説明

大豆クリーム状食品及びその製造方法

【課題】大豆粉の含有量が十分に多い大豆クリーム状食品の製造に有用な方法及びこの方法を用いて製造される大豆クリーム状食品を提供すること。
【解決手段】本発明の大豆クリーム状食品の製造方法は、大豆粉と酸性食素材と水とを混合して分散液を得る分散液作製工程と、得られた分散液と油脂とを混合して混合液を得る混合液作製工程と、を備える。本発明によれば、大豆由来の栄養成分を十分豊富に含有する大豆クリーム状食品を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆クリーム状食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の日本ではライフスタイルが欧米化するにつれて、肉類の相対的な摂取量が増え、生活習慣病が若年層にまで浸透してきている。これに伴い、食生活による健康改善への関心が高まってきている。
【0003】
このような健康改善への関心から、大豆の持つ優れた栄養機能が着目されている。大豆を素材にした飲料や加工食品が開発され、市場に多く出回るようになってきている。大豆は畑の肉とも呼ばれ、栄養豊富な食物として日本古来の味噌、醤油、納豆、きな粉などに利用されてきた。
【0004】
しかし、大豆の栄養成分を損なうことなくまるごと利用している大豆加工食品は日本の大豆消費量の10%未満に過ぎないのが現状である。そこで、大豆の栄養成分を余すことなくまるごと活用できる新たな食品の開発やその製造技術の開発が求められている。
【0005】
例えば、特許文献1には、原料に大豆粉を使用し、植物繊維を豊富に含むマヨネーズ風ソース及びその製造方法が記載されている。マヨネーズ類は家庭の食卓はもとより、業務用途における種々の調理食品に食材として使用されている。また、加工食品の原料としてもその利用範囲が広がっている。大豆を使用したマヨネーズ様食品の開発は、マヨネーズ類の製造に使用される鶏卵のコレステロールに対する懸念が背景の一つである。
【特許文献1】特開2005−73564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1に記載された方法においては、まず、大豆粉と水とを用いて大豆溶液を調製する。そして、得られた大豆溶液に植物性油脂を加えて乳化し、乳化溶液に対して酢などを含む調味液を加えている。
【0007】
この方法では、大豆溶液作成段階において、大豆溶液の質量を基準としたときに、大豆粉末の配合量が15重量%を超えると、最終的なマヨネーズ風ソースを作製した際にざらつき感が感じられてしまい、更に大豆特有の青臭さや不快臭が強くなり、クリーム状の大豆加工食品を製造することが困難であった。したがって、大豆粉の含有量を少量に制限せざるを得ず、単位質量当たりに含まれる大豆由来の栄養成分を十分に多くすることができなかった。このため、このような大豆加工食品を食したとしても、大豆の栄養成分を効率的に摂取することができなかった。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、大豆粉の含有量が十分に多い大豆クリーム状食品を得るのに有用な製造方法及びこの製造方法を用いて製造される大豆クリーム状食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、大豆粉を多く含有せしめたとしても均質な乳化安定状態が得られる大豆加工食品の製造方法について鋭意研究を重ねた。そして、従来、大豆粉の混合溶液(分散液)の調製に使用されていた水に食酢などの酸性食素材を加えて用いたところ、水のみを用いた場合と比較し、液中に多量の大豆粉を安定的に溶解もしくは分散せしめることができるとの知見を得た。
【0010】
更に、大豆粉に酸性食素材及び温水を混合した分散液と油脂とを混合することで、大豆粉を多く含有してもクリーム状態を安定的に維持できる大豆クリーム状食品を得られることを見出した。すなわち、油脂との混合を行う以前に、大豆粉、酸性食素材及び水とを混合しておくことが大豆粉の含有量が多い大豆クリーム状食品を得るのに有用であることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明の大豆クリーム状食品の製造方法は、大豆粉と酸性食素材と水とを混合して分散液を得る分散液作製工程と、分散液と油脂とを混合して混合液を得る混合液作製工程と、を備えることを特徴とする。なお、本発明でいう酸性食素材とは、それ自体及び/又は水溶液が酸性である食品用素材を意味し、具体例として、酢、酸性果汁、クエン酸、乳酸などが挙げられる。
