説明

大規模建物の落雪防止システム

【課題】基本的には載雪型であるが、落雪の危険のある屋根端部の雪を消雪装置で融雪することにより、落雪の防止を図ることができる大規模建物の落雪防止システムを提供する。
【解決手段】大規模建物の落雪防止システムにおいて、大規模建物の屋根の先端部に配置され、屋根中央部から大量の雪が移動することを防止する雪止柵2と、この雪止柵2の軒先側に配置され、降雪時に稼動することにより、積雪を溶かす消雪装置3,4と、この消雪装置3,4の軒先側に突設される傘木5と、大規模建物に設置される電源6と、大規模建物に配置される降雪センサー7と、この降雪センサー7からの情報に基づいて前記消雪装置(融雪パネル)3,4に供給する電源6からの電力を制御する制御器8とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大規模建物の落雪防止システムに係り、特に、多雪地帯の大規模建物の屋根上への大量の積雪による落雪を防止するシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、屋根の雪止め構造としては、下記の特許文献1〜3に開示されるようなものがあり、また、屋根に積もった雪の凍結防止又は融雪装置としては、下記の特許文献4〜6に開示されるようなものがあった。
【0003】
しかしながら、これらの先行技術は、一軒の住宅を前提に個別の雪止めや雪の凍結防止又は融雪装置に特化したものであり、今後建設される多雪地域の全覆新幹線駅における雪害対策として工夫されたものは見受けられない。
【0004】
今後建設される多雪地域の全覆新幹線駅におけるような大規模建物の屋根からの落雪を如何にして防止するかは重要な課題である。雪害の一つに雪庇の落下がある。上家を完全消雪型にすれば雪庇の問題は生じないが、消雪装置のランニングコスト及び省エネルギーの観点から最適な解決法とは言えない。そこで、基本的には載雪型としつつ、上家端部のみに消雪装置を設けることにより雪庇を防止する部分消雪型について検討を行った。
【特許文献1】特開2005−256293号公報
【特許文献2】特開2005−105779号公報
【特許文献3】特開2006−037576号公報
【特許文献4】特開2005−061055号公報
【特許文献5】特開2005−155222号公報
【特許文献6】特開2005−351039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、基本的には載雪型としつつ、部分消雪型により、上家端部のみに消雪装置を設けることにより雪庇の発生を防止するシステムを構築することは、工夫を要するものであった。
【0006】
本発明は、基本的には載雪型であるが、落雪の危険のある屋根端部の雪を消雪装置で融雪することにより、落雪の防止を図り得る大規模建物の落雪防止システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕大規模建物の落雪防止システムにおいて、大規模建物の屋根の先端部に配置され、屋根中央部から大量の雪が移動することを防止する雪止柵と、この雪止柵の軒先側に配置され、降雪時に稼動することにより、積雪を溶かす消雪装置と、この消雪装置の軒先側に突設される傘木と、大規模建物に設置される電源と、大規模建物に配置される降雪センサーと、この降雪センサーからの情報に基づいて前記消雪装置に供給する電源からの電力を制御する制御器とを具備することを特徴とする。
【0008】
〔2〕上記〔1〕記載の大規模建物の落雪防止システムにおいて、前記消雪装置は前記雪止柵に隣接して略屋根の高さに配置される第1の消雪装置と該第1の消雪装置の一段下部に配置される第2の消雪装置とを有し、2段の樋状融雪水路を具備することを特徴とする。
【0009】
〔3〕上記〔1〕記載の大規模建物の落雪防止システムにおいて、前記降雪センサーは落雪防止制御装置に接続され、積雪量演算部で積雪量を演算し、その積雪量に基づいて融雪ヒーター制御器により、所要電力印加時間だけ前記消雪装置に電力を印加することを特徴とする。
【0010】
〔4〕上記〔3〕記載の大規模建物の落雪防止システムにおいて、前記消雪装置は、融雪パネルからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、次のような効果を奏することができる。
【0012】
(1)多雪地域の全覆駅舎における軒先から雪庇が落下することを有効に防止することができる。
【0013】
