説明

天井部の吊下装置

【課題】地震等による被吊下部材の横揺れを抑止することができる天井部の吊下装置を提供する。
【解決手段】建物等の天井部11に吊下用索13を介して照明器具等の被吊下部材12を吊下する。天井部11と被吊下部材12との間には、被吊下部材12に対して相反する横方向への引張力を付与するための少なくとも2基の付勢機構14を設ける。付勢機構14は、ゼンマイバネのバネ力により引張用索23を介して被吊下部材12に引張力を付与するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、照明器具等を天井部に吊り下げる天井部の吊下装置に関するものであって、特に、地震や強風等による建物の揺れや、波浪等による船舶の揺れによって生じる横揺れを抑制するようにした吊下装置に関するものである。この明細書において、「天井部」とは、照明器具等が吊り下げられる部分を意味し、建物内の部屋、廊下、ホール等の天井部のみならず、例えば船舶内の部屋、廊下、ホール、デッキ等の天井部を含む。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の天井部の吊下装置としては、例えば図7に示すような構成が知られている。この従来構成においては、建物の天井部31に照明器具等の被吊下部材32が複数本の垂直方向に延びる吊下用索33を介して吊下支持されている。被吊下部材32の外周付近と天井部31との間には、複数本の振れ止め用索34が傾斜状に延びるように架設されている。そして、地震の発生時に、天井部が揺れても、振れ止め用索34により被吊下部材32の横揺れが抑制されるようになっている。
【0003】
ところが、この従来構成においては、被吊下部材32の横揺れにともなう横方向の力が振れ止め用索34に対して直接に作用する。例えば、図8に示すように、被吊下部材32が左側に横揺れした場合には、右側の振れ止め用索34に対して張力が作用する。このため、天井部31や被吊下部材32における振れ止め用索34の止着部に過度な力が作用するばかりでなく、被吊下部材32に変形を生じたり、被吊下部材32が浮き上がって天井部31と衝突して、被吊下部材32や天井部31に損傷を生じたりするおそれがあった。
【0004】
このような問題に対応するために、例えば特許文献1に開示されるような天井部の吊下装置も従来から提案されている。この従来構成においては、図9に示すように、建物の天井部31に設備機器35を支持する被吊下部材32が複数本の垂直方向に延びる吊下用索33を介して吊下支持されている。被吊下部材32の端部と建物の側壁36との間には、被吊下部材32の横方向への相対変位を吸収するための伸縮可能な変形吸収部材37が介装されている。被吊下部材32と天井部31との間には、被吊下部材32の横方向への振動を吸収するための複数の制振ダンパ38が傾斜状に延びるように設置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−240538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、前記特許文献1に記載の従来構成においては、地震の発生にともなって被吊下部材32に横揺れが生じたとき、制振ダンパ38に対して過大な圧縮荷重が作用する。このため、制振ダンパ38が破損するおそれがあり、このような場合は、被吊下部材32の横揺れ吸収効果を発揮できなくなるという問題があった。
【0007】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、被吊下部材の横揺れを適切に抑止することができる天井部の吊下装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明は、建物や船舶等の構造物の天井部に吊下用索を介して被吊下部材を吊下した吊下装置において、前記天井部と被吊下部材との間には、被吊下部材に対して相反する横方向への引張力を付与するための少なくとも2基の付勢手段を設けたことを特徴としている。
【0009】
従って、この発明の天井部の吊下装置においては、地震等の発生にともなって被吊下部材に横揺れが生じたとき、その横揺れが付勢手段から付与された相反する横方向への引張力によって緩和される。よって、地震等にともなう被吊下部材の横揺れを、その被吊下部材に過度な応力が作用することなく抑止することができて、被吊下部材に破損が生じたりするおそれを防止することができる。
【0010】
前記の構成において、前記付勢手段は、ゼンマイバネのバネ力により引張用索を介して被吊下部材に引張力を付与するように構成するとよい。
前記の構成において、前記付勢手段を被吊下部材上に配置し、前記引張用索を天井部に対して球面体を介して全方向に傾動可能に止着するとよい。
【0011】
前記の構成において、引張用索の出し入れに対して抵抗を付与するための抵抗付与手段を設けるとよい。
前記の構成において、前記被吊下部材を照明器具より構成するとよい。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、この発明によれば、被吊下部材の横揺れを適切に抑止することができるという効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態の天井部の吊下装置を示す断面図。
【図2】図1の吊下装置の要部平面図。
【図3】同吊下装置における吊下用索の取付構成を拡大して示す部分断面図。
【図4】同吊下装置における付勢機構の構成を拡大して示す部分断面図。
【図5】図4の5−5線における断面図。
【図6】図1の動作状態を示す断面図。
【図7】天井部の吊下装置の従来構成を示す断面図。
【図8】図7の動作状態を示す断面図。
