多孔質体およびその製造方法
【課題】高速で高性能な分離のため、カラムの骨格を細くし連続貫通孔の細孔径を大きくして気孔率を増加さるとカラムの機械強度が低下し、連続貫通孔の形状や細孔径を高い精度で構造制御することは困難である。高い液体透過性を有しながら高速分離においても高性能を有し、連続貫通孔の形状や細孔の高い精度での構造制御を可能にする。
【解決手段】無孔性連続骨格に形成された連続貫通孔表面に細孔を内部に含む多孔性被覆層を構成させたことを特徴とする多孔質体。
【解決手段】無孔性連続骨格に形成された連続貫通孔表面に細孔を内部に含む多孔性被覆層を構成させたことを特徴とする多孔質体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なクロマトグラフィー用分離媒体(カラム)あるいは吸着材としては、スチレン・ジビニルベンゼン共重合体等の有機ポリマーよりなるものと、シリカゲル等の無機系充填材を筒内に充填したもの、さらには円柱状一体型多孔質体の側面を密閉して両端から通液できるようにしたものが知られている。
【0003】
有機系の材質で構成されたカラムは、低強度のために耐圧性が低い、溶媒により膨潤・収縮してしまう、加熱殺菌不可能である等の難点がある。従って、こうした難点を解消するカラムとして、無機系の材料、特にシリカゲルで構成されたカラムが汎用されている。
【0004】
しかし、シリカゲルカラムのうち、充填材を筒内に充填したものはカラム内に試料を流通させるために要する圧力が高く、高速分離に適さないという難点がある。この点を改善するために、近年、無孔性の芯材(コア)粒子の表面に多孔性被覆層(シェル)を形成した、いわゆるコア−シェル型充填粒子が開発された。コア−シェル型充填粒子によって充填されたカラムは、芯材径と被覆層厚みの合計が粒子径となるため、比較的大きい粒子間空間をもつが、薄い被覆層内のみの分配平衡によって分離が行われるため、従来の全多孔性粒子充填カラムよりも低い圧力で送液することが可能でありながら、従来よりも高理論段数および高速分離に適したカラムとなっている。
【0005】
一方、シリカ系多孔体を一塊の分離媒体とするモノリス型カラムでは、すでに細孔構造の形成と広範な構造の制御が実現され、液体クロマトグラフィー用の一体型分離媒体としての高性能が確認されている。特に本発明の発明者、中西は、ケイ素アルコキシドの加水分解重縮合によるゾルゲル法に於いて、スピノーダル分解による相分離を誘起し、その過度的構造をゲル化により固定し、共連続構造を有するシリカマクロ多孔体の発明に至り、出願している(特許文献1)。
【0006】
一体型多孔質体によるカラムは、カラム圧は低く高速分離が可能である。しかし、連続骨格の内部は直径2〜50nm程度のメソ孔が骨格径全体にわたって存在しており、クロマトグラフィー分離の際の溶質の拡散距離は、骨格の直径によって決まる。骨格の直径と連続貫通孔の大きさを独立に制御できることがモノリス型カラムの特筆すべき利点であるが、高速で高性能な分離のためにモノリス型カラムの骨格を細くし、連続貫通孔の細孔径を大きくして気孔率を増加させると、カラムの機械強度が低下することに加えて、連続貫通孔の形状や細孔径を高い精度で構造制御することが困難になる。その結果、カラム内の移動相の流動挙動が不均一になり、分離性能が低下するという問題が生じる。
【0007】
この従来のモノリス型カラムの基本たるモノリスゲルでは連続骨格とその中に形成される細孔は同時に形成される一段階合成であり、その孔径の制御は不可能である。
【0008】
連続貫通孔構造の均一性を維持するために、気孔率を増大させることなく、隣り合う骨格径と連続貫通孔径の和として定義されるドメインサイズを小さくすると、流動抵抗が増加して高速分離の特徴が損なわれる。同様の発想によって高速分離を実現する、直径2μm以下の小径粒子を充填したカラムを高圧で駆動するUPLC(UHPLC)などの技術が現存しており、粒子充填カラムの性能を凌駕することは困難な状況にある。すなわち、全多孔性の連続骨格からなる従来のモノリス型カラムの構造制御によって実現できる高速高性能分離には、限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2003/002458号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明に於いては、上記の諸問題を解決するために無機系、有機無機ハイブリッド系および架橋有機高分子系多孔質体、特に金属アルコキシドあるいは金属塩を出発物質とする、相分離を伴うゾルゲル法を用いて新たな無機系多孔質体及びその製造方法を提案するものである。本発明者等が研究したところ、モノリス型カラムを構成する連続骨格をもつ金属酸化物多孔質体を熱処理して、連続貫通孔構造を維持したまま緻密な骨格とし、緻密な骨格の表面に多孔性被覆層を形成することにより、機械的強度が高く、然も、高い液体透過性を持ちながら、高速分離においても性能劣化を生じない分離媒体を作製出来ることを見出した。
【0011】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。その目的は、従来の全多孔性モノリス型多孔質体が有する課題を解決し、圧力損失が低く、高速分離性能に優れた多孔質体、特に金属酸化物を主成分とする無機系あるいは有機無機ハイブリッド多孔質体を提供することにある。
【0012】
又、本発明の目的は第一段で、連続貫通構造の無孔性連続骨格として固い強度のあるコアの部分を作成し、その後第二段で連続貫通孔ない表面に多孔性薄膜層を形成するという二重構造のモノリス多孔質体を提供することである。
【0013】
更に本発明の他の目的は、多孔質体の貫通孔内部表面へ所望の組成の多孔性被覆層を形成することの出来る技術によって、液体クロマトグラフィー分離のみならず、多孔質体中に導入された溶液・液体と、多孔性被覆層表面との高効率な接触に基づく、反応、吸着、濃縮および分子認識媒体として優れた性能を発揮する多孔質担体としての適用範囲拡大に資することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的達成の手段は、無孔性連続骨格に形成された連続貫通孔の表面に、細孔を有する多孔性被覆層を形成させたことを特徴とする多孔質体。
【0015】
一つは、直径200nm以上50μm未満の連続貫通孔を形成する無孔性連続骨格の表面に、直径2〜50nmの細孔を有する厚さ100nm以上25μm未満の多孔性被覆層形成させたことを特徴とする多孔質体である。
【0016】
一つは、細孔の全容積が10cm3/g以下であって、前記連続貫通孔と細孔の容積の和に対して前記連続貫通孔の占める割合が20〜90%であることを特徴とする前記の多孔質体である。
【0017】
一つは、無孔性連続骨格が、二酸化ケイ素SiO2、二酸化チタンTiO2、二酸化ジルコニウムZrO2、二酸化ハフニウムHfO2、酸化アルミニウムA12O5、イットリウムアルミニウムガーネットYA1O5、マグネシウムアルミニウムスピネルMgA12O4、酸化鉄(III)Fe2O5、酸化亜鉛ZnO、水酸アパタイトCa5(PO4)5、ケイ素‐酸素結合を連続骨格内に有する有機無機ハイブリッド架橋体、ポリスチレン、ポリアクリラートなどのビニル系架橋有機高分子、炭素、のいずれかを主成分とすることを特徴とする前記の多孔質体である。
【0018】
一つは、無孔性連続骨格が二酸化ケイ素SiO2を主成分とするもしくは非晶質二酸化ケイ素SiO2であることを特徴とする前記の多孔質体である。
【0019】
一つは、多孔性被覆層が非晶質二酸化ケイ素SiO2からなることを特徴とする前記の多孔質体である。
【0020】
一つは、加水分解性金属化合物あるいは金属塩を出発物質とすることを特徴とする前記の多孔質体である。
【0021】
一つは加水分解性金属化合物うち金属アルコキシドを出発物質とすることを特徴とする前記の多孔質体である。
【0022】
一つは、金属アルコキシドのうちケイ素アルコキシドを出発物質とすることを特徴とする前記の多孔質体である。
【0023】
一つは、ケイ素アルコキシドのうちテトラメトキシシランあるいはテトラエトキシシランを出発物質とすることを特徴とする前記の多孔質体である。
【0024】
一つは、ケイ素アルコキシドのうちアルキルトリメトキシシラン、アルキルトリエトキシシラン、ジアルキルジメトキシシラン、ジアルキルジエトキシシラン、ビストリメトキシシリルアルカン、ビストリエトキシシリルアルカン、およびそれらの所定の割合の混合物を出発物質とすることを特徴とする前記の多孔質体である。
【0025】
一つは、前記の多孔質体を用いることを特徴とするクロマトグラフィー分離媒体である。
【0026】
一つは、前記の多孔質体を用いることを特徴とする分離あるいは濃縮用吸着材料である。
【0027】
一つは、ゾル‐ゲル反応により多孔質ゲルを得る工程と、該多孔質ゲルの細孔を消失させる工程と、該多孔質ゲルの細孔を消失させる工程により得られた無孔性連続骨格に多孔性被覆層を形成させる工程と、から成ることを特徴とする多孔質体の製造方法。
【0028】
一つは、酸性水溶液中に於いて、水溶性高分子あるいは界面活性剤に代表される相分離誘起剤の存在下、加水分解性金属化合物を加水分解・重合して反応溶液のゲル化を行なう工程と、生成したゲル中の有機成分を除去する工程と、得られた多孔質ゲルを焼成する工程と、上記の過程で得られた無孔性連続骨格の表面に多孔性被覆層を均一に形成する工程、多孔性被覆層の細孔径を水熱処理によって制御する工程と、から成ることを特徴とする前記の多孔質体の製造方法である。
【0029】
一つは、前記多孔性被覆層の細孔径を水熱処理によって制御する工程を有することを特徴とする前記の多孔質体の製造方法。
【0030】
一つは、反応溶液中の水あるいは相分離誘起剤の濃度を変化させることにより貫通孔径を制御し、乾燥して塊状試料を得た後、細孔を焼結によって消失させる工程、上記の過程で得られた無孔性連続骨格の表面に多孔性被覆層を均一に形成する工程を有することを特徴とする前記の多孔質体の製造方法である。
【0031】
一つは、無孔性連続骨格の表面に多孔性被覆層を形成させるために、無孔性連続骨格と親和性の高い反応溶液を用いて連続貫通孔内における相分離を誘起し、自発的濡れ転移現象の制御によって厚さおよび空間分布の均一な被覆層を得ることを特徴とする多孔質体の製造方法である。
【発明の効果】
【0032】
本発明多孔質体およびそれを使用したクロマトグラフィー用分離媒体は、以下のような多大の効果を有する。
(1)多孔質体を部分的に密封した一体型カラムなので、充填状態によって流量が変化するという問題がおこらず、ロット間のばらつきが小さい。
【0033】
(2)孔径及び容積率が適切に制御された連続貫通孔を有するので、圧力損失が小さい。従って、入口圧力が同じであれば、単位時間当たりの流量が多くなり、従来よりも短時間で分析することができる。しかも連続貫通孔表面の多孔性被覆層の細孔に固定されたすべての官能基と流体とが頻繁に接触して反応するので、官能基の消費効率が高い。従って、短いカラムで分析可能となる。
【0034】
(3)本発明多孔質体を血液注入カテーテルや注射器に用いるときの取扱いが容易である。
(4)連続貫通孔により形成される流体の流路の形状・サイズの均一性が高いので、分析物質の溶液−カラム内部表面間の分配が場所によってばらつくことがない。
(5)全多孔性シリカによって構成されるカラムが、高流速条件での使用によって性能劣化するのに比べて、本発明多孔質体は非常に高い流速で使用しても、分離媒体および吸着剤としての性能が劣化しない。
【0035】
(6)本発明のコア−シェル一体型カラムは、機械的強度の高い芯材(コア)と、分離や吸着機能を発揮させるための多孔性被覆層を様々な組合わせで選択することによって、液体クロマトグラフィー分離のみならず、触媒反応担体(リアクター)、固相抽出担体、固定化酵素担体など、外部から導入される液体・気体と担体表面に結合した機能部位との頻繁な接触を促す、多目的な担体とすることが出来、その使用、応用範囲は広域である。
【0036】
