説明

容量検知型加速度センサ

【課題】 電極間の誘電性液体の内部インピーダンスを高めて、電極間のコンデンサの静電容量が温度変化によって大きく変化するのを抑制して、温度特性を良好にした容量検知型加速度センサを提供する。
【解決手段】 容量検知型加速度センサは、液体が封入された本体1内に移動体4が移動可能に収容されており、加速度を受けて移動する移動体4の位置に応じて対向する電極2a,2c間のギャップが変化することによる電極間の静電容量の変化を計測することで加速度を検知する。電極2a,2cの表面を絶縁膜8a,8bで覆うことにより、誘電性液体3の静電容量に対して並列な等価並列抵抗は十分大きく漏れ電流を低減させることができ、等価並列抵抗に流れる直流成分を実質上カットし、容量検知型加速度センサの温度特性を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電極間の静電容量を検出するセンサ、特に、電極間を移動体が移動することに応じた静電容量の変化を検知することによりセンサ又はそれを取り付けた被検知体の傾斜を検出する傾斜センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体が封入された本体内に加速度を受けて移動する移動体が収容され、前記移動体の位置に応じて対向する電極間のギャップが変化して電極間の静電容量が変化する容量検知型加速度センサが提案されている。変化した静電容量を計測することにより、本体に対して移動体が受けた加速度、即ち、本体の傾斜や転倒を検知することができる。
【0003】
本体内において誘電性液体を封入する形式の静電容量式傾斜センサが提案されている。この静電容量式傾斜センサは、一対の差動電極と共通電極とを密閉容器内で対向配置し、密閉容器内に封入した誘電性液体の液面レベルの変化を傾斜角度に対応する静電容量の変化として検出する型式の傾斜センサである。この静電容量式傾斜センサは、半円状の一対の差動電極が垂直方向に隣接配置され、両差動電極と一定の間隙を置いて対向するように共通電極が設けられている。前記一対の差動電極及び共通電極は、密閉容器内に収容され、密閉容器内には誘電性液体が封入される。上下の各差動電極及び共通電極はそれぞれ上側又は下側可変コンデンサを構成している。この種の傾斜センサにおいて、温度補償やゼロ点調整が不要な静電容量式傾斜センサが提案されている(特許文献1)。
【0004】
各可変コンデンサの容量変化は直流電圧の変化に変換される。共通電極板には発振器が接続され、各差動電極は、容量変化を直流電圧の変化に変換するそれぞれの容量/電圧変換回路に接続される。各容量/電圧変換回路の出力信号は差動増幅器に入力され、差動増幅器の出力に、センサの傾斜角度に対応した直流信号が表れる。ゼロ点調整回路は、センサが水平状態のときに差動増幅器の出力電圧が0Vとなるように一方の容量/電圧変換回路を制御する。温度補償回路は、温度にかかわらずセンサの傾斜角度に応答した出力が得られるように、雰囲気温度に応じて差動増幅器の増幅率を制御する。
【0005】
また、性能の低下を防止しつつ小型化することができる静電容量式傾斜角センサが提案されている(特許文献2)。この提案による傾斜角センサは、液状の静電容量媒体と、その静電容量媒体を収容するケースと、該ケースの対向内壁面に対向して設けられ、静電容量媒体によって浸漬された部分によりコンデンサを構成する差動電極及び共通電極とを備えている。静電容量媒体は、絶縁体からなる液状の基剤に、その基剤よりも高い誘電率の微粒子が混入されることにより構成されている。傾斜角センサは、ケースの傾きに応じて変化するコンデンサの静電容量の変化量に基づいて傾きを検出する。
【0006】
しかしながら、容量検知型センサの電極間に液体、特に誘電性液体を満たしたセンサは、電極間において電流が流れ、温度変化によりインピーダンスが変動する。このインピーダンスの変動は、コンデンサの容量変化に大きく影響するという問題がある。
【特許文献1】特開2000−241162号公報(段落[0017]〜[0023]、図1〜図5)
【特許文献2】特開2005−156532号公報(段落[0037]〜[0043]、図1、図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、上記コンデンサの容量変化は電極間における漏れ電流に起因していることに着目し、漏れ電流を抑制するために電極間のインピーダンスを高めて、温度変化による静電容量への影響を緩和させる点で解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の目的は、電極間の誘電性液体の内部インピーダンスを高めて、電極間のコンデンサの静電容量が温度変化によって大きく変化するのを抑制して、温度特性を良好にする容量検知型加速度センサを提供することである。
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明による容量検知型加速度センサは、液体が封入された本体内に移動体が移動可能に収容されており、加速度を受けて移動する前記移動体の位置に応じて対向する電極間のギャップが変化することによる前記電極間の静電容量の変化を計測することで前記加速度を検知する容量検知型加速度センサにおいて、前記電極を絶縁膜で覆ったことから成っている。
【0010】
