説明

広帯域位相板、偏光回折素子および積層光学素子

【課題】3波長互換に用いられる光ヘッド装置に用いられる広帯域位相板、偏光回折素子および積層光学素子を提供する。
【解決手段】半導体レーザ401、402、403と、偏光回折素子411と、広帯域位相板412と、光検出器404、405、406とを備える光ヘッド装置において、半導体レーザ401、402、403は、波長410nm帯、660nm帯および780nm帯の直線偏光の光束を出射し、偏光回折素子411は、所定の偏光方向の直線偏光は直進透過させ、所定の偏光方向と直交する直線偏光は回折させ、広帯域位相板412は、波長410nm帯の光に対して略(2m−1)・λ/4、波長660nm帯の光に対して略(2m−1)・λ/4、波長780nm帯の光に対して略m・λ(λは波長、m、m、mは自然数)の位相差をそれぞれ発生させる構成を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広帯域位相板、偏光回折素子および積層光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスクおよび光磁気ディスクなどの光記録媒体(以下、光ディスクという)に光学的情報を記録したり、光ディスクに記録された情報を再生したりする光ヘッド装置においては、記録密度の高密度化のため、使用されるレーザ光の短波長化が進められている。しかしながら、HD DVD、ブルーレイなどの、短波長レーザ光を用いる高密度ディスクを読み書きする光ヘッド装置においても、これまでに普及しているDVD−R/RWおよびCD−R/RWなどの光ディスクも記録・再生可能とする必要があり、短波長光源に加えて、赤色光源および近赤外域の光源を併せて設置しこれらの光ディスクすべてを読み書き可能とする、いわゆる3波長互換のための様々な記録・再生方式が提案されている。
【0003】
それぞれの光ディスクに用いられるいずれの波長に対しても高い光利用効率を実現するためには、光源から光ディスクに至る往路では高透過率であって光ディスクから光検出器に至る復路では高回折効率を有する偏光回折素子を有する偏光光学系を用いた光ヘッド装置が考えられる。そのような偏光光学系を用いた光ヘッド装置の構成の例を図9に示す。
【0004】
図9において、出射波長帯410nm、660nmおよび780nmの半導体レーザ11、12および13からの直線偏光の光束は、それぞれの波長用の偏光回折素子17、18および19を直進透過し、それぞれの偏光回折素子と一体化された1/4位相板20、21および22により円偏光に変換される。その後、波長660nm帯の光を反射させ波長780nm帯の光を透過する合波プリズム23と660nm帯および780nm帯の光を透過させ波長410nm帯の光を反射する合波プリズム24とにより合波され、コリメートレンズ25で平行光とされ、アクチュエータ27に保持された3波長共通の対物レンズ26により光ディスク28の情報記録面に集光、照射される。
【0005】
光ディスク28の情報記録面で反射され、情報記録面に形成されたピットの情報を含んだ3つの波長の戻り光束は、円偏光の回転方向が逆転した逆回りの円偏光となって経路を逆方向に進行し、それぞれ1/4位相板20、21および22を再度透過して光源から出射された光束の偏光方向と直交する偏光方向の直線偏光に変換され偏光回折素子17、18および19により回折され、それぞれの波長に対応する光検出器14、15および16に導かれて、光ディスク28に記録された情報が読み出される。
【0006】
図9に示したような従来の光ヘッド装置では、波長ごとに偏光回折素子や1/4位相板などの光学素子を配置する必要があるので、部品点数が増えて装置の体積が大きくなり、さらに組立調整にも時間がかかるという問題がある。そのため、3つの半導体レーザを近接させて配置する構成や、複数の波長を発振できる半導体レーザを用いる構成が提案されている。
【0007】
