgG4サブクラスは補体系(古典または代替)を活性化しない。副補体系を活性することが知られている唯一のヒト免疫グロブリンアイソタイプはIgAである。マウスのIgGサブクラスは、IgG1、IgG2a、IgG2bおよびIgG3である。マウスのIgG1は補体を活性化しないが、IgG2a、IgG2bおよびIgG3は補体活性化因子である。
【0076】
免疫グロブリン分子の各H鎖またはL鎖は、L鎖可変領域(VL領域)およびL鎖定常領域(CL領域)と、H鎖可変領域(VH領域)およびH鎖定常領域(CH領域)と称される2種の領域を含む。完全なCH領域は、3つのサブドメイン(CH2、CH2、CH3)と、ヒンジ領域とを含む。1つのH鎖と1つのL鎖が一緒になって、免疫グロブリン可変領域を有する免疫グロブリン分子のアームを形成し得る。完全型免疫グロブリン分子は2つの結合(例えば、ジスルフィド結合)アームを含む。したがって、完全免疫グロブリンの各アームは、VH+L領域と、CH+L領域とを含む。本明細書において、用語「可変領域」または「V領域」とは、VH+L領域(Fvフラグメントとしても知られている)、VL領域またはVH領域を指す。また本明細書において、用語「定常領域」または「C領域」は、CH+L領域、CL領域またはCH領域を指す。
【0077】
プロテアーゼによる免疫グロブリンの限定消化により、2つのフラグメントが生じ得る。抗原結合フラグメントは、Fab、Fab′、またはF(ab′)2フラグメントと称される。抗原結合能をもたないフラグメントはFcフラグメントと称される。Fabフラグメントは、VH領域およびCH領域の一部(CH1ドメイン)とペアになったL鎖(VL+CL領域)を含む免疫グロブリン分子の1アームを構成する。Fab′フラグメントは、ヒンジ領域の一部がCH1ドメインに結合したFabフラグメントに相当する。F(ab′)2フラグメントは、典型的にはヒンジ領域で、通常ジスルフィド結合により共有結合された2つのFab′フラグメントに相当する。
【0078】
CH領域は、免疫グロブリンのアイソタイプを規定し、アイソタイプに応じて異なる機能特性を付与する。例えば、μ定常領域はIgM分子のペンタマー結合体の形成を可能にし、α定常領域はダイマーの形成を可能にする。
【0079】
免疫グロブリン分子の抗原特異性は、可変またはV領域のアミノ酸配列によって与えられる。そのようなものとして、さまざまな免疫グロブリン分子のV領域は、それらの抗原特異性に応じて有意に異なり得る。V領域のある部分は他の部分より保存度が高いので、フレームワーク領域(FW領域)と称されている。それに対し、V領域のある部分は、極めて変化が大きいので、超可変領域と呼ばれている。免疫グロブリン分子中でVLおよびVH領域がペアになると、各領域の超可変領域は結合して、抗原結合部位を構成する超可変ループを形成する。したがって、超可変ループは、免疫グロブリンの特異性を決定し、それらの表面が抗原に相補的であるために相補性決定領域(CDR)と称されている。
【0080】
V領域のさらなる可変性は、免疫グロブリンV領域をコードする遺伝子セグメントの組合せ可変性により付与される。免疫グロブリン遺伝子は、体細胞を組み換えて、免疫グロブリン分子をコードする再配列免疫グロブリン遺伝子を形成する多様な生殖細胞遺伝子セグメントを含む。VL領域は、L鎖V遺伝子部分およびJ遺伝子部分(結合セグメント)によりコードされる。VH領域は、H鎖V遺伝子セグメント、D遺伝子セグメント(多様性セグメント)およびJ遺伝子セグメント(結合セグメント)によりコードされる。
【0081】
L鎖とH鎖のV遺伝子セグメントはどちらも、3つの実質的アミノ酸配列可変性領域を含んでいる。そのような領域は、それぞれ、L鎖 CDR1、CDR2、CDR3、および、H鎖 CDR1、CDR2、CDR3と称されている。L鎖CDR1の長さは、さまざまなVL領域間で実質的に異なり得る。例えば、CDR1の長さは、約7アミノ酸から約17アミノ酸までさまざまであり得る。それに対し、L鎖のCDR2とCDR3の長さは、さまざまなVL領域間でも変わらない。H鎖CDR3の長さはさまざまなVH領域間で実質的に異なり得る。例えば、CDR3の長さは、約1アミノ酸から約20アミノ酸までさまざまであり得る。H鎖とL鎖のCDR領域はそれぞれFW領域に隣接している。
【0082】
免疫グロブリン分子の他の機能的側面には、免疫グロブリン分子の原子価(valency)、免疫グロブリン分子のアフィニティ、および免疫グロブリン分子のアビディティが含まれる。本明細書において、アフィニティとは、免疫グロブリン分子上の単一部位における免疫グロブリン分子の抗原結合力(すなわち、1価抗原に結合する1価Fabフラグメント)を指す。アフィニティは、免疫グロブリンの抗原結合力の総和を指すアビディティとは異なる。免疫グロブリンの結合アフィニティは、例えば、競合結合技術、平衡透析またはBIAcore法などの当技術分野では標準的な技術を用いて測定し得る。本明細書において、原子価とは、免疫グロブリン分子当たりのさまざまな抗原結合部位の数(すなわち、抗体分子または抗原結合フラグメント当たりの抗原結合部位数)を指す。例えば、1価の免疫グロブリン分子は、一度に1つの抗原にしか結合できないが、2価の免疫グロブリン分子は一度に2つ以上の抗原に結合できることなどである。補体副経路のタンパク質に選択的に結合する1価抗体も2価抗体もこれに含まれる。
【0083】
1つの実施形態において、抗体は二重特異性または多重特異性抗体である。二重特異性(または多重特異性)抗体は、2価(または多価)抗体の場合と同じように、2つ(またはそれ以上)の抗原に結合し得るが、この場合、抗原は異なる抗原(すなわち、その抗体が二重またはそれ以上の特異性を示す)である。例えば、本発明の補体副経路タンパク質に選択的に結合する抗体(例えば、本明細書に記載の抗B因子抗体)は、二重特異性抗体として構築し得るが、その場合、第2抗原結合特異性は目的とする標的用である。したがって、本発明に含まれる1つの二重特異性抗体には、(a)補体副経路タンパク質(例えば、B因子)に結合する第1部分(例えば、第1抗原結合部)と、(b)細胞が発現する細胞表面分子に結合する第2部分とを有する抗体が含まれる。この実施形態において、第2部分は、どの細胞表面分子にも結合できる。1つの好ましい細胞表面分子は受容体またはリガンドであり、したがって、抗体は、抗体を産生する動物の特定の細胞もしくは組織型および/または特定部位を標的とする。1つの実施形態において、第2抗原結合特異性は補体受容体用である。特に好ましい補体受容体には、補体受容体タイプ2(CR2)が含まれるが、それには限定されない。CR2に選択的に結合し、したがって、本発明のこの実施形態に使用し得る抗体は、例えば米国特許第6,820,011号に記載されている。
【0084】
1つの実施形態において、本発明の抗体にはヒト化抗体が含まれる。ヒト化抗体は、非ヒト種の免疫グロブリン由来抗原結合部位を有する分子であり、この分子の残りの免疫グロブリン由来部分はヒト免疫グロブリン由来である。抗原結合部位は、ヒト定常領域上に融合した完全可変領域、または可変領域内の適切なヒトフレームワーク領域上に移植された相補性決定領域(CDRs)のみを含み得る。ヒト化抗体は、例えば、抗体の可変領域をモデル化したり、例えばCDR移植(以下に説明)などの遺伝子工学技術を用いて抗体を産生させることにより作製し得る。ヒト化抗体の作製に関するさまざまな技術の説明は、モリソンら(Morrison et al)、(1984年)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第81巻、p.6851−55;ウィットルら(Whittle et al)、(1987年)、Prot.Eng.第1巻、p.499−505;コーら(Co et al)、(1990年)、J.Immunol.第148巻、p.1149−1154;コーら、(1992年)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第88巻、p.2869−2873;カーターら(Carter et al)、(1992年)、Proc.Natl.Acad.Sci.第89巻、p.4285−4289;ルートレッジら(Routledge et al)、(1991年)、Eur.J.Immunol.第21巻、p.2717−2725;ならびにPCT特許公開番号WO91/09967号;同WO91/09968号および同WO92/113831号で見られる。
【0085】
本発明の単離抗体には、上記抗体、またはさまざまな程度に精製された抗体を含有する血清が含まれる。本発明の全抗体はポリクローナルまたはモノクローナルであり得る。あるいは、例えば1または複数の抗体領域が切断されているか不在である抗原結合フラグメント〔例えば、Fv、Fab、Fab′、またはF(ab)2フラグメント〕などの全抗体の機能的等価物や、一本鎖抗体、ヒト化抗体(上述)、2つ以上のエピトープに結合し得る抗体(例えば、2重特異性抗体)、または1種以上の異なる抗原に結合し得る抗体(例えば、2重もしくは多重特異性抗体)を含めた遺伝子組み換え抗体またはその抗原結合フラグメントも本発明に用い得る。
【0086】
本発明の遺伝子組み換え抗体には、抗体の可変領域および/または定常領域をコードするDNAの操作および再発現を含む標準的な組み換えDNA技術を用いて産生させたものが含まれる。特定の例としては、抗体のVHおよび/またはVL領域が抗体の残りの部分とは異なる源由来であるキメラ抗体と、少なくとも1つのCDR配列および場合によって少なくとも1つの可変領域のフレームワークアミノ酸が1つの源由来であり、可変領域および定常領域(必要に応じて)の残りの部分が異なる源由来であるCDR移植抗体(およびその抗原結合フラグメント)が挙げられる。キメラ抗体およびCDR移植抗体の構築技術は、例えば、ヨーロッパ特許出願:EP−A0194276号、EP−A0239400号、EP−A0451216号およびEP−A0460617号に記載されている。
【0087】
1つの実施形態において、本発明に従って、補体副経路タンパク質(例えば、B因子)に結合する抗体可変領域を含むキメラ抗体を産生させ、これらの領域に、第2標的部分としての役割を果たすタンパク質を融合させる。例えば、標的部分には、標的対象となる細胞もしくは組織または動物の特定の系に関連するタンパク質が含まれる。例えば、標的部分は、セレクチンまたは補体受容体の一部であり得る。本発明のこの態様に使用するのに好ましい1つの補体受容体としては、補体受容体タイプ2(CR2)がある。融合タンパク質またはキメラタンパク質における(例えば、デリバリーシステムとしての)CR2およびその部分の利用は、米国特許第6,820,011号に詳細に記載されている。
【0088】
一般に、抗体産生においては、例えば、ウサギ、ヒツジ、ハムスター、モルモット、マウス、ラット、またはニワトリなどを含むがそれらには限定されない適当な実験動物を、抗体を求める抗原に暴露する。通常は、有効量の抗原を注入して動物を免疫する。抗原の有効量とは、動物による抗体産生を誘発させるのに必要な量を指す。次いで、動物の免疫系を所定時間反応させる。免疫系がその抗原に対する抗体を産生していることが分るまで免疫プロセスを反復し得る。その抗原に特異的なポリクローナル抗体を産生させるために、求める抗体を含有する動物から血清を回収する(またはニワトリの場合には、卵から抗体を回収し得る)。そのような血清は試薬として有用である。ポリクローナル抗体は、例えば血清を硫酸アンモニウムで処理することにより血清(または卵)からさらに精製することができる。
【0089】
モノクローナル抗体は、ケーラー(Kohler)およびミルシュタイン(Milstein)(Nature 第256巻、p.495−497、1975年)の方法に従って産生し得る。例えば、免疫動物の脾臓(または任意の適当な組織)からBリンパ球を取り出し、骨髄腫細胞と融合させて、適当な培地で連続増殖できるハイブリドーマ細胞集団を得る。所望の抗体を産生するハイブリドーマは、ハイブリドーマが産生する抗体の所望の抗原への結合能をテストして選択する。
【0090】
本発明の抗体の好ましい産生法は、(a)動物に抗体産生に有効な量のタンパク質またはペプチド(例えば、B因子タンパク質またはその領域を含むペプチド)を投与する工程と、(b)抗体を回収する工程とを含む。別の方法では、本発明の抗体は組み換えにより産生させる。例えば、本発明の抗体を発現する細胞系、例えばハイブリドーマが得られたら、そこからcDNAをクローン化して、CDRをコードする配列を含めた目的抗体をコードする可変領域遺伝子を同定することができる。ここから、少なくとも抗体の重鎖または軽鎖の可変領域をコードするDNA配列と、場合によって要望通り重鎖および/または軽鎖の残りの部分をコードする他のDNA配列とを含む1または複数の複製可能な発現ベクターを作製し、抗体産生が生じるであろう適切な宿主細胞を形質転換/トランスフェクトすることによって本発明の抗体およびその抗原結合フラグメントを得ることができる。適当な発現宿主には、細菌(例えば、E.coli株)、菌類〔具体的には、酵母、例えば、ピチア(Pichia)属、サッカロミセス(Saccharomyces)属、またはクルイフェロミセス(Kluyveromyces)属のメンバー〕および哺乳類細胞系、例えば、マウスNSO系などの非産生型骨髄腫細胞系、またはCHO細胞が含まれる。効率的な転写および翻訳を得るためには、各ベクターのDNA配列は、適切な調節配列、具体的には、可変領域配列に作動可能に連結されたプロモーター配列とリーダー配列を含んでいなければならない。このようにして抗体を産生させるための特定の方法は、一般に周知であり、日常的に使用されている。例えば、基本的な分子生物学手順は、マニアティスら(Maniatis et al)(Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory、ニューヨーク、1989年)により記載されており、DNAシークケンシングは、ザンガーら(Sanger et al)(PNAS 第74巻、p.5464、1977年)およびアマーシャム・インターナショナル・パブリック・リミテッド・カンパニー(Amersham International plc)シークケンシングハンドブックに記載のように実施することができ、部位特異的突然変異誘発は、クレーマーら(Kramer et al)(Nucl.Acids Res、第12巻、p.9441、1984年)の方法およびアングリカン・テクノロジー・リミテッド(Anglian Biotechnology Ltd.)ハンドブックに従って実施することができる。さらに、例えば、マウンテン エー(Maountain A)およびアデール、ジェイ アール(Adair,J R)が、Biotechnology and Genetic Engineering Reviews〔ツームズ、エム ピー(Tombs、M P)編、第10巻、1章、1992年、Intercept、アンドーバー(Andover)、英国〕で概説しているように、また上述のヨーロッパ特許出願にあるように、DNA操作、発現ベクターの作出および適切な細胞の形質転換による抗体の作製に適した技術を詳述している特許明細書を含めた多くの刊行物がある。
【0091】
例えば、ファージディスプレイ技術(例えば、米国特許第5969108号、米国特許第5565332号、米国特許第5871907号、米国特許第5858657号参照)または米国特許第5627052号の選択的リンパ球抗体法(selected lymphocyte antibody method)も本発明の抗体および/または抗原フラグメントの産生に使用可能であることは、当業者にはすぐ分るであろう。
【0092】
本発明はさらに、抗原結合パートナーまたは抗原結合ポリペプチドと称されることもある、本発明に従ってタンパク質に選択的に結合してタンパク質の中和または阻害を引き起こすように設計された非抗体ポリペプチドの利用にも関する。規定されたリガンド特異性を有するそのようなポリペプチドの設計例が、ベステら(Beste et al)(Proc.Nat.Acad.Sci.第96巻、p.1898−1903、1999年)に記載されており、同文献はその全体が本明細書に文献援用される。
【0093】
本発明はさらに、TBIまたはSCIに関連する生理的障害を軽減させるための製剤または組成物を含む。この製剤は、(a)本明細書に記載のような補体副経路の1種以上の阻害剤(例えば、本明細書記載の抗B因子抗体)と、(b)少なくとも1種の医薬として許容される担体とを含む。
【0094】
1つの実施形態において、本発明の製剤または組成物は、例えばTBIまたはTBIに関連する生理的障害の少なくとも1つの症状の治療に適した別の作用剤(例えば、浸透剤、鎮静剤、鎮痛剤、筋弛緩剤、バルビツール剤など)などの1種以上の追加作用剤を含み得る。さらに、製剤は、TBI関連障害の治療または軽減に用いる別の療法またはプロトコールと併用して患者に投与し得る。そのような療法またはプロトコールには、頭蓋内血腫の外科的排出による腫瘤病変の減少、浸透圧剤(例えばマンニトール)による脳浮腫の減少、脳室内カテーテルを介した脳脊髄液(CSF)の治療的排出、適切なガス交換と循環安定性の達成および維持、低酸素血症血および高炭酸症の防止、遅発型二次性頭蓋内病変を検出するための連続CTスキャン、ストレスや疼痛を回避するための深い鎮静および鎮痛、最適なCPP〔>約9.333kPa(>70mmHg)〕および脳の酸素平衡の達成および維持、異常高熱(<38℃)の回避、高血糖および低ナトリウム血の防止、日常的な頭位挙上の阻止、ストレス潰瘍の予防および腸粘膜整合性の維持、悪化因子(例えば、肺炎または髄膜炎)の予防、頭蓋内圧(ICP)標的療法(例えば、鎮静、鎮痛、筋弛緩の深化)、脳室内カテーテルを介したCSF排出、特定状況下における中等度過呼吸、浸透圧療法、中等度低体温(±34℃)、および/またはバルビツール剤昏睡、および/またはガス使用可能な(gas−enabled)神経炎症の低下が含まれるが、それらには限定されない。種々のTBI治療法が当技術分野では周知であり、例えば、ロヨら(Royo et al)、2003年、Current Opin.Pharmacol.第3巻、p.27−32;ダットン(Dutton)およびマッカン(McCunn)、2003年、Current Opin.Crit.Care、第9巻、p.503−509;エルフら(Elf et la)、2003年、Eur.J.Trauma、第29巻、p.74−80;ガジャールら(Ghajar et al)、2000年、Lancet、第356巻、p.923−929に記載されている。
【0095】
別の実施形態において、本発明の製剤または組成物は、例えば、SCIまたはSCIに関連する生理的障害の少なくとも1つの症状の治療に適した別の作用剤(例えば、メチルプレドニゾロンなどのステロイド)などの1種以上の追加作用剤を含み得る。さらに、製剤は、SCI関連障害の治療または軽減に使用される別の療法またはプロトコールと併用して患者に投与し得る。そのような療法またはプロトコールには、脊椎の固定化、減圧手術、脊椎安定化手術、脊椎再配列手術、牽引が含まれるが、それらには限定されない。種々のSCI治療法は当技術分野では周知であり、例えば、レイマーら(Ramer et al)、2005年、Spinal Cord、第43巻(3)、p.134−61に記載されている。
【0096】
本発明によれば、「医薬として許容される担体」には、適当な生体内部位への製剤または組成物の投与に用いるのに適した医薬として許容される賦形剤および/または医薬として許容される輸送担体が含まれる。適当な生体内部位は、補体副経路が阻害され得る任意の部位であり、1つの好ましい実施形態では、TBIまたはSCIに関連する生理的障害を有するか、障害が生じる恐れがある患者の脳組織内にあるのが好ましい。好ましい医薬として許容される担体は、本発明の製剤に使用される作用剤を、患者の標的部位に到達したらすぐその標的(例えば、補体副経路の1成分であるタンパク質)に作用を及ぼして、好ましくは結果的に患者に治療効果をもたらし得る形態で維持することができる。
【0097】
本発明の適当な賦形剤には、細胞または組織に組成物を輸送するか、輸送するのに役立つが、特に細胞または組織に組成物を輸送することを目標とはしない賦形剤または医薬品(本明細書では非ターゲティング担体とも称される)が含まれる。医薬として許容される賦形剤の例としては、水、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー液、デキストロース液、血清含有溶液、ハンクス液、他の生理的に平衡な水溶液、油、エステルおよびグリコールが挙げられるが、それらには限定されない。水性担体は、例えば、化学的安定性および等張性を高めることにより、賦形剤の生理的条件を近似させるのに必要とされる適当な補助剤を含有し得る。適当な補助剤には、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、ならびにリン酸緩衝液、Tris緩衝液、および重炭酸緩衝液の製造に用いられる他の物質が含まれる。補助剤にはさらに、例えば、チメロサール、m−またはo−クレゾール、ホルマリンおよびベンゾルアルコールなどの保存剤も含まれる。本発明の製剤は、従来の方法で滅菌したり、かつ/または凍結乾燥したりし得る。
【0098】
医薬として許容される担体の1種には、本発明の組成物を動物内にゆっくり放出し得る放出制御製剤が含まれる。本明細書において、放出制御製剤は、放出制御用担体中に本発明の作用剤を含む。適当な放出制御用担体としては、生体適合性ポリマー、他のポリマーマトリックス、カプセル、マイクロカプセル、微粒子、ボーラス製剤、浸透圧ポンプ、拡散装置、リポソーム、リポスフェアおよび経皮デリバリーシステムが挙げられるが、それらには限定されない。他の適当な担体には、送達される作用剤の半減期を延長させる、作用剤に結合させるか作用剤を組み込み得る担体が含まれる。そのような担体には、生体内送達されるとタンパク質の半減期を延長させる適当なタンパク質担体または融合セグメントも含まれる。適当な輸送担体は本明細書ですでに説明したが、そのような担体には、リポソーム、ウイルスベクターまたはリボザイムを含めた他の輸送担体が含まれるが、それらには限定されない。天然の脂質含有輸送担体には細胞や細胞膜が含まれる。人工の脂質含有輸送担体としてはリポソームやミセルなどがある。本発明の輸送担体は、患者の特定部位を標的とするように修飾して、その部位を標的として阻害剤を使用することができる。適当な修飾法には、輸送担体の脂質部分の配合を操作する方法、および/または輸送担体の標的を特異的に好ましい部位、例えば好ましい細胞型とし得るターゲティング剤を輸送担体に組み込む方法が含まれる。他の適当な輸送担体には、金粒子、ポリ−L−リシン/DNA分子複合体および人工染色体などがある。
【0099】
ターゲティング可能な医薬として許容される担体は、「ターゲティング輸送担体」(targeting delivery vehicle)と称されている。本発明のターゲティング輸送担体は、阻害剤を含めた製剤を患者の標的部位に輸送することができる。「標的部位」とは、治療製剤を輸送したい患者部位を指す。例えば、標的部位は、直接注入するか、リポソーム、ウイルスベクターまたはリボザイムを含めた他の輸送担体を用いた直接注入または送達の標的となる任意の細胞または組織であり得る。本発明の輸送担体は、動物の特定部位を標的とするように修飾して、その部位を標的として核酸分子を使用することができる。適当な修飾法には、輸送担体の脂質部分の配合を操作する方法、および/または輸送担体の標的を特異的に好ましい部位、例えば好ましい細胞または組織型(例えば、脳または中枢神経系)とし得る化合物を輸送担体に組み込む方法が含まれる。具体的に言えば、ターゲティングとは、輸送担体中の化合物を特定細胞の表面上の分子と相互作用させて輸送担体を特定細胞に結合させることを指す。適当なターゲティング化合物には、特定部位で別の分子に選択的に(すなわち、特異的に)結合し得るリガンドが含まれる。そのようなリガンドの例としては、抗体、抗原、受容体および受容体リガンドが挙げられる。特に有用な例には、補体経路に関連するリガンド(例えば、CR2、C3、C3d、C3dg、iC3b、C3b)または細胞型、組織型、もしくは被治療動物内部位に関連するリガンド(例えば、セレクチン)が挙げられる。
【0100】
輸送担体の脂質部分の配合を操作することにより、輸送担体の細胞外または細胞内ターゲティングを調節することができる。例えば、リポソームが特定の電荷特性を有する特定細胞と融合するようにリポソームの脂質二重層の電荷を変える試薬をリポソームの脂質配合に加え得る。1つの実施形態において、ターゲティング輸送担体は、化合物の血液脳関門通過を可能にする製剤であり得る。
【0101】
多様な投与経路および作用剤に有用な輸送担体の1つはリポソームである。リポソームは、本発明に記載の核酸分子を動物内の好ましい部位に輸送するのに十分な量の時間動物内で安定した状態を保つことができる。本発明のリポソームは、核酸分子または他の化合物を動物内の特定部位または選択された部位に輸送することができる脂質組成物を含む。本発明のリポソームは、標的細胞の原形質膜と融合して核酸分子を細胞内に輸送することができる。本発明に用いるのに適したリポソームにはすべてのリポソームが含まれる。本発明の好ましいリポソームとしては、通常、例えば、当業者には周知の遺伝子導入法に用いられているリポソームが挙げられる。ポリカチオン脂質組成物を有するリポソームおよび/またはポリエチレングリコールに結合したコレステロール骨格を有するリポソームであればなお好ましい。本発明のリポソームと核酸分子または阻害剤との複合体形成は、当技術分野では標準的な方法を用いて達成し得る。
【0102】
別の輸送担体はウイルスベクターを含む。ウイルスベクターは、本発明の方法に有用な単離核酸分子を含み、核酸分子は、DNAの細胞内への導入を可能にするウイルスコーティング内に詰め込まれている。アルファウイルス、ポックスウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、レンチウイルス、アデノ関連ウイルスおよびレトロウイルスをベースとするものを含むがそれらには限定されない多くのウイルスベクターを使用することができる。
【0103】
本発明の作用剤および製剤は、任意の動物または患者、好ましくはヒトに投与し得る。本発明によれば、作用剤または製剤の投与は、TBI、SCIに関連する生理的障害、または類似もしくは関連状態のいずれの症状の阻害にも有用である。本発明の方法に適した対象である患者としては、(外傷性損傷を含めた)損傷または疾患の結果として、脳または脊髄に対する生理的障害、およびこの損傷に関連する状態を有するか、そのような損傷または状態を発症する恐れのある(例えば、発症の可能性があるか、または発症が予想される)患者が含まれるが、それらには限定されない。
【0104】
本発明によれば、動物に投与する作用剤の投与経路や有効量を含めた、作用剤または作用剤を含有する組成物を投与するのに好ましいプロトコールの決定は、当業者が遂行し得る。本発明の作用剤または組成物は、生体内または生体外投与し得る。適当な生体内投与経路としては、経口、経鼻、吸入、局所、気管内、経皮、経腸、脳(例えば、頭蓋内)、脊髄(例えば、髄腔内または脊髄の硬膜上腔)、および非経口経路が含まれるが、それらには限定されない。好ましい非経口経路には、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、および腹腔内経路が含まれるが、それらには限定されない。好ましい局所経路としては、エアゾール(すなわち、噴霧)による吸入または動物の皮膚への局所表面投与などがある。作用剤は、好ましくは全身経路(例えば、腹腔内、静脈内)、特に好ましくは静脈内投与するか、または脳、脊髄、もしくは脊髄の硬膜上腔に投与する。外傷性脳損傷の場合、静脈内投与または脳への投与が好ましい。脊髄損傷の場合には、静脈内投与、脊髄投与、または脊髄の強膜上腔への投与が好ましい。生体外とは、投与工程の一部を患者の外側で実施することを指す。
【0105】
作用剤および組成物の脳および中枢神経系への投与技術には、静脈内投与、腹腔内投与、血管脳関門の破壊を伴う動脈内投与、対流増加送達法を用いた脳への薬物連続注入、移植、髄腔内注入、脳室内投与、間質内投与、および髄腔内投与が含まれるが、それらには限定されない。静脈内、腹腔内、筋肉内、および髄腔内投与は、当技術分野では標準的な方法を用いて実施し得る。エアゾール(吸入)デリバリーは当技術分野では標準的な方法を用いて実施し得る〔例えば、ストリブリングら(Stribling et al)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 第189巻、p.11277−11281、1992年参照、本明細書にそのまま文献援用〕。エアゾールデリバリーに適した担体は上記に記載されている。エアゾール化製剤デリバリーデバイスには、定量噴霧式吸入器(MDI)、ドライパウダー吸入器(DPI)、および定量溶液装置(metered solution device)(MSI)が含まれるが、それらには限定されず、噴霧器や吸入器である装置が含まれる。経口投与は、本発明の治療組成物と、動物の腸内消化酵素による分解に耐え得る担体との複合体を形成することにより実施し得る。そのような担体の例としては、プラスチックカプセル剤または錠剤、例えば当技術分野では周知のものなどが挙げられる。直接注入技術は、手術により接近可能な、特に体表面もしくはその近くの細胞または組織に組替え核酸分子を投与する場合に特に有用である。組成物を標的細胞表面内に局所的に投与するとは、標的細胞または組織から数センチメートル、好ましくは数ミリメートルの所に組成物を注入することを指す。
【0106】
本明細書に開示したさまざまな投与法および輸送担体は、核酸分子が導入され、発現される標的細胞または組織への核酸分子の輸送に有効であることが証明されている。多くの研究において、好ましい細胞型で、かつ/または好ましい輸送担体と本発明の投与経路を用いて、異種遺伝子の輸送および発現が首尾良く達成された。多様な標的組織に向けての多数の核酸配列の送達は、核酸配列をコードするウイルスベクターの投与〔例えば、多くの例のなかでも、レトロウイルスベクター;ブラウズら(Blaese et al)、1995年、Science 第270巻、p.475−480;ボルディニョンら(Bordignon et al)、1995年、Science 第270巻、p.470−475参照〕、経鼻投与(CFTRアデノウイルス関連ベクター)、冠動脈内投与(アデノウイルスベクターおよびセンダイウイルス、上記参照)、静脈内投与〔アデノ関連ウイルスベクター;ケーベールら(Koeberl et al)、1997年、Proc Natl Acad Sci USA 第94巻、p.1426−1431〕により達成されている。ミルキャンプら(Millecamps et al)は、トランスジーンプロモーター(ホスホグリセリン酸プロモーター)の上流に配置した神経細胞特異的エンハンサー要素を用いたアデノウイルスベクターの神経細胞ターゲティングを報告した。そのようなベクターを、マウスおよびラットに、それぞれ、筋肉内および脳内投与し、トランスジーンの生体内神経細胞特異的トランスフェクションおよび発現に成功した(ミルキャンプら、1999年、Nat.Biotechnol.第17巻、p.865−869)。ベネットら(Bennett et al)は、1年を越える期間生体内で神経網膜に網膜下注入することにより遺伝子を送達・発現させるためのアデノ関連ウイルスベクターの利用を報告した(ベネット、1999年、前掲)。
【0107】
動物への投与に適した阻害剤の単回投与量は、適当な期間にわたって1回以上投与すると、動物のTBIまたはSCIに起因する生理的障害の少なくとも1つの症状を軽減または防止できる用量である。本明細書に記載の方法に用いるための、タンパク質、小分子および抗体を含めた作用剤の好ましい単回投与量は、約0.01マイクログラム×キログラム−1〜約10ミリグラム×キログラム−1動物の体重の範囲である。作用剤のより好ましい単回投与量は、約1マイクログラム×キログラム−1〜約10ミリグラム×キログラム−1動物の体重の範囲である。作用剤のさらに好ましい単回投与量は、約5マイクログラム×キログラム−1〜約7ミリグラム×キログラム−1動物の体重の範囲である。作用剤のさらに好ましい単回投与量は、約10マイクログラム×キログラム−1〜約5ミリグラム×キログラム−1動物の体重の範囲である。作用剤をエアゾール投与する場合、作用剤の特に好ましい単回投与量は、約0.1ミリグラム×キログラム−1〜約5ミリグラム×キログラム−1動物の体重の範囲である。作用剤を非経口投与する場合に、作用剤の特に好ましい別の単回投与量は、約0.1マイクログラム×キログラム−1〜約10マイクログラム×キログラム−1動物の体重の範囲である。
【0108】
1つの実施形態において、本発明の核酸:リポソーム複合体の適切な単回投与量は、複合体を投与する患者の体重1kg当たり約0.1〜約100μgである。別の実施形態において、適切な単回投与量は、体重1kg当たり約1〜約10μgである。別の実施形態において、核酸:脂質複合体の適切な単回投与量は、少なくとも約0.1μg、より好ましくは少なくとも約1μg、さらに好ましくは少なくとも約10μg、さらに好ましくは少なくとも約50μg、さらに好ましくは少なくとも約100μgの核酸である。
【0109】
抗体の好ましい単回投与量は、動物の体重1kg当たり約1ng×キログラム−1〜約1mg未満×キログラム−1動物の体重(動物の体重1kg当たり)の範囲である。抗体のより好ましい単回投与量は、約20ng×キログラム−1〜約600μg×キログラム−1動物の体重の範囲である。特に抗体製剤を噴霧投与する場合、抗体のさらに好ましい単回投与量は、約20ng×キログラム−1〜約600μg×キログラム−1動物の体重、より好ましくは、約20ng×キログラム−1〜500μg×キログラム−1、より好ましくは、約20ng×キログラム−1〜約400μg×キログラム−1、より好ましくは、約20ng×キログラム−1〜約300μg×キログラム−1、より好ましくは、約20ng×キログラム−1〜約200μg×キログラム−1、より好ましくは、約20ng×キログラム−1〜約100μg×キログラム−1、より好ましくは、約20ng×キログラム−1〜約50μg×キログラム−1動物の体重の範囲である。
