説明

多糖誘導体組成物

【課題】肌へのなじみが速く、塩による凝集・分離がなく、低温安定性に優れた乳化物を形成しうる、水分散性に優れた新規物質および多糖誘導体組成物の提供。
【解決手段】式(1)で表される少なくとも1種の多糖誘導体を含有し、重量平均分子量が110万〜1000万であることを特徴とする、多糖誘導体組成物。


(式中、Aは多糖残基を表し、Rは炭素原子数1〜22の飽和または不飽和の脂肪酸から誘導されるアシル基を表し、−CO−X−NH−はアミノ酸残基を表し、nは50〜20,000を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖誘導体組成物、さらにこれを含有する乳化製品に関する。
【背景技術】
【0002】
乳化物は、水に不溶な物を水に、また、油に不溶なものを油に分散させる形態として、産業界で広く使用されている。具体的には化粧品、医薬品、農薬、接着剤、樹脂、塗料等多岐にわたる製品に用いられている。
【0003】
乳化状態は熱力学的に不安定であるため、長期間保持するために様々な手段が講じられている。例えば、系の増粘による安定化が一般的に行われる。増粘させる手法の一例として、カルボキシビニルポリマー等の水溶性高分子を添加することが挙げられる。しかしながら、増粘による乳化物の安定化は、乳化物の感触を大きく変えてしまうというデメリットがあり、具体的には、肌へのなじみが遅いという特徴がある。さらに、選択する水溶性高分子の種類によっては、耐塩性が弱く、乳化物中に塩を含む場合、乳化状態が安定せず分離・凝集する場合があり、無機塩、植物抽出物および海水抽出物およびビタミンなどと併用することができない場合がある。
【0004】
特許文献1ではデンプンおよびヒドロキシアルキルデンプンを用い、安定な乳化状態を達成している。しかしながら、ヒドロキシアルキルデンプンは水への分散性が悪く、沈殿を生じる場合があった。また低温における乳化の安定性にはいまだ課題が残っていた。
【0005】
一方、特許文献2では、特定のアシル基含有組成物を含むゲル状組成物の安定性が良好であることが記載されているが、当該アシル基含有組成物は水性成分を増粘させ、ゲル状にするため、肌へのなじみという点でいまだ課題が残っていた。また酸性条件における乳化の安定性にはいまだ課題が残っていた。
【0006】
【特許文献1】特表2000−514435号公報
【特許文献2】特再公表2004−20394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
肌へのなじみが速く、塩による凝集・分離がなく、低温安定性に優れた乳化物を形成しうる、水分散性に優れた新規物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の多糖誘導体組成物により、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下の態様を含む。
【0009】
〔1〕式(1)で表される少なくとも1種の多糖誘導体を含有し、重量平均分子量が110万〜1000万であることを特徴とする、多糖誘導体組成物。
【化1】

