説明

導電体長計測装置及びレベル計測装置

【課題】 金属棒電極やカーボン電極等の導電体の長さの精度の良い計測装置及びこの技術を利用した溶融金属のレベル計測装置。
【解決手段】 第1のクロック周波数f1 に同期した第1擬似ランダム信号発生器3と、前記f1 とわずかに異なる第2のクロック周波数f2 に同期し、前記第1の擬似ランダム信号と同一パターンの第2擬似ランダム信号発生器4と、前記第1及び第2擬似ランダム信号の乗算を行う乗算器5と、電磁波として電極13の一端より長さ方向に伝播させ、その他端からの反射信号を分離して検出する方向性結合器7と、前記反射信号と第2の擬似ランダム信号とを乗算する乗算器6と、出力信号をそれぞれ積分する第1,第2LPF8,9と、第1,第2LPFの出力信号のピーク値検出時刻間の時間から電極13の長さを計測する計測演算部10とを備えたもの。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば金属棒電極やカーボン電極等の導電体の長さを計測する装置及びその計測技術を利用して溶融金属のレベルを計測する装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、導電体の長さを計測する技術としては、例えば通信線路の長さを計測するTDR(タイム・ドメイン・リフレクトメトリー)がある。TDRとは一般に通信線路の故障位置を検出する目的で使用される技術であり、同軸ケーブル等の通信線路の一端から高周波のパルス信号を入力し、このパルス信号が通信線路を伝播して進行し、線路の断線又は短絡等による伝播インピーダンスの変化箇所から反射されて信号入力端に戻るのを検出する。このパルス信号の入力時刻から反射波が検出されるまでの時間(実時間)と、信号の伝播速度から上記伝播インピーダンスの変化箇所までの距離を計測するものである。
【0003】また電気電導性を有する溶融金属のレベルを計測する技術の一例として、溶融金属中に2本の電極を挿入し、一方の電極からパルス信号を入力し、この入力信号が一方の電極を伝播し、この電極と溶融金属との接触部から溶融金属中を伝播し、溶融金属と他方の電極との接触部から他方の電極を伝播した信号を出力として検出すると、このパルス信号の入力時刻から出力信号の検出時刻までの時間を計測し、この計測時間に対応する溶融金属のレベルを算出するものがある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら従来のTDR方式により同軸ケーブル等の長さを測定する方法では、信号の入力時刻から反射信号の検出時刻までの実時間を測定するものであるため、長さの計測精度(分解能)は数十〜数百mmと悪い。また信号の伝播速度が速いため短距離の計測は困難であり、長さの短い電極の長さを正確に計測できないという問題があった。また計測精度を向上させるために被測定体に伝播させる信号の周波数を高くすると、同軸ケーブルではない非平衡導線などの導電体に信号を入力した場合に、導電体に沿って伝播する信号の減衰や波形歪みが非常に大きいため、反射信号の検出に基づく計測が困難になるという問題がある。
【0005】また2本の電極を溶融金属中に挿入して溶融金属のレベルを計測する方法では、2つの電極と溶融金属との接触部分の電気的導通を常に良好な状態に保持する必要があり、溶融金属表面の変動やスラッグ等により接触部分の電気的導通が不良になると計測できないという問題があった。またレベル計測に2本の電極を必要とするため、その電極設置スペースが十分に取れない場合がある等の設置上の制約もあった。本発明は上記問題点を解決するためになされたもので、金属棒電極やカーボン電極等の導電体の長さの精度の良い計測装置及びこの技術を利用した溶融金属のレベル計測装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の請求項1に係る導電体長計測装置は、第1のクロック周波数に同期した第1の擬似ランダム信号を発生する手段と、前記第1のクロック周波数とわずかに異なる第2のクロック周波数に同期し、前記第1の擬似ランダム信号と同一パターンの第2の擬似ランダム信号を発生する手段と、前記発生された第1の擬似ランダム信号と第2の擬似ランダム信号とを乗算する第1の乗算手段と、前記発生された第1の擬似ランダム信号を電磁波として被測定導電体の