説明

多環式芳香族化合物の製造方法

【課題】ハロゲン原子を有する多環式芳香族化合物を、低い原料コストかつ高収率で製造し、かつ容易に精製できる、多環式芳香族化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】特定の芳香族ホウ素化合物と、ハロゲン原子及びアニオン性脱離基を有する特定の芳香族化合物とを、それらの化合物のうち、モル基準で少ない方の化合物の量に対して0.0001〜1mol%の含金族化合物と、溶媒と、塩基と、の存在下に反応させる工程を有する、多環式芳香族化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多環式芳香族化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種産業において用いられている多環式芳香族化合物は、例えば、Gomberg−Bachmann反応、Gattermann反応、Ullmann反応、Wurtz−Fittig反応等多くの手法により合成されている。しかしながら、上記手法では、官能基に対するコンパチビリティーが低いこと、副生成物としてホモカップリング体が多く生成すること、及び反応に高温を要すること等の欠点があり、コスト的に不利なものが多い。
【0003】
これに対して、パラジウム触媒の存在下における、芳香族マグネシウム、芳香族亜鉛、芳香族スズ等の有機金属化合物又は有機ホウ素化合物と、芳香族ハロゲン化物等のアニオン性脱離基を有する芳香族化合物とのクロスカップリング反応が種々開発されている(例えば非特許文献1参照)。それらの中でも、芳香族ホウ素化合物とアニオン性脱離基を有する芳香族化合物とのカップリング反応(鈴木−宮浦クロスカップリング法)(例えば非特許文献2参照)は、官能基に対するコンパチビリティーが高く、また、スズ、亜鉛化合物等に比べてホウ素類は廃液の処理が容易であるため、近年、非常に幅広く利用されている。
【0004】
例えば、複雑な分子構造を有する天然物の合成から新規な構造と機能とを有する共役オリゴマー及びポリマーの創製といった学術分野の他、医農薬品及びその中間体、並びに、液晶、有機発光ダイオード及び有機導電素材などの電子・光学材料等の工業生産分野などにおいて、応用例が多数報告されている(例えば非特許文献3参照)。
【0005】
近年、パラジウム触媒を少量しか使用しない系でのクロスカップリング反応も報告されている(例えば特許文献1参照)。さらに、パラジウムの除去を容易にする目的で、炭素粒子などにパラジウムを固定した触媒(特許文献2)も報告されている。
【0006】
一方、ハロゲン原子を有する多環式芳香族化合物は、様々な非水溶媒をゲル化するゲル化剤として(例えば特許文献3及び4参照)、また、リチウムイオン二次電池の電解液材料として(例えば特許文献5参照)、有用である。ハロゲン原子を有する多環式芳香族化合物は、非水溶媒に対して10%以下の少量の添加で、その系のゲル化を可能にする。したがって、例えばリチウムイオン二次電池の電解液材料として用いた場合、高い電池特性と高い安全性とを両立することが可能となる(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−89402号公報
【特許文献2】特開2007−238447号公報
【特許文献3】国際公開第2007/083843号
【特許文献4】国際公開第2009/078268号
【特許文献5】国際公開第2010/095572号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】辻二郎、「遷移金属が拓く有機合成」、p25〜37、化学同人、1997年
【非特許文献2】Synthetic Communications、第11巻、p513〜519、1981年
【非特許文献3】鈴木章、TCIメール、No.142、2009年4月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献1及び2で開示されている方法においては、高価なパラジウム触媒を有機ホウ素化合物又は芳香族ハロゲン化物に対し1mol%以上用いる必要があり、原料コストが高くなるという問題がある。また、反応後に残存するパラジウムを除去する工程は煩雑であり、パラジウムを許容濃度以下まで除去することが難しく、パラジウムを除去する工程において生成物の収率を下げてしまうなどの課題が発生する場合も多い。さらに、特許文献1に開示されている方法は、限られた基質においてのみ達成されており、必ずしもハロゲン原子を有する多環式芳香族化合物の合成に適しているとはいえない。また、特許文献2に開示されている方法では、使用するパラジウム触媒量が低減されないことから、原料コストが高いという課題を解決できていない。
【0010】
そこで、特許文献3〜5に開示されているようなハロゲン原子を有する多環式芳香族化合物の合成の際に、低い原料コストかつ高収率であって、パラジウムの除去等の精製が容易である多環芳香族化合物の製造方法を確立することが望まれている。
【0011】
本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、ハロゲン原子を有する多環式芳香族化合物を、低い原料コストかつ高収率で製造し、かつ容易に精製できる、多環式芳香族化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、ハロゲン原子を有する多環式芳香族化合物の合成について検討を行い、その中でも特定の構造を有する化合物を選定し、その化合物について適した合成条件を用いることで上記の課題を解決するに至った。
すなわち本発明は以下の通りである。
[1]下記一般式(1)で表される第1の化合物と、下記一般式(2)で表される第2の化合物とを、前記第1の化合物及び前記第2の化合物のうち、モル基準で少ない方の化合物の量に対して0.0001〜1mol%の含金属化合物と、溶媒と、塩基と、の存在下に反応させる工程を有し、含金属化合物に含まれる金属が、パラジウム、ニッケル及び鉄からなる群より選ばれる1種以上の金属である、多環式芳香族化合物の製造方法。
【化1】

【化2】

(上記式中、R1は1つ以上の水素原子がハロゲン原子で置換されたアルキル基、アルコキシ基又はアリール基を示し、Xはアニオン性脱離基を示し、Lはスルフィド基、スルフィニル基又はスルホニル基を示し、R2はアルキル基又はアルコキシ基を示し、Zはホウ素原子を有する1価の基を示し、前記ホウ素原子はベンゼン環に直接結合している。)
[2]R2は、炭素数が1〜20のアルコキシ基である、[1]の多環式芳香族化合物の製造方法。
[3]R1における前記ハロゲン原子がフッ素原子である、[1]又は[2]の多環式芳香族化合物の製造方法。
[4]R1は、パーフルオロアルキル鎖部位を含む、[1]〜[3]のいずれか一つの多環式芳香族化合物の製造方法。
[5]R1は、下記一般式(3)で表される基である、[1]〜[3]のいずれか一つの多環式芳香族化合物の製造方法。
【化3】