(式中、Aは多糖残基を表し、Rは炭素原子数1〜22の飽和または不飽和の脂肪酸から誘導されるアシル基を表し、−CO−X−NH−はアミノ酸残基を表し、nは50〜20,000を表す。)
〔2〕アミノ酸が、アスパラギン酸、アラニン、アルギニン、オルニチン、グリシン、グルタミン酸、スレオニン、セリン、リジンからなる群から選択される1種または2種以上であることを特徴とする、〔1〕に記載の多糖誘導体組成物。
〔3〕Rが、炭素原子数8〜22の飽和または不飽和の脂肪酸から誘導されるアシル基であることを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載の多糖誘導体組成物。
〔4〕多糖が、セルロース、デンプン、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、およびヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される1種または2種以上であることを特徴とする、〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の多糖誘導体組成物。
〔5〕多糖誘導体組成物の分散度が1.2〜100であることを特徴とする、〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の多糖誘導体組成物。
〔6〕〔1〕〜〔5〕のいずれか一項に記載の多糖誘導体組成物を含有することを特徴とする、乳化製品。
〔7〕多糖誘導体組成物の含有量が、0.001重量%〜5重量%であることを特徴とする、〔6〕記載の乳化製品。
〔8〕N−アシルアミノ酸またはその塩、その無水物、あるいはそのエステルと、多糖類または変性多糖類を反応させることを特徴とする、多糖誘導体組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
水分散性に優れる本発明の多糖誘導体組成物によって、肌へのなじみが速く、塩による凝集・分離がなく、低温安定性に優れた乳化製品を提供できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[多糖誘導体組成物]
本発明の多糖誘導体組成物は、式(1)で表される少なくとも1種の多糖誘導体を含有する多糖誘導体組成物である。ただし、アミノ酸残基等の部分で塩を形成している場合も、等価体として本権利範囲に含まれる。
【0012】
式(1)中、Aは多糖残基を表す。ここにいう、多糖残基とは、「水酸基および/またはアミノ基を有する多糖類または変性多糖類の残基であって、水酸基および/またはアミノ基から水素原子が抜けた残りの部分」を意味する。Aは当該水素原子が抜けた水酸基および/またはアミノ基(すなわち−O−、−NH−)を介して、n個の−CO−X−NH−R基と結合している。多糖としては、多糖類または変性多糖類でありさえすれば、特に制限はなく、モーリッシュ反応を示す多糖が好ましい。ここにいう、モーリッシュ反応とは、「硫酸と1−ナフトールを加えて赤紫色を発色する反応」であり、多糖を検出する試験法の一つである。本発明の多糖としては、具体的には、セルロース、グアーガム、デンプン、プルラン、デキストラン、フルクタン、イヌリン、マンナン、寒天、カラギーナン、キチン、キトサン、ペクチン、アルギン酸およびヒアルロン酸等の多糖類;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルグアーガム、ヒドロキシエチルデンプン、メチルセルロース、メチルグアーガム、メチルデンプン、エチルセルロール、エチルグアーガム、エチルデンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルグアーガム、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルグアーガム、ヒドロキシエチルメチルデンプン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルグアーガム、ヒドロキシプロピルメチルデンプン等の変性多糖類が挙げられる。これらのうち、反応させた際の着色度合いが少ないという観点で、セルロース、デンプン、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースが好ましく、セルロース、デンプン、ヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースがより好ましく、デンプンが更に好ましい。
【0013】
デンプンは、直線性が高く分子量が相対的に小さいアミロースと、直線性が低く分子量が相対的に高いアミロペクチンの混合物である。デンプンの由来により、このアミロースとアミロペクチンの含有量が異なる事が一般的に知られている。直線性が低く、分岐構造の多いアミロペクチンは、増粘につながるため、粘度を低く保つためにはアミロペクチンの含有量が85重量%以下であるデンプンが好ましい。一方、アミロペクチンの含有量が少ないと、糊化温度の上昇につながり、水への分散性が悪くなる。水への分散性を確保するために、アミロペクチンの含有量が70重量%以上であるデンプンが好ましい。より好ましくは、アミロペクチンの含有量が72重量%〜78重量%のデンプンである。これらの観点から、トウモロコシデンプン、タピオカデンプン、小麦デンプン、米デンプン、馬鈴薯デンプン、甘藷デンプンが好ましく、トウモロコシデンプンがより好ましい。
【0014】
式(1)中、Rは炭素原子数が1〜22の直鎖もしくは分岐鎖の飽和または不飽和脂肪酸から誘導されるアシル基を表す。具体的には、オクタノイル基、デカノイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ベヘニル基、オレオイル基又はココイル基が挙げられる。炭素原子数が8〜22の直鎖もしくは分岐鎖の飽和または不飽和脂肪酸のアシル基が好ましく、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ココイル基がより好ましく、ラウロイル基、ココイル基、が更に好ましく、ラウロイル基が更に一層好ましい。
【0015】
式(1)中−CO−X−NH−は、アミノ酸残基を表す。アミノ酸としては、アミノ酸でありさえすれば特に制限はないが、具体的には、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、システイン、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジン、γ‐アミノ酪酸およびオルニチンが挙げられる。アスパラギン酸、アラニン、アルギニン、オルニチン、グリシン、グルタミン酸、スレオニン、セリン、リジンが好ましく、アスパラギン酸、グルタミン酸がより好ましく、グルタミン酸が更に好ましい。ただし、アミノ酸残基部分で塩を形成している場合も、等価体として本権利範囲に含まれる。
【0016】
−CO−X−NH−がアスパラギン酸およびグルタミン酸残基の場合、Xは式(2)および式(3)の構造をとることができる。
【0017】
【化2】

