説明

家具の固定具、固定構造及び固定方法

【課題】簡便で、かつ美観を損なわない、家具の固定具、固定構造及び固定方法を提供する。
【解決手段】固定具100は、家具4を壁面Aに固定する部材である。固定具100は、レール1と、固定板2と、ボルト3とから構成される。固定具100は、図1に示すように、壁面Aに設けられたレール1に固定板2を嵌合させ、ボルト3とレール1とで家具4の背板を挟持し固定させて使用するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震時における家具の転倒を防止するために、家具を壁面に固定する、家具の固定具、固定構造及び固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地震時、激しい揺れによって家具が転倒することがある。こうした地震時の家具転倒を回避するため、家具の転倒防止具や転倒防止方法は種々提案されている。
【0003】
従来、転倒防止具には、家具の上面と、家具に並列される壁面とを結合させる固定金具が多かった。例えば、家具の上面を、側壁に埋め込まれたレールに固定する転倒防止具として、L字状の押え部材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、転倒を防止する方法には、紐状のワイヤーやベルト等で家具と壁面とを連結させる方法がある。例えば、一端にフック部材、もう一端にねじ止め部材を有するワイヤーロープによって、家具の天板と壁面とを連結させる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−034824号公報
【特許文献2】特開2007−130407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の転倒防止具では、L字状の押え部材やワイヤーロープが家具に取り付けられると外部からその部材が見え、美観が損なわれる。また、上記従来の転倒防止具では、L字状の押え部材やフック部材を家具の上面に固定するために、壁面にビス等の固定具を打ち込まなければならない。したがって、家具を移動させるときには、工具を用いていったん固定具を外し、改めて別の場所で壁面に穴を開ける等して固定具を取り付ける煩雑な作業が必要となる。
【0006】
本発明は、以上のような従来技術の課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、地震時における家具の転倒を防止するための、簡便で、かつ美観を損なわない、家具の固定具、固定構造及び固定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、家具を壁面に固定する固定具であって、前記固定具は、前記壁面に設けられたレールと、前記レールに嵌合される固定板と、前記固定板と螺合連結されるボルトとから構成され、前記レールは、断面略コの字状に形成され、前記レールのコの字内に挿入された前記固定板を係止する係止片を備え、前記ボルトは、前記家具の背板又は側板を、前記係止片との間に挟持するためのボルト頭を備え、前記固定板は、前記ボルトと螺合させるためのネジ孔を備えることを特徴とする。
【0008】
以上の態様では、工具を使用することなく、ボルトを回転させるという作業のみで非常に簡単に家具を壁面に固定することができる。また、家具の固定場所を変更するために、ボルトや固定板を取り外すことも簡単に行うことができる。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明に構成として家具を加え、固定構造として捉えたものであって、壁面に設けられたレールに、前記レールに嵌合される固定板と、前記固定板に螺合連結されるボルトにより、家具の背板又は側板を固定する固定構造であって、前記家具の背板又は側板は、貫通孔を備え、前記レールは、断面略コの字状に形成され、前記レールのコの字内に挿入された前記固定板を係止する係止片を備え、前記ボルトは、前記貫通孔を貫通して、前記家具の背板又は側板を前記係止片との間に挟持するためのボルト頭を備え、前記固定板は、前記ボルトと螺合させるためのネジ孔を備えることを特徴とする。
【0010】
以上の態様では、家具の背板又は側板に貫通孔が備えられているため、貫通孔にボルトを備えた固定板を挿入することにより、家具の背板又は側板をレールに固定することができ、ボルト及び固定板が家具の外側から見えることがなく、美観を損なわない。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記貫通孔は、前記固定板が貫通するが、前記ボルト頭が貫通しない大きさであることを特徴とする。
【0012】