(上記式中、nは0〜8の整数を示し、mは1〜20の整数を示す。)
[6]Lはスルホニル基である、[5]の多環式芳香族化合物の製造方法。
[7]Xは、臭素原子、ヨウ素原子又は塩素原子である、[1]〜[6]のいずれか一つの多環式芳香族化合物の製造方法。
[8]前記金属がパラジウムである、[1]〜[7]のいずれか一つの多環式芳香族化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、ハロゲン原子を有する多環式芳香族化合物を、低い原料コストかつ高収率で製造し、かつ容易に精製できる、多環式芳香族化合物の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
【0015】
本実施形態の多環式芳香族化合物の製造方法は、特定の芳香族ホウ素化合物と、ハロゲン原子及びアニオン性脱離基を有する特定の芳香族化合物とを、それらのうちモル基準で少ない方の化合物の量(同量である場合はいずれかの化合物の量。以下同様。)に対して0.0001〜1mol%の含金属化合物、溶媒及び塩基の存在下に反応させる工程を有する方法である。
【0016】
上記ハロゲン原子及びアニオン性脱離基を有する特定の芳香族化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である(以下、この化合物を「第1の化合物」ともいう。)。
【0017】
【化4】

式(1)中、Xはアニオン性脱離基を示す。ここで、「アニオン性脱離基」とは、本実施形態の製造方法において、第1の化合物の反応時に第1の化合物から脱離するアニオン性の基を意味する。アニオン性脱離基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子などのハロゲン原子、トリフラート基(CF3SO3−)、パーフルオロアルキルスルホナート基(Cp2p+1SO3−;pは1〜20の整数を示す。)が挙げられる。これらの中で、アニオン性脱離基は、多環式芳香族化合物の合成の容易さの観点から、好ましくはハロゲン原子であり、更に好ましくは臭素原子、ヨウ素原子又は塩素原子であり、特に好ましくは臭素原子である。
【0018】
上記式(1)において、芳香環上のXの位置は、後述のLにおける硫黄原子に対してオルト位、メタ位及びパラ位のいずれでもよいが、多環式芳香族化合物の合成の容易さの観点から、パラ位にあることが好ましい。
【0019】
式(1)中、Lはスルフィド基(−S−)、スルフィニル基(−S(=O)−)又はスルホニル基(−SO2−)を示し、多環式芳香族化合物のゲル化剤等としての有用性の観点から、好ましくはスルホニル基である。
【0020】
式(1)中、R1は、アルキル基、アルコキシ基又はアリール基を示し、それらの基は、1つ以上の水素原子がハロゲン原子で置換されたものである。これらの中では、溶媒への溶解度の観点から、好ましくは、1つ以上の水素原子がハロゲン原子で置換されたアルキル基であり、その基における炭素数は、好ましくは1〜28であり、より好ましくは3〜12であり、更に好ましくは6〜8である。多環式芳香族化合物のゲル化剤等としての有用性の観点から、好ましくはハロゲン原子がフッ素原子であり、より好ましくはR1がパーフルオロアルキル鎖部位を含む基であり、更に好ましくはR1が下記一般式(3)で表される基であり、更に好ましくは、−L−R1が下記一般式(4)で表される基である。
【化5】

【化6】

【0021】
第1の化合物において、1つ以上の水素原子がハロゲン原子で置換されていることにより、最終生成物である所望の多環式芳香族化合物が析出しやすく、有機相に溶解している含金属化合物、配位子及び原料などとの分離がより容易であり、精製工程を更に簡略化することができる。
【0022】
上記式(3)及び(4)において、nは0〜8の整数であり、好ましくは2〜4の整数であり、より好ましくは2である。また、mは1〜20の整数であり、好ましくは1〜8の整数であり、より好ましくは1〜6の整数であり、更に好ましくは1、2、4又は6であり、特に好ましくは4又は6である。mが上記範囲にあるパーフルオロ基を採用することにより、原料を安価に入手することができる。
第1の化合物は市販品として入手してもよく、常法により合成されてもよい。本実施形態の製造方法は、第1の化合物の1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
本実施形態における特定の芳香族ホウ素化合物は、下記一般式(2)で表される化合物である(以下、この化合物を「第2の化合物」ともいう。)。
【化7】

【0024】
式(2)中、Zはホウ素原子を有する1価の基を示し、そのホウ素原子はベンゼン環に直接結合している。Zは、好ましくは下記一般式(5)で表される官能基である。
【化8】

ここで、式(5)中、Q1及びQ2は互いに同じでも異なっていてもよい1価の基であり、その基としては、例えば、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基、アルコキシ基で置換されていてもよいフェニル基、アルキル基で置換されていてもよいフェニル基及びハロゲン原子が挙げられる。上記アルキル基及びアルコキシ基の炭素数は、好ましくは1〜10である。また、Q1及びQ2は互いに結合してホウ素原子と共に環を形成してもよい。Q1及びQ2が互いに結合した基としては、例えば、アルキル基で置換されていてもよいアルキレンジオキシ基、アルキル基で置換されていてもよいアルキレン基が好ましい。アルキル基で置換されていてもよいアルキレンジオキシ基(−O−R−O−;Rはアルキレン基)の主鎖の炭素数は好ましくは2〜6であり、より好ましくは2〜3であり、特に好ましくは2である。また、アルキル基で置換されていてもよいアルキレン基の主鎖の炭素数は好ましくは2〜11であり、より好ましくは4〜7である。さらに、置換するアルキル基の炭素数は好ましくは1〜8であり、より好ましくは1〜3であり、特に好ましくは1である。また、主鎖の1つの炭素原子に対して置換したアルキル基の数は単数であっても複数であってもよい。Q1及びQ2が互いに結合した基としては、例えば下記式(5A)〜(5D)で表される基が挙げられる。
【0025】
【化9】