【0018】
【化3】

【0019】
式(2)および式(3)中、アスパラギン酸の場合mは1であり、グルタミン酸の場合mは2である。
【0020】
アミノ酸は、塩を形成していても構わない。塩としては特に制限はないが、具体的には、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム等の無機塩、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、リジン、オルニチン、アルギニン等の有機アミン塩、等の塩基性塩や;塩酸、硫酸、炭酸、リン酸等の無機酸塩、酢酸、酒石酸、クエン酸、p−トルエンスルホン酸、グリコール酸、リンゴ酸、乳酸、脂肪酸、酸性アミノ酸、ピログルタミン酸等の有機酸塩、等の酸性塩を挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を組み合わせても構わない。
【0021】
式(1)中、nは、多糖に導入された−CO−X−NH−R基の導入数を表す指標であり、反応率を表す指標でもあり、本発明の多糖誘導体組成物に含有される式(1)で表される多糖誘導体の全分子の平均値として表される。その数値は、50〜20,000が好ましい。塩による凝集・分離がなく安定な乳化物を得るためには、下限値は、100以上がより好ましく、300以上が更に好ましく、500以上が更に一層好ましい。上限値は良好な粘度と水分散性を達成できる生成物が得られるという観点で、10000以下がより好ましく、5000以下が更に好ましく、3000以下が更に一層好ましい。
【0022】
本発明の多糖誘導体組成物は、式(1)で表される多糖誘導体を含有する組成物であり、様々な分子量の分子を含有する高分子組成物である。高分子組成物の分子量は一般に重量平均分子量を用いて表される。本願明細書において、「重量平均分子量」は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定にて測定されるデキストラン換算の重量平均分子量をいう。本発明の多糖誘導体組成物の重量平均分子量は、充分な乳化の安定性を達成するために、110万以上が好ましく、130万以上がより好ましく、150万以上がさらに好ましく、170万以上が特に好ましい。水との親和性が低下する場合があるため、上限は1000万以下が好ましく、900万以下がより好ましく、800万以下がさらに好ましい。
【0023】
本発明の多糖誘導体組成物は、分子量分布を有する組成物であるため、分散度を有する。分散度は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により、重量平均分子量、数平均分子量を測定し、重量平均分子量を数平均分子量で割った数値として算出できる。分散度が大きいほど、分子量分布が広いことを意味する。本発明の多糖誘導体組成物の分散度は、感触に優れるという観点から、1.1以上が好ましく、1.2以上がより好ましく、1.3以上が更に好ましい。本発明の多糖誘導体組成物の分散度は、分散度が大きすぎると製造が困難である傾向を有するという観点から、100以下が好ましく、80以下がより好ましく、50以下がさらに好ましい。
【0024】
[多糖誘導体組成物の製造方法]
本発明の多糖誘導体組成物は、N―アシルアミノ酸またはその塩、その無水物、あるいはそのエステルと、多糖類または変性多糖類とを反応させることにより調製することができる。
【0025】
(N−アシルアミノ酸またはその塩と、多糖類または変性多糖類との反応)
N―アシルアミノ酸またはその塩と、多糖類または変性多糖類とを、反応溶媒中で、縮合剤、反応触媒の存在下、加熱反応させることにより、本発明の多糖誘導体組成物を調製することができる。
【0026】
N−アシルアミノ酸のアミノ酸としては、アミノ酸でありさえすれば特に制限はないが、具体的には、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、システイン、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジン、γ‐アミノ酪酸およびオルニチンが挙げられる。アスパラギン酸、アラニン、アルギニン、オルニチン、グリシン、グルタミン酸、スレオニン、セリン、リジンが好ましく、アスパラギン酸、グルタミン酸がより好ましく、グルタミン酸が更に好ましい。なお、N−アシルアミノ酸は、光学活性体またはラセミ体のいずれであっても構わない。
【0027】
N−アシルアミノ酸の塩としては、特に制限はないが、具体的には、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム等の無機塩、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、リジン、オルニチン、アルギニン等の有機アミン塩、等の塩基性塩や;塩酸、硫酸、炭酸、リン酸等の無機酸塩、酢酸、酒石酸、クエン酸、p−トルエンスルホン酸、グリコール酸、リンゴ酸、乳酸、脂肪酸、酸性アミノ酸、ピログルタミン酸等の有機酸塩、等の酸性塩を挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を組み合わせても構わない。
【0028】
N−アシルアミノ酸のアシル基は、炭素原子数が1〜22の直鎖もしくは分岐鎖の飽和または不飽和脂肪酸のアシル基である。例えば、オクタノイル基、デカノイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ベヘニル基、オレイル基又はココイル基が挙げられる。好ましくは、炭素原子数が8〜22の直鎖もしくは分岐鎖の飽和または不飽和脂肪酸のアシル基である。より好ましくは、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、又はココイル基であり、さらに好ましくは、ラウロイル基、ココイル基であり、さらにより好ましくはラウロイル基である。
アシル基はα位のアミノ基に結合していても、α位以外のアミノ基に結合しても構わない。
【0029】
