説明

官能基を有するイソブチレン系重合体及びその製造法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、官能基を有するイソブチレン系重合体及びその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術・発明が解決しようとする課題】分子鎖末端、あるいはグラフト鎖中にビニル基を含有するポリマーは、接着剤、改質剤、コーティング剤、シーリング剤等の原料として有用である。このようなポリマーの一種である、例えば末端官能性イソブチレン系ポリマーの製造法としては、1,4−ビス(α−クロロイソプロピル)ベンゼン(以下「p−DCC」と記す)を開始剤兼連鎖移動剤とし、且つBCl3 を触媒としてイソブチレンをカチオン重合させるイニファー法(米国特許第4276394 号明細書)が知られている。更にかかるイニファー法で得られる重合直後あるいは精製後の両末端に塩素原子を有するイソブチレン系ポリマーに、重合触媒のBCl3 以外に、更にTiCl4 を追加した後にアリルトリメチルシランと反応させることにより両末端にアリル基を有するポリマーに変換されることが知られている (特開昭63−105005号公報) 。
【0003】しかしながら、上記の方法では、分子鎖末端にしかアリル基を導入できない。したがって、ポリマー1分子中に複数のアリル基を導入するためには、重合開始点を2個以上有する化合物(p−DCC等)を使用する必要がある。本発明の目的は、1分子内に、複数のビニル基を有する新規な重合体を提供するとともに、p−DCC等の高価な化合物を用いることなく分子内に複数のビニル基を有するイソブチレン系重合体を製造する方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】即ち、本発明は、(1)1分子当たり少なくとも1個の一般式(I)
【化2】


〔式中、Rは水素原子、メチル基又はエチル基を示す。nは1以上30以下の整数を示す。〕で表される単位を有することを特徴とする、官能基を有するイソブチレン系重合体、及び(2)イソブチレンを含有するカチオン重合性モノマーと非共役ジエンとをルイス酸の存在下に重合させることを特徴とする前記(1)記載のイソブチレン系重合体の製造法に関する。
【0005】本発明の官能基を有するイソブチレン系重合体は、1分子中少なくとも1個の前記一般式(I)で表される単位を有することを特徴とする重合体である。一般式(I)において、Rは水素原子、メチル基又はエチル基を示し、好ましくは水素原子またはメチル基である。nは1以上30以下の整数を示し、好ましくは2〜10である。本発明のイソブチレン系重合体のイソブチレンモノマー単位を主体とする数平均分子量は、通常500〜500,000、好ましくは1,000〜50,000の重合体であって、1分子当たり少なくとも1個の好ましくは1.05個以上の前記一般式(I)で表される単位を有するものである。数平均分子量が500未満ではイソブチレン単位の含有量が少なく、イソブチレン系重合体としての特性を発現し得ず、500,000を越えると重合体が樹脂状となり、取り扱いにくくなる。
【0006】本明細書において、イソブチレンを含有するカチオン重合性モノマーとは、イソブチレンのみからなるモノマーに限定されるものではなく、イソブチレンの50重量% (以下、単に「%」と記す) 以下をイソブチレンと共重合し得るカチオン重合性モノマーで置換したモノマーをも意味する。イソブチレンと共重合し得るカチオン重合性モノマーとしては、例えば炭素数3〜12のオレフィン類、共役ジエン類、ビニルエーテル類、芳香族ビニル化合物類、ビニルシラン類等が挙げられる。これらの中でも炭素数3〜12のオレフィン類及び共役ジエン類等が好ましい。
【0007】前記イソブチレンと共重合し得るカチオン重合性モノマーの具体例としては、例えばプロピレン、1−ブテン、2−ブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−2−ブテン、ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、ヘキセン、ビニルシクロヘキサン、ブタジエン、イソプレン、シクロペンタジエン、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、スチレン、α−メチルスチレン、ジメチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、β−ピネン、インデン、ビニルトリクロロシラン、ビニルメチルジクロロシラン、ビニルジメチルクロロシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリメチルシラン、ジビニルジクロロシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジメチルシラン、1, 3−ジビニル−1, 1, 3,3−テトラメチルジシロキサン、トリビニルメチルシラン、テトラビニルシラン, γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、p−ヒドロキシスチレン等が挙げられる。これらイソブチレンと共重合し得るカチオン重合性モノマーは、1種単独でイソブチレンと併用してもよいし、2種以上で併用してもよい。
【0008】本発明に用いる非共役ジエンとは、一般式 (II)
【化3】


