導波路共振器型光バッファ
【課題】本願発明は、狭いチップ面積でも、大きな遅延時間−帯域幅積を得ることのできる光バッファ機能を実現する導波路共振器型光バッファを提供することを目的とする。
【解決手段】本願発明の導波路共振器型光バッファは、両端に光入出力端を備え、光を伝搬させる導波路からなる光バス導波路と、光を伝搬させる導波路からなり、それぞれ固有の光周波数で共振する複数のリングで構成される1以上の多重リング共振器と、を備える導波路共振器型光バッファであって、前記多重リング共振器を構成する複数のそれぞれのリングの導波路は、少なくとも他の一つのリングの導波路との間でエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換し、前記多重リング共振器を構成する複数のリングのうち少なくとも一つのリングの導波路は、前記光バス導波路の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換することを特徴とする。
【解決手段】本願発明の導波路共振器型光バッファは、両端に光入出力端を備え、光を伝搬させる導波路からなる光バス導波路と、光を伝搬させる導波路からなり、それぞれ固有の光周波数で共振する複数のリングで構成される1以上の多重リング共振器と、を備える導波路共振器型光バッファであって、前記多重リング共振器を構成する複数のそれぞれのリングの導波路は、少なくとも他の一つのリングの導波路との間でエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換し、前記多重リング共振器を構成する複数のリングのうち少なくとも一つのリングの導波路は、前記光バス導波路の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波路からなるリング共振器を利用して光信号を遅延させる導波路共振器型光バッファに関する。
【背景技術】
【0002】
最近のコンピュータでは、多くのデータ処理回路によって構成されている。特に、高速処理を要求される回路では光信号で信号を送受し、回路内部でも光信号を処理する例が増えている。このような光信号処理回路では、光バッファ機能が必須となる。光バッファ機能で重要視されるのは、遅延時間−帯域幅積である。帯域は光信号処理回路のビットレートを制限し、遅延時間は光信号処理回路のバッファ容量を決定することになる。
【0003】
このような光信号処理回路の光バッファはシリコン半導体をベースとして多くの研究がなされている(例えば、非特許文献1参照。)。
【非特許文献1】USPatent4630885
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1の構成で遅延時間−帯域幅積の大きい光バッファ機能を実現するためには、リング共振器を縦続に接続する必要がある。このような縦続接続構成は大きな遅延時間−帯域幅積を得るには有効であるが、多くのリング共振器を必要とするため、リング共振器を形成するチップ面積が広くなる欠点がある。
【0005】
そこで、導波路共振器型光バッファにおいて、狭いチップ面積でも、大きな遅延時間−帯域幅積を得ることのできる光バッファ機能を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、光バス導波路と複数のリングからなる多重リング共振器とで光バッファを構成し、リング同士で共振させることとした。
【0007】
具体的には、本願発明は、両端に光入出力端を備え、光を伝搬させる導波路からなる光バス導波路と、光を伝搬させる導波路からなり、それぞれ固有の光周波数で共振する複数のリングで構成される1以上の多重リング共振器と、を備える導波路共振器型光バッファであって、前記多重リング共振器を構成する複数のそれぞれのリングの導波路は、少なくとも他の一つのリングの導波路との間でエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換し、前記多重リング共振器を構成する複数のリングのうち少なくとも一つのリングの導波路は、前記光バス導波路の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換することを特徴とする導波路共振器型光バッファである。
【0008】
多重リング共振器とすることにより、狭いチップ面積での実装を可能にすることができる。また、多重リング共振器のリング同士を共振させることにより、複数の単一リング共振器を縦続に接続するよりも大きな遅延時間−帯域幅積を得ることができる。さらに、多重リング共振器とすることにより、単一リング共振器では不可能な3次以上の分散を除去することもできる。
【0009】
本願発明には、光を伝搬させる導波路からなり、前記光バス導波路の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換して固有の光周波数で共振する一つのリングで構成される1以上の単一リング共振器をさらに備えることを特徴とする導波路共振器型光バッファも含まれる。
共振周波数を任意に選定して、設計の自由度を大きくすることができる。
【0010】
本願発明には、前記多重リング共振器は、同じ平面内で複数のリングが入れ子構造で形成され、入れ子構造の隣接する内側のリングの導波路と外側のリングの導波路とは、エバネッセント結合により電磁エネルギーを交換し、入れ子構造のリングのうちいずれかのリングの導波路が、前記光バス導波路の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換することを特徴とする導波路共振器型光バッファも含まれる。
入れ子構造とすることにより、狭いチップ面積での実装を可能にすることができる。また、リング同士の共振をより容易にすることができる。
【0011】
本願発明には、前記多重リング共振器は、複数のリングがそれぞれ異なる平面内で形成され、異なる平面に形成されたリング同士の導波路がエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換し、複数のリングのうちいずれかのリングの導波路が前記光バス導波路の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換することを特徴とする導波路共振器型光バッファも含まれる。
スタック構造とすることにより、狭いチップ面積での実装を可能にすることができる。また、リング同士の共振をより容易にすることができる。
【0012】
本願発明には、前記光バス導波路の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換するリングの導波路の一部は、前記光バス導波路の一部と一定の間隙をもって配置されていることを特徴とする導波路共振器型光バッファも含まれる。
一定の間隙をもって配置することにより結合長が長くとれ、光バス導波路とリングとのエバネッセント結合を大きくすることができる。
