説明

多孔質物質、シロキサン除去剤及びそれを用いたフィルター

【課題】シロキサン類を効率よく吸着して除去するのに有用な多孔質物質、該多孔質物質で構成されたシロキサン除去剤(又は吸着剤)、並びにシロキサン類を除去するのに有用なフィルター(若しくはこのフィルターを備えたガスセンサー)を提供する。
【解決手段】本発明は、スルホン酸基修飾金属酸化物ゾルを多孔質材料に添着させた多孔質物質であり、好ましくは下記式(1)で表される官能基で修飾されたスルホン酸基修飾金属酸化物ゾルを多孔質材料に添着させた多孔質物質である。
HOS(=O)−R−Si(CH(−O−)3−n (1)
{式中、Rは炭素数1〜10のアルキレン基(本アルキレン鎖中に、ウレタン結合又はウレア結合を含有していても良い)であり、nは0又は1を表す。}

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シロキサンを効率よく除去するのに有効な多孔質物質、それを用いたシロキサン除去剤(又は吸着剤)及びガスセンサーなどのフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds,VOC)の使用、及びVOC対策に伴う低揮発性溶媒への切り換えなどを含め、種々の化学物質の使用により、環境(住環境など)中には多様な化学物質が含まれている。特に、省エネルギー化に伴う住宅構造の高気密化などに付随して、住環境中には、多様な化学物質が含まれている。例えば、シリコーンパテ、防曇剤、艶だし剤、消臭スプレー、化粧品(整髪料など)、シャンプー、トリートメントなどに含まれるシロキサン化合物(シリコーンオイルなど)に起因して、大気中には、微量のシロキサン類(環状シロキサン類)が含まれている。
このようなシロキサン類は種々の弊害をもたらす。例えば、シロキサン類は燃焼して微粒子状の酸化ケイ素を生成し、ガスタービンやガスエンジンに付着して発電障害をもたらす。特許第3776904号公報(特許文献1)には、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体からなる樹脂吸着剤を充填した複数の吸着塔を設け、少なくとも一つの吸着塔に水分を含む被処理ガスを流通してシロキサンを吸着除去し、同時に他の少なくとも一つの吸着塔に室温以上150℃以下の再生用ガスを通気してシロキサンの脱離により樹脂吸着剤を再生して、シロキサンの吸着除去と樹脂吸着剤の再生を並行して行い、一定時間後に被処理ガスと再生用ガスの通気を切替えて前記吸着処理と前記再生処理を交換してシロキサンを連続除去するシロキサン除去方法が開示されている。この方法では、シロキサンに対するスチレン−ジビニルベンゼン共重合体(樹脂吸着剤)の吸脱着性を利用して、シロキサンを除去でき、微粒子状の酸化ケイ素の生成に伴う弊害を解消できる。
一方、シロキサン類はセンサー(ガスセンサーなど)による誤った警報の原因ともなる。すなわち、ガスセンサーの容器の上流側には、センサーの被毒成分の通過を防止し、かつ被検出成分(例えば、一酸化炭素、メタンなど)の通過を許容するフィルターが配設されており、このフィルターは活性炭などの吸着剤を含んでいる。しかし、吸着剤に対する吸着性はVOC成分よりもシロキサン類が小さいため、シロキサン類がフィルターを通過してセンサーに到達する。また、VOC成分が吸着剤に吸着されて蓄積すると、吸着剤の吸着能が低下するため、時間の経過に伴って、シロキサン類がフィルターを通過してセンサーに到達しやすくなる。そして、センサー表面ではシロキサン類がシリカ皮膜を形成し、種々のガスに対して鋭敏化するため、誤警報のケースが増大している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3776904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、シロキサン類を効率よく吸着して除去するのに有用な多孔質物質で構成されたシロキサン除去剤(又は吸着剤)、並びにシロキサン類を除去するのに有用なフィルター(若しくはこのフィルターを備えたガスセンサー)を提供することにある。
