説明

干渉対物レンズ

【課題】構造を過度に複雑化することなく、干渉計部の微小な移動を可能とする干渉対物レンズの技術を提供することを課題とする。
【解決手段】干渉対物レンズ10は、複数のレンズを内部に収納し、光学装置本体に取付けられる固定筐体11と、干渉計部13の少なくとも一部を保持し、固定筐体11に対して摺動する摺動枠15と、固定筐体11に螺合する第1のピッチの雌ねじ14aと、摺動枠15に螺合する第1のピッチと異なる第2のピッチの雌ねじ14bと、を有する調整環14と、を含んでいる。固定筐体11と調整環14と摺動枠15が差動ねじ機構として機能することにより、干渉計部13を光軸AXの方向に微小に移動させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触式の三次元形状測定機の一種である白色干渉計に搭載する干渉対物レンズに関し、特に、干渉対物レンズの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元形状測定機の一種として、高い光軸方向の分解能を有し、非接触且つ高速で測定可能な白色干渉計が知られている。
【0003】
白色干渉計は、ビームスプリッタと参照ミラーからなる干渉計部を含む専用の対物レンズ(以降、干渉対物レンズと記す)を備えている。光源から射出された光をビームスプリッタで標本を照明する照明光と標本を照明しない参照光とに分割し、照明光が照射された標本からの反射光である測定光と参照ミラーのミラー面(以降、参照面と記す)を反射した参照光とを干渉させることを利用して、標本の三次元形状を測定する。より具体的には、白色干渉計は、予め干渉対物レンズの焦点面と参照面を光学的に共役な関係に配置すると合焦状態で最もコントラストの強い干渉縞が得られることを利用して、標本の三次元形状を測定する。
【0004】
このように、白色干渉計による形状測定では、焦点面と参照面の共役関係が前提であり、共役関係が崩れると合焦状態で得られる干渉縞のコントラストが低下し、正確な測定が困難となる。従って、白色干渉計では、焦点面と参照面の共役関係を維持することが非常に重要である。
【0005】
しかしながら、干渉対物レンズに温度変化が生じると、レンズが膨張または収縮することにより、予め設定した焦点面と参照面との共役関係が崩れてしまう。特に近年、高倍率で高いNAを有する白色干渉計に対する需要が増加しており、それに伴って干渉対物レンズの高倍化、高NA化も進んでいる。高倍高NAの干渉対物レンズでは、焦点深度が浅いため、小さな温度変化、即ち、極僅かな共役関係の崩れによって、コントラストの著しい低下が生じてしまう。
【0006】
このため、干渉対物レンズには、温度変化に応じて焦点面と参照面の位置関係を調整して共役関係を維持するための調整機構が求められている。これに関連する技術は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0007】
特許文献1には、切換環を回転させることで、ビームスプリッタを光軸に沿って対物レンズに対して相対移動させる移動機構を備えた干渉対物レンズが開示されている。特許文献1に開示される干渉対物レンズでは、切換環を枠に対して光軸周りに回転させることにより、枠に設けられた溝である回動規制部に沿ってピンが移動しそのピンとともにビームスプリッタが光軸方向に移動する。従って、特許文献1に開示される移動機構によれば、ビームスプリッタを移動させてビームスプリッタと参照面の間の光路長を調整することができる。このため、特許文献1に開示される構造を用いれば、温度変化が生じた場合であっても、焦点面と参照面の共役関係を維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−299210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1に開示される干渉対物レンズの移動機構には、カム機構が用いられている。カム機構は、原理的には微小な調整が可能であるという点において優れた調整機構であるが、その一方で、その実現に複雑な構造を必要とするという課題を有している。具体的には、特許文献1に開示される干渉対物レンズは、上述した移動機構を構成するために、対物レンズの枠(筐体)を二重化する必要があり、構造が複雑になってしまう。構造が複雑化すると製造コストや原価の上昇を招くといった点で、好ましくない。
【0010】
また、特許文献1に開示される干渉対物レンズでは、回動規制部として機能する溝を光軸に対して斜めに枠に形成する必要がある。フライス加工で斜めの溝を形成する場合、加工部位に比較的粗いひき目が生じることは避けがたく、その結果、溝に沿って移動するピンの移動は光軸方向に不連続なものとなってしまう。これにより、干渉縞の変化が急峻で有り、調整が行い難くなる。このような事象は、グリースなどの潤滑剤を用いることである程度の改善が可能であるが、対物レンズの高倍化、高NA化に伴って、従来に比べて微小な移動量(例えば、サブμmレベル)の調整が要求されることから、そのような対応もすでに限界に達している。
【0011】
以上のような実情を踏まえ、本発明では、構造を過度に複雑化することなく、干渉計部の微小な移動を可能とする干渉対物レンズの技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、標本側に干渉計部を備えた干渉対物レンズであって、複数のレンズを内部に収納し、光学装置本体に取付けられる固定筐体と、前記干渉計部の少なくとも一部を保持し、前記固定筐体に対して摺動する摺動枠と、前記固定筐体に螺合する第1のピッチのねじ山と、前記摺動枠に螺合する前記第1のピッチと異なる第2のピッチのねじ山と、を有する調整環と、を含む干渉対物レンズを提供する。