以上の態様では、貫通孔は、固定板が貫通する大きさであるため、あらかじめ固定板にボルトを螺合連結させた状態で、家具の内側から、貫通孔に固定板を挿通させることができ、作業者は、家具の内側のみから、一連の固定作業を行うことができる。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1の固定具を用いて行う固定方法として捉えたものであって、壁面に設けられたレールに、前記レールに嵌合される固定板と、前記固定板に螺合連結されるボルトにより、家具の背板又は側板を固定する固定方法であって、前記レールは、断面略コの字状に形成され、前記レールのコの字内に挿入された前記固定板を係止する係止片を備え、前記ボルトは、前記家具の背板又は側板を、前記係止片との間に挟持するためのボルト頭を備え、前記固定板は、前記ボルトと螺合させるためのネジ孔を備え、前記家具の背板又は側板は、前記固定板が貫通するが、前記ボルト頭が貫通しない大きさである貫通孔を備え、前記家具を前記レールに近接させた状態において、前記ボルトを前記固定板のネジ孔に挿入し、前記貫通孔に、前記固定板を前記家具の内側から外側へ挿通させた後、前記固定板を前記レールに近接させ、前記ボルトを回転させるのに連動して前記固定板を回転させることにより、前記固定板が前記レールに嵌合し、前記ボルトを前記固定板に対してネジ締めすることにより、前記固定板と前記係止片とが当接し、前記家具の背板又は側板が前記ボルト頭と前記係止片とで挟持されることを特徴とする。
【0014】
以上の態様では、ボルトを備えた固定板が、家具の背板に設けられた貫通孔に、家具の内側から挿入されるため、ボルト及び固定板が家具の外側から見えることがなく、美観を損なわない。
【発明の効果】
【0015】
以上の本発明によれば、地震時における家具の転倒を防止するための、簡便で、かつ美観を損なわない、家具の固定具、固定構造及び固定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態の係る固定具の構成を示す全体斜視図。
【図2】本発明の実施の形態の係る固定構造の分解図。
【図3】本発明の実施の形態に係る固定具を用いて行う固定方法の手順を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[1.本実施形態]
[1−1.構成]
本実施形態の固定具100は、家具4を壁面Aに固定する部材である。固定具100は、レール1と、固定板2と、ボルト3とから構成される。また、固定具100は、図1に示すように、壁面Aに設けられたレール1に固定板2を嵌合させ、ボルト3とレール1とで家具4の背板を挟持し固定させて使用するものである。
【0018】
レール1は、レール下部11とレール上部12とを溶接接合することにより形成されている。レール下部11は略L字型であり、図2の下方より、レール下板111と、レール下板111から垂設されたレール背板112aと、レール背板112aに延設され、レール上部12と接合されるためレール上部12の厚み分の凹みを形成した曲板113とから構成される。一方、レール上部12は略Π字型であり、図2の上方より、レール上板122と、レール上板122の一方の端部から垂設したレール背板112bと、レール上板122の他方の端部から垂設されレール背板112bと対向する係止片121とから構成される。レール下部11とレール上部12とが断面略コの字状になるように、曲板113とレール背板112bとが溶接一体化される。曲板113が凹みを形成しているため、レール背板112aと背板112bとは同一面上に並設されている。
【0019】
固定板2は、図2に示すように、角部がR状に形成された略長方形状の板状体であって、基板21と、基板21に連設され、基板21に対して薄厚状に形成された突出片22とから構成される。基板21と突出片22との間には、段部24が形成されている。基板21は、中央にネジ孔23を有し、ネジ孔23の内側は、ネジ切加工されている。突出片22は、レール1の係止片121に係止されるように形成され、段部24は係止片121の下端と当接されるように形成されている。
【0020】
ボルト3は、図2に示すように、円筒形のボルト頭31と円筒形のボルト軸部32からなるノブボルトである。ボルト軸部32は、図1に示すように、家具4の背板40に設けられた貫通孔41(詳細は後述する)と固定板2に設けられたネジ孔23に挿入するものであり、ボルト軸部32の長さは、家具4の背板40の厚みより長く、家具4の背板40の厚みにさらにレール下板111の長さを加算した長さより短い。
【0021】
家具4は、通常公知の収納家具である。家具4の背板40には、貫通孔41が設けられている。貫通孔41は、垂直方向に長い略長方形であり、固定板2が貫通できるように固定板2よりやや大きめに形成されている。また、貫通孔41は、ボルト頭31が貫通できないように、貫通孔41の短辺は、ボルト頭31の直径より小さく形成されている。