N−アシルアミノ酸またはその塩は、公知の方法を用いて調製してもよく、例えばアミノ酸またはその塩に対して、アシルハライドを作用させることにより、容易に得ることができる。また、市販品を使用しても構わない。例えば、「アミソフト」LA−D(Nα−ラウロイル−L−グルタミン酸、味の素(株)製)、「アミソフト」CA(Nα−ココイル−L−グルタミン酸、味の素(株)製)、「アミソフト」HA−P(Nα−ステアロイル−L−グルタミン酸、味の素(株)製)、「アミホープLL」(Nε−ラウロイル−L−リジン、味の素(株)製)が挙げられる。
【0030】
多糖類または変性多糖類は、単糖分子がグリコシド結合によって多数重合した化合物であり、多糖類としては、セルロース、グアーガム、デンプン、プルラン、デキストラン、フルクタン、イヌリン、マンナン、寒天、カラギーナン、キチン、キトサン、ペクチン、アルギン酸、ヒアルロン酸等が挙げられ、変性多糖類としては、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルグアーガム、ヒドロキシエチルデンプン、メチルセルロース、メチルグアーガム、メチルデンプン、エチルセルロール、エチルグアーガム、エチルデンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルグアーガム、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルグアーガム、ヒドロキシエチルメチルデンプン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルグアーガム、ヒドロキシプロピルメチルデンプンが挙げられる。これらのうち、着色が少ないという点で、セルロース、デンプン、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースが好ましく、より好ましくは、セルロース、デンプン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースであり、さらにより好ましくはデンプンである。
【0031】
デンプンは、直線性が高く分子量が相対的に小さいアミロースと、直線性が低く分子量が相対的に高いアミロペクチンの混合物である。デンプンの由来により、このアミロースとアミロペクチンの含有量が異なる事が一般的に知られている。直線性が低く、分岐構造の多いアミロペクチンは、増粘につながるため、粘度を低く保つためにはアミロペクチンの含有量が85重量%以下であるデンプンが好ましい。一方、アミロペクチンの含有量が少ないと、糊化温度の上昇につながり、水への分散性が悪くなる。水への分散性を確保するために、アミロペクチンの含有量が70重量%以上であるデンプンが好ましい。より好ましくは、アミロペクチンの含有量が72重量%〜78重量%のデンプンである。これらの観点から、トウモロコシデンプン、タピオカデンプン、小麦デンプン、米デンプン、馬鈴薯デンプン、甘藷デンプンが好ましく、トウモロコシデンプンがより好ましい。
【0032】
縮合剤としては、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、が挙げられる。
【0033】
反応触媒としてはN,N−4−ジメチルアミノピリジン、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシスクシンイミド、が挙げられる。
【0034】
反応溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド(DMF)、トルエン、キシレン、酢酸エチル、n−ヘキサン、イソプロピルアルコール、2−メチル−2−イソプロピルアルコール、アセトン、が挙げられる。
【0035】
反応温度は、50℃〜150℃、好ましくは、60℃〜100℃、より好ましくは65〜75℃である。
【0036】
反応時間は、1〜24時間、好ましくは3〜8時間、より好ましくは5時間である。
【0037】
N−アシルアミノ酸またはその塩の反応開始前濃度は0.1〜25重量%、好ましくは0.5〜15重量%、より好ましくは1〜10重量%に調整する。
【0038】
多糖類または変性多糖類の反応開始前濃度は、1〜50重量%、好ましくは3〜25重量%、より好ましくは5〜15重量%に調整する。
【0039】
縮合剤の反応開始前濃度は、0.2〜35重量%、好ましくは0.7〜25重量%、より好ましくは1〜15重量%に調整する。
【0040】
反応に使用するN−アシルアミノ酸またはその塩と多糖類または変性多糖類のモル比(N−アシルアミノ酸またはその塩:多糖類または変性多糖類)は、反応しさえすれば特に制限はないが、50:1〜20000:1が好ましい。塩による凝集・分離がなく安定な乳化性能を有する生成物が得られるという観点から、100:1〜20000:1がより好ましく、200:1〜20000:1が更に好ましく、300:1〜20000:1が更に一層好ましく、400:1〜20000:1が殊更好ましく、500:1〜20000:1が特に好ましい。良好な粘度と水分散性を達成できる生成物が得られるという観点で、50:1〜10000:1がより好ましく、50:1〜5000:1が更に好ましく、50:1〜3000:1が更に一層好ましく、50:1〜2500:1が殊更好ましい。
【0041】
(N−アシルアミノ酸無水物と多糖類または変性多糖類との反応)
N―アシルアミノ酸無水物と、多糖類または変性多糖類とを、反応溶媒中で、加熱反応させることにより、本発明の多糖誘導体組成物を調製することができる。
【0042】
N−アシルアミノ酸無水物は、アミノ酸が酸性アミノ酸の場合に限り反応基質として使用することができる。酸性アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸、が挙げられ、良好な反応が進行するという観点で、グルタミン酸が好ましい。
【0043】
N−アシルアミノ酸無水物は、公知の方法を用いて調製してもよく、例えばN−アシルアミノ酸またはその塩に対して、無水酢酸を作用させることにより、容易に得ることができる。また、市販品を使用しても構わない。
【0044】
反応に使用する、アシル基、多糖類または変性多糖類、反応溶媒、反応温度、反応時間、反応開始前濃度は、N−アシルアミノ酸またはその塩の反応で規定したものを使用することができる。
【0045】