〔式中、Rは水素原子、メチル基、又はエチル基を示す。nは1以上30以下の整数を示す。〕で表わされる化合物を示す。
【0009】本発明では、前記一般式 (II)に該当する限り、従来公知のものあるいは今まで知られていない新規な化合物であっても広く使用でき、例えば、
【化4】


等が好ましい。
【0010】本発明に用いるルイス酸は重合触媒として使用される成分であり、MX’P (Mは金属原子、X’はハロゲン原子)で表わされるもの、例えばAlCl3 、SnCl4 、TiCl4 、VCl5 、FeCl3 、BF3 等及びEt2 AlCl、EtAlCl2 等の有機アルミニウム化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのルイス酸のうち、SnCl4 、TiCl4 、Et2 AlCl、EtAlCl2 等が好ましい。
【0011】前記ルイス酸の使用量は、イソブチレンを含有するカチオン重合性モノマーと共重合させる非共役ジエンに対して、通常0.1〜50倍が好ましく、更に好ましくは0.2〜10倍とするのがよい。ルイス酸の使用量が0.1倍より少ないと、重合反応の収率が低くなる場合があり、50倍より多くしても特に良好な結果が得られるわけではない。
【0012】本発明において、重合溶媒として、例えば脂肪族炭化水素、ハロゲン化炭化水素等の炭化水素溶媒等が用いられる。この中でもハロゲン化炭化水素が好ましく、塩素原子を有する塩素化炭化水素がより好ましい。かかる脂肪族炭化水素の具体例としては、ペンタン、ヘキサン等を、またハロゲン化炭化水素の具体例としては、クロロメタン、クロロエタン、塩化メチレン、1,1−ジクロロエタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等を例示できる。これらは、1種単独で又は2種以上混合して使用される。更には少量の他の溶媒、例えば酢酸エチル等の酢酸エステルや、ニトロエタン等のニトロ基を有する有機化合物を併用してもよい。
【0013】本発明の製造法を実施するに際しては、特に制限がなく、従来の重合方法を広く適用できる。一つの容器に重合溶媒、イソブチレンを含有するカチオン重合性モノマー、非共役ジエン、重合触媒等を順次仕込んでいくバッチ法でもよいし、重合溶媒、イソブチレンを含有するカチオン重合性モノマー、非共役ジエン、重合触媒等をある系内に連続的に仕込みながら反応させ、更に取り出される連続法でもよい。
【0014】本発明の製造法において、重合温度としては通常+10〜−80℃程度が好ましく、更に好ましくは0〜−40℃程度とするのがよく、重合時間は、通常0.5〜120分程度、好ましくは1〜60分程度である。また重合時のイソブチレンを含有するカチオン重合性モノマーのモノマー濃度としては、通常0.1〜8モル/リットル程度が好ましく、0.5〜5モル/リットル程度がより好ましいい。さらに、本発明の製造法において、重合系中に加える非共役ジエンは、用いるイソブチレンを含有するカチオン重合性モノマーのモル数に対して通常0.002〜1倍モル、好ましくは0.01〜0.1倍モルを加えることが望ましい。非共役ジエンの使用量が0.002倍モルより少ないと、重合体1分子中に1個以上の一般式(I)で表される単位を導入することが困難であり、1倍モルよりも多いと、イソブチレン系重合体としての特性を発現しにくくなる。
【0015】本発明の製造法において、後の取り扱い易さからメタノール等のアルコール類の添加により重合反応を停止させるのが好ましいが、特にこれに限定されるものではなく、従来の慣用手段のいずれも適用でき、また、特に停止反応を改めて行う必要もない。このような製造法により、イソブチレンモノマー単位を主体とする数平均分子量が500〜500,000の重合体であって、1分子当たり少なくとも1個の一般式(I)で表される単位を重合体中に有するイソブチレン系重合体が製造される。
【0016】
【実施例】次に実施例を掲げて、本発明をより一層明らかにするが、実施例により本発明は何ら限定されるものではない。
合成例1500mlのナスフラスコ中に4−ヒドロキシベンズアルデヒド(100mmol)12.2g、ソディウムメチラートの28%メタノール溶液(130mmol)18.5ml、メタノール60mlおよび6−ブロモ−1−ヘキセン(150mmol)20.0mlを加え18時間加熱還流させた。揮発分を留去することにより、液量1/2程度まで濃縮した後、トルエン200ml及び水100mlを加えてから振とうした後、水相を除去した。有機相を水150mlでさらに3回洗浄した後、無水硫酸マグネシウム10gを用いて乾燥し、固形分をろ別してから揮発分を留去して4−(1−ヘキセニルオキシ)ベンズアルデヒド18.9gを得た。
【0017】合成例2窒素雰囲気下、200mlの3ツ口フラスコ中に、乾燥ジエチルエーテル150ml、臭化メチルトリフェニルホスホニウム(21mmol)7.5g、n−ブチルリチウムの1.6Nヘキサン溶液(21mmol)13.1mlを加え、室温で5時間攪拌し、メチレンホスホランを調製した。これに4−(1−ヘキセニルオキシ)ベンズアルデヒド(20mmol)4.08gの乾燥ジエチルエーテル(20ml)溶液を3分間かけて滴下した。さらに反応液を1時間加熱還流した後、固形分をろ別してからヘキサン150mlを加え、有機相を水150mlで3回洗浄した後揮発分を留去して4−(1−ヘキセニルオキシ)スチレン[後述の化合物A]3.0gを得た。
1 HNMRスペクトル(300MHZ 、CDC13
δ=6.8〜7.4(4H)、δ=6.7(1H)、δ=5.8(1H)、δ=5.6(1H)、δ=5.2(1H)、δ=4.9〜5.1(2H)、δ=4.0(2H)、δ=2.1(2H)、δ=1.8(2H)、δ=1.6(2H)
IRスペクトル(cm -1 )1640(中)、1630(中)、1610(大)、1510(大)、1250(大)、1175(中)、990(中)、850(中)、780(大)
【0018】実施例1100mlの耐圧ガラス製オートクレーブに撹拌用羽根、三方コック及び真空ラインを取付けて、真空ラインで真空に引きながら重合容器を100℃で1時間加熱することにより乾燥させ、室温まで冷却後三方コックを用いて窒素で常圧に戻した。その後、三方コックの一方から窒素を流しながら、注射器を用いてオートクレーブに水素化カルシウム処理により乾燥させた主溶媒である塩化メチレン40mlを導入した。次いで非共役ジエンA1mmolを添加した。
【0019】
【化5】


