平板状ヒートパイプおよびその製造方法
【課題】発熱密度の高い発熱部品の冷却に適した、最大熱輸送量が高く、高性能化した薄型の平板状ヒートパイプを提供する。
【解決手段】密閉された平板状のコンテナと、コンテナ内に配置された、折り曲げ、または、重ね合わされた積層メッシュからなるウイックと、コンテナ内に封入された作動液とを備え、ウイックの上部および下部が、コンテナの上側内壁および下側内壁によって挟まれて固定されている平板状ヒートパイプである。ウイックは、コンテナの短手方向の中央に配置され、ウイックの側面とコンテナ内部の両側壁との間に所定の空間部が設けられている平板状ヒートパイプである。
【解決手段】密閉された平板状のコンテナと、コンテナ内に配置された、折り曲げ、または、重ね合わされた積層メッシュからなるウイックと、コンテナ内に封入された作動液とを備え、ウイックの上部および下部が、コンテナの上側内壁および下側内壁によって挟まれて固定されている平板状ヒートパイプである。ウイックは、コンテナの短手方向の中央に配置され、ウイックの側面とコンテナ内部の両側壁との間に所定の空間部が設けられている平板状ヒートパイプである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ノートパソコン、電子機器等に収納されているCPU等の被冷却体例えば発熱素子、伝熱体等を冷却するための高性能で薄型の平板状ヒートパイプおよびその製造方法、特にその内部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコンを代表とする電子機器の小型化、高性能化が著しく、それに搭載されるMPU等の発熱部品を冷却するための冷却機構の小型化、省スペース化が強く望まれている。従って、ヒートパイプを用いた冷却構造の場合、そのヒートパイプの高性能化、薄型化も要求されている。
【0003】
ヒートパイプは、真空脱気した密閉金属管などの容器内の内部に、凝縮性の流体を作動流体として封入したものであり、温度差が生じることにより自動的に動作し、高温部で蒸発した作動流体が低温部に流動して放熱・凝縮することにより、作動流体の潜熱として熱を輸送する。
【0004】
即ち、ヒートパイプの内部には作動流体の流路となる空間が設けられ、その空間に収容された作動流体が、蒸発、凝縮等の相変化や移動をすることによって、熱の移動が行われる。ヒートパイプの吸熱側において、ヒートパイプを構成する容器の材質中を熱伝導して伝わってきた被冷却部品の熱により、作動流体が蒸発し、その蒸気がヒートパイプの放熱側に移動する。放熱側においては、作動流体の蒸気は冷却され再び液相状態に戻る。そして、液相状態に戻った作動流体は再び吸熱側に移動(還流)する。このような作動流体の相変化や移動によって熱の移動が行われる。
【0005】
上述した放熱部で凝縮した作動流体が吸熱部へ戻らなければ、ヒートパイプの作動は継続しない。従って、放熱部で凝縮した作動流体を速やかに吸熱部に還流させる必要がある。そこでヒートパイプの空洞部内に毛細管作用を発現するウイック(シート状ウイックやワイヤー等)を配置したり、空洞部内壁に微細な溝を形成したりする方法が知られている。
【0006】
特に扁平型ヒートパイプの場合には、蒸気流路の縮小に伴って高速化する蒸気流に抗って作動液を還流しなければならないため、毛細管力増強の目的で、空洞部内壁に微細な溝を形成したり、ウイックを配置する方法が知られている。
【0007】
図10は、特許文献1に開示された従来のウイックを備えたヒートパイプの横断面を示す斜視図である。図10に示すように、従来の扁平型ヒートパイプ100においては、気密状態に密閉されたヒートパイプコンテナ101の内部に、保持部材102によって結束された多数本の極細線104が配置されている。保持部材102は、ヒートパイプコンテナ101の長手方向に連続する螺旋状の弾性体によって形成されている。更に、ヒートパイプコンテナ101の内壁には、その長手方向に沿って多数のグルーブ103が形成されている。
【0008】
図11は、特許文献2に開示された従来の他のウイックを備えたヒートパイプの横断面である。図11に示すように、矢印方向に扁平加工されたヒートパイプ110のコンテナ111内の中央部には、内部に空洞が形成されるように筒状に丸められたメッシュ112が配置され、メッシュ112とコンテナ111の内壁との間の空間には、多数本の極細線からなるウイック113が配置されている。発熱部品からコンテナ111に伝わった熱によって蒸発した作動液が、メッシュ112の目地から内側に流入し、内部圧力の小さい放熱側の端部に向かって流動する。即ち、メッシュ112の内部が蒸気流路になる。作動液は放熱側の端部において液相に戻り、メッシュ112の外側に配置された多数本の極細線によって蒸発部に還流する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−53186号公報
【特許文献2】特開平8−303972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1および2に開示されたように、コンテナ内に上記のようなウイックを配置するだけでは、コンテナの厚さがある値(例えば1mm)よりも薄くなると、ヒートパイプ内部の蒸気流路が十分に確保できず、蒸発部において所謂ドライアウトが生じてヒートパイプの最大熱輸送量が急激に低下し、ヒートパイプとして十分機能できないという問題がある。
【0011】
また、図9は、従来のメッシュウイックを使用したときの、ヒートパイプの厚さと最大熱輸送量(Qmax)の関係を示すグラフである。図9に示すように、コンテナ内にメッシュを配置した従来のヒートパイプにおいては、コンテナの厚さが薄くなると、最大熱輸送量が急激に低下している。しかも、ヒートパイプの厚さが約1mm程度になると、最大熱輸送量は、理論値でも15W程度であり、発熱密度の高い発熱部品の冷却には不十分であるという問題がある。
