説明

多段油圧比変換装置

【課題】スプール弁のような動的差圧発生機構に依存することなく、圧力の静的伝播構造において、油圧供給源からの供給油圧を所望の値に変換する。
【解決手段】油圧供給源10からの供給油圧を常時受けて油圧推力を発生する基準推力プランジャ11と、基準推力プランジャ11に連結された連結部材15に取り付けられ、基準推力プランジャ11の油圧推力を受けて出力油圧を発生する出力プランジャ12と、連結部材15に取り付けられ基準推力プランジャ11の油圧推力と同方向の油圧推力を発生する正推力プランジャ21と、連結部材15に取り付けられ、基準推力プランジャ11の油圧推力と反対方向の油圧推力を発生する負推力プランジャ22と、出力プランジャ12が発生する出力油圧の大きさを多段階に変化させるべく、正推力プランジャ21及び負推力プランジャ22への油圧供給源10からの供給油圧の油圧供給状態を切り換えるための切換手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧供給源からの供給油圧を所定の出力油圧に変換するための多段油圧比変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な機械装置に用いられるアクチュエータとして、比較的小さなサイズで大きな推力が得られる油圧アクチュエータが多用されているが、その油圧アクチュエータによる推力を調整するには、油圧アクチュエータへの供給油圧を可変制御する必要がある。
【0003】
このような油圧アクチュエータへの供給油圧(以下出力油圧という)を可変制御する方法として最も一般的なのは、油圧ポンプからの吐出油をオイルタンクに戻す循環通路中に、位置制御部材と負荷部材との相対変位に応じて作動油の流路面積が変化する所謂スプール弁を配設し、吐出側と戻り側との流路面積比の変化によって生ずるオリフィス差圧効果を出力油圧として用いる方法である(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−18846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
出力油圧の制御方法として、油圧ポンプ及びスプール弁を用いた方法は、制御に要する操作力が極めて小さく、僅かな相対変位によって敏感に出力油圧を変化させることができるので重用されているが、この方法の原理上、一定の出力油圧を維持するには、その出力油圧に油圧ポンプの単位吐出量に乗じた値に相当する駆動負荷を負って油圧ポンプを駆動し続けなければならないから、例えば、油圧アクチュエータの負荷荷重に対して負荷部材を一定位置に保持しているような状況下でも、大きなエネルギー消費を伴うという問題がある。
【0006】
負荷部材を一定位置に保持している状況は、一定の出力油圧を発生し続けてはいるものの、その移動変位がない状況であるから、力と変位量とを乗じた値で定義される出力エネルギーはゼロであるにも拘わらず、油圧ポンプ駆動の大きなエネルギー消費を必要とするのは、エネルギー効率の観点で合理的でないと言わざるを得ない。
【0007】
この問題に関し、油圧供給源として油圧ポンプに依存するのではなく、例えば封入ガス圧縮型のアキュムレータ等からの供給油圧を用いてやれば、エネルギー消費を伴わずに油圧供給を維持できるので、装置のエネルギー効率を画期的に上げることが可能になると考えられるが、その場合の供給油圧は、油圧ポンプ及びスプール弁を用いた方法のような流体の動的差圧発生原理によるものではなく、圧力の静的伝播原理によるものなので、その出力油圧の制御方法としてスプール弁のような動的差圧発生機構に依存することができない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、スプール弁のような動的差圧発生機構に依存することなく、圧力の静的伝播構造において、油圧供給源からの供給油圧を所望の値に変換することができる多段油圧比変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、油圧供給源からの供給油圧を常時受けて油圧推力を発生する基準推力プランジャと、該基準推力プランジャに連結された連結部材に上記基準推力プランジャに対向させて取り付けられ、上記基準推力プランジャの油圧推力を受けて出力油圧を発生する出力プランジャと、上記連結部材に取り付けられ上記油圧供給源からの供給油圧を受けて上記基準推力プランジャの油圧推力と同方向の油圧推力を発生する正推力プランジャ、及び、上記連結部材に取り付けられ受圧面積が上記正推力プランジャの受圧面積と等しく且つ上記油圧供給源からの供給油圧を受けて上記基準推力プランジャの油圧推力と反対方向の油圧推力を発生する負推力プランジャを有するプランジャ対と、上記出力プランジャが発生する出力油圧の大きさを多段階に変化させるべく、上記プランジャ対の正推力プランジャ及び負推力プランジャへの上記油圧供給源からの供給油圧の油圧供給状態を切り換えるための切換手段と、を備えた多段油圧比変換装置である。
【0010】
ここで、受圧面積が互いに異なる上記プランジャ対を複数備え、受圧面積の大きさがN番目のプランジャ対の正推力プランジャ及び負推力プランジャの受圧面積が、受圧面積が最も小さいプランジャ対の正推力プランジャ及び負推力プランジャの受圧面積の2(N-1)倍となるように設定されても良い。
【0011】
また、上記切換手段は、受圧面積の大きさがN番目のプランジャ対の正推力プランジャの油圧通路を、受圧面積の大きさがN+1番目のプランジャ対の正推力プランジャの油圧通路に接続する第一通路と、該第一通路を開閉する第一弁手段と、受圧面積の大きさがN番目のプランジャ対の正推力プランジャの油圧通路を、受圧面積の大きさがN+1番目のプランジャ対の負推力プランジャの油圧通路に接続する第二通路と、該第二通路を開閉する第二弁手段と、受圧面積の大きさがN番目のプランジャ対の負推力プランジャの油圧通路を、受圧面積の大きさがN+1番目のプランジャ対の正推力プランジャの油圧通路に接続する第三通路と、該第三通路を開閉する第三弁手段と、受圧面積の大きさがN番目のプランジャ対の負推力プランジャの油圧通路を、受圧面積の大きさがN+1番目のプランジャ対の負推力プランジャの油圧通路に接続する第四通路と、該第四通路を開閉する第四弁手段と、受圧面積が最も大きいプランジャ対の正推力プランジャの油圧通路を、オイルタンクが連通された油圧開放通路に接続する第五通路と、該第五通路を開閉する第五弁手段と、受圧面積が最も大きいプランジャ対の正推力プランジャの油圧通路を、上記油圧供給源が連通された油圧供給通路に接続する第六通路と、該第六通路を開閉する第六弁手段と、受圧面積が最も大きいプランジャ対の負推力プランジャの油圧通路を上記油圧開放通路に接続する第七通路と、該第七通路を開閉する第七弁手段と、受圧面積が最も大きいプランジャ対の負推力プランジャの油圧通路を上記油圧供給通路に接続する第八通路と、該第八通路を開閉する第八弁手段と、を有しても良い。
