説明

工作機械

【課題】焼嵌め方式で工具を交換すると主軸に許容できない熱変位を与える。
【解決手段】スピンドル2は、主軸の先端に焼嵌めに適する焼嵌めホルダ8を取付固定する。工具交換装置1は、工具搬送装置10と高周波誘導加熱装置20とを含む。工具搬送装置10と高周波誘導加熱装置20は、工具を交換するときにスピンドル2まで前進する。高周波誘導加熱装置20は、焼嵌めホルダ8まで加熱コイル22を移動させて焼嵌めホルダ8だけを高周波誘導加熱によって高速加熱し工具を挿入後に冷却装置30で冷却する。工具を取り付けるときは、工具を吸引すると同時に工具を解放しセンタピンで位置を規制することによって軸心に真直に保持されるようにされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動工具交換装置を備えた工作機械に関する。より詳しくは、主軸の先端に取付固定される焼嵌めホルダを高周波誘導加熱によって局部的に加熱し焼嵌めホルダを加熱膨張させ、工具を挿入して主軸に工具を取り付ける方式の工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
自動工具交換装置(ATC)を備えた工作機械では、スピンドルヘッドが工具を自動的に着脱できる構造を有していることが要求される。一般的な工具交換システムは、予め工具が取り付けられているホルダを工具マガジンに準備しておき、工具搬送装置によって選択的にスピンドルヘッドまで搬送し、主軸にホルダを嵌入して装着するようにされている。多くの自動工具交換システムでは、主軸の先端にホルダを受け入れるテーパソケットが形成され、テーパソケットにホルダを挿嵌しドローバを作動させて固定する“プルスタッド方式”が採用されている。
【0003】
近年、焼嵌め方式の工具取付方法の技術が進歩し焼嵌めによる工具の取付けがより容易になったことによって、焼嵌め方式の工具取付方法がより多く用いられるようになってきている。例えば、特許文献1に示されるような高周波誘導加熱による方法を利用すると、局部的にホルダを加熱することができ数秒で工具を装着可能な状態にすることができる。焼嵌め方式は、工具がホルダに精度よく強固に取り付けられるので、高速回転領域でのダイナミックバランスに優れ、プルスタッド方式に比べてスピンドルヘッドの構造がより簡単にできる利点がある。
【0004】
しかしながら、焼嵌め方式は、焼嵌めに適する材料でなる焼嵌めホルダを加熱して工具を取り付けるので、工具を焼嵌めホルダに取り付ける時間がかかる。また、焼嵌めホルダの工具取付穴が膨張したままでは工具が焼嵌めホルダに固定されないので焼嵌めホルダを冷却する必要があり、冷却には相当の時間がかかる。そのため、自動工具交換装置を備えた工作機械で焼嵌め方式の工具取付方法を用いる場合、数多くの工具を焼嵌めホルダに取り付けて準備しておく手間と時間を要する不利な点がある。
【0005】
特許文献2に示されるように、自動で工具を焼嵌めホルダに取り付けながら工具交換装置のマガジンに焼嵌めホルダを供給する工具交換システムが考えられている。この工具交換システムによると、作業者が工具を焼嵌めホルダに取り付ける手間をなくすとともに段取りから工具の交換までに要するトータルの時間を大幅に短縮することができる。しかしながら、主軸に焼嵌めホルダを取り付けるときの取付強度と誤差に限界があり、加工精度や高速回転性能に対する要求が高くなるにつれて、主軸に焼嵌めホルダをチャッキングする構成では十分に対応しきれなくなる。また、工具をホルダに取り付ける段取り時間をさらに短縮し作業効率を向上させることが望まれている。
【0006】
特許文献3に示されるように、主軸に工具取付穴を形成し焼嵌めによって主軸に直接工具を取り付ける主軸装置が考えられている。この主軸装置は、焼嵌め方式で工具を主軸に直接取り付けるので、工具をホルダに取り付ける作業を不要にして段取り時間を短縮することができるとともに、主軸に強固に正確に工具を取り付けることができる。また、ホルダを不要にして構成を簡単にし、かつコストを低減することができる。また、特許文献4に示されるように、熱膨張率の低い凸状ホルダを主軸の先端に取付固定し、凸状ホルダと嵌合する予め工具を取り付けた凹状ホルダを焼嵌めによって凸状ホルダに取り付けるとともに、工具を取り付けたホルダを高速加熱および高速冷却手段を設けた工具のクランプ装置が知られている。このクランプ装置によると、加熱および冷却時間を短縮することができるとともに、主軸に強固に正確にホルダを取り付けることができる。