【0026】
あるいは、上記一般式(5)で表される官能基としては、ボロン酸類縁体由来の1価の基が好ましく、下記一般式(6)で表される1価の基がより好ましい。本明細書において、ボロン酸類縁体とは、ボロン酸、ボロン酸の1つ以上の水素原子が置換した化合物、環を形成していてもよいボロン酸エステル、及び下記一般式(6A)で表されるボロキサン環を含む化合物を包含する。
【化10】

【化11】

ここで、式(6)及び(6A)中、R3、R4及びR5は、それぞれ独立に、1価の有機基を示し、好ましくは、水素原子、水酸基及び−Ph−R2(Phはベンゼン環であり、R2は上記式(2)におけるものと同義である。)で表される基である。式(6)において、R3及びR4の両方が−Ph−R2で表される基であるか、R3及びR4のいずれか一方が−Ph−R2で表される基であり、他方が水酸基であるとより好ましく、R3及びR4の両方が−Ph−R2で表される基であると更に好ましい。R3及びR4の両方が−Ph−R2で表される基である場合、上記一般式(2)で表される化合物における3つのR2が全て同じ基であると特に好ましい。また、式(6A)において、R3、R4及びR5が、それぞれ独立に、水酸基又は−Ph−R2で表される基であると好ましく、いずれか1つが水酸基であって、他の2つが−Ph−R2で表される基であるか、いずれも−Ph−R2で表される基であるとより好ましく、いずれも−Ph−R2で表される基であると更に好ましい。この場合も、R2が全て同じ基であると特に好ましい。
【0027】
上記式(2)中、R2はアルキル基又はアルコキシ基を示す。アルキル基及びアルコキシ基の炭素数は好ましくは1〜20である。R2は、好ましくは炭素数1〜20のアルコキシ基であり、より好ましくは炭素数2〜14のアルコキシ基であり、更に好ましくは炭素数3〜12のアルコキシ基であり、特に好ましくは炭素数3〜10のアルコキシ基である。炭素数が当該範囲にあることで、溶媒との親和性が一層良好となり、精製がより容易となり、目的とする多環式芳香族化合物を更に高純度で得やすくなる。
【0028】
上記式(2)において、芳香環上のZの位置は、R2に対してオルト位、メタ位、パラ位のいずれでもよいが、多環式芳香族化合物のゲル化剤等としての有用性の観点から、パラ位にあることが好ましい。
第2の化合物は市販品として入手してもよく、常法により合成されてもよい。本実施形態の製造方法は、第2の化合物の1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
反応系内での第1の化合物と第2の化合物との配合比は、第1の化合物の量を100mol%とした場合に、第2の化合物の量が好ましくは50〜200mol%、より好ましくは80〜120mol%、更に好ましくは90〜110mol%となる配合比である。
【0030】
本実施形態の製造方法において用いられる含金属化合物はパラジウム、ニッケル及び鉄からなる群より選ばれる1種以上の金属を含む化合物であり、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中で、好ましい含金属化合物は、含パラジウム化合物である。
【0031】
含パラジウム化合物は、パラジウムを有するものであれば特に限定されず、例えば、0価又は2価のパラジウム金属、錯体を含むパラジウム塩が挙げられる。また、含パラジウム化合物は、活性炭、炭素粒子、酸化アルミニウム、ヒドロキシアパタイト及び多孔質体などの担体に担持されていてもよい。好ましく用いられる含パラジウム化合物としては、例えば、パラジウム(0)/炭素、酢酸パラジウム(II)、塩化パラジウム(II)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)クロリド、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、パラジウムケトナート、パラジウムアセチルアセトナート、ニトリルパラジウムハロゲン化物、パラジウムハロゲン化物、アリルパラジウムハロゲン化物、パラジウムビスカルボキシレートが挙げられる。これらの中で、酢酸パラジウム(II)及び塩化パラジウム(II)がより好ましく、酢酸パラジウム(II)が更に好ましく用いられる。含パラジウム化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0032】
含パラジウム化合物は市販品を入手してもよく、常法により製造してもよい。製造する場合、例えば、パラジウム(II)アセテートは、パラジウム(II)クロライドと酢酸ナトリウムとの反応によって製造できる。
【0033】
含ニッケル化合物は、その構造中にニッケルを有する化合物であれば特に限定されず、例えば、0価又は2価のニッケル金属、及び錯体を含むニッケル塩が挙げられる。また、含ニッケル化合物は、活性炭、炭素粒子、酸化アルミニウム、ヒドロキシアパタイト及び多孔質体などの担体に担持されていてもよい。ニッケルの塩としては、例えば、ニッケルと無機酸又は有機酸との塩が挙げられる。より具体的には、ニッケルの無機酸塩としては、例えば、塩化ニッケル(II)、臭化ニッケル(II)及びヨウ化ニッケル(II)等のニッケルハロゲン化物、硝酸ニッケル(II)、硫酸ニッケル(II)、硫酸アンモニウムニッケル(II)、並びに次亜リン酸ニッケル(II)が挙げられる。ニッケルの有機酸塩としては、例えば、酢酸ニッケル(II)、ギ酸ニッケル(II)、ステアリン酸ニッケル(II)、シクロヘキサンブチレートニッケル(II)、クエン酸ニッケル(II)、及びナフテン酸ニッケル(II)が挙げられる。2価ニッケルの錯体としては、例えば、塩化ヘキサアンミンニッケル(II)及びヨウ化ヘキサアンミンニッケル(II)等の2価ニッケルのアミン錯体、並びに、2価ニッケルのアセチルアセトン錯体であるニッケルアセチルアセトナートが挙げられる。2価ニッケルのπ錯体としては、例えば、ビス(η3−アリル)ニッケル(II)、ビス(η−シクロペンタジエニル)ニッケル(II)、及び塩化アリルニッケル二量体が挙げられる。0価ニッケル錯体として、0価ニッケル錯体をそのまま用いてもよく、ニッケル塩を還元剤の存在下で反応させ、系内で0価ニッケルを生成させて0価ニッケル錯体を得てもよい。後者の場合、ニッケル塩としては、例えば、塩化ニッケル及び酢酸ニッケルが挙げられ、還元剤としては、例えば、亜鉛、水素化ナトリウム、ヒドラジン及びその誘導体、並びにリチウムアルミニウムハイドライドが挙げられる。さらに必要に応じて添加物として、よう化アンモニウム、よう化リチウム及びよう化カリウム等が用いられてもよい。0価ニッケル錯体としては、例えば、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)、(エチレン)ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(0)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル及びニッケルカルボニル(0)が挙げられる。含ニッケル化合物はニッケル水酸化物であってもよく、ニッケル水酸化物としては、例えば、水酸化ニッケル(II)が挙げられる。また、含ニッケル化合物として、例えば、[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ジクロロニッケル(II)、[1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ジクロロニッケル(II)及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケルも挙げられる。
【0034】
含鉄化合物は、その構造中に鉄を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、鉄金属、及び錯体を含む鉄塩が挙げられる。また、含鉄化合物は、活性炭、炭素粒子、酸化アルミニウム、ヒドロキシアパタイト及び多孔質体などの担体に担持されていてもよい。用いられる含鉄化合物としては、例えば、塩化鉄などのハロゲン化鉄が挙げられる。
【0035】
含金属化合物は、第1の化合物及び第2化合物のうち、モル基準で少ない方の化合物の量(100mol%)に対して、0.0001〜1mol%、好ましくは0.0001〜0.1mol%、より好ましくは0.001〜0.1mol%用いられる。含金属化合物の使用量が当該範囲にあることにより、目的とする多環式芳香族化合物をより高収率で得ることが可能になると共に、生成物に含まれる金属量を少なくでき、その後の精製が容易になる。
【0036】