【0013】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の干渉対物レンズにおいて、前記干渉計部は、光源から射出された光を、前記標本を照明する照明光と前記照明光が照射された前記標本からの反射光である測定光と干渉する参照光に分割するビームスプリッタと、前記参照光を反射する参照ミラーと、を含み、前記摺動枠は、前記固定筐体に対して前記干渉対物レンズの光軸方向に摺動するように構成される干渉対物レンズを提供する。
【0014】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の干渉対物レンズにおいて、前記摺動枠は、前記調整環に螺合する第1の摺動枠と、前記第1の摺動枠に対して取外し可能に取付けられた、前記干渉計部の少なくとも一部を保持する第2の摺動枠と、を含む干渉対物レンズを提供する。
【0015】
本発明の第4の態様は、第3の態様に記載の干渉対物レンズにおいて、前記第2の摺動枠は、前記光軸周りの任意の回転位置で、前記第1の摺動枠に取付けられるように構成される干渉対物レンズを提供する。
【0016】
本発明の第5の態様は、第3の態様に記載の干渉対物レンズにおいて、前記参照ミラーの位置を前記光軸と垂直な方向に調整する芯だし機構を含む干渉対物レンズを提供する。
【0017】
本発明の第6の態様は、第2の態様乃至第5の態様のいずれか1つに記載の干渉対物レンズにおいて、前記参照ミラーは、前記光軸に垂直なミラー面を有し、前記光軸上に配置されるように構成され、前記ビームスプリッタは、前記光軸に垂直な光分割面を有し、前記光軸上に配置されるように構成される干渉対物レンズを提供する。
【0018】
本発明の第7の態様は、第1の態様乃至第6の態様のいずれか1つに記載の干渉対物レンズにおいて、前記摺動枠は、前記固定筐体に対して前記光軸周りに回転することなく前記光軸方向に摺動するように構成される干渉対物レンズを提供する。
【0019】
本発明の第8の態様は、第1の態様乃至第7の態様のいずれか1つに記載の干渉対物レンズにおいて、さらに、前記複数のレンズを前記固定筐体内で所定の姿勢で所定の位置に保持する複数の枠部材を含む干渉対物レンズを提供する。
【0020】
本発明の第9の態様は、第1の態様乃至第8の態様のいずれか1項に記載の干渉対物レンズにおいて、さらに、前記摺動枠と前記固定筐体の間に弾性体を含み、前記摺動枠は、前記弾性体により一定方向に付勢されるように構成される干渉対物レンズを提供する。
【0021】
本発明の第10の態様は、第1の態様に記載の干渉対物レンズにおいて、前記干渉計部は、光源から射出された光を、前記標本を照明する照明光と前記照明光が照射された前記標本からの反射光である測定光と干渉する参照光に分割するビームスプリッタと、前記干渉対物レンズの光軸から反れた位置に配置され、前記参照光を反射する参照ミラーと、を含み、前記固定筐体は、前記複数のレンズと前記ビームスプリッタを内部に収納し、前記光学装置本体に取付けられる第1の固定筐体と、前記参照ミラーを収納し、前記第1の固定筐体に接続される第2の固定筐体と、を含み、前記摺動枠は、前記参照ミラーを保持し、且つ、前記第2の固定筐体に対して前記参照ミラーを前記光軸と直交する方向に摺動するように構成され、前記調整環は、前記第2の固定筐体に螺合する前記第1のピッチのねじ山と、前記摺動枠に螺合する前記第2のピッチのねじ山と、を有するように構成される干渉対物レンズを提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、構造を過度に複雑化することなく、干渉計部の微小な移動を可能とする干渉対物レンズの技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1に係る干渉対物レンズの断面図である。
【図2】実施例2に係る干渉対物レンズの断面図である。
【図3A】実施例3に係る干渉対物レンズの断面図である。
【図3B】実施例3に係る干渉対物レンズの正面図である。
【図4】実施例4に係る干渉対物レンズの断面図である。
【図5】実施例5に係る干渉対物レンズの断面図である。
【図6】実施例6に係る干渉対物レンズの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0024】
図1は、本実施例に係る干渉対物レンズの断面図である。なお、図1では、干渉対物レンズの断面のうち、特徴的な機能を図示した光軸AXを中心とした片側のみが示されている。
【0025】
図1に例示される干渉対物レンズ10は、標本側に干渉計部13を備えた干渉対物レンズであって、複数のレンズ(レンズL1、レンズL2、レンズL3、レンズL4など)を内部に収納し、且つ、図示しない光学装置本体に取付けられる固定筐体11と、干渉計部13を保持し固定筐体11に対して光軸AX方向に摺動する摺動枠15と、固定筐体11に螺合する雌ねじ14aと摺動枠15に螺合する雌ねじ14bとを有する調整環14と、を含んでいる。
【0026】
固定筐体11には、固定筐体11の像側の端部に、押さえ環12に螺合される雌ねじ11cと、光学装置本体に螺合する雄ねじ11bが形成されている。さらに、固定筐体11には、調整環14に螺合される雄ねじ11aと、摺動枠15の光軸周りの回転を防止するための係止溝11dが形成されている。干渉対物レンズ10は、固定筐体11の像側の端部に形成された雄ねじ11bが顕微鏡などの光学装置本体に形成された雌ねじに螺合することにより、光学装置本体に取付けられる。
【0027】
なお、雄ねじ11a、雄ねじ11b、雌ねじ11cは、固定筐体11の外周全周または内周全周に形成されるが、係止溝11dは固定筐体11の外周中に少なくとも1箇所形成されることが望ましい。
【0028】
