説明

容積式気液二相流量計及び多相流量計測システム

【課題】液体及び気体からなる気液二相流の各流量を計測する際に、フローパターンの影響を受け難く、コンパクト且つ堅牢な構造で、広い流量範囲を精度良く計測するための容積式気液二相流量計を提供する。
【解決手段】容積式気液二相流量計10は、液体及び気体からなる気液二相流の気液総流量Qと、気液総流量に対する気体流量の割合(ガスボイド率β)とを計測し、これらの気液総流量Q及びガスボイド率βに基づいて液体及び気体の各流量を算出する。容積式気液二相流量計10は、気液総流量Qを計測する容積式流量計測室16を備え、容積式流量計測室16の前段に、気液二相流中の液体及び気体を混合する気液混合室14を設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容積式気液二相流量計及び多相流量計測システムに関し、より詳細には、パイプライン中を流れる液体及び気体からなる気液二相流の各流量を計測可能な容積式気液二相流量計及び該流量計を備えた多相流量計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
海洋油田等から産出される石油は、油に水やガスを含む油水気三相流(以下、多相流という)を形成しており、これらの相が分離されることなく、陸地に高圧移送された後、採油井採取工程を経て分離精製されるようになっている。そして、分離精製された油・ガスは、目的地に向けて送油・送ガスされると共に、水分は排水処理される。また、採油井採取工程の前の段階において、必要に応じて多相流体は採油井の管理や採取工程ないし出荷管理等のために各相の流量計測がなされるようになっている。
【0003】
上記において、従来の多相流における流量計測方法として、気体と液体とを分離させた後、それぞれを単相流の状態で計測するようにしたものが知られている。これによれば、多相流中の気体は物理的に液体から分離され、液体が2つの液相から構成されるときは、液の一部を抜き取ってその比率を求め、各々の流量を算出する。気体と液体の流量を計測するためにはそれぞれ一般的な単相流量計が使用される。
【0004】
しかしながら、この方法は高い精度をもたらすことができる一方で、大型且つ高価な気体分離装置を必要とするため、多大な設備費用がかかるという問題がある。そこで、この気体分離装置を不要とすべく、液体と気体とを分離せずに多相流のまま、液体と気体の各流量を同時に計測可能とする気液流量計が開発・製品化されている。
【0005】
既存の多くの気液流量計は、ベンチュリなどの運動量流量計を使用して気液総流量Qの計測を行い、気液総流量に占める気体流量の割合(以下、ガスボイド率βと称する)を、γ線や電気的特性などを利用して計測するのが一般的である。しかし、気液二相流は、気体と液体の各々の密度が大きく異なるため分離し易く、両者の速度差が大きくなりガスボイド率によってフローパターン(後述の図16を参照)が激変するので、運動量流量計などの推測方式では気液総流量Qを精度良く計測することは難しい。また、γ線や電気的特性などを利用してのガスボイド率βの計測は、γ線の場合には高価である上に人体への影響も懸念され、電気的特性の場合には流体中に含まれる塩分や重金属に敏感に影響される。
【0006】
従来の気液流量計に関して、例えば、特許文献1には、1つ又はそれ以上の運動量流量計と、1つの容積(体積)流量計とを使用して気液二相または油水気の三相流体の流量を測定するための装置が記載されている。また、特許文献2には、タービン型流量計による二相流体(気液)の流量計測方法が記載されている。また、特許文献3には、タービン型流量計による三相流体(気液々)の流量計測方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2790260号公報
【特許文献2】特許第2866021号公報
【特許文献3】特許第3678618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図15は、特許文献1に記載の気液二相を計測する多相流量計を示す概略図で、図中、101は圧力計測部、102は差圧計測部、103は温度計測部、104は容積流量計、105は回転子、106は運動量流量計を示す。容積流量計104を使用して回転子105の回転数ωを計測することで気液総流量Qを計測し、さらに下流に設置した運動量流量計106では差圧計測部102により2つの差圧ΔP1とΔP2を計測する。また、圧力計測部101は容積流量計104での圧力Pを計測する。図中のΔP0は、この圧力Pを運動量流量計106の入口部での圧力(P−ΔP0)に圧力換算するために使用されるものである。すなわち、差圧計測部102は、3ヶ所に設置され、ΔP0,ΔP1,及びΔP2の差圧を計測する。上記の気液総流量Qは以下の式により算出される。
【0009】
気液総流量Q=Q+Q …式(1)
差圧ΔP1=f1(Q,Q,ρ) …式(2)
差圧ΔP2=f2(Q,Q,ρ) …式(3)
但し、Qは液体流量、Qは気体流量、ρは液体の密度
【0010】
これらの3つの式から気液総流量Q、液流量Q、及びガス流量Qを求める。なお、液体の密度ρが既知の場合には差圧ΔPのみを計測すればよい。また、油水気の三相を計測する場合には、図15に記載の構成とは別に、油水中の水分率を計測する水分計(混合液体中の水濃度を測定する機器など)を取り付けるようにしている。
【0011】
上記において、第1の問題として、容積流量計の回転子が異物噛込みによって停止してしまうこと、容積流量計の回転子と本体内室の隙間が小さいため噛込み防止用に設置する濾過器網のメッシュが小さくなり、必要な濾過面積を確保するために濾過器のサイズが流量計の数段上のものとなり設置コストが高くなること、網の掃除を頻繁に行う必要があること、及び回転子の耐久性が悪いことなどが挙げられる。容積流量計は気液を流量計本体と回転子に閉じ込めて計測するため、従来の技術では本体と回転子の隙間を微少(約0.1mm以下)にする必要があり、そのため流体中に含まれる異物噛込みによって回転子を停止させてしまう事故を起こし易いといわれている。従って、上述したように流量計の前段に濾過器の設置が必要とされる。
