説明

導波路構造体及び導波路

【課題】ミリ波領域以上の高周波領域の電磁波を低損失で伝送できる導波路構造体及び導波路を提供する。
【解決手段】導波路構造体100は、断面が正方形の四角柱の形状を有する誘電体の線材101を組み合わせて構成されており、ウッドパイル構造となっている。このような周期構造の構造体は、ホトニック結晶構造となっており、ホトニックバンドギャップを形成することにより所定波数の電磁波透過させない。導波路構造体100は、誘電体の線材101のみで形成され、導体損失のない導波路を形成するのに用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリ波帯の電磁波を伝送させる導波路構造体、及び該導波路構造体を用いて形成された導波路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁波を伝送させるための導波路は、導体と誘電体とを組み合わせて構成されている。アンテナなどのように周辺の空間に電磁波を積極的に開放・漏洩させるものを除く密閉型の導波路の場合には、電磁波を導波路の内部に閉じ込めるために、導波路の外壁に導体が用いられている。
【0003】
このような電磁波を密閉して伝送させる導波路として、例えば特許文献1に記載されているような同軸ケーブルが従来より用いられている。同軸ケーブルの一例を図10に示す。同軸ケーブル900は、中心導体901の周囲に誘電体層902が被覆されてコア903が形成されている。このコア903の周囲には、金属箔904及び外部導体層905からなる導体層906が形成され、さらにその外周を外被907で被覆した構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−179985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、導波路の外壁を導体を用いて形成すると、導体部分で大きな伝送損失が発生するといった問題がある。一般に、導波路で発生する主要な損失として、導体部分で発生する導体損失と、誘電体部分で発生する誘電体損失がある。導体表面を電磁波が伝播するときには、導体表面で表皮効果による渦電流が発生するが、導体損失はこの渦電流の発生によってもたらされるものである。導体損失は、高周波の電磁波ほど大きくなり、特にミリ波領域では導体損失の大きさが誘電体損失の大きさを上回るようになる。すなわち、高周波領域では、導体損失が導波路の支配的な伝送損失となる。
【0006】
ミリ波領域以上の高周波領域において回路を構成する場合、発振器、混合器、増幅器等の各モジュール間を接続する導波路内で発生する損失は、総計すると回路設計において決して無視できない程度の大きさとなる。そして、この損失の多くが導体損失によるものである。このように、高周波領域では導波路で大きな導体損失が発生するといった問題があった。
【0007】
そこで、本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、ミリ波領域以上の高周波領域の電磁波を低損失で伝送できる導波路構造体及び導波路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の導波路構造体の第1の態様は、ミリ波領域以上の高周波領域の電磁波を伝送する導波路構造体であって、誘電体からなる線材が、該線材の幅に等しい間隔をおいて平行に配列されて形成された第1の層と、前記線材が、前記第1の層を形成する線材と直交する方向に該線材の幅に等しい間隔をおいて平行に配列されて形成された第2の層と、前記線材が、前記第1の層を形成する線材と平行な方向に該線材の幅に等しい間隔で配列され、かつ、前記第1の層の前記線材が配置されていない部分に対応する位置に配置されて形成された第3の層と、前記線材が、前記第2の層を形成する線材と平行な方向に該線材の幅に等しい間隔で配列され、かつ、前記第2の層の前記間隔に対応する位置に配置されて形成された第4の層とからなる積層構造を単位周期とする周期構造を1.5周期以上備えていることを特徴とする。
【0009】
本発明の導波路構造体の第2の態様は、ミリ波領域以上の高周波領域の電磁波を伝送する導波路構造体であって、誘電体からなる2以上の線材を直交する方向に交互に編み組んだ編組構造の第1の層と、前記編組構造に形成され、かつ前記線材が前記第1の層を形成する線材と重ならない線材間に配置された第2の層と、からなる積層構造を単位周期とする周期構造を1.5周期以上備えていることを特徴とする。
【0010】
本発明の導波路構造体の第3の態様は、前記積層構造が、線状導体の表面に円筒状に形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の導波路構造体の他の態様は、前記線材は、横断面形状が円、楕円、または多角形のいずれかからなることを特徴とする。
【0012】
