説明

導光/発光成形体および導光/発光装置

【課題】
柔軟性と透明性、耐熱性を併せ持つ導光/発光成形体よび導光/発光装置の提供を目的とする。
【解決手段】
コア層とクラッド層を含む導光/発光成形体であって、該コア層が、DDSC測定で観察される融解ピーク温度から求められる融点が50〜130℃であるエチレン共重合体を含み、かつショアーD硬度が15〜70の範囲にある熱可塑性樹脂からなることを特徴とする導光成形体、導光/発光成形体を含む導光/発光装置、および光ファイバーならびに光ファイバーとLED光源素子を含むLED発光装置

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン共重合体を含む熱可塑性樹脂からなる導光/発光成形体および該導光/発光成形体を含む導光/発光装置に関する。
に関する。
【背景技術】
【0002】
LED素子などの点光源から発生する光線を透明材料へ入射し、この光を任意の方向に向けて発光させる導光装置は、イルミネーションなどの照明用途や液晶バックライトのような電気・電子用途で幅広く利用されている。
このような透明材料としてはガラスなどの無機材料だけでなくポリカーボネート(PC)やアクリル樹脂(PMMA)などのような有機材料が従来広く利用されており、このような有機材料は可とう性を有しているため有用である。
しかしながら、近年デザインに合わせて自在に曲ることが可能な柔軟な導光装置が求められているが、前記材料を用いて得られる導光装置は可とう性が十分ではない。またこれらの材料を柔軟化するためには軟化材の配合が不可避であるが、軟化材を添加すると、材料の透明性が低下する。
一方、透明で柔軟な素材として軟質塩化ビニル樹脂(PVC)や熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU)、さらには水添スチレン系ブロック共重合体(SEBS)、シリコーン樹脂などが知られているが、PVCやSEBSは薄いシートやフィルムにおいては透明であるが、可視光を吸収するために導光材料の光路長を長くすると導光作用が大きく低下する。また、通常のTPUは長期間使用時の変色(黄変)や耐候性、耐加水分解性に難がある。また、シリコーン樹脂は架橋を必要とするため、生産効率が劣る。
また、特許文献5には、線状発光体の導光材料として非晶性ポリオレフィン材料を用いることが開示されているが、融点を示す結晶成分が存在しない場合、耐熱性の面で実用上の問題が生じる。
このため、柔軟性と透明性、耐熱性を併せ持つ、より好ましくは耐候性や耐湿性も有し、生産が容易な導光/発光成形体用材料が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-273435号公報
【特許文献2】特開平11-066928号公報
【特許文献3】特開2000-338330号公報
【特許文献4】特開2001-281456号公報
【特許文献5】特開2004-184974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記課題を改善する導光/発光成形体よび導光/発光装置の提供、より具体的には、柔軟性と透明性、耐熱性を併せ持つ導光/発光成形体よび導光/発光装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、特定の特性を有する熱可塑性樹脂によってかかる課題を解決できることを見出した。すなわち本発明の概要は以下のとおりである。
〔1〕コア層とクラッド層を含む導光/発光成形体であって、
該コア層が、DDSC測定で観察される融解ピーク温度から求められる融点が50〜130℃であるエチレン共重合体を含み、かつショアーD硬度が10〜80の範囲にある熱可塑性樹脂からなることを特徴とする導光成形体。
〔2〕前記エチレン共重合体が、エチレン/アルファオレフィン共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/不飽和カルボン酸共重合体、またはエチレン/不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーから選ばれるであるエチレン共重合体であることを特徴とする〔1〕の導光成形体。
〔3〕前記クラッド層の屈折率が、前記コア層の屈折率よりも低いことを特徴とする〔1〕〜〔2〕の導光/発光成形体。
〔4〕〔1〕〜〔3〕いずれかの導光/発光成形体からなる光ファイバー。
〔5〕〔1〕〜〔2〕の導光/発光成形体を含む導光/発光装置。
〔6〕〔4〕の光ファイバーとLED光源素子を含むLED発光装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明の導光/発光成形体(好ましくは光ファイバー)、ならびに導光/発光装置(好ましくはLED導光/発光装置)は、柔軟性と透明性、耐熱性を併せ持ち、更には耐候性や耐湿性も有する。また生産の容易性も有する。

