説明

多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料

【課題】ポリイミドが本来的に有する耐薬品性や成形特性(プロセス特性)を維持しつつ、従来のポリイミド系ハイブリッド材料と比較して、より優れた気体透過性、電気的特性、耐熱性、機械的強度等を有する、多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料を提供すること。
【解決手段】芳香族テトラカルボン酸二無水物と、所定の非対称構造を有する芳香族トリアミンと、末端にアミノ基或いはカルボキシル基を有する、ケイ素等のアルコキシ化合物若しくはそれらの誘導体とを反応せしめて得られる、複数の末端のうちの少なくとも一部に水酸基又はアルコキシ基を有する多分岐ポリアミド酸と、所定のアルコキシドの少なくとも一種以上とを、水の存在下、ゾル−ゲル反応せしめ、得られた反応物を脱水閉環せしめることにより、目的とする多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料に係り、特に、気体透過性、電気的特性、耐熱性、機械的強度等に優れた有機−無機ポリマーハイブリッドからなる多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、有機高分子及び無機化合物の特性を併有する材料として、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ナイロン(PA)、ポリエステル(PET)等の汎用高分子と、タルク(炭酸カルシウム)、クレイ(粘土)、シリカ等の無機化合物との混合物が、複合材料として工業的に広く用いられているが、近年では、そのような従来の複合材料より優れた特性を発揮する材料として、有機高分子相と無機酸化物相とが一体化されて、複合構造となっている(ハイブリッド化された)有機−無機ポリマーハイブリッドからなるハイブリッド材料が、各種開発されている(特許文献1を参照)。
【0003】
かかる有機−無機ポリマーハイブリッドにおける有機高分子としては、従来の汎用高分子以外にも様々なものが用いられている。例えば、ポリイミドは優れた気体透過性を発揮し、ガス分離材料等に利用されている(特許文献2〜4、及び非特許文献1を参照)ポリイミドは、気体透過性以外にも、電気特性、耐熱性、機械的強度、耐薬品性又は成形特性(プロセス特性)等においても非常に優れているところから、かかるポリイミドを用いた有機−無機ポリマーハイブリッドからなるハイブリッド材料が、各種提案されている(非特許文献1を参照)。ここで、従来の有機−無機ポリマーハイブリッドに用いられるポリイミドは、一般に、無水ピロメリット酸やビフェニルテトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物と、ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミンとから得られる直鎖状(線状)のものが、用いられていた。
【0004】
しかしながら、従来の、ポリイミドを用いた有機−無機ポリマーハイブリッドからなるハイブリッド材料にあっては、ポリイミド相と無機酸化物相とが一体的となった複合構造を呈することにより、種々の優れた特性を発揮するものではあるものの、近年では、更に優れた特性を発揮し得る新規なハイブリッド材料が望まれているのであり、この点において、未だ研究、改良の余地が残されていた。このような状況の下、本発明者等の一部は、特許文献5において、多分岐ポリイミド相と無機酸化物相とを有し、それらが共有結合によって一体化されて、複合構造となっている有機−無機ポリマーハイブリッドからなる多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−277512号公報
【特許文献2】特開昭57−15819号公報
【特許文献3】特開昭60−82103号公報
【特許文献4】特開昭60−257805号公報
【特許文献5】国際公開第2006/025327号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】山田 保治 他2名、「シリコン含有ポリイミドの特性と応用」、月刊高分子加工 別冊、株式会社高分子刊行会、1997年2月、第46巻、第2号、p.2−11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かくの如き事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、ポリイミドが有する耐薬品性及び成形特性(プロセス特性)を維持しつつ、従来のポリイミド系ハイブリッド材料と比較して、より優れた気体透過性、電気的特性、耐熱性、機械的強度等を有する、多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明者等は、そのような課題を解決すべく、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族トリアミンとからなり、1分子内に多数の末端を有する、所謂、樹木状構造を呈する多分岐ポリイミド(図1を参照)からなる多分岐ポリイミド相と、無機酸化物相とが、共有結合によって一体化されて、複合構造を呈する有機−無機ポリマーハイブリッドからなる多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料について鋭意検討を重ねた。その結果、本発明者等は、芳香族トリアミンとして特定の構造を有するものを用いて得られる多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料が、従来のポリイミド系ハイブリッド材料と比較して、気体透過性及び電気的特性等が非常に優れているうえ、多種多様な高機能材料の創製が可能であることを見出したのである。
【0009】
すなわち、本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであって、その第一の態様とするところは、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、下記一般式(I)で表される非対称構造を有する芳香族トリアミンと、末端にアミノ基或いはカルボキシル基を有する、ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム又はチタンのアルコキシ化合物若しくはそれらの誘導体とを反応せしめて得られる、複数の末端のうちの少なくとも一部に水酸基又はアルコキシ基を有する多分岐ポリアミド酸と、下記一般式(II)で表わされるアルコキシドの少なくとも一種以上とを、水の存在下、ゾル−ゲル反応せしめ、得られた反応物を脱水閉環せしめてなる多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料である。
【化1】

