説明

工作機械のクーラント供給装置

【課題】生産性や作業性を悪化させたり、コスト上昇を招いたりすることなく、クーラントのオーバーフローに対応できる工作機械のクーラント装置を提供する。
【解決手段】クーラントタンク12は、該クーラントタンク12からオーバーフローしたクーラントを流入させ、かつ流入したクーラント量に応じて容積が膨張する可変容積部20を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クーラントをワーク加工部に吐出し、該吐出されたクーラントを回収貯留し、該貯留されたクーラントを前記ワーク加工部に供給する工作機械のクーラント供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械においては、ワークの加工精度の向上や、工具の寿命延長を図る等のために、ワーク加工部にクーラントを供給するクーラント供給装置を備えている。この種のクーラント供給装置では、ワーク加工部に供給したクーラントを回収するとともに貯留するクーラント貯留部と、該貯留部内のクーラントをワーク加工部に供給する供給部とを備えたものが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、近年においては、排出される二酸化炭素やエネルギーの削減を図ることが要請されている。この要請に伴って、工作機械においては、必要な加工能力を保持しつつ機械全体の小型化を図ることが要請されている。
【0004】
この工作機械の小型化によりクーラント貯留部も小さくなるが、この場合でも加工能力に応じたクーラント容量を確保する必要がある。このため、例えば、加工ラインを構成する各々の工作機械のクーラント貯留部を最小限の容量とし、複数の工作機械に共通で、かつ容量の大きい補助タンクを別途設け、各工作機械のクーラント貯留部に回収されたクーラントをポンプにより前記補助タンクに搬送し、該補助タンクのクーラントを別のポンプによりワーク加工部に供給することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−136973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、クーラントをポンプによりクーラント貯留部から補助タンクを介して加工部に、又は直接に加工部に供給するクーラント循環系統を構成した場合、切り屑等の進入によってポンプが作動不良を起こすと、クーラント貯留部は容量に余裕がないことから、クーラントがオーバーフローして床に溢れ出るおそれがある。このようなオーバーフローが生じると、機械を一旦停止してクーラントを除去する必要があり、生産性,作業性が悪化するという問題が生じる。
【0007】
前記クーラントのオーバーフローを防止するには、ポンプの故障検知システムを設けて機械の運転を制御することが考えられるが、煩雑なシステムとなることから設備コストが上昇するという問題が生じる。
【0008】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、生産性や作業性を悪化させたり、コスト上昇を招いたりすることなく、クーラントのオーバーフローに対応できる工作機械のクーラント供給装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、ワークの加工部にクーラントを吐出するクーラント吐出部と、該吐出されたクーラントを回収するとともに貯留するクーラント貯留部と、該貯留部内のクーラントを前記クーラント吐出部に供給するクーラント供給部とを備えた工作機械のクーラント供給装置であって、
前記クーラント貯留部は、該クーラント貯留部からオーバーフローしたクーラントを流入させ、かつ流入したクーラント量に応じて容積が変化する可変容積部を備えていることを特徴としている。
【0010】
ここで本発明におけるクーラント供給部は、クーラント貯留部のクーラントをクーラント吐出部に直接供給し、又は別個に設けられた補助タンクを介してクーラント吐出部に供給する。
【0011】
また、本発明のクーラント貯留部は、工作機械のベッド内等に配設され、落下してくクーラントを貯留するもの、又は工作機械の側部に配設され、クーラントを補助的に貯留するものの何れであっても良い。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1に記載の工作機械のクーラント供給装置において、
前記可変容積部は、容積が拡縮自在な袋状部材と、該袋状部材内に空気を供給する空気供給部とを有し、前記クーラント貯留部からオーバーフローしたクーラントの流入により前記袋状部材の容積が拡大し、かつ前記空気の供給により、前記流入したクーラントが前記クーラント貯留部に排出されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明に係るクーラント供給装置によれば、クーラント貯留部からオーバーフローしたクーラント量に応じて容積が変化する可変容積部を設けたので、例えば何らかの原因で供給部が作動不良を起こした場合にも、床に溢れ出ることなくクーラントを一時的に溜めておくことができる。これにより、機械を止めてクーラントを除去するといった作業を回避でき、生産性,作業性の悪化を防止できる。
【0014】
またクーラントがオーバーフローすると可変容積部に自動的に流入するので、煩雑な故障検知システムを設ける必要はなく、コストの上昇を抑制できる。
【0015】
