説明

屋上緑化用基盤

【課題】植栽した植物の発育がよいうえに、建物の屋上の強度を特段高めなくても済む程度に軽量である屋上緑化用基盤を提供する。
【解決手段】粒状のクリンカアッシュを骨材として、水とセメントとを混合して、内部に空隙2,・・・を有し、その空隙率が10%〜30%となるようにブロック状に形成し、骨材とされる粒状のクリンカアッシュの粒径は3mm〜20mmで、厚さHが30mm〜60mmで構成する。設置すると水平方向となる辺の長さL1、L2が10cm〜40cmの直方体とされているとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の屋上緑化に用いられる屋上緑化用基盤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、建物の屋上に芝などの植物を植栽する屋上緑化が広く実施されている。
【0003】
この屋上緑化を実施すると、屋上において大きな断熱性能を有することとなり、冷暖房の設定を弱にしたり、冷暖房の電源をオフにしたりしても、建物の屋内空間は、快適な温度環境となり、省エネルギー効果が得られる。
【0004】
ここで、この屋上緑化には、植物の根を根付かせるための屋上緑化用基盤が用いられている。
【0005】
従来の屋上緑化用基盤としては、例えば、籾殻や木材チップ、ヤシガラ等を主素材として用いたり、火山灰(シラス)等を主素材としてブロック状に加工したものを用いたりしていた(特許文献1,2等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−002149号公報
【特許文献2】特開2003−245012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、屋上緑化用基盤として、籾殻や木材チップ、ヤシガラ等を主素材として用いた場合、植栽した植物の発育はよいものの、基盤の重量が軽すぎるため、強風により吹き飛ばされるおそれがあるうえに、崩れ難いようにするため、設置作業に手間を要するという問題があった。
【0008】
一方で、屋上緑化用基盤として、火山灰(シラス)等を主素材としてブロック状に加工したものを用いた場合、ブロック状に加工しているため、設置作業は簡易化されるものの、火山灰(シラス)の密度が高いことから、基盤の重量が比較的重いため、建物の屋上の強度を、それに合わせて高めなければならないおそれがあるという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、植栽した植物の発育がよいうえに、建物の屋上の強度を特段高めなくても済む程度に軽量である屋上緑化用基盤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の屋上緑化用基盤は、粒状のクリンカアッシュを骨材として、水とセメントとを混合して、内部に空隙を有し、その空隙率が10%〜30%となるようにブロック状に形成されていることを特徴とする。
【0011】
ここで、骨材とされる前記粒状のクリンカアッシュの粒径は、3mm〜20mmであるとよい。
【0012】
また、厚さが、30mm〜60mmとされているとよい。
【0013】
さらに、設置すると水平方向となる辺の長さが10cm〜40cmの直方体とされているとよい。
【発明の効果】
【0014】
このような本発明の屋上緑化用基盤は、粒状のクリンカアッシュを骨材として、水とセメントとを混合して、内部に空隙を有し、その空隙率が10%〜30%となるようにブロック状に形成された構成とされている。
【0015】
こうした構成なので、粒状のクリンカアッシュ間の空隙の占める割合である空隙率10%〜30%という値であれば、植栽した植物の根の根付きが良く、根腐れしない程度の排水性も持たせることができる。
【0016】
そして、これら粒状のクリンカアッシュは、微細な空隙を有する多孔質体であり、植栽した植物の根が吸水するにあたって必要な保水性に優れているため、労力を要する散水をさほど頻繁に行わなくても、植栽した植物の発育がよい。
【0017】
また、その重量も、建物の屋上の強度を特段高めなくても済む程度に軽いため、手軽に適用することができる。
【0018】
さらに、その熱伝導率が低く、表面に植物を植栽すると、さらに熱伝導率を低くでき、大きな断熱性能を有することとなり、冷暖房の設定を弱にしたり、冷暖房の電源をオフにしたりしても、建物の屋内空間は、快適な温度環境となり、従来の優れた屋上緑化用基盤と同程度の省エネルギー効果も得られる。