【化2】

【0010】
また、本発明の第二の態様においては、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、下記一般式(I)で表される非対称構造を有する芳香族トリアミンと、末端にアミノ基或いはカルボキシル基を有する、ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム又はチタンのアルコキシ化合物若しくはそれらの誘導体とを反応せしめて得られる、複数の末端のうちの少なくとも一部に水酸基又はアルコキシ基を有する多分岐ポリアミド酸を、脱水閉環せしめて多分岐ポリイミドとし、かかる多分岐ポリイミドと、下記一般式(II)で表わされるアルコキシドの少なくとも一種以上とを、水の存在下、ゾル−ゲル反応せしめて得られる多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料である。
【化3】

【化4】

【0011】
さらに、本発明の第三の態様は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、下記一般式(I)で表される非対称構造を有する芳香族トリアミンと、末端にアミノ基或いはカルボキシル基を有する、ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム又はチタンのアルコキシ化合物若しくはそれらの誘導体とを反応せしめて得られる、複数の末端のうちの少なくとも一部に水酸基又はアルコキシ基を有する多分岐ポリアミド酸を、重縮合及び脱水閉環せしめてなる多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料である。
【化5】

【0012】
加えて、本発明の第四の態様は、表面がアミノ基又はカルボキシル基にて修飾された無機酸化物微粒子と、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、下記一般式(I)で表される非対称構造を有する芳香族トリアミンとを反応せしめて得られる多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料である。
【化6】