従って、この発明の目的は、発熱密度の高い発熱部品の冷却に適し、最大熱輸送量が高く、高性能化した薄型の平板状ヒートパイプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者は上述した従来の問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、金属のメッシュを折り曲げ、または、複数枚のメッシュを重ね合わせて、所定の圧縮率で圧縮し、酸化処理を施して、ウイックを形成すると、メッシュ間に生じる空隙によって積層されたメッシュ間にも毛細管圧力を発生させて、ウイック全体の毛細管圧力を向上することができ、更に、酸化処理による表面および内部処理によって、ウイック自体の毛細管圧力を向上することができることが判明した。
【0013】
また、このように形成したウイックを、ヒートパイプのコンテナの上下面によって挟み込むと、ヒートパイプの変形を機械的に防止すると共に、伝熱ブロックと同様の機能を発揮することが可能になり、発熱部品からの熱を、ウイックを介してコンテナの接触面と反対側の面に拡散させることができることが判明した。
【0014】
この発明の平板状ヒートパイプの第1の態様は、密閉された平板状のコンテナと、前記コンテナ内に配置された、折り曲げ、または、重ね合わされた積層メッシュからなるウイックと、前記コンテナ内に封入された作動液とを備え、前記ウイックの上部および下部が、前記コンテナの上側内壁および下側内壁によって挟まれて固定されている平板状ヒートパイプである。
【0015】
この発明の平板状ヒートパイプの第2の態様は、前記ウイックは、前記コンテナの短手方向の中央に配置され、前記ウイックの側面とコンテナ内部の両側壁との間に所定の空間部が設けられていることを特徴とする、平板状ヒートパイプである。
【0016】
この発明の平板状ヒートパイプの第3の態様は、前記ウイックは、複数の折り曲げたメッシュを交互に組み合わせて形成されていることを特徴とする、平板状ヒートパイプである。
【0017】
この発明の平板状ヒートパイプの第4の態様は、前記ウイックは、重ね合わされた複数のメッシュと、前記重ね合わせた複数のメッシュを覆う別のメッシュとを備えることを特徴とする、平板状ヒートパイプである。
【0018】
この発明の平板状ヒートパイプの第5の態様は、前記ウイックの空隙率が0.37以上、0.67以下であることを特徴とする、平板状ヒートパイプである。
【0019】
この発明の平板状ヒートパイプの製造方法の第1の態様は、メッシュを折り曲げ、または、重ね合わせ、所定の圧縮率で圧縮して積層メッシュを形成する工程と、前記積層メッシュに酸化・還元処理を施して、ウイックを調製する工程と、前記管状コンテナの中に、前記積層メッシュを挿入して、前記管状コンテナを扁平状に加工し、前記ウイックの上部および下部を前記管状コンテナの上側内壁および下側内壁によって挟み込んだ平板状コンテナを形成する工程と、前記平板状コンテナ内に作動液を注入し、密閉する工程とを備える平板状ヒートパイプの製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
この発明のヒートシンクによると、メッシュウイックを折り曲げ、または、複数枚のメッシュウイックを重ね合わせて、所定の圧縮率で圧縮し、酸化処理を施して、積層メッシュウイックを形成するので、メッシュ間に生じる小さな空隙によってメッシュ間にも毛細管圧力を発生させて、ウイック全体の毛細管圧力を向上することができ、更に、酸化処理による表面および内部処理によって、ウイック自体の毛細管圧力を向上することができる。
【0021】
また、このように形成したウイックを、ヒートパイプのコンテナの上下面によって挟み込むので、ヒートパイプの変形を機械的に防止すると共に、伝熱ブロックと同様の機能を発揮することが可能になり、発熱部品からの熱を接触面と反対側の面に積層メッシュウイックを介して拡散させることができる
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、この発明の平板状のヒートパイプの1つの態様を説明する断面図である。
【図2】図2は、積層メッシュウイックの形成方法を説明する断面図である。
【図3】図3は、酸化・還元処理を施されたメッシュを形成する金属細線を説明する断面図である。
【図4】図4は、各種ウイックを使用したときのそれぞれの毛細管圧力に比例する作動液の吸い上げ高さ(mm)を示すグラフである。
【図5】図5は、ウイックの空隙率と毛細管圧力に比例する作動液の吸い上げ高さ(mm)との間の関係を示すグラフである。
【図6】図6は、ヒートパイプと熱の測定点とを示すヒートパイプの縦断面図である。
【図7】図7は、この発明の積層メッシュウイックを備えたヒートパイプの測定点における温度(℃)を示すグラフである。
【図8】図8は、従来の酸化・還元処理を施し、圧縮を伴わない積層メッシュウイックを備えたヒートパイプの測定点における温度(℃)を示すグラフである。
【図9】図9は、従来のメッシュウイックを使用したときの、ヒートパイプの厚さと最大熱輸送量(Qmax)の関係を示すグラフである。
【図10】図10は、特許文献1に開示された従来のウイックを備えたヒートパイプの横断面を示す斜視図である。
【図11】図11は、特許文献2に開示された従来の他のウイックを備えたヒートパイプの横断面である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明の平板状ヒートパイプおよびその製造方法の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、この発明の平板状のヒートパイプの1つの態様を説明する横断面図である。図1に示すように、この発明の平板状ヒートパイプ1においては、丸管が扁平加工されたコンテナ2の概ね中央部に断面矩形のウイック3が、コンテナ2の上下面(上側内壁7、下側内壁8)に挟まれて配置される。なお、ウイック3は、図示しないコンテナ2の長手方向に沿って配置される。
