説明

婦人靴のヒール

【課題】 緩衝性および安定性が高く、かつ、軽量化を図り得る婦人靴のヒールを提供する。
【解決手段】 ヒール芯11は、本底に固定される固定部13と、下方に向って開口し、リフト20の軸部25が嵌合される嵌合孔15a〜15cを持つ嵌合部14a〜14cが一体に形成され、緩衝部材12は、ヒール芯11の外周囲を囲む外周壁部16と、外周壁部16内に外周壁部16と一体に設けられたリブ板部17とを備え、外周壁部17の上端面の全周が本底に接着されていることで、緩衝部材12が本底に固定され、ヒール芯11の嵌合部が固定部13よりも前方または固定部13に設けられ、これにより、ヒール芯11の固定部13と外周壁部16との間に空洞S,S1が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は婦人靴のヒールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
婦人靴においては、スマートな外観が要求されるので、その踵のヒールは細くかつ高い形状に形成される。かかる形状は、一般に安定性に欠けるので、安定性を確保するために、婦人靴のヒールの素材としては、硬い素材が採用されている。
一方、ヒールが硬いと、着地の際の衝撃により、足や膝、腰などの関節への負担が大きくなる。そのため、加齢と共に、華奢でスマートな婦人靴を着用することが難しくなる。
【0003】
かかる改善策として、下記の特許文献1、2が知られている。
【特許文献1】特開2003−289905号(要約)
【特許文献2】実公平4−50805号(請求の範囲、図2)
【0004】
特許文献1の発明では、リフトを固定するための硬いヒール本体を下部後半部において切欠している。しかし、硬いヒール本体が後半部にも存在するので、これが衝撃の吸収や軽量化を阻害している。
【0005】
特許文献2の発明では、柔軟な被覆部が硬質のヒールを覆っているだけで、衝撃吸収や軽量化に殆ど寄与していない。
【発明の開示】
【0006】
したがって、本発明の主目的は、緩衝性および安定性が高く、かつ、軽量化を図り得る婦人靴のヒールを提供することである。
【0007】
前記主目的を達成するために、本発明は、本底に固定されたJISA硬度が95°以上のヒール芯と、該ヒール芯の外周囲を覆いJISA硬度が40°〜80°の緩衝部材と、接地面を有するリフトとを備え、前記ヒール芯と緩衝部材とが一体に成型された婦人靴のヒールであって、前記ヒール芯は、固定具を介して前記本底に固定される固定部と、下方に向って開口し前記リフトの軸部が嵌合される嵌合孔を持つ嵌合部とが一体に形成され、前記緩衝部材は、前記ヒール芯の外周囲を囲む外周壁部と、前記外周壁部内に前記外周壁部と一体に設けられたリブ板部とを備え、前記外周壁部の上端面の全周が前記本底に接着されていることで、前記緩衝部材が前記本底に固定され、前記ヒール芯の嵌合部が前記固定部よりも前方または固定部に設けられ、かつ、前記ヒール芯が本質的に固定部よりも後方には設けられておらず、これにより、前記ヒール芯の固定部と外周壁部との間に空洞が形成されている。
【0008】
通常のヒールはヒール芯が後方まで設けられているのに対し、本発明によれば、重いヒール芯が固定部よりも後方には本質的に設けられていないから、ヒールの軽量化が図られる。
また、硬いヒール芯が固定部よりも後方には本質的に設けられておらず、代わりに、緩衝部材の外周壁部およびリブ板部が設けられているから、ファーストストライク時の緩衝性が著しく向上する。
一方、固定部と嵌合部とが一体に形成されているから、立姿勢の着用者の体重を安定した状態で支えることができる。
【0009】
本発明の好適な実施例では、前記緩衝部材は、前記外周壁部に囲まれた空洞の底面側を本質的に閉じる底面板部を更に備えると共に、上方が開口した舟型ないし箱型に形成され、前記リブ板部が前記底面板部から立設されている。
【0010】
このように、緩衝部材の上面が開口していることで、更なる軽量化を図り得ると共に、緩衝部材を成型する際の型抜きが可能となって、ヒール芯と緩衝部材とを一体に成型することができる。
【0011】
特に、底面板部を有することで、以下に説明するように、柔らかい緩衝部材の型崩れを防止し得る。すなわち、
(i) 底面板部を有することで、外周壁部の底面側が径方向(水平方向)に固定されるので、歩行による衝撃で繰り返し弾性変形しても、緩衝部材が型崩れしにくくなる。
