説明

大口径標準レンズ系

【課題】負レンズ先行タイプであって、有限距離の被検物を高精細に検査する画像処理に好適な、バックフォーカスが大きくFナンバーが1.4程度の大口径標準レンズ系を得る。
【解決手段】物体側から順に、正の前群レンズ、絞り、及び正の後群レンズからなり、前群レンズは、物体側から順に、負の第1aレンズ群と正の第1bレンズ群からなり、第1aレンズ群は、物体側から順に、第1負レンズ、第2正レンズ、及び第3負レンズの3枚から構成され、次の条件式(1)ないし(3)を満足することを特徴とする大口径標準レンズ系。
(1)0.5<f/|f1a|<0.75
(2)1.0<|f1a|/f1b<1.4
(3)0.3<d1a-3/f<1.0
但し、
f;全系の焦点距離、
1a;第1aレンズ群の焦点距離(f1a<0)、
1b;第1bレンズ群の焦点距離(f1b>0)、
1a-3;第1aレンズ群の第3負レンズのレンズ厚。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有限距離の被検物を高精細に検査し、画像処理を行うことを目的とした大口径標準レンズ系に関する。
【背景技術】
【0002】
標準レンズ系は、焦点距離が撮影画面の対角長にほぼ等しいレンズ系として定義されている。大口径標準レンズ系は、従来はライカ版や比較的大型の固体撮像素子に対応させているため、第1レンズ(最も物体側のレンズ)が正レンズである正レンズ先行タイプであって、絞りに対して、ほぼ対称的な変形ガウスタイプを採用することが一般的であった。しかし、変形ガウスタイプは、焦点距離に比べてバックフォーカスが小さいという問題点があるので、近年の小型の固体撮像素子に対して、そのままでは対応させられなかった。
【0003】
また、第1レンズが負レンズである負レンズ先行タイプの大口径標準レンズ系としては、例えば、特開平9−61708号公報、特開平6−130291号公報が知られている。しかし、前者は、後群が望遠タイプで構成されていて、やはりバックフォーカスが小さく、大きなバックフォーカスを必要とするカメラ用交換レンズには適していない。後者は、Fナンバーが2強で暗く、高精細の十分な光学性能を有していない。
【特許文献1】特開平9−61708号公報
【特許文献2】特開平6−130291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、負レンズ先行タイプであって、有限距離の被検物を高精細に検査する画像処理に好適な、バックフォーカスが大きくFナンバーが1.4程度の大口径標準レンズ系を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の大口径標準レンズ系は、物体側から順に、正の前群レンズ、絞り、及び正の後群レンズからなり、前群レンズは、物体側から順に負の第1aレンズ群と正の第1bレンズ群からなり、第1aレンズ群は、物体側から順に、第1負レンズ、第2正レンズ、及び第3負レンズの3枚から構成され、次の条件式(1)ないし(3)を満足することを特徴としている。
(1)0.5<f/|f1a|<0.75
(2)1.0<|f1a|/f1b<1.4
(3)0.3<d1a-3/f<1.0
但し、
f;全系の焦点距離、
1a;第1aレンズ群の焦点距離(f1a<0)、
1b;第1bレンズ群の焦点距離(f1b>0)、
1a-3;第1aレンズ群の第3負レンズのレンズ厚、
である。
【0006】
第1bレンズ群を正単レンズから構成する場合には、次の条件式(4)を満足させることが好ましい。
(4)0.35<f/f1bi<0.7
但し、
1bi;正単レンズの像側の面の焦点距離、
(f1bi=r1bi/(1−N1bi))
1bi;正単レンズの像側の面の曲率半径、
1bi;正単レンズのd線に対する屈折率、
である。
【0007】
第1aレンズ群の第2正レンズと第3負レンズは、次の条件式(5)及び(6)を満足することが好ましい。
(5)ν1a-2<30
(6)ν1a-3<30
但し、
ν1a-2;第1aレンズ群中の第2正レンズのアッベ数、
ν1a-3;第1aレンズ群中の第3負レンズのアッベ数、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、Fナンバーが1.4程度の大口径でバックフォーカスが大きく、有限距離の被検物を高精細に検査し、画像処理に使用できる標準レンズ系を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本実施形態の大口径標準レンズ系は、図1、図3、図5、図7及び図9の各実施例のレンズ構成図に示すように、物体側から順に、正の前群レンズ10、絞りS、及び正の後群レンズ20からなっている。前群レンズ10は、物体側から順に、負の第1aレンズ群11と正の第1bレンズ群12からなり、第1aレンズ群11は、物体側から順に、第1負レンズ、第2正レンズ、及び第3負レンズの3枚のレンズからなっている。第1bレンズ群12は、正単レンズ16からなっている。第1bレンズ群12は、正負レンズの貼合せレンズから構成することもできる。正負レンズの順番は問わない。物体距離に応じたフォーカシングは全系を撮像面に対して移動して行う。
