説明

導電ペーストおよびその製造方法、導電膜付き基材、ならびに導電膜付き基材の製造方法

【課題】体積抵抗率が低く、かつ冷熱サイクルに対する優れた耐久性を有する導電膜を形成可能な導電ペーストを提供する。
【解決手段】銅粒子(A)と、単糖類であるアルドースとケトヘキソース、およびIUPAC命名法による1位の炭素がヒドロキシル基を有する不斉炭素である多糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種の糖(B)と、熱硬化性樹脂(C)とを含有する導電ペーストである。この導電ペーストは、pKaが1〜4の有機酸の、エステルまたはアミド(D)をさらに含有できる。この導電ペーストを基材上に塗布した後、150℃未満の温度で加熱し硬化させて導電膜を形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電ペーストおよびその製造方法、導電ペーストを用いた導電膜付き基材、ならびに導電膜付き基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品や印刷配線板(プリント基板)等の配線導体の形成に、導電ペーストを用いる方法が知られている。このうち、例えばプリント基板の製造は、ガラス、セラミックス等からなる絶縁性基材上に導電ペーストを所望のパターン形状に塗布した後、150℃以上に加熱して焼成し、配線パターンを形成することにより行われている。
【0003】
導電ペーストとしては、高い導電性を確保する観点から、銀(Ag)を主成分とした銀ペーストが主として適用されていた。しかしながら、銀ペーストは、高温高湿の環境下で通電すると、銀原子がイオン化して電界に引かれて移動するイオンマイグレーション(銀の電析)が生じ易い。配線パターンにイオンマイグレーションが生じると、配線間でショートが生じるなどの不具合が発生し、配線基板の信頼性が低下するおそれがある。
【0004】
そのため、電子機器や配線基板の信頼性を高める観点から、導電ペーストとして、銀ペーストに代えて銅ペーストを用いる技術が提案されている。銅ペーストは、マイグレーション現象が生じにくいため、電気回路の接続信頼性を高めることが可能である。
【0005】
しかしながら、一般に銅は酸化し易く、高湿度の環境下で大気中に放置すると、大気中の水分や酸素等との反応により酸化銅を生じやすい。このため、銅ペーストを焼成して形成した導電膜は、酸化被膜の影響で体積抵抗率が高くなり易いという問題がある。
【0006】
このような問題を解決するため、銅ペーストに配合する銅粉末を湿式還元法により製造する技術が提案されているが、配線導体用の導電ペーストにおける体積抵抗率の上昇は、十分に改善されていないのが実情であった。
【0007】
配線導体用の銅ペーストにおける導通のメカニズムは、バインダである熱硬化性樹脂の硬化収縮によって、銅粒子同士が圧着されることによるもので、銅粒子表面の酸化状態や、バインダ樹脂の圧縮状態により導電性は大きく影響を受ける。
【0008】
銅粒子表面の酸化状態の改善に関しては、従来から、銅ペースト中にカテコール、レゾルシン、ハイドロキノンのような還元作用を有する物質(以下、還元剤をいう。)を配合し、銅粒子表面の酸化を防止する技術が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0009】
前記した銅ペーストにおける導通のメカニズムから明らかなように、絶縁物である表面酸化膜は、接続抵抗の増大をもたらすため、還元剤を用いて銅粒子表面の酸化を抑制する必要がある。しかしながら、特許文献1に記載された方法では、冷熱サイクルに対する耐久性を向上させることが難しく、この銅ペーストから得られる導電膜は、冷熱サイクル後の体積抵抗率の上昇率が大きいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−73780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、体積抵抗率が低く、冷熱サイクルに対する優れた耐久性を有する導電膜を形成可能な導電ペーストの提供を目的とする。また、本発明は、上記導電ペーストを用いた導電膜を有する導電膜付き基板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の導電ペーストは、銅粒子(A)と、単糖類であるアルドースとケトヘキソース、およびIUPAC命名法による1位の炭素がヒドロキシル基を有する不斉炭素である多糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種の糖(B)と、熱硬化性樹脂(C)とを含有することを特徴とする。
【0013】
本発明の導電ペーストにおいて、前記糖(B)は、単糖類であるアルドースとケトヘキソースから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。そして、前記糖(B)の含有量は、前記銅粒子(A)100質量部に対して0.05〜1質量部であることが好ましい。
【0014】
本発明の導電ペーストは、pKaが1〜4の有機酸の、エステルまたはアミド(D)をさらに含有できる。そして、前記有機酸のエステルまたはアミド(D)は、ホルムアミド、サリチル酸メチル、シュウ酸ジメチル、マロン酸ジメチルおよびマレイン酸ジメチルから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また、前記有機酸のエステルまたはアミド(D)の含有量は、前記熱硬化性樹脂(B)100質量部に対して0.5〜15質量部であることが好ましい。
【0015】
本発明の導電ペーストにおいて、前記銅粒子(A)は、X線光電子分光法によって求められる表面酸素濃度比O/Cuが0.5以下の銅粒子であることが好ましい。また、前記熱硬化性樹脂(B)は、フェノール樹脂、メラミン樹脂および尿素樹脂から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。そして、前記熱硬化樹脂(B)の含有量は、前記銅粒子(A)100質量部に対して5〜50質量部であることが好ましい。
【0016】
本発明の導電ペーストの製造方法は、銅粒子(A)と、単糖類であるアルドースとケトヘキソース、およびIUPAC命名法による1位の炭素がヒドロキシル基を有する不斉炭素である多糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種の糖(B)と、熱硬化性樹脂(C)とを含有する導電ペーストの製造方法であって、前記熱硬化性樹脂(C)と前記糖(B)とを混合する工程と、前記工程で得られた混合物に、前記銅粒子(A)を添加して混合する工程とを有することを特徴とする。
【0017】
本発明の導電膜付き基材は、前記した導電ペーストを硬化させて形成された導電膜を、基材上に有してなる。前記導電膜付き基材において、前記基材は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種である。また、前記導電膜の体積抵抗率は1.0×10−4Ωcm以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の導電膜付き基材の製造方法は、前記した本発明の導電ペーストを基材上に塗布した後、この導電ペーストを150℃未満の温度で加熱し硬化させて導電膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の導電ペーストによれば、体積抵抗率が低く、かつ冷熱サイクル等による熱衝撃に対して優れた耐久性を有する導電膜を形成できる。また、このような導電ペーストを用いることで、配線基板等としての信頼性が高く、また酸化被膜の形成による体積抵抗率の上昇が抑制された導電膜付き基材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】銅粒子の湿式還元処理の実施に用いる装置の概略構成を示す説明図である。
【図2】本発明の導電膜付き基材の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
[導電ペースト]
本発明の実施形態の導電ペーストは、銅粒子(A)と、単糖類であるアルドースとケトヘキソース、およびIUPAC命名法による1位の炭素がヒドロキシル基を有する不斉炭素である多糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種の糖(B)と、熱硬化性樹脂(C)とをそれぞれ含有する。本発明の実施形態の導電ペーストは、pKaが1〜4の有機酸の、エステルまたはアミド(D)を含有できる。
【0023】
本発明の実施形態の導電ペーストによれば、銅粒子(A)および熱硬化性樹脂(C)とともに、銅を還元するのに十分な還元電位を有し、還元性を有する前記糖(B)が配合されているので、大気中に含まれる酸素等と反応する銅イオンの量を低減でき、酸化銅の形成が抑制された導電ペーストとできる。
【0024】
そして、このような導電ペーストで形成された導電膜において、酸化銅を主成分とする酸化被膜の形成が防止されるため、冷熱サイクルによる熱衝撃に対しても、体積抵抗率の上昇が抑制された導電膜付き基材を得ることができる。
以下、実施形態の導電ペーストを構成する各成分について説明する。
【0025】
<銅粒子(A)>
銅粒子(A)は、導電ペーストの導電成分となるものである。銅粒子(A)としては種々の銅粒子が使用可能であるが、X線光電子分光法によって求められる表面酸素濃度比O/Cu(以下、単に「表面酸素濃度比O/Cu」と示す。)が0.5以下のものが好ましい。
【0026】
「表面酸素濃度比O/Cu」は、X線光電子分光分析により測定された、銅粒子の表面銅濃度(原子%)に対する表面酸素濃度(原子%)の比で表わされるものである。
