説明

多孔性花弁状粒子、その製造方法および該多孔性花弁状粒子を含むブレーキ用摩擦材

【課題】 原材料として層状粘土鉱物を用いて、流動性を向上させ、ハンドリングを改善してなる、摩擦材や塗料、化粧品などの添加剤として有用な粉体粒子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 金属酸化物微粒子1〜75質量%を薄層内部に挿入してなる層状粘土鉱物の凝集体を、300〜900℃の温度にて焼成処理してなる多孔性花弁状粒子、および金属酸化物微粒子を含む層状粘土鉱物の水懸濁液をディスク噴霧乾燥し、次いでこの噴霧乾燥物を300〜900℃の温度にて焼成処理する、前記多孔性花弁状粒子の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細孔を有する多孔性花弁状粒子、その製造方法および該多孔性花弁状粒子を含むブレーキ用摩擦材に関する。さらに詳しくは、本発明は、摩擦材、塗料、化粧品などの添加剤として有用な多孔性花弁状粒子、その効果的な製造方法および前記多孔性花弁状粒子を含むブレーキ用摩擦材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
層状粘土鉱物からなる粉体粒子を製造するために、多くの技術が知られている。例えば、スメクタイト型粘土鉱物の層間をアルミナにより架橋して得られる粘土層間架橋多孔体の製造方法(例えば、特許文献1参照)や、イオン交換性の粘土―ケイ酸カルシウム複合体又はケイ酸カルシウムの層間に金属イオンをインターカレーションさせてなることを特徴とする紫外線防御剤(例えば、特許文献2参照)が開示されている。この特許文献2の技術においては、金属イオンとして、鉄族、アルミニウム族、チタン族、亜鉛族、銅族、アルカリ土類金属またはクロム族が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−30813号公報
【特許文献2】特開平11−29760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の技術においては、いずれも層間架橋体の作製は可能であるが、原材料の流動性は改善することができず、原材料の形態は素のままであり、バルクとしての粒子特性の変更はできないという問題がある。
層状粘土鉱物は、薄片のままでは、周囲への付着や配管内への詰まりなどが発生し、ハンドリングが悪い。
【0005】
本発明は、このような状況下になされたもので、原材料として層状粘土鉱物を用いて、流動性を向上させ、ハンドリングを改善してなる、摩擦材や塗料、化粧品などの添加剤として有用な粉体粒子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、下記の知見を得た。
金属酸化物微粒子を所定の割合で含む層状粘土鉱物の水懸濁液を、ディスク噴霧乾燥し、次いでこの噴霧乾燥物を300〜900℃の温度にて焼成処理することにより、細孔を有する多孔性花弁状粒子が得られること、そしてこの多孔性花弁状粒子は流動性が良好でハンドリングがよく、特に摩擦材用添加剤として有用であることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1) 金属酸化物微粒子1〜75質量%を薄層内部に挿入してなる層状粘土鉱物の凝集体を、300〜900℃の温度にて焼成処理してなることを特徴とする多孔性花弁状粒子、
(2) 平均粒子径(d50)が1〜300μmである上記(1)項に記載の多孔性花弁状粒子、
(3) 比表面積が5〜500m/gである上記(1)または(2)項に記載の多孔性花弁状粒子、
(4) 金属酸化物微粒子が、平均粒子径(d50)1〜50nmのチタニア粒子、ジルコニア粒子、アルミナ粒子およびシリカ粒子の中から選ばれる少なくとも1種である上記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の多孔性花弁状粒子、
(5) 層状粘土鉱物が雲母、カオリナイト、スメクタイト、バーミキュライトまたは緑泥石である上記(1)〜(4)項のいずれか1項に記載の多孔性花弁状粒子、
(6) 上記(1)〜(5)項のいずれか1項に記載の多孔性花弁状粒子の製造方法であって、金属酸化物微粒子を含む層状粘土鉱物の水懸濁液をディスク噴霧乾燥し、次いでこの噴霧乾燥物を300〜900℃の温度にて焼成処理することを特徴とする多孔性花弁状粒子の製造方法、