【0007】
【特許文献1】特開2003−25158号公報
【特許文献2】特開2005−118888号公報
【特許文献3】特開2000−343306号公報
【特許文献4】特許第2912401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
焼嵌めによって主軸に直接工具を取り付ける方式は、主軸を直接加熱するので、主軸に熱影響を大きく及ぼして無視できない変位を生じさせる。また、主軸を加工可能な状態にするまでに主軸を十分に冷却するためには相当の冷却時間を要する。しかも、繰返し主軸を加熱したり冷却したりすることによって主軸に回復不能の熱変形を生じさせ加工精度を低下させたり、スピンドルの寿命を短くするおそれがある。一方、凸状ホルダに凹状ホルダを取り付ける方式は、主軸を直接加熱しないので熱変位の影響を受けにくい利点があるが、予め工具を取り付けておくホルダが必要であるとともに、そのホルダに予め工具を取り付けておく段取り作業が要求され作業効率が上がらない不利な点がある。
【0009】
本発明は、改良された焼嵌め方式の自動工具交換装置を備えた工作機械を提供することを目的とする。より具体的には、主軸に及ぼす熱影響がより小さく主軸が熱変位をしにくく、かつ予め工具をホルダに取り付けておく必要がない自動工具交換装置を備えた工作機械を提供する。その他の本発明によって享受できる利点は、追って詳細に説明される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、自動工具交換装置を備えた工作機械において、主軸の先端に取付固定され工具を保持する焼嵌めホルダと、焼嵌めホルダまで移動して焼嵌めホルダを高周波誘導加熱によって局部的に加熱する高周波誘導加熱装置と、を備える。
【0011】
より具体的には、焼嵌めホルダまで移動するために高周波誘導加熱装置を鉛直方向に往復移動させる移動装置と、高周波誘導加熱装置を水平1軸方向に往復移動させる移動装置を備える。また、高周波誘導加熱装置は、焼嵌めホルダを加熱する加熱コイルと、加熱コイルに高周波電流を供給する高周波電源装置と、を含んでなる。
【0012】
好ましくは、焼嵌めホルダを冷却する圧力空気を供給する冷却装置を備える。また、焼嵌めホルダの工具取付穴に挿入される工具を吸引する吸引装置を備える。また、焼嵌めホルダの工具取付穴から取り外される工具を空気によって押し出す吐出装置を備える。また、焼嵌めホルダおよび主軸を貫通して鉛直方向に進退可能に設けられ焼嵌めホルダの工具取付穴に挿入される工具のシャンク端面に軸心1点で接触して工具の突出量を規定するセンタピンを備える。
【0013】
また、工具を保持するポットと、前記ポットを鉛直方向に往復移動させる移動装置と、ポットを水平1軸方向に往復移動させる移動装置と、複数の工具を配置しておく工具ラックと、工具ラックから工具を選択的に取り出してポットに引き渡す工具引渡装置と、を含んでなる工具搬送装置を備える。さらに、上記ポットから突き出された工具の突出長を測定する測定装置を備える。そして、焼嵌め装置の工具取付穴に挿入される工具を吸引する吸引装置を備え、測定装置によって測定された工具の突出長に基づいて工具が所定距離を置いて焼嵌めホルダの開口に位置するようにポットを鉛直方向に往復移動させる移動装置を上昇させて位置決めしてから吸引装置を作動させて工具取付穴に工具を捕捉させ、その直後にポットを鉛直方向に往復移動させる移動装置を下降するように構成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、焼嵌め方式で主軸に工具を取り付けるから芯振れやガタの発生がより小さくされ、主軸を高速回転させる場合でも高い加工精度を得ることができる。そして、主軸の先端に取付固定された焼嵌めホルダを外側から加熱するので、主軸に直接熱影響を及ぼさず、主軸に与える熱変位は可能な限り小さくされる。また、高周波誘導加熱により焼嵌めホルダのみを局部的に加熱できるから、加熱時間と冷却時間が短くされ、焼嵌めホルダ以外の部位に及ぼす熱影響がより小さい。そして、予め工具をホルダに取り付けておく必要がなく、段取り作業に要する時間を短縮するとともに、焼嵌めホルダの数は可能な限り少なくされ、コストが低減される効果を奏する。