【0012】
本発明に係る製造方法によれば、全原材料に占める大豆粉の量を十分に多くすることができ、大豆由来の栄養成分を十分に含有する大豆クリーム状食品を得ることができる。酸性食素材を配合することで混合液は酸性となるが、酸性領域であっても大豆粉の溶解もしくは分散状態を十分に安定的に維持できる主因は、大豆粉に含まれるタンパク質、脂肪及び他の成分が相互に作用するためと考えられる。特に、脂肪の一種であるレシチンが有する乳化作用が関与しているものと考えられる。
【0013】
本発明の製造方法においては、大豆粉を均一に混合分散させる観点から、使用する大豆粉の平均粒子径は、10〜30μmであることが好ましい。また、大豆粉は大豆全粒粉を含有することが好ましい。大豆全粒粉には食物繊維及び乳化作用を有するレシチンなどが豊富に含まれているためである。
【0014】
また、本発明においては、分散液のpHが4.2〜5.2の範囲内となるように調整することが好ましい。分散液のpHを上記範囲内とすると、大豆粉の凝集をより確実に抑制することができ、大豆粉の含有量が多い大豆クリーム状食品をより確実に製造することができる。
【0015】
酸性食素材としては、大豆クリーム状食品により好ましい風味を付与するなどの観点から、食酢を用いることが好ましい。ここでいう食酢とは、酢酸を主成分とする酸味調味料を意味する。
【0016】
更に、本発明においては、大豆由来の栄養成分を十分含有せしめる観点から、当該大豆クリーム状食品の原材料の全質量を100質量部としたときに、大豆粉の配合量が5〜30質量部であることが好ましい。本発明の製造方法によれば、大豆粉の配合量が上記範囲内であっても、大豆粉の凝集や沈殿が十分に抑制でき、種々の用途に適した粘度の大豆クリーム状食品を得ることができる。
【0017】
鶏卵を原材料に使用したマヨネーズ類の代替食品となり得る大豆由来のマヨネーズ様食品を製造する場合は、大豆粉の配合量を15〜30質量部とすればよい。この場合、混合液作成工程で得られる混合液を乳化状態とすることができ、好適である。一方、大豆由来のドレッシング様食品を製造する場合は、大豆粉の配合量を3〜15質量部とすればよい。
【0018】
本発明の大豆クリーム状食品は、本発明に係る上記製造方法で製造されるものであって、当該大豆クリーム状食品の全質量を基準とする大豆粉の含有率が3〜30質量%の範囲内であることを特徴とする。本発明の大豆クリーム状食品は、従来のクリーム状の大豆加工食品と比較し、大豆粉の含有量が多いため、これを食することによって、大豆由来の栄養成分を効率的に摂取できる。
【0019】
本発明の大豆クリーム状食品は、大豆粉の含有率が高くなるに従って、粘度が高くなる傾向にある。大豆粉の含有率が15〜30質量%の範囲内の大豆クリーム状食品は、粘度及び優れた耐熱性などの点から、マヨネーズ様食品として好適である。他方、大豆粉の含有率が3〜15質量%の範囲内の大豆クリーム状食品は、ドレッシング様食品として好適である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、大豆粉の含有量が十分に多い大豆クリーム状食品を得るのに有用な製造方法を提供することができる。この製造方法によれば、大豆由来の栄養成分を十分豊富に含有する大豆クリーム状食品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る大豆クリーム状食品の製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0022】
本発明の方法によって製造される大豆クリーム状食品は、大豆粉の含有率の範囲により、2種類に大別することできる。一つは大豆クリーム状食品の全質量を基準とする大豆粉の含有率が15〜30質量%の場合に得られるマヨネーズ様食品である。他方は大豆粉の含有率が3〜15質量%の場合に得られるドレッシング様食品である。以下、酸性食素材として食酢を用いた場合のマヨネーズ様食品について説明する。
【0023】
<マヨネーズ様食品>