固定筐体11内部に収納された複数のレンズはそれぞれレンズ枠(枠部材)により固定されている。図1では、レンズL1がレンズ枠16により、レンズL2がレンズ枠17により所定の姿勢で所定の位置に保持されている様子が示されている。なお、レンズL3、レンズL4も同様にレンズ枠により保持されるが、図1ではレンズ枠の図示は省略されている。これらのレンズ枠は、レンズ間隔も規定する役割も担っている。さらに、レンズ枠間には、適宜ワッシャーなどの調整部材が配置され得る。また、固定筐体11内部には、レンズL1からレンズL4の他にもレンズが含まれているが、図1ではそれらのレンズの図示は省略されている。
【0029】
固定筐体11内部では、最も標本側のレンズ枠16が固定筐体11の凸部11eに当接し、且つ、最も像側の不図示のレンズ枠が押さえ環12により標本側に押し付けられる。押さえ環12は、固定筐体11の雌ねじ11cに押さえ環12の雄ねじ12aが螺合することにより、標本側にレンズ枠を押し付ける。これにより、固定筐体11内部のレンズ枠が凸部11eと押さえ環12により狭持され、複数のレンズの各々が所望の姿勢で所定の位置に、他のレンズと所望のレンズ間隔で保持される。
【0030】
干渉計部13は、標本側から順に、光源から射出された光を、標本を照明する照明光と、その照明光が照射された標本からの反射光である測定光と干渉する参照光とに分割するビームスプリッタとしてのハーフミラーHMと、標本と光学的に共役な位置に配置されて参照光を反射する参照ミラーRMと、を含んでいる。
【0031】
ハーフミラーHMは、光軸AX上に配置され、且つ、光軸AXに垂直な平面を有する平行平板であり、像側の平面に所望の透過率・反射率特性を有する光分割面DPが形成されている。参照ミラーRMは、光軸AX上に配置され、且つ、光軸AXに垂直な平面を有する平行平板であり、像側の平面の一部で且つ光軸AX上に参照面RPとして機能するミラーが蒸着されている。なお、参照面RPとして機能するミラーは、真空蒸着を含む種々の蒸着法による形成され得る。また、参照面RPとして機能するミラーの形成方法は蒸着に限られず、例えば、スパッタリング法など任意の方法が用いて参照面RPとして機能するミラーが形成されてもよい。
【0032】
なお、干渉計部13では、図1に例示されるように、ハーフミラーHMと参照ミラーRMの外径は同一であることが望ましく、また、摺動枠15のハーフミラーHMを保持する部分の内径と摺動枠15の参照ミラーRMを保持する部分の内径も同一であることが望ましい。ハーフミラーHMと参照ミラーRMは極めて高精度の平坦性が要求され、ハーフミラーHMと参照ミラーRMの間の平行度も極めて高い。上述したようにこれらの径を同一にすることで同一ロットで加工することができるため、ハーフミラーHMと参照ミラーRMの肉厚差のない組み合わせ、または、肉厚差が、例えばサブミクロンレベルのごく小さい組み合わせを選択することができる。また、加工工程を途中まで共通化することができるため、歩留まりの向上も期待できる。
【0033】
調整環14は、固定筐体11に螺合する雌ねじ14aと摺動枠15に螺合する雌ねじ14bとを有している。雌ねじ14aと雌ねじ14bはそれぞれ異なるピッチを有するねじ山であり、例えば、雌ねじ14aのピッチ(第1のピッチ)は0.5mmであり、雌ねじ14bのピッチ(第2のピッチ)は0.4mmである。
【0034】
摺動枠15には、調整環14の雌ねじ14bに螺合する雄ねじ15aと、固定筐体11に向かって突き出した係止ピン15bが形成されている。なお、固定筐体11に形成された係止溝11dは、係止ピン15bの光軸方向の幅が係止溝11dの光軸AX方向の幅に比べて狭くなるように、また、係止ピン15bの接線方向(紙面に垂直な方向)の幅が係止溝11dの接線方向の幅と略一致するように、形成されている。これにより、摺動枠15は、固定筐体11に対して光軸AX周りに回転することなく、光軸AX方向に摺動するように構成されている。なお、係止ピン15bは、係止溝11dと同様に、摺動枠15の外周中に少なくとも1箇所形成されることが望ましい。
【0035】
以上のように構成された干渉対物レンズ10において、固定筐体11と摺動枠15の両方に螺合されている調整環14を光軸AX周りに1回転させた場合について説明する。調整環14と固定筐体11はピッチ0.5mmのねじ山で螺合されているため、調整環14は光軸AX周りの回転により固定筐体11に対して0.5mm光軸AX方向(例えば、標本側に)に移動する。一方、調整環14と摺動枠15はピッチ0.4mmのねじ山で螺合されている。さらに、係止ピン15bが係止溝11dに嵌まって摺動枠15の光軸周りの回転が規制されている。このため、調整環14を光軸AX周りに1回転させると、調整環14は摺動枠15の周りを1回転することになり、その結果、摺動枠15は調整環14に対して0.4mm光軸AX方向に(例えば、像側に)に移動する。従って、摺動枠15は、全体としては、調整環14の移動に伴って生じる移動量0.5mmと調整環14に対する相対的な移動量0.4mmの差分の0.1mmだけ、光軸AX周りに回転することなく、固定筐体11に対して光軸AX方向(例えば、標本側に)に摺動して移動する。
なお、ここでは調整環14と固定筐体11はピッチ0.5mmのねじ山、調整環14と摺動枠15はピッチ0.4mmのねじ山で螺合されているとしたが、ピッチ0.5mmのねじ山とピッチ0.4mmのねじ山は、調整環14と固定筐体11、調整環14と摺動枠15のどちらに形成されていてもよい。また、ピッチ0.5mmのねじ山とピッチ0.4mmのねじ山のねじの切り方は、切り方の方向が両方同じであれば、右ねじ(向かって右に回すと雄ねじが進む)、左ねじ(向かって左に回すと雄ねじが進む)であってもどちらでも良い。
【0036】