本明細書において、「表面銅濃度(原子%)」および「表面酸素濃度(原子%)」は、それぞれ、銅粒子表面から中心に向けて約3nmの深さまでの範囲の粒子表層域に対して、X線光電子分光分析を行って得た測定値である。この範囲の粒子領域について各成分の濃度測定を行うことで、銅粒子の表面状態が十分に把握される。
【0027】
銅粒子(A)の表面酸素濃度比O/Cuが0.5を超えると、銅粒子(A)表面の酸化銅の存在量が過多であり、導電膜としたときに、粒子間の接触抵抗が大きく、体積抵抗率が高くなるおそれがある。
表面酸素濃度比O/Cuが上記範囲である銅粒子(A)を用いることで、銅粒子間の接触抵抗を低減でき、導電膜としたときの導電性を向上させることができる。銅粒子(A)の表面酸素濃度比O/Cuは、0.3以下であることが好ましく、さらに0.2以下であることが好ましい。
【0028】
また、銅粒子(A)は、粒子全体に含まれる酸素濃度が700ppm以下であることが好ましく、さらに500ppmであることが好ましい。銅粒子に含まれる酸素濃度は、例えば酸素濃度計を用いて測定できる。
【0029】
前記銅粒子(A)としては、種々の銅粒子を使用でき、第1の粒子であってもよく、第2の粒子であってもよく、また第1の粒子と第2の粒子とが複合した形の複合粒子であってもよい。複合粒子としては、例えば、第1の粒子の表面に第2の粒子が付着または結合した形態のものを挙げられる。詳細は後述する。
【0030】
銅粒子(A)の平均粒子径は0.01〜20μmであることが好ましく、銅粒子(A)の形状に応じて、上記の範囲内において適宜調整できる。銅粒子(A)の平均粒子径が0.01μm以上であれば、この銅粒子を含む導電ペーストの流動特性が良好となる。また、銅粒子(A)の平均粒子径が20μm以下であれば、この銅粒子を含む導電ペーストにより微細配線を作製し易くなる。
【0031】
銅粒子(A)が第1の粒子を含む場合、その平均粒子径(平均一次粒子径)は0.3〜20μmであることが好ましい。また、銅粒子(A)が第2の粒子のみからなる場合、その平均粒子径(平均凝集粒子径)は0.01〜1μmであることが好ましく、0.02〜0.4μmであることがより好ましい。
【0032】
銅粒子(A)が第1の粒子を含む場合にその平均粒子径(平均一次粒子径)が0.3μm以上の場合、および銅粒子(A)が第2の粒子のみからなる場合にその平均粒子径(平均凝集粒子径)が0.01μm以上の場合には、この銅粒子を含む導電ペーストの流動特性が良好となる。また、銅粒子(A)が第1の粒子を含む場合にその平均粒子径(平均一次粒子径)が20μm以下の場合、および銅粒子(A)が第2の粒子のみからなる場合にその平均凝集粒子径が1μm以下の場合には、この銅粒子を含む導電ペーストにより微細配線を作製し易くなる。
【0033】
表面酸素濃度比O/Cuが0.5以下の銅粒子(A)としては、例えば、下記銅粒子(A1)〜(A5)を好適に使用できる。
(A1)第1の粒子であって、その平均一次粒子径が0.3〜20μmである銅粒子。
(A2)第1の粒子であって、その平均一次粒子径が0.3〜20μmである銅粒子表面に、第2の粒子であって、その平均凝集粒子径が20〜400nmである水素化銅微粒子が付着した銅複合粒子。
(A3)第2の粒子であって、その平均凝集粒子径が10nm〜1μmである水素化銅微粒子。
(A4)第1の粒子であって、その平均一次粒子径が0.3〜20μmである銅粒子表面に、第2の粒子であって、その平均凝集粒子径が20〜400nmである銅微粒子が付着した複合金属銅粒子。
(A5)第2の粒子であって、その平均凝集粒子径が10nm〜1μmである銅微粒子。
【0034】
なお、銅粒子(A4)は、銅粒子(A2)の水素化銅微粒子が、加熱処理により金属銅微粒子に変換されたものであり、銅微粒子(A5)は、水素化銅微粒子(A3)が加熱処理により変換されたものである。
【0035】
本明細書において、平均粒子径は、以下のようにして求めたものである。
すなわち、第1の粒子についての平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」と記す。)像の中から無作為に選んだ100個の粒子のFeret径を測定し、これらの粒子径を平均して算出したものである。
また、第2の粒子の平均凝集粒子径は、透過型電子顕微鏡(以下、「TEM」と記す。)像の中から無作為に選んだ100個の粒子のFeret径を測定し、これらの粒子径を平均して算出したものである。
また、例えば銅粒子(A2)のように、第1の粒子である銅粒子と、この銅粒子表面に付着した第2の粒子である水素化銅微粒子とを含む複合粒子の場合には、この複合粒子全体をSEMによって観察し、第2の粒子も含む粒子全体のFeret径を測定し、得られた粒子径を平均して算出したものである。
【0036】
前記したような銅粒子(A)としては、例えば、銅粒子表面を還元処理してなる「表面改質銅粒子」、または金属銅粒子表面の少なくとも一部に金属銅微粒子が付着した「複合金属銅粒子」が挙げられる。
【0037】
(表面改質銅粒子)
本発明における「表面改質銅粒子」は、銅粒子表面をpH値が3以下の分散媒中で還元処理して得られるものであり、例えば、(1)銅粒子を分散媒に分散して「銅分散液」とした後、(2)銅分散液のpH値を所定値以下に調整し、(3)銅分散液に還元剤を添加する下記の(1)〜(3)の工程を経た、湿式還元法により製造できる。
【0038】
(1)〜(3)の工程により得られる表面改質銅粒子は、主に第1の粒子で構成されるものであり、その平均一次粒子径は0.3〜20μmであることが好ましい(銅粒子(A1))。
表面改質銅粒子において、その平均一次粒子径が0.3μm以上であれば、この銅粒子を含む導電ペーストの流動特性が良好となる。また、平均一次粒子径が20μm以下であれば、この銅粒子を含む導電ペーストにより微細配線を作製し易くなる。
【0039】
以下に、表面改質銅粒子を製造する工程(1)〜(3)について説明する。
【0040】
(1)銅分散液の作製
銅分散液に分散させる銅粒子は、導電ペーストとして一般に用いられる銅粒子が使用でき、その粒子形状は球状であってもよく、板状であってもよい。
【0041】
銅分散液に分散させる銅粒子の平均粒子径は、0.3〜20μmであることが好ましく、1〜10μmであることがより好ましい。
銅粒子の平均粒子径が0.3μm未満であると、導電ペーストの流動性を低下させるおそれがある。一方、銅粒子の平均粒子径が20μmを超えると、得られる導電ペーストでの微細配線の作製が困難となる。銅粒子の平均粒子径を0.3〜20μmとすることで、流動性が良好で、かつ微細配線の作製に適した導電ペーストとできる。
なお、銅粒子の平均粒子径は、SEM像の中から無作為に選出した100個の金属銅粒子のFeret径を測定し、その平均値を算出して得たものである。
【0042】
銅分散液は、上記の銅粒子を粉末状としたものを、分散媒に投入して得ることができる。銅分散液中の銅粒子の濃度は、0.1〜50質量%であることが好ましい。
銅粒子の濃度が0.1質量%未満であると、銅分散液に含まれる分散媒量が過多となり、生産効率を十分なレベルに維持できないおそれがある。一方、銅粒子の濃度が50質量%を超えると、粒子同士の凝集の影響が過大となり、表面改質銅粒子の収率が低減するおそれがある。銅分散液の銅粒子の濃度を上記範囲とすることで、表面改質銅粒子を高収率で得られる。
【0043】
銅粒子分散液の分散媒としては、銅粒子を分散可能なものであれば特に限定されないが、高極性を有するものを好適に使用できる。
高極性の分散媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類、エチレングリコール等のグリコール類、およびこれらを混合した混合媒体等が使用でき、特に水を好適に使用できる。
【0044】
分散媒に分散させる銅粒子は、粒子表面の酸化を防止する観点から、表面処理剤で粒子表面を表面処理したものであってもよい。表面処理剤としては、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸等の長鎖カルボン酸を使用できる。
【0045】
なお、表面処理剤として長鎖カルボン酸を用いた場合には、銅粒子をそのまま還元処理に供してもよいが、後述する還元反応を円滑に進行させるため、表面処理剤である長鎖カルボン酸を粒子表面から除去した後に分散媒に分散させることが好ましい。長鎖カルボン酸の除去は、例えば、酸を用いた洗浄等の方法により行うことができる。
【0046】
また、銅粒子の分散媒に対する分散性を向上させる観点から、銅粒子に対して前処理を行うことが好ましい。前処理を行うことで、粒子表面が親水性化されるため、水等の高極性分散媒に対する分散性を高めることができる。
【0047】
前処理剤としては、例えば、炭素数6以下の脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ヒドロキシモノカルボン酸、脂肪族アミノ酸等の脂肪族モノカルボン酸類、および脂肪族ポリカルボン酸類(例えば、炭素数10以下の脂肪族ポリカルボン酸や脂肪族ヒドロキシポリカルボン酸。)を好適に使用できる。より好ましくは、炭素数8以下の脂肪族ポリカルボン酸類であり、具体的には、グリシン、アラニン、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸等を好適に使用できる。
【0048】
上記のようにして得られた銅分散液には、分散剤を添加することが好ましい。分散剤としては、銅粒子に対して吸着性を有する水溶性の各種化合物を使用できる。
分散剤としては、具体的には、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、プロピルセルロース、エチルセルロース等の水溶性高分子化合物や、エチレンジアミン四酢酸、イミノジ二酢酸等のキレート化合物等を使用できる。
【0049】
上記各処理を経た後の銅粒子表面に担持されて存在する表面処理剤、前処理剤、分散剤の量は、銅粒子に対して0.1〜10質量%であることが好ましい。
【0050】