本実施形態に係るマヨネーズ様食品(大豆クリーム状食品)は、大豆粉と食酢(酸性食素材)と水とを混合して大豆粉の分散液を得る分散液作製工程と、分散液と油脂とを混合して混合液を得る混合液作製工程と、を経て製造される。この場合、混合液は、分散液と油脂とが十分に乳化した均質な乳化状態であることが好ましい。
【0024】
マヨネーズ様食品に含まれる大豆粉、食酢、水及び油脂の含有率は、所定の範囲内であることが好ましい。すなわち、各成分が所定の含有率の範囲内となるように、各成分をそれぞれ配合してマヨネーズ様食品を製造することが好ましい。なお、各成分の含有率は、各成分の仕込み量を原材料の総質量で除すことで算出することができる。最終的に得られるマヨネーズ様食品の全質量を基準とする各成分の好適な含有率の範囲は以下の通りである。
【0025】
大豆粉の含有率は、15〜30質量%であることが好ましく、15〜25質量%であることがより好ましい。大豆粉の含有率が15質量%未満であると、粘度がマヨネーズ様食品としては不十分となりやすく、他方、30質量%を越えると、良好なクリーム状とすることが困難となりやすい。
【0026】
食酢の含有率は、15〜30質量%であることが好ましく、15〜20質量%であることがより好ましい。食酢の含有率が15質量%未満であると、食酢を配合する効果が十分得られず、乳化安定状態が不十分となりやすくなり、他方、30質量%を超えると、過度にpHが低下し、乳化安定状態が不十分となりやすい。
【0027】
水の含有率は、食酢由来の水を含めて35〜60質量%であることが好ましく、40〜50質量%であることがより好ましい。水の含有率が35質量%未満であると、粘度が過度に増加し、乳化状態が不十分となりやすくなり、他方、60質量%を超えると、マヨネーズ様食品としては、乳化安定状態が不十分となりやすい。
【0028】
油脂の含有率は、大豆粉由来の脂質を含めて20〜50質量%であることが好ましく、30〜45質量%であることがより好ましい。油脂の含有率が20質量%未満であると、乳化状態が不十分となりやすく、滑らかさがない食感となり、他方、50質量%を超えると、マヨネーズ様食品としては乳化安定状態が不十分となりやすい。
【0029】
マヨネーズ様食品の製造に使用する大豆粉は、その平均粒子径が10〜30μmであることが好ましく、50μm以上のものを含まないか、又は含まれているとして5質量%(大豆粉の全質量基準)以内であることが好ましい。また、大豆粉の平均粒子径は10〜20μmであることがより好ましい。平均粒子径が30μmを越えると、大豆粉を十分に溶解もしくは分散させることが困難となるとともにマヨネーズ様食品の食感が不十分なものとなりやすい。
【0030】
大豆粉は、大豆をまるごと粉砕して得られる大豆全粒粉を含有するものが好ましく、実質的に大豆全粒粉からなるものがより好ましい。大豆全粒粉を使用すると、大豆に含まれる種々の成分(例えば、食物繊維、レシチン)をより有効利用することができる。なお、大豆全粒粉は、従来公知の粉砕機を用いて大豆を粉砕することによって得ることができる。
【0031】
大豆に含まれる成分としては、タンパク質、イソフラボン、ビタミン類、ミネラル類、脂質、食物繊維、糖質、レシチンなどが挙げられる。
【0032】
大豆のタンパク質は、必須アミノ酸をバランス良く含み、アミノ酸スコアが動物性タンパク質に類似する良質のタンパク質である。該タンパク質は、血液中のコレステロール値を下げる効果があることが知られている。イソフラボンは、フラボノイドの1種であり、女性ホルモンであるエストロゲンに類似した構造を有し、女性ホルモン様の作用を有している。このため、植物エストロゲンとも呼ばれている。イソフラボンは、更年期、ストレスなどにより女性ホルモンの分泌が低下した女性にとって、更年期障害の予防、骨粗しょう症の予防などに有効であると注目されている。
【0033】
大豆に含まれるビタミン類、ミネラル類は、糖質、脂質、タンパク質の代謝に欠かせない成分である。大豆は抗酸化作用のあるビタミンEをはじめとして、ビタミンB1、ビタミンB2などを含有している。また、大豆は骨の構成成分として重要なカルシウムを含んでおり、大豆の持つこれらの優れた栄養成分が人の健康維持と向上に重要であることが知られている。
【0034】
