説明

完熟ブドウの収穫方法及び包装ブドウ

【課題】
ブドウの糖度を、品種ごとに上限に近い値まで高めながら(完熟)、取り扱い時の脱粒を防ぐブドウの収穫方法を提供する。
【解決手段】
出荷基準の糖度に至るか或いはその前後数日の間に、ブドウの房の下方から伸縮性のある袋状ネットを房全体を包むようにして被せ、その状態でさらに数日ないし十数日間房を樹上に留め、完熟後に房を袋状ネットで包装したまま収穫して出荷する。流通及び販売も袋状ネットに収納した状態のままで行い、脱粒を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な完熟ブドウの収穫方法及び包装ブドウに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブドウことに生食用のブドウは、蜜柑や梨、リンゴなどとともに作付け面積が大きい果物であり、夏から秋にかけて大量に消費されている。近来の消費者の嗜好は、ブドウも他のくだものと同様に糖分の多いものに向かっている。一方、食べやすさの観点から、無核化(種なし)したものが喜ばれる傾向にある。
【0003】
ところで、ブドウはバナナなどと異なり、一旦収穫すると糖度の上昇はその時点で停止して追熟することがない。これは、糖分が枝から供給されるのみで実の中では増加しない特性のためである。そのため、より糖度を高めようとすれば収穫時期を遅らせることになるが、完熟させると脱粒し易くなる。従って、熟度の高いブドウは、収穫時もさることながら流通時や販売時に脱粒し、商品価値は大きく低下することになる。
【0004】
そのため、各品種ごとに糖度の出荷基準が定められており、その基準に達したら出荷が成される。従って、品種毎の最高糖度に至らない状態で流通過程に置かれることになる。例えば、ピオーネや巨峰の出荷基準は16度、デラウエアのそれは18度である。大体において、出荷基準は15度から20度程度である。これに対し、最高糖度は栽培地や気象条件にもよるがピオーネや巨峰で21〜22度、デラウエアで22〜23度程度である。これ以上木にならしておくと腐熟が始まる。そして、最高糖度の状態に近いものを完熟品と言う。
【0005】
一方、無核化のためのジベレリン処理は脱粒し易さを促進する傾向にある。これは、ジベレリン処理により主穂軸(図2の31)や支梗(図1の11、21)が太く且つ固くなって柔軟性が低下し、ブドウの果粒に外力が加わった場合脱粒し易くなるとともに、果粒と支梗の付け根が弱体化することによる。図1は、何れも出荷基準糖度での収穫直後のピオーネの果粒の断面である。種あり(図1(a))の果粒1は支梗11に連なる果心12がしっかりしていて、果粒1をむしり取ると矢印のように果心12が支梗11にくっついた状態で取れてくる。符号13は果肉、符号14は種子である。これに対し、種無し(図1(b))の果粒2は支梗21に連なる果心22が未発達で、果粒をむしると支梗21が付け根から簡単に外れてしまうことによる。符号23は果肉である。この両者、即ち主穂軸の柔軟性の低下及び果粒と支梗の付け根の弱体化が相まって、無核化したものは脱粒し易くなる。
【0006】
上記二者とも、果粒の糖度が高くなるほどその程度が高くなり脱粒しやすくなる。更に、収穫後の時間経過が長くて古くなるほど脱粒し易くなる。これは、支梗11(21)が枯れて果粒が離脱しやすくなることによる。
【0007】
更に、最近では各果粒に日光や風の当たりをよくするするために、主穂軸が見える程度に透かした状態で房仕立てをする傾向、即ち果粒同志に隙間がある状態にする状態にする傾向があるので、このため出荷から販売に至る流通過程で振動が与えられると、果粒が動き易くなり脱粒を助長する。
【0008】
生産時における果実の脱落防止としては、特許文献1〜3示すように、プラスチック製袋やネットで果実を保持することが行われている。しかし、これらは果実1個1個を支えるもので、ブドウのように小粒なものの集まりである房を支えても、脱粒は防止できない。また、流通過程において、特許文献4〜5に示すようにぶどうの房を袋に収納する技術が示されているが、これらでも中の果粒の動きを抑えることができず、脱粒を防ぐことは出来ない。
【特許文献1】実開平05−51055号公報
【特許文献2】登録実用新案公報第304622号公報
【特許文献3】特開平5−304842号公報
【特許文献4】特開2006−8173号公報
【特許文献5】特開2001−192079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明者らは、種々研究した結果、出荷基準を越えた糖度になっても脱粒しにくいように、房全体を袋状ネットで締めつけるように包み込むことで、この問題を解決しようとしたものである。
【0010】