【0015】
高周波誘導加熱装置を焼嵌めホルダまで移動するために高周波誘導加熱装置を鉛直方向に往復移動させる移動装置と高周波誘導加熱装置を水平1軸方向に移動させる移動装置を備える構成であるときは、必要以外のときは高周波誘導加熱装置、特に加熱コイルを邪魔のない位置に待避させておくことができ、工具交換時の作業性に優れる。また、高周波誘導加熱装置が焼嵌めホルダを加熱する加熱コイルと高周波電源装置を含んでなる構成であるとき、1MHz〜3MHzの高周波電流を供給でき焼嵌めホルダのみ局部的に加熱して焼嵌めホルダを工具が挿入できる状態にできるので、数秒程度で工具を挿入可能にでき焼嵌めホルダの温度が必要以上高温にならないようにできるとともに主軸を直接加熱することがない。そのため、加熱時間が短く工具交換に要する時間を短くし、かつ主軸に与える熱影響をより小さくする効果を奏する。また、冷却時間も短縮することができ、さらに工具交換に要する時間を短縮できる効果を有する。
【0016】
焼嵌めホルダを冷却する圧力空気を供給する冷却装置を備える場合は、焼嵌めホルダの冷却時間を十数秒程度にすることができ、工具交換に要する時間をより短くする。また、焼嵌めホルダの工具取付穴に挿入される工具を吸引する吸引装置を備える場合は、交換アームによって工具を工具取付穴の内部まで挿入する必要がなく、工具交換装置の構成と動作をより簡単にするとともにより高精度に工具を装着することができる。また、焼嵌めホルダの工具取付穴から取り外される工具を空気によって押し出す吐出装置を備える場合は、工具が汚れてホルダに引っ掛かるおそれがあるときでも工具をより確実に焼嵌めホルダから取り外すことができる。また、焼嵌めホルダの工具取付穴に挿入される工具のシャンク端面に軸心1点で接触して工具の突出量を規定するセンタピンを備える場合は、焼嵌めホルダの工具取付穴の穴縁面に工具のシャンクを当接して位置決めする必要がないので、工具に対する焼嵌めホルダの設計と製作をより容易にするとともに、工具が主軸に対して確実に真直に取り付けられる。
【0017】
工具ラックから工具を取り出して工具を据え置いて搬送し焼嵌めホルダの工具取付穴に工具を挿入させる工具搬送装置を備える場合は、高度なロボットシステムを必要としないで簡単かつ確実に工具を搬送して焼嵌めホルダの工具取付穴に挿入させることができる。したがって、工具交換装置の占有する面積が比較的小さくコンパクトで、構成が簡単、かつコストが低減される効果を奏する。
【0018】
工具のポットからの突出長を測定して工具と焼嵌めホルダとの間を常に所定距離離した位置に配置してから工具を吸引して工具取付穴に捕捉させ、工具を離して吸引力で工具取付穴に挿入させる構成であるときは、工具の全長にばらつきがあっても工具が焼嵌めホルダに衝突したり、離れすぎて吸引できないおそれがなく、確実に工具を工具取付穴に捕捉させることができる。そして、工具が解き放された状態で吸引されるので工具が曲がることなく真っ直ぐに挿入される。その結果、工具が工具取付穴に引っ掛かったり、曲がって取り付けられるおそれがなく、より確実に取付穴に挿入される。その結果、工具交換に失敗するおそれが殆どなく、優れた作業効率を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1ないし図4は、本発明の好適な実施の形態を示す。図1は、自動工具交換装置を備えた工作機械の全体構成を示す。図1に示される工作機械は、同時3軸方向にエンドミルのような工具と被加工物を相対移動して被加工物を任意の形状に切削加工する切削加工機である。図1では、機体の部分を斜めに切断して内部が見える状態にされており、斜線で示される部位は切断面である。図2は、工具交換装置の詳細を示す。図3および図4は、加工ヘッドに設けられるスピンドルの構成を示す。特に、図3は、焼嵌めホルダに工具が取り付けられていない状態を示し、図4は、焼嵌めホルダに工具が取り付けられるときの状態を示す。図5は、測定装置の測定部位を示す。
【0020】