(7) ディスクアトマイザーを用いてディスク噴霧乾燥を行う上記(6)項に記載の製造方法、
(8) 金属酸化物微粒子を含む層状粘土鉱物の水懸濁液における固形分濃度が、0.5〜10質量%である上記(6)または(7)項に記載の製造方法、および
(9) 上記(1)〜(5)項のいずれか1項に記載の多孔性花弁状粒子を含むことを特徴とするブレーキ用摩擦材、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、摩擦材、塗料、化粧品などの添加剤として有用な多孔性花弁状粒子、その効果的な製造方法および前記多孔性花弁状粒子を含むブレーキ用摩擦材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例および比較例で得られた粒子の比表面積を示す柱状グラフである。
【図2】実施例および比較例で得られた粒子の細孔分布を示すグラフである。
【図3】実施例3で得られた多孔性花弁状粒子の内部を示すTEM写真である。
【図4】実施例4で得られた多孔性花弁状粒子の内部を示すTEM写真である。
【図5】実施例5で得られた多孔性花弁状粒子の内部を示すTEM写真である。
【図6】比較例2で得られた粉体粒子の内部を示すTEM写真である。
【図7】実施例6で得られた多孔性花弁状粒子の内部を示すTEM写真である。
【図8】実施例3で得られた多孔性花弁状粒子の外観を示すSEM写真である。
【図9】実施例4で得られた多孔性花弁状粒子の外観を示すSEM写真である。
【図10】比較例1で得られた粉体粒子の断面を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、本発明の多孔性花弁状粒子について説明する。
[多孔性花弁状粒子]
本発明の多孔性花弁状粒子(以下、単に花弁状粒子と称することがある。)は、金属酸化物微粒子1〜75質量%を薄層内部に挿入してなる層状粘土鉱物の凝集体を、300〜900℃の温度にて焼成処理してなることを特徴とする。
【0011】
本発明の花弁状粒子は、平均粒子径(d50)が1〜300μmの範囲にあることが好ましい。平均粒子径の範囲を1〜300μmとする理由は、1μm未満であると、花弁状態の形成が不十分であり、300μmを超えると、粒子がより球形化し、花弁形状が得られにくくなるのに対し、1〜300μmであると、上述の問題点がなく、摩擦材、塗料、化粧品用などの添加剤に好ましく用いることができるからである。本発明の花弁状粒子の平均粒子径(d50)は、5〜200μmであるのが好ましく、10〜100μmであるのがより好ましい。
【0012】
なお、花弁状粒子の平均粒子径(d50)は、レーザー回折散乱法式により測定された値である。
【0013】
本発明においては、花弁状粒子の比表面積を、5〜500m/gの範囲に、好ましくは7〜425m/gの範囲に、より好ましくは9〜350m/gの範囲に制御することができる。この比表面積は、層状粘土鉱物の薄層内部に含まれる金属酸化物微粒子の量や、焼成条件などによって、制御することができる。
【0014】
(層状粘土鉱物)
本発明の花弁状粒子を構成する層状粘土鉱物としては、陽イオン交換能を有する、天然粘土鉱物および合成粘土鉱物を挙げることができる。上記天然粘土鉱物および合成粘土鉱物としては、雲母、脆雲母、カオリナイト、スメクタイト、バーミキュライト、緑泥石等を挙げることができ、スメクタイトとしては、モンモリロナイト、サポナイト、バイデライト、ノントロナイト等を挙げることができる。また、雲母をフッ素処理した合成フッ素雲母等を挙げることができ、この合成フッ素雲母は、品質のバラツキが小さいことから層状粘土鉱物として好適であり、合成フッ素雲母としては、ナトリウム四ケイ酸フッ素雲母(NaMg2.5Si10)を例示することができる。これらの層状粘土鉱物は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
層状粘土鉱物の平均粒子径(d50)は0.5〜200μmであるのが好ましく、1〜100μmであるのがより好ましく、5〜60μmであることが特に好ましい。
【0016】
なお、層状粘土鉱物の平均粒子径(d50)は、レーザー回折散乱法式により測定された値である。
【0017】
(金属酸化物微粒子)
本発明の花弁状粒子において、層状粘土鉱物の薄層内部に挿入されてなる金属酸化物微粒子としては、チタニア粒子、ジルコニア粒子、アルミナ粒子およびシリカ粒子の中から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0018】