本発明の他の目的は、VOC成分(例えば、低揮発性有機化合物)は吸着することなく、シロキサン類を選択的に長期間に亘り吸着する多孔質物質で構成されたシロキサン除去剤(又は吸着剤)、並びにシロキサン類を除去するのに有用なフィルター(若しくはこのフィルターを備えたガスセンサー)を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、ガスセンサーにおいて、被検知成分に対する検知応答性を低下させることなく、被毒成分であるシロキサン類の通過又は透過を長期間に亘り抑制できる多孔質物質又はシロキサン除去剤(又は吸着剤)、並びにフィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、スルホン酸基修飾金属酸化物ゾルを多孔質材料に添着させた多孔質物質がシロキサン類に対する吸着能が大きいこと、被検知成分(一酸化炭素、メタンなど)を効率よく透過させつつ、シロキサン類を効率よく吸収又は吸着することを見いだし、本発明に至った。
即ち、本発明は、スルホン酸基修飾金属酸化物ゾルを多孔質材料に添着させた多孔質物質である。
【0006】
また本発明は、シロキサン類を吸着または吸収して除去する除去剤であって、前記多孔質物質を含む、シロキサン除去剤である。
【0007】
また本発明は、シロキサン類を含む被処理流体を、前記多孔質物質と接触させ、シロキサン類を除去する方法である。
【0008】
また本発明は、ガスセンサーの上流側に配設されるフィルターであって、前記多孔質物質を含むフィルターである。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、スルホン酸基修飾金属酸化物ゾルを多孔質材料に添着させた多孔質物質により、シロキサン類を効率よく吸着して被毒成分を除去できる。しかも、VOC成分(例えば、低揮発性有機化合物)は吸着することなく、シロキサン類を選択的に長期間に亘り吸着できる。さらに、ガスセンサーにおいては、被検知成分に対する検知応答性を低下させることなく、シロキサン類の通過又は透過を長期間に亘り抑制できる。そのため、本発明の多孔質物質はシロキサン除去剤(又は吸着剤)、シロキサン類を除去するためのフィルター(若しくはこのフィルターを備えたガスセンサー)として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、スルホン酸基修飾金属酸化物ゾルは金属酸化物ゾルをスルホン酸基で修飾されていればよいが、好ましくは下記式(1)で表される官能基で修飾されることが好ましい。
HOS(=O)−R−Si(CH(−O−)3−n (1)
{式中、Rは炭素数1〜10のアルキレン基(本アルキレン鎖中に、ウレタン結合又はウレア結合を含有していても良い)であり、nは0又は1を表す。}
【0011】
上記式(1)において、Rの炭素数1〜10のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基等が挙げられる。これらのうちコスト及び原料入手の点を考慮すると、好ましくはプロピレン基である。
【0012】
金属酸化物ゾルとしては、シリカゾル、アルミナゾル及びジルコニアゾルが挙げられる。
これらのうち、シリカゾルが好ましく、オルガノシリカゾルが特に好ましい。
なお、オルガノゾルとは、ナノレベルで表面改質をしたコロイダルシリカを有機溶媒に安定的に分散させたコロイド溶液であり、アルコール、ケトン、エーテル、トルエン等の各種有機溶媒に分散可能である。
具体的には日産化学社製のオルガノシリカゾル(メタノールシリカゾル、IPA−ST、IPA−ST、IPA−ST−UP、IPA−ST−ZL、EG−ST、NPC−ST−30、DMAC−ST、MEK−ST、MIBK−ST、PMA−ST及びPGM−ST)や扶桑化学社製の高純度オルガノシリカゾル(PL−1−IPA、PL−2L−PGME及びPL−2L−MEK)等が挙げられる。
これらは単独のみならず、複数で用いても良い。
【0013】
本発明のスルホン酸基修飾金属酸化物ゾルは以下の製造方法により得られる。
すなわち、金属酸化物ゾルに、化学的にスルホン酸基に変換できる官能基を有する下記式(SC1)または(SC2)で表されるシランカップリング剤を添加して金属酸化物ゾル上のシラノールと上記シランカップリング剤を反応させた後、チオール基をスルホン酸基に変換する方法によって得られる。