【0010】
条件式(1)は、前群レンズ10の物体側の第1aレンズ群11のパワーに関する条件である。条件式(1)の上限を超えると、第1aレンズ群の負のパワーが大きくなりすぎて、高次のコマ収差が発生し、高精細の性能を得られない。条件式(1)の下限を超えると、第1aレンズ群の負のパワーが小さくなりすぎるため、正の後群レンズの物体側に強い負のパワーのレンズを配置し、像側にその負のパワーを打ち消す強い正のパワーのレンズを配置することが必要となる。そうすると、後群レンズ内で発生する球面収差、コマ収差が補正できず、高精細の性能を得ることが困難になる。
【0011】
条件式(2)は、負の第1aレンズ群と正の第1bレンズ群のパワーの比に関する条件である。条件式(2)の上限を超えると、第1aレンズ群の負のパワーに対し第1bレンズ群の正のパワーが大きくなりすぎる。そのため、周辺の開口効率を大きくすると、第1bレンズ群で発生する高次のコマ収差が補正できなくなる。条件式(2)の下限を超えると、第1bレンズ群の正のパワーが小さくなり過ぎて、第1bレンズ群による歪曲収差の補正が不足する。
【0012】
条件式(3)は、第1aレンズ群の第3負レンズの厚みに関する条件である。条件式(3)の上限を越えると、第2正レンズの厚みが薄くなり、コマ収差が劣化する。条件式(3)の下限を越えると、バックフォーカスを大きくすることが困難になり、倍率色収差の補正が困難になる。
【0013】
条件式(4)は、第1bレンズ群を正単レンズから構成したときの像側の面の面パワーに関する条件である。この条件式(4)で規定するように、第1bレンズ群を構成する正単レンズの像側の面は、像側に凸の曲率の大きい面を有している。条件式(4)の上限を越えると、同正単レンズの像側の面のパワーが大きくなり過ぎて、高次のコマ収差、高次の歪曲収差が増大して補正が困難になる。そのため、高精細の光学性能を得ることができなくなる。条件式(4)の下限を越えると、歪曲収差の補正が困難になる。
【0014】
条件式(5)及び(6)は、倍率色収差の補正に関する条件である。この条件式(5)と(6)のように、第1aレンズ群の第2正レンズ及び第3負レンズは、共に分散の大きい(アッベ数の小さい)レンズを用いることが好ましい。第2正レンズと第3負レンズは、第2正レンズで発生した倍率色収差を第3負レンズで補正するという関係にあり、分散の大きいレンズを組み合わせると、倍率色収差を高度に補正することができる。条件式(5)及び(6)の上限を越えると、倍率色収差の補正が困難になる。
【0015】
次に具体的な実施例を示す。諸収差図及び表中、SAは球面収差、SCは正弦条件、球面収差で表される色収差(軸上色収差)図及び倍率色収差図中のd線、g線、C線はそれぞれの波長に対する収差、yは像高、Sはサジタル、Mはメリディオナル、FはFナンバー、fは全系の焦点距離、mは全系の横倍率、fBはバックフォーカス、rは曲率半径、dはレンズ厚またはレンズ間隔、Nd はd線の屈折率、νはアッベ数を示す。
【実施例1】
【0016】
図1及び図2と表1は本発明による大口径標準レンズ系の実施例1を示している。図1はレンズ構成図、図2はその諸収差図、表1はその数値データである。なお、全ての実施例は物体距離D0=250のときのデータである。
正の前群レンズ10は、物体側から順に、負の第1aレンズ群11と正の第1bレンズ群12からなる。第1aレンズ群11は、物体側から順に、物体側に凸の負メニスカスレンズ(第1負レンズ)13、正レンズ(第2正レンズ)14、及び物体側に凸の負メニスカスレンズ(第3負レンズ)15からなり、第1bレンズ群12は、正単レンズ16からなる。正の後群レンズ20は、物体側から順に、物体側に凹の負レンズ21、正レンズ22、負レンズと正レンズの貼り合せレンズ23、及び正レンズ24からなっている。後群レンズ20の後方には、CCD(撮像素子)の前方に位置するカバーガラス(フィルタ類)Cが位置している。絞りSは、第8面(第1bレンズ群12)の極から後方5.51にある。
(表1)
F = 1: 1.4
f = 12.30
m = -0.046
fB = 11.54
面NO. r d Nd ν
1 43.095 1.50 1.83481 42.7
2 15.579 4.88 - -
3 -80.861 8.78 1.80518 25.4
4 -35.397 0.10 - -
5 22.027 9.19 1.84666 23.8
6 11.698 7.40 - -
7 25.356 4.46 1.61800 63.4
8 -18.042 9.64 - -
9 -9.424 1.50 1.66755 41.9
10 20245.980 0.95 - -
11 -20.757 6.18 1.80400 46.6