本実施形態において、塩基としては、例えば、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、カルボン酸塩、アルコキシドの他、有機塩基である3級アミン(例えば、トリエチルアミン)を用いることができる。多環式芳香族化合物の合成及び精製を容易にする観点から、塩基は、好ましくはアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩及びカルボン酸塩であり、より好ましくは、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩及びカルボン酸塩であり、更に好ましくは、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の炭酸塩及び炭酸水素塩である。アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の炭酸塩及び炭酸水素塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素セシウムが好ましく、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム及び炭酸水素カリウムがより好ましい。
【0037】
塩基は、反応系内に独立して添加する化合物であってもよく、原料、触媒及び配位子などに含まれた状態で添加するものであってもよい。塩基は、第1の化合物及び第2の化合物のうち、モル基準で少ない方の化合物の量(100mol%)に対して、好ましくは10〜5000mol%、より好ましくは50〜2000mol%用いられる。また、塩基は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0038】
本実施形態における、各原料、生成物及び副生成物は、固体及び液体のいずれの状態で存在していてもよい。反応系は、一相であってもよく、二相以上に分離していてもよく、例えば、液体と固体とに分離していてもよい。二相以上に分離している場合、少なくとも1つの相に液体が含まれ、液体と固体とが分離していれば、固体を溶解させるための溶媒等を用いる必要がないので、生産性が向上する。また、原料が液体であったり、溶媒等を用いたりして、全ての相が液体である場合、反応進行の制御が容易になる。
【0039】
反応系内に含まれる溶媒は有機溶媒であると好ましく、非水溶性有機溶媒であっても水溶性有機溶媒であってもよく、例えば、ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素溶媒、クロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素溶媒、ジクロロメタン及びクロロホルム等のハロゲン化脂肪族炭化水素溶媒、パーフルオロ−2−ブチルテトラヒドロフラン、パーフルオロオクタン、パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロヘキサン及びパーフルオロベンゼンなどのパーフルオロ基を有する溶媒等の含フッ素溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル及び酢酸イソプロピルなどの酢酸アルキル等のエステル溶媒、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン及びジメチルホルムアミド等のアミド溶媒、ジエチルエーテル、ジグライム、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジエトキシメタン、ジイソプロピルエーテル、アニソール及びメチルt−ブチルエーテル等のエーテル溶媒、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン溶媒、ヘキサン及びシクロヘキサン等のアルカン溶媒、メタノール、エタノール、1,2−プロパンジオール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ブチルアルコール及びt−アミルアルコール等のアルコール溶媒、アセトニトリル等のニトリル溶媒、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ピリジン、ニトロメタン、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、酢酸並びにトリエチルアミンが挙げられる。
【0040】
反応系内に用いられる溶媒として非水溶性有機溶媒が含まれる場合、非水溶性有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素溶媒、クロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素溶媒、ジクロロメタン及びクロロホルム等のハロゲン化脂肪族炭化水素溶媒、パーフルオロ−2−ブチルテトラヒドロフラン、パーフルオロオクタン、パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロヘキサン及びパーフルオロベンゼンなどのパーフルオロ基を有する溶媒等の含フッ素溶媒、酢酸ブチル、酢酸イソブチル及び酢酸イソプロピルなどの酢酸アルキル等のエステル溶媒、ジエチルエーテル、2−メチルテトラヒドロフラン、ジエトキシメタン、ジイソプロピルエーテル、アニソール及びメチルt−ブチルエーテル等のエーテル溶媒、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン溶媒、ヘキサン及びシクロヘキサン等のアルカン溶媒、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、並びにトリエチルアミンが挙げられる。非水溶性有機溶媒は、より好ましくは、20℃における水への溶解度が20質量%以下である溶媒であり、精製時における水相と有機相との分離の観点から、更に好ましくは、20℃における水への溶解度が5質量%以下である溶媒である。非水溶性有機溶媒は、なおも更に好ましくは、芳香族炭化水素溶媒、ハロゲン化芳香族炭化水素溶媒、ハロゲン化脂肪族炭化水素溶媒、含フッ素溶媒及びエーテル溶媒である。非水溶性有機溶媒は、溶媒の入手性の観点から、特に好ましくはトルエン、キシレン、クロロベンゼン及び塩化メチレンである。非水溶性有機溶媒は水と分離しやすいため、水溶性の副生物や不純物の洗浄を容易にできる点で有効である。また、反応に用いた非水溶性有機溶媒を蒸留等で再利用する際にも水の混入が少ないため、簡易に精製できる点でも有効である。
【0041】
反応系内に用いられる溶媒として水溶性有機溶媒が含まれる場合、水溶性有機溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン及びジメチルホルムアミド等のアミド溶媒、ジグライム、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン及びテトラヒドロフラン等のエーテル溶媒、アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン溶媒、メタノール、エタノール、1,2−プロパンジオール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ブチルアルコール及びt−アミルアルコール等のアルコール溶媒、アセトニトリル等のニトリル溶媒、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ピリジン、ニトロメタン、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、並びに酢酸が挙げられる。
【0042】
水溶性有機溶媒は好ましくは20℃における水への溶解度が20質量%超である溶媒であり、精製時における溶解性の観点から、更に好ましくは20℃における水への溶解度が50質量%以上である溶媒であり、更に好ましくは20℃において水と任意に混和する溶媒である。より具体的には、メタノール、エタノール、1,2−プロパンジオール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ブチルアルコール、t−アミルアルコール、ニトロメタン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、アセトン、酢酸、ピリジン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン及び1,4−ジオキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒であると好ましい。水溶性有機溶媒は水と混合しやすいため、精製工程において、目的物を析出させたり、あるいは、析出を促進させたりすることができる。また、水溶性有機溶媒は、水の添加により副生する塩を溶解し除去することができる。
【0043】
有機溶媒は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0044】