【0012】
また、一対の回転子の駆動、従動が交互に代わり歯面同士が衝突するため磨耗が促進され、回転子の耐久性が悪いという欠点がある。容積流量計を超音波流量計やタービン流量計に置き換えればこのような問題を解決することができるが、この場合、下記の図16に示すような気液のフローパターンの変動による影響を受けて気液総流量の計測精度が大幅に劣化してしまう。
【0013】
第2の問題として、差圧計測に運動量流量計を用いることが挙げられる。ここで、気液二相流の水平管内における流動様式について簡単に説明する。気液二相流は、気液各々の流速の組み合わせによって様々な流動様式をとることが知られている。これらの流動様式(フローパターン)を図16に示す。図16(A)は成層流、図16(B)は波状流、図16(C)は環状流、図16(D)は気泡流又はせん状流、図16(E)はスラグ流、図16(F)は図16(C)とは異なる環状流、図16(G)は気泡流、図16(H)は環状噴霧流を示す。
【0014】
差圧計測に運動量流量計を用いる場合、気液二相流は、各々の密度が大きく異なるため分離し易く両者の速度差が大きくなり、ガスボイド率によって、図16に示すようにフローパターンが激変するので、良好な差圧の計測が出来ない。仮にミキサーを用いたとしても液相、ガス相が交互に流れるようなフローパターン(図16(D),(E))を改善することは出来ない。従って、差圧の良好な計測特性が得られるガスボイド率の範囲を限定するなどの対応が必要となる。
【0015】
また、図15に示した容積流量計104と運動量流量計106とは距離をおいて設置されているため、回転子105の回転数ωの出力と気液二相流体の差圧ΔP(ΔP0,ΔP1,ΔP2)の出力との間に時間差が発生する。従って、運動量流量計106が液相、気相、及び気液相が時間と共に変化する気液特有のフローパターンの影響を受ける上に、上記の回転数ω及び差圧ΔPにより計算される気液総流量Qとガスボイド率βも時間的にずれたものとなって精度良く計測することができない。
【0016】
図17は、特許文献2,3に記載の多相流量計を示す概略図である。図17(A)は特許文献2に記載のタービン型気液二相流量計を示し、図17(B)は特許文献3に記載のタービン型気液々三相流量計を示す。図中、107,108は差圧計測部、109はタービン翼車、110は混合器、111はツインタービン翼車を示す。
【0017】
図17(A)に示す特許文献2に記載の構造と、図17(B)に示す特許文献3に記載の構造とで異なる点は、図17(A)に示す構造は、一般的なタービン流量計の構造で1つのタービン翼車109から構成されているのに対し、図17(B)に示す構造では、ミキサー(混合器110)を内蔵している点と、ツインタービン翼車111(一対のタービン翼車)としている点である。そして、気液二相流の計測は、ガスボイド率をβ、差圧をΔPM、タービン翼車の回転数をωとすると、
気液総流量Q=f(ω、β) …式(4)
差圧ΔPM=f(Q、β) …式(5)
で表される。
【0018】
上記2つの式から気液総流量Qとガスボイド率βを求めることができる。そして、液体及び気体の流量QとQは、
液体流量Q=Q*(1−β)、気体流量Q=Q*β …式(6)
として求めることができる。
【0019】
また、気液々三相流計測は、図17(B)により、ツインタービン翼車(翼の流入角が異なる組合せ)の前後の位相差θを検出することで、質量流量をMM=f(θ)として求め、予め気液々三相の各密度を既知であることを前提に、先に求めた気液総流量Qとガスボイド率βから液々二相の平均密度を求めて液々二相の比率を算出し、先に求めた液体流量Qから液々二相の各流量を求めることで達成される。
【0020】
これらの方式は、コンパクトな構造であるという特徴を有するが、次に述べる問題がある。タービン翼車の回転数ωは、フローパターンに直接関係するので、図16に示したような気液流特有のフローパターンの激変がそのまま気液総流量Q(上記式(4))の計測精度を劣化させてしまう。気液二相流のフローパターンは、主としてガスボイド率βによって決定されるので、気液総流量Qが計測出来る範囲は、回転数ωがガスボイド率βの変化に対して一定の関係を維持できる範囲に限られてしまうことになる。
【0021】
また、上述したツインタービン翼車方式による液々二相の各流量を求める手法は、一対のタービン翼車の位相角差(流体の流れ方向に対して前後に配置された翼車の回転方向の位相角のずれ)が流体の質量流量に比例するということを前提にしているが、この前提は上述したフローパターンの激変の中では回転数ωとガスボイド率βとの関係により必ずしも成り立たない。
【0022】
また、一般的に液々二相の平均密度ρを求めて液々二相(各々の密度ρL1、ρL2とする)の比率αを算出する式は、
α=(ρ−ρL2)/(ρL1−ρL2) …式(7)
で表される。
【0023】
ここで、平均密度ρの誤差をγρ/ρとすると、比率αの誤差は、
γα/α=1/(ρL1−ρL2)*γρ/ρ …式(8)
で表される。
【0024】
上記式により、後者(比率α)の誤差は、前者(平均密度ρ)の誤差に対し2つの液の密度差分の1に拡大することになる。例えば、水と原油の場合、その差は0.15g/ml程度であるので7倍程度拡大する。従って、平均密度計測は高い精度が求められるが、上述したフローパターンの激変を考慮するとツインタービン翼車方式では高い精度を実現することは難しいものと考えられる。
【0025】