【0012】
また、上記切換手段は、受圧面積が最も小さいプランジャ対の正推力プランジャの油圧通路に接続され、上記油圧開放通路からの作動油の流入のみを許容する第一チェック弁と、受圧面積が最も小さいプランジャ対の正推力プランジャの油圧通路に接続され、上記油圧供給通路への作動油の流出のみを許容する第二チェック弁と、受圧面積が最も小さいプランジャ対の負推力プランジャの油圧通路に接続され、上記油圧開放通路からの作動油の流入のみを許容する第三チェック弁と、受圧面積が最も小さいプランジャ対の負推力プランジャの油圧通路に接続され、上記油圧供給通路への作動油の流出のみを許容する第四チェック弁と、を有しても良い。
【0013】
また、上記切換手段は、上記プランジャ対の正推力プランジャの油圧通路を、オイルタンクが連通された油圧開放通路に接続する第一通路と、該第一通路を開閉する第一弁手段と、上記プランジャ対の正推力プランジャの油圧通路を、上記油圧供給源が連通された油圧供給通路に接続する第二通路と、該第二通路を開閉する第二弁手段と、上記プランジャ対の負推力プランジャの油圧通路を上記油圧開放通路に接続する第三通路と、該第三通路を開閉する第三弁手段と、上記プランジャ対の負推力プランジャの油圧通路を上記油圧供給通路に接続する第四通路と、該第四通路を開閉する第四弁手段と、を有しても良い。
【0014】
また、上記基準推力プランジャの油室と上記出力プランジャの油室との間の油圧差圧を最終出力油圧として利用するための出力機構を備えても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、スプール弁のような動的差圧発生機構に依存することなく、圧力の静的伝播構造において、油圧供給源からの供給油圧を所望の値に変換することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る多段油圧比変換装置の概略図である。
【図2】図2は、多段油圧比変換装置の作動を示す図である。
【図3】図3は、多段油圧比変換装置の作動を示す図である。
【図4】図4は、多段油圧比変換装置の作動を示す図である。
【図5】図5は、多段油圧比変換装置の作動を示す図である。
【図6】図6は、多段油圧比変換装置の作動を示す図である。
【図7】図7は、多段油圧比変換装置の作動を示す図である。
【図8】図8は、多段油圧比変換装置の作動を示す図である。
【図9】図9は、多段油圧比変換装置の作動を示す図である。
【図10】図10は、多段油圧比変換装置の作動を示す図である。
【図11】図11は、多段油圧比変換装置の作動を示す図である。
【図12】図12は、多段油圧比変換装置の作動を示す図である。
【図13】図13は、多段油圧比変換装置の作動を示す図である。
【図14】図14は、出力油圧の変化特性を示す図である。
【図15】図15は、別の実施形態に係る多段油圧比変換装置の概略図である。
【図16】図16は、出力油圧の変化特性を示す図である。
【図17】図17は、別の実施形態に係る多段油圧比変換装置の概略図である。
【図18】図18は、別の実施形態に係る多段油圧比変換装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る多段油圧比変換装置の概略図である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態に係る多段油圧比変換装置1は、油圧供給源10からの一定の供給油圧を常時受けて油圧推力を発生する基準推力プランジャ11と、基準推力プランジャ11に対向させて配置され、基準推力プランジャ11の油圧推力を受けて出力油圧を発生する出力プランジャ12とを備える。油圧供給源10としては、一定の供給油圧を供給できるものであれば良く、例えば封入ガス圧縮型のアキュムレータ等を用いることができる。
【0020】
基準推力プランジャ11は入力側ケース13に凹設されたボアに摺動可能に装着され、出力プランジャ12は出力側ケース14に凹設されたボアに摺動可能に装着されており、これら基準推力プランジャ11と出力プランジャ12とは連結部材15によって互いに連結されている。基準推力プランジャ11の先端面と入力側ケース13のボアの底面との間には基準推力側油室16が区画形成されており、基準推力側油室16は油圧供給通路17を介して油圧供給源10に接続されている。また、出力プランジャ12の先端面と出力側ケース14のボアの底面との間には出力側油室18が区画形成されており、出力側油室18は油圧出力通路19を介して出力機器(例えば油圧アクチュエータ)20に接続されている。
【0021】
本実施形態に係る多段油圧比変換装置1は、連結部材15に取り付けられ、油圧供給源10からの一定の供給油圧を受けて基準推力プランジャ11の油圧推力と同方向の油圧推力を発生する正推力プランジャ21と、連結部材15に取り付けられ受圧面積が正推力プランジャ21の受圧面積と等しく且つ油圧供給源10からの一定の供給油圧を受けて基準推力プランジャ11の油圧推力と反対方向の油圧推力を発生する負推力プランジャ22とを備える。等しい受圧面積同士で対向する正推力プランジャ21と負推力プランジャ22とがプランジャ対23を構成する。
【0022】
正推力プランジャ21は入力側ケース13に凹設されたボアに摺動可能に装着され、負推力プランジャ22は出力側ケース14に凹設されたボアに摺動可能に装着されている。正推力プランジャ21の先端面と入力側ケース13のボアの底面との間には正推力側油室24が区画形成されており、正推力側油室24には油圧通路25が接続されている。また、負推力プランジャ22の先端面と出力側ケース14のボアの底面との間には負推力側油室26が区画形成されており、負推力側油室26には油圧通路27が接続されている。
【0023】
本実施形態では、受圧面積が互いに異なるプランジャ対23を2組備えている。以下、プランジャ対23及びプランジャ対23を構成する要素を示す符号の末尾に系統(受圧面積の大きさがN番目)を表す番号を付す。本実施形態では、受圧面積の大きさが2番目のプランジャ対23−2の正推力プランジャ21−2及び負推力プランジャ22−2の受圧面積が、受圧面積が最も小さい1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1及び負推力プランジャ22−1の受圧面積の2倍となるように設定される。