また、反応系内に有機溶媒と共に水を共存させても、多環式芳香族化合物を合成することができる。溶媒として水を共存させる場合、水の量は有機溶媒100質量部に対して100質量部以下であることが好ましい。水と有機溶媒とを用いる場合、精製の簡素化の観点から、それらが水相と有機溶媒相とに分離することが好ましい。
【0045】
反応系内での溶媒量は、反応中の溶解度の観点から、第1の化合物又は第2の化合物のうち質量の大きい方の質量(100質量%)に対して、500〜5000質量%であると好ましく、500〜3000質量%であるとより好ましい。
【0046】
本実施形態において、反応系内に配位子を添加してもよい。配位子としては、例えば、トリフェニルホスフィン(PPh3)、メチルジフェニルホスフィン(Ph2PCH3)、トリフリルホスフィン(P(2−furyl)3)、トリ(o−トリル)ホスフィン(P(o−tol)3)、トリ(シクロヘキシル)ホスフィン(PCy3)、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン(PhPCy2)、トリ(t−ブチル)ホスフィン(PtBu3)、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル(BINAP)、2,2’−ビス[(ジフェニルホスフィノ)ジフェニル]エーテル(DPEphos)(テトラへドロン・レターズ(Tatrahedron Letters)第39巻、第5327頁(1998年)参照)、ジフェニルホスフィノフェロセン(DPPF)、1,1’−ビス(ジ−t−ブチルホスフィノ)フェロセン(DtBPF)、N,N−ジメチル−1−[2−(ジフェニルホスフィノ)フェロセニル]エチルアミン、1−[2−(ジフェニルホスフィノ)フェロセニル]エチルメチルエーテル、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’−ジメチルアミノ−1,1’−ビフェニル(ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ケミカル・ソサエティー(Journal of the American ChemicalSociety)第120巻、第9722頁(1998年)参照)、スピロ型ホスホニウム塩(アンゲバンテ・ケミー・インターナショナル・エディション(Angewandte Chemie international Edition)第37巻、第481頁(1998年)参照)などのホスフィン系配位子、イミダゾル−2−イリデンカルベン類などのホスフィンミミック配位子(アンゲバンテ・ケミー・インターナショナル・エディション・イン・イングリッシュ(Angewandte Chemie international Edition in English)、第36巻、第2163頁(1997年)参照)が挙げられる。また、配位子は、含金属化合物に含まれる金属とその配位子上の置換基とで反応して、金属がパラジウムである場合のパラダサイクル(アンゲバンテ・ケミー・インターナショナル・エディション・イン・イングリッシュ(Angewandte Chemie international Edition in English)第34巻、第1844頁(1995年)参照)のような化合物を形成していてもよい。
【0047】
さらに、配位子として、例えば、2,2’−ビピリジル、1,10−フェナントロリン、メチレンビスオキサゾリン及びN,N’−テトラメチルエチレンジアミン等の含窒素配位子も挙げられる。
【0048】
第1の化合物が、Xのアニオン性脱離基として塩素原子を有する場合、収率の向上の観点から、配位子として、トリフリルホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン(パラダサイクルを形成してもよい。)、トリ(シクロヘキシル)ホスフィン、トリ(t−ブチル)ホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、1,1’−ビス(ジ−t−ブチルホスフィノ)フェロセン、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’−ジメチルアミノ−1,1’−ビフェニル及びイミダゾル−2−イリデンカルベン類などのホスフィンミミック配位子を用いることが好ましい。
【0049】
反応系内での配位子の量は、第1の化合物及び第2の化合物のうち少ない方の化合物の量(100mol%)に対して、好ましくは0.0001〜4mol%、より好ましくは0.0001〜0.4mol%、更に好ましくは0.001〜0.4mol%である。配位子は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0050】
第1の化合物と第2の化合物とを反応させる際の反応温度は、溶媒の沸点と原料の溶解性との観点から、好ましくは0〜200℃、より好ましくは20〜150℃、更に好ましくは40〜130℃である。反応系周囲の雰囲気は大気雰囲気であってもよいが、副生成物を低減させる観点から、好ましくは不活性ガスで置換した雰囲気である。コストの観点から、反応系周囲の雰囲気は、より好ましくは窒素ガスで置換した雰囲気である。第1の化合物と第2の化合物との反応は常圧下で進行することも可能であり、減圧又は高圧下で進行することも可能である。
【0051】
反応進行の程度は、薄層クロマトグラフィー、NMR、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー等の分析により確認できる。
【0052】
本実施形態において、多環式芳香族化合物を合成した後の精製としては、公知の精製法を用いることができる。例えば、蒸留、再結晶、濾過、溶剤洗浄、減圧での溶媒留去及び乾燥からなる公知の精製法のうち、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
精製の操作として、例えば、上記工程における反応の後に、反応混合物中に含まれる塩や水溶性原料を水に溶解させ、塩や水溶性原料を除去することができる。また、水を用いておらず、有機相が液体である場合には、濾過により塩を分離することができる。また、有機相と目的物が不溶な溶媒とを混合して目的物を析出させ、更に濾過することにより目的物を得ることができる。
【0053】
本実施形態の製造方法においては、反応触媒、助触媒、反応促進剤、乳化剤及び消泡剤などの添加剤を必要に応じて用いてもよい。また、反応を促進する化合物、及び、副反応や目的外の反応を抑制するために、それらの反応の負触媒としての効果を有する化合物を、必要に応じて用いてもよい。
反応触媒としては、例えば、相間移動触媒が挙げられる。相間移動触媒は、液体−液体、固体−液体など、相互に混ざり合わない基質又は試薬間の反応において、反応種を可溶化させたり界面に集めたりするなどの効果により、反応を有効に行わせるために用いられる触媒である。相間移動触媒としては、例えば、第四級アンモニウム塩、ホスホニウム塩、アミン類、クラウンエーテル、クリプタンド及び鎖状ポリエチレングリコール誘導体が挙げられる。
乳化剤は、相互に混ざり合わない基質又は試薬間において、一方の基質又は試薬をもう一方の基質又は試薬中に分散させることにより、反応を効率的に行う添加剤である。乳化剤としては、例えば、脂肪酸エステル、高級アルコール、スルホニウム塩、第四級アンモニウム塩、ホスホニウム塩、アミン類及びグリコール類が挙げられる。
【0054】
これらの添加剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
また、上記の工程全てにおいて同一の添加剤を用いてもよく、各工程で互いに異なる添加剤を用いてもよい。
【0055】
本実施形態の製造方法により得られた多環式芳香族化合物は、非水電解液二次電池材料、有機EL材料、液晶材料、非線形光学材料、写真用添加剤、増感色素、医薬品等に用いることができ、あるいは、それらの材料の合成中間体として有用になり得るものである。
【0056】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例】
【0057】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
(第1の化合物の製造例)
[製造例1]
4−ブロモベンゼンチオール15.5g(82mmol)、よう化2−(パーフルオロヘキシル)エチル40.9g(86.3mmol)、及び1,2−ジメトキシエタン100mL、炭酸カリウム17g(123.4mmol)を反応容器内に投入し、大気圧下、50℃で3時間攪拌した。その後、濾過及び溶媒除去を経て白色粉末を得た。得られた粉末に酢酸165mL、35%過酸化水素水溶液40gを加え、更に大気圧下、70℃で3時間攪拌した。その後、濾過を経てヘキサン中で攪拌し洗浄した。次いで、濾過及び溶媒除去を経て白色粉末の状態で下記構造を有する化合物(1A)を得た。その収量は42gであり、収率は90%であった。収率の結果を表1に示す。
【0059】
【化12】