【0110】
特に抗体製剤を噴霧投与する場合、抗体の別の好ましい単回投与量は、約200ng×キログラム−1〜約600μg×キログラム−1動物の体重、より好ましくは、約200ng×キログラム−1〜約500μg×キログラム−1、より好ましくは、約200ng×キログラム−1〜約400μg×キログラム−1、より好ましくは、約200ng×キログラム−1〜約300μg×キログラム−1、より好ましくは、約200ng×キログラム−1〜約200μg×キログラム−1、より好ましくは、約200ng×キログラム−1〜約100μg×キログラム−1、より好ましくは、約200ng×キログラム−1〜約50μg×キログラム−1動物の体重の範囲である。
【0111】
特に抗体製剤を吸入器から直接吸入投与する場合、抗体の別の好ましい単回投与量は、約2ng×キログラム−1〜約100μg×キログラム−1動物の体重、より好ましくは、約2ng×キログラム−1〜約50μg×キログラム−1、より好ましくは、約2ng×キログラム−1〜約10μg×キログラム−1、より好ましくは、約2ng×キログラム−1〜約5μg×キログラム−1、より好ましくは、約2ng×キログラム−1〜約1μg×キログラム−1、より好ましくは、約2ng×キログラム−1〜約0.5μg×キログラム−1、より好ましくは、約2ng×キログラム−1〜約0.25μg×キログラム−1、より好ましくは、約2ng×キログラム−1〜約0.1μg×キログラム−1動物の体重の範囲である。
【0112】
別の実施形態において、抗体は、製剤1ミリリットル当たり約500μg未満の抗体、好ましくは、製剤1ミリリットル当たり約250μg未満の抗体、より好ましくは、製剤1ミリリットル当たり約100μg未満の抗体、より好ましくは、製剤1ミリリットル当たり約50μg未満の抗体、より好ましくは、製剤1ミリリットル当たり約40μg未満の抗体、より好ましくは、製剤1ミリリットル当たり約30μg未満の抗体、より好ましくは、製剤1ミリリットル当たり約20μg未満の抗体、より好ましくは、製剤1ミリリットル当たり約10μg未満の抗体、さらに好ましくは、製剤1ミリリットル当たり約5〜10μgの抗体の用量で投与する。
【0113】
本発明の方法によれば、TBIまたはSCIに起因する生理的障害を阻害する作用剤の動物への投与に有効な量は、動物に対する毒性を示さずに、TBIまたはSCIに起因する生理的障害の少なくとも1つの症状または指標を軽減し得るか、またはTBIまたはSCIからの回復を促進し得る量を含む。動物に対して毒性を示す量は、動物の機構または機能に損傷を与える(すなわち、有毒な)量を含む。
【0114】
本発明の1つの実施形態において、TBIまたはSCIを経験した動物において、動物に投与するのに有効な作用剤の量は、作用剤投与前または作用剤を投与しない場合と比べて動物のTBIまたはSCIに起因する生理的障害の少なくとも1つの症状または指標を測定可能な程度軽減する量である。別の実施形態において、動物に投与するのに有効な作用剤の量は、動物のTBIまたはSCIに起因する障害の少なくとも1つの症状または指標を、実質的に同様なTBIまたはSCIを経験しているが、作用剤を投与しなかった動物集団における症状レベルに比べて測定可能な程度軽減する量である。作用剤は、動物のTBI(例えば、脳損傷)またはSCI(例えば、脊髄損傷)に起因する生理的障害の少なくとも1つの症状または指標を、その損傷の身体症状の発症後に作用剤を投与した場合でも軽減し得るのが好ましい。さらに好ましくは、作用剤の有効量は、TBIまたはSCIに起因する障害の症状または指標を、患者にはもはや検出されないくらいに軽減する量である。1つの実施形態において、作用剤の有効量は、生理的障害の症状または指標の停止または軽減で測定するか、または患者の神経および関連機能の測定可能もしくは検出可能な生物学的スコア、値、または測度の向上で測定して、TBIまたはSCIからの患者の回復を促進する量である。
【0115】
ある好ましい実施形態において、本発明の作用剤の適切な投与量は、作用剤を投与しない場合と比べて、本明細書に記載のような補体副経路の少なくとも1種のタンパク質(例えば、B因子、D因子またはプロパージン)の発現または生物活性を阻害するのに有効な用量である。タンパク質の発現または生物活性の測定法は上記に記載されている。別の実施形態において、本発明の作用剤の適切な投与量は、本発明の補体副経路を測定可能な程度阻害する用量である。補体の活性化およびその阻害は、当技術分野では周知の技術/アッセイを用いて測定し得る。例えば、実施例に記載のようなザイモサンA粒子上のC3沈着の試験管内分析を実施し得る。また、ヒト血清による非感作赤血球の溶解を阻害する作用剤能力をテストすることも可能である。これらのアッセイに基づいて試験管内結果から生体内投与量を推定することは当業者の能力の範囲内である。
【0116】
動物への作用剤の投与回数は、TBIまたはSCIの程度および予測または観察された外傷に関連する生理的障害や、個々の患者の治療に対する反応によって決まる。状態の重症度を含めたTBIおよびSCIの診断法は、上述の通りであり、当技術分野では周知である。さらに、臨床医は、動物のTBIまたはSCIに関連または起因する症状の軽減に有効であるように作用剤の送達に適切なタイミングを決定し得るであろう。作用剤は、TBIまたはSCIを引き起こした事象後、好ましくは48時間以内、より好ましくは36時間以内、より好ましくは24時間以内、より好ましくは12時間以内、より好ましくは、6時間、5時間、4時間、3時間、2時間、もしくは1時間以内、さらには数分以内に投与する。1つの実施形態において、作用剤は、患者、臨床医、または患者がTBIもしくはSCIを被った相手が認識し次第投与する。別の実施形態において、作用剤は、TBIまたはSCIに関連し得る脳または神経障害の症状の発症を示す最初の徴候が現われたら、好ましくは症状の発症から少なくとも2時間以内、より好ましくは、症状発症から少なくとも1時間以内、より好ましくは少なくとも30分以内、より好ましくは少なくとも10分以内、より好ましくは少なくとも5分以内に投与する。TBIまたはSCIに関連する生理的障害の症状およびそのような症状の測定法または検出法は、上記に詳細に説明されている。そのような投与は、生理的障害の軽減または生理的障害の可能性がある症状の軽減徴候が見られるまで、さらに、必要に応じて、症状がなくなるか停止するまで続ける。
【0117】
本発明の方法は、任意の動物、具体的には、霊長類、齧歯類、家畜類および愛玩動物を含むがそれらには限定されない脊椎動物種、哺乳綱(すなわち、哺乳類)の任意の動物に使用し得る。本発明の方法を用いて治療するのに好ましい哺乳類はヒトである。
【0118】
以下の実施例は、本発明を例示するために提供されており、本発明の範囲を限定するものではない。
実施例
実施例1
以下の実施例は、外傷性脳損傷(TBI)後の生理的機能に対する補体阻害剤Crry−Ig投与の治療効果について記述する。
【0119】
Crry−Igは、補体受容体関連タンパク質y(Crry)と免疫グロブリンFc分子との間の融合物である。Crryは、ヒト崩壊促進因子(CD55)と補体調節タンパク質(CD46)の機能的同族体であり、C3補体転換酵素を阻害する。したがってCrryは古典的経路および補体副経路の両方の阻害剤である。
【0120】
マウスの閉鎖性頭部損傷の標準化モデルにおいて(Chenら、J.Neurotrauma 1996)、1mgのCrry−Igの損傷後の全身投与は、これは当該モデル系では外傷後1〜24時間で血液脳関門が破られるため治療の「タイミングの良い機会」に一致し、ビヒクルのみを注射した対照マウスに比べてTBI後24時間以内に神経回復の著しい改善が起こった(図6)。この実験では、外傷後の神経損傷の程度を、2人の別々の研究者による盲検査による標準化された10点満点の神経重症度スコア(NSS)により評価した。さらに、1mgのCrry−Igを腹腔内注射された頭部損傷マウスでは、外傷1時間後に、ビヒクルを注射した対照群に比べて体重減少が有意に低減された(図7)。これはCrry−Igにより補体が阻害されたマウスでは、炎症により誘起された外傷後の異化状態が保護されることを示している。
【0121】
これらの結果は、C3補体転換酵素のレベルでの補体経路の阻害がTBIに関連する生理学的損傷を阻害することを実証している。
実施例2
以下の実施例はB因子モノクローナル抗体が外傷性脳損傷(TBI)に関連する脳障害を軽減したことを実証する。
【0122】
予備滴定試験によると、生体内において、重さ25−35gのC57BL/6マウスに2mgのmAbl379(B因子モノクローナル抗体、すなわち抗fB)を腹腔内注射すると、補体副経路が完全に阻害され、これが48時間継続することが明らかとなった。C57BL/6マウスにおける実験的閉鎖性頭部損傷後の抗fB阻害研究(Chenら,J.Neurotrauma 1996)が、2mgのmAbl379をt=1h、24hまたは72hの時間に副腔内注射で受ける群とまた同一の時間にベヒクル媒体のみを受ける群との2つの実験群を使用して行なわれた。その結果、外傷後24時間以内の神経重症度スコア(NSS)の10点満点の有意な減少に基づいて、ビヒクルを注射された対照動物に比べ抗fB(mAb1379)群では副経路の補体阻害の有意な神経保護効果があることが明らかとなった(表3、図8)。この結果は、補体副経路の選択的な阻害によってTBIに起因する生理学的損傷を軽減されることを実証している。
【0123】
【表3】
実施例3
以下の実施例はB因子モノクローナル抗体が脊髄損傷(SCI)に関連する脳障害を軽減したことを示す。
【0124】
野生型の雌C57BL/6マウス(Charles River社、メリーランド州)および雌fB−/−マウス、6〜8週齢、16−20g(すべてのマウスとも)をこの研究に使用した。マウスに水と餌を自由に与え、病原体のないバリア施設で12/12時間の明暗サイクルとし、換気されたPlexiglas(商標)ケージに収容し(1つのケージ当たり4匹のマウス)、米国保健社会福祉省の「実験動物の世話および使用のためのNIHガイド」(NIH Guide for the Care and Use of Laboratory Animals、国立衛生研究所、メリーランド州べテスダ所在)に従って維持した。マウスは実験に先立って少なくとも1週間慣れさせた。
【0125】
動物の手術と手術後の処置についてはサウスカロライナ州医科大学の動物実験委員会により承認を得た。手術は滅菌条件下で実行した。脊髄の挫傷はマウスで脊髄損傷(SCI)を誘導するための落錘装置(Pannuら、2005,J.Neuroscience Research 79:340−350)。簡単に説明すると、マウスをケタミン(75mg/kg)およびキシラジン(16mg/kg)の腹腔内注射で麻酔した。背中の背側面を剃毛し、ヨードチンキでこすった。体温は、動物の下に37℃加温毛布を配置して手術中維持した。中線切開をT9からT13レベルまで皮膚に行った。椎弓切除をT12レベルで行ない、硬膜は無処置とした。背骨を定位装置で固定し、露出させた硬膜上に、3cmの高さから5gの錘(おもり)を落下させる(15gcmの力)ことにより損傷を引き起こした。シャム手術した動物は椎弓切除のみを受けた。損傷後、筋肉を層の中にしまい、切開を縫合した。マウスは加温パッド上に維持した。手術後の予防的抗生物質または鎮痛剤は、SCIの実験的治療薬とのそれらの考えられる相互作用を回避するために使用しなかった。十分に自発的な排尿が戻るまで、膀胱を1日2回手で絞った。
【0126】
機能回復に関する研究にマウスはすべて含まれた。実験マウスの後肢機能を、後肢運動機能スコア(Shuhei K J.of Neuropathology and Experimental Neurology (2004) 64−72)を使用して、盲検の観察者により毎週評価した。スケールは0〜5の範囲であり、スコアは以下の通りとした:0:後肢に動きはない。1:任意の後肢の間接(腰、膝または足首)にかろうじて知覚可能な動きがある。2:一方又は両方の四肢の1または複数の後肢の関節(腰、膝または足首)に活発な動きがあるが連携はない。3:両方の後肢に交互に歩いて進む動作があるが体重を支えることができない。4:体重を支え、不十分ではあるが歩行することができる。5:正常な歩行。
【0127】
図9は脊髄損傷からの機能回復に対するB因子モノクローナル抗体の投与の効果を調べた研究の結果を示す。上述したSCIのためのマウスモデルでは、C57BL/6マウスが損傷の1時間および12時間跡に2回の1mg/10gの抗B因子(mAb1379)の静脈注射を受けた(群の数、n=8)。機能回復は上述したように損傷後21日間一日一回評価した。シャム治療したマウス、実験SCIを受けたが治療しなかったマウスおよび実験SCIを受けて治療したB因子(−/−)マウスも経時評価した。図9に示されるように、B因子(/−)マウスおよび抗B因子を受けたマウスは、実験の脊髄損傷を受けて治療しなかったマウスと比較して、21日間の各時点において機能回復のスコアが著しく改善された(p<0.01)。これらの結果は、補体副経路の選択的な阻害が、SCIモデルの優位な治療の利益を与えるのに十分であることを実証している。
実施例4
以下の実施例は、補体副経路の活性化がTBIの病態生理学に重大な役割を果たすことを実証する。
材料および方法
B因子−/−マウス。B因子(fB−/−)が欠如している遺伝子ノックアウトマウスは本願以前に特徴付けられており、機能的な補体副経路の完全を欠いていることが示された[58]。同マウスは元々Sv129胚性幹細胞を用いて作製され、F1でコロニーを拡大する前にC57BL/6マウスと交配した。同マウスは純系C57BL/6バックグラウンドに対して10回よりも覆い回数戻し交配し、C57BL/6マウスと肉眼で見て判別不能となった。ノックアウトマウスおよび野生型の同腹子(fB+/+)を実験前に数週間慣らし、研究の全期間中は外部影響から分離させた。マウスは選択的な病原体のない(SPF)環境および温度(21℃)、湿度(60%)、明暗サイクル(12:12h)の標準化状態で飼育し、餌と水は自由に与えた。補体活性のレベル[59]とおよび女性の生殖ホルモンにより著しく影響を受けると思われる脳外傷に対する感受性[60,61]とに関する偏りを回避するために、本研究には雄のマウスのみを使用した。実験はすべて、欧州実験動物学会連合(Federation of European Laboratory Animal Science Associations、FELASA)の標準に従って行い、制度的動物管理委員会(ドイツ国ベルリン、Landesamtfur Arbeitsschutz,Gesundheitsschutz und technische Sicherheit,No.G0099/03 および No.G0308/04)より承認を得た。
【0128】
脳外傷モデル。本願以前に記載されているように[13、38、62−64]、実験の閉鎖性頭部損傷を、標準化された落錘装置を使用してノックアウト(fB−/−)マウスとC57BL/6系統の野生型の同腹子(fB+/+)にて行なった(1群当たり6匹、時点)。簡単に説明すると、イソフルラン麻酔の誘導後、中線の長手方向軸に頭皮を切開することにより頭蓋を露出させた。333gの錘を2cmの高さから固定した頭蓋に落下させたところ、左半球に局所的な鈍傷が生じた。外傷後に、完全に目が覚めるまでマウスは100%02の酸素処理の支援を受け、次いでケージに戻された。特定の時点(t=4h、24hおよび7日)でマウスを安楽死させ、脳半球は免疫組織化学、TUNEL組織化学およびSDS−PAGE/ウエスタンブロット分析による分析のため取り出した。さらに、Bcl−2のELISAおよびウエスタン分析による補体アナフィラトキシンC5aレベルの決定のために血清サンプルも採集した(以下を参照)。
【0129】
シャム手術したマウスは、外傷群と同一の状態に保たれ、頭部外傷を適用しなかった以外は同じ処置(麻酔および頭皮切開)を受けた。
マウスC5aのELISA。 頭部を損傷させたマウスおよび正常なC57BL/6対照マウスの血清サンプル中の補体アナフィラフィキシンC5aレベルを決定するため、P.A.Ward博士の研究所(米国ミシガン州アナーバー所在)で開発されたELISAを使用した。簡単に説明すると、ELISAプレート(Immulon 4HBX,Thermo Labsystems,米国マサチューセッツ州ミルフォード所在))を精製したモノクローナル抗マウスC5a IgG(5μg/ml、BD Pharmingen、米国カリフォルニア州サンディエゴ所在)でコーティングした。0.05% TWEEN20(Sigma−Aldrich、米国ミズーリ州所在)を含む1%ミルク(Roth、ドイツ国カールスルーエ所在)のPBS溶液(Gibco−Invitrogen、米国カリフォルニア州カールスバッド所在)で非特異的結合部位をブロックした後、標準曲線を確立するために、プレートを1:20に希釈(0.05% TWEENを含む1%ミルク PBS溶液で)した100 ml 血清および予め決定した濃度のマウス組み換えマウスC5aでコーティングした。インキュベーションとそれに続く洗浄工程の後、ビオチン化モノクローナル抗マウスC5a抗体を500ng/ml(BD Pharmingen)で加え、洗浄工程を行い、400ng/ml(Sigma)のストレプトアビジン−ペルオキシダーゼと印急ベーとした。比色定量反応のため、基質(0.4mg/ml OPD、0.4mg/ml過酸化尿素 0.05Mリン酸クエン酸塩緩衝液;Sigma)を加えた、呈色反応は3M硫酸で停止させた。吸光度を490nmにて読んだ(「SpectraMax 190」読取装置、Molecular Device社、米国カリフォルニア州サニーベール所在)。サンプルはすべて二重のウェルに入れて分析し、結果は2つのサンプル分析の平均値から計算した。標準曲線は50ng/mlから0.1ng/mlまで直線であったが、0.1ng/mlはこの分析の検出の下限値を表わしている。
【0130】
ウエスタンブロット。 本研究で使用されるマウスはすべて内部精度標準として血清中のB因子の存在についてウエスタンブロットでスクリーニングした。fB−/−およびfB+/+マウスの頭部損傷またはシャム手術の4時間後、24時間後、および7日後、ホモジナイズしたマウス脳およびそれに一致する血清サンプルにおいて、ミトコンドリアの抗アポトーシスメディエータBcl−2およびアポトーシス促進Fas受容体のタンパク質レベルを決定した。ウエスタンブロット法は以前に記載されている[32]。簡単に説明すると、マウスの脳を麻酔下で摘出し、右半球と左半球に分離し、Ultra Turrax Homogenizer(登録商標、IKA Werke社、ドイツ国シュタウフェン所在)を使用して脱イオン水中に100mM TRIS−HCl(pH7.5)、150mM NaCl、0.5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、0.5%Nonidet P−40、10mg/ml アプロチニン、10mg/ml ロイペプチン、5mg/ml ペプスタチン、1mM フェニル−メチル−スルホニルフロリドを含む溶解バッファ中で直ちにホモジナイズした。13,000×g、15分の遠心分離後、上澄みのタンパク質含有量を市販の比色定量タンパク質分析(「BCA Protein Assay」、ドイツ国ボン、Pierce/Perbio Science社)により決定した。60μgの全タンパク質試料を添加液中で変性させ、12% SDSポリアクリルアミドゲルの還元条件下で、広範な予め染色したSDS−PAGEタンパク質標準(Bio−Rad社、ドイツ国ミュンヘン所在)と並行に分離した。その後、タンパク質は、エレクトロブロッティング(Bio−Rad)によりProtran BA 83ニトロセルロースメンブレン(Schleicher & Schuell社、ドイツ国ダッセル所在)に転写した。ブロットを一晩ブロックし、次に、一次抗体としての1:500に希釈したモノクローナル抗マウスBcl−2(Santa Cruz Biotechnology社、ドイツ国ハイデルベルク所在)、1:200に希釈したモノクローナルウサギ抗マウスFas(クローンA−20、Santa Cruz社)、または1:8,000に希釈したモノクローナルニワトリ抗マウス抗B因子(アメリカ合衆国アラバマ州バーミンガムのアラバマ大学のScott R.Barnum博士より供与)、かつ、バンドの等しい添加量を確認するための内部基準としての1:10,000に希釈したモノクローナル抗β−アクチン抗体(クローンA−15、Sigma)と共にインキュベートした。1:5,000に希釈したペルオキシダーゼ標識二次抗体(Dako社、ドイツ国ハンブルク所在およびSanta Cruz Biotechnology社、ドイツ国ハイデルベルク)とのインキュベート後、抗体結合を、市販のECL(登録商標)ウエスタンブロットキット(Amersham Pharmacia Biotech社、ドイツ国フライバーク所在)を用いて非放射性化学発光方式により目に見えるようにした。ブロットメンブレンへのタンパク質の等しい転写はポンソー赤色染色(シグマ)により確認した。
【0131】
免疫組織化学。 ニューロンの形態、完全性およびアポトーシスを評価するために、摘出したマウス脳を液体窒素で急速凍結し、OCT化合物(Sakura Finetek、カリフォルニア州トレンス所在)中で包埋し、分析に使用するまで−80°Cで保存した。6〜8μm厚さの冠組織切片を−20℃にてクリオスタットで切断した。免疫組織化学については、スライドをアセトン中で固定し、次に、色素原としてDAB−テトラヒドロクロリド(Vector社、カリフォルニア州バーリンゲーム所在)、本願以前に記載[13、32])を用いて標準ビオチン/アビジン/ペルオキシダーゼ法により分析した。以下の一次抗体を細胞マーカとして使用した:モノクローナル抗NeuN、1:2,000滴定希釈(Chemicon社、英国ハンプシャー所在)、ニューロン用;ポリクローナルウサギ抗GFAP、1:100(Shandon Immunon社、米国ペンシルベニア州ピッツバーグ所在)、星状細胞用;モノクローナルラット抗CD11b、1:100(Accurate Chemical社、アメリカニューヨーク州ウェストベリー所在)、ミクログリア用;モノクローナルヤギ抗CD144、1:200(Santa Cruz社)、内皮細胞用。非免疫IgG(Vector社)を特異性を省略した抗体として等しい稀釈液における陰性対照として使用した。
【0132】
脳内ニューロンの細胞死の範囲を決定するために、本願以前に記載されているように[38]、「フルオレスセインインサイチュ細胞死検知キット(Fluorescein In Situ Cell Death Detection Kit)」(Roche Diagnostics社、ドイツ国マンハイム所在)を使用して、メーカーの使用説明書に従いTUNEL組織化学を行なった。簡単に説明すると、スライドを30分間感想させた後、室温にて10%ホルマリン溶液で固定した。PBSで(3分を3回)洗浄した後、切片を氷冷エタノール酢酸溶液(2:1)に入れて−20℃で5分間インキュベートした。その後、それらをPBS中で洗浄し、3%Triton X−100 PBS溶液の透過化溶液中で室温で60分間インキュベートし、次にフルオレスセイン−dUTPを含む反応緩衝液中でTdT酵素と37℃で90分間インキュベートした。陰性対照はTdT酵素なしで反応緩衝液のみを用いて行った。陽性対照は等しい脳切片をDNase グレードI溶液(500U/ml;Roche社)で室温で20分間消化し、その後他の試料と常に分離しておくことにより行なった。標識後、切片を再度PBSで洗浄した。そして、染色されていない(TUNEL陰性の)細胞を目に見えるようにするために、切片をDAPI(Vector社)による蛍光用のVectashieldO取付媒体でカバーした。試料はすべて染色直後、Axioskop 40蛍光顕微鏡(ドイツ国、Zeiss社)を用いて、DAPIに関しては460nm、TUNEL蛍光に関しては520nmで評価し、Alpha digi doc 1201ソフトウェア(Alpha Innotech、米国カリフォルニア州サンレアンドロ所在)により分析した。
【0133】
統計分析。 統計分析を市販のソフトウェア(Windows(登録商標) SPSS9.0)を使用して行なった。fB−/−およびfB+/+マウスの血清中の補体C5aレベルの差を独立スチューデントT検定(unpaired Student’s t−test)にて決定した。0.05よりも小さいP値を統計的に有意であるとみなした。
結果
脳損傷fB−/−マウスで補体の活性化が減じられる。
【0134】
本研究で使用されたすべてのfB−/−マウスおよび野生型同腹子(fB+/+)からの血清サンプルのスクリーニングにより、B因子はfB+/+マウスの血清でのみ検出可能であり、fB−/−マウスでは検出できないことが明らかとなった。これらの対照実験を行って、ノックアウトマウスでは血清中のB因子が完全に欠如していることを確認した(データは図示しない)。
【0135】
図10を参照すると、C57BL/6系の脳損傷fβ+/+およびfB−/−マウス由来の血清試料fJB−/―負荷(1つの群および時点当たりn=6)および正常なC57BL/6マウス(対照、n=4)由来の血清試料を、マウスC5aに特異的なELISAにより分析した(図10のデータは平均レベル±SDとして示す。*P<0.05、fB+/+ 対 対照およびfB+/+ 対 fB−/−マウス。TBI(外傷性脳損傷))。野生型C57BL/6マウスの実験滴閉鎖性頭部損傷は、補体カスケードの全体的活性化を生じさせたが、これは4時間から7日まで評価されたすべての時点で補体活性化産物C5aの血清レベルが有意に高いことにより決定された(P<0.05 対 正常マウス血清、独立スチューデントt検定、図10)。これに対し、アナフィラトキシンC5aの血清レベルは、頭部外傷後のすべての対応する時点においてfB−/−正常マウスで劇的に減少し、清浄マウスではベースラインレベルまで低下した(P<0.05 対 脳損傷fB+/+マウス、独立スチューデントt検定、図10)。これらのデータは、副経路が脳外傷後の補体活性化のための根源であることを示唆しており、これは慢性関節リウマチ、自己免疫性腎炎および虚血/再潅流損傷等のCNS外の疾病に対して以前に実証されたにすぎない概念である[33、37]。
【0136】
B因子の欠如は頭部外傷後のニューロン細胞死の減少につながる。
本願以前に記載されたように、ニューロン細胞死は閉鎖性頭部損傷後7日までの野生型C57BL/6マウスの損傷した脳で観察された[38]。図12−14を参照すると、野生型(fB+/+、各図のパネルA−E)およびB因子ノックアウトマウス(fB−/−、各図のパネルF−J)の左(損傷した)半球の管状低温凍結切片を、ニューロンマーカであるNeuNに対する特異的抗体を用いた免疫組織化学により(各図のA、B、F、G)、または隣接切片のTUNEL組織化学により(各図のD、E、I、J)分析した。TUNEL切片の全体的な細胞の形態はDAPI核染色法により明らかとなる(各図のC、H)。各図のパネルB、E、G、Jは、各図のそれぞれのパネルA、D、F、Iの4倍の倍の大きさを表わしている(元の倍率:100×(A、C、D、F、H、I)、400×(B、E、G、J))。外傷後4〜24時間以内にfB+/+マウスの損傷した半球でTUNEL陽性細胞の増加が検知され(それぞれ図12および13)、これは7日まで続いた(図14)。4’,6’−ジアミノ−2−フェニルインドール(DAPI)による各染色(図12−14のパネルCおよびH)によれば、TUNEL組織化学によって評価された隣接切片の細胞形態が示された。ニューロンは、特異的細胞マーカであるNeuNに対する隣接切片の免疫組織化学によりメインのTUNEL陽性細胞型として決定された(図12−14のパネルA、B、FおよびG)。これに対して、星状細胞(抗GFAP)、ミクログリア(抗CD11b)および内皮細胞(抗CD144)の染色により、脳内のこれらの常在細胞が頭部外傷の本モデルでは関連するTUNEL染色を呈しないことが明らかとなった(データは図示しない)。その上、その典型的な細胞サイズおよび形態(グリア細胞に対して)、ならびに損傷した皮質におけるTUNEL陽性細胞の典型的なニューロン層により、ニューロンは支配的なTUNEL陽性の細胞型として確認された。これらの知見は、本実験および他の実験のTBIモデルならびに頭部を損傷した患者[38−42]におけるニューロンのアポトーシスに関する以前に公表されたデータを確証している。脳損傷したfB+/+マウスにおけるニューロン細胞死の程度とは対照的に、fB−/−マウスは外傷後4時間から7日までに損傷した脳のTUNEL陽性ニューロンの明らかな減少を示した(図12−14のパネルD、E、IおよびJ)。これらの知見は、ニューロンのアポトーシスの補体依存的制御の最近確立された概念を支援し[7、10、15、43]、TBI後の二次神経変性の程度を制御する際の補体活性化の副(B因子依存)経路の生体内における重要性を高めている。
【0137】
これは、本願発明者が知る限り、脳外傷後の神経病理学に寄与する副経路の役割を専ら調べた最初の研究である。fB−/−マウスは、多発性硬化症の動物モデルの実験的脱髄からは保護されることが以前に示されている[44]。Natafとその同僚による研究は、B因子の遺伝子欠如が、機能的副補体活性化経路の完全な欠如を誘発し、自己免疫および外傷性CNS損傷モデルにおける神経保護に本質的な役割を果たすという点で本願発明者の今回の知見を支持している。
【0138】
損傷fB−/−脳におけるBcl−2のアップレギュレーションおよびFasのダウンレギュレーション
外傷後のニューロンのアポトーシスが、Fas媒介外因性経路によりおよびアポトーシスの内在経路のミトコンドリア抗アポトーシスメディエータBcl−2の抑制により促進されることが示されている[45−51]。図11を参照すると、シャム手術されたおよび頭部損傷されたfB+/+およびfB−/−マウスの損傷した半球から得たホモジナイズした脳組織標本をSDS−PAGEにかけ、ニトロセルロース膜に転写し、Bcl−2に対する特異的抗体および化学発光による検出により分析した(ECL(登録商標)system、Amersham社)。マウスBcl−2に対応する視覚化された26kDaのバンドは、頭部損傷された野生型同腹子と比較して、24時間目にノックアウトマウスで増強された。さらに、fB+/+マウスと比較して、評価されたすべての時点で脳損傷ノックアウトマウスではFas受容体のダウンレギュレーションの染色強度が明らかだった(データは図示しない)。ブロット例は3つの独立した実験を表している。
【0139】
より詳細には、ウエスタンブロット分析により、発明者はB+/+同腹子と比較して、外傷後24時間目に頭部損傷脳fB−/−の脳ホモジネートにおける保護Bcl−2タンパク質レベルが顕著にアプレギュレートされていることを見出した(図11)。TBI後の他の時点でノックアウトマウスと野生型マウスの間のBcl−2発現に明白な差は見られなかった(図11)。アポトーシスの外因性経路に関して、Fas受容体発現の顕著なダウンレギュレーションは、fB+/+と比較してfB−/−マウスでTBI後の4時間から7日までに見られた(図11)。これらのデータは定量的ではないが、26kDa(Bcl−2;図11)および48kDa(Fas;データは図示しない)のバンドの染色強度の差は、上述の時点では、対応する野生型同腹子より脳損傷ノックアウトマウスでより強く見られる。これらの知見は、TBI後のニューロンのアポトーシスを制御する際の、損傷した脳でのBcl−2の抑制およびFas受容体発現の誘導による補体活性化の副経路の関与を示している。異なるモデル系において他の研究者によって以前に決定されたように[45−47]、いずれの態様も、損傷後のニューロンのアポトーシスの制御に重要である。制御された皮質衝撃を受けた脳外傷モデルに関する実験的研究では、野生型同腹子と比較してトランスジェニックマウスでは外傷後7日目までのBcl−2遺伝子の過剰発現により皮質の病変体積が著しく減少することが実証された[52]。このように、Bcl−2はTBI後のアポトーシスのミトコンドリア(内因性)経路の制御に重要な役割を果たす[4、50、52、53]。
【0140】
本願発明者は本願以前にCrry−Ig(マウスの組換えキメラ融合分子)によるC3転換酵素レベルにおける補体活性化の「全体(pan)」阻害により脳内Bcl−2の遺伝子およびタンパク質発現が増大し、脳損傷マウスの海馬の生存ニューロンが増大することを示した[32]。マウスの自己免疫脳炎のモデルでは、Crry−Igによる補体活性化の阻害によってニューロンのアポトーシスが有意に減少した[15]。
【0141】
本研究のデータは、TBIの神経病理学的結果に寄与する際の補体活性化の副経路の生物学的重要性を支持しており、将来の薬学研究の基礎に例えばB因子拮抗剤[33、54]等の選択的な副経路阻害を与えるものである。
【0142】
まとめると、本データは、外傷後の補体の活性化(C5a生成)の全範囲および脳外傷後の二次的なニューロン細胞死(TUNEL、Bcl−2およびFasデータ)への寄与における補体活性化の副経路の主な役割についての初めての証拠を提供する。TBIモデルでの実験による補体阻害に関する本願以前に観光されたすべての研究は、補体カスケードにC3転換酵素の「通常の接合」レベルにて干渉すること[26、28−32]またはアナフィラトキシンC5aまたはその受容体の特異的ブロック等によりカスケードのさらに下流で干渉すること[30]に着目していたため、上記は新規で刺激的な発見である。脳外傷の神経病理学における補体副経路の病態生理学敵役割をこれまで過小評価していたのは、種々の神経学的疾病[55,56]において古典的経路の優勢な役割が歴史的に確立されてきたことが理由の一部にある可能性がある。しかしながら、本研究から得られた結果は、これらの洞察が、TBIの設定[57]等の複雑な多元的な神経炎症性疾患における補体副経路の「本当の」生体内での重要性を必ずしも反映しないことを示している。重度に頭部損傷した患者のくも膜下の区画に高レベルのB因子が存在するという事実は[36]、B因子を薬学的ターゲットとすることが合理的かつ予測可能であるという本願請求項をさらに支持している。
【0143】
実施例4の参照文献
1.McArthur et al.,Brain Pathol 2004,14: 185−94.