【0019】
そのうえ、石炭火力発電所から排出される廃棄物であるクリンカアッシュを、有効利用することができる。
【0020】
ここで、骨材とされる粒状のクリンカアッシュの粒径は、3mm〜20mmである場合は、空隙率10%〜30%の屋上緑化用基盤を簡易に形成することができる。
【0021】
また、厚さが、30mm〜60mmとされている場合は、植栽する所望の植物の根張りの長さに対応することができる。
【0022】
さらに、設置すると水平方向となる辺の長さが10cm〜40cmの直方体とされている場合は、大きさ、形状、及び重量などの点で、扱い易いので、運搬作業と設置作業とを容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例の屋上緑化用基盤の概略構成を示す斜視図である。
【図2】実施例の屋上緑化の方法において、屋上表面に屋上緑化用基盤を敷き詰めていく段階を示す説明図である。
【図3】実施例の屋上緑化の方法において、屋上緑化用基盤に芝(コウライシバ)マットのコウライシバが根付いて、屋上緑化がなされた段階を示す説明図である。
【図4】芝(コウライシバ)マットのコウライシバが屋上緑化用基盤に根付いたものを示す斜視図である。
【図5】図4におけるA−A線矢視拡大断面図である。
【図6】実証試験における各条件での建物の屋上表面の温度変化を示すグラフである。
【図7】実証試験における試験状態の概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0025】
先ず、実施例の構成について説明する。
【0026】
図1は、実施例の屋上緑化用基盤1の概略構成を示している。
【0027】
この屋上緑化用基盤1は、粒状のクリンカアッシュを骨材として、水とセメントとを混合して、内部に空隙2,・・・を有し、その空隙率が10%〜30%となるようにブロック状に形成されたものである。
【0028】
ここで、クリンカアッシュとは、石炭火力発電所のボイラー内で、燃焼によって生じた石炭灰の粒子同士が相互に凝結し、多孔質の塊となった廃棄物である。
【0029】
本実施例では、このクリンカアッシュを、破砕し、粒径3mm〜20mmに粒度調整した粒状のクリンカアッシュを用いる。
【0030】
また、水と、セメントと、骨材とされる粒状のクリンカアッシュとの単位体積当りの重量(kg/m)比(配合)を、およそ1:(2.5〜3.5):(10〜12)として、これらを混合する。
【0031】
そして、この混合物を、小型コンクリート平板即脱成型機により、直方体のブロック状に形成し、養生させると、屋上緑化用基盤1が出来上がる。
【0032】
なお、この屋上緑化用基盤1の内部の空隙2,・・・は、植栽する植物の根が根付くうえに、根腐れしない程度の排水性も持たせるように、連通している。
【0033】
ここでは、この屋上緑化用基盤1の厚さHは、植栽する植物としての芝(コウライシバ)マットのコウライシバを根付かせるのに適当な45mmとして実施した。
【0034】
但し、この厚さHは、植栽する所望の植物が根付くように、30mm〜60mmの範囲で適宜変更すればよい。
【0035】
さらに、この屋上緑化用基盤1は、扱い易いように、設置すると水平方向となる辺の長さL1,L2が30cmの直方体とされている。
【0036】
但し、これらの屋上緑化用基盤1における設置すると水平方向となる辺の長さL1,L2は、10cm〜40cmの範囲であれば、大きさ、形状及び重量などの点で扱い易く、好ましい。
【0037】
次に、屋上緑化用基盤1,・・・を用いた建物Bの屋上緑化の方法について説明する。
【0038】
まず、図示省略の防根シートを、建物Bの屋上に敷設してから、屋上緑化用基盤1,・・・を、図2に示したように、その上に敷き詰める。
【0039】
続いて、屋上緑化用基盤1,・・・のそれぞれの表面に、これら屋上緑化用基盤1,・・・の表面積と略同一のサイズの芝(コウライシバ)マット3,・・・を敷設していく。
【0040】
そして、芝(コウライシバ)マット3,・・・の上から定期的に散水を行うと、図3に示したように、芝(コウライシバ)マット3,・・・が、屋上緑化用基盤1,・・・に根付いたもの10,・・・となり、建物Bの屋上緑化がなされる。
【0041】
ここで、芝(コウライシバ)マット3とは、図4及び図5に示したように、育成地で栽培したコウライシバ30,・・・を所要の厚さの培土31とその内部の根を残して所定サイズで市販されているものである。
【0042】