反応に使用するN−アシルアミノ酸無水物と多糖類または変性多糖類のモル比(N−アシルアミノ酸無水物:多糖類または変性多糖類)は、反応しさえすれば特に制限はないが、50:1〜20000:1が好ましい。塩による凝集・分離がなく安定な乳化性能を有する生成物が得られるという観点から、100:1〜20000:1がより好ましく、200:1〜20000:1が更に好ましく、300:1〜20000:1が更に一層好ましく、400:1〜が殊更好ましく、500:1〜20000:1が特に好ましい。良好な粘度と水分散性を達成できる生成物が得られるという観点で、50:1〜10000:1がより好ましく、50:1〜5000:1が更に好ましく、50:1〜3000:1が更に一層好ましく、50:1〜2500:1が殊更好ましい。
【0046】
(N−アシルアミノ酸エステルと多糖類または変性多糖類との反応)
N―アシルアミノ酸エステルと、多糖類または変性多糖類とを、反応溶媒中で、加熱反応させることにより、本発明の多糖誘導体組成物を調製することができる。
【0047】
N−アシルアミノ酸エステルにおけるエステルとしては、C1−6アルキルエステルが好ましく、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、t−ブチルエステル、ペンチルエステル、ヘキシルエステルがより好ましく、メチルエステル、エチルエステルが更に好ましい。
【0048】
N−アシルアミノ酸エステルは、公知の方法を用いて調製してもよく、例えばN−アシルアミノ酸またはその塩に対して、任意のアルコール溶媒中で、塩酸または硫酸存在下、C1−6アルキルアルコールを作用させることにより、容易に得ることができる。また、市販品を使用しても構わない。
【0049】
反応に使用する、アシル基、多糖類または変性多糖類、反応溶媒、反応温度、反応時間、反応開始前濃度は、N−アシルアミノ酸またはその塩の反応で規定したものを使用することができる。
【0050】
反応に使用するN−アシルアミノ酸エステルと多糖類または変性多糖類のモル比(N−アシルアミノ酸エステル:多糖類または変性多糖類)は、反応しさえすれば特に制限はないが、50:1〜20000:1が好ましい。塩による凝集・分離がなく安定な乳化性能を有する生成物が得られるという観点から、100:1〜20000:1がより好ましく、200:1〜20000:1が更に好ましく、300:1〜20000:1が更に一層好ましく、400:1〜20000:1が殊更好ましく、500:1〜20000:1が特に好ましい。良好な粘度と水分散性を達成できる生成物が得られるという観点で、50:1〜10000:1がより好ましく、50:1〜5000:1が更に好ましく、50:1〜3000:1が更に一層好ましく、50:1〜2500:1が殊更好ましい。
【0051】
多糖誘導体組成物は、晶析、抽出、カラム精製、蒸留精製、等の公知の方法を使用して反応溶液から分離することができる。しかし、反応溶液をそのまま製品として使用することも可能である。また、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)等より、適宜好ましい分子量範囲を分画することができる。
【0052】
[乳化製品]
本発明の多糖誘導体組成物は、化粧料、医薬品、農薬、接着剤、樹脂、塗料等の乳化製品に配合することにより、これらの乳化安定性を格段に向上させることができる。
【0053】
特に、油性成分、および水を含有する化粧料に、本発明の多糖誘導体組成物を配合することにより、良好な乳化化粧料を得ることができる。
【0054】
本発明の乳化化粧料に使用される油性成分としては、流動パラフィン、スクワラン、イソパラフィン、ワセリン等の炭化水素油、イソプロピルミリステート、イソセチルステアレート、グリセリントリオクタノエート等のエステル油、ジメチルポリシロキサン、メチルシクロペンタシロキサン等のシリコーン油、脂肪酸、高級アルコール、オリーブ油、ヤシ油、サフラワー油、ヒマシ油、綿実油等の油脂、ラノリン、カルナバロウなどのロウ等が挙げられる。
【0055】
本発明の乳化化粧料は、通常の攪拌機、混合機、分散機等を備えた装置を用いて製造することができる。例えば、水の一部に本発明の多糖誘導体組成物の全部を溶解した水溶液を調製して、これと油性成分とを混合した後、水の残部と混合する方法、または水の一部に本発明の多糖誘導体組成物の一部を溶解した水溶液を調製して、これと油性成分を混合した後、多糖誘導体組成物の残部を含有する水の残部と混合する方法が挙げられる。
【0056】
本発明の乳化化粧料には、多糖誘導体組成物を0.001重量%〜5重量%配合することが好ましい。乳化物の安定化効果をより高める観点から下限値は0.005重量%がより好ましく、0.01重量%がさらにより好ましく、0.05重量%が殊更好ましく、0.1重量%が特に好ましい。粘度をできる限り上昇させないという観点から、上限値は3重量%がより好ましく、1重量%がさらにより好ましい。
【0057】
本発明の乳化化粧料中の粘度は10〜2000mPa・sである。適度な安定性を保持する観点から下限値は30mPa・sがより好ましく、50mPa・sがさらにより好ましい。なじみの速さを保持する観点から、上限値は1000mPa・sがより好ましく、500mPa・sがさらにより好ましい。
【0058】
本発明の乳化化粧料には、本発明の効果を損なわない範囲で、他の乳化安定化剤または増粘剤を添加してもよい。さらに本発明の組成物には、基材、補助剤、界面活性剤、添加剤、粉体などが含まれていてもよい。
【0059】
本発明の乳化化粧料としては、特に限定されないが、化粧水、ローション、クリーム、乳液、美容液、ヘアシャンプー、ヘアリンス、ヘアコンディショナー、ボディシャンプー、エナメル、ファンデーション、アイライナー、アイブロウペンシル、マスカラ、リップスティック、おしろい、パウダー、パック、香水、オーデコロン、洗顔フォーム、クレンジングフォーム、クレンジングオイル、クレンジングジェル、メイク落とし、歯磨、シェービングホーム、石鹸、エアゾル、浴用剤、養毛剤、日焼け防止剤等を挙げることができる。低粘度で流動性のある組成物へ適用した際に特に効果を発揮しやすい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。各定測定方法を以下に示す。
【0061】
[式(1)中のn]
式(1)中のnは、1H−NMR(DMSO−d6)を用いて算出した。1H−NMR測定はブルカー社製AVANCE400を用いた。具体的には、下記式を用いて算出した。
【0062】
【数1】