【0014】
HS−R−Si(CH(−Y)3−n (SC1)
(Y−)3−n(CH)Si−R−S−S−R−Si(CH(−Y)3−n (SC1)
【0015】
{式中Rは炭素数1〜10のアルキレン基(本アルキレン鎖中に、ウレタン結合又はウレア結合を含有していても良い)であり、Yは同一或いは異なってもよい炭素数1〜4のアルコキシ基又は水酸基、nは0又は1を表す。}
【0016】
式(SC1)または(SC2)で表されるシランカップリング剤の具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0017】
【化1】

【0018】
これらのうち、ウレタン結合やウレア結合を持つ化合物はイソシアネート基を有するシランカップリング剤に、2−メルカプトエタノール、2−メルカプトエチルアミン及び4−メルカプトアニリンを反応させることにより得ることが出来る。
【0019】
金属酸化物ゾルにシランカップリング剤を反応させる場合の溶媒としては、アルコール系溶媒:メチルアルコール、エチルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、ペンチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール及び1,4−ブタンジオール等、エーテル系溶媒:ジエチルエーテル、テトラハイドロフラン及びジオキサン等、ケトン系溶媒:アセトン及びメチルエチルケトン等、非プロトン溶媒:ジメチルスルホキサイド、N,N−ジメチルホルムアミド等及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。
これらのうち好ましいのは、アルコール系溶媒であり、これらの溶媒は1種又は2種以上で使用できる。
【0020】
溶媒に対する原料の金属酸化物ゾルの濃度は1〜50重量%であり、好ましくは1〜30重量%である。
【0021】
金属酸化物ゾルに対する化学的にスルホン酸基に変換できる官能基を有するシランカップリング剤の量は金属酸化物ゾル1gに対して、好ましくは0.55〜5.5mmolであり、特に好ましくは2.0〜5.0mmolである。
【0022】
化学的にスルホン酸基に変換できる官能基を有するカップリング剤を添加する際の温度は限定されないが、常温(約20℃)から沸点が好ましい。
反応温度も限定されないが、常温(約20℃)から沸点が好ましい。
反応時間も限定されないが、10分から48時間が好ましく、6時間から24時間が特に好ましい。
【0023】
過酸化物としては、有機過酸化物(過酢酸、m−クロロ過安息香酸、過酸化ベンゾイル等)、無機過酸化物(オゾン、過酸化水素、過酸化カルシウム等)が挙げられる。これらのうち、好ましいのは過酸化水素と過酢酸であり、特に好ましいのは過酸化水素である。
過酸化物は前段階の製造工程(金属酸化物ゾルに化学的にスルホン酸基に変換できる官能基を有するシランカップリング剤を結合させる工程)の中に一度に或は分割して投入することが出来る。
【0024】
用いる過酸化物の量は、スルホン酸基に変換できる官能基を有するシランカップリング剤に対して、200〜5000モル%、好ましくは300〜5000モル%、さらに好ましくは500〜5000モル%である。
【0025】
過酸化物を添加する際の温度は限定されないが、常温(約20℃)が好ましい。
反応温度も限定されないが、常温(約20℃)から沸点が好ましい。
反応時間も限定されないが、10分から48時間が好ましく、6時間から24時間が特に好ましい。
【0026】
本発明のスルホン酸基修飾金属酸化物ゾルは、作業性を向上させる為に希釈溶剤を含有させても良い。希釈溶媒としては、本発明のスルホン酸基修飾金属酸化物ゾルと反応せず、これらを溶解及び/又は分散させるものであれば制限がなく、例えば、エーテル系溶剤(テトラハイドロフラン、ジオキサン等)、アルコール系溶剤(メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール等)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)及び非プロトン性溶媒(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等)及び水等が挙げられる。