【0060】
【表1】

【0061】
[製造例2〜3]
よう化2−(パーフルオロヘキシル)エチル82mmolに代えて、表1に示す原料82mmolを用いた以外は製造例1と同様にして、上記構造を有する化合物(1B)及び化合物(1C)をそれぞれ得た。収率の結果を表1に示す。
【0062】
(第2の化合物の製造例)
[製造例4]
4−(4,4,5,5―テトラメチル―1,3,2―ジオキサボロラン―2―イル)フェノール15g(68.2mmol)、1―ブロモヘキサン14.1g(85.2mmol)、炭酸カリウム14.1g(102.3mmol)、3―ペンタノン230mLを反応容器に投入し、大気圧下、120℃で14時間還流しながら攪拌した。その後、濾過及び溶媒除去を経て茶色固体の状態で下記構造を有する化合物(2A)を得た。その収量は20.9gであり、収率は100%であった。収率の結果を表2に示す。
【0063】
【化13】

【0064】
【表2】

【0065】
[製造例5〜7]
1−ブロモヘキサン85.2mmolに代えて、表2に示す原料85.2mmolを用いた以外は製造例4と同様にして、上記構造を有する化合物(2B)、化合物(2C)及び化合物(2D)をそれぞれ得た。収率の結果を表2に示す。
【0066】
[実施例1]
化合物(1A)27.7g(48.8mmol)、化合物(2A)15g(49.3mmol)、酢酸パラジウム2.2mg(0.0098mmol)、トリフェニルホスフィン9.0mg(0.034mmol)、炭酸ナトリウム52g(488mmol)、1,4―ジオキサン450mL及び蒸留水250mLを反応容器内で混合し、反応系周囲の雰囲気を窒素ガスに置換した後、液を大気圧下、95℃で40分間攪拌した。次いで、放冷して得られた析出物を2回水洗し、更にヘキサンで2回洗った。その後、溶媒除去を経て、淡桃色固体の状態で下記構造を有する化合物(a)を得た。その収量は29.4gであり、収率は91%であった。結果を表3に示す。また、得られた化合物(a)の構造を1H−NMR(CDCl3)により確認した。その結果は以下のとおりであった。
1H-NMR(CDCl3) 0.92 (3H, m), 1.48 (6H, m), 1.81 (2H, m), 2.65 (2H, m), 3.33 (2H, m), 4.02 (2H, m), 7.01 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.56 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.76 (2H, d, J=8.0Hz), 7.95 (2H, d, J=8.0 Hz) ppm
【0067】
【化14】

