説明

実験動物飼育ケージ

【課題】実験動物飼育ケージとして、ケージ本体が、殺菌消毒の際の熱や薬液作用による変形を生じにくく、高強度で耐久性に優れて取扱い性のよいものを提供する。
【解決手段】上方に開放した平面視略矩形の熱可塑性プラスチック容器からなるケージ本体1と、ケージ本体1上に被せるケージ蓋2とで構成される。ケージ本体1は、上端周縁に外側へ張出する鍔部10を備え、周壁11の略垂直な上側壁部11aと外側へ傾いた下側壁部11bとの間に、外面側を斜め下向きにする屈曲段部12が全周にわたって形成されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マウス、ラット、モルモット等の実験動物を飼育するためのケージ、特にケージ本体が上方に開放した平面視略矩形の熱可塑性プラスチック容器からなる実験動物飼育ケージに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、この種の実験動物飼育ケージは、上方に開放した平面視略矩形の熱可塑性プラスチック容器からなるケージ本体と、該ケージ本体上に被せる金網からなるケージ蓋とで構成されている。そして、ケージ本体は、四周側壁が平板状で上端周縁に外側へ張出する鍔部を備え、内側空間が上部側ほど拡がる形になっている。またケージ蓋にはV字状に凹んだ給餌用凹陥部が設けられ、該凹陥部にペレット状の餌を載せたり水呑み具の呑み口を差し込むようにしている(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平4−44065号公報
【特許文献2】特開2004−135521号公報の図4
【特許文献3】特開2007−135473号公報の図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような実験動物飼育ケージは、生物学的実験の信頼性及び安全性を確保するために、繰り返し使用する都度に、複数個のケージ本体を入れ子状に積み重ねた状態で蒸気室に収容して蒸気殺菌するか、消毒液に漬けて殺菌消毒を行う必要がある。しかしながら、従来の飼育ゲージでは、その殺菌消毒の際の熱や薬液作用によってケージ本体の特に上部側が変形し易く、ケージ蓋が合わなくなったり、ケージ本体同士の積み重ねが困難になったりして、耐久性に乏しい上に、持ち運び等の取扱い中にケージ本体が落下したり他の物品等に衝当して割れ易いという問題があった。また、上記の殺菌消毒等において、入れ子状に積み重ねたケージ本体同士が密着し、過熱蒸気や消毒液が内部に流通しにくくなったり、その積み重ね状態からの分離が困難になることも往々にしてあった。
【0005】
本発明は、上述の事情に鑑みて、実験動物飼育ケージとして、殺菌消毒の際の熱や薬液作用によるケージ本体の変形が生じにくく、且つケージ本体が高強度であり、もって耐久性に優れると共に取扱い性のよいものを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための手段を図面の参照符号を付して示せば、請求項1の発明に係る実験動物飼育ケージは、上方に開放した平面視略矩形の熱可塑性プラスチック容器からなるケージ本体1と、該ケージ本体1上に被せるケージ蓋2とで構成され、ケージ本体1は、上端周縁に外側へ張出する鍔部10を備えると共に、周壁11の略垂直な上側壁部11aと外側へ傾いた下側壁部11bとの間に、外面側を斜め下向きにする屈曲段部12が全周にわたって形成されてなるものとしている。
【0007】
請求項2の発明は、上記請求項1の実験動物飼育ケージにおいて、屈曲段部12は、外面側の上下幅jが3〜6mm、上側壁部11a下端から下側壁部11b上端への段下量gが1〜3mm、下縁から鍔部10の下面までの上下間隔hが15〜30mmである構成としている。
【0008】
請求項3の発明は、上記請求項1又は2の実験動物飼育ケージにおいて、ケージ本体1は、四周各側面の外面側の左右2か所に、それぞれ鍔部10の下面から屈曲段部12を超えて下側壁部11bに達する垂直方向の条片状の補強リブ13が形成されてなる構成としている。
【0009】