また、芝(コウライシバ)マット3内部のコウライシバ30,・・・の根は、図5に示したように、屋上緑化用基盤1の連通する空隙2,・・・を通って、スムーズに根張りされる。
【0043】
次に、実施例の作用効果について説明する。
【0044】
このような実施例の屋上緑化用基盤1は、粒状のクリンカアッシュを骨材として、水とセメントとを混合して、内部に空隙2,・・・を有し、その空隙率が10%〜30%となるようにブロック状に形成された構成とされている。
【0045】
こうした構成なので、粒状のクリンカアッシュ間の空隙2,・・・が占める割合である空隙率10%〜30%という値であれば、植栽した植物としての芝(コウライシバ)マット3のコウライシバ30,・・・の根の根付きが良く、根腐れしない程度の排水性も持たせることができる。
【0046】
そして、これら粒状のクリンカアッシュは、微細な空隙を有する多孔質体であり、植栽した芝(コウライシバ)マット3のコウライシバ30,・・・の根が吸水するにあたって必要な保水性に優れている(約0.305g/cm)ため、労力を要する散水をさほど頻繁に行わなくても、コウライシバ30,・・・の発育がよい。
【0047】
また、その重量も、建物Bの屋上の強度を特段高めなくても済む程度に軽い(乾燥状態の密度約0.96g/cm)ため、手軽に適用することができる。
【0048】
さらに、後述する実証試験の試験結果において説明するが、その熱伝導率が低く、表面に芝(コウライシバ)マット3を敷設し、コウライシバ30,・・・を植栽すると、さらに熱伝導率を低くでき、大きな断熱性能を有することにより、冷暖房の設定を弱にしたり、冷暖房の電源をオフにしたりしても、建物Bの屋内空間は、快適な温度環境となり、従来の優れた屋上緑化用基盤と同程度の省エネルギー効果も得られる。
【0049】
そのうえ、石炭火力発電所から排出される廃棄物であるクリンカアッシュを、有効利用することができる。
【0050】
ここで、骨材とされる粒状のクリンカアッシュの粒径は、3mm〜20mmであるため、空隙率10%〜30%の屋上緑化用基盤1を簡易に形成することができる。
【0051】
また、厚さHが、45mmとされているため、芝(コウライシバ)マット3のコウライシバ30,・・・の根張りの長さに対応することができる。
【0052】
さらに、設置すると水平方向となる辺の長さL1,L2が30cmの直方体とされているため、大きさ、形状、及び重量などの点で、扱い易いので、運搬作業と設置作業とを容易に行うことができる。
【0053】
次に、この実施例の屋上緑化用基盤1,・・・を用いた屋上緑化の実証試験を行ったところ、以下のような試験結果が得られた。
【0054】
下記した条件(1)〜(3)における建物の屋上表面の温度変化を測定する試験を行ったところ、図6に示すグラフが得られた。
【0055】
ここで、この実証試験には、香川県高松市にある6階建ての建物の屋上において実施した。
【0056】
この建物の屋上は、日射を遮る障害物がない平坦なモルタル張りであり、排水設備が十分に完備されている。
【0057】
また、下記した条件(1)〜(3)では、いずれも、0.9m×0.9mの正方形である0.81mの屋上表面を用い、各中心部に、図7に示したように、温度計センサーS1,S2,S3をそれぞれ設置して、屋上表面の温度変化を測定した。
【0058】
また、条件(1)〜(3)の境界部及び外縁部には、相互間で極力影響を与えないように、断熱材としての木枠5と仕切り板6とを設けた。
【0059】
さらに、条件(1)〜(3)では、上方にそれぞれ設けた散水ホース7から同様な散水(1m当りに換算すると約1.3リットル/分、毎日朝夕各20分間程度)を行った。
【0060】
そして、条件(1)〜(3)において、一年の間で、比較的気温の変化が激しい(統計的に日中の平均温度が高い)7月12日から7月14日までの三日間の建物における屋上表面の温度変化をそれぞれ測定した。
【0061】
まず、条件(1)は、空隙率を約20%とした9個の実施例の屋上緑化用基盤1,・・・を、防根シート4を介して、建物の屋上に敷き詰め、その表面に芝(コウライシバ)マット3,・・・を敷設した場合である。
【0062】
また、条件(2)は、実施例の屋上緑化用基盤1,・・・と同一の大きさ、形状の火山灰(シラス)を用いて形成した9個の従来の屋上緑化用基盤1A,・・・を、防根シート4を介して、建物の屋上に敷き詰め、その表面に芝(コウライシバ)マット3,・・・を敷設した場合である。
【0063】
さらに、条件(3)は、建物の屋上に何も設けなかった場合である。