【0020】次に、酸化バリウムを充填したカラムを通過させることにより脱水したイソブチレンが5g入っているニードルバルブ付耐圧ガラス製液化ガス採取管を三方コックに接続した後、容器本体を−70℃のドライアイス−アセトンバスに浸漬し、重合容器内部を撹拌しながら1時間冷却した。冷却後、真空ラインにより内部を減圧にした後、ニードルバルブを開け、イソブチレンを耐圧ガラス製液化ガス採取管から重合容器に導入した。その後三方コックの一方から窒素を流すことにより常圧に戻してから、−30℃のドライアイス−アセトンバスに浸せきし、更に1時間撹拌して重合容器内を−30℃まで昇温した。
【0021】次に、TiCl4 3.2g(10mmol)を注射器を用いて三方コックから添加して重合を開始させ、20分経過した時点で予め0℃以下に冷却しておいたメタノールを添加することにより、反応を完結させた。その後、反応混合物をナス型フラスコに取出し、未反応のイソブチレン、塩化メチレン及びメタノールを留去し、残ったポリマーを100mlのn−ヘキサンに溶解後、中性になるまでこの溶液の水洗を繰返した。その後、このn−ヘキサン溶液を20mlまで濃縮し、300mlのアセトンにこの濃縮溶液を注ぎ込むことによりポリマーを沈澱分離させた。このようにして得られたポリマーを再び100mlのn−ヘキサンに溶解させ、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過し、n−ヘキサンを減圧留去することにより、イソブチレン系ポリマーを得た。得られたポリマーの収量より収率を算出すると共に、Mn及びMw/MnをGPC法(ポリスチレン基準)により、またポリマー中に含まれる共重合成分の量を1H−NMR(300MHz)法により各構造に帰属するプロトンの共鳴信号の強度を測定、比較することにより求めた。結果を表2に示す。
【0022】実施例2〜7非共役ジエンの種類(A〜D)や使用量及び重合触媒を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてポリマーを製造し、評価した。結果を表2に併せて示す。
【0023】実施例8重合反応を−10℃でおこなうこと以外は、実施例1と同様にしてポリマーを製造して評価した。結果を表2に併せて示す。
【0024】
【化6】