大豆に含まれる脂質は、不飽和脂肪酸が8割以上を占め、そのうち必須脂肪酸であるリノール酸(5割強)、リノレン酸(1割強)が多く、血液中のコレステロール値を下げ、高血圧、動脈硬化、心筋梗塞などの生活習慣病の予防効果を有することが知られている。また、食物繊維は、現代人に不足しているといわれる成分であり、大腸がんの予防効果、血液中のコレステロール値を低下させる作用、血糖値をコントロールする作用などが注目されている。
【0035】
大豆に含まれる糖質は、オリゴ糖を豊富に含有し腸内ビフィズス菌の増殖因子として注目されており、整腸作用、便秘解消の効果が知られている。また、レシチンは、動脈硬化の予防効果、記憶力、集中力などに関与する成分として注目されている。レシチンは乳化作用を有し、加工食品の製造において界面活性剤(食品添加物)として利用されている。
【0036】
分散液の調製に使用する食酢としては、例えば、醸造酢及び合成酢が挙げられる。健康志向の消費者に訴求する観点から、天然由来の醸造酢を使用することが好ましい。このような醸造酢としては、例えば、米酢、米黒酢、大麦黒酢などの穀物酢、りんご酢、ぶどう酢などの果実酢が挙げられる。これらの食酢は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
乳化液(混合液)の調製に使用する油脂としては、植物性油脂及び動物性油脂を使用することができるが、コレステロールを含有しない植物性油脂を使用することが好ましい。植物性油脂としては、大豆油、ゴマ油、綿実油、ヒマワリ油、ナタネ油、ツバキ油、オリーブ油などが挙げられる。これらの油脂は一種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
油脂は、殺菌処理が施されたものを使用することが好ましく、殺菌処理は、一般的な加熱機を用いて行うことができる。殺菌処理の条件は、目的とする殺菌レベルに応じて適宜設定できるが、例えば、温度80〜90℃で5〜10分間である。
【0039】
本実施形態に係るマヨネーズ様食品の製造に使用する原料大豆は、特定の品種や種類に限定されるものではない。原料大豆の品種や種類、並びに、食酢及び油脂の種類を変えることによって、特徴のある風味、食感のマヨネーズ様食品を製造することが可能である。また、風味を調整するため、食塩、こしょう、香料、香辛料、甘味料、味噌などを適宜使用することができる。
【0040】
次に、上記の各成分を用いてマヨネーズ様食品を製造する方法について説明する。図1は、本実施形態に係るマヨネーズ様食品の製造工程を示す工程図である。
【0041】
本実施形態に係るマヨネーズ様食品は、以下の分散液作製工程S10及び混合液作製工程S20を経て製造されるものである。これらの工程においては、攪拌機を使用することが好ましく、従来公知の攪拌機を使用することができる。具体的には、高速攪拌機、高真空高速攪拌機、ホモゲナイザー(均質機)などを使用できる。ただし、作業を効率的に行う観点から、攪拌の回転数、温度、圧力、攪拌時間などを可変設定可能なものを使用することが好ましい。
【0042】
分散液作製工程S10は、pHが所定の範囲内となるように維持しながら、大豆粉、食酢及び水を攪拌混合し、大豆粉の可溶成分を溶解させる工程である。分散液作製工程S10は、大豆粉膨潤工程S11、加熱工程S12及び攪拌工程S13を備える。
【0043】
大豆粉膨潤工程S11は、主に大豆粉を軟化膨潤する工程である。攪拌機の容器内に大豆粉及び水を添加後、内容物を軽く攪拌混合しながら食酢を添加してpHを調整する。このとき、pHは4.2〜5.2となるように調整することが好ましく、4.4〜4.8となるように調整することがより好ましい。pHが4.2未満であると、大豆に含まれるタンパク質の溶解が不十分となりやすく、他方、5.2を越えると、大豆粉の凝集が生じやすくなる。pH調整後、温度35〜45℃で15〜20分保持し、大豆粉を膨潤させる。なお、所定量の水と食酢とを混合し、食酢の希釈液を調製し、これに大豆粉を添加してもよい。
【0044】
加熱工程S12は、主に、大豆粉に含まれている酵素(例えば、リポキシゲナーゼ、トリプシンインヒビター)を失活させるために行う工程である。また、加熱工程S12を行うことによって殺菌処理ができるとともに大豆特有の不快臭を低減できる。加熱の条件は、例えば、温度80〜90℃で5〜10分である。
【0045】