【0024】
ウイック3は、コンテナ2の上側内壁7と下側内壁8によって挟まれて、ウイック3の上面9とコンテナ2の上側内壁7、ウイック3の下面10とコンテナ2の下側内壁8とがそれぞれ密着して、固定されている。ウイック3の両側面と、コンテナの内壁との間には、空洞部11、12が形成されている。
【0025】
この発明の平板状のヒートパイプ1においては、丸管が扁平加工されたコンテナ2の概ね中央部に、ウイック3が配置され、コンテナ2の下側には図示しない発熱部品が熱的に接続されて配置される。
【0026】
発熱部品の熱は、コンテナ2の材質中を伝わって、コンテナの内の作動液を蒸発させる。蒸発した作動液は、空洞部11、12を通って放熱側に移動する。同時に、コンテナの材質中を伝わった熱の一部は、ウイック3を伝わってコンテナ2の下側から上側、すなわち発熱部品と接触する側から反対側の壁面に移動する。よって、コンテナの反対側の壁面に向かって熱の拡散が効果的に行われる。また、コンテナの放熱部で熱を放出して液相に戻った作動液は、高い毛細管力を有するウイック3を通って、速やかに吸熱側に還流する。
【0027】
図2は、ウイック3の形状例を説明する拡大断面図である。図2(a)に示すウイックは、所定形状の複数枚のメッシュ4を積層して形成されている。図2(b)に示すウイックは、複数の折り曲げたメッシュ5を交互に組み合わせて形成されている。図2(c)に示すウイックは、複数のメッシュ4を重ね合わせ、重ね合わせた複数のメッシュ4を別のメッシュ6で部分的に覆って形成されている。図2(a)から図2(c)に示すウイックは、垂直方向に圧縮され、次いで、酸化・還元処理が施されて形成されており、毛細管圧力に優れている。
【0028】
図1に示すこの発明の平面状ヒートパイプ1は、次の製造工程を備えて製造される。
先ず、金属製、例えば銅製のシート状メッシュを折り曲げ、または、複数枚の銅製のシート状メッシュを重ね合わせる。このように折り曲げまたは重ね合わせたシート状メッシュを上下方向から圧縮して上面および下面が平らな積層メッシュを形成する。
【0029】
次いで、積層メッシュに酸化・還元処理を施して、ウイックを調製する。
次いで、断面丸形状の例えば銅製の管状コンテナの内面を酸化・還元処理した後に、前記管状コンテナの中に、上述したように形成した積層メッシュを挿入して、その状態で、管状コンテナを扁平状に加工し、ブロック状の積層メッシュの上面および下面を管状コンテナの上側内壁および下側内壁によって挟み込んだ平板状コンテナを形成する。
その後、コンテナ内に作動液としての例えば水を注入して、コンテナを密閉する。
【0030】
図3は、上述した酸化・還元処理が施されたメッシュを形成する金属細線を説明する断面図である。図3に示すように、酸化・還元処理を施すことによって、積層メッシュを形成する金属細線14には、金属芯部15の周りに金属膜部16が形成され、金属芯部15と金属膜部16の間に、毛細管圧力の高い微細間隙部17が形成される。即ち、金属芯部15と金属膜部16は、酸化・還元処理によって一体的に形成され、金属膜部16は皮状に金属芯部15の周りを覆っている。その結果、金属細線14は、その長手方向に沿って高い毛細管力を備えている。
【0031】
上述した金属細線14は、下記方法によって製造することができる。即ち、所定の温度で所定の時間、金属細線14を酸化して金属細線14の表面に酸化膜を形成し、その後、水素雰囲気下で所定の温度で所定の時間、表面に酸化膜が形成された金属細線14を還元して、金属芯部15と、金属芯部15との間で毛細管圧力の高い微細間隙部17を形成する金属膜部16とを備えた金属細線を製造する。
【0032】
酸化・還元方法の1つとして加熱による酸化・還元を用いる方法がある。例えば、先ず高温(650℃、30分程度)で金属細線14を酸化する。次いで、水素雰囲気下(550℃、10分程度)で還元する。高温で金属細線14を酸化すると、金属細線14は膨張し、元の線径よりも太くなる。次いで、水素雰囲気下で還元すると、膨張した部分を残し、金属細線14は収縮する。収縮した部分が金属細線14の金属芯部15に、膨張して残った部分が剥離したような形状を示す金属膜部16になる。このようにして形成された金属細線14の金属芯部15と、剥離したような形状の金属膜部16との間に形成された狭い間隙の微細間隙部17が、強い毛細管圧力をもたらす。
【0033】
酸化・還元方法の他の1つとして、薬品を用いた酸化がある。例えば、酢酸銅/硫酸銅/硫化バリウム/塩化アンモニウム系の処理液を用いることにより黄色又は赤色の酸化第1銅を生成する。又は、亜塩素酸ナトリウム/水酸化ナトリウム系の処理液を用いることにより、黒色の酸化第2銅を生成する。次いで、水素雰囲気下(550℃、10分程度)で還元する。
【0034】
上述したように、金属芯部と金属膜部の間に形成された微細間隙部によって液相の作動液が還流するための微細流路が形成されている。従って、金属細線は、それ自体で、外表面部に毛細管力の高い微細間隙部を備えている。
【0035】
図4は、本発明に用いられるものを含めた数種のウイックを使用したときのそれぞれの毛細管力を示すグラフである。ウイックの種類として、(A)圧縮した積層メッシュウイック(酸化・還元処理なし)、(B)圧縮、酸化・還元処理を施した積層メッシュウイック(本発明に用いられるウイック)、(C)圧縮を伴わず、酸化・還元処理を施した積層メッシュウイック(ウイックC)、および、(D)焼結金属体シートを積層したウイック(ウイックD)を使用した。縦軸には、毛細管圧力に比例する作動液の吸い上げ高さ(mm)を示している。
【0036】
この作動液の吸い上げ高さは、それぞれのウイックを縦長に形成し、下端部を作動液である水に接触させたときに、水面を基準として水が吸い上げられる高さである。
【0037】
