説明

工具の取り付け誤差低減方法

【課題】チャックに対してコレットを最適な方位で取り付けることが可能な工具の取り付け誤差低減方法を提供する。
【解決手段】チャックとコレットとをそれらの基準方位を一致させて組み合わせた基準状態からチャックに対してコレットを回転させたときの工具の代表点が描く軌跡Ctに基づいて、チャックの基準方位に対してテーパ穴の軸線上の代表点P2が偏心している方位をチャック誤差方位として特定し、テーパ穴の代表点から基準状態における工具の代表点の方位に基づいて、コレットの基準方位に対する工具の代表点の方位をコレット誤差方位として特定し、チャック誤差方位とコレット誤差方位とが周方向に関して180°ずれるようにコレットをチャックに対して周方向に位置決めしたときに周方向の位置が揃う誤差方位マーク30A、31B、30B、31Aをチャック及びコレットのそれぞれに設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コレットとチャックとを用いた工具取り付け構造における工具の取り付け誤差を容易に低減できる方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械に工具を取り付けるための構造として、主軸に装着可能なツールホルダの先端部に、コレット取付穴としてのテーパ穴を有するチャックを配置し、そのチャックのテーパ穴にコレットを装着し、コレットの中心の工具取付穴に工具のシャンクを挿入し、コレットをチャック内に押し込むことにより、コレットを半径方向に収縮させて工具を締め付け保持する構造が広く用いられている。この種の工具取り付け構造では、工具の取り付け誤差により、工具の中心線が主軸の回転中心線からずれ、その結果、工具の振れ精度が低下することがある。振れ精度の向上策として、コレット等の構造を改良した工具取り付け構造が種々提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−296513号公報
【特許文献2】特開平9−248705号公報
【特許文献3】特開2002−239819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のチャックとコレットとを用いた取り付け構造では、コレット等の構造を改良して工具の振れ精度の改善を図っている。しかしながら、チャックのテーパ穴及びコレットの工具取付穴のそれぞれには加工誤差があり、その影響で、チャックに対するコレットの方位(周方向の位置関係)に応じて工具の振れ精度が変化する。
【0005】
そこで、本発明は、チャックに対してコレットを最適な方位で取り付けて、工具の取り付け誤差を容易に低減することが可能な工具の取り付け誤差低減方法、その誤差低減方法に適したチャックの誤差方位特定方法、及び工具の取り付け誤差を容易に低減できる工具の取り付け構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、チャック(4)のコレット取付穴(7a)にコレット(8)を押し込んで該コレットを半径方向に収縮させることにより、前記コレットの工具取付穴(8d)に挿入された工具(10)のシャンクを締め付け保持する工具取り付け構造に適用される工具の取り付け誤差低減方法であって、前記チャックと前記コレットとをそれらの基準方位(BL1、BL2の方向)を一致させて組み合わせた基準状態(図7の状態)から前記チャックに対して前記コレットを回転させたときの前記工具の代表点(P4)が描く軌跡に基づいて、前記チャックの前記基準方位(BL1)に対して前記コレット取付穴の軸線上の代表点(P2)が偏心している方位をチャック誤差方位として特定する工程と、前記コレット取付穴の前記代表点から前記基準状態における前記工具の前記代表点の方位に基づいて、前記コレットの前記基準方位に対する前記工具の前記代表点の方位をコレット誤差方位として特定する工程と、前記チャック誤差方位と前記コレット誤差方位とが周方向に関して180°ずれるように前記コレットを前記チャックに対して周方向に位置決めしたときに前記周方向の位置が揃う指標(30A、31B;30B、31A)を前記チャック及び前記コレットのそれぞれに設ける工程と、を備えるものである。
【0007】