【0013】
本願発明には、前記光バス導波路の導波路又は前記リングの導波路は、その周囲より屈折率の高いコア材料で形成されていることを特徴とする導波路共振器型光バッファも含まれる。
導波路のコア材料とクラッド材料を任意に選択することにより、エバネッセント結合の大きさを自由に設定することができる。
【0014】
本願発明には、前記光バス導波路の導波路又は前記リングの導波路は、フォトニッククリスタル中のライン状の格子欠陥であることを特徴とする導波路共振器型光バッファも含まれる。
フォトニッククリスタルの格子分布を変えることにより、部位ごとにエバネッセント結合の大きさを変えることができる。
【0015】
本願発明には、前記光バス導波路の導波路又は前記リングの導波路は、ARROW(Anti−Resonant Reflecting Optical Waveguide)型の光導波路であることを特徴とする導波路共振器型光バッファも含まれる。
導波路のコア材料とクラッド材料を任意に選択することにより、エバネッセント結合の大きさを自由に設定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本願発明の導波路共振器型光バッファは、狭いチップ面積でも、大きな遅延時間−帯域幅積を得ることのできる光バッファ機能を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、具体的に実施形態を示して本願発明を詳細に説明するが、本願の発明は以下の記載に限定して解釈されない。また、以下の図では、光バス導波路を10、光バス導波路の入力端を11、出力端を12で表す。
【0018】
本願発明の導波路共振器型光バッファの例を図1に示す。図1の多重リング共振器は、同じ平面内で複数のリングが入れ子構造で形成されている。図1(a)は2重リング共振器を備える導波路共振器型光バッファである。光を伝搬させる導波路からなる光バス導波路10は、両端に入力端11と出力端12を備える。2重リング共振器21は、光を伝搬させる導波路からなる2個のリングが入れ子構造で構成され、各リングは固有の光周波数で共振し、リング同士はエバネッセント結合して電磁エネルギーを交換する。2重リング共振器21のリングの導波路と光バス導波路10の導波路とがエバネッセント結合して電磁エネルギーを交換する。
【0019】
入力端11から入力された光信号は光バス導波路10の導波路を伝搬する。光バス導波路10のうち2重リング共振器21に近接する導波路では、主に2重リング共振器21の外側のリングの導波路とエバネッセント結合する。2重リング共振器の各リングが光バス導波路10に近接していれば、光バス導波路10の導波路から2重リング共振器21の内側のリングの導波路にもエバネッセント結合する。2重リング共振器21の各リングの導波路にエバネッセント結合した光信号は、外側のリングの導波路と内側のリングの導波路同士もエバネッセント結合する。2重リング共振器21の各リングはそれぞれ固有の光周波数で共振するため、光信号は遅延させられる。遅延された光信号は、2重リング共振器21のリングの導波路から光バス導波路10の導波路にエバネッセント結合し、出力端12から出力される。各リングの共振する固有の光周波数は、各リングの導波路の光路長によって決定される。各リングの共振する固有の光周波数は同じであってもよいし、異なってもよい。
【0020】
リングの導波路は物理的に連続していなくてもよく、電磁エネルギーが伝搬して周回路を形成していればよい。例えば、所定の幅の溝が導波路を横断していても、光信号が溝を通り抜ければよい。また、結合回路を介していたり、他の導波路と交差したりして周回路を形成していてもよい。以下の実施形態でも同様である。
【0021】
多重リング共振器は、3重のリングで構成する3重リング共振器22としてもよい。図1(b)に示すように、3重リングの場合も同様に、光バス導波路10のうち3重リング共振器に近接する導波路では、主に3重リング共振器22の外側のリングの導波路とエバネッセント結合する。3重リング共振器22の各リングが光バス導波路10に近接していれば、光バス導波路10の導波路から3重リング共振器22の真ん中や内側のリングの導波路にもエバネッセント結合する。3重リング共振器22の各リングの導波路にエバネッセント結合した光信号は、外側のリングの導波路、真ん中のリングの導波路、内側のリングの導波路同士もエバネッセント結合し、3重リング共振器22の固有の光周波数で共振するため、光信号は遅延させられる。さらに、多重リング共振器を4重以上のリングで構成してもよい。
【0022】
リングに例えば、全反射やミラーによる反射端を形成することができれば、反射端を持つ多角形の辺の形をしたリングとしてもよい。図1(c)に示すように、直角反射端を利用して四角形の辺の形とすれば、リングの導波路を効率的に配置できるため、狭いチップ面積に導波路共振器型光バッファを形成することができる。リングの形状は四角形の辺の形に限らず、五角形以上の多角形の辺の形でもよい。
【0023】
導波路共振器型光バッファは、複数の多重リング共振器を備えてもよい。図2(a)に示すように、2つの2重リング共振器を備えると、より大きな遅延時間−帯域幅積を得ることができる。入力端11から入力した光信号は、2重リング共振器31−1及び31−2でそれぞれ遅延させられ、出力端12から出力される。単純には、同じ特性の2重リング共振器をn個(nは正整数)備えると、導波路共振器型光バッファにおける遅延量はn倍となる。異なる特性の複数の多重リング共振器を多段に縦続接続に備えると、導波路共振器型光バッファにおける遅延量はそれぞれの遅延量の加算となる。
【0024】
導波路共振器型光バッファは、光バス導波路の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換して固有の光周波数で共振する一つのリングで構成される単一リング共振器を備えてもよい。図2(b)は、多重リング共振器と単一リング共振器を備える例である。ここでは、各種の多重リング共振器と単一リング共振器が混在する例を示している。例えば、3重リング共振器32−1、単一リング共振器32−2、2重リング共振器32−3が混在してもよい。単純には、多重リング共振器又は単一リング共振器を多段に縦続接続すると、導波路共振器型光バッファにおける遅延量は、各多重リング共振器又は単一リング共振器における遅延量の加算となる。このように、各種のリング共振器を混在させることにより、設計に自由度を持たせることができる。
【0025】