【0027】
希釈溶媒を含有する場合、希釈溶媒の含有量は、例えば、全溶媒に対する、本発明のスルホン酸基修飾金属酸化物ゾルの重量%が、0,01〜15重量%(好ましくは0.05〜10重量%、特に好ましくは0.1〜7.5重量%)となる量である。
【0028】
本発明の多孔質物質は、上記スルホン酸基修飾金属酸化物ゾルを多孔質材料に添着させた多孔質物質である。
原料として用いられる多孔質材料は、多数の微細な空孔を備えるものであれば特に限定されるものではないが、好適な例としては、活性炭、アルミナ、シリカ、ゼオライトが挙げられる。
【0029】
活性炭としては、種々の活性炭、例えば、黒鉛、鉱物系材料(褐炭、れき青炭などの石炭、石油又は石炭ピッチなど)、植物系材料(木材、果実殻(やし殻など)など)、動物系材料(動物の骨、皮など)、高分子材料(ポリアクリロニトリル(PAN)、フェノール系樹脂、セルロース、再生セルロースなど)などを原料とする活性炭などが挙げられる。活性炭は、これらの原料を必要に応じて炭化又は不融化した後、賦活処理することにより得ることができる。なお、炭化方法、不融化方法、賦活方法は、特には限定されず、慣用の方法が利用できる。例えば、賦活は、炭素原料(又はその炭化物若しくは不融化物)を賦活ガス(水蒸気、二酸化炭素など)中、500〜1000℃程度で熱処理するガス賦活法、炭素原料(又はその炭化物若しくは不融化物)を賦活剤(リン酸、塩化亜鉛、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなど)と混合し、300〜800℃程度で熱処理する化学的賦活法などにより行うことができる。
【0030】
活性炭のうち、やし殻活性炭などの植物系活性炭、石炭などを原料とする鉱物系活性炭、PAN系活性炭・セルロース系活性炭などの高分子系活性炭などが好ましい。活性炭は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0031】
多孔質材料の形状は、特に制限されず、粒状(粉粒状)、繊維状などであってもよい。なお、多孔質材料の平均粒子径は、例えば、1〜1000μm、好ましくは10〜750μm、さらに好ましくは100〜500μm程度であってもよい。また、繊維状多孔質材料の平均繊維径は、特に制限されず、1〜200μm、好ましくは5〜100μm、さらに好ましくは10〜70μm程度であってもよい。
【0032】
多孔質材料の比表面積は、例えば、350〜2500m/g、好ましくは700〜2500m/g、さらに好ましくは1000〜1800m/g程度である。
【0033】
多孔質材料は、単独で用いてもよく、多孔質材料とバインダー成分(又は賦形成分)とで構成された成形体として用いてもよい。
バインダー成分としては、多孔質材料を適当な形状(例えば、粒状、シート状、ハニカム状など)に賦形又は成形できればよく、例えば、セピオライト、ゼオライト、アタパルジャイト、タルク、モンモリロナイトなどの無機粘土鉱物、フェノール系樹脂、ピッチ系樹脂などの結合剤に限らず、繊維成分なども含まれる。これらのバインダー成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用でき、必要により、結合剤と繊維成分とを組み合わせて用いてもよい。
【0034】
前記バインダー成分のうち、繊維成分としては、合成繊維(ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維など)、ポリアミド繊維、ポリカーボネート繊維、ポリイミド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリエーテルスルホン繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリアセタール繊維、フェノール樹脂繊維、ポリアリレート繊維、液晶ポリマー繊維など)、半合成繊維(セルロースアセテートなどのセルロースエステル繊維など)、天然繊維(例えば、セルロース繊維、綿、麻、岩綿、羊毛繊維など)、無機繊維(炭素繊維、炭化ケイ素繊維、ガラス繊維、シリカ−アルミナ繊維など)などが挙げられる。これらの繊維成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。上記繊維成分のうち、セルロース繊維、セルロースエステル繊維、又はこれらのセルロース系繊維を含有する混合繊維、パルプなどが好ましい。繊維成分は、必要により、叩解してもよい。