一端より入力し、この入力した信号を前記導電体の長さ方向に沿って伝播させる手段と、前記導電体の長さ方向に沿って伝播し、その他端から反射され前記入力端に戻った反射信号を入力信号と分離して検出する手段と、前記検出された反射信号と前記発生された第2の擬似ランダム信号とを乗算する第2の乗算手段と、前記第1の乗算手段及び第2の乗算手段の乗算結果をそれぞれ積分して出力する第1の積分手段及び第2の積分手段と、前記第1の積分手段の出力信号の最大振幅値を検出した時刻と前記第2の積分手段の出力信号の最大振幅値を検出した時刻との間の時間を計測する手段を含み、この計測された時間に基づき前記導電体の信号入力端から信号反射端までの長さを計測する手段とを備えたものである。その結果、前記第1,第2のクロック周波数をそれぞれf1 ,f2 とし、f1とf2 の差をΔfとすると、前記計測する時間は実際に電磁波の伝播と反射に要する時間をf1 /Δf倍に拡大したものとなるため、きわめて高精度の長さ計測が可能となる。
【0007】本発明の請求項2に係るレベル計測装置は、第1のクロック周波数に同期した第1の擬似ランダム信号を発生する手段と、前記第1のクロック周波数とわずかに異なる第2のクロック周波数に同期し、前記第1の擬似ランダム信号と同一パターンの第2の擬似ランダム信号を発生する手段と、前記発生された第1の擬似ランダム信号と第2の擬似ランダム信号とを乗算する第1の乗算手段と、前記発生された第1の擬似ランダム信号を電磁波として一端が溶融金属中に挿入、浸漬された棒状電極の他端より入力し、この入力した信号を前記棒状電極の長さ方向に沿って伝播させる手段と、前記棒状電極の長さ方向に沿って伝播し、その先端又は電極と溶融金属の接触部から反射され前記入力端に戻った反射信号を入力信号と分離して検出する手段と、前記検出された反射信号と前記発生された第2の擬似ランダム信号とを乗算する第2の乗算手段と、前記第1の乗算手段及び第2の乗算手段の乗算結果をそれぞれ積分して出力する第1の積分手段及び第2の積分手段と、前記第1の積分手段の出力信号の最大振幅値を検出した時刻と前記第2の積分手段の出力信号の最大振幅値を検出した時刻との間の時間を計測する手段を含み、この計測された時間に基づき前記棒状電極の信号入力端から信号反射位置までの長さを計測する手段と、前記計測された棒状電極の信号入力端から信号反射位置までの長さに基づき前記溶融金属のレベルを計測する手段とを備えたものである。その結果、前記第1,第2のクロック周波数をそれぞれf1 ,f2 とし、f1とf2 との差をΔfとすると、前記計測する時間は実際に電磁波の伝播と反射に要する時間をf1 /Δf倍に拡大したものとなるため、きわめて高精度のレベル計測が可能となる。
【0008】本発明の請求項3に係るレベル計測装置は、前記請求項2に係るレベル計測装置において、前記第1の擬似ランダム信号による電磁波の伝播及び反射を行う棒状電極と平行に隣接する棒状電極を追加して設け、この追加して設けた棒状電極の一端を前記溶融金属中に挿入、浸漬し、その他端を接地するようにしたものである。上記構造によって前記電磁波の伝播及び反射を行う棒状電極及びこれと平行に隣接する棒状電極は、平行線路と類似の動作を行うようになり、電磁波(マイクロ波)の伝播及び反射の状態は、単一電極を使用した場合に比べ、信号の減衰や波形歪の発生が抑制され、長スパンでの計測や、動作が安定し高精度でのレベル計測が可能となる。
【0009】本発明の請求項4に係るレベル計測装置は、前記請求項2に係るレベル計測装置において、前記第1の擬似ランダム信号による電磁波の伝播及び反射を行う棒状電極の外側に同心円筒状の電極を追加して設け、この追加して設けた同心円筒状の電極の一端を前記溶融金属中に挿入、浸漬し、その他端を接地するようにしたものである。上記構造によって前記電磁波の伝播及び反射を行う棒状電極及びこれの外側の同心円筒状の電極は、同軸ケーブルと類似の動作を行うようになり、電磁波(マイクロ波)の伝播及び反射の状態は、単一電極や2本の並行電極の場合に比べ、信号の減衰や波形歪みの発生がさらに抑制され、動作がより安定化した高精度のレベル計測が可能となる。
【0010】
【発明の実施の形態】