導波路共振器型光バッファは、多重リング共振器の各リングがスタック構造で形成されてもよい。図3の多重リング共振器は、複数のリングが異なる平面内に形成されている。図3(a)は、多重リング共振器41−1及び41−2が、スタック構造の複数のリングで構成されている例である。光バス導波路10及び多重リング共振器41−1の各リング又は光バス導波路10及び多重リング共振器41−2の各リングがそれぞれ異なる平面内で形成され、異なる平面に形成されたリング同士の導波路がエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換し、複数のリングのうちいずれかのリングの導波路又は全てのリングの導波路が光バス導波路10の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換する。各リングの導波路の光路長を自由に設計できるため、設計に自由度を大きくすることができる。
【0026】
また、図3(b)は、多重リング共振器42−1又は42−2のそれぞれのリングが異なる平面内に形成され、光バス導波路10が、多重リング共振器42−1及び42−2のいずれかのリングと同じ平面内で形成された例である。このような構造であれば、導波路共振器型光バッファを積層して形成する際に、積層する面を減らすことができる。
【0027】
これまで説明した導波路共振器型光バッファにおいて、光バス導波路の導波路又は多重リング共振器若しくは単一リング共振器のリングの導波路は、その周囲よりも屈折率の高いコア材料で形成されていてもよい。光は屈折率の高いコア内を導波路として閉じ込められて伝搬する。適切な屈折率差の生じるようにコア材料とクラッド材料を選択することができる。また、屈折率差をコア材料とクラッド材料で決定できるため、エバネッセント結合の大きさを自由に設定できる。
【0028】
光バス導波路の導波路又は多重リング共振器若しくは単一リング共振器のリングの導波路は、フォトニッククリスタル構造で形成してもよい。即ち、光信号の波長に対して、進行方向を一定方向となるようにライン状の格子欠陥を設けることによって、導波路として機能させることができる。フォトニッククリスタル構造であれば、格子欠陥の程度を任意に設計できるため、光バス導波路やリングの任意の部位ごとに、光信号の閉じ込め効果やエバネッセント結合の大きさを変えることができる。
【0029】
光バス導波路の導波路又は多重リング共振器若しくは単一リング共振器のリングの導波路は、ARROW(Anti−Resonant Reflecting Optical Waveguide)型の光導波路としてもよい。ARROW型の光導波路では、リングの導波路はその周囲よりも屈折率の低いコア材料で形成されていてもよい。光は屈折率の低いコア内を導波路として閉じ込められて伝搬する。適切な屈折率差の生じるようにコア材料とクラッド材料を選択することができる。また、屈折率差をコア材料とクラッド材料で決定できるため、エバネッセント結合の大きさを自由に設定できる。
【0030】
これまで説明した導波路共振器型光バッファにおいて、光バス導波路の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換するリングの導波路の一部は、光バス導波路の一部と一定の間隙をもって配置されていることが望ましい。例えば、図1(a)において、光バス導波路10の導波路と2重リング共振器の外側のリングの導波路は、それぞれ直線部分を持ち、直線部分では導波路が一定の間隙をもって形成されている。所定の距離に亘って、一定の間隙で近接して導波路を配置することにより、エバネッセント結合の大きさを大きくとることができる。また、一定の間隙とする距離をパラメータとして導波路共振器型光バッファを設計することができる。このような構造は、図1及び図2の例に限定されない。図1及び図2では、直線部分で導波路が一定の間隙をもって形成されているが、曲線部分で導波路が一定の間隙となるように形成されていてもよい。
【0031】
次に、導波路共振器型光バッファの設計について説明する。ここで、以後の設計に必要なパラメータを図4に示す。図4において、直線状の光バス導波路と2重リング共振器を記載している。光バス導波路の導波路と2重リング共振器の外側のリングの導波路との間隙をGbus、2重リング共振器の2つのリングの導波路の間隙をGloop、2重リング共振器のリングのうち、光バス導波路に平行な直線部分の長さをLwidth、2重リング共振器のリングのうち、延長すると光バス導波路に直交する直線上の直線部分の長さをLside、2重リング共振器のうち外側のリングの曲線部分の半径をRouter、2重リング共振器のうち内側のリングの曲線部分の半径をRinnerとする。
【0032】
2つの近接する導波路に対しては、Symmetrical ModeとAntisymmetrical Modeの2つのモードが存在する。2つのモードのTEフィールドプロファイルを図5に示す。図5(a)がSymmetrical Mode、図5(b)がAntisymmetrical Modeである。SiO2上に横幅330nm、厚さ220nmのSiの導波路を形成している。図5(a)と図5(b)では、SiO2、Siの配置は同じである。また、図5では、いずれも左半分は対称形となるため、左半分を省略している。
【0033】
2つのモードに対して、2つの導波路の間隙(Track Separation)及び導波路を伝搬する光信号の波長(Wavelength)に対する伝搬定数(Propagation Constant)を計算したものを図6に示す。2つの導波路の間隙及び導波路を伝搬する光信号の波長によって、2つのモードの伝搬定数が異なる。2つの導波路の間隙とは、図4におけるGloop又はGbusをいう。
【0034】
2つのモードに対して、共振周波数(Resonance Frequencies)、透過係数(Transmission Coefficient)、遅延時間(Delay)の比較計算を図7、図8、図9に示す。また、光信号の波長λ=1.55μm、内側のリングの半径Rinnner=4.7275μm、外側のリングの半径Router=5.2725μm、2つのリングの導波路の間隙Gloop=220nm、光バス導波路の導波路と外側のリングの導波路との間隙Gbus=0.6μm、導波路の光損失α=5db/cmとしている。図7において、共振周波数にLwidthへの依存性があることが分かる。また、図8において、それぞれの透過係数がゼロとなるクリティカルなLwidthのあることが分かる。図9に示すように、遅延時間がプラスからマイナスへ、又はマイナスからプラスへの変化点で、図8における透過係数がゼロとなっている。光バッファ機能を効率的に実現するためには、遅延時間がプラスで大きく、損失が小さくなるLwidthが望ましい。図9において2つのモードによるほぼ同じ遅延となるあたりでは、図8において2つの透過係数が交差している。これは、物理的には妥当と思われる。何故なら、損失は光路長に関係しているからである。
【0035】