【0024】
つまり、本実施形態に係る多段油圧比変換装置1は、受圧面積が互いに異なるプランジャ対23を複数備えており、受圧面積の大きさがN番目のプランジャ対23の正推力プランジャ21及び負推力プランジャ22の受圧面積が、受圧面積が最も小さいプランジャ対23の正推力プランジャ21及び負推力プランジャ22の受圧面積の2(N-1)倍となるように設定されている。
【0025】
なお、図示例では、受圧面積の大きさが2番目の正推力プランジャ21−2及び負推力プランジャ22−2はそれぞれ、受圧面積が最も小さい1番目の正推力プランジャ21−1及び負推力プランジャ22−1と同じサイズのプランジャ2個からなり、これら2個のプランジャの受圧面積の和が受圧面積が最も小さい1番目の正推力プランジャ21−1及び負推力プランジャ22−1の受圧面積の2倍となるようになっている。この2番目の正推力プランジャ21−2及び負推力プランジャ22−2がそれぞれ、受圧面積が1番目の正推力プランジャ21−1及び負推力プランジャ22−1の受圧面積の2倍となる1個のプランジャからなっても良い。
【0026】
本実施形態に係る多段油圧比変換装置1は、出力プランジャ12が発生する出力油圧の大きさを多段階に変化させるべく、プランジャ対23の正推力プランジャ21及び負推力プランジャ22への油圧供給源10からの供給油圧の油圧供給状態を切り換えるための切換手段を備えている。
【0027】
本実施形態では、上記の切換手段は、受圧面積の大きさが1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1の油圧通路25−1を、受圧面積の大きさが2番目のプランジャ対23−2の正推力プランジャ21−2の油圧通路25−2に接続する第一通路28と、第一通路28を開閉する第一弁手段A1aと、受圧面積の大きさが1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1の油圧通路25−1を、受圧面積の大きさが2番目のプランジャ対23−2の負推力プランジャ22−2の油圧通路27−2に接続する第二通路29と、第二通路29を開閉する第二弁手段A1bと、受圧面積の大きさが1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1の油圧通路27−1を、受圧面積の大きさが2番目のプランジャ対23−2の正推力プランジャ21−2の油圧通路25−2に接続する第三通路30と、第三通路30を開閉する第三弁手段B1aと、受圧面積の大きさが1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1の油圧通路27−1を、受圧面積の大きさが2番目のプランジャ対23−2の負推力プランジャ22−2の油圧通路27−2に接続する第四通路31と、第四通路31を開閉する第四弁手段B1bとを有する。
【0028】
つまり、上記の切換手段は、受圧面積が最も大きいプランジャ対23を除く受圧面積の大きさがN番目のプランジャ対23の正推力プランジャ21の油圧通路25を、受圧面積の大きさがN+1番目のプランジャ対23の正推力プランジャ21の油圧通路25に接続する第一通路28と、第一通路28を開閉する第一弁手段と、受圧面積の大きさがN番目のプランジャ対23の正推力プランジャ21の油圧通路25を、受圧面積の大きさがN+1番目のプランジャ対23の負推力プランジャ22の油圧通路27に接続する第二通路29と、第二通路29を開閉する第二弁手段と、受圧面積の大きさがN番目のプランジャ対23の負推力プランジャ22の油圧通路27を、受圧面積の大きさがN+1番目のプランジャ対23の正推力プランジャ21の油圧通路25に接続する第三通路30と、第三通路30を開閉する第三弁手段と、受圧面積の大きさがN番目のプランジャ対23の負推力プランジャ22の油圧通路27を、受圧面積の大きさがN+1番目のプランジャ対23の負推力プランジャ22の油圧通路27に接続する第四通路31と、第四通路31を開閉する第四弁手段とを有する。
【0029】
本実施形態では、上記の切換手段は、受圧面積が最も大きい2番目のプランジャ対23−2の正推力プランジャ21−2の油圧通路25−2を油圧開放通路32に接続する第五通路33と、第五通路33を開閉する第五弁手段A2aと、受圧面積が最も大きい2番目のプランジャ対23−2の正推力プランジャ21−2の油圧通路25−2を油圧供給通路32に接続する第六通路34と、第六通路34を開閉する第六弁手段A2bと、受圧面積が最も大きい2番目のプランジャ対23−2の負推力プランジャ22−2の油圧通路27−2を油圧開放通路32に接続する第七通路25と、第七通路25を開閉する第七弁手段B2aと、受圧面積が最も大きい2番目のプランジャ対23−2の負推力プランジャ22−2の油圧通路27−2を油圧供給通路17に接続する第八通路36と、第八通路36を開閉する第八弁手段B2bとを有する。
【0030】
つまり、上記の切換手段は、受圧面積が最も大きいプランジャ対23の正推力プランジャ21の油圧通路25を油圧開放通路32に接続する第五通路33と、第五通路33を開閉する第五弁手段と、受圧面積が最も大きいプランジャ対23の正推力プランジャ21の油圧通路25を油圧供給通路17に接続する第六通路34と、第六通路34を開閉する第六弁手段と、受圧面積が最も大きいプランジャ対23の負推力プランジャ22の油圧通路27を油圧開放通路32に接続する第七通路35と、第七通路35を開閉する第七弁手段と、受圧面積が最も大きいプランジャ対23の負推力プランジャ22の油圧通路27を油圧供給通路17に接続する第八通路36と、第八通路36を開閉する第八弁手段とを有する。
【0031】
例えば、第一弁手段A1a及び第二弁手段A1bを一つの弁セットA1とし、第三弁手段B1a及び第四弁手段B1bを一つの弁セットB1とし、第五弁手段A2a及び第六弁手段A2bを一つの弁セットA2とし、第七弁手段B2a及び第八弁手段B2bを一つの弁セットB2とし、これら各弁セットA1、B1、A2、B2として、ポペット型弁要素を用いたクローズドセンター型の3位置切換弁機構を用いることができる。
【0032】
