説明

導電性塗料の製造方法および透明導電性フィルム

【課題】光透過度が高く、抵抗値が低いポリエチレンジオキシチオフェンを含有する透明導電性フィルムおよびその透明導電性フィルムを作製するための導電性塗料を提供する。
【解決手段】本発明の導電性塗料の製造方法は、ポリエチレンジオキシチオフェン水溶液およびエンハンサーを混合する混合工程、混合された混合物を60℃以上、100℃以下の温度で熱処理する熱処理工程、ならびに熱処理された処理物に樹脂と溶剤とを添加する添加工程を含む。また、本発明の透明導電性フィルムは、光透過度が90%以上であり、かつ、表面抵抗値が400Ω/□以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンジオキシチオフェンを含有する導電性塗料の製造方法およびその導電性塗料から作製された透明導電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、太陽電池、タッチパネルなどの透明電極などに透明導電膜が使用されている。透明導電膜として、一般に、インジウム−スズの複合酸化物(ITO)膜が使用されている。ITO膜は、真空蒸着法やスパッタリング法などのドライプロセスで形成しなければならないので、ITO膜の製造コストは高くなる。また、ITO膜は脆く、曲げによるクラックが生じやすい。さらに、ITO膜に使用されるインジウムは希少金属であり、今後、原料価格の上昇が予想される。
【0003】
ITO膜に代わる透明導電膜として、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を含有する透明導電性フィルムが検討されている(たとえば、特許文献1、2参照)。PEDOT透明導電性フィルムは、グラビアコーティングなどの樹脂フィルムの塗膜技術を使用して透明導電膜を形成できるので、製造コストが安くなる。また、PEDOT透明導電性フィルムは可撓性を有し、曲げによるクラックも生じにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−531233号公報
【特許文献2】特開2006−253024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリエチレンジオキシチオフェンを含有する透明導電性フィルムの抵抗値が高いという問題点がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決すため、以下の構成を採用した。
すなわち、本発明の導電性塗料の製造方法は、ポリエチレンジオキシチオフェン水溶液およびエンハンサーを混合する混合工程、前記混合工程によって混合された混合物を60℃以上、100℃以下の温度で熱処理する熱処理工程、ならびに前記熱処理工程によって熱処理された処理物に樹脂と溶剤とを添加する添加工程を含む。また、本発明の上記製造方法によれば、光透過度が90%以上であり、かつ、表面抵抗値が400Ω/□以下である透明導電性フィルムを提供することができる。
【発明の効果】
【0007】
光透過度が高く、抵抗値が低いポリエチレンジオキシチオフェンを含有する透明導電性フィルムおよびその透明導電性フィルムを作製するための導電性塗料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明者は、鋭意検討した結果、ポリエチレンジオキシチオフェン水溶液およびエンハンサーを混合し、その混合物を熱処理し、その処理物に樹脂と溶剤とを添加することによって製造した導電性塗料を使用して、光透過度が高く、抵抗値が低い透明導電性フィルムを得られることを見出し、本発明に想到した。以下、本発明の詳細について説明するが、本発明は下記の形態に限定されるものではない。
【0009】
ポリエチレンジオキシチオフェン水溶液
ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)水溶液は、PEDOTがコロイド分散している水溶液である。PEDOT水溶液には、PEDOTをコロイド分散させるために分散剤(たとえば、ポリスチレンスルホン酸(PSS))が添加されている。PEDOT水溶液中のPEDOTの固形分濃度は、通常、0.05〜10重量%であるが、この固形分濃度に限定されない。PEDOTに対するPSSの含有量は、通常、PEDOTのモノマー単位1モルに対して0.1〜10モルであり、PSSの重合度は、通常、モノマー単位で10〜100000個の範囲内であるが、これらに限定されない。PEDOT水溶液には、たとえば、H.C.Starck社製のバイトロンP HC V4やバイトロン PH500などがある。
