説明

孔明け用金属箔複合シート及びドリル孔明け加工法

【課題】 プリント配線材料の孔明け工程において、孔形状に優れ、かつ0.3mmφ以下のドリルビットの孔位置精度が良好な孔明け用金属箔複合シート、並びに該孔明け用金属箔複合シートを使用する、高品質のドリル孔明け法を提供する。
【解決手段】 金属箔の片面に、有機物層を形成した孔明け用金属箔複合シートにおいて、該有機物層が、水溶性ポリマーからなる厚さ0.02〜1.0mmの層であり、該金属箔が、アルミニウム純度が99.5%以上のアルミニウム箔であることを特徴とするプリント配線材料用の孔明け用金属箔複合シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線材料分野で使用される孔明け用金属箔複合シートに関するものであり、高品質の孔明けを可能とする孔明け加工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリント配線材料に、表裏導通用のドリル孔明けを行う際、該プリント配線材料の片面或いは両面に水溶性滑剤、具体的にはジエチレングリコールやジプロピレングリコールなどのグルコール類と脂肪酸などの剛性ワックス、非イオン系界面活性剤との混合物を、紙などに含浸したシートを配置して行う方法が開示されているが(例えば特許文献1および2参照)、これらの方法は、ドリル発熱防止効果が不十分であったり、多孔質シートへのこれら混合物の含浸性が劣ったり、さらにベタつく等の欠点があった。
【0003】
これらの解決手法として、特開平6-344297に、ポリエーテルエステルと水溶性滑剤からなるシートを使用した孔明け加工法が提案されているが、該加工法では、ドリル孔の品質向上やベタつきの改善は認められるものの、使用するドリルビット径が小さくなるに従い、孔位置精度が低下する傾向が見られ、極小径ドリル用途への適用には改善が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4781495号明細書
【特許文献2】米国特許第4929370号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、孔形状に優れ、かつ0.3mmφ以下のドリルビットの孔明け加工においても、孔位置精度が良好な孔明け用金属箔複合シート、並びに該孔明け用金属箔複合シートを使用する、高品質のドリル孔明け法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、水溶性ポリマー層と特定のアルミニウム純度のアルミニウム箔からなる孔明け用金属箔複合シートを使用することにより、良好な孔形状と優れた孔位置精度が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、金属箔の片面に、有機物層を形成した孔明け用金属箔複合シートにおいて、該有機物層が、水溶性ポリマーからなる厚さ0.02〜1.0mmの層であり、該金属箔が、アルミニウム純度が99.5%以上のアルミニウム箔であることを特徴とするプリント配線材料用の孔明け用金属箔複合シートであり、該孔明け用金属箔複合シートの金属箔面側を、プリント配線材料に接して配置し、シート面側からドリル孔明けをすることを特徴とするプリント配線材料の孔明け加工法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の孔明け用金属箔複合シートを用いた孔明け加工法は、水溶性ポリマーによる孔明け時のドリルビット摩擦熱の軽減効果と、高純度のアルミニウム箔による孔明け時の衝撃緩和やドリルビットの食いつき性の向上によって、孔形状や孔位置精度に優れる高品質の孔明け加工が可能となり、工業的な実用性は極めて高いものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において使用される水溶性ポリマーとは、常温、常圧において、水100gに対し、1g以上溶解する高分子化合物であれば、特に限定されるものではない。代表的なものとしては、ポリエチレンオキサイド系、ポリプロピレンオキサイド系、ポリビニールアルコール系、ポリアクリル酸系、ポリアクリルアミド系、ポリビニルピロリドン系、カルボキシメチルセルロース系、ポリテトラメチレングリコール系、脂肪酸エステル系などが例示され、1種もしくは2種以上を適宜混合して使用することも可能である。水溶性ポリマーの融点または軟化点は、30〜200℃ の範囲のものが選択され、好ましくは40〜150℃の範囲のものが使用される。
【0010】