図1に示される工作機械の本機は、自動工具交換装置1を備える。自動工具交換装置1は、図4に示される工具Tを交換するとき以外は、加工領域の外に待避される。工具Tを回転可能に保持するスピンドル2は、ビーム3の上側にX軸方向に移動可能に設置されたスライダ4の下面に固定される加工ヘッドに設けられる。テーブル5は、ベッド6にY軸方向に移動可能に設置される。被加工物をZ軸方向に往復移動させるスライダ7は、テーブル5に固定される。
【0021】
実施の形態の軸送り装置は、スライダ4を独立して機体の上側に配置して加工ヘッドをX軸方向にのみ移動可能にしているので、加工ヘッドの振動と変位が小さく主軸2Aの回転軸心の真直性を高精度に維持する点で有利である。また、焼嵌め方式による工具取付方法では、工具Tと焼嵌めホルダ8の工具取付穴との間隙が殆どないので、主軸2Aの回転軸心の真直性が高精度に維持されていることは、工具Tを工具取付穴に挿入するときに有利である。したがって、実施の形態の工作機械の構造にはいくつかの利点があるが、焼嵌め方式の工具交換装置を備える工作機械としても適している。
【0022】
図2に詳しく示される自動工具交換装置1は、基本的に、工具搬送装置10と高周波誘導加熱装置20を備える。また、自動工具交換装置1は、焼嵌めホルダ8を冷却する圧力空気を供給する冷却装置30を有する。冷却装置30は、高周波誘導加熱装置20に設けられる。また、自動工具交換装置1は、図3および図4に示されるように、焼嵌めホルダ8の工具取付穴8Aに挿入される工具Tを吸引する吸引装置40を有する。吸引装置40は、焼嵌めホルダ8の工具取付穴8Aから取り外される工具Tを空気によって押し出す吐出装置を兼用する。そして、自動工具交換装置1は、焼嵌めホルダ8および主軸2Aを貫通して鉛直方向に進退可能にスピンドルに設けられるセンタピン50を有する。センタピン50は、図4に示されるように、焼嵌めホルダ8の工具取付穴8Aに挿入される工具TのシャンクTAの端面TBに軸心1点で接触して工具Tの突出量Lを規定する。
【0023】
工具搬送装置10は、図2に示されるように、工具Tを保持する2つのポット11と、ポット11を鉛直方向(Z軸方向)に往復移動させる移動装置(Z軸第1キャリッジ)1Aと、ポット11を水平1軸方向(V軸方向)に往復移動させる移動装置1Bと、複数の工具を配置しておく工具ラック12と、工具ラック12から工具Tを選択的に取り出してポット11に引き渡す工具引渡装置13と、を含んでなる。工具引渡装置13は、クランパ14と、クランパ14を鉛直方向(Z軸方向)に移動させる昇降装置1Cと水平1軸方向(U軸方向)に移動させる移動装置(U軸キャリッジ)1Dを含む。なお、ポット11は、供給する工具Tを保持する供給ポット11Aと取り外した工具Tを保持する排出ポット11Bとでなるが、ポット11を1つにすることが可能である。ただし、2つのポット11を設けることによって工具Tの取外しと工具Tの取付けをポット11がスピンドル2の下側に位置している状態で連続して行なうことができるから、工具交換の時間をより短くする点で有利である。
【0024】
なお、高周波誘導加熱装置20は、先端がリング状に形成される加熱コイル22と、加熱コイル22に高周波電流を供給する発振機24および図示しない電源部位とを含む高周波電源装置と、を含んでなる。このような構成の高周波誘導加熱装置は、1MHz〜3MHzの高周波電流を供給することができる。焼嵌めホルダの材質と大きさに依存するが、シャンク径がφ2mm〜5mm程度の工具を取付可能な工具取付穴を有するステンレス鋼またはオーステナイト鋼の焼嵌めホルダで、1.8MHz以上の高周波電流を供給して加熱すると、ばらつきなく工具を挿入可能に工具取付穴を確実に拡径できるが、周波数が1.2MHz以下の高周波電流を供給して焼嵌めホルダを加熱したときは、焼嵌めホルダが十分に熱膨張せず工具を工具取付穴に挿入できないことがあることが確認されている。
【0025】
実施の形態で示される高周波誘導加熱装置20と熱膨張率が高いステンレス鋼やオーステナイト鋼でなる焼嵌めホルダとによる焼嵌め方式では、焼嵌めホルダ8が局部的に加熱され他の部材よりも先に膨張して工具を取り付けることできる状態になる。その時間は数秒程度あり、したがって、他の周辺の部材に熱影響が及ぶ前に加熱を停止し工具を取り付けることができる。そのため、実施の形態の工作機械は、主軸2Aに対して熱影響を与えにくく熱変位を小さくできる。また、加熱時間が短時間であることから、焼嵌めホルダ8の温度が必要以上に高くならず、主軸2Aを含むスピンドル2の全体に及ぼす熱影響はさらに小さくされ、仮に熱変位が生じても実質的に問題にならない最小限の範囲内に抑えられる。同時に、冷却時間も短くできるので、工具交換に要する時間を短縮できる点で有利である。