実施形態1.図1は本発明の実施形態1に係る導電体長計測装置の構成を示す図である。図1において、1,2はそれぞれ第1,第2クロック信号発生器、3,4はそれぞれ第1,第2擬似ランダム信号発生器、5,6はそれぞれ第1,第2の乗算器、7は方向性結合器、8,9はそれぞれ第1,第2ローパスフィルタ(LPF)、10は計測演算部、11は前記1〜10の各機器により構成された導電体長計測装置、12は方向性結合器7と電極13間を接続する同軸ケーブル、13は長さの被測定対象である棒状電極である。この例においては、電極13として直径5mm、長さ約1mの金属棒(鉄棒)を使用した。また第1,第2クロック信号発生器1,2はそれぞれ周波数1500.005MHzと1500.000MHzのクロック信号を発生し、第1,第2擬似ランダム信号発生器3,4はそれぞれ符号長127のM系列信号M1 ,M2 を発生するようにした。なお、M系列信号以外の例えばバーカ符号(Baker Code)等の擬似ランダム信号を発生するようにしてもよい。
【0011】図2は図1の動作を説明するための波形図であり、図2を参照して図1の動作を説明する。第1クロック信号発生器1から出力される周波数f1 =1500.005MHzのクロック信号は第1擬似ランダム信号発生器3に供給され、第1擬似ランダム信号発生器3は、このクロック周波数f1 に同期したM系列信号M1 を発生して出力する。同様に第2クロック信号発生器2から出力される周波数f2 =1500.000MHzのクロック信号は第2擬似ランダム信号発生器4に供給され、第2擬似ランダム信号発生器4はこのクロック周波数f2 に同期したM系列信号M2 を発生して出力する。
【0012】ここで2つのクロック周波数の差(Δf=f1 −f2 )はきわめてわずかであるため、前記第1,第2擬似ランダム信号発生器3,4からそれぞれ出力されるM系列信号M1 ,M2 は、発生する周期はわずかに異なるが、1周期の符号長を127とする同一符号(同一パターン)の信号である。またこのM系列信号M1,M2 は、それぞれM系列符号の符号が“1”のときは正電圧(+E)、“0”のときは負電圧(−E)の電圧信号として出力される。従って第1,第2擬似ランダム信号発生器3,4は、振幅が前記正・負の電圧で、1周期の符号長127毎に繰り返される周期性循環信号として出力する。そしてこの例におけるクロック周波数約1.5GHzのM系列信号M1 ,M2は、一般にLバンドと呼ばれるマイクロ波であるため、これらの信号の伝送や処理には、マイクロ波の伝送路や処理器が使用される。
【0013】第1擬似ランダム信号発生器3の出力するM系列信号M1 は、乗算器5と方向性結合器7に供給され、第2擬似ランダム信号発生器4の出力するM系列信号M2 は乗算器5と乗算器6とに供給される。乗算器5は入力される2つのM系列信号M1 とM2 の乗算を行い、その乗算結果を第1ローパスフィルタ8へ供給する。なお、乗算器5,6へ入力されるM系列信号M1 ,M2 は約1.5GHzのマイクロ波であるため、乗算器5,6にはマイクロ波用の周波数混合器を使用することができる。ここで2つのM系列信号M1 ,M2 は同一符号による正・負の信号で循環周期がわずかに異っているので、2つの信号の信号パターンの位相は、時間の経過により、ゆっくりと変化し、2つの信号が同一符号(即ち2つの信号が共に正電圧又は共に負電圧)のときには、その乗算結果は正電圧となり、異符号(即ち2つの信号の一方が正電圧で他方が負電圧)のときには、その乗算結果は負電圧となり、2つの信号パターンがほぼ一致した場合には正電圧が連続する(図2の(a)を参照)。
【0014】第1,第2ローパスフィルタ8,9は、それぞれ入力信号中の高周波成分を除去し、低周波成分のみを通過させるので、結果としてこのローパスフィルタ8,9は、入力信号を積分処理する機能を有することになり、出力信号は入力信号を積分した滑らかな信号(直流信号に近い信号)になる。いま図2の(a)に示されるような乗算器5の出力信号が入力されると、第1ローパスフィルタ8は、図2の(b)に示されるような三角波に近い波形を出力して計測演算部10へ供給する。計測演算部10は、第1ローパスフィルタ8から供給される三角波に近い波形のピーク値(最大振幅値)を検出し、この検出時刻ta (図2の(d)に示された時刻ta を参照)を記憶する。例えば三角波形の振幅値を単位時間毎にサンプリングし、このサンプリングされた前回のサンプル値と今回のサンプル値とを比較し、振幅値が増加から減少へ移行したことを検出した時刻に図2の(d)のように1つのパルスを発生し、このパルスの発生時刻を記憶するようにしてもよい。そしてこのM系列信号M1 の伝送による時間遅れのない場合の相関信号ピーク値検出時刻ta を時間計測の基準時刻とする。