(ii)リフトを着脱する際に、リフトを剥がすので、この際にも緩衝部材に外力が加わるが、底面板部を有しているので、外周壁部の下端部が型崩れすることがない。したがって、リフトの交換時にリフトの上面と底面板部とがズレることなく、美しく接合することができる。
(iii) なお、上面は開口しているが、外周壁部の上端面は、下端に比べ衝撃が小さい上、本底に接着されているので、開口していても上部は型崩れしにくい。
【0012】
前記底面板部を設けた場合、前記リブ板部を介して前記固定部と外周壁部とが接合され、かつ、前記底面板部は前記固定部の少なくとも下端の外周部分を覆うと共に接合されているのが好ましい。
このように、底面板部が固定部の下端の外周部分を覆っていることで、ヒール芯が緩衝部材に強固に一体化される。
【0013】
前記底面板部を設けた場合には、前記底面板部が平坦に形成され、かつ、前記嵌合部よりも後方においては前記底面板部がリフトの上面に粘着ないし接着剤を介して互いに接合されており、前記底面板部とリフト上面との境界が後方において露出しているのが好ましい。
このように、互いに粘着等された底面板部とリフトとの境界が後方において露出していることより、当該境界に工具ないし治具を当てがって、リフトを底面板部から容易に剥がすことができる。
【0014】
本発明の別の好適な実施例では、前記ヒール芯は、前記固定部が柱状に形成され、前記嵌合部同士を連結すると共に前記嵌合部と固定部とを連結する連結部を更に備え、かつ、前記連結部が壁状ないし棒状に形成されている。
このように、嵌合部同士を連結したり、嵌合部と固定部とを連結する連結部を板状ないし棒状に形成することにより、ヒール芯が更に軽量化される。その一方で、安定性は何ら損なわれない。
【0015】
この場合、2つの嵌合部および固定部を三角形の頂点の位置に配置することにより、安定性が向上する。
【0016】
前記三角形の頂点の位置に配置した嵌合部の一部分は、前記外周壁部内に埋設するのが好ましい。この場合、前記第1および第2嵌合部の外側面と前記リブ板部との間が本質的に空洞となっていることにより軽量化を図りつつ、ヒール芯と緩衝部材とが強固に一体化される。しかも、2つの嵌合部が足の内外に離れて配置されるので、立脚期(立ち姿勢)の安定性が高まる。
【0017】
本発明の好適な実施例では、前記嵌合部の全てと、または前記嵌合部のうちの少なくとも2つの嵌合部と、前記固定部とが離れた位置に設けられ、前記固定部から離れた位置の嵌合部と固定部とが連結部で連結され、前記固定部と前記外周壁部との間が前記リブ板部で接合されていると共に、前記固定部の外側面と前記外周壁部の内側面との間が本質的に空洞となっている。
【0018】
このように、嵌合部と固定部とを連結部で連結することにより、ヒール芯が骨状に形成され、かつ、空洞の体積が大きくなることで、軽量化を図り得る。
【0019】
なお、本明細書において、“本質的に空洞となっている”とは、固定部や嵌合部の側面が空洞に向って露出している場合や、固定部や嵌合部のまわりにリブ板部の端面や側面が接している場合の他、固定部や嵌合部の側面が緩衝部材で薄く被覆され、該被覆の外周面と外周壁部との間に大きな空洞がある場合を含む。
【0020】
本発明の別の好適な例では、前記嵌合孔のうちの1つの嵌合孔が前記柱状の固定部の中央に形成され、前記嵌合孔のうちの残りの嵌合孔が前記嵌合部に形成されている。
この例によれば、嵌合孔の数が減ることなく、ヒール芯の軽量化を図り得る。
【0021】
本発明の更に別の好適な実施例では、前記リフトは、耐摩耗性を有するリフト本体と、該リフト本体の上面に積層された支持層とを備え、前記軸部を有するリフトの前部の上面に前記支持層が形成され、かつ、前記リフトの後部の上面は前記軟質のリフト本体で形成されている。
【0022】
この実施例では、硬質の支持層がリフトの軸部を含む前部に設けられていることにより、足の荷重を支えるヒール芯が硬い支持層を介して支持されるから、安定性が更に向上する。
その一方で、硬質の支持層がリフトの後部にはないから、軟質の緩衝部材と軟質のリフト本体とで衝撃が吸収される。しかも、支持層のない軟質のリフト本体は、衝撃が加わった際にリフト本体の後部が変形し易いので、緩衝部材の下端部分の弾性変形を阻害しにくい。したがって、衝撃の吸収性が高くなる。更に、硬質の支持層がない軟質のリフト本体は、曲げ易いので、リフトの交換時に緩衝部材から剥がし易い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