【0026】
自動工具交換装置1は、鉛直方向(Z軸方向)に往復移動させる移動装置(Z軸第2キャリッジ)1Eと高周波誘導加熱装置10を水平1軸方向(V軸方向)に移動させる移動装置(V軸第2キャリッジ)1Fを備える。各移動装置は、高周波誘導加熱装置10を前進後退させる。各移動装置は、焼嵌めホルダ8を加熱するときは、所定の制御シーケンスに従い動作して高周波誘導加熱装置10を移動させ、焼嵌めホルダ8を加熱する位置まで加熱コイル22を上昇させる。また、高周波誘導加熱装置10には、冷却装置30が併設されており、焼嵌めホルダ8を冷却するときは、焼嵌めホルダ8を下降させて待避させた状態で焼嵌めホルダ8の近傍に位置するように冷却装置30を上昇させる。このように、各移動装置は、焼嵌めホルダ8を加熱および冷却するとき以外は、高周波誘導加熱装置10と冷却装置30を作業の邪魔にならない加工領域の外に位置させておくことができる。
【0027】
図3および図4に示されるように、実施の形態のスピンドル2は、エアスピンドルである。主軸2Aには、主軸2Aと一体的にタービン2Bが形成されている。主軸2Aの回転時は、圧縮空気を導入口2Cから導入してタービン2Bを回転させる。焼嵌めホルダ8は、焼嵌めに適する材質でなる。一方、主軸2Aは軽量化し得る材質であることが好ましい。また、好ましくは、焼嵌めホルダ8と主軸2Aとの間に断熱材を設ける。焼嵌めホルダ8は、使用できなくなったときは主軸2Aから取り外して新しい焼嵌めホルダ8と交換する。
【0028】
ピストン2Dは、主軸2Aを貫通して焼嵌めホルダ8の工具取付穴8Aまで達するセンタピン50を前進後退させる。センタピン50を下降させるときは、工具Tを工具取付穴8Aに挿入して焼嵌めホルダ8Aに固定保持させるときである。したがって、ピストン2Dは、工具を交換するときにポート2Dから圧縮空気を導入して下降される。ピストン2Dの下側端部に主軸2A内を気密にするためのOリングが設けられているので、ピストン2Cが押し下げられると、主軸2Aのテーパ端にOリングが圧接され主軸2Aを停止させる。タービン2Bとハウジングとの間に10μm程度のエアギャップが形成され実質的に摺動抵抗がないので、導入口2Cからの圧縮空気の供給を停止してもタービン2Bは慣性で回転し続ける。主軸2Aが回転していると工具の交換ができないが、実施の形態の構成は、工具交換時にピストン2Dが下降しブレーキを兼用して主軸2Aの回転を停止させることができる。
【0029】
ピストン2Dが主軸2Aに圧接するとき、主軸2Aとピストン2Dを貫通する空間を気密にする。したがって、吸引装置4で上記空間内の空気を吸引している間に工具Tが僅かな隙間をもって工具取付穴8Aに挿入されたとき、上記空間は徐々に気圧が低下して真空に近付き、そのために下側から把持装置で押し入れることなく工具Tは容易に工具取付穴8Aに挿入される。加工中は、ポート2Fから圧縮空気を導入しポート2Eから空気を排気してピストン2Dを上昇させる。ピストン2Dが押し上げられると、センタピン50が引き上げられるとともに主軸2Aが回転可能な状態にされる。なお、実施の形態のスピンドル2は、ピストン2Dの側面にスケールを有し検出器2Gによって回転数を検出できるように構成される。
【0030】
図1に示される実施の形態の工作機械は、洗浄装置9を備える。洗浄装置9は、加工領域の側方に配置される。洗浄装置9は、揮発性の洗浄液を焼嵌めホルダ8または工具Tに噴射する。焼嵌めホルダ8を洗浄するときは、加工ヘッドを相対移動してスピンドル2の主軸2Aの先端に取付固定された焼嵌めホルダ8または工具Tを洗浄装置9の中に位置させてから、スピンドル2を作動して焼嵌めホルダ8または工具Tを所定の回転数で回転させた状態で洗浄液を噴射させる。焼嵌め方式の場合、焼嵌めホルダ8が500℃程度の高温に加熱されるので、切り粉や油分が固着して工具Tが挿入できなくなるおそれがある。そのため、使用後の工具Tや焼嵌めホルダ8を洗浄しておくことによって、自動工具交換を中断しなければならない事態を回避できる。また、焼嵌めホルダ8の寿命をより長くすることができる。
【0031】