前処理剤や分散剤による銅粒子の処理は、水等の溶媒に前処理剤等を添加して得られた溶液に、銅粒子を添加して撹拌し、この溶液中で、銅粒子表面に前処理剤等を担持するようにして行うことができる。
【0051】
処理速度を高める観点から、前処理を行う際は、溶液を加熱しながら行うことが好ましい。加熱温度としては、50℃以上、溶剤(水等)の沸点以下の温度で行うことが好ましい。なお、溶剤にカルボン酸等の表面処理剤や分散剤を添加した場合には、加熱温度は、これらの化合物の沸点以下の温度で加熱することが好ましい。
加熱処理する時間は、5分間以上3時間以下が好ましい。加熱時間が5分間未満であると、処理速度を高める効果を十分に得られないおそれがある。一方、3時間を超えて加熱処理を行っても、コストが過度に高くなるおそれがあり、経済的な面から好ましくない。
【0052】
なお、前処理等を行う際は、銅粒子表面の酸化を防止する観点から、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスで処理容器内を置換して行うことが好ましい。前処理後、溶剤を除去し、必要により水等で洗浄することで、分散液に分散させる銅粒子を得ることができる。
【0053】
(2)銅分散液のpH値の調整
上記(1)で得られた銅分散液のpH値を調整する。pH値の調整は、銅分散液にpH調整剤を添加して行うことができる。銅分散液のpH調整剤としては、酸を使用でき、例えばギ酸、クエン酸、マレイン酸、マロン酸、酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸や、硫酸、硝酸、塩酸等の無機酸を好適に用いることができる。カルボン酸としては、上述した前処理剤として用いたカルボン酸と同様の化合物を使用できる。
【0054】
これらの中でも、カルボン酸は、銅粒子表面に吸着し、還元処理後の表面改質銅粒子の表面に残存して粒子表面を保護することで、銅の酸化反応を抑制できるため、pH調整剤として好適に使用できる。特に、ギ酸は還元性を有するアルデヒド基(−CHO)を有するため、表面改質された銅粒子表面に残存することで、粒子表面の酸化の進行を抑制できる。このような銅粒子を配合した導電ペーストを用いることで、酸化被膜が形成されにくく、体積抵抗率の上昇が抑制された導電膜を形成できる。
なお、pH調整剤としては、必ずしも酸成分に限定されるものではない。分散液のpH値が低い場合には、pH調整剤として塩基を使用できる。
【0055】
後の還元処理工程で、粒子表面の酸化膜の除去を円滑に行い、得られる表面改質銅粒子の表面酸素濃度を低減する観点から、銅分散液のpH値は3以下とすることが好ましい。
分散液のpH値が3を超えると、銅粒子表面に形成された酸化膜を除去する効果を十分に得ることができず、銅粒子表面の酸素濃度を十分に低減できないおそれがある。一方、分散液のpH値は0.5以上とすることが好ましい。分散液のpH値が0.5未満であると、銅イオンが過度に溶出し、銅粒子の表面改質が円滑に進行しにくくなるおそれがある。分散液のpH値は、0.5以上2以下とすることがより好ましい。なお、分散液のpH値が3以下の場合は、この分散液をそのまま還元処理してもよい。
【0056】
(3)銅分散液の還元処理
pH値を調整した銅分散液に還元剤を添加して還元処理を行う。
銅分散液に添加する還元剤としては、金属水素化物、ヒドリド還元剤、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム等の次亜リン酸塩、ジメチルアミンボラン等のアミンボラン、およびギ酸から選ばれる少なくとも1種を使用できる。金属水素化物としては、水素化リチウム、水素化カリウム、および水素化カルシウムが挙げられる。ヒドリド還元剤としては、水素化リチウムアルミニウム、水素化ホウ素リチウム、および水素化ホウ素ナトリウムが挙げられる。これらのうち、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウムを好適に使用できる。
なお、上記のように、ギ酸はpH調整剤としても用いられるため、分散媒中にギ酸を添加した場合には、還元剤として作用するとともにpH調整剤としても作用する。
【0057】
銅分散液に添加する還元剤は、粒子表面の銅原子量に対して大過剰に添加することが好ましい。具体的には、分散液に含まれる銅粒子の全モル数に対して、モル比で1倍量以上の還元剤を添加することが好ましく、銅粒子の全銅原子のモル数に対し、モル比で1.2〜10倍量の還元剤を用いることがよい。
銅の全モル数に対して、10倍を超える量の還元剤を添加すると、コスト面で不利となり、生産コストが過度に高くなるおそれがある。また、還元剤からの分解生成物の量が過多となり、その除去が煩雑となるおそれもある。
【0058】
還元反応は、分散媒の温度を5〜60℃として行うことが好ましく、35〜50℃として行うことがより好ましい。分散液の温度を60℃以下とすることで、銅分散液から分散媒を蒸発させて除去したときの、分散液全体の濃度変化の影響を低減できる。
【0059】
銅粒子の還元は、上記のように銅分散液に還元剤を添加して行うか、または還元剤を添加した分散媒に、銅粒子を分散させて行うことができる。
なお、銅粒子表面の酸化膜の除去を円滑に行う観点からは、還元剤を添加後の銅分散液のpH値は、反応開始時点から反応終了時まで3以下の状態を保持することが好ましい。
【0060】
銅分散液の酸化還元電位は、還元剤の添加量や種類等により適宜調整できる。銅イオンの還元反応を円滑に進行させる観点から、銅分散液の酸化還元電位は、標準水素電極(SHE)の電位に対して100〜300mVであることが好ましく、100〜220mVであることがより好ましい。
なお、酸化還元電位は、標準電極からの電位差として求めることができる。本明細書では、酸化還元電位は、標準電極として、標準水素電極を用いて測定した電位差で表記する。
【0061】
還元剤の分解がほぼ終了した後、表面改質された銅粒子を分散液から分離し、必要に応じて水等で洗浄、乾燥して、表面酸素濃度比O/Cuが0.5以下の表面改質銅粒子、すなわち銅粒子(A)粉末を得ることができる。
銅粒子(A)の表面酸素濃度比O/Cuは、上記(1)〜(3)の工程において、例えば、銅分散液のpH値の調整や銅分散液の酸化還元電位の調整により、所望の範囲に調整できる。
【0062】
上記(1)〜(3)の表面処理を行うことで、出発原料としての銅粒子表面に存在していた酸化銅(CuO、CuO)を銅原子に還元できるため、導電性を阻害する要因となる酸化銅の存在量を低減できる。
【0063】
なお、還元剤分解物等の副生物は、通常分散媒に可溶な成分であるため、ろ過や遠心分離することでこれらの成分から分離できる。
また、上記(1)〜(3)の表面処理後の銅粒子表面では、還元剤によって銅原子の一部が還元され、水素化銅が生成することがある。そのため、表面処理後の銅粒子は、分散液から分離した後、40〜120℃で加熱処理することで、水素化銅を銅に変化させてもよい。
【0064】
(複合金属銅粒子)
本発明における「複合金属銅粒子」は、前記したように、金属銅粒子表面の少なくとも一部に、金属銅微粒子を付着させたものである。「複合金属銅粒子」は、金属銅粒子表面に水素化銅微粒子が付着してなる「銅複合粒子」を加熱し、水素化銅微粒子を金属銅微粒子に変換して得られるものである。
なお、金属銅粒子表面の微粒子の付着の有無は、SEM像を観察して確認できる。また、金属銅粒子の表面に付着した水素化銅微粒子の同定は、X線回折装置(リガク社製、装置名:TTR−III)を用いて行うことができる。
【0065】
銅複合粒子の金属銅粒子は、導電ペーストに一般的に用いられる公知の銅粒子を使用でき、その粒子形状は、球状であってもよく、板状であってもよい。
【0066】
銅複合粒子の金属銅粒子の平均粒子径は、0.3〜20μmであることが好ましく、1〜10μmであることがより好ましい。
金属銅粒子の平均粒子径が0.3μm未満であると、導電ペーストとしたときに、十分な流動特性を得られない。一方、金属銅粒子の平均粒子径が20μmを超えると、得られる導電ペーストによる、微細配線の作製が困難となるおそれがある。金属銅粒子の平均粒子径は、1〜10μmであることがより好ましい。
なお、金属銅粒子の平均粒子径は、TEM像またはSEM像の中から無作為に選出した100個の金属銅粒子のFeret径を測定し、この測定値を平均して算出したものである。
【0067】
銅複合粒子の水素化銅微粒子は、主として1〜20nm程度の一次粒子が凝集した二次粒子として存在しており、その粒子形状は球状であってもよく、板状であってもよい。
水素化銅微粒子の平均粒子径(平均凝集粒子径)は、20〜400nmであることが好ましく、30〜300nmであることがより好ましく、50〜200nmであることがより好ましい。特に好ましくは80〜150nmである。
水素化銅微粒子の平均粒子径(平均凝集粒子径)が20nm未満であると、水素化銅微粒子の融着・成長が生じ易くなり、導電膜としたときに、体積収縮に伴うクラック等の不具合が発生するおそれがある。一方、水素化銅微粒子の平均粒子径(平均凝集粒子径)が400nmを超えると、粒子表面積が十分でなく、表面融解現象が生じにくくなり、緻密な導電膜を形成するのが困難となる。
水素化銅微粒子の平均粒子径は、TEM像またはSEM像の中から無作為に選出した100個の水素化銅微粒子のFeret径を測定し、その測定値を平均して算出したものである。
【0068】
銅複合粒子としては、第1の粒子であってその平均一次粒子径が0.3〜20μmである銅粒子表面に、第2の粒子であってその平均凝集粒子径が20〜400nmである水素化銅微粒子が付着した複合粒子(銅複合粒子(A2))であることが好ましい。
【0069】
金属銅粒子表面に付着する水素化銅微粒子の量は、金属銅粒子の量の5〜50質量%であることが好ましく、10〜35質量%であることがより好ましい。
