説明

多結晶ウェーハ及びその製造方法、並びに多結晶材料の鋳造方法

【課題】本発明の目的は、太陽電池の基板として用いることにより、太陽電池の変換効率を向上した多結晶ウェーハ及びその製造方法を提供することにある。また、かような多結晶ウェーハを得るための、多結晶材料の鋳造方法を提供することも目的とする。
【解決手段】本発明の多結晶ウェーハは、ウェーハ中のCu濃度を所定の範囲としたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶ウェーハ及びその製造方法、並びに多結晶材料の鋳造方法に関し、特に、太陽電池用の基板として用いたときに変換効率の高い多結晶ウェーハ及びその製造方法、並びに、該多結晶ウェーハを得るための多結晶材料の鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、太陽電池の製造用の基板としては、主にシリコン結晶が用いられている。
シリコン結晶には単結晶と多結晶とがあり、単結晶シリコンを基板として用いた太陽電池は、多結晶シリコンを基板としたものと比較して、入射した光エネルギーを電気エネルギーにする変換効率が高いという特徴がある。
この単結晶シリコンは、無転位の高品質な結晶を製造するため、一般にチョクラルスキー法によって製造されるが、このチョクラルスキー法による製造は、コストが高くなるという問題がある。
【0003】
一方、多結晶シリコンを製造する方法としては、キャスト法が知られている(例えば特許文献1)。
キャスト法による多結晶シリコンの鋳造では、ルツボ内で原料である高純度シリコンを加熱溶解し、ボロン等のドーパントを均一添加して、ルツボの中で凝固させる。ルツボは、耐熱性及び形状安定性が求められるため、一般に石英が用いられる。
このキャスト法に一方向性凝固法を適用することにより、結晶粒の大きい多結晶シリコンを得ることが可能となる。
【0004】
しかし、キャスト法は、溶融したシリコンと石英ルツボとが接触することによって不純物汚染が生じることがあり、また、キャスト法は造塊法であるため、連続した鋳造が困難であることから、生産効率の低下を招くという問題がある。
【0005】
これに対し、溶融シリコンが鋳型にほとんど接触することなく、シリコン結晶を鋳造することのできる電磁鋳造法が知られている(例えば、特許文献2)。
図1は、電磁鋳造法に用いる電磁鋳造装置の一例を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、チャンバ1は、内部の発熱から保護されるように二重壁構造の冷却容器になっており、中央部に冷却モールド2、誘導コイル3、ヒータ4が配置されている。
図示例で、冷却モールド2は、銅の水冷筒体であり、上部を除いて周方向に複数分割され、無底である。
また、図示例で、誘導コイル3は、冷却モールド2の外周側に同芯に周設されて、同軸ケーブル(図示せず)で電源に接続される。
図示例で、ヒータ4は、冷却モールド2の下方に同芯に設けられ、冷却モールド2から引き下げられるインゴット5を加熱して、インゴット5の引き下げ軸方向に所定の温度勾配を与える。
【0006】
図1に示す装置を用いて、多結晶シリコンを鋳造するには、まず、冷却モールド2にシリコン材料6を装入し、次いで、誘導コイル3に交流電流を流す。
冷却モールド2は、周方向に分割され、各素片は互いに電気的に分離されているため、各素片内で電流ループを形成し、該電流が冷却モールド2内に磁界を発生する。
これにより、電磁誘導加熱によってシリコン材料が溶解され、シリコン融液7が溶製される。
【0007】
ここで、冷却モールド2内のシリコン材料は、冷却モールド2の内壁がつくる磁界と溶融シリコン表面の電流との電磁気的相互作用によって、冷却モールド2の径方向内側への力を受けるため、冷却モールド2とは接触しづらい状態で溶解されることとなり、冷却モールドからの不純物汚染が防止され、またインゴット5の下方への引き下げが容易となる。
【0008】
ここで、溶融シリコンを凝固させるに当たっては、溶融シリコンとインゴットを下部で保持する引き下げ装置8を下方へ移動させる。誘導コイル3の下端から離間するにつれ、誘導磁界が小さくなり、発熱量及び上記の径方向内側への力が小さくなり、冷却モールド2による冷却効果によって、溶融シリコン7が外周側から凝固していき、これを下方へ引き抜いていく。
引き下げ装置の下方への移動に合わせて、冷却モールド2へシリコン材料を連続的に追加装入して、シリコン材料6の溶解及び凝固を継続していくことにより、多結晶シリコンの連続鋳造が可能となる。