2.Gaetz,Clin Neurophysiol 2004,115:4−18.
3.Eldadah et al.,J Neurotrauma 2000,17:811−829.
4.Raghupathi R,Brain Pathol 2004,14:215−222.
5.Wong et al.,Neurocrit Care 2005,3: 177−182.
6.Zhang et al.,Crit Care 2005,9:66−75.
7.Stahel et al.,Brain Res Rev 1998,27:243−56.
8.Cole et al.,Clin Sci (Lond) 2003,104:455−66.
9.Schmidt et al.,Eur J Trauma 2004,30: 135−149.
10.Cole et al.,MoI Immunol 2006,Jan 5 (印刷前の電子出版)
11.Farkas et al.,J Physiol 1998,507:679−87.
12.Nataf et al.,Trends Neurosci 1999,22:397−402.
13.Stahel et al.,J Neuroimmunol 2000,109:164−72.
14.O'Barr et al.,J Immunol 2001,166:4154−4162.
15.Alexander et al.,J Immunol 2005,175:8312−8319.
16.Morgan,Crit Rev Immunol 1999,19:173−98.
17.Singhrao et al.,Am J Pathol 2000,157:905−18.
18.Bellander et al.,J Neurotrauma 2001,18:1295−311.
19.Ohlsson et al.,J Neurotrauma 2003,20:895−904.
20.Ohlsson and Havton,Neurosci Lett 2005,Nov 10 (印刷前の電子出版)
21.Casarsa et al.,Eur J Immunol 2003,33:1260−1270.
22.Xiong et al.,J Neurosci 2003,23:955−60.
23.Bellander et al.,J Neurosurg 1996,85:468−75.
24.Keeling et al.,J Neuroimmunol 2000,105:20−30.
25.Kyrkanides et al.,J Neuroimmunol 2001,119:268−277.
26.Rancan et al.,J Cereb Blood Flow Metab 2003,23:1070−4.
27.Stahel et al.,J Neurotrauma 2001,18:773−81.
28.Kaczorowski et al.,J Cereb Blood Flow Metab 1995,15:860−4.
29.Hicks et al.,J Neurotrauma 2002,19:705−14.
30.Sewell et al.,J Neuroimmunol 2004,155:55−63.
31.Pillay et al.,Ann N Y Acad Sci 2005,1056:450−461.
32.Leinhase et al.,Exp Neurol 2006 (近刊).
33.Holers and Thurman,MoI Immunol 2004,41:147−152.
34.Thurman et al.,J Immunol 2003,170:1517−1523.
35.Thurman et al.,Kidney Int 2005,67:524−30.
36.Kossmann et al.,J Neuroimmunol 1997,73:63−9.
37.Thurman and Holers,J Immunol 2006,176:1305−1310.
38.Stahel et al.,J Cereb Blood Flow Metab 2000,20:369−80.
39.Rink et al.,Am J Pathol 1995,147:1575−1583.
40.Yakovlev et al.,J Neurosci 1997,17:7415−7424.
41.Williams et al.,Acta Neuropathol 2001,102:581−590.
42.Marciano et al.,J Neurosci 2004,24:2866−2876.
43.Elward et al.,J Biol Chem 2005,280:36342−54.
44.Nataf et al.,J Immunol 2000,165:5867−5873.
45.Felderhoff−Mueser et al.,Neurobiol Dis 2002,11:231−245.
46.Qiu et al.,J Neurosci 2002,22:3504−3511.
47.Raghupathi et al.,Neuroscience 2002,110:605−616.
48.Raghupathi et al.,J Neurotrauma 2003 ,20 :421 −435.
49.Strauss et al.,Neurotox Res 2004,6:333−342.
50.Mohamad et al.,Biocell 2005,29:149−161.
51.Friedlander,N Engl J Med 2003,348:1365−1375.
52.Raghupathi et al.,J Cereb Blood Flow Metab 1998,18:1259−69.
53.Shacka et al.,Curr Drug Targets CNS Neurol Disord 2005,4:25−39.
54.Thurman et al.,MoI Immunol 2005,42:87−97.
55.Morgan and Gasque,Immunol Today 1996,17:461−6.
56.Barnum,MoI Med 1999,5:569−82.
57.Schmidt et al.,Brain Res Rev 2005,48:388−399.
58.Matsumoto et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1997,94:8720−8725.
59.Holers,Immunopharmacology 2000,49: 125−31.
60.Roof and Hall,J Neurotrauma 2000,17:367−388.
61.Yao et al.,J Neurotrauma 2005,22:656−658.
62.Chen et al.,J Neurotrauma 1996,13:557−68.
63.Yatsiv et al.,J Cereb Blood Flow Metab 2002,22:971−8.
64.Yatsiv et al.,FASEB J 2005,19:1701−1703.
本願に引用された各参考文献はその全体が本願に援用される。
【0144】
本発明の種々の実施形態を詳細に説明してきたが、それらの実施形態の改変および適応が当業者には思い浮かぶであろう。しかしながらそのような改変および適応が請求項に記載された本発明の範囲内にあるものとする。
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、外傷性脳損傷、脊髄損傷、または関連状態に起因する生理的障害を、補体副経路を選択的に阻害すること、また、特定の実施形態では、B因子を阻害することにより治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
補体の活性化は、主として、3つの経路、いわゆる古典経路、レクチン経路および副経路を介して生じる。副経路の活性化に関与する主要タンパク質は、B因子(fB)およびD因子(fD)である。これらのタンパク質は協働してC3の活性化を開始かつ/または増幅し、それによって、多くの炎症反応が引き起こされる。第3のタンパク質、プロパージンは、C3とB因子との複合体を安定化させるが、副経路の機能に不可欠というわけではない。B因子も免疫複合体の可溶化に役立ち、B細胞増殖因子としての役割を果たすと報告されており、単球を活性化し得る(例えば、非特許文献1、2、3参照)。B因子欠損マウス(fB−/−マウス)が作製されたが、これらのマウスでは、T細胞依存性抗原に対するIgG1抗体応答および内毒素性ショックに対する感受性は正常なように見える(例えば、非特許文献4参照)。
【0003】
通常、補体副経路は、細菌、寄生虫、ウイルスまたは菌類によって活性化されるが、IgA Absおよび特定のIgL鎖もこの経路を活性化すると報告されている。副経路の活性化は、循環B因子が活性化C3(C3bまたはC3H2O)に結合した時点で開始される。次いで、この複合体は、循環D因子によって切断されて、酵素活性フラグメント、C3bBbを生成する。C3bBbはC3を切断してC3bを生成し、C3bは炎症を促進すると共に、活性化プロセスをさらに増幅させて、正のフィードバックループを生成する。両成分(B因子とD因子)とも副経路の活性化に必要である。
【0004】
最近の研究で、補体の副経路が数種の動物病態モデルの発症に重要な役割を果たすことが示されている。例えば、虚血再潅流傷害(I/R)後の腎臓内での補体活性化は、ほぼ例外なく副経路を介しており(例えば、非特許文献5参照)、副経路は炎症性関節炎の発症に重要な役割を果たしている。恐らく最も驚くべきことに、副経路欠損マウスは、従来、補体の古典経路によって仲介されると推測されていたモデルであるループス胃炎のMRL/lprモデルの胃炎(例えば、非特許文献6参照)および抗リン脂質性胎児死亡(例えば、非特許文献7参照)から保護されることが論証された。さらに、ナタフら(Nataf et al)は、C3(−/−)マウスとB因子(−/−)マウスの実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルでは、マクロファージおよびT細胞による柔組織浸潤がほとんどなく、またそれらの野生型同腹子に比べて、EAE誘発C3(−/−)マウスとB(−/−)マウスの中枢神経系(CNS)が脱髄から保護される(例えば、非特許文献8参照)ことを示している。その後のEAEモデルのC4(−/−)マウスにおける自己免疫病理学研究により、C4遺伝子の欠失は、完全にインタクトな補体系を有するコントロールに比べて、ミエリンオリゴデンドロサイト誘発性EAEの発現時間または重症度および速度を有意に変えないことが示されたが、これは、脱髄疾患の発症に対するマウス補体の寄与が副経路を介して実現されることを示している(例えば、非特許文献9参照)。
【0005】
外傷性脳損傷(traumatic brain injury、本明細書ではTBIとも称される)は、個人の健康に極めて有害な影響を及ぼす状態であり、現在のところ有効な治療法はない。補体の活性化はTBI後の脳損傷の発症に関与することが示された(例えば、非特許文献10、11、12、13、14、15、16、17、18参照)。しかし、これらの研究は、例えばC3などの補体を活性化する全3経路が集束する点における補体カスケード作用に集中している(例えば、前掲の非特許文献18参照)。したがって、本発明以前には、補体経路の1つが、TBIの結果として選択的もしくは排他的に活性化されるか、またはTBIの発症に必要とされるかどうかを示す報告はなかった。
【0006】
頭部損傷患者の管理における当座の目標は、低血圧、低酸素血症血、高炭酸および高血糖を速やかに補正して、二次性脳障害を防止することである。頭部外傷患者の初期管理における主要優先事項は、適切な脳潅流圧(CPP)を維持することであり、脳潅流圧は約9.333〜10.666kPa(70〜80mmHg)でなければならない。別の治療的アプローチは、適切なCPPを維持するために、頭蓋内圧(ICP)を低下させることを目指す。治療様式には、頭蓋内血腫の外科的排出による腫瘤病変の減少、浸透圧剤(マンニトール)を用いた脳浮腫の減少、および脳室内カテーテルを介した脳脊髄液(CSF)の治療的排出が含まれる。重篤なTBIを有する患者は、できるだけ早く集中治療室(ICU)に移し、標準プロトコールに従って治療する。ICU治療の目標には、適切なガス交換と循環安定性の達成および維持、低酸素血症および高炭酸の防止、遅発型二次性頭蓋内病変を検出するための反復的定期的コンピュータ断層撮影(CT)スキャン、ストレスや疼痛を回避するための深い鎮静および鎮痛、最適なCPP〔>約9.333kPa(70mmHg)〕および脳酸素平衡の達成および維持、異常高熱(<38℃)の回避、高血糖および低ナトリウム血の防止、日常的な頭位挙上の阻止、ストレス潰瘍の予防および腸粘膜整合性の維持、ならびに悪化因子(例えば、肺炎または髄膜炎)の予防が含まれる。高ICP〔>約2kPa(15mmHg)、>5分〕の場合、患者は、(1)鎮静、鎮痛、筋弛緩の深化、(2)脳室内カテーテルを介したCSF排出、(3)中等度過呼吸(特定状況下)、(4)浸透圧療法、(5)中等度低体温(±34℃)、および(6)バルビツール剤昏睡によって治療可能である。
【0007】
脊髄損傷(spinal cord injury、本明細書ではSCIとも称される)も、個人の健康に極めて有害な影響を及ぼす中枢神経系の状態であり、今のところ有効な治療法がない。補体の活性化は、SCI後損傷の発症に関与することが示されている(例えば、非特許文献19、20、21参照)。しかし、TBIの場合と同様に、これらの研究は、補体を活性化する全3経路が集束する点における補体カスケード作用に集中しているか、SCI後に全補体経路が果たす役割を示唆している。したがって、本発明の前には、補体経路の1つがSCIの結果として優先的もしくは排他的に活性化されるか、またはSCIの発症に必要とされるかどうかを示す報告は存在しなかった。
【0008】
SCIは、一般的には、例えば運動性や感覚などの機能の喪失をもたらす脊髄の損傷と定義される。損傷の主な原因は、(例えば、自動車事故、被弾、落下などによる)外傷または病気(ポリオ、二分脊椎、フリードライヒ運動失調症など)である。脊髄が切断されるから機能喪失が起るとは限らない。実際、SCIを有する個人のほとんどは、脊髄は無傷だが、脊髄への障害が機能の喪失をもたらす。SCIを有する個人は、感覚または運動機能の喪失の他に、腸や膀胱の機能不全、性的および受胎能力不全、血圧を効率的に調節する能力の不全、体温調節能力の低下、損傷レベル以下での発汗不能、ならびに慢性疼痛も経験し得る。上位損傷(C−1、C−2)は、呼吸能力を含めた多くの不随意機能の喪失をもたらし、人工呼吸器または横隔膜ペースメーカーなどの蘇生器を必要とし得る。
【0009】
現在のところ、SCIの治療法は存在しない。SCI患者の管理における当座の目標は、損傷が発生した後できる限り速やかに障害を減少させることに集中している。メチルプレドニゾロンなどのステロイド薬は、損傷時の二次性障害の一般的原因である浮腫を減少させる。脊髄損傷には数種の短期的治療法がある。第1に、(例えば、ハロー、キャスト、ギブスおよびストラップを用いて)損傷脊髄領域の脊椎を固定して、脊髄へのさらなる障害を防ぐ。損傷によって生じた脊髄浮腫を減少させるために、通常、損傷後24時間の間にステロイド薬を投与するが、もっと典型的なアプローチは、神経障害を有する患者に、外傷を受けてから8時間以内にステロイド薬を投与して治療を開始する方法である(例えば、非特許文献22参照)。多くの場合、発症し得る合併症に応じて他の治療法が必要である。通常、脊椎への外傷性損傷は脊椎の骨や靭帯への損傷を含むので、外科手術を実施し得る。ある種の外科手術の目的は、脊髄を圧迫しているか、脊髄に圧入している骨を除去する方法(減圧法)か、椎体または靭帯が損傷を受けている場合には脊髄損傷部位の脊椎を安定化または再整列する方法である。正常な椎体に金属の棒またはケージやスクリューを取り付けて折れた椎体の動きを阻止したり、骨移植片または同様な目的のものを用いて椎体を「融合」させたりし得る。錘(おもり)や滑車(牽引と称される)を用いて脊椎を引き伸ばす方法も脊椎を整列させるのに役立ち得る。
【0010】
TBI患者の治療プロトコールにも拘わらず、TBI治療から発生し得る合併症としては、脳血管痙攣または心臓血管陥凹、肝毒、免疫抑制、および肺感染の発症率の増加を挙げることができる。さらに、SCIの治療により生理的障害はかなり減少させ得るが、多くのプロトコールは、主に、さらなる障害の可能性を低減させたり、患者を安定化させたりするのに役立つという点で有用なものである。どのプロトコールも、TBIまたはSCIに起因する生理的障害の発生を阻止するのに十分満足のいくものでないことが判明している。
【0011】
したがって、当技術分野においては、毒性が低く、TBIおよびSCIに起因する障害の根本原因に特異的な治療法および試薬が依然として求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】高橋(Takahashi)、1980年
【非特許文献2】ホール(Hall)、1982年
【非特許文献3】ピータース(Peters)、1988年
【非特許文献4】松本(Matsumoto)、1997年
【非特許文献5】サーマンら(Thurman,et al)、2003年、J Immunol 第170巻、p.1517−1523
【非特許文献6】渡邊ら(Watanabe et al)、2000年、J Immunol 第164巻、p.786−794
【非特許文献7】ジラルディら(Girardi et al)、2003年、J Clin Invest 第112巻、p.1644−1654
【非特許文献8】ナタフら(Nataf et al)、2000年、J.Immunol.第165巻、p.5867−5873
【非特許文献9】ブースら(Boos et al)、2005年、Glia 第49巻、p.158−160
【非特許文献10】ベランダーら(Bellander et al)、2001年、J.Neurotrauma 第18巻、p.1295−1311
【非特許文献11】カックゾロフスキーら(Kaczorowski et al)、1995年、J.Cereb.Blood Flow Metab.第15巻、p.860−864
【非特許文献12】キーリングら(Keeling et al)、2000年、J.Neuroimmunol.第105巻、p.20−30
【非特許文献13】シュミットら(Schmidt et al)、2004年、Eur.J.Trauma、第30巻、p.135−149
【非特許文献14】ナタフら(Nataf et al)、1999年、Trends Neurosci 第22巻、p.397−402
【非特許文献15】シュタヘルら(Stahel et al)、1998年、Brain Res.Rev.第27巻、p.243−256
【非特許文献16】シュタヘルら、2001年、J.Neurotrauma 第18巻、p.773−781
【非特許文献17】ファンベークら(Van Beek et al)、2003年、Ann NY Acad Sci 第992巻、p.56−71
【非特許文献18】ランカンら(Rancan et al)、2003年、J.Cereb.Blood Flow & Metab.第23巻、p.1070−1074
【非特許文献19】アンダーソンら(Anderson et al)、2004年、J Neurotrauma 第21巻(12)、p.1831−46
【非特許文献20】レイノルズら(Reynolds et al)、2004年、Ann NY Acad Sci.第1035巻、p.165−78
【非特許文献21】レブハンら(Rebhun et al)、1991年、Ann Allergy 第66巻(4)、p.335−8
【非特許文献22】ブラッケン(Bracken)、2001年、Spine 第26巻(24S)、p.S37−S54
【発明の概要】
【0013】
(発明の開示)
本発明の1つの実施形態は、動物の外傷性脳損傷(TBI)に起因する生理的障害の少なくとも1つの症状を軽減または防止するか、動物のTBIからの回復を促進する方法に関する。この方法は、TBIを経験した動物の補体副経路を選択的に阻害する工程を含む。1つの態様において、症状は、脳血管痙攣、心臓血管陥凹、肝毒、免疫抑制、および/または肺感染症から選択される。別の態様において、症状は、低血圧、低酸素血症、高炭酸症および/または低血糖症からなる群から選択される。
【0014】
本発明の別の実施形態は、動物の脊髄損傷(SCI)に起因する生理的障害の少なくとも1つの症状を軽減または防止するか、動物のSCIからの回復を促進する方法に関する。この方法は、SCIを経験した動物の補体副経路を選択的に阻害する工程を含む。1つの態様において、症状は脊髄の浮腫である。
【0015】
本発明のさらに別の実施形態は、外傷性脳損傷(TBI)を治療するための医薬組成物における補体副経路を選択的に阻害する作用剤の利用に関する。
本発明の別の実施形態は、脊髄損傷(SCI)を治療するための医薬組成物における補体副経路を選択的に阻害する作用剤の利用に関する。
【0016】
上述の方法または利用のいずれにおいても、阻害工程は、補体副経路のタンパク質の発現または活性を選択的に阻害する作用剤を動物に投与する工程を含み得る。補体副経路のタンパク質は、B因子、D因子および/またはプロパージンから選択するのが好ましい。そのような作用剤としては、補体副経路タンパク質の発現阻害剤、補体副経路タンパク質の生物活性阻害剤、および/または補体副経路タンパク質の拮抗剤が挙げられるが、それらには限定されない。
【0017】
1つの態様において、上述の方法または利用のいずれにも用いられる作用剤は、抗体、その抗原結合フラグメント、または抗原結合ポリペプチドであり、いずれも補体副経路タンパク質に選択的に結合してタンパク質を阻害する。1つの態様において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、第3ショートコンセンサスリピート(SCR)ドメイン内のB因子に選択的に結合して、抗体がC3bBb複合体の形成を阻止する。1つの態様において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、B因子に結合し、D因子によるB因子の切断を防止または阻害する。1つの態様において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトB因子の第3ショートコンセンサスリピート(SCR)ドメインに結合する。別の態様において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、以下のエピトープから選択されるB因子の第3SCRドメイン内エピトープに選択的に結合する:(a)ほぼTyr139位〜ほぼSer185位を含むヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部、または非ヒトB因子配列のそれと等価な位置を含むB因子エピトープ;(b)ほぼTyr139位〜ほぼSer141位を含むヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部、または非ヒトB因子配列のそれと等価な位置を含むB因子エピトープ;(c)ほぼGlu182位〜ほぼSer185位を含むヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部、または非ヒトB因子配列のそれと等価な位置を含むB因子エピトープ;および/または(d)以下の位置:Tyr139、Cys140、Ser141、Glu182、Gly184、もしくはSer185の1または複数を含むヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部または非ヒトB因子配列のそれと等価な位置を含むB因子エピトープ。1つの態様において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、1または複数の以下のアミノ酸位置:Ala137、Tyr139、Ser141、Glu182、Ser185、Thr189、Glu190およびSer192または非ヒトB因子配列のそれと等価な位置を含むB因子の第3SCRドメイン(配列番号2)内エピトープに選択的に結合する。別の態様において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、以下のアミノ酸位置:Ala137、Tyr139、Ser141、Glu182、Ser185、Thr189、Glu190、およびSer192、または非ヒトB因子のそれと等価な位置を含むか、それらの位置からなるB因子の第3SCRドメイン内エピトープに選択的に結合する。さらに別の態様において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号2の少なくともアミノ酸位置Ala137−Ser192または非ヒトB因子配列のそれと等価な位置により規定されるB因子第3SCRドメインの一部の3次元構造内非線形エピトープに選択的に結合する。さらに別の態様において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、多様な哺乳類種のB因子に選択的に結合して、C3bBb複合体の形成を阻止する。1つの態様において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトや、非ヒト霊長類、マウス、ラット、ブタ、ウマおよびウサギからなる群から選択される動物のB因子に選択的に結合する。上述のいずれの抗体に関しても、その抗体には、非補体活性化イソタイプもしくはサブクラスの抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、二重特異性抗体、および/または一価抗体が含まれるが、それらには限定されない。1つの態様において、抗体の抗原結合フラグメントはFabフラグメントである。本発明の1つの好ましい態様において、抗体は、(ATCC寄託番号PTA―6230により産生される)モノクローナル抗体1379、またはその抗原結合フラグメントである。
【0018】
TBIに関連する方法および使用方法では、1つの好ましい実施形態において、作用剤は動物の静脈内または脳に投与する。SCIに関連する方法および使用方法では、1つの好ましい実施形態において、作用剤は、動物の静脈内または脊髄もしくは脊髄の硬膜上腔に投与する。作用剤は、動物のTBIまたはSCIに起因する生理的障害の少なくとも1つの症状を、作用剤を投与しない場合に比べて測定可能な程度まで軽減させるのに有効な量で動物に投与するのが好ましい。TBIに関し、1つの態様において、作用剤は、脳潅流圧(CPP)を約9.033〜10.666kPa(70〜80mmHg)に維持するのに有効な量、または頭蓋内圧(ICP)を低下させるのに有効な量で投与する。SCIに関し、1つの態様において、作用剤は、脊髄の浮腫を減少させるのに有効な量で投与する。1つの態様において、作用剤は、血液脳関門を通過し得る化合物もしくは組成物および/または注射可能な賦形剤を含むがそれらには限定されない医薬として許容される担体中で投与される。
【0019】
TBIに関して上述した方法および使用方法の1つの態様では、身体障害、認識障害、心理社会的−行動−情緒障害からなる群から選択されるTBI症状を治療するための別の化合物を動物に投与する工程がさらに含まれる。そのような化合物としては、浸透圧剤、鎮静剤、鎮痛剤、筋弛緩剤、および/またはバルビツール剤が挙げられるが、それらには限定されない。
【0020】
SCIに関して上述した方法および利用の1つの態様において、動物にステロイドを投与するさらなる工程が存在する。
TBIに関して上述した方法および利用の1つの態様において、方法は、頭蓋内血腫の外科的排出による腫瘤病変の減少、浸透圧剤による脳浮腫の軽減、脳室内カテーテルを介した脳脊髄液(CSF)の治療的排出、コンピュータ断層撮影(CT)スキャン、鎮静、鎮痛、筋弛緩、中等度過呼吸、中等度低体温、および/またはバルビツール剤による昏睡から選択されるプロトコールによって動物のTBIを治療する工程をさらに含み得る。
【0021】
SCIに関して上述した方法または利用の1つの態様において、方法はさらに、ステロイドの投与、脊椎の固定、減圧手術、椎体安定化手術、椎体再整列手術、および/または牽引から選択されるプロトコールにより動物のSCIを治療する工程を含み得る。
【0022】
上述の方法および利用のいずれにおいても、動物は、ヒトを含むがヒトには限定されない哺乳類であるのが好ましい。
本発明のさらなる実施形態は、(1)外傷性脳損傷(TBI)を経験した動物のTBIに起因する生理的障害の少なくとも1つの症状を軽減もしくは防止する方法、または(2)脊髄損傷(SCI)を経験した動物のSCIに起因する生理的障害の少なくとも1つの症状を軽減もしくは防止する方法に関し、これらの方法はそれぞれ、動物に、B因子の第3ショートコンセンサスリピート(SCR)ドメインに結合するかSCRドメインをブロックすることによりB因子を阻害する作用剤を投与する工程を含む。これらの実施形態の1つの好ましい態様において、作用剤は、B因子に選択的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントである。
【0023】
本発明の別の実施形態は、(a)補体副経路のタンパク質の発現または生物活性を選択的に阻害する、単離抗体、その抗原結合フラグメント、および/または抗原結合ポリペプチドから選択される第1作用剤と、(b)外傷性脳損傷(TBI)の症状を治療するための第2作用剤とを含む組成物に関する。1つの態様において、第2作用剤は、身体障害、認識障害、および/または心理社会学的−行動−感情障害から選択されるTBIの症状を治療するための化合物である。別の態様において、第2作用剤は、浸透圧剤、鎮静剤、鎮痛剤、筋弛緩剤、およびバルビツール剤からなる群から選択される。
【0024】
本発明のさらに別の実施形態は、(a)補体副経路のタンパク質の発現または生物活性を選択的に阻害する、単離抗体、その抗原結合フラグメント、および/または抗原結合ポリペプチドから選択される第1作用剤と、(b)脊髄損傷(SCI)の症状を治療するための第2作用剤とを含む組成物に関する。1つの態様において、第2作用剤はステロイドである。
【0025】
上述の組成物のいずれにおいても、第1作用剤には、B因子、D因子および/またはプロパージンから選択されるタンパク質の発現または生物活性を阻害する作用剤が含まれるが、それには限定されない。1つの態様において、第1作用剤は、第3ショートコンセンサスリピート(SCR)ドメイン内のB因子に結合して、C3bBbの形成を阻害または防止する。別の態様において、第1作用剤は、抗体またはその抗原結合フラグメントである。好ましい1態様において、抗体はモノクローナル抗体1379である。本発明の方法および利用に用いるための上記作用剤はいずれも本発明の組成物に使用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】B因子−Ig融合タンパク質の構築を示す略図。
【図2A】ザイモサンアッセイで10μgの血清を含有する反応物に3μgを加えたときに抗B因子が補体副経路を完全に阻害したことを示す線グラフ。