(7)本発明の多孔質体は、トリプシン、アルカリフォスファターゼ、グルコースイソメラーゼ等の酵素や白金、パラジウム等の触媒あるいは、オクタデシル基等の官能基が担持されて、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー等のクロマトグラフィー用カラムに好適に利用され得る。また、シリンジ先端やキャピラリー内部に固定して通液することにより、特定の化合物を分離あるいは濃縮するために用いることができる。また、適切な官能基で修飾することにより、多数のタンパク質混合物から、特異吸着によって特定の性質をもったものだけを吸着・分離するために用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明一実施例の多孔質体の電子顕微鏡図
【図2】本発明−実施例の多孔質体の水銀圧入装置による測定図
【図3】本発明一実施例の多孔質体の窒素吸着測定図
【図4】本発明一実施例の多孔質体の窒素吸着測定図
【図5】本発明一実施例多孔質体及び電子顕微図その部分拡大図
【図6】本発明一実施例多孔質体及びホスト多孔質体で作製されたクロマトグラフィカラムにより行なった分離状態評価クロマトグラム
【図7】本発明一実施例多孔質体を使用したHPLCカラムと市販クロマトグラフィカラムを使用して行なった理論段数と流速の関係比較図
【図8】本発明一実施例多孔質体を使用した作成HPLCカラムと市販HPLCカラムを使用して行なった圧力検査比較図
【図9】本発明一実施例多孔質体を使用したカラムによるクロマトグラム
【図10】本発明一実施例多孔質体を使用した固相抽出カートリッジ説明図
【図11】本発明一実施例多孔質体を使用した大気捕カートリッジ説明図
【図12】本発明一実施例多孔質体を使用したヘッドスペース分析用固相説明図
【図13】本発明一実施例多孔質体を使用したピペットチップ説明図
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下本発明について詳細に説明する。本発明は、原理的には上記中西発明の所謂ゾルゲル反応によるものである。
【0039】
本発明の多孔質体は、例えば水溶性高分子あるいは界面活性剤の共存下で酸性溶液中においてケイ素アルコキシドを加水分解・重合して反応溶液のゲル化を行った後、生成した多孔質ゲル中の有機成分を除去し、その後焼成することによって、製造され得る。
【0040】
中西発明による多孔質シリカなどの連続貫通孔をもつ一体型多孔質体は、十分高温で処理することによって連続貫通孔を構成するゲル骨格内のメソ孔が消失し、緻密なガラスあるいはセラミックスとなって機械強度が大幅に向上するが、熱処理温度を適切に選ぶことによって、連続貫通孔そのものは維持された多孔質体を作製することが出来る。
【0041】
前項の方法で作製された多孔質体(以下これを「ホスト多孔質体」と称する。)は表面積の値が十分に大きくなく、クロマトグラフィー分離などの多孔質体内部表面での外部物質との接触によって分離を実現する用途に対しては、高性能を発揮することが困難である。そこで、ホスト多孔質体の液体を導入することの出来る連続貫通孔の内部で、ホスト多孔質体を作製したときと同様な、重合誘起相分離によってゲル相と溶媒相がマイクロメートル領域の不均質構造を形成するようなゾル−ゲル反応を行うと、相分離によって発達する各々の微小な領域の大きさが連続貫通孔の直径よりも十分大きいときには、ゾル−ゲル転移に先立って発生した相分離による流動性のある不均質構造は、ホスト多孔体の連続骨格の表面に一様に濡れ広がり、均質な厚さの被覆層を形成する。やがて被覆層はゾル−ゲル転移を起こして固化し、細孔を含む多孔性被覆層となる。
【0042】
このようにしてホスト多孔質体の連続孔内表面に形成された多孔性被覆層は、通常のゲルと同様に反応性に富む網目構造を有するので、ゲルの構成成分と適度の反応性を有する溶液に接触させ、同時に加熱をおこなって温度を上げることによって、網目構造の物理化学的構造再編が起こり、適切な条件においては液体クロマトグラフィー分離に適した10nm以上の細孔を形成させることが出来る。水の沸点よりも高い温度で処理を行うことが必要な場合には、密閉容器中で加熱・加圧することによっていわゆる水熱処理を行い、所望の大きさの細孔を形成させることが出来る。細孔を形成させた多孔性被覆層から、不要な揮発性物質や分解性物質を除去するために、ホスト多孔質体および多孔性被覆層の耐熱温度よりも低い温度で適当な時間熱処理を行うことが望ましい。
【0043】
多孔性被覆層を作成するには、細孔は濡れ広がりを妨害するため、消失させる必要があり、アルカリ・酸溶液などによる化学的な侵食や熱や光エネルギーや物理的な圧力による骨格の収縮などによる細孔の消失が必要である。
一方ケイ素、チタンなどの無機原子を含むモノマーを用いてゾル‐ゲル法で作成する連続多孔体は、モノマーの重合によって形成されるため、シロキサン結合による収縮が生じる。しかし、その状態では、まだ機械的に弱く、さらに大きなエネルギーを加えて、より収縮させる事で、骨格内がより緻密になり機械的強度が高くなり、使い易い多孔体となる。
【0044】
収縮させる場合に、骨格内に消失してくれる空間すなわち細孔が存在しないと、余ったエネルギーの逃げ場所が無くなり、骨格が壊れてしまい、連続貫通孔が維持されないことになる。
そのため、骨格内に均一な細孔を持った多孔質体から無孔性多孔質体を形成した方が、機械的強度の強い多孔質体となる。
骨格を収縮させるためのエネルギーとして、紫外、赤外、蛍光などの光エネルギーや加熱などの熱エネルギーが有効で、加熱はもっとも簡単な手段となる。
【0045】
多孔体の組成やその合成方法によって異なるが、例えば、純シリカゲル多孔体では、構造がもっとも安定する800℃以上が良く、純チタニア多孔体では、500℃以上が良い御、有機の無機のハイブリッドタイプでは、不活性ガス中での300℃以上が良い。
すなわち、出発多孔体がどのような物であっても、無孔性多孔質体に対する処理を行なってから、その多孔質体の骨格表面に多孔性被覆層を形成した方が良い。
【0046】
緻密で機械強度の高いホスト多孔質体の骨格表面即ち連続貫通孔表面に、細孔を形成させた多孔質被覆層を密着させた多孔質体は、本発明の特徴である高速分離に適した液体クロマトグラフィーカラムとして利用される。ホスト多孔質体の化学組成と多孔質被覆層の化学組成は、ホスト多孔質体の骨格表面に被覆層が密着した状態で形成する限りにおいて、異なっていてもよい。特に好ましい組合せは、熱処理によって容易に非晶質シリカとなる純粋なシリカ組成のホスト多孔質体に、純粋なシリカの多孔性被覆層を形成させる場合であり、ホスト多孔質体の熱処理中に望ましくない結晶成長が起こりにくく、多孔性被覆層の内部への細孔形成が容易である等の利点がある。また、金属アルコキシド原料から得られる純粋なシリカ組成は、金属不純物等の混入の可能性が低く、液体クロマトグラフィーカラムとしての利用に好適である。
【0047】
以下に述べる純粋なシリカ組成のホスト多孔質体と、純粋なシリカ組成の多孔性被覆層の組合せは、液体クロマトグラフィーカラムとして利用する場合には好適であるが、より高い機械強度を得るためにホスト多孔質体を多結晶アルミナとし、微結晶性アルミナ(ベーマイト、バイエライトなど)を多孔性被覆層として同様な構造の多孔質体を作製することもできる。このようなアルミナ組成の多孔体は、高温で高圧の液体を流入させることのできる触媒担体として好適である。このように、ホスト多孔質体の連続貫通孔内部へ導入でき、ホスト多孔質体の骨格表面と強固に結合する物質であれば、その化学組成にかかわらず多孔性被覆層として導入することが可能であるので、本手法は原理的にホスト多孔質体と多孔性被覆層の化学組成を限定することなく適用される。同様に、連続貫通孔内部で相分離を誘起することによって起こる「濡れ転移」は、固体表面と液体との親和性および液体のサイズのみによって制御される物理現象であって、本質的に固体および液体の各々の化学組成は限定されるものではない。
【0048】
恒温水槽中に保持することにより固化するゾルゲル反応に於いて、流動性のあるゾルから固化したゲルへの転移と相分離が同時に起こり、溶媒リッチ相と骨格相とからなるゲルが生成する。また、この方法において、相分離誘起剤の濃度を調節すると、その割合に応じて加水分解と重縮合の速度が変化し、目的の細孔を広い範囲で変化させることができ、目的に適した細孔径・細孔容積を得ることができる。その後、約24時間熟成させ所望温度で乾燥させ多孔質ゲルを得る。得られた多孔質ゲルには、揃った連続貫通孔が三次元網目状に絡み合った構造で形成される。生成した多孔質ゲル中の有機成分を除去し、その後焼成することによって、ホスト多孔質体が製造される。
【0049】
ホスト多孔質体の固化したものを塩基性水溶液などに浸漬して密閉条件下で100℃以上に加熱する水熱処理工程を、加水分解工程と焼成工程との中間に加えると、細孔径及び細孔容積率を制御し易くなる。なお、水の塩基性は必ずしも必須条件ではなく、水本来の特性を十分生かせる水溶液であればこれに限定されない。加水分解と重縮合を同時に起こす特徴があるため、焼成前では、骨格がゆるい状態で結合されており、水などを添加して加熱処理を行う事で、貫通孔を変化させずに状態を変化させることができ、細孔径を自由に制御することができる。表面積、細孔径を、使用溶媒種、温度、時間で、自由に調整できることができるため、目的に応じた細孔径分布および比表面積をもつモノリスゲルを作製できる。100℃〜300℃で、1から10時間、水溶液中で行うことが適しているが、水を含む溶媒ならば、どのような温度でも良い。また、この処理によって、表面の状態を変化させることも可能になり、試料成分との相互作用も制御することが可能となる。
【0050】
このようにして得られたホスト多孔質体は、円柱状など最終的なデバイスの形状に適した形状を保ったままで乾燥させ、無機系ホスト多孔質体の場合には機械強度向上のために熱処理を行う。純粋なシリカゲルによってホスト多孔質体を作製する場合には、安定した構造を得るために600℃以上の温度で2〜5時間程度熱処理することが望ましい。熱処理温度を高くするほど、比表面積は低下し機械強度は向上する。熱処理温度を1000℃以上にすると、直径50nm未満のメソ孔はすべて消失し、ホスト多孔質体はいわゆる無孔性マクロ多孔体となる。この場合には骨格はほぼ純粋なシリカガラスと同等な物理特性を示し、マクロ孔の試料体積全体に占める体積(気孔率)に応じて、ち密なシリカガラスの10〜50%程度の圧縮破壊強度をもつ、多孔性物質としては非常に機械強度の高いホスト多孔体となる。
【0051】
多孔性被覆層の作製は、ホスト多孔質体と同様な組成で調製したゾル‐ゲル反応溶液を、ホスト多孔質体の連続貫通孔の中に導入して、同様な条件でゾル‐ゲル転移と相分離を誘起することによって行う。したがって多孔性被覆層の作製に好適な化学組成は、ホスト多孔質体に対して記述されたものに準じる。表面多孔性被覆層は通常、ゲルとなる成分を5〜10%程度含む溶液から作製されるので、ゾル‐ゲル反応を行う連続貫通孔の直径の5%内外の厚さで均一に形成される。すなわち直径2μmの連続貫通孔内で作製された多孔性被覆層は、およそ100nmの厚さとなる。多孔性被覆層の厚さは、ゾル‐ゲル反応を行う溶液の組成を調節すること、あるいは繰り返して多孔性被覆層の作製を行うことによって、増大させることもできる。
【0052】
そして、本発明のカラムとして使用する多孔質体は、連続貫通孔とこの連続貫通孔を構成するゲル骨格表面に形成された多孔性被覆層内の細孔の孔径、細孔の全容積、カラム全体に対する貫通孔の容積率、細孔と貫通孔との合計容積に対する細孔の容積率を構成要件とする。カラムの立体構造は、反応系の組成及び温度やpH値、有機高分子の分子量、その他加水分解性金属化合物の反応性に影響を及ぼす各種条件によって変わる。従って、立体構造の制御の方法を一律に述べることは困難であるが、前述した条件が同じであれば細孔径等がほぼ同じ目的物を再現性良く提供できる。
【0053】
本発明多孔質体製造に於ける中間物質として生成する多孔質ゲルからの相分離誘起剤の除去は、乾燥前のゲルを洗浄することによってある程度なすことができるが、洗浄過程の後に相分離誘起剤が分解あるいは燃焼する温度までゲルを十分長時間加熱してこれを完全に除去する方が有効である。
【0054】