本発明の導波路の第1の態様は、円筒状の内壁部と、内径が前記内壁部の外径より大きい円筒状の外壁部と、を備えた同軸状の導波路であって、前記内壁部及び前記外壁部が第3の態様に記載の導波路構造体で形成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の導波路の第2の態様は、断面が矩形で4つの壁面が伝送方向に平行な平面で取り囲まれた導波路であって、前記4つの壁面が第1または第2の態様に記載の導波路構造体で形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明によれば、ミリ波領域以上の高周波領域の電磁波を低損失で伝送できる導波路構造体及び導波路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る導波路構造体の概略構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る導波路の斜視図である。
【図3】従来の導波路の断面図である。
【図4】従来の導波路の伝送損失の周波数依存性を示すグラフである。
【図5】第1の実施形態の導波路構造体の表面から内部に侵入する電磁波の電界エネルギー分布を示すグラフである。
【図6】第1の実施形態の導波路構造体の誘電正接tanδと1/eまで減衰する侵入長との関係を示すグラフである。
【図7】本発明の第2及び第3の実施形態に係る導波路構造体の概略構成を示す斜視図である。
【図8】本発明の第4の実施形態に係る導波路構造体の概略構成を示す平面図である。
【図9】第4の実施形態に係る導波路構造体の作製方法を示す説明図である。
【図10】従来の同軸ケーブルを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好ましい実施の形態における導波路構造体について、図面を参照して詳細に説明する。同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
【0017】
はじめに、導体で形成された導波路を用いると、ミリ波領域では導体損失が支配的な損失となることを以下に説明する。ミリ波領域で使用される導波路として、断面が図3(a)に示すような形状の代表的な同軸ケーブル10(MIL−C−17/151準拠の同軸ケーブル)を用いたとき、同軸ケーブル10における伝送損失の周波数依存性を図4に示す。伝送させる電磁波の周波数をfとするとき、伝送損失は周波数fの平方根に略比例して増加する、といった特徴が図4から見られる。
【0018】
一方、導体表面における表皮抵抗(Rとする)は、次式のように周波数fの平方根に比例する関係がある。

ここで、σは導体(銅)の導電率を表す。これより、図4に示した同軸ケーブルの伝送損失11は、式(1)で与えられる表皮抵抗に依存した損失が支配的であることがわかる。
【0019】
次に、図4に示した同軸ケーブル10の伝送損失11において、導体損失と誘電体損失のそれぞれの割合を以下に説明する。高周波信号として、ミリ波無線LANで用いられる周波数60GHzの信号を用い、これを同軸ケーブル10に伝送させる場合を例に説明する。
【0020】
同軸ケーブル10の導体損失(L[mW/m]とする)は、式(1)の表皮抵抗Rを用いて次式で与えられる。

また、同軸ケーブルの誘電体損失(L[mW/m]とする)は次式で与えられる。

ここで、
:入力波の実効値[V/m]
:特性インピーダンス[Ω]
a:同軸ケーブル10の内部導体の外径[mm]
b:同軸ケーブル10の誘電体層の外径[mm]
ε:比誘電率
tanδ:誘電正接
【0021】
同軸ケーブル10に用いられている導体及び誘電体がそれぞれ銅及びPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)のとき、周波数f=60GHzにおける上記のパラメータの値として、MIL−C−17/151の規格に従って以下の数値を用いることができる。
=1[V/m]
=50[Ω]
a=0.288/2
b=0.940/2
ε=2.0
tanδ=2.0×10−4
σ=5.8×10
但し、真空誘電率ε=8.85×10−12[F/m]、真空透磁率μ=4π×10−7とする。
【0022】
上記の数値を式(2)、(3)に代入すると、導体損失L及び誘電体損失Lは下記のように与えられる。
=1460[mW/m]
=1.5[mW/m]
【0023】
これより、動作周波数60GHzにおける同軸ケーブル10の導体損失11は、全損失に占める比率が次式のようになる。

このように、動作周波数60GHzでは導体損失が全損失のほとんどを占めていることがわかる。
【0024】