請求項4の発明は、上記請求項3の実験動物飼育ケージにおいて、鍔部10がアール状に曲折して外側へ張出すると共に、補強リブ13が凹アール状の下縁13bを有し、ケージ本体1,1同士を入れ子状に積み重ねた際に、上位側ケージ本体1の補強リブ13の下縁13bが下位側ケージ本体1の鍔部10にアール状同士で係嵌するように構成されてなる。
【0010】
請求項5の発明は、上記請求項3又は4の実験動物飼育ケージにおいて、各補強リブ13は、その上端13aにおける周壁11からの突出量kが3〜10mm、該上端13aにおけるケージ本体1のコーナー部1aからの距離dが3〜5cmに設定されてなる構成としている。
【発明の効果】
【0011】
次に、本発明の効果について、図面の参照符号を付して説明する。まず、請求項1の発明に係る実験動物飼育ケージでは、ケージ本体1における周壁11の上側壁部11aと下側壁部11bとの間に、外面側を斜め下向きにする屈曲段部12が全周にわたって形成され、この屈曲段部12が周壁11を鉢巻き状に取り巻く形で大きな補強作用を発揮するから、該ケージ本体1を過熱蒸気や消毒液によって殺菌消毒した際、周壁11の上部側が熱や薬剤作用で変形するのを効果的に抑制でき、もってケージ本体1の耐久性が大きく向上する。また、屈曲段部12がケージ本体を保持するときの手掛かりになるから、飼育ケージ全体又はケージ本体1を空の状態や実験動物M及び木材チップT等の飼育補助材を収容した状態で持ち運んだり、所要部位に出し入れしたり、上げ下ろしする際の取扱い性がよく、手が滑って不用意に落下させるような事態を防止できる。
【0012】
請求項2の発明によれば、屈曲段部12として、外面側の上下幅j、上側壁部11a下端から下側壁部11b上端への段下量g、下縁から鍔部10の下面までの上下間隔hをそれぞれ特定範囲に設定していることから、前記の変形抑制作用がより効果的に発揮されると共に、ケージ本体1を保持する際の手掛かりがより確実になる。
【0013】
請求項3の発明によれば、ケージ本体1は、四周各側面の外面側の左右2か所に垂直方向の条片状の補強リブ13を有するから、周壁11の強度がより向上すると共に、該ケージ本体1・・同士を入れ子状に積み重ねた際に、上位側ケージ本体1の各補強リブ13の下端部が下位側ケージ本体1の鍔部11に掛止されることで、両ケージ本体1,1の底壁14,14間が補強リブ13の長さs分だけ離間すると共に、両ケージ本体1,1の周壁11,11の下側壁部11b,11b間に全周にわたって隙間tが確保される。従って、その積み重ね状態で殺菌消毒を行う場合に、過熱蒸気や消毒液を隙間tを通して重なったケージ本体1間にくまなく流通させて確実に殺菌消毒できると共に、各ケージ本体1内に木材チップT等の飼育補助材を収容した状態で積み重ねることが可能であり、また積み重ね状態から各ケージ本体1を容易に分離できる。
【0014】
請求項4の発明によれば、ケージ本体1・・同士を入れ子状に積み重ねた際に、上位側ケージ本体1の補強リブ13の凹アール状の下縁13bが下位側ケージ本体1の鍔部10にアール状の上面に係嵌するから、ケージ本体1・・同士のがたつきが防止され、安定した状態で取り扱えるという利点がある。
【0015】
請求項5の発明によれば、ケージ本体1の各補強リブ13が適度な外方突出量で且つコーナー部1aに近い位置にあるため、取扱い中に他の物品に当て易いコーナー部1a近傍が補強リブ13でガードされ、もって該コーナー部1a近傍が他の物品と衝突して割れるのを防止できると共に、片手でコーナー部1aの両側の補強リブ13,13を掴む形でケージ本体1を持つことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る実験動物飼育ケージのケージ本体を示す斜視図である。
【図2】同飼育ケージに実験動物を収容した状態を示す縦断側面図である。
【図3】同ケージ本体を示し、(a)は縦断正面図、(b)は(a)に示す一点鎖線円C内の拡大図である。
【図4】同ケージ本体を両手で保持した状態を示す斜視図である。
【図5】同ケージ本体同士の積み重ね状態を示す縦断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る実験動物飼育ケージの一実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。この実験動物飼育ケージは、図1及び図2で示すように、上方に開放した平面視略矩形の熱可塑性プラスチック容器からなるケージ本体1と、該ケージ本体1上に被せる金網型のケージ蓋2とで構成されている。