本発明によれば、チャックとコレットとをそれらの指標が一致するように周方向に位置決めすると、チャック誤差方位とコレット誤差方位とが周方向に180°ずれる。それにより、チャックの回転軸線に対するチャックのコレット取付穴の誤差とコレットの工具取付穴の誤差とが互いに打ち消し合うようにチャックとコレットとが組み合わされる。従って、チャックに対してコレットを最適な方位で取り付けて、工具の取り付け誤差を容易に低減することができる。
【0008】
本発明の誤差低減方法の一形態において、前記チャック誤差方位を特定する工程では、前記コレットを回転させたときに前記工具上の前記代表点が描く円状の軌跡の中心点が前記チャックの前記基準方位に対して偏心する方位を前記チャック誤差方位として特定してもよい。
【0009】
本発明の他の態様は、コレット(8)が装着されるべきコレット取付穴(7a)を有するチャック(4)の回転軸線(CL0)に対する前記コレット取付穴の誤差方位を特定するチャック誤差方位特定方法であって、前記チャックと前記コレットとをそれらの基準方位(BL1、BL2の方向)を一致させて組み合わせた基準状態(図7の状態)から前記チャックに対して前記コレットを回転させたときの工具の代表点(P4)が描く軌跡に基づいて、前記チャックの前記基準方位(BL1)に対して前記コレット取付穴の軸線上の代表点(P2)が偏心している方位をチャック誤差方位として特定するものである。
【0010】
これによれば、コレットをチャックに対して回転させつつ工具の代表点の軌跡を求めるという簡単な手法によりチャック誤差方位を特定することができる。
【0011】
なお、以上の説明では本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記したが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一形態に係る誤差低減方法が適用される工具取り付け構造の一例を示す図。
【図2】図1の取り付け構造で使用されるコレットの一例を示す図。
【図3】ツールホルダの軸線、チャックにおけるテーパ穴の軸線、及びコレットにおける工具取付穴の軸線の相互間に発生する誤差の一例を示す図。
【図4】図3の誤差をモデル化して示した図。
【図5】図4のモデルに関して、コレットをチャックに対して回転させたときに工具先端が描く軌跡をX−Y平面に投影したシミュレーションの結果を示す図。
【図6】誤差方位等を求めるために使用する測定装置の一例を示す図。
【図7】コレット及びチャックに基準線を付した様子を示す図。
【図8】チャックのテーパ穴中心点及び工具先端のシャンク軸線に対する偏心量の変動、並びに傾斜を測定した結果の一例を示す図。
【図9】図7の測定装置による測定結果をX−Y平面上にプロットした一例を示す図。
【図10】簡易化された誤差低減方法の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1〜図9を参照して本発明の一形態に係る誤差低減方法を説明する。まず、図1を参照して、誤差低減方法が適用される工具の取り付け構造の一例を説明する。図1は、ツールホルダ1の先端に工具10のシャンク(以下、工具シャンクと呼ぶ。)を取り付ける工具取り付け構造の一例を示している。ツールホルダ1は、工作機械の主軸テーパ穴(不図示)に嵌め合わされるテーパ軸状のシャンク2と、そのシャンク2の大径側の端部に連なるフランジ3と、フランジ3から突出するチャック4とを備えている。チャック4は、シャンク2と同軸的に形成されたチャック本体5と、そのチャック本体5に先端面5aの側からねじ込まれるクランプナット6とを備えている。ツールホルダ1の軸線上には、チャック本体5の先端面5aに開口する中心穴7が形成されている。その中心穴7の先端部、すなわちチャック本体5の内周に相当する部分には、チャック本体5の先端面5aに向かうほど拡径するテーパ穴7aが、コレット取付穴として設けられている。
【0014】
テーパ穴7aにはコレット8が装着されている。コレット8は、テーパ穴7aに嵌り合うテーパ部8aと、先端リング部8bと、それらの間に位置する環状溝8cと、コレット8を軸線方向の全長に亘って貫通する工具取付穴8dとを備えている。さらに、図2に示したように、コレット8には、軸線方向に延びる多数のスリット8eが形成されている。図1に示したように、コレット8の環状溝8cは、クランプナット6の内周のリング6aに嵌め合わされている。それにより、クランプナット6とコレット8とは軸線方向に相対移動不能に組み合わされている。従って、コレット8のテーパ部8aをチャック4のテーパ穴7aに嵌め合わせてクランプナット6をねじ込むと、コレット8が半径方向に収縮して工具取付穴8dの内径が減少する。これにより、工具取付穴8dに挿入される工具10のシャンクがコレット8で締め付けられて保持される。