本発明は、上述のごとき実情に鑑みてなされたものであり、液体及び気体からなる気液二相流の各流量を計測する際に、フローパターンの影響を受け難く、コンパクト且つ堅牢な構造で、広い流量範囲を精度良く計測するための容積式気液二相流量計及び該流量計を備えた多相流量計測システムを提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記課題を解決するために、第1の技術手段は、液体及び気体からなる気液二相流の気液総流量と、該気液総流量に対する気体流量の割合とを計測し、前記気液総流量及び前記気体流量の割合に基づいて液体及び気体の各流量を算出する容積式気液二相流量計であって、前記気液総流量を計測する気液総流量計量室には気液流特有のフローパターンの影響を受けない容積式流量計測室を備え、該容積式流量計測室の前段に、前記気液二相流中の液体及び気体を混合する気液混合室を設けたことを特徴としたものである。
【0027】
第2の技術手段は、第1の技術手段において、前記容積式流量計測室と前記気液混合室とを一体構造としたことを特徴としたものである。
【0028】
第3の技術手段は、第1又は第2の技術手段において、前記容積式流量計測室に設けられた回転子の回転数と、前記気液混合室の前段と前記容積式流量計測室の後段との差圧とを同時に検出し、該検出した回転数及び差圧に基づいて前記気液総流量及び前記気体流量の割合を算出することを特徴としたものである。
【0029】
第4の技術手段は、第3の技術手段において、前記気液総流量は、前記気体流量の割合に対する前記回転子の回転数の回転比特性から前記気液総流量算出式を導き、前記気体流量の割合は、液体のみを流したときの第1の差圧と、該液体の流量を一定のまま気体の流量を順次増加させたときの第2の差圧との差圧倍率特性から前記気体流量の割合算出式を導き、これら2つの算出式から前記気液総流量と前記気体流量の割合を求めることを特徴としたものである。
【0030】
第5の技術手段は、第1〜第4のいずれか1の技術手段において、前記気液混合室は、前記容積式流量計測室に着脱可能としたことを特徴としたものである。
【0031】
第6の技術手段は、第1〜第5のいずれか1の技術手段において、前記容積式流量計測室に設けられた回転子は、非円形歯車で構成され、該非円形歯車は、歯数を4n+2枚(nは自然数)、長軸上の両端を歯溝、短軸上の両端を歯先、噛合歯面を相互の噛合点が多少ずれていてもスムーズに噛合うような曲線(例えば、インボリュート曲線)、非噛合歯面を工具圧力角が0°で加工し易く且つ前記噛合歯面と非噛合歯面からなる歯形において歯先から歯元までの厚さの変化が少なく歯形強度が確保できるような曲線(例えば、サイクロイド曲線)とした歯形曲線を有することを特徴としたものである。
【0032】
第7の技術手段は、第6の技術手段において、前記非円形歯車は、前記歯形曲線に基づいて、前記長軸上の両端にある歯溝を含む、該歯溝を挟んだ2つの歯形間の凹部を埋め、且つ、前記短軸上の両端の歯先を含む歯部を削った、歯数が4n−2枚の形状を有することを特徴としたものである。
【0033】
第8の技術手段は、第6又は第7の技術手段において、前記非円形歯車の歯数を表すnについて、nの値を3又は4としたことを特徴としたものである。
【0034】
第9の技術手段は、第6〜第8のいずれか1の技術手段において、前記容積式流量計測室の内壁と前記回転子との間に、所定長より大きな隙間を設けたことを特徴としたものである。
【0035】
第10の技術手段は、気体と二種類の液体とからなる気液々三相流パイプラインに、第1〜第9のいずれか1の技術手段における容積式気液二相流量計を設置し、該容積式気液二相流量計の後段又は前段に、前記液体を構成する2つの液相成分を検出し、各液相成分の割合を計測する液々二相流量計を設けることで前記気液々三相流における気液々総流量と、該気液々総流量に対する気体流量の割合と、液々の混合割合とを求めて、気液々の3つの各々の流量を算出する多相流量計測システムに拡張することを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、気液総流量の計測には容積流量計を採用し、ガスボイド率の計測には流量計の前後の差圧を検出する方式とし、これらにより回転子の回転数と差圧とを同時に計測することができるため、液体及び気体からなる気液二相流の各流量を計測する際に、フローパターンの影響を受け難く、コンパクト且つ堅牢な構造で、広い流量範囲を精度良く計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態に係る容積式気液二相流量計の構成例を示す図である。
【図2】本発明に係る回転比特性εを示すグラフである。
【図3】本発明に係る差圧倍率特性を示すグラフである。
【図4】図1に示した流量計を備えた多相流量計測システムの構成例を示す図である。
【図5】容積流量計に使用される歯形の一例を示す図である。
【図6】歯元付近で発生する工具による切下げを説明する図である。
【図7】本発明に係る回転比特性εが気液混合室の有無によって変化する様子を説明するためのグラフを示す。
【図8】本発明に係る差圧倍率特性が気液混合室の有無によって変化する様子を説明するためのグラフを示す。
【図9】実験結果を示すグラフである。
【図10】実験結果を示すグラフである。
【図11】実験結果を示すグラフである。
【図12】実験結果を示すグラフである。
【図13】実験結果を示すグラフである。
【図14】実験結果を示すグラフである。
【図15】特許文献1に記載の気液二相を計測する多相流量計を示す概略図である。
【図16】流動様式(フローパターン)を示す図である。
【図17】特許文献2,3に記載の多相流量計を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の容積式気液二相流量計及び該流量計を備えた多相流量計測システムに係る好適な実施の形態について説明する。なお、各図において、同じ構成要素には、同じ符号を付し、繰り返しの説明は省略するものとする。
【0039】