【0015】方向性接合器7は、レーダ等で使用されているLバンド用の市販品を使用することができる。第1擬似ランダム信号発生器3から直接又は図示されない電力増幅器を介して出力されたM系列信号M1 は、同軸ケーブル等のマイクロ波伝送路を用いて方向性結合器7の左側へ入力される。この入力信号は、方向性結合器7の右側から電磁波として同軸ケーブル12側へのみ出力され、乗算器6(下側)へは出力されない。また同軸ケーブル12側から入力される反射信号は、乗算器6側へのみ出力され、第1擬似ランダム信号発生器3側へは出力されないように方向性結合器7は動作する。このようにして第1擬似ランダム信号発生器3から出力され方向性結合器7を通過した電磁波としてのM系列信号M1 は、同軸ケーブル12を通って電極13の一端に供給される。ここで電極13の長さをLx とし、このLx を計測するものとする。
【0016】ここでM系列信号M1 は前記周波数約1.5GHzのマイクロ波であり、同軸ケーブル12はマイクロ波の伝送路として公知のものである。そしてこの同軸ケーブル12の長さL0 は、予め較正され、この較正値L0 は測定前に計測演算部10に入力され、記憶されている。電極13は、この例では前記のように直径5mm、長さ約1mの鉄棒であり、その一端が、同軸ケーブル12の一端の芯線と結合され、その他端は開放(open)され、電極13のほかに他の電気的導体は特に設けられていない。
【0017】このような構造においては、電極13はロッドアンテナに近い構造となるが、アンテナ輻射器として輻射効率は悪いため、電極13から大気中に輻射されるマイクロ波のエネルギーは少なく、信号は電磁波として電極13に沿って伝播する。結果的に電極13は、近隣の電気的導体又は大地(同軸ケーブルの外側の被覆導体と同一機能の導体)とで構成される信号伝播路として動作する。従って電極13に沿って伝播した電磁波は、その他端が開放されていることによる伝播インピーダンスの変化に基づき反射される。上記説明のように電極13と平行に隣接する第2の電気的導体を設けるか、または電極13を大地と近接させ平行に保持するようにすれば、計測動作がより安定化される。
【0018】このようにして電極13の先端から反射されたM系列信号M1 は、再び同軸ケーブル12を通って方向性結合器7に入力され、この方向性結合器7によって反射信号のみが取り出されて乗算器6に入力される。ここで電極13の先端から反射されて乗算器6へ入力されるM系列信号M1 は、乗算器5へ第1擬似ランダム信号発生器3から直接入力されるM系列信号M1との時間比較において、同軸ケーブル12と電極13の合計長さ(L0 +Lx )をマイクロ波が伝播して往復するのに要する時間だけ遅延した信号となる。
【0019】この電極13から反射され遅延したM系列信号M1 と第2擬似ランダム信号発生器4から直接入力されるM系列信号M2 とが乗算器6によって乗算され、その乗算結果が第2ローパスフィルタ9へ入力される。第2ローパスフィルタ9は、第1ローパスフィルタ8と同様に動作し、図2の(c)に示されるような三角波に近い波形を出力して計測演算部10へ供給する。計測演算部10は、第1ローパスフィルタ8からの入力信号の場合と同様に、第2ローパスフィルタ9から入力される三角波に近い波形のピーク値(最大振幅値)を検出し、この検出時刻に例えば図2の(e)に示すように1つのパルスを発生し、このパルスの発生時刻tb を記憶する。そしてこのM系列信号M1 の伝送距離に応じて遅延した相関信号ピーク値検出時刻tb を信号検知時刻とし、前記基準時刻ta から信号検知時刻tb までの時間TD を計測する(図2の(e)に示されたTD を参照)。
【0020】次に前記計測時間TD から長さ又は距離を算出する方法を説明する。第1の擬似ランダム信号の繰り返し周波数をf1 、第2の擬似ランダム信号の繰り返し周波数をf2 とし、各々の擬似ランダム信号のパターンは同一とする。ここでf1 >f2 とする。送信される第1の擬似ランダム信号と第2の擬似ランダム信号との相関(前記乗算及び積分処理により相関信号が得られる)をとって得られる基準信号が最大値となる周期をTB (図2の(d)に示されたTB を参照)とすると、このTB間に含まれる第1の擬似ランダム信号と第2の擬似ランダム信号の波数の差がちょうど1周期の波数N(符号長と同じ)になる。