【0015】
以上のような工具取り付け構造においては、ツールホルダ1のシャンク2とチャック4のテーパ穴7aとが同軸で、かつ、コレット8の工具取付穴8dがテーパ穴7aに対して同軸に保持されていれば、工具10もシャンク2の軸線CL0と同軸に保持されるべきである。しかしながら、各部品の幾何学的誤差、あるいはコレット8を締め付けたときの変形の不均一性等に起因して各部品の軸線間で偏心や傾きが生じ、シャンク2の軸線と工具10の軸線とは一致しない。例えば、図3に示したように、シャンク2の軸線CL0に対して、チャック4のテーパ穴7aの軸線CL1が傾き、さらにテーパ穴7aの軸線CL1に対してコレット8の工具取付穴8dの軸線CL2が傾くことにより、フランジ3の前面3a(換言すればチャック4の後端面)上で軸線CL0、CL1間には偏心(軸線CL0、CL1とフランジ3の前面との交点P0、P1間の距離)δ1が生じ、コレット8の先端面8f上にて軸線CL1、CL2間に偏心(軸線CL1、CL2とコレット8の先端面との交点P2、P3間の距離)δ2が生じることがある。これにより、工具取付穴8dに装着された工具の先端はシャンク2の軸線CL0に対して振れ回り、その振れにより工作物の加工精度が悪化する。
【0016】
上述した誤差をモデル化すれば図4の通りである。フランジ3の前面とシャンク2の軸線CL0の交点P0を原点として、フランジ3の半径方向にX軸を、そのX軸と直交する方向にY軸(紙面と直交する方向)を、シャンク2の軸線方向にZ軸を取る。まず、チャック4におけるテーパ穴(以下、チャックテーパ穴と呼ぶことがある。)7aの軸線CL1とフランジ3の前面との交点P1と原点との間には偏心量δ1が存在する。図4では、便宜上、X−Z平面に交点P1を描いているが、実際には、交点P1はZ軸回りにθ1の方位を持つ。X軸の方位が偏心量δ1の方位と一致するときはθ1=0である。軸線CL1は、交点P1を基準としてZ軸回りにθ2の方位を持ち、かつZ軸方向に対してθ3の傾きを持っている。軸線CL1とコレット8の先端面8fとの交点P2は、交点P1に対して、軸線CL1と平行な方向に距離L1だけ離れた位置にある。その交点P2に対して、工具取付穴8dの軸線CL2とコレット8の先端面8fとの交点P3は、軸線CL1の回りにθ4の方位を持つ。また、交点P3は、交点P2に対して軸線CL1と直交する方向に偏心量δ2を持つ。そして、交点P3を基準として、工具取付穴8dの軸線CL2は軸線CL1の回りにθ5の方位を持ち、かつ、軸線CL1に対して軸線CL2はθ6の傾きを持っている。工具10は軸線CL2と同軸に保持される。そのため、交点P2から工具先端P4までの距離をL2とすれば、工具先端P4は、Z軸、すなわちシャンク2の軸線CL0に対してシャンク2の半径方向にδ3だけ離れた位置にある。
【0017】
図5は、上記のモデルに対して、パラメータであるθ1〜θ6、δ1、δ2及びL1、L2に具体的数値を与えつつ、コレット8をチャック4に対して回転させたときに工具先端(工具の代表点に相当。)P4が描く軌跡をX−Y平面(シャンク2の軸線CL0と直交する平面である。)に投影したシミュレーションの結果を示している。但し、θ1=40°、θ2=30°、θ3=0.005°、θ4(変数)=0〜360°、θ5=60°、θ6=0.0003°、δ1=4μm、L1(コレット8のテーパ穴7aに対する接触長さ)=20mm、δ2=7μm、L2=50mmとした。なお、距離L2は、便宜的に工具径の5倍とした。また、図5の原点はシャンク2の軸線CL0と一致させている。
【0018】