図1は、本発明の一実施形態に係る容積式気液二相流量計の構成例を示す図で、図中、10は容積式気液二相流量計(以下、単に流量計という)を示す。この流量計10は、気液混合室14の入口付近の圧力を計測する圧力計測部11と、気液混合室14の前段と流量計測室16の後段との差圧を計測する差圧計測部12と、気液二相流の温度を計測する温度計測部13と、気液二相流中の液体及び気体を均一に混合する気液混合室14と、流量計測室16内に形成された本体内室15と、容積流量計で構成される流量計測室16と、本体内室15に設けられた一対の回転子17とを備え、本体内室15と回転子17との間には隙間18が形成されている。
【0040】
前述の図16で説明したように、パイプライン中を流れる気液流は、気体と液体の密度が大きく異なるため分離し易く、また、気液各々に大きな流速差が生じるため流動変動が激しく、様々なフローパターンを形成する。本発明では、流量計測室16として、フローパターンの変化の影響を受け難い容積流量計を使用し、さらなる流量計測の精度向上のため以下の2つのことを行う。
【0041】
第1として、本発明は、気液総流量の計測に気液流特有のフローパターンの影響を受け難い容積式流量計を採用しているが更なる計測精度向上のため流量計測室16の前段に気液混合室14を設け、気液を混合均一化して、容積を計測する回転子17の回転効率を良くした。気液混合室14には、例えば、静止型混合器を用いて、この静止型混合器として、気液を均一化し、気液二相流量計10の差圧倍率特性(後述の図3)を良くするために適当な形状抵抗係数を有するものを使用している。
【0042】
この気液混合室14は、気液流における気相と液相を混合し、又、大きく成長した気泡を細分化して液相と混合するなど気液の均一化を目的に複数の混合エレメントを流体の流れ方向に対して任意の方向に組み合わせて構成されたもので、流量計測室16に着脱可能としてもよい。また、図1では流量計測室16と気液混合室14とを一体構造とした場合について示しているが、気液混合室14を別体として、フランジ等を介して流量計測室16に接続してもよい。別体とした場合、回転子17の回転数ωと、気液混合室14の前段と流量計測室16の後段との差圧ΔPとを同時検出するためには、流量計測室16と気液混合室14をできるだけ近接させて設置したほうが好ましい。
【0043】
上記の一体構造とすることで、回転子17の回転数ωと、気液混合室14の前段と流量計測室16の後段との差圧ΔPとを同時に検出することができる。そして、これらの回転数ωと差圧ΔPに基づいて気液総流量Q及びこの気液総流量Qに対する気体流量の割合である気体容積率(ガスボイド率β)を精度良く計測することができるため、液体及び気体からなる多相流の各流量を計測する際に、フローパターンの影響を受け難く、コンパクト且つ堅牢な構造で、広い流量範囲を精度良く計測することができる。
【0044】
第2として、気液総流量Qの計測に関して補正式を導入した。気液総流量Qを計測する際に、ガスボイド率βが大きくなるに従い、気液総流量Qに対する回転子17の回転数ωが減少(すなわち、気液総流量Qの計測が減少傾向)を示すことから、このガスボイド率βに対する回転数ωの特性を回転比特性εとし、予め実験によって、
ε=f(β) …式(9)
を得ておく。そして、気液総流量Qを、
=Mf*ω/ε …式(10)
として表す。この式(10)は本発明の式aに相当する。ここでMfは、液相単体の時の回転子1回転あたりの液相容積(l/rev.)である。
【0045】
図2は、本発明に係る回転比特性εを示すグラフである。図中、縦軸に回転比ε、横軸にガスボイド率βを示す。実験の諸元については後述する。この近似式により、例えば、ε=1.012e−0.0562(1−β)が得られる。なお、eは自然対数である。
【0046】
また、前述したように、容積流量計によれば、気液特有のフローパターンの激しい変化に関わらず、精度良く流量計側を行うことができるが、容積を計測する回転子の歯形強度が弱く、気液流量の急激な変化時に歯形が破損したり、耐久性が悪かったりといった問題があった。これらの問題を解決するために、本発明では回転子17として、後述の図5(B)に示す強固な非円形歯車を採用した。また、回転子軸は、一方を固定し、他方を支持構造とした両持ち構造とし、軸受け構造は、スリーブをスラストプレートを介して軸側に固定した。また、軸受は、ロータに圧入し、回転子が回転するときのランニングクリアランスとスラスト遊びを確保し、スムーズな回転を可能としている。また、材料としては、回転子軸にはSUS、軸受には超硬合金を採用し、耐久性を向上させている。
【0047】
上記の非円形歯車は、本体内室とのシール性が良く、本体内室と回転子の隙間を従来の容積流量計に比べ数倍程度大きくできるため、濾過器の網の目のサイズを大きく採ることができる。このため流体に含まれる不純物が網に付着し、これを取り除くための掃除を頻繁に行う必要がなくなる。
【0048】
次に、気液総流量Q及びガスボイド率βから気体と液体各々の流量を求める手法について説明する。気液混合室14の前段と流量計測室16の後段との間で発生する差圧ΔPについて、液体のみを流したとき(液体単相流時)の第1の差圧をΔPとし、これに気体流量を加え液体流量を一定のまま、気体流量を順次増加(ガスボイド率βを増加)させたときの第2の差圧をΔPとし、差圧ΔPと差圧ΔPとの差圧倍率を、
ΔP/ΔP=(1−β)−Z …式(11)
と表す。ここで、Zは、差圧倍率指数と称し、予め実験により求めておく。
【0049】
図3は、本発明に係る差圧倍率特性を示すグラフである。図中、縦軸に差圧倍率、横軸に液ボイド率(1−β)を示す。実験の諸元については後述する。この近似式により、例えば、ΔP/ΔP=(1−β)−Zにおける差圧倍率指数Zは0.8762として求められる。
【0050】
また、差圧ΔPは、液体の密度をρLとすると
ΔP=C*1/2*ρL{(Q(1−β)/A} …式(12)
であることから、式(11)に代入し、