【0064】
この図6のグラフから分かるように、条件(3)では、建物の屋上表面の温度が、およそ24℃〜55℃の間の大きな温度差(約29℃)で変化するのに対し、条件(1)と条件(2)とでは、ともに、建物の屋上表面(屋上緑化用基盤の裏面)の温度が、およそ25℃〜32℃の小さな温度差(約7℃)でしか変化せず、大きな断熱性能を有することが確認できた。
【0065】
特に、7月13日の14時の時点では、条件(3)における建物の屋上表面の温度は、54.9℃まで達しているにもかかわらず、条件(1)における建物の屋上表面の温度は、31.1℃であり、条件(2)における建物の屋上表面の温度も、31.3℃である。
【0066】
つまり、条件(1)と条件(2)では、ともに、条件(3)に比べて23℃以上の温度差があり、大きな断熱性を有することが顕著に表れている。
【0067】
すなわち、実施例の屋上緑化用基盤1,・・・は、軽量にもかかわらず、従来の優れた屋上緑化用基盤1A,・・・と同程度の大きな断熱性能を有するものであることが実証できた。
【0068】
また、条件(1)と条件(2)とで、芝(コウライシバ)マット3,・・・に同様な散水を行い、一年後の育成状況を観察したところ、両者のコウライシバ30,・・・は、略同程度の良好な育成状態であった。
【0069】
すなわち、実施例の屋上緑化用基盤1,・・・は、軽量にもかかわらず、従来の優れた屋上緑化用基盤1A,・・・と同程度に、労力を要する散水をさほど頻繁に行わなくても、植栽した植物としての芝(コウライシバ)マット3,・・・のコウライシバ30,・・・の発育がよいことが実証できた。
【0070】
以上、図面を参照して、本発明を実施するための形態について実施例をもとに詳述してきたが、具体的な構成は、上記した実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0071】
例えば、上記実施例では、植栽する植物として芝(コウライシバ)マット3のコウライシバ30,・・・を用いたが、これに限定されず、所望の植物を植栽して実施してもよい。
【0072】
また、上記実施例では、屋上緑化用基盤1の形状を、直方体として実施したが、これに限定されず、屋上緑化用基盤1,・・・で覆いきれない部分では、その部分の形状に合わせたものなどを用いて実施してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 屋上緑化用基盤
2 空隙
3 芝(コウライシバ)マット
30 コウライシバ(植栽する植物)
31 培土
10 芝(コウライシバ)マットが屋上緑化用基盤に根付いたもの
H 屋上緑化用基盤の厚さ
L1,L2 屋上緑化用基盤における設置すると水平方向となる辺の長さ
B 建物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状のクリンカアッシュを骨材として、水とセメントとを混合して、内部に空隙を有し、その空隙率が10%〜30%となるようにブロック状に形成されていることを特徴とする屋上緑化用基盤。
【請求項2】
骨材とされる前記粒状のクリンカアッシュの粒径は、3mm〜20mmであることを特徴とする請求項1に記載の屋上緑化用基盤。
【請求項3】
厚さが、30mm〜60mmとされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の屋上緑化用基盤。
【請求項4】
設置すると水平方向となる辺の長さが10cm〜40cmの直方体とされていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の屋上緑化用基盤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−155862(P2011−155862A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18476(P2010−18476)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年11月5日 社団法人電力土木技術協会発行の「電力土木 2009 No.344」に発表
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【出願人】(592250698)株式会社四電技術コンサルタント (15)
【出願人】(591286085)東洋工業株式会社 (17)
【Fターム(参考)】