【図2B】ウサギ赤血球溶解アッセイで、10μlのヒト血清に6μgの抗体を加えたときに、抗B因子が補体副経路を完全に阻害したことを示す線グラフ。
【図3】抗B因子をマウスに投与すると補体副経路が阻害されることを示す線グラフ。
【図4】ヒトB因子表面上のmAb1379のエピトープマッピングモデルを示す略図。
【図5】マッピングされたエピトープ領域全体をカバーするようにFabの抗原結合面がモデル化された、B因子に結合するmAb1379のモデル化複合体(1つのFabフラグメント)を示す略図。
【図6】Crry−IgがTBI後の神経障害を阻止することを示す線グラフ。
【図7】Crry−IgがTBI後の体重減少を阻止することを示す線グラフ。
【図8】抗B因子(mAb1379)を投与するとTBIに関連する脳損傷が減少することを示す棒グラフ。
【図9】抗B因子(mAb1379)を投与すると脊髄損傷からの回復が促進されることを示す線グラフ。
【図10】脳損傷C57BL/6(fB+/+)マウスの血清では高いC5aレベルが、機能的補体副経路を欠損するB因子遺伝子欠損(fB−/−)マウスでは有意に低下していることを示すグラフ。
【図11】ウエスタンブロット分析で測定した、外傷性脳損傷(TBI)後のfB−/−マウスの血清および脳における抗アポトーシスメディエータBcl−2のアップレギュレーションを示すウエスタンブロットのデジタル画像。
【図12】閉鎖性頭部外傷から4時間後のB因子遺伝子欠損マウスの損傷半球における神経細胞死の低下を示すデジタル画像。
【図13】閉鎖性頭部外傷から24時間後のB因子遺伝子欠損マウスの損傷半球における神経細胞死の低下を示すデジタル画像。
【図14】閉鎖性頭部外傷から7日後のB因子遺伝子欠損マウスの損傷半球における神経細胞死の低下を示すデジタル画像。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、概して、外傷性脳損傷(TBI)に起因する生理的障害の誘発には副経路を介した補体カスケードの活性化が必要であり、補体副経路の阻害がTBIまたは脊髄損傷(SCI)に起因する障害の軽減(または回復の促進)に十分であるという本発明者らの発見に関する。より具体的に言えば、本発明らは、本明細書で、副経路の阻害がTBI実験モデルで生理的障害(例えば、脳障害)を阻害し、また、SCI実験モデルでも障害を阻害する(回復促進により測定)という発見を開示する。したがって、本発明は、補体副経路の選択的阻害により、TBI、SCIまたは他の神経もしくは脳障害を予防かつ/または治療するための化合物、組成物法ならびにそのような予防法および/または治療法における上記化合物または組成物の利用に関する。
【0028】
第1に、本発明者らは、全外傷後活性化度および脳損傷後の二次性神経細胞死の要因としての補体副経路活性化の主要な役割を初めて明らかにした。さらに、本発明者らは、C3補体転換酵素Crry−Igを用いたC3阻害による補体経路の全体的阻害に加えて、B因子の阻害による補体副経路の特異的阻害がいずれもTBIに関連する障害を阻害することを論証した。これは、補体副経路の特異的かつ選択的阻害による、TBIに関連する生理的障害および作用の阻害能力についての最初の開示であると思われる。
【0029】
第2に、本発明者らは、B因子阻害による補体副経路の阻害がSCI関連障害を阻害することを明らかにした。これは、副補体系を特異的かつ選択的に阻害することによりSCIに関連する生理的障害および作用を阻害する能力についての最初の開示であると考えられる。
【0030】
特異的治療標的としての補体副経路のB因子および他のタンパク質(例えば、D因子またはプロパージン)を同定することにより、補体副経路の選択的阻害によるTBIまたはSCIに起因する生理的障害または作用の阻害に使用し得る合理的方策および主要化合物が得られる。
【0031】
活性化の種々の段階で補体系を阻害すべくいくつかの阻害剤がすでに開発されている〔ホーラーズ(Holers)、V.M.2003年、Clin Immunol 第107巻、p.140−151〕が、副経路特異的阻害剤は広く報告されてはいない。副経路特異的阻害は、既存の補体カスケード阻害剤に比べていくつかの利点を有する。先ず、TBIまたはSCIに起因する生理的障害が主として補体副経路の活性化により仲介されることを本発明者らが発見したために、この経路の特異的阻害剤は、全補体阻害剤としても有効であると思われるにもかかわらず、免疫抑制性副作用は少ないであろう。さらに、C4−/−マウス(補体の古典経路、副経路およびレクチン経路に一般的なC4補体成分を欠くマウス)は、全身性実験的細菌感染症に罹り易いように見えるが、fB−/−(B因子欠損)マウスはそうではないということは、古典経路をインタクトなままにしておくことによって、副経路阻害剤は、重篤な感染症をもたらす危険性が低いことを示唆している。先天性B因子欠損ヒト患者は1人だけ報告されている〔デンセンら(Densen et al)、1996年、Mol Immunol 第33巻、p.68(要約 270)〕が、遺伝子標的B因子欠損マウス(fB−/−)の研究では、まだ、この因子の免疫調節効果は論証されていない〔デンセンら、前掲;松本ら(Matsumoto et al)、1997年、Proc Natl Acad Sci USA 第94巻、p.8720−8725〕。それに対し、先天性古典経路成分欠損患者は、感染〔最も一般的には、スタフィロコッカス(Staphylococcusおよびストレプトコッカス(Streptococcus)〕の危険性が高いようである。古典経路成分またはC3(補体経路すべてに共通)も自己免疫に関係する可能性があり〔フィゲロア(Figueroa)およびデンセン(Densen)、1991年、Clin Microbiol Rev 第4巻、p.359−395〕、それは、B因子欠損がMRL/lprマウスを糸球体腎炎発症から保護するが、C3欠損は保護しない理由を説明している可能性がある(渡邊ら、前掲)。副経路を選択的に阻害することにより、C3a受容体ならびに補体受容体1−4およびC5aのC3由来リガンド生成が阻止される。活性化プロセス中に生成されるB因子のBaまたはBb活性化産物の受容体がまだ十分に明らかにされていないために、実際には、副経路ブロッキング効果はもっと直接的であるかもしれない。したがって、副経路の阻害は、補体の古典経路の阻害よりも、耐性が高く、さらに有効であると見込まれる。
【0032】
TBIやSCIおよび関連状態を治療するために本発明の方法に使用する補体副経路特異的阻害剤の大きな潜在的治療効果を前提として、本発明者らは、数種のB因子阻害モノクローナル抗体を開発し、そのうちの1種をTBI実験モデルとSCI実験モデルでテストした。これらの抗体は、2005年11月24日に公開された米国特許出願公開番号2005−0260198−A1号および2005年8月25日に公開されたPCT公開番号WO2005/077417号に詳細に記載されており、両文献はその全体が本明細書に文献援用される。
【0033】
手短に言えば、抗体を産生させるために、遺伝子標的B因子欠損マウス(fB−/−)に、ヒンジ部に結合させたB因子の第2および第3ショートコンセンサスリピート(SCR)ドメイン、マウスIgG1アイソタイプのCH2およびCH3ドメインからなる融合タンパク質を注射した(図1参照)。これらのSCRドメインを選択したのは、それらがfB−/−マウスのB因子遺伝子の欠失セグメントの一部だからである。B因子に対する免疫応答を調べるために(例えばELISAを用いて)マウスをスクリーニングにかけ、融合タンパク質注入マウスのうちの1匹の脾臓細胞を骨髄腫細胞に融合させた。1379と名付けた得られたハイブリドーマの1つは、試験管内(図2Aおよび2B)および生体内(図3)で補体副経路の活性化を阻害するIgG1抗体を産生する。具体的に言うと、この抗体は、副経路活性について2種の試験管内アッセイでテストしたところ、ヒト血清による赤血球の溶解を完全に阻止し得ることを示したので、この試薬の補体副経路活性化を完全にブロックする能力が確認された。マウスを、阻害抗体を1回注射した後のいろいろな時期に副経路の阻害に関してテストしたところ、1mgの抗体で、静脈内注射後1時間以内および腹腔内注射後2時間以内に完全阻害が得られた(図3)。1mgを腹腔内注射したマウスは、注射後24時間の時点で副経路の完全阻害を保持し、2mg注射したマウスは、注射後48時間まで完全阻害を保持した。また、本発明者らは、2mgの1379抗体を1日おきに14日間繰り返し腹腔内注射し、補体副経路の完全阻害が最終注射後少なくとも48時間維持されることを示した。さらに、この抗体から作ったFabフラグメントも、インタクトな1379抗体と同様に、ほぼ等モルレベルで副経路を完全阻害した。
【0034】
1379抗体は、マウス、ラット、ヒト、ヒヒ、アカゲザル、カニクイザル、ブタ、ウサギおよびウマを含めた動物の血清の副経路活性化を阻害する(表1)。
【0035】
【表1】
本発明者らが作製した抗B因子抗体のパネルを表2に示す。上述のように、本発明者らは、mAb1379がマウスおよびヒトのB因子に結合して阻害することを示した。それに対し、mAb624と称される抗体は、マウスとヒトのB因子に結合することはできるが、ヒトの副経路を阻害しない。競合アッセイで明らかにされたように、抗体624、691および1231は1379による結合をブロックしない。したがって、これらの抗体はタンパク質に別の部位で結合するに違いなく、これは、これらの抗体がB因子に結合はするが、その試験管内でその機能を阻害しない理由を説明している。しかし、抗体395、1322および1060は1379の競合的阻害剤である。
【0036】
【表2】
この抗体が第3ショートコンセンサスリピート(SCR)ドメイン内のB因子に結合して、C3bBb複合体の形成を阻止することを論証するためにエピトープマッピングを用いた。さらに、mAb1379抗体のエピトープをマッピングする実験で、B因子上のエピトープまたは抗体結合部位が線形ではないことが示された。種々の実験で、ヒトB因子のSCR2および3にいくつかのアラニン置換を導入し、SCR1には導入しないと、139−Tyr−140−cys−141−SerがHis−Cys−Proで置換された変異体(これらの位置は配列番号2で表される成熟ヒトB因子に関連する)および182−Glu−183−Gly−184−Gly−185−SerがGly−Asn−Gly−Valで置換された異性体を含む、B因子に対する1379抗体の結合の喪失または実質的喪失が生じることが示された。
【0037】
mAb1379が認識するヒトB因子の予測された保存結合表面またはエピトープをモデル化した。手短に言うと、解明されたCR2−SCR1−2の3次元構造〔プロテインデータバンク(PDB)id 1GHQ〕に基づいてヒトB因子の3次構造を構築した。図4は、(配列番号2に関する)mAb1379エピトープに対応するアミノ酸位置を示すB因子構造モデルを示している。mAb1379抗体の立体構造エピトープを構成すると思われる残基は、Ala137、Tyr139、Ser141、Glu182、Ser185、Thr189、Glu190およびSer192であるが、このエピトープは、図4に示されている残基の極くわずかか、実質的にすべて、またはそれより多い残基を含み得る。図5は、B因子に結合するmAb1379のモデル化複合体(1Fabフラグメント)を示す略図であり、このFabの抗原結合面は図4に規定されているようなマッピングされたエピトープ領域全体をカバーするようにモデル化されている。
【0038】
本発明者らが作製し、前掲の米国特許出願公開番号2005−0260198−A1およびPCT公開番号WO2005/077417号に詳述されている抗体は、前臨床原理実証実験が行われるヒトや他の多くの動物種が共有するB因子上の部位を認識するので、ヒト疾患モデルでの発見をヒト治療で容易に実行することができる。これらの抗体は、タンパク質の広範種阻害を示す最初の抗B因子抗体であると考えられる。したがって、B因子に対する新規阻害試薬を開発し得るB因子上の固有部位も同定された。
【0039】
本発明において、発明者らは、副経路の阻害が外傷性脳損傷(TBI)の生理的損傷を阻害し、また脊髄損傷(SCI)の生理的障害も阻止することを発見し、本明細書でそれをはじめて報告するが、この情報は、TBIおよびSCI治療用の新規治療用試薬の設計、単離および/または同定に用い得る。さらに、本発明者らがすでに作製し、記載した抗体は、本発明の方法で用いるのに優れた作用剤である。
【0040】
本発明の1つの実施形態は、動物の外傷性脳損傷(TBI)に起因する(に関連する)少なくとも1種の症状または状態(不能、減退、生理的障害)を軽減または予防するか、TBIに起因する障害からの回復を促進(強化)する方法に関し、この方法は、TBIを経験した動物の補体副経路を選択的に阻害する工程を含む。本発明の別の実施形態は、動物の脊髄損傷(SCI)に起因する(に関連する)少なくとも1種の症状または状態(不能、減退、生理的障害)を軽減または予防するか、TBIに起因する障害からの回復を促進(強化)する方法に関し、この方法は、SCIを経験した動物の補体副経路を選択的に阻害する工程を含む。1つの好ましい実施形態において、方法は、動物に、補体副経路を阻害する作用剤、特に、B因子を阻害する作用剤を投与する工程を含む。1つの特に好ましい実施形態において、作用剤は抗B因子抗体またはその抗原結合フラグメントである。
【0041】
したがって、本発明の方法は、それぞれTBIまたはSCIに起因する生理的障害を有するか、障害を発症する恐れのある動物の補体副経路を選択的に阻害する工程を含む。本発明によれば、動物の補体副経路を阻害するとは、補体副経路の一部である少なくとも1種のタンパク質またはそのようなタンパク質をコードする核酸分子の発現および/または生物活性を阻害することを意味する。そのようなタンパク質には、B因子、D因子またはプロパージンが含まれるが、それらには限定されない。補体副経路を「選択的に」阻害するとは、本発明の方法が補体副経路を選択的または排他的に阻害するが、補体の古典経路またレクチン経路を含めた他の補体経路の活性化は阻害しないか、少なくとも実質的に阻害しないことを意味する。例えば、本発明の新規B因子抗体およびその抗原結合フラグメントは、補体副経路を選択的に阻害する試薬の1例である。特定タンパク質を「選択的に」阻害するとは、本発明の方法が、特定タンパク質の発現および/または生物活性を選択的または排他的に阻害するが、〔そのような生物活性が特定タンパク質と下流事象などを共有するものでない限り〕他のタンパク質の発現および/または生物活性を阻害しないか、少なくとも実質的に阻害しないことを意味する。
【0042】
本発明によれば、外傷性脳損傷(TBI)とは、例えば頭部への衝撃または揺動などの任意のタイプの頭部への外傷に起因する損傷、創傷または障害と定義される。より具体的に言えば、TBIは、外部の物理的な力に起因する脳への後天的損傷であり、全体的もしくは部分的機能障害、心理社会的障害、またはその両方をもたらす。この用語は、例えば、認識、言語、記憶、注意、推論、抽象的思考、判断、問題解決、感覚、知覚、および運動能力;心理社会的行動;身体機能;情報処理;および発語などの1または複数の領域に障害をもたらす開放性および閉鎖性頭部損傷に適用する。この用語は、通常、先天性もしくは変性脳損傷、または出産時外傷により引き起こされる脳損傷には適用されないが、後者タイプの外傷も本発明の方法を用いて治療し得る。TBIは、身体障害(例えば、発語、視覚、聴覚および他の感覚障害;頭痛;細かい運動神経の欠如;筋肉の痙直;半身もしくは全身の不全麻痺もしくは麻痺および発作性疾患;平衡障害;ならびに他の歩行障害)、認識障害(例えば、短期および長期記憶障害、集中力欠損、思考力減退および注意持続時間の短縮、ならびに認知能力、コミュニケーション能力、読み書き能力、計画能力、順序を連続して受容する能力、および判断能力の低下)、ならびに、心理社会的−行動−情緒障害(例えば、倦怠感、気分変動、否認、自己中心性、不安神経症、抑うつ症、自尊心の低下、性機能障害、不穏状態、モチベーションの欠如、自己監視不能、感情制御困難、対処不能、焦燥、過度な笑いまたは泣き叫びや、他人との関係障害)を含めた多様な生理的および精神的症状、状態または障害をもたらし得る。TBIの診断についての詳細な論考は上記に提示されている。
【0043】
TBIの診断法は当技術分野では十分に確立されている。通常、TBIは、外傷歴、臨床状態、およびX線およびコンピュータ断層撮影(CT)スキャンなどの画像研究に基づいて診断する。特に重要なのは、蘇生後グラスゴー・コーマ・スケール(GCS)スコアの使用である〔ティーズデイル(Teasdale)およびジェネット(Jennett)、1974年、Lancet 2(7872)、p.81−84〕。というのは、このパラメータが結果の予測に重要な判断材料だからである。GCSを評価する際、スコアの計算には最良反応(best response)を用いる。軽度頭部外傷を有する患者(GCS14または15点)は、救急科に通された全頭部外傷患者の約80%を構成する。中等度頭部外傷はGCSスコア9〜13点に相当し、軽度頭部外傷患者に比べて高い頭蓋内病変リスクに関連する。GCSスコア8点以下は、眼を開けたり、指示に従ったり、言葉で応答したりできない状態と定義される植物状態の患者に相当する。したがって、重度頭部外傷は、GCSスコア3〜8点と定義される。患者を評価する際、GCSおよび意識レベルの評価に加えて、神経学的検査には、通常、瞳孔サイズや瞳孔反応、および末梢運動機能の簡易評価が含まれる。臨床検査には、さらに、頭皮裂傷の検査、頭蓋骨陥入骨折の触診、および眼窩周囲の斑状出血(「アライグマの目」)、耳介後斑状出血(「バトル徴候」)、CSF漏出による鼻漏/耳漏、および第VII神経麻痺を含めた、頭蓋底骨折の間接徴候の検出が含まれる。特定の状況下では、CTスキャンを実施する。昏睡状態または意識変容状態の他の原因は、例えば、薬剤、代謝機能不全、内部もしくは外部出血源、先在の非外傷性脳損傷(例えば、虚血性もしくは出血性脳損傷)、癲癇、脳底動脈血栓症、細菌性髄膜炎、脳膿瘍もしくは脳腫瘍のスクリーニングにより調査分析し得る。閉鎖性頭部外傷の形態学的分類は、マーシャル(Marshall)や同僚のガイドラインに従ったCTスキャンでの発見に基づいている〔マーシャルら(Marshall et al)、J.Neurosurg.1991年、第75巻、p.S14−S20〕。頭蓋内病変は、限局性(硬膜下、硬膜外、脳内出血;排出対非排出)または広範性(グレードI〜IV)であり得る。TBIの評価に用いるパラメータの詳細な論考は、例えば、ヴォスら(Vos et al)、2002年、Eur.J.Neurol.第9巻、p.207−219およびゲーツ(Gaetz)、2004年、Clin.Neurophysiol.第115巻、p.4−18に記載されている。
【0044】
本発明によれば、脊髄損傷(SCI)は、例えば、運動または感情などの機能の喪失をもたらす脊髄に対する外傷、創傷、または障害と定義される。損傷の主な原因は、(例えば、自動車事故、被弾、落下などによる)外傷または病気(ポリオ、二分脊椎、フリードライヒ運動失調症など)である。脊髄が切断されるから機能喪失が起るとは限らない。SCIを有する個人は大抵、脊髄は無傷であるが、その障害が機能の喪失をもたらす。SCIを有する個人は、感覚または運動機能喪失の他に、腸や膀胱の機能不全、性的および受胎能力不全、血圧を効率的に調節する能力の不全、体温調節能力の低下、損傷レベル以下の発汗不能、ならびに慢性疼痛を含めた症状、状態、または障害も経験し得る。SCI患者は、通常、損傷レベル(例えば、第8頚椎または第12胸椎またはその下)により定義されるレベルのSCIをも有し得る。上位損傷(C−1、C−2)は、呼吸能力を含めた多くの不随意機能の喪失をもたらす可能性があり、人工呼吸器または横隔膜ペースメーカーなどの蘇生器を必要とし得る。
【0045】
脊髄損傷の診断法は当技術分野では十分に確立されている。緊急治療室では、医師が負傷者を入念に検査し、感覚機能や動きをテストし、事故に関する質問をして、脊髄損傷を除外し得る。負傷者が頚痛を訴えるか、完全に覚醒していないか、明らかな衰弱または神経損傷の徴候があれば、緊急診断テストを必要とし得る。そのようなテストには、X線、コンピュータ断層撮影(CT)スキャン、磁気共鳴影像法(MRI)、または脊髄造影法が含まれる。種々の神経学的検査も実施し得る。SCIの影響は、損傷の種類やレベルによってさまざまである。SCIは、一般に、2種の損傷、すなわち、完全損傷と不完全損傷に分けることができる。完全損傷とは、損傷レベル以下が機能しない(すなわち、感覚や随意運動がない)ことを意味する。身体の両側が等しく侵されている。不完全損傷とは、主要損傷レベル以下が測定可能な程度機能することを意味する。不完全損傷患者は、片側の手足を反対側の手足より良く動かせたり、動かせない身体部分を感じることができたり、または身体の片側が反対側より良く機能したりし得る。SCIの急性期治療が進歩すると共に、不完全損傷がより一般的になっている。
【0046】
損傷レベルは、SCIで身体のどの部分が麻痺したり、機能喪失したりするかを予測するのに非常に役立つ。頚部(首)損傷は、通常、四肢麻痺をもたらす。C−4レベル以上の損傷はヒトの呼吸に人工呼吸器を必要とし得る。C−5損傷では、肩や上腕二頭筋はコントロールできるが、手首や手はコントロールできないことが多い。C−6損傷では、概して、手首はコントロールできるが、手は機能しない。C−7およびT−1損傷を有する個人は、腕を伸ばすことはできるが、手と指を機敏に動かすことはできない。胸部以下に損傷を受けると、四肢麻痺が生じるが、手は影響を受けない。T−1〜T−8では、ほとんどの場合、手はコントロールできるが、腹筋をコントロールできないために胴体のコントロールは良くできない。下位T損傷(T−9〜T−12)では、胴体のコントロールおよび腹筋のコントロールは良好である。座位バランスは極めて良好である。腰部および仙骨損傷では、股関節屈筋や肢のコントロールが低下する。四肢麻痺患者は、脊髄の8つの頚髄の1つに対する持続的な損傷を有し、対麻痺患者は、脊髄の胸部、腰部または仙骨部に病変を有する。
【0047】
本発明は、上記で詳述したTBIまたはSCIに起因する生理的障害およびそのような損傷に関連する症状または状態(不能、減退)の阻害に関する。そのようなものとして、生理的障害またはその状態のすべての影響が完全に予防または撤回されることを要求されている訳ではないが、本発明の作用は患者に有意な治療効果を及ぼし得る。そのようなものとして、治療効果は、必ずしもTBIもしくはSCIに起因する特定の状態もしくは生理的障害の完全な予防または治療ではなく、TBIもしくはSCIに起因する症状もしくは生理的障害の軽減もしくは予防、そのような症状もしくは障害の発症の(量的もしくは質的)減少もしくは防止、そのような症状もしくは生理的影響の重症度の軽減、および/またはTBIもしくはSCI経験後の患者の回復促進を含む結果を包含し得る。具体的に言えば、本発明の組成物は、患者に投与すると、脳損傷もしくは脊髄損傷および/または損傷に関連する(に起因する)症状もしくは状態、損傷の徴候または損傷の要因をも低減もしくは軽減すると共に、損傷からの回復を促進させるのが好ましい。そのようなものとして、患者をTBIもしくはSCI(または関連状態)に起因する生理的影響もしくは症状から保護するとは、障害の発生および/または障害作用の重症度を予防または軽減させること、および障害作用王がすでに発生しているか、発生し始めている患者を治療することを含む。有益な効果は、当業者および/または患者の治療にあたる熟練臨床医が容易に評価し得る。例えば、TBIまたはSCIの診断について上述した方法の多くは、本発明の方法を用いる治療の前後に患者を評価して治療が成功したかどうかを判断するのに用いる。本発明に従って治療を受けた患者を、そのような治療を受けなかった患者と比べて評価するのに用いた少なくとも1つの臨床もしくは生物学的スコア、値、または測度の重度または発生には、有意なまたは有用な違いがあるのが好ましい。
【0048】
TBIまたはSCIに起因する生理的障害およびそのような障害に関連する症状または状態(不能、減退)を抑制するための本発明による補体副経路の阻害は、補体副経路タンパク質の発現(転写もしくは翻訳)または生物活性に直接影響を与えるか、補体副経路のタンパク質に結合するか、副経路を介した補体の活性化に寄与するタンパク質の能力に直接影響を与えることによって達成し得る。より具体的に言えば、1つの実施形態において、タンパク質の発現は、そのタンパク質の転写または翻訳に関連する。したがって、本発明の方法は、(例えば、タンパク質の発現を阻害する作用剤を投与して、タンパク質発現が低下するように動物を遺伝子修飾することにより)タンパク質を天然に発現する動物におけるタンパク質の転写および/または翻訳を阻害し得る。別の実施形態において、補体副経路の阻害は、本明細書においては、例えば、補体副経路内のタンパク質の発現および/または生物活性を測定可能な程度まで低減させることにより、補体経路の活性を測定可能な程度(検出可能な程度)低減(すなわち、減少、ダウンレギュレーション、阻害)することと定義され、これには、タンパク質または分子が補体副経路において作用する能力をブロックまたは阻害することが含まれる。
【0049】
タンパク質発現を阻害する方法には、タンパク質の発現を(直接または間接に)阻害する作用剤を投与する方法、およびタンパク質発現を低下させるように動物を遺伝子修飾する方法(例えば、本発明に用いたfB−/−マウスに留意されたい)が含まれるか、それらには限定されない。タンパク質発現は、動物に、タンパク質発現を直接阻害する作用剤(試薬、化合物、薬物)を投与して阻害するのが好ましい。そのような作用剤としては、タンパク質をコードするRNAに特異的なリボザイムまたはRNAi;タンパク質をコードする遺伝子もしくはRNAに結合して、タンパク質の発現を阻害するDNA結合タンパク質または薬物;タンパク質に結合するアプタマー;細胞内でタンパク質に結合してタンパク質を発現する細胞によるタンパク質の分泌を阻止するタンパク質または薬物;および高ストリンジェンシー条件下に動物の細胞内タンパク質をコードする遺伝子にハイブリダイズしてタンパク質の発現を低減させる単離核酸分子(例えば、アンチセンス核酸分子)が挙げられるが、それらには限定されない。タンパク質の発現を選択的に阻害するそのような化合物は、当業者には周知の技術を用いて製造し得る。
【0050】
したがって、本発明の方法は、動物のTBIまたはSCIに関連する生理的障害を軽減させるように、補体副経路タンパク質に直接作用して、補体副経路の1種以上のタンパク質の発現および/または生物活性を選択的に阻害する多様な作用剤〔すなわち、調節化合物(regulatory compounds)〕の利用を含む。本発明に有用な作用剤には、例えば、タンパク質、核酸分子、抗体、および合理的な薬物設計の産物である化合物(すなわち、薬剤)が含まれる。そのような作用剤は、本明細書では、概して阻害剤と称される。
【0051】
本発明によれば、阻害剤は、直接阻害または競合阻害によりタンパク質(例えば、補体副経路タンパク質)の発現および/または生物活性を阻害する作用剤であり、そのような作用剤には、B因子、D因子またはプロパージンに作用を及ぼす作用剤が含まれる。本発明の1つの実施形態において、補体副経路または補体副経路タンパク質を阻害するとは、本明細書においては、補体副経路のタンパク質の生物活性を測定可能な程度(検出可能な程度)低減(すなわち、減少、ダウンレギュレーション、阻害)することと定義される。タンパク質の生物活性または生物作用とは、生体内(すなわち、タンパク質の天然の生理的環境内)または試験管内(すなわち、実験室条件下)で測定または観察されるような天然型タンパク質が示すか行う任意の機能を指す。例えば、B因子の生物活性としては、活性化C3との結合、免疫複合体の可溶化、B細胞増殖因子活性、および単球活性化が含まれるが、それらには限定されない。D因子の生物活性には、C3と複合体を形成したときのB因子切断触媒作用、BaおよびBb形成の触媒作用が挙げられるが、それらには限定されない。プロパージンの生物活性には、細胞または免疫複合体結合C3bBbとの結合および安定化と、C3/C5転換酵素の安定化が含まれるが、それらには限定されない。
【0052】
本発明によれば、タンパク質の生物活性は、タンパク質が別のタンパク質(例えば、C3)と結合する能力および/または別のタンパク質を活性化する能力を直接阻止または阻害して(低減、減少させて)、そのような結合に起因する下流事象を阻止することよって阻害し得る。補体副経路の生物活性は、この経路の少なくとも1種のタンパク質を阻害する作用剤を投与して阻害するのが好ましく、そのような作用剤には、補体副経路のタンパク質が別のタンパク質と結合する能力および/または別のタンパク質を活性化する能力を阻害または防止するように、補体副経路タンパク質に結合するか、そのようなタンパク質と競合する作用剤が含まれるが、それには限定されない。
【0053】
補体副経路のタンパク質を阻害する作用剤には、合理的な薬物設計の産物である化合物、天然産物、および部分的に特定された調節特性を有する化合物が含まれるが、それらには限定されない。所与のタンパク質の拮抗剤を含む調節剤は、タンパク質化合物、炭水化物化合物、脂質化合物、核酸化合物、天然有機化合物、合成的に誘導された有機化合物もしくは薬物、抗体(その抗原結合フラグメントを含む)、またはそのフラグメントであり得る。本発明に有用な1種の特定タイプの作用剤は、補体副経路タンパク質の拮抗剤を含む補体副経路の拮抗剤である。本発明によれば、「拮抗剤」とは、所与のタンパク質の作用を阻害する(例えば、中和する、低減させる、低下させる、ブロックする、無効にする、または変更する)化合物を指す。より具体的に言えば、拮抗剤は、所与のタンパク質に関して、所与のタンパク質の生物活性がその天然作用に拮抗する(例えば、対向する、逆行する、反する)形で低減またはブロックされるように作用し得る。拮抗剤には、抗体またはその抗原結合フラグメント、タンパク質、ペプチド、(リボザイムおよびアンチセンスを含めた)核酸、または拮抗作用をもたらす薬物/化合物/ペプチド設計もしくは選択の産物が含まれるが、それらには限定されない。例えば、本発明は、抗体拮抗剤、タンパク質/ペプチド拮抗剤、核酸拮抗剤、または小分子拮抗剤(例えば、小分子阻害剤)を含めた、天然タンパク質、B因子、D因子またはプロパージンの拮抗剤を含む。
【0054】
1つの実施形態において、本発明の調節剤には、補体副経路の1種以上のタンパク質の産生および/または機能を調節する、ペプチド、オリゴヌクレオチド、炭水化物および/または合成有機分子を含めた薬物が含まれる。そのような作用剤は、例えば、分子多様性ストラテジー(化学的に多様な大型分子ライブラリーの高速構築を可能にする関連方法の組み合わせ)、特に化学または組み合わせライブラリー由来の天然または合成化合物のライブラリー(すなわち、配列またはサイズは異なるが、同じ構成要素を有する化合物のライブラリー)、または合理的薬物設計から得ることができる。例えば、マウリックら(Maulik et al)、1997年、Molecular Biotechnology:Therapeutic Applications and Strategies、Wiley−Liss,Inc.参照。この文献はその全体が本明細書に文献援用される)。
【0055】