ΔP=C*1/2*ρL*(1−β)2−Z*(Q/A) …式(13)
が得られる。この式(13)は本発明の式bに相当する。ここで、Cは気液混合室14と流量計測室16とを合算した形状抵抗係数、Aは気液混合室14の入口断面積である。
【0051】
気液総流量Qとガスボイド率βは、上記の式(10)と式(13)から求めることが出来る。尚、気液流特有の激しいフローパターンの変化に対し、流量計10は一体構造となっているため、気液混合室14の前段と流量計測室16の後段との差圧ΔP及び回転子17の回転数ωの2つの計測は同時計測となる。このため、フローパターンの影響を受けることなく、気液総流量Qとガスボイド率βの計測精度を向上させることができる。なお、液体及び気体のそれぞれの流量Qと流量Qは、
=Q*(1−β)、Q=Q*β …式(14)
として算出される。
【0052】
図4は、図1に示した流量計10を備えた多相流量計測システムの構成例を示す図で、図中、20は液々二相流量計を示す。この液々二相流量計20は、流量計10の後段又は前段に設けられ、液体を構成する2つの液相成分を検出し、各液相成分の成分比率(割合)を計測するものである。液々二相流量計20は、パイプラインに取り付けられ差圧を発生させる差圧発生板21と、気液二相流から液相成分(混合液体)を抽出する液相抽出部22と、抽出した混合液体の流量を調節する液流量調節弁23と、液流量調節弁23から出力された混合液体を均質化して混合液体密度を均一にするホモジナイザ24と、公知のコリオリ質量流量計であるコリオリメータ25とを備える。この液々二相流量計20は、例えば、特許第4137153号公報に開示されている公知の技術であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0053】
このように、本発明は、気液二相流を計測する流量計10の後段又は前段に、液々二相流量計20を接続して気液々三相流量計測システムの形態としてもよい。液々二相流量計20としては、例えば、図4に示したように、主管からバイパス側に液相抽出部22とコリオリメータ25を組み合わせたものを設置することで、水分率の計測が可能となるため、気液々(例えば、ガス,水,油)の三相流の計測を行うことが可能となる。
【0054】
本発明による容積式気液二相流量計によれば、コンパクト且つ安価な構造で、広い流量範囲を精度良く流量計測することができる。具体的には、気液総流量Qの計測に対して原理的にフローパターンの影響を受け難い容積流量計を採用し、ガスボイド率βの計測には計測流体中に含まれる重金属や塩分などの影響を受けず、且つ、安価な手法である流体の運動量(流量計の前後の差圧)を検出する方式とした。また、油田などの油水気三相流の計測に対しては、この容積式気液二相流量計に、油水中の水分率を計測可能な液々二相流量計、例えば図4に示す流量計(特許第4137153号)を組み合わせて行うことができる。
【0055】
ここで、気液二相流計測を行う場合、気液総流量Qとガスボイド率βを求めることが必要である。前述の特許文献1(特許第2790260号公報)に記載の技術の場合、前述の図15で示したように容積流量計104からの1つの回転子105の回転数ωと、直列配置した運動量流量計106からの2つの運動量(差圧ΔP1,ΔP2)の出力とに基づいて、気液総流量Qとガスボイド率βを算出するのに対して、本発明による気液二相流計測の場合、図1に示すように流量計測室(容積流量計)16から1つの回転子17の回転数ωの出力と1つの運動量(気液混合室14の前段と流量計測室16の後段との差圧ΔP)の出力とに基づいて、気液総流量Qとガスボイド率βを算出するため、別個に運動量流量計を必要とせず、シンプルな構造にすることができる。
【0056】
また、前述の図15において、容積流量計104から離れて設置された運動量流量計106では液相、気相、及び気液相が時間と共に変化する、前述の図16(D),(E)に示したような気液特有のフローパターンの影響を受けてしまい、差圧ΔP1,ΔP2を精度良く計測することはできない。さらに、容積流量計104と運動量流量計106とは距離をおいて設置されているため、回転子105の回転数ωの出力と気液二相流体の差圧ΔP1,ΔP2の出力との間に時間差が発生する。そうすると、これらにより計算される気液総流量Qとガスボイド率βも時間的にずれたものとなって精度良く計測することはできない。これに対して、本発明による容積式気液二相流量計の場合、一体化構造となっているため、同時に計測することが可能となり、フローパターンの影響を受けることがなく、高精度の計測を行なうことができる。
【0057】
図5は、容積流量計に使用される歯形の一例を示す図である。図5(A)は図14に示した従来の容積流量計の歯形を示し、図5(B)は図1に示した本発明の容積流量計の歯形(特許第382765号公報を参照)を示す。図15に示した従来の容積流量計104では、図5(A)に示すように、回転子105として従来技術である楕円形歯車を使用している。この従来技術による歯形は、長軸部における歯形の切り下げなどの干渉を避けるために歯形モジュールを小さくして歯数を多くしている。
【0058】
これに対して、図1に示した本発明の流量計測室(容積流量計)16に設けられた回転子17は、非円形歯車であり、図5(B)に示すように、歯数を4n+2枚(nは自然数)、長軸上の両端を歯溝、短軸上の両端を歯先、噛合歯面を相互の噛合点が多少ずれていてもスムーズに噛合うような曲線(例えば、インボリュート曲線)、非噛合歯面を工具圧力角が0°で加工し易く且つ噛合歯面と非噛合歯面からなる歯形において歯先から歯元までの厚さの変化が少なく歯形強度が確保できるような曲線(例えば、サイクロイド曲線)とした歯形曲線を有するものである。そして、非円形歯車は、この歯形曲線に基づいて、長軸上の両端にある歯溝を含む、歯溝を挟んだ2つの歯形間の凹部を埋め、且つ、短軸上の両端の歯先を含む歯部を削った、歯数が4n−2枚の形状としてもよい。すなわち、回転子17として、図5(B)に示すように、短径部の1枚の歯171を欠歯として、その部分に噛み合う長径部の2枚の歯172と173の間を埋めた大きな歯174を形成してもよい。