導波路共振器型光バッファとしての遅延時間が平坦となる光周波数幅を最大にするためには、2つのモードの遅延時間が略等しいことが重要である。導波路共振器型光バッファとしての遅延時間が平坦となる光周波数幅を最大にするため、導波路共振器型光バッファとしての遅延時間のピーク点において2次、3次の分散をゼロにすることを目標とした。Gloopの大きさに対して、2つのモードの共振周波数の分離度と最適なLwidthを図10に示す。図10より、導波路共振器型光バッファとしての遅延時間を最大にするために、遅延特性のピークを平坦にする共振周波数の分離度が最小近辺となるGloop=215nmとし、このときの最適なLwidth=4.963μmを選定した。
【0036】
最適なGbusを得るために、図11にGbusをパラメータとし、中心周波数からのオフセットに対する導波路共振器型光バッファとしての遅延時間を求めた。図11において、Gloop=215nm、Lwidth=4.963μmである。図11より、Gbus=368nmとすると、導波路共振器型光バッファとしての遅延時間が平坦になる領域が得られる。最大遅延時間として31.6ps、半値帯域幅として42.3GHz、最小透過係数として0.9が得られた。
【0037】
本願発明の導波路共振器型光バッファでは、半値帯域幅として42.3GHzがえられた。これは、遅延時間−帯域幅積では2.04となり、単一リング共振器で構成される導波路共振器型光バッファの2倍を超える値である。つまり、本願発明の導波路共振器型光バッファによると、従来のチップ面積を広くすることなく、2倍超の効率を得たことになる。また、本願発明の2重リング共振器で構成される導波路共振型光バッファでは、単一リング共振器で構成される導波路共振型光バッファでは不可能な3次までの分散を除去することができた。つまり、多重リング共振器は2次以上のフィルタ特性を持つため、3次以上の分散を補償することができる。
【0038】
以上の計算結果から、N個(Nは正整数)のリングからなる多重リング共振器を備える導波路共振器型光バッファでは、単一リング共振器をN個縦続に備える導波路共振器型光バッファよりも大きい遅延時間−帯域幅積を期待することができることが分かる。
【0039】
リング共振器の導波路には、シングルモードで伝搬する導波路ばかりでなくマルチモードで伝搬する導波路も含まれる。例えば、2モードや3モードの導波路でもよい。このようなマルチモードで伝搬する導波路は、シングルモードで伝搬する導波路よりも導波路幅を広くするため、伝搬損失の低減が可能になり、また、加工精度の許容値を大きくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の導波路共振器型光バッファは、光信号を遅延させることができるため、光信号処理の分野で光遅延回路として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本実施形態に係る導波路共振器型光バッファの概略構成図である。
【図2】本実施形態に係る導波路共振器型光バッファの概略構成図である。
【図3】本実施形態に係る導波路共振器型光バッファの概略構成図である。
【図4】本実施形態に係る導波路共振器型光バッファの設計に必要なパラメータを説明する図である。
【図5】2つのモードのTEフィールドプロファイルを示す図である。
【図6】2つのモードに対する2つの導波路の間隙及び導波路を伝搬する光信号の波長に対する伝搬定数を説明する図である。
【図7】2つのモードに対する共振周波数の比較計算結果である。
【図8】2つのモードに対する透過係数の比較計算結果である。
【図9】2つのモードに対する遅延時間の比較計算結果である。
【図10】2つのモードの共振周波数の分離度と最適なLwidthを説明する図である。
【図11】Gbusをパラメータとし、中心周波数からのオフセットに対する導波路共振器型光バッファとしての遅延時間を説明する図である。
【符号の説明】
【0042】
10 光バス導波路
11 入力端
12 出力端
21、23、31−1、31−2、32−3 2重リング共振器
22、32−1 3重リング共振器
32−2 単一リング共振器
41−1 41−2、42−1、42−2 多重リング共振器
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波路からなるリング共振器を利用して光信号を遅延させる導波路共振器型光バッファに関する。
【背景技術】
【0002】
最近のコンピュータでは、多くのデータ処理回路によって構成されている。特に、高速処理を要求される回路では光信号で信号を送受し、回路内部でも光信号を処理する例が増えている。このような光信号処理回路では、光バッファ機能が必須となる。光バッファ機能で重要視されるのは、遅延時間−帯域幅積である。帯域は光信号処理回路のビットレートを制限し、遅延時間は光信号処理回路のバッファ容量を決定することになる。
【0003】
このような光信号処理回路の光バッファはシリコン半導体をベースとして多くの研究がなされている(例えば、非特許文献1参照。)。
【非特許文献1】USPatent4630885
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1の構成で遅延時間−帯域幅積の大きい光バッファ機能を実現するためには、リング共振器を縦続に接続する必要がある。このような縦続接続構成は大きな遅延時間−帯域幅積を得るには有効であるが、多くのリング共振器を必要とするため、リング共振器を形成するチップ面積が広くなる欠点がある。
【0005】
そこで、導波路共振器型光バッファにおいて、狭いチップ面積でも、大きな遅延時間−帯域幅積を得ることのできる光バッファ機能を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、光バス導波路と複数のリングからなる多重リング共振器とで光バッファを構成し、リング同士で共振させることとした。
【0007】
具体的には、本願発明は、両端に光入出力端を備え、光を伝搬させる導波路からなる光バス導波路と、光を伝搬させる導波路からなり、それぞれ固有の光周波数で共振する複数のリングで構成される1以上の多重リング共振器と、を備える導波路共振器型光バッファであって、前記多重リング共振器を構成する複数のそれぞれのリングの導波路は、少なくとも他の一つのリングの導波路との間でエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換し、前記多重リング共振器を構成する複数のリングのうち少なくとも一つのリングの導波路は、前記光バス導波路の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換することを特徴とする導波路共振器型光バッファである。
【0008】
多重リング共振器とすることにより、狭いチップ面積での実装を可能にすることができる。また、多重リング共振器のリング同士を共振させることにより、複数の単一リング共振器を縦続に接続するよりも大きな遅延時間−帯域幅積を得ることができる。さらに、多重リング共振器とすることにより、単一リング共振器では不可能な3次以上の分散を除去することもできる。
【0009】