【0013】
なお、上述した本発明に係る多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料の各態様においては、好ましくは、複数の末端に反応性残基(アミノ基、酸無水物基)を有し、そのうちの少なくとも一部が、1)アミン、カルボン酸、カルボン酸ハライド又はカルボン酸無水物、2)アミン、カルボン酸、カルボン酸ハライド又はカルボン酸無水物のフッ素含有化合物、又は、3)アミン、カルボン酸、カルボン酸ハライド又はカルボン酸無水物のスルホン酸基含有化合物との反応によって修飾されている。
【0014】
また、本発明は、上述した各態様の多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料からなる気体分離膜、電子材料用絶縁膜、耐熱性接着剤、及び固体電解質膜をも、その要旨とするものである。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明に従う多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料は、多分岐ポリイミド相と無機酸化物相とが共有結合によって一体化されて、複合構造を呈する有機−無機ポリマーハイブリッドからなる多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料のうち、特に、多分岐ポリイミド相が、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、所定の非対称構造を有する芳香族トリアミンとの反応によって生成したものであるところに大きな特徴が存するのである。そして、そのような特徴的な芳香族トリアミンを用いて得られる、本発明に係る多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料にあっては、従来のポリイミド系ハイブリッド材料と比較して、格段に優れた気体透過性、耐熱性、機械的強度、密着及び接着性等を発揮し得るのである。また、本発明の多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料にあっては、気体透過性のみならず、気体の選択分離性においても優れている。
【0016】
従って、そのような優れた特性を有する本発明の多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料からなる気体分離膜、電子材料用絶縁膜及び耐熱性接着剤、さらには固体電解質膜においても、同様に、優れた特性を発揮するのである。これら以外にも、コーティング剤(塗料)等の工業材料としても有利に用いることができると考えられる。
【0017】
さらに、複数の末端に存在する反応性残基(アミノ基、酸無水物基)を様々な化合物と反応せしめることによって修飾して得られる多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料にあっては、上記した特性以外の他の優れた特性も、効果的に発揮することとなる。具体的には、反応性残基(アミノ基、酸無水物基)のうちの少なくとも一部が、アミン、カルボン酸、カルボン酸ハライド又はカルボン酸無水物のフッ素含有化合物にて修飾された有機−無機ポリマーハイブリッドからなる多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料は、極めて低い誘電率を示すものである。また、アミン、カルボン酸、カルボン酸ハライド又はカルボン酸無水物のスルホン基含有化合物にて修飾された有機−無機ポリマーハイブリッドからなる多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料にあっては、優れたプロトン伝導度を有することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】多分岐ポリイミドの構造を概略的に示す説明図である。
【図2】本発明に従う多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料の一例について、その構造を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に従う多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料は、図2に示されるような構造を呈する有機−無機ポリマーハイブリッドからなるものである。かかる図2からも明らかなように、そこに示されている有機−無機ポリマーハイブリッド(多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料)は、図1に示される如き構造を有する多分岐ポリイミドからなる多分岐ポリイミド相と、SiO2 単位にて構成される無機重合物からなる無機酸化物相(図2中の点線にて囲まれた部分)とが、共有結合によって一体化されて、複合構造を呈している。そして、本発明に係る多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料は、多分岐ポリイミド相を構成する多分岐ポリイミドが、芳香族テトラカルボン酸二無水物と所定の非対称構造を呈する芳香族トリアミンとの反応によって生じたものであるところに、大きな特徴が存するのである。本発明の多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料は、有利には、以下の手法に従って製造される。
【0020】
先ず、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、所定の非対称構造を有する芳香族トリアミンとを反応せしめて、非対称多分岐ポリアミド酸を合成する。
【0021】
ここで、本発明において用いられ得る芳香族テトラカルボン酸二無水物及び所定の非対称構造を有する芳香族トリアミンとしては、従来より公知の各種のものであれば、何れも用いることが可能であり、それら公知のものの中から、目的とする多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料に応じた一種若しくは二種以上のものが、適宜に選択されて、用いられることとなる。
【0022】
具体的には、芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、無水ピロメリット酸(PMDA)、オキシジフタル酸二無水物(OPDA)、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、2,2’−ビス[(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BSAA)等の化合物を、例示することが出来る。
【0023】
また、本発明において用いられる、所定の非対称構造を有する芳香族トリアミンとは、下記一般式(I)で表される芳香族トリアミンである。具体的には、2,3’,4−トリアミノビフェニル、2,4,4’−トリアミノビフェニル、3,3’,4−トリアミノビフェニル、3,3’,5−トリアミノビフェニル、3,4,4’−トリアミノビフェニル、3,4’,5−トリアミノビフェニル、2,3’,4−トリアミノジフェニルエーテル、2,4,4’−トリアミノジフェニルエーテル、3,3’,4−トリアミノジフェニルエーテル、3,3’,5−トリアミノジフェニルエーテル、3,4,4’−トリアミノジフェニルエーテル、3,4’,5−トリアミノジフェニルエーテル、2,3’,4−トリアミノベンゾフェノン、2,4,4’−トリアミノベンゾフェノン、3,3’,4−トリアミノベンゾフェノン、3,3’,5−トリアミノベンゾフェノン、3,4,4’−トリアミノベンゾフェノン、3,4’,5−トリアミノベンゾフェノン、2,3’,4−トリアミノジフェニルスルフィド、2,4,4’−トリアミノジフェニルスルフィド、3,3’,4−トリアミノジフェニルスルフィド、3,3’,5−トリアミノジフェニルスルフィド、3,4,4’−トリアミノジフェニルスルフィド、3,4’,5−トリアミノジフェニルスルフィド、2,3’,4−トリアミノジフェニルスルフォン、2,4,4’−トリアミノジフェニルスルフォン、3,3’,4−トリアミノジフェニルスルフォン、3,3’,5−トリアミノジフェニルスルフォン、3,4,4’−トリアミノジフェニルスルフォン、3,4’,5−トリアミノジフェニルスルフォン、2,3’,4−トリアミノジフェニルメタン、2,4,4’−トリアミノジフェニルメタン、3,3’,4−トリアミノジフェニルメタン、3,3’,5−トリアミノジフェニルメタン、3,4,4’−トリアミノジフェニルメタン、3,4’,5−トリアミノジフェニルメタン、2−(2,4−ジアミノフェニル)−2−(3−アミノフェニル)プロパン、2−(2,4−ジアミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)プロパン、2−(3,4−ジアミノフェニル)−2−(3−アミノフェニル)プロパン、2−(3,5−ジアミノフェニル)−2−(3−アミノフェニル)プロパン、2−(3,4−ジアミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)プロパン、2−(3,5−ジアミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)プロパン、2−(2,4−ジアミノフェニル)−2−(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2−(2,4−ジアミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2−(3,4−ジアミノフェニル)−2−(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2−(3,5−ジアミノフェニル)−2−(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2−(3,4−ジアミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2−(3,5−ジアミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン等を、挙げることが出来る。
【化7】