【0059】
大きな歯174を形成することで回転子17の頂辺を格段に大きくすることができる。本体内室15と回転子17との隙間18が従来歯形の線から面となるのでシール性が飛躍的によくなる。逆に言えば、本体内室15と回転子17との隙間18を大きくしても流量の計測精度を維持することが出来る。この歯形を使用することで、本体内室15と回転子17との隙間18を所定長(例えば、0.1mm)より大きく広げることができる。油田などの原油計測に容積式流量計を使用する場合、原油中に含まれるスラッジの噛込みによる回転子の回転停止を防止するため流量計の前段に濾過器を設置するのが一般的であり、この場合、濾過器の網のメッシュは隙間18より小さくする必要がある。従来、必要な濾過面積を確保するため濾過器のサイズは流量計より数段上のものを使用していたが、上記のように隙間18を大きくとることで網のメッシュも大きく出来、濾過器のサイズは流量計と同等程度になるメリットが生じる。
【0060】
図5(B)に示す非円形歯車は、上記の特許第3827655号公報に開示されているもので、歯形モジュールを大きく歯数を少なくすることが出来、また、噛合圧力角の変化が少ないため噛合歯面における工具圧力角の設定がやりやすく、オーバハング部を形成することなく歯数を少なくすることができる。具体的な歯数は、前述した通り4n+2枚(nは自然数)又は4n―2枚として表され、歯数を少なくする目的に適うnの値は次に述べる通り3又は4が好ましい。以後、この非円形歯車の歯形をR4歯形と称する。
【0061】
本発明による非円形歯車の噛合歯面を滑らかな一つの曲面に加工するための歯数の最小値は実際上14(n=3、4n+2)枚または10(n=3、4n−2)枚である。この理由について以下に説明する。
n=3未満の枚数では図6(A),(B)に示すように、歯元付近で工具による切下げが生じ、この切下げ部が相手側歯車の歯先付近と噛み合うとき、相手歯先部が切下げ部に入り込み滑らかな回転が失われる。一方、n=3の上記枚数では切下げは生じない。従って、一対の歯車が滑らかに回転するために必要な最小枚数は14枚または10枚であり、実際に適用できるnの最小値は3となる。この値(n=3)は切下げを生じさせないぎりぎりの値となるが、工具の取付誤差などによって僅かに切下げが起こることも想定される臨界値と言える値である。しかしながら、歯形の強度としては、最も大きな歯形を得ることができる。
【0062】
また、歯数を18(n=4、4n+2)枚または14(n=4、4n−2)枚とした場合、すなわち、n=4の枚数では切下げは全く生じないため、計測精度が落ちることなく、歯形の強度もほぼ十分なものを得ることができる。一方、歯数を大きくするに従い歯形は小さくなり、66枚とすると従来歯車の歯数(図5(A))となり、この場合のnの値は16である。よって、3≦n<16の範囲にすることが考えられるが、本発明による非円形歯車は、歯車の長短径長に対して相対的に大きな歯形の強度のある歯車の採用を目的としていることから、n=4がより好ましい。
【0063】
ここで、本発明の容積式気液二相流量計は、油田における油水気三相流の計測を目的とした流量計であり、バルブの開閉などによって生じる激しい衝撃圧(ウォータハンマ)による歯車に対する衝撃力、または、計測流体中に含まれる微細な固形物の計測室内への進入などに対応するために、強固な歯形を有した非円形歯車が要求される。この場合、先に述べたn=3では僅かな切下げが生じる可能性があり、歯車の噛み合いが多少劣るにしても、計測精度に対する影響は微々たる程度なので頑強な歯形が必要な条件下では、n=3は実用の範囲といえる。以上から、計測条件を満たすnの値は、3又は4が好適な値となる。
【0064】
図5(A)に示す従来歯形と、図5(B)に示すR4歯形とを相対比較して以下に説明する。配管径を2インチとした場合、R4歯形の歯数は、4n―2枚においてn=4を採用し14枚、従来歯形の歯数は66である。歯形強度は、従来歯形に対し曲げ強度が計算上5倍、衝撃力に対しては相互比較実験をしたところ10倍以上となった。容積の計測は、回転子の回転によって本体内室と回転子との間に閉じ込められた流体を送り出すことにより、流体の容積を計測する。この際、一対のロータの駆動、従動が交互に変化するため回転子の歯に繰り返し曲げ応力が作用する。その上、気液流では、前述の図16に示すように、気液の流量や混合の割合によりフローパターンが多様に変化するので、上述した繰り返し応力が大きく変動する。又、油田などの油水気三相流を送油するパイプラインには開閉バルブ停止などによるウォータハンマー発生による衝撃力が回転子に作用する。
【0065】
このため、液体のみや気体のみの単相流の計測に対して、気液二相流では回転子の歯形の強度が要求されるが。本発明ではR4歯形を採用したことにより、強度が増し、耐久性が大幅に向上する。更に、R4歯形は本体内室とのシール性がよいため回転子と本体との隙間を大きくすることが出来る。上述した通り、容積の計測は、本体内室と回転子との間に形成される三ヶ月状の容積に流体を閉じ込めて、流体を連続的に送り出すことにより行われる。この際、三ヶ月状の両端の隙間が大きいと流体が漏洩し、良い計測精度が得られない。この場合の間隙は回転子の長軸部と本体内室との隙間である。
【0066】
図5(B)を参照すると、R4歯形は、短軸部の歯を欠歯とし、長軸部の2枚の歯を一つに形成することが出来るため、隙間を線から面に出来、飛躍的にシール性が良くなる。そのため従来の歯形では少なくとも約0.1mm以下となるよう調整された間隙をこの数倍に広げることが出来る。また、本発明では、シールが面となったことで気液流中の無数の大きさの異なる気泡の一部が隙間に侵入し、流れを一時的に遮断する相乗効果も生じ、具体的には約0.3〜0.5mm程度に拡大することができた。これは、水と空気の場合なので、原油など粘度の高い液体とガスの組合せでは更に拡大出来るものと予測される。