本願発明には、光を伝搬させる導波路からなり、前記光バス導波路の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換して固有の光周波数で共振する一つのリングで構成される1以上の単一リング共振器をさらに備えることを特徴とする導波路共振器型光バッファも含まれる。
共振周波数を任意に選定して、設計の自由度を大きくすることができる。
【0010】
本願発明には、前記多重リング共振器は、同じ平面内で複数のリングが入れ子構造で形成され、入れ子構造の隣接する内側のリングの導波路と外側のリングの導波路とは、エバネッセント結合により電磁エネルギーを交換し、入れ子構造のリングのうちいずれかのリングの導波路が、前記光バス導波路の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換することを特徴とする導波路共振器型光バッファも含まれる。
入れ子構造とすることにより、狭いチップ面積での実装を可能にすることができる。また、リング同士の共振をより容易にすることができる。
【0011】
本願発明には、前記多重リング共振器は、複数のリングがそれぞれ異なる平面内で形成され、異なる平面に形成されたリング同士の導波路がエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換し、複数のリングのうちいずれかのリングの導波路が前記光バス導波路の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換することを特徴とする導波路共振器型光バッファも含まれる。
スタック構造とすることにより、狭いチップ面積での実装を可能にすることができる。また、リング同士の共振をより容易にすることができる。
【0012】
本願発明には、前記光バス導波路の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換するリングの導波路の一部は、前記光バス導波路の一部と一定の間隙をもって配置されていることを特徴とする導波路共振器型光バッファも含まれる。
一定の間隙をもって配置することにより結合長が長くとれ、光バス導波路とリングとのエバネッセント結合を大きくすることができる。
【0013】
本願発明には、前記光バス導波路の導波路又は前記リングの導波路は、その周囲より屈折率の高いコア材料で形成されていることを特徴とする導波路共振器型光バッファも含まれる。
導波路のコア材料とクラッド材料を任意に選択することにより、エバネッセント結合の大きさを自由に設定することができる。
【0014】
本願発明には、前記光バス導波路の導波路又は前記リングの導波路は、フォトニッククリスタル中のライン状の格子欠陥であることを特徴とする導波路共振器型光バッファも含まれる。
フォトニッククリスタルの格子分布を変えることにより、部位ごとにエバネッセント結合の大きさを変えることができる。
【0015】
本願発明には、前記光バス導波路の導波路又は前記リングの導波路は、ARROW(Anti−Resonant Reflecting Optical Waveguide)型の光導波路であることを特徴とする導波路共振器型光バッファも含まれる。
導波路のコア材料とクラッド材料を任意に選択することにより、エバネッセント結合の大きさを自由に設定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本願発明の導波路共振器型光バッファは、狭いチップ面積でも、大きな遅延時間−帯域幅積を得ることのできる光バッファ機能を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、具体的に実施形態を示して本願発明を詳細に説明するが、本願の発明は以下の記載に限定して解釈されない。また、以下の図では、光バス導波路を10、光バス導波路の入力端を11、出力端を12で表す。
【0018】
本願発明の導波路共振器型光バッファの例を図1に示す。図1の多重リング共振器は、同じ平面内で複数のリングが入れ子構造で形成されている。図1(a)は2重リング共振器を備える導波路共振器型光バッファである。光を伝搬させる導波路からなる光バス導波路10は、両端に入力端11と出力端12を備える。2重リング共振器21は、光を伝搬させる導波路からなる2個のリングが入れ子構造で構成され、各リングは固有の光周波数で共振し、リング同士はエバネッセント結合して電磁エネルギーを交換する。2重リング共振器21のリングの導波路と光バス導波路10の導波路とがエバネッセント結合して電磁エネルギーを交換する。
【0019】
入力端11から入力された光信号は光バス導波路10の導波路を伝搬する。光バス導波路10のうち2重リング共振器21に近接する導波路では、主に2重リング共振器21の外側のリングの導波路とエバネッセント結合する。2重リング共振器の各リングが光バス導波路10に近接していれば、光バス導波路10の導波路から2重リング共振器21の内側のリングの導波路にもエバネッセント結合する。2重リング共振器21の各リングの導波路にエバネッセント結合した光信号は、外側のリングの導波路と内側のリングの導波路同士もエバネッセント結合する。2重リング共振器21の各リングはそれぞれ固有の光周波数で共振するため、光信号は遅延させられる。遅延された光信号は、2重リング共振器21のリングの導波路から光バス導波路10の導波路にエバネッセント結合し、出力端12から出力される。各リングの共振する固有の光周波数は、各リングの導波路の光路長によって決定される。各リングの共振する固有の光周波数は同じであってもよいし、異なってもよい。
【0020】
リングの導波路は物理的に連続していなくてもよく、電磁エネルギーが伝搬して周回路を形成していればよい。例えば、所定の幅の溝が導波路を横断していても、光信号が溝を通り抜ければよい。また、結合回路を介していたり、他の導波路と交差したりして周回路を形成していてもよい。以下の実施形態でも同様である。
【0021】
多重リング共振器は、3重のリングで構成する3重リング共振器22としてもよい。図1(b)に示すように、3重リングの場合も同様に、光バス導波路10のうち3重リング共振器に近接する導波路では、主に3重リング共振器22の外側のリングの導波路とエバネッセント結合する。3重リング共振器22の各リングが光バス導波路10に近接していれば、光バス導波路10の導波路から3重リング共振器22の真ん中や内側のリングの導波路にもエバネッセント結合する。3重リング共振器22の各リングの導波路にエバネッセント結合した光信号は、外側のリングの導波路、真ん中のリングの導波路、内側のリングの導波路同士もエバネッセント結合し、3重リング共振器22の固有の光周波数で共振するため、光信号は遅延させられる。さらに、多重リング共振器を4重以上のリングで構成してもよい。
【0022】