【図9】天井部の吊下装置の別の従来構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、この発明を具体化した天井部の吊下装置の一実施形態を図1〜図6に従って説明する。
図1及び図2に示すように、この実施形態の吊下装置においては、建物や船舶等の構造物の部屋、廊下、ホール等における天井部11に大型の照明器具よりなる被吊下部材12が複数本の鉛直方向に延びる吊下用索13を介して吊下支持されている。被吊下部材12の上面四隅と天井部11との間には、被吊下部材12に対して相反する横方向への引張力を付与するための4基の付勢手段としての付勢機構14が設けられている。
【0015】
図3に示すように、前記各吊下用索13の上端部には、ほぼ半球状の球面体15が取り付けられている。天井部11の下面には支持ブラケット16が固定され、その支持ブラケット16には球面体15を支持するための支持座16aが設けられている。そして、球面体15が支持座16aに支持されることにより、吊下用索13の上端部が天井部11に対して全方向へ傾動可能に止着されている。各吊下用索13の下端部には、連結具17がターンバックル18を介して取り付けられている。そして、この連結具17が被吊下部材12上の支持ブラケット19に対して揺動可能に止着されている。
【0016】
図2、図4及び図5に示すように、前記各付勢機構14は被吊下部材12の上面四隅に配置され、支持フレーム20を備えている。支持フレーム20の上下両壁20a,20b間には、リール21が上下方向の軸線を中心に回転可能に支持されている。リール21の内部には、そのリール21を一方向に回転付勢するためのゼンマイバネ22が収容されている。リール21の外周には、引張用索23が巻き取り可能に連結されている。引張用索23の上端部には、ほぼ半球状の球面体24が取り付けられている。天井部11の下面には支持ブラケット25が固定され、その支持ブラケット25には球面体24を支持するための支持座25aが設けられている。そして、球面体24が支持座25aに支持されることにより、引張用索23の上端部が天井部11に対して全方向へ傾動可能に止着されている。
【0017】
図4及び図5に示すように、前記付勢機構14の支持フレーム20の上下両壁20a,20b間には、一対の垂直ガイド軸26が所定間隔をおいて上下方向へ平行に延びるように固定配置されている。支持フレーム20の開口端部側の上下両壁20a,20b間には、一対の側壁20c,20dが架設されている。両側壁20c,20d間には、1本の水平ガイド軸27が垂直ガイド軸26に近接するように固定配置されている。そして、前記リール21の外周から横方向に延びる引張用索23が、両垂直ガイド軸26間及び水平ガイド軸27の下側外周を摩擦抵抗をともないながら経て支持フレーム20外に引き出され、天井部11に向かって傾斜状態となるように延長されている。両垂直ガイド軸26間及び水平ガイド軸27は抵抗付与手段を構成している。
【0018】
このように、4基の付勢機構14が被吊下部材12の上面四隅に配置されるとともに、それらの付勢機構14から傾斜状に延びる引張用索23が天井部11に止着された状態で、各付勢機構14のゼンマイバネ22のバネ力により、引張用索23が緊張状態に保持されている。このため、被吊下部材12の対角線上に位置する各一対の角部に対して、相反する横方向への引張力が付与されている。この実施形態においては、各付勢機構14は吊下用索13に対して被吊下部材12の対角線に沿う方向の引張力を付与する。また、地震等によって被吊下部材12に横揺れが生じた場合には、各付勢機構14のゼンマイバネ22のバネ力に従いまたは抗して、引張用索23がリール21に対して巻き取られ、または繰り出されて、被吊下部材12の横揺れが抑止される。このとき、引張用索23が垂直ガイド軸26及び水平ガイド軸27の外周面に接触して移動されることにより、その引張用索23に摩擦抵抗が付与されて、被吊下部材12の横揺れの減衰効果が高められる。
【0019】
次に、前記のように構成された天井部の吊下装置の作用を説明する。
この吊下装置においては、通常時には図1及び図2に示すように、被吊下部材12が複数本の鉛直方向に延びる吊下用索13を介して静止状態に吊下支持されている。この状態においては、被吊下部材12の上面四隅に配置された4基の付勢機構14から繰り出される引張用索23が、天井部11に向かって放射方向の斜め上方に延びている。そして、各付勢機構14のゼンマイバネ22のバネ力により、各引張用索23が緊張状態に保持されて、被吊下部材12に対してその対角線に沿った横方向への相反する引張力が付与されている。このため、被吊下部材12の吊下状態での横揺れが規制されている。
【0020】
この被吊下部材12の吊下状態において例えば地震により、被吊下部材12に横揺れが生じると、各付勢機構14のゼンマイバネ22のバネ力に従いまたは抗して、各引張用索23がリール21に対して巻き取られ、または繰り出される。このため、図6に示すように、各引張用索23が常に緊張状態に保持され、各引張用索23により被吊下部材12に対して相反する横方向への引張力が付与されて、その被吊下部材12の横揺れが抑止される。この場合、各付勢機構14において引張用索23が垂直ガイド軸26及び水平ガイド軸27に接触して移動されるため、引張用索23に対して摩擦抵抗が付与される。従って、リール21に対する引張用索23の巻き取りまたは繰り出し動作に規制力が作用されて、被吊下部材12の横揺れの減衰効果が高められる。その結果、被吊下部材12の横揺れ状態から静止状態への収束時間が短くなる。
【0021】