12 -12.141 0.50 - -
13 46.993 1.50 1.84666 23.8
14 15.665 4.36 1.61800 63.4
15 -47.766 0.10 - -
16 18.000 6.50 1.71300 53.9
17 63.962 1.00 - -
18 ∞ 0.75 1.49782 66.8
19 ∞ - - -
【実施例2】
【0017】
図3及び図4と表2は本発明による大口径標準レンズ系の実施例2を示している。図3はレンズ構成図、図4はその諸収差図、表2はその数値データである。基本的なレンズ構成は実施例1と同様である。絞りSは、第8面(第1bレンズ群12)の極から後方5.31にある。
(表2)
F = 1: 1.4
f = 12.30
m = -0.046
fB = 11.51
面NO. r d Nd ν
1 43.704 1.50 1.83481 42.7
2 15.406 8.09 - -
3 -167.749 8.78 1.80518 25.4
4 -37.609 0.10 - -
5 25.372 8.90 1.84666 23.8
6 12.477 6.11 - -
7 22.971 4.57 1.61800 63.4
8 -18.812 9.44 - -
9 -9.585 1.50 1.66755 41.9
10 328.488 0.95 - -
11 -20.812 6.42 1.80400 46.6
12 -12.174 0.50 - -
13 50.920 1.50 1.84666 23.8
14 15.824 4.36 1.61800 63.4
15 -46.787 0.10 - -
16 18.000 6.50 1.71300 53.9
17 61.202 1.00 - -
18 ∞ 0.75 1.49782 66.8
19 ∞ - - -
【実施例3】
【0018】
図5及び図6と表3は本発明による大口径標準レンズ系の実施例3を示している。図5はレンズ構成図、図6はその諸収差図、表3はその数値データである。基本的なレンズ構成は実施例1と同様である。絞りSは、第8面(第1bレンズ群12)の極から後方4.78にある。
(表3)
F = 1: 1.4
f = 12.30
m = -0.046
fB = 11.21
面NO. r d Nd ν
1 45.238 1.50 1.83481 42.7
2 15.586 4.51 - -
3 -215.332 10.76 1.80518 25.4
4 -39.224 0.10 - -
5 27.000 10.08 1.84666 23.8
6 12.292 5.76 - -
7 22.796 4.57 1.63854 55.4
8 -18.193 8.91 - -
9 -9.776 1.50 1.66446 35.8
10 174.786 0.95 - -
11 -22.407 6.88 1.80400 46.6
12 -12.646 0.50 - -
13 43.385 1.50 1.84666 23.8
14 16.306 4.22 1.61800 63.4
15 -50.327 0.10 - -
16 18.000 6.50 1.73400 51.5
17 49.382 1.00 - -
18 ∞ 0.75 1.49782 66.8
19 ∞ - - -
【実施例4】
【0019】
図7及び図8と表4は本発明による大口径標準レンズ系の実施例4を示している。図7はレンズ構成図、図8はその諸収差図、表4はその数値データである。基本的なレンズ構成は実施例1と同様である。絞りSは、第8面(第1bレンズ群12)の極から後方5.49にある。
(表4)
F = 1: 1.4
f = 12.30
m = -0.046
fB = 11.35
面NO. r d Nd ν
1 44.855 1.50 1.83481 42.7
2 15.719 4.56 - -
3 -154.716 15.97 1.80518 25.4
4 -38.472 0.10 - -
5 23.841 8.87 1.84666 23.8
6 12.068 6.61 - -
7 22.497 4.67 1.59240 68.3
8 -18.737 9.61 - -
9 -9.714 1.50 1.66755 41.9
10 247.496 0.95 - -
11 -22.436 6.48 1.80400 46.6
12 -12.449 0.50 - -
13 47.318 1.50 1.84666 23.8
14 16.481 4.32 1.61800 63.4
15 -45.302 0.10 - -
16 18.000 6.50 1.71300 53.9
17 45.624 1.00 - -
18 ∞ 0.75 1.49782 66.8
19 ∞ - - -
【実施例5】
【0020】
図9及び図10と表5は本発明による大口径標準レンズ系の実施例5を示している。図9はレンズ構成図、図10はその諸収差図、表5はその数値データである。基本的なレンズ構成は、実施例1と同様である。絞りSは、第8面(第1bレンズ群12)の極から後方3.36にある。