【0067】
これにより、本発明では、容積流量計の上流に設置しなければならない濾過器の網の目を荒くすることでき、網の濾過面積を広く出来るので濾過器の容量を小さくすることが出来る。これによりコストを低減し、又、従来生じていた泥状の異物による網の目詰りを頻繁に清掃する必要がなくなり、メンテナンス性を向上させることができる。
【0068】
図7は、本発明に係る回転比特性εが気液混合室の有無によって変化する様子を説明するためのグラフを示す。図中、縦軸は回転比、横軸はガスボイド率βである。このグラフは、前述の式(9)で説明した回転比ε=f(β)を示し、図1に示した気液混合室14がある場合とない場合とで特性がどのように変化するのかを示したものである。気液混合室14を設置することで、R4歯形の回転は、ガスボイド率βの増加に対して平坦化する傾向(すなわち、回転が抑制される傾向)となり安定してくることがわかる。容積流量計16では、原理的にフローパターンの影響を受けない構造を有しているが、気液混合室14を前段に設けることで、気液流量の計測精度を向上できることが確認できた。
【0069】
図8は、本発明に係る差圧倍率特性が気液混合室の有無によって変化する様子を説明するためのグラフを示す。容積流量計16の口径は2インチ、液流量は6m/hで一定とする。図中、縦軸は差圧倍率、横軸は液ボイド率(1-β)である。気液混合室14を容積流量計16の前段に設けることで、気液容積中に占める液体容積の割合を示す液ボイド率(1-β)に対して、R4歯形の変動が抑制されていることがわかる。
【0070】
以下、本発明の効果について実験結果に基づいて説明する。
1.容積型気液二相流量計(図1)の諸元
・口径:2インチ
・回転子:長軸径×丈=75.038mm×84.865mm
・R4歯形:モジュール:3.1、歯数:18、回転子と本体内室との間隙:0.3〜0.5mm
・軸受構造:両持ち,平軸受、内径:14mm
・気液混合室と流量計測室の流体に対する形状抵抗係数:31.4
・流量計のFS流量:20m/h
【0071】
2.気液二相流の試験範囲
流量計のFS流量は、20m/hである。水と空気各々の試験流量を合算した流量の上限を20m/hとし、ガスボイド率が0〜97%になるように各試験流量を設定した。なお、水用の基準流量計の下限は0.6m/hで、水用ポンプの上限は14m/hである。
・試験に用いた流体:水と空気
・試験流量:水 0.6〜14m/h、空気 0〜18m/h
・ガスボイド率β:0〜97%
・圧力:0.1〜0.3MPaA、温度:常温
・回転比特性:ε、差圧倍率:ΔP/ΔP
ここでは、気液総流量Qを、Q=Mf/ε*ωとして算出する。ε=f(β)は、予め実験により求めるが、前述の図2の近似式から、ε=1.012e−0.0562(1−β)が得られる。eは自然対数である。また、ΔP/ΔP=(1−β)−Zにおける指数Zは、前述の図3からZ=0.8762と求めることができる。
【0072】
3.試験結果の評価
ここでは、水が流れる配管に液体計測用基準流量計を、空気が流れる配管に気体計測用基準流量計をそれぞれ取り付けて、水と空気各々の基準流量を設定し、水と空気の総基準流量と基準ガスボイド率(水と空気の総流量に対する空気流量の割合)を求めた。そして、それらの配管の下流で合流させた後に本発明の容積式気液二相流量計を設置し、この容積式気液二相流量計から求めたガスボイド率、水と空気の総流量、水流量、空気流量の各計測値と各基準値とを比較評価した。
【0073】
・ガスボイド率βの計測
図9に、基準ガスボイド率βと計測ガスボイド率βとの比較及び絶対誤差(計測ガスボイド率βから基準ガスボイド率βを差し引いた数値:%で表示)を示す。絶対誤差%は、基準ガスボイド率βが0.2以下で“±6%”程度、0.2以上0.97以下で、“−4〜2%”程度となり、市販されている一般的な気液二相流量計と比べて広いガスボイド率範囲で良好な計測精度を示している。
・水と空気総流量、水流量、空気流量の計測
気液総流量に関して、図10に、基準気液総流量QM0と計測気液総流量QM1(m3/h)との比較及び基準気液総流量QM0に対する計測気液総流量QM1の相対誤差(%)を示す。また、水流量と空気流量に関して、前述した気液総流量と同じ方法で水流量Qを図11に、空気流量Qを図12に示した。これらについても、市販されている一般的な気液二相流量計と比べて良好な計測精度が得られている。
【0074】
図10において、水と空気の総流量の計測では、相対誤差(%)が“−2〜4%”程度であり、良好な結果を示す。また、図11に示す水流量、図12に示す空気流量の各流量では、相対誤差(%)が“±10%”程度であり、従来の多相流量計と比較して計測精度では同程度といえるが計測範囲は1:10以上(従来の多相流量計では1:3程度)であり広くとることができる。FS流量(20m3/h)から1/3〜1/4程度の範囲(水:図11で5m/h、空気:図12で7m3/h)では“±5%”程度を確保できており、本発明の目的である広い流量範囲で、計測精度が良く、安価で、コンパクトな容積式気液二相流量計を実現することができた。
【0075】
4.気液々三相流の計測
気液々三相流の場合、図4に示すバイパス管に設置したコリオリ流量計と組み合せて行うが、この方式を使用した基準水分率(ここでは水とA重油)の計測精度(計測水分率α1と基準水分率α0の差)は図13に示すように、“±1%”程度である。気液々三相流における液々の合計流量の計測精度は、上述した水の計測精度(図11)と同程度と考えられるので、例えば、“±5%”とすると、これに前述した水分率(液々)の計測精度±1を加えて、±6%程度と推定することができる。
【0076】
5.気液二相流及び気液々三相流の計測範囲