【0022】
[1−2.作用効果]
以下、固定具100によって、家具4を壁面Aに固定する方法について説明する。
【0023】
まず、家具4の背板40を壁面Aに設けられたレール1に近接させる。そして、固定板2のネジ孔23へ、ボルト3のボルト軸部32を挿入し、固定板2にボルト3を螺合連結させる。次に、図3(A)に示すように、固定板2の突出片22が上端に位置した状態で、ボルト3を備えた固定板2を、家具4の背板40に設けられた貫通孔41へ、家具4の内側から挿入し、固定板2を家具4の外側へ挿通させる。このとき、家具4の外側には、図3(B)に示すように、ボルト軸部32の一部と、固定板2とが出た状態で、ボルト軸部32の一部と、ボルト頭31とは家具4の内側にとどまった状態にある。
【0024】
次に、水平方向に設けられたレール1のコの字内に固定板2を挿入するため、図3(B)に示すように、ボルト3を備えた固定板2を、固定板2の突出片22が上端に位置した状態から、固定板2の突出片22が固定板2の左端に位置するように、反時計回りに約90度回転させる。
【0025】
次に、図3(C)に示すように、ボルト3を備えた固定板2を、固定板2とレール背板112aとが平行になるように、レール背板112aに近接させ、ボルト3を時計回りに回転させる。ボルト3が回転するのに連動して、固定板2が回転する。それにより、図1に示すように、固定板2の上端部2aがレール上板122の内側面と当接し、固定板2の下端部2bがレール下板111の内側面と当接し、固定板2の段部24がレール1の係止片121の下端と当接し、固定板2がレール1に嵌合する。
【0026】
次に、ボルト3を時計回りに回転させると、ボルト3が固定板2のネジ孔にネジ締めされ、ボルト3のボルト頭31が、固定板2に接近する。これにより、レール1の係止片121と固定板2の突出片22とが当接し、かつ、ボルト3のボルト頭31と家具4の貫通孔41周縁部とが当接し、家具4の背板40がボルト頭31と、レール1の係止片121及び固定板2の基部21とに挟持される。
【0027】
本実施形態の固定具によれば、工具を使用することなく、ボルトを回転させるという作業のみで非常に簡単に家具を壁面に固定することができる。また、家具の固定場所を変更するために、ボルトや固定板を取り外すことも簡単に行うことができる。
【0028】
本実施形態の固定方法では、家具の背板に設けられた貫通孔は、固定板が貫通する大きさである。このため、あらかじめ固定板にボルトを螺合連結させた状態で、家具の内側から、貫通孔に固定板を挿通させることができ、作業者は、家具の内側のみから、一連の固定作業を行うことができる。よって、例えば、家具の内側から、貫通孔にボルトのみを挿通させ、家具の外側で、家具の外側に挿通されたボルトを固定板に螺合連結させ、再び、家具の内側から固定作業を行うといった煩雑な作業を行う必要がない。
【0029】
本実施形態の固定方法によれば、ボルトを備えた固定板が、家具の背板に設けられた貫通孔に、家具の内側から挿入されるため、ボルト及び固定板が家具の外側から見えることがなく、美観を損なわない。
【0030】
本実施形態の固定方法によれば、レールは水平方向に壁面に設けられ、家具の背板に設けられた貫通孔は垂直方向に長い略長方形である。そのため、レールで横方向の調整が可能であり、家具の背板に設けられた貫通孔で縦方向の調整が可能であることから、壁面の任意の位置に家具を固定することができる。また、このように、高さ調節が可能であることから、壁面と家具とが同一平面上にない場合や、家具がキャスター付きである場合にも、高さ調節することにより家具を壁面に固定することができる。
【0031】
本実施形態の固定方法によれば、固定板をレールと嵌合させる際、作業者がボルトを家具の内側に引きながら回転させることで、固定板の段部とレールの係止片の下端とを当接させ、固定板の位置決めを行うことができる。このような位置決めは、固定板の上下端をレール上板及びレール下板と当接させて、固定板をレールのコの字内で位置決めするよりも、寸法精度に精密さが要求されない。また、固定板の段部がレールの係止片の下端と当接することで、固定具を家具から取り外す際にも、固定板の回動を規制することができる。そのため、固定具を家具から取り外す際にボルトを逆回ししても、固定板が回動することがない。
【0032】
本実施形態の固定具では、固定板の角部がR状に形成されている。そのため、固定板がレールのコの字内で回転して、固定板の上下端がレール上板及びレール下板と当接する際に、固定板の角が引っかかることなくスムーズに回転させることができる。
【0033】
[2.他の実施形態]