【0024】
なお、本発明においては、上述した所定の非対称構造を有する芳香族トリアミンと共に、芳香族ジアミン、シロキサンジアミン、或いは、分子内にアミノ基を4個以上有する芳香族化合物を、芳香族トリアミンと共重合せしめた状態にて、或いは、ポリアミド酸合成時に芳香族トリアミン等と同時に添加することにより、使用することも可能である。そのような芳香族ジアミンとしては、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニール、ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス[(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−アミノフェノキシフェニル]スルホン、2,2−ビス[(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−[フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスアニリン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンや9,9−ビス(アミノフェニル)フルオレン等が挙げられる。また、シロキサンジアミンとしては、(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、ビス(アミノフェノキシ)ジメチルシランやビス(3−アミノプロピル)ポリメチルジシロキサン等が挙げられる。更に、分子内にアミノ基を4個以上有する芳香族化合物としては、トリス(3,5−ジアミノフェニル)ベンゼン、トリス(3,5−ジアミノフェノキシ)ベンゼン等が挙げられる。
【0025】
また、上述してきた、芳香族テトラカルボン酸二無水物、非対称構造を有する芳香族トリアミン、芳香族ジアミン、及び分子内にアミノ基を4個以上有する芳香族化合物の各化合物におけるベンゼン環に、炭化水素基(アルキル基、フェニル基、シクロヘキシル基等)、ハロゲン基、アルコキシ基、アセチル基、スルホン酸基等の置換基を有する誘導体であっても、本発明においては、用いることが可能である。
【0026】
そのような芳香族テトラカルボン酸二無水物と、非対称構造を有する芳香族トリアミン(及び、芳香族ジアミン、シロキサンジアミン、或いは分子内にアミノ基を4個以上有する芳香族化合物。以下、適宜アミン成分という。)との反応は、比較的低温(具体的には100℃以下、好ましくは50℃以下)の温度下において実施することが好ましい。また、芳香族テトラカルボン酸二無水物とアミン成分の反応モル比([芳香族テトラカルボン酸二無水物]:[アミン成分])は、好ましくは、1.0:0.3〜1.0:1.8、より好ましくは、1.0:0.4〜1.0:1.5の範囲内となるような量的割合において、反応せしめる。
【0027】
さらに、本発明に係る多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料を製造するに際しては、所定の溶媒内にて行なうことが好ましい。本発明において用いられ得る溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチルスルホン、ヘキサメチルスルホン、ヘキサメチルフォスホアミド等の非プロトン性極性溶媒や、m−クレゾール、o−クレゾール、m−クロロフェノール、o−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム等のエーテル系溶媒等を挙げることが出来る。これらの溶媒単独で、若しくは二種以上の混合溶媒として、使用することが可能である。
【0028】
次いで、得られた多分岐ポリアミド酸と、末端にアミノ基或いはカルボキシル基を有する、ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム又はチタンのアルコキシ化合物(以下、単にアルコキシ化合物とも言う。)若しくはそれらの誘導体とを、反応せしめる。
【0029】
すなわち、多分岐ポリアミド酸の末端に存在する酸無水物基又はアミノ基の少なくとも一部と、アルコキシ化合物中のアミノ基又はカルボキシル基とが反応することにより、複数の末端のうちの少なくとも一部にアルコキシ基を有する多分岐ポリアミド酸が得られるのである。なお、反応系内に水が存在する場合には、かかる水によって、アルコキシ基の一部が加水分解して水酸基となる。
【0030】
ここで、本発明においては、末端にアミノ基或いはカルボキシル基を有する、ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム又はチタンのアルコキシ化合物であれば、従来より公知のものが何れも用いられ得る。また、末端にカルボキシル基を有する、ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム又はチタンのアルコキシ化合物とは、末端に、一般式:−COOH、或いは、一般式:−CO−O−CO−で表わされる官能基を有するカルボン酸、酸無水物であり、それらの誘導体である酸ハライド(一般式:−COX。但し、XはF、Cl、Br、Iの何れかの原子。)も、本発明において用いることが可能である。具体的には、ケイ素のアルコキシ化合物としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシ
ラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノフェニルジメチルメトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシリルカルボン酸、プロピルメチルジエトキシシリルカルボン酸、ジメチルメトキシシリル安息香酸、テトラエトキシシリルプロピル琥珀酸等が挙げられる。チタンのアルコキシ化合物としては、特開2004−114360号公報中の段落[0085]において示されている如き構造(下記構造式)を呈するものが挙げられる。また、それらアルコキシ化合物の誘導体としては、例えば、各種ハロゲン化物等が挙げられる。
【化8】