即ち、本発明の収穫方法は、出荷基準の糖度に至るか或いはその前後数日の間に、図2に示すようにブドウの房3の下方から伸縮性のある袋状ネット4を房全体を包むようにして被せ、その状態でさらに数日ないし十数日間房を樹上に留め、完熟後に房を袋状ネットで包装したまま収穫して出荷するものである。尚、この袋状ネット4とは、複数個の蜜柑や栗などの農産物を包装するのに用いられる通常市販される径が小さめのもので、ブドウを入れた場合に締め付けるようなものである。この袋状ネット4はブドウの房をある程度締めつけるように保持するので、脱粒防止効果が大きいものである。そして、従来のこの袋状ネット4は、本発明者らが知る限りブドウの包装に用いられた例はない。尚、ネットには伸縮するニット製品(パンティーストッキング等)を含むものである。
【0011】
一方、現在我が国で栽培されている生食用ブドウの品種は150種以上とも言われているが、生産量は巨峰やピオーネで代表される巨峰群やデラウエア(以上、欧米雑種)、それにネオマスカットなどの白緑色のヨーロッパ系品種が大多数を占める。尚、ネオマスカットなどの白緑色ブドウは、巨峰群やデラウエアに比べて脱粒しにくいが、やはり完熟させると、特に種なしでは脱粒し易くなる。
【0012】
中でも、巨峰やピオーネは種なしの人気が大きく、本発明者らも、その栽培に力を注いでいる。そして、他の先進生産地に対抗するため、完熟化の研究を進めてきたものである。図3は、本発明者らの生産地である島根県浜田市の山間部におけるピオーネの糖度と開花からの経過日数との関係を示すグラフである(ビニール被覆)。この図から、この地方に於けるピオーネの糖度は、3日に1度ずつ上昇していることが判る。従って、開花後93日で出荷基準の糖度16度になっているが、これを1〜2週間程度延長(図では10日程度となっている)すると、糖度は20〜21度と最高糖度に近づいてきている。
【0013】
ただ、ここまで成熟させると、通常では樹になっている状態でも外力が加わると、脱粒し易くなってくる。そこで、伸縮性のある袋状ネットで房全体を締めつけて包みこむようにしておく。尚、図2中符号5は袋状ネット4とブドウの房3の主穂軸31とを縛って一体化しておくひもである。ひも5での括り付けは、ブドウの房3に袋状ネット4を被せた時点でもよいが、収穫時点或いは出荷時点でもよい。
【発明の効果】
【0014】
以上詳述したように、本発明方法は、出荷基準の糖度に至るか或いはその前後数日の間に、ブドウの房の下方から伸縮性のある袋状ネットを房全体を包むようにして被せ、その状態でさらに数日ないし十数日間房を樹上に留め、完熟後に房を袋状ネットで包装したまま収穫して出荷することを特徴とするものである。
【0015】
従って、
(1)栽培時の脱粒を心配すること無く糖度を上昇させることができ、安定した完熟ブドウの提供が可能になる。
(2)完熟とあいまって、果粒の間が適当に離れた適粒が思い切ってできるので、日光や風当たりのよい更に美味しいブドウが収穫できる。
(3)袋状ネットによる包装は簡単であり、且つそのまま蔓(主穂軸)や房に付けたまま収穫、販売流通でき、美味しく完熟させたブドウの実の脱粒防止が確実に図れ、商品価値の大幅な増加を図ることができる。
(4)収穫時に、主穂軸を長目にして袋状ネットの上部と結束すると、取り扱い時に主穂軸部分を把持できるので、果粒に触ることなく房の持ち運びができてこの点でも脱粒防止になる。
(5)袋状ネットで房の形に沿った包装ができるので、房の形が崩れず脱粒し難いし、例え脱粒してもネット内部で保持されているので房の形を保ったまま止まっている。
(6)ネットを被せても中のブドウの粒がよく見える。
【0016】
また、本発明の包装ブドウは、出荷基準の糖度或いは出荷基準の糖度を越えて成熟したブドウの房を、袋状ネットで包装して出荷するものである。これは、前記のように栽培時から袋状ネットを被せるのではなく、出荷基準の糖度或いは完熟までには至らないが出荷基準よりも高い糖度まで成熟させたブドウの房を、袋状ネットに収納して出荷するものである。このようにすると、袋状ネットの上部を持って取り扱いできるので、房に力がかからず流通段階での脱粒が大幅に減少する。これは、特に種なしブドウの場合に多いが、収穫後時間が経つと出荷基準程度の糖度のもでも脱粒し易くなるので、これを防止する効果がある。
【0017】
但し、従来ブドウの房を袋状ネットで包装して販売することは無かったので、袋状ネットで包装して販売するのは完熟ブドウに限るようにすれば、袋状ネットで包装したものは完熟した美味しいものであると言う認識を消費者に与えることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
出荷基準の糖度に至ったブドウの房に、下方から伸縮性のある袋状ネットを房全体を包むようにして被せ、その状態でさらに10日程房を樹上に留め、完熟後に房を袋状ネットで包装したまま収穫して出荷する。
【実施例1】
【0019】
出荷基準の糖度に至るか或いはその3日(糖度で±1度)前後程度の間に、図2に示すようにブドウ(種なしピオーネ)の房3の下方から伸縮性のある袋状ネット4を房全体を包むようにして被せ、その状態でさらに数日ないし十数日間房3を樹上に留め、完熟後に房を袋状ネットで包装したまま収穫して出荷するものである。図中破線の位置で主穂軸31を切断して収穫する。袋状ネット4はブドウの房をある程度締めつけるように保持するので、脱粒防止効果が大きいものである。