(表5)
F = 1: 1.4
f = 12.30
m = -0.046
fB = 12.06
面NO. r d Nd ν
1 50.271 1.50 1.83481 42.7
2 15.185 5.34 - -
3 -288.252 3.50 1.84666 23.8
4 -36.387 0.10 - -
5 24.770 7.62 1.75520 27.5
6 11.868 6.12 - -
7 23.355 4.61 1.61800 63.4
8 -17.104 7.49 - -
9 -9.996 1.50 1.66755 41.9
10 219.291 0.95 - -
11 -19.553 7.08 1.80400 46.6
12 -12.702 0.50 - -
13 49.322 1.50 1.84666 23.8
14 15.989 4.58 1.61800 63.4
15 -39.723 0.10 - -
16 18.000 6.50 1.71300 53.9
17 52.117 1.00 - -
18 ∞ 0.75 1.49782 66.8
19 ∞ - - -
【0021】
各実施例の各条件式に対する値を表6に示す。
(表6)
実施例1 実施例2 実施例3 実施例4 実施例5
条件式(1) 0.568 0.571 0.611 0.555 0.568
条件式(2) 1.220 1.233 1.216 1.231 1.296
条件式(3) 0.747 0.724 0.820 0.721 0.620
条件式(4) 0.421 0.404 0.432 0.587 0.444
条件式(5) 25.4 25.4 25.4 25.4 23.8
条件式(6) 23.8 23.8 23.8 23.8 27.5
【0022】
表6から明らかなように、実施例1ないし5は条件式(1)〜(6)を満足しており、また諸収差図から明らかなように諸収差も比較的よく補正されていて、有限距離被検物の高精細な画像処理用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明による大口径標準レンズ系の実施例1のレンズ構成図である。
【図2】図1のレンズ構成における諸収差図である。
【図3】本発明による大口径標準レンズ系の実施例2のレンズ構成図である。
【図4】図3のレンズ構成における諸収差図である。
【図5】本発明による大口径標準レンズ系の実施例3のレンズ構成図である。
【図6】図5のレンズ構成における諸収差図である。
【図7】本発明による大口径標準レンズ系の実施例4のレンズ構成図である。
【図8】図7のレンズ構成における諸収差図である。
【図9】本発明による大口径標準レンズ系の実施例5のレンズ構成図である。
【図10】図9のレンズ構成における諸収差図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から順に、正の前群レンズ、絞り、及び正の後群レンズからなり、
前群レンズは、物体側から順に、負の第1aレンズ群と正の第1bレンズ群からなり、
第1aレンズ群は、物体側から順に、第1負レンズ、第2正レンズ、及び第3負レンズの3枚から構成され、
次の条件式(1)ないし(3)を満足することを特徴とする大口径標準レンズ系。
(1)0.5<f/|f1a|<0.75
(2)1.0<|f1a|/f1b<1.4
(3)0.3<d1a-3/f<1.0
但し、
f;全系の焦点距離、
1a;第1aレンズ群の焦点距離(f1a<0)、
1b;第1bレンズ群の焦点距離(f1b>0)、
1a-3;第1aレンズ群の第3負レンズのレンズ厚。
【請求項2】
請求項1記載の大口径標準レンズ系において、第1bレンズ群は、正単レンズからなり、次の条件式(4)を満足する大口径標準レンズ系。
(4)0.35<f/f1bi<0.7
但し、
1bi;正単レンズの像側の面の焦点距離、
(f1bi=r1bi/(1−N1bi))
1bi;正単レンズの像側の面の曲率半径、
1bi;正単レンズのd線に対する屈折率。
【請求項3】
請求項1または2記載の大口径標準レンズ系において、第1aレンズ群の第2正レンズと第3負レンズは、次の条件式(5)及び(6)を満足する大口径標準レンズ系。
(5)ν1a-2<30
(6)ν1a-3<30
但し、
ν1a-2;第1aレンズ群中の第2正レンズのアッベ数、
ν1a-3;第1aレンズ群中の第3負レンズのアッベ数。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−251080(P2006−251080A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−64420(P2005−64420)
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】