リングに例えば、全反射やミラーによる反射端を形成することができれば、反射端を持つ多角形の辺の形をしたリングとしてもよい。図1(c)に示すように、直角反射端を利用して四角形の辺の形とすれば、リングの導波路を効率的に配置できるため、狭いチップ面積に導波路共振器型光バッファを形成することができる。リングの形状は四角形の辺の形に限らず、五角形以上の多角形の辺の形でもよい。
【0023】
導波路共振器型光バッファは、複数の多重リング共振器を備えてもよい。図2(a)に示すように、2つの2重リング共振器を備えると、より大きな遅延時間−帯域幅積を得ることができる。入力端11から入力した光信号は、2重リング共振器31−1及び31−2でそれぞれ遅延させられ、出力端12から出力される。単純には、同じ特性の2重リング共振器をn個(nは正整数)備えると、導波路共振器型光バッファにおける遅延量はn倍となる。異なる特性の複数の多重リング共振器を多段に縦続接続に備えると、導波路共振器型光バッファにおける遅延量はそれぞれの遅延量の加算となる。
【0024】
導波路共振器型光バッファは、光バス導波路の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換して固有の光周波数で共振する一つのリングで構成される単一リング共振器を備えてもよい。図2(b)は、多重リング共振器と単一リング共振器を備える例である。ここでは、各種の多重リング共振器と単一リング共振器が混在する例を示している。例えば、3重リング共振器32−1、単一リング共振器32−2、2重リング共振器32−3が混在してもよい。単純には、多重リング共振器又は単一リング共振器を多段に縦続接続すると、導波路共振器型光バッファにおける遅延量は、各多重リング共振器又は単一リング共振器における遅延量の加算となる。このように、各種のリング共振器を混在させることにより、設計に自由度を持たせることができる。
【0025】
導波路共振器型光バッファは、多重リング共振器の各リングがスタック構造で形成されてもよい。図3の多重リング共振器は、複数のリングが異なる平面内に形成されている。図3(a)は、多重リング共振器41−1及び41−2が、スタック構造の複数のリングで構成されている例である。光バス導波路10及び多重リング共振器41−1の各リング又は光バス導波路10及び多重リング共振器41−2の各リングがそれぞれ異なる平面内で形成され、異なる平面に形成されたリング同士の導波路がエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換し、複数のリングのうちいずれかのリングの導波路又は全てのリングの導波路が光バス導波路10の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換する。各リングの導波路の光路長を自由に設計できるため、設計に自由度を大きくすることができる。
【0026】
また、図3(b)は、多重リング共振器42−1又は42−2のそれぞれのリングが異なる平面内に形成され、光バス導波路10が、多重リング共振器42−1及び42−2のいずれかのリングと同じ平面内で形成された例である。このような構造であれば、導波路共振器型光バッファを積層して形成する際に、積層する面を減らすことができる。
【0027】
これまで説明した導波路共振器型光バッファにおいて、光バス導波路の導波路又は多重リング共振器若しくは単一リング共振器のリングの導波路は、その周囲よりも屈折率の高いコア材料で形成されていてもよい。光は屈折率の高いコア内を導波路として閉じ込められて伝搬する。適切な屈折率差の生じるようにコア材料とクラッド材料を選択することができる。また、屈折率差をコア材料とクラッド材料で決定できるため、エバネッセント結合の大きさを自由に設定できる。
【0028】
光バス導波路の導波路又は多重リング共振器若しくは単一リング共振器のリングの導波路は、フォトニッククリスタル構造で形成してもよい。即ち、光信号の波長に対して、進行方向を一定方向となるようにライン状の格子欠陥を設けることによって、導波路として機能させることができる。フォトニッククリスタル構造であれば、格子欠陥の程度を任意に設計できるため、光バス導波路やリングの任意の部位ごとに、光信号の閉じ込め効果やエバネッセント結合の大きさを変えることができる。
【0029】
光バス導波路の導波路又は多重リング共振器若しくは単一リング共振器のリングの導波路は、ARROW(Anti−Resonant Reflecting Optical Waveguide)型の光導波路としてもよい。ARROW型の光導波路では、リングの導波路はその周囲よりも屈折率の低いコア材料で形成されていてもよい。光は屈折率の低いコア内を導波路として閉じ込められて伝搬する。適切な屈折率差の生じるようにコア材料とクラッド材料を選択することができる。また、屈折率差をコア材料とクラッド材料で決定できるため、エバネッセント結合の大きさを自由に設定できる。
【0030】
これまで説明した導波路共振器型光バッファにおいて、光バス導波路の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換するリングの導波路の一部は、光バス導波路の一部と一定の間隙をもって配置されていることが望ましい。例えば、図1(a)において、光バス導波路10の導波路と2重リング共振器の外側のリングの導波路は、それぞれ直線部分を持ち、直線部分では導波路が一定の間隙をもって形成されている。所定の距離に亘って、一定の間隙で近接して導波路を配置することにより、エバネッセント結合の大きさを大きくとることができる。また、一定の間隙とする距離をパラメータとして導波路共振器型光バッファを設計することができる。このような構造は、図1及び図2の例に限定されない。図1及び図2では、直線部分で導波路が一定の間隙をもって形成されているが、曲線部分で導波路が一定の間隙となるように形成されていてもよい。
【0031】
次に、導波路共振器型光バッファの設計について説明する。ここで、以後の設計に必要なパラメータを図4に示す。図4において、直線状の光バス導波路と2重リング共振器を記載している。光バス導波路の導波路と2重リング共振器の外側のリングの導波路との間隙をGbus、2重リング共振器の2つのリングの導波路の間隙をGloop、2重リング共振器のリングのうち、光バス導波路に平行な直線部分の長さをLwidth、2重リング共振器のリングのうち、延長すると光バス導波路に直交する直線上の直線部分の長さをLside、2重リング共振器のうち外側のリングの曲線部分の半径をRouter、2重リング共振器のうち内側のリングの曲線部分の半径をRinnerとする。
【0032】
2つの近接する導波路に対しては、Symmetrical ModeとAntisymmetrical Modeの2つのモードが存在する。2つのモードのTEフィールドプロファイルを図5に示す。図5(a)がSymmetrical Mode、図5(b)がAntisymmetrical Modeである。SiO2上に横幅330nm、厚さ220nmのSiの導波路を形成している。図5(a)と図5(b)では、SiO2、Siの配置は同じである。また、図5では、いずれも左半分は対称形となるため、左半分を省略している。