【0020】
図3は、前述したように本発明者らの生産地における種なしピオーネの糖度と開花からの経過日数の関係を示すグラフである(ビニール被覆)。この図から、この地方に於けるピオーネの糖度は、3日に1度ずつ上昇していることが判る。そこで、果粒の糖度を測定し、16度になったものから袋状ネット4を被せ、被せた日付を袋状ネット4に表示するなどして、糖度が20〜21度程度(実測或いは図3による計算)になった時点で収穫する。図2のひも5での括り付けは、ブドウの房3に袋状ネット4を被せた時点でもよいが、収穫時点或いは出荷時点でもよい。
【0021】
次に、袋状ネット4の効果について説明する。まず、糖度が20〜21度程度になった時点で種なしピオーネを収穫し、5房は袋状ネット4を被せ、他の5房は袋状ネット4を被せずにおく。そして、両者を箱に詰めて移動時と同様の振動を与え(1日間)、次いで一日一回房の主穂軸をもってゆさぶり、脱粒の程度を観察した。5日目には、袋状ネット4を被せておいたものは脱粒は1粒も見られなかったが、袋状ネット4を被せなかったものは、平均10粒(全体の約1/3)が脱粒した。但し、袋状ネット4を被せたものも、ネットから取り出してみると脱粒しかけているのもが数粒みられた。これは、ネットが房を締めつけるようにして包んでいるので、脱粒しかけていても、何とか保持することができていると見ることができる。
【実施例2】
【0022】
図4は、袋状ネット4で2個のデラウエア(種なし、完熟)の房6を1つの袋状ネット4に収納した他の例を示す。デラウエアは房重量が100〜150gとピオーネの350g程度からみると小さいので、1房では締めつけが少ないことから実験したものである。ただ、この場合樹になっている状態での袋掛けはできないので、完熟に近い糖度の高い状態で収穫して収納するものである。
【0023】
この場合も、前記例同様に袋状ネット4に入れたものと入れなかったものの振動テストを行ったが、入れなかったものは1房あたり平均20粒脱粒したのに対し、袋状ネット4に入れたものは、1粒も脱粒が見られなかった。尚、1房を入れたものも充分に効果があった。
【実施例3】
【0024】
次に、出荷基準程度の糖度のもの4種類のブドウについて、実施例1と同様に9日間袋状ネットに入れたもの(ネット区)と入れなかったもの(対照区)について、輸送と振動試験を行った結果を表1に示す。

【表1】

【0025】
4種類のブドウは、デラウエア(種なし)(欧米雑種)、ロザキ(種なし)、カッタクルガン(種なし)、及びロザリオビアンコ(有種)(以上欧州種)である。この内、デラウエアを除いて、両区とも3日目までは脱粒は見られなかったが、8日、9日目になるとロザリオビアンコを除いて対照区ではかなりの脱粒がみられた。
【0026】
ネット区のものは試験期間中脱粒が見られないと言うことは、袋状ネットによる包装が、収穫から時間が経った出荷基準程度の糖度のものでも、脱粒を防止する効果が優れていると言うことを示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】ピオーネの果粒の断面図であり、図1(a)は種あり、図1(b)は種なしの状態を示す。(実施例1)
【図2】伸縮性のある袋状ネットで樹上にある種なしピオーネの房全体を包んだ状態の正面図である。(実施例1)
【図3】ピニール被覆の種なしピオーネの開花後の経過日数と果粒の糖度との関係を示すグラフである。(実施例1)
【図4】他の実施例を示す正面図である。(実施例2)
【符号の説明】
【0028】
1 果粒(種あり)
11 支梗
12 果心
13 果肉
14 種子
2 果粒(種なし)
21 支梗
22 果心
23 果肉
3 ブドウの房
31 主穂軸
4 袋状ネット
5 ひも
6 ブドウの房
61 主穂軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出荷基準の糖度に至るか或いはその前後数日の間に、ブドウの房の下方から伸縮性のある袋状ネットを房全体を包むようにして被せ、その状態でさらに数日ないし十数日間房を樹上に留め、完熟後に房を袋状ネットで包装したまま収穫して出荷することを特徴とする完熟ブドウの収穫方法。
【請求項2】
出荷基準の糖度或いは出荷基準の糖度を越えて成熟したブドウの房を、袋状ネットで包装したことを特徴とする包装ブドウ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−136152(P2009−136152A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300749(P2007−300749)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(503236854)いわみ中央農業協同組合 (1)
【Fターム(参考)】