分子多様性ストラテジーにおいては、例えば、生物学的、酵素的および/または化学的アプローチを用いて、ペプチド、オリゴヌクレオチド、炭水化物および/または合成有機分子から大型の化合物ライブラリーを合成する。分子多様性ストラテジーの開発における重要なパラメータには、サブユニットの多様性、分子サイズ、およびライブラリーの多様性が含まれる。そのようなライブラリースクリーニングの一般目標は、所望の標的に対する高親和性リガンドを得るために組み合わせ選択を順次適用し、次いで、ランダムまたは有向設計ストラテジーによりリード分子を最適化することである。分子多様性法は、マウリックら、前掲に詳述されている。
【0056】
合理的薬物設計法において、調節化合物の3次元構造は、例えば、核磁気共鳴(NMR)またはX線結晶学によって解析し得る。次いで、この3次元構造を、例えば、コンピュータモデリングにより潜在的調節剤などの潜在的化合物構造の予測に用い得る。予測された化合物構造は、例えば、分子多様性法により得られたリード化合物を最適化するのに用い得る。さらに、予測化合物構造は、例えば、化学合成または組み換えDNA技術を用いるか、天然源(例えば、植物、動物、細菌および菌類)から模倣配列を単離することにより形成し得る。
【0057】
さまざまな他の構造ベース薬物設計法が、マウリックら、1997年、前掲に開示されている。マウリックらは、例えば、ユーザーが適切に選択されたフラグメントからなるフラグメントライブラリーから新規分子を創出するプロセスを方向づける有向設計法;ユーザーがフラグメントおよびそれらの組み合わせをランダムに変異させるために遺伝子または他のアルゴリズムを用い、同時に候補リガンドの適性評価に選択基準を適用するランダム設計法;ユーザーが3次元受容体構造と小型フラグメントプローブとの相互作用エネルギーを計算し、次いで有利なプローブ部位を結合するグリッドベースアプローチ法を開示している。
【0058】
補体副経路のタンパク質(またはその発現)を阻害する作用剤として有用な単離核酸分子は、アンチセンス核酸分子、リボザイム、siRNA、またはアプタマーである。本明細書において、アンチセンス核酸分子とは、高ストリンジェンシー条件下にタンパク質をコードする遺伝子にハイブリダイズしてそのタンパク質の発現を低減させる単離核酸分子と定義される。そのような核酸分子は、分子が高ストリンジェンシー条件下に天然タンパク質をコードする遺伝子またはRNAのコード鎖または相補鎖にハイブリダイズし得るタンパク質をコードする遺伝子に十分に似ている。RNA干渉(RNAi)は、相補遺伝子の発現を阻害または抑制するのに、二本鎖RNA、哺乳類系では低分子干渉RNA(siRNA)を用いるプロセスである。標的細胞において、siRNAは、ほどかれて、RNA誘導型サイレンシング複合体(RISC)と結合し、次いで、siRNAに相補的なmRNA配列に誘導され、そこで、RISCがmRNAを切断する。リボザイムは、標的RNA部分に結合することによって機能し、特定の切断部位でリン酸ジエステル骨格を切断して標的RNAを不活化するRNAセグメントである。アプタマーは、所定の特異的標的分子に高い親和性および特異性をもって結合する能力に基づいてランダム化組み合わせ核酸ライブラリーから選択された短鎖の合成核酸(通常はRNAであるがDNAも含む)である。アプタマーは、明確な3次元構造を取り、構造の違いが極めて少ない化合物を区別し得る。
【0059】
遺伝子は、コードするタンパク質の産生を制御する(例えば、転写、翻訳または翻訳後制御を含むが、それらには限定されない)調節領域およびそのコード領域を含む。B因子、D因子またはプロパージンを含めた補体副経路の種々のタンパク質をコードする遺伝子が同定されており、当該技術分野では周知である。単離核酸分子は、その天然環境から取り出された(すなわち、ヒトの操作を受けた)核酸分子であり、DNA、RNA、またはDNAもしくはRNAの誘導体を包含し得る。そのようなものとして、「単離」(isolated)とは、核酸分子がどの程度精製されているかを示してはいない。本発明の単離核酸分子は、その天然源から単離するか、組み換えDNA技術〔例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅、クローニング〕または化学合成を用いて産生させ得る。
【0060】
本明細書において、ハイブリダイゼーション条件への言及は、核酸分子を類似核酸分子の同定に用いる標準ハイブリダイゼーション条件に関連する。そのような標準条件は、例えば、サムブルックら(Sambrook et al)、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Labs Press,1989年に開示されている。サムブルックら、同書は、その全体が本明細書に文献援用される(特に、p.9.31−9.62参照)。さらに、ヌクレオチドのさまざまなミスマッチ度を可能にするハイブリダイゼーションを達成するのに適切なハイブリダイゼーションおよび洗浄条件の計算式が、例えば、メインコスら(Meinkoth et al)、1984年、Anal.Biochem.第138巻、p.267−284に開示されており、メインコスら、同書は、その全体が本明細書に文献援用される。
【0061】
本発明のある好ましい実施形態において、TBIまたはSCIに起因する生理的障害〔およびそのような障害に関連する症状または状態(不能、減退)〕を抑制するために補体副経路タンパク質の阻害に用いる作用剤は、抗体またはその抗原結合フラグメントである。同様に、本発明に用いるには、抗原結合ポリペプチドも特に好ましい。1つの態様において、抗体は、補体副経路タンパク質が本来なら(天然または生理的条件下に)相互作用する別のタンパク質に結合するのを阻害または防止するように補体副経路タンパク質に選択的に結合する。別の態様において、抗体は、補体副経路タンパク質が本来なら相互作用する別のタンパク質の活性化を阻害または防止するように補体副経路タンパク質に選択的に結合するが、補体副経路タンパク質は少なくとも部分的に同別のタンパク質に結合してもよい。TBIまたはSCIに起因する生理的障害を抑制する補体副経路の選択的阻害に用いるのに特に好ましい抗体およびその抗原結合フラグメント(例えば、本明細書に記載のB因子抗体、特に、本明細書で詳述するmAb1379)を以下に詳細に説明する。
【0062】
本発明に有用な抗体またはその抗原結合フラグメントは、B因子、D因子またはプロパージンから選択されるタンパク質に結合するのが好ましい。最も好ましくは、本発明は、B因子に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントと、TBIまたはSCIに起因する生理的障害を阻害するためのその利用とを含む。本発明のB因子に選択的に結合して補体副経路を阻害する抗体(およびその抗原結合フラグメント)を詳細に説明、例証する。1つの実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、動物種、特に哺乳類種間に保存されているようなタンパク質(例えば、B因子)の保存された結合表面またはエピトープに結合する(すなわち、抗体は2種以上の異なる哺乳類種由来のタンパク質に対して交差反応性である)。具体的に言えば、本発明は、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、ブタ、ウマおよびウサギを含むがそれらには限定されない少なくとも2種、好ましくは数種の異なる哺乳類種由来のB因子に結合する抗体を含む。本発明は、ヒト由来と、少なくとも1種の他の動物種、好ましくは、非ヒト霊長類、マウス、ラット、ブタ、ウマおよびウサギを含むがそれらには限定されない少なくとも1種の他の哺乳類種由来のB因子に結合する抗体を含むのが好ましい。1つの実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、B因子の第3ショートコンセンサスリピート(SCR)に結合する。1つの実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、D因子によるB因子の切断を阻止するB因子領域に結合する。1つの実施形態において、抗体はモノクローナル抗体である。1つの実施形態において、抗体は、本明細書では1379と称される抗体(すなわち、ATCC寄託番号(Deposit Designation)PTA−6230を有する同じ番号のハイブリドーマ細胞系から産生された抗体)またはその抗原結合フラグメントである。
【0063】
本明細書で1379(またはmAb1379)と称するハイブリドーマは、2004年9月21日に、特許手続上の微生物寄託国際的承認に関するブタペスト条約の条項の元に、American Type Culture Collection〔(ATCC)、米国バージニア州マナサス(Manassas)20110−2209のユニバーシティー通り(University Blvd)10801に所在〕に寄託し、ATCC寄託番号PTA−6230を受けた。
【0064】
本発明によれば、タンパク質、タンパク質の一部(例えば、フラグメント、部分、ドメインなど)またはタンパク質の領域もしくはエピトープの最小サイズは、抗体作製用のエピトープもしくは保存結合表面として、または試験管内アッセイにおける標的として機能するのに十分なサイズである。1つの実施形態において、本発明のタンパク質は、(例えば、抗体エピトープまたはアッセイで検出可能なペプチドに好適な)少なくとも約4、5、6、7または8アミノ酸の長さ、少なくとも約25アミノ酸の長さ、少なくとも約50アミノ酸の長さ、少なくとも約100アミノ酸の長さ、または少なくとも150アミノ酸の長さなど、4アミノ酸からタンパク質もしくはその一部の全長までまたはそれ以上の整数(例えば、8、9、10、...25、26、...500、501、...)の長さである。
【0065】
ヒトB因子および他の相補タンパク質をコードする遺伝子およびコード領域のヌクレオチド配列ならびにそのようなタンパク質のアミノ酸配列は、当技術分野では周知である。例えば、ヒトB因子および他の相補タンパク質をコードする遺伝子は、NCBIデータベースアクセス番号(Database Accession No.)NG 000013で検出される。B因子のコード配列はNCBIデータベースアクセス番号NM 001710、B因子プレプロタンパク質のアミノ酸配列はNCBIデータベースアクセス番号NP 001701またはP00751で検出される。NCBIデータベースアクセス番号P00751のアミノ酸配列は、ヒトプレプロタンパク質のB因子配列であり、本明細書では配列番号1で表される。他の動物種由来の配列も当技術分野では周知である。比較として、マウスのB因子配列(例えば、本明細書では配列番号6で表されるNCBIデータベースアクセス番号P04186参照)では、第3SCRドメインは、この761アミノ酸プレタンパク質の160−217位に位置しており、成熟マウスのB因子タンパク質は、配列番号6の23−761位にわたっている。ヒトD因子のコード配列は、NCBIデータベースアクセス番号NM_001928.2で検出され、ヒトD因子プレプロタンパク質のアミノ酸配列はNCBIデータベースアクセス番号NP_001991で検出される(本明細書では配列番号7で表される)。ヒトプロパージンのコード配列はNCBIデータベースアクセス番号NM_002621.1で検出され、ヒトプロパージンのアミノ酸配列はNCBIデータベースアクセス番号NP_002612で検出される(本明細書では配列番号8で表される)。
【0066】
配列番号1で表されるヒトB因子プレタンパク質は、シグナルペプチドがアミノ酸位置1−25に及ぶ764アミノ酸タンパク質である。B因子の成熟鎖は、配列番号1の26−764位に相当し、本明細書では配列番号2で表される。ヒトB因子の3つのSCR領域は、本明細書では、配列番号3(配列番号1のほぼ35位〜ほぼ100位、または配列番号2のほぼ5位〜ほぼ75位に及ぶSushi 1としても知られているSCR1)、配列番号4(配列番号1のほぼ101位〜ほぼ160位、または配列番号2のほぼ76位〜ほぼ135位に及びSushi2としても知られているSCR2)、および配列番号5(配列番号1のほぼ 163位〜ほぼ220位、または配列番号2のほぼ138位〜ほぼ195位に及びSushi3としても知られているSCR3)で表される。
【0067】
ウルカド(Hourcade)、1995年、J.Biol.Chem.に記載されているフラグメントを用いたB因子のエピトープマッピングによれば、1つの好ましい実施形態において、本発明に有用な抗B因子抗体は、好ましくは、第3SCRドメインの一部内またはそれを含むエピトープまたは保存された結合表面、より好ましくは、成熟B因子タンパク質(配列番号2)に関してほぼTyr139位〜ほぼSer185位からなる配列の少なくとも一部を含むヒトB因子エピトープ、成熟B因子タンパク質(配列番号2)に関してほぼTyr139位〜ほぼSer141位からなる配列の少なくとも一部を含むヒトB因子エピトープ、成熟B因子タンパク質(配列番号2)に関してほぼGlu182位〜ほぼSer185位からなる配列の少なくとも一部を含むヒトB因子エピトープ、以下の位置:Tyr139、cys140、Ser141、Glu182、Gly184、もしくはSer185または非ヒトB因子配列のそれらと等価の位置の1または複数からなるヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部を含むB因子エピトープ、または非ヒト動物種に関して等価位置の少なくとも一部を含むB因子エピトープに結合する。当業者であれば、ヒトB因子の配列と別の動物種由来のB因子配列とを整列させて、上記アミノ酸位置に対応するSCR領域およびSCR領域の特定部分の位置を決定することは容易にできる。例えば、タツソーヴァ(Tatusova)およびマッデン(Madden)、1999年、「Blast 2 sequences − a new tool for comparing protein and nucleotide sequences」、FEMS Microbiol Lett.第174巻、p.247−250に記載されているようなBLAST2配列を用いて、2つの特定配列を相互整列させることができる。上記文献はその全体が本明細書に文献援用される。
【0068】
本発明に有用な例として役立つ抗体のさらなるエピトープモデリングおよびマッピングによれば、別の好ましい実施形態において、本発明に有用な抗B因子抗体は、配列番号2に関して、以下のアミノ酸位置:A137、Y139、S141、E182、S185、T189、E190およびS192、またはそれらと等価の非ヒトB因子配列位置の少なくとも1または複数を含むB因子の3番目のSCRドメインの一部内にあるか、第3SCRドメインの一部を含むエピトープ(保存された結合表面)に結合するのが好ましい。本発明の1つの態様において、エピトープは、配列番号2の以下のアミノ酸位置:Ala137、Tyr139、Ser141、Glu182、Ser185、Thr189、Glu190およびSer192、またはそれらと等価の非ヒトB因子配列位置のすべてもしくは実質的にすべて(少なくとも5、6、7位置)を含むB因子の第3SCRドメインの一部内にあるか、第3SCRドメインの一部を含む。さらに別の態様において、本発明に有用な抗B因子抗体が認識するエピトープは、配列番号2の以下のアミノ酸位置:Ala137、Tyr139、Ser141、Glu182、Ser185、Thr189、Glu190およびSer192、またはそれらと等価の非ヒトB因子配列位置からなるB因子の第3SCRドメインの一部内にあるか、第3SCRドメインの一部を含む。
【0069】
1つの実施形態において、本発明に有用なB因子抗体が認識するエピトープは、より具体的には、B因子の第3SCRドメインの一部の3次元構造内に位置する非線形エピトープであると定義し得る。このエピトープを含む部分は、配列番号2または非ヒトB因子配列を天然の全長B因子配列に存在するように立体配座的に配列したときに、そのような配列の実質的にすべての(例えば、少なくとも約90%の)アミノ酸位置、すなわち配列番号2のAla137−Ser192、または非ヒトB因子配列のそれと等価な位置により規定されるB因子の3次元構造である。mAb1379のエピトープを明らかにするB因子の3次元構造モデルが、例えば、図4および図5に示されている。本明細書において、タンパク質の「3次元構造」または「三次構造」とは、3次元内のタンパク質成分の配置を指す。そのような用語は当業者には周知である。本明細書において、用語「モデル」とは、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの3次元構造を有形媒体で表示することを指す。例えば、モデルは、電子ファイル内、コンピュータスクリーン上、紙上(すなわち、2次元媒体上)および/または棒球(ball−and−stick)図形としての3次元構造の表示であり得る。
【0070】
本発明によれば、所与のタンパク質もしくはペプチドまたは他の分子の「エピトープ」とは、一般に、抗体に関して、抗体またはその抗原結合フラグメントが結合し、その抗体が産生されるであろう大型分子上の部分または部位と定義される。用語エピトープは、所与のタンパク質または抗原の用語「抗原決定基」、「抗体結合部位」または「保存された結合表面」とほとんど同じ意味で用い得る。より具体的に言えば、エピトープは、抗体結合に関与するアミノ酸残基と、それらの3次元空間内の立体構造(例えば、立体構造エピトープまたは保存された結合表面)とによって規定される。エピトープは、約4−6アミノ酸残基ほどの小型ペプチド内に含まれていたり、またはタンパク質の大型セグメント内に存在することがあり、エピトープの3次元構造に言及する場合、特に抗体結合エピトープに関しては、近接アミノ酸残基からなる必要はない。抗体結合エピトープは、しばしば、連続エピトープ(すなわち、線形エピトープ)というよりも、立体構造エピトープ、言い換えれば、抗体が結合するタンパク質またはポリペプチドの表面上に3次元配列されたアミノ酸残基で規定されたエピトープである。上述のように、立体構造エピトープは、近接アミノ酸残基配列からなるのではなく、アミノ酸残基は、主要タンパク質配列中に広く散らばっていて、タンパク質がその3次元天然立体配座に折り重なる過程で集って結合表面を形成するのであろう。mAb1379が認識するエピトープは、線形エピトープではない立体構造エピトープである。
【0071】
当業者は、突然変異解析(例えば、部位特異的突然変異誘発法);タンパク質分解からの保護(タンパク質フットプリント法);例えば、合成ペプチドおよびペプスキャン、BIACOREまたはELISAを用いたミモトープ解析;抗体競合マッピング;組み合わせペプチドライブラリースクリーニング;マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析法;または{例えば、MOLSCRIPT 2.0〔アバター・ソフトウエア社(Avatar Software AB)、スエーデン、SE−11731 ストックホルム市、ヘレネブログスガタン(Helenebrogsgatan) 21C所在〕、グラフ表示プログラム O〔ジョーンズら(Jones et al)、Acta Crystallography、第A47巻、p.110、1991年〕、グラフ表示プログラム GRASP、またはグラフ表示プログラム INSIGHTを含むがそれらには限定されない適当なソフトウエアプログラムを用いた}3次元モデリングを含めた既知技術を用いて立体構造エピトープおよび/または連続エピトープを同定かつ/またはアセンブルすることができる。例えば、B因子の3次元構造のモデルを作り、この構造に結合する抗体の立体構造エピトープを予測するために、分子置換または他の技術および関連タンパク質の既知3次元構造を利用することができる。実際には、抗体結合エピトープの規定には、そのような技術の1つを用いるか、そのような技術を組み合わせて用い得る。図4および5は、本発明に有用なB因子抗体のエピトープを同定するための、ミモトープ解析および突然変異解析によって得られた情報と組み合せた3次元モデリングの利用を示している。
【0072】
本明細書において、用語「〜に選択的に結合する」とは、あるタンパク質の別のタンパク質(例えば、抗体、そのフラグメント、または抗原との結合パートナー)との特異的結合を指し、この特異的結合における結合レベルは、標準アッセイ(例えば、イムノアッセイ)で測定すると、アッセイのバックグラウンドコントロールより統計的に有意に高い。例えば、イムノアッセイを実施する場合、コントロールは、通常、抗体またはその抗原結合フラグメントのみを入れた(すなわち、抗原不在)反応ウェル/チューブを含み、ここで、抗原不在下における抗体またはその抗原結合フラグメントによる反応度(例えば、ウェルとの非特異的結合)の量は、バックグラウンドとみなされる。結合は、ウエスタンブロット、イムノブロット、酵素免疫測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、免疫沈降、表面プラズモン共鳴、化学発光、蛍光偏光、リン光、免疫組織化学法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析、マイクロサイトメトリー(microcytometry)、マイクロアレイ、顕微鏡検査、蛍光活性化細胞分類(FACS)を含むがそれらには限定されない当技術分野では標準的な多様な方法を用いて測定し得る。
【0073】
本発明の1つの実施形態は、TBIまたはSCIに関連する生理的障害および作用を阻害するために、B因子と抗B因子抗体(例えば、モノクローナル抗体1379)との結合の競合的阻害剤である抗体またはその抗原結合フラグメントの利用を含む。本発明によれば、本発明のB因子と抗B因子抗体との結合の競合的阻害剤は、本発明の既知抗B因子抗体(例えば、mAb1379)とB因子との結合を阻害するように本発明の既知抗B因子抗体と同じか、それと類似のエピトープでB因子に結合する阻害剤(例えば、別の抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたはポリペプチド)である。競合的阻害剤は、標的(例えば、B因子)に、抗B因子抗体より高い標的親和性で結合し得る。競合的阻害剤は、(例えば、補体副経路を阻害してTBIまたはSCIに起因する生理的障害または作用を阻害するために)本明細書で抗B因子抗体1379に関して説明したものと同じように利用することができる。例えば、本発明の1つの実施形態は、B因子に特異的に結合する単離抗体またはその抗原結合フラグメントの利用に関し、単離抗体またはそのフラグメントは、B因子に特異的に結合するためにmAb1379を競合的に阻害し、単離抗体またはそのフラグメントがB因子に結合すると、補体副経路が阻害されるか、あるいは、mAb1379の補体副経路阻害能が阻害される。別の実施形態は、B因子に特異的に結合する単離抗体またはそのフラグメントの利用に関し、単離抗体またはそのフラグメントは、B因子に特異的に結合するために二次抗体またはそのフラグメントを競合的に阻害し、二次抗体またはそのフラグメントは、B因子の第3SCRドメインに結合する。
【0074】
競合アッセイは、当技術分野における標準技術(例えば、競合的ELISAまたは他の結合アッセイ)を用いて実施し得る。例えば、競合的阻害剤は、そのB因子と既知標識抗B因子抗体(例えば、mAb1379)との結合を阻害する能力に基づいて検出かつ定量し得る。ヒトB因子存在下の抗体間競合アッセイは、米国特許出願公開番号2005−0260198−A1号およびPCT公開番号WO2005/077417号、前掲に記載されている。B因子と抗B因子1379との結合の競合的阻害剤も、米国特許出願公開番号2005−0260198−A1号およびPCT公開番号WO2005/077417号、前掲に記載されている。
【0075】
本発明によれば、抗体は、免疫グロブリンドメインを含むことを特徴とし、そのようなものとして、抗体は、タンパク質の免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーである。一般に、抗体分子は2種の鎖を含んでいる。鎖の1種は、重鎖またはH鎖と称され、他方は軽鎖またはL鎖と称されている。これら2種の鎖は、等モル比で存在し、各抗体分子は、通常、2つのH鎖と2つのL鎖を有する。2つのH鎖はジスルフィド結合によってつながれ、各H鎖はジスルフィド結合によってL鎖につながれている。L鎖には、ラムダ(λ)鎖とカッパ(κ)鎖と称される2種の鎖しかない。それに対し、H鎖には、アイソタイプと称される5つの主要H鎖クラスが存在する。これら5つのクラスには、免疫グロブリンM(IgMまたはμ)、免疫グロブリンD(IgDまたはδ)、免疫グロブリンG(IgGまたはλ)、免疫グロブリンA(IgAまたはα)、および免疫グロブリンE(IgEまたはε)が含まれる。そのようなアイソタイプ間の顕著な特徴は、免疫グロブリンの定常ドメインによって定義されており、以下に詳細に説明する。ヒト免疫グロブリン分子は、9つのアイソタイプ、すなわち、IgM;IgD;IgE;IgG1(γ1)、IgG2(γ2)、IgG3(γ3)およびIgG4(γ4)を含むIgGの4つのサブクラス;IgA1(α1)およびIgA2(α2)を含むIgAの2つのサブクラスから構成されている。ヒトでは、IgGサブクラス3とIgMが最も強力な補体活性化因子(古典補体系)であり、IgGサブクラス1と、それほどではないにせよ2とが、古典補体系の中〜低活性化因子である。IgG4サブクラスは補体系(古典または代替)を活性化しない。副補体系を活性することが知られている唯一のヒト免疫グロブリンアイソタイプはIgAである。マウスのIgGサブクラスは、IgG1、IgG2a、IgG2bおよびIgG3である。マウスのIgG1は補体を活性化しないが、IgG2a、IgG2bおよびIgG3は補体活性化因子である。
【0076】
免疫グロブリン分子の各H鎖またはL鎖は、L鎖可変領域(VL領域)およびL鎖定常領域(CL領域)と、H鎖可変領域(VH領域)およびH鎖定常領域(CH領域)と称される2種の領域を含む。完全なCH領域は、3つのサブドメイン(CH2、CH2、CH3)と、ヒンジ領域とを含む。1つのH鎖と1つのL鎖が一緒になって、免疫グロブリン可変領域を有する免疫グロブリン分子のアームを形成し得る。完全型免疫グロブリン分子は2つの結合(例えば、ジスルフィド結合)アームを含む。したがって、完全免疫グロブリンの各アームは、VH+L領域と、CH+L領域とを含む。本明細書において、用語「可変領域」または「V領域」とは、VH+L領域(Fvフラグメントとしても知られている)、VL領域またはVH領域を指す。また本明細書において、用語「定常領域」または「C領域」は、CH+L領域、CL領域またはCH領域を指す。
【0077】
プロテアーゼによる免疫グロブリンの限定消化により、2つのフラグメントが生じ得る。抗原結合フラグメントは、Fab、Fab′、またはF(ab′)2フラグメントと称される。抗原結合能をもたないフラグメントはFcフラグメントと称される。Fabフラグメントは、VH領域およびCH領域の一部(CH1ドメイン)とペアになったL鎖(VL+CL領域)を含む免疫グロブリン分子の1アームを構成する。Fab′フラグメントは、ヒンジ領域の一部がCH1ドメインに結合したFabフラグメントに相当する。F(ab′)2フラグメントは、典型的にはヒンジ領域で、通常ジスルフィド結合により共有結合された2つのFab′フラグメントに相当する。
【0078】
CH領域は、免疫グロブリンのアイソタイプを規定し、アイソタイプに応じて異なる機能特性を付与する。例えば、μ定常領域はIgM分子のペンタマー結合体の形成を可能にし、α定常領域はダイマーの形成を可能にする。
【0079】
免疫グロブリン分子の抗原特異性は、可変またはV領域のアミノ酸配列によって与えられる。そのようなものとして、さまざまな免疫グロブリン分子のV領域は、それらの抗原特異性に応じて有意に異なり得る。V領域のある部分は他の部分より保存度が高いので、フレームワーク領域(FW領域)と称されている。それに対し、V領域のある部分は、極めて変化が大きいので、超可変領域と呼ばれている。免疫グロブリン分子中でVLおよびVH領域がペアになると、各領域の超可変領域は結合して、抗原結合部位を構成する超可変ループを形成する。したがって、超可変ループは、免疫グロブリンの特異性を決定し、それらの表面が抗原に相補的であるために相補性決定領域(CDR)と称されている。
【0080】
V領域のさらなる可変性は、免疫グロブリンV領域をコードする遺伝子セグメントの組合せ可変性により付与される。免疫グロブリン遺伝子は、体細胞を組み換えて、免疫グロブリン分子をコードする再配列免疫グロブリン遺伝子を形成する多様な生殖細胞遺伝子セグメントを含む。VL領域は、L鎖V遺伝子部分およびJ遺伝子部分(結合セグメント)によりコードされる。VH領域は、H鎖V遺伝子セグメント、D遺伝子セグメント(多様性セグメント)およびJ遺伝子セグメント(結合セグメント)によりコードされる。
【0081】
L鎖とH鎖のV遺伝子セグメントはどちらも、3つの実質的アミノ酸配列可変性領域を含んでいる。そのような領域は、それぞれ、L鎖 CDR1、CDR2、CDR3、および、H鎖 CDR1、CDR2、CDR3と称されている。L鎖CDR1の長さは、さまざまなVL領域間で実質的に異なり得る。例えば、CDR1の長さは、約7アミノ酸から約17アミノ酸までさまざまであり得る。それに対し、L鎖のCDR2とCDR3の長さは、さまざまなVL領域間でも変わらない。H鎖CDR3の長さはさまざまなVH領域間で実質的に異なり得る。例えば、CDR3の長さは、約1アミノ酸から約20アミノ酸までさまざまであり得る。H鎖とL鎖のCDR領域はそれぞれFW領域に隣接している。
【0082】
免疫グロブリン分子の他の機能的側面には、免疫グロブリン分子の原子価(valency)、免疫グロブリン分子のアフィニティ、および免疫グロブリン分子のアビディティが含まれる。本明細書において、アフィニティとは、免疫グロブリン分子上の単一部位における免疫グロブリン分子の抗原結合力(すなわち、1価抗原に結合する1価Fabフラグメント)を指す。アフィニティは、免疫グロブリンの抗原結合力の総和を指すアビディティとは異なる。免疫グロブリンの結合アフィニティは、例えば、競合結合技術、平衡透析またはBIAcore法などの当技術分野では標準的な技術を用いて測定し得る。本明細書において、原子価とは、免疫グロブリン分子当たりのさまざまな抗原結合部位の数(すなわち、抗体分子または抗原結合フラグメント当たりの抗原結合部位数)を指す。例えば、1価の免疫グロブリン分子は、一度に1つの抗原にしか結合できないが、2価の免疫グロブリン分子は一度に2つ以上の抗原に結合できることなどである。補体副経路のタンパク質に選択的に結合する1価抗体も2価抗体もこれに含まれる。
【0083】