水素化銅微粒子の量が、金属銅粒子の量に対して5質量%未満であると、金属銅粒子間に導電パスが十分に形成されず、導電膜の体積抵抗率を低減する効果を十分に得られないおそれがある。一方、水素化銅微粒子の量が、金属銅粒子の量に対して50質量%を超えると、導電ペーストとして十分な流動性を確保するのが困難となる。
なお、金属銅粒子の表面に付着した水素化銅微粒子の量は、例えば、還元剤を加える前の水溶性銅化合物溶液中の銅イオン濃度と、水素化銅微粒子生成終了後の反応液中に残存する銅イオン濃度との差から算出できる。
【0070】
銅複合粒子は、例えば、(i)反応系Rで水素化銅微粒子を形成した後、(ii)反応系Rに金属銅粒子を投入し、水素化銅微粒子を金属銅粒子表面に付着させて「銅複合粒子」を形成し、(iii)「銅複合粒子」を反応系Rから分離する、下記の(i)〜(iii)の工程を経た湿式還元法により製造できる。
この銅複合粒子を加熱して、水素化銅微粒子を金属銅微粒子に変換することで、「複合金属銅粒子」を得ることができる。
【0071】
なお、本明細書において、「反応系R」とは、水素化銅微粒子が生成する系をいう。反応系Rは、(α)水溶性銅化合物溶液に還元剤を加えた未反応状態の系だけでなく、(β)水溶性銅化合物と還元剤との反応により、水素化銅微粒子の生成が進行中の状態の系、(γ)水素化銅微粒子の生成反応が終了し、生成後の水素化銅粒子が分散した状態の系、をも含むものであり、水等の溶媒に、水溶性銅化合物、銅イオン、各種陰イオンの他、水素化銅微粒子の生成後に溶媒中に残留する各種イオン、その他の残渣、還元剤やその分解物等が存在するものをいう。したがって、生成後の水素化銅微粒子を溶液中から単離して、新たに分散媒に分散させて得た分散液は、本明細書における反応系Rには該当しないものとする。
【0072】
以下に、銅複合粒子を製造する工程(i)〜(iii)、およびこの銅複合粒子から複合金属銅粒子を製造する方法について説明する。
【0073】
(i)水素化銅微粒子の形成
反応系Rは、水溶性銅化合物を溶媒に添加して形成した水溶性銅化合物溶液に、少なくとも還元剤を添加して形成できる。
【0074】
反応系Rを形成する水溶性の銅化合物としては、銅塩が好ましく、銅(II)イオンと、無機酸またはカルボン酸との塩がより好適に用いられる。銅塩を形成するカルボン酸としては、カルボキシル基の炭素原子も含めた炭素数が1〜4であるカルボン酸が好ましく、ギ酸、酢酸、またはプロピオン酸が特に好ましい。水溶性の銅化合物としては、硫酸銅、硝酸銅、ギ酸銅、酢酸銅、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅等が特に好適に用いられる。
なお、前記水溶性銅化合物溶液の溶媒としては、水溶性銅化合物が溶解し得るものであれば特に限定されないが、特に水を好適に使用できる。
【0075】
水溶性銅化合物溶液に含まれる水溶性銅化合物の濃度は、溶液100質量%に対して0.1〜30質量%であることが好ましい。水溶性銅化合物の濃度が0.1質量%未満であると、溶液中の水分量が過多となり、水素化銅微粒子の生産効率が低下する。一方、水溶性銅化合物の濃度が30質量%を超えると、水素化銅微粒子の収率がかえって低下するおそれがある。
【0076】
還元剤を添加する水溶性銅化合物溶液は、pH値を所定値以下に調整することが好ましい。
水溶性銅化合物溶液のpH調整剤としては、表面改質銅粒子の製造工程で、銅分散液のpH調整剤として列挙した酸成分と同様のものを使用できる。具体的には、例えばギ酸、クエン酸、マレイン酸、マロン酸、酢酸、プロピオン酸、硫酸、硝酸、塩酸等を使用できる。
【0077】
これらの中でも、水溶性銅化合物溶液のpH調整剤としては、ギ酸を特に好適に使用できる。ギ酸は、還元性を有するアルデヒド基(−CHO)を有するため、粒子表面に残存することで、銅微粒子の酸化を抑制できる。
【0078】
水溶性銅化合物溶液のpH値は、3以下とすることが好ましい。水溶性銅化合物溶液のpH値を3以下とすることで、水素化銅微粒子の生成効率を向上させることができる。これは、銅イオンと水素イオンとが溶液中に混在する状態で還元処理できるためであると推定される。
水溶性銅化合物溶液のpH値が3を超えると、金属銅微粒子が生成し易くなり、水素化銅微粒子の生成率が低下することがある。水素化銅微粒子の生成率を向上させる観点から、水溶性銅化合物溶液のpH値は0.5〜2とすることがより好ましい。
【0079】
還元剤としては、金属水素化物、ヒドリド還元剤、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム等の次亜リン酸塩、ジメチルアミンボラン等のアミンボラン、およびギ酸から選ばれる少なくとも1種を使用できる。金属水素化物としては、水素化リチウム、水素化カリウム、および水素化カルシウムが挙げられる。ヒドリド還元剤としては、水素化リチウムアルミニウム、水素化ホウ素リチウム、および水素化ホウ素ナトリウムが挙げられる。これらの中でも、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウムを好適に使用できる。
なお、上記のように、ギ酸はpH調整剤としても用いられるため、分散媒中にギ酸を添加した場合には、還元剤として作用するとともにpH調整剤としても作用する。
【0080】
水溶性銅化合物溶液の還元剤は、溶液中の銅イオンに対して1.2〜10倍の当量数添加することが好ましい。水溶性銅化合物溶液に添加する還元剤の量が、銅イオンの量に対して1.2倍の当量数未満であると、十分な還元作用を得るのが困難となる。一方、還元剤の添加量が、銅イオンの量に対して10倍の当量数を超えると、水素化銅微粒子の、ナトリウム、ホウ素、リン等の不純物の含有量を増大させることがある。
【0081】
反応系Rは、上記の還元剤と水等の溶媒とを混合した還元剤溶液を、水溶性銅化合物溶液と混合して形成してもよいし、固体状態の還元剤を、水溶性銅化合物溶液に添加して形成してもよい。このようにして形成した反応系Rでは、酸性条件下で、銅イオンが還元剤により還元されて水素化銅微粒子が生成し、粒成長する。
【0082】
(ii)銅複合粒子の形成
上記(i)で形成した反応系Rに金属銅粒子を投入し、この金属銅粒子表面に水素化銅微粒子を付着させて「銅複合粒子」を形成する。
反応系Rに投入する金属銅粒子の形状、粒子径については、上述したとおりである。
【0083】
金属銅粒子は、銅イオンが存在する段階の反応系R、または水溶性銅化合物溶液に添加することが好ましい。銅イオンが存在する反応系Rに金属銅粒子を加えることで、金属銅粒子と水素化銅微粒子とが共存する環境下で、銅イオンの還元反応が進行するため、金属銅粒子と水素化銅微粒子間に、強固な結合状態を形成できる。
なお、反応系R中での銅イオンの存在の有無は、銅イオン電極や可視光吸収スペクトルを用いた銅イオンの濃度測定によって確認でき、また水溶液の酸化還元電位の測定によっても確認できる。
【0084】
すなわち、金属銅粒子は、水素化銅微粒子の生成途中の反応系Rに添加するか、または還元剤を添加する前の水溶性銅化合物溶液に金属銅粒子を添加し、その後還元剤を添加して反応系Rを形成することが好ましい。好ましくは、水素化銅微粒子の生成途中の反応系Rに金属銅粒子を添加することがよい。
【0085】
なお、金属銅粒子を添加する反応系Rは、上記の状態のものに限定されず、例えば、還元反応の進行により反応系R中の銅イオン量や還元剤量が減少し、水素化銅微粒子の生成や、生成後の水素化銅微粒子の成長が停止した状態の反応系Rに金属銅粒子を添加してもよい。すなわち、金属銅粒子は、水素化銅微粒子の生成前の反応系Rに投入してもよく、水素化銅微粒子生成途中の反応系Rに投入してもよく、また水素化銅微粒子生成後の反応系Rに投入してもよい。
【0086】
反応系Rに金属銅粒子を投入することで、この金属銅粒子表面に水素銅微粒子が付着し、反応系R中に「銅複合粒子」を形成できる。
【0087】
金属銅粒子を添加する反応系Rに含まれる銅イオンの存在量は、還元剤添加前の水溶性銅化合物溶液の銅イオンの存在量に対して、1〜100質量%であることが好ましく、5〜100質量%であることがより好ましい。なお、水溶性銅化合物溶液中の銅は、全てイオン化しているものとする。
【0088】
反応系Rの温度は、60℃以下であることが好ましい。反応系Rの温度を60℃以下とすることで、反応系R中での水素化銅微粒子の分解を抑制できる。
【0089】
金属銅粒子は、反応系Rの酸化還元電位が100〜300mVSHEの範囲、より好ましくは100〜220mVSHEの範囲の状態で添加することが好ましい。
なお、前記したように、「SHE」は標準水素電極を意味し、「mVSHE」は、標準水素電極を基準として測定した酸化還元電位を示すものである。本明細書において、酸化還元電位の測定値は、標準水素電極を基準にして測定したものである。
【0090】
(iii)銅複合粒子の分離
反応系R中に形成した銅複合粒子を、この反応系Rから分離する。銅複合粒子を反応系Rから分離する方法としては、特に限定されないが、例えば遠心分離、ろ過等の方法により、反応系Rから粉末状の銅複合粒子を分離できる。
【0091】
反応系から分離した後、粒子表面に付着した溶解性不純物を、水等の洗浄液で除去する等の洗浄を行い精製することで、金属銅粒子表面に水素化銅微粒子が付着した粉末状の銅複合粒子を得ることができる。
なお、銅複合粒子の分離を行う前に、反応系Rの溶媒を置換して、溶媒とともに不純物(還元剤の分解物等)を除去することも可能である。
【0092】
反応系Rから分離した銅複合粒子を加熱処理して、水素化銅微粒子を金属銅微粒子に変換することで、表面酸素濃度比O/Cuが0.5以下である複合金属銅粒子を得ることができる。
【0093】
複合金属銅粒子は、金属銅粒子間に存在する金属銅微粒子によって、導電パスを確実に形成できるため、導電膜としたときの体積抵抗率を低減できる。また、導電ペースト中に金属銅微粒子が遊離すると、導電ペーストの粘度上昇を招くことがあるが、上記のように、水素化銅微粒子を金属銅微粒子に変換することで、金属銅粒子からの金属銅微粒子の剥離を生じにくいものとできるため、粘度上昇が抑制された導電ペーストとできる。