上記のように、一般にミリ波領域では、導波路の損失のほとんどが導体損失となる。同軸ケーブルに代えて、図3(b)に示すような断面が矩形の方形導波管20を用いた場合には、ミリ波領域での全伝送損失に占める導体損失の比率は、さらに100%に近づく。導波管を用いた場合は、同軸ケーブルのような電界集中がないため、図4に示すように、伝送損失21はより低くなる。このように、金属を用いて構成される導波路の場合には、導体損失を回避することはできない。よって、ミリ波領域では導体損失の低い導波路を実現することで、低損失な導波路を提供することができる。
【0025】
本発明の第1の実施形態に係る導波路構造体を、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態の導波路構造体100を示す斜視図である。本実施形態の導波路構造体100は、断面が正方形の四角柱の形状を有する線材101を組み合わせて構成されており、ウッドパイル構造となっている。このようなウッドパイル構造を有する導波路構造体100は、導体損失のない導波路を形成するのに用いることができる。導波路構造体100を用いて形成した導波路の一例を図2に示す。図2は、本実施形態の導波路構造体100を用いて形成された導波路110を示す斜視図である。
【0026】
導波路構造体100のウッドパイル構造は、以下のようにして形成することができる。まず、線材101を所定の方向(図1に示すX軸方向とする)に平行に配列して第1層目の層構造を形成する。このとき、隣接する線材101間は、線材101の幅と同じ幅の隙間を設けて配列する。次に、第1層目の層構造の上にこれと直交するY軸方向に線材101を平行に配列して第2層目の層構造を形成する。このときも、隣接する線材101間に線材101の幅と同じ幅の隙間を設ける。第3層目は、再び第1層目と同じX軸方向に配列していくが、第1層目の層構造に線材101が配置されていないX軸方向の位置、すなわち、第1層目の線材101が配置されていない部分に対応する位置に線材101を配置するようにする。同様に、第4層目の線材101も、第2層目の線材101間の隙間部に線材101を配置する。
【0027】
上記の第4層までの層構造で、1単位のウッドパイル構造が形成されたことになる。以下では、この1単位のウッドパイル構造を単位周期構造と呼ぶこととする。この単位周期構造をZ軸方向に繰り返し積み上げていくことで、周期構造の構造体を形成することができる。単位周期構造を積み上げる回数を、以下では周期構造積層数と呼ぶこととする。
【0028】
上記のようにして形成された周期構造の構造体は、ホトニック結晶構造となっており、本実施形態の導波路構造体100は、ホトニック結晶構造を有している。導波路構造体100を構成する線材101は、所定の誘電率(比誘電率をεとする)を有する誘電体で形成されている。これにより、本実施形態の導波路構造体100は、導体を用いないで誘電体のみで構成される。
【0029】
図1に示すようなホトニック結晶構造を有する導波路構造体100は、所定の周波数帯の電磁波を反射して透過させない。すなわち、線材101の断面の一辺の長さをdとすると、
f=c/(4×n×d) (4)
で与えられる周波数f近傍の電磁波に対しては、あらゆる方向から入射するものをすべて反射して透過させない。これは、導波路構造体100がホトニックバンドギャップを形成することによる効果である。ホトニックバンドギャップのバンド幅は、周波数fの10%程度である。なお、式(4)において、nは実効屈折率を示し、cは光速を示している。
【0030】
実効屈折率nは、次式で与えられる。

ε=(1−α)・ε+α・ε (6)
ここで、εは空気の比誘電率を示し、αは線材101の空間占有率を示している。図1に示すようなウッドパイル構造の本実施形態の導波路構造体100では、空間占有率は0.5となる。
【0031】
上記のように、ホトニック結晶構造に形成された本実施形態の導波路構造体100は、ホトニックバンドギャップを形成して周波数f近傍の電磁波を遮蔽することができることから、これを用いて図2に示すような導波路110を形成することで、周波数f近傍の電磁波を閉じ込めることができる。但し、所定の電磁波に対して十分に高い遮蔽効果を実現するためには、線材101からなる単位周期構造を所定数以上積層する必要がある。
【0032】
本実施形態の導波路構造体100を用いることで、導体を用いない導波路110を形成することができることから、導体損失の極めて小さい導波路110を提供することができる。しかし、導波路構造体100を用いて導波路110の壁を形成した場合、壁の表面から単位周期構造の1〜2個分程度まで、導波路構造体100の内部に僅かな電界エネルギーの侵入が生じ、誘電体損失が発生する。但し、導波路構造体100で生じる誘電体損失の大きさは、導体壁を用いたときの導体損失に比べて十分に小さい。
【0033】
以下では、ホトニック結晶構造を有する導波路構造体100で導波路110の壁を形成したとき、その内部に電磁波が侵入して発生する誘電体損失の大きさについて説明する。図1に示したウッドパイル型のホトニック結晶構造を有する本実施形態の導波路構造体100に平面波が入射したとき、その表面から内部に向けて侵入する電磁波の電界エネルギー分布を図5に示す。
