説明

履物用保形具

【課題】 履物の形状を正確に保形でき、特に甲部分に相当する部分が潰れ易くなるのを防止するとともに、簡単に組み立てることができ、しかも、中敷素材に柔らかい素材などが使用される場合にも、中敷に損傷等を与えないようにする。
【解決手段】 湾曲可能な平板から、履物の前部を保形する前部保形部2と、履物の後部を保形する後部保形部3を一体に備えた履物用保形具1を構成し、前部保形部2の、中足骨と楔状骨の境目付近に対応する箇所に、直線状の谷折り線部4と、前後方向の後方に向けて突型に湾曲する山折り線部5を設け、同部で折り曲げることにより、前部保形部の後方側が、山折り線部を境に、上向きに角度を付けて折り曲げられている。また後部保形部3は履物の履き口周りに沿った状態になるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴やサンダルのような履物の形状を正確に保形しておくことのできる履物用保形具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、靴やサンダル等の履物の形状を保形しておくための保形具として、ボール紙や合成樹脂製薄板等を立体的に折り曲げて成形するような技術が多数知られており、例えば、一枚の厚紙などから、履物の前部を保形する前部保形部と履物後部を保形する後部保形部を成形するようにした技術(特許文献1、特許文献2、特許文献3参照。)や、一枚の可撓性薄板を舌片状に成形し、これを履物内で撓ませることで主として履物の甲部を保形するようにした技術(例えば、特許文献4参照。)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭58−95708号公報
【特許文献2】実開昭52−25843号公報
【特許文献3】実開平01−35910号公報
【特許文献4】実開昭60−48707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、履物の内部形状は、足の形状を模った木型(ラスト)によって形成されるものであるが、その木型は足の骨格に沿った形状となっており、特に、図4に示すように、趾骨と中足骨の境目付近から、骨の太さが大きく変化している、すなわち、足の高さが高くなっているものである。しかし、従来の保形具の場合、履物の前部を保形する前部保形部のうち、甲部分に相当する上面部分が前後方向に対して一定の傾斜角であるため、このような足の骨格である中足骨やその後方に連なる楔状骨や舟状骨部分などに相当する部分の履物甲被と保形部の間に、隙間が形成されてしまい、履物の形状を正確に保形することができず、包装箱内などで同部分が潰れ易いという問題があった(図5)。
また、特に、特許文献2や特許文献3のように、履物の後部を保形する後部保形部において、山型形状に折り曲げた両側端部が中敷の中間部に直接当接するような構造にあっては、中敷素材としてクッション性のある柔らかい素材が使用される機会が多くなった最近の履物の場合には、中敷に痕がついたり、傷が発生したりしやすくなって履物自体の品質が低下するという問題もあった。
【0005】
そこで本発明は、履物の形状をより正確に保形することができ、特に甲部分に相当する部分が潰れ易くなるのを防止するとともに、簡単に組み立てることができ、また、中敷素材に柔らかい素材などが使用される場合にも、中敷に損傷等を与えないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明は、湾曲可能な平板から成形され且つ履物内部に挿入される履物用保形具において、
この保形具として、履物の前部を保形する半楕円状の前部保形部と、履物の後部を保形する後部保形部を備え、
前記前部保形部には、幅方向(履物の横幅方向、以下同じ。)に横断する直線状の谷折り線部と、
前記谷折り線部よりも後方側には、幅方向に横断し且つ後方に向けて突型に湾曲する山折り線部とを設けることにより、
谷折り線部を谷折りに山折り線部を山折りにして、前記前部保形部を幅方向に折り曲げた場合に、
山折り線部が、足の骨格における趾骨と中足骨の境目付近に相当する部分になり、
かつ前部保形部の後方側が、前記山折り線部を境に、上向きに角度を付けて折り曲げられているようにした。
【0007】
このように、この谷折り線部を谷折りに、山折り線部を山折りに折り曲げることによって、自然に幅方向の中間部が上方に突出するように湾曲すると同時に、前部保形部の後方側が、山折り線部を境に、上向きに角度を付けて折り曲げることができる。そして折り曲げた状態では、山折り線部を、足の骨格における趾骨と中足骨の境目付近に相当する部位に設定することで、前後方向に対する甲部分の立体形状をより忠実に再現することができ、より正確な形状で保形することができる。
またこの際、山折り線部の湾曲度を調節する(曲率半径を大きく、又は小さくする)ことにより、山折り線部より後方の折り曲げ角度を、履物の種類によって適宜設定することができる。
【0008】
また本発明では、前記後部保形部として、従来の保形具に用いられている形状であってもよく、特に限定されるものではない。