図5から明らかなように、コレット8をチャック4に対して回転させると、そのコレット8に保持された工具10の先端P4は、原点から離れた位置に中心点Pcを持つ半径Rtの円Ctを描く。中心点Pcは、図3の交点P2、つまり、チャック4におけるテーパ穴7aの軸線CL1とコレット8の先端面8aとの交点(以下、これをチャックテーパ穴中心点と呼ぶことがある。)P2である。チャックテーパ穴中心点P2がテーパ穴7aの代表点に相当する。原点から点P2までの距離δcがシャンク軸線CL0に対するチャックテーパ穴中心点P2までの偏心量を示し、原点に対する点P2の方位θcがチャックテーパ穴中心点P2の誤差方位(チャック誤差方位)である。また、コレット8を適宜の位置で停止させたときのチャックテーパ穴中心点P2から工具先端P4までのベクトルVtを考えたときに、そのベクトルVtがX軸方向となす角度θtが工具先端P4の誤差方位(コレット誤差方位)であり、ベクトルVtの長さ、つまり円Ctの半径Rtがチャックテーパ穴中心点P2に対する工具先端P4のX−Y平面上における偏心量である。
【0019】
図5において、シャンク2の軸線CL0に対する工具先端P4の振れ回りを最小限に抑えるためには、原点からの距離が最小となる円Ct上の位置P4′に工具先端P4が一致するように、コレット8をチャック4に対して周方向に位置決めすればよい。すなわち、図5の点P4に工具先端が位置しているとすれば、そこからコレット8をチャック4に対して反時計方向に角度θc(図示例では223°)だけ回転させることにより、工具の取り付け誤差を最小限に抑えることができる。以下に、その角度θcを特定して誤差を低減する方法を説明する。
【0020】
まず、図6を参照して、誤差低減方法の実施に利用する測定装置を説明する。測定装置20は、水平面上に載置されるベース21と、そのベース21に搭載されて鉛直方向の軸線CLvの回りに回転可能な回転テーブル22と、回転テーブル22に搭載された傾斜調整テーブル23とを備えている。傾斜調整テーブル23には、ツールホルダ1のシャンク2が装着可能である。また、傾斜調整テーブル23は、回転テーブル22の軸線CLvに対するシャンク2の軸線の傾きを調整可能である。ベース21上でかつ回転テーブル22の側方には、鉛直上方に延びるコラム24が設けられ、そのコラム24にはホルダ25を介して4つのマイクロメータ26A、26B、26C、26Dが鉛直方向に間隔を空けて取り付けられている。下側の2つのマイクロメータ26A、26Bは、それらのプローブ26a、26bがシャンク2の外周に接するように配置されている。下から3番目のマイクロメータ26Cは、そのプローブ26cが工具Tの下端、すなわち、コレット8の先端面8fに可能な限り近い位置と接触するように配置されている。さらに、最上位のマイクロメータ26Dは、そのプローブ26dが工具先端(コレット8の先端面8fから工具Tの直径の5倍だけ離れた位置)に接するように配置されている。つまり、マイクロメータ26Cは、チャックテーパ穴中心点P2のシャンク軸線CL0に対する振れを、マイクロメータ26Dは、工具先端P4のシャンク軸線CL0に対する振れをそれぞれ測定するように配置されている。
【0021】
以上の測定装置20においては、回転テーブル22を回転させつつ、下段のマイクロメータ26A、26Bの測定値の変動が最小となるように傾斜調整テーブル23でシャンク2の軸線の傾きを調整すれば、シャンク2の軸線CL0を回転テーブル22の軸線CLvと一致させることができる。また、シャンク2の軸線CL0を回転テーブル22の軸線CLvと一致させた状態で、チャック4に対してコレット8を回転させて上段のマイクロメータ26C、26Dで工具Tの振れを測定することができる。例えば、図7に示すように、コレット8に45°ピッチで設けられたスリット8eの一つに沿ってチャック4とコレット8とに一直線上に暫定の基準線BL1、BL2を設定し、それらの基準線BL1、BL2が周方向に関して一致する位置をマイクロメータ26C、26Dの測定開始点(0°)とする。そして、コレット8の各スリット8eがチャック4側の基準線BL1と順次一致するようにコレット8を45°ずつ回転させてマイクロメータ26C、26Dの測定値を読み取ることにより、チャックテーパ穴中心点P2及び工具先端P4のそれぞれのシャンク軸線CL0に対する偏心量を45°刻みで測定することができる。また、両マイクロメータ26C、26Dの測定値から、シャンク軸線CL0に対する工具取付穴8dの軸線CL2の傾きも求めることができる。そのようにしてチャックテーパ穴中心点P2及び工具先端P4のシャンク軸線CL0に対する偏心量の変動、並びに傾斜を測定した結果の一例を図8に示す。但し、チャックテーパ穴中心点P2の偏心量に関しては、理論上は一定であるが、マイクロメータ26Cの測定点がコレット8の先端面8fから若干離れるためにその影響で変動している。