【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例における導光性評価方法を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。
エチレン共重合体
本願発明の導光成形体のコア層を構成する樹脂組成物に含まれるエチレン共重合体は、エチレンを主成分(エチレンに由来する単量体単位が50〜99モル%、好ましくは70〜99モル%、より好ましくは80〜99モル%)とするものであり、エチレン/アルファオレフィン共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル/不飽和カルボン酸共重合体、エチレン/エチルアクリレート共重合体、エチレン/メチルメタクリレート共重合体、エチレン/アクリル酸共重合体、エチレン/メタクリル酸共重合体、エチレン/無水マレイン酸共重合体、エチレン/アミノアルキルメタクリレート共重合体、エチレン/ビニルシラン共重合体、エチレン/スチレン共重合体、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/ヒドロキシエチルメタクリレート共重合体、エチレン/不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー等が挙げられる。
エチレン/アルファオレフィン共重合体としては、メタロセン系触媒に代表されるシングルサイト触媒によって重合されたエチレン/アルファオレフィン共重合体が好適である。このようにして得られたエチレン/アルファオレフィン共重合体は、分子量分布や組成分布が狭いことで良好な透明性が得られるため好適である。
エチレン/アルファオレフィン共重合体を構成するアルファオレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセンなどが例示されるが、特に1−ブテン、1−オクテンが好ましい。
このようなエチレン/アルファオレフィン共重合体の密度(ASTM D1505)は870〜920kg/m、好ましくは880〜900kg/m、より好ましくは880〜890kg/mのものが好適である。密度がこの範囲にあると、透明性と耐熱性の両立、さらには比較的高い屈折率を得ることができる。
また、エチレン/不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーとしては、金属種に、リチウム、ナトリウムなどのアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウムなどの多価金属が用いられたものを例示することができる。
本発明に用いるエチレン共重合体の融点は、DSC測定で観察される融解ピーク温度(融解による吸熱カーブが複数の場合あるいは融解ピークが複数重複したショルダーピークを示す場合、最大吸熱量値を示した温度)から求められ、50〜130℃、好ましくは60〜130℃、より好ましくは70〜130℃である。融点がこれよりも低いものは、コア層の構成材料である熱可塑性樹脂の主要成分として用いても非晶性材料と同程度に耐熱性に劣り、実用上問題が生じる恐れがある。一方、融点がこれよりも高いものは、コア層の構成材料である熱可塑性樹脂の主要成分として用いても透明性が低下するため好ましくない。ただし、該熱可塑性樹脂の物性を損なわない範囲でならば、融点が低いものや高いエチレン共重合体が含まれていても構わない。
エチレン/アルファオレフィン共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/不飽和カルボン酸共重合体およびエチレン/不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーが、後述の特性を満たす熱可塑性樹脂として好適に用いることができるが、中でもエチレン/アルファオレフィン共重合体およびエチレン/不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーが、耐湿性(吸湿なし)や色相安定性の観点から特に好ましい。
【0009】
熱可塑性樹脂
本発明の熱可塑性樹脂は、上述のエチレン共重合体を含む(好ましくは80〜100重量%、より好ましくは90〜100重量%、さらにより好ましくは95〜100重量%)樹脂組成物であり、ショアーD硬度(ASTM D2240に準拠)が10〜80、好ましくは15〜75、より好ましくは20〜70である。硬度がこれよりも低いものは耐傷付き性が劣るため、導光成形体を導光装置へ組み込む際に弊害が生じる恐れがある。また、硬度がこれよりも高いと柔軟性が低下するため好ましくない。
さらに、本発明に用いるエチレン共重合からなる熱可塑性樹脂は以下の特性を有しているものがより好適である。
本発明に用いるエチレン共重合からなる熱可塑性樹脂のメルトフローレート(MFR、ASTM D1238、190℃、2.16kgf)は0.1〜100g/10min、好ましくは0.5〜50g/10min、より好ましくは0.6〜40g/10minにある。MFRがこの範囲にあることで、透明性に優れた成形体を得ることができる。
また、該熱可塑性樹脂組成物には、コア層の構成材料として用いた際に本発明の目的を損なわない範囲で、各種添加剤(紫外線防止剤、スリップ剤、酸化防止剤、など)を添加してもよい。
【0010】
導光/発光成形体
本発明の導光成形体とは、導光性を有する成形体のことであり、発光成形体は、発光性を有する成形体のことである。
導光/発光成形体は、前記エチレン共重合体を含む熱可塑性樹脂を溶融加工して得られる。具体的には、溶融押出成形、射出成形、プレス成形によって得られるものである。
導光/発光成形体の形状については特に制限はないが、棒状のものは(光ファイバーなどの)線状導光/発光体として有用である。
また、導光/発光成形体に光散乱性を有する粒子や顔料などを練りこんで分散させることも可能である。
好適な導光/発光成形体の実施態様(線状導光/発光体)をさらに詳述する。線状導光/発光体をコア層とし、この外側にクラッド層を設けることができる。この場合、クラッド層を形成する材料の屈折率は、コア層を形成する本発明のエチレン共重合からなる熱可塑性樹脂よりも低いものがより好ましい。
クラッド層として、好ましい材料としては、例えばフッ素樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、シリコーンゴム、(メタ)アクリル系樹脂等が挙げられ、本発明の目的を損なわない範囲で各種添加剤(紫外線防止剤、スリップ剤、酸化防止剤、など)を添加してもよい。かかる実施態様として特に好ましいのは光ファイバーが挙げられる。
【0011】
導光/発光装置
本発明の導光/発光装置とは、上述の導光/発光成形体を含む導光/発光装置であり、具体的な実施態様としては、本発明の導光/発光成形体の好ましい一態様である光ファイバーとLED光源を組み合わせたLED発光装置が挙げられる。