【0068】
【表3】

【0069】
[実施例2〜11]
原料として化合物(1A)及び化合物(2A)に代えて表3に示すものを用い、含パラジウム化合物である酢酸パラジウムの量を表3に示す量に変更し、トリフェニルホスフィンの量を表3に示す量に変更した以外は実施例1と同様にして、化合物(a)、化合物(b)、化合物(c)、化合物(d)、化合物(e)、化合物(f)及び化合物(g)をそれぞれ得た。結果を表3に示す。表3中の含パラジウム化合物の量及びトリフェニルホスフィンの量は、第1の化合物及び第2の化合物のうちモル基準で少ない方である化合物(1A)又は化合物(1B)の量(100mol%)に対しての値である。また、実施例2、4、5、6及び11で得られた化合物(a)、化合物(c)及び化合物(d)の構造を1H−NMR(CDCl3)により確認した。その結果は以下のとおりであった。
【0070】
(実施例2)
1H-NMR(CDCl3) 0.93 (3H, m), 1.48 (6H, m), 1.80 (2H, m), 2.63 (2H, m), 3.35 (2H, m), 4.02 (2H, m), 7.01 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.56 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.77 (2H, d, J=8.0Hz), 7.95 (2H, d, J=8.0 Hz) ppm
(実施例3)
1H-NMR(CDCl3) 0.88 (3H, m), 1.48 (10H, m), 1.80 (2H, m), 2.65 (2H, m), 3.35 (2H, m), 4.02 (2H, m), 7.01 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.56 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.77 (2H, d, J=8.0Hz), 7.95 (2H, d, J=8.0 Hz) ppm
(実施例4)
1H-NMR(CDCl3) 1.07 (3H, m), 1.84 (2H, m), 2.63 (2H, m), 3.34 (2H, m), 3.98 (2H, m), 7.02 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.57 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.77 (2H, d, J=8.0Hz), 7.95 (2H, d, J=8.0 Hz) ppm
(実施例5)
1H-NMR(CDCl3) 1.00 (3H, m), 1.52 (2H, m), 1.81 (2H, m), 2.65 (2H, m), 3.36 (2H, m), 4.03 (2H, m), 7.01 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.56 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.77 (2H, d, J=8.0Hz), 7.95 (2H, d, J=8.0 Hz) ppm
(実施例6)
1H-NMR(CDCl3) 1.00 (3H, m), 1.51 (2H, m), 1.81 (2H, m), 2.63 (2H, m), 3.35 (2H, m), 4.02 (2H, m), 7.01 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.56 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.77 (2H, d, J=8.0Hz), 7.95 (2H, d, J=8.0 Hz) ppm
(実施例7)
1H-NMR(CDCl3) 1.00 (3H, m), 1.51 (2H, m), 1.81 (2H, m), 2.64 (2H, m), 3.36 (2H, m), 4.03 (2H, m), 7.01 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.56 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.77 (2H, d, J=8.0Hz), 7.95 (2H, d, J=8.0 Hz) ppm
(実施例8)
1H-NMR(CDCl3) 0.93 (3H, m), 1.48 (6H, m), 1.81 (2H, m), 2.65 (2H, m), 3.35 (2H, m), 4.02 (2H, m), 7.01 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.56 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.76 (2H, d, J=8.0Hz), 7.94 (2H, d, J=8.0 Hz) ppm
(実施例9)
1H-NMR(CDCl3) 0.88 (3H, m), 1.48 (10H, m), 1.80 (2H, m), 2.65 (2H, m), 3.35 (2H, m), 4.01 (2H, m), 7.01 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.56 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.76 (2H, d, J=8.0Hz), 7.94 (2H, d, J=8.0 Hz) ppm
(実施例10)
1H-NMR(CDCl3) 0.88 (3H, m), 1.47 (14H, m), 1.80 (2H, m), 2.64 (2H, m), 3.35 (2H, m), 4.02 (2H, m), 7.01 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.56 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.77 (2H, d, J=8.0Hz), 7.95 (2H, d, J=8.0 Hz) ppm
(実施例11)
1H-NMR(CDCl3) 1.00 (3H, m), 1.51 (2H, m), 1.81 (2H, m), 2.65 (2H, m), 3.35 (2H, m), 4.03 (2H, m), 7.01 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.56 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.76 (2H, d, J=8.0Hz), 7.95 (2H, d, J=8.0 Hz) ppm
(実施例12)
1H-NMR(CDCl3) 0.93 (3H, m), 1.48 (6H, m), 1.81 (2H, m), 2.63 (2H, m), 3.34 (2H, m), 4.01 (2H, m), 7.01 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.56 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.77 (2H, d, J=8.0Hz), 7.95 (2H, d, J=8.0 Hz) ppm
【0071】
[実施例12]
含パラジウム化合物である酢酸パラジウムを塩化パラジウムに変更した以外は実施例1と同様にして、化合物(a)を得た。結果を表3に示す。
【0072】
[実施例13]
化合物(1A)300g(529mmol)、p−プロポキシフェニルボロン酸100g(555mmol)、酢酸パラジウム11.9mg(0.0529mmol)、トリフェニルホスフィン48.6mg(0.185mmol)、炭酸カリウム291g(2116mmol)、アセトニトリル4000mL、及び蒸留水2Lを反応容器内に投入した。次に、反応系周囲の雰囲気を窒素ガスに置換した後、液を大気圧下、90℃で2時間攪拌した。次いで、放冷して得られた析出物を2回水洗し、更にヘキサンで2回洗った。その後、溶媒除去を経て、白色固体の状態で化合物(c)を得た。その収量は296gであり、収率は90%であった。結果を表3に示す。また、得られた化合物(c)の構造を1H−NMR(CDCl3)により確認した。その結果は以下であった。
1H-NMR(CDCl3) 1.07 (3H, m), 1.84 (2H, m), 2.63 (2H, m), 3.34 (2H, m), 3.98 (2H, m), 7.02 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.57 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.77 (2H, d, J=8.0Hz), 7.95 (2H, d, J=8.0 Hz) ppm
【0073】
[実施例14]
p−プロポキシフェニルボロン酸100g(555mmol)とアセトニトリル4000mLを、それぞれp−ヘキソキシフェニルボロン酸123g(555mmol)とジエチレングリコールジメチルエーテル4000mLに変更した以外は実施例13と同様に行い、白色固体の状態で化合物(c)を得た。その収量は316gであり、収率は90%であった。結果を表3に示す。また、得られた化合物(c)の構造を1H−NMR(CDCl3)により確認した。その結果は以下であった。
1H-NMR(CDCl3) 0.93 (3H, m), 1.48 (6H, m), 1.80 (2H, m), 2.63 (2H, m), 3.35 (2H, m), 4.02 (2H, m), 7.01 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.56 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.77 (2H, d, J=8.0Hz), 7.95 (2H, d, J=8.0 Hz) ppm
【0074】
[実施例15]
化合物(1A)300g(529mmol)、p−ブトキシフェニルボロン酸108g(555mmol)、酢酸パラジウム23.8mg(0.106mmol)、トリフェニルホスフィン97.1mg(0.370mmol)、炭酸水素ナトリウム355g(4230mmol)、テトラブチルアンモニウムブロミド1.71g(5.29mmol)、トルエン1600mL、及び蒸留水2Lを反応容器内に投入した。次に、反応系周囲の雰囲気を窒素ガスに置換した後、液を大気圧下、90℃で2時間攪拌した。その後、分離したトルエン相及び水相のうち、水相を除去した。次に、蒸留水2Lを反応容器内に投入し、90℃で5分間攪拌し、その後、分離したトルエン相及び水相のうち、水相を除去するという操作を3回繰り返した。次いで、0℃のヘキサン2Lを攪拌し、トルエン相を90℃に加熱したものをそのヘキサン中に滴下し、析出物を得た。濾過及び溶媒除去を経て、白色固体の状態で化合物(d)を得た。その収量は320gであり、収率は95%であった。結果を表3に示す。得られた化合物(d)の構造を1H−NMR(CDCl3)により確認した。その結果は以下であった。
1H-NMR(CDCl3) 1.00 (3H, m), 1.51 (2H, m), 1.81 (2H, m), 2.64 (2H, m), 3.36 (2H, m), 4.03 (2H, m), 7.01 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.56 (2H, d, J=8.0 Hz), 7.77 (2H, d, J=8.0Hz), 7.95 (2H, d, J=8.0 Hz) ppm
【0075】
【化15】