【0034】
図5において、横軸は導波路構造体100で形成された導波路110の壁からの距離を、周期構造積層数Lで示している。周期構造積層数Lから実距離x[m]へは次式で換算できる。

ここで、c0は真空中の光速度(=2.99792×10[m/s])を表している。また、縦軸は電界エネルギー密度を表しており、導波路110の壁表面におけるエネルギー密度を1として規格化した値である。
【0035】
図5より、エネルギー密度が1/eまで減衰する侵入長は、周期構造積層数Lが約1.6のときであることがわかる。このことから、周期構造積層数は、1.5周期以上とするのが好ましい。また、周期構造積層数Lから算出される実距離xは、式(7)より、実効屈折率nが大きいほど短くなる。従って、より高い誘電率をもつ誘電体の線材101を用いて導波路構造体100を作製する方が、より少ない周期構造積層数Lで電磁波を遮蔽することができ、導波路構造体100で形成される導波路110の壁の厚さを薄くすることができる。
【0036】
ところで、実際の誘電体は、誘電正接tanδに依存した誘電損失を持っている。これにより、侵入長に対する電界エネルギー密度の変化は、図5に示した場合よりさらに減衰すると考えられ、1/eまで減衰する侵入長が短くなる。誘電正接tanδと1/eまで減衰する侵入長との関係を図6に示す。同図において、横軸は誘電正接tanδの値を対数目盛りで表しており、縦軸は、エネルギー密度が1/eまで減衰する侵入長を、図5の横軸と同じ周期構造積層数Lで表している。
【0037】
図6において、誘電正接tanδが十分に小さい10−6以下の場合には、誘電損失が無いとしたときと同程度の侵入長となっている。これに対し、誘電正接tanδが10−5より大きい場合には、tanδが大きくなるのに伴って侵入長も徐々に短くなっていく。これは、誘電損失が大きくなるほど導波路構造体100の壁の内部に侵入した電界エネルギーが失われやすくなるため、電磁波が壁の深い部分まで侵入できなくなることを示している。
【0038】
通常の誘電体は、10−4〜10−2程度の範囲の誘電正接tanδを有している。従って、本実施形態の導波路構造体100を用いて電磁波を十分に閉じ込めることができる導波路110を形成する場合には、線材101に用いる誘電体の比誘電率だけでなく、誘電正接tanδの大きさも考慮して導波路110の壁の厚さを決定する必要がある。図6より、誘電正接tanδの大きい線材101を用いて導波路構造体100を形成し、これを用いて導波路110を形成することで、導波路110の壁の厚さを薄くすることが可能となる。よって、このような導波路構造体100を用いることで、導波路110の小型化を実現することが可能となる。
【0039】
一般に、同軸ケーブル等の導波路に用いられる誘電体は、誘電正接tanδが小さいものを用いるのが好ましいとされるが、本実施形態の導波路構造体100では、必ずしも低損失の誘電体を用いる必要はなく、むしろ誘電損失の大きい誘電体を用いることで、導波路110を小型化できることが上記で示された。以下では、導波路構造体100を用いて形成した導波路110の誘電損失の大きさについて説明する。
【0040】
一例として、誘電損失の高いガラスエポキシ(tanδ=0.02、ε=4.5)を線材101に用い、図1に示したウッドパイル構造の単位周期構造を2層(周期構造積層数L=2)形成した導波路構造体100(厚さ約6mm)で導波路110を形成する。この導波路110の表面に1[V/m]の電界強度の平面波を入射させると、単位面積あたりの誘電損失L=6.6×10−5[W]となる。これは、導体壁によって遮蔽した場合の表皮効果による導体損失L=7.8[W]に比べて、約10万分の1の大きさである。このように、従来は高損失のためミリ波帯の導波路には使用されない傾向にあったガラスエポキシでも、本実施形態の導波路構造体100に用いることができ、従来の導波路よりも損失が十分に低い導波路110を提供することができる。
【0041】
ガラスエポキシよりも低損失なPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等を用い、図1に示したウッドパイル構造の単位周期構造を2層(周期構造積層数L=2)形成した導波路構造体100(厚さ約8mm)で導波路110を形成した場合について説明する。この導波路110の表面に1[V/m]の電界強度の平面波を入射させると、単位面積あたりの誘電損失L=5.2×10−7[W]となる。これより、PTFEを用いて導波路構造体100を形成した場合には、ガラスエポキシを用いた場合に比べてさらに低損失な導波路110を実現することができる。
【0042】