【0031】
なお、上述したアルコキシ化合物と多分岐ポリアミド酸との反応は、先に説明した芳香族テトラカルボン酸二無水物とアミン成分とを反応せしめた際と同様の温度条件にて、実施されることが望ましい。
【0032】
そして、そのようにして得られた、複数の末端のうちの少なくとも一部にアルコキシ基(又は水酸基)を有する多分岐ポリアミド酸と、所定のアルコキシドの少なくとも一種以上とから、目的とする多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料(有機−無機ポリマーハイブリッド)が得られるのである。
【0033】
すなわち、複数の末端のうちの少なくとも一部にアルコキシ基(又は水酸基)を有する多分岐ポリアミド酸と、所定のアルコキシドの少なくとも一種以上とを、水の存在下において同一系内に存在せしめると、多分岐ポリアミド酸分子中のアルコキシ基とアルコキシドとが、ゾル−ゲル反応により重縮合するところから、図2に示されている如き無機酸化物相(図2においてはSiO2 単位にて構成される無機重合物)が形成せしめられることとなる。
【0034】
そして、そのようにして無機酸化物相が形成された多分岐ポリアミド酸に対して、熱処理や化学処理を施すと、ポリアミド酸分子内にその合成時から存在する反応性残基(アミノ基、酸無水物基)が脱水閉環せしめられ、以て、多分岐ポリイミド相と無機酸化物相とが共有結合によって一体化されて、複合構造を呈する有機−無機ポリマーハイブリッド、即ち、多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料が得られるのである。
【0035】
なお、本発明に係る多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料を製造するに際しては、多分岐ポリアミド酸とアルコキシドとの間におけるゾル−ゲル反応による重縮合を行なう前に、多分岐ポリアミド酸の脱水閉環を行なうことも、勿論、可能である。また、多分岐ポリアミド酸とアルコキシドとの重縮合(ゾル−ゲル反応)と、多分岐ポリアミド酸の脱水閉環とを、連続的に実施すること、具体的には、多分岐ポリアミド酸の溶液中にアルコキシドを添加し、所定時間、比較的低い温度を保った状態において、撹拌せしめて、多分岐ポリアミド酸とアルコキシドとを重縮合せしめた後、かかる溶液を加熱することにより、溶液内の多分岐ポリアミド酸(アルコキシドとの間で重縮合したもの)を脱水閉環せしめることも、可能である。なお、多分岐ポリアミド酸とアルコキシドとの間のゾル−ゲル反応を進行せしめる際には、100℃以下で実施することが好ましく、50℃以下で、実施することがより好ましい。
【0036】
ここで、本発明の多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料を製造する際には、アルコキシドとして、水の存在下において分子間で重縮合が可能なものであって、下記一般式(II)にて表わされるものが用いられる。具体的には、ジメトキシマグネシウム、ジエトキシマグネシウム、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、及びこれら化合物のアルキル置換体等の化合物が挙げられる。このような化合物の一種又は二種以上が適宜に選択されて、用いられることとなる。
【化9】