このように、本実施例に係る干渉対物レンズ10では、固定筐体11と調整環14と摺動枠15がいわゆる差動ねじ機構として機能する。このため、干渉対物レンズ10は、調整環14を回転することにより、調整環14に形成されたピッチの異なるねじ山のピッチの差分だけ1回転あたりに光軸AX方向に摺動枠15を移動させることできる。即ち、差動ねじ機構を用いることで、摺動枠15に保持されている干渉計部13を固定筐体11に対して、光軸AX方向に微小に摺動させることができる。
【0037】
従って、本実施例に係る干渉対物レンズ10によれば、差動ねじ機構を用いることで、構造を過度に複雑化することなく、干渉計部13の光軸AX方向への微小な移動を実現することができる。このため、干渉対物レンズが高倍率で高いNAを有する場合であっても共役関係を適切な調整によって保つことが可能となる。
【0038】
また、本実施例に係る干渉対物レンズ10では、差動ねじ機構を用いているため、カム機構を用いた場合に加工上の制限によって生じるひきめが発生することもない。このため、本実施例に係る干渉対物レンズ10によれば、ひきめによって生じる性能の劣化という問題も生じず、調整のし難さを解消することができる。
【0039】
また、通常、ねじを用いた移動機構では、ねじ山のピッチを小さくするほど微小な移動が可能となるが、ねじ山のピッチを小さくできる範囲にも限界がある。例えば、同焦点距離45mmの対物レンズの場合であれば、ねじのピッチは、摺動に対するねじ山の耐久性や操作時のフィーリング等を考慮して0.3から0.35mm以上であることが望ましく、ピッチをそれ以下に小さくすることは上記理由により難しい。しかしながら、本実施例に係る干渉対物レンズ10によれば、差動ねじ機構を用いることで、各ねじ山のピッチを過度に小さくすることなく(ここでは、0.5mmと0.4mm)、十分に小さな摺動を実現することができる(ここでは、0.1mm)。
【0040】
また、本実施例に係る干渉対物レンズ10では、利用者が直接操作する調整環14が干渉計部13を保持する摺動枠15とは別体として構成されている。このため、利用者の体温が干渉計部13に伝わりにくく、利用者の体温に起因する共役関係の崩れを抑制することができる。
【0041】
また、本実施例に係る干渉対物レンズ10では、差動ねじ機構を用いているため、調整時に調整環14のみが光軸周りに回転し、複数のレンズが収納された固定筐体11と干渉計部13が保持された摺動枠15は光軸周りに回転しない。このため、非点収差や軸上コマ収差などの収差の変動が生じない。これにより、干渉計部13の調整状態によらず、常に、干渉対物レンズ10を最も良好な収差特性を示す状態で使用することができる。
【0042】
なお、図1では、摺動枠15がハーフミラーHMと参照ミラーRMの両方を保持する構成を例示したが、摺動枠15は干渉計部13の少なくとも一部、即ち、ハーフミラーHMまたは参照ミラーRMのいずれか一方のみを保持するように構成されてもよい。
【0043】
例えば、参照ミラーRMが固定筐体11に保持されて、ハーフミラーHMのみが摺動枠15に保持されても良い。この場合、調整環14の回転により摺動枠15とともにハーフミラーHMのみが光軸AX方向に移動することになる。このような構成によっても、同様に、干渉対物レンズ10の焦点面と参照面RPとの共役関係を調整することができる。ただし、図1に例示されるようなハーフミラーHMと参照ミラーRMの両方を摺動枠15が保持する構成の方が、ハーフミラーHMまたは参照ミラーRMの一方を摺動枠15が保持する構成に比べて、調整環14の回転量に対する光路長の変化が小さくなる。このため、微小な調整が容易となるといった点では、両方が摺動枠15に保持される構成がより望ましい。
【実施例2】
【0044】
図2は、本実施例に係る干渉対物レンズの断面図である。なお、図2では、干渉対物レンズの断面のうち、特徴的な機能を図示した光軸AXを中心とした片側のみが示されている。また、図2では、図1に例示される干渉対物レンズ10と同様の構成要素には同一符号を付している。
【0045】
図2に例示される干渉対物レンズ20の構成は、摺動枠15の代わりに、調整環14に螺合する第1の摺動枠21と干渉計部13を保持する第2の摺動枠22を含む点を除き、図1に例示される干渉対物レンズ10と同様の構成である。以降では、干渉対物レンズ10との相違点を中心に干渉対物レンズ20について説明する。
【0046】
第1の摺動枠21には、調整環14の雌ねじ14bに螺合する雄ねじ21aと、固定筐体11に向かって突き出した係止ピン21bが形成されている。雄ねじ21aは雄ねじ11aとは異なるピッチ(例えば、0.4mm)を有している。また、係止ピン21bの光軸方向の幅が係止溝11dの光軸AX方向の幅に比べて狭く、且つ、係止ピン21bの接線方向の幅が係止溝11dの接線方向の幅と略一致するように形成されている。このため、第1の摺動枠21は、図1に例示される摺動枠15と同様に、調整環14の回転により、光軸AX周りに回転することなく、雌ねじ14aと雌ねじ14bのピッチの差分だけ光軸AX方向に摺動するように構成されている。
【0047】
第2の摺動枠22は、取付部材22aにより第1の摺動枠21に対して取外し可能に取付けられている。第1の摺動枠21の摺動に伴って第2の摺動枠22も光軸AX方向に摺動するため、第2の摺動枠22は、第2の摺動枠22に保持されている干渉計部13を固定筐体11に対して、光軸AX方向に微小に摺動させることができる。
【0048】
以上のように構成された本実施例に係る干渉対物レンズ20によれば、実施例1に係る干渉対物レンズ10と同様の効果を得ることができる。即ち、固定筐体11と調整環14と第1の摺動枠21と第2の摺動枠22からなる差動ねじ機構を用いることで、構造を過度に複雑化することなく、干渉計部13の光軸AX方向への微小な移動を実現することができる。このため、干渉対物レンズ20が高倍率で高いNAを有する場合であっても焦点面と参照面RPの共役関係を適切に調整ができる。また、ひきめが発生せず調整の難しさを解消することができる点、ねじ山のピッチ以下の微小な摺動が可能である点、利用者の体温が干渉計部13に伝わりにくい点、第1の摺動枠21及び第2の摺動枠22が光軸周りに回転せず調整時に収差の変動が生じない点についても同様である。