なお、多結晶シリコンウェーハの導電性は、ドーパントを添加したシリコン材料6を装入することによって、制御することができる。
p型多結晶シリコンウェーハの鋳造には、ドーパントとしてボロン、ガリウム、アルミニウムなどの溶融原料を用い、n型多結晶シリコンウェーハの鋳造には、ドーパントとしてリン、砒素、アンチモンなど溶融原料を用いることができる。
【0009】
ところで、上記のキャスト法や電磁鋳造法によって製造された多結晶シリコンウェーハは太陽電池用の基板として用いることがある。
太陽電池は、近年の環境問題への関心の高まりにより、クリーンエネルギーの1つとして注目されているが、他の発電方法と比較して、エネルギーを得るためのコストが高いという問題がある。
そこで、近年、このコストを下げるために、太陽電池における光エネルギーから電気エネルギーへの変換効率を高める手法が強く希求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6―64913号公報
【特許文献2】特開2007−019209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、太陽電池の基板として用いることにより、太陽電池の変換効率を向上した多結晶ウェーハ及びその製造方法を提供することにある。
また、かような多結晶ウェーハを得るための、多結晶材料の鋳造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは前記課題を解決すべく、鋭意究明を重ねた。
その結果、多結晶ウェーハ中のCu濃度に太陽電池の変換効率を向上させることのできる好適範囲があることを新規に知見した。
また、多結晶ウェーハ中のCu濃度を上記の範囲とするためには、電磁鋳造法において、誘導コイルの出力電力値を制御することが有効であることを併せて見出した。
【0013】
本発明は、上記の知見に立脚するものであり、その要旨構成は、以下の通りである。
(1)ウェーハ中のCu濃度の最大値が、5.0×1013〜5.0×1015 atoms/cm3であることを特徴とする、多結晶ウェーハ。
【0014】
(2)前記Cu濃度の最大値が、5.0×1014〜1.0×1015 atoms/cm3であることを特徴とする、上記(1)に記載の多結晶ウェーハ。
【0015】
(3)チャンバの誘導コイル内に、軸方向の少なくとも一部が周方向で複数に分割された無底の銅の冷却モールドを配置し、前記誘導コイルによる電磁誘導加熱により、前記冷却モールド内に多結晶材料の融液を溶製し、前記融液を凝固させつつ下方へ引き抜く、多結晶材料の鋳造方法において、
前記誘導コイルの出力電力は、300〜400kWであることを特徴とする、多結晶材料の鋳造方法。
【0016】
(4)前記誘導コイルの出力電力は、350〜380kWである、上記(3)に記載の多結晶材料の鋳造方法。
【0017】
(5)上記(3)又は(4)に記載の多結晶材料の鋳造方法により得られた多結晶インゴットを切断して、多結晶ブロックに分割し、該多結晶ブロックをスライスすることを特徴とする、多結晶ウェーハの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の多結晶材料の鋳造方法によれば、所望のCu濃度を有する多結晶インゴットを得ることができる。
また、本発明の多結晶ウェーハの製造方法によれば、上記多結晶インゴットを切断して、多結晶ブロックに分割し、該多結晶ブロックをスライスすることにより、所望のCu濃度を有する多結晶ウェーハを製造することができる。
この多結晶ウェーハは、表面に異物のない高品質の多結晶ウェーハであり、また、このウェーハを基板として用いることにより、変換効率の高い太陽電池を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の電磁鋳造法に用いる装置を示す概略断面図である。
【図2】誘電コイルの出力電力と多結晶ウェーハ中のCu濃度との関係を示す図である。
【図3】多結晶シリコンウェーハ中のCu濃度と、該ウェーハを基板として用いた太陽電池の変換効率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を導くに至った経緯について詳述する。
発明者は、多結晶ウェーハ中のCu濃度と該多結晶ウェーハを基板として用いた太陽電池の変換効率との関係及び、多結晶ウェーハ中のCu濃度とウェーハ表面における異物の発生との関係についての知見を得ようと考えた。