ガラスエポキシで形成された断面が略正方形の線材101を用いて導波路構造体100を作製し、その伝送損失を実測した結果を以下に説明する。この導波路構造体100に、図2に示すような9mm×9mmの断面を有する貫通孔を形成して導波路110に用いる。この導波路110に60GHzの電磁波を伝送させたとき、実測された伝送損失は0.2[dB/m]となった。一方、従来より60GHzの電磁波の伝送に用いられている方形導波管(例えば、古河C&B株式会社製、WRJ−620)では、伝送損失が2[dB/m]となることから、本実施形態の導波路110の伝送損失は、従来のものに比べて約1/10に低減化されている。
【0043】
なお、上記の伝送損失の見積もりでは、本実施形態の導波路110は従来の導波路に比べて約10万分の1に低減されるとしたが、上記の実測では約1/10の低減となっている。この差は、導波路構造体100を作製するときのホトニック結晶構造の組み立て精度によるものと考えられる。本実施形態の導波路構造体100を用いて形成された導波路110では、作製精度を含めても伝送損失を従来の導波路よりも約1/10に低減することができ、作製精度を高めることで伝送損失をさらに低減することが可能となる。
【0044】
本発明の別の実施形態に係る導波路構造体を、図7に示す。図7(a)に示す実施形態の導波路構造体200は、断面が正方形の線材101に代えて、断面が円形の円柱状の線材201を用いて作製している。導波路構造体200の作製方法は、導波路構造体100を作製する場合と同様に、線材201を断面の直径と同じ幅の間隔を空けて配列していくことで1層当たりの層構造を作製する。そして、導波路構造体100の作製方法と同様にして、1層当たりの層構造を順次積層していくことで単位周期構造を作製し、これを所定の周期構造積層数だけ積層することで導波路構造体200を作製する。本実施形態の導波路構造体200は、断面が円形の線材201を用いているが、これに限定されず、例えば断面が楕円形の線材を用いて作製することも可能である。
【0045】
図7(b)に示す実施形態の導波路構造体210は、柔軟性のある線材211を用い、これを略直交する2方向に交差させながら交互に編み上げ、さらにこれを2層分、線材211が上下で重ならないように位置を調整して積層することで、編組構造の単位周期構造を作製している。そして、この単位周期構造を所定の周期構造積層数だけ積層することで導波路構造体210を作製する。柔軟性のある線材211として、例えば二酸化チタン等の誘電体粉末とポリエチレンを混錬することによって作製したものを用いることができる。
【0046】
上記のようにして作製された導波路構造体200または210は、それぞれの周期構造に対応した周波数近傍で、ホトニックバンドギャップによる電磁波の遮蔽効果を実現することができる。よって、本実施形態の導波路構造体200または210を用いて導波路を形成することにより、導体損失のない低損失な導波路を提供することが可能となる。
【0047】
本発明のさらに別の実施形態に係る導波路構造体を、図8に示す。本実施形態の導波路構造体300は、ウッドパイル構造を円筒形に形成して同軸構造としたものである。このような円筒形状のホトニック結晶構造を形成するには、柔軟性の高い誘電体からなる線材301を用いるのがよい。このような線材301として、例えば二酸化チタンの粉末とポリエチレンを体積比で1:3の比率で混錬し、これを断面が0.25mm×0.25mmの角柱状に形成して作製することができる。
【0048】
同軸構造の本実施形態の導波路構造体300の作製方法を、図9を用いて以下に説明する。まず、図9(a)に示すように、芯線302の長手方向に対し約45度だけ一方に傾けた線材301を、間隔が線材301の幅と等しくなるように芯線302に沿って巻きつけていく。これにより、第1層目の層構造が形成されると、次にその上から再び線材301を巻きつけて第2層目の層構造を形成する。第2層目では、線材301を芯線302の長手方向に対し第1層目とは反対側に約45度だけ傾けて巻きつけていく。これにより、線材301が第1層目と第2層目で直交する方向に巻きつけられる。
【0049】
さらに、第3層目と第4層目の層構造を上記と同様にして形成する。但し、第3層目の線材301は、第1層目の線材301間の隙間に位置するように巻きつけられ、第4層目の線材301は、第2層目の線材301間の隙間に位置するように巻きつけられる。これにより、4層の層構造からなる円筒形状のホトニック結晶構造を有する単位周期構造が形成される。本実施形態では、この単位周期構造を2つ(周期構造積層数Lが2)作製して内壁部303を形成している。
【0050】
次に、図9(b)に示すように、誘電体をチューブ状に形成した誘電体導波層304の内部に、上記で作製した内壁部303を挿入する。その後、図9(c)に示すように、誘電体導波層304を中心に、その長手方向に対し約45度だけ一方に傾けた線材301を、間隔が線材301の幅と等しくなるように巻きつけていく。以下、内壁部303の作製方法と同様にして第1層目から第4層目までの層構造を作製し、これを単位周期構造とする。本実施形態では、この単位周期構造を2つ(周期構造積層数Lが2)作製して外壁部305を形成する。