さらに前記可変容積部は、オーバーフローしたクーラントが流入したときに膨張し、流入前は収縮しているので、通常の運転時の設置スペースの拡大は僅かで済む。
【0016】
請求項2の発明では、可変容積部を、拡縮自在な袋状部材と、空気供給する空気供給部を有する構成としたので、クーラント貯留部に流入したクーラントを空気の供給によりクーラント貯留部に簡単に戻すことができる。
【0017】
また前記クーラントをクーラント貯留部に戻した後、空気の供給を停止することにより可変容積部を収縮させることが可能であるので、オーバーフロー時の復帰作業を短時間でかつ容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例1によるクーラント供給装置を備えたマシニングセンタの側面図である。
【図2】前記クーラント供給装置の平面図である。
【図3】前記マシニングセンタの加工ラインの模式構成図である。
【図4】本発明の実施例2によるクーラント供給装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0020】
図1ないし図3は、本発明の実施例1による工作機械のクーラント供給装置を説明するための図である。
【0021】
図において、1は横型マシニングセンタ(工作機械)を示している。このマシニングセンタ1は、図3に示すように、所定間隔aをあけて並列に、かつ互いに背面同士が所定間隔bをあけて対向するように直列に配置されている。
【0022】
前記各マシニングセンタ1は、機械正面A側から見て、ベッド2の手前側に配設されたテーブル3と、前記ベッド2の奥側に立設されたコラム4と、該コラム4にサドル5を介して支持された主軸頭6と、該主軸頭6に回転自在に支持された主軸7とを備えている。
【0023】
このマシニングセンタ1では、前記テーブル3にワークWを搭載するとともに、前記主軸7に切削工具Tを装着し、ワークW及び切削工具Tを所定の加工プログラムに基づいてそれぞれX軸,Y軸,Z軸方向に相対移動させることにより前記ワークWに切削加工が施される。
【0024】
前記マシニングセンタ1は、クーラントを吐出供給することにより、ワークWと切削工具Tとの加工ポイントを冷却するとともに、発生する切り屑を落下させて回収するクーラント供給装置10を備えている。
【0025】
このクーラント供給装置10は、ワークWの加工ポイントにクーラントを吐出する吐出ノズル(クーラント吐出部)11と、前記加工ポイントに吐出供給されたクーラントを自然落下により回収するとともに貯留するクーラントタンク(クーラント貯留部)12と、該クーラントタンク12内のクーラントを後述する補助タンク15を介して前記吐出ノズル11に循環供給する搬送ポンプ(クーラント供給部)13とを備えている。
【0026】
前記クーラントタンク12は、前記ベッド2の上方に開口する開口部(不図示)内に配置され、クーラントを貯留するタンク本体12aと、該タンク本体12aに続いてコラム4の背面側に延び、ここから斜め上方に立ち上がる傾斜部12bとを有する。
【0027】
また前記クーラントタンク12内には、クーラントとともに回収された切り屑を排出するチップコンベア17が配設されている。このチップコンベア17は、複数のプーリ17a,17aに帯板状のベルト17bを巻回した構造を有する。このベルト17b上に落下した切り屑は、前記傾斜部12bの排出口12cから不図示の回収バケットに排出される。
【0028】
前記クーラントタンク12の傾斜部12bの機械背面側への突出量は最小限に抑えられており、これにより機械全体の前後長の小型化が図られている。
【0029】
また前記マシニングセンタ1は、加工能力を保持しつつ小型化を図るために、ベッド2の高さ寸法の縮小化が行われている。このベッド2の縮小化に伴ってクーラントタンク12の高さ寸法も小さくなっている。この場合、加工能力に対応したクーラント容量は確保する必要があることから、不足分を補うために、補助タンク15を備えている。この補助タンク15は、図3に示すように、例えば横型マシニングセンタ3台に1つの割合で設置されている。なお、補助タンクの設置数は、機械数あるいはクーラントの必要容量等に応じて適宜設定することとなる。
【0030】
前記補助タンク15内には供給ポンプ18が配置されている。この供給ポンプ18は、補助タンク15内のクーラントを供給ホース18aを介して前記吐出ノズル11に供給するように構成されている。
【0031】
また前記搬送ポンプ13は、クーラントタンク12内のクーラントを搬送ホース13aを介して前記補助タンク15に搬送するように構成されている。
【0032】
そして前記クーラントタンク12及び補助タンク15は、それぞれオーバーフローしたクーラントが流入し、該流入したクーラント量に応じて容積が膨張する可変容積部20,20を備えている。
【0033】
この各可変容積部20は、略同一構造のものであり、可撓性を有する拡縮自在な袋状部材21と、該袋状部材21内に空気を供給することにより流入したクーラントを排出する空気供給部22とを有する。
【0034】
前記袋状部材21は、側面視で蛇腹状をなしており、内部は隔壁21aにより複数の貯留室21bに画成されている。各貯留室21bは互いに連通しており、上流端の貯留室21bには流入口21cが開口している。流入口21cから流入したクーラントは各貯留室21b内をジグザグ状に流れるようになっている(図2の実線の矢印参照)。
【0035】