【0010】
エンハンサー
エンハンサーとは、透明導電性フィルムの抵抗率を下げるための添加物である。エンハンサーは、プロトン型溶剤、スルホキシド系溶剤、アミン系溶剤および糖類のうちの少なくとも1つである。エンハンサーは、通常、PEDOT水溶液100gに対して、5〜50%添加されるが、これらに限定されない。
【0011】
プロトン型溶剤
プロトン型溶剤とは、水を除いたプロトン性溶媒である。プロトン型溶剤には、炭素数が1乃至5の1価アルコール、多価アルコール、ポリオールもしくはこれらの中の混合物などがある。
【0012】
上記プロトン型溶剤の、炭素数が1乃至5の1価アルコールには、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、シクロペンタノールもしくはこれらの中の混合物などがある。
【0013】
上記プロトン型溶剤の、多価アルコールもしくはポリオールには、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、メチルペンタンジオール、ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、エチルヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシプロピレントリオール、ポリテトラメチレングリコール、ソルビトール、ペンタエリスリトールもしくはこれらの中の混合物などがあり、好ましくは、エチレングリコール、ペンタエリスリトールもしくはこれらの混合物である。
【0014】
スルホキシド系溶剤
上記エンハンサーのスルホキシド系溶媒には、メチルスルホキシド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン、ジフェニルスルホンもしくはこれらの中の混合物などがあり、好ましくはメチルスルホキシドである。
【0015】
アミン系溶剤
上記エンハンサーのアミン系溶剤には、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、ピロリドン、N−メチル2ピロリドン、カプロラクタム、テトラメチルウレアもしくはこれらの中の混合物などがあり、好ましくはN−メチル2ピロリドンである。
【0016】
糖類
上記エンハンサーの糖類には、グルコース、フルクトースなどの単糖類、マルトース、ラクトースなどの二糖類、セルロース、トレハロースなどの多糖類もしくはこれらの中の混合物などがあり、好ましくはトレハロースである。
【0017】
混合
塗料の分散に通常使用される公知の分散機を使用して、PEDOT水溶液とエンハンサーとの混合を行う。PEDOT水溶液とエンハンサーとを均一に混合することができれば、分散機は特に限定されない。上記分散機としては、たとえば、ビーズミル、ロールミル、ニーダー、ハイブリッドミキサーなどを使用できる。真空脱泡などの脱泡をしながら、もしくは脱泡した後、PEDOT水溶液とエンハンサーとを混合するようにしてもよい。PEDOT水溶液およびエンハンサーの混合のときの粘度を低下させるなどのために、PEDOT水溶液に水を添加してもよい。
【0018】
熱処理
PEDOT水溶液およびエンハンサーを混合した混合物の熱処理は、好ましくは60℃以上、100℃以下の温度で行い、より好ましくは、70℃以上、100℃以下の温度で行い、さらに好ましくは、70℃以上、90℃以下の温度で行う。60℃未満の温度で熱処理を行うと透明導電性フィルムの抵抗値に対する当該熱処理の効果があまり得られず、100℃を超える温度で熱処理を行うと、混合物の凝集力が強くなり過ぎてしまい、それにより導電性塗料中のPEDOTの分散性が悪くなり、透明導電性フィルムの抵抗値が高くなる。特に、熱処理温度が70℃以上、100℃以下の温度で熱処理を行うと、さらに熱処理温度が70℃以上、90℃以下の温度で熱処理を行うと、より抵抗値の低い透明導電性フィルムを得ることができる。熱処理の雰囲気は特に限定されず、空気中でも窒素雰囲気中でもよい。混合物の熱処理に使用する機器は、混合物に対して、上記温度範囲で熱処理を行えれば特に限定されず、たとえば、乾燥機やホットプレートなどでもよい。熱処理時間は、好ましくは30分以上、3時間以下、より好ましくは1時間以上、2時間以下である。熱処理時間が30分未満であると透明導電性フィルムの抵抗値に対する当該熱処理の効果があまり得られない場合があり、熱処理時間が3時間を超えると、混合物の凝集力が強くなり過ぎてしまい、それにより導電性塗料中のPEDOTの分散性が悪くなり、透明導電性フィルムの抵抗値が高くなる場合がある。