このような構成に光ヘッド装置に必要とされる410nm、660nmおよび780nmの3波長帯に対して共通に用いることができる広帯域位相板として、複屈折を示す層2層を積層した構成により各波長帯に対して1/4波長相当の位相差を発生させる広帯域位相板が特許文献1に記載されている。しかしながら、前記3波長のすべてを偏光選択して回折させる偏光回折素子は、すべての波長帯に対して良好な回折効率を実現するのが難しいという問題がある。また、780nm帯の光を用いる光ディスク(CD)では保護層厚さが厚いため、前述のような偏光光学系を用いると保護層の複屈折の偏差による記録・再生特性の変動が生じ易いという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−219977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、3波長互換に用いられる光ヘッド装置に用いられる広帯域位相板、偏光回折素子および積層光学素子を提供し、前述の問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、複屈折を示す層と1枚以上の透明基板とを備え、波長410nm帯の光束に対して略(2m−1)・λ/4、波長660nm帯の光束に対して略(2m−1)・λ/4、波長780nm帯の光束に対して略m・λ(λは波長、m、m、mは自然数)のそれぞれの位相差を発生させることを特徴とする広帯域位相板を提供する。
【0011】
前記広帯域位相板が発生させる位相差が高次になると、各波長帯域において広帯域位相板が発生させる位相差の波長依存性が大きくなり、例えば温度変化により光源が出射する光束の波長が変動したときに、広帯域位相板が発生させる位相差が所望の値からずれが大きくなるおそれがある。そのため、位相差は低次であることが好ましい。すなわち前記m、m、およびmは7以下の自然数であることが好ましく、より好ましくは6以下の自然数である。
【0012】
この場合、前記広帯域位相板が与える位相差は、波長410nm帯の光束に対して略9λ/4、波長660nm帯の光束に対して略5λ/4、波長780nm帯の光束に対して略λ、あるいは、波長410nm帯の光束に対して略11λ/4、波長660nm帯の光束に対して略5λ/4、波長780nm帯の光束に対して略λであることが好ましい。
【0013】
前記複屈折を示す層は、1層の複屈折材料からなる層を有していることが好ましく、その場合、高分子液晶からなることが好ましい。あるいは、前記複屈折を示す層は、2層の複屈折材料からなる層を有していることが好ましく、その場合、高分子液晶または延伸ポリカーボネートからなることが好ましい。
【0014】
ここで「波長410nm帯」とは、390〜440nmの波長範囲から本発明の広帯域位相板を用いる波長、すなわち使用する光源の波長に合わせて選ばれる1つの波長をいい、「波長660nm帯」、「波長780nm帯」とは、それぞれ640〜680nm、760〜800nmの波長範囲から同様に選ばれる1つの波長をいう。
【0015】
また、「位相差が略9λ/4である」とは、角度表示した位相差が9λ/4にあたる角度±5度未満の範囲内であることをいう。同様に「略5λ/4」「略λ」「略11λ/4」とは、角度表示したそれぞれの角度に対して±5度未満の範囲内であることをいう。ここで、角度表示した位相差[度]は、長さで表示した位相差[nm]と、
位相差[度]=(位相差[nm]/波長[nm])×360度
なる関係にあり、例えばλ板は角度表示すると360度となる。
【0016】
本発明は、また、光学異方性材料からなり、鋸歯形状の断面をもつ一方向に伸長する凸条部が周期的かつ互いに平行に形成されたブレーズド回折格子、または、光学異方性材料からなり、所望の鋸歯形状を8段以上の階段状に近似した鋸歯形状の断面をもつ一方向に伸長する凸条部が周期的かつ互いに平行に形成された擬似ブレーズド回折格子である第1の回折格子と、光学異方性材料からなり、矩形断面をもつ一方向に伸長する凸条部が周期的かつ互いに平行に形成された回折格子である第2の回折格子と、が積層され、前記第1の回折格子が、所定の偏光方向の、波長410nm帯、660nm帯および780nm帯の直線偏光を直進透過させ、前記所定の偏光方向と直交する偏光方向の、波長410nm帯の直線偏光を回折させ、波長660nm帯の直線偏光を直進透過させ、前記第2の回折格子が、前記所定の偏光方向の、波長410nm帯、660nm帯および780nm帯の直線偏光を直進透過させ、前記所定の偏光方向と直交する偏光方向の、波長410nm帯の直線偏光を直進透過させ、波長660nm帯の直線偏光を回折させることを特徴とする偏光回折素子を提供する。これによって、入射光の波長および偏光方向に応じて光路を切替えたり、フォーカスエラー信号および/またはトラッキング信号の検出に必要な光ビームを生成させたりすることができる。また、波長の短い光の利用効率を高くでき、3波長互換に用いられる光ヘッド装置への利用が好適な偏光回折素子を実現できる。