この容量検知型加速度センサによれば、電極にシリコン酸化膜やシリコン窒化膜等の絶縁膜を付着することにより、誘電性液体中において電極間の静電容量の変化を計測する容量検出型サンサの温度特性が向上する。電極に絶縁膜を付けた場合、誘電性液体の静電容量に対して並列な等価並列抵抗については、基本材料や製造方法を選ぶことでその値を低減することは可能であるが、なくすことはできない。しかし、絶縁膜の等価回路抵抗は十分大きく漏れ電流を低減させることができるため、誘電性液体の等価並列抵抗に流れる直流成分を実質上カットすることができる。また、温度変化による容量変化は、誘電性液体の持つ比誘電率εrの温度変化と、容量に対して並列に存在する並列等価抵抗が変化して直流成分を変化させるために生じる現象である。したがって、等価並列抵抗に流れる直流成分をなくすことにより、温度特性を良くすることができる。
【0011】
この容量検知型加速度センサにおいて、前記液体をエチルアルコールとし、前記絶縁膜を酸化膜であるとすることができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明による容量検知型加速度センサは、上記のように構成されているので、誘電性液体中に置かれる電極に絶縁膜を付着することにより、誘電性液体中に流れる漏れ電流を少なくすることができる。その結果、誘電性液体の内部インピーダンスが高められる効果があり、容量検知型加速度センサの温度特性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付した図面に基づいて、この発明による容量検知型加速度センサの実施例を説明する。図1は誘電性液体中に電極を設けた容量検知型加速度センサの断面図であり、(a)は電極面と平行な平面での断面図、(b)は電極面と直交する平面での断面図、(c)はセンサに加速度が作用していない定常状態を示す(b)と同様の断面図である。
【0014】
図1に示す容量検知型加速度センサによれば、容量検知型加速度センサ本体(以下、「本体」と略す。)1は、本体1層目1aと、本体2層目1bと、本体3層目1cとを重ねて構成されている。本体2層目1bには、図1(a)に示すように略三角形状の貫通孔が形成されており、貫通孔の両側の開口は、それぞれ本体1層目1aと本体3層目1cとが本体2層目1bに密に重ねられていることで密封されたキャビティ20が形成されている。
【0015】
本体1には、静電容量の検知のための電極が設けられている。即ち、本体1層目1aにはキャビティ20に臨む側に電極2a,2bが設けられており、本体3層目1cにはキャビティ20に臨む側に電極2a,2bと対向して電極2cが設けられている。5a,5bは電極2a、2cと導通が取れている信号取り出し用の電極である。
【0016】
本体1内のキャビティ20には、通常、電極間を満たすように誘電性液体3が入れられており、キャビティ20にはまた導電性ボール(以下、単に「ボール」と略す。)4が入れられている。図1に示す定常状態では、ボール4は三角形の最下の角部に安定して位置している。電極2a,2bは、定常状態を占めるボール4が加速度又は重力加速度を受けてセンサの感度方向に移動するときに、感度方向の各側に配置されている。電極2a,2bと電極2c間のギャップ(間隔)は、図1(c)に示すようにd1に定められている。
【0017】
加速度又は重力加速度がセンサの感度方向に加わるとき、即ち、例えば図1で反時計方向に90度回転して図2に示す転倒状態になるとき、ボール4はやはり最下位置を占めるのが安定であるから、ボール4は図2に示すように電極2a,2c間に入り込む。これにより、電極2aとボール4と間のギャップはd2に、またボール4と電極2cとの間のギャップがd3に変化し、その結果、電極間の静電容量が変化する。「d2+d3」は、ボール4が有るときの電極間ギャップを示している。
【0018】
図1及び図2に示す容量検知型加速度センサにおいて、電極2a,2b,2cに絶縁膜が無い場合、図3に示されている等価回路のように、誘電性液体の静電容量6に対して並列な等価並列抵抗7が必ず存在する。これに対して、本実施例では、電極2a,2bの表面は絶縁膜8aで、また電極2cの表面は絶縁膜8bで覆われている。図4は、電極を絶縁膜で覆った容量検知型加速度センサの定常状態を示す断面図であり、図5はその傾斜状態、即ち加速度検知状態を示す断面図である。絶縁膜8a,8bの等価並列抵抗10a,10bは、絶縁状態となる程度の大きさを持つことになる。絶縁膜8a,8bによって電極2a,2bと電極2c間を絶縁することにより、誘電率、面積、距離の関係の理想的なコンデンサを形成することができる。
【0019】
絶縁膜8a,8bの等価並列抵抗10a,10bについては、基本材料や製造方法を選ぶことで、その値を低減することは可能であるが、なくすことはできない。しかし、絶縁膜の等価回路抵抗は十分大きく、漏れ電流を低減させることができるため、図6の右の等価回路とみなすことができる。よって、絶縁膜8a,8bを付けた場合、誘電性液体3の等価並列抵抗7に流れる直流成分を実質上カットすることができる。
【0020】
温度変化による容量変化は、誘電性液体の持つ比誘電率εrの温度変化と、容量に対して並列に存在する並列等価抵抗が変化して直流成分を変化させるために生じる現象である。したがって、等価並列抵抗に流れる直流成分をなくすことにより、温度抵抗を良くすることができる。
図6の内部インピーダンスは式(1)(2)により求めることができる。
【数1】