【0049】
また、第2の摺動枠22が干渉計部13の少なくとも一部、即ち、ハーフミラーHMまたは参照ミラーRMのいずれか一方のみを保持するように構成されてもよい点についても同様である。
【0050】
さらに、本実施例に係る干渉対物レンズ20では、球面収差等の調整のためにレンズ間隔をレンズ枠間のワッシャー等の挿脱で調整する場合などにおいて、第2の摺動枠22のみを取外すことで標本側より像側に各レンズ枠を押すことができ、容易に固定筐体11内のレンズを取り出すことができる。これは、レンズを取り出すために螺合されている調整環14から摺動枠15を取外す必要がある実施例1に係る干渉対物レンズ10と比較すると、作業量、作業時間の大幅な削減が可能となる。
【0051】
また、本実施例に係る干渉対物レンズ20の構成は、干渉計部13部のみを交換したい場合にも好適である。干渉計部13の中でもとりわけ参照面RPにおいては極めて高い精度の表面性状(うねり/粗さなど)を必要とすることから他の部材に比べて歩留まりが低く不良が生じやすい。また、観察対象である標本の反射率などに応じて所望の透過率・反射率特性を持つハーフミラーHMや参照ミラーRMを使用したい場合も想定される。このような場合、干渉対物レンズ20では、第2の摺動枠22と干渉計部13のみを交換することで、所望の仕様に対応することが可能である。
【0052】
また、差動ねじ機構は、非常に高い精度での作動が要求されることから、部品加工において、一般に差動ねじの部品の1つを先ずゲージ等を基準に加工した後、加工した部品を基準として他の部品を加工する、いわゆる現物合わせによる加工が必要とされている。このため、第1の摺動枠21と第2の摺動枠22が一体に形成されていた場合には、歩留まりの低い干渉計部13や第2の摺動枠22部分に不具合があると、差動ねじ機構全体を交換しなければならないため、作業の無駄が多く、製品原価を大きく押し上げる原因となってしまう。しかしながら、干渉対物レンズ20の構成では、不具合のある部位のみを交換することが可能であるため、作業の無駄や製品原価を抑制することが可能である。
【0053】
このように、本実施例に係る干渉対物レンズ20によれば、第2の摺動枠22が第1の摺動枠21から取り外し可能な構成であることから、製造のリードタイムやコストを大きく低減することができる。
【0054】
また、第1の摺動枠21と第2の摺動枠22が別体として構成されていることで、ハーフミラーHMや参照ミラーRMを第2の摺動枠22に接着する際、特に、参照ミラーRMを接着する際、全長が長くなりすぎず、作業性が向上する。また、参照ミラーRMの表面をクリーニングする際も同様の効果を発揮する。
【0055】
また、本実施例に係る干渉対物レンズ20では、光軸AXと直交する方向から、即ち、干渉対物レンズ20の側面から挿入された取付部材22aにより、第2の摺動枠22が第1の摺動枠21に取付けられている。このため、取付部材22aの存在により干渉対物レンズ20の先端形状が制約されることがないため、先端形状の設計自由度が比較的高く、図2に例示されるように、第2の摺動枠22の形状を利用者が干渉対物レンズ20の脇から標本を視認しやすい形状にすることができる。
【実施例3】
【0056】
図3Aは、本実施例に係る干渉対物レンズの断面図である。図3Bは、本実施例に係る干渉対物レンズの正面図である。なお、図3Aでは、干渉対物レンズの断面のうち、特徴的な機能を図示した光軸AXを中心とした片側のみが示されている。また、図3Aでは、図1に例示される干渉対物レンズ10と同様の構成要素には同一符号を付している。
【0057】
図3Aに例示される干渉対物レンズ30の構成は、摺動枠15の代わりに、調整環14に螺合する第1の摺動枠31と干渉計部13を保持する第2の摺動枠32を含む点を除き、図1に例示される干渉対物レンズ10と同様の構成である。以降では、干渉対物レンズ10との相違点を中心に干渉対物レンズ30について説明する。
【0058】
第1の摺動枠31には、調整環14の雌ねじ14bに螺合する雄ねじ31aと、固定筐体11に向かって突き出した係止ピン31bと、取付部材32aが挿入される取付穴31c(タップ穴)が形成されている。雄ねじ31aは雄ねじ11aとは異なるピッチ(例えば、0.4mm)を有している。また、係止ピン31bの光軸AX方向の幅が係止溝11dの光軸AX方向の幅に比べて狭く、且つ、係止ピン31bの接線方向の幅が係止溝11dの接線方向の幅と略一致するように形成されている。このため、第1の摺動枠31は、図1に例示される摺動枠15と同様に、調整環14の回転により、光軸AX周りに回転することなく、雌ねじ14aと雌ねじ14bのピッチの差分だけ光軸AX方向に摺動するように構成されている。
【0059】
第2の摺動枠32には取付溝32bが形成されている。第2の摺動枠32は取付部材32aにより第1の摺動枠31に対して取外し可能に取付けられている。第1の摺動枠31の摺動に伴って第2の摺動枠32も光軸AX方向に摺動するため、第2の摺動枠32は、第2の摺動枠32に保持されている干渉計部13を固定筐体11に対して、光軸AX方向に微小に摺動させることができる。
【0060】
なお、干渉対物レンズ30では、第2の摺動枠32は、取付部材32aが干渉対物レンズ30の正面から光軸AXと平行に取付溝32bと取付穴31cに挿入されることにより、第1の摺動枠31に取付けられる。図3Aに例示されるように、第1の摺動枠31の取付穴31cが取付部材32aの大きさに合わせて形成されているに対して、図3Bに例示されるように、第2の摺動枠32の取付溝32bは半径方向(光軸AXに垂直な方向)に対して円周方向(光軸AXを中心)に長い溝として形成されている。干渉対物レンズ30では、取付溝32bが円周方向に円弧状の長い溝として形成されていることにより、第2の摺動枠32を光軸AX周りの任意の回転位置で第1の摺動枠31に取付けることができる。図3Bでは、約60度の回転位置に取付けられている例が示されている。