本発明加水分解性金属化合物による多孔質カラムの製造に使用する相分離誘起剤は、理論的には所定の濃度の水溶液となし得る水溶性有機高分子であって、且つ加水分解性金属化合物の加水分解によって生成するアルコールを含む反応系中に、均一に溶解し得るものであれば良い。具体的には高分子金属塩であるポリスチレンスルホン酸のナトリウム塩またはカリウム塩、高分子酸であって解離してポリアニオンとなるポリアクリル酸、高分子塩基であって水溶液中でポリカチオンを生ずるポリアリルアミンおよびポリエチレンイミン、あるいは中性高分子であって主鎖にエーテル結合を持つポリエチレンオキシド、側鎖にピロリドン環を有するポリビニルピロリドン等が好適である。
【0055】
また界面活性を有する化合物、例えばポリエーテルを含むポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールそれぞれのブロック鎖から構成されるジブロックあるいはトリブロック共重合体(Pluronic F127,P123,F68,L122,L121ほか、いずれもドイツBASF社製品)も好適に用いられる。さらにハロゲン化アルキルアンモニウム等のカチオン性界面活性剤、ドデシル硫酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤、ラウリルジメチルアミノ酢酸(LDA)等の両イオン性界面活性剤も同様に用いることができる。
【0056】
有機高分子に代えて、極性溶媒であるホルムアミド、アセトアミド、N‐メチルホルムアミド、N‐メチルアセトアミド等の酸アミド類、エチレングリコール、グリセリン等の多価アルコールおよび糖アルコールなども用いることができる。
【0057】
加水分解性金属化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビストリメトキシシリルアルカン(架橋炭素数が1〜10程度のもの)、ビストリエトキシシリルアルカン(架橋炭素数が1〜10程度のもの)、チタニウムテトラn‐プロポキシド、チタニウムテトライソプロポキシド、チタニウムテトラn‐ブトキシド、チタニウムテトラs‐ブトキシド、チタニウムテトラt‐ブトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラn-ブトキシド、ジルコニウムテトラs‐ブトキシド、ジルコニウムテトラt‐ブトキシド、ハフニウムテトラプロポキシド、ハフニウムテトライソプロポキシド、ハフニウムテトラn‐ブトキシド、ハフニウムテトラs‐ブトキシド、ハフニウムテトラt‐ブトキシド、さらにこれらの混合物およびこれらを適宜重合させて酸化物含量を上げた物等を挙げることができる。またオキシ塩化チタニウム、オキシ塩化ジルコニウムなどのオキシ塩化物も同様に用いることができる。
【0058】
またプロピレンオキシドを用いるゾル-ゲル反応を利用する場合には、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化鉄(III)、硝酸鉄(III)、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、塩化クロム、硝酸クロム、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、塩化銅(II)、硝酸銅(II)、塩化イットリウム、硝酸イットリウム、などの金属塩およびこれらを適宜混合したものも同様に用いることができる。
【0059】
尚、本発明の加水分解性金属化合物による多孔質体は、カラムとして使用する場合、その立体構造が上記の条件を充足していれば、後述の作用効果を発揮するものである。従って、その製造法は、限定されない。
本発明の方法で作られた表面被覆型シリカゲルは、3次元網目構造のモノリス構造であり、強固な連続貫通孔構造と、極めて薄い多孔性被覆層をもつため、移動相流速を非常に高くした場合にも分離効率の低下がほとんど起こらない、高圧操作に適した高速分離カラムとして利用できる。
【0060】
(作用)
本発明の無孔性連続骨格の表面に多孔性被覆層を有する多孔質体を分離用媒体用のカラムとして使用する場合の作用について述べると、試料溶液等の流体は、カラムの一端から入って三次元網目状に連続した連続貫通孔を通過し、他端から出る。通過途中、従来の充填型カラムにおけるビーズのような極端に狭い流路がなく、しかも連続貫通孔の孔径が200nm以上であるから、流体が受ける抵抗は小さい。従って、圧力損失も小さい。
【0061】
貫通孔の孔径が同じであるなら、カラム全体に対する貫通孔の容積率が高いほど、圧力損失が小さくなるので好ましいが、容積率が90%を超えると機械的強度が著しく損なわれてしまい、単体でクロマトグラフィー用などのカラムを構成することが困難となる。他方、容積率が20%に満たないとかえって充填型カラムよりも圧力損失が大きくなる。クロマトグラフィー用として好適な容積率の範囲は、50〜80%である。
【0062】
そして、貫通孔を構成するゲル骨格内に細孔が形成されているので、比表面積が高い。従って、その細孔に、例えばオクタデシル基等の官能基を化学的修飾によって固定したり、グルコースイソメラーゼ、トリプシン等の酵素や白金、パラジウム等の触媒を担持させておくと、流体が通過する過程でこれらの分子と効率よく反応する。しかも官能基が細孔内に固定されているので、流体の流れが速くても官能基が流されることはない。
【0063】
但し、全気孔中の細孔の占める容積率は10%以上を必要とする。10%よりも少ないと、貫通孔の前記容積率を90%まであげたとしても、官能基をほとんど固定することができないからである。他方、細孔の全容積は10cm3/g以下であることを必要とする。細孔の全容積が10cm3/gを超えると機械的強度が著しく損なわれてしまい、単体でクロマトグラフィー用などのカラムを構成することが困難となる。クロマトグラフィー用として好適な細孔容積率及び全容積の範囲は、全気孔に対する容積率50%以上、細孔の全容積2cm3/gである。
【0064】
尚、カラム全体に対する貫通孔の容積率及び細孔の全容積が、上記好適な上限値より高くても、本発明の範囲であれば、外周を筒体で覆うなどして機械的に補強することによって、クロマトグラフィーその他に適用可能である。
【0065】
また本発明の多孔質体が生体親和性の高い酸化物、例えば二酸化ケイ素や二酸化チタンである場合には、連続貫通孔の大きさを概ね10ミクロン以上とししかもその割合を高くすることにより、体液の循環する部位に埋め込むことにより、生体に無害な薬剤徐放担体とすることができる。多孔質二酸化ケイ素あるいは二酸化チタン上には、表面の結晶相を適切に制御した場合には、生体内で骨の成分であるアパタイト層が該多孔質二酸化ケイ素あるいは二酸化チタン上に形成され、生体はこれを自身の骨とみなすために、何らの拒否反応を起こすことなく生体組織と親和する。したがってこの種の多孔質体は、生体内への埋入によって不都合な拒絶反応を起こさない、生体組織親和基材或いは安全な薬剤徐放担体として利用することができる。
【実施例1】
【0066】
まず0.01モル/Lの濃度に調製した酢酸100mLに、ポリエチレングリコール(平均分子量10,000、以下PEG1と称する)10.0gおよび尿素9.0gを混合して15分間撹拌して、透明で均一な溶液を得た。次にこの溶液を氷冷しながら0℃において、テトラメトキシシラン(信越化学LS‐540以下「TMOS」と称する。)50mLを加えて30分間撹拌し、加水分解反応を行った。
【0067】
このようにして得られた反応溶液を所望の内径を有する円筒状容器に移し、密閉して30℃に保ったところ約1時間で流動性を失ってゲル化した。固化した試料を24時間以上熟成させ、さらに密閉状態のまま60℃の恒温槽に移して48時間熟成した。溶媒置換操作によってゲルを洗浄したのち、60℃での蒸発乾燥によって乾燥させ、最後に1000℃で2時間焼結することにより、無孔性連続骨格が約1ミクロンの連続貫通孔を構成する、純粋な二酸化ケイ素組成の円柱状のホスト多孔質体を得た。
【0068】
次に前項と同様の手順によって反応溶液を調製し、0℃における30分間の撹拌の後に30℃に10分間保持してから、前項で得られたホスト多孔質体を浸漬し、密閉して30℃に保ったままゲル化させた。この試料を24時間以上熟成させ、さらに密閉状態のまま60〜110℃の恒温槽に移して1〜24時間熟成した。
【0069】
この際の熟成温度と時間を調節することによって、無孔性連続骨格の表面に形成される多孔質被覆層の細孔径を制御することができるが、液体クロマトグラフィー用のゲルを得るためには、110℃1時間程度の熟成によって中心細孔径10nmとなる条件を選んだ。こうして得られた無孔性連続骨格表面に多孔性被覆層をもつゲルを600℃において5時間熱処理することにより、揮発性成分の除去、不純物の分解を行うとともに被覆層内の細孔を安定させた。
【0070】
得られた多孔質二酸化ケイ素ゲルには1μm程度の揃った連続貫通孔が三次元網目状にからみあった構造で存在していることが、電子顕微鏡(日本電子、JSM‐6060S)図(5000倍)(図1)及び水銀圧入装置(Micromeritics,PORESIZER9320)により測定した測定図(図2)によって確かめられた。無孔性連続骨格のみのホスト多孔質体には、測定可能な量の細孔は認められなかったが、無孔性連続骨格表面に形成された多孔性被覆層をもつ多孔質体には、熟成条件によって制御される5〜20nm程度の細孔が多数存在していることが、窒素吸着測定によって確かめられた(図3,図4)。
【0071】
これは、多孔性被覆層の内部にのみ細孔が存在していることを示しており、無孔性で機械強度の高い連続骨格の表面部分のみに、多孔性の被覆層が形成されたことを支持している。走査型電子顕微鏡による多孔性被覆層を持つ骨格の破断面観察(図5(2))によっても、多孔性被覆層内部にのみ細孔が形成されている(図5(3))ことが確かめられた。
【実施例2】
【0072】
前項で得られた純粋な二酸化ケイ素からなる円柱状の多孔質体を、熱収縮性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂を側面に密着させたのち、両端を研磨して平らにし、プラスチック製の筒の中心軸部分に固定して両端部には液体クロマトグラフィー装置に接続することのできるエンドフィッティングを付けて、筒の内壁と多孔質体の外壁面の間にエポキシ樹脂を流し込んで固化させることにより、液体クロマトグラフィー用一体型カラムを得た。比較のために、表面に多孔性被覆層をもたないホスト多孔質体からも同様のカラムを作製した。
【0073】
前項で作製されたクロマトグラフィーカラムを、順相クロマトグラフィーによってその分離性能を評価した。実施例1による本発明シリカモノリスでの順相モードでの分析結果を図6に示す。溶質はベンゼン、ジニトロベンゼン、o−ニトロアニソールであり、ベンゼンは保持されない溶質である。移動相はヘキサン/エタノール=98/2(体積比)であり、室温において、流速を1.0mL/minにおいて行った。
【0074】
ホスト多孔質体におけるベンゼンの溶出ピークから、溶質の保持がない場合にもカラム内の流れは均質であることがわかる。多孔性被覆層を形成した本発明多孔質体によるカラムによって、3成分がベースライン分離された。溶出ピークから計算されたカラムの理論段数はおよそ50000段/mであった。
【実施例3】
【0075】
表面被覆層を形成したカラムの内部表面をオクタデシルシリル基によって化学修飾し、逆相モードにおいてアルキルベンゼンの分離を行った。移動相はアセトニトリル/水=70/30(体積比)であり、室温において移動相流速を変化させて測定を行い、理論段数と流速の関係を調べた。アミルベンゼンの溶出ピークから計算されたカラムの理論段数はおよそ60000段/mであった。移動相流速を1秒当たり2mmから5mmに増加させても、分離性能の劣化は認められなかった。
【0076】
室温において移動相流速を変化させて測定を行い、理論段数と流速の関係を調べた。線速度に対してHETPをプロットした(図7)。従来の平均的なHPLCカラムでは、線速度1〜2を頂点に、理論段数が悪くなる(図7中1)が、本発明多孔質体では、液が骨格まで入らず、多孔性被覆層で拡散するため、流速を上げても理論段数が落ちず、分離性能の劣化は認められなかった(図7中2)。
さらに、従来の平均的なHPLCカラムよりも本願発明多孔質体を使用したカラム(図8中2)では圧力が半分以下となった。4倍流速でも8Mpa程度となり、広範囲の流速で使用できるので、HPLCカラム用の多孔質体としても有用であることがわかった。