図1〜図3は第1実施例を示す。
図1は婦人靴のヒール部分を示す分解斜視図、図1(a)は左足用のヒール本体10の上方からの斜視図、図1(b)は同左足用のヒール本体10の下方からの斜視図、図1(c)は右足用のリフト20の上方からの斜視図である。
図1(a)〜(c)に示すように、本婦人靴のヒールは、上部のヒール本体10(図1(a),(b))と下部のリフト20(図1(c))とからなる。ヒール本体10およびリフト20は互いに接合されて、第2実施例を示す図4(a)のように、婦人靴のヒール1として、二点鎖線で示す靴本体3に接合される。
【0024】
前記ヒール本体10は、硬質のヒール芯11と、軟質の緩衝部材12とが一体に成形されてなる。前記リフト20は、硬質の支持層21と軟質のリフト本体22とを備えている。
【0025】
図1(a)の前記ヒール芯11は、たとえば、ABS樹脂、ナイロン樹脂のような硬質の樹脂で形成される。前記緩衝部材12は、EVA(エチレン・ビニール・アセテート)の非発泡体のような軟質の樹脂で形成されている。前記支持層21は、リフト本体22よりも硬質の材料で形成されている。なお、リフト本体22は、耐摩耗性の高い樹脂またはゴムで形成されている。
【0026】
前記ヒール芯11は、JISA硬度で概ね95°を越えるような極めて硬い樹脂が用いられる。これにより、婦人靴の本底3(図4(a))における踵の底面にヒール芯11をクギやネジクギなどの固定具で固定することができるようになっている。なお、婦人靴の「本底」とは、足裏を支持する部分をいい、外底(アウトソール)であってもよい。
【0027】
前記緩衝部材12の硬度としては、たとえば、JISA硬度で40°から80°程度に設定され、好ましくは、50°〜70°程度に設定され、最も好ましくは50°〜60°程度に設定され、前記ヒール芯11および支持層21の硬度よりも小さな硬度に設定する。前記支持層21としては、一般に、JISA硬度で85°〜95°程度の硬度を採用するのが好ましい。また、リフト本体22の硬度としては、JISA硬度で60°〜75°程度の硬度に設定するのが好ましい。
【0028】
緩衝部材12:
図1(a)の前記緩衝部材12は、ヒール芯11の外周囲を囲む外周壁部16と、前記外周壁部16内に該外周壁部16と一体に設けられた複数のリブ板部17とを備えている。前記緩衝部材12は、外周壁部16に囲まれた空洞の底面側が、図1(b)に示す底面板部18によって閉じられており、図1(a)に示すように、上方が開口した舟型に形成されている。
【0029】
前記リブ板部17は、その平面視が格子状で、底面板部18から立設されている。したがって、リブ板部17,17間およびリブ板部17と外周壁部16との間には、複数の空洞部Sが形成されている。
【0030】
図2はヒール本体10とリフト20とを互いに接合させたヒール1を示しており、図2(a)はヒール1の平面図、図2(b)は図2(a)におけるIIb-IIb 線概略断面図、図2(c)はヒール1の底面図である。なお、図2(b)では、リブ板部17を省略して描いてある。
【0031】
ヒール芯11:
図2(a),(b)に示すように、ヒール芯11は、緩衝部材12内に形成されており、固定部13、第1〜第3嵌合部14a〜14cおよび複数の連結部19を備えている。固定部13は、前記固定具(ネジクギ等)を介してヒール1を前記婦人靴の本底3(図4(a))に固定するためのものであり、円柱状に形成されており、嵌合部14a〜14cよりも径大である。図2(b),(c)に示すように、固定部13は、底面板部18の平面における概ね中央に設けられている。
【0032】
図2(a)の第1〜第3嵌合部14a〜14cは、その上面の一部がリブ板部17によって覆われている。一方、第1〜第3嵌合部14a〜14cの下方には、図1(b)に示すように、リフト20の第1〜第3軸部25a〜25c(図1(c))にそれぞれ嵌合する第1〜第3嵌合孔15a〜15cが形成されており、かかる前記嵌合孔15a〜15cに対応する貫通孔が緩衝部材12の底面板部18に形成されている。
【0033】