攪拌工程S13は、主に、大豆粉と食酢とを十分になじませるために行う工程である。攪拌の条件は、例えば、100〜150回転/分で3〜5分である。なお、攪拌工程においては、減圧状態(700〜710mmHg)において攪拌することが好ましい。
【0046】
混合液作製工程S20は、分散液作製工程S10を経て得られた分散液に対し、油脂を少量ずつ添加しながら攪拌することで、十分に均質な乳化状態の混合液を調製する工程である。
【0047】
混合液作製工程S20においては、分散液作製工程S10を経て得られた分散液の温度を30〜35℃に保持して、攪拌機の回転数を油脂の添加に伴い、徐々に上げていくことが好ましい。所定量の油脂を添加後の攪拌条件は、例えば、6000〜12000回転/分で3〜10分である。
【0048】
混合液作製工程S20を経て得られた混合液に対して調味料を適宜添加し、風味を調整してマヨネーズ様食品を得ることができる。なお、調味料で風味を調整しない場合は、混合液作製工程S20を経て得られた混合液がマヨネーズ様食品である。
【0049】
得られたマヨネーズ様食品を金属缶、壜、プラスチック容器、紙容器、軟包材容器などの容器に充填する工程(充填工程)を経て、製品として出荷することができる。なお、充填工程に先立ち、マヨネーズ様食品に混入している気泡を除去するため、圧力700〜710mmHgの減圧状態にして、100回転/分の低速で攪拌しながら、脱気処理を行うことが好ましい。
【0050】
上記のように本実施形態においては、食酢を用いて大豆粉の分散液を調製し、これに油脂を配合してマヨネーズ様食品を得る。上記工程を経ることによって、乳化状態が十分に安定したマヨネーズ様食品を製造することができる。
【0051】
本実施形態に係るマヨネーズ様食品は、鶏卵を原材料に使用したマヨネーズ類と同様の粘度及び耐熱性を有している。したがって、マヨネーズ類の代替食品として、種々の用途に使用できる。また、当該マヨネーズ様食品は、原材料に鶏卵を使用せず、大豆粉を使用しているため、マヨネーズ類と比較してコレステロールの摂取量を十分に抑制することができる。
【0052】
<ドレッシング様食品>
次に、本発明に係る製造方法で製造されるドレッシング様食品(大豆クリーム状食品)について説明する。本実施形態に係るドレッシング様食品は、各成分の好適な含有率の範囲が異なる点、特に、大豆粉の含有率が5〜15質量%(ドレッシング様食品の全質量基準)である点において、上記実施形態に係るマヨネーズ様食品と相違する。
【0053】
大豆粉の含有率が低くなるに従い、得られる大豆クリーム状食品の粘度は低下する傾向がある。ここでは、粘度が相対的に低い大豆クリーム状食品をドレッシング様食品と称している。最終的に得られるドレッシング様食品の全質量を基準とする各成分の好適な含有率の範囲は以下の通りである。
【0054】
大豆粉の含有率は、3〜15質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることがより好ましい。大豆粉の含有率が3質量%未満であると、ドレッシング様食品に含まれる大豆由来の栄養成分が不十分となりやすく、他方、15質量%を越えると、粘度がドレッシング様食品としては過度に高くなりやすい。
【0055】
食酢の含有率は、15〜30質量%であることが好ましく、15〜20質量%であることがより好ましい。食酢の含有率が15質量%未満であると、食酢を配合する効果が十分得られず、乳化安定状態が不十分となりやすくなり、他方、30質量%を超えると、過度にpHが低下し、乳化安定状態が不十分となりやすい。
【0056】
水の含有率は、食酢由来の水を含めて35〜45質量%であることが好ましく、40〜43質量%であることがより好ましい。水の含有率が35質量%未満であると、粘度が過度に増加し、乳化状態が不十分となりやすくなり、他方、45質量%を超えると、粘度がドレッシング様食品としては不十分となりやすい。
【0057】
油脂の含有率は、大豆粉由来の脂質を含めて40〜55質量%であることが好ましく、45〜52質量%であることがより好ましい。油脂の含有率が40質量%未満であると、滑らかさがない食感となりやすく、他方、55質量%を超えると、ドレッシング様食品としては乳化安定状態が不十分となりやすい。
【0058】
各成分の好適な含有率の範囲が相違することの他は、本実施形態に係るドレッシング様食品は上述のマヨネーズ様食品と同様にして製造することができる。
