説明

履物

【課題】外反母指による足の痛みを十分に緩和しつつ、外反母趾の症状を改善することができる履物を提供する。
【解決手段】靴1の中底3において、親指f1の母趾球f1aから指先にかけての第1部位に対応する領域に、親指f1に作用する履用者の体重負荷を軽減するための凹部31が形成されている。また、母趾球f1aの踵側に隣接する第2部位に対応する領域には、当該第2部位を押し付けて、その反動により第1部位を凹部31内に下げるための押付部32が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外反母趾による足の痛みを軽減するための履物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えばヒールの高い婦人靴など、足に合わない靴を履き続けることにより、外反母趾を発症する人が増加している。外反母趾とは、親指が外反した状態、すなわち親指の指先が小指側に反り、親指の付け根部分が「く」の字状に曲がって足幅方向内側に突出した状態になる症状のことをいう。この外反母趾の症状が進行すると、親指の付け根部分が靴の中底に当たって激痛が生じ、歩行が困難になる場合がある。
【0003】
従来は、このような外反母趾による足の痛みを緩和するための履物として、親指に対応する中底に凹部を形成したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この履物は、前記凹部により親指に作用する履用者の体重負荷を軽減することができるため、歩行中の足の痛みを緩和することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平4−20608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の履物にあっては、外反母趾による足の痛みを緩和することはできるが、親指は依然として外反した状態であるため、外反母趾の症状自体を改善することはできない。また、親指の外反部分が靴の側壁部に接触するため、足の痛みを十分に緩和することができない。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、外反母指による足の痛みを十分に緩和しつつ、外反母趾の症状を改善することができる履物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の履物は、親指の母趾球から指先にかけての第1部位に対応する中底に形成され、親指に作用する履用者の体重負荷を軽減するための凹部と、前記母趾球の踵側に隣接する第2部位に対応する中底に形成され、当該第2部位を押し付けてその反動により前記第1部位を前記凹部内に下げるための押付部と、を備えていることを特徴としている。
【0007】
本発明の履物によれば、親指の母趾球から指先にかけての第1部位に対応する中底に形成された凹部によって、親指に作用する履用者の体重負荷を軽減することができる。また、中底に形成された押付部により、母趾球の踵側に隣接する第2部位を押し付けるとともに、その反動によって前記第1部位が凹部内に下がるため、親指は外反した状態から元の正常な状態に近づくように自然と内反した状態となる。これにより、外反母趾の症状を改善することができるとともに、親指が靴の側壁部に当たるのを抑制することができるため、足の痛みをさらに緩和することができる。
【0008】
また、前記履物は、前記親指を除く四指に対応する中底に形成され、当該四指を持ち上げる持上部をさらに備えていることが好ましい。
この場合は、親指を除く四指が持上部により持ち上げられることによって、四指の隣接する各指間の隙間を広げることができる。これにより、前述のように親指の第1部位を凹部内に下げた状態であっても、四指によって安定した状態で履用者の体重を支持することができる。
【0009】
また、前記持上部は、前記四指の各上端を結ぶ直線を略水平にするために、前記四指の人差し指から小指に向かって徐々に高く形成されていることが好ましい。
この場合は、持上部により持ち上げられた四指の各上端を結ぶ直線が略水平になるため、四指に対して履用者の体重負荷を略均等に作用させることができる。これにより、四指によってさらに安定した状態で履用者の体重を支持することができる。
【0010】
また、前記持上部には、前記四指の中指と薬指との隙間に対応する中底に、当該隙間を広げるための突出部が形成されていることが好ましい。