【0033】
2つのモードに対して、2つの導波路の間隙(Track Separation)及び導波路を伝搬する光信号の波長(Wavelength)に対する伝搬定数(Propagation Constant)を計算したものを図6に示す。2つの導波路の間隙及び導波路を伝搬する光信号の波長によって、2つのモードの伝搬定数が異なる。2つの導波路の間隙とは、図4におけるGloop又はGbusをいう。
【0034】
2つのモードに対して、共振周波数(Resonance Frequencies)、透過係数(Transmission Coefficient)、遅延時間(Delay)の比較計算を図7、図8、図9に示す。また、光信号の波長λ=1.55μm、内側のリングの半径Rinnner=4.7275μm、外側のリングの半径Router=5.2725μm、2つのリングの導波路の間隙Gloop=220nm、光バス導波路の導波路と外側のリングの導波路との間隙Gbus=0.6μm、導波路の光損失α=5db/cmとしている。図7において、共振周波数にLwidthへの依存性があることが分かる。また、図8において、それぞれの透過係数がゼロとなるクリティカルなLwidthのあることが分かる。図9に示すように、遅延時間がプラスからマイナスへ、又はマイナスからプラスへの変化点で、図8における透過係数がゼロとなっている。光バッファ機能を効率的に実現するためには、遅延時間がプラスで大きく、損失が小さくなるLwidthが望ましい。図9において2つのモードによるほぼ同じ遅延となるあたりでは、図8において2つの透過係数が交差している。これは、物理的には妥当と思われる。何故なら、損失は光路長に関係しているからである。
【0035】
導波路共振器型光バッファとしての遅延時間が平坦となる光周波数幅を最大にするためには、2つのモードの遅延時間が略等しいことが重要である。導波路共振器型光バッファとしての遅延時間が平坦となる光周波数幅を最大にするため、導波路共振器型光バッファとしての遅延時間のピーク点において2次、3次の分散をゼロにすることを目標とした。Gloopの大きさに対して、2つのモードの共振周波数の分離度と最適なLwidthを図10に示す。図10より、導波路共振器型光バッファとしての遅延時間を最大にするために、遅延特性のピークを平坦にする共振周波数の分離度が最小近辺となるGloop=215nmとし、このときの最適なLwidth=4.963μmを選定した。
【0036】
最適なGbusを得るために、図11にGbusをパラメータとし、中心周波数からのオフセットに対する導波路共振器型光バッファとしての遅延時間を求めた。図11において、Gloop=215nm、Lwidth=4.963μmである。図11より、Gbus=368nmとすると、導波路共振器型光バッファとしての遅延時間が平坦になる領域が得られる。最大遅延時間として31.6ps、半値帯域幅として42.3GHz、最小透過係数として0.9が得られた。
【0037】
本願発明の導波路共振器型光バッファでは、半値帯域幅として42.3GHzがえられた。これは、遅延時間−帯域幅積では2.04となり、単一リング共振器で構成される導波路共振器型光バッファの2倍を超える値である。つまり、本願発明の導波路共振器型光バッファによると、従来のチップ面積を広くすることなく、2倍超の効率を得たことになる。また、本願発明の2重リング共振器で構成される導波路共振型光バッファでは、単一リング共振器で構成される導波路共振型光バッファでは不可能な3次までの分散を除去することができた。つまり、多重リング共振器は2次以上のフィルタ特性を持つため、3次以上の分散を補償することができる。
【0038】
以上の計算結果から、N個(Nは正整数)のリングからなる多重リング共振器を備える導波路共振器型光バッファでは、単一リング共振器をN個縦続に備える導波路共振器型光バッファよりも大きい遅延時間−帯域幅積を期待することができることが分かる。
【0039】
リング共振器の導波路には、シングルモードで伝搬する導波路ばかりでなくマルチモードで伝搬する導波路も含まれる。例えば、2モードや3モードの導波路でもよい。このようなマルチモードで伝搬する導波路は、シングルモードで伝搬する導波路よりも導波路幅を広くするため、伝搬損失の低減が可能になり、また、加工精度の許容値を大きくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の導波路共振器型光バッファは、光信号を遅延させることができるため、光信号処理の分野で光遅延回路として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本実施形態に係る導波路共振器型光バッファの概略構成図である。
【図2】本実施形態に係る導波路共振器型光バッファの概略構成図である。
【図3】本実施形態に係る導波路共振器型光バッファの概略構成図である。
【図4】本実施形態に係る導波路共振器型光バッファの設計に必要なパラメータを説明する図である。
【図5】2つのモードのTEフィールドプロファイルを示す図である。
【図6】2つのモードに対する2つの導波路の間隙及び導波路を伝搬する光信号の波長に対する伝搬定数を説明する図である。
【図7】2つのモードに対する共振周波数の比較計算結果である。
【図8】2つのモードに対する透過係数の比較計算結果である。
【図9】2つのモードに対する遅延時間の比較計算結果である。
【図10】2つのモードの共振周波数の分離度と最適なLwidthを説明する図である。
【図11】Gbusをパラメータとし、中心周波数からのオフセットに対する導波路共振器型光バッファとしての遅延時間を説明する図である。
【符号の説明】
【0042】
10 光バス導波路
11 入力端
12 出力端
21、23、31−1、31−2、32−3 2重リング共振器
22、32−1 3重リング共振器
32−2 単一リング共振器
41−1 41−2、42−1、42−2 多重リング共振器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端に光入出力端を備え、光を伝搬させる導波路からなる光バス導波路と、
光を伝搬させる導波路からなり、それぞれ固有の光周波数で共振する複数のリングで構成される1以上の多重リング共振器と、を備える導波路共振器型光バッファであって、
前記多重リング共振器を構成する複数のそれぞれのリングの導波路は、少なくとも他の一つのリングの導波路との間でエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換し、
前記多重リング共振器を構成する複数のリングのうち少なくとも一つのリングの導波路は、前記光バス導波路の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換することを特徴とする導波路共振器型光バッファ。