【0059】
本実施形態に係るドレッシング様食品は、従来公知のドレッシング類の代替食品として種々の用途に使用することができる。また、原材料に大豆粉を使用しているため、コレステロールの摂取量を十分に抑制可能である。
【0060】
上記の実施形態においては、酸性食素材として食酢を用いる場合について説明したが、本発明に係る製造方法では、酸性食素材は食酢に限定されるものではない。酢酸を主成分とする食酢に代えて、例えば、クエン酸を主成分とするもろみ酢、又は、すし酢、合わせ酢、ポン酢などの加工酢を用いてもよい。更に、酸性食素材として、酸性果汁、クエン酸、乳酸などを用いてもよい。これらの酸性食素材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの酸性食素材と食酢とを併用することもできる。これらの酸性食素材を用いて分散液を調製する場合においては、例えば、分散液のpHが4.2〜5.2となるように酸性食素材の配合量を適宜調整すればよい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
表1の実施例1に示す量の原材料を使用して純植物性の大豆クリーム状食品を製造した。食酢100質量部を温水(80℃)221質量部で希釈して食酢希釈液を得た。この食酢希釈液に平均粒子径20μmの大豆全粒粉175質量部を添加し、攪拌混合した後、温度を40℃で15分間保持して大豆全粒粉を膨潤させた(大豆粉膨潤工程)。
【0063】
大豆粉膨潤工程を経て得られた大豆全粒粉含有液を攪拌翼の付いたジャケット加温式の容器に入れた。そして、十分に攪拌しながら間接的な加熱で、温度85℃で10分間加熱し、大豆全粒粉に残存している酵素を失活させた(加熱工程)。
【0064】
加熱工程後、攪拌しながら間接的な冷却で、30℃まで冷却させた。そして、大豆全粒粉と食酢希釈液とからなる大豆全粒粉含有液を、一定の減圧状態に保つことができる攪拌機に収容した。この攪拌機を100回転/分の低速で5分間運転し、大豆全粒粉と食酢希釈液とが十分になじむように攪拌した(攪拌工程)。
【0065】
攪拌工程を経て得られた分散液(pH:4.5)に対して、攪拌機の回転数を6000〜12000回転/分の範囲で徐々に上げながら大豆サラダ油(油脂)を少量ずつ添加混合した。最終的に83質量部の大豆サラダ油を添加し、その後、回転数12000回転/分、温度30℃で10分間攪拌混合し、均質な乳化安定状態の混合液を得た。混合液に調味料(食塩、こしょう、砂糖、味噌)10質量部を加えて風味を調整し、大豆クリーム状食品を得た。このようにして得た大豆クリーム状食品の大豆全粒粉の含有率(大豆クリーム状食品の全質量基準)は29.7質量%であった。なお、当該含有率は、原材料の仕込み量に基づき算出したものである。
【0066】
得られた大豆クリーム状食品を温度10℃にて24時間保持した後、分離状態を目視により観察したところ、分離は認められなかった。本実施例の大豆クリーム状食品は粘度及び食感からマヨネーズ様食品に分類されるものである。
【0067】
(実施例2)
表1の実施例2に示す量の原材料を使用し、大豆クリーム状食品の大豆全粒粉の含有率(大豆クリーム状食品の全質量基準)を24.9質量%としたことの他は、実施例1と同様にして大豆クリーム状食品を製造した。また、分離状態の評価も実施例1と同様にして行ったところ、分離は認められなかった。本実施例の大豆クリーム状食品は粘度及び食感からマヨネーズ様食品に分類されるものである。
【0068】
(実施例3)
表1の実施例3に示す量の原材料を使用し、大豆クリーム状食品の大豆全粒粉の含有率(大豆クリーム状食品の全質量基準)を15.6質量%としたことの他は、実施例1と同様にして大豆クリーム状食品を製造した。また、分離状態の評価も実施例1と同様にして行ったところ、分離は認められなかった。本実施例の大豆クリーム状食品は粘度及び食感からマヨネーズ様食品に分類されるものである。
【0069】
【表1】

【0070】
(実施例4)
表2の実施例4に示す量の原材料を使用し、大豆クリーム状食品の大豆全粒粉の含有率(大豆クリーム状食品の全質量基準)を11.5質量%としたことの他は、実施例1と同様にして大豆クリーム状食品を製造した。本実施例の大豆クリーム状食品は粘度及び食感からドレッシング様食品に分類されるものである。