図2(a)に示すように、第1嵌合部14aは、固定部13に対して足の内側の斜め前方の位置に設けられている。第2嵌合部14bは、固定部13に対して足の外側の斜め前方の位置に設けられている。したがって、第1嵌合部14a、第2嵌合部14bおよび固定部13は、足の内外および緩衝部材12の略中央に位置する三角形の頂点の位置に配置されている。なお、第3嵌合部14cは、固定部13に対して足の内側の横に設けられている。
【0034】
このように、図2(a)に示す各嵌合部14a〜14cは、固定部13よりも前方Fに設けられており、かつ、ヒール芯11を形成する硬質の部分は固定部13よりも後方Bには設けられていない。そのため、重いヒール芯11が固定部13よりも後方には設けられていないので、ヒールの軽量化を図り得る。
【0035】
各嵌合部14a〜14cは、棒状の連結部19によって、それぞれ固定部13に連結されており、更に、第1嵌合部14aと第3嵌合部14cも、連結部19によって互いに連結されている。したがって、固定部13と嵌合部14a〜14cとが連結部19を介して一体に形成されているから、立ち姿勢の着用者の体重を安定した状態で支えることができる。
【0036】
一方、前記リブ板部17間の空洞部Sは固定部13のまわりに設けられ、この空洞部Sのうち、固定部13の後方と外周壁部16との間には、後方空洞部S1が形成されている。かかる後方空洞部S1を設けることにより、ファーストストライク時の緩衝性が著しく向上する。
【0037】
なお、本実施例では図1(a)および図2(b)に示すように、連結部19は、嵌合部14a〜14cや固定部13よりも低く、したがって、前記空洞部Sの空間を大きく形成することができ、より一層の軽量化を図り得る。
【0038】
図1(a)に示すように、リブ板部17は固定部13を中心に放射状に外周壁部16に向って形成され、固定部13の周面はリブ板部17の端面に一体となっている。一方、固定部13の上面は、リブ板部17の上部と一体に形成された円盤状のスペーサ部(蓋部)17aによって覆われており、固定部13の下面は底面板部18に接着されている。したがって、前記スペーサ部17a、リブ板部17および底面板部18により、固定部13と緩衝部材12とが互いに固定されている。
【0039】
このように、図1(a),(b)に示すように、固定部13の上面および底面は、緩衝部材12によって覆われている。そのため、硬質のヒール芯11の上下を柔らかい緩衝部材12によって挟むことにより、衝撃の吸収性が高くなる。
【0040】
図2(a)の第1および第3嵌合部14a,14cは、その一部が外周壁部16内に埋設されていると共に、他の一部がリブ板部17内に埋設されている。一方、第2嵌合部14bは、その一部が緩衝部材12の外周壁部16内に埋設されている。こうして、ヒール芯11は緩衝部材12内に固定されている。
【0041】
リフト20:
図3(a),(b)に示すように、リフト20は、耐摩耗性を有するリフト本体22と、該リフト本体22の上面に積層された支持層21とを備えている。支持層21は前記リフト本体22に埋設されて一体に形成されている。支持層21はリフト本体22の上面に形成されており、該支持層21には前記第1〜第3軸部25a〜25cが立設されている。支持層21は、リフト20の前部Fのみに形成されており、リフト20の後部Bの上面は軟質のリフト本体22で形成されている。
【0042】
図2(b)に示すように、底面板部18の下面は平坦に形成され、かつ、嵌合孔15a〜15cよりも後方においては、底面板部18がリフト20の上面に粘着ないし接着剤を介して、互いに接合される。前記底面板部18とリフト20の上面との境界18bは後方において露出している。
【0043】
ヒール本体10にリフト20を接着して形成した前記ヒール1を婦人靴に固定するには、図1(a)の緩衝部材12の外周壁部16を婦人靴の本底3(図4(a))に接着すると共に、前記本底3と固定部13とをネジクギなどの固定具によって固定する。
【0044】
ここで、固定部13の上面は、柔らかい部材で構成された緩衝部材12によって覆われている。そのため、図1(a)の矢印Wで示す方向に、ネジクギなどを固定部13にねじ込むと、緩衝部材12が本底3と固定部13との間で圧縮され、該緩衝部材12の反力によって、スプリングワッシャを挿入したような効果を奏し、ネジクギの緩みを防止することができる。
【0045】
第2実施例:
図4〜図6は第2実施例を示す。
図4(a)に示すように、ヒール本体10およびリフト20からなるヒール1は、婦人靴の本底3に固定される。