【0025】
【表1】


【0026】
【表2】


【0027】実施例9特開平3−95266号公報に記載の実施例9に準拠し、1,9−デカジエンとポリハイドロジェンシロキサン(信越化学(株)製 LS8600)を原料として炭化水素系付加型硬化剤を合成した。上記の炭化水素系付加型硬化剤を用いて特開平3−95266号公報に記載の実施例11と同様にして、実施例1で製造したイソブチレン系重合体の硬化物を作成した。該硬化物のシートからJISK6301に準拠した3号ダンベルを打ち抜き、引張速度200mm/minで引張試験を行なった。結果を表3に示す。
【0028】
【表3】


【0029】実施例10E型粘度計を用いて、実施例1で製造したイソブチレン系重合体の23℃での粘度を測定した。結果を表4に示す。併せて、比較例1で製造したイソブチレン系重合体の粘度の測定を試みたが、重合体がゴム状のため、測定は不可能であった。結果を併せて表4に示す。
【0030】
【表4】


【0031】表4の結果より、共重合成分である非共役ジエンの影響により、イソブチレン系重合体の粘度が低下したことが明らかになった。イソブチレン系重合体の硬化物作成時の加工性を考慮すれば、粘度が低い方が、種々の配合成分との混合が容易であり好ましい。従って、本発明に特有の好ましい効果として、重合体の粘度の低下があげられる。
【0032】比較例1非共役ジエンを使用しない以外は、実施例1と同様にしてポリマーを製造して評価した。結果を表2に併せて示す。
【0033】
【発明の効果】本発明の製造法によれば、非共役ジエンの種類及び使用量をコントロールすることにより、官能基含量の異なる重合体を簡便に得ることができる。また、共役ジエンを用いた場合のように、主鎖中に1,4−付加によるオレフィン基の残存もないため、高い耐候性等が期待できる。こうして得られた重合体は、そのまま架橋硬化物の原料として用いられる他、その官能基を水酸基、アミノ基、アルコキシシリル基、ハイドロジェンシリル基等へ変換することができる。また、本発明では、開始剤兼連鎖移動剤を用いなくても、1分子に1個以上の活性なオレフィン基を導入することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 1分子当たり少なくとも1個の一般式(I)
【化1】


〔式中、Rは水素原子、メチル基又はエチル基を示す。nは1以上30以下の整数を示す。〕で表される単位を有することを特徴とする、官能基を有するイソブチレン系重合体。
【請求項2】 イソブチレンを含有するカチオン重合性モノマーと非共役ジエンとをルイス酸の存在下に重合させることを特徴とする請求項1記載のイソブチレン系重合体の製造法。

【特許番号】特許第3154529号(P3154529)
【登録日】平成13年2月2日(2001.2.2)
【発行日】平成13年4月9日(2001.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−295115
【出願日】平成3年10月14日(1991.10.14)
【公開番号】特開平5−105724
【公開日】平成5年4月27日(1993.4.27)
【審査請求日】平成10年5月29日(1998.5.29)
【出願人】(000000941)鐘淵化学工業株式会社 (3,932)