【0094】
銅複合粒子の加熱処理は、60〜120℃の温度で行うことが好ましい。加熱温度が120℃を超えると、金属銅微粒子同士の融着が生じ易くなり、導電膜としたときの体積抵抗率が高くなるおそれがある。一方、加熱温度が60℃未満であると、加熱処理に要する時間が長くなり、製造コストの面から好ましくない。銅複合粒子の加熱処理は、60〜100℃で行うことがより好ましく、さらに好ましくは、60〜90℃で行うことがよい。
なお、加熱処理後に得られた複合金属銅粒子の残存水分量は、3質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましい。
【0095】
銅複合粒子の加熱処理は、−101〜−50kPaの減圧下で行うことが好ましい。−50kPaより大きい圧力下で加熱処理を行うと、乾燥に要する時間が長くなり、製造コストの面から好ましくない。一方、加熱処理時の圧力を−101kPa未満とすると、余分な溶媒(例えば水等。)の除去、乾燥に大型の装置を用いることが必要となり、かえって製造コストが高くなる。
【0096】
「複合金属銅粒子」の表面酸素濃度比O/Cuは、上記(i)〜(iii)の工程において、水溶性銅化合物溶液のpH値、反応系Rの酸化還元電位、または反応系Rの温度等を調整するか、もしくは銅複合粒子の加熱処理の際の酸素分圧等を調整することで、所望の範囲に調整できる。
【0097】
上記の各工程を経て得られた複合金属銅粒子の銅粒子(第1の粒子)の平均一次粒子径は0.3〜20μmであることが好ましく、この銅粒子表面に付着する銅微粒子(第2の粒子)の平均粒子径(平均凝集粒子径)は20〜400nmであることが好ましい(複合金属銅粒子(A4))。
【0098】
「複合金属銅粒子」の金属銅粒子の平均粒子径が0.3μm未満であると、導電ペーストとしたときに、十分な流動特性を得られない。一方、金属銅粒子の平均粒子径が20μmを超えると、得られる導電ペーストによる、微細配線の作製が困難となる。「複合金属銅粒子」における金属銅粒子の平均粒子径は、1〜10μmであることがより好ましい。
【0099】
「複合金属銅粒子」の銅微粒子は、銅複合粒子における水素化銅微粒子と同様に、主として1〜20nm程度の一次粒子が凝集した二次粒子として存在しており、その粒子形状は球状であってもよく、板状であってもよい。
銅微粒子の平均粒子径(平均凝集粒子径)が20nm未満であると、銅微粒子の融着・成長が生じ易くなり、導電膜としたときに、体積収縮に伴うクラック等の不具合が発生するおそれがある。一方、銅微粒子の平均粒子径(平均凝集粒子径)が400nmを超えると、粒子表面積が十分でなく、表面融解現象が生じにくくなり、緻密な導電膜を形成するのが困難となる。
銅微粒子の平均粒子径(平均凝集粒子径)は、30〜300nmであることがより好ましく、50〜200nmであることがより好ましい。特に好ましくは80〜150nmである。
【0100】
なお、金属銅粒子の平均粒子径は、TEM像またはSEM像の中から無作為に選出した100個の金属銅粒子のFeret径を測定し、この測定値を平均して算出したものであり、銅微粒子の平均粒子径は、TEM像またはSEM像の中から無作為に選出した100個の水素化銅微粒子のFeret径を測定し、その測定値を平均して算出したものである。
【0101】
その他の銅粒子(A)としては、平均凝集粒子径が10nm〜1μmである水素化銅微粒子(A3)も好ましく用いられる。
【0102】
水素化銅微粒子(A3)は、例えば、「銅複合粒子」の製造工程で使用した水溶性銅化合物の溶液に、pH値が3以下で、酸化還元電位が100〜300mVSHE、好ましくは100〜220mVSHEの条件下で還元剤を添加することで得ることができる。還元剤としては、「銅複合粒子」の製造工程で使用した還元剤と同様のものを使用できる。
なお、水素化微粒子の平均粒子径(平均凝集粒子径)は、還元反応時の反応温度や反応時間を制御するか、または分散剤を添加することで調整できる。
【0103】
銅粒子(A)としては、この水素化銅微粒子(A3)を加熱処理して得られる銅微粒子(A5)、すなわち第2の粒子であってその平均凝集粒子径が10nm〜1μmである銅微粒子(A5)も好適に用いられる。
【0104】
また、表面酸素濃度比O/Cuが0.5以下の銅粒子(A)を得る手段としては、上記のような湿式還元による方法に限定されず、例えば、銅粉末の表面に形成された酸化膜を、塩酸、硫酸、硝酸等の酸を用いて洗浄し、酸化膜を溶解させて除去することによっても行うことができる。
【0105】
また、表面酸素濃度比O/Cuが0.5以下の銅粒子(A)を得るための手段としては、上記の方法以外にも、例えば、銅粒子表面に還元性のガスを導入し、このガス中で銅粒子を加熱処理等することによっても行うことができる。
【0106】
具体的には、例えば、水素、一酸化炭素、天然ガス、アンモニア分解ガス等の還元性気体を導入するか、または内部を真空にすることで、還元炉内を還元性雰囲気とし、この還元炉内に銅粒子を入れて、120〜400℃の温度範囲で銅粒子を還元処理することで、粒子表面の酸化物を除去できる。
【0107】
また、還元性ガスを用いるその他の方法としては、不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス中で、プラズマを生起させ、銅粒子表面をプラズマ処理する方法によっても、銅粒子表面を還元処理できる。
【0108】
例えば、図1に示すように、反応槽1のガス導入口7から、不活性ガスと還元性ガスとの混合ガスを供給し、平板状の上部電極2に接続された交流電源5を稼働して、上部電極2と下部電極3間で、グロー放電によりプラズマを生起させるとともに、上部電極2と、下部電極3との間の領域、具体的には下部電極3上に載置した固体誘電体6上に、被処理物4、すなわち銅粒子を配置することで、この銅粒子表面を還元処理できる。
【0109】
さらにまた、こうして得られた銅粒子(A)と、糖(B)、熱硬化性樹脂(C)等を混合する際に、3本ロールミルやビーズミルを用いて混合物(ペースト)全体を撹拌することによっても、銅粒子の表面酸素濃度の調整を行うことが可能である。
【0110】
<糖(B)>
本発明の実施形態の導電ペーストに含有される糖(B)は、下記(B1)単糖類と(B2)多糖類から選ばれる少なくとも1種であり、還元性を有する。
【0111】
(B1)単糖類
(B1)単糖類としては、アルデヒド基を有する単糖であるアルドースと、ケトン基を有する炭素数6の単糖であるケトヘキソースが挙げられる。アルドースとしては、グリセルアルデヒド、エリトロース、トレオース、リボース、リキソース、キシロース、アラビノース、アロース、タロース、グロース、グルコース、アルトロース、マンノース、ガラクトース、イドース等が例示される。ケトヘキソースとしては、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース等が例示される。
(B1)単糖類としては、適度な還元電位を有し、使用しやすいことから、グリセルアルデヒド、エリトロース、グルコース、フルクトースの使用が好ましい。中でも、特にグルコースの使用が好ましい。ここで適度な還元電位は、+0.300V〜+0.500Vであり、+0.300V未満では銅粒子表面の酸化を抑えるのに十分な還元力を有しない。
【0112】
前記好ましい(B1)単糖類の中で、グリセルアルデヒドとエリトロースは、それ自体が鎖状構造を有するアルドースとなっている。グルコースおよびフルクトースは、環状構造をとる糖(環状糖)であり、環状構造ではアルデヒド基を持たないが、IUPAC命名法による1位の炭素がヒドロキシル基(−OH)を有するので、開環して鎖状構造になるとアルデヒド基やケトン基を持つようになる。すなわち、グルコースは、開環するとアルデヒド基を持つ鎖状構造のアルドースとなり、フルクトースは、開環するとケトン基を持つ鎖状構造のケトースとなる。そして、アルデヒド基は還元性を有するので、グルコースは還元性を有する。ケトン基は、そのままでは還元性を示さないが、−CO−CHOH基を持つケトヘキソース(例えば、フルクトース)では、以下の式に示すケト−エノール互変異性によって、エンジオールと呼ばれる構造を経由してアルドースに異性化するので、還元性を示す。
【0113】
【化1】

【0114】
(B2)多糖類
(B2)多糖類としては、IUPAC命名法による1位の炭素がヒドロキシル基を有する不斉炭素である構造の糖が挙げられる。このような構造の多糖類は、環状部分が開環してアルデヒド基を有する鎖状構造をとることができるので、還元性を示す。
本発明で使用可能な(B2)多糖類としては、例えば、還元性を有する二糖類であるマルトースおよびラクトースを挙げることができる。多糖類であっても、前記(B2)として規定する多糖類ではないスクロースは、以下に示す理由で還元性を示さないので、本発明に使用できない。
【0115】
マルトースは、以下の構造式(1)に示すように、還元性のある単糖であるグルコース2個が、1位の炭素と4位の炭素でグルコシド結合したものであり、開環してアルデヒド基を有する鎖状構造をとることができるので、還元性を示す。なお、構造式(1)において、アノマー炭素原子には星印を付けて表す。後述する構造式(2)および(3)においても同様である。
【化2】

【0116】
また、ラクトースは、以下の構造式(2)に示すように、還元性のある単糖であるガラクトースとグルコースとが、ガラクトースの1位の炭素とグルコースの4位の炭素でガラクシド結合したものである。このような構造を有するラクトースは、開環してアルデヒド基を有する鎖状構造をとることができるので、還元性を示す。
【化3】

【0117】
それに対して、スクロースは、以下の構造式(3)に示すように、グルコースとフルクトースとが、グルコースの1位の炭素とフルクトースの2位の炭素でグルコシド結合したものであり、フルクトースが開環して鎖状構造をとることができないため、還元性を示さない。
【化4】

【0118】