【0061】
以上のように構成された本実施例に係る干渉対物レンズ30によれば、実施例1に係る干渉対物レンズ10と同様の効果を得ることができる。さらに、干渉対物レンズ30によれば、第2の摺動枠32が第1の摺動枠31から取り外し可能な構成であることから、実施例2に係る干渉対物レンズ20と同様の理由により、製造のリードタイムやコストを大きく低減することができる。また、ミラーの接着作業やクリーニング作業などの組立作業性の向上効果を有する点についても同様である。
【0062】
さらに、干渉対物レンズ30では、第2の摺動枠32を光軸AX周りの任意の回転位置で第1の摺動枠31に取り付けることができるため、干渉計部13を固定筐体11内部の複数のレンズに対して任意に回転した位置に固定することができる。干渉計部13(ハーフミラーHMと参照ミラーRM)が回転すると、非点収差や軸上コマ収差が微妙に変化する。これを利用することにより、調整の最終段階において、非点収差や軸上コマ収差の微調整を行うことができる。
【実施例4】
【0063】
図4は、本実施例に係る干渉対物レンズの断面図である。図4では、図1に例示される干渉対物レンズ10と同様の構成要素には同一符号を付している。
【0064】
図4に例示される干渉対物レンズ40は、固定筐体11と調整環14と第1の摺動枠41と第2の摺動枠42が差動ねじ機構として機能する干渉対物レンズである。干渉対物レンズ40の構成は、参照ミラーRMの位置を光軸AXと垂直な方向に調整する芯だし機構を含む点を除き、実施例2に係る干渉対物レンズ20と同様である。
【0065】
なお、図4では、固定筐体11に形成される係止溝及び第1の摺動枠41に形成される係止ピンが省略されているが、干渉対物レンズ40は、図示しないが同様の構成を備えており、第1の摺動枠41は光軸AX周りに回転することなく光軸AX方向に摺動する。
以降では、干渉対物レンズ40の芯だし機構について説明する。
【0066】
干渉対物レンズ40では、第1の摺動枠41と第2の摺動枠42が芯だし機構として機能する。具体的には、芯だし部材(芯だし部材42a、芯だし部材42b)の螺合量を変化させることにより、参照ミラーRMの位置を調整することができる。そして、その調整後に、図2に例示される取付部材22aのような取付部材により、第2の摺動枠42が第1の摺動枠41に固定される。
【0067】
図4は、芯だし部材42aの螺合量を増やした状態を例示している。芯だし部材42aの螺合量を増やすと、第1の摺動枠41と第2の摺動枠42の間にわずかな隙間が生じる。これにより、その隙間の分だけ、参照ミラーRMを光軸AXと垂直な方向(この場合、芯だし部材42aに近づく方向)に移動させることができる。同様に、芯だし部材42bの螺合量を増やすと、第1の摺動枠41と第2の摺動枠42の間にわずかな隙間が生じる。これにより、その隙間の分だけ参照ミラーRMを光軸AXと垂直な方向(この場合、芯だし部材42bに近づく方向)に移動させることができる。芯だし部材は、例えば、円周上の4箇所に等間隔で配置されることが望ましい。
【0068】
以上のように構成された本実施例に係る干渉対物レンズ40によれば、実施例2に係る干渉対物レンズ20と同様の効果を得ることができる。
さらに、干渉対物レンズ40によれば、芯だし機構により参照ミラーRMの光軸AXと垂直な方向の位置を調整することができる。従って、参照ミラーRMの参照面RPの一部に微小なキズやピンホールがある場合でも、その領域を避けて良好な領域に参照光を照射することが可能となる。これにより、参照面RPに極めて小さい表面粗さが要求される参照ミラーRMの歩留まりを改善することができる。
【0069】
なお、干渉対物レンズの倍率が高いほど視野が狭くなり、精度が要求される参照面RPの領域も狭くなることから、高倍率の干渉対物レンズにおいて、芯だし機構は特に効果的である。
【実施例5】
【0070】
図5は、本実施例に係る干渉対物レンズの断面図である。なお、図5では、干渉対物レンズの断面のうち、特徴的な機能を図示した光軸AXを中心とした片側のみが示されている。また、図5では、図1に例示される干渉対物レンズ10と同様の構成要素には同一符号を付している。
【0071】
図5に例示される干渉対物レンズ50は、固定筐体11と調整環14と第1の摺動枠51と第2の摺動枠52が差動ねじ機構として機能する干渉対物レンズである。干渉対物レンズ50の構成は、第2の摺動枠52と固定筐体11(レンズ枠16)の間に弾性部材53を含む点を除き、実施例3に係る干渉対物レンズ30と同様である。なお、図5では、弾性部材53としてスプリングが示されている。
【0072】
以降では、弾性部材53の作用について説明する。
弾性部材53は、第2の摺動枠52と固定筐体11(レンズ枠16)の間に圧縮された状態で配置されている。このため、第2の摺動枠52は、弾性部材53により光軸AX方向(この場合、物体側)に付勢されるように構成されている。弾性部材53が第2の摺動枠52を一定方向に付勢することにより、螺合部(雄ねじ51aと雌ねじ14b、雄ねじ11aと雌ねじ14a)のガタやバックラッシュに起因する光軸方向への移動量の変動を抑制することができる。
【0073】
また、第2の摺動枠52が弾性部材53により付勢されることにより、調整環14の回転に必要な力量が変化する。このため、弾性部材53の弾性やサイズを変更して第2の摺動枠52に付勢する力を変化させることで、調整環14の回転に必要な力量を調整することが可能であり、干渉対物レンズ50の調整環14の操作性を改善することができる。
【0074】