ここで
Z0 絶縁膜付きコンデンサの内部インピーダンス
R1,R3 絶縁膜の等価並列抵抗
R2 誘電性液体の等価並列抵抗
C1、C3 絶縁膜の容量
C2 誘電性液体の容量
ω 2πf
【0021】
温度変化により容量が変化してしまうのは、直流成分の等価並列抵抗が原因の一つになるが、式(2)において、等価並列抵抗の影響をキャンセルしていることを考慮すると、絶縁膜を付けた内部インピーダンスは式(3)に置き換えることができる。
【数2】

【0022】
例えば、絶縁膜を酸化膜、誘電性液体(エチルアルコール、メチルアルコール、シリコーンオイル、アセトン、エチレングリコール等)をエチルアルコール、
酸化膜の厚みを5000Å、電極の面積を10nm2、電極のギャップを1mmとしたときの合成容量は式(4)(5)により求めることができる。
【数3】

ここで
ε0 真空中の誘電率
εr 誘電体の非誘電率
S 電極の面積
d 電極間隔

表1に酸化膜、エチルアルコールによるコンデンサの容量を示す。
【表1】

式(1)により、合成容量は、14。416(pF)となる。
図6の容量の関係は、9a=9b>6となり、9a,9bは6よりも十分大きな容量のため、9a,9bの容量は無視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】誘電性液体中に電極を設けた容量検知型加速度センサの断面図である。
【図2】図1に示す容量検知型加速度センサが転倒状態にあるときの断面図である。
【図3】絶縁膜なし容量検知型加速度センサの等価回路図である。
【図4】容量検知型加速度センサの電極に絶縁膜を付けたものの定常状態を示す図である。
【図5】図4に示す容量検知型加速度センサの加速度検知状態を示す図である。
【図6】誘電性液体と絶縁膜コンデンサの等価回路図である。
【符号の説明】
【0024】
1 容量検知型加速度センサ本体
1a 容量検知型加速度センサ本体の1層目
1b 容量検知型加速度センサ本体の2層目
1c 容量検知型加速度センサ本体の3層目
2a,2b 1層目に設けられている電極
2c 3層目に設けられている電極
3 誘電性液体
4 導電性ボール
5a,5b 電極
6 誘電性液体の静電容量
7 誘電性液体の等価並列抵抗
8a,8b 絶縁膜
9a,9b 絶縁膜の静電容量
10a,10b 絶縁膜の等価並列抵抗
20 キャビティ
d1 導電性ボールが無いときの電極間ギャップ
d2 電極2aとボール4と間のギャップ
d3 ボール4と電極2bとの間のギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が封入された本体内に移動体が移動可能に収容されており、加速度を受けて移動する前記移動体の位置に応じて対向する電極間のギャップが変化することによる前記電極間の静電容量の変化を計測することで前記加速度を検知する容量検知型加速度センサにおいて、
前記電極を絶縁膜で覆ったことから成る容量検知型加速度センサ。
【請求項2】
前記液体はエチルアルコールであり、前記絶縁膜は酸化膜であることから成る請求項1に記載の容量検知型加速度センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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