図4に示すように、この発明の圧縮、酸化・還元処理を施した積層メッシュウイック(B)は、作動液の吸い上げ高さが120mmを超え、高い毛細管力を有していることがわかる。これに対して、酸化・還元処理を施しても圧縮を伴わないウイックCは、作動液の吸い上げ高さが80mm程度であり、毛細管力が低い。更に、焼結金属体シートを積層したウイックDにおいても、作動液の吸い上げ高さが100mm未満であり、この発明に用いられるウイックと比べると20〜30%以上低い。圧縮、酸化・還元処理を施していないウイックCは、作動液の吸い上げ高さが10mm程度であり、毛細管力が非常に低い結果となった。
【0038】
図5は、本発明に用いられるウイックの空隙率と上述した作動液の吸い上げ高さ(mm)との間の関係を示すグラフである。ここで、空隙率とは、ウイックの総体積に対する空隙部分の比を表している。図5から明らかなように、空隙率が0.67を超えて大きくなる、または、空隙率が0.37を下回ると、毛細管力に比例する作動液の吸い上げ高さ(mm)が徐々に低下している。
【0039】
図4および図5から明らかなように、本発明に用いられるウイックにおいては、空隙率が0.37から0.67の間のときに、作動液の吸い上げ高さ(mm)が120mmを超える。従って、この発明のウイックは、圧縮、酸化・還元処理によって、空隙率が0.37から0.67の間の範囲内になるように設定すると、高い毛細管圧力を備えることがわかる。酸化・還元処理を施しても圧縮を伴わない従来の積層メッシュウイック(ウイックC)は、空隙率が約0.7と大きくなり、毛細管力を大きくすることが困難である。また、焼結金属体シートを積層したウイック(ウイックD)も、空隙率が0.67を超えて大きいため、作動液の吸い上げ高さ(mm)を100mmよりも大きくすることが難しい。
【0040】
図6は、ヒートパイプと熱の測定点とを示すヒートパイプの模式図である。図6に示すように、本発明のヒートパイプは、直径が6mmの断面丸形の管状コンテナを扁平加工した中に、上述したウイックを配置したものであり、全長は150mm、厚さは1mmである。また、吸熱部の長さが40mm、断熱部の長さが20mm、放熱部の長さが85mmである。吸熱部の中心付近の測定点をT2、断熱部の中心付近の測定点をT3、放熱部の測定点をT4、T5、T6、T7、T8として、最大熱輸送量を測定した。
【0041】
図7は、この発明のウイックを備えたヒートパイプの測定点における温度(℃)を示すグラフである。熱源として、5W〜25Wを使用した。図7に示すように、この発明の平板状ヒートパイプでは、熱源22Wであっても、吸熱部の温度は約50℃であり、正常にヒートパイプが作動している。熱源が25Wになると、断熱部では依然として約50℃であるが、吸熱部の温度が70℃を超えて上昇している。すなわち、本発明の平板状ヒートパイプは、22Wまでの熱入力に対して動作が可能であることがわかる。
【0042】
図8は、本発明の平板状ヒートパイプと同様に扁平加工したコンテナの中に、従来の酸化・還元処理を施し、圧縮を伴わない積層メッシュウイックを備えたヒートパイプの測定点における温度(℃)を示すグラフである。熱源として、5W〜12Wを使用した。図8に示すように、従来の酸化・還元処理を施し、圧縮を伴わない積層メッシュウイックを備えたヒートパイプでは、熱源10Wまでは、吸熱部の温度は約50℃であるが、熱源12Wでは、吸熱部の温度が約60℃に上昇している。すなわち、従来の平板状ヒートパイプでは、10Wを超える熱入力では動作できないことが分かる。
【0043】
図7および図8から明らかなように、圧縮、酸化・還元処理を施したこの発明のブロック状メッシュウイックを備えたヒートパイプでは、従来の酸化・還元処理を施し、圧縮を伴わない積層メッシュウイックを備えたヒートパイプの2倍以上の最大熱輸送量を備えている。
【0044】
上述したように、この発明によると、発熱密度の高い発熱部品の冷却に適し、最大熱輸送量が高く、高性能化した薄型の平板状ヒートパイプを提供することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 平板状のヒートパイプ
2 コンテナ
3 積層メッシュウイック
4 メッシュ
5 折り曲げたメッシュ
6 別のメッシュ
7 コンテナの上側内壁
8 コンテナの下側内壁
9 積層メッシュウイックの上面
10 積層メッシュウイックの下面
11、12 空洞部
14 金属細線
15 金属芯部
16 金属膜部
17 微細間隙部
【技術分野】
【0001】
この発明は、ノートパソコン、電子機器等に収納されているCPU等の被冷却体例えば発熱素子、伝熱体等を冷却するための高性能で薄型の平板状ヒートパイプおよびその製造方法、特にその内部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコンを代表とする電子機器の小型化、高性能化が著しく、それに搭載されるMPU等の発熱部品を冷却するための冷却機構の小型化、省スペース化が強く望まれている。従って、ヒートパイプを用いた冷却構造の場合、そのヒートパイプの高性能化、薄型化も要求されている。
【0003】
ヒートパイプは、真空脱気した密閉金属管などの容器内の内部に、凝縮性の流体を作動流体として封入したものであり、温度差が生じることにより自動的に動作し、高温部で蒸発した作動流体が低温部に流動して放熱・凝縮することにより、作動流体の潜熱として熱を輸送する。
【0004】
即ち、ヒートパイプの内部には作動流体の流路となる空間が設けられ、その空間に収容された作動流体が、蒸発、凝縮等の相変化や移動をすることによって、熱の移動が行われる。ヒートパイプの吸熱側において、ヒートパイプを構成する容器の材質中を熱伝導して伝わってきた被冷却部品の熱により、作動流体が蒸発し、その蒸気がヒートパイプの放熱側に移動する。放熱側においては、作動流体の蒸気は冷却され再び液相状態に戻る。そして、液相状態に戻った作動流体は再び吸熱側に移動(還流)する。このような作動流体の相変化や移動によって熱の移動が行われる。
【0005】