【0071】
(実施例5)
表2の実施例5に示す量の原材料を使用し、大豆クリーム状食品の大豆全粒粉の含有率(大豆クリーム状食品の全質量基準)を6.9質量%としたことの他は、実施例1と同様にして大豆クリーム状食品を製造した。本実施例の大豆クリーム状食品は粘度及び食感からドレッシング様食品に分類されるものである。
【0072】
(実施例6)
表2の実施例6に示す量の原材料を使用し、大豆クリーム状食品の大豆全粒粉の含有率(大豆クリーム状食品の全質量基準)を5.4質量%としたことの他は、実施例1と同様にして大豆クリーム状食品を製造した。本実施例の大豆クリーム状食品は粘度及び食感からドレッシング様食品に分類されるものである。
【0073】
(実施例7)
表3の実施例7に示す量の原材料を使用し、大豆クリーム状食品の大豆全粒粉の含有率(大豆クリーム状食品の全質量基準)を4.9質量%としたことの他は、実施例1と同様にして大豆クリーム状食品を製造した。本実施例の大豆クリーム状食品は粘度及び食感からドレッシング様食品に分類されるものである。
【0074】
(実施例8)
表3の実施例8に示す量の原材料を使用し、大豆クリーム状食品の大豆全粒粉の含有率(大豆クリーム状食品の全質量基準)を4.2質量%としたことの他は、実施例1と同様にして大豆クリーム状食品を製造した。本実施例の大豆クリーム状食品は粘度及び食感からドレッシング様食品に分類されるものである。
【0075】
(実施例9)
表4の実施例9に示す量の原材料を使用し、大豆全粒粉の含有率(大豆クリーム状食品の全質量基準)が20.0質量%の大豆クリーム状食品を以下のようにして製造した。すなわち、本実施例においては酸性食素材として、食酢の代わりにクエン酸水溶液(濃度:7.3質量%)を使用したことの他は、実施例1と同様にして大豆クリーム状食品を製造した。クエン酸水溶液は、食品添加物として使用されているクエン酸(関東化学株式会社製、品名:クエン酸(結晶))を水に溶解させることによって調製した。本実施例の大豆クリーム状食品は粘度及び食感からマヨネーズ様食品に分類されるものである。
【0076】
(実施例10)
表4の実施例10に示す量の原材料を使用し、大豆クリーム状食品の大豆全粒粉の含有率(大豆クリーム状食品の全質量基準)を11.5質量%としたことの他は、実施例9と同様にして大豆クリーム状食品を製造した。本実施例の大豆クリーム状食品は粘度及び食感からドレッシング様食品に分類されるものである。
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
【表4】

【0079】
(比較例1)
表1の実施例1に示す量の原材料を使用し、以下の点の他は実施例1と同様にして大豆加工食品(大豆全粒粉の含有率:29.7質量%)を製造した。すなわち、本比較例では、大豆粉膨潤工程において、食酢希釈液の代わりに水のみで大豆全粒粉を膨潤させて分散液を調製し、これに大豆サラダ油(油脂)を少量ずつ添加混合攪拌する混合液作製工程を経て得られた混合液に、食酢を添加し、混合攪拌した。
【0080】
この場合、食酢を添加する前後、いずれにおいても混合液の乳化状態は安定的なものではなく、マヨネーズ様食品又はドレッシング様食品としての用途に使用できるクリーム状の大豆加工食品を得ることができなかった。
【0081】
(比較例2)
表1の実施例2に示す量の原材料を使用し、比較例1と同様にして大豆加工食品(大豆全粒粉の含有率:24.9質量%)を製造した。本比較例においても比較例1と同様に、マヨネーズ様食品又はドレッシング様食品としての用途に使用できるクリーム状の大豆加工食品を得ることができなかった。
【0082】
(比較例3)
表1の実施例3に示す量の原材料を使用し、比較例1と同様にして大豆加工食品(大豆全粒粉の含有率:15.6質量%)を製造した。本比較例においても比較例1と同様に、マヨネーズ様食品又はドレッシング様食品としての用途に使用できるクリーム状の大豆加工食品を得ることができなかった。
【0083】
(比較例4)
表2の実施例4に示す量の原材料を使用し、比較例1と同様にして大豆加工食品(大豆全粒粉の含有率:11.5質量%)を製造した。本比較例においても比較例1と同様に、マヨネーズ様食品又はドレッシング様食品としての用途に使用できるクリーム状の大豆加工食品を得ることができなかった。