これらの金属酸化物微粒子の平均粒子径(d50)は、インターカレーションの観点から、好ましくは1〜50nm、より好ましくは3〜40nm、さらに好ましくは5〜30nmである。
【0019】
この平均粒子径(d50)の制御は、焼成前の層状粘土鉱物の凝集体における金属酸化物微粒子の粒径や、焼成条件を制御することによって行うことができる。
【0020】
なお、花弁状粒子中の金属酸化物微粒子の平均粒子径(d50)は、透過型電子顕微鏡(TEM)写真に基づいて、下記の方法により測定した値である。
【0021】
まず、試料をホルダーに固定後、Ptコーティングしたのち、FIB(集束イオンビーム装置)により、約100nm厚に切断し、その断面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真に基づき、花弁状粒子中の金属酸化物微粒子の平均粒子径(d50)を測定する。
【0022】
本発明の花弁状粒子における当該金属酸化物微粒子の含有量は、多孔質構造の観点から、1〜75質量%であることを要し、好ましくは2〜60質量%、より好ましくは5〜50質量%である。この含有量が1質量%未満では、本発明の効果が充分に発揮されず、一方75質量%を超えると、インターカレーションされないで、層状粘土鉱物端部への付着が増大する。
【0023】
次に、本発明の花弁状粒子の製造方法について説明する。
[花弁状粒子の製造方法]
本発明の花弁状粒子の製造方法は、前述した多孔性花弁状粒子の製造方法であって、金属酸化物微粒子を含む層状粘土鉱物の水懸濁液をディスク噴霧乾燥し、次いでこの噴霧乾燥物を300〜900℃の温度にて焼成処理することを特徴とする。
【0024】
(金属酸化物微粒子を含む層状粘土鉱物の水懸濁液の調製)
本発明の花弁状粒子の製造方法においては、まず、前述した金属酸化物微粒子を含む層状粘土鉱物の水懸濁液を調製する。
当該水懸濁液は、例えば下記の方法により調製することができる。
【0025】
まず、水性媒体と層状粘土鉱物とを混合して、該粘土鉱物に十分な層間水を取り込ませ、層間隙が最大限広がったゾルを形成させる。
【0026】
一方、適当な濃度の有機酸水溶液中に加水分解性金属化合物を加え、20〜70℃程度の温度にて5〜240分間程度、該金属化合物を加水分解・縮合反応させ、金属酸化物前駆体ゾルを形成させる。この際、用いられる有機酸は、金属酸化物前駆体ゾルを安定化させるためのもので、例えば酢酸、シュウ酸、ギ酸などのカルボン酸が挙げられる。
【0027】
次いで、前記の層状粘土鉱物のゾルと、金属酸化物前駆体のゾルとを混合し、通常室温〜100℃程度の温度で10〜300分間程度保持することにより、粘土鉱物に取り込ませた層間水と金属酸化物前駆体ゾルが置換され、粘土鉱物の層間に金属酸化物前駆体ゾルが挟み込まれてインターカレートされる。
【0028】
なお、前記の加水分解性金属化合物としては、加水分解性を有する、Ti化合物、Zr化合物、Al化合物およびSi化合物を好ましく挙げることができる。また、前記の金属酸化物前駆体ゾルとしては、チタニア前駆体ゾル、ジルコニア前駆体ゾル、アルミナ前駆体ゾルおよびシリカ前駆体ゾルを挙げることができる。
【0029】
<加水分解性金属化合物>
金属酸化物前駆体ゾルの形成に用いられる加水分解性金属化合物としては、例えば一般式(1)
MXm−n …(1)
(式中、Rは非加水分解性基、Mは金属原子で、Ti、Zr、AlまたはSi、Xは加水分解性基または水酸基を示し、mは金属原子Mの価数であり、mが4の場合、nは0〜3の整数、mが3の場合、nは0〜2の整数である。Rが複数ある場合、複数のRはたがいに同一でも異なっていてもよく、Xが複数ある場合、複数のXはたがいに同一でも異なっていてもよい。)
で表される化合物を用いることができる。
【0030】
前記一般式(1)において、Rで表される非加水分解性基としては、官能基を有していてもよい炭化水素基を挙げることができる。上記炭化水素基としては、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基もしくはアルケニル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を挙げることができる。
【0031】
前記アルキル基およびアルケニル基は、炭素数1〜25、特に1〜3のものが好ましく、シクロアルキル基は炭素数3〜25、特に3〜6のものが好ましい。アリール基は、炭素数6〜25、特に6〜10のものが好ましく、アラルキル基は炭素数7〜25、特に7〜10のものが好ましい。