図示はしないが、3位置切換弁機構のポペット型弁要素を調圧制御操作量に応じた適切な開閉タイミングで開閉させる動弁機構として、固定系に回転可能に支持された調圧制御操作入力部材(円板)の表面に、その調圧制御操作入力部材の回転軸の同心円を基準円として、各ポペット型弁要素毎に求められる適切な開閉タイミングに対応するカムを形成しておき、それらカムに当接する従動部材の応動変位を、各々対応するポペット型弁要素に伝達する動弁機構を用いることが考えられる。
【0033】
また、本実施形態では、上記の切換手段は、受圧面積が最も小さい1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1の油圧通路25−1に接続され、オイルタンク37が連通された油圧開放通路32からの作動油の流入のみを許容する第一チェック弁C1と、受圧面積が最も小さい1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1の油圧通路25−1に接続され、油圧供給源10が連通された油圧供給通路17への作動油の流出のみを許容する第二チェック弁C2と、受圧面積が最も小さい1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1の油圧通路27−1に接続され、油圧開放通路32からの作動油の流入のみを許容する第三チェック弁C3と、受圧面積が最も小さい1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1の油圧通路27−1に接続され、油圧供給通路17への作動油の流出のみを許容する第四チェック弁C4とを有する。第一〜第四チェック弁C1、C2、C3、C4を備えることにより、各プランジャ対23の正推力プランジャ21及び負推力プランジャ22の油圧通路25、27が完全遮断状態である状態でも、出力プランジャ12の動作に応じて各プランジャ対23の正推力プランジャ21及び負推力プランジャ22の油圧通路25、27への作動油の出入りが許容されるので、出力油圧で動作する出力機器20の動作がロックされることを回避することが可能となる。
【0034】
次に、本実施形態に係る多段油圧比変換装置1の作動を図1から図13により説明する。
【0035】
本実施形態に係る多段油圧比変換装置1における油圧変換の基本原理は、切換手段によって、プランジャ対23の正推力プランジャ21及び負推力プランジャ22への油圧供給源10からの供給油圧の油圧供給状態を切り換え、プランジャ対23の正推力プランジャ21及び負推力プランジャ22が発生する油圧推力の変化によって、基準推力プランジャ11と出力プランジャ12との間の油圧推力の釣り合い関係に変化を与えることで、出力プランジャ12が発生する出力油圧を変化させることである。
【0036】
基準推力プランジャ11の油圧推力と、複数のプランジャ対23が発生する油圧推力との合計推力を、出力プランジャ12の受圧面積で除した値が出力油圧となる。
【0037】
詳しくは、油圧供給源10からの供給油圧をP0、基準油圧プランジャ11の受圧面積をSa、出力油圧プランジャ12の受圧面積をSb、受圧面積が最も小さい1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1及び負推力プランジャ22−1の受圧面積をS1、受圧面積の大きさが2番目のプランジャ対23−2の正推力プランジャ21−2及び負推力プランジャ22−2の受圧面積をS2とすると、出力油圧P1は以下の式で表される。
【0038】
P1=(P0×(Sa+S1+S2−S1−S2))/Sb
まず、図1に示す状態では、第五弁手段A2aが開で且つ第六弁手段A3bが閉であり、2番目のプランジャ対23−2の正推力プランジャ21−2の油圧通路25−2が油圧開放通路32と導通しており、2番目のプランジャ対23−2の正推力プランジャ21−2の油圧通路25−2の油圧が開放状態にあり、第七弁手段B2aが閉で且つ第八弁手段B2bが開であり、2番目のプランジャ対23−2の負推力プランジャ22−2の油圧通路27−2が油圧供給通路17と導通しているので、2番目のプランジャ対23−2の負推力プランジャ22−2の油圧通路27−2及びその負推力側油室26−2には油圧供給源10からの供給油圧が供給される。
【0039】
また、図1に示す状態では、第一弁手段A1aが開で且つ第二弁手段A1bが閉であり、1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1の油圧通路25−1が油圧開放状態にある2番目のプランジャ対23−2の正推力プランジャ21−2の油圧通路25−2と第一通路28を介して導通しているので、1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1の油圧通路25−1も油圧開放状態にあり、第三弁手段B1aが閉で且つ第四弁手段B1bが開であり、1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1の油圧通路27−1が油圧供給状態にある2番目のプランジャ対23−2の負推力プランジャ22−2の油圧通路27−2と第四通路31を介して導通しているので、1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1の油圧通路27−1も油圧供給状態にあり、1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1の油圧通路27−1及びその負推力側油室26−1にも油圧供給源10からの供給油圧が供給される。
【0040】
2番目のプランジャ対23−2の受圧面積S2は1番目のプランジャ対23−1の受圧面積S1の2倍であるので、図1に示す状態では、出力油圧は以下のように求められる。
【0041】
P1=(P0×(Sa+0−S1−S2))/Sb
=(P0×(Sa−S1×3))/Sb
即ち、プランジャ対23全体としては、供給油圧に1番目のプランジャ対23−1(正推力プランジャ21−1、負推力プランジャ22−1)の受圧面積の3倍の受圧面積を乗じた負方向の油圧推力(基準推力プランジャ11の油圧推力と反対方向の油圧推力)が発生することとなる。この出力油圧が本実施形態での最低出力油圧である。
【0042】
次に、図2に示すように、図1に示す状態から、それまで開であった第四弁手段B1bを閉じると、1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1の油圧通路27−1と油圧供給通路17との導通が遮断されるので、1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1の油圧通路27−1及びその負推力側油室26−1への供給油圧の供給が止まる。図2に示す状態では、1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1の油圧通路27−1に対する作動油の出入りは第三チェック弁C3及び第四チェック弁C4でのみ許容される。