【0035】
多孔質材料とともにバインダー成分を用いた成形体には、通常、(i)多孔質材料と結合剤と、必要により繊維成分とを用いて、繊維状、シート状、ハニカム状などに成形したり、ペレット化した成形体、及び(ii)多孔質材料と、繊維成分と、必要により結合剤とを用いて、抄紙などの手段でシート状に成形した成形体などが含まれる。
【0036】
バインダー成分を含む前記成形体において、バインダー成分の割合は、多孔質材料100重量部に対して、例えば、0.1〜500重量部、好ましくは1〜400重量部、さらに好ましくは5〜300重量部程度であってもよい。例えば、多孔質材料を繊維成分とともに抄紙した抄紙構造を有する多孔質材料などでは、バインダー成分(繊維成分)の割合は、多孔質材料100重量部に対して、例えば、10〜500重量部、好ましくは50〜450重量部、さらに好ましくは100〜350重量部程度であってもよい。
【0037】
このような多孔質材料含有成形体の形状は、特に制限されず、粒状(粉粒状又はペレット状)、繊維状、シート状、ハニカム状であってもよい。
【0038】
多孔質材料1gあたりの、スルホン酸基の添着量は0.01〜0.8mmolが好ましい。
【0039】
スルホン酸基修飾金属酸化物ゾルの多孔質材料への添着は、慣用の方法、例えば、多孔質材料をアルコール類(エタノールなど)に懸濁し、該懸濁液をスルホン酸基修飾金属酸化物ゾル分散液(エタノール中)に加え、攪拌することにより行うことができる。
【0040】
本発明の多孔質物質は、シロキサン類を効率よく吸着又は吸収するため、シロキサン除去剤(又は吸着剤)として有用である。前記シロキサン類(環状シロキサン類)としては、シロキサンの環状2量体(又は4員環シロキサン)[(CHSiO](D2)、環状3量体(又は6員環シロキサン)[(CHSiO](D3)、環状4量体(又は8員環シロキサン)[(CHSiO](D4)、環状5量体(又は10員環シロキサン)[(CHSiO](D5)、環状6量体(D6)などが例示される。本発明の凝集体(又は吸着剤)は、これらのシロキサン類のうち単独のシロキサン又は複数のシロキサン類を吸着又は吸収できる。なお、環境中(例えば、大気中)のシロキサン類のうち主たる成分は、環状3量体(D3)、環状4量体(D4)及び環状5量体(D5)、特に環状3量体(D3)及び環状4量体(D4)である。
【0041】
シロキサン除去剤(又は吸着剤)は、前記本発明の多孔質物質(第一の吸着剤)を含んでいればよく、本発明の多孔質物質(第一の吸着剤)単独で構成してもよく、第一の吸着剤と他の吸着剤(例えば、活性炭、ゼオライト、シリカ、アルミナなど)とを併用してもよい。他の吸着剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0042】
シロキサン類は、シロキサン類を含む被処理流体を、前記多孔質物質(又は多孔質物質を含む除去剤)と接触させることにより除去できる。被処理流体は、液体(水溶液、有機溶媒溶液など)であってもよいが、通常、気体(ガス)である。被処理流体中のシロキサン類の濃度は、例えば、1ppb〜20ppm、好ましくは1ppb〜1ppm、さらに好ましくは1ppb〜100ppb程度である。なお、被処理流体(特に被処理ガス)は、水分、一酸化炭素、二酸化炭素、一酸化窒素、二酸化窒素、炭化水素(メタン、エタン、プロパン、ブタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素など)、ハロゲン化炭化水素類(トリクロロエチレンなど)、エーテル類(ジメチルエーテル、ジエチルエーテルなど)などを含んでいてもよい。さらに、被処理ガスは、シロキサン類を含む空気であってもよい。
【0043】