1つの実施形態において、抗体は二重特異性または多重特異性抗体である。二重特異性(または多重特異性)抗体は、2価(または多価)抗体の場合と同じように、2つ(またはそれ以上)の抗原に結合し得るが、この場合、抗原は異なる抗原(すなわち、その抗体が二重またはそれ以上の特異性を示す)である。例えば、本発明の補体副経路タンパク質に選択的に結合する抗体(例えば、本明細書に記載の抗B因子抗体)は、二重特異性抗体として構築し得るが、その場合、第2抗原結合特異性は目的とする標的用である。したがって、本発明に含まれる1つの二重特異性抗体には、(a)補体副経路タンパク質(例えば、B因子)に結合する第1部分(例えば、第1抗原結合部)と、(b)細胞が発現する細胞表面分子に結合する第2部分とを有する抗体が含まれる。この実施形態において、第2部分は、どの細胞表面分子にも結合できる。1つの好ましい細胞表面分子は受容体またはリガンドであり、したがって、抗体は、抗体を産生する動物の特定の細胞もしくは組織型および/または特定部位を標的とする。1つの実施形態において、第2抗原結合特異性は補体受容体用である。特に好ましい補体受容体には、補体受容体タイプ2(CR2)が含まれるが、それには限定されない。CR2に選択的に結合し、したがって、本発明のこの実施形態に使用し得る抗体は、例えば米国特許第6,820,011号に記載されている。
【0084】
1つの実施形態において、本発明の抗体にはヒト化抗体が含まれる。ヒト化抗体は、非ヒト種の免疫グロブリン由来抗原結合部位を有する分子であり、この分子の残りの免疫グロブリン由来部分はヒト免疫グロブリン由来である。抗原結合部位は、ヒト定常領域上に融合した完全可変領域、または可変領域内の適切なヒトフレームワーク領域上に移植された相補性決定領域(CDRs)のみを含み得る。ヒト化抗体は、例えば、抗体の可変領域をモデル化したり、例えばCDR移植(以下に説明)などの遺伝子工学技術を用いて抗体を産生させることにより作製し得る。ヒト化抗体の作製に関するさまざまな技術の説明は、モリソンら(Morrison et al)、(1984年)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第81巻、p.6851−55;ウィットルら(Whittle et al)、(1987年)、Prot.Eng.第1巻、p.499−505;コーら(Co et al)、(1990年)、J.Immunol.第148巻、p.1149−1154;コーら、(1992年)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第88巻、p.2869−2873;カーターら(Carter et al)、(1992年)、Proc.Natl.Acad.Sci.第89巻、p.4285−4289;ルートレッジら(Routledge et al)、(1991年)、Eur.J.Immunol.第21巻、p.2717−2725;ならびにPCT特許公開番号WO91/09967号;同WO91/09968号および同WO92/113831号で見られる。
【0085】
本発明の単離抗体には、上記抗体、またはさまざまな程度に精製された抗体を含有する血清が含まれる。本発明の全抗体はポリクローナルまたはモノクローナルであり得る。あるいは、例えば1または複数の抗体領域が切断されているか不在である抗原結合フラグメント〔例えば、Fv、Fab、Fab′、またはF(ab)2フラグメント〕などの全抗体の機能的等価物や、一本鎖抗体、ヒト化抗体(上述)、2つ以上のエピトープに結合し得る抗体(例えば、2重特異性抗体)、または1種以上の異なる抗原に結合し得る抗体(例えば、2重もしくは多重特異性抗体)を含めた遺伝子組み換え抗体またはその抗原結合フラグメントも本発明に用い得る。
【0086】
本発明の遺伝子組み換え抗体には、抗体の可変領域および/または定常領域をコードするDNAの操作および再発現を含む標準的な組み換えDNA技術を用いて産生させたものが含まれる。特定の例としては、抗体のVHおよび/またはVL領域が抗体の残りの部分とは異なる源由来であるキメラ抗体と、少なくとも1つのCDR配列および場合によって少なくとも1つの可変領域のフレームワークアミノ酸が1つの源由来であり、可変領域および定常領域(必要に応じて)の残りの部分が異なる源由来であるCDR移植抗体(およびその抗原結合フラグメント)が挙げられる。キメラ抗体およびCDR移植抗体の構築技術は、例えば、ヨーロッパ特許出願:EP−A0194276号、EP−A0239400号、EP−A0451216号およびEP−A0460617号に記載されている。
【0087】
1つの実施形態において、本発明に従って、補体副経路タンパク質(例えば、B因子)に結合する抗体可変領域を含むキメラ抗体を産生させ、これらの領域に、第2標的部分としての役割を果たすタンパク質を融合させる。例えば、標的部分には、標的対象となる細胞もしくは組織または動物の特定の系に関連するタンパク質が含まれる。例えば、標的部分は、セレクチンまたは補体受容体の一部であり得る。本発明のこの態様に使用するのに好ましい1つの補体受容体としては、補体受容体タイプ2(CR2)がある。融合タンパク質またはキメラタンパク質における(例えば、デリバリーシステムとしての)CR2およびその部分の利用は、米国特許第6,820,011号に詳細に記載されている。
【0088】
一般に、抗体産生においては、例えば、ウサギ、ヒツジ、ハムスター、モルモット、マウス、ラット、またはニワトリなどを含むがそれらには限定されない適当な実験動物を、抗体を求める抗原に暴露する。通常は、有効量の抗原を注入して動物を免疫する。抗原の有効量とは、動物による抗体産生を誘発させるのに必要な量を指す。次いで、動物の免疫系を所定時間反応させる。免疫系がその抗原に対する抗体を産生していることが分るまで免疫プロセスを反復し得る。その抗原に特異的なポリクローナル抗体を産生させるために、求める抗体を含有する動物から血清を回収する(またはニワトリの場合には、卵から抗体を回収し得る)。そのような血清は試薬として有用である。ポリクローナル抗体は、例えば血清を硫酸アンモニウムで処理することにより血清(または卵)からさらに精製することができる。
【0089】
モノクローナル抗体は、ケーラー(Kohler)およびミルシュタイン(Milstein)(Nature 第256巻、p.495−497、1975年)の方法に従って産生し得る。例えば、免疫動物の脾臓(または任意の適当な組織)からBリンパ球を取り出し、骨髄腫細胞と融合させて、適当な培地で連続増殖できるハイブリドーマ細胞集団を得る。所望の抗体を産生するハイブリドーマは、ハイブリドーマが産生する抗体の所望の抗原への結合能をテストして選択する。
【0090】
本発明の抗体の好ましい産生法は、(a)動物に抗体産生に有効な量のタンパク質またはペプチド(例えば、B因子タンパク質またはその領域を含むペプチド)を投与する工程と、(b)抗体を回収する工程とを含む。別の方法では、本発明の抗体は組み換えにより産生させる。例えば、本発明の抗体を発現する細胞系、例えばハイブリドーマが得られたら、そこからcDNAをクローン化して、CDRをコードする配列を含めた目的抗体をコードする可変領域遺伝子を同定することができる。ここから、少なくとも抗体の重鎖または軽鎖の可変領域をコードするDNA配列と、場合によって要望通り重鎖および/または軽鎖の残りの部分をコードする他のDNA配列とを含む1または複数の複製可能な発現ベクターを作製し、抗体産生が生じるであろう適切な宿主細胞を形質転換/トランスフェクトすることによって本発明の抗体およびその抗原結合フラグメントを得ることができる。適当な発現宿主には、細菌(例えば、E.coli株)、菌類〔具体的には、酵母、例えば、ピチア(Pichia)属、サッカロミセス(Saccharomyces)属、またはクルイフェロミセス(Kluyveromyces)属のメンバー〕および哺乳類細胞系、例えば、マウスNSO系などの非産生型骨髄腫細胞系、またはCHO細胞が含まれる。効率的な転写および翻訳を得るためには、各ベクターのDNA配列は、適切な調節配列、具体的には、可変領域配列に作動可能に連結されたプロモーター配列とリーダー配列を含んでいなければならない。このようにして抗体を産生させるための特定の方法は、一般に周知であり、日常的に使用されている。例えば、基本的な分子生物学手順は、マニアティスら(Maniatis et al)(Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory、ニューヨーク、1989年)により記載されており、DNAシークケンシングは、ザンガーら(Sanger et al)(PNAS 第74巻、p.5464、1977年)およびアマーシャム・インターナショナル・パブリック・リミテッド・カンパニー(Amersham International plc)シークケンシングハンドブックに記載のように実施することができ、部位特異的突然変異誘発は、クレーマーら(Kramer et al)(Nucl.Acids Res、第12巻、p.9441、1984年)の方法およびアングリカン・テクノロジー・リミテッド(Anglian Biotechnology Ltd.)ハンドブックに従って実施することができる。さらに、例えば、マウンテン エー(Maountain A)およびアデール、ジェイ アール(Adair,J R)が、Biotechnology and Genetic Engineering Reviews〔ツームズ、エム ピー(Tombs、M P)編、第10巻、1章、1992年、Intercept、アンドーバー(Andover)、英国〕で概説しているように、また上述のヨーロッパ特許出願にあるように、DNA操作、発現ベクターの作出および適切な細胞の形質転換による抗体の作製に適した技術を詳述している特許明細書を含めた多くの刊行物がある。
【0091】
例えば、ファージディスプレイ技術(例えば、米国特許第5969108号、米国特許第5565332号、米国特許第5871907号、米国特許第5858657号参照)または米国特許第5627052号の選択的リンパ球抗体法(selected lymphocyte antibody method)も本発明の抗体および/または抗原フラグメントの産生に使用可能であることは、当業者にはすぐ分るであろう。
【0092】
本発明はさらに、抗原結合パートナーまたは抗原結合ポリペプチドと称されることもある、本発明に従ってタンパク質に選択的に結合してタンパク質の中和または阻害を引き起こすように設計された非抗体ポリペプチドの利用にも関する。規定されたリガンド特異性を有するそのようなポリペプチドの設計例が、ベステら(Beste et al)(Proc.Nat.Acad.Sci.第96巻、p.1898−1903、1999年)に記載されており、同文献はその全体が本明細書に文献援用される。
【0093】
本発明はさらに、TBIまたはSCIに関連する生理的障害を軽減させるための製剤または組成物を含む。この製剤は、(a)本明細書に記載のような補体副経路の1種以上の阻害剤(例えば、本明細書記載の抗B因子抗体)と、(b)少なくとも1種の医薬として許容される担体とを含む。
【0094】
1つの実施形態において、本発明の製剤または組成物は、例えばTBIまたはTBIに関連する生理的障害の少なくとも1つの症状の治療に適した別の作用剤(例えば、浸透剤、鎮静剤、鎮痛剤、筋弛緩剤、バルビツール剤など)などの1種以上の追加作用剤を含み得る。さらに、製剤は、TBI関連障害の治療または軽減に用いる別の療法またはプロトコールと併用して患者に投与し得る。そのような療法またはプロトコールには、頭蓋内血腫の外科的排出による腫瘤病変の減少、浸透圧剤(例えばマンニトール)による脳浮腫の減少、脳室内カテーテルを介した脳脊髄液(CSF)の治療的排出、適切なガス交換と循環安定性の達成および維持、低酸素血症血および高炭酸症の防止、遅発型二次性頭蓋内病変を検出するための連続CTスキャン、ストレスや疼痛を回避するための深い鎮静および鎮痛、最適なCPP〔>約9.333kPa(>70mmHg)〕および脳の酸素平衡の達成および維持、異常高熱(<38℃)の回避、高血糖および低ナトリウム血の防止、日常的な頭位挙上の阻止、ストレス潰瘍の予防および腸粘膜整合性の維持、悪化因子(例えば、肺炎または髄膜炎)の予防、頭蓋内圧(ICP)標的療法(例えば、鎮静、鎮痛、筋弛緩の深化)、脳室内カテーテルを介したCSF排出、特定状況下における中等度過呼吸、浸透圧療法、中等度低体温(±34℃)、および/またはバルビツール剤昏睡、および/またはガス使用可能な(gas−enabled)神経炎症の低下が含まれるが、それらには限定されない。種々のTBI治療法が当技術分野では周知であり、例えば、ロヨら(Royo et al)、2003年、Current Opin.Pharmacol.第3巻、p.27−32;ダットン(Dutton)およびマッカン(McCunn)、2003年、Current Opin.Crit.Care、第9巻、p.503−509;エルフら(Elf et la)、2003年、Eur.J.Trauma、第29巻、p.74−80;ガジャールら(Ghajar et al)、2000年、Lancet、第356巻、p.923−929に記載されている。
【0095】
別の実施形態において、本発明の製剤または組成物は、例えば、SCIまたはSCIに関連する生理的障害の少なくとも1つの症状の治療に適した別の作用剤(例えば、メチルプレドニゾロンなどのステロイド)などの1種以上の追加作用剤を含み得る。さらに、製剤は、SCI関連障害の治療または軽減に使用される別の療法またはプロトコールと併用して患者に投与し得る。そのような療法またはプロトコールには、脊椎の固定化、減圧手術、脊椎安定化手術、脊椎再配列手術、牽引が含まれるが、それらには限定されない。種々のSCI治療法は当技術分野では周知であり、例えば、レイマーら(Ramer et al)、2005年、Spinal Cord、第43巻(3)、p.134−61に記載されている。
【0096】
本発明によれば、「医薬として許容される担体」には、適当な生体内部位への製剤または組成物の投与に用いるのに適した医薬として許容される賦形剤および/または医薬として許容される輸送担体が含まれる。適当な生体内部位は、補体副経路が阻害され得る任意の部位であり、1つの好ましい実施形態では、TBIまたはSCIに関連する生理的障害を有するか、障害が生じる恐れがある患者の脳組織内にあるのが好ましい。好ましい医薬として許容される担体は、本発明の製剤に使用される作用剤を、患者の標的部位に到達したらすぐその標的(例えば、補体副経路の1成分であるタンパク質)に作用を及ぼして、好ましくは結果的に患者に治療効果をもたらし得る形態で維持することができる。
【0097】
本発明の適当な賦形剤には、細胞または組織に組成物を輸送するか、輸送するのに役立つが、特に細胞または組織に組成物を輸送することを目標とはしない賦形剤または医薬品(本明細書では非ターゲティング担体とも称される)が含まれる。医薬として許容される賦形剤の例としては、水、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー液、デキストロース液、血清含有溶液、ハンクス液、他の生理的に平衡な水溶液、油、エステルおよびグリコールが挙げられるが、それらには限定されない。水性担体は、例えば、化学的安定性および等張性を高めることにより、賦形剤の生理的条件を近似させるのに必要とされる適当な補助剤を含有し得る。適当な補助剤には、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、ならびにリン酸緩衝液、Tris緩衝液、および重炭酸緩衝液の製造に用いられる他の物質が含まれる。補助剤にはさらに、例えば、チメロサール、m−またはo−クレゾール、ホルマリンおよびベンゾルアルコールなどの保存剤も含まれる。本発明の製剤は、従来の方法で滅菌したり、かつ/または凍結乾燥したりし得る。
【0098】
医薬として許容される担体の1種には、本発明の組成物を動物内にゆっくり放出し得る放出制御製剤が含まれる。本明細書において、放出制御製剤は、放出制御用担体中に本発明の作用剤を含む。適当な放出制御用担体としては、生体適合性ポリマー、他のポリマーマトリックス、カプセル、マイクロカプセル、微粒子、ボーラス製剤、浸透圧ポンプ、拡散装置、リポソーム、リポスフェアおよび経皮デリバリーシステムが挙げられるが、それらには限定されない。他の適当な担体には、送達される作用剤の半減期を延長させる、作用剤に結合させるか作用剤を組み込み得る担体が含まれる。そのような担体には、生体内送達されるとタンパク質の半減期を延長させる適当なタンパク質担体または融合セグメントも含まれる。適当な輸送担体は本明細書ですでに説明したが、そのような担体には、リポソーム、ウイルスベクターまたはリボザイムを含めた他の輸送担体が含まれるが、それらには限定されない。天然の脂質含有輸送担体には細胞や細胞膜が含まれる。人工の脂質含有輸送担体としてはリポソームやミセルなどがある。本発明の輸送担体は、患者の特定部位を標的とするように修飾して、その部位を標的として阻害剤を使用することができる。適当な修飾法には、輸送担体の脂質部分の配合を操作する方法、および/または輸送担体の標的を特異的に好ましい部位、例えば好ましい細胞型とし得るターゲティング剤を輸送担体に組み込む方法が含まれる。他の適当な輸送担体には、金粒子、ポリ−L−リシン/DNA分子複合体および人工染色体などがある。
【0099】
ターゲティング可能な医薬として許容される担体は、「ターゲティング輸送担体」(targeting delivery vehicle)と称されている。本発明のターゲティング輸送担体は、阻害剤を含めた製剤を患者の標的部位に輸送することができる。「標的部位」とは、治療製剤を輸送したい患者部位を指す。例えば、標的部位は、直接注入するか、リポソーム、ウイルスベクターまたはリボザイムを含めた他の輸送担体を用いた直接注入または送達の標的となる任意の細胞または組織であり得る。本発明の輸送担体は、動物の特定部位を標的とするように修飾して、その部位を標的として核酸分子を使用することができる。適当な修飾法には、輸送担体の脂質部分の配合を操作する方法、および/または輸送担体の標的を特異的に好ましい部位、例えば好ましい細胞または組織型(例えば、脳または中枢神経系)とし得る化合物を輸送担体に組み込む方法が含まれる。具体的に言えば、ターゲティングとは、輸送担体中の化合物を特定細胞の表面上の分子と相互作用させて輸送担体を特定細胞に結合させることを指す。適当なターゲティング化合物には、特定部位で別の分子に選択的に(すなわち、特異的に)結合し得るリガンドが含まれる。そのようなリガンドの例としては、抗体、抗原、受容体および受容体リガンドが挙げられる。特に有用な例には、補体経路に関連するリガンド(例えば、CR2、C3、C3d、C3dg、iC3b、C3b)または細胞型、組織型、もしくは被治療動物内部位に関連するリガンド(例えば、セレクチン)が挙げられる。
【0100】
輸送担体の脂質部分の配合を操作することにより、輸送担体の細胞外または細胞内ターゲティングを調節することができる。例えば、リポソームが特定の電荷特性を有する特定細胞と融合するようにリポソームの脂質二重層の電荷を変える試薬をリポソームの脂質配合に加え得る。1つの実施形態において、ターゲティング輸送担体は、化合物の血液脳関門通過を可能にする製剤であり得る。
【0101】
多様な投与経路および作用剤に有用な輸送担体の1つはリポソームである。リポソームは、本発明に記載の核酸分子を動物内の好ましい部位に輸送するのに十分な量の時間動物内で安定した状態を保つことができる。本発明のリポソームは、核酸分子または他の化合物を動物内の特定部位または選択された部位に輸送することができる脂質組成物を含む。本発明のリポソームは、標的細胞の原形質膜と融合して核酸分子を細胞内に輸送することができる。本発明に用いるのに適したリポソームにはすべてのリポソームが含まれる。本発明の好ましいリポソームとしては、通常、例えば、当業者には周知の遺伝子導入法に用いられているリポソームが挙げられる。ポリカチオン脂質組成物を有するリポソームおよび/またはポリエチレングリコールに結合したコレステロール骨格を有するリポソームであればなお好ましい。本発明のリポソームと核酸分子または阻害剤との複合体形成は、当技術分野では標準的な方法を用いて達成し得る。
【0102】
別の輸送担体はウイルスベクターを含む。ウイルスベクターは、本発明の方法に有用な単離核酸分子を含み、核酸分子は、DNAの細胞内への導入を可能にするウイルスコーティング内に詰め込まれている。アルファウイルス、ポックスウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、レンチウイルス、アデノ関連ウイルスおよびレトロウイルスをベースとするものを含むがそれらには限定されない多くのウイルスベクターを使用することができる。
【0103】
本発明の作用剤および製剤は、任意の動物または患者、好ましくはヒトに投与し得る。本発明によれば、作用剤または製剤の投与は、TBI、SCIに関連する生理的障害、または類似もしくは関連状態のいずれの症状の阻害にも有用である。本発明の方法に適した対象である患者としては、(外傷性損傷を含めた)損傷または疾患の結果として、脳または脊髄に対する生理的障害、およびこの損傷に関連する状態を有するか、そのような損傷または状態を発症する恐れのある(例えば、発症の可能性があるか、または発症が予想される)患者が含まれるが、それらには限定されない。
【0104】
本発明によれば、動物に投与する作用剤の投与経路や有効量を含めた、作用剤または作用剤を含有する組成物を投与するのに好ましいプロトコールの決定は、当業者が遂行し得る。本発明の作用剤または組成物は、生体内または生体外投与し得る。適当な生体内投与経路としては、経口、経鼻、吸入、局所、気管内、経皮、経腸、脳(例えば、頭蓋内)、脊髄(例えば、髄腔内または脊髄の硬膜上腔)、および非経口経路が含まれるが、それらには限定されない。好ましい非経口経路には、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、および腹腔内経路が含まれるが、それらには限定されない。好ましい局所経路としては、エアゾール(すなわち、噴霧)による吸入または動物の皮膚への局所表面投与などがある。作用剤は、好ましくは全身経路(例えば、腹腔内、静脈内)、特に好ましくは静脈内投与するか、または脳、脊髄、もしくは脊髄の硬膜上腔に投与する。外傷性脳損傷の場合、静脈内投与または脳への投与が好ましい。脊髄損傷の場合には、静脈内投与、脊髄投与、または脊髄の強膜上腔への投与が好ましい。生体外とは、投与工程の一部を患者の外側で実施することを指す。
【0105】
作用剤および組成物の脳および中枢神経系への投与技術には、静脈内投与、腹腔内投与、血管脳関門の破壊を伴う動脈内投与、対流増加送達法を用いた脳への薬物連続注入、移植、髄腔内注入、脳室内投与、間質内投与、および髄腔内投与が含まれるが、それらには限定されない。静脈内、腹腔内、筋肉内、および髄腔内投与は、当技術分野では標準的な方法を用いて実施し得る。エアゾール(吸入)デリバリーは当技術分野では標準的な方法を用いて実施し得る〔例えば、ストリブリングら(Stribling et al)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 第189巻、p.11277−11281、1992年参照、本明細書にそのまま文献援用〕。エアゾールデリバリーに適した担体は上記に記載されている。エアゾール化製剤デリバリーデバイスには、定量噴霧式吸入器(MDI)、ドライパウダー吸入器(DPI)、および定量溶液装置(metered solution device)(MSI)が含まれるが、それらには限定されず、噴霧器や吸入器である装置が含まれる。経口投与は、本発明の治療組成物と、動物の腸内消化酵素による分解に耐え得る担体との複合体を形成することにより実施し得る。そのような担体の例としては、プラスチックカプセル剤または錠剤、例えば当技術分野では周知のものなどが挙げられる。直接注入技術は、手術により接近可能な、特に体表面もしくはその近くの細胞または組織に組替え核酸分子を投与する場合に特に有用である。組成物を標的細胞表面内に局所的に投与するとは、標的細胞または組織から数センチメートル、好ましくは数ミリメートルの所に組成物を注入することを指す。
【0106】
本明細書に開示したさまざまな投与法および輸送担体は、核酸分子が導入され、発現される標的細胞または組織への核酸分子の輸送に有効であることが証明されている。多くの研究において、好ましい細胞型で、かつ/または好ましい輸送担体と本発明の投与経路を用いて、異種遺伝子の輸送および発現が首尾良く達成された。多様な標的組織に向けての多数の核酸配列の送達は、核酸配列をコードするウイルスベクターの投与〔例えば、多くの例のなかでも、レトロウイルスベクター;ブラウズら(Blaese et al)、1995年、Science 第270巻、p.475−480;ボルディニョンら(Bordignon et al)、1995年、Science 第270巻、p.470−475参照〕、経鼻投与(CFTRアデノウイルス関連ベクター)、冠動脈内投与(アデノウイルスベクターおよびセンダイウイルス、上記参照)、静脈内投与〔アデノ関連ウイルスベクター;ケーベールら(Koeberl et al)、1997年、Proc Natl Acad Sci USA 第94巻、p.1426−1431〕により達成されている。ミルキャンプら(Millecamps et al)は、トランスジーンプロモーター(ホスホグリセリン酸プロモーター)の上流に配置した神経細胞特異的エンハンサー要素を用いたアデノウイルスベクターの神経細胞ターゲティングを報告した。そのようなベクターを、マウスおよびラットに、それぞれ、筋肉内および脳内投与し、トランスジーンの生体内神経細胞特異的トランスフェクションおよび発現に成功した(ミルキャンプら、1999年、Nat.Biotechnol.第17巻、p.865−869)。ベネットら(Bennett et al)は、1年を越える期間生体内で神経網膜に網膜下注入することにより遺伝子を送達・発現させるためのアデノ関連ウイルスベクターの利用を報告した(ベネット、1999年、前掲)。
【0107】
動物への投与に適した阻害剤の単回投与量は、適当な期間にわたって1回以上投与すると、動物のTBIまたはSCIに起因する生理的障害の少なくとも1つの症状を軽減または防止できる用量である。本明細書に記載の方法に用いるための、タンパク質、小分子および抗体を含めた作用剤の好ましい単回投与量は、約0.01マイクログラム×キログラム−1〜約10ミリグラム×キログラム−1動物の体重の範囲である。作用剤のより好ましい単回投与量は、約1マイクログラム×キログラム−1〜約10ミリグラム×キログラム−1動物の体重の範囲である。作用剤のさらに好ましい単回投与量は、約5マイクログラム×キログラム−1〜約7ミリグラム×キログラム−1動物の体重の範囲である。作用剤のさらに好ましい単回投与量は、約10マイクログラム×キログラム−1〜約5ミリグラム×キログラム−1動物の体重の範囲である。作用剤をエアゾール投与する場合、作用剤の特に好ましい単回投与量は、約0.1ミリグラム×キログラム−1〜約5ミリグラム×キログラム−1動物の体重の範囲である。作用剤を非経口投与する場合に、作用剤の特に好ましい別の単回投与量は、約0.1マイクログラム×キログラム−1〜約10マイクログラム×キログラム−1動物の体重の範囲である。
【0108】
1つの実施形態において、本発明の核酸:リポソーム複合体の適切な単回投与量は、複合体を投与する患者の体重1kg当たり約0.1〜約100μgである。別の実施形態において、適切な単回投与量は、体重1kg当たり約1〜約10μgである。別の実施形態において、核酸:脂質複合体の適切な単回投与量は、少なくとも約0.1μg、より好ましくは少なくとも約1μg、さらに好ましくは少なくとも約10μg、さらに好ましくは少なくとも約50μg、さらに好ましくは少なくとも約100μgの核酸である。
【0109】
抗体の好ましい単回投与量は、動物の体重1kg当たり約1ng×キログラム−1〜約1mg未満×キログラム−1動物の体重(動物の体重1kg当たり)の範囲である。抗体のより好ましい単回投与量は、約20ng×キログラム−1〜約600μg×キログラム−1動物の体重の範囲である。特に抗体製剤を噴霧投与する場合、抗体のさらに好ましい単回投与量は、約20ng×キログラム−1〜約600μg×キログラム−1動物の体重、より好ましくは、約20ng×キログラム−1〜500μg×キログラム−1、より好ましくは、約20ng×キログラム−1〜約400μg×キログラム−1、より好ましくは、約20ng×キログラム−1〜約300μg×キログラム−1、より好ましくは、約20ng×キログラム−1〜約200μg×キログラム−1、より好ましくは、約20ng×キログラム−1〜約100μg×キログラム−1、より好ましくは、約20ng×キログラム−1〜約50μg×キログラム−1動物の体重の範囲である。
【0110】
特に抗体製剤を噴霧投与する場合、抗体の別の好ましい単回投与量は、約200ng×キログラム−1〜約600μg×キログラム−1動物の体重、より好ましくは、約200ng×キログラム−1〜約500μg×キログラム−1、より好ましくは、約200ng×キログラム−1〜約400μg×キログラム−1、より好ましくは、約200ng×キログラム−1〜約300μg×キログラム−1、より好ましくは、約200ng×キログラム−1〜約200μg×キログラム−1、より好ましくは、約200ng×キログラム−1〜約100μg×キログラム−1、より好ましくは、約200ng×キログラム−1〜約50μg×キログラム−1動物の体重の範囲である。
【0111】
特に抗体製剤を吸入器から直接吸入投与する場合、抗体の別の好ましい単回投与量は、約2ng×キログラム−1〜約100μg×キログラム−1動物の体重、より好ましくは、約2ng×キログラム−1〜約50μg×キログラム−1、より好ましくは、約2ng×キログラム−1〜約10μg×キログラム−1、より好ましくは、約2ng×キログラム−1〜約5μg×キログラム−1、より好ましくは、約2ng×キログラム−1〜約1μg×キログラム−1、より好ましくは、約2ng×キログラム−1〜約0.5μg×キログラム−1、より好ましくは、約2ng×キログラム−1〜約0.25μg×キログラム−1、より好ましくは、約2ng×キログラム−1〜約0.1μg×キログラム−1動物の体重の範囲である。
【0112】
別の実施形態において、抗体は、製剤1ミリリットル当たり約500μg未満の抗体、好ましくは、製剤1ミリリットル当たり約250μg未満の抗体、より好ましくは、製剤1ミリリットル当たり約100μg未満の抗体、より好ましくは、製剤1ミリリットル当たり約50μg未満の抗体、より好ましくは、製剤1ミリリットル当たり約40μg未満の抗体、より好ましくは、製剤1ミリリットル当たり約30μg未満の抗体、より好ましくは、製剤1ミリリットル当たり約20μg未満の抗体、より好ましくは、製剤1ミリリットル当たり約10μg未満の抗体、さらに好ましくは、製剤1ミリリットル当たり約5〜10μgの抗体の用量で投与する。
【0113】
本発明の方法によれば、TBIまたはSCIに起因する生理的障害を阻害する作用剤の動物への投与に有効な量は、動物に対する毒性を示さずに、TBIまたはSCIに起因する生理的障害の少なくとも1つの症状または指標を軽減し得るか、またはTBIまたはSCIからの回復を促進し得る量を含む。動物に対して毒性を示す量は、動物の機構または機能に損傷を与える(すなわち、有毒な)量を含む。
【0114】