【0032】
前記炭化水素基に導入されていてもよい官能基としては、例えばエステル結合、エーテル結合、エポキシ基、アミノ基、カルボキシ基、カルボニル基、アミド基、メルカプト基、スルホニル基、スルフェニル基、シアノ基、水酸基、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0033】
前記一般式(1)において、Xのうちの加水分解性基としては、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、ケトオキシム基、アシルオキシ基、ハロゲン原子などを挙げることができる。mは金属原子Mの価数を示し、MがTi、ZrおよびSiである場合は4であり、Alである場合は3である。mが4である場合には、nは0〜3の整数であり、0〜2の整数であることが好ましく、0または1であることがより好ましい。mが3である場合には、nは0〜2の整数であり、0または1であることが好ましい。
【0034】
前記一般式(1)で表される加水分解性金属化合物の好ましいものとしては、例えばテトラエトキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン、テトラ−sec−ブトキシチタン、テトラ−tert−ブトキシチタン、テトラアセトキシチタン、メチルトリエトキシチタン、ビニルトリエトキシチタン、フェニルトリエトキシチタン、メチルトリ−n−プロポキシチタン、ビニルトリ−n−プロポキシチタン、メチルトリイソプロポキシチタン、ビニルトリイソプロポキシチタン、フェニルトリイソプロポキシチタンなどのチタン化合物、および前記チタン化合物におけるチタンを、ジルコニウムまたはシランに置き換えたジルコニウム化合物またはシラン化合物、さらにはトリエトキシアルミニウム、トリ−n−プロポキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリ−n−ブトキシアルミニウム、トリイソブトキシアルミニウム、トリ−sec−ブトキシアルミニウム、ビニルジエトキシアルミニウム、フェニルジエトキシアルミニウム、メチルジ−n−プロポキシアルミニウム、ビニルジ−n−プロポキシアルミニウム、メチルジイソプロポキシアルミニウム、ビニルジイソプロポキシアルミニウム、フェニルジイソプロポキシアルミニウムなどのアルミニウム化合物を挙げることができる。これらの加水分解性金属化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
(ディスク噴霧乾燥処理)
本発明の花弁状粒子の製造方法においては、前記のようにして調製した金属酸化物前駆体ゾルを含む層状粘土鉱物の水懸濁液(粘土鉱物の層間に金属酸化物前駆体ゾルがインターカレートされている。)をディスク噴霧乾燥処理する。
【0036】
本発明者らは、前記の金属酸化物前駆体ゾルを含む層状粘土鉱物の水懸濁液の噴霧乾燥装置として、二流体ノズル式スプレードライヤー、ディスクアトマイザー式スプレードライヤーなどの種々の装置を試みたが、ディスクアトマイザー式スプレードライヤーを用いてディスク噴霧乾燥処理することにより初めて花弁状粒子が得られることを見出した。
【0037】
本発明の花弁状粒子の製造方法においてディスク噴霧乾燥処理は、金属酸化物前駆体ゾルを含む層状粘土鉱物の水懸濁液を回転するディスクアトマイザーにより噴霧乾燥することが好ましい。ディスクアトマイザーとしては、大川原化工機(株)製のM型ディスクアトマイザー、K型ディスクアトマイザー、N型ディスクアトマイザーを用いるのが好ましく、M型ディスクアトマイザーを用いるのが特に好ましい。
【0038】
本発明の花弁状粒子の製造方法においては、水懸濁液中の固形分濃度は、ディスク噴霧乾燥処理の円滑化や、花弁状粒子の形成の観点から、0.5〜10質量%であることが好ましく、0.75〜8質量%であることがより好ましく、1.0〜7質量%であることがさらに好ましい。この固形分濃度が0.5質量%未満では、水分の乾燥量が多くなって、生産効率が悪くなり、一方10質量%を超えると、水懸濁液の粘度が増大して効率的な装置への送液ができなくなる。
【0039】
(焼成処理)
本発明の花弁状粒子の製造方法においては、前述のようにして得られた噴霧乾燥物を、300〜900℃の温度にて焼成処理する。この焼成処理温度が300℃未満では焼成が不充分となり、一方900℃を超えると花弁中の金属酸化物粒子が成長し、粒径が大きくなり、花弁状粒子の比表面積の低下が大きくなる。また、1100℃近辺になると花弁同士の融着が生じる。