【実施例4】
【0077】
実施例2で作成されたカラムにジメチル‐n‐オクタデシルクロロシランのトルエン溶液(10%v/v)を流速0.2mL/min 温度60℃で3時間送液し、オクタデシル化を行った。移動相はアセトニトリル/水=70/30(体積比)で逆相モードにおいてアルキルベンゼン(1.ベンゼン、2.トルエン、3.エチルベンゼン、4.プロピルベンゼン、5.ブチルベンゼン、6.アミルベンゼン、7.ヘキシルベンゼンの分離を行った(図9)。アミルベンゼンの溶出ピークから計算されたカラムの理論段数はおよそ60000段/mであった。
【実施例5】
【0078】
実施例1と同様の方法により得られたホスト多孔質体を、ダイヤモンドカッターで厚さ2mmに切断し、円盤状のホスト多孔質体ゲルを得た。
次に、実施例1と同様に、ゾル液に浸漬し、表面に多孔性被覆層を形成し、細孔20nm、表面積100m2/gの多孔質体を得た。その円盤状の多孔質体1をポリプロピレン製エンプティリザーバー2(3mL ジーエルサイエンス社製)に下まで押し込み、固相抽出(以下「SPE」と略す)カートリッジとした(図10)。
0.1%トコフェロールと0.1%プロプラノールをアセトニトリルに溶解させた試料を用い、SPEとして使用ができるかを検証した。
GL‐SPE吸引マニホールドを用いて、1秒間に1滴程度流れるように減圧度をコントロールし、固相抽出を行った。
【0079】
固相抽出手順は以下のようである。
コンディショニング:アセトニトリル0.5mL→試料ロード1mL→洗浄 アセトニトル2mL→溶出 1%アンモニア水溶液0.2mL
トコフェロールは、洗浄時にすべて除去され、目的成分であるプロプラノールは、0.2mL溶出で99%濃縮溶出された。
従来SPEカートリッジでは、溶出容量が1mL以上必要であるが、本発明多孔質体では0.2mL程度で十分であり、5倍以上濃縮できる事になる。
また、骨格に細孔がある従来モノリス多孔質体に比べて、強固であり、カートリッジへの溶着やリング留め無しに、かなり強い押し込みだけで固定が可能である。
本発明多孔質体は、SPE固相として十分使用できる事が判明した。
【実施例6】
【0080】
実施例5と同じ多孔質体10gを、20%オクタデシルトリクロロシラン トルエン溶液 100mL中で10時間攪拌還流し、カーボン量15%の円盤状のオクタデシル化多孔質体3を得た。
そして得られたオクタデシル化多孔質体3を、GLS mini AERO ホルダー4(ジーエルサイエンス社製)に挟み込み、大気捕集カートリッジとした(図11)。
大気サンプリングポンプSP208(ジーエルサイエンス社製)に取り付け、トルエンを0.1ppm含んだ空気を、流速10mL/minで12時間 サンプリングした。
排出口ガスには、トルエンが含まれていない事が確認できたので、オクタデシル化多孔質体3(オクタデシル化ヒューズドコアモノリス体)は、大気有害物質除去フィルターとしても十分効果があることが判明した。
通気後、上記GLS mini AERO ホルダー4をHPLCポンプに接続し、アセトニトリルを1mL/minで流し、5分間排出される液を回収したところ、99%トルエンが濃縮回収可能であった。大気捕集用SPEとしても、本発明の多孔質体は適用できることが確認された。
粒子充填タイプの固相では、通気による充填相の動きに応じ圧力変動が考えられるが、本発明の多孔質体は、圧力変化がなく、安定した大気成分の濃縮ができた。
また、この多孔質体は、骨格に細孔がある従来のモノリス多孔質体に比べて、表面だけの拡散で捕集できることから、より流速の高い領域でも高い捕集効率が期待できる。
【実施例7】
【0081】
実施例5のオクタデシル化多孔質体3を用いて、水系試料のヘッドスペース濃縮捕集を行った。
15%塩化ナトリウム水溶液40mLにリモネンを25μL添加した水溶液5を100mLサンプル瓶6に入れた、そこに、オクタデシル化多孔質体3を浮かべて、30分静置した(図12)。
その後、ジクロロメタンで溶媒抽出を行い、定量を行った。ヘッドスペース分析方法による定量では、25%の回収しか得られなかったが、オクタデシル化多孔質体3を用いた場合では、40%の回収率が得られた。
また、同じ実験を30分間振とうして行った場合には、100%の回収率が得られた。
このように高い回収効率を持った本発明多孔質体は、振とうに耐えうる固さを持ち、ヘッドスペース分析用濃縮固相としても使用できる事が判明した。
【実施例8】
【0082】
実施例5の多孔質体1を2%ポリジメチルシロキサン ヘキサン溶液に入れ、ロータリーエバポレータでヘキサンを蒸発させながら、ポリジメチルシロキサンコーティング(以下「PDMS」と略す。)多孔質体を得た。
【0083】
このPDMS多孔質体に、100μg/mLの直鎖炭化水素(C13〜C26)1μLを直接添加し、5分間300℃で加熱脱着してGCにより定量分析を行ったところ、C13〜C25まで100%近い面積値が得られ、C26で90%近い面積値が得られた、本発明多孔質体は、焼成されており、熱脱着分析にも十分使用できる事が確認できた。
【実施例9】
【0084】
実施例5の多孔質体1を10%アミノプロピルシラントルエン溶液中で6時間加熱還流し、アセトンで洗浄後、さらに、5%DSS(Disuccinimidyl Suberate)アセトン溶液で加熱還流し、アセトンで洗浄後、120℃で減圧乾燥した。
DSS化多孔質体7を200μLピペットチップ8に超音波溶着した(図13)。
ピペットチップ8をピペットに取り付け、1%トリプシン10mM炭酸水素ナトリウム水溶液を10回吸引吐出させ、トリプシンを結合させ、固定化した。
このトリプシン固定化チップを用いて、タンパク質の消化を行ったところ、MonoTip(登録商標) Trypsin(ジーエルサイエンス社製)と同等以上の消化効率が得られた。本多孔質体(ヒューズドコアモノリス体)は、固定化酵素ゲルとしても十分使用する事ができる事が判明した。
【産業上の利用可能性】
【0085】
この発明は、クロマトグラフィーカラムや吸着材として利用できる無孔性連続骨格表面に多孔性被覆層を形成した多孔質体に関する。この発明の多孔質体は、トリプシン、アルカリフォスファターゼ、グルコースイソメラーゼ等の酵素や白金、パラジウム等の触媒あるいは、オクタデシル基等の官能基が担持されて、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー等のクロマトグラフィー用カラムに好適に利用され得る。相分離を伴うゾル-ゲル法によって作製される様々な金属酸化物あるいは有機無機ハイブリッド組成によって、連続貫通孔の壁面に多孔性被覆層をもつ担体が作製される。多孔性被覆層を二酸化チタンとすれば、シリンジ先端やキャピラリー内部に固定して通液することにより、特定のリン酸化合物を分離あるいは濃縮するために用いることができる。また多数のタンパク質混合物から、特異吸着によって特定の性質をもったものだけを吸着・分離するために用いることができる。
【符号の説明】
【0086】
1 多孔質体
2 リザーバー
3 オクタデシル化多孔質体
4 ホルダー
5 水溶液
6 サンプル瓶
7 DSS化多孔質体
8 ピペットチップ
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なクロマトグラフィー用分離媒体(カラム)あるいは吸着材としては、スチレン・ジビニルベンゼン共重合体等の有機ポリマーよりなるものと、シリカゲル等の無機系充填材を筒内に充填したもの、さらには円柱状一体型多孔質体の側面を密閉して両端から通液できるようにしたものが知られている。
【0003】
有機系の材質で構成されたカラムは、低強度のために耐圧性が低い、溶媒により膨潤・収縮してしまう、加熱殺菌不可能である等の難点がある。従って、こうした難点を解消するカラムとして、無機系の材料、特にシリカゲルで構成されたカラムが汎用されている。
【0004】
しかし、シリカゲルカラムのうち、充填材を筒内に充填したものはカラム内に試料を流通させるために要する圧力が高く、高速分離に適さないという難点がある。この点を改善するために、近年、無孔性の芯材(コア)粒子の表面に多孔性被覆層(シェル)を形成した、いわゆるコア−シェル型充填粒子が開発された。コア−シェル型充填粒子によって充填されたカラムは、芯材径と被覆層厚みの合計が粒子径となるため、比較的大きい粒子間空間をもつが、薄い被覆層内のみの分配平衡によって分離が行われるため、従来の全多孔性粒子充填カラムよりも低い圧力で送液することが可能でありながら、従来よりも高理論段数および高速分離に適したカラムとなっている。
【0005】
一方、シリカ系多孔体を一塊の分離媒体とするモノリス型カラムでは、すでに細孔構造の形成と広範な構造の制御が実現され、液体クロマトグラフィー用の一体型分離媒体としての高性能が確認されている。特に本発明の発明者、中西は、ケイ素アルコキシドの加水分解重縮合によるゾルゲル法に於いて、スピノーダル分解による相分離を誘起し、その過度的構造をゲル化により固定し、共連続構造を有するシリカマクロ多孔体の発明に至り、出願している(特許文献1)。
【0006】
一体型多孔質体によるカラムは、カラム圧は低く高速分離が可能である。しかし、連続骨格の内部は直径2〜50nm程度のメソ孔が骨格径全体にわたって存在しており、クロマトグラフィー分離の際の溶質の拡散距離は、骨格の直径によって決まる。骨格の直径と連続貫通孔の大きさを独立に制御できることがモノリス型カラムの特筆すべき利点であるが、高速で高性能な分離のためにモノリス型カラムの骨格を細くし、連続貫通孔の細孔径を大きくして気孔率を増加させると、カラムの機械強度が低下することに加えて、連続貫通孔の形状や細孔径を高い精度で構造制御することが困難になる。その結果、カラム内の移動相の流動挙動が不均一になり、分離性能が低下するという問題が生じる。
【0007】
この従来のモノリス型カラムの基本たるモノリスゲルでは連続骨格とその中に形成される細孔は同時に形成される一段階合成であり、その孔径の制御は不可能である。
【0008】
連続貫通孔構造の均一性を維持するために、気孔率を増大させることなく、隣り合う骨格径と連続貫通孔径の和として定義されるドメインサイズを小さくすると、流動抵抗が増加して高速分離の特徴が損なわれる。同様の発想によって高速分離を実現する、直径2μm以下の小径粒子を充填したカラムを高圧で駆動するUPLC(UHPLC)などの技術が現存しており、粒子充填カラムの性能を凌駕することは困難な状況にある。すなわち、全多孔性の連続骨格からなる従来のモノリス型カラムの構造制御によって実現できる高速高性能分離には、限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2003/002458号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明に於いては、上記の諸問題を解決するために無機系、有機無機ハイブリッド系および架橋有機高分子系多孔質体、特に金属アルコキシドあるいは金属塩を出発物質とする、相分離を伴うゾルゲル法を用いて新たな無機系多孔質体及びその製造方法を提案するものである。本発明者等が研究したところ、モノリス型カラムを構成する連続骨格をもつ金属酸化物多孔質体を熱処理して、連続貫通孔構造を維持したまま緻密な骨格とし、緻密な骨格の表面に多孔性被覆層を形成することにより、機械的強度が高く、然も、高い液体透過性を持ちながら、高速分離においても性能劣化を生じない分離媒体を作製出来ることを見出した。
【0011】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。その目的は、従来の全多孔性モノリス型多孔質体が有する課題を解決し、圧力損失が低く、高速分離性能に優れた多孔質体、特に金属酸化物を主成分とする無機系あるいは有機無機ハイブリッド多孔質体を提供することにある。
【0012】
又、本発明の目的は第一段で、連続貫通構造の無孔性連続骨格として固い強度のあるコアの部分を作成し、その後第二段で連続貫通孔ない表面に多孔性薄膜層を形成するという二重構造のモノリス多孔質体を提供することである。
【0013】