この場合、突出部によって中指と薬指との隙間が広がるため、人差指及び中指からなる二指一組と、薬指及び小指からなる二指一組とによって、それぞれ履用者の体重負荷を受けることができる。これにより、さらに安定した状態で履用者の体重を支持することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の履物によれば、親指に作用する履用者の体重負荷を軽減することができるとともに、親指を自然と内反させた状態にすることができるため、外反母指による足の痛みを十分に緩和しつつ、外反母趾の症状を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る履物の中底を示す平面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1のB−B断面図である。
【図4】図1のC−C断面図である。
【図5】(a)は図1のD−D断面図、(b)は図1のE−E断面図、(c)は図1のF−F断面図である。
【図6】図1のG−G断面図である。
【図7】前記履物を履く前における足の状態を示す図面代用写真である。
【図8】前記履物を履いた足の状態を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。図1は本発明の一実施形態に係る履物の左足側の中底を示す平面図であり、図2は図1のA−A断面図である。図1において、本実施形態の履物である靴1の中底3は、足fの親指f1に対応する領域に形成された凹部31と、この凹部31に隣接して形成された押付部32と、親指f1を除く四指f2〜f5に対応する領域に形成された持上部33と、を備えている。ここで、「中底」とは、履物内部の底面に位置するものを意味し、前記底面に敷かれる中敷も含まれる。
【0014】
凹部31は、図1の平面視において、親指f1の母趾球f1aから指先にかけての第1部位に対応する領域に形成されている。凹部31の足長方向(指先から踵にかけての方向)の断面形状は、図2に示すように、親指f1の腹側の形状に沿って形成されている。より詳しくは、凹部31のうち、親指f1の母趾球f1aに対応する部分が最も深く窪んでおり、親指f1の腹部f1bから指先に向かうにしたがって、これらに対応する部分が徐々に浅く形成されている。
【0015】
押付部32は、図1の平面視において、母趾球f1aの踵側に隣接する第2部位に対応する領域に形成されており、当該第2部位を押し付けて、その反動により前記第1部位を凹部31内に下げるようになっている。第2部位への押付力は、足fを水平面上に置いたときに、水平面が第2部位を自然と押し付ける力よりも強い力に設定されている。
【0016】
また、第1部位が下がるのは、押付部32による押し付けが第2部位と第1部位とを繋ぐ腱(母趾外転筋)に作用することによって、第1部位が自然と下がることを利用したものである。押付部32の足長方向の長さLは約18mm、足幅方向の長さWは約50mmに設定されている。押付部32の足長方向の断面形状は、図2に示すように、凹部31から踵側に向かって徐々に高くなる傾斜面として形成されている。
【0017】
図3は、図1のB−B断面図であり、押付部32の足幅方向の断面形状は、図3に示すように、外側(図3の左側)から中央部分にかけて略平坦に形成されており、内側(図3の右側)の端部は上方に突出している。
【0018】
持上部33は、図1の平面視において、人差し指f2、中指f3、薬指f4及び小指f5の各指先から、これら四指f2〜f5の付け根部分とその踵側の周辺部分に対応する領域に形成されている。
【0019】
図4は、図1のC−C断面図である。持上部33の足長方向の断面形状は、図4に示すように、踵側(図4の左側)から四指f2〜f5の指先(図4の右側)に向かって徐々に高くなる傾斜面として形成されている。これにより、持上部33は、四指f2〜f5を持ち上げるようになっている。その持上力は、足fを水平面上に置いたときに、水平面が四指f2〜f5を自然と押し付ける力よりも強い力に設定されている。
【0020】
図5の(a)は図1のD−D断面図、(b)は図1のE−E断面図、(c)は図1のF−F断面図である。図5(a)〜(c)において、持上部33の足幅方向の断面形状は、凹部31から連続する傾斜面として形成され、人差し指f2から小指f5に向かって徐々に高く形成されている。持上部33の傾斜角度は、図5(a)に示すように、四指f2〜f5の各背側の上端を結ぶ直線Xが略水平となるように設定されている。
【0021】
図6は、図1のG−G断面図である。持上部33には、図6に示すように、中指f3と薬指f4との隙間に対応する領域に突出部33aが形成されている。この突出部33aは、中指f3と薬指f4との隙間を広げるようになっている。