【0043】
例えば、出力機器20の負荷が出力油圧より小さく、図2に示す状態で出力プランジャ12が図中の右側に移動しようとする場合には、出力側油室18内の作動油が吸い出され、プランジャ対23が図中の右側に移動しようとするが、第四チェック弁C4によって1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1の負推力側油室26−1内の作動油が油圧供給通路17へと流出するので、1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1の負推力側油室26−1内に供給油圧が作用している図1の状態と等価で変化せず、逆に、出力機器20の負荷が増して、出力プランジャ12が図中の左側に移動しようとする場合には、出力側油室18内に作動油が戻されるので、プランジャ対23が図中の左側に移動しようとすると、第三チェック弁C3によって1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1の負推力側油室26−1内に油圧開放通路32から作動油が流入するので、1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1の負推力側油室26−1は油圧開放状態と等価となるので、1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1による油圧推力は発生しないので、あたかも、出力油圧が自動的に一段階上昇したようになる。
【0044】
次に、図3に示すように、図2に示す状態から、それまで閉であった第三弁手段B1aを開くと、1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1の油圧通路27−1が油圧開放通路32と導通するので、1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1の油圧通路27−1の油圧が開放状態となり、図1に示す状態から出力油圧が一段階上昇した状態になる。
【0045】
図3に示す状態では、出力油圧は以下のように求められる。
【0046】
P1=(P0×(Sa+0−S2))/Sb
=(P0×(Sa−S1×2))/Sb
即ち、プランジャ対23全体としては、供給油圧に1番目のプランジャ対23−1(正推力プランジャ21−1、負推力プランジャ22−1)の受圧面積の2倍の受圧面積を乗じた負方向の油圧推力が発生することとなる。
【0047】
次に、図4に示すように、図3に示す状態から、それまで開であった第一弁手段A1aを閉じると、1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1の油圧通路25−1と油圧開放通路32との導通が遮断されるので、1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1の油圧通路25−1及びその正推力側油室24−1の油圧開放が止まる。図4に示す状態では、1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1の油圧通路24−1に対する作動油の出入りは第一チェック弁C1及び第二チェック弁C2でのみ許容される。
【0048】
この場合も、出力機器20の負荷が出力油圧より小さく、図4に示す状態で出力プランジャ12が図中の右側に移動しようとする場合には、出力側油室18内の作動油が吸い出され、プランジャ対23が図中の右側に移動しようとするが、第一チェック弁C1によって1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1の正推力側油室24−1内に油圧開放通路32から作動油が流入するので、1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1の正推力側油室24−1は油圧開放状態と等価となるので、図3の出力油圧状態と変わらず、逆に、出力機器20の負荷が増して、出力プランジャ12が図中の左側に移動しようとする場合には、出力側油室18内に作動油が戻されるので、プランジャ対23が図中の左側に移動しようとすると、第二チェック弁C2によって1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1の正推力側油室24−1内の作動油が油圧供給通路17へと流出するので、1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1の正推力側油室24−1は油圧供給状態と等価となるので、1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1による正方向の油圧推力が発生し、あたかも、出力油圧が自動的に一段階上昇したようになる。
【0049】
次に、図5に示すように、図4に示す状態から、それまで閉であった第二弁手段A1bを開くと、1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1の油圧通路25−1が、油圧供給状態にある2番目のプランジャ対23−2の負推力プランジャ22−2の油圧通路27−2と第二通路29を介して導通するので、1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1の油圧通路25−1も油圧供給状態となり、1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1の油圧通路25−1及びその正推力側油室24−1にも油圧供給源10からの供給油圧が供給され、図3に示す状態から出力油圧が一段階上昇した状態になる。
【0050】
図5に示す状態では、出力油圧は以下のように求められる。
【0051】
P1=(P0×(Sa+S1−S2))/Sb
=(P0×(Sa−S1))/Sb
即ち、プランジャ対23全体としては、供給油圧に1番目のプランジャ対23−1(正推力プランジャ21−1、負推力プランジャ22−1)の受圧面積の1倍の受圧面積を乗じた負方向の油圧推力が発生することとなる。
【0052】