【0040】
焼成処理温度は、好ましくは500〜900℃、より好ましくは700〜900℃の範囲である。
【0041】
室温から、前記範囲における所定の温度までの昇温速度は、10〜500℃/hの範囲であることが好ましく、50〜400℃/hの範囲であることがより好ましく、100〜350℃/hの範囲であることがさらに好ましい。
【0042】
また、所定の温度に到達してからの保持時間は、通常0.5〜24時間程度、好ましくは1.0〜16時間、より好ましくは2.0〜12時間である。焼成処理後は、室温まで放冷する。
【0043】
この焼成処理により、細孔を有する多孔性花弁状粒子が得られる。この細孔を有する多孔性花弁状粒子は流動性が良好であって、ハンドリングがよく、また比表面積を、前述したように5〜500m/gの範囲に、好ましくは7〜425m/gの範囲に、より好ましくは9〜350m/gの範囲に制御することができる。
【0044】
本発明の多孔性花弁状粒子は、摩擦材、塗料、化粧品などの添加剤として有用であり、特に摩擦材用の添加剤として好適に用いられる。
【0045】
次に、本発明のブレーキ用摩擦材について説明する。
[ブレーキ用摩擦材]
本発明のブレーキ用摩擦材は、前述した本発明の多孔性花弁状粒子を含むことを特徴とする。
【0046】
本発明のブレーキ用摩擦材は、バインダー樹脂、固体潤滑材、繊維状補強材、摩擦調整材およびその他フィラーなどを含む摩擦材形成用材料を用い、常法に従って成形することにより、得ることができる。
【0047】
本発明のブレーキ用摩擦材においては、当該摩擦材形成用材料における補強材や摩擦調整材などのその他フィラーとして、前述した本発明の多孔性花弁状粒子を用いる。これにより、本発明のブレーキ用摩擦材は、相手材の摩耗抑制の効果を奏する。
【0048】
当該摩擦材形成用材料におけるバインダー樹脂としては、特に制限はなく、従来、ブレーキ用摩擦材において、バインダー樹脂として知られている公知の熱硬化性樹脂、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリベンゾオキサジン樹脂などの中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。
【0049】
当該摩擦材形成用材料における固体潤滑材としては、従来摩擦材に潤滑材として使用されている公知のものの中から、任意のものを適宜選択して併用することができる。この潤滑材の具体例としては、黒鉛、フッ化黒鉛、カーボンブラックや、硫化スズ、二硫化タングステン等の金属硫化物、さらにはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、窒化硼素などを挙げることができ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
当該摩擦材形成用材料における繊維状補強材としては、有機繊維および無機繊維のいずれも用いることができる。有機繊維としては、高強度の芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維;デュポン社製、商品名「ケブラー」など)、耐炎化アクリル繊維、ポリイミド繊維、ポリアクリレート繊維、ポリエステル繊維などを挙げることができる。一方、無機繊維としては、チタン酸カリウム繊維、バサルト繊維、炭化珪素繊維、ガラス繊維、炭素繊維、ワラストナイトなどの他、アルミナシリカ系繊維などのセラミック繊維、ステンレス繊維、銅繊維、黄銅繊維、ニッケル繊維、鉄繊維などの金属繊維等を挙げることができる。これらの繊維状物質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
また、当該摩擦材形成用材料における摩擦調整材としては、特に制限はなく、従来摩擦材に摩擦調整材として使用されている公知のものの中から、任意のものを適宜選択することができる。この摩擦調整材の具体例としては、マグネシア、酸化鉄などの金属酸化物;ケイ酸ジルコニウム;炭化ケイ素;銅、真ちゅう、亜鉛、鉄などの金属粉末類やチタン酸塩粉末等の無機摩擦調整材、NBR、SBR、タイヤトレッドなどのゴムダストや、カシューダストなど有機ダスト等の有機摩擦調整材を挙げることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