被処理流体(又は被処理ガス)は、バッチ式、セミバッチ式又は連続式で前記多孔質物質(又は多孔質物質を含む除去剤)と接触させることができる。連続式に被処理流体(又は被処理ガス)を処理する場合、被処理流体(又は被処理ガス)の流量は、前記多孔質物質(又は多孔質物質を含む除去剤)100gに対して、常温常圧(温度20〜25℃、圧力1気圧)で、100mL〜200L/分、好ましくは1〜100L/分、さらに好ましくは1〜60L/分(例えば、5〜50L/分)程度であってもよい。被処理流体(又は被処理ガス)の空間速度(SV)は、例えば、100〜50000h−1、好ましくは1000〜30000h−1、さらに好ましくは5000〜20000h−1程度であってもよい。
被処理流体(又は被処理ガス)は、加圧して前記多孔質物質(又は除去剤、吸着剤)と接触させてもよいが、通常、被処理流体(又は被処理ガス)の処理は常圧で行われる。吸着処理は、例えば、温度0〜100℃(好ましくは10〜50℃、さらに好ましくは15〜35℃)程度で行うことができる。
【0044】
本発明の多孔質物質は、センサーの被毒成分又は鋭敏化成分であるシロキサン類を選択的に吸着する。そのため、多孔質物質(又は多孔質物質を含む除去剤)は、センサー(例えば、工業用又は家庭用ガス警報器のセンサー)の上流側に配設されるフィルター材料として適している。より詳細には、所定の検知成分を検知するためのセンサ(ガスセンサーなど)は、通常、流入口と排出口とを備えた中空筒体と、この筒体の上流側(流入口側)の筒体内に配設され、夾雑成分(センサの被毒成分など)を除去するためのフィルターと、このフィルターの下流側の筒体に配設されたセンサーとを備えている。センサーからの検出値は基準値と比較され、検出値が基準値を越えると、警報により有毒成分又は可燃成分の濃度が高くなったことを報知している。
このようなセンサーによる検知成分は、センサーの用途に応じて選択できるが、前記多孔質物質(又は除去剤)は、検知成分[一酸化炭素、VOC成分(例えば、メタンなどの低揮発性有機化合物)など]を吸着することなく、シロキサン類を選択的に効率よく吸着する。そのため、センサーのフィルターを前記多孔質物質(又は除去剤)で構成すると、シロキサン類の通過又は透過を長期間に亘り抑制でき、被検知成分に対する検知応答性を低下させることなく、誤警報の発生を防止できる。なお、センサーとしては、被検知成分の種類に応じて選択でき、一酸化炭素では、慣用のセンサー(例えば、接触燃焼式、半導体式、電気化学式センサー)、メタンなどの可燃性成分では、慣用のセンサー(例えば、接触燃焼式、半導体式センサー)などが利用できる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明する。実施例は、本発明を説明するものであり、制限を加えるものではない。
【0046】
実施例1
3−(トリメトキシシリル)プロパン−1−チオール(チッソ製S810) 6g(30.6mmol)、エタノール204g、水29g、オルガノシリカゾル(日産化学製、30%メタノール溶液)21g(シリカゾル6.3g相当)、を混合し、バス温90℃で一晩加熱還流した。30%過酸化水素水21g(185mmol)を加えさらに一晩加熱還流した。得られたスルホン酸基修飾シリカゾル分散液の重量は223gであった。
粒状白鷺KL 20gをエタノール200mLに懸濁し、上記の修飾シリカゾル分散液66.8gを加え室温で一晩攪拌した。修飾シリカゾルの添着量は0.400mmol/gであった。
【0047】
実施例2
3−(トリメトキシシリル)プロパン−1−チオール(チッソ製S810) 7.29g(37.1mmol)、エタノール248g、水73g、オルガノシリカゾル(日産化学製、30%メタノール溶液)36.5g(シリカゾル11.0g相当)、を混合し、バス温90℃で一晩加熱還流しました。30%過酸化水素水25.2g(223mmol)を加えさらに一晩加熱還流した。得られたスルホン酸基修飾シリカゾル分散液の重量は390gであった。
上記の修飾シリカゾル分散液5.2gをエタノール100gで希釈し、粒状活性炭A−BACMP 50gを懸濁し、室温で一晩攪拌した。修飾シリカゾルの添着量は0.01mmol/gであった。
【0048】
実施例3
実施例1と同条件で、スルホン酸基修飾シリカゾル分散液を得た。
粒状活性炭A−BAC MP 9.0gをエタノール9mLに懸濁し、上記の修飾シリカゾル分散液84.2gを加え室温で一晩攪拌した。修飾シリカゾルの添着量は0.8mmol/gであった。