次に、図6に示すように、図5に示す状態から、それまで開であった第八弁手段B2bを閉じると、1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1の油圧通路25−1と油圧供給通路17との導通、2番目のプランジャ対23−2の負推力プランジャ22−2の油圧通路27−2と油圧供給通路17との導通が同時に遮断されるので、1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1の油圧通路25−1及びその正推力側油室24−1への供給油圧の供給、2番目のプランジャ対23−2の負推力プランジャ22−2の油圧通路27−2及びその負推力側油室26−2への供給油圧の供給が同時に止まる。図6に示す状態では、1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1の油圧通路25−1及び2番目のプランジャ対23−2の負推力プランジャ22−2の油圧通路27−2に対する作動油の出入りは第一チェック弁C1及び第二チェック弁C2でのみ許容される。
【0053】
次に、図7に示すように、それまで閉であった第七弁手段B2aを開くと、1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1の油圧通路25−1及び2番目のプランジャ対23−2の負推力プランジャ22−2の油圧通路27−2が同時に油圧開放通路32と導通するので、1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1の油圧通路25−1及び2番目のプランジャ対23−2の負推力プランジャ22−2の油圧通路27−2が同時に開放状態となり、図5に示す状態から出力油圧が一段階上昇した状態になる。
【0054】
図7に示す状態では、出力油圧は以下のように求められる。
【0055】
P1=(P0×(Sa+0−0))/Sb
=(P0×Sa)/Sb
即ち、プランジャ対23全体としては油圧推力が発生しないこととなる。
【0056】
次に、図8に示すように、図7に示す状態から、それまで開であった第五弁手段A2aを閉じると、2番目のプランジャ対23−2の正推力プランジャ21−2の油圧通路25−2と油圧開放通路32との導通、1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1の油圧通路27−1と油圧開放通路32との導通が同時に遮断されるので、2番目のプランジャ対23−2の正推力プランジャ21−2の油圧通路25−2及びその正推力側油室24−2、1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1の油圧通路27−1及びその負推力側油室26−1の油圧開放が同時に止まる。図8に示す状態では、2番目のプランジャ対23−2の正推力プランジャ21−2の油圧通路25−2及び1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1の油圧通路27−1に対する作動油の出入りは第三チェック弁C3及び第四チェック弁C4でのみ許容される。
【0057】
次に、図9に示すように、図8に示す状態から、それまで閉であった第六弁手段A2bを開くと、2番目のプランジャ対23−2の正推力プランジャ21−2の油圧通路25−2及び1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1の油圧通路27−1が同時に油圧供給通路17と導通するので、2番目のプランジャ対23−2の正推力プランジャ21−2の油圧通路25−2及びその正推力側油室24−2、1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1の油圧通路27−1及びその負推力側油室26−1に同時に油圧供給源10からの供給油圧が供給され、図7に示す状態から出力油圧が一段階上昇した状態になる。
【0058】
図9に示す状態では、出力油圧は以下のように求められる。
【0059】
P1=(P0×(Sa+S2−S1))/Sb
=(P0×(Sa+S1))/Sb
即ち、プランジャ対23全体としては、供給油圧に1番目のプランジャ対23−1(正推力プランジャ21−1、負推力プランジャ22−1)の受圧面積の1倍の受圧面積を乗じた正方向の油圧推力(基準推力プランジャ11の油圧推力と同方向の油圧推力)が発生することとなる。
【0060】
次に、図10に示すように、図9に示す状態から、それまで開であった第三弁手段B1aを閉じると、1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1の油圧通路27−1と油圧供給通路17との導通が遮断されるので、1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1の油圧通路27−1及びその負推力側油室26−1への供給油圧の供給が止まる。図10に示す状態では、1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1の油圧通路27−1に対する作動油の出入りは第三チェック弁C3及び第四チェック弁C4でのみ許容される。
【0061】
次に、図11に示すように、図10に示す状態から、それまで閉であった第四弁手段B1bを開くと、1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1の油圧通路27−1が、油圧開放状態にある2番目のプランジャ対23−2の負推力プランジャ22−2の油圧通路27−2と導通するので、1番目のプランジャ対23−1の負推力プランジャ22−1の油圧通路27−1も油圧開放状態となり、図9に示す状態から出力油圧が一段階上昇した状態になる。
【0062】
図11に示す状態では、出力油圧は以下のように求められる。
【0063】
P1=(P0×(Sa+S2−0))/Sb
=(P0×(Sa+S1×2))/Sb
即ち、プランジャ対23全体としては、供給油圧に1番目のプランジャ対23−1(正推力プランジャ21−1、負推力プランジャ22−1)の受圧面積の2倍の受圧面積を乗じた正方向の油圧推力が発生することとなる。
【0064】
次に、図12に示すように、図11に示す状態から、それまで開であった第二弁手段A1bを閉じると、1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1の油圧通路25−1と油圧開放通路32との導通が遮断されるので、1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1の油圧通路25−1及びその正推力側油室24−1の油圧開放が止まる。図12に示す状態では、1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1の油圧通路25−1に対する作動油の出入りは第一チェック弁C1及び第二チェック弁C2でのみ許容される。