【0084】
(比較例5)
表2の実施例5に示す量の原材料を使用し、比較例1と同様にして大豆加工食品(大豆全粒粉の含有率:6.9質量%)を製造した。本比較例においても比較例1と同様に、マヨネーズ様食品又はドレッシング様食品としての用途に使用できるクリーム状の大豆加工食品を得ることができなかった。
【0085】
(比較例6)
表2の実施例6に示す量の原材料を使用し、比較例1と同様にして大豆加工食品(大豆全粒粉の含有率:5.4質量%)を製造した。本比較例においても比較例1と同様に、マヨネーズ様食品又はドレッシング様食品としての用途に使用できるクリーム状の大豆加工食品を得ることができなかった。
【0086】
(比較例7)
表3の実施例7に示す量の原材料を使用し、比較例1と同様にして大豆加工食品(大豆全粒粉の含有率:4.9質量%)を製造した。本比較例においても比較例1と同様に、マヨネーズ様食品又はドレッシング様食品としての用途に使用できるクリーム状の大豆加工食品を得ることができなかった。
【0087】
(比較例8)
表3の実施例8に示す量の原材料を使用し、比較例1と同様にして大豆加工食品(大豆全粒粉の含有率:4.2質量%)を製造した。本比較例においても比較例1と同様に、マヨネーズ様食品又はドレッシング様食品としての用途に使用できるクリーム状の大豆加工食品を得ることができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明に係る大豆クリーム状食品の製造方法の好適な実施形態を示す工程図である。
【符号の説明】
【0089】
S10…分散液作製工程、S11…大豆粉膨潤工程、S12…加熱工程、S13…攪拌工程、S20…混合液作製工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆粉と酸性食素材と水とを混合して分散液を得る分散液作製工程と、
前記分散液と油脂とを混合して混合液を得る混合液作製工程と、
を備えることを特徴とする大豆クリーム状食品の製造方法。
【請求項2】
前記大豆粉の平均粒子径が、10〜30μmであることを特徴とする、請求項1に記載の大豆クリーム状食品の製造方法。
【請求項3】
前記大豆粉が、大豆全粒粉を含有するものであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の大豆クリーム状食品の製造方法。
【請求項4】
前記分散液のpHが4.2〜5.2であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の大豆クリーム状食品の製造方法。
【請求項5】
前記酸性食素材が食酢であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の大豆クリーム状食品の製造方法。
【請求項6】
当該大豆クリーム状食品の原材料の全質量を100質量部としたときに、前記大豆粉の配合量が3〜30質量部であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の大豆クリーム状食品の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法で製造される大豆クリーム状食品であって、当該大豆クリーム状食品の全質量を基準とする前記大豆粉の含有率が3〜30質量%であることを特徴とする大豆クリーム状食品。
【請求項8】
前記大豆粉の含有率が15〜30質量%であることを特徴とする、請求項7に記載の大豆クリーム状食品。
【請求項9】
前記大豆粉の含有率が3〜15質量%であることを特徴とする、請求項7に記載の大豆クリーム状食品。

【図1】
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【公開番号】特開2008−22824(P2008−22824A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−202159(P2006−202159)
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【出願人】(000002129)住友商事株式会社 (42)
【出願人】(506254536)株式会社ソイテック (1)
【Fターム(参考)】