そのため、まず発明者は、様々なCu濃度の多結晶ウェーハを得るべく、多結晶ウェーハ中のCu濃度を制御する方法について検討した。
その結果、電磁鋳造法において、誘電コイルの出力電力を制御することにより、上述した、融液が受ける径方向内側への力を制御して、融液と冷却モールドとの接触状態を調整することができることの新規知見を得た。すなわち、融液と冷却モールドとの接触状態を調整して、冷却モールドからシリコン融液へのCuの混入量を制御できることを見出したものである。
以下、誘電コイルの出力電力と多結晶ウェーハ中のCu濃度との関係性について評価した試験について説明する。
【0021】
図1に示す電磁鋳造装置を用いて、ドーパントとしてボロンを添加したシリコン材料を用い、上述のようにシリコン材料の鋳造を行った。
ここで、誘電コイルの出力電力は、300kW〜400kWの範囲で変化させた。なぜなら、300kW未満とすると、融液中にシリコン原料の溶け残りが発生し、鋳造の継続が困難となるからであり、一方で、400kWより大きくすると、Cuモールドの下方の結晶固化部分が溶けてしまい、湯漏れが発生するからである。
鋳造したシリコンインゴットを切断して、多結晶ブロックに分割し、該多結晶ブロックをスライスして、p型の多結晶ウェーハを複数枚製造した。なお、これらのウェーハの抵抗率は1.5Ωcmとした。
製造した10枚のウェーハに対し、多結晶ウェーハ中のCu濃度の最大値を原子吸光分析法(AAS法)によって測定した。ここで、Cu濃度は、ウェーハ面内で分布があり、インゴットの外周部で高くなる傾向がある。そこで、以下、「ウェーハ中のCu濃度の最大値」を、ウェーハの外周部の4点、及び中心部の1点の計5点のCu濃度を測定した際の、当該5点の中でのCu濃度の最大値とする。
ここで、上記5点の測定位置について、ウェーハ中心からの距離に関しては、ウェーハの外周部とは、ウェーハ外周から径方向内側に10mm以下の領域をいい、中心部とは外周部より径方向内側の領域をいうものとする。
また、上記外周部の4点の測定位置について、当該4点のウェーハ中心からの方向に関しては、当該4点を、ウェーハの円周を4等分した4方向から1点ずつ選ぶものとする。
【0022】
図2は、誘電コイルの出力電力と多結晶ウェーハ中のCu濃度との関係を示すグラフである。図2におけるCu濃度は、上記10枚のウェーハのそれぞれ面内5点を測定し、その最大値の平均値をとった値である。
図2に示すように、コイルの出力電力を300〜400kWの範囲で制御することにより、多結晶シリコンウェーハ中のCu濃度を5.0×1013〜5.0×1015atoms/cm3の範囲に制御することができることがわかる。
なお、上記のp型多結晶ウェーハの製造方法と同様にして、ドーパントとしてリンを添加したシリコン材料を用いて、n型多結晶ウェーハを製造して行った試験においても、コイルの出力を300〜400kWの範囲で制御することにより、p型ウェーハの場合と同様に、多結晶シリコンウェーハ中のCu濃度を5.0×1013〜5.0×1015atoms/cm3の範囲に制御することができることがわかった。
【0023】
次に、多結晶ウェーハ中のCu濃度と該ウェーハ表面の異物の個数との関係及び、多結晶ウェーハ中のCu濃度と該多結晶ウェーハを基板として用いた太陽電池の変換効率との関係を評価する試験を行った。
まず、上述した本発明の方法により、ウェーハ中のCu濃度(上述の定義に基づく、ウェーハのCu濃度の最大値)が上記5.0×1013〜1.0×1016atoms/cm3の範囲にあるp型及びn型の多結晶シリコンウェーハを複数枚製造した。
また、比較の対象として、従来のキャスト法により製造した、ウェーハ中のCu濃度(上述の定義に基づく、ウェーハのCu濃度の最大値)が1.5×1012〜1.0×1013 atoms/cm3の範囲にあるp型及びn型の多結晶シリコンウェーハを複数枚用意した。
なお、上記p型及びn型ウェーハの抵抗率は、1.5Ωcmとした。
そして、最初に、これらのウェーハの表面の異物の個数を評価した。
この評価は、光学顕微鏡により表面観察することにより行った。
次に、上記の多結晶シリコンウェーハを用いて、太陽電池を製造し、変換効率を評価した。
ここでいう、「変換効率」は、太陽電池のセル単位面積当たりに照射した光エネルギーE1とセル単位面積当たりから取り出される変換後の電気エネルギーE2との比(E2/E1)×100(%)で定義される。
これらの評価結果を表1、2及び図3に示す。