【0019】
従来は、混合物に熱処理を行うと、PEDOTが凝集してしまい、透明導電性フィルムの抵抗値は高くなると考えられていたが、本発明者は、鋭意検討した結果、上記熱処理によって透明導電性フィルムの抵抗値が低下することを見出した。
【0020】
樹脂と溶剤
上記熱処理した処理物に添加する樹脂は、透明であれば特に限定されないが、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン−パーフルオロプロポキシビニルエーテル共重合体、ナイロン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリアセタール、AS樹脂、ABS樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリエステル樹脂などを使用でき、好ましくはポリアセタールである。
【0021】
上記熱処理した処理物に樹脂を添加する場合に、樹脂を溶剤に溶かして、もしくは溶剤中にコロイド分散させて樹脂を添加するようにしてもよい。たとえば、ポリアセタール水溶液(たとえば、積水化学工業(株)製、エスレックKX)などでポリアセタールを上記処理物に添加するようにしてもよい。
【0022】
上記熱処理した処理物に添加する溶剤は、PEDOTがコロイド分散し、上記樹脂を溶解もしくは分散させるものであれば特に限定されず、たとえば、水、アルコール類もしくはこれらの混合溶媒などを使用することができる。水とアルコール類との混合溶媒としては、たとえば、水、メチルアルコールおよびイソプロピルアルコールの混合溶媒などがある。水とアルコール類との混合溶媒中の水およびアルコール類の割合は、適宜選択することができる。
【0023】
上記熱処理した処理物に樹脂と溶剤とを添加する場合の添加方法は特に限定されず、たとえば、上記熱処理した処理物に樹脂および溶剤を一緒に添加してもよい。しかし、PEDOCおよび上記樹脂が溶剤中により均一に存在させるために、上記熱処理した処理物に溶剤を添加して混合した後に、樹脂を添加するのが好ましい。この場合の混合は、上記熱処理した処理物が溶剤中に均一に分散していれば特に限定されず、PEDOT水溶液とエンハンサーとを混合するときと同じような混合方法で行ってもよい。
【0024】
樹脂および溶剤の他に上記熱処理した処理物に、硬化剤、レベリング剤、たれ止め剤、可塑剤、乳化剤、分散剤、表面張力調整剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、消泡剤などの添加剤を添加してもよい。たとえば、上記処理物に添加した樹脂に加水分解を起こさせるために、メチルシリケート加水分解物(たとえば、コルコート(株)製のメチルシリケート51など)などを添加してもよい。
【0025】
なお、上記熱処理によって熱処理された処理物に樹脂と溶剤とを添加することには、上記熱処理によって熱処理された処理物を樹脂と溶剤とに添加することも含まれるものとする。
【0026】
塗布の方法
本発明の導電性塗料は、基材に塗布した後に乾燥させて透明導電性フィルムとすることができる。使用可能な基材としては、たとえば、プラスチック、ガラス、金属、セラミックスなどがある。導電性塗料の塗膜形成方法としては、公知の各種方法を用いることができ、たとえば、スピンコート法、グラビアロールコーター法、ブレードコーター法、スプレーコーター法、ディップコート法、バーコーター法、ダイコーター法、ワイヤーバー法などを採用することができる。導電性塗料を基材に塗布した後に光硬化、熱硬化などさせて透明導電性フィルムを形成するようにしてもよい。塗膜形成された導電性塗料は、ドライヤーなどで乾燥される。
【0027】
以上のようにして作製された本発明の一実施態様の透明導電性フィルムは、90%以上の光透過度を有することができる。ここで、光透過度とは、透明導電性フィルムを透過しないときの550nmの入射光の強度で、透明導電性フィルムを透過したときの550nmの光の強度を割り算し、パーセントで表した値である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。なお、下記の実施例は本発明を限定するものではない。
【0029】
導電性塗料Aの作製