【0017】
さらに、前記所定の偏光方向と直交する偏光方向の直線偏光に対して、波長410nm帯における前記第1の回折格子の回折効率と前記第2の回折格子の透過率との積が、波長660nm帯における前記第1の回折格子の透過率と前記第2の回折格子の回折効率との積より大きくされることが好ましい。
【0018】
また本発明は、前記広帯域位相板と、入射した直線偏光を偏光方向に応じて直進透過させたり回折させたりする偏光回折素子との両方を有する積層光学素子を提供する。この構成の積層光学素子は、前記偏光回折素子側から入射した、所定の偏光方向の、波長410nm帯および660nm帯の直線偏光を円偏光に変えて直進透過させ、波長780nm帯の直線偏光を偏光状態を実質的に変化させずに直進透過させ、前記広帯域位相板側から入射した、波長410nm帯および660nm帯の前記円偏光と逆回りの円偏光を、前記所定の偏光方向と直交する偏光方向の直線偏光に変えて直進透過させ、前記所定の偏光方向の波長780nm帯の直線偏光を、偏光状態を実質的に変化させずに直進透過させるので、光ヘッド装置に用いると、構成する部品の小型化、部品点数の削減の効果が得られ、光ヘッド装置の一層の小型化が可能になる。
【0019】
また、波長780nm帯の直線偏光を回折させる回折格子をさらに積層することが好ましい。これによって、光ヘッド装置の一層の小型化が可能になる。
【発明の効果】
【0020】
また、本発明の広帯域位相板は、410nm、660nmおよび780nmの3つの波長帯を用いて記録・再生をおこなう光ヘッド装置に好ましく用いられる。本発明の広帯域位相板を用いると、前記光ヘッド装置において前記3つの波長帯において良好な記録・再生特性が実現されるとともに、部品点数が削減されて構成が単純化され、組立て調整が容易になる。また、780nm波長帯に対して、十分高い光の利用効率が得られるとともに、光ディスクの保護層の偏差による再生・記録特性の低下を抑制できる。
【0021】
また、本発明の偏光回折素子は、前記3つの波長帯を用いて記録・再生をおこなう光ヘッド装置に好ましく用いられる。本発明の広帯域位相板を用いると、前記光ヘッド装置において前記3つの波長帯において良好な記録・再生特性が実現されるとともに、部品点数が削減されて構成が単純化され、組立て調整が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本願発明の第1の実施の形態に係る光ヘッド装置の第1の構成例を示すブロック図
【図2】本願発明の複屈折材料1層からなる広帯域位相板の概略断面図および平面図
【図3】本願発明の複屈折材料2層からなる広帯域位相板の概略断面図および平面図
【図4】本願発明の偏光回折素子541の概略断面図、および、作用を説明するための図
【図5】本願発明の広帯域位相板と偏光回折素子とが積層一体化された素子の概略断面図
【図6】本願発明の積層光学素子540の概念的な断面構造、および、積層光学素子540の作用を説明するための図
【図7】本願発明の第2の実施の形態に係る光ヘッド装置の第2の構成例を示すブロック図
【図8】本願発明の第3の実施の形態に係る光ヘッド装置の第3の構成例を示すブロック図
【図9】従来の光ヘッド装置の構成を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0024】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る光ヘッド装置の第1の構成例を示すブロック図である。なおこの構成は本発明の光ヘッド装置の構成の一例であって、これに限定されるものではない。