即ち TB ・f1 =TB ・f2 +N上記を整理するとTB は次の(1)式で与えられる。
B =N/(f1 −f2 ) …(1)
即ち2つのクロック周波数の差が小さいほど、基準信号が最大値となる周期TB は大きくなる。
【0021】次に、第1の擬似ランダム信号が長さx(この例ではx=L0 +Lx )の伝播経路を伝播し、この伝播経路の先端から反射されて戻ってきた信号と第2の擬似ランダム信号との相関をとって得られる検出信号が最大値となる時刻tb と上記基準信号が最大値となる時刻ta との間の時間をTD とすると、TD 間に発生する第2の擬似ランダム信号の波数は、TD 間に発生する第1の擬似ランダム信号の波数より、上記第1の擬似ランダム信号の伝播及び反射に要した実時間τに発生する第1の擬似ランダム信号の波数だけ少ないので、次式が成立する。
D ・f2 =TD ・f1 −τ・f1上式を整理するとTD は次の(2)式で与えられる。
D =τ・f1 /(f1 −f2 ) …(2)
ここでマイクロ波の伝播時間τは、その伝播速度をv、その伝播距離をxとすると、τ=2・x/v であるから、(2)式により次の(3)式を得る。
【0022】
【数1】


【0023】従って前記2つのクロック周波数f1 ,f2 、マイクロ波の伝播速度v、較正された同軸ケーブルの長さL0 の値を予め計測演算部10に入力しておくことにより、計測演算部10は、前記時間TD を計測し、前記(3)式から伝播距離xを算出する。そして図1の例においては、x=(L0 +Lx )であるので、xから同軸ケーブル12の長さL0 を減算することにより、電極13の長さLx を求めることができる。
【0024】この例においては、第1の擬似ランダム信号の周波数f1 =1500.005MHz、第2の擬似ランダム信号の周波数f2 =1500.000MHz、1周期の波数N=127としたので、これらの値を(1)式に代入すると時間基準信号(及び検知信号)の繰り返し周期TB =25.4msec となる。また計測時間TD は(2)式によって実際の信号の伝播時間τのf1 /(f1−f2 )倍になっているので、この例における上記数値を代入すると、計測時間TD は実時間τの300,000倍に拡大される結果、高精度の計測が可能となる。
【0025】計測演算部10は、この例では、図2の(b),(c)に示されるような第1,第2ローパスフィルタ8,9の各出力信号について、それぞれサンプリング周期10μsec でA/D変換した振幅データを逐次読取り、各信号が最大振幅値となる時刻ta ,tb を検出し、この両時刻ta ,tb 間の時間TD を計測し、長さ算出を行った。この場合のサンプリング周期10μsec は、前記時間拡大率から、実時間では、10μsec /300,000=3.33psec に相当し、距離に換算すると0.5mmでの信号サンプリングを行ったことになり、高精度で電極13の長さを計測することができる。さらに本計測演算部10は、複数の測定データの平均化処理を行うことにより精度1mmでの電極長さの計測が可能となった。
【0026】なお被測定物からの反射信号にノイズが含まれることが有るが、このノイズ成分は擬似ランダム信号との相関がないことから、乗算器6と第2ローパスフィルタによる相関処理の結果得られる信号出力ではノイズは抑制され、SN比の改善された高感度での信号検知が可能となる。またこの例において、計測対象として金属棒を使用したが、擬似ランダム信号が伝播する各種導電性材料も計測対象として使用可能である。例えばカーボン電極、鋼材、カーボンブロック等を計測対象としてその長さを求めることができる。
【0027】実施形態2.図3は本発明の実施形態2に係り、図1の装置を用いたレベル計測装置を示す図であり、図の(a)は測定対象を側面からみた図で、(b)は同一測定対象を真上からみた図である。図3において、20は同軸ケーブル、21は電極、22は導電体長計測装置、23はレベル計測用信号処理装置、24は電極保持装置、25はモールド、26はタンディッシュ、27はノズル、28は溶鋼、29はダミーバーである。またこの例において、電極21は直径3mmの金属棒(鉄棒)とし、導電体長計測装置22は、図1に示したものと同一装置を使用した。図3の例においては、金属棒である電極21を溶融金属モールド25内に垂直に挿入し、その先端部をモールド25内の溶鋼28に浸漬させて、モールド25内の溶鋼レベルの計測を行うものである。