【0049】
実施例4
実施例2と同条件で、スルホン酸基修飾シリカゾル分散液を得た。
上記の修飾シリカゾル分散液630gに、粒状活性炭A−BAC MP 30gを懸濁し、室温で一晩攪拌した。修飾シリカゾルの添着量は2.0mmol/gであった。
【0050】
実施例5
実施例1と同条件で、スルホン酸基修飾シリカゾル分散液を得た。
サイロホービック505(合成シリカ) 10gをエタノール100mLに懸濁し、上記の修飾シリカゾル分散液15.9gを加え室温で一晩攪拌した。修飾シリカゾルの添着量は0.195mmol/gであった。
【0051】
実施例6
実施例1と同条件で、スルホン酸基修飾シリカゾル分散液を得た。
アルミナ(MERCK 0.063−0.2mm) 10gをエタノール100mLに懸濁し、上記の修飾シリカゾル分散液15.9gを加え室温で一晩攪拌した。修飾シリカゾルの添着量は0.195mmol/gであった。
【0052】
比較例1〜4
粒状白鷺KL、粒状活性炭A−BAC MP、サイロホービック505(合成シリカ)及びアルミナ(MERCK 0.063−0.2mm)をそのまま使用した。
【0053】
[評価試験]
得られた多孔質物質約500mgを、アルミニウム容器に入れて精秤(小数点以下4桁まで精秤)した。ガラス容器底部に、小さいシャーレに入れた環状4量体シロキサン(D4)を置き、網製架台の上に精秤した多孔質物質を置いた。ガラス容器にふたをして50℃恒温槽に入れ24時間後の重量を測定した。24時間後、熱分析(TG−DTA:N2
300ml/分、25℃から250℃へ10℃/分の昇温速度で昇温)により多孔質物質の重量増加に対する保持量を測定した。
【0054】
【表1】

【0055】
表1から明らかなように、比較例に比べ、実施例ではシロキサン類を長時間に亘り効率よく吸着し、かつ保持する。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、シロキサン類を効率よくかつ選択的に吸着して除去又は分離する。そのため、種々に分野、例えば、工業的にシロキサン類を分離するだけでなく、環境中のシロキサン類を分離するのに有用である。また、被毒成分であるシロキサン類を分離除去して、被検知成分(一酸化炭素、メタンなど)を検知するガスセンサーのフィルターなどとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基修飾金属酸化物ゾルを多孔質材料に添着させた多孔質物質。
【請求項2】
スルホン酸基修飾金属酸化物ゾルが、下記式(1)で表される官能基で修飾された修飾金属酸化物ゾルである請求項1に記載の多孔質物質。
HOS(=O)−R−Si(CH(−O−)3−n (1)
{式中、Rは炭素数1〜10のアルキレン基(本アルキレン鎖中に、ウレタン結合又はウレア結合を含有していても良い)であり、nは0又は1を表す。}
【請求項3】
金属酸化物ゾルがシリカゾルである請求項1又は2に記載の多孔質物質。
【請求項4】
多孔質材料1gあたりの、スルホン酸基の添着量が0.01〜0.8mmolである請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質物質。
【請求項5】
シロキサン類を吸着または吸収して除去する除去剤であって、請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質物質を含む、シロキサン除去剤。
【請求項6】
シロキサン類を含む被処理流体を、請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質物質と接触させ、シロキサン類を除去する方法。
【請求項7】
ガスセンサーの上流側に配設されるフィルターであって、請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質物質を含むフィルター。

【公開番号】特開2013−103153(P2013−103153A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247151(P2011−247151)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】