【0037】
また、そのようなアルコキシドの添加量の増減によって、得られる多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料中の無機酸化物量も増減する。かかるハイブリッド材料中の無機酸化物量は、0.05〜95重量%の範囲内にあることが好ましく、0.1〜50重量%の範囲内にあることがより好ましい。多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料は、含有する無機酸化物量が多くなるに従って、耐熱性、弾性率及び硬度等は向上するものの、その反面、材料自体が脆くなる。そのため、クラックの生成や耐衝撃性の低下を招きやすくなる。従って、無機酸化物量が適当な範囲内となるようにアルコキシドの添加量が決定されることとなるが、ハイブリッド材料の用途によって範囲は異なるため、材料として使用、応用が可能な限り、無機酸化物量が特に制限されるものではない。
【0038】
本発明の多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料は、成形材料、フィルム、コーティング剤、塗料、接着剤、分離膜等、様々な用途に用いられ得るものであるが、例えば、フィルム、コーティング剤、分離膜等として使用することを目的として、薄膜状のものを製造する場合には、一般にポリイミド等の高分子材料の場合と同様に、下記の方法で製造することが可能である。すなわち、1)上述した、複数の末端のうちの少なくとも一部にアルコキシ基(又は水酸基)を有する多分岐ポリアミド酸を含有する反応溶液、或いは、かかる多分岐ポリアミド酸とアルコキシドと水とを含有する反応溶液を、ガラス、高分子フィルム等の基盤上に流延せしめた後、熱処理(加熱乾燥)する方法、2)反応溶液をガラス、高分子フィルム等の基盤上にキャストした後、水、アルコール、ヘキサン等の受溶媒に浸漬せしめ、フィルム化させた後、熱処理(加熱乾燥)する方法、3)反応溶液に対して熱処理等を施して、そこに含まれる多分岐ポリアミド酸を予めイミド化(脱水閉環)せしめた後、かかる溶液をキャスト法により製膜し、乾燥する方法、4)前記3)における多分岐ポリアミド酸が予めイミド化された溶液を、基盤上にキャストした後、前記2)と同様にポリマーの受溶媒に浸漬し、フィルム化させた後、熱処理(加熱乾燥)する方法、等が挙げられる。本発明においては、これらの何れも採用することが可能である。
【0039】
そして、上述の如くして製造された、本発明の多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料にあっては、従来のポリイミド系ハイブリッド材料と比較して、優れた気体透過性、気体の選択透過性、及び耐熱性等を発揮し得るのである。従って、かかる多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料からなる気体分離膜、電子材料用絶縁膜、及び耐熱性接着剤、更には固体電解質膜等においても、それら優れた効果が発揮されることとなる。
【0040】
なお、本発明の多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料を使用する場合には、それを構成するポリイミドとは異なる構造のポリイミド又は、その他の樹脂、更には、従来より公知の酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤又は、充填剤等を配合することも、勿論、可能である。
【0041】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、本発明が、かかる実施形態に限定されるものでないことは、言うまでもない。
【0042】
例えば、上述の如くして得られた、複数の末端のうちの少なくとも一部に水酸基又はアルコキシ基を有する多分岐ポリアミド酸に、所定のアルコキシド及び水を加えることなく、単独で重縮合及び脱水閉環せしめることによっても、本発明の多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料を製造することが可能である。なお、多分岐ポリアミド酸分子間の重縮合(ゾル−ゲル反応)に際しては、水の存在が必要とされるが、多分岐ポリアミド酸分子内の脱水閉環の際に生ずる水によって、ゾル−ゲル反応は効果的に進行せしめられ得る。
【0043】
また、本発明の多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料は、表面がアミノ基又はカルボキシル基(酸無水物基を含む)にて修飾された無機酸化物微粒子と、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族トリアミンとを反応させることによっても、製造することが可能である。
【0044】
例えば、先ず、上述した手法と同様に、芳香族テトラカルボン酸二無水物と非対称構造を有する芳香族トリアミンとを反応せしめて、多分岐ポリアミド酸を合成する。かかる多分岐ポリアミド酸は、複数の末端のそれぞれに反応性残基(アミノ基、又は酸無水物基)を有するものであるところ、そのような多分岐ポリアミド酸の溶液中に、表面がアミノ基又はカルボキシル基(酸無水物基を含む)にて修飾された無機酸化物微粒子を添加すると、多分岐ポリアミド酸の反応性残基と、無機酸化物微粒子表面のアミノ基又はカルボキシル基とが効果的に反応して、多分岐ポリアミド酸及び無機酸化物微粒子が、共有結合によって一体化されてなる重合物が得られる。得られた重合物をイミド化(脱水閉環)せしめることによって、本発明の多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料が得られることとなる。
【0045】
なお、その際に用いられる無機酸化物粒子としては、マグネシア、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、又はゼオライト等の酸化物が挙げられる。無機酸化物粒子は球状の微粒子であることが好ましい。無機酸化物粒子の大きさ(平均粒径)は、1μm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、50nm以下のナノオーダーがさらに好ましい。
【0046】
さらに、上述の如くして得られた多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料にあっては、その多分岐ポリイミドの末端に存在する反応性残基(アミノ基又は酸無水物基)を、種々の化合物により化学修飾して、機能性基を付与することにより、多種多様な機能を発揮し得るようにすることも可能である。
【0047】
例えば、アミン、カルボン酸、カルボン酸ハライド又はカルボン酸無水物の、フッ素含有化合物又はケイ素含有化合物を用いて化学修飾を実施すると、より優れた低誘電性、撥水性又は、密着及び接着性等の表面特性を付与することが可能である。
【0048】
また、アミン、カルボン酸、カルボン酸ハライド又はカルボン酸無水物のスルホン酸基含有化合物を用いて化学修飾を実施すると、プロトン導電性を付与することが可能である。
【0049】
さらに、感光性を有する化合物で化学修飾すれば、感光性を有する多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料を、また、センサー機能を有する化合物で化学修飾すれば、種々のセンサー材料を、更には、酵素又は触媒成分となる金属化合物を用いて化学修飾すれば、固定化酵素又は坦持型触媒として有利に用いられ得る多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料を、製造することが可能である。
【実施例】