【0028】図3の動作を説明する。導電体長計測装置22から送出される前記M系列信号M1 による電磁波は同軸ケーブル20を介して電極21の一端に入力され、電極21に沿って長さ方向に伝播して行く。この場合、図1の説明のように、電極21と近隣の電気的導体(この場合ノズル22、モールド25又は溶鋼28)とで構成される信号伝播路により伝播する。そして電極21と溶鋼28との接触位置における伝播インピーダンスの変化(伝播面が棒から平面へ移行すること及び接触部での電気的導通が不良の場合には電気抵抗をもつこと等に起因する伝播インピーダンス変化)によって反射が生じ、この接触位置から反射されたM系列信号M1 の電磁波は再び同軸ケーブル20を通って半導体長計測装置22に戻る。導電体長計測装置22は、図1で説明したように時間TD の計測に基づき電極21の長さを算出する。信号処理装置23は、予め較正された電極21の長さと溶鋼レベルとの対応データを記憶しており、導電体長計測装置22から供給される電極21の長さデータと前記対応データに基づき、モールド内溶鋼レベルを求める。
【0029】この例では、電極21として金属棒を使用したので溶鋼中に浸漬させた場合電極21は溶融してゆく。しかし電極21としてタングステン等の高融点導電性材料を使用することによって長時間の連続レベル計測が可能となる。また金属棒の電極21であっても、鋳造開始時のモールド内溶鋼レベルの上昇を計測することはできる。さらにモールド内の溶鋼レベルが変動する場合の計測においても、長尺の電極棒を使用し、電極棒を連続的にモールド内に挿入する電極棒の自動供給手段を設けることにより、電極と溶鋼との接触を常に維持するようにして連続計測を行うことができる。図3では、連続鋳造設備のモールド内溶鋼レベルを計測する場合の例を示したが、その他の溶融金属レベルの計測にもこのレベル計測装置を適用することができる。
【0030】実施形態3.図4は本発明の実施形態3に係り、図3の装置に2本の電極を用いたレベル計測例を示す図である。図4の(a)では、2本の電極、即ち第1電極21Aと第2電極21Bとを平行に隣接させて保持させている。そして第1電極21Aは信号電極として同軸ケーブル20の芯線に接続し、電磁波によるM系列信号M1 の伝播及び反射を行わせ、第2電極21Bは接地電極として接地して使用している。従ってマイクロ波の伝播及び反射の状態は、単一の電極を使用した場合に比べて安定し、信号の減衰や波形歪の発生が抑制されるので、長スパンでの計測や、動作が安定で高精度でのレベル計測が可能となる。なおその他の計測動作は図3の場合と同一であるので、その説明は省略する。
【0031】図4の(b)は、2本の電極の構造とその接続を示すものであり、第1電極21Aの外側に同心円筒状の第2電極21Bを設け、第1電極21Aを同軸ケーブル20の芯線に接続すると共に、第2電極21Bを同軸ケーブル20の外側被覆導体と接続し、第2電極21Bを接地している。このような構造によって、2つの電極21A,21Bは、同軸ケーブル20をそのまま延長して溶鋼28中に挿入したのと類似の構造となり、同軸ケーブルと類似の信号伝播動作を行うので、電磁波(マイクロ波)の伝播及び反射の状態は、単一電極や2本の並行電極の場合に比べ、信号の減衰や波形歪みの発生がさらに抑制され、動作がより安定化した高精度のレベル計測が可能となる。また2つの電極21A,21Bは、見かけ上は一本の電極のような構造であるので、モールド25内に挿入する場合のスペースが少くてすみ、計測に便利な構造であるという特徴をも有する。
【0032】