上述したような糖(B)が好適に使用できる理由としては、以下のことが挙げられる。
(1)銅を還元するのに十分な酸化還元電位を有するため、より銅粒子表面の酸化を抑えることが可能であり、銅粒子同士の接触抵抗を抑えることができ、硬化後の導電体膜の体積抵抗率の低減が可能である。
(2)導電ペースト中に存在する他の添加剤に及ぼす影響が小さく、導電ペーストの特性を損なうことがない。
(3)本導電ペーストのような溶剤系ペーストに容易に混練できる。
例えば、アスコルビン酸のような化合物は、十分な酸化還元電位を有するが、本導電ペーストの溶剤系に均一に混練できず、良好な特性が得られない。
(4)加熱することで還元力が促進するため、ペースト保存性に悪影響を与えない。一方、ハイドロキノンのような化合物は、室温で酸化還元反応を起こし、ペースト硬化時に十分に銅の表面の酸化反応を抑えることができず、良好な特性が得られない。
【0119】
導電ペーストにおける前記糖(B)の含有量は、前記銅粒子(A)100質量部に対して0.05〜1質量部であることが好ましい。
糖(B)の含有量が0.05質量部未満であると、導電膜としたとき、冷熱サイクル後の体積抵抗率の上昇を抑制する効果が十分に得られないおそれがある。一方、糖(B)の含有量が1質量部を超えると、銅粒子同士の接触を阻害し、導電性を低下させるおそれがある。
【0120】
<熱硬化性樹脂(C)>
本発明の実施形態の導電ペーストに含有される熱硬化性樹脂(C)としては、通常の導電ペーストの樹脂バインダとして用いられる公知の熱硬化性樹脂を使用できる。
【0121】
熱硬化性樹脂(C)としては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂等を好適に使用できる。これらの中でも、フェノール樹脂が特に好適に使用できる。フェノール樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂を使用できるが、これらの中でも、レゾール型フェノール樹脂を特に好適に使用できる。
なお、樹脂のガラス転移点(Tg)を調節するために、上述の熱硬化性樹脂中に、ジアリルフェタレート樹脂、不飽和アルキド樹脂、エポキシ樹脂、イソシアネート樹脂、ビスマレイドトリアジン樹脂、シリコーン樹脂およびアクリル樹脂から選ばれる少なくとも一種を適宜含有してもよい。
【0122】
熱硬化性樹脂(C)は、硬化後の樹脂成分が導電性を阻害しない範囲で添加できる。
導電ペーストにおける熱硬化性樹脂(C)の含有量は、銅粒子の体積と、銅粒子間に存在する空隙の体積との比率に応じて適宜選択できる。銅粒子(A)100質量部に対して5〜50質量部であることが好ましく、5〜20質量部であることがより好ましい。熱硬化性樹脂(C)の含有量が5質量部未満であると、導電ペーストとして十分な流動特性を得るのが困難となる。一方、熱硬化性樹脂(C)の含有量が50質量部を超えると、硬化後の樹脂成分により銅粒子間の接触が妨げられて、導電体の体積抵抗率を上昇させるおそれがある。
【0123】
本発明の実施形態の導電ペーストは、前記した(A)〜(C)の各成分とともに、pKaが1〜4の有機酸の、エステルまたはアミド(D)を配合できる。
【0124】
<有機酸のエステルまたは有機酸のアミド(D)>
本発明の実施形態の導電ペーストに含有される、有機酸のエステルまたは有機酸のアミド(D)は、pKaが1〜4の有機酸の、エステルまたはアミド(D)であり、前記熱硬化性樹脂(C)の硬化を促進する機能を有する。このエステルまたはアミド(D)の配合により、導電ペーストを150℃未満の温度で硬化できる。具体的には、pKaが1〜4の有機酸の、エステルまたはアミド(D)を配合した場合は、120〜140℃の低い温度で加熱することで、導電ペーストを十分に硬化できる。したがって、大気中に含まれる酸素と反応する銅イオンの量を低減でき、酸化銅の形成が抑制された導電ペーストとできる。
【0125】
(D)成分であるエステルまたはアミドを構成する有機酸は、pKaが1〜4のものとする。有機酸のpKaが1未満であると、導電ペーストの保存性に悪影響を及ぼすおそれがある。また、有機酸のpKaが4を超えると、前記熱硬化性樹脂(C)の硬化を促進する中間体の生成が遅くなり、結果として樹脂の硬化促進効果が得られないおそれがある。有機酸のpKaは、より好ましくは1〜3である。
【0126】
pKaが1〜4である有機酸としては、シュウ酸(1.27)、マレイン酸(1.92)、マロン酸(2.86)、サリチル酸(2.97)、フマル酸(3.02)、酒石酸(3.06)、クエン酸(3.16)、ギ酸(3.76)等が挙げられる。
これらのpKaが1〜4である有機酸の中で、エステルまたはアミドが好適に使用できる理由としては、以下のことが挙げられる。
【0127】
(1)pKaが1〜4の有機酸の、エステルまたはアミドを用いると、熱硬化性樹脂(例えば、フェノール樹脂やメラミン樹脂、尿素樹脂)の中間体を安定に存在させる効果が大きい。なぜならば、上述のエステルまたはアミドは、前記熱硬化性樹脂の中間体であるジメチレンエーテル型の中間体に配位する。この配位により、反応部位の一方のメチロール基の酸素上の電子密度が増大し、相対するメチロール基の炭素上の電子密度が減少するので、ジメチレンエーテル型の中間体が安定に存在する。そのため、中間体の反応確率が上昇し硬化が促進される結果、硬化後の導電膜の冷熱サイクルに対する耐久性を向上させることができる。
【0128】
(2)pKaが1〜4の有機酸の、エステルまたはアミドの配位により、上述の中間体のメチレンカルボニウムイオンの反応性を大きく向上させることが可能である。そのため、硬化促進への寄与が大きく、硬化後の導電膜の冷熱サイクルに対する耐久性を向上させることができる。
【0129】
(3)前記有機酸のエステルやアミドは、有機酸と比較して金属との反応性が小さいために金属を腐食する効果が小さく、硬化後の導電膜の体積抵抗率の上昇を抑えることができる。pKaが1〜4である有機酸単体を使用した場合は、導電ペースト中の金属を腐食して硬化後の導電膜の体積抵抗率を上昇させるおそれがある。
【0130】
(4)前記有機酸のエステルやアミドは、ペースト保存時にペースト中の熱硬化性樹脂の硬化を促進する効果が小さいので、導電ペーストの保存性(ポットライフ)に与える悪影響が小さい。
【0131】
(5)前記有機酸のエステルやアミドは、硬化後の導電膜の耐久性向上に寄与する前記糖(B)の働きを阻害しないので、耐久性を十分に維持できる。
【0132】
前記したpKaが1〜4である有機酸の、エステルまたはアミドとしては、例えば、ホルムアミド、サリチル酸メチル、ギ酸メチル、ギ酸エチル、シュウ酸ジメチル、マレイン酸ジメチル、マロン酸ジメチル等が挙げられる。これらに限定されるものではないが、これらから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
これらのpKaが1〜4である有機酸の、エステルまたはアミドの中でも、硫黄(S)を含有しない有機酸の、エステルまたはアミドを好適に使用できる。この理由としては、Sが銅と反応して硫化物を生成するおそれがあるので、有機酸のエステルやアミドであってもペースト保存性に悪影響を与えるおそれがあるからである。具体的には、ホルムアミド、サリチル酸メチル、シュウ酸ジメチル、マロン酸ジメチル、マレイン酸ジメチルを好適に使用できる。
【0133】
導電ペーストにおける前記有機酸のエステルまたはアミド(D)の含有量は、前記熱硬化性樹脂(C)100質量部に対して、0.5〜15質量部であることが好ましい。前記有機酸のエステルまたはアミド(D)の含有量が0.5質量部未満であると、樹脂の硬化を促進する効果を十分に得られないおそれがある。一方、前記有機酸のエステルまたはアミド(D)の含有量が15質量部を超えると、銅粒子同士の接触を阻害し、導電性を低下させるおそれがある。
【0134】
<その他の成分>
本発明の導電ペーストは、必要に応じて、前記(A)〜(D)の各成分に加えて溶剤や各種添加剤(レベリング剤、カップリング剤、粘度調整剤、酸化防止剤、密着剤等。)等のその他の成分を、本発明の効果を損なわない範囲で含んでいてもよい。特に、適度な流動性を有するペースト体を得るために、熱硬化性樹脂を溶解し得る溶剤を含有させることが好ましい。
【0135】
導電ペーストに含有させる溶剤としては、例えば、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、テルピネオール、エチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等を好適に使用できる。
印刷用ペースト体として適度な粘度範囲とする観点から、導電ペーストに含有させる溶剤の量は、銅粒子(A)に対して1〜10質量%が好ましい。
【0136】
本発明の実施形態の導電ペーストは、前記(A)〜(D)の各成分を、溶剤等のその他の成分と混合して得ることができる。各成分の混合は、前記熱硬化性樹脂(C)と前記糖(B)とを混合した後、得られた混合物に前記銅粒子(A)を添加して混合する順で行うことが好ましい。前記有機酸のエステルまたはアミド(D)を配合する場合には、前記糖(B)とともに、熱硬化性樹脂(C)に添加して混合する。
【0137】
前記(A)〜(D)の各成分の混合時には、熱硬化性樹脂の硬化や溶剤の揮発が生じない程度の温度で、加熱しながら行うことができる。混合、撹拌時の温度は、10〜40℃とすることが好ましい。より好ましくは20〜30℃とする。導電ペーストを形成するときに、10℃以上の温度にすることで、ペーストの粘度を十分に低下させることができ、撹拌を円滑かつ十分に行うことができる。また、銅粒子表面に生成した水素化銅を銅原子とできる。一方、導電ペーストを形成するときの温度が120℃を超えると、ペースト中で熱硬化性樹脂(C)の硬化が生じたり、粒子同士の融着が生じたりするおそれがある。
なお、混合時に銅粒子が酸化されるのを防止するため、不活性ガスで置換した容器内で混合することが好ましい。
【0138】