PEDOT/PSS(H.C.Starck社製、バイトロン PH500)10重量部に対して、イオン交換水5重量部およびエチレングリコール5重量部を添加し、ハイブリッドミキサー(キーエンス(株)製、HM−500)を使用して、1分間の脱泡後、2分間混合した。70℃に設定した乾燥機(TABAI MFG CO.LTD製、PERFECT OVEN)に結果として生じた混合物を入れて1時間熱処理を行った。その処理物に、イオン交換水/メチルアルコール/イソプロピルアルコール混合溶媒(重量比が2:1:1)を20重量添加し、上記ハイブリッドミキサーを使用して、1分間の脱泡後、2分間混合した。その混合物に10%ポリビニルアセタール水溶液(積水化学工業(株)製、エスレックKX5)0.1重量部とメチルシリケート加水分解物(コルコート(株)製、メチルシリケート51、固形分20%)0.1重量部とを添加し、上記ハイブリッドミキサーを使用して、1分間の脱泡後、2分間混合して、導電性塗料Aを作製した。
【0030】
導電性塗料Bの作製
エチレングリコール5重量部の代わりにジメチルスルホキシド5重量部をPEDOT/PSSに添加した点を除いて、上記導電性塗料Aと同じ方法で導電性塗料Bを作製した。
【0031】
導電性塗料Cの作製
エチレングリコール5重量部の代わりにNメチル2ピロリドン5重量部をPEDOT/PSSに添加した点を除いて、上記導電性塗料Aと同じ方法で導電性塗料Cを作製した。
【0032】
導電性塗料Dの作製
1時間熱処理を行う代わりに2時間熱処理を行った点を除いて、上記導電性塗料Aと同じ方法で導電性塗料Dを作製した。
【0033】
導電性塗料Eの作製
エチレングリコール5重量部の代わりにジメチルスルホキシド5重量部をPEDOT/PSSに添加した点、および1時間熱処理を行う代わりに2時間熱処理を行った点を除いて、上記導電性塗料Aと同じ方法で導電性塗料Eを作製した。
【0034】
導電性塗料Fの作製
エチレングリコール5重量部の代わりにNメチル2ピロリドン5重量部をPEDOT/PSSに添加した点、および1時間熱処理を行う代わりに2時間熱処理を行った点を除いて、上記導電性塗料Aと同じ方法で導電性塗料Fを作製した。
【0035】
導電性塗料Gの作製
70℃の代わりに100℃に設定した乾燥機で熱処理を行った点を除いて、上記導電性塗料Aと同じ方法で導電性塗料Gを作製した。
【0036】
導電性塗料Hの作製
エチレングリコール5重量部の代わりにジメチルスルホキシド5重量部をPEDOT/PSSに添加した点、および70℃の代わりに100℃に設定した乾燥機で熱処理を行った点を除いて、上記導電性塗料Aと同じ方法で導電性塗料Hを作製した。
【0037】
導電性塗料Iの作製
エチレングリコール5重量部の代わりにNメチル2ピロリドン5重量部をPEDOT/PSSに添加した点、および70℃の代わりに100℃に設定した乾燥機で熱処理を行った点を除いて、上記導電性塗料Aと同じ方法で導電性塗料Hを作製した。
【0038】
導電性塗料Jの作製
70℃に設定した乾燥機で1時間熱処理を行う代わりに、100℃に設定した乾燥機で2時間熱処理を行った点を除いて、上記導電性塗料Aと同じ方法で導電性塗料Jを作製した。
【0039】
導電性塗料Kの作製
エチレングリコール5重量部の代わりにジメチルスルホキシド5重量部をPEDOT/PSSに添加した点、および70℃に設定した乾燥機で1時間熱処理を行う代わりに100℃に設定した乾燥機で2時間熱処理を行った点を除いて、上記導電性塗料Aと同じ方法で導電性塗料Kを作製した。
【0040】
導電性塗料Lの作製
エチレングリコール5重量部の代わりにNメチル2ピロリドン5重量部をPEDOT/PSSに添加した点、および70℃に設定した乾燥機で1時間熱処理を行う代わりに100℃に設定した乾燥機で2時間熱処理を行った点を除いて、上記導電性塗料Aと同じ方法で導電性塗料Lを作製した。
【0041】
導電性塗料Mの作製
エチレングリコール5重量部の代わりにトレハロース5重量部をPEDOT/PSSに添加した点を除いて、上記導電性塗料Aと同じ方法で導電性塗料Mを作製した。
【0042】
導電性塗料Nの作製
エチレングリコール5重量部の代わりにペンタエリスリトール5重量部をPEDOT/PSSに添加した点を除いて、上記導電性塗料Aと同じ方法で導電性塗料Nを作製した。
【0043】
導電性塗料Oの作製
エチレングリコール5重量部の代わりにトレハロース5重量部をPEDOT/PSSに添加した点、および1時間熱処理を行う代わりに2時間熱処理を行った点を除いて、上記導電性塗料Aと同じ方法で導電性塗料Oを作製した。
【0044】
導電性塗料Pの作製
エチレングリコール5重量部の代わりにペンタエリスリトール5重量部をPEDOT/PSSに添加した点、および1時間熱処理を行う代わりに2時間熱処理を行った点を除いて、上記導電性塗料Aと同じ方法で導電性塗料Pを作製した。
【0045】
導電性塗料Qの作製