本発明の1つの実施形態において、TBIまたはSCIを経験した動物において、動物に投与するのに有効な作用剤の量は、作用剤投与前または作用剤を投与しない場合と比べて動物のTBIまたはSCIに起因する生理的障害の少なくとも1つの症状または指標を測定可能な程度軽減する量である。別の実施形態において、動物に投与するのに有効な作用剤の量は、動物のTBIまたはSCIに起因する障害の少なくとも1つの症状または指標を、実質的に同様なTBIまたはSCIを経験しているが、作用剤を投与しなかった動物集団における症状レベルに比べて測定可能な程度軽減する量である。作用剤は、動物のTBI(例えば、脳損傷)またはSCI(例えば、脊髄損傷)に起因する生理的障害の少なくとも1つの症状または指標を、その損傷の身体症状の発症後に作用剤を投与した場合でも軽減し得るのが好ましい。さらに好ましくは、作用剤の有効量は、TBIまたはSCIに起因する障害の症状または指標を、患者にはもはや検出されないくらいに軽減する量である。1つの実施形態において、作用剤の有効量は、生理的障害の症状または指標の停止または軽減で測定するか、または患者の神経および関連機能の測定可能もしくは検出可能な生物学的スコア、値、または測度の向上で測定して、TBIまたはSCIからの患者の回復を促進する量である。
【0115】
ある好ましい実施形態において、本発明の作用剤の適切な投与量は、作用剤を投与しない場合と比べて、本明細書に記載のような補体副経路の少なくとも1種のタンパク質(例えば、B因子、D因子またはプロパージン)の発現または生物活性を阻害するのに有効な用量である。タンパク質の発現または生物活性の測定法は上記に記載されている。別の実施形態において、本発明の作用剤の適切な投与量は、本発明の補体副経路を測定可能な程度阻害する用量である。補体の活性化およびその阻害は、当技術分野では周知の技術/アッセイを用いて測定し得る。例えば、実施例に記載のようなザイモサンA粒子上のC3沈着の試験管内分析を実施し得る。また、ヒト血清による非感作赤血球の溶解を阻害する作用剤能力をテストすることも可能である。これらのアッセイに基づいて試験管内結果から生体内投与量を推定することは当業者の能力の範囲内である。
【0116】
動物への作用剤の投与回数は、TBIまたはSCIの程度および予測または観察された外傷に関連する生理的障害や、個々の患者の治療に対する反応によって決まる。状態の重症度を含めたTBIおよびSCIの診断法は、上述の通りであり、当技術分野では周知である。さらに、臨床医は、動物のTBIまたはSCIに関連または起因する症状の軽減に有効であるように作用剤の送達に適切なタイミングを決定し得るであろう。作用剤は、TBIまたはSCIを引き起こした事象後、好ましくは48時間以内、より好ましくは36時間以内、より好ましくは24時間以内、より好ましくは12時間以内、より好ましくは、6時間、5時間、4時間、3時間、2時間、もしくは1時間以内、さらには数分以内に投与する。1つの実施形態において、作用剤は、患者、臨床医、または患者がTBIもしくはSCIを被った相手が認識し次第投与する。別の実施形態において、作用剤は、TBIまたはSCIに関連し得る脳または神経障害の症状の発症を示す最初の徴候が現われたら、好ましくは症状の発症から少なくとも2時間以内、より好ましくは、症状発症から少なくとも1時間以内、より好ましくは少なくとも30分以内、より好ましくは少なくとも10分以内、より好ましくは少なくとも5分以内に投与する。TBIまたはSCIに関連する生理的障害の症状およびそのような症状の測定法または検出法は、上記に詳細に説明されている。そのような投与は、生理的障害の軽減または生理的障害の可能性がある症状の軽減徴候が見られるまで、さらに、必要に応じて、症状がなくなるか停止するまで続ける。
【0117】
本発明の方法は、任意の動物、具体的には、霊長類、齧歯類、家畜類および愛玩動物を含むがそれらには限定されない脊椎動物種、哺乳綱(すなわち、哺乳類)の任意の動物に使用し得る。本発明の方法を用いて治療するのに好ましい哺乳類はヒトである。
【0118】
以下の実施例は、本発明を例示するために提供されており、本発明の範囲を限定するものではない。
実施例
実施例1
以下の実施例は、外傷性脳損傷(TBI)後の生理的機能に対する補体阻害剤Crry−Ig投与の治療効果について記述する。
【0119】
Crry−Igは、補体受容体関連タンパク質y(Crry)と免疫グロブリンFc分子との間の融合物である。Crryは、ヒト崩壊促進因子(CD55)と補体調節タンパク質(CD46)の機能的同族体であり、C3補体転換酵素を阻害する。したがってCrryは古典的経路および補体副経路の両方の阻害剤である。
【0120】
マウスの閉鎖性頭部損傷の標準化モデルにおいて(Chenら、J.Neurotrauma 1996)、1mgのCrry−Igの損傷後の全身投与は、これは当該モデル系では外傷後1〜24時間で血液脳関門が破られるため治療の「タイミングの良い機会」に一致し、ビヒクルのみを注射した対照マウスに比べてTBI後24時間以内に神経回復の著しい改善が起こった(図6)。この実験では、外傷後の神経損傷の程度を、2人の別々の研究者による盲検査による標準化された10点満点の神経重症度スコア(NSS)により評価した。さらに、1mgのCrry−Igを腹腔内注射された頭部損傷マウスでは、外傷1時間後に、ビヒクルを注射した対照群に比べて体重減少が有意に低減された(図7)。これはCrry−Igにより補体が阻害されたマウスでは、炎症により誘起された外傷後の異化状態が保護されることを示している。
【0121】
これらの結果は、C3補体転換酵素のレベルでの補体経路の阻害がTBIに関連する生理学的損傷を阻害することを実証している。
実施例2
以下の実施例はB因子モノクローナル抗体が外傷性脳損傷(TBI)に関連する脳障害を軽減したことを実証する。
【0122】
予備滴定試験によると、生体内において、重さ25−35gのC57BL/6マウスに2mgのmAbl379(B因子モノクローナル抗体、すなわち抗fB)を腹腔内注射すると、補体副経路が完全に阻害され、これが48時間継続することが明らかとなった。C57BL/6マウスにおける実験的閉鎖性頭部損傷後の抗fB阻害研究(Chenら,J.Neurotrauma 1996)が、2mgのmAbl379をt=1h、24hまたは72hの時間に副腔内注射で受ける群とまた同一の時間にベヒクル媒体のみを受ける群との2つの実験群を使用して行なわれた。その結果、外傷後24時間以内の神経重症度スコア(NSS)の10点満点の有意な減少に基づいて、ビヒクルを注射された対照動物に比べ抗fB(mAb1379)群では副経路の補体阻害の有意な神経保護効果があることが明らかとなった(表3、図8)。この結果は、補体副経路の選択的な阻害によってTBIに起因する生理学的損傷を軽減されることを実証している。
【0123】
【表3】
実施例3
以下の実施例はB因子モノクローナル抗体が脊髄損傷(SCI)に関連する脳障害を軽減したことを示す。
【0124】
野生型の雌C57BL/6マウス(Charles River社、メリーランド州)および雌fB−/−マウス、6〜8週齢、16−20g(すべてのマウスとも)をこの研究に使用した。マウスに水と餌を自由に与え、病原体のないバリア施設で12/12時間の明暗サイクルとし、換気されたPlexiglas(商標)ケージに収容し(1つのケージ当たり4匹のマウス)、米国保健社会福祉省の「実験動物の世話および使用のためのNIHガイド」(NIH Guide for the Care and Use of Laboratory Animals、国立衛生研究所、メリーランド州べテスダ所在)に従って維持した。マウスは実験に先立って少なくとも1週間慣れさせた。
【0125】
動物の手術と手術後の処置についてはサウスカロライナ州医科大学の動物実験委員会により承認を得た。手術は滅菌条件下で実行した。脊髄の挫傷はマウスで脊髄損傷(SCI)を誘導するための落錘装置(Pannuら、2005,J.Neuroscience Research 79:340−350)。簡単に説明すると、マウスをケタミン(75mg/kg)およびキシラジン(16mg/kg)の腹腔内注射で麻酔した。背中の背側面を剃毛し、ヨードチンキでこすった。体温は、動物の下に37℃加温毛布を配置して手術中維持した。中線切開をT9からT13レベルまで皮膚に行った。椎弓切除をT12レベルで行ない、硬膜は無処置とした。背骨を定位装置で固定し、露出させた硬膜上に、3cmの高さから5gの錘(おもり)を落下させる(15gcmの力)ことにより損傷を引き起こした。シャム手術した動物は椎弓切除のみを受けた。損傷後、筋肉を層の中にしまい、切開を縫合した。マウスは加温パッド上に維持した。手術後の予防的抗生物質または鎮痛剤は、SCIの実験的治療薬とのそれらの考えられる相互作用を回避するために使用しなかった。十分に自発的な排尿が戻るまで、膀胱を1日2回手で絞った。
【0126】
機能回復に関する研究にマウスはすべて含まれた。実験マウスの後肢機能を、後肢運動機能スコア(Shuhei K J.of Neuropathology and Experimental Neurology (2004) 64−72)を使用して、盲検の観察者により毎週評価した。スケールは0〜5の範囲であり、スコアは以下の通りとした:0:後肢に動きはない。1:任意の後肢の間接(腰、膝または足首)にかろうじて知覚可能な動きがある。2:一方又は両方の四肢の1または複数の後肢の関節(腰、膝または足首)に活発な動きがあるが連携はない。3:両方の後肢に交互に歩いて進む動作があるが体重を支えることができない。4:体重を支え、不十分ではあるが歩行することができる。5:正常な歩行。
【0127】
図9は脊髄損傷からの機能回復に対するB因子モノクローナル抗体の投与の効果を調べた研究の結果を示す。上述したSCIのためのマウスモデルでは、C57BL/6マウスが損傷の1時間および12時間跡に2回の1mg/10gの抗B因子(mAb1379)の静脈注射を受けた(群の数、n=8)。機能回復は上述したように損傷後21日間一日一回評価した。シャム治療したマウス、実験SCIを受けたが治療しなかったマウスおよび実験SCIを受けて治療したB因子(−/−)マウスも経時評価した。図9に示されるように、B因子(/−)マウスおよび抗B因子を受けたマウスは、実験の脊髄損傷を受けて治療しなかったマウスと比較して、21日間の各時点において機能回復のスコアが著しく改善された(p<0.01)。これらの結果は、補体副経路の選択的な阻害が、SCIモデルの優位な治療の利益を与えるのに十分であることを実証している。
実施例4
以下の実施例は、補体副経路の活性化がTBIの病態生理学に重大な役割を果たすことを実証する。
材料および方法
B因子−/−マウス。B因子(fB−/−)が欠如している遺伝子ノックアウトマウスは本願以前に特徴付けられており、機能的な補体副経路の完全を欠いていることが示された[58]。同マウスは元々Sv129胚性幹細胞を用いて作製され、F1でコロニーを拡大する前にC57BL/6マウスと交配した。同マウスは純系C57BL/6バックグラウンドに対して10回よりも覆い回数戻し交配し、C57BL/6マウスと肉眼で見て判別不能となった。ノックアウトマウスおよび野生型の同腹子(fB+/+)を実験前に数週間慣らし、研究の全期間中は外部影響から分離させた。マウスは選択的な病原体のない(SPF)環境および温度(21℃)、湿度(60%)、明暗サイクル(12:12h)の標準化状態で飼育し、餌と水は自由に与えた。補体活性のレベル[59]とおよび女性の生殖ホルモンにより著しく影響を受けると思われる脳外傷に対する感受性[60,61]とに関する偏りを回避するために、本研究には雄のマウスのみを使用した。実験はすべて、欧州実験動物学会連合(Federation of European Laboratory Animal Science Associations、FELASA)の標準に従って行い、制度的動物管理委員会(ドイツ国ベルリン、Landesamtfur Arbeitsschutz,Gesundheitsschutz und technische Sicherheit,No.G0099/03 および No.G0308/04)より承認を得た。
【0128】
脳外傷モデル。本願以前に記載されているように[13、38、62−64]、実験の閉鎖性頭部損傷を、標準化された落錘装置を使用してノックアウト(fB−/−)マウスとC57BL/6系統の野生型の同腹子(fB+/+)にて行なった(1群当たり6匹、時点)。簡単に説明すると、イソフルラン麻酔の誘導後、中線の長手方向軸に頭皮を切開することにより頭蓋を露出させた。333gの錘を2cmの高さから固定した頭蓋に落下させたところ、左半球に局所的な鈍傷が生じた。外傷後に、完全に目が覚めるまでマウスは100%02の酸素処理の支援を受け、次いでケージに戻された。特定の時点(t=4h、24hおよび7日)でマウスを安楽死させ、脳半球は免疫組織化学、TUNEL組織化学およびSDS−PAGE/ウエスタンブロット分析による分析のため取り出した。さらに、Bcl−2のELISAおよびウエスタン分析による補体アナフィラトキシンC5aレベルの決定のために血清サンプルも採集した(以下を参照)。
【0129】
シャム手術したマウスは、外傷群と同一の状態に保たれ、頭部外傷を適用しなかった以外は同じ処置(麻酔および頭皮切開)を受けた。
マウスC5aのELISA。 頭部を損傷させたマウスおよび正常なC57BL/6対照マウスの血清サンプル中の補体アナフィラフィキシンC5aレベルを決定するため、P.A.Ward博士の研究所(米国ミシガン州アナーバー所在)で開発されたELISAを使用した。簡単に説明すると、ELISAプレート(Immulon 4HBX,Thermo Labsystems,米国マサチューセッツ州ミルフォード所在))を精製したモノクローナル抗マウスC5a IgG(5μg/ml、BD Pharmingen、米国カリフォルニア州サンディエゴ所在)でコーティングした。0.05% TWEEN20(Sigma−Aldrich、米国ミズーリ州所在)を含む1%ミルク(Roth、ドイツ国カールスルーエ所在)のPBS溶液(Gibco−Invitrogen、米国カリフォルニア州カールスバッド所在)で非特異的結合部位をブロックした後、標準曲線を確立するために、プレートを1:20に希釈(0.05% TWEENを含む1%ミルク PBS溶液で)した100 ml 血清および予め決定した濃度のマウス組み換えマウスC5aでコーティングした。インキュベーションとそれに続く洗浄工程の後、ビオチン化モノクローナル抗マウスC5a抗体を500ng/ml(BD Pharmingen)で加え、洗浄工程を行い、400ng/ml(Sigma)のストレプトアビジン−ペルオキシダーゼと印急ベーとした。比色定量反応のため、基質(0.4mg/ml OPD、0.4mg/ml過酸化尿素 0.05Mリン酸クエン酸塩緩衝液;Sigma)を加えた、呈色反応は3M硫酸で停止させた。吸光度を490nmにて読んだ(「SpectraMax 190」読取装置、Molecular Device社、米国カリフォルニア州サニーベール所在)。サンプルはすべて二重のウェルに入れて分析し、結果は2つのサンプル分析の平均値から計算した。標準曲線は50ng/mlから0.1ng/mlまで直線であったが、0.1ng/mlはこの分析の検出の下限値を表わしている。
【0130】
ウエスタンブロット。 本研究で使用されるマウスはすべて内部精度標準として血清中のB因子の存在についてウエスタンブロットでスクリーニングした。fB−/−およびfB+/+マウスの頭部損傷またはシャム手術の4時間後、24時間後、および7日後、ホモジナイズしたマウス脳およびそれに一致する血清サンプルにおいて、ミトコンドリアの抗アポトーシスメディエータBcl−2およびアポトーシス促進Fas受容体のタンパク質レベルを決定した。ウエスタンブロット法は以前に記載されている[32]。簡単に説明すると、マウスの脳を麻酔下で摘出し、右半球と左半球に分離し、Ultra Turrax Homogenizer(登録商標、IKA Werke社、ドイツ国シュタウフェン所在)を使用して脱イオン水中に100mM TRIS−HCl(pH7.5)、150mM NaCl、0.5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、0.5%Nonidet P−40、10mg/ml アプロチニン、10mg/ml ロイペプチン、5mg/ml ペプスタチン、1mM フェニル−メチル−スルホニルフロリドを含む溶解バッファ中で直ちにホモジナイズした。13,000×g、15分の遠心分離後、上澄みのタンパク質含有量を市販の比色定量タンパク質分析(「BCA Protein Assay」、ドイツ国ボン、Pierce/Perbio Science社)により決定した。60μgの全タンパク質試料を添加液中で変性させ、12% SDSポリアクリルアミドゲルの還元条件下で、広範な予め染色したSDS−PAGEタンパク質標準(Bio−Rad社、ドイツ国ミュンヘン所在)と並行に分離した。その後、タンパク質は、エレクトロブロッティング(Bio−Rad)によりProtran BA 83ニトロセルロースメンブレン(Schleicher & Schuell社、ドイツ国ダッセル所在)に転写した。ブロットを一晩ブロックし、次に、一次抗体としての1:500に希釈したモノクローナル抗マウスBcl−2(Santa Cruz Biotechnology社、ドイツ国ハイデルベルク所在)、1:200に希釈したモノクローナルウサギ抗マウスFas(クローンA−20、Santa Cruz社)、または1:8,000に希釈したモノクローナルニワトリ抗マウス抗B因子(アメリカ合衆国アラバマ州バーミンガムのアラバマ大学のScott R.Barnum博士より供与)、かつ、バンドの等しい添加量を確認するための内部基準としての1:10,000に希釈したモノクローナル抗β−アクチン抗体(クローンA−15、Sigma)と共にインキュベートした。1:5,000に希釈したペルオキシダーゼ標識二次抗体(Dako社、ドイツ国ハンブルク所在およびSanta Cruz Biotechnology社、ドイツ国ハイデルベルク)とのインキュベート後、抗体結合を、市販のECL(登録商標)ウエスタンブロットキット(Amersham Pharmacia Biotech社、ドイツ国フライバーク所在)を用いて非放射性化学発光方式により目に見えるようにした。ブロットメンブレンへのタンパク質の等しい転写はポンソー赤色染色(シグマ)により確認した。
【0131】
免疫組織化学。 ニューロンの形態、完全性およびアポトーシスを評価するために、摘出したマウス脳を液体窒素で急速凍結し、OCT化合物(Sakura Finetek、カリフォルニア州トレンス所在)中で包埋し、分析に使用するまで−80°Cで保存した。6〜8μm厚さの冠組織切片を−20℃にてクリオスタットで切断した。免疫組織化学については、スライドをアセトン中で固定し、次に、色素原としてDAB−テトラヒドロクロリド(Vector社、カリフォルニア州バーリンゲーム所在)、本願以前に記載[13、32])を用いて標準ビオチン/アビジン/ペルオキシダーゼ法により分析した。以下の一次抗体を細胞マーカとして使用した:モノクローナル抗NeuN、1:2,000滴定希釈(Chemicon社、英国ハンプシャー所在)、ニューロン用;ポリクローナルウサギ抗GFAP、1:100(Shandon Immunon社、米国ペンシルベニア州ピッツバーグ所在)、星状細胞用;モノクローナルラット抗CD11b、1:100(Accurate Chemical社、アメリカニューヨーク州ウェストベリー所在)、ミクログリア用;モノクローナルヤギ抗CD144、1:200(Santa Cruz社)、内皮細胞用。非免疫IgG(Vector社)を特異性を省略した抗体として等しい稀釈液における陰性対照として使用した。
【0132】
脳内ニューロンの細胞死の範囲を決定するために、本願以前に記載されているように[38]、「フルオレスセインインサイチュ細胞死検知キット(Fluorescein In Situ Cell Death Detection Kit)」(Roche Diagnostics社、ドイツ国マンハイム所在)を使用して、メーカーの使用説明書に従いTUNEL組織化学を行なった。簡単に説明すると、スライドを30分間感想させた後、室温にて10%ホルマリン溶液で固定した。PBSで(3分を3回)洗浄した後、切片を氷冷エタノール酢酸溶液(2:1)に入れて−20℃で5分間インキュベートした。その後、それらをPBS中で洗浄し、3%Triton X−100 PBS溶液の透過化溶液中で室温で60分間インキュベートし、次にフルオレスセイン−dUTPを含む反応緩衝液中でTdT酵素と37℃で90分間インキュベートした。陰性対照はTdT酵素なしで反応緩衝液のみを用いて行った。陽性対照は等しい脳切片をDNase グレードI溶液(500U/ml;Roche社)で室温で20分間消化し、その後他の試料と常に分離しておくことにより行なった。標識後、切片を再度PBSで洗浄した。そして、染色されていない(TUNEL陰性の)細胞を目に見えるようにするために、切片をDAPI(Vector社)による蛍光用のVectashieldO取付媒体でカバーした。試料はすべて染色直後、Axioskop 40蛍光顕微鏡(ドイツ国、Zeiss社)を用いて、DAPIに関しては460nm、TUNEL蛍光に関しては520nmで評価し、Alpha digi doc 1201ソフトウェア(Alpha Innotech、米国カリフォルニア州サンレアンドロ所在)により分析した。
【0133】
統計分析。 統計分析を市販のソフトウェア(Windows(登録商標) SPSS9.0)を使用して行なった。fB−/−およびfB+/+マウスの血清中の補体C5aレベルの差を独立スチューデントT検定(unpaired Student’s t−test)にて決定した。0.05よりも小さいP値を統計的に有意であるとみなした。
結果
脳損傷fB−/−マウスで補体の活性化が減じられる。
【0134】
本研究で使用されたすべてのfB−/−マウスおよび野生型同腹子(fB+/+)からの血清サンプルのスクリーニングにより、B因子はfB+/+マウスの血清でのみ検出可能であり、fB−/−マウスでは検出できないことが明らかとなった。これらの対照実験を行って、ノックアウトマウスでは血清中のB因子が完全に欠如していることを確認した(データは図示しない)。
【0135】
図10を参照すると、C57BL/6系の脳損傷fβ+/+およびfB−/−マウス由来の血清試料fJB−/―負荷(1つの群および時点当たりn=6)および正常なC57BL/6マウス(対照、n=4)由来の血清試料を、マウスC5aに特異的なELISAにより分析した(図10のデータは平均レベル±SDとして示す。*P<0.05、fB+/+ 対 対照およびfB+/+ 対 fB−/−マウス。TBI(外傷性脳損傷))。野生型C57BL/6マウスの実験滴閉鎖性頭部損傷は、補体カスケードの全体的活性化を生じさせたが、これは4時間から7日まで評価されたすべての時点で補体活性化産物C5aの血清レベルが有意に高いことにより決定された(P<0.05 対 正常マウス血清、独立スチューデントt検定、図10)。これに対し、アナフィラトキシンC5aの血清レベルは、頭部外傷後のすべての対応する時点においてfB−/−正常マウスで劇的に減少し、清浄マウスではベースラインレベルまで低下した(P<0.05 対 脳損傷fB+/+マウス、独立スチューデントt検定、図10)。これらのデータは、副経路が脳外傷後の補体活性化のための根源であることを示唆しており、これは慢性関節リウマチ、自己免疫性腎炎および虚血/再潅流損傷等のCNS外の疾病に対して以前に実証されたにすぎない概念である[33、37]。
【0136】
B因子の欠如は頭部外傷後のニューロン細胞死の減少につながる。
本願以前に記載されたように、ニューロン細胞死は閉鎖性頭部損傷後7日までの野生型C57BL/6マウスの損傷した脳で観察された[38]。図12−14を参照すると、野生型(fB+/+、各図のパネルA−E)およびB因子ノックアウトマウス(fB−/−、各図のパネルF−J)の左(損傷した)半球の管状低温凍結切片を、ニューロンマーカであるNeuNに対する特異的抗体を用いた免疫組織化学により(各図のA、B、F、G)、または隣接切片のTUNEL組織化学により(各図のD、E、I、J)分析した。TUNEL切片の全体的な細胞の形態はDAPI核染色法により明らかとなる(各図のC、H)。各図のパネルB、E、G、Jは、各図のそれぞれのパネルA、D、F、Iの4倍の倍の大きさを表わしている(元の倍率:100×(A、C、D、F、H、I)、400×(B、E、G、J))。外傷後4〜24時間以内にfB+/+マウスの損傷した半球でTUNEL陽性細胞の増加が検知され(それぞれ図12および13)、これは7日まで続いた(図14)。4’,6’−ジアミノ−2−フェニルインドール(DAPI)による各染色(図12−14のパネルCおよびH)によれば、TUNEL組織化学によって評価された隣接切片の細胞形態が示された。ニューロンは、特異的細胞マーカであるNeuNに対する隣接切片の免疫組織化学によりメインのTUNEL陽性細胞型として決定された(図12−14のパネルA、B、FおよびG)。これに対して、星状細胞(抗GFAP)、ミクログリア(抗CD11b)および内皮細胞(抗CD144)の染色により、脳内のこれらの常在細胞が頭部外傷の本モデルでは関連するTUNEL染色を呈しないことが明らかとなった(データは図示しない)。その上、その典型的な細胞サイズおよび形態(グリア細胞に対して)、ならびに損傷した皮質におけるTUNEL陽性細胞の典型的なニューロン層により、ニューロンは支配的なTUNEL陽性の細胞型として確認された。これらの知見は、本実験および他の実験のTBIモデルならびに頭部を損傷した患者[38−42]におけるニューロンのアポトーシスに関する以前に公表されたデータを確証している。脳損傷したfB+/+マウスにおけるニューロン細胞死の程度とは対照的に、fB−/−マウスは外傷後4時間から7日までに損傷した脳のTUNEL陽性ニューロンの明らかな減少を示した(図12−14のパネルD、E、IおよびJ)。これらの知見は、ニューロンのアポトーシスの補体依存的制御の最近確立された概念を支援し[7、10、15、43]、TBI後の二次神経変性の程度を制御する際の補体活性化の副(B因子依存)経路の生体内における重要性を高めている。
【0137】
これは、本願発明者が知る限り、脳外傷後の神経病理学に寄与する副経路の役割を専ら調べた最初の研究である。fB−/−マウスは、多発性硬化症の動物モデルの実験的脱髄からは保護されることが以前に示されている[44]。Natafとその同僚による研究は、B因子の遺伝子欠如が、機能的副補体活性化経路の完全な欠如を誘発し、自己免疫および外傷性CNS損傷モデルにおける神経保護に本質的な役割を果たすという点で本願発明者の今回の知見を支持している。
【0138】
損傷fB−/−脳におけるBcl−2のアップレギュレーションおよびFasのダウンレギュレーション
外傷後のニューロンのアポトーシスが、Fas媒介外因性経路によりおよびアポトーシスの内在経路のミトコンドリア抗アポトーシスメディエータBcl−2の抑制により促進されることが示されている[45−51]。図11を参照すると、シャム手術されたおよび頭部損傷されたfB+/+およびfB−/−マウスの損傷した半球から得たホモジナイズした脳組織標本をSDS−PAGEにかけ、ニトロセルロース膜に転写し、Bcl−2に対する特異的抗体および化学発光による検出により分析した(ECL(登録商標)system、Amersham社)。マウスBcl−2に対応する視覚化された26kDaのバンドは、頭部損傷された野生型同腹子と比較して、24時間目にノックアウトマウスで増強された。さらに、fB+/+マウスと比較して、評価されたすべての時点で脳損傷ノックアウトマウスではFas受容体のダウンレギュレーションの染色強度が明らかだった(データは図示しない)。ブロット例は3つの独立した実験を表している。
【0139】
より詳細には、ウエスタンブロット分析により、発明者はB+/+同腹子と比較して、外傷後24時間目に頭部損傷脳fB−/−の脳ホモジネートにおける保護Bcl−2タンパク質レベルが顕著にアプレギュレートされていることを見出した(図11)。TBI後の他の時点でノックアウトマウスと野生型マウスの間のBcl−2発現に明白な差は見られなかった(図11)。アポトーシスの外因性経路に関して、Fas受容体発現の顕著なダウンレギュレーションは、fB+/+と比較してfB−/−マウスでTBI後の4時間から7日までに見られた(図11)。これらのデータは定量的ではないが、26kDa(Bcl−2;図11)および48kDa(Fas;データは図示しない)のバンドの染色強度の差は、上述の時点では、対応する野生型同腹子より脳損傷ノックアウトマウスでより強く見られる。これらの知見は、TBI後のニューロンのアポトーシスを制御する際の、損傷した脳でのBcl−2の抑制およびFas受容体発現の誘導による補体活性化の副経路の関与を示している。異なるモデル系において他の研究者によって以前に決定されたように[45−47]、いずれの態様も、損傷後のニューロンのアポトーシスの制御に重要である。制御された皮質衝撃を受けた脳外傷モデルに関する実験的研究では、野生型同腹子と比較してトランスジェニックマウスでは外傷後7日目までのBcl−2遺伝子の過剰発現により皮質の病変体積が著しく減少することが実証された[52]。このように、Bcl−2はTBI後のアポトーシスのミトコンドリア(内因性)経路の制御に重要な役割を果たす[4、50、52、53]。
【0140】
本願発明者は本願以前にCrry−Ig(マウスの組換えキメラ融合分子)によるC3転換酵素レベルにおける補体活性化の「全体(pan)」阻害により脳内Bcl−2の遺伝子およびタンパク質発現が増大し、脳損傷マウスの海馬の生存ニューロンが増大することを示した[32]。マウスの自己免疫脳炎のモデルでは、Crry−Igによる補体活性化の阻害によってニューロンのアポトーシスが有意に減少した[15]。
【0141】
本研究のデータは、TBIの神経病理学的結果に寄与する際の補体活性化の副経路の生物学的重要性を支持しており、将来の薬学研究の基礎に例えばB因子拮抗剤[33、54]等の選択的な副経路阻害を与えるものである。
【0142】
まとめると、本データは、外傷後の補体の活性化(C5a生成)の全範囲および脳外傷後の二次的なニューロン細胞死(TUNEL、Bcl−2およびFasデータ)への寄与における補体活性化の副経路の主な役割についての初めての証拠を提供する。TBIモデルでの実験による補体阻害に関する本願以前に観光されたすべての研究は、補体カスケードにC3転換酵素の「通常の接合」レベルにて干渉すること[26、28−32]またはアナフィラトキシンC5aまたはその受容体の特異的ブロック等によりカスケードのさらに下流で干渉すること[30]に着目していたため、上記は新規で刺激的な発見である。脳外傷の神経病理学における補体副経路の病態生理学敵役割をこれまで過小評価していたのは、種々の神経学的疾病[55,56]において古典的経路の優勢な役割が歴史的に確立されてきたことが理由の一部にある可能性がある。しかしながら、本研究から得られた結果は、これらの洞察が、TBIの設定[57]等の複雑な多元的な神経炎症性疾患における補体副経路の「本当の」生体内での重要性を必ずしも反映しないことを示している。重度に頭部損傷した患者のくも膜下の区画に高レベルのB因子が存在するという事実は[36]、B因子を薬学的ターゲットとすることが合理的かつ予測可能であるという本願請求項をさらに支持している。
【0143】
実施例4の参照文献
1.McArthur et al.,Brain Pathol 2004,14: 185−94.