(2)積雪を溶かす消雪装置を、コンパクトであり、しかも堅牢に多雪地域の全覆駅舎の軒先に構築し、2段に配置された樋状融雪水路により、融雪水を的確に排出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の大規模建物の落雪防止システムは、大規模建物の屋根の先端部に配置され、屋根中央部から大量の雪が移動することを防止する雪止柵と、この雪止柵の軒先側に配置され、降雪時に稼動することにより、積雪を溶かす消雪装置と、この消雪装置の軒先側に突設される傘木と、大規模建物に設置される電源と、大規模建物に配置される降雪センサーと、この降雪センサーからの情報に基づいて前記消雪装置に供給する電源からの電力を制御する制御器とを具備する。
【実施例】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明の大規模建物の落雪防止装置の動作の様子を示す図である。
【0017】
図1(a)では、本発明の大規模建物の落雪防止装置の屋根1上に雪Sが積雪した状態を示しており、まさに軒先から雪庇が落下しようとしている。
【0018】
図1(b)では、軒先に配置される第1の消雪装置3と第2の消雪装置4の稼働により、雪庇は溶かされて雪庇の落下を防ぐことができる。なお、2は雪止柵(フェンス)、5は降雪による雪庇の落下をとめるアルミプレートからなる傘木である。
【0019】
図1(c)では、消雪装置3,4の作用により、軒先の積雪と溶かされて降雪は雪止柵2まで後退して保持される。
【0020】
図2は本発明の大規模建物の全景を示す図面代用写真、図3はその大規模建物の屋根上を示す図面代用写真、図4はその大規模建物の屋根の軒先の実験状況を示す図面代用写真、図5はその大規模建物の屋根の軒先構成と融雪パネルを示す図面代用写真、図6はその融雪パネルを示す図面代用写真、図7はその雪止柵を示す図面代用写真である。
【0021】
以下、各部の詳細について説明する。
【0022】
図8は本発明の大規模建物の落雪防止装置の全体平面図、図9はその落雪防止装置の要部断面図、図10はその落雪防止装置の第1の融雪パネルの構成図、図11はその落雪防止装置の第2の融雪パネルの構成図である。
【0023】
図8において、屋根1の軒先には雪止柵2が配置され、その先に第1の消雪装置(第1の融雪パネル)3が配置され、その第1の消雪装置(第1の融雪パネル)3の先の一段下には第2の消雪装置(第2の融雪パネル)4が配置される。その第2の消雪装置(第2の融雪パネル)4の先にはアルミニウムからなる傘木(第2のフェンス)5が設けられる。つまり、雪止柵2とアルミニウムからなる傘木(第2のフェンス)5との間の積雪が、第1の消雪装置(第1の融雪パネル)3と第2の消雪装置(第2の融雪パネル)4の稼働により、溶かされて、排水管から排出される。6は第1の融雪パネル3と第2の融雪パネル4とに電力を供給するための電源、7は降雪センサー、8は電源6から供給される電力をオン・オフ制御し、融雪パネル3,4の稼働のオン・オフ制御を行う制御器である。
【0024】
図9において、屋根1の先端には雪止柵2が配置される。この雪止柵2は斜材2Aによって支持されている。したがって、重量のある積雪の荷重にも十分に耐えることができる。
【0025】
屋根1の先端から突出するように第1の消雪装置(第1の融雪パネル)3が配置される。また、この第1の消雪装置(第1の融雪パネル)3と一段下部に第2の消雪装置(第2の融雪パネル)4が配置される。この第2の消雪装置(第2の融雪パネル)4の外側にはアルミニウムからなる傘木(第2のフェンス)5が設けられている。第2の消雪装置(第2の融雪パネル)4によって溶かされた流水は排水管9又はオバーフロー管10から排出される。
【0026】
このように、第1の消雪装置(第1の融雪パネル)3で溶かされたシャーベッド状の水は、下段の第2の消雪装置(第2の融雪パネル)4で完全に溶かされて流水となり排水管9又はオバーフロー管10から排出される。
【0027】
本発明の大規模建物の落雪防止装置の第1の消雪装置(第1の融雪パネル)を示す図10において、図10(a)はその平面図、図10(b)は図10(a)のA−A線断面図、図10(c)は図10(e)のb部拡大図、図10(d)は図10(b)のa部拡大図、図10(e)は図10(a)の側面図である。
【0028】
これらの図において、3Aはテープヒーター、3Bはアルミカバー、3Cはアルミケース、3Dはアングル材A、3Eはアングル材B、3Fはクッション材、3Gはボルト、3Hは断熱底板、3Iは補強用リブである。
【0029】