【請求項2】
光を伝搬させる導波路からなり、前記光バス導波路の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換して固有の光周波数で共振する一つのリングで構成される1以上の単一リング共振器をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の導波路共振器型光バッファ。
【請求項3】
前記多重リング共振器は、同じ平面内で複数のリングが入れ子構造で形成され、入れ子構造の隣接する内側のリングの導波路と外側のリングの導波路とは、エバネッセント結合により電磁エネルギーを交換し、入れ子構造のリングのうちいずれかのリングの導波路が、前記光バス導波路の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換することを特徴とする請求項1又は2に記載の導波路共振器型光バッファ。
【請求項4】
前記多重リング共振器は、複数のリングがそれぞれ異なる平面内で形成され、異なる平面に形成されたリング同士の導波路がエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換し、複数のリングのうちいずれかのリングの導波路が前記光バス導波路の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換することを特徴とする請求項1又は2に記載の導波路共振器型光バッファ。
【請求項5】
前記光バス導波路の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換するリングの導波路の一部は、前記光バス導波路の一部と一定の間隙をもって配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の導波路共振器型光バッファ。
【請求項6】
前記光バス導波路の導波路又は前記リングの導波路は、その周囲より屈折率の高いコア材料で形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の導波路共振器型光バッファ。
【請求項7】
前記光バス導波路の導波路又は前記リングの導波路は、フォトニッククリスタル中のライン状の格子欠陥であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の導波路共振器型光バッファ。
【請求項8】
前記光バス導波路の導波路又は前記リングの導波路は、ARROW(Anti−Resonant Reflecting Optical Waveguide)型の光導波路であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の導波路共振器型光バッファ。
【請求項1】
両端に光入出力端を備え、光を伝搬させる導波路からなる光バス導波路と、
光を伝搬させる導波路からなり、それぞれ固有の光周波数で共振する複数のリングで構成される1以上の多重リング共振器と、を備える導波路共振器型光バッファであって、
前記多重リング共振器を構成する複数のそれぞれのリングの導波路は、少なくとも他の一つのリングの導波路との間でエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換し、
前記多重リング共振器を構成する複数のリングのうち少なくとも一つのリングの導波路は、前記光バス導波路の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換することを特徴とする導波路共振器型光バッファ。
【請求項2】
光を伝搬させる導波路からなり、前記光バス導波路の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換して固有の光周波数で共振する一つのリングで構成される1以上の単一リング共振器をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の導波路共振器型光バッファ。
【請求項3】
前記多重リング共振器は、同じ平面内で複数のリングが入れ子構造で形成され、入れ子構造の隣接する内側のリングの導波路と外側のリングの導波路とは、エバネッセント結合により電磁エネルギーを交換し、入れ子構造のリングのうちいずれかのリングの導波路が、前記光バス導波路の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換することを特徴とする請求項1又は2に記載の導波路共振器型光バッファ。
【請求項4】
前記多重リング共振器は、複数のリングがそれぞれ異なる平面内で形成され、異なる平面に形成されたリング同士の導波路がエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換し、複数のリングのうちいずれかのリングの導波路が前記光バス導波路の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換することを特徴とする請求項1又は2に記載の導波路共振器型光バッファ。
【請求項5】
前記光バス導波路の導波路とエバネッセント結合により電磁エネルギーを交換するリングの導波路の一部は、前記光バス導波路の一部と一定の間隙をもって配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の導波路共振器型光バッファ。
【請求項6】
前記光バス導波路の導波路又は前記リングの導波路は、その周囲より屈折率の高いコア材料で形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の導波路共振器型光バッファ。
【請求項7】
前記光バス導波路の導波路又は前記リングの導波路は、フォトニッククリスタル中のライン状の格子欠陥であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の導波路共振器型光バッファ。
【請求項8】
前記光バス導波路の導波路又は前記リングの導波路は、ARROW(Anti−Resonant Reflecting Optical Waveguide)型の光導波路であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の導波路共振器型光バッファ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−63673(P2009−63673A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229435(P2007−229435)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
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