【発明の効果】以上のように本請求項1に係る発明においては、第1のクロック周波数に同期した第1の擬似ランダム信号を発生する手段と、前記第1のクロック周波数とわずかに異なる第2のクロック周波数に同期し、前記第1の擬似ランダム信号と同一パターンの第2の擬似ランダム信号を発生する手段と、前記発生された第1の擬似ランダム信号と第2の擬似ランダム信号とを乗算する第1の乗算手段と、前記発生された第1の擬似ランダム信号を電磁波として被測定導電体の一端より入力し、この入力した信号を前記導電体の長さ方向に沿って伝播させる手段と、前記導電体の長さ方向に沿って伝播し、その他端から反射され前記入力端に戻った反射信号を入力信号と分離して検出する手段と、前記検出された反射信号と前記発生された第2の擬似ランダム信号とを乗算する第2の乗算手段と、前記第1の乗算手段及び第2の乗算手段の乗算結果をそれぞれ積分して出力する第1の積分手段及び第2の積分手段と、前記第1の積分手段の出力信号の最大振幅値を検出した時刻と前記第2の積分手段の出力信号の最大振幅値を検出した時刻との間の時間を計測する手段を含み、この計測された時間に基づき前記導電体の信号入力端から信号反射端までの長さを計測する手段とを備えて導電体の長さを計測するようにしたので、前記第1,第2のクロック周波数をそれぞれf1 ,f2 とし、f1 とf2 の差をΔfとすると、前記計測する時間は実際に電磁波の伝播と反射に要する時間をf1 /Δf倍に拡大したものとなるため、きわめて高精度の長さ計測が可能となる。また、同軸ケーブルではない、単体の導電体に信号を入力した事による信号の減衰や波形歪みに対しても、擬似ランダム信号の利用により高感度に信号を検出し、単体の導電体の長さを計測することが出来る。
【0033】また本請求項2に係る発明においては、第1のクロック周波数に同期した第1の擬似ランダム信号を発生する手段と、前記第1のクロック周波数とわずかに異なる第2のクロック周波数に同期し、前記第1の擬似ランダム信号と同一パターンの第2の擬似ランダム信号を発生する手段と、前記発生された第1の擬似ランダム信号と第2の擬似ランダム信号とを乗算する第1の乗算手段と、前記発生された第1の擬似ランダム信号を電磁波として一端が溶融金属中に挿入、浸漬された棒状電極の他端より入力し、この入力した信号を前記棒状電極の長さ方向に沿って伝播させる手段と、前記棒状電極の長さ方向に沿って伝播し、その先端又は電極と溶融金属の接触部から反射され前記入力端に戻った反射信号を入力信号と分離して検出する手段と、前記検出された反射信号と前記発生された第2の擬似ランダム信号とを乗算する第2の乗算手段と、前記第1の乗算手段及び第2の乗算手段の乗算結果をそれぞれ積分して出力する第1の積分手段及び第2の積分手段と、前記第1の積分手段の出力信号の最大振幅値を検出した時刻と前記第2の積分手段の出力信号の最大振幅値を検出した時刻との間の時間を計測する手段を含み、この計測された時間に基づき前記棒状電極の信号入力端から信号反射位置までの長さを計測する手段と、前記計測された棒状電極の信号入力端から信号反射位置までの長さに基づき前記溶融金属のレベルを計測する手段とを備えて溶融金属のレベルを計測するようにしたので、前記第1,第2のクロック周波数をそれぞれf1 ,f2 とし、f1 とf2 との差をΔfとすると、前記計測する時間は実際に電磁波の伝播と反射に要する時間をf1 /Δf倍に拡大したものとなるため、きわめて高精度のレベル計測が可能となる。また、溶融金属中に1本の棒状電極を挿入、浸漬させることによりレベル計測が可能であり、設置スペースを小さくすることが出来る。
【0034】また本請求項3に係る発明においては、前記請求項2に係る発明において、前記第1の擬似ランダム信号による電磁波の伝播及び反射を行う棒状電極と平行に隣接する棒状電極を追加して設け、この追加して設けた棒状電極の一端を前記溶融金属中に挿入、浸漬し、その他端を接地するようにしたので、前記電磁波の伝播及び反射を行う棒状電極及びこれと平行に隣接する棒状電極は平行線路と類似の動作を行うようになり、電磁波(マイクロ波)の伝播及び反射の状態は、単一電極を使用した場合に比べ、信号の減衰や波形歪の発生が抑制され、長スパンでの計測や、動作が安定した高精度のレベル計測が可能となる。
【0035】また本請求項4に係る発明においては、前記請求項2に係る発明において、前記第1の擬似ランダム信号による電磁波の伝播及び反射を行う棒状電極の外側に同心円筒状の電極を追加して設け、この追加して設けた同心円筒状の電極の一端を前記溶融金属中に挿入、浸漬し、その他端を接地するようにしたので、前記電磁波の伝播及び反射を行う棒状電極及びこれの外側の同心円筒状の電極は同軸ケーブルと類似の動作を行うようになり、電磁波(マイクロ波)の伝播及び反射の状態は、単一電極や2本の並行電極の場合に比べ、信号の減衰や波形歪の発生がさらに抑制され、動作がより安定化した高精度のレベル計測が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態1に係る導電体長計測装置の構成を示す図である。