このように構成されるので、融雪パネルの底部には断熱底板3Hが、融雪パネルの上部には補強用リブ3Iで支持されたアルミニウムカバー3Bがそれぞれ配置され、テープヒーター3Aからの熱は断熱底板3Hで反射されて上方に熱が向けられる。また、補強用リブ3Iで支持されたアルミカバー3Bが配置されているので、点検時などにはこの融雪パネル上を点検者は歩行することもできる。
【0030】
本発明の大規模建物の落雪防止装置の第2の消雪装置(第2の融雪パネル)を示す図11において、図11(a)はその平面図、図11(b),図11(b)は図11(a)の側面図、図11(d)は図11(b)のa部拡大図である。
【0031】
これらの図において、4Aはアルミニウムケースセット、4Bはテープヒーター、4Cはステー、4Dはテープヒーターの取付ネジ、4Eはゴム足、4Fはゴム足取付ネジ、4Gはウイングカバーである。
【0032】
このように構成されるので、第2の融雪パネルはテープヒーター4Bがアルミニウムケースセット4Aに納めされてパネル状に配置される。パネルの下部にはゴム足4Eが配置されている。また、ステー4Cとゴム足4Eを有するパネル上は、点検時などには点検者が融雪パネル上を歩行することもできる。
【0033】
ここで、融雪ヒータの仕様について説明する。
【0034】
融雪ヒータとしては、例えば、セラミック電熱方式(積水化成品工業製 TH610K)を用いる。PTC(Positive Temperature Coefficient:正温度係数)セラミックをテープ状に配置したヒーターが好適である。PTCセラミックは、周囲の温度が高くなるほど電気抵抗が大きくなる性質を持つため、周囲の温度に合わせて自動的に電力量を調整できる。また、形態が柔軟性のあるテープ状であるため、比較的自由に配置することができる。
【0035】
次いで、本発明の落雪防止システム及びその動作について図12,図13を参照しながら説明する。
【0036】
図12は本発明の実施例を示す落雪防止システムのブロック図、図13はその落雪防止システムの動作フローチャートである。
【0037】
図12において、11は降雪センサー(図8の降雪センサー7に対応)、12は落雪防止制御装置(図8の制御器8に対応)、13,23は入力インターフェース、14はCPU(中央処理装置)、15は記憶装置、16は積雪量演算部、17は計時部(融雪ヒータへの印加所要時間Tが設定される)、18は出力インターフェース、19は融雪ヒーター制御器、20は融雪ヒーター制御器19に接続される電源、21は融雪ヒーター(図2〜図4の融雪パネル3,4に対応)、22は入力装置であり、融雪ヒータ21への印加所要時間Tを設定するための諸元データを入力するためのキーボードである。
【0038】
以下、本発明の落雪防止システムとその動作について図12,図13を参照しながら説明する。
【0039】
(1)まず、降雪センサー11からの降雪強度の信号を取り込む。つまり、降雪強度の情報を入手する(ステップS1)。
【0040】
(2)その降雪強度の量を積算して積雪量を計算する(ステップS2)。
【0041】
(3)次に、その積雪量から融雪ヒーター21への印加時間Tを算出する(ステップS3)。
【0042】
なお、雪の密度0.1g/cm3 ,氷の融解熱 79.7cal/g
1m2 当たり、
雪の質量 1kg/cm
雪の融解熱 333.6242kJ/cm
融雪ヒーター出力 350W/m2 青森の実験で使う融雪ヒーター出力
積雪1cmの雪を融かすのに要する時間
15.9min→1時間に4cm融かすとする。
【0043】
実際には、上記条件で計算された、印加時間Tに係数α(1.1〜2.0程度)を掛けた値αTを、所要電力印加時間T1 とする。ただし、降雪を感知したら、降雪強度に関らず60分印加する。
【0044】
(4)所要電力印加時間T1 と実際の電力印加時間T2 より、残りの電力印加時間を随時計算し、電力を印加する(ステップS4)。
【0045】
(5)電源がONになってから60分以上、かつ残り電力印加時間が0になったら電力の印加を終了する(ステップS5)。
【0046】
(6)電力の印加終了時点で融雪ヒーター21上に積雪が残っていなければ合格である。
【0047】
安全係数αは状況に応じて入力装置22により設定変更できるようにする。
【0048】
冷地において融雪水の凍結による軒樋、縦樋の破損のおそれのある箇所は、上記の制御方法によらず、所定の気温以下となった場合は降雪の有無にかかわらず融雪ヒーターを作動させることとする。
【0049】
したがって、軒先から雪庇が落下することを有効に防止することができる。