好ましい形状としては、後部保形部が、前記前部保形部の後方側の幅方向一端側から後方に延出する延出部からなり、この延出部の先端には、前部保形部の幅方向の他端側近傍に係止するための係止部を設けるとともに、該後部保形部は、履物の履き口周りに沿った状態で組み立てられるようにするものである。そうすれば、例えば中敷にクッション性のある柔らかい素材を使用した場合にも、後部保形部の下端が接する箇所が中敷の外周縁部付近に限られるので、中敷に痕をつけたり、傷をつけたりして商品価値を損なうような恐れがない。
ここで、前記延出部の先端に設けられた係止部とは、例えば、単なる切り込みであってもよく、また、前部保形部の係止される箇所にも、切り込みを設ければ、係合しやすくなる。さらに、延出部の先端には凹部、前部保形部の係止される箇所には突部を設けて係合させてもよい。
【0009】
また本発明では、前記後部保形部の延出部の途中に、前方に向けて折り返すための山折りの折り返し線部を少なくとも1箇所設けるようにした。
これは、例えば保形具の素材を紙製にしたような場合に、曲げ易い方向を幅方向にすると、前後方向に対しては折り曲げにくくなり、無理に曲げようとすると、曲げ部にシワ等が発生しやすくなる。そこで、前後方向に折り曲げるための山折りの折り返し線部を少なくとも1箇所設けることで、スムーズに折り曲げることができるようになる。なお、この折り返し線部を所定間隔をおいて2箇所設けるようにすれば、履物後部の形状をより正確に保形することができ、しかも保形具を履物内に装着する作業をより円滑に行うことができるようになる。
【発明の効果】
【0010】
履物の前部を保形する半楕円状の前部保形部と履物の後部を保形する後部保形部とを備え、前部保形部に、直線状の谷折り線部と、後方に向けて突型に湾曲する山折り線部を近傍に設けることにより、前部保形部の後方側が、山折り線部を境に、上向きに角度を付けて折り曲げることができ、前後方向に対する甲部分の立体形状をより忠実に再現でき、より正確な形状で保形することができる。また、後部保形部を、履物の履き口周りに沿った状態にすることで、中敷等の素材にクッション性のある素材を使用した場合でも、中敷に痕が残ったり、傷ついたりして商品価値を損ねるような不具合がない。また、後部保形部の途中に、前方に折り返すための山折りの折り返し線部を設けることで、例えば保形具の素材を紙製にした場合でも円滑に折り返すことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る履物用保形具の展開図である。
【図2】同履物用保形具を組み立てた状態の説明図で、(a)は側面図、(b)は平面図、(c)は正面図である。
【図3】履物の内部で保形具を組み立てた状態の説明図で、(a)は靴を保形する場合、(b)はサンダルを保形する場合の説明図である。
【図4】足の骨格の説明図で、(a)は脛側側面図、(b)は平面図である。
【図5】従来の紙当て物を履物に挿入した場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について添付した図面に基づき説明する。
本発明に係る履物用保形具は、靴やサンダルのような履物において、特に甲部の前後方向の形状を正確に保形できるようにされ、また、中敷にクッション性のある柔らかい素材等が使用される場合でも、中敷に保形具の痕が残ったり傷ついたりして商品価値を損なうことがないように配慮されている。
【0013】
本履物用保形具1は、例えば厚紙やプラスチック製素材等の可撓性で湾曲可能な平板から成形され、履物の前部を保形する半楕円形状の前部保形部2と、後部保形部3を備えている。
【0014】
そして、前部保形部2の前後方向の中間部には、幅方向に横断する直線状の谷折り線部4が設けられ、この谷折り線部4より後方側の近傍には、後方に向けて突型に湾曲する山折り線部5が設けられている。そして、この谷折り線部4や山折り線部5を折り曲げたときに、山折り線部5が谷折り線部4より前方の前部保形部2に接する線5´は、足の骨の趾骨と中足骨の境目付近に対応する部位に設定され、また、本実施例では、折り曲げる際の目安と折り曲げの容易化を図るとともに、履き物の内側に傷が付くのを防止するため、山折り線部5の両端側部分は、切除部6として部分的に切除している。この場合、外周縁部が丸みを帯びるように切除すれば、より履き物の内側に傷が付くことを防ぐことができる。もちろん、この切除部6は必須のものではない。
【0015】
前記後部保形部3は、前述のように、前部保形部2の後方側の幅方向一端側から斜め後方に張り出しており、延出部の途中に2箇所の山折りの折り返し線部7が設けられている。
【0016】
ここで、この折り返し線部7は、特に保形具1の素材として厚紙等の紙を使用した場合に、円滑に折り返すために有効であるが、以下そのことについて説明する。
保形具1の素材として紙を使用する場合、抄紙時の繊維の並び等によって縦横方向の一方側の方向に曲げ易く、他方側の方向に曲げにくい特性が生じることが多々ある。この場合、保形具1を型抜きするときは、幅方向が曲げ易い方向として型抜きされることが多いため、前後方向に折り返す必要のある後部保形部3が曲がりにくくなり、無理に曲げようとすると、曲げ周辺部にシワ等が発生しやすくなる。
【0017】
そこで、本発明のように、延出部の途中に折り返し線部7を設けておくことにより、周辺にシワ等を発生させず、所望の位置で綺麗に折り返すことができるようになる。