当該摩擦材形成用材料においては、補強材や摩擦調整材などのその他フィラーとして、本発明の多孔性花弁状粒子以外に、膨潤性粘土鉱物を含有させることもできる。この膨潤性粘土鉱物としては、例えばカオリン、タルク、スメクタイト、バーミキュライト、雲母などが挙げられる。
【0053】
また、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化カルシウムなどを含有させることができる。
【0054】
なお、当該摩擦材形成用材料においては、前記の潤滑材、摩擦調整材およびその他フィラーの中で無機系フィラーは、当該材料中への分散性を良好なものとするために、有機化合物で処理されたフィラーを用いることができる。
【0055】
有機化合物で処理されたフィラーとしては、例えば膨潤性粘土鉱物を始め、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マグネシア、アルミニウム粉、銅粉、亜鉛粉、黒鉛あるいは硫化スズ、二硫化タングステンなどの、有機化合物による処理物を挙げることができる。
【0056】
本発明の摩擦材を作製するには、前述した摩擦材形成用材料を金型などに充填し、常温にて5〜30MPa程度の圧力で予備成形し、次いで温度130〜190℃程度、圧力10〜100MPa程度の条件で、5〜35分間程度加熱・加圧成形したのち、必要に応じ160〜270℃程度の温度で1〜10時間程度、熱処理を行うことで、所望の摩擦材を作製することができる。
【実施例】
【0057】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例における諸特性は以下に示す方法により求めた。
【0058】
<得られた多孔性花弁状粒子>
(1)平均粒子径(d50
レーザー回折散乱法式により、粒度分布装置[ベックマン・コールター社製、機種名「LS13320」]を用い、平均粒子径(d50)を測定した。
【0059】
(2)比表面積、細孔分布
ガス吸着比表面積測定装置[(株)島津製作所製、機種名「Gemini」]を用いて、比表面積および細孔分布を測定した。
【0060】
(3)安息角
安息角測定装置[ホソカワミクロン社製、機種名「パウダーテスタ」]を用いて、安息角を測定した。安息角の値が小さいほど流動性がよい。
【0061】
(4)花弁状粒子中のチタニア粒子の平均粒子径(d50
透過型電子顕微鏡(TEM)[日立ハイテク社製、機種名「STEM HD−2000」]写真に基づき、下記の方法に従ってチタニア粒子の平均粒子径(d50)を測定した。
まず、試料をホルダーに固定後、Ptコーティングしたのち、FIB(集束イオンビーム装置)により、約100nm厚に切断し、その断面の前記TEM写真に基づき、花弁状粒子中のチタニア粒子の平均粒子径(d50)を測定した。
【0062】
(5)花弁状粒子中のチタニア粒子の含有率
下記の計算式
チタニア粒子含有率(質量%)=[使用アルコキシチタンのTiO換算質量/(使用膨潤性合成雲母質量+使用アルコキシチタンのTiO換算質量)]×100
に従って算出する。
【0063】
実施例1
(1)膨潤性合成雲母懸濁液の調製
層状粘土鉱物である膨潤性合成雲母(コープケミカル(株)製 ME−100)75gにイオン交換水2925gを加えた後、24時間攪拌して、合成雲母濃度が2.5質量%である合成雲母懸濁液を調製した。
【0064】
(2)チタニア前駆体ゾルの調製
イオン交換水645gに酢酸965gを加えて酢酸60質量%濃度の水溶液を作製し、これにテトラブトキシチタン160gを添加して、25℃にて1時間攪拌して、チタニア前駆体ゾルを調製した。
【0065】
(3)膨潤性合成雲母の層間へのチタニア前駆体ゾルのインターカレート
上記(1)で得られた合成雲母懸濁液に、上記(2)で得られたチタニア前駆体ゾルを加えて、室温で2時間攪拌することにより、膨潤性合成雲母の層間へチタニア前駆体ゾルをインターカレートした。
次いで、この混合液を遠心分離器により固液分離したのち、固形分の水洗を充分に行った。TiO含有率は30質量%である。
【0066】
(4)ディスク噴霧乾燥処理
上記(3)で水洗した固形分にイオン交換水を加え、固形分濃度2.5質量%の懸濁液を調製してディスクアトマイザー噴霧乾燥機[大川原化工機社製、機種名「CL−8型」]に供し、回転数20000rpm、送液速度28g/min、乾燥温度180℃の条件にてディスク噴霧乾燥処理を行った。
【0067】
(5)焼成処理