【0050】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の大規模建物の落雪防止装置は、特に、多雪地域の全覆駅舎における雪害対策として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の大規模建物の落雪防止装置の動作の様子を示す図である。
【図2】本発明の大規模建物の全景を示す図面代用写真である。
【図3】本発明の大規模建物の屋根上を示す図面代用写真である。
【図4】本発明の大規模建物の屋根の軒先の実験状況を示す図面代用写真である。
【図5】本発明の大規模建物の屋根の軒先構成と融雪パネルを示す図面代用写真である。
【図6】本発明の大規模建物の融雪パネルを示す図面代用写真である。
【図7】本発明の大規模建物の雪止めフェンスを示す図面代用写真である。
【図8】本発明の大規模建物の落雪防止装置の全体平面図である。
【図9】本発明の大規模建物の落雪防止装置の要部断面図である。
【図10】本発明の大規模建物の落雪防止装置の第1の融雪パネルの構成図である。
【図11】本発明の大規模建物の落雪防止装置の第2の融雪パネルの構成図である。
【図12】本発明の実施例を示す落雪防止システムのブロック図である。
【図13】本発明の実施例を示す落雪防止システムの動作フローチャートである。
【符号の説明】
【0053】
S 雪
1 屋根
2 雪止柵(フェンス)
2A 斜材
3 第1の消雪装置(第1の融雪パネル)
3A,4B テープヒーター
3B アルミカバー
3C アルミケース
3D アングル材A
3E アングル材B
3F クッション材
3G ボルト
3H 断熱底板
3I 補強用リブ
4 第2の消雪装置(第2の融雪パネル)
4A アルミニウムケースセット
4B テープヒーター
4C ステー
4D テープヒーターの取付ネジ
4E ゴム足
4F ゴム足取付ネジ
4G ウイングカバー
5 傘木
6 電源
7,11 降雪センサー
8 制御器
9 排水管
10 オバーフロー管
12 落雪防止制御装置
13,23 入力インターフェース
14 CPU(中央処理装置)
15 記憶装置
16 積雪量演算部
17 計時部(融雪ヒータへの印加所要時間Tが設定される)
18 出力インターフェース
19 融雪ヒーター制御器
20 電源
21 融雪ヒーター
22 入力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)大規模建物の屋根の先端部に配置され、屋根中央部から大量の雪が移動することを防止する雪止柵と、
(b)該雪止柵の軒先側に配置され、降雪時に稼動することにより、積雪を溶かす消雪装置と、
(c)該消雪装置の軒先側に突設される傘木と、
(d)大規模建物に設置される電源と、
(e)大規模建物に配置される降雪センサーと、
(e)該降雪センサーからの情報に基づいて前記消雪装置に供給する電源からの電力を制御する制御器とを具備することを特徴とする大規模建物の落雪防止システム。
【請求項2】
請求項1記載の大規模建物の落雪防止システムにおいて、前記消雪装置は前記雪止柵に隣接して略屋根の高さに配置される第1の消雪装置と該第1の消雪装置の一段下部に配置される第2の消雪装置とを有し、2段の樋状融雪水路を具備することを特徴とする大規模建物の落雪防止システム。
【請求項3】
請求項1記載の大規模建物の落雪防止システムにおいて、前記降雪センサーは落雪防止制御装置に接続され、積雪量演算部で積雪量を演算し、その積雪量に基づいて融雪ヒーター制御器により、所要電力印加時間だけ前記消雪装置に電力を印加することを特徴とする大規模建物の落雪防止システム。
【請求項4】
請求項3記載の大規模建物の落雪防止システムにおいて、前記消雪装置は、融雪パネルからなることを特徴とする大規模建物の落雪防止システム。

【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−156857(P2008−156857A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345162(P2006−345162)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(303059071)独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構 (64)
【出願人】(506425594)株式会社 交建設計 (2)
【出願人】(591061699)新潟電機株式会社 (8)
【Fターム(参考)】