なお、この折り返し線部7や、前記直線の谷折り線部4や、湾曲した山折り線部5には、いずれも、型抜き等を行う際にこれと同時に折れ目の刻設やミシン目の成形、或いは折れ目の刻設とミシン目を併用する等によって折曲げを容易にする手段を施すようにしている。
また、折り返し線部7を2箇所設けることにより、履物の開口部後端側をより正確な形状で保形することができる。
【0018】
また、後部保形部3の延出端部には、係止部8を設けており、この係止部8を、前部保形部2の幅方向他端側の後端近傍に突設した係止突部9の付け根付近に係合させることができるようにしている。また、この場合においても、係止部8及び係止突部9の外周縁部(中敷と接する部分)が丸みを帯びていれば、履き物の内側に傷が付くことを防ぐことができる。
【0019】
また、係止部8を係止突部9の付け根付近に係合させた状態で、図2(a)に示すように、後部保形部3が、履物の履き口周りの形状に沿った状態であって、その踵部に相当する部分が切除されている。
【0020】
以上のような履物用保形具1を組み立てた状態は、図2に示す通りであり、前部保形部2の谷折り線部4を谷折りに、山折り線部5を山折りにすることで、自然に幅方向の中央部が上方に突出するよう湾曲すると同時に、前部保形部の後方側が、山折り線部を境に、上向きに角度を付けて折り曲げられている。
この際、図4に示すように、足の骨格は、趾骨と中足骨の境目付近で、骨の太さが大きく変化している、すなわち、足の高さが高くなっている。そのため、折り曲げた時に、山折り線部5が趾骨と中足骨の境目付近になるように設けることで、前後方向に対する甲部分の立体形状をより忠実に再現でき、より正確な形状で保形することができる。
なお、前述のように、山折り線部の湾曲度を調節する(曲率半径を大きく、又は小さくする)ことにより、山折り線部より後方の折り曲げ角度を、履物の種類によって適宜設定することができる。
【0021】
このような履物用保形具1を履物内に挿入して組み立てた状態は図3の通りであり、図3(a)に示すような靴10の場合でも、図3(b)に示すようなサンダル11の場合でも、いずれも履物の甲部の形状を忠実に再現しているため、正規の履物の形状を正確に保形することができ、しかも、後部保形部3の踵部に相当する部分が切除されているので、中敷に直接接触しないため、中敷に柔らかい素材を使用する場合にも履物の品質を悪化させるような不具合はない。
しかも、組立も容易であるため、履物生産時の作業性も向上する。
【0022】
なお、図1の実線で示す保持具1の形状は、サンダル11用のものであり、靴10の場合は、先端部を図1の破線に示す形状にすれば好適である。
【0023】
なお、本発明は以上のような実施形態に限定されるものではない。本発明の特許請求の範囲に記載した事項と実質的に同一の構成を有し、同一の作用効果を奏するものは本発明の技術的範囲に属する。
例えば、保形具1の材質等は一例である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
履物用の保形具として、履物の形状を忠実に再現するとともに、履物底に痕をつけたり、傷つけたりして品質を低下させるおそれがなく、しかも組立も容易で生産性向上が図られるため、広い普及が期待される。
【符号の説明】
【0025】
1…履物用保形具、2…前部保形部、3…後部保形部、4…谷折り線部、5…山折り線部、5´・・・折り曲げた際に山折り線部が接する線(趾骨と中足骨の境目付近に相当する線)、7…折り返し線部、8…係止部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湾曲可能な平板から成形され且つ履物内部に挿入される履物用保形具であって、
この保形具は、履物の前部を保形する半楕円状の前部保形部と、履物の後部を保形する後部保形部を備え、
前記前部保形部には、幅方向に横断する直線状の谷折り線部と、
前記谷折り線部よりも後方側には、幅方向に横断し且つ後方に向けて突型に湾曲する山折り線部とが設けられており、
谷折り線部を谷折りに山折り線部を山折りにして、前記前部保形部を幅方向に折り曲げた場合に、
山折り線部が、足の骨格における趾骨と中足骨の境目付近に相当する部分となり、
かつ前部保形部の後方側が、前記山折り線部を境に、上向きに角度を付けて折り曲げられていることを特徴とする履物用保形具。
【請求項2】
前記後部保形部は、前記前部保形部の後方側の幅方向一端側から後方に延出する延出部からなり、
この延出部の先端には、前部保形部の幅方向の他端側近傍に係止するための係止部が設けられるとともに、
前記延出部は、履物の履き口周りに沿った状態で組み立てられるようにされることを特徴とする請求項1に記載の履物用保形具。
【請求項3】
前記後部保形部の延出部の中間部には、前方に向けて折り返すための山折りの折り返し線部が少なくとも1箇所設けられることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の履物用保形具。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−160941(P2011−160941A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26144(P2010−26144)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】