【0022】
以上のように構成された本実施形態の靴1によれば、親指f1の母趾球f1aから指先にかけての第1部位に対応する中底3に凹部31が形成されているため、親指f1に作用する履用者の体重負荷を軽減することができ、足fの痛みを緩和することができる。また、中底3に形成された押付部32により、母趾球f1aの踵側に隣接する第2部位が押し付けられ、その反動により第1部位が凹部31内に下がるため、親指f1は外反した状態から元の正常な状態に近づくように自然と内反した状態となる。これにより、外反母趾の症状を改善することができるとともに、親指f1が靴1の側壁部に当たるのを抑制することができるため、足fの痛みをさらに緩和することができる。
【0023】
また、親指f1を除く四指f2〜f5は、持上部33により持ち上げられるため、四指f2〜f5の隣接する各指間の隙間を広げることができる。これにより、親指f1の第1部位を凹部31内に下げた状態であっても、四指f2〜f5によって安定した状態で履用者の体重を支持することができる。
【0024】
また、持上部33により持ち上げられた四指f2〜f5の各背側の上端を結ぶ直線Xが略水平になるため、四指f2〜f5に対して履用者の体重負荷を略均等に作用させることができる。これにより、四指f2〜f5によってさらに安定した状態で履用者の体重を支持することができる。
【0025】
また、持上部33に形成された突出部33aによって、中指f3と薬指f4との隙間を広げることができるため、人差指f2及び中指f3からなる二指一組と、薬指f4及び小指f5からなる二指一組とによって、それぞれ履用者の体重負荷を受けることができる。これにより、さらに安定した状態で履用者の体重を支持することができる。
【0026】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、履物として靴を例示したが、サンダル、草履、足袋、下駄又はスリッパなどの履物にも適用することができる。
【0027】
図7及び図8は、上記実施形態の靴を履く前の状態と履いた状態とにおける足の外反母趾の変化について、比較検証を行った結果を示すものである。図7は、靴を履く前の足の状態を示す図面代用写真であり、図8は、靴を履いた足の状態を示す図面代用写真であり、この写真の靴は、足を観察し易いように中底のみとしている。
【0028】
図7の足は、親指が外反した状態、すなわち親指の指先が小指側に反り、親指の付け根部分が「く」の字状に曲がって足幅方向内側(図7の左側)に突出した状態となっていることが分かる。
【0029】
一方、図8の親指は、図7と比較すると、付け根部分の足幅方向内側への突出が抑制されており、外反母趾の症状が改善していることが分かる。また、図8の親指を除く四指は、図7と比較すると、隣接する各指間の隙間が広がっていることが分かる。特に、中指と薬指との隙間の広がりは、図7における隙間よりもかなり広がっていることが分かる。
【符号の説明】
【0030】
1 靴(履物)
3 中底
31 凹部
32 押付部
33 持上部
33a 突出部
f1 親指
f1a 母趾球
f2 人差し指
f3 中指
f4 薬指
f5 小指
X 直線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親指の母趾球から指先にかけての第1部位に対応する中底に形成され、親指に作用する履用者の体重負荷を軽減するための凹部と、
前記母趾球の踵側に隣接する第2部位に対応する中底に形成され、当該第2部位を押し付けてその反動により前記第1部位を前記凹部内に下げるための押付部と、を備えていることを特徴とする履物。
【請求項2】
前記親指を除く四指に対応する中底に形成され、当該四指を持ち上げる持上部をさらに備えている請求項1に記載の履物。
【請求項3】
前記持上部は、前記四指の各上端を結ぶ直線を略水平にするために、前記四指の人差し指から小指に向かって徐々に高く形成されている請求項2に記載の履物。
【請求項4】
前記持上部には、前記四指の中指と薬指との隙間に対応する中底に、当該隙間を広げるための突出部が形成されている請求項3に記載の履物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−105926(P2012−105926A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259047(P2010−259047)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(506284049)
【Fターム(参考)】