従って、この実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1) この実施形態の天井部の吊下装置においては、建物等の天井部11と被吊下部材12との間には、被吊下部材12に対して相反する横方向への引張力を付与するための少なくとも4基の付勢機構14が設けられている。このため、地震等によって被吊下部材12に横揺れが生じたときには、その横揺れが付勢機構14から付与される横方向への引張力によって緩和される。よって、地震等にともなう被吊下部材12の横揺れをその被吊下部材12に過度な応力が作用することなく抑止することができる。従って、被吊下部材12の破損を防止できるばかりでなく、被吊下部材12と天井部11との衝突を防止できて、それらの損傷を防止することができる。
【0022】
(2) この実施形態の天井部の吊下装置においては、前記付勢機構14が、ゼンマイバネ22のバネ力により引張用索23を介して被吊下部材12に引張力を付与するように構成されている。このため、被吊下部材12に対して相反する横方向への適度の引張力を付与することができ、しかも、引張用索23に対して長い移動ストローク範囲にわたって引張力を付与することができ、地震等にともなう被吊下部材12の横揺れを効果的に抑止することができる。加えて、ゼンマイバネ22はコンパクトでも引張力を引張用索23に対して長い移動ストローク範囲にわたって付与するものであるため、付勢機構14を小型かつ軽量化することが可能になる。
【0023】
(3) この実施形態の天井部の吊下装置においては、前記付勢機構14が被吊下部材12上に配置され、前記引張用索23が天井部11に対して球面体24を介して全方向に傾動可能に止着されている。このため、地震等によって被吊下部材12にいずれの方向への横揺れが生じた場合でも、図6に示すようにその横揺れに応じて引張用索23が球面体24を介して傾動されて直線状に延長配置される。よって、図8のような状態になることを防止できて、付勢機構14から引張用索23を介して被吊下部材12に引張力を効果的に付与することができる。
【0024】
(4) この実施形態の天井部の吊下装置においては、各付勢機構14において引張用索23に対して垂直ガイド軸26及び水平ガイド軸27により摩擦抵抗が付与される。このため、引張用索23の出し入れに規制力が作用されて、被吊下部材12の横揺れに対する減衰効果が高められる。従って、被吊下部材12の横揺れの振幅が小さくなるとともに、被吊下部材12の横揺れ状態から静止状態への収束時間が短くなる。
【0025】
(5) この実施形態の天井部の吊下装置においては、前記被吊下部材12が照明器具より構成されている。この場合、前記のように被吊下部材12の横揺れを効果的に抑止して、破損しやすい照明器具を保護することができる。
【0026】
(変更例)
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 前記実施形態においては、付勢手段としての付勢機構14を被吊下部材12に設けたが、この付勢機構14を天井部11側に配置し、その付勢機構14から延出する引張用索23の端部を被吊下部材12に止着すること。この構成においても、付勢機構14の取付位置が異なるのみで、前記実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0027】
・ リール21の上面または下面と支持フレーム20の上壁20aまたは下壁20bとの間に、リール21の回転に抵抗を付与することにより、引張用索23の出し入れに抵抗を付与する抵抗付与手段及び減衰部としての摩擦ブレーキ板を配置すること。
【0028】
・ 被吊下部材12の大きさや重量に応じて、吊下用索13の使用本数や付勢機構14の設置数を変更すること。
・ 本発明を照明器具とは異なった設備機器よりなる被吊下部材12の吊下装置に具体化すること。
【符号の説明】
【0029】
11…天井部、12…被吊下部材、13…吊下用索、14…付勢手段としての付勢機構、15…球面体、20…支持フレーム、21…リール、22…ゼンマイバネ、23…引張用索、24…球面体、25…支持ブラケット、25a…支持座。26…抵抗付与手段としての垂直ガイド軸、27…抵抗付与手段としての水平ガイド軸27。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物等の構造物の天井部に吊下用索を介して被吊下部材を吊下した吊下装置において、
前記天井部と被吊下部材との間には、被吊下部材に対して相反する横方向への引張力を付与するための少なくとも2基の付勢手段を設けたことを特徴とする天井部の吊下装置。
【請求項2】
前記付勢手段は、ゼンマイバネのバネ力により引張用索を介して被吊下部材に引張力を付与することを特徴とする請求項1に記載の天井部の吊下装置。
【請求項3】
前記付勢手段を被吊下部材上に配置し、前記引張用索を天井部に対して球面体を介して全方向に傾動可能に止着したことを特徴とする請求項2に記載の天井部の吊下装置。
【請求項4】
前記引張用索の出し入れに対して抵抗を付与するための抵抗付与手段を設けたことを特徴とする請求項2または3に記載の天井部の吊下装置。
【請求項5】
前記被吊下部材が照明器具よりなることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の天井部の吊下装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−40493(P2013−40493A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178008(P2011−178008)
【出願日】平成23年8月16日(2011.8.16)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)