図5に示される測定治具(ストッパ)60を含む測定装置は、供給ポット11Aから突き出された工具Tの突出長Δを測定する。ストッパ60の位置と焼嵌めホルダ8の先端位置とは同じ高さに設定されている。測定装置は、ストッパ60と工具Tとの接触を検出する図示しない検出装置と、ポット11をZ軸方向に往復移動させるZ軸第1キャリッジ1Aの位置を検出する位置検出装置を含む。工具Tの突出長Δを測定するときは、Z軸第1キャリッジ1Aを移動させ、供給ポット11Aを上昇させることによって当接させて工具Tとストッパ60との接触を検出する。工具Tとストッパ60との接触が検出されたら、Z軸第1キャリッジ11Aの移動を停止させて、そのときの位置を検出する。そして、初期位置と検出された位置との差によって突出長Δを得ることができる。
【0032】
次に、本発明の自動工具交換装置を備えた工作機械の工具交換時の動作について説明する。既にスピンドル2に工具9が取り付けられている状態で工具交換を行なうとき、所定の制御シーケンスに従って加工を中断させ、シャッタ1Gを開放する。工具交換装置1は、工具引渡装置13を作動させ昇降装置1CとU軸キャリッジ1Dによってクランパ14を移動させて、工具ラック12から新しい工具を引き抜く。そして、新しい工具を供給ポット11に引き渡す。なお、高度な制御システムによって交換する工具を任意に取り出せるようにすることができるが、実施の形態は、所定の順番で取り出すようにしている。
【0033】
一方、スピンドル2では、この間にピストン2Bを押し下げてセンタピン50を下降させている。また、ピストン2Bによって主軸の回転が停止されている。したがって、スピンドル2は、工具を交換できる状態にされている。このとき、高周波誘導加熱装置20は、加熱コイル22の環状部位が排出ポット11Bと同軸上の位置にあるように移動されている。
【0034】
工具を供給ポット11に入れた後、図示しない測定機構で工具の突出長Δを測定する。具体的には、Z軸第1キャリッジ1Aを移動させて供給ポット11を上昇させ、工具の後端部位を工具ラック12から工具を掴むクランパ14の横に設けられているストッパ60に当接させる。ストッパ60と焼嵌めホルダ8との先端部位までの距離は固定であるので、ストッパ60に当接したときのZ軸方向の位置を検出することによって突出長Δを測定することができる。工具を引き渡して工具の突出長Δを測定した後に、クランパ14は、初期位置に戻される。
【0035】
工具は、大きいときでミリメートルオーダのシャンクのばらつきを有しているので、新しい工具と焼嵌めホルダ8とを常に同じ高さで近付けるようにしていると、工具を焼嵌めホルダ8に取り付けるときに焼嵌めホルダ8と工具Tとの位置が近付きすぎたり離れすぎたりする。工具Tと焼嵌めホルダ8とが離れ過ぎていると吸引すると工具を吸い上げることができず、逆に近付きすぎるとシャンクTAと焼嵌めホルダ8との開口部位とが衝突するおそれがある。そのため、好ましくは、工具を焼嵌めホルダ8に取り付ける工程を行なう前に、上記突出長Δを測定して、より確実に工具を焼嵌めホルダ8に取り付けることができるようにする。
【0036】
次に、供給ポット11に工具を入れた状態でV軸第1キャリッジ1Bを移動させ、排出ポット11Bを主軸2Aと同軸上の位置に前進させる。このとき、工具搬送装置10の設けられている高周波誘導加熱装置20も同時に前進する。続いて、Z軸第2キャリッジ1Eを移動させて加熱コイル22の環状コイル部位がホルダ8を囲繞する位置まで高周波誘導加熱装置20を上昇させるとともに、Z軸第1キャリッジ1Aを移動させて排出ポット11Bの中に焼嵌めホルダ8に嵌め込まれている使用済の工具Tの先端部分が入るようにする。
【0037】
そして、高周波誘導加熱装置20の高周波電源装置を所定時間投入して焼嵌めホルダ8を加熱する。焼嵌めホルダ8が熱膨張し工具取付穴8Aが拡径すると、工具Tと工具取付穴8との間に僅かに隙間ができ、工具Tは自由落下して排出ポット11Bに受け止められる。このとき、吸引装置(吐出装置)40を作動させて圧縮空気を工具取付穴8に吹き出す。したがって、工具に付着した切り粉などによって工具が引っ掛かり、工具が取り外せなくなることを防止する。工具搬送装置10は、一旦Z軸第1キャリッジ1Aを移動させて排出ポット11Bを下降しておく。また、Z軸第2キャリッジ1Eを移動させ加熱コイル22の環状部位が焼嵌めホルダ8から抜けるまで高周波誘導加熱装置20を下降させる。引き続き、V軸第1キャリッジ1Bを移動させて供給ポット11Aが焼嵌めホルダ8の工具取付穴8Aと同軸上に位置するまで前進させる。