【0018】
ケージ本体1は、図3でも示すように、上端周縁にアール状に曲折して外側へ張出する鍔部10を備えると共に、周壁11の略垂直な上側壁部11aと外側へ傾いた下側壁部11bとの間に、外面側を斜め下向きにする屈曲段部12が全周にわたって形成されており、内側空間が下側壁部11bの傾きによって下位ほど狭くなっている。そして、周壁11の四周各側面には、外面側の左右2か所に、それぞれ鍔部10の下面から屈曲段部12を超えて下側壁部11bに達する垂直方向の条片状の補強リブ13が形成されている。また、底壁部14の下面側の四隅近傍に接地凸部15が設けてある。
【0019】
なお、補強リブ13は、外端縁が略垂直で、上縁13aが鍔部10に連らなると共に、下縁13bが鍔部10のアール状と略等しい曲率の凹アール状になっている。
【0020】
ケージ蓋2は、鋼板から打抜き及びプレス成形した矩形枠20の内側に、略平行に密に配置する多数本の縦桟21aと粗に配置する複数本の横桟21bとで格子状をなすワイヤー製金網21がスポット溶接で固着されており、長手方向一端側が水平部2aをなすと共に、同他端側にV字状に凹んだ給餌用凹陥部2bを有している。また、矩形枠20は、外周縁が金網21よりも上位で外側へ張出する鍔部20aを構成すると共に、給餌用凹陥部2bの両側端を封鎖する一対の略逆三角形の端板部20b,20bを備えている。
【0021】
しかして、図2に示すように、マウス等の実験動物Mと木材チップT等の飼育補助材を収容したケージ本体1上にケージ蓋2を被せることにより、該ケージ蓋2の鍔部20aがケージ本体1の鍔部10上に重なり、もってケージ本体1の開放部が閉鎖されると共に、給餌用凹陥部2bがケージ本体1内に突入した形になる。従って、該給餌用凹陥部2bにペレット状の餌Fを落とし込んでおけば、実験動物Mが金網21の隙間から餌Fをつついて食べることができ、また給餌用凹陥部2bの隙間に水呑み具(図示省略)の呑み口を差し込んでおけば、実験動物Mが自分で飲水できる。
【0022】
上記構成の実験動物飼育ケージでは、ケージ本体1を過熱蒸気や消毒液によって殺菌消毒した際、その周壁11の上側壁部11aと下側壁部11bとの間に設けた屈曲段部12が該周壁11を鉢巻き状に取り巻く形で大きな補強作用を発揮するから、該周壁11の上部側が熱や薬剤作用で変形するのを効果的に抑制でき、もってケージ本体1の耐久性が大きく向上する。また、屈曲段部12がケージ本体を保持するときの手掛かりになるから、飼育ケージ全体又はケージ本体1を空の状態や実験動物M及び木材チップT等の飼育補助材を収容した状態で持ち運んだり、所要部位に出し入れしたり、上げ下ろしする際、図4で示すように、両手Hの親指f1を鍔部10(ケージ蓋2がある場合はその鍔部20a)を上から挟み、人差指f2を該鍔部10の下側にあてがうと共に、中指f3の腹を屈曲段部12にあてがうことにより、該ケージ本体1を水平状態で手掛かりよく保持できるから、手Hが滑って不用意に落下させることなく容易に取り扱うことができる。
【0023】
なお、このような屈曲段部12としては、特に制約されないが、前記の変形抑制作用をより効果的に発揮させ、且つケージ本体1を保持する際の手掛かりをより確実にする上で、図3(b)で示すように、外面側の上下幅jを3〜6mm、上側壁部11a下端から下側壁部11b上端への段下量gを1〜3mm、下縁から鍔部10の下面までの上下間隔hを15〜30mm、にそれぞれ設定することが好ましい。
【0024】
また、このケージ本体1では、四周各側面の外面側の左右2か所に設けた条片状の補強リブ13により、周壁11の強度がより向上することに加え、図5で示すように、該ケージ本体1・・同士を入れ子状に積み重ねた際に、上位側ケージ本体1の各補強リブ13の下縁13bが下位側ケージ本体1の鍔部11に係嵌することで、両ケージ本体1,1の底壁14,14間が補強リブ13の長さs分だけ離間し、各ケージ本体1の底部側に空間3が構成されると共に、両ケージ本体1,1の周壁11,11の下側壁部11b,11b間に全周にわたって隙間tが確保される。