2.Gaetz,Clin Neurophysiol 2004,115:4−18.
3.Eldadah et al.,J Neurotrauma 2000,17:811−829.
4.Raghupathi R,Brain Pathol 2004,14:215−222.
5.Wong et al.,Neurocrit Care 2005,3: 177−182.
6.Zhang et al.,Crit Care 2005,9:66−75.
7.Stahel et al.,Brain Res Rev 1998,27:243−56.
8.Cole et al.,Clin Sci (Lond) 2003,104:455−66.
9.Schmidt et al.,Eur J Trauma 2004,30: 135−149.
10.Cole et al.,MoI Immunol 2006,Jan 5 (印刷前の電子出版)
11.Farkas et al.,J Physiol 1998,507:679−87.
12.Nataf et al.,Trends Neurosci 1999,22:397−402.
13.Stahel et al.,J Neuroimmunol 2000,109:164−72.
14.O'Barr et al.,J Immunol 2001,166:4154−4162.
15.Alexander et al.,J Immunol 2005,175:8312−8319.
16.Morgan,Crit Rev Immunol 1999,19:173−98.
17.Singhrao et al.,Am J Pathol 2000,157:905−18.
18.Bellander et al.,J Neurotrauma 2001,18:1295−311.
19.Ohlsson et al.,J Neurotrauma 2003,20:895−904.
20.Ohlsson and Havton,Neurosci Lett 2005,Nov 10 (印刷前の電子出版)
21.Casarsa et al.,Eur J Immunol 2003,33:1260−1270.
22.Xiong et al.,J Neurosci 2003,23:955−60.
23.Bellander et al.,J Neurosurg 1996,85:468−75.
24.Keeling et al.,J Neuroimmunol 2000,105:20−30.
25.Kyrkanides et al.,J Neuroimmunol 2001,119:268−277.
26.Rancan et al.,J Cereb Blood Flow Metab 2003,23:1070−4.
27.Stahel et al.,J Neurotrauma 2001,18:773−81.
28.Kaczorowski et al.,J Cereb Blood Flow Metab 1995,15:860−4.
29.Hicks et al.,J Neurotrauma 2002,19:705−14.
30.Sewell et al.,J Neuroimmunol 2004,155:55−63.
31.Pillay et al.,Ann N Y Acad Sci 2005,1056:450−461.
32.Leinhase et al.,Exp Neurol 2006 (近刊).
33.Holers and Thurman,MoI Immunol 2004,41:147−152.
34.Thurman et al.,J Immunol 2003,170:1517−1523.
35.Thurman et al.,Kidney Int 2005,67:524−30.
36.Kossmann et al.,J Neuroimmunol 1997,73:63−9.
37.Thurman and Holers,J Immunol 2006,176:1305−1310.
38.Stahel et al.,J Cereb Blood Flow Metab 2000,20:369−80.
39.Rink et al.,Am J Pathol 1995,147:1575−1583.
40.Yakovlev et al.,J Neurosci 1997,17:7415−7424.
41.Williams et al.,Acta Neuropathol 2001,102:581−590.
42.Marciano et al.,J Neurosci 2004,24:2866−2876.
43.Elward et al.,J Biol Chem 2005,280:36342−54.
44.Nataf et al.,J Immunol 2000,165:5867−5873.
45.Felderhoff−Mueser et al.,Neurobiol Dis 2002,11:231−245.
46.Qiu et al.,J Neurosci 2002,22:3504−3511.
47.Raghupathi et al.,Neuroscience 2002,110:605−616.
48.Raghupathi et al.,J Neurotrauma 2003 ,20 :421 −435.
49.Strauss et al.,Neurotox Res 2004,6:333−342.
50.Mohamad et al.,Biocell 2005,29:149−161.
51.Friedlander,N Engl J Med 2003,348:1365−1375.
52.Raghupathi et al.,J Cereb Blood Flow Metab 1998,18:1259−69.
53.Shacka et al.,Curr Drug Targets CNS Neurol Disord 2005,4:25−39.
54.Thurman et al.,MoI Immunol 2005,42:87−97.
55.Morgan and Gasque,Immunol Today 1996,17:461−6.
56.Barnum,MoI Med 1999,5:569−82.
57.Schmidt et al.,Brain Res Rev 2005,48:388−399.
58.Matsumoto et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1997,94:8720−8725.
59.Holers,Immunopharmacology 2000,49: 125−31.
60.Roof and Hall,J Neurotrauma 2000,17:367−388.
61.Yao et al.,J Neurotrauma 2005,22:656−658.
62.Chen et al.,J Neurotrauma 1996,13:557−68.
63.Yatsiv et al.,J Cereb Blood Flow Metab 2002,22:971−8.
64.Yatsiv et al.,FASEB J 2005,19:1701−1703.
本願に引用された各参考文献はその全体が本願に援用される。
【0144】
本発明の種々の実施形態を詳細に説明してきたが、それらの実施形態の改変および適応が当業者には思い浮かぶであろう。しかしながらそのような改変および適応が請求項に記載された本発明の範囲内にあるものとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物において外傷性脳損傷(TBI)に起因する生理学的損傷の少なくとも1つの徴候を軽減または防止するか、または動物のTBIからの回復を促進する方法であって、TBIを経験した動物の補体副経路を選択的に阻害する工程を含む方法。
【請求項2】
前記徴候が脳血管攣縮、心血管性陥凹、肝毒、免疫抑制および肺感染症から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記徴候が低血圧、低酸素血症、高炭酸症および低血糖症から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
動物において脊髄損傷(SCI)に起因する生理学的損傷の少なくとも1つの徴候を軽減または防止するか、または動物のSCIからの回復を促進する方法であって、SCIを経験した動物の補体副経路を選択的に阻害する工程を含む方法。
【請求項5】
前記徴候が脊髄の浮腫である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記阻害する工程は補体副経路のタンパク質の発現または活性を選択的に阻害する作用剤を動物に投与することを含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記補体副経路のタンパク質がB因子、D因子およびプロパージンから選択される請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記補体副経路のタンパク質はB因子である請求項6に記載の方法。
【請求項9】
補体副経路のタンパク質はD因子である請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記補体副経路のタンパク質はプロパージンである請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記作用剤は前記補体副経路のタンパク質の発現の阻害剤である請求項6〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記作用剤は前記補体副経路のタンパク質の生物活性阻害剤である請求項6〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記作用剤は前記補体副経路のタンパク質の拮抗剤である請求項6〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記作用剤は、前記補体副経路のタンパク質に選択的に結合しそれを阻害する、抗体、同抗体の抗原結合フラグメント、または抗原結合ポリペプチドである請求項6〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記抗体または同抗体の抗原結合フラグメントは第3ショートコンセンサスリピート(SCR)ドメイン内でB因子に結合し、前記抗体はC3bBb複合体の形成を阻止する請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記抗体または同抗体の抗原結合フラグメントはB因子に結合し、D因子によるB因子の切断を防止または阻害する請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記抗体または同抗体の抗原結合フラグメントはヒトB因子の第3ショートコンセンサスリピート(SCR)ドメインに結合する請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記抗体または同抗体の抗原結合フラグメントは以下のa)〜d)から選択されたB因子の3番目のSCRドメインのエピトープに選択的に結合する請求項14に記載の方法;
a)ほぼTyr139位置からほぼSer185位置までを含むヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部分または非ヒトB因子配列におけるそれと等価な位置を含むB因子のエピトープ、
b)ほぼTyr139位置からほぼSer141までを含むヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部分または非ヒトB因子配列におけるそれと等価な位置を含むB因子のエピトープ、
c)ほぼGlu182位置からほぼSer185位置までを含むヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部分または非ヒトB因子配列におけるそれと等価な位置を含むB因子のエピトープ、および
d)Tyr139、Cys140、Ser141、Glu182、Gly184またはSer185のうちの1または複数の位置を含むヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部分または非ヒトB因子配列におけるそれと等価な位置を含むB因子のエピトープ。
【請求項19】
前記抗体または同抗体の抗原結合フラグメントはAla137、Tyr139、Ser141、Glu182、Ser185、Thr189、Glu190およびSer192のアミノ酸位置のうちの1または複数または非ヒトB因子配列におけるそれと等価な位置を含むB因子(配列番号2)の3番目のSCRドメインのエピトープに選択的に結合する請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記抗体または同抗体の抗原結合フラグメントはAla137、Tyr139、Ser141、Glu182、Ser185、Thr189、Glu190およびSer192のアミノ酸位置または非ヒトB因子配列におけるそれと等価な位置を含むB因子(配列番号2)の3番目のSCRドメインのエピトープに選択的に結合する請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記抗体または同抗体の抗原結合フラグメントはAla137、Tyr139、Ser141、Glu182、Ser185、Thr189、Glu190およびSer192のアミノ酸位置または非ヒトB因子配列におけるそれと等価な位置から成るB因子(配列番号2)の3番目のSCRドメインのエピトープに選択的に結合する請求項14に記載の方法。
【請求項22】
前記抗体または同抗体の抗原結合フラグメントはB因子の3番目のSCRドメインの一部分の三次元構造内の非線形エピトープに選択的に結合し、前記一部分は少なくとも配列番号2のAlal37−Serl92アミノ酸位置または非ヒトB因子配列におけるそれと等価な位置により規定される請求項14に記載の方法。
【請求項23】
前記抗体または同抗体の抗原結合フラグメントは多数の哺乳類のB因子に選択的に結合し、C3bBb複合体の形成を阻止する請求項14に記載の方法。
【請求項24】
前記抗体または同抗体の抗原結合フラグメントはヒトおよび非ヒト霊長類、マウス、ラット、ブタ、ウマおよびウサギから選択される動物のB因子に選択的に結合する請求項14に記載の方法。
【請求項25】
前記抗体は補体を活性化しないアイソタイプまたはサブクラスである請求項14〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記抗体はモノクローナル抗体である請求項14〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記抗原結合フラグメントはFAbフラグメントである請求項14〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記抗体はヒト化抗体である請求項14〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記抗体は二重特異性抗体である請求項14〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記抗体は一価抗体である請求項14〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記抗体はモノクローナル抗体1379(ATCC寄託番号PTA−6230より作製)である請求項14〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記作用剤は動物の静脈内または脳に投与される請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記作用剤は動物の静脈内、脊髄、または脊髄の硬膜上腔に投与される請求項4に記載の方法。
【請求項34】
前記作用剤は、前記作用剤を投与しない場合と比較して、動物のTBIまたはSCIに起因する生理学的損傷の少なくとも1つの徴候を測定可能な程度に軽減するのに有効な量で動物に投与される請求項6〜33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記作用剤は70−80mmHgを超える脳潅流圧(CPP)を維持するのに有効な量で投与される請求項1に記載の方法。
【請求項36】
前記作用剤は頭蓋内圧(ICP)を低下させるのに有効な量で投与される請求項1に記載の方法。
【請求項37】
前記作用剤は脊髄における浮腫を軽減するのに有効な量で投与される請求項4に記載の方法。
【請求項38】
前記作用剤は前記医薬として許容される担体に入れて投与される請求項6〜37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記医薬として許容される担体は血液脳関門を横断することができる化合物または組成物である請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記医薬として許容される担体は注射可能な賦形剤である請求項38に記載の方法。
【請求項41】
動物に身体障害、認知障害、および心理社会的−行動−情緒障害から選択されたTBIの徴候を治療するための別の化合物を投与する工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項42】
前記化合物は浸透圧剤、鎮静剤、鎮痛剤、筋弛緩剤およびバルビツール剤から選択される請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記動物にステロイドを投与する工程をさらに含む請求項4に記載の方法。
【請求項44】
頭蓋内血腫の外科的除去による大部分の病変の減少、浸透圧剤による脳浮腫の軽減、脳室内カテーテルによる脳脊髄液(CSF)の治療的排出、コンピュータ断層撮影(CT)スキャン、鎮静、鎮痛、筋弛緩、中等度過呼吸、中等度低体温、およびバルビツール剤による昏睡から選択されたプロトコルにより動物のTBIを治療する工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項45】
ステロイドの投与、脊髄の固定、減圧手術、椎体安定化手術、椎体再整列手術、および牽引から選択されたプロトコルにより動物のSCIを治療することをさらに含む請求項4に記載の方法。
【請求項46】
前記動物は哺乳類である請求項1〜45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記動物はヒトである請求項1〜45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
外傷性脳損傷(TBI)を経験した動物におけるTBIに起因する生理学的損傷の少なくとも1つの徴候を軽減または防止する方法であって、B因子の第3ショートコンセンサスリピート(SCR)ドメインに結合するか同ドメインをブロックすることによりB因子を阻害する作用剤を投与する工程を含む方法。
【請求項49】
脊髄損傷(SCI)を経験した動物におけるSCIに起因する生理学的損傷の少なくとも1つの徴候を軽減または防止する方法であって、B因子の第3ショートコンセンサスリピート(SCR)ドメインに結合するか同ドメインをブロックすることによりB因子を阻害する作用剤を投与する工程を含む方法。
【請求項50】
前記作用剤はB因子に選択的に結合する抗体または同抗体の抗原結合フラグメントである請求項48または49に記載の方法。
【請求項51】
組成物であって、
a)単離抗体、同抗体の抗原結合フラグメント、および抗原結合ポリペプチドから選択され、補体副経路のタンパク質の発現または生理活性を選択的に阻害する第1の作用剤および
b)外傷性脳損傷(TBI)の徴候の治療のための第2の作用剤
を含む組成物。
【請求項52】
組成物であって、
a)単離抗体、同抗体の抗原結合フラグメント、および抗原結合ポリペプチドから選択され、補体副経路のタンパク質の発現または生理活性を選択的に阻害する第1の作用剤
および
b)脊髄損傷(SCI)の症状の治療のための第2の作用剤
を含む組成物。
【請求項53】
前記第1の作用剤がB因子、D因子およびプロパージンから選択されたタンパク質の発現または生理活性を阻害する請求項51または52に記載の組成物。
【請求項54】
前記第1の作用剤は。第3ショートコンセンサスリピート(SCR)ドメイン内でB因子に結合し、C3bBb複合体の形成を阻害または防止する請求項51または52に記載の組成物。
【請求項55】
前記第1の作用剤は抗体または同抗体の抗原結合フラグメントである請求項51〜54のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項56】
前記抗体はモノクローナル抗体1379である請求項55に記載の組成物。
【請求項57】
前記第2の作用剤は身体障害、認知障害、および心理社会的−行動−情緒障害から選択されたTBIの徴候を治療ための化合物である請求項51に記載の組成物。
【請求項58】
前記第2の作用剤は浸透圧剤、鎮静剤、鎮痛剤、筋弛緩剤およびバルビツール剤から選択される請求項51に記載の組成物。
【請求項59】
第2の作用剤はステロイドである請求項52に記載の組成物。
【請求項60】
外傷性脳損傷(TBI)の治療組成物用の、補体副経路を選択的に阻害する作用剤の使用方法。
【請求項61】
脊髄損傷(SCI)の治療組成物用の、補体副経路を選択的に阻害する作用剤の使用方法。
【請求項62】
前記作用剤はB因子に選択的に結合する抗体または同抗体の抗原結合フラグメントである請求項60または61の使用方法。
【請求項1】
動物において外傷性脳損傷(TBI)に起因する生理学的損傷の少なくとも1つの徴候を軽減または防止するか、または動物のTBIからの回復を促進する方法であって、TBIを経験した動物の補体副経路を選択的に阻害する工程を含む方法。
【請求項2】
前記徴候が脳血管攣縮、心血管性陥凹、肝毒、免疫抑制および肺感染症から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記徴候が低血圧、低酸素血症、高炭酸症および低血糖症から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
動物において脊髄損傷(SCI)に起因する生理学的損傷の少なくとも1つの徴候を軽減または防止するか、または動物のSCIからの回復を促進する方法であって、SCIを経験した動物の補体副経路を選択的に阻害する工程を含む方法。
【請求項5】
前記徴候が脊髄の浮腫である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記阻害する工程は補体副経路のタンパク質の発現または活性を選択的に阻害する作用剤を動物に投与することを含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記補体副経路のタンパク質がB因子、D因子およびプロパージンから選択される請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記補体副経路のタンパク質はB因子である請求項6に記載の方法。
【請求項9】
補体副経路のタンパク質はD因子である請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記補体副経路のタンパク質はプロパージンである請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記作用剤は前記補体副経路のタンパク質の発現の阻害剤である請求項6〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記作用剤は前記補体副経路のタンパク質の生物活性阻害剤である請求項6〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記作用剤は前記補体副経路のタンパク質の拮抗剤である請求項6〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記作用剤は、前記補体副経路のタンパク質に選択的に結合しそれを阻害する、抗体、同抗体の抗原結合フラグメント、または抗原結合ポリペプチドである請求項6〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記抗体または同抗体の抗原結合フラグメントは第3ショートコンセンサスリピート(SCR)ドメイン内でB因子に結合し、前記抗体はC3bBb複合体の形成を阻止する請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記抗体または同抗体の抗原結合フラグメントはB因子に結合し、D因子によるB因子の切断を防止または阻害する請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記抗体または同抗体の抗原結合フラグメントはヒトB因子の第3ショートコンセンサスリピート(SCR)ドメインに結合する請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記抗体または同抗体の抗原結合フラグメントは以下のa)〜d)から選択されたB因子の3番目のSCRドメインのエピトープに選択的に結合する請求項14に記載の方法;
a)ほぼTyr139位置からほぼSer185位置までを含むヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部分または非ヒトB因子配列におけるそれと等価な位置を含むB因子のエピトープ、
b)ほぼTyr139位置からほぼSer141までを含むヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部分または非ヒトB因子配列におけるそれと等価な位置を含むB因子のエピトープ、
c)ほぼGlu182位置からほぼSer185位置までを含むヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部分または非ヒトB因子配列におけるそれと等価な位置を含むB因子のエピトープ、および
d)Tyr139、Cys140、Ser141、Glu182、Gly184またはSer185のうちの1または複数の位置を含むヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部分または非ヒトB因子配列におけるそれと等価な位置を含むB因子のエピトープ。
【請求項19】
前記抗体または同抗体の抗原結合フラグメントはAla137、Tyr139、Ser141、Glu182、Ser185、Thr189、Glu190およびSer192のアミノ酸位置のうちの1または複数または非ヒトB因子配列におけるそれと等価な位置を含むB因子(配列番号2)の3番目のSCRドメインのエピトープに選択的に結合する請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記抗体または同抗体の抗原結合フラグメントはAla137、Tyr139、Ser141、Glu182、Ser185、Thr189、Glu190およびSer192のアミノ酸位置または非ヒトB因子配列におけるそれと等価な位置を含むB因子(配列番号2)の3番目のSCRドメインのエピトープに選択的に結合する請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記抗体または同抗体の抗原結合フラグメントはAla137、Tyr139、Ser141、Glu182、Ser185、Thr189、Glu190およびSer192のアミノ酸位置または非ヒトB因子配列におけるそれと等価な位置から成るB因子(配列番号2)の3番目のSCRドメインのエピトープに選択的に結合する請求項14に記載の方法。
【請求項22】
前記抗体または同抗体の抗原結合フラグメントはB因子の3番目のSCRドメインの一部分の三次元構造内の非線形エピトープに選択的に結合し、前記一部分は少なくとも配列番号2のAlal37−Serl92アミノ酸位置または非ヒトB因子配列におけるそれと等価な位置により規定される請求項14に記載の方法。
【請求項23】
前記抗体または同抗体の抗原結合フラグメントは多数の哺乳類のB因子に選択的に結合し、C3bBb複合体の形成を阻止する請求項14に記載の方法。
【請求項24】
前記抗体または同抗体の抗原結合フラグメントはヒトおよび非ヒト霊長類、マウス、ラット、ブタ、ウマおよびウサギから選択される動物のB因子に選択的に結合する請求項14に記載の方法。
【請求項25】
前記抗体は補体を活性化しないアイソタイプまたはサブクラスである請求項14〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記抗体はモノクローナル抗体である請求項14〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記抗原結合フラグメントはFAbフラグメントである請求項14〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記抗体はヒト化抗体である請求項14〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記抗体は二重特異性抗体である請求項14〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記抗体は一価抗体である請求項14〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記抗体はモノクローナル抗体1379(ATCC寄託番号PTA−6230より作製)である請求項14〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記作用剤は動物の静脈内または脳に投与される請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記作用剤は動物の静脈内、脊髄、または脊髄の硬膜上腔に投与される請求項4に記載の方法。
【請求項34】
前記作用剤は、前記作用剤を投与しない場合と比較して、動物のTBIまたはSCIに起因する生理学的損傷の少なくとも1つの徴候を測定可能な程度に軽減するのに有効な量で動物に投与される請求項6〜33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記作用剤は70−80mmHgを超える脳潅流圧(CPP)を維持するのに有効な量で投与される請求項1に記載の方法。
【請求項36】
前記作用剤は頭蓋内圧(ICP)を低下させるのに有効な量で投与される請求項1に記載の方法。
【請求項37】
前記作用剤は脊髄における浮腫を軽減するのに有効な量で投与される請求項4に記載の方法。
【請求項38】
前記作用剤は前記医薬として許容される担体に入れて投与される請求項6〜37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記医薬として許容される担体は血液脳関門を横断することができる化合物または組成物である請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記医薬として許容される担体は注射可能な賦形剤である請求項38に記載の方法。
【請求項41】
動物に身体障害、認知障害、および心理社会的−行動−情緒障害から選択されたTBIの徴候を治療するための別の化合物を投与する工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項42】
前記化合物は浸透圧剤、鎮静剤、鎮痛剤、筋弛緩剤およびバルビツール剤から選択される請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記動物にステロイドを投与する工程をさらに含む請求項4に記載の方法。
【請求項44】
頭蓋内血腫の外科的除去による大部分の病変の減少、浸透圧剤による脳浮腫の軽減、脳室内カテーテルによる脳脊髄液(CSF)の治療的排出、コンピュータ断層撮影(CT)スキャン、鎮静、鎮痛、筋弛緩、中等度過呼吸、中等度低体温、およびバルビツール剤による昏睡から選択されたプロトコルにより動物のTBIを治療する工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項45】
ステロイドの投与、脊髄の固定、減圧手術、椎体安定化手術、椎体再整列手術、および牽引から選択されたプロトコルにより動物のSCIを治療することをさらに含む請求項4に記載の方法。
【請求項46】
前記動物は哺乳類である請求項1〜45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記動物はヒトである請求項1〜45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
外傷性脳損傷(TBI)を経験した動物におけるTBIに起因する生理学的損傷の少なくとも1つの徴候を軽減または防止する方法であって、B因子の第3ショートコンセンサスリピート(SCR)ドメインに結合するか同ドメインをブロックすることによりB因子を阻害する作用剤を投与する工程を含む方法。
【請求項49】
脊髄損傷(SCI)を経験した動物におけるSCIに起因する生理学的損傷の少なくとも1つの徴候を軽減または防止する方法であって、B因子の第3ショートコンセンサスリピート(SCR)ドメインに結合するか同ドメインをブロックすることによりB因子を阻害する作用剤を投与する工程を含む方法。
【請求項50】
前記作用剤はB因子に選択的に結合する抗体または同抗体の抗原結合フラグメントである請求項48または49に記載の方法。
【請求項51】
組成物であって、
a)単離抗体、同抗体の抗原結合フラグメント、および抗原結合ポリペプチドから選択され、補体副経路のタンパク質の発現または生理活性を選択的に阻害する第1の作用剤および
b)外傷性脳損傷(TBI)の徴候の治療のための第2の作用剤
を含む組成物。
【請求項52】
組成物であって、
a)単離抗体、同抗体の抗原結合フラグメント、および抗原結合ポリペプチドから選択され、補体副経路のタンパク質の発現または生理活性を選択的に阻害する第1の作用剤
および
b)脊髄損傷(SCI)の症状の治療のための第2の作用剤
を含む組成物。
【請求項53】
前記第1の作用剤がB因子、D因子およびプロパージンから選択されたタンパク質の発現または生理活性を阻害する請求項51または52に記載の組成物。
【請求項54】
前記第1の作用剤は。第3ショートコンセンサスリピート(SCR)ドメイン内でB因子に結合し、C3bBb複合体の形成を阻害または防止する請求項51または52に記載の組成物。
【請求項55】
前記第1の作用剤は抗体または同抗体の抗原結合フラグメントである請求項51〜54のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項56】
前記抗体はモノクローナル抗体1379である請求項55に記載の組成物。
【請求項57】
前記第2の作用剤は身体障害、認知障害、および心理社会的−行動−情緒障害から選択されたTBIの徴候を治療ための化合物である請求項51に記載の組成物。
【請求項58】
前記第2の作用剤は浸透圧剤、鎮静剤、鎮痛剤、筋弛緩剤およびバルビツール剤から選択される請求項51に記載の組成物。
【請求項59】
第2の作用剤はステロイドである請求項52に記載の組成物。
【請求項60】
外傷性脳損傷(TBI)の治療組成物用の、補体副経路を選択的に阻害する作用剤の使用方法。
【請求項61】
脊髄損傷(SCI)の治療組成物用の、補体副経路を選択的に阻害する作用剤の使用方法。
【請求項62】
前記作用剤はB因子に選択的に結合する抗体または同抗体の抗原結合フラグメントである請求項60または61の使用方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−162543(P2012−162543A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−79769(P2012−79769)
【出願日】平成24年3月30日(2012.3.30)
【分割の表示】特願2008−513763(P2008−513763)の分割
【原出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(308032460)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ コロラド,ア ボディー コーポレイト (25)
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF COLORADO,a body corporate
【出願人】(506348499)エムユーエスシー ファウンデーション フォー リサーチ ディベロップメント (5)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月30日(2012.3.30)
【分割の表示】特願2008−513763(P2008−513763)の分割
【原出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(308032460)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ コロラド,ア ボディー コーポレイト (25)
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF COLORADO,a body corporate
【出願人】(506348499)エムユーエスシー ファウンデーション フォー リサーチ ディベロップメント (5)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]