【0065】
そして、図13に示すように、図12に示す状態から、それまで閉であった第一弁手段A1aを開くと、1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1の油圧通路25−1が、油圧供給状態にある2番目のプランジャ対23−2の正推力プランジャ21−2の油圧通路25−2と第一通路28を介して導通するので、1番目のプランジャ対23−1の正推力プランジャ21−1の油圧通路25−1及びその正推力側油室24−1に油圧供給源10からの供給油圧が供給され、図11に示す状態から出力油圧が一段階上昇した状態になる。
【0066】
図13に示す状態では、出力油圧は以下のように求められる。
【0067】
P1=(P0×(Sa+S1+S2−0))/Sb
=(P0×(Sa+S1×3))/Sb
即ち、プランジャ対23全体としては、供給油圧に1番目のプランジャ対23−1(正推力プランジャ21−1、負推力プランジャ22−1)の受圧面積の3倍の受圧面積を乗じた正方向の油圧推力が発生することとなる。この出力油圧が本実施形態での最高出力油圧である。
【0068】
このように、図1〜図13に示す第一〜第八弁手段A1a、A1b、B1a、B1b、A2a、A2b、B2a、B2bの開閉切り換えによって、図14に示すように、均等の一段階ずつ、合計7段階の出力油圧の変化を得ることが可能となる。
【0069】
要するに、本実施形態に係る多段油圧比変換装置1は、供給油圧を受けて油圧推力を発生するプランジャの油圧推力の大きさが供給油圧にプランジャの受圧面積を乗じた値であることに着目したもので、基準推力プランジャ11と出力プランジャ12とを連結する連結部材15に、基準推力プランジャ11の油圧推力と同方向の油圧推力を発生する正推力プランジャ21及び基準推力プランジャ11の油圧推力と反対方向の油圧推力を発生する負推力プランジャ22を取り付け、それら正推力プランジャ21及び負推力プランジャ22の各々への油圧供給状態を各プランジャの油圧通路に設けた弁手段(第一〜第八弁手段A1a、A1b、B1a、B1b、A2a、A2b、B2a、B2b)の操作によって切り換えることで、正推力プランジャ21及び負推力プランジャ22の各々の油圧推力発生状況を変化させ、それら正推力プランジャ21及び負推力プランジャ22の油圧推力を統合した統合油圧推力を基準推力プランジャ11及び出力プランジャ12に作用させることにより、出力プランジャ12の出力側油室18に発生する出力油圧を多段階に変化させることを可能にするものである。
【0070】
また、本実施形態に係る多段油圧比変換装置1は、出力油圧の多段階変化をもたらす複数のプランジャ対23による油圧変化原理が各プランジャ対23を構成する正推力プランジャ21及び負推力プランジャ22への油圧供給状態のON−OFFの二値変化の集積であることに着目したもので、各プランジャ対23を構成する正推力プランジャ21及び負推力プランジャ22の受圧面積を全て同一受圧面積とするのではなく、複数のプランジャ対23を受圧面積が互いに異なるように構成し、受圧面積の大きさがN番目のプランジャ対23の正推力プランジャ21及び負推力プランジャ22の受圧面積が、受圧面積が最も小さいプランジャ対23の正推力プランジャ21及び負推力プランジャ22の受圧面積の2(N-1)倍となるように設定し、それら正推力プランジャ21及び負推力プランジャ22を対向配置することで、全て同一受圧面積とした正推力プランジャ21を並列配置した場合と比較して少ない組のプランジャ対23でより多くの段階の出力油圧の変化を得ることを可能にするものである。即ち、受圧面積が基準となる受圧面積の2(N-1)倍となるプランジャを対向配置し、対向配置したプランジャの統合油圧推力が出力油圧の変化前後で一段階ずつ変化するようにプランジャの油圧供給状態を切り換えていくことで、出力油圧を一段階ずつ変化させることができる。
【0071】
また、本実施形態に係る多段油圧比変換装置1は、下位系統(本実施形態では1番目)のプランジャ対23−1の油圧通路25−1、27−1を上位系統(本実施形態では2番目)のプランジャ対23−2の油圧通路25−2、27−2に第一〜第四通路28、29、30、31を介して接続したので、2番目のプランジャ対23−1の油圧通路25−2、27−2の油圧供給状態を切り換えることで、その油圧通路25−2、27−2と導通する1番目のプランジャ対23−1の油圧通路25−1、27−1の油圧供給状態も同時に切り換えることができ、例えば図5に示す状態から図7に示す状態に変化させるような、複数のプランジャ対23の油圧通路25、27の油圧供給状態を同時に切り換えるときであっても、複数のプランジャに油圧変化のずれが生じることを防止でき、出力油圧の段階的な変化を安定して得ることができるものである。
【0072】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態には限定されず他の様々な実施形態を採ることが可能である。
【0073】
例えば、プランジャ対23を3組以上備えても良い。受圧面積の大きさがN番目のプランジャ対23の受圧面積を、受圧面積が最も小さいプランジャ対23の受圧面積の2(N-1)倍となるように設定した場合、3組で15段階、4組で31段階、5組で63段階、6組で127段階と多段階に出力油圧の大きさを変化させることが可能となる。図15に、プランジャ対23を3組備えた例を示す。この場合、図1から図13と同様の手順により、図16に示すように出力油圧を15段階に変化させることが可能となる。
【0074】
また、受圧面積が最も大きいN番目のプランジャ対23の受圧面積を、受圧面積が最も小さいプランジャ対23の受圧面積の2(N-1)倍の受圧面積よりも若干大きくなるように設定しても良い。
【0075】