エチレングリコール5重量部の代わりにトレハロース5重量部をPEDOT/PSSに添加した点、および70℃の代わりに100℃に設定した乾燥機で熱処理を行った点を除いて、上記導電性塗料Aと同じ方法で導電性塗料Qを作製した。
【0046】
導電性塗料Rの作製
エチレングリコール5重量部の代わりにペンタエリスリトール5重量部をPEDOT/PSSに添加した点、および70℃の代わりに100℃に設定した乾燥機で熱処理を行った点を除いて、上記導電性塗料Aと同じ方法で導電性塗料Rを作製した。
【0047】
導電性塗料S(比較例)の作製
イオン交換水5重量部およびエチレングリコール5重量部の代わりにイオン交換水10重量部を10重量部のPEDOT/PSSに対して添加した点を除いて、上記導電性塗料Aと同じ方法で比較例の導電性塗料Sを作製した。
【0048】
導電性塗料T(比較例)の作製
PEDOT/PSS(H.C.Starck社製、バイトロン PH500)10重量部に対して、イオン交換水10重量部を添加し、ハイブリッドミキサー(キーエンス(株)製、HM−500)を使用して、1分間の脱泡後、2分間混合した。その混合物に、イオン交換水/メチルアルコール/イソプロピルアルコール混合溶媒(重量比が2:1:1)を20重量部添加し、上記ハイブリッドミキサーを使用して、1分間の脱泡後、2分間混合した。さらに、10%ポリビニルアセタール水溶液(積水化学工業(株)製、エスレックKX5)0.1重量部とメチルシリケート加水分解物(コルコート(株)製、メチルシリケート51、固形分20%)0.1重量部とを添加し、上記ハイブリッドミキサーを使用して、1分間の脱泡後、2分間混合した。70℃に設定した乾燥機(TABAI MFG CO.LTD製、PERFECT OVEN)に結果として生じた混合物を入れて1時間熱処理を行った。そして、その処理物を、上記ハイブリッドミキサーを使用して、1分間の脱泡後、2分間混合して比較例の導電性塗料Tを作製した。
【0049】
導電性塗料U(比較例)の作製
イオン交換水5重量部およびエチレングリコール5重量部の代わりにイオン交換水10重量部を10重量部のPEDOT/PSSに対して添加した点、および熱処理を行わない点を除いて、上記導電性塗料Aと同じ方法で比較例の導電性塗料Uを作製した。
【0050】
導電性塗料V(比較例)の作製
熱処理を行わない点を除いて、上記導電性塗料Aと同じ方法で比較例の導電性塗料Vを作製した。
【0051】
導電性塗料W(比較例)の作製
エチレングリコール5重量部の代わりにジメチルスルホキシド5重量部をPEDOT/PSSに添加した点、および熱処理を行わない点を除いて、上記導電性塗料Aと同じ方法で比較例の導電性塗料Wを作製した。
【0052】
導電性塗料X(比較例)の作製
エチレングリコール5重量部の代わりにNメチル2ピロリドン5重量部をPEDOT/PSSに添加した点、および熱処理を行わない点を除いて、上記導電性塗料Aと同じ方法で比較例の導電性塗料Xを作製した。
【0053】
導電性塗料Y(比較例)の作製
エチレングリコール5重量部の代わりにトレハロース5重量部をPEDOT/PSSに添加した点、および熱処理を行わない点を除いて、上記導電性塗料Aと同じ方法で比較例の導電性塗料Yを作製した。
【0054】
導電性塗料Z(比較例)の作製
エチレングリコール5重量部の代わりにペンタエリスリトール5重量部をPEDOT/PSSに添加した点、および熱処理を行わない点を除いて、上記導電性塗料Aと同じ方法で比較例の導電性塗料Zを作製した。
【0055】
評価用透明導電性フィルムの作製
OSG社製、ワイヤーバーを使用してハンドにて、導電性塗料A〜Xを、ハードコートPET基板に0.2μmの膜厚で塗布した。そして、導電性塗料A〜Xを塗布した基板をTBAI製パーフェクトオーブンにて130℃で3分間乾燥して、評価用透明導電性フィルムを基板上に作製した。
【0056】
透明導電性フィルムの表面抵抗値の測定
ロレスターHP装置(三菱化学(株)製、)、MCP−T350(ダイヤインスツルメンツ社製)、ロレスターMP(ダイヤインスツルメンツ社製)を使用して四端針法で、基板上に形成した透明導電性フィルムの表面抵抗値(Ω/□)を測定した。
【0057】
透明導電性フィルムの光透過度の測定
分光光度計((株)島津製作所製、UV−2450)を使用し、無色のプラスチックの可視領域における全光線透過率の試験方法について規定した日本工業規格JIS K7361−1:1997に準処して透明導電性フィルムの光透過度を測定した。CIEの標準の光D65の代わりに550nmの可視光を使用した。
【0058】
透明導電性フィルムの均一性評価