上述した放熱部で凝縮した作動流体が吸熱部へ戻らなければ、ヒートパイプの作動は継続しない。従って、放熱部で凝縮した作動流体を速やかに吸熱部に還流させる必要がある。そこでヒートパイプの空洞部内に毛細管作用を発現するウイック(シート状ウイックやワイヤー等)を配置したり、空洞部内壁に微細な溝を形成したりする方法が知られている。
【0006】
特に扁平型ヒートパイプの場合には、蒸気流路の縮小に伴って高速化する蒸気流に抗って作動液を還流しなければならないため、毛細管力増強の目的で、空洞部内壁に微細な溝を形成したり、ウイックを配置する方法が知られている。
【0007】
図10は、特許文献1に開示された従来のウイックを備えたヒートパイプの横断面を示す斜視図である。図10に示すように、従来の扁平型ヒートパイプ100においては、気密状態に密閉されたヒートパイプコンテナ101の内部に、保持部材102によって結束された多数本の極細線104が配置されている。保持部材102は、ヒートパイプコンテナ101の長手方向に連続する螺旋状の弾性体によって形成されている。更に、ヒートパイプコンテナ101の内壁には、その長手方向に沿って多数のグルーブ103が形成されている。
【0008】
図11は、特許文献2に開示された従来の他のウイックを備えたヒートパイプの横断面である。図11に示すように、矢印方向に扁平加工されたヒートパイプ110のコンテナ111内の中央部には、内部に空洞が形成されるように筒状に丸められたメッシュ112が配置され、メッシュ112とコンテナ111の内壁との間の空間には、多数本の極細線からなるウイック113が配置されている。発熱部品からコンテナ111に伝わった熱によって蒸発した作動液が、メッシュ112の目地から内側に流入し、内部圧力の小さい放熱側の端部に向かって流動する。即ち、メッシュ112の内部が蒸気流路になる。作動液は放熱側の端部において液相に戻り、メッシュ112の外側に配置された多数本の極細線によって蒸発部に還流する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−53186号公報
【特許文献2】特開平8−303972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1および2に開示されたように、コンテナ内に上記のようなウイックを配置するだけでは、コンテナの厚さがある値(例えば1mm)よりも薄くなると、ヒートパイプ内部の蒸気流路が十分に確保できず、蒸発部において所謂ドライアウトが生じてヒートパイプの最大熱輸送量が急激に低下し、ヒートパイプとして十分機能できないという問題がある。
【0011】
また、図9は、従来のメッシュウイックを使用したときの、ヒートパイプの厚さと最大熱輸送量(Qmax)の関係を示すグラフである。図9に示すように、コンテナ内にメッシュを配置した従来のヒートパイプにおいては、コンテナの厚さが薄くなると、最大熱輸送量が急激に低下している。しかも、ヒートパイプの厚さが約1mm程度になると、最大熱輸送量は、理論値でも15W程度であり、発熱密度の高い発熱部品の冷却には不十分であるという問題がある。
従って、この発明の目的は、発熱密度の高い発熱部品の冷却に適し、最大熱輸送量が高く、高性能化した薄型の平板状ヒートパイプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者は上述した従来の問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、金属のメッシュを折り曲げ、または、複数枚のメッシュを重ね合わせて、所定の圧縮率で圧縮し、酸化処理を施して、ウイックを形成すると、メッシュ間に生じる空隙によって積層されたメッシュ間にも毛細管圧力を発生させて、ウイック全体の毛細管圧力を向上することができ、更に、酸化処理による表面および内部処理によって、ウイック自体の毛細管圧力を向上することができることが判明した。
【0013】
また、このように形成したウイックを、ヒートパイプのコンテナの上下面によって挟み込むと、ヒートパイプの変形を機械的に防止すると共に、伝熱ブロックと同様の機能を発揮することが可能になり、発熱部品からの熱を、ウイックを介してコンテナの接触面と反対側の面に拡散させることができることが判明した。
【0014】
この発明の平板状ヒートパイプの第1の態様は、密閉された平板状のコンテナと、前記コンテナ内に配置された、折り曲げ、または、重ね合わされた積層メッシュからなるウイックと、前記コンテナ内に封入された作動液とを備え、前記ウイックの上部および下部が、前記コンテナの上側内壁および下側内壁によって挟まれて固定されている平板状ヒートパイプである。
【0015】
この発明の平板状ヒートパイプの第2の態様は、前記ウイックは、前記コンテナの短手方向の中央に配置され、前記ウイックの側面とコンテナ内部の両側壁との間に所定の空間部が設けられていることを特徴とする、平板状ヒートパイプである。
【0016】
この発明の平板状ヒートパイプの第3の態様は、前記ウイックは、複数の折り曲げたメッシュを交互に組み合わせて形成されていることを特徴とする、平板状ヒートパイプである。
【0017】
この発明の平板状ヒートパイプの第4の態様は、前記ウイックは、重ね合わされた複数のメッシュと、前記重ね合わせた複数のメッシュを覆う別のメッシュとを備えることを特徴とする、平板状ヒートパイプである。
【0018】
この発明の平板状ヒートパイプの第5の態様は、前記ウイックの空隙率が0.37以上、0.67以下であることを特徴とする、平板状ヒートパイプである。
【0019】
この発明の平板状ヒートパイプの製造方法の第1の態様は、メッシュを折り曲げ、または、重ね合わせ、所定の圧縮率で圧縮して積層メッシュを形成する工程と、前記積層メッシュに酸化・還元処理を施して、ウイックを調製する工程と、前記管状コンテナの中に、前記積層メッシュを挿入して、前記管状コンテナを扁平状に加工し、前記ウイックの上部および下部を前記管状コンテナの上側内壁および下側内壁によって挟み込んだ平板状コンテナを形成する工程と、前記平板状コンテナ内に作動液を注入し、密閉する工程とを備える平板状ヒートパイプの製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