【0038】
次に、Z軸第1キャリッジ1Bを上昇させて供給ポット11Aを焼嵌めホルダ8の工具取付穴8Aの直下に移動させる。このとき、測定装置によって測定された工具の突出長Δに基づいて工具が所定距離を置いて焼嵌めホルダ8の開口に位置するように供給ポット11Aを位置決めする。その後、吸引装置40を作動させてシャンクTAを捕捉させる。なお、実施の形態における上記所定距離(焼嵌めホルダとシャンク端部との隙間)は、具体的には、0.1〜0.2mmの特定の値に設定されている。工具取付穴8Aに工具TのシャンクTAが入るとほぼ同時ないしは直後にZ軸第1キャリッジ11を移動させて供給ポット11Aを下降させる。そうすると、工具Tは工具取付穴8Aに吸い込まれ引き上げられるが、工具Tは、供給ポット11Aによる拘束が解放され自由な状態であるから、工具Tと工具取付穴8Aとの僅かな隙間は維持され真っ直ぐに引き上げられる。そのため、工具Tと工具取付穴8Aとの隙間が殆どないような状態でも工具Tが倒れて工具取付穴8Aに引っ掛かることがない。したがって、実施の形態は、自動工具交換における失敗のおそれがなく、優れた作業効率を得る利点がある。
【0039】
このとき、焼嵌めホルダ8の工具取付穴8Aにセンタピン50が突出しており、吸い上げられる工具Tは、そのシャンクTAの端面TBに軸心1点でセンタピン50に当たって止まり、確実に規定の突出量Lで取り付けられる。したがって、工具交換時に工具の突き出し量を調整することが不要である利点がある。また、このとき、仮に工具TのシャンクTAの端面8Bが焼嵌めホルダ8の工具取付穴8Aの穴縁面8Bに面接触で当接したとすると、シャンクTAの端面TBと穴縁面8Bが完全に水平でない限り、端面TBと穴縁面8Bの平行度に従って工具Tが傾く。しかしながら、工具Tは、工具取付穴8Aのセンタピン50と点接触で位置決めされるので、工具Tは工具取付穴8Aに真直に位置決めされ、その結果、軸心に対して真直に取り付けられる効果を有する。
【0040】
次に、冷却装置30を作動させて、焼嵌めホルダ8に圧縮空気を噴射して焼嵌めホルダ8を工具Tが完全に締付固定されるまで冷却する。実施の形態の自動工具交換装置は、主軸2Aに工具Tを直接取り付けず焼嵌めホルダ8のみ加熱すること、高周波誘導加熱によって焼嵌めホルダ8を短時間局部的に加熱することで工具を取り付ける状態にできること、などの特徴を有するので、常温まで冷却する必要がない。そのため、焼嵌めホルダ8の冷却は、常温の圧力空気を所定時間吹き付けることで十分である。もっとも、低温の気体や冷却液によって冷却すれば、より短時間で焼嵌めホルダ8を冷却することができるが、実施の形態の構成は、冷却装置の構成を簡単にできるとともに冷却工程を簡素化する点で有利である。
【0041】
上述したプロセスでは、使用済の工具を焼嵌めホルダ8から取り外すときに焼嵌めホルダ8を加熱し、焼嵌めホルダ8が膨張している間に新しい工具を工具取付穴8Aに挿入するようにしている。しかしながら、新しい工具を取り付けるときに、加熱コイル22を焼嵌めホルダ8まで上昇させて再度短時間加熱してから工具を取り付けるようにしてもよい。
【0042】
工具Tが焼嵌めホルダ8Aに締付固定されたら、冷却装置30を停止させるとともにZ軸第2キャリッジ1Eを移動させて高周波誘導加熱装置20を下降させ、加熱コイル22を焼嵌めホルダ8から離す。そして、V軸第1キャリッジ1Bを移動させて工具搬送装置10と高周波誘導加熱装置20を排出ポット11Bにある回収した工具をクランパ14が把持できる位置まで後退させる。そして、工具引渡装置13を動作させて排出ポット11Bにある工具を引き抜き、工具ラック12の空き位置に戻す。
【0043】