【0025】
この光ヘッド装置は、波長410nm帯、波長660nm帯および波長780nm帯の光源としてそれぞれ波長405nm、660nmおよび780nmの直線偏光の光束を出射する半導体レーザ401、402および403とを備えている。
【0026】
波長405nmの光束を出射する半導体レーザ401から出射された直線偏光の光束は、波長405nmの光を反射し波長660nmおよび波長780nmの光を透過させる合波プリズム408と、コリメートレンズ410とを透過する。次いでアクチュエータ414に保持された偏光回折素子411を透過し、広帯域位相板412により円偏光に変換され、同じくアクチュエータ414に保持された対物レンズ413により光ディスク415の情報記録面上に集光、照射される。情報記録面に形成されたピットの情報を含んで光ディスク415から反射された戻り光束は、それぞれの経路を逆方向に進行する。すなわち戻り光束は広帯域位相板412により光源から出射された光束とは直交する偏光方向の直線偏光に変換され、偏光回折素子411で回折され、コリメートレンズ410を透過し合波プリズム408で反射されたのち、光検出器404に入射して、光ディスク415に記録された情報が読み出される。
【0027】
波長660nmに対しては、波長660nmの光束を出射する半導体レーザ402から出射された直線偏光の光束は、波長660nmの光を反射し波長780nmの光を透過させる合波プリズム409で反射され、波長405nmの光を反射し波長660nmおよび波長780nmの光を透過させる合波プリズム408を透過したのち、コリメートレンズ410を透過する。次いでアクチュエータ414に保持された偏光回折素子411を透過し、広帯域位相板412により円偏光に変換され、対物レンズ413により光ディスク415の情報記録面上に集光、照射される。情報記録面に形成されたピットの情報を含んで光ディスク415から反射された戻り光束は、それぞれの経路を逆方向に進行する。すなわち戻り光束は広帯域位相板412により光源から出射された光束とは直交する偏光方向の直線偏光に変換され、偏光回折素子411で回折され、コリメートレンズ410を透過したのち、合波プリズム408を透過し、合波プリズム409で反射されたのち光検出器405に入射して、光ディスク415に記録された情報が読み出される。
【0028】
波長780nmの場合は、ディスクの保護層厚さが厚いため、前述のような偏光光学系を用いると保護層の複屈折の偏差による記録・再生特性の変動が生じる。したがって、ガラス等で形成された無偏光回折素子を用いた光学系が用いられる。半導体レーザ403から出射した直線偏光の光束は、無偏光回折格子407を透過し、波長660nmの光を反射し波長780nmの光を透過させる合波プリズム409、波長405nmの光を反射し波長660nmおよび波長780nmの光を透過させる合波プリズム408をそれぞれ透過したのち、コリメートレンズ410を透過し、アクチュエータ414に保持された偏光回折素子411を透過する。次いで、広帯域位相板412を透過し、同じくアクチュエータ414に保持された対物レンズ413により光ディスク415の情報記録面上に集光、照射され、光ディスク415から反射された戻り光束は、同経路を逆進して広帯域位相板412へ入射する。780nm波長帯の光束は、広帯域位相板で偏光状態を変えないため、戻り光束も偏光回折素子411を回折されずに透過する。透過された戻り光束はコリメートレンズ410を透過したのち、合波プリズム408、合波プリズム409で透過され、無偏光回折素子407で回折された一次回折光が光検出器406で検出され、光ディスク415に記録された情報が読み出される。
【0029】
本発明の第1の構成の光ヘッド装置では、410nmおよび660nmの各波長帯の光束に対しては直線偏光を円偏光に、円偏光を直線偏光にそれぞれ変換し、波長780nm波長帯の光束に対しては実質的に偏光状態を変化させず、それぞれ透過させる広帯域位相板と、光源からの光束と同じ偏光方向の直線偏光を直進透過させ、直交する偏光方向の直線偏光を回折させる偏光回折素子と、を備えることにより、前記3つのすべての波長帯において、良好な記録・再生特性が得られる。また、良好な特性の光ヘッド装置を、少ない部品数かつ小型化された構成で実現することができる。