この発明のヒートシンクによると、メッシュウイックを折り曲げ、または、複数枚のメッシュウイックを重ね合わせて、所定の圧縮率で圧縮し、酸化処理を施して、積層メッシュウイックを形成するので、メッシュ間に生じる小さな空隙によってメッシュ間にも毛細管圧力を発生させて、ウイック全体の毛細管圧力を向上することができ、更に、酸化処理による表面および内部処理によって、ウイック自体の毛細管圧力を向上することができる。
【0021】
また、このように形成したウイックを、ヒートパイプのコンテナの上下面によって挟み込むので、ヒートパイプの変形を機械的に防止すると共に、伝熱ブロックと同様の機能を発揮することが可能になり、発熱部品からの熱を接触面と反対側の面に積層メッシュウイックを介して拡散させることができる
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、この発明の平板状のヒートパイプの1つの態様を説明する断面図である。
【図2】図2は、積層メッシュウイックの形成方法を説明する断面図である。
【図3】図3は、酸化・還元処理を施されたメッシュを形成する金属細線を説明する断面図である。
【図4】図4は、各種ウイックを使用したときのそれぞれの毛細管圧力に比例する作動液の吸い上げ高さ(mm)を示すグラフである。
【図5】図5は、ウイックの空隙率と毛細管圧力に比例する作動液の吸い上げ高さ(mm)との間の関係を示すグラフである。
【図6】図6は、ヒートパイプと熱の測定点とを示すヒートパイプの縦断面図である。
【図7】図7は、この発明の積層メッシュウイックを備えたヒートパイプの測定点における温度(℃)を示すグラフである。
【図8】図8は、従来の酸化・還元処理を施し、圧縮を伴わない積層メッシュウイックを備えたヒートパイプの測定点における温度(℃)を示すグラフである。
【図9】図9は、従来のメッシュウイックを使用したときの、ヒートパイプの厚さと最大熱輸送量(Qmax)の関係を示すグラフである。
【図10】図10は、特許文献1に開示された従来のウイックを備えたヒートパイプの横断面を示す斜視図である。
【図11】図11は、特許文献2に開示された従来の他のウイックを備えたヒートパイプの横断面である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明の平板状ヒートパイプおよびその製造方法の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、この発明の平板状のヒートパイプの1つの態様を説明する横断面図である。図1に示すように、この発明の平板状ヒートパイプ1においては、丸管が扁平加工されたコンテナ2の概ね中央部に断面矩形のウイック3が、コンテナ2の上下面(上側内壁7、下側内壁8)に挟まれて配置される。なお、ウイック3は、図示しないコンテナ2の長手方向に沿って配置される。
【0024】
ウイック3は、コンテナ2の上側内壁7と下側内壁8によって挟まれて、ウイック3の上面9とコンテナ2の上側内壁7、ウイック3の下面10とコンテナ2の下側内壁8とがそれぞれ密着して、固定されている。ウイック3の両側面と、コンテナの内壁との間には、空洞部11、12が形成されている。
【0025】
この発明の平板状のヒートパイプ1においては、丸管が扁平加工されたコンテナ2の概ね中央部に、ウイック3が配置され、コンテナ2の下側には図示しない発熱部品が熱的に接続されて配置される。
【0026】
発熱部品の熱は、コンテナ2の材質中を伝わって、コンテナの内の作動液を蒸発させる。蒸発した作動液は、空洞部11、12を通って放熱側に移動する。同時に、コンテナの材質中を伝わった熱の一部は、ウイック3を伝わってコンテナ2の下側から上側、すなわち発熱部品と接触する側から反対側の壁面に移動する。よって、コンテナの反対側の壁面に向かって熱の拡散が効果的に行われる。また、コンテナの放熱部で熱を放出して液相に戻った作動液は、高い毛細管力を有するウイック3を通って、速やかに吸熱側に還流する。
【0027】
図2は、ウイック3の形状例を説明する拡大断面図である。図2(a)に示すウイックは、所定形状の複数枚のメッシュ4を積層して形成されている。図2(b)に示すウイックは、複数の折り曲げたメッシュ5を交互に組み合わせて形成されている。図2(c)に示すウイックは、複数のメッシュ4を重ね合わせ、重ね合わせた複数のメッシュ4を別のメッシュ6で部分的に覆って形成されている。図2(a)から図2(c)に示すウイックは、垂直方向に圧縮され、次いで、酸化・還元処理が施されて形成されており、毛細管圧力に優れている。
【0028】
図1に示すこの発明の平面状ヒートパイプ1は、次の製造工程を備えて製造される。
先ず、金属製、例えば銅製のシート状メッシュを折り曲げ、または、複数枚の銅製のシート状メッシュを重ね合わせる。このように折り曲げまたは重ね合わせたシート状メッシュを上下方向から圧縮して上面および下面が平らな積層メッシュを形成する。
【0029】
次いで、積層メッシュに酸化・還元処理を施して、ウイックを調製する。
次いで、断面丸形状の例えば銅製の管状コンテナの内面を酸化・還元処理した後に、前記管状コンテナの中に、上述したように形成した積層メッシュを挿入して、その状態で、管状コンテナを扁平状に加工し、ブロック状の積層メッシュの上面および下面を管状コンテナの上側内壁および下側内壁によって挟み込んだ平板状コンテナを形成する。
その後、コンテナ内に作動液としての例えば水を注入して、コンテナを密閉する。
【0030】