前記各袋状部材21の流入口21cは、前記クーラントタンク12,補助タンク15に形成されたオーバーフロー孔12d,15dに接続されている。
【0036】
前記空気供給部22は、前記袋状部材21の下流端の貯留室21bに接続された供給口22aと、該供給口22aに開閉可能に装着された蓋22bとを有する。この蓋22bを取り外して供給口22aから高圧空気を供給することにより、貯留室21b内のクーラントは流入口21cからタンク内に戻される(図2の破線の矢印参照)。ここで、図1は、袋状部材21の収縮状態を模式的に示しており、図2は、袋状部材21の膨張状態を模式的に示している。
【0037】
例えば、搬送ポンプ13が何らかの原因で作動不良を起こすと、クーラントの補助タンク15への搬送が止まることから、クーラントタンク12内のクーラント液面が上昇し、クーラントがオーバーフロー孔12dから袋状部材21内に流入する。この流入により各貯留室21bは流入したクーラント量に応じた容積に膨張する。一方、供給ポンプ18が作動不良を生じた場合には、クーラントタンク12からのクーラントにより補助タンク15内の液面が上昇し、クーラントがオーバーフロー孔15dから袋状部材21内に流入する。
【0038】
このように本実施例によれば、クーラントタンク12及び補助タンク15に、オーバーフローしたクーラント量に応じて容積が膨張する可変容積部20を設けたので、前述のようにポンプ13,18が作動不良を起こした場合にも、床に溢れ出ることなくクーラントを回収することができる。これにより、全ての機械を止めてクーラントを除去するといった作業を行う必要はなく、生産性,作業性の悪化を防止できる。
【0039】
またクーラントがオーバーフローすると可変容積部20に自動的に流入するので、煩雑な故障検知システムを設ける必要はなく、コストの上昇を抑制できる。
【0040】
さらに前記可変容積部20は、オーバーフローしたクーラントが流入したときに該流入量に応じて膨張するので、通常の運転時には収縮させた状態でコンパクトに格納することができ、設置スペースが拡大することはない。
【0041】
本実施例では、前記可変容積部20を、拡縮自在な袋状部材21と、空気を供給することにより流入したクーラントを排出する空気供給部22とを有するものとしたので、オーバーフローしたクーラントをクーラントタンク12,補助タンク15に簡単に戻すことができる。この場合、工場に既設の高圧空気をそのまま利用できるので、コスト上昇を防止できる。
【0042】
またクーラントを戻すと同時に可変容積部20を収縮させて格納することができ、オーバーフロー時の復帰作業を短時間でかつ容易に行うことができる。
【0043】
なお、前記実施例では、クーラントタンクに補助タンクを設けた場合を例に説明したが、本発明は、クーラントタンクのみを設けたクーラント供給装置にも適用できる。
【実施例2】
【0044】
図4(a),(b)は、本発明の実施例2によるクーラント供給装置を説明するための図である。図中、図1と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0045】
本実施例の可変容積部20′を構成する可撓性を有する拡縮可能な袋状部材21′は、クーラント流入前は大略渦巻き状に巻かれた状態となっている。
【0046】
そしてクーラントタンク12のオーバーフロー孔12dからクーラントが袋状部材21′に流入すると、該流入するクーラント量に応じて袋状部材21′が帯状に延びることで容積が膨張することとなり、前記実施例1と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0047】
1 マシニングセンタ(工作機械)
10 クーラント供給装置
11 吐出ノズル(クーラント吐出部)
12 クーラントタンク(クーラント貯留部)
13 搬送ポンプ(クーラント供給部)
20,20′ 可変容積部
21,21′ 袋状部材
22 空気供給部
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの加工部にクーラントを吐出するクーラント吐出部と、
該吐出されたクーラントを回収するとともに貯留するクーラント貯留部と、
該貯留部内のクーラントを前記クーラント吐出部に供給するクーラント供給部とを備えた工作機械のクーラント供給装置であって、
前記クーラント貯留部は、該クーラント貯留部からオーバーフローしたクーラントを流入させ、かつ流入したクーラント量に応じて容積が変化する可変容積部を備えていることを特徴とする工作機械のクーラント供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載の工作機械のクーラント供給装置において、
前記可変容積部は、容積が拡縮自在な袋状部材と、該袋状部材内に空気を供給する空気供給部とを有し、前記クーラント貯留部からオーバーフローしたクーラントの流入により前記袋状部材の容積が拡大し、かつ前記空気の供給により、前記流入したクーラントが前記クーラント貯留部に排出されることを特徴とする工作機械のクーラント供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−111723(P2013−111723A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262045(P2011−262045)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】