上記(4)で得られた噴霧乾燥物を、下記の条件で焼成処理を行い、細孔を有する多孔性花弁状粒子を得た。
<焼成条件>
室温→500℃:昇温速度250℃/h
500℃保持時間:2時間
500℃→室温:放冷
【0068】
得られた多孔性花弁状粒子におけるTiO含有率、比表面積、安息角、平均粒子径(d50)、乾燥方法、焼成条件などを第1表に示す。
また、図1に比表面積を柱状グラフで示すと共に、図2に細孔分布をグラフで示す。
【0069】
実施例2
実施例1(2)におけるテトラブトキシチタン量を160g(TiO含有率30質量%)から、240g(TiO含有率45質量%)に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行い、細孔を有する多孔性花弁状粒子を得た。
【0070】
得られた多孔性花弁状粒子におけるTiO含有率、比表面積、安息角、平均粒子径(d50)、乾燥方法、焼成条件などを第1表に示す。
また、図1に比表面積を柱状グラフで示すと共に、図2に細孔分布をグラフで示す。
【0071】
実施例3
実施例1(2)におけるテトラブトキシチタン量を160g(TiO含有率30質量%)から、320g(TiO含有率60質量%)に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行い、細孔を有する多孔性花弁状粒子を得た。
【0072】
得られた多孔性花弁状粒子におけるTiO含有率、比表面積、安息角、平均粒子径(d50)、乾燥方法、焼成条件などを第1表に示す。
また、図1に比表面積を柱状グラフで示すと共に、図2に細孔分布をグラフで示す。さらに、図3は多孔性花弁状粒子の内部を示す透過型電子顕微鏡(TEM)[日立ハイテク社製、機種名「STEM HD−2000」]写真、図8は多孔性花弁状粒子の外観を示す走査型電子顕微鏡(SEM)[日立ハイテク社製、機種名「S−4800」]写真である。
【0073】
実施例4
実施例1(2)におけるテトラブトキシチタン量を160g(TiO含有率30質量%)から、240g(TiO含有率45質量%)に変更すると共に、実施例1(5)における焼成条件を下記のように変更した以外は、実施例1と同様な操作を行い、細孔を有する多孔性花弁状粒子を得た。
<焼成条件>
室温→700℃:昇温速度250℃/h
700℃保持時間:2時間
700℃→室温:放冷
【0074】
得られた多孔性花弁状粒子におけるTiO含有率、比表面積、安息角、平均粒子径(d50)、乾燥方法、焼成条件などを第1表に示す。
また、図1に比表面積を柱状グラフで示すと共に、図2に細孔分布をグラフで示す。さらに、図4は多孔性花弁状粒子の内部を示すTEM写真、図9は多孔性花弁状粒子の外観を示すSEM写真である。
【0075】
実施例5
実施例1(2)におけるテトラブトキシチタン量を160g(TiO含有率30質量%)から、240g(TiO含有率45質量%)に変更すると共に、実施例1(5)における焼成条件を下記のように変更した以外は、実施例1と同様な操作を行い、細孔を有する多孔性花弁状粒子を得た。
<焼成条件>
室温→900℃:昇温速度250℃/h
900℃保持時間:2時間
900℃→室温:放冷
【0076】
得られた多孔性花弁状粒子におけるTiO含有率、比表面積、安息角、平均粒子径(d50)、乾燥方法、焼成条件などを第1表に示す。
また、図1に比表面積を柱状グラフで示すと共に、図2に細孔分布をグラフで示す。さらに図5は、多孔性花弁状粒子の内部を示すTEM写真である。
【0077】
実施例6
実施例1(5)において、焼成条件を下記のように変更した以外は、実施例1と同様な操作を行い、細孔を有する多孔性花弁状粒子を得た。
<焼成条件>
室温→300℃:昇温速度250℃/h
300℃保持時間:2時間
300℃→室温:放冷
【0078】
得られた多孔性花弁状粒子におけるTiO含有率、比表面積、安息角、平均粒子径(d50)、乾燥方法、焼成条件などを第1表に示す。また、図1に比表面積を柱状グラフで示すと共に、図2に細孔分布をグラフで示す。さらに図7は多孔性花弁状粒子の内部を示すTEM写真である。
【0079】
比較例1
原料の膨潤性合成雲母(前出)をそのまま使用し、熱風炉で乾燥処理したのち、実施例1(5)と同様な焼成条件にて焼成処理を行った。
【0080】
得られた粉体粒子における比表面積、安息角、平均粒子径(d50)、乾燥方法、焼成条件などを第1表に示す。
また、図1に比表面積を柱状グラフで示すと共に、図2に細孔分布をグラフで示す。
【0081】
比較例2