以上のように構成された本実施例に係る干渉対物レンズ50によれば、実施例3に係る干渉対物レンズ30と同様の効果を得ることができる。
さらに、干渉対物レンズ50によれば、第2の摺動枠52が弾性部材53により付勢されることで、螺合部のガタやバックラッシュに起因する干渉計部13の光軸方向への移動量の変動を抑制することができる。また、調整環14の操作性を改善することができる。
【0075】
なお、本実施例では、弾性部材53を用いることで、螺合部のガタやバックラッシュに起因する影響の抑制と干渉対物レンズの操作性の向上を実現する例を示したが、螺合部に塗布された潤滑剤によっても同様の効果が期待できる。このため、弾性部材53と潤滑剤を併用することがさらに望ましい。
【実施例6】
【0076】
図6は、本実施例に係る干渉対物レンズの断面図である。図6では、図1に例示される干渉対物レンズ10と同様の構成要素には同一符号を付している。
【0077】
図6に例示される干渉対物レンズ60は、いわゆるマイケルソン型の干渉対物レンズであり、いわゆるミロウ型の干渉対物レンズである実施例1から実施例5に係る干渉対物レンズとは異なる構成を有している。
【0078】
干渉対物レンズ60は、標本側に干渉計部63を備えた干渉対物レンズであって、複数のレンズ(レンズL1、レンズL2、レンズL3、レンズL4など)を内部に収納し、且つ、図示しない光学装置本体に取付けられる固定筐体(固定筐体61、平行筒64)と、干渉計部63を保持し固定筐体(平行筒64)に対して摺動する摺動枠(第1の摺動枠66、第2の摺動枠67)と、固定筐体(平行筒64)に螺合する雌ねじ65aと摺動枠(第1の摺動枠66)に螺合する雌ねじ65bとを有する調整環65と、を含んでいる。
【0079】
干渉計部63は、光源から射出された光を、標本を照明する照明光と、照明光が照射された標本からの反射光である測定光と干渉する参照光に分割するビームスプリッタBSと、標本と光学的に共役な位置に配置されて参照光を反射する参照ミラーRMと、を含んでいる。
【0080】
ビームスプリッタBSは、光軸AX上に配置され、且つ、光軸AXに対して45度傾いた所望の光分割比特性を有する光分割面DPを有するビームスプリッタプリズムである。参照ミラーRMは、光軸AXから反れた位置に配置され、且つ、光軸AXに平行な参照面RPを有している。
【0081】
固定筐体は、光学装置本体に取付けられる固定筐体61(第1の固定筐体)と固定筐体61に接続される平行筒64(第2の固定筐体)とからなり、平行筒64は固定筐体61に螺合されている。なお、複数のレンズとビームスプリッタBSは、固定筐体61の内部に収納され、参照ミラーRMは、平行筒64の内部に収納されている。
【0082】
調整環65は、平行筒64に螺合する雌ねじ65aと第1の摺動枠66に螺合する雌ねじ65bとを有している。雌ねじ65aと雌ねじ65bはそれぞれ異なるピッチを有するねじ山であり、例えば、雌ねじ65aのピッチ(第1のピッチ)は0.5mmであり、雌ねじ65bのピッチ(第2のピッチ)は0.4mmである。
【0083】
摺動枠は、調整環65に螺合する第1の摺動枠66と参照ミラーRMを保持する第2の摺動枠67から構成されている。第1の摺動枠66には、調整環65の雌ねじ65bに螺合する雄ねじ66aと、平行筒64に向かって突き出した係止ピン66bが形成されている。なお、平行筒64に形成された係止溝64bは、係止ピン66bの光軸AXと紙面上で直交する方向の幅が係止溝64bの光軸AXと紙面上で直交する方向の幅に比べて狭くなるように、また、係止ピン66bの接線方向(紙面に垂直な方向)の幅が係止溝64bの接線方向の幅と略一致するように、形成されている。これにより、第1の摺動枠66は、平行筒64の軸周りに回転することなく、光軸AXと直交する方向に摺動するように構成されている。従って、第1の摺動枠66に接合された第2の摺動枠67は、第1の摺動枠66の摺動に伴って、平行筒64の軸周りに回転することなく、光軸AXと直交する方向に摺動する。
【0084】
このように、本実施例に係る干渉対物レンズ60では、平行筒64と調整環65と第1の摺動枠66がいわゆる差動ねじ機構として機能する。このため、干渉対物レンズ60は、調整環65を回転することにより、調整環65に形成されたピッチの異なるねじ山のピッチの差分だけ1回転あたりに光軸AXと直交する方向に第1の摺動枠66及び第2の摺動枠67を移動させることできる。即ち、差動ねじ機構を用いることで、第2の摺動枠67に保持されている参照ミラーRMを平行筒64に対して、光軸AXと直交する方向に微小に摺動させることができる。
【0085】
以上のように構成された本実施例に係る干渉対物レンズ60によれば、実施例1に係る干渉対物レンズ10と同様の効果を得ることができる。即ち、差動ねじ機構を用いることで、構造を過度に複雑化することなく、干渉計部63の光軸AXと直交する方向への微小な移動を実現することができる。このため、干渉対物レンズ60が高倍率で高いNAを有する場合であっても焦点面と参照面RPの共役関係を適切に調整ができる。また、ひきめが発生せず調整の難しさを解消することができる点、ねじ山のピッチ以下の微小な摺動が可能である点、利用者の体温が参照ミラーRMに伝わりにくい点、第1の摺動枠66及び第2の摺動枠67が平行筒64の軸周りに回転せず調整時に収差の変動が生じない点についても同様である。
【0086】
さらに、干渉対物レンズ60によれば、第2の摺動枠67が第1の摺動枠66から取り外し可能な構成であることから、実施例2に係る干渉対物レンズ20と同様の理由により、製造のリードタイムやコストを大きく低減することができる。
【0087】
また、干渉対物レンズ60によれば、第2の摺動枠67を平行筒64の軸周りの任意の回転位置で第1の摺動枠66に取り付けることができるため、参照ミラーRMを任意に回転した位置に固定することができる。従って、実施例3に係る干渉対物レンズ30と同様の理由により、調整の最終段階において、非点収差や軸上コマ収差の微調整を行うことができる。