【0076】
[比較例1]
化合物(1A)18.65g(32.89mmol)、化合物(2A)10g(32.89mmol)、酢酸パラジウム1.48g(6.58mmol)、トリフェニルホスフィン5.9mg(22.5mmol)、炭酸ナトリウム31.8g(300mmol)、1,4―ジオキサン300mL、及び蒸留水150mLを反応容器内で混合し、大気圧下、95℃で90分間攪拌した。次いで、そこに蒸留水を加え、析出物を濾過した。更に水洗の後、90℃で乾燥した。次に、酢酸エチルを用いて熱時濾過し、得られた析出物をヘキサンで4回洗った。更に酢酸エチル及びヘキサンで交互に洗い、溶媒除去を経て、黄色固体の状態で化合物(a)を得た。その収量は6.64gであり、収率は30%であった。結果を表4に示す。
【0077】
【表4】

【0078】
[比較例2〜5]
原料として化合物(1A)及び化合物(2A)に代えて表4に示すものを用い、含パラジウム化合物である酢酸パラジウムの量を表4に示す量に変更し、トリフェニルホスフィンの量を表4に示す量に変更した以外は比較例1と同様にして、化合物(a)、化合物(f)、化合物(e)及び化合物(h)をそれぞれ得た。ただし、比較例4においては、反応生成化合物が得られなかった。結果を表4に示す。表4中の含パラジウム化合物の量及びトリフェニルホスフィンの量は、第1の化合物及び第2の化合物のうちモル基準で少ない方である化合物(1A)、化合物(1B)又は化合物(1C)の量(100mol%)に対しての値である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、非水電解液二次電池材料、有機EL材料、液晶材料、非線形光学材料、写真用添加剤、増感色素、医薬品等、又はそれらの合成中間体として有用な多環式芳香族化合物の製造方法としての利用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される第1の化合物と、下記一般式(2)で表される第2の化合物とを、前記第1の化合物及び前記第2の化合物のうち、モル基準で少ない方の化合物の量に対して0.0001〜1mol%の含金属化合物と、溶媒と、塩基と、の存在下に反応させる工程を有し、前記含金属化合物に含まれる金属が、パラジウム、ニッケル及び鉄からなる群より選ばれる1種以上の金属である、多環式芳香族化合物の製造方法。
【化1】

【化2】

(上記式中、R1は1つ以上の水素原子がハロゲン原子で置換されたアルキル基、アルコキシ基又はアリール基を示し、Xはアニオン性脱離基を示し、Lはスルフィド基、スルフィニル基又はスルホニル基を示し、R2はアルキル基又はアルコキシ基を示し、Zはホウ素原子を有する1価の基を示し、前記ホウ素原子はベンゼン環に直接結合している。)
【請求項2】
2は、炭素数が1〜20のアルコキシ基である、請求項1に記載の多環式芳香族化合物の製造方法。
【請求項3】
1における前記ハロゲン原子がフッ素原子である、請求項1又は2に記載の多環式芳香族化合物の製造方法。
【請求項4】
1は、パーフルオロアルキル鎖部位を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の多環式芳香族化合物の製造方法。
【請求項5】
1は、下記一般式(3)で表される基である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の多環式芳香族化合物の製造方法。
【化3】

(上記式中、nは0〜8の整数を示し、mは1〜20の整数を示す。)
【請求項6】
Lはスルホニル基である、請求項5に記載の多環式芳香族化合物の製造方法。
【請求項7】
Xは、臭素原子、ヨウ素原子又は塩素原子である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の多環式芳香族化合物の製造方法。
【請求項8】
前記金属がパラジウムである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の多環式芳香族化合物の製造方法。

【公開番号】特開2012−184223(P2012−184223A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−29882(P2012−29882)
【出願日】平成24年2月14日(2012.2.14)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】