上記の図9〜図13で試験した範囲をグラフに示すと図14に示すようになる。図14において、縦軸は液流量(m3/h)、横軸はガスボイド率βである。従来の多相流流量計と比較すると範囲の広いものとなっている。なお、液流量を0.6〜18m3/h、ガスボイド率βを0〜0.97(最大)としている。図14によれば、液流量の最大値は、18m/hであることが読み取れる。ここで、液流量をQ、ガス流量をQで表すと、ガスボイド率βは、β=Q/(Q+Q)となる。なお、Q+Qの上限(最大流量)を20m/hとし、この範囲で試験を実施した。
【符号の説明】
【0077】
10…容積式気液二相流量計、11…圧力計測部、12…差圧計測部、13…温度計測部、14…気液混合室、15…本体内室、16…流量計測室、17…回転子、18…隙間、20…液々二相流量計、21…差圧発生板、22…液相抽出部、23…液流量調節弁、24…ホモジナイザ、25…コリオリメータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体及び気体からなる気液二相流の気液総流量と、該気液総流量に対する気体流量の割合とを計測し、前記気液総流量及び前記気体流量の割合に基づいて液体及び気体の各流量を算出する容積式気液二相流量計であって、
前記気液総流量を計測する容積式流量計測室を備え、該容積式流量計測室の前段に、前記気液二相流中の液体及び気体を混合する気液混合室を設けたことを特徴とする容積式気液二相流量計。
【請求項2】
請求項1に記載の容積式気液二相流量計において、前記容積式流量計測室と前記気液混合室とを一体構造としたことを特徴とする容積式気液二相流量計。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の容積式気液二相流量計において、前記容積式流量計測室に設けられた回転子の回転数と、前記気液混合室の前段と前記容積式流量計測室の後段との差圧とを同時に検出し、該検出した回転数及び差圧に基づいて前記気液総流量及び前記気体流量の割合を算出することを特徴とする容積式気液二相流量計。
【請求項4】
請求項3に記載の容積式気液二相流量計において、前記気体流量の割合βに対する前記回転子の回転数ωの回転比特性εを示すε=f(β)に基づいて、前記気液総流量Qを、
=Mf*ω/f (Mfは液相単体の時の回転子1回転あたりの液相容積)…式a
で示し、
一方、液体のみを流したときの第1の差圧ΔPと、該液体の流量を一定のまま気体の流量を順次増加させたときの第2の差圧ΔPとの差圧倍率特性(ΔP/ΔP)を、
ΔP/ΔP=(1−β)−z (Zは予め実験で求められた差圧倍率指数)
前記第1の差圧ΔPを、
ΔP=C*1/2*ρL{(Q(1−β)/A} (但し、Cは気液混合室と容積式流量計測室とを合算した形状抵抗係数、ρは液体の密度、Aは気液混合室の入口断面積)
で示した場合、前記第2の差圧ΔPが、
ΔP=C*1/2*ρL*(1−β)2−Z*(Q/A)…式b
として導出され、
前記式a,bから、前記気液総流量Q、該気液総流量Qに対する気体流量の割合β、気体流量Q、及び液体流量Qを求めることを特徴とする容積式気液二相流量計。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の容積式気液二相流量計において、前記気液混合室は、前記容積式流量計測室に着脱可能としたことを特徴とする容積式気液二相流量計。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の容積式気液二相流量計において、前記容積式流量計測室に設けられた回転子は、非円形歯車で構成され、該非円形歯車は、歯数を4n+2枚(nは自然数)、長軸上の両端を歯溝、短軸上の両端を歯先、噛合歯面をインボリュート曲線、非噛合歯面をサイクロイド曲線とした歯形曲線を有することを特徴とする容積式気液二相流量計。
【請求項7】
請求項6に記載の容積式気液二相流量計において、前記非円形歯車は、前記歯形曲線に基づいて、前記長軸上の両端にある歯溝を含む、該歯溝を挟んだ2つの歯形間の凹部を埋め、且つ、前記短軸上の両端の歯先を含む歯部を削った、歯数が4n−2枚の形状を有することを特徴とする容積式気液二相流量計。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の容積式気液二相流量計において、前記非円形歯車の歯数を表すnの値を3又は4とすることを特徴とする容積式気液二相流量計。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載の容積式気液二相流量計において、前記容積式流量計測室の内壁と前記回転子との間に、所定長より大きな隙間を設けたことを特徴とする容積式気液二相流量計。
【請求項10】
気体と二種類の液体とからなる気液々三相流において、請求項1〜9のいずれか1項に記載の容積式気液二相流量計を設置し、該容積式気液二相流量計の後段又は前段に、前記液体を構成する2つの液相成分を検出し、各液相成分の割合を計測する液々二相流量計を設けることで前記気液々三相流における気液々総流量と、該気液々総流量に対する気体流量の割合と、液々の混合割合とを求めて、気液々の3つの各々の流量を算出する多相流量計測システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−58838(P2011−58838A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206039(P2009−206039)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【特許番号】特許第4599454号(P4599454)
【特許公報発行日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000103574)株式会社オーバル (82)
【Fターム(参考)】