【0063】
ここで、(エ)はさらに下記の式で計算した。
【0064】
【数2】

【0065】
2式を整理して、結局nは下記式で求めた。
【0066】
【数3】

【0067】
[重量平均分子量および分散度]
重量平均分子量および分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定にて測定した。カラムは、東ソー株式会社製TSKgel−α4000およびTSKgel−α6000を用い、50℃で測定した。移動相溶媒として50mMのリチウムブロミド(純正化学製)を溶解させたジメチルスルホキシド(純正化学製、高速液クロ用)を用いた。検出器は島津製作所製RID−10Aを用いた。分子量スタンダードとしてデキストラン(アルドリッチ社製、ピークトップ分子量=401300,123600,43500)を用い、検量線を作製し、外挿法によって分子量を求めた。数平均分子量(Mn)は、Mn=Σ(Hi(i番目の分子のピークの高さ))/Σ(Hi/Mi(i番目の分子の分子量))で定義される。同様に、重量平均分子量(Mw)は、Mw=Σ(Mi×Hi)/Σ(Hi)で定義される。分子量計算には島津製作所製LCsolution GPC ソフトウェアを用いた。
【0068】
[IR測定]
島津製作所社製IRPrestige−21を用いた。
【0069】
〔製造例1〕
Nα―ラウロイル−L−グルタミン酸(味の素(株)製 「アミソフト」LA−D)15.3g、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(東京化成製)19.9g、N,N−4−ジメチルアミノピリジン(和光純薬製)0.67gをジメチルスルホキシド(純正化学製)250gに、75℃下で溶解させた。さらに攪拌を続けながら、重量平均分子量120万のコーンスターチ(和光純薬製 Starch,Corn)30gを添加し溶解させた後、5時間攪拌を続けた。反応終了後室温まで冷却し、250mlのメチルアルコールを加え、攪拌後白色沈殿物を濾取し、メチルアルコールを用いて洗い、乾燥し、多糖誘導体組成物を得た。
n:590、重量平均分子量:176万、分散度:44.1
IR測定結果(KBr,cm−1):3363,2927,1653,1153,1081,1023,936
【0070】
〔製造例2〕
GPCを用いて、分子量123万〜1250万の範囲の多糖誘導体組成物を製造例1で得られた多糖誘導体組成物から分取し、溶離液を留去することにより目的物を得た。
n:2000、重量平均分子量:592万、分散度:1.47
【0071】
〔製造例3〕
GPCを用いて、重量平均分子量169万〜909万の範囲の多糖誘導体組成物を製造例1で得られた多糖誘導体組成物から分取し、溶離液を留去することにより目的物を得た。
n:1800、重量平均分子量:531万、分散度:1.26
【0072】
〔製造例4〕
GPCを用いて、重量平均分子量277万〜774万の範囲の多糖誘導体組成物を製造例1で得られた多糖誘導体組成物から分取し、溶離液を留去することにより目的物を得た。
n:1800、重量平均分子量:529万、分散度:1.09
【0073】
〔製造例5〕
GPCを用いて、重量平均分子量460万〜562万の範囲の多糖誘導体組成物を製造例1で得られた多糖誘導体組成物から分取し、溶離液を留去することにより目的物を得た。
n:1700、重量平均分子量:511万、分散度:1.00
【0074】
〔製造例6〕
GPCを用いて、重量平均分子量111万〜557万の範囲の多糖誘導体組成物を製造例1で得られた多糖誘導体組成物から分取し、溶離液を留去することにより目的物を得た。
n:1000、重量平均分子量:298万、分散度:1.22
【0075】
〔製造例7〕
GPCを用いて、重量平均分子量82万〜361万の範囲の多糖誘導体組成物を製造例1で得られた多糖誘導体組成物から分取し、溶離液を留去することにより目的物を得た。
n:680、重量平均分子量:197万、分散度:1.20
【0076】
〔製造例8〕
GPCを用いて、重量平均分子量62万〜297万の範囲の多糖誘導体組成物を製造例1で得られた多糖誘導体組成物から分取し、溶離液を留去することにより目的物を得た。
n:510、重量平均分子量:153万、分散度:1.24
【0077】
〔製造例9〕
製造例1において、Nα−ラウロイル−L−グルタミン酸を7.81g、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩を10.05g、N,N−4−ジメチルアミノピリジンを0.35gとした以外は同じ条件で反応を行ない、さらにGPCを用いて重量平均分子量75万〜355万の範囲の多糖誘導体組成物を分取し、溶離液を留去することにより目的物を得た。
n:300、重量平均分子量:205万、分散度:1.37
【0078】
〔製造例10〕
製造例1において、Nα−ラウロイル−L−グルタミン酸を5.34g、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩を6.58g、N,N−4−ジメチルアミノピリジンを0.27gとした以外は同じ条件で反応を行ない、さらにGPCを用いて重量平均分子量64万〜340万の範囲の多糖誘導体組成物を分取し、溶離液を留去することにより目的物を得た。
n:200、重量平均分子量:198万、分散度:1.34
【0079】
〔製造例11〕
製造例1において、Nα−ラウロイル−L−グルタミン酸を2.61g、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩を3.32g、N,N−4−ジメチルアミノピリジンを0.12gとした以外は同じ条件で反応を行ない、さらにGPCを用いて重量平均分子量60万〜363万の範囲の多糖誘導体組成物を分取し、溶離液を留去することにより目的物を得た。
n:100、重量平均分子量:203万、分散度:1.35
【0080】
〔製造例12〕
製造例1において、Nα−ラウロイル−L−グルタミン酸を0.41g、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩を0.53g、N,N−4−ジメチルアミノピリジンを0.02gとした以外は同じ条件で反応を行ない、さらにGPCを用いて重量平均分子量147万〜1115万の範囲の多糖誘導体組成物を分取し、溶離液を留去することにより目的物を得た。
n:50、重量平均分子量:550万、分散度:1.33
【0081】
〔比較製造例1〕
GPCを用いて、重量平均分子量40万〜80万の範囲の多糖誘導体組成物を製造例1で得られた多糖誘導体組成物から分取し、溶離液を留去することにより目的物を得た。
n:190、重量平均分子量は57万、分散度:1.04