図4(b)はヒール1を示す分解斜視図である。図4(b)に示すように、第1および第2嵌合部14a,14bは、それぞれ、固定部13に対して足の内側斜め前方および足の外側斜め前方に設けられている。
【0046】
図5(a)はヒール本体10の下方からの斜視図、図5(b)は図4(b)におけるIVb-IVb 線概略断面図である。なお、図5(b)では、リブ板部17の一部を省略して描いている。
【0047】
図5(a),(b)に示すように、固定部13、第1嵌合部14aおよび第2嵌合部14bは、板状ないし壁状の連結部19aによって互いに接合され、一体に成形されている。固定部13の下部には、リフト20の第3軸部25cに嵌合する第3嵌合孔15cが形成されている。
【0048】
前記第2実施例においては、図4(a)および図5(b)に示すように、極めて柔らかい前記緩衝部材12の外周壁部16の後端面12fが下方に行くに従い後方に位置するように形成されている。そのため、ヒールの後端の最下点O(歩行時に最初に接地する点)が後方に迫り出している。以下に説明するように、歩行時の体重移動がスムースになる。
【0049】
婦人靴のようにヒールの高い靴を着用すると、立脚期(立ち姿勢)において、足は常に底屈した状態に保たれる。一方、歩行時にはアーチの低下に伴い、アーチを構成する関節が背屈して体重の移動が実行されるので、かかるヒールの高い靴では歩行時のスムースな体重移動が難しい。
【0050】
一方、踵の後端から接地する歩行時には足が踵の後端を中心に回転しながら接地する。この際、図6(a)のように、踵の前端の点Pはヒール後端の点Oを中心に回転し、前方に移動すると共に、下方に移動する。
【0051】
ここで、図6(c)のように、ヒールの後端の最下点Oが足の前方に退避していると、点Pの上下方向の移動が小さくなる。そのため、歩行時の体重移動がスムースでなくなり、歩く姿勢が優雅でなくなる。
これに対し、本ヒールにおいては、前記点O(ヒールの後端の最下点)が後方に迫り出している。そのため、図6(b)のように、点Pが点Oのまわりに回転して、前方に移動すると共に、下方に移動する。したがって、歩行時の特に着地時の体重移動がスムースになるので、優雅な姿勢で歩くことができる。
【0052】
特に、ヒールの後端を著しく柔らかい部材で形成したから、足裏に大きな衝撃が生じないので、足裏が斜めになった状態で、図5(b)のヒール後端の角(点O)から接地することができる。その結果、前記優雅な姿勢で歩行することが可能となる。
【0053】
その他の構成は、第1実施例と同様であり、同一部分または相当部分に同一符号を付して、その詳しい説明および図示を省略する。
【0054】
以上のとおり、図面を参照しながら好適な実施例を説明したが、当業者であれば、本明細書を見て、自明な範囲内で種々の変更および修正を容易に想定するであろう。
例えば、前述の実施例では、緩衝部材を舟型に形成したが、箱型であってもよい。
また、固定具を介して本底にヒールを取り付けるための固定部は2ヵ所以上であってもよい。
さらに、リフトの軸部および当該軸部に嵌合する嵌合孔は、複数であればよい。
また、底面板部に係合孔を設け、一方、リフト本体に係合突部を設け、両者が互いに係合するようにしてもよい。
したがって、そのような変更および修正は、本発明の範囲内のものと解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、婦人靴のヒールに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1(a),(b)は第1実施例にかかる左足用のヒール本体の斜視図、図1(c)は同右足用のリフトの斜視図である。
【図2】(a)は同ヒールの平面図、(b)は同ヒールのIIb-IIb 線概略断面図、(c)は同ヒールの底面図である。
【図3】同リフトを示す平面図および側面図である。
【図4】(a)は第2実施例にかかるヒールの装着状態を示す概略斜視図、(b)は同ヒールの分解斜視図である。
【図5】(a)は同ヒール本体の斜視図、(b)はIVb-IVb 線概略断面図である。
【図6】(a)歩行時における踵の移動を示す模式図、(b)は第2実施例にかかる踵の移動を示す模式図、(c)は比較例における踵の移動を示す模式図である。
【符号の説明】
【0057】
3:本底
11:ヒール芯
12:緩衝部材
13:固定部
14a〜14c:嵌合部