【図2】図1の動作を説明するための波形図である。
【図3】本発明の実施形態2に係り、図1の装置を用いたレベル計測装置を示す図である。
【図4】本発明の実施形態3に係り、図3の装置に2本の電極を用いた計測例を示す図である。
【符号の説明】
1 第1クロック信号発生器
2 第2クロック信号発生器
3 第1擬似ランダム信号発生器
4 第2擬似ランダム信号発生器
5,6 乗算器
7 方向性結合器
8 第1ローパスフィルタ
9 第2ローパスフィルタ
10 計測演算部
11 導電体長計測装置
12 同軸ケーブル
13 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】 第1のクロック周波数に同期した第1の擬似ランダム信号を発生する手段と、前記第1のクロック周波数とわずかに異なる第2のクロック周波数に同期し、前記第1の擬似ランダム信号と同一パターンの第2の擬似ランダム信号を発生する手段と、前記発生された第1の擬似ランダム信号と第2の擬似ランダム信号とを乗算する第1の乗算手段と、前記発生された第1の擬似ランダム信号を電磁波として被測定導電体の一端より入力し、この入力した信号を前記導電体の長さ方向に沿って伝播させる手段と、前記導電体の長さ方向に沿って伝播し、その他端から反射され前記入力端に戻った反射信号を入力信号と分離して検出する手段と、前記検出された反射信号と前記発生された第2の擬似ランダム信号とを乗算する第2の乗算手段と、前記第1の乗算手段及び第2の乗算手段の乗算結果をそれぞれ積分して出力する第1の積分手段及び第2の積分手段と、前記第1の積分手段の出力信号の最大振幅値を検出した時刻と前記第2の積分手段の出力信号の最大振幅値を検出した時刻との間の時間を計測する手段を含み、この計測された時間に基づき前記導電体の信号入力端から信号反射端までの長さを計測する手段とを備えたことを特徴とする導電体長計測装置。
【請求項2】 第1のクロック周波数に同期した第1の擬似ランダム信号を発生する手段と、前記第1のクロック周波数とわずかに異なる第2のクロック周波数に同期し、前記第1の擬似ランダム信号と同一パターンの第2の擬似ランダム信号を発生する手段と、前記発生された第1の擬似ランダム信号と第2の擬似ランダム信号とを乗算する第1の乗算手段と、前記発生された第1の擬似ランダム信号を電磁波として一端が溶融金属中に挿入、浸漬された棒状電極の他端より入力し、この入力した信号を前記棒状電極の長さ方向に沿って伝播させる手段と、前記棒状電極の長さ方向に沿って伝播し、その先端又は電極と溶融金属の接触部から反射され前記入力端に戻った反射信号を入力信号と分離して検出する手段と、前記検出された反射信号と前記発生された第2の擬似ランダム信号とを乗算する第2の乗算手段と、前記第1の乗算手段及び第2の乗算手段の乗算結果をそれぞれ積分して出力する第1の積分手段及び第2の積分手段と、前記第1の積分手段の出力信号の最大振幅値を検出した時刻と前記第2の積分手段の出力信号の最大振幅値を検出した時刻との間の時間を計測する手段を含み、この計測された時間に基づき前記棒状電極の信号入力端から信号反射位置までの長さを計測する手段と、前記計測された棒状電極の信号入力端から信号反射位置までの長さに基づき前記溶融金属のレベルを計測する手段とを備えたことを特徴とするレベル計測装置。
【請求項3】 前記第1の擬似ランダム信号による電磁波の伝播及び反射を行う棒状電極と平行に隣接する棒状電極を追加して設け、この追加して設けた棒状電極の一端を前記溶融金属中に挿入、浸漬し、その他端を接地するようにしたことを特徴とする請求項2記載のレベル計測装置。
【請求項4】 前記第1の擬似ランダム信号による電磁波の伝播及び反射を行う棒状電極の外側に同心円筒状の電極を追加して設け、この追加して設けた同心円筒状の電極の一端を前記溶融金属中に挿入、浸漬し、その他端を接地するようにしたことを特徴とする請求項2記載のレベル計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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