【0050】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何らの制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等が加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0051】
−実施例1−
撹拌機、窒素導入管及び塩化カルシウム管を備えた100mLの三つ口フラスコに、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)を1.33g仕込み、30mLのジメチルアセトアミド(DMAc)を加えて溶解した。この溶液を撹拌しながら、20mLのDMAcに溶解した2,4,4’−トリアミノジフェニルエーテル(TADE):0.34gを徐々に加えた後、25℃で3時間、撹拌し、多分岐ポリアミド酸を合成した。
【0052】
得られた多分岐ポリアミド酸のDMAc溶液に、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTrMOS):0.072gを加え、更に1時間、撹拌することにより、複数の末端のうちの少なくとも一部にメトキシシリル基を有する多分岐ポリアミド酸(以下、シラン末端多分岐ポリアミド酸という)を合成した。
【0053】
得られたシラン末端多分岐ポリアミド酸のDMAc溶液:6.0gに、テトラメトキシシラン(TMOS):0.079gと、水(H2O ):0.056gとを加え、室温にて24時間、撹拌した。その後、この混合溶液を、ポリエステルフィルム上にキャストし、85℃で2時間、乾燥し、更に、窒素雰囲気下にて、100℃で1時間、200℃で1時間、300℃で1時間、加熱処理を施し、重合体(試料1)を得た。得られた重合体(試料1)には、二酸化ケイ素換算で10重量%のシリカが含まれていた。
【0054】
試料1について、赤外吸収スペクトル測定(FT−IR測定)を実施したところ、ポリアミド酸のカルボニル基に由来する1650cm-1の吸収が認められない一方で、ポリイミドのカルボニル基に特徴的な1780、1725、1375及び720cm-1の吸収が認められた。また、シロキサン結合に由来する1100及び460cm-1の吸収が認められた。この結果より、得られた試料1が、多分岐ポリイミド−シリカハイブリッドからなる多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料であることが確認された。
【0055】
試料1の気体透過測定を、1気圧、25℃の条件の下、定容法(JIS規格試験法:JIS−Z−1707)に従って行なった。その測定結果を、下記表1に示す。
【0056】
また、試料1について、紫外−可視光透過測定を行なったところ、波長:600nmにおける光透過率は88%であった。次に、昇温速度:10℃/分にて熱重量測定(TGA測定)を行なったところ、熱分解温度(5%重量減少温度:Td5)は488℃であった。加えて、窒素雰囲気下にて、昇温速度:2℃/分で動的熱機械測定(DMA測定)を行い、ガラス転移温度(Tg )を求めたところ、391℃であった。更に、窒素雰囲気下にて、昇温速度:5℃/分で熱機械測定(TMA測定)を行ない、100から150℃における線膨張係数(CTE)を求めたところ、41ppm/℃であった。各測定により得られた結果を、下記表2に示す。なお、以下の実施例においても、実施例1と同様の条件にて、各物性を測定している。
【0057】
−実施例2及び3−
下記表3に示す量のTMOS及びH2O を用いた以外は、実施例1と同様の条件に従って、2種類の重合体(試料2及び3)を得た。これらの試料についても、試料1と同様のFT−IRスペクトルが得られ、本発明に従う多分岐ポリイミド−シリカハイブリッドであることが確認された。試料2及び3における諸物性の測定結果を、下記表1及び表2に示す。
【0058】
−実施例4−
実施例1と同様の手法に従って得られた、シラン末端多分岐ポリアミド酸のDMAc溶液:6.0gに、メチルトリメトキシシラン(MTMS):0.062gと、水(H2O ):0.065gとを加え、室温にて24時間、撹拌した。その後、この混合溶液を、ポリエステルフィルム上にキャストし、85℃で2時間、乾燥し、更に、窒素雰囲気下にて、100℃で1時間、200℃で1時間、300℃で1時間、加熱処理を施し、重合体(試料4)を得た。得られた重合体(試料4)には、二酸化ケイ素換算で10重量%のシリカが含まれていた。試料4における諸物性の測定結果を下記表1及び表2に示す。
【0059】
−実施例5〜7−
下記表3に示す量のMTMS及びH2O を用いた以外は、実施例4と同様の条件に従い、重合体(試料5〜7)を得た。これらの試料についても、試料1と同様のFT−IRスペクトルが得られ、本発明に従う多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料(多分岐ポリイミド−シリカハイブリッド)であることが確認された。試料5〜7における諸物性の測定結果を、下記表1及び表2に示す。
【0060】
−実施例8−
実施例1と同様の手法に従って得られたシラン末端多分岐ポリアミド酸のDMAc溶液を、ポリエステルフィルム上にキャストし、85℃で2時間、乾燥し、更に、窒素雰囲気下にて100℃で1時間、200℃で1時間、300℃で1時間、加熱処理を施し、重合体(試料8)を得た。得られた重合体(試料8)には、二酸化ケイ素換算で1.7重量%のシリカが含まれていた。
【0061】
試料8について、FT−IR測定を実施したところ、試料1と同様のFT−IRスペクトルが得られたことから、試料8が、本発明に従う多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料(多分岐ポリイミド−シリカハイブリッド)であることが確認された。また、試料8についても気体透過測定等を行なった。その結果を下記表1及び表2に示す。
【0062】
なお、下記表3に、各実施例におけるTMOS(テトラメトキシシラン)の使用量、MTMS(メチルトリメトキシシラン)の使用量、及び水の使用量を示す。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
表1からも明らかなように、本発明に係る多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料のうち、特に実施例1〜3に係る材料にあっては、シリカ含有量の増加に伴い、CO2 の気体透過係数:P(CO2 )の向上、及び、CO2 /CH4 の気体分離係数:α(CO2 /CH4 )の大幅な向上が認められる。また、実施例4〜7に係る材料にあっては、シリカ含有量の増加に伴い、CO2 の気体透過係数:P(CO2 )の飛躍的向上が認められる。かかる結果より、本発明に係る多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料が、極めて優れた気体分離膜となり得ることが確認されるのである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族テトラカルボン酸二無水物と、下記一般式(I)で表される非対称構造を有する芳香族トリアミンと、末端にアミノ基或いはカルボキシル基を有する、ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム又はチタンのアルコキシ化合物若しくはそれらの誘導体とを反応せしめて得られる、複数の末端のうちの少なくとも一部に水酸基又はアルコキシ基を有する多分岐ポリアミド酸と、下記一般式(II)で表わされるアルコキシドの少なくとも一種以上とを、水の存在下、ゾル−ゲル反応せしめ、得られた反応物を脱水閉環せしめてなる多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料。
【化1】