図3は、上述した酸化・還元処理が施されたメッシュを形成する金属細線を説明する断面図である。図3に示すように、酸化・還元処理を施すことによって、積層メッシュを形成する金属細線14には、金属芯部15の周りに金属膜部16が形成され、金属芯部15と金属膜部16の間に、毛細管圧力の高い微細間隙部17が形成される。即ち、金属芯部15と金属膜部16は、酸化・還元処理によって一体的に形成され、金属膜部16は皮状に金属芯部15の周りを覆っている。その結果、金属細線14は、その長手方向に沿って高い毛細管力を備えている。
【0031】
上述した金属細線14は、下記方法によって製造することができる。即ち、所定の温度で所定の時間、金属細線14を酸化して金属細線14の表面に酸化膜を形成し、その後、水素雰囲気下で所定の温度で所定の時間、表面に酸化膜が形成された金属細線14を還元して、金属芯部15と、金属芯部15との間で毛細管圧力の高い微細間隙部17を形成する金属膜部16とを備えた金属細線を製造する。
【0032】
酸化・還元方法の1つとして加熱による酸化・還元を用いる方法がある。例えば、先ず高温(650℃、30分程度)で金属細線14を酸化する。次いで、水素雰囲気下(550℃、10分程度)で還元する。高温で金属細線14を酸化すると、金属細線14は膨張し、元の線径よりも太くなる。次いで、水素雰囲気下で還元すると、膨張した部分を残し、金属細線14は収縮する。収縮した部分が金属細線14の金属芯部15に、膨張して残った部分が剥離したような形状を示す金属膜部16になる。このようにして形成された金属細線14の金属芯部15と、剥離したような形状の金属膜部16との間に形成された狭い間隙の微細間隙部17が、強い毛細管圧力をもたらす。
【0033】
酸化・還元方法の他の1つとして、薬品を用いた酸化がある。例えば、酢酸銅/硫酸銅/硫化バリウム/塩化アンモニウム系の処理液を用いることにより黄色又は赤色の酸化第1銅を生成する。又は、亜塩素酸ナトリウム/水酸化ナトリウム系の処理液を用いることにより、黒色の酸化第2銅を生成する。次いで、水素雰囲気下(550℃、10分程度)で還元する。
【0034】
上述したように、金属芯部と金属膜部の間に形成された微細間隙部によって液相の作動液が還流するための微細流路が形成されている。従って、金属細線は、それ自体で、外表面部に毛細管力の高い微細間隙部を備えている。
【0035】
図4は、本発明に用いられるものを含めた数種のウイックを使用したときのそれぞれの毛細管力を示すグラフである。ウイックの種類として、(A)圧縮した積層メッシュウイック(酸化・還元処理なし)、(B)圧縮、酸化・還元処理を施した積層メッシュウイック(本発明に用いられるウイック)、(C)圧縮を伴わず、酸化・還元処理を施した積層メッシュウイック(ウイックC)、および、(D)焼結金属体シートを積層したウイック(ウイックD)を使用した。縦軸には、毛細管圧力に比例する作動液の吸い上げ高さ(mm)を示している。
【0036】
この作動液の吸い上げ高さは、それぞれのウイックを縦長に形成し、下端部を作動液である水に接触させたときに、水面を基準として水が吸い上げられる高さである。
【0037】
図4に示すように、この発明の圧縮、酸化・還元処理を施した積層メッシュウイック(B)は、作動液の吸い上げ高さが120mmを超え、高い毛細管力を有していることがわかる。これに対して、酸化・還元処理を施しても圧縮を伴わないウイックCは、作動液の吸い上げ高さが80mm程度であり、毛細管力が低い。更に、焼結金属体シートを積層したウイックDにおいても、作動液の吸い上げ高さが100mm未満であり、この発明に用いられるウイックと比べると20〜30%以上低い。圧縮、酸化・還元処理を施していないウイックCは、作動液の吸い上げ高さが10mm程度であり、毛細管力が非常に低い結果となった。
【0038】
図5は、本発明に用いられるウイックの空隙率と上述した作動液の吸い上げ高さ(mm)との間の関係を示すグラフである。ここで、空隙率とは、ウイックの総体積に対する空隙部分の比を表している。図5から明らかなように、空隙率が0.67を超えて大きくなる、または、空隙率が0.37を下回ると、毛細管力に比例する作動液の吸い上げ高さ(mm)が徐々に低下している。
【0039】
図4および図5から明らかなように、本発明に用いられるウイックにおいては、空隙率が0.37から0.67の間のときに、作動液の吸い上げ高さ(mm)が120mmを超える。従って、この発明のウイックは、圧縮、酸化・還元処理によって、空隙率が0.37から0.67の間の範囲内になるように設定すると、高い毛細管圧力を備えることがわかる。酸化・還元処理を施しても圧縮を伴わない従来の積層メッシュウイック(ウイックC)は、空隙率が約0.7と大きくなり、毛細管力を大きくすることが困難である。また、焼結金属体シートを積層したウイック(ウイックD)も、空隙率が0.67を超えて大きいため、作動液の吸い上げ高さ(mm)を100mmよりも大きくすることが難しい。
【0040】
図6は、ヒートパイプと熱の測定点とを示すヒートパイプの模式図である。図6に示すように、本発明のヒートパイプは、直径が6mmの断面丸形の管状コンテナを扁平加工した中に、上述したウイックを配置したものであり、全長は150mm、厚さは1mmである。また、吸熱部の長さが40mm、断熱部の長さが20mm、放熱部の長さが85mmである。吸熱部の中心付近の測定点をT2、断熱部の中心付近の測定点をT3、放熱部の測定点をT4、T5、T6、T7、T8として、最大熱輸送量を測定した。
【0041】
図7は、この発明のウイックを備えたヒートパイプの測定点における温度(℃)を示すグラフである。熱源として、5W〜25Wを使用した。図7に示すように、この発明の平板状ヒートパイプでは、熱源22Wであっても、吸熱部の温度は約50℃であり、正常にヒートパイプが作動している。熱源が25Wになると、断熱部では依然として約50℃であるが、吸熱部の温度が70℃を超えて上昇している。すなわち、本発明の平板状ヒートパイプは、22Wまでの熱入力に対して動作が可能であることがわかる。
【0042】