なお、表1、2及び図3において、変換効率及び異物の個数は、5つのサンプルの平均値をとったものである。また、図3において、横軸は対数で表示している。また、「ウェーハのCu濃度」とは、上述の定義に基づく、ウェーハのCu濃度の最大値である。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
図3は、表1、2をもとに、p型及びn型多結晶シリコンウェーハ中のCu濃度と、該ウェーハを基板として用いた太陽電池の変換効率との関係を示す図である。
図3に示すように、p型多結晶ウェーハについて、ウェーハ中のCu濃度の最大値が、5.0×1013〜5.0×1015 atoms/cm3の範囲にて、16.0%以上の高い変換効率を有し、特に、5.0×1014〜1.0×1015 atoms/cm3の範囲にて、16.2%以上とさらに変換効率が高くなることが判明した。
また、n型多結晶ウェーハについては、ウェーハ中のCu濃度の最大値が、5.0×1013〜5.0×1015 atoms/cm3の範囲にて、17.0%以上の高い変換効率を有し、特に、5.0×1014〜1.0×1015 atoms/cm3の範囲にて、17.2%以上とさらに変換効率が高くなることが判明した。
これは、p型、n型のいずれであっても、多結晶ウェーハ中に1.0×1014atoms/cm3以上のCuを含有することにより、多結晶の粒界にCuが偏析し、この偏析したCuにより、シリコン粒間の界面の界面準位が低下して、光励起が容易になるからである。
一方で、Cu濃度の最大値が7.5×1015 atoms/cm3より大きくなると、小さな異物によって、pn接合のシャント抵抗が低くなって、変換効率が低下するからである。
【0027】
以上のことより、ウェーハ中のCu濃度の最大値が5.0×1013〜5.0×1015 atoms/cm3の範囲にて、p型及びn型多結晶ウェーハを太陽電池の基板として用いることにより、変換効率を向上させることができることがわかる。
特に、ウェーハ中のCu濃度の最大値が5.0×1014〜1.0×1015 atoms/cm3の場合に変換効率がさらに向上することがわかる。
多結晶ウェーハのCu濃度の最大値を5.0×1013〜5.0×1015 atoms/cm3の範囲とするには、電磁鋳造法において、誘導コイルの出力電力を300〜400kWとすればよい。
また、多結晶ウェーハのCu濃度の最大値を5.0×1014〜1.0×1015 atoms/cm3の範囲とするには、電磁鋳造法において、誘導コイルの出力電力を350〜380kWとすればよい。
【符号の説明】
【0028】
1 チャンバ
2 冷却モールド
3 誘導コイル
4 ヒータ
5 インゴット
6 シリコン材料
7 溶融シリコン
8 引き下げ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェーハ中のCu濃度の最大値が、5.0×1013〜5.0×1015 atoms/cm3であることを特徴とする、多結晶ウェーハ。
【請求項2】
前記Cu濃度の最大値が、5.0×1014〜1.0×1015 atoms/cm3であることを特徴とする、請求項1に記載の多結晶ウェーハ。
【請求項3】
チャンバの誘導コイル内に、軸方向の少なくとも一部が周方向で複数に分割された無底の銅の冷却モールドを配置し、前記誘導コイルによる電磁誘導加熱により、前記冷却モールド内に多結晶材料の融液を溶製し、前記融液を凝固させつつ下方へ引き抜く、多結晶材料の鋳造方法において、
前記誘導コイルの出力電力は、300〜400kWであることを特徴とする、多結晶材料の鋳造方法。
【請求項4】
前記誘導コイルの出力電力は、350〜380kWである、請求項3に記載の多結晶材料の鋳造方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の多結晶材料の鋳造方法により得られた多結晶インゴットを切断して、多結晶ブロックに分割し、該多結晶ブロックをスライスすることを特徴とする、多結晶ウェーハの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−171820(P2012−171820A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33943(P2011−33943)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】