本発明の好ましい態様であるポリエーテルエステル(A)とは、ポリアルキレンオキシドのエステル化物であれば、特に限定されるものではない。 代表的な例としては、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレンオキサイドやこれらの共重合物で例示されるグリコール類、またはエチレンオキサイド類の重合物と、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、セバシン酸等、及びそれらのジメチルエステル、ジエチルエステル等、ピロメリット酸無水物等で例示される多価カルボン酸、その無水物、またはそのエステルとを反応させて得られる樹脂などが挙げられ、1種もしくは2種以上を適宜混合して使用することも可能である。また、ポリエーテルエステル(A)に、数平均分子量10000以上のポリエチレンオキサイドを混合して使用することも可能である。
【0011】
ポリエーテルエステル(A)の配合量は、ポリエーテルエステル(A)と後述の水溶性滑剤 (B)の配合量の合計100重量部に対し、20〜90重量部の範囲であり、20重量部未満では、シートの強度が不足し、90重量部を超えると湿潤性が不十分で、本発明の目的に適しない。
【0012】
本発明の好適な態様である水溶性滑剤 (B)とは、具体的には、数平均分子量1000〜9000のポリエチレングリコール;ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどで例示されるポリオキシエチレンのモノエーテル類;ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート;ヘキサグリセリンモノステアレート、デカヘキサグリセリンモノステアレートなどで例示されるポリグリセリンモノステアレート類;ポリオキシエチレンプロピレンブロックポリマーが挙げられ、1種もしくは2種以上を適宜混合して使用することも可能である。水溶性滑剤(B)の配合量は、ポリエーテルエステル(A)と水溶性滑剤 (B)の配合量の合計100重量部に対し、10〜80重量部の範囲であり、10重量部未満では粘度が高くなりすぎ、80重量部を超えるとシートが脆くなり、好ましくない。
【0013】
本発明において使用される金属箔は、アルミニウム純度が99.5%以上のアルミニウム箔であれば、特に制約はないが、純度が99.7%以上のアルミニウム箔が、より好適である。高純度のアルミニウム箔を使うことで、ドリルビットの衝撃の緩和や食いつき性が向上し、水溶性ポリマーによるドリルビットの摩擦熱による発熱の軽減効果と相俟って、ドリル孔明け時の位置精度と孔品質の大幅向上が可能となった。アルミニウム箔の具体的な種類としては、JIS H−4160に規定される、1050,1070、1085などが例示され、特に1070、1085などがより好ましい。アルミニウム箔の厚さとしては、50〜500μmの範囲であり、50μm未満では基板のバリが発生し易く、500μmを超えると、発生する切り粉の排出が困難になり、好ましくない。
【0014】
孔明け用金属箔複合シートの製造方法としては、工業的に使用される公知の方法であれば、特に制約はされない。具体的には、水溶性ポリマーをロールやニーダー、またはその他の混錬手段を使用し、適宜加温或いは加熱して、好適には粘度5万〜20万センチポイズ(150℃)程度の均一な混合物とし、ロール法やカーテンコート法などで、金属箔上に塗布層を形成する方法;該混合物をプレスやロール、またはT−ダイ押出機等を使用し、予め所望の厚さのシートに成形し、これをアルミニウム箔に重ね、プレスやロール等で加熱・加圧し、必要に応じて接着剤等により、接着する方法が例示される。
【0015】
孔明け用金属箔複合シートの、シートの厚さは、0.02〜1.0mmの範囲であり、0.02mm未満では、得られる孔品質が低下し、1.0mmを超えるとドリルビットへの巻き付きが起こり、好ましくない
【0016】
本発明の孔明け加工法は、該孔明け用金属箔複合シートをプリント配線材料、例えば銅張積層板、多層板などの最上面に、該孔明け用金属箔複合シートの金属箔面側が、プリント配線材料に接するように配置し、該孔明け用金属箔複合シートのシート面側から、ドリル孔明けを行うものである。
【実施例】
【0017】
実施例1
ポリエチレングリコール・ジメチルテレフタレート重縮合物(商品名:パオゲンPP−15、第一工業製薬製)50重量部、ポリオキシエチレンモノステアレート(商品名:ノニオンS−40、日本油脂製)50重量部を、ニーダーを使用し、温度150℃の窒素雰囲気中で混錬した後、押出機にて、厚さ0.1mmの水溶性ポリマーシートを作成した。この水溶性ポリマーシートを、厚さ100μmのアルミニウム箔(材質:1070、アルミニウム純度:99.7%)の片面に重ね、加熱ロールを使用して接着させ、孔明け用アルミニウム箔複合シートを得た。得られた孔明け用アルミニウム箔複合シートを、厚さ0.1mmのガラスエポキシ板を3枚重ねた上面に配置し、下面に当て板(紙フェノール積層板)を配置し、ドリルビット:0.1mmφ、回転数:150000rpm、送り速度:2.5μ/rev.の条件で2000ヒットのドリル孔明け加工を行い、孔評価を行った結果を表1に示した。