【0051】
上記の本実施形態の導波路構造体300は、周波数60GHzの電磁波を伝送するための導波路の作製に用いることができる。一例として、直径1mmのポリエチレンからなる芯線302と、周期構造積層数が2の内壁部303(厚さ2mm)と、PTFEで形成された内径5mm、外径7mmのチューブ状の誘電体導波層304と、周期構造積層数が2の外壁部305(厚さ2mm)とからなる外径が11mmの同軸構造の導波路構造体300を作製することができる。この導波路構造体300を用いると、比誘電率が47.8、誘電正接tanδが2×10−3の導波路が形成される。これに60GHzの電磁波を伝送させると、伝送損失は0.4[dB/m]となる。これは、同じ周波数帯域で用いられるMIL−C−17/151準拠の同軸ケーブル(商品名MWX261)の伝送損失5[dB/m]に比べ略1/10となっており、低損失の導波路が実現されている。
【0052】
上記説明の通り本発明によれば、ミリ波領域以上の高周波領域の電磁波を低損失で伝送できる導波路構造体を提供することができる。このような低損失の導波路構造体を用いて導波路を形成することにより、伝送設備の省エネルギー化や効率化を実現することが可能となる。
【0053】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係る導波路構造体及び導波路の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における導波路構造体及び導波路の細部構成及び詳細な動作等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0054】
100、200、210、300 導波路構造体
10、900 同軸ケーブル
101、201、211、301 線材
110 導波路
302 芯線
303 内壁部
304 誘電体導波層
305 外壁部
901 中心導体
902 誘電体層
903 コア
904 金属箔
905 外部導体層
906 導体層 907 外被


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミリ波領域以上の高周波領域の電磁波を伝送する導波路構造体であって、
誘電体からなる線材が、該線材の幅に等しい間隔をおいて平行に配列されて形成された第1の層と、
前記線材が、前記第1の層を形成する線材と直交する方向に該線材の幅に等しい間隔をおいて平行に配列されて形成された第2の層と、
前記線材が、前記第1の層を形成する線材と平行な方向に該線材の幅に等しい間隔で配列され、かつ、前記第1の層の前記線材が配置されていない部分に対応する位置に配置されて形成された第3の層と、
前記線材が、前記第2の層を形成する線材と平行な方向に該線材の幅に等しい間隔で配列され、かつ、前記第2の層の前記間隔に対応する位置に配置されて形成された第4の層とからなる積層構造を単位周期とする周期構造を1.5周期以上備えていることを特徴とする導波路構造体。
【請求項2】
ミリ波領域以上の高周波領域の電磁波を伝送する導波路構造体であって、
誘電体からなる2以上の線材を直交する方向に交互に編み組んだ編組構造の第1の層と、
前記編組構造に形成され、かつ前記線材が前記第1の層を形成する線材と重ならない線材間に配置された第2の層と、からなる積層構造を単位周期とする周期構造を1.5周期以上備えていることを特徴とする導波路構造体。
【請求項3】
前記積層構造が、線状導体の表面に円筒状に形成されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の導波路構造体。
【請求項4】
前記線材は、横断面形状が円、楕円、または多角形のいずれかからなる
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の導波路構造体。
【請求項5】
円筒状の内壁部と、内径が前記内壁部の外径より大きい円筒状の外壁部と、を備えた同軸状の導波路であって、
前記内壁部及び前記外壁部が請求項3に記載の導波路構造体で形成されている
ことを特徴とする導波路。
【請求項6】
断面が矩形で4つの壁面が伝送方向に平行な平面で取り囲まれた導波路であって、
前記4つの壁面が請求項1または2に記載の導波路構造体で形成されている
ことを特徴とする導波路。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−15330(P2011−15330A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159663(P2009−159663)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】