更に本発明の他の目的は、多孔質体の貫通孔内部表面へ所望の組成の多孔性被覆層を形成することの出来る技術によって、液体クロマトグラフィー分離のみならず、多孔質体中に導入された溶液・液体と、多孔性被覆層表面との高効率な接触に基づく、反応、吸着、濃縮および分子認識媒体として優れた性能を発揮する多孔質担体としての適用範囲拡大に資することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的達成の手段は、無孔性連続骨格に形成された連続貫通孔の表面に、細孔を有する多孔性被覆層を形成させたことを特徴とする多孔質体。
【0015】
一つは、直径200nm以上50μm未満の連続貫通孔を形成する無孔性連続骨格の表面に、直径2〜50nmの細孔を有する厚さ100nm以上25μm未満の多孔性被覆層形成させたことを特徴とする多孔質体である。
【0016】
一つは、細孔の全容積が10cm3/g以下であって、前記連続貫通孔と細孔の容積の和に対して前記連続貫通孔の占める割合が20〜90%であることを特徴とする前記の多孔質体である。
【0017】
一つは、無孔性連続骨格が、二酸化ケイ素SiO2、二酸化チタンTiO2、二酸化ジルコニウムZrO2、二酸化ハフニウムHfO2、酸化アルミニウムA12O5、イットリウムアルミニウムガーネットYA1O5、マグネシウムアルミニウムスピネルMgA12O4、酸化鉄(III)Fe2O5、酸化亜鉛ZnO、水酸アパタイトCa5(PO4)5、ケイ素‐酸素結合を連続骨格内に有する有機無機ハイブリッド架橋体、ポリスチレン、ポリアクリラートなどのビニル系架橋有機高分子、炭素、のいずれかを主成分とすることを特徴とする前記の多孔質体である。
【0018】
一つは、無孔性連続骨格が二酸化ケイ素SiO2を主成分とするもしくは非晶質二酸化ケイ素SiO2であることを特徴とする前記の多孔質体である。
【0019】
一つは、多孔性被覆層が非晶質二酸化ケイ素SiO2からなることを特徴とする前記の多孔質体である。
【0020】
一つは、加水分解性金属化合物あるいは金属塩を出発物質とすることを特徴とする前記の多孔質体である。
【0021】
一つは加水分解性金属化合物うち金属アルコキシドを出発物質とすることを特徴とする前記の多孔質体である。
【0022】
一つは、金属アルコキシドのうちケイ素アルコキシドを出発物質とすることを特徴とする前記の多孔質体である。
【0023】
一つは、ケイ素アルコキシドのうちテトラメトキシシランあるいはテトラエトキシシランを出発物質とすることを特徴とする前記の多孔質体である。
【0024】
一つは、ケイ素アルコキシドのうちアルキルトリメトキシシラン、アルキルトリエトキシシラン、ジアルキルジメトキシシラン、ジアルキルジエトキシシラン、ビストリメトキシシリルアルカン、ビストリエトキシシリルアルカン、およびそれらの所定の割合の混合物を出発物質とすることを特徴とする前記の多孔質体である。
【0025】
一つは、前記の多孔質体を用いることを特徴とするクロマトグラフィー分離媒体である。
【0026】
一つは、前記の多孔質体を用いることを特徴とする分離あるいは濃縮用吸着材料である。
【0027】
一つは、ゾル‐ゲル反応により多孔質ゲルを得る工程と、該多孔質ゲルの細孔を消失させる工程と、該多孔質ゲルの細孔を消失させる工程により得られた無孔性連続骨格に多孔性被覆層を形成させる工程と、から成ることを特徴とする多孔質体の製造方法。
【0028】
一つは、酸性水溶液中に於いて、水溶性高分子あるいは界面活性剤に代表される相分離誘起剤の存在下、加水分解性金属化合物を加水分解・重合して反応溶液のゲル化を行なう工程と、生成したゲル中の有機成分を除去する工程と、得られた多孔質ゲルを焼成する工程と、上記の過程で得られた無孔性連続骨格の表面に多孔性被覆層を均一に形成する工程、多孔性被覆層の細孔径を水熱処理によって制御する工程と、から成ることを特徴とする前記の多孔質体の製造方法である。
【0029】
一つは、前記多孔性被覆層の細孔径を水熱処理によって制御する工程を有することを特徴とする前記の多孔質体の製造方法。
【0030】
一つは、反応溶液中の水あるいは相分離誘起剤の濃度を変化させることにより貫通孔径を制御し、乾燥して塊状試料を得た後、細孔を焼結によって消失させる工程、上記の過程で得られた無孔性連続骨格の表面に多孔性被覆層を均一に形成する工程を有することを特徴とする前記の多孔質体の製造方法である。
【0031】
一つは、無孔性連続骨格の表面に多孔性被覆層を形成させるために、無孔性連続骨格と親和性の高い反応溶液を用いて連続貫通孔内における相分離を誘起し、自発的濡れ転移現象の制御によって厚さおよび空間分布の均一な被覆層を得ることを特徴とする多孔質体の製造方法である。
【発明の効果】
【0032】
本発明多孔質体およびそれを使用したクロマトグラフィー用分離媒体は、以下のような多大の効果を有する。
(1)多孔質体を部分的に密封した一体型カラムなので、充填状態によって流量が変化するという問題がおこらず、ロット間のばらつきが小さい。
【0033】
(2)孔径及び容積率が適切に制御された連続貫通孔を有するので、圧力損失が小さい。従って、入口圧力が同じであれば、単位時間当たりの流量が多くなり、従来よりも短時間で分析することができる。しかも連続貫通孔表面の多孔性被覆層の細孔に固定されたすべての官能基と流体とが頻繁に接触して反応するので、官能基の消費効率が高い。従って、短いカラムで分析可能となる。
【0034】
(3)本発明多孔質体を血液注入カテーテルや注射器に用いるときの取扱いが容易である。
(4)連続貫通孔により形成される流体の流路の形状・サイズの均一性が高いので、分析物質の溶液−カラム内部表面間の分配が場所によってばらつくことがない。
(5)全多孔性シリカによって構成されるカラムが、高流速条件での使用によって性能劣化するのに比べて、本発明多孔質体は非常に高い流速で使用しても、分離媒体および吸着剤としての性能が劣化しない。
【0035】
(6)本発明のコア−シェル一体型カラムは、機械的強度の高い芯材(コア)と、分離や吸着機能を発揮させるための多孔性被覆層を様々な組合わせで選択することによって、液体クロマトグラフィー分離のみならず、触媒反応担体(リアクター)、固相抽出担体、固定化酵素担体など、外部から導入される液体・気体と担体表面に結合した機能部位との頻繁な接触を促す、多目的な担体とすることが出来、その使用、応用範囲は広域である。
【0036】
(7)本発明の多孔質体は、トリプシン、アルカリフォスファターゼ、グルコースイソメラーゼ等の酵素や白金、パラジウム等の触媒あるいは、オクタデシル基等の官能基が担持されて、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー等のクロマトグラフィー用カラムに好適に利用され得る。また、シリンジ先端やキャピラリー内部に固定して通液することにより、特定の化合物を分離あるいは濃縮するために用いることができる。また、適切な官能基で修飾することにより、多数のタンパク質混合物から、特異吸着によって特定の性質をもったものだけを吸着・分離するために用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明一実施例の多孔質体の電子顕微鏡図
【図2】本発明−実施例の多孔質体の水銀圧入装置による測定図
【図3】本発明一実施例の多孔質体の窒素吸着測定図
【図4】本発明一実施例の多孔質体の窒素吸着測定図
【図5】本発明一実施例多孔質体及び電子顕微図その部分拡大図
【図6】本発明一実施例多孔質体及びホスト多孔質体で作製されたクロマトグラフィカラムにより行なった分離状態評価クロマトグラム
【図7】本発明一実施例多孔質体を使用したHPLCカラムと市販クロマトグラフィカラムを使用して行なった理論段数と流速の関係比較図
【図8】本発明一実施例多孔質体を使用した作成HPLCカラムと市販HPLCカラムを使用して行なった圧力検査比較図
【図9】本発明一実施例多孔質体を使用したカラムによるクロマトグラム
【図10】本発明一実施例多孔質体を使用した固相抽出カートリッジ説明図
【図11】本発明一実施例多孔質体を使用した大気捕カートリッジ説明図
【図12】本発明一実施例多孔質体を使用したヘッドスペース分析用固相説明図
【図13】本発明一実施例多孔質体を使用したピペットチップ説明図
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下本発明について詳細に説明する。本発明は、原理的には上記中西発明の所謂ゾルゲル反応によるものである。
【0039】
本発明の多孔質体は、例えば水溶性高分子あるいは界面活性剤の共存下で酸性溶液中においてケイ素アルコキシドを加水分解・重合して反応溶液のゲル化を行った後、生成した多孔質ゲル中の有機成分を除去し、その後焼成することによって、製造され得る。
【0040】
中西発明による多孔質シリカなどの連続貫通孔をもつ一体型多孔質体は、十分高温で処理することによって連続貫通孔を構成するゲル骨格内のメソ孔が消失し、緻密なガラスあるいはセラミックスとなって機械強度が大幅に向上するが、熱処理温度を適切に選ぶことによって、連続貫通孔そのものは維持された多孔質体を作製することが出来る。
【0041】
前項の方法で作製された多孔質体(以下これを「ホスト多孔質体」と称する。)は表面積の値が十分に大きくなく、クロマトグラフィー分離などの多孔質体内部表面での外部物質との接触によって分離を実現する用途に対しては、高性能を発揮することが困難である。そこで、ホスト多孔質体の液体を導入することの出来る連続貫通孔の内部で、ホスト多孔質体を作製したときと同様な、重合誘起相分離によってゲル相と溶媒相がマイクロメートル領域の不均質構造を形成するようなゾル−ゲル反応を行うと、相分離によって発達する各々の微小な領域の大きさが連続貫通孔の直径よりも十分大きいときには、ゾル−ゲル転移に先立って発生した相分離による流動性のある不均質構造は、ホスト多孔体の連続骨格の表面に一様に濡れ広がり、均質な厚さの被覆層を形成する。やがて被覆層はゾル−ゲル転移を起こして固化し、細孔を含む多孔性被覆層となる。
【0042】
このようにしてホスト多孔質体の連続孔内表面に形成された多孔性被覆層は、通常のゲルと同様に反応性に富む網目構造を有するので、ゲルの構成成分と適度の反応性を有する溶液に接触させ、同時に加熱をおこなって温度を上げることによって、網目構造の物理化学的構造再編が起こり、適切な条件においては液体クロマトグラフィー分離に適した10nm以上の細孔を形成させることが出来る。水の沸点よりも高い温度で処理を行うことが必要な場合には、密閉容器中で加熱・加圧することによっていわゆる水熱処理を行い、所望の大きさの細孔を形成させることが出来る。細孔を形成させた多孔性被覆層から、不要な揮発性物質や分解性物質を除去するために、ホスト多孔質体および多孔性被覆層の耐熱温度よりも低い温度で適当な時間熱処理を行うことが望ましい。
【0043】
多孔性被覆層を作成するには、細孔は濡れ広がりを妨害するため、消失させる必要があり、アルカリ・酸溶液などによる化学的な侵食や熱や光エネルギーや物理的な圧力による骨格の収縮などによる細孔の消失が必要である。
一方ケイ素、チタンなどの無機原子を含むモノマーを用いてゾル‐ゲル法で作成する連続多孔体は、モノマーの重合によって形成されるため、シロキサン結合による収縮が生じる。しかし、その状態では、まだ機械的に弱く、さらに大きなエネルギーを加えて、より収縮させる事で、骨格内がより緻密になり機械的強度が高くなり、使い易い多孔体となる。
【0044】
収縮させる場合に、骨格内に消失してくれる空間すなわち細孔が存在しないと、余ったエネルギーの逃げ場所が無くなり、骨格が壊れてしまい、連続貫通孔が維持されないことになる。
そのため、骨格内に均一な細孔を持った多孔質体から無孔性多孔質体を形成した方が、機械的強度の強い多孔質体となる。
骨格を収縮させるためのエネルギーとして、紫外、赤外、蛍光などの光エネルギーや加熱などの熱エネルギーが有効で、加熱はもっとも簡単な手段となる。
【0045】
多孔体の組成やその合成方法によって異なるが、例えば、純シリカゲル多孔体では、構造がもっとも安定する800℃以上が良く、純チタニア多孔体では、500℃以上が良い御、有機の無機のハイブリッドタイプでは、不活性ガス中での300℃以上が良い。
すなわち、出発多孔体がどのような物であっても、無孔性多孔質体に対する処理を行なってから、その多孔質体の骨格表面に多孔性被覆層を形成した方が良い。