上記基板上に形成された透明導電性フィルムを目視して、透明導電性フィルムが均一に形成されているか否かを評価した。透明導電性フィルムが均一である場合、透明導電性フィルムを「良好」と評価し、導電性塗料がゲル化などして凝集物を生成して透明導電性フィルムが不均一になった場合、「不良」と評価した。
【0059】
以上の導電性塗料A〜Xで作製した透明導電性フィルムの評価結果を表1に示す。
【表1】

【0060】
エンハンサーにエチレングリコールを使用し、熱処理して作製した導電性塗料による透明導電性フィルム(実施例1,4,7,10)の表面抵抗値は、315〜420Ω/□である。一方、熱処理しないで作製した導電性塗料による透明導電性フィルム(比較例22)の表面抵抗値は、450Ω/□である。
【0061】
エンハンサーにジメチルスルホキシドを使用し、熱処理して作製した導電性塗料による透明導電性フィルム(実施例2,5,8,11)の表面抵抗値は、345〜430Ω/□である。一方、熱処理しないで作製した導電性塗料による透明導電性フィルム(比較例23)の表面抵抗値は、470Ω/□である。
【0062】
エンハンサーにNメチル2ピロリドンを使用し、熱処理して作製した導電性塗料による透明導電性フィルム(実施例3,6,9,12)の表面抵抗値は、305〜425Ω/□である。一方、熱処理しないで作製した導電性塗料による透明導電性フィルム(比較例24)の表面抵抗値は、450Ω/□である。
【0063】
エンハンサーにトレハロースを使用し、熱処理して作製した導電性塗料による透明導電性フィルム(実施例13,15,17)の表面抵抗値は、310〜445Ω/□である。一方、熱処理しないで作製した導電性塗料による透明導電性フィルム(比較例25)の表面抵抗値は、480Ω/□である。
【0064】
エンハンサーにペンタエリスリトールを使用し、熱処理して作製した導電性塗料による透明導電性フィルム(実施例14,16,18)の表面抵抗値は、340〜450Ω/□である。一方、熱処理しないで作製した導電性塗料による透明導電性フィルム(比較例26)の表面抵抗値は、500Ω/□である。
【0065】
実施例1〜6,13〜16の表面抵抗値は400Ω/□以下である。さらに、実施例1,3,4,6,13,15の表面抵抗値は330Ω/□以下である。一方、比較例19〜26は、いずれも表面抵抗値が450Ω/□より大きい。
【0066】
以上より、導電性塗料を作製するときに熱処理を行うと、透明導電性フィルムの表面抵抗値が減少することがわかった。特に、450Ω/□以上の表面抵抗値を有していた透明導電性フィルムの表面抵抗値を、熱処理を行うことによって、90%以上の光透過度で400Ω/□以下に、さらに90%以上の光透過度で330Ω/□以下にすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンジオキシチオフェン水溶液およびエンハンサーを混合する混合工程、
前記混合工程によって混合された混合物を60℃以上、100℃以下の温度で熱処理する熱処理工程、ならびに
前記熱処理工程によって熱処理された処理物に樹脂と溶剤とを添加する添加工程を含む導電性塗料の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理工程が、前記混合工程によって混合された混合物を70℃以上、90℃以下の温度で熱処理する請求項1の導電性塗料の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理工程が、前記混合工程によって混合された混合物を30分以上、3時間以下の時間、熱処理する請求項1または2の導電性塗料の製造方法。
【請求項4】
前記エンハンサーが、プロトン型溶剤、スルホキシド系溶剤、アミン系溶剤および糖類のうちの少なくとも1つである請求項1乃至3のいずれか1項の導電性塗料の製造方法。
【請求項5】
前記エンハンサーが、エチレングリコール、Nメチル2ピロリドンおよびトレハロースのうちの少なくとも1つである請求項1乃至3のいずれか1項の導電性塗料の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項の製造方法によって製造された導電性塗料から作製され、
光透過度が90%以上であり、かつ、表面抵抗値が400Ω/□以下である透明導電性フィルム。

【公開番号】特開2011−134483(P2011−134483A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291008(P2009−291008)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000000181)岩崎通信機株式会社 (133)
【Fターム(参考)】