以上説明した本発明の導電ペーストによれば、空気中でも酸化されにくく、従来の導電ペーストと比較して、酸化銅の生成による体積抵抗率の上昇が抑制された導電膜を形成できる。
【0139】
[導電膜付き基材]
本発明の実施形態の導電膜付き基材10は、例えば図2に示すように、基材11上に上述した導電ペーストを硬化させて形成された導電膜12を有する。この導電膜付き基材10は、前記導電ペーストを基材11の表面に塗布して導電ペースト膜を形成し、溶剤等の揮発性成分を除去した後、導電ペースト中の熱硬化性樹脂(C)を硬化させて導電膜12を形成することにより、製造できる。
【0140】
基材11としては、ガラス基板、プラスチック基材(例えば、ポリイミド、ポリエステル等からなるフィルム状基材や板状基材(基板)。)、繊維強化複合材料からなる基板(例えば、ガラス繊維強化樹脂基板。)、セラミックス基板等を用いることができる。本発明の導電ペーストを使用した場合には、後述するように、150℃未満(例えば、120〜140℃)の温度での加熱により熱硬化性樹脂(C)を硬化させて導電膜12を形成することも可能であるので、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)のようなポリエステル、ポリカーボネート等のプラスチック基材を好適に使用できる。
【0141】
導電ペーストの塗布方法としては、スクリーン印刷法、ロールコート法、エアナイフコート法、ブレードコート法、バーコート法、グラビアコート法、ダイコート法、スライドコート法等の公知の方法が挙げられる。
これらの中でも、表面および側面における凹凸の発生が抑制された滑らかな配線形状を、基材11上に効率的に形成できるので、スクリーン印刷法が好適に用いられる。
【0142】
熱硬化性樹脂(C)の硬化は、導電ペースト膜を形成した基材を120〜200℃の温度で保持することにより行うことができる。硬化温度が120℃未満であると、熱硬化性樹脂を十分に硬化させるのが難しくなるおそれがある。一方、硬化温度が200℃を超えると、熱硬化性樹脂の劣化を招き、硬化膜として、十分な耐久性を得られないおそれがある。
特に、基材としてプラスチックフィルム等の基材を用いた場合には、基材の変形を防止するために、120〜140℃の温度で保持することが好ましい。本発明の導電ペーストに前記した有機酸のエステルまたはアミド(D)を配合した場合は、120〜140℃の温度でも硬化が可能である。そして、冷熱サイクル試験後の体積抵抗率の変動がより少ない導電膜が形成される。
【0143】
加熱方法としては、温風加熱、熱輻射、IR加熱等の方法が挙げられる。なお、導電膜の形成は、空気中で行ってもよく、また酸素量が少ない窒素雰囲気下等で行ってもよい。
【0144】
基材11上の導電膜12の厚さは、安定な導電性を確保し、かつ配線形状を維持し易くする観点から、1〜200μmであることが好ましく、5〜100μmであることがより好ましい。また、導電膜12の体積抵抗率は、1.0×10−4Ωcm以下であることが好ましい。導電膜12の体積抵抗率が1.0×10−4Ωcmを超えると、電子機器用の導電体として、十分な導電性を得られないおそれがある。
【0145】
本発明に係る導電膜付き基材10においては、上述した本発明の導電ペーストを用いて導電膜12を形成しているため、酸化銅による酸化被膜が生成しにくく、従来の導電膜付き基材と比較して、体積抵抗率が低く、また冷熱サイクルのような熱衝撃性の環境下で使用しても、体積抵抗率の上昇が抑制された導電膜付き基材とできる。
【0146】
以上、本発明の導電膜付き基材について一例を挙げて説明したが、本発明の趣旨に反しない限度において、また必要に応じて適宜構成を変更できる。また、本発明の導電膜付き基材の製造方法では、各部の形成順序等についても、導電膜付き基材の製造が可能な限度において適宜変更できる。
【実施例】
【0147】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。例1〜11および例16〜21は本発明の実施例であり、例12〜15および例22〜24は比較例である。
【0148】
<銅粒子の製造>
銅粒子に還元処理を施し、銅粒子(A)(表面改質銅粒子)を得た。
すなわち、まず、ガラス製ビーカーにギ酸3.0gと50質量%次亜リン酸水溶液9.0gとを投入し、このビーカーをウォーターバスに入れて40℃に保持した。
【0149】
次いで、このビーカー内に、銅粒子(三井金属鉱業社製、商品名:「1400YP」、平均一次粒子径7μm)5.0gを徐々に添加し、30分間撹拌して「銅分散液」を得た。遠心分離器を使用し回転数3000rpmで10分間遠心分離して、得られた「銅分散液」から沈殿物を回収した。この沈殿物を蒸留水30gに分散させ、遠心分離によって再び凝集物を沈殿させ、沈殿物を分離した。得られた沈殿物を、−35kPaの減圧下、80℃で60分間加熱し、残留水分を揮発させて徐々に除去して、粒子表面が改質された銅粒子(A−1)を得た。
【0150】
得られた銅粒子(A−1)について、X線光電子分光分析装置(アルバック・ファイ社製、商品名:「ESCA5500」)により、下記の条件で表面酸素濃度[原子%]および表面銅濃度[原子%]の測定を行った。
・分析面積:800mmΦ
・Pass Energy:93.9eV
・Energy Step:0.8eV/step
【0151】
得られた表面酸素濃度を表面銅濃度で除して、表面酸素濃度比O/Cuを算出したところ、銅粒子(A−1)の表面酸素濃度比O/Cuは0.16であった。
なお、銅粒子(A−1)中の酸素量を、酸素量計(LECO社製、商品名:「ROH−600」)を用いて測定したところ、460ppmであった。
(例1)
フェノール樹脂(群栄化学社製、商品名:「レジトップPL6220」、樹脂固形分58質量%)0.74gとエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート0.43gとを混合した樹脂溶液に、グルコース0.005gを加えて溶解させた後、得られた樹脂溶液に、前記銅粒子(A−1)5.0gを配合し、乳鉢中で混合して導電ペースト(1)を得た。なお、得られた導電ペースト(1)において、グルコースの含有量は、銅粒子(A−1)100質量部に対して0.1質量部の割合である。
【0152】
次いで、得られた導電ペースト(1)を、ガラス基板上にスクリーン印刷法により幅1mm、厚さ20μmの配線形状(帯状)に塗布し、150℃で10分間加熱してフェノール樹脂を硬化させた。こうして、導電膜(1)を有する導電膜付き基材(1)を形成した。
【0153】
(例2)
グルコースの配合量を0.005gから0.02gに増加した以外は例1と同様にして、導電ペースト(2)を得た。なお、得られた導電ペースト(2)において、グルコースの含有量は、銅粒子(A−1)100質量部に対して0.4質量部の割合である。
次いで、導電ペースト(1)に代えて導電ペースト(2)を使用する以外は例1と同様にして、導電膜(2)を有する導電膜付き基材(2)を得た。
【0154】
(例3〜5)
糖(B)として、グルコース0.005gの代わりに表1に示す化合物0.005gを使用する以外は例1と同様にして、導電ペースト(3)〜(5)をそれぞれ得た。次いで、導電ペースト(1)に代えて導電ペースト(3)〜(5)を使用する以外は例1と同様にして、導電膜(3)〜(5)を有する導電膜付き基材(3)〜(5)を得た。
【0155】
(例6)
フェノール樹脂(群栄化学社製、商品名:「レジトップPL6220」、樹脂固形分58質量%)0.74gとエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート0.43gとを混合した樹脂溶液に、シュウ酸ジメチル0.0215gとグルコース0.005gを加えて溶解させた後、得られた樹脂溶液に、前記銅粒子(A−1)5.0gを配合し、乳鉢中で混合して導電ペースト(6)を得た。なお、シュウ酸ジメチルは、pKaが1.27のシュウ酸のエステルである。また、得られた導電ペースト(6)において、グルコースの含有量は、銅粒子(A−1)100質量部に対して0.1質量部の割合となっている。
【0156】
次いで、導電ペースト(1)に代えて導電ペースト(6)を使用する以外は例1と同様にして、導電膜(6)を有する導電膜付き基材(6)を得た。
【0157】
(例7)
グルコースの配合量を0.005gから0.02gに増加した以外は例6と同様にして、導電ペースト(7)を得た。なお、得られた導電ペースト(7)において、グルコースの含有量は、銅粒子(A−1)100質量部に対して0.4質量部の割合となっている。
次いで、導電ペースト(1)に代えて導電ペースト(7)を使用する以外は例1と同様にして、導電膜(7)を有する導電膜付き基材(7)を得た。
【0158】
(例8〜11)
糖(B)として、グルコース0.005gの代わりに表1に示す化合物0.005gを使用する以外は例6と同様にして、導電ペースト(8)〜(11)をそれぞれ得た。次いで、導電ペースト(1)に代えて導電ペースト(8)〜(11)を使用する以外は例1と同様にして、導電膜(8)〜(11)を有する導電膜付き基材(8)〜(11)を得た。
【0159】
(例12)
グルコース0.005gの代わりにスクロース0.005gを使用する以外は例1と同様にして、導電ペースト(12)を得た。次いで、導電ペースト(1)に代えて導電ペースト(12)を使用する以外は例1と同様にして、導電膜(12)を有する導電膜付き基材(12)を得た。
【0160】
(例13)
フェノール樹脂とエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートとを混合した樹脂溶液に、シュウ酸ジメチルと糖(B)のいずれも添加せず、前記銅粒子(A−1)を配合した。それ以外は例1と同様にして、導電ペースト(13)を得た。次いで、導電ペースト(1)に代えて導電ペースト(13)を使用する以外は例1と同様にして、導電膜(13)を有する導電膜付き基材(13)を得た。