【0046】
緻密で機械強度の高いホスト多孔質体の骨格表面即ち連続貫通孔表面に、細孔を形成させた多孔質被覆層を密着させた多孔質体は、本発明の特徴である高速分離に適した液体クロマトグラフィーカラムとして利用される。ホスト多孔質体の化学組成と多孔質被覆層の化学組成は、ホスト多孔質体の骨格表面に被覆層が密着した状態で形成する限りにおいて、異なっていてもよい。特に好ましい組合せは、熱処理によって容易に非晶質シリカとなる純粋なシリカ組成のホスト多孔質体に、純粋なシリカの多孔性被覆層を形成させる場合であり、ホスト多孔質体の熱処理中に望ましくない結晶成長が起こりにくく、多孔性被覆層の内部への細孔形成が容易である等の利点がある。また、金属アルコキシド原料から得られる純粋なシリカ組成は、金属不純物等の混入の可能性が低く、液体クロマトグラフィーカラムとしての利用に好適である。
【0047】
以下に述べる純粋なシリカ組成のホスト多孔質体と、純粋なシリカ組成の多孔性被覆層の組合せは、液体クロマトグラフィーカラムとして利用する場合には好適であるが、より高い機械強度を得るためにホスト多孔質体を多結晶アルミナとし、微結晶性アルミナ(ベーマイト、バイエライトなど)を多孔性被覆層として同様な構造の多孔質体を作製することもできる。このようなアルミナ組成の多孔体は、高温で高圧の液体を流入させることのできる触媒担体として好適である。このように、ホスト多孔質体の連続貫通孔内部へ導入でき、ホスト多孔質体の骨格表面と強固に結合する物質であれば、その化学組成にかかわらず多孔性被覆層として導入することが可能であるので、本手法は原理的にホスト多孔質体と多孔性被覆層の化学組成を限定することなく適用される。同様に、連続貫通孔内部で相分離を誘起することによって起こる「濡れ転移」は、固体表面と液体との親和性および液体のサイズのみによって制御される物理現象であって、本質的に固体および液体の各々の化学組成は限定されるものではない。
【0048】
恒温水槽中に保持することにより固化するゾルゲル反応に於いて、流動性のあるゾルから固化したゲルへの転移と相分離が同時に起こり、溶媒リッチ相と骨格相とからなるゲルが生成する。また、この方法において、相分離誘起剤の濃度を調節すると、その割合に応じて加水分解と重縮合の速度が変化し、目的の細孔を広い範囲で変化させることができ、目的に適した細孔径・細孔容積を得ることができる。その後、約24時間熟成させ所望温度で乾燥させ多孔質ゲルを得る。得られた多孔質ゲルには、揃った連続貫通孔が三次元網目状に絡み合った構造で形成される。生成した多孔質ゲル中の有機成分を除去し、その後焼成することによって、ホスト多孔質体が製造される。
【0049】
ホスト多孔質体の固化したものを塩基性水溶液などに浸漬して密閉条件下で100℃以上に加熱する水熱処理工程を、加水分解工程と焼成工程との中間に加えると、細孔径及び細孔容積率を制御し易くなる。なお、水の塩基性は必ずしも必須条件ではなく、水本来の特性を十分生かせる水溶液であればこれに限定されない。加水分解と重縮合を同時に起こす特徴があるため、焼成前では、骨格がゆるい状態で結合されており、水などを添加して加熱処理を行う事で、貫通孔を変化させずに状態を変化させることができ、細孔径を自由に制御することができる。表面積、細孔径を、使用溶媒種、温度、時間で、自由に調整できることができるため、目的に応じた細孔径分布および比表面積をもつモノリスゲルを作製できる。100℃〜300℃で、1から10時間、水溶液中で行うことが適しているが、水を含む溶媒ならば、どのような温度でも良い。また、この処理によって、表面の状態を変化させることも可能になり、試料成分との相互作用も制御することが可能となる。
【0050】
このようにして得られたホスト多孔質体は、円柱状など最終的なデバイスの形状に適した形状を保ったままで乾燥させ、無機系ホスト多孔質体の場合には機械強度向上のために熱処理を行う。純粋なシリカゲルによってホスト多孔質体を作製する場合には、安定した構造を得るために600℃以上の温度で2〜5時間程度熱処理することが望ましい。熱処理温度を高くするほど、比表面積は低下し機械強度は向上する。熱処理温度を1000℃以上にすると、直径50nm未満のメソ孔はすべて消失し、ホスト多孔質体はいわゆる無孔性マクロ多孔体となる。この場合には骨格はほぼ純粋なシリカガラスと同等な物理特性を示し、マクロ孔の試料体積全体に占める体積(気孔率)に応じて、ち密なシリカガラスの10〜50%程度の圧縮破壊強度をもつ、多孔性物質としては非常に機械強度の高いホスト多孔体となる。
【0051】
多孔性被覆層の作製は、ホスト多孔質体と同様な組成で調製したゾル‐ゲル反応溶液を、ホスト多孔質体の連続貫通孔の中に導入して、同様な条件でゾル‐ゲル転移と相分離を誘起することによって行う。したがって多孔性被覆層の作製に好適な化学組成は、ホスト多孔質体に対して記述されたものに準じる。表面多孔性被覆層は通常、ゲルとなる成分を5〜10%程度含む溶液から作製されるので、ゾル‐ゲル反応を行う連続貫通孔の直径の5%内外の厚さで均一に形成される。すなわち直径2μmの連続貫通孔内で作製された多孔性被覆層は、およそ100nmの厚さとなる。多孔性被覆層の厚さは、ゾル‐ゲル反応を行う溶液の組成を調節すること、あるいは繰り返して多孔性被覆層の作製を行うことによって、増大させることもできる。
【0052】
そして、本発明のカラムとして使用する多孔質体は、連続貫通孔とこの連続貫通孔を構成するゲル骨格表面に形成された多孔性被覆層内の細孔の孔径、細孔の全容積、カラム全体に対する貫通孔の容積率、細孔と貫通孔との合計容積に対する細孔の容積率を構成要件とする。カラムの立体構造は、反応系の組成及び温度やpH値、有機高分子の分子量、その他加水分解性金属化合物の反応性に影響を及ぼす各種条件によって変わる。従って、立体構造の制御の方法を一律に述べることは困難であるが、前述した条件が同じであれば細孔径等がほぼ同じ目的物を再現性良く提供できる。
【0053】
本発明多孔質体製造に於ける中間物質として生成する多孔質ゲルからの相分離誘起剤の除去は、乾燥前のゲルを洗浄することによってある程度なすことができるが、洗浄過程の後に相分離誘起剤が分解あるいは燃焼する温度までゲルを十分長時間加熱してこれを完全に除去する方が有効である。
【0054】
本発明加水分解性金属化合物による多孔質カラムの製造に使用する相分離誘起剤は、理論的には所定の濃度の水溶液となし得る水溶性有機高分子であって、且つ加水分解性金属化合物の加水分解によって生成するアルコールを含む反応系中に、均一に溶解し得るものであれば良い。具体的には高分子金属塩であるポリスチレンスルホン酸のナトリウム塩またはカリウム塩、高分子酸であって解離してポリアニオンとなるポリアクリル酸、高分子塩基であって水溶液中でポリカチオンを生ずるポリアリルアミンおよびポリエチレンイミン、あるいは中性高分子であって主鎖にエーテル結合を持つポリエチレンオキシド、側鎖にピロリドン環を有するポリビニルピロリドン等が好適である。
【0055】
また界面活性を有する化合物、例えばポリエーテルを含むポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールそれぞれのブロック鎖から構成されるジブロックあるいはトリブロック共重合体(Pluronic F127,P123,F68,L122,L121ほか、いずれもドイツBASF社製品)も好適に用いられる。さらにハロゲン化アルキルアンモニウム等のカチオン性界面活性剤、ドデシル硫酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤、ラウリルジメチルアミノ酢酸(LDA)等の両イオン性界面活性剤も同様に用いることができる。
【0056】
有機高分子に代えて、極性溶媒であるホルムアミド、アセトアミド、N‐メチルホルムアミド、N‐メチルアセトアミド等の酸アミド類、エチレングリコール、グリセリン等の多価アルコールおよび糖アルコールなども用いることができる。
【0057】
加水分解性金属化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビストリメトキシシリルアルカン(架橋炭素数が1〜10程度のもの)、ビストリエトキシシリルアルカン(架橋炭素数が1〜10程度のもの)、チタニウムテトラn‐プロポキシド、チタニウムテトライソプロポキシド、チタニウムテトラn‐ブトキシド、チタニウムテトラs‐ブトキシド、チタニウムテトラt‐ブトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラn-ブトキシド、ジルコニウムテトラs‐ブトキシド、ジルコニウムテトラt‐ブトキシド、ハフニウムテトラプロポキシド、ハフニウムテトライソプロポキシド、ハフニウムテトラn‐ブトキシド、ハフニウムテトラs‐ブトキシド、ハフニウムテトラt‐ブトキシド、さらにこれらの混合物およびこれらを適宜重合させて酸化物含量を上げた物等を挙げることができる。またオキシ塩化チタニウム、オキシ塩化ジルコニウムなどのオキシ塩化物も同様に用いることができる。
【0058】
またプロピレンオキシドを用いるゾル-ゲル反応を利用する場合には、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化鉄(III)、硝酸鉄(III)、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、塩化クロム、硝酸クロム、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、塩化銅(II)、硝酸銅(II)、塩化イットリウム、硝酸イットリウム、などの金属塩およびこれらを適宜混合したものも同様に用いることができる。
【0059】
尚、本発明の加水分解性金属化合物による多孔質体は、カラムとして使用する場合、その立体構造が上記の条件を充足していれば、後述の作用効果を発揮するものである。従って、その製造法は、限定されない。
本発明の方法で作られた表面被覆型シリカゲルは、3次元網目構造のモノリス構造であり、強固な連続貫通孔構造と、極めて薄い多孔性被覆層をもつため、移動相流速を非常に高くした場合にも分離効率の低下がほとんど起こらない、高圧操作に適した高速分離カラムとして利用できる。
【0060】
(作用)
本発明の無孔性連続骨格の表面に多孔性被覆層を有する多孔質体を分離用媒体用のカラムとして使用する場合の作用について述べると、試料溶液等の流体は、カラムの一端から入って三次元網目状に連続した連続貫通孔を通過し、他端から出る。通過途中、従来の充填型カラムにおけるビーズのような極端に狭い流路がなく、しかも連続貫通孔の孔径が200nm以上であるから、流体が受ける抵抗は小さい。従って、圧力損失も小さい。
【0061】
貫通孔の孔径が同じであるなら、カラム全体に対する貫通孔の容積率が高いほど、圧力損失が小さくなるので好ましいが、容積率が90%を超えると機械的強度が著しく損なわれてしまい、単体でクロマトグラフィー用などのカラムを構成することが困難となる。他方、容積率が20%に満たないとかえって充填型カラムよりも圧力損失が大きくなる。クロマトグラフィー用として好適な容積率の範囲は、50〜80%である。
【0062】
そして、貫通孔を構成するゲル骨格内に細孔が形成されているので、比表面積が高い。従って、その細孔に、例えばオクタデシル基等の官能基を化学的修飾によって固定したり、グルコースイソメラーゼ、トリプシン等の酵素や白金、パラジウム等の触媒を担持させておくと、流体が通過する過程でこれらの分子と効率よく反応する。しかも官能基が細孔内に固定されているので、流体の流れが速くても官能基が流されることはない。
【0063】
但し、全気孔中の細孔の占める容積率は10%以上を必要とする。10%よりも少ないと、貫通孔の前記容積率を90%まであげたとしても、官能基をほとんど固定することができないからである。他方、細孔の全容積は10cm3/g以下であることを必要とする。細孔の全容積が10cm3/gを超えると機械的強度が著しく損なわれてしまい、単体でクロマトグラフィー用などのカラムを構成することが困難となる。クロマトグラフィー用として好適な細孔容積率及び全容積の範囲は、全気孔に対する容積率50%以上、細孔の全容積2cm3/gである。
【0064】