以上のプロセスは、数十秒で行なわれる。この時間は、従来の高速の自動交換装置に比べると若干時間を要しているが、そのような自動工具交換装置を備えた工作機械では、高速回転性能と高精度加工を達成することが困難である。したがって、高速回転スピンドルを有し高精度の加工が要求される切削加工機においては、数十秒の工具交換時間は極めて短いものである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、精密加工を行なう切削加工機のように工具を頻繁に交換する必要があるとともに工具を正確に取り付けて強固に保持することが要求される自動工具交換装置を備えた工作機械に適用できる。本発明は、高速回転スピンドルを有しかつ高精度の加工が要求される工作機械の進歩に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態の全体構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示される工作機械の自動交換装置を示す斜視図である。
【図3】図1に示される工作機械のスピンドルの側面から見た断面図であり、工具が取り付けられていない状態を示す。
【図4】図1に示される工作機械のスピンドルの側面から見た断面図であり、工具が取り付けられるときの状態を示す。
【図5】測定装置の測定部位を模式的に示す側面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 自動工具交換装置
2 スピンドル
3 ビーム
4 スライダ
5 テーブル
6 ベッド
7 スライダ
8 焼嵌めホルダ
9 洗浄装置
10 工具搬送装置
20 高周波誘導加熱装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動工具交換装置を備えた工作機械において、主軸の先端に取付固定され工具を保持する焼嵌めホルダと、前記焼嵌めホルダまで移動して前記焼嵌めホルダを高周波誘導加熱によって加熱する高周波誘導加熱装置と、を備えた工作機械。
【請求項2】
前記高周波誘導加熱装置を鉛直方向に往復移動させる移動装置と、前記高周波誘導加熱装置を水平1軸方向に往復移動させる移動装置を備えた請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記高周波誘導加熱装置は、前記焼嵌めホルダを加熱する加熱コイルと、前記加熱コイルに高周波電流を供給する高周波電源装置と、を含んでなる請求項1に記載の工作機械。
【請求項4】
前記焼嵌めホルダを冷却する圧力空気を供給する冷却装置を備えた請求項1に記載の工作機械。
【請求項5】
前記焼嵌めホルダの工具取付穴に挿入される工具を吸引する吸引装置を備えた請求項1に記載の工作機械。
【請求項6】
前記焼嵌めホルダの工具取付穴から取り外される工具を空気によって押し出す吐出装置を備えた請求項1に記載の工作機械。
【請求項7】
前記焼嵌めホルダおよび主軸を貫通して鉛直方向に進退可能に設けられ前記焼嵌めホルダの工具取付穴に挿入される工具のシャンク端面に軸心1点で接触して前記工具の突出量を規定するセンタピンを備えた請求項1に記載の工作機械。
【請求項8】
工具を保持するポットと、前記ポットを鉛直方向に往復移動させる移動装置と、前記ポットを水平1軸方向に往復移動させる移動装置と、複数の工具を配置しておく工具ラックと、前記工具ラックから工具を選択的に取り出して前記ポットに引き渡す工具引渡装置と、を含んでなる工具搬送装置を備えた請求項1に記載の工作機械。
【請求項9】
前記ポットから突き出された工具の突出長を測定する測定装置を備えた請求項8に記載の工作機械。
【請求項10】
前記焼嵌め装置の工具取付穴に挿入される工具を吸引する吸引装置を備え、前記測定装置によって測定された前記工具の突出長に基づいて前記工具が所定距離を置いて前記焼嵌めホルダの開口に位置するように前記ポットを鉛直方向に往復移動させる移動装置を上昇させて位置決めしてから前記吸引装置を作動させて前記工具取付穴に前記工具を捕捉させ、その直後に前記ポットを鉛直方向に往復移動させる移動装置を下降するように構成される請求項9に記載の工作機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−75904(P2007−75904A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263006(P2005−263006)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000132725)株式会社ソディック (197)
【Fターム(参考)】