【0161】
(例14)
グルコース0.005gの代わりに、還元剤であるハイドロキノン0.005gを使用した。それ以外は例1と同様にして、導電ペースト(14)を得た。次いで、導電ペースト(1)に代えて導電ペースト(14)を使用する以外は例1と同様にして、導電膜(14)を有する導電膜付き基材(14)を得た。
【0162】
(例15)
グルコース0.005gの代わりに、還元剤であるアルコルビン酸0.005gを使用した。それ以外は例1と同様にして、導電ペースト(15)を得た。次いで、導電ペースト(1)に代えて導電ペースト(15)を使用する以外は例1と同様にして、導電膜(15)を有する導電膜付き基材(15)を得た。
【0163】
(例16〜22)
例6〜11および例13で得られた導電ペースト(6)〜(11)および導電ペースト(13)を、それぞれPET基板上に塗布し、130℃で10分間加熱して導電膜(16)〜(22)を形成し、導電膜付き基材(16)〜(22)を得た。
【0164】
(例23)
グルコース0.005gの代わりにハイドロキノン0.005gを使用する以外は例6と同様にして、導電ペースト(16)を得た。次いで、導電ペースト(16)をPET基板上に塗布し、130℃で10分間加熱して導電膜(23)を形成し、導電膜付き基材(23)を得た。
【0165】
(例24)
グルコース0.005gの代わりにアルコルビン酸0.005gを使用する以外は例6と同様にして、導電ペースト(17)を得た。次いで、導電ペースト(17)をPET基板上に塗布し、130℃で10分間加熱して導電膜(24)を形成し、導電膜付き基材(24)を得た。
【0166】
(導電体配線の抵抗)
例1〜24で得られた導電膜(1)〜(24)の抵抗値を、抵抗値計(ケースレー社製、商品名:「ミリオームハイテスタ」)を用いて測定し、初期の体積抵抗率を求めた。
【0167】
(耐久性試験)
例1〜24で得られた導電膜付き基材(1)〜(24)について、冷熱サイクルをかけて耐久性試験を行った。すなわち、導電膜付き基材(1)〜(24)を、−40℃の低温にした槽内と85℃の高温にした槽内とに30分間ずつ交互に保持し、熱衝撃を与えた。50サイクル後、導電膜(1)〜(24)の抵抗値を前記抵抗値計を用いて測定した。そして、冷熱サイクル後の体積抵抗率を求め、体積抵抗率の変動率を算出した。
【0168】
こうして得られた初期の体積抵抗率と、冷熱サイクル後の体積抵抗率の変動率(上昇率)を、表1〜4に示す。なお、表1〜4において、糖(B)および還元剤の添加量は、いずれも銅粒子(A−1)100質量部に対する添加量(質量部)で示したものである。
【0169】
【表1】

【0170】
【表2】

【0171】
【表3】

【0172】
【表4】

【0173】
表1〜4から明らかなように、アルドース、ケトヘキソース、およびIUPAC命名法による1位の炭素がヒドロキシル基を有する不斉炭素である多糖類から選ばれる少なくとも1種の糖(B)を配合した導電ペースト(1)〜(11)により、ガラス基板上に導電膜(1)〜(11)を形成した導電膜付き基材(1)〜(11)(例1〜11)では、冷熱サイクル試験後の体積抵抗率の上昇率が低く抑えられていた。
【0174】
また、前記した糖(B)と、pKaが1〜4の有機酸のエステル(D)であるしゅう酸メチルをそれぞれ配合した導電ペースト(6)〜(11)により、ガラス基板上に導電膜(6)〜(11)を形成した導電膜付き基材(6)〜(11)(例6〜11)、および前記導電ペースト(6)〜(11)により、PET基板上に導電膜(16)〜(21)を形成した導電膜付き基材(16)〜(21)(例16〜21)では、冷熱サイクル試験後の体積抵抗率の上昇率が10%未満と極めて低く抑えられていた。
【0175】
これに対して、糖(D)として、IUPAC命名法による1位の不斉炭素がヒドロキシル基を持たないスクロースを配合した導電ペースト(12)により得られた導電膜付き基材(12)(例12)では、冷熱サイクル試験後の体積抵抗率の上昇率が25%以上と高く、耐久性に劣るものであった。
【0176】
また、前記糖(B)を配合しなかった導電ペースト(13)により得られた導電膜付き基材(13)および(22)(例13および例22)では、初期の体積抵抗率が高いばかりでなく、冷熱サイクル試験後の体積抵抗率の上昇率も25%以上と高く、導電性および耐久性に劣るものであった。
【0177】
さらに、還元剤として、ハイドロキノンまたはアルコルビン酸を配合した導電ペースト(14)または(15)により得られた導電膜付き基材(14)および(15)(例14および例15)では、初期の体積抵抗率が高いばかりでなく、冷熱サイクル試験後の体積抵抗率の上昇率が25%以上と高く、導電性および耐久性に劣るものであった。またさらに、ハイドロキノンまたはアルコルビン酸とともに、pKaが4を超える有機酸のエステル(D)であるしゅう酸メチルを配合した導電ペースト(16)または(17)により得られた導電膜付き基材(23)および(24)(例23および例24)では、冷熱サイクル試験後の体積抵抗率の上昇率が15%以上と高く、耐久性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0178】
本発明によれば、体積抵抗率が低く、かつ冷熱サイクル等による熱衝撃に対して優れた耐久性を有する導電膜を形成できる。また、このような導電ペーストを用いることで、信頼性が高く、また酸化被膜の形成による体積抵抗率の上昇が抑制された導電膜付き基材を得ることができる。本発明で得られた導電膜付き基材は、電子部品や印刷配線板(プリント基板)等として好適に使用できる。
【符号の説明】
【0179】
1…反応槽、2…上部電極、3…下部電極、4…被処理物、5…交流電源、6…固体誘電体、7…ガス導入口、8…ガス排出口、9…絶縁物、10…導電膜付き基材、11…基材、12…導電膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅粒子(A)と、単糖類であるアルドースとケトヘキソース、およびIUPAC命名法による1位の炭素がヒドロキシル基を有する不斉炭素である多糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種の糖(B)と、熱硬化性樹脂(C)とを含有することを特徴とする導電ペースト。
【請求項2】
前記糖(B)は、単糖類であるアルドースとケトヘキソースから選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の導電ペースト。
【請求項3】
前記糖(B)の含有量は、前記銅粒子(A)100質量部に対して0.05〜1質量部である、請求項1または2に記載の導電ペースト。
【請求項4】
pKaが1〜4の有機酸の、エステルまたはアミド(D)をさらに含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電ペースト。
【請求項5】
前記有機酸のエステルまたはアミド(D)は、ホルムアミド、サリチル酸メチル、シュウ酸ジメチル、マロン酸ジメチルおよびマレイン酸ジメチルから選ばれる少なくとも1種である、請求項4に記載の導電ペースト。
【請求項6】
前記有機酸のエステルまたはアミド(D)の含有量は、前記熱硬化性樹脂(B)100質量部に対して0.5〜15質量部である、請求項4または5に記載の導電ペースト。
【請求項7】
前記銅粒子(A)は、X線光電子分光法によって求められる表面酸素濃度比O/Cuが0.5以下の銅粒子である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の導電ペースト。
【請求項8】
前記熱硬化性樹脂(B)は、フェノール樹脂、メラミン樹脂および尿素樹脂から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の導電ペースト。
【請求項9】
前記熱硬化樹脂(B)の含有量は、前記銅粒子(A)100質量部に対して5〜50質量部である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の導電ペースト。
【請求項10】
銅粒子(A)と、単糖類であるアルドースとケトヘキソース、およびIUPAC命名法による1位の炭素がヒドロキシル基を有する不斉炭素である多糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種の糖(B)と、熱硬化性樹脂(C)とを含有する導電ペーストの製造方法であって、
前記熱硬化性樹脂(C)と前記糖(B)とを混合する工程と、
前記工程で得られた混合物に、前記銅粒子(A)を添加して混合する工程と
を有することを特徴とする導電ペーストの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の導電ペーストを硬化させて形成された導電膜を、基材上に有してなる導電膜付き基材。
【請求項12】
前記基材は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種である、請求項11に記載の導電膜付き基材。
【請求項13】
前記導電膜の体積抵抗率が1.0×10−4Ωcm以下である、請求項11または12に記載の導電膜付き基材。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の導電ペーストを基材上に塗布した後、この導電ペーストを150℃未満の温度で加熱し硬化させて導電膜を形成することを特徴とする導電膜付き基材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−84411(P2013−84411A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222781(P2011−222781)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】