【0030】
以下、まず、本発明の広帯域位相板について説明する。
【0031】
このような光ヘッド装置に用いられる、本発明の広帯域位相板は、通常、複屈折層と、少なくとも1枚の透明基板とを備えている。本発明の広帯域位相板は、前記複屈折層が1枚の透明基板上に保持されている構成であってもよいし、前記複屈折層が2枚の透明基板間に挟持されている構成であってもよい。透明基板は前記3つの波長帯の光に対して透明であれば、樹脂板、樹脂フィルムなど種々の材料を用いることができるが、ガラスや石英ガラスなどの光学的等方性材料を用いると、透過光に複屈折性の影響を与えないため好ましい。
【0032】
本発明の広帯域位相板に用いる複屈折層としては、複屈折性有機材料を基板上に配向させつつ層形成したものや、ポリカーボネートなどの有機材料を延伸加工し分子を配向させ複屈折性を付与した高分子フィルムを用いることができる。前記基板上に配向させつつ層形成した複屈折性有機材料としては液晶が例示される。液晶は、種々の液晶性化合物から所望の特性を有するものを選び出したり、またそれらを混合した混合組成物としたりすることにより、分散係数を所望の値に近似させることができるので好ましい。また、液晶層の厚さは、液晶層形成時に液晶層を挟持する基板間に挟むスペーサー径を変更するだけで容易に調整が可能で、それによりリタデーション値を容易に制御できる点からも好ましい。液晶としては、低分子液晶を用いることができるが、重合性の液晶前駆体を光重合等の手段により重合、硬化させて形成された高分子液晶を用いてもよい。高分子液晶を用いると、配向方向が物理的に固定されており、また広帯域位相板の機械強度が増すので、信頼性が向上したり、温度変化による熱膨張・熱収縮で素子が太鼓状に変形して生じる収差が低減されたりするので好ましい。
【0033】
複屈折材料としては、液晶以外に、基板上に異方性蒸着などの成膜方法で複屈折性を持たせて形成したTiO膜などの無機材料膜や、所望の厚さに加工した水晶、LiNbOなどの複屈折性を有する無機材料のシートを用いることもできる。
【0034】
一般に複屈折材料によるリタデーションは波長依存性を有し、A、B、Cを材料に固有の分散係数、複屈折材料の厚さをdnmとすると、コーシーの式から式(1)のような波長の関数R(λ)で表される。
【0035】
R(λ)=(A+B/λ+C/λ)・d (1)
(1)式において、波長405nm、660nmおよび780nmにおける位相差を、それぞれ9λ/4、5λ/4、λとおくと、各波長における条件式は(2a)、(2b)、(2c)のようになる。
【0036】
R(405nm)=911nm (2a)
R(660nm)=825nm (2b)
R(780nm)=780nm (2c)
(2a)、(2b)、(2c)から分散係数A、B、Cを求めると、
A=363.7/d、B=436100/d、C=−86840000/d
(3)
が得られる。すなわちこのような分散係数をもつ複屈折材料を用いて厚さdnmの層を1層形成して前記複屈折層とし広帯域位相板を作製すると、前記3つの波長において前記の所望の位相差が得られるので好ましい。
【0037】
また、複屈折層は、複屈折を示す層が複数層積層された構成とすることも可能であり、このような構成によれば適用可能な複屈折材料の選択の幅が広がるので好ましい。積層数は製造工程の単純化のため2層とすることが好ましいが、3層以上積層して用いることも可能である。複屈折を示す層を2層積層して構成された本発明の広帯域位相板は、以下のように設計することができる。
【0038】
複屈折層が、複屈折を示す第1および第2の複屈折層が積層された積層構成であるときに、係る積層複屈折層に光を入射させたときに発生する位相差は、ストークス・パラメーターを使って式(4)のような行列式で表される。
【数1】

【0039】
ここで入射光の偏光状態は式(5):
【数2】