15a〜15c:嵌合孔
16:外周壁部
17:リブ板部
18:底面板部
19:連結部
20:リフト
21:支持層
22:リフト本体
25a〜25c:軸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本底に固定されたJISA硬度が95°以上のヒール芯と、該ヒール芯の外周囲を覆いJISA硬度が40°〜80°の緩衝部材と、接地面を有するリフトとを備え、前記ヒール芯と緩衝部材とが一体に成型された婦人靴のヒールであって、
前記ヒール芯は、固定具を介して前記本底に固定される固定部と、下方に向って開口し、前記リフトの軸部が嵌合される嵌合孔を持つ嵌合部とが一体に形成され、
前記緩衝部材は、前記ヒール芯の外周囲を囲む外周壁部と、前記外周壁部内に前記外周壁部と一体に設けられたリブ板部とを備え、
前記外周壁部の上端面の全周が前記本底に接着されていることで、前記緩衝部材が前記本底に固定され、
前記ヒール芯の嵌合部が前記固定部よりも前方または固定部に設けられ、かつ、前記ヒール芯が本質的に固定部よりも後方には設けられておらず、これにより、前記ヒール芯の固定部と外周壁部との間に空洞が形成されている婦人靴のヒール。
【請求項2】
請求項1において、前記緩衝部材は、前記外周壁部に囲まれた空洞の底面側を本質的に閉じる底面板部を更に備えると共に、上方が開口した舟型ないし箱型に形成され、前記リブ板部が前記底面板部から立設されている婦人靴のヒール。
【請求項3】
請求項2において、前記リブ板部を介して前記固定部と外周壁部とが接合され、かつ、前記底面板部は前記固定部の少なくとも下端の外周部分を覆うと共に接合されている婦人靴のヒール。
【請求項4】
請求項2において、前記底面板部が平坦に形成され、かつ、前記嵌合部よりも後方においては前記底面板部がリフトの上面に粘着ないし接着剤を介して互いに接合されており、前記底面板部とリフト上面との境界が後方において露出している婦人靴のヒール。
【請求項5】
請求項1において、前記ヒール芯は、前記固定部が柱状に形成され、前記嵌合部同士を連結すると共に前記嵌合部と固定部とを連結する連結部を更に備え、かつ、前記連結部が板状ないし棒状に形成されている婦人靴のヒール。
【請求項6】
請求項5において、前記固定部の内側斜め前方の位置と前記固定部の外側斜め前方の位置とにそれぞれ第1および第2嵌合部が設けられて、これら2つの嵌合部および固定部が三角形の頂点の位置に配置されている婦人靴のヒール。
【請求項7】
請求項6において、少なくとも、前記第1嵌合部の一部分および第2嵌合部の一部分が、前記外周壁部内に埋設されている婦人靴のヒール。
【請求項8】
請求項7において、前記第1嵌合部および第2嵌合部の外側面と前記リブ板部との間は本質的に空洞となっている婦人靴のヒール。
【請求項9】
請求項1において、前記嵌合部の全てと、または前記嵌合部のうちの少なくとも2つの嵌合部と、前記固定部とが離れた位置に設けられ、前記固定部から離れた位置の嵌合部と固定部とが連結部で連結され、
前記固定部と前記外周壁部との間が前記リブ板部で接合されていると共に、前記固定部の外側面と前記外周壁部の内側面との間が本質的に空洞となっている婦人靴のヒール。
【請求項10】
請求項1において、前記嵌合孔のうちの1つの嵌合孔が前記柱状の固定部の中央に形成され、前記嵌合孔のうちの残りの嵌合孔が前記嵌合部に形成されている婦人靴のヒール。
【請求項11】
請求項1において、前記リフトは、耐摩耗性を有するリフト本体と、該リフト本体の上面に積層された支持層とを備え、
前記軸部を有するリフトの前部の上面に前記支持層が形成され、かつ、前記リフトの後部の上面は前記軟質のリフト本体で形成されている婦人靴のヒール。
【請求項12】
請求項1において、前記緩衝部材の外周壁部の後端面は、下方に行くに従い後方に位置するように形成されている婦人靴のヒール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−95051(P2006−95051A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−284250(P2004−284250)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000000310)株式会社アシックス (57)
【Fターム(参考)】