【0022】
上記の測定結果をX−Y平面上にプロットした一例を図9に示す。但し、図9においても、原点はシャンク2の軸線CL0に相当する。以下、図9を参照して、本形態の誤差低減方法の手順を説明する。まず、チャック4とコレット8のそれぞれの基準線BL1、BL2を一致させた状態(基準状態)で、マイクロメータ26Dにより工具先端P4の基準線BL1に対する誤差方位を測定する。ここでいう誤差方位は、チャック基準線BL1に対して工具先端P4が偏心する方向を基準線BL1に対する反時計方向の角度で示した値であり、図5において基準線BL1、BL2が一致するときの角度θtに相当する。以下では、基準線BL1、BL2が一致するときの工具先端P4の誤差方位を、基準コレット誤差方位と呼ぶことがある。
【0023】
次に、チャック4に対してコレット8を回転させて45°ごとの工具先端P4の偏心量を測定し、それらの測定値から工具先端P4の位置をX−Y平面上にプロットする。但し、チャック基準線BL1をX軸正方向(=0°)に合わせる。図9から明らかなように、工具先端P4の測定値は幾らかの誤差を含むため、測定値のプロット結果を結んで得られる軌跡は必ずしも円にならない。そこで、測定値を最小二乗法で近似して円Ctを求める。そして、円Ctの原点に対する円Ctの中心点Pcの偏心量δc及び中心点Pcの方位θcを求める。方位θcは、X軸正方向を0°とし、そのX軸から原点の回りに反時計方向に測った角度である。図9の例において、偏心量δcは1.86μm、方位θcは149.08°である。ここで得られた偏心量δcがシャンク軸線CL0に対するチャックテーパ穴中心点P2の偏心量であり、中心点P2の方位θcが、チャック4の基準線BL1(図7参照)の方位(チャック4の基準方位に相当する。)に対するチャックテーパ穴中心点P2の誤差方位である。換言すれば、基準線BL1に対して反時計方向に角度θcずれた位置にチャックテーパ穴中心点P2が存在する。そのチャックテーパ穴中心点P2の基準線BL1に対する方位がチャック誤差方位である。
【0024】
以上のようにして、チャックテーパ穴中心点P2の偏心量δc及び誤差方位θcを求めたならば、チャック4上の誤差方位の位置に誤差方位マーク30Aを、その誤差方位マーク30Aから180°離れた位置に反誤差方位マーク30Bをそれぞれ設ける。マーク30A、30Bはチャック4上の指標に相当する。それらのマーク30A、30Bは、色、形状等の属性を変更することにより、視覚を通じて互いに識別可能とする。
【0025】
次に、工具先端P4の基準コレット誤差方位が判明しているので、チャックテーパ穴中心点P2からの工具先端P4の方位に基づいて、コレット8の基準線BL2の方位(コレット8の基準方位に相当する。)に対する工具先端P4の誤差方位θtを特定する。この誤差方位θtは、図3に示したコレット8の工具取付穴8dの軸線CL2とコレット先端面8fとの交点(以下、工具取付穴中心点と呼ぶことがある。)P3が、コレット8の基準線BL2に対して偏心する方向を、反時計方向を正方向として特定した角度に相当する。以下、その誤差方位をコレット誤差方位と呼ぶことがある。図9の例において、コレット誤差方位は−92.23°である。そして、コレット8上のコレット誤差方位の位置に誤差方位マーク31Aを、その誤差方位マーク31Aから180°離れた位置に反誤差方位マーク31Bをそれぞれ設ける。マーク31A、31Bはコレット8上の指標に相当する。それらのマーク31A、31Bは、色、形状等の属性を変更することにより、視覚を通じて互いに識別可能とする。
【0026】
次に、図9に矢印Rを付して示したように、チャック4の誤差方位マーク30Aとコレット8の反誤差方位マーク31Bとが一致し、チャック4の反誤差方位マーク30Bとコレット8の誤差方位マーク31Aとが一致するように、コレット8をチャック4に対して回転させる。図9の例では、コレット8を反時計方向にθb(=61.31°)回転させたときに誤差方位マーク30Aと反誤差方位マーク31Bとが一致する。それにより、チャックテーパ穴中心点P2の偏心方向と逆方向に工具取付穴中心点P3が偏心するようにコレット8がチャック4に対して周方向に位置決めされる。その結果、シャンク2の軸線CL0に対する工具先端P4の偏心量を最小化することができる。