【0018】
実施例2
ポリエチレングリコール・ジメチルテレフタレート重縮合物(商品名:パオゲンPP−15)70重量部、数平均分子量8000のポリエチレングリコール 30重量部を使用し、実施例1と同様にして、厚さ0.1mmの水溶性ポリマーシートを作成した。この水溶性ポリマーシートを、厚さ100μmのアルミニウム箔(材質:1085、アルミニウム純度:99.85%)の片面に重ね、加熱ロールを使用して接着させ、孔明け用アルミニウム箔複合シートを得た。得られた孔明け用アルミニウム箔複合シートを実施例1と同様にして、孔評価を行った結果を表1に示した。
【0019】
実施例3
ポリエチレングリコール・ジメチルテレフタレート重縮合物(商品名:パオゲンPP−15)20重量部、ポリエチレンオキサイド(商品名:アルコックスR−150、明成化学製)10重量部、ポリオキシエチレンプロピレンブロックポリマー(商品名:プロノン208、日本油脂製) 70重量部を使用し、実施例1と同様にして、孔明け用アルミニウム箔複合シートを得た。得られた孔明け用アルミニウム箔複合シートを実施例1と同様にして、孔評価を行った結果を表1に示した。
【0020】
比較例1
実施例1で得られた水溶性ポリマーシートを、厚さ100μmのアルミニウム箔(材質:IN30、アルミニウム純度:99.3%)の片面に重ね、加熱ロールを使用して接着させ、孔明け用アルミニウム箔複合シートを得た。得られた孔明け用アルミニウム箔複合シートを実施例1と同様にして、孔評価を行った結果を表1に示した。
【0021】
比較例2
孔明け用アルミニウム箔複合シートの替わりに、厚さ150μmのアルミニウム箔(材質:IN30)を使用し、他は実施例1と同様のドリル孔明け条件で、孔明け加工を行った結果、途中で、ドリルビットの折れが発生、再度試みたが、同様であった。
【0022】
【表1】

【0023】
(試験方法)
・孔壁粗さ :サンプルをメッキ処理後、顕微鏡で断面観察を行い、孔壁の粗さを測定した値の平均値と最大値(2000ヒット後、20孔)。
・孔位置精度:2000ヒットについて、孔位置基準値と、孔加工後の下板の
孔位置とのずれ量を座標測定機で測定した値の平均値と最大値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔の片面に、有機物層を形成した孔明け用金属箔複合シートにおいて、該有機物層が、水溶性ポリマーからなる厚さ0.02〜1.0mmの層であり、該金属箔が、アルミニウム純度が99.5%以上のアルミニウム箔であることを特徴とするプリント配線材料用の孔明け用金属箔複合シート。
【請求項2】
該水溶性ポリマーが、ポリエーテルエステル(A)20〜90重量部と、水溶性滑剤(B)10〜80重量部を必須成分とする組成物であることを特徴とする請求項1記載の孔明け用金属箔複合シート。
【請求項3】
該ポリエーテルエステル(A)に、数平均分子量10000以上のポリエチレンオキサイドを混合することを特徴とする請求項2記載の孔明け用金属箔複合シート。
【請求項4】
該水溶性滑剤(B)が、数平均分子量1000〜9000のポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンのモノエーテル、ポリオキシエチレンのエステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリグリセリンモノステアレート、ポリオキシエチレンプロピレンブロックポリマーからなる群から選択された1種もしくは2種以上であることを特徴とする請求項2記載の孔明け用金属箔複合シート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の孔明け用金属箔複合シートの金属箔面側を、プリント配線材料に接して配置し、シート面側からドリル孔明けをすることを特徴とするプリント配線材料の孔明け加工法。

【公開番号】特開2013−99848(P2013−99848A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−24553(P2013−24553)
【出願日】平成25年2月12日(2013.2.12)
【分割の表示】特願2011−210476(P2011−210476)の分割
【原出願日】平成13年4月5日(2001.4.5)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】