【実施例】
【0012】
以下、実施例を挙げて、さらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例等によってなんら制限されるものではない。
また、実施例において測定した物性評価、ならびに測定用サンプル作製は下記の方法に従って実施した。
【0013】
エチレン共重合体の物性評価
密度
ASTM D1505に準拠し、室温(23℃)で測定した。
融点
パーキンエルマー社製のDSC測定装置を用い、以下の測定条件で得たDSCカーブから決定した。
DSC測定装置内で10分間200℃保持した後、降温速度10℃/minで−20℃まで冷却し、−10℃で1分間保持した後、再度昇温速度10℃/minで180℃まで加熱することでDSC曲線を作成した
MFR
ASTM D1238に準拠し、2.16kg荷重下で測定した。
【0014】
熱可塑性樹脂組成物の物性評価
ショアーD硬度
ASTM D2240に準拠し、押針接触後5秒後の目盛りを読み取った。
【0015】
導光性能評価用サンプル作成方法
短軸押出成形機(スクリュー径:40mm、押出温度180〜230℃)を用いて熱可塑性樹脂を溶融押出しした後、水槽で冷却(15℃)することにより直径3mmのストランド状に成形した。得られたストランド状成形体を長さ1mにカッターで切断した後、ストランド状成形体の反面を加熱したホットプレートに押しあて溶融することにより、反面を平滑にした。
【0016】
導光性評価方法
ストランド状成形体の両端を図1に示すようにクランプで固定した。一方の反面からレーザー(He-Neレーザー、波長:633.2 nm、出力:7.4 mW)を照射、他方の反面から出射される光の強度を検出器により測定した。検出器で測定される光の強度が強いほど導光性が優れることを意味する。
【0017】
[実施例1]
エチレン・1-ブテン共重合体(三井化学社製、タフマーA−4085S、融点=69℃、密度:885kg/m、MFR(190℃)=3.6g/10min、ショアーD硬度=27)を上記方法により、成形および評価した。結果を表1に示す。
【0018】
[実施例2]
エチレン・酢酸ビニル共重合体(三井・デュポンポリケミカル社製、エバフレックスEV270、酢酸ビニル含量:28wt%、融点=72℃、密度:950kg/m、MFR(190℃)=1.0g/10min、ショアーD硬度=24)を上記方法により、成形および評価した。結果を表1に示す。
【0019】
[実施例3]
アイオノマー樹脂(三井・デュポンポリケミカル社製、ハイミラン1605、イオンタイプ:ナトリウム、融点=92℃、密度:940kg/m、MFR(190℃)=2.8g/10min、ショアーD硬度=66)を上記方法により、成形および評価した。結果を表1に示す。
【0020】
[比較例1]
水添スチレン系エラストマー(旭化成社製、タフテックH−1062、SEBS、スチレン含量:18wt%、密度=890kg/m、MFR(230℃)=4.5g/10min、ショアーD硬度=15)を上記方法により、成形および評価した。結果を表1に示す。
【0021】
[比較例2]
アクリルゴム(クラレ社製、パラペットSA FW−001、密度=1100kg/m、MFR(230℃、10kgf)=14 g/10min、ショアーD硬度=22)を上記方法により、成形および評価した。結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1において、実施例1〜3と、比較例1〜2の対比において、光の検出強度から明らかなように、特定の物性を有するエチレン共重合体が、特定の物性を有する熱可塑性樹脂に含まれ、かつ該熱可塑性樹脂を導光/発光成形体のコア層に用いることで、柔軟性と透明性、耐熱性を併せ持つ導光/発光成形体よび導光/発光装置を得ることができる。さらに、該エチレン共重合体は、耐候性や耐湿性も有し、生産も比較的容易である。

【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、散乱現象を利用して光を任意の方向に向けて出射させる発光成形体として利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア層とクラッド層を含む導光/発光成形体であって、
該コア層が、DSC測定で観察される融解ピーク温度から求められる融点が50〜130℃であるエチレン共重合体を含み、かつショアーD硬度が10〜80の範囲にある熱可塑性樹脂からなることを特徴とする導光/発光成形体。
【請求項2】
前記エチレン共重合体が、エチレン/アルファオレフィン共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/不飽和カルボン酸共重合体、またはエチレン/不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーから選ばれるであるエチレン共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の導光/発光成形体。
【請求項3】
前記クラッド層の屈折率が、前記コア層の屈折率よりも低いことを特徴とする請求項1〜2いずれか1項に記載の導光/発光成形体。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項に記載の導光/発光成形体からなる光ファイバー。
【請求項5】
請求項1〜2いずれか1項に記載の導光/発光成形体を含む導光/発光装置。
【請求項6】
請求項4に記載の光ファイバーとLED光源素子を含むLED発光装置。


【図1】
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【公開番号】特開2011−257438(P2011−257438A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129010(P2010−129010)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】