従って、その積み重ね状態で殺菌消毒を行う場合に、過熱蒸気や消毒液を隙間tを通して重なったケージ本体1間にくまなく流通させて確実に殺菌消毒できると共に、前記空間3が生じることを利用して、各ケージ本体1内に木材チップT等の飼育補助材を収容した状態で積み重ねることも可能となる。また、上下のケージ本体1,1の下側壁部11b,11b同士が密着しないため、積み重ね状態から各ケージ本体1を容易に分離できる。更に、例示したケージ本体1の積み重ね状態では、上位側ケージ本体1における補強リブ13の凹アール状の下縁13bが下位側ケージ本体1の鍔部10にアール状の上面に係嵌するから、ケージ本体1・・同士のがたつきが防止され、安定した状態で取り扱えるという利点がある。
【0025】
一方、図示のように各補強リブ13をケージ本体1のコーナー部1aに近い位置に設けることにより、取扱い中に他の物品に当て易い該コーナー部1a近傍が補強リブ13でガードされ、これによって該コーナー部1a近傍が他の物品と衝突して割れるのを防止できる上、片手でコーナー部1aの両側の補強リブ13,13を掴む形でケージ本体1を持つことも可能となる。しかして、補強リブ13としては、このようなコーナー部1aのガード作用を高めて且つ片手持ちを容易にするために、、その上端13aにおける周壁11からの突出量k〔図3(b(参照)を3〜10mm、該上端13aにおけるケージ本体1のコーナー部1aからの距離d(図1参照)を3〜5cm、にそれぞれ設定することが好ましい。
【0026】
なお、ケージ蓋2については、例示した金網型に限らず、熱可塑性プラスチックや金属からなる板状のものも使用できると共に、給餌用凹陥部2bのないもの、開閉窓や監視窓がついたもの、ケージ本体1に対するロック機構を有するもの等、適用する実験動物の種類や実験内容に応じて様々な形態を採用できる。
【符号の説明】
【0027】
1 ケージ本体
1a コーナー部
10 鍔部
11 周壁
11a 上側壁部
11b 下側壁部
12 屈曲段部
13 補強リブ
13a 上端
13b 下縁
14 底壁
2 ケージ蓋
d 補強リブのコーナー部からの距離
g 屈曲段部の段下量
h 屈曲段部の下縁から鍔部の下面までの上下間隔
j 屈曲段部の外面側の上下幅
k 補強リブの周壁からの突出量
t 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方に開放した平面視略矩形の熱可塑性プラスチック容器からなるケージ本体と、該ケージ本体上に被せるケージ蓋とで構成され、
前記ケージ本体は、上端周縁に外側へ張出する鍔部を備えると共に、周壁の略垂直な上側壁部と外側へ傾いた下側壁部との間に、外面側を斜め下向きにする屈曲段部が全周にわたって形成されてなる実験動物飼育ケージ。
【請求項2】
前記屈曲段部は、外面側の上下幅が3〜6mm、上側壁部下端から下側壁部上端への段下量が1〜3mm、下縁から前記鍔部の下面までの上下間隔が15〜30mmである請求項1に記載の実験動物飼育ケージ。
【請求項3】
前記ケージ本体は、四周各側面の外面側の左右2か所に、それぞれ前記鍔部の下面から屈曲段部を超えて下側壁部に達する垂直方向の条片状の補強リブが形成されてなる請求項1又は2に記載の実験動物飼育ケージ。
【請求項4】
前記鍔部がアール状に曲折して外側へ張出すると共に、前記補強リブが凹アール状の下縁を有し、
ケージ本体同士を入れ子状に積み重ねた際に、上位側ケージ本体の補強リブの下縁が下位側ケージ本体の鍔部にアール状同士で係嵌するように構成されてなる請求項3に記載の実験動物飼育ケージ。
【請求項5】
各補強リブは、その上端における周壁からの突出量が3〜10mmであって、該上端におけるケージ本体のコーナー部からの距離が3〜5cmに設定されてなる請求項3又は4に記載の実験動物飼育ケージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−29618(P2012−29618A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171562(P2010−171562)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(391033137)日本クレア株式会社 (7)
【Fターム(参考)】