また、図17及び図18に示すように、基準推力プランジャ11の油室(基準推力側油室16)と出力プランジャ12の油室(出力側油室18)との間の油圧差圧を最終出力油圧として利用するための出力機構40を備え、出力油圧の絶対値変化を直接利用するのではなく、基準推力側油室16と出力側油室18との間油圧差圧を出力機器20の推力として用いるようにしても良い。出力機構40としては、ピストン41の油室42に油圧供給通路17を介して基準推力側油室16を導通すると共に、ピストン41の対向油室43に油圧出力通路19を介して出力側油室18を導通したフリーピストン機構等を用いることができる。さらに、図18に示すように、油圧供給通路17に平均油圧規定機構45を配設しても良い。平均油圧規定機構45としては、連結された二つのピストン46、47を備え、ピストン46の油室48に油圧供給源10を導通すると共にピストン46の対向油室49に基準推力側油室16を導通し、ピストン47の対向油室50に出力側油室18を導通したフリーピストン機構等を用いることができる。
【符号の説明】
【0076】
1、2、3、4 多段油圧比変換装置
10 油圧供給源
11 基準推力プランジャ
12 出力プランジャ
15 連結部材
17 油圧供給通路
21 正推力プランジャ
22 負推力プランジャ
23 プランジャ対
25 油圧通路
27 油圧通路
28 第一通路
29 第二通路
30 第三通路
31 第四通路
32 油圧開放通路
33 第五通路
34 第六通路
35 第七通路
36 第八通路
37 オイルタンク
A1a 第一弁手段
A1b 第二弁手段
B1a 第三弁手段
B1b 第四弁手段
A2a 第五弁手段
A2b 第六弁手段
B2a 第七弁手段
B2b 第八弁手段
C1 第一チェック弁
C2 第二チェック弁
C3 第三チェック弁
C4 第四チェック弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧供給源からの供給油圧を常時受けて油圧推力を発生する基準推力プランジャと、
該基準推力プランジャに連結された連結部材に上記基準推力プランジャに対向させて取り付けられ、上記基準推力プランジャの油圧推力を受けて出力油圧を発生する出力プランジャと、
上記連結部材に取り付けられ上記油圧供給源からの供給油圧を受けて上記基準推力プランジャの油圧推力と同方向の油圧推力を発生する正推力プランジャ、及び、上記連結部材に取り付けられ受圧面積が上記正推力プランジャの受圧面積と等しく且つ上記油圧供給源からの供給油圧を受けて上記基準推力プランジャの油圧推力と反対方向の油圧推力を発生する負推力プランジャを有するプランジャ対と、
上記出力プランジャが発生する出力油圧の大きさを多段階に変化させるべく、上記プランジャ対の正推力プランジャ及び負推力プランジャへの上記油圧供給源からの供給油圧の油圧供給状態を切り換えるための切換手段と、
を備えることを特徴とする多段油圧比変換装置。
【請求項2】
受圧面積が互いに異なる上記プランジャ対を複数備え、
受圧面積の大きさがN番目のプランジャ対の正推力プランジャ及び負推力プランジャの受圧面積が、受圧面積が最も小さいプランジャ対の正推力プランジャ及び負推力プランジャの受圧面積の2(N-1)倍となるように設定された請求項1に記載の多段油圧比変換装置。
【請求項3】
上記切換手段は、
受圧面積の大きさがN番目のプランジャ対の正推力プランジャの油圧通路を、受圧面積の大きさがN+1番目のプランジャ対の正推力プランジャの油圧通路に接続する第一通路と、
該第一通路を開閉する第一弁手段と、
受圧面積の大きさがN番目のプランジャ対の正推力プランジャの油圧通路を、受圧面積の大きさがN+1番目のプランジャ対の負推力プランジャの油圧通路に接続する第二通路と、
該第二通路を開閉する第二弁手段と、
受圧面積の大きさがN番目のプランジャ対の負推力プランジャの油圧通路を、受圧面積の大きさがN+1番目のプランジャ対の正推力プランジャの油圧通路に接続する第三通路と、
該第三通路を開閉する第三弁手段と、
受圧面積の大きさがN番目のプランジャ対の負推力プランジャの油圧通路を、受圧面積の大きさがN+1番目のプランジャ対の負推力プランジャの油圧通路に接続する第四通路と、
該第四通路を開閉する第四弁手段と、
受圧面積が最も大きいプランジャ対の正推力プランジャの油圧通路を、オイルタンクが連通された油圧開放通路に接続する第五通路と、
該第五通路を開閉する第五弁手段と、
受圧面積が最も大きいプランジャ対の正推力プランジャの油圧通路を、上記油圧供給源が連通された油圧供給通路に接続する第六通路と、
該第六通路を開閉する第六弁手段と、
受圧面積が最も大きいプランジャ対の負推力プランジャの油圧通路を上記油圧開放通路に接続する第七通路と、
該第七通路を開閉する第七弁手段と、
受圧面積が最も大きいプランジャ対の負推力プランジャの油圧通路を上記油圧供給通路に接続する第八通路と、
該第八通路を開閉する第八弁手段と、
を有する請求項2に記載の多段油圧比変換装置。
【請求項4】
上記切換手段は、
受圧面積が最も小さいプランジャ対の正推力プランジャの油圧通路に接続され、上記油圧開放通路からの作動油の流入のみを許容する第一チェック弁と、
受圧面積が最も小さいプランジャ対の正推力プランジャの油圧通路に接続され、上記油圧供給通路への作動油の流出のみを許容する第二チェック弁と、
受圧面積が最も小さいプランジャ対の負推力プランジャの油圧通路に接続され、上記油圧開放通路からの作動油の流入のみを許容する第三チェック弁と、
受圧面積が最も小さいプランジャ対の負推力プランジャの油圧通路に接続され、上記油圧供給通路への作動油の流出のみを許容する第四チェック弁と、
を有する請求項3に記載の多段油圧比変換装置。
【請求項5】
上記切換手段は、
上記プランジャ対の正推力プランジャの油圧通路を、オイルタンクが連通された油圧開放通路に接続する第一通路と、
該第一通路を開閉する第一弁手段と、
上記プランジャ対の正推力プランジャの油圧通路を、上記油圧供給源が連通された油圧供給通路に接続する第二通路と、
該第二通路を開閉する第二弁手段と、
上記プランジャ対の負推力プランジャの油圧通路を上記油圧開放通路に接続する第三通路と、
該第三通路を開閉する第三弁手段と、
上記プランジャ対の負推力プランジャの油圧通路を上記油圧供給通路に接続する第四通路と、
該第四通路を開閉する第四弁手段と、
を有する請求項1に記載の多段油圧比変換装置。
【請求項6】
上記基準推力プランジャの油室と上記出力プランジャの油室との間の油圧差圧を最終出力油圧として利用するための出力機構を備えた請求項1から5いずれかに記載の多段油圧比変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−164085(P2010−164085A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4830(P2009−4830)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】