【0088】
なお、干渉対物レンズ60は、参照ミラーRMのチルト機構を有していることが望ましい。なお、干渉対物レンズ60のチルト機構は、既知の任意の機構により構成されて得る。又、最も容易な方法としては、例えば、固定筐体61と平行筒64の間の当接面に10μm単位の金属箔を挿入することにより、参照ミラーRMの角度を調整してもよい。
【符号の説明】
【0089】
10、20、30、40、50、60・・・干渉対物レンズ、11、61・・・固定筐体、11a、11b、12a、15a、21a、31a、41a、51a、61b、62a、64a、66a・・・雄ねじ、11c、14a、14b、61c、65a、65b・・・雌ねじ、11d、64b・・・係止溝、11e・・・凸部、12、62・・・押さえ環、13、63・・・干渉計部、14、65・・・調整環、15・・・摺動枠、15b、21b、31b、51b、66b・・・係止ピン、16、17・・・レンズ枠、21、31、41、51、66・・・第1の摺動枠、22、32、42、52、67・・・第2の摺動枠、22a、32a、42a、52a、67a・・・取付部材、31c・・・取付穴、32b・・・取付溝、53・・・弾性部材、64・・・平行筒、HM・・・ハーフミラー、RM・・・参照ミラー、DP・・・光分割面、RP・・・参照面、BS・・・ビームスプリッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本側に干渉計部を備えた干渉対物レンズであって、
複数のレンズを内部に収納し、光学装置本体に取付けられる固定筐体と、
前記干渉計部の少なくとも一部を保持し、前記固定筐体に対して摺動する摺動枠と、
前記固定筐体に螺合する第1のピッチのねじ山と、前記摺動枠に螺合する前記第1のピッチと異なる第2のピッチのねじ山と、を有する調整環と、を含む
ことを特徴とする干渉対物レンズ。
【請求項2】
請求項1に記載の干渉対物レンズにおいて、
前記干渉計部は、
光源から射出された光を、前記標本を照明する照明光と前記照明光が照射された前記標本からの反射光である測定光と干渉する参照光に分割するビームスプリッタと、
前記参照光を反射する参照ミラーと、を含み、
前記摺動枠は、前記固定筐体に対して前記干渉対物レンズの光軸方向に摺動するように構成される
ことを特徴とする干渉対物レンズ。
【請求項3】
請求項2に記載の干渉対物レンズにおいて、
前記摺動枠は、
前記調整環に螺合する第1の摺動枠と、
前記第1の摺動枠に対して取外し可能に取付けられた、前記干渉計部の少なくとも一部を保持する第2の摺動枠と、を含む
ことを特徴とする干渉対物レンズ。
【請求項4】
請求項3に記載の干渉対物レンズにおいて、
前記第2の摺動枠は、前記光軸周りの任意の回転位置で、前記第1の摺動枠に取付けられるように構成される
ことを特徴とする干渉対物レンズ。
【請求項5】
請求項3に記載の干渉対物レンズにおいて、
前記参照ミラーの位置を前記光軸と垂直な方向に調整する芯だし機構を含む
ことを特徴とする干渉対物レンズ。
【請求項6】
請求項2乃至請求項5のいずれか1項に記載の干渉対物レンズにおいて、
前記参照ミラーは、前記光軸に垂直なミラー面を有し、前記光軸上に配置されるように構成され、
前記ビームスプリッタは、前記光軸に垂直な光分割面を有し、前記光軸上に配置されるように構成される
ことを特徴とする干渉対物レンズ。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の干渉対物レンズにおいて、
前記摺動枠は、前記固定筐体に対して前記光軸周りに回転することなく前記光軸方向に摺動するように構成される
ことを特徴とする干渉対物レンズ。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の干渉対物レンズにおいて、さらに、
前記複数のレンズを前記固定筐体内で所定の姿勢で所定の位置に保持する複数の枠部材を含むことを特徴とする干渉対物レンズ。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の干渉対物レンズにおいて、
さらに、前記摺動枠と前記固定筐体の間に弾性体を含み、
前記摺動枠は、前記弾性体により一定方向に付勢されるように構成される
ことを特徴とする干渉対物レンズ。
【請求項10】
請求項1に記載の干渉対物レンズにおいて、
前記干渉計部は、
光源から射出された光を、前記標本を照明する照明光と前記照明光が照射された前記標本からの反射光である測定光と干渉する参照光に分割するビームスプリッタと、
前記干渉対物レンズの光軸から反れた位置に配置され、前記参照光を反射する参照ミラーと、を含み、
前記固定筐体は、
前記複数のレンズと前記ビームスプリッタを内部に収納し、前記光学装置本体に取付けられる第1の固定筐体と、
前記参照ミラーを収納し、前記第1の固定筐体に接続される第2の固定筐体と、を含み、
前記摺動枠は、
前記参照ミラーを保持し、且つ、
前記第2の固定筐体に対して前記参照ミラーを前記光軸と直交する方向に摺動するように構成され、
前記調整環は、
前記第2の固定筐体に螺合する前記第1のピッチのねじ山と、
前記摺動枠に螺合する前記第2のピッチのねじ山と、を有するように構成される
ことを特徴とする干渉対物レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−104998(P2013−104998A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248372(P2011−248372)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】