尚、カラム全体に対する貫通孔の容積率及び細孔の全容積が、上記好適な上限値より高くても、本発明の範囲であれば、外周を筒体で覆うなどして機械的に補強することによって、クロマトグラフィーその他に適用可能である。
【0065】
また本発明の多孔質体が生体親和性の高い酸化物、例えば二酸化ケイ素や二酸化チタンである場合には、連続貫通孔の大きさを概ね10ミクロン以上とししかもその割合を高くすることにより、体液の循環する部位に埋め込むことにより、生体に無害な薬剤徐放担体とすることができる。多孔質二酸化ケイ素あるいは二酸化チタン上には、表面の結晶相を適切に制御した場合には、生体内で骨の成分であるアパタイト層が該多孔質二酸化ケイ素あるいは二酸化チタン上に形成され、生体はこれを自身の骨とみなすために、何らの拒否反応を起こすことなく生体組織と親和する。したがってこの種の多孔質体は、生体内への埋入によって不都合な拒絶反応を起こさない、生体組織親和基材或いは安全な薬剤徐放担体として利用することができる。
【実施例1】
【0066】
まず0.01モル/Lの濃度に調製した酢酸100mLに、ポリエチレングリコール(平均分子量10,000、以下PEG1と称する)10.0gおよび尿素9.0gを混合して15分間撹拌して、透明で均一な溶液を得た。次にこの溶液を氷冷しながら0℃において、テトラメトキシシラン(信越化学LS‐540以下「TMOS」と称する。)50mLを加えて30分間撹拌し、加水分解反応を行った。
【0067】
このようにして得られた反応溶液を所望の内径を有する円筒状容器に移し、密閉して30℃に保ったところ約1時間で流動性を失ってゲル化した。固化した試料を24時間以上熟成させ、さらに密閉状態のまま60℃の恒温槽に移して48時間熟成した。溶媒置換操作によってゲルを洗浄したのち、60℃での蒸発乾燥によって乾燥させ、最後に1000℃で2時間焼結することにより、無孔性連続骨格が約1ミクロンの連続貫通孔を構成する、純粋な二酸化ケイ素組成の円柱状のホスト多孔質体を得た。
【0068】
次に前項と同様の手順によって反応溶液を調製し、0℃における30分間の撹拌の後に30℃に10分間保持してから、前項で得られたホスト多孔質体を浸漬し、密閉して30℃に保ったままゲル化させた。この試料を24時間以上熟成させ、さらに密閉状態のまま60〜110℃の恒温槽に移して1〜24時間熟成した。
【0069】
この際の熟成温度と時間を調節することによって、無孔性連続骨格の表面に形成される多孔質被覆層の細孔径を制御することができるが、液体クロマトグラフィー用のゲルを得るためには、110℃1時間程度の熟成によって中心細孔径10nmとなる条件を選んだ。こうして得られた無孔性連続骨格表面に多孔性被覆層をもつゲルを600℃において5時間熱処理することにより、揮発性成分の除去、不純物の分解を行うとともに被覆層内の細孔を安定させた。
【0070】
得られた多孔質二酸化ケイ素ゲルには1μm程度の揃った連続貫通孔が三次元網目状にからみあった構造で存在していることが、電子顕微鏡(日本電子、JSM‐6060S)図(5000倍)(図1)及び水銀圧入装置(Micromeritics,PORESIZER9320)により測定した測定図(図2)によって確かめられた。無孔性連続骨格のみのホスト多孔質体には、測定可能な量の細孔は認められなかったが、無孔性連続骨格表面に形成された多孔性被覆層をもつ多孔質体には、熟成条件によって制御される5〜20nm程度の細孔が多数存在していることが、窒素吸着測定によって確かめられた(図3,図4)。
【0071】
これは、多孔性被覆層の内部にのみ細孔が存在していることを示しており、無孔性で機械強度の高い連続骨格の表面部分のみに、多孔性の被覆層が形成されたことを支持している。走査型電子顕微鏡による多孔性被覆層を持つ骨格の破断面観察(図5(2))によっても、多孔性被覆層内部にのみ細孔が形成されている(図5(3))ことが確かめられた。
【実施例2】
【0072】
前項で得られた純粋な二酸化ケイ素からなる円柱状の多孔質体を、熱収縮性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂を側面に密着させたのち、両端を研磨して平らにし、プラスチック製の筒の中心軸部分に固定して両端部には液体クロマトグラフィー装置に接続することのできるエンドフィッティングを付けて、筒の内壁と多孔質体の外壁面の間にエポキシ樹脂を流し込んで固化させることにより、液体クロマトグラフィー用一体型カラムを得た。比較のために、表面に多孔性被覆層をもたないホスト多孔質体からも同様のカラムを作製した。
【0073】
前項で作製されたクロマトグラフィーカラムを、順相クロマトグラフィーによってその分離性能を評価した。実施例1による本発明シリカモノリスでの順相モードでの分析結果を図6に示す。溶質はベンゼン、ジニトロベンゼン、o−ニトロアニソールであり、ベンゼンは保持されない溶質である。移動相はヘキサン/エタノール=98/2(体積比)であり、室温において、流速を1.0mL/minにおいて行った。
【0074】
ホスト多孔質体におけるベンゼンの溶出ピークから、溶質の保持がない場合にもカラム内の流れは均質であることがわかる。多孔性被覆層を形成した本発明多孔質体によるカラムによって、3成分がベースライン分離された。溶出ピークから計算されたカラムの理論段数はおよそ50000段/mであった。
【実施例3】
【0075】
表面被覆層を形成したカラムの内部表面をオクタデシルシリル基によって化学修飾し、逆相モードにおいてアルキルベンゼンの分離を行った。移動相はアセトニトリル/水=70/30(体積比)であり、室温において移動相流速を変化させて測定を行い、理論段数と流速の関係を調べた。アミルベンゼンの溶出ピークから計算されたカラムの理論段数はおよそ60000段/mであった。移動相流速を1秒当たり2mmから5mmに増加させても、分離性能の劣化は認められなかった。
【0076】
室温において移動相流速を変化させて測定を行い、理論段数と流速の関係を調べた。線速度に対してHETPをプロットした(図7)。従来の平均的なHPLCカラムでは、線速度1〜2を頂点に、理論段数が悪くなる(図7中1)が、本発明多孔質体では、液が骨格まで入らず、多孔性被覆層で拡散するため、流速を上げても理論段数が落ちず、分離性能の劣化は認められなかった(図7中2)。
さらに、従来の平均的なHPLCカラムよりも本願発明多孔質体を使用したカラム(図8中2)では圧力が半分以下となった。4倍流速でも8Mpa程度となり、広範囲の流速で使用できるので、HPLCカラム用の多孔質体としても有用であることがわかった。
【実施例4】
【0077】
実施例2で作成されたカラムにジメチル‐n‐オクタデシルクロロシランのトルエン溶液(10%v/v)を流速0.2mL/min 温度60℃で3時間送液し、オクタデシル化を行った。移動相はアセトニトリル/水=70/30(体積比)で逆相モードにおいてアルキルベンゼン(1.ベンゼン、2.トルエン、3.エチルベンゼン、4.プロピルベンゼン、5.ブチルベンゼン、6.アミルベンゼン、7.ヘキシルベンゼンの分離を行った(図9)。アミルベンゼンの溶出ピークから計算されたカラムの理論段数はおよそ60000段/mであった。
【実施例5】
【0078】
実施例1と同様の方法により得られたホスト多孔質体を、ダイヤモンドカッターで厚さ2mmに切断し、円盤状のホスト多孔質体ゲルを得た。
次に、実施例1と同様に、ゾル液に浸漬し、表面に多孔性被覆層を形成し、細孔20nm、表面積100m2/gの多孔質体を得た。その円盤状の多孔質体1をポリプロピレン製エンプティリザーバー2(3mL ジーエルサイエンス社製)に下まで押し込み、固相抽出(以下「SPE」と略す)カートリッジとした(図10)。
0.1%トコフェロールと0.1%プロプラノールをアセトニトリルに溶解させた試料を用い、SPEとして使用ができるかを検証した。
GL‐SPE吸引マニホールドを用いて、1秒間に1滴程度流れるように減圧度をコントロールし、固相抽出を行った。
【0079】
固相抽出手順は以下のようである。
コンディショニング:アセトニトリル0.5mL→試料ロード1mL→洗浄 アセトニトル2mL→溶出 1%アンモニア水溶液0.2mL
トコフェロールは、洗浄時にすべて除去され、目的成分であるプロプラノールは、0.2mL溶出で99%濃縮溶出された。
従来SPEカートリッジでは、溶出容量が1mL以上必要であるが、本発明多孔質体では0.2mL程度で十分であり、5倍以上濃縮できる事になる。
また、骨格に細孔がある従来モノリス多孔質体に比べて、強固であり、カートリッジへの溶着やリング留め無しに、かなり強い押し込みだけで固定が可能である。
本発明多孔質体は、SPE固相として十分使用できる事が判明した。
【実施例6】
【0080】
実施例5と同じ多孔質体10gを、20%オクタデシルトリクロロシラン トルエン溶液 100mL中で10時間攪拌還流し、カーボン量15%の円盤状のオクタデシル化多孔質体3を得た。
そして得られたオクタデシル化多孔質体3を、GLS mini AERO ホルダー4(ジーエルサイエンス社製)に挟み込み、大気捕集カートリッジとした(図11)。
大気サンプリングポンプSP208(ジーエルサイエンス社製)に取り付け、トルエンを0.1ppm含んだ空気を、流速10mL/minで12時間 サンプリングした。
排出口ガスには、トルエンが含まれていない事が確認できたので、オクタデシル化多孔質体3(オクタデシル化ヒューズドコアモノリス体)は、大気有害物質除去フィルターとしても十分効果があることが判明した。
通気後、上記GLS mini AERO ホルダー4をHPLCポンプに接続し、アセトニトリルを1mL/minで流し、5分間排出される液を回収したところ、99%トルエンが濃縮回収可能であった。大気捕集用SPEとしても、本発明の多孔質体は適用できることが確認された。
粒子充填タイプの固相では、通気による充填相の動きに応じ圧力変動が考えられるが、本発明の多孔質体は、圧力変化がなく、安定した大気成分の濃縮ができた。
また、この多孔質体は、骨格に細孔がある従来のモノリス多孔質体に比べて、表面だけの拡散で捕集できることから、より流速の高い領域でも高い捕集効率が期待できる。
【実施例7】
【0081】
実施例5のオクタデシル化多孔質体3を用いて、水系試料のヘッドスペース濃縮捕集を行った。
15%塩化ナトリウム水溶液40mLにリモネンを25μL添加した水溶液5を100mLサンプル瓶6に入れた、そこに、オクタデシル化多孔質体3を浮かべて、30分静置した(図12)。
その後、ジクロロメタンで溶媒抽出を行い、定量を行った。ヘッドスペース分析方法による定量では、25%の回収しか得られなかったが、オクタデシル化多孔質体3を用いた場合では、40%の回収率が得られた。
また、同じ実験を30分間振とうして行った場合には、100%の回収率が得られた。
このように高い回収効率を持った本発明多孔質体は、振とうに耐えうる固さを持ち、ヘッドスペース分析用濃縮固相としても使用できる事が判明した。
【実施例8】
【0082】
実施例5の多孔質体1を2%ポリジメチルシロキサン ヘキサン溶液に入れ、ロータリーエバポレータでヘキサンを蒸発させながら、ポリジメチルシロキサンコーティング(以下「PDMS」と略す。)多孔質体を得た。
【0083】
このPDMS多孔質体に、100μg/mLの直鎖炭化水素(C13〜C26)1μLを直接添加し、5分間300℃で加熱脱着してGCにより定量分析を行ったところ、C13〜C25まで100%近い面積値が得られ、C26で90%近い面積値が得られた、本発明多孔質体は、焼成されており、熱脱着分析にも十分使用できる事が確認できた。
【実施例9】
【0084】
実施例5の多孔質体1を10%アミノプロピルシラントルエン溶液中で6時間加熱還流し、アセトンで洗浄後、さらに、5%DSS(Disuccinimidyl Suberate)アセトン溶液で加熱還流し、アセトンで洗浄後、120℃で減圧乾燥した。
DSS化多孔質体7を200μLピペットチップ8に超音波溶着した(図13)。
ピペットチップ8をピペットに取り付け、1%トリプシン10mM炭酸水素ナトリウム水溶液を10回吸引吐出させ、トリプシンを結合させ、固定化した。
このトリプシン固定化チップを用いて、タンパク質の消化を行ったところ、MonoTip(登録商標) Trypsin(ジーエルサイエンス社製)と同等以上の消化効率が得られた。本多孔質体(ヒューズドコアモノリス体)は、固定化酵素ゲルとしても十分使用する事ができる事が判明した。