本実施形態では、レール上板に係止片が垂設されているレールに家具を固定する方法を示した。しかし、レールのコの字内から固定板が出るのを抑えることができればよく、レールは、レール下板に係止片が垂設されていてもよい。また、レール上板及びレール下板両方に係止片が垂設されていてもよい。この場合、固定板は、その両端部に、前記2つの係止片と当接させる2つの突出片を備える。
【0034】
また、本実施形態では、レール上板とレール下板とが溶接接合されているレールの例を示した。しかし、レールは、断面略コの字状に形成されていれば、1枚の板からなるレールでもよい。
【0035】
本実施形態では、家具の背板に設けられた貫通孔が垂直方向に長い略長方形であって、レールが水平方向に配置されている例を示した。しかし、貫通孔は水平方向に長い略長方形であってもよく、レールが垂直方向に配置されていてもよい。
【0036】
また、本実施形態では、家具の背板に貫通孔が設けられている例を示した。しかし、壁面と家具とが接する形態であれば、壁面に家具を固定することができるため、貫通孔は、家具の側板に設けられていてもよい。
【0037】
本実施形態では、固定板が突出片を備え、段部が形成されている例を示した。しかし、固定板の上下端が、レールの上板及び下板と当接することにより、固定板をレールに固定することができれば、固定板は、突出片や段部を有さない単純な板状体であってもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 レール
2 固定板
3 ボルト
4 家具
11 レール下部
12 レール上部
21 基板
22 突出片
23 ネジ孔
24 段部
31 ボルト頭
32 ボルト軸部
40 背板
41 貫通孔
100 固定具
111 レール下板
112a、112b レール背板
113 曲板
121 係止片
122 レール上板
A 壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
家具を壁面に固定する固定具であって、
前記固定具は、前記壁面に設けられたレールと、前記レールに嵌合される固定板と、前記固定板に螺合連結されるボルトとから構成され、
前記レールは、断面略コの字状に形成され、前記レールのコの字内に挿入された前記固定板を係止する係止片を備え、
前記ボルトは、前記家具の背板又は側板を、前記係止片との間に挟持するためのボルト頭を備え、
前記固定板は、前記ボルトと螺合させるためのネジ孔を備えることを特徴とする固定具。
【請求項2】
壁面に設けられたレールに、前記レールに嵌合される固定板と、前記固定板に螺合連結されるボルトにより、家具の背板又は側板を固定する固定構造であって、
前記家具の背板又は側板は、貫通孔を備え、
前記レールは、断面略コの字状に形成され、前記レールのコの字内に挿入された前記固定板を係止する係止片を備え、
前記ボルトは、前記貫通孔を貫通して、前記家具の背板又は側板を前記係止片との間に挟持するためのボルト頭を備え、
前記固定板は、前記ボルトと螺合させるためのネジ孔を備えることを特徴とする固定構造。
【請求項3】
前記貫通孔は、前記固定板が貫通するが、前記ボルト頭が貫通しない大きさであることを特徴とする、請求項2に記載の固定構造。
【請求項4】
壁面に設けられたレールに、前記レールに嵌合される固定板と、前記固定板に螺合連結されるボルトにより、家具の背板又は側板を固定する固定方法であって、
前記レールは、断面略コの字状に形成され、前記レールのコの字内に挿入された前記固定板を係止する係止片を備え、
前記ボルトは、前記家具の背板又は側板を、前記係止片との間に挟持するためのボルト頭を備え、
前記固定板は、前記ボルトと螺合させるためのネジ孔を備え、
前記家具の背板又は側板は、前記固定板が貫通するが、前記ボルト頭が貫通しない大きさである貫通孔を備え、
前記家具を前記レールに近接させた状態において、前記ボルトを前記固定板のネジ孔に挿入し、前記貫通孔に、前記固定板を前記家具の内側から外側へ挿通させた後、前記固定板を前記レールに近接させ、
前記ボルトを回転させるのに連動して前記固定板を回転させることにより、前記固定板が前記レールに嵌合し、
前記ボルトを前記固定板に対してネジ締めすることにより、前記固定板と前記係止片とが当接し、前記家具の背板又は側板が前記ボルト頭と前記係止片とで挟持されることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−94399(P2013−94399A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239668(P2011−239668)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000000561)株式会社岡村製作所 (1,415)