膨潤性合成雲母を用い、実施例1における(5)及び(6)の操作を行い、粉体粒子を得た。
【0082】
この粉体粒子における比表面積、安息角、平均粒子径(d50)、乾燥方法、焼成条件などを第1表に示す。
また、図1に比表面積を柱状グラフで示すと共に、図2に細孔分布をグラフで示す。さらに図6は粉体粒子の内部を示すTEM写真であり、シート間(縞状の間)に粒子は認められない。
【0083】
【表1】

【0084】
表1、図1、図2および各TEM写真より、テトラブトキシチタンを添加していない比較例1、2に対し、実施例1〜3ではテトラブトキシチタンの濃度増加とともに比表面積と細孔(メソ気孔)の増大が認められる。
【0085】
実施例2、4および5より、焼成処理温度の上昇により比表面積の減少が認められる。一方、焼成処理温度の上昇に伴い層間に挿入されているTiO粒子サイズの増大が認められる。
【0086】
実施例6より、焼成処理温度が300℃でも、比較例2に比べ比表面積の増大およびTiO粒子の成長が確認された。これより焼成処理温度は300℃以上必要であることが認められる。
また、実施例では安息角が減少しており、流動性の向上が認められる。
【0087】
以上から、本技術を用いることで薄層間にTiOを挿入した膨潤性合成雲母を作製し花弁状の粒子とすることでメソポアのサイズを変化させることができるとともに、粒子のバルク体としての流動性の向上が可能となり有用である。
【0088】
実施例7及び比較例3
第2表に示す配合組成の摩擦材形成用材料を予備成形(20MPa、10秒間保持)後、熱成形型へ投入し、150℃、40MPaにて6分間加熱・加圧成形したのち、この成形体を250℃にて3時間熱処理後、所定の寸法に加工してブレーキ用摩擦材を作製した。
【0089】
このブレーキ用摩擦材について、摩擦試験機(曙エンジニア社製)を使用し、JASO−C406−82に準拠して摩擦性能試験を実施した。その結果を第2表に示す。
【0090】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の細孔を有する多孔性花弁状粒子は、流動性が良好でハンドリングがよく、摩擦材、塗料、化粧品用などの添加剤として有用で、特に摩擦材用添加剤として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物微粒子1〜75質量%を薄層内部に挿入してなる層状粘土鉱物の凝集体を、300〜900℃の温度にて焼成処理してなることを特徴とする多孔性花弁状粒子。
【請求項2】
平均粒子径(d50)が1〜300μmである請求項1に記載の多孔性花弁状粒子。
【請求項3】
比表面積が5〜500m/gである請求項1または2に記載の多孔性花弁状粒子。
【請求項4】
金属酸化物微粒子が、平均粒子径(d50)1〜50nmのチタニア粒子、ジルコニア粒子、アルミナ粒子およびシリカ粒子の中から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔性花弁状粒子。
【請求項5】
層状粘土鉱物が雲母、カオリナイト、スメクタイト、バーミキュライトまたは緑泥石である請求項1〜4のいずれか1項に記載の多孔性花弁状粒子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の多孔性花弁状粒子の製造方法であって、金属酸化物微粒子を含む層状粘土鉱物の水懸濁液をディスク噴霧乾燥し、次いでこの噴霧乾燥物を300〜900℃の温度にて焼成処理することを特徴とする多孔性花弁状粒子の製造方法。
【請求項7】
ディスクアトマイザーを用いてディスク噴霧乾燥を行う請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
金属酸化物微粒子を含む層状粘土鉱物の水懸濁液における固形分濃度が、0.5〜10質量%である請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の多孔性花弁状粒子を含むことを特徴とするブレーキ用摩擦材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−82368(P2012−82368A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231615(P2010−231615)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)