【0082】
〔比較製造例2〕
GPCを用いて、重量平均分子量10万〜20万の範囲の多糖誘導体組成物を製造例1で得られた多糖誘導体組成物から分取し、溶離液を留去することにより目的物を得た。
n:47、重量平均分子量:14万、分散度:1.04
【0083】
〔比較製造例3〕
GPCを用いて、重量平均分子量3万〜5万の範囲の多糖誘導体組成物を製造例1で得られた多糖誘導体組成物から分取し、溶離液を留去することにより目的物を得た。
n:13、重量平均分子量:3.9万、分散度:1.02
【0084】
〔比較製造例4〕
重量平均分子量40万〜80万の範囲を重量平均分子量120万のコーンスターチ(和光純薬製 Starch,Corn)300gからGPCによって分取し、溶離液を除去することにより目的物を得た。重量平均分子量は51万であった。
【0085】
〔比較製造例5〕
Nα−ラウロイル−L−グルタミン酸100gを、無水酢酸200g中で60℃、5時間加熱攪拌し、その後攪拌しながら室温まで冷却し、結晶を析出させた。この結晶を1000mLのヘキサンを用いて洗浄し、乾燥することで、Nα−ラウロイル−L−グルタミン酸無水物72.4gを得た。
【0086】
〔比較製造例6〕
比較製造例4で得られたコーンスターチ30gをイオン交換水250mL中、5℃下で分散させた。この分散液をpHの範囲を3%水酸化ナトリウム水溶液で10〜11に攪拌調整しながら、また反応温度を5℃に維持しながら、攪拌下に比較製造例5で得られたNα−ラウロイル−L−グルタミン酸無水物14.5gを2時間かけて添加し、反応を実施した。さらに30分攪拌を続けた後、500mLのメチルアルコールを加え、75%水酸化ナトリウムをpHが5.0になるまで加え、白色沈殿物を濾取し、メチルアルコールを用いて洗い、乾燥した。
n:0、重量平均分子量:49万、分散度:1.42
【0087】
〔比較製造例7〕
比較製造例4において、分取の範囲を10万〜20万とした以外は同じ条件で分取を行った。得られたコーンスターチの重量平均分子量は15万であった。
【0088】
〔比較製造例8〕
比較製造例4において、分取の範囲を3万〜5万とした以外は同じ条件で分取を行った。得られたコーンスターチの重量平均分子量は3.7万であった。
【0089】
〔比較製造例9〕
比較製造例6において、比較製造例4で得られたコーンスターチを、比較製造例7で得られたコーンスターチとした以外は同条件で反応を行った。
n:0、重量平均分子量:15万、分散度は1.03
【0090】
〔比較製造例10〕
比較製造例6において、比較製造例4で得られたコーンスターチを、比較製造例8で得られたコーンスターチとした以外は同条件で反応を行った。
n:0、重量平均分子量、3.6万、分散度:1.03
【0091】
比較製造例6、9、10は特許文献2に記載の製造方法であるが、nが著しく低く、本願発明の多糖誘導体組成物を得ることはできなかったことがわかる。
【0092】
〔比較製造例11〕
比較製造例6において、反応温度を70℃とした以外は同条件で反応を行った。
n:1.6、重量平均分子量:50万、分散度:1.51
【0093】
〔比較製造例12〕
比較製造例9において、反応温度を70℃とした以外は同条件で反応を行った。
n:0.43、重量平均分子量:14万、分散度:1.05
【0094】
〔比較製造例13〕
比較製造例10において、反応温度を70℃とした以外は同条件で反応を行った。
n:0.11、重量平均分子量:3.5万、分散度:1.04
【0095】
〔比較製造例14〕
製造例1において、Nα−ラウロイル−L−グルタミン酸を0.52g、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩を0.67g、N,N−4−ジメチルアミノピリジンを0.03gとした以外は同じ条件で反応を行ない、さらにGPCを用いて重量平均分子量80万〜150万の範囲の多糖誘導体組成物を分取し、溶離液を留去することにより目的物を得た。
n:20、重量平均分子量:100万、分散度:1.47
【0096】
〔乳化物の調製〕
表2から4に表す割合で、(a)成分を80℃で混合、攪拌し、均一に溶解し、そこへ同様に80℃で精製水に均一に溶解させた(b)成分を徐々に加え、乳化を行い、室温まで冷却した。その後さらに(c)成分を手攪拌で混合し、実施例7〜12、比較例10〜24の乳化物を得た。表2から4中の配合量は重量%を示す。
使用した(a)成分は以下である。
モノステアリン酸ソルビタン:日光ケミカルズ社製 NIKKOL SS−10V
モノステアリン酸POE(20)ソルビタン:日光ケミカルズ社製 NIKKOL TS−10V
流動パラフィン:松村石油研究所社製 モレスコホワイト P−55
【0097】
〔評価〕
<水分散性>
配合の容易さの指標として、水への分散性(水分散性)の評価を行った。本発明の多糖誘導体組成物および比較の化合物0.3gを30mlの水に混合し、70℃で攪拌した後、50mlのメスシリンダーに移し、室温で1時間静置後の水溶液の状態を目視観察した。この際に、水分散性の悪いものは不透明層と透明層に分離する。この分離の度合いを観察し、メスシリンダーのメモリを読み取り、下記の基準で評価した。
◎:透明層がほとんど見られない
○:透明層の体積が5%未満である。
△:透明層の体積が5%以上30%未満である。
×:透明層の体積が30%以上である。
【0098】
<粘度>
内径50mmの100mlビーカーに80mlの乳化物を入れ、東京計器社製DVL−Bを用い、No.4のスピンドルにて粘度を測定した。
【0099】
<塩による凝集・分離>
(c)成分として塩化ナトリウムを2.00重量%配合した乳化物を調製し、その分離の有無を目視により観察し、下記基準で評価した。
○:分離は観察されない
×:分離している
【0100】
<なじみの速さ>
各乳化物のなじみの速さを、5人のパネラー(健常成人)により評価した。肌に化粧料を塗布する場合、塗布の初期では化粧料の粘度等のレオロジー特性を反映した滑り抵抗を感じる。化粧料が薄く塗り広げられるにつれ塗布抵抗感が変化し、最終的には化粧料を塗布する前の、肌と肌が接触していると感じるような滑り抵抗感になる。このことを「なじみ」という。
◎:比較例10に比べてなじみが速いと感じた人が4〜5人
○:比較例10に比べてなじみが速いと感じた人が3人
△:比較例10に比べてなじみが速いと感じた人が1〜2人
×:比較例10に比べてなじみが速いと感じた人が0人
<低温安定性の評価>
各乳化物を5℃で保存し、経時的に分離の有無を目視により観察し、下記基準で評価した。
◎:20日以上分離しない
○:15日以上20日未満で分離
△:10日以上15日未満で分離
×:10日未満で分離
【0101】
【表1】