図8は、本発明の平板状ヒートパイプと同様に扁平加工したコンテナの中に、従来の酸化・還元処理を施し、圧縮を伴わない積層メッシュウイックを備えたヒートパイプの測定点における温度(℃)を示すグラフである。熱源として、5W〜12Wを使用した。図8に示すように、従来の酸化・還元処理を施し、圧縮を伴わない積層メッシュウイックを備えたヒートパイプでは、熱源10Wまでは、吸熱部の温度は約50℃であるが、熱源12Wでは、吸熱部の温度が約60℃に上昇している。すなわち、従来の平板状ヒートパイプでは、10Wを超える熱入力では動作できないことが分かる。
【0043】
図7および図8から明らかなように、圧縮、酸化・還元処理を施したこの発明のブロック状メッシュウイックを備えたヒートパイプでは、従来の酸化・還元処理を施し、圧縮を伴わない積層メッシュウイックを備えたヒートパイプの2倍以上の最大熱輸送量を備えている。
【0044】
上述したように、この発明によると、発熱密度の高い発熱部品の冷却に適し、最大熱輸送量が高く、高性能化した薄型の平板状ヒートパイプを提供することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 平板状のヒートパイプ
2 コンテナ
3 積層メッシュウイック
4 メッシュ
5 折り曲げたメッシュ
6 別のメッシュ
7 コンテナの上側内壁
8 コンテナの下側内壁
9 積層メッシュウイックの上面
10 積層メッシュウイックの下面
11、12 空洞部
14 金属細線
15 金属芯部
16 金属膜部
17 微細間隙部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉された平板状のコンテナと、
前記コンテナ内に配置された、折り曲げ、および/または、重ね合わされた積層メッシュからなるウイックと、
前記コンテナ内に封入された作動液とを備え、
前記積層メッシュが芯部および膜部を備えた金属細線からなり、
前記ウイックの上部および下部が、前記コンテナの上側内壁および下側内壁によって挟まれて固定されている平板状ヒートパイプ。
【請求項2】
前記ウイックは、前記コンテナの短手方向の中央に配置され、前記ウイックの側面とコンテナ内部の両側壁との間に所定の空間部が設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の平板状ヒートパイプ。
【請求項3】
前記ウイックは、複数の折り曲げたメッシュを交互に組み合わせて形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の平板状ヒートパイプ。
【請求項4】
前記ウイックは、重ね合わされた複数のメッシュと、前記重ね合わせた複数のメッシュを覆う別のメッシュとを備えることを特徴とする、請求項1に記載の平板状ヒートパイプ。
【請求項5】
前記ウイックの空隙率が0.37以上、0.67以下であることを特徴とする、請求項1から4の何れか1項に記載の平板状ヒートパイプ。
【請求項6】
メッシュを折り曲げ、または、重ね合わせ、所定の圧縮率で圧縮して積層メッシュを形成する工程と、
断面丸形状の管状コンテナの中に、前記積層メッシュを挿入して、前記管状コンテナを扁平状に加工し、前記積層メッシュの上部および下部を前記管状コンテナの上側内壁および下側内壁によって挟み込んだ平板状コンテナを形成する工程と、
前記積層メッシュに酸化・還元処理を施して、ウイックを調製する工程と、
前記平板状コンテナ内に作動液を注入し、密閉する工程と
を備える平板状ヒートパイプの製造方法。
【請求項1】
密閉された平板状のコンテナと、
前記コンテナ内に配置された、折り曲げ、および/または、重ね合わされた積層メッシュからなるウイックと、
前記コンテナ内に封入された作動液とを備え、
前記積層メッシュが芯部および膜部を備えた金属細線からなり、
前記ウイックの上部および下部が、前記コンテナの上側内壁および下側内壁によって挟まれて固定されている平板状ヒートパイプ。
【請求項2】
前記ウイックは、前記コンテナの短手方向の中央に配置され、前記ウイックの側面とコンテナ内部の両側壁との間に所定の空間部が設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の平板状ヒートパイプ。
【請求項3】
前記ウイックは、複数の折り曲げたメッシュを交互に組み合わせて形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の平板状ヒートパイプ。
【請求項4】
前記ウイックは、重ね合わされた複数のメッシュと、前記重ね合わせた複数のメッシュを覆う別のメッシュとを備えることを特徴とする、請求項1に記載の平板状ヒートパイプ。
【請求項5】
前記ウイックの空隙率が0.37以上、0.67以下であることを特徴とする、請求項1から4の何れか1項に記載の平板状ヒートパイプ。
【請求項6】
メッシュを折り曲げ、または、重ね合わせ、所定の圧縮率で圧縮して積層メッシュを形成する工程と、
断面丸形状の管状コンテナの中に、前記積層メッシュを挿入して、前記管状コンテナを扁平状に加工し、前記積層メッシュの上部および下部を前記管状コンテナの上側内壁および下側内壁によって挟み込んだ平板状コンテナを形成する工程と、
前記積層メッシュに酸化・還元処理を施して、ウイックを調製する工程と、
前記平板状コンテナ内に作動液を注入し、密閉する工程と
を備える平板状ヒートパイプの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−75259(P2011−75259A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230149(P2009−230149)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
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