【0027】
以上のように、本形態によれば、チャック4に関しては、チャック誤差方位の位置及びこれと周方向に180°ずれた位置にマーク30A、30Bが設けられ、コレット8に関しては、コレット誤差方位の位置及びこれと周方向に180°ずれた位置にマーク31A、31Bが設けられている。従って、チャック4の誤差方位マーク30Aとコレット8の反誤差方位マーク31Aとが合うようにコレット8をチャック4に対して周方向に位置決めするだけで、シャンク2の軸線、つまりチャック4の回転軸線の回りにおける工具先端P4の振れが最も小さくなるようにチャック4とコレット8とを組み合わせることができる。そして、複数のチャック4のそれぞれにマーク30A、30Bを、複数のコレット8のそれぞれにマーク31A、31Bを設けておけば、それらのチャック4とコレット8とをどのように組み合わせても、マーク30Aと31B、30Bと31Aとが一致するようにコレット8をチャック4に対して周方向に位置決めすれば、チャック4とコレット8との組み合わせを問わず、工具をその振れが最も小さくなるようにして取り付けることが可能である。
【0028】
なお、上記の形態では、チャック4にマーク30A、30Bを、コレット8にマーク31A、31Bをそれぞれ設けているが、チャック4又はコレット8のいずれか一方に誤差方位マークを、他方に反誤差方位マークを設けておけば、それらのマークを利用して工具の振れを最小化することが可能である。すなわち、チャック4に誤差方位マーク30Aのみを、コレット8に反誤差方位マーク31Bのみをそれぞれ設けるようにしてもよいし、チャック4に反誤差方位マーク30Bのみを、コレット8に誤差方位マーク31Aのみをそれぞれ設けるようにしてもよい。
【0029】
次に、図10を参照して、上記の形態を簡易化した誤差低減方法の一形態を説明する。但し、本形態で利用するチャック及びコレットは図1及び図2に示した通りであり、それらの構成の説明は省略する。本形態では、まず、工程1に示すように、チャック4Aの適当な位置に基準マークAを付しておく。そのチャック4Aに対してコレット8αを組み合わせ、コレット8αをチャック4Aに対して回転させつつ工具の回転中心線(上記の形態におけるシャンク軸線CL0に相当。)に対する工具先端の振れを測定し、その工具の振れが最小になる位置を特定する。そして、振れが最小となる位置でコレット8αを止めて、マークAと向かい合うコレット8α上の位置にマークαを付す。
【0030】
次に、工程2Aに示すように、チャック4Aに代えてチャック4Bを用意し、そのチャック4Bと工程1で使用したコレット8αとを組み合わせる。コレット8αをチャック4Bに対して回転させつつ、工具の回転中心線(上記の形態におけるシャンク軸線CL0に相当。)に対する工具先端の振れを測定し、その工具の振れが最小になる位置を特定する。そして、振れが最小となる位置でコレット8αを止め、そのコレット8αのマークαと向かい合うチャック4B上の位置にマークBを付す。
【0031】
一方、工程2Bに示すように、工程1で使用したコレット8αに代えてコレット8βを用意し、そのコレット8βを工程1で使用したチャック4Aと組み合わせる。コレット8βをチャック4Aに対して回転させつつ、工具の回転中心線(上記の形態におけるシャンク軸線CL0に相当。)に対する工具先端の振れを測定し、その工具の振れが最小になる位置を特定する。そして、振れが最小となる位置でコレット8βを止め、マークAと向かい合うコレット8β上の位置にマークβを付す。そして、工程3に示すように、チャック4Bとコレット8βを組み合わせる場合には、それらのマークB、βが一致するように、チャック4Bに対してコレット8βを周方向に位置決めする。これにより、コレット8βに保持された工具の振れ量を最小限に抑えることができる。
【0032】
以上のように、一対のチャック4Aとコレット8αとを基準として、工具の振れが最小となる周方向の位置を特定してこれを再現するためのマークA、αを付しておけば、それらのマークA、αが付されたチャック4A及びコレット8αの対のいずれか一方の部品を交換しても、他方の部品に付されたマークA又はαを元にして新たな部品に対応するマークB又はβを付すことにより、工具の振れ量を最小限に抑えられる周方向の位置を再現することができる。新たなマークB又はβを利用してさらに他のチャック又はコレットにマークを付しておけば、工具の振れを最小限に抑えるための指標としてのマークを他のチャック又はコレットに対して順次継承させることができる。