【0102】
表1より、本発明の多糖誘導体組成物(実施例1−12)は水分散性がよく、処方への配合が容易であることが明確となった。nが0または著しく低い比較例1−9は、水分散性が劣っていた。nが20、重量平均分子量が100万であっても(比較例10)、水分散性が劣っていた。
実施例のうち、nが50である実施例12よりnが50を超える実施例1−11の方が水分散性に優れていた。また、分散度が1.09である実施例4および1.00である実施例5よりも1.10以上の実施例の方が水分散性に優れていた。
【0103】
【表2】

【0104】
本発明の多糖誘導体組成物を使用した実施例13は、多糖誘導体組成物を使用しない比較例11と比較して、乳化物を安定化させることが明らかとなった。キサンタンガム、ヒドロキシプロピルデンプンリン酸を使用した比較例13、15は、なじみの速さが劣っていた。キサンタンガムを使用すると粘度が大きく変化し、感触を変化させてしまうことも明らかとなった。また、コーンスターチ、変性コーンスターチを使用した比較例14、16は、低温安定性が劣っていた。カルボマーを使用した比較例12は塩による凝集・分離が見られた。
【0105】
【表3】

【0106】
表3を見ると、重量平均分子量が110万未満である多糖誘導体組成物を使用した比較例17〜19の乳化物は低温安定性が劣っていた。特に重量平均分子量が低い多糖誘導体を使用した比較例18、19は、塩による凝集・分離も見られた。
実施例のうち、分散度が1.09、1.00である多糖誘導体組成物を使用した実施例16、17よりも、分散度が1.10以上の多糖誘導体組成物を使用した実施例13〜15の方がなじみの速さ、低温安定性に優れていた。
【0107】
【表4】

【0108】
nが0もしくは著しく低い多糖誘導体組成物を使用した比較例20〜26は低温安定性が劣っていた。nが20、重量平均分子量が100万である比較製造例14の多糖誘導体組成物であっても、低温安定性が劣っていた。
【0109】
処方例1:乳液
【0110】
【表5】

【0111】
上記乳液は、十分に安定な乳液であった。
【0112】
水分散性に優れる本発明の特定の多糖誘導体組成物によって、肌へのなじみが速く、塩による凝集・分離がなく、低温安定性に優れた、乳化物、化粧料、医薬品、農薬、接着剤、樹脂、塗料を提供できるようになったことは意義深い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される少なくとも1種の多糖誘導体を含有し、重量平均分子量が110万〜1000万であることを特徴とする、多糖誘導体組成物。
【化1】

(式中、Aは多糖残基を表し、Rは炭素原子数1〜22の飽和または不飽和の脂肪酸から誘導されるアシル基を表し、−CO−X−NH−はアミノ酸残基を表し、nは50〜20,000を表す。)
【請求項2】
アミノ酸が、アスパラギン酸、アラニン、アルギニン、オルニチン、グリシン、グルタミン酸、スレオニン、セリン、リジンからなる群から選択される1種または2種以上であることを特徴とする、請求項1に記載の多糖誘導体組成物。
【請求項3】
Rが、炭素原子数8〜22の飽和または不飽和の脂肪酸から誘導されるアシル基であることを特徴とする、請求項1または2に記載の多糖誘導体組成物。
【請求項4】
多糖が、セルロース、デンプン、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、およびヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される1種または2種以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の多糖誘導体組成物。
【請求項5】
多糖誘導体組成物の分散度が1.2〜100であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の多糖誘導体組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の多糖誘導体組成物を含有することを特徴とする、乳化製品。
【請求項7】
多糖誘導体組成物の含有量が、0.001重量%〜5重量%であることを特徴とする、請求項6記載の乳化製品。
【請求項8】
N−アシルアミノ酸またはその塩、その無水物、あるいはそのエステルと、多糖類または変性多糖類を反応させることを特徴とする、多糖誘導体組成物の製造方法。

【公開番号】特開2013−49754(P2013−49754A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187405(P2011−187405)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】