【産業上の利用可能性】
【0085】
この発明は、クロマトグラフィーカラムや吸着材として利用できる無孔性連続骨格表面に多孔性被覆層を形成した多孔質体に関する。この発明の多孔質体は、トリプシン、アルカリフォスファターゼ、グルコースイソメラーゼ等の酵素や白金、パラジウム等の触媒あるいは、オクタデシル基等の官能基が担持されて、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー等のクロマトグラフィー用カラムに好適に利用され得る。相分離を伴うゾル-ゲル法によって作製される様々な金属酸化物あるいは有機無機ハイブリッド組成によって、連続貫通孔の壁面に多孔性被覆層をもつ担体が作製される。多孔性被覆層を二酸化チタンとすれば、シリンジ先端やキャピラリー内部に固定して通液することにより、特定のリン酸化合物を分離あるいは濃縮するために用いることができる。また多数のタンパク質混合物から、特異吸着によって特定の性質をもったものだけを吸着・分離するために用いることができる。
【符号の説明】
【0086】
1 多孔質体
2 リザーバー
3 オクタデシル化多孔質体
4 ホルダー
5 水溶液
6 サンプル瓶
7 DSS化多孔質体
8 ピペットチップ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無孔性連続骨格により形成された連続貫通孔の表面に、細孔を有する多孔性被覆層を形成させたことを特徴とする多孔質体。
【請求項2】
直径200nm以上50μm未満の連続貫通孔を形成する無孔性連続骨格の表面に、直径2〜50nmの細孔を有する厚さ100nm以上25μm未満の多孔性被覆層を形成させたことを特徴とする多孔質体。
【請求項3】
前記細孔の全容積が10cm3/g以下であって、前記連続貫通孔と細孔の容積の和に対して該連続貫通孔の占める割合が20〜90%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多孔質体。
【請求項4】
前記無孔性連続骨格が、二酸化ケイ素SiO2、二酸化チタンTiO2、二酸化ジルコニウムZrO2、二酸化ハフニウムHfO2、酸化アルミニウムA12O5、イットリウムアルミニウムガーネットYA1O5、マグネシウムアルミニウムスピネルMgA12O4、酸化鉄(III)Fe2O5、酸化亜鉛ZnO、水酸アパタイトCa5(PO4)5、ケイ素‐酸素結合を連続骨格内に有する有機無機ハイブリッド架橋体、ポリスチレン、ポリアクリラートなどのビニル系架橋有機高分子、炭素、のいずれかを主成分とすることを特徴とする請求項1〜3のうち何れか1項に記載の多孔質体。
【請求項5】
前記無孔性連続骨格が二酸化ケイ素SiO2を主成分とすることを特徴とする請求項1〜4のうち何れか1項に記載の多孔質体。
【請求項6】
前記無孔性連続骨格が非晶質二酸化ケイ素SiO2からなることを特徴とする請求項1〜5のうち何れか1項に記載の多孔質体。
【請求項7】
前記多孔性被覆層が非晶質二酸化ケイ素SiO2からなることを特徴とする請求項1〜6のうち何れか1項に記載の多孔質体。
【請求項8】
加水分解性金属化合物あるいは金属塩を出発物質とすることを特徴とする請求項1〜7のうち何れか1項に記載の多孔質体。
【請求項9】
加水分解性金属化合物のうち金属アルコキシドを出発物質とすることを特徴とする請求項1〜8のうち何れか1項に記載の多孔質体。
【請求項10】
金属アルコキシドのうちケイ素アルコキシドを出発物質とすることを特徴とする請求項1〜9のうち何れか1項に記載の多孔質体。
【請求項11】
ケイ素アルコキシドのうちテトラメトキシシランあるいはテトラエトキシシランを出発物質とすることを特徴とする請求項1〜10のうち何れか1項に記載の多孔質体。
【請求項12】
ケイ素アルコキシドのうちアルキルトリメトキシシラン、アルキルトリエトキシシラン、ジアルキルジメトキシシラン、ジアルキルジエトキシシラン、ビストリメトキシシリルアルカン、ビストリエトキシシリルアルカン、およびそれらの所定の割合の混合物を出発物質とすることを特徴とする請求項1〜11のうち何れか1項に記載の多孔質体。
【請求項13】
請求項1〜12のうち何れかに1項に記載の多孔質体を用いることを特徴とするクロマトグラフィー用分離媒体。
【請求項14】
請求項1〜12のうち何れか1項に記載の多孔質体を用いることを特徴とする、分離あるいは濃縮用吸着材料。
【請求項15】
ゾル‐ゲル反応により多孔質ゲルを得る工程と、該多孔質ゲルの細孔を消失させる工程と、該多孔質ゲルの細孔を消失させる工程により得られた無孔性連続骨格に多孔性被覆層を形成させる工程と、から成ることを特徴とする多孔質体の製造方法。
【請求項16】
酸性水溶液中に於いて、相分離誘起剤の存在下、加水分解性金属化合物を加水分解・重合して反応溶液のゲル化を行なう工程と、生成したゲル中の有機成分を除去する工程と、得られた多孔質ゲルを焼成する工程と、上記の過程で得られた無孔性連続骨格の連続貫通孔表面に多孔性被覆層を形成する工程と、から成ることを特徴とする請求項15に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項17】
前記多孔性被覆層の細孔径を水熱処理によって制御する工程を有することを特徴とする請求項15又は16に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項18】
反応溶液中の水あるいは相分離誘起剤の濃度を変化させることにより無孔性連続骨格に形成される連続貫通孔径を制御し、乾燥して塊状試料を得た後、細孔を焼結によって消失させる工程、上記の過程で得られた無孔性連続骨格の連続貫通孔表面に多孔性被覆層を形成する工程を有することを特徴とする請求項15〜17のうち何れか1項に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項19】
無孔性連続骨格の連続貫通孔表面に多孔性被覆層を形成させるために、無孔性連続骨格と親和性の高い反応溶液を用いて連続貫通孔内における相分離を誘起し、濡れ転移よって厚さおよび空間分布の均一な被覆層を得ることを特徴とする請求項15〜18の何れか1項に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項1】
無孔性連続骨格により形成された連続貫通孔の表面に、細孔を有する多孔性被覆層を形成させたことを特徴とする多孔質体。
【請求項2】
直径200nm以上50μm未満の連続貫通孔を形成する無孔性連続骨格の表面に、直径2〜50nmの細孔を有する厚さ100nm以上25μm未満の多孔性被覆層を形成させたことを特徴とする多孔質体。
【請求項3】
前記細孔の全容積が10cm3/g以下であって、前記連続貫通孔と細孔の容積の和に対して該連続貫通孔の占める割合が20〜90%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多孔質体。
【請求項4】
前記無孔性連続骨格が、二酸化ケイ素SiO2、二酸化チタンTiO2、二酸化ジルコニウムZrO2、二酸化ハフニウムHfO2、酸化アルミニウムA12O5、イットリウムアルミニウムガーネットYA1O5、マグネシウムアルミニウムスピネルMgA12O4、酸化鉄(III)Fe2O5、酸化亜鉛ZnO、水酸アパタイトCa5(PO4)5、ケイ素‐酸素結合を連続骨格内に有する有機無機ハイブリッド架橋体、ポリスチレン、ポリアクリラートなどのビニル系架橋有機高分子、炭素、のいずれかを主成分とすることを特徴とする請求項1〜3のうち何れか1項に記載の多孔質体。
【請求項5】
前記無孔性連続骨格が二酸化ケイ素SiO2を主成分とすることを特徴とする請求項1〜4のうち何れか1項に記載の多孔質体。
【請求項6】
前記無孔性連続骨格が非晶質二酸化ケイ素SiO2からなることを特徴とする請求項1〜5のうち何れか1項に記載の多孔質体。
【請求項7】
前記多孔性被覆層が非晶質二酸化ケイ素SiO2からなることを特徴とする請求項1〜6のうち何れか1項に記載の多孔質体。
【請求項8】
加水分解性金属化合物あるいは金属塩を出発物質とすることを特徴とする請求項1〜7のうち何れか1項に記載の多孔質体。
【請求項9】
加水分解性金属化合物のうち金属アルコキシドを出発物質とすることを特徴とする請求項1〜8のうち何れか1項に記載の多孔質体。
【請求項10】
金属アルコキシドのうちケイ素アルコキシドを出発物質とすることを特徴とする請求項1〜9のうち何れか1項に記載の多孔質体。
【請求項11】
ケイ素アルコキシドのうちテトラメトキシシランあるいはテトラエトキシシランを出発物質とすることを特徴とする請求項1〜10のうち何れか1項に記載の多孔質体。
【請求項12】
ケイ素アルコキシドのうちアルキルトリメトキシシラン、アルキルトリエトキシシラン、ジアルキルジメトキシシラン、ジアルキルジエトキシシラン、ビストリメトキシシリルアルカン、ビストリエトキシシリルアルカン、およびそれらの所定の割合の混合物を出発物質とすることを特徴とする請求項1〜11のうち何れか1項に記載の多孔質体。
【請求項13】
請求項1〜12のうち何れかに1項に記載の多孔質体を用いることを特徴とするクロマトグラフィー用分離媒体。
【請求項14】
請求項1〜12のうち何れか1項に記載の多孔質体を用いることを特徴とする、分離あるいは濃縮用吸着材料。
【請求項15】
ゾル‐ゲル反応により多孔質ゲルを得る工程と、該多孔質ゲルの細孔を消失させる工程と、該多孔質ゲルの細孔を消失させる工程により得られた無孔性連続骨格に多孔性被覆層を形成させる工程と、から成ることを特徴とする多孔質体の製造方法。
【請求項16】
酸性水溶液中に於いて、相分離誘起剤の存在下、加水分解性金属化合物を加水分解・重合して反応溶液のゲル化を行なう工程と、生成したゲル中の有機成分を除去する工程と、得られた多孔質ゲルを焼成する工程と、上記の過程で得られた無孔性連続骨格の連続貫通孔表面に多孔性被覆層を形成する工程と、から成ることを特徴とする請求項15に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項17】
前記多孔性被覆層の細孔径を水熱処理によって制御する工程を有することを特徴とする請求項15又は16に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項18】
反応溶液中の水あるいは相分離誘起剤の濃度を変化させることにより無孔性連続骨格に形成される連続貫通孔径を制御し、乾燥して塊状試料を得た後、細孔を焼結によって消失させる工程、上記の過程で得られた無孔性連続骨格の連続貫通孔表面に多孔性被覆層を形成する工程を有することを特徴とする請求項15〜17のうち何れか1項に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項19】
無孔性連続骨格の連続貫通孔表面に多孔性被覆層を形成させるために、無孔性連続骨格と親和性の高い反応溶液を用いて連続貫通孔内における相分離を誘起し、濡れ転移よって厚さおよび空間分布の均一な被覆層を得ることを特徴とする請求項15〜18の何れか1項に記載の多孔質体の製造方法。
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図1】
【図5】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図1】
【図5】
【公開番号】特開2013−3065(P2013−3065A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136826(P2011−136826)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(390030188)ジーエルサイエンス株式会社 (37)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(390030188)ジーエルサイエンス株式会社 (37)
【Fターム(参考)】
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