【0033】
本発明は上述した形態に限らず、適宜の方法でこれを実施することができる。例えば、図1の工具取り付け構造は一例に過ぎない。本発明が適用される工具取り付け構造は、チャックのテーパ穴又はストーレート穴といったコレット取付穴にコレットを押し込んでコレットを半径方向に収縮させることにより、工具のシャンクをコレットで締め付け保持する構造を有している限り、適宜に変更可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 ツールホルダ
4 チャック
4A、4B チャック
5 チャック本体
6 クランプナット
7a チャックのテーパ穴(コレット取付穴)
8 コレット
8d 工具取付穴
8α、8β コレット
10 工具
20 測定装置
30A チャックの誤差方位マーク(チャックの指標)
30B チャックの反誤差方位マーク(チャックの指標)
31A コレットの誤差方位マーク(コレットの指標)
31B コレットの反誤差方位マーク(コレットの指標)
A、B チャックのマーク(チャックの指標)
α、β コレットのマーク(コレットの指標)
BL1 チャック基準線
BL2 コレット基準線
CL0 シャンクの軸線
CL1 テーパ穴の軸線
CL2 工具取付穴の軸線
P2 チャックテーパ穴中心点(チャックの代表点)
P3 工具取付穴中心点
P4 工具先端(工具の代表点)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャックのコレット取付穴にコレットを押し込んで該コレットを半径方向に収縮させることにより、前記コレットの工具取付穴に挿入された工具のシャンクを締め付け保持する工具取り付け構造に適用される工具の取り付け誤差低減方法であって、
前記チャックと前記コレットとをそれらの基準方位を一致させて組み合わせた基準状態から前記チャックに対して前記コレットを回転させたときの前記工具の代表点が描く軌跡に基づいて、前記チャックの前記基準方位に対して前記コレット取付穴の軸線上の代表点が偏心している方位をチャック誤差方位として特定する工程と、
前記コレット取付穴の前記代表点から前記基準状態における前記工具の前記代表点の方位に基づいて、前記コレットの前記基準方位に対する前記工具の前記代表点の方位をコレット誤差方位として特定する工程と、
前記チャック誤差方位と前記コレット誤差方位とが周方向に関して180°ずれるように前記コレットを前記チャックに対して周方向に位置決めしたときに前記周方向の位置が揃う指標を前記チャック及び前記コレットのそれぞれに設ける工程と、
を備えた工具の取り付け誤差低減方法。
【請求項2】
前記チャック誤差方位を特定する工程では、前記コレットを回転させたときに前記工具上の前記代表点が描く円状の軌跡の中心点が前記チャックの前記基準方位に対して偏心する方位を前記チャック誤差方位として特定する請求項1に記載の工具の取り付け誤差低減方法。
【請求項3】
コレットが装着されるべきコレット取付穴を有するチャックの回転軸線に対する前記コレット取付穴の誤差方位を特定するチャック誤差方位特定方法であって、
前記チャックと前記コレットとをそれらの基準方位を一致させて組み合わせた基準状態から前記チャックに対して前記コレットを回転させたときの前記工具の代表点が描く軌跡に基づいて、前記チャックの前記基準方位に対して前記コレット取付穴の軸線上の代表点が偏心している方位をチャック誤差方位として特定するチャック誤差方位特定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−51071(P2011−51071A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203644(P2009−203644)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(502350504)学校法人上智学院 (50)
【出願人】(397013654)株式会社ムラキ (4)
【Fターム(参考)】