【化2】

【請求項2】
芳香族テトラカルボン酸二無水物と、下記一般式(I)で表される非対称構造を有する芳香族トリアミンと、末端にアミノ基或いはカルボキシル基を有する、ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム又はチタンのアルコキシ化合物若しくはそれらの誘導体とを反応せしめて得られる、複数の末端のうちの少なくとも一部に水酸基又はアルコキシ基を有する多分岐ポリアミド酸を、脱水閉環せしめて多分岐ポリイミドとし、かかる多分岐ポリイミドと、下記一般式(II)で表わされるアルコキシドの少なくとも一種以上とを、水の存在下、ゾル−ゲル反応せしめて得られる多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料。
【化3】

【化4】

【請求項3】
芳香族テトラカルボン酸二無水物と、下記一般式(I)で表される非対称構造を有する芳香族トリアミンと、末端にアミノ基或いはカルボキシル基を有する、ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム又はチタンのアルコキシ化合物若しくはそれらの誘導体とを反応せしめて得られる、複数の末端のうちの少なくとも一部に水酸基又はアルコキシ基を有する多分岐ポリアミド酸を、重縮合及び脱水閉環せしめてなる多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料。
【化5】

【請求項4】
表面がアミノ基又はカルボキシル基にて修飾された無機酸化物微粒子と、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、下記一般式(I)で表される非対称構造を有する芳香族トリアミンとを反応せしめて得られる多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料。
【化6】

【請求項5】
複数の末端に反応性残基を有し、そのうちの少なくとも一部が、アミン、カルボン酸、カルボン酸ハライド又はカルボン酸無水物との反応によって修飾されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料。
【請求項6】
複数の末端に反応性残基を有し、そのうちの少なくとも一部が、アミン、カルボン酸、カルボン酸ハライド又はカルボン酸無水物のフッ素含有化合物との反応によって修飾されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料。
【請求項7】
複数の末端に反応性残基を有し、そのうちの少なくとも一部が、アミン、カルボン酸、カルボン酸ハライド又はカルボン酸無水物のスルホン酸基含有化合物との反応によって修飾されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料からなる気体分離膜。
【請求項9】
請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料からなる電子材料用絶縁膜。
【請求項10】
請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料からなる耐熱性接着剤。
【請求項11】
請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料からなる固体電解質膜。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−172001(P2012−172001A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33117(P2011−33117)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】