で表されるように水平直線偏光である。式(4)においてθ1,2は、第1および第2の複屈折層のそれぞれの進相軸と透明基板面内の基準方向とのなす角度であり、Δ1,2は第1および第2の複屈折層のそれぞれで生じる位相差である。また、[Tθ1,2]は座標軸を角度θ1,2だけ回転する旋光子行列で、[CΔ1,2]は位相をΔ1,2だけシフトさせる移相子行列で、それぞれ式(6)、式(7)のように表される。
【数3】

【0040】
【数4】

【0041】
ここで、位相のシフト量Δ1,2とは各波長における角度[ラジアン]表示のリタデーション値であり、Δ1,2=Δn・d1,2・2π/λなる式で表される。
【0042】
この行列式を、前記リタデーション値を所望の位相差に置いた条件のもとで解けば、各波長において所望の位相差をもつ積層による広帯域波長板の構成、すなわち、複屈折材料からなる2層の複屈折層それぞれの進相軸と基準方向とのなす角度θ、θと厚さd、dとが求められる。しかしながらこの行列式は解析的に解くことができず、近似解が得られるのみである。さらに分散係数は材料固有であるため、一般には、3波長以上の波長において所望の位相差を与える積層構成の解は得られない。
【0043】
本願発明者は、各波長における位相差を波長410nm帯で(2m−1)・λ/4、波長660nm帯で(2m−1)・λ/4、および波長780nm帯でm・λ (λは波長、m、m、mは自然数)と置いたときに、第1の態様として、複屈折材料として延伸ポリカーボネート(分散係数はA=0.01052、B=0、C=564.7)を用いると、波長410nm帯で9λ/4、波長660nm帯で5λ/4、および波長780nm帯でλの位相差が得られる積層構成のよい近似解が得られることを見出した。すなわち、1層目は厚さ75μmで進相軸が基準方向となす角12度とし、2層目は厚さ66μmで進相軸が基準方向となす角を65度とすると、それぞれの波長での所望の位相差から±5度未満の位相差が得られる。
【0044】
また、別の態様として、分散係数がA=0.1011、B=0、C=9230の複屈折材料を用いると、波長410nm帯で11λ/4、波長660nm帯で5λ/4、および波長780nm帯でλの位相差に対してよい近似解が得られることを見出した。すなわち、1層目は厚さ1.7μmで進相軸が基準方向となす角を8度とし、2層目は厚さ7μmで進相軸が基準方向となす角を147度とすると、それぞれの波長での所望の位相差から±5度未満の位相差が得られる。このような分散をもつ材料としては、所定の組成の高分子液晶が例示される。
【0045】
このような構成により本発明の広帯域位相板は、410nmおよび660nmの波長帯の、前記基準方向および前記基準方向と直交する方向の直線偏光に対して前記の各位相差を発生させ、直線偏光を円偏光に、円偏光を直線偏光にそれぞれ変換して透過させる。また、780nm波長帯の光に対して、実質的に偏光状態を変化させずに透過させる。
【0046】
広帯域位相板が発生する位相差と所望の値との差が大きいと、広帯域位相板に入射した直線偏光は円偏光に変換されず楕円偏光として出射されて再生・記録の信号強度が弱まるので好ましくない。また、広帯域位相板面内の基準方向となす角度が45度となる方向を位相板の見かけの光学軸としたときに、見かけの光学軸が入射する直線偏光の偏光方向に対して所定の角度から傾いていると、やはり所望の位相差が得られず出射光は楕円偏光となり、好ましくない。
【0047】
前記基準方向と平行または直交する偏光方向の直線偏光を入射させたときに、前記見かけの光学軸に対して楕円率を計算すると、広帯域位相板が発生させる位相差と所望の値との差が±5度未満のとき、見かけの光学軸が入射する直線偏光の偏光方向に対して所定の角度に対して傾きがない場合は0.92以上、見かけの光学軸が±1度以下の範囲で傾いている場合でも0.91以上の良好な楕円率値が得られる。すなわち広帯域位相板が発生させる位相差と所望の値との差を±5度未満とすれば、±1度以下までの光学軸の傾きがあっても0.90以上の良好な楕円率が得られる。広帯域位相板の位相差と所望の値との差を±4度以下とすると、±2度以下の見かけの光学軸の傾きがあっても楕円率は0.91以上であり、0.90以上の良好な楕円率が得られる。
【0048】
次に、本発明の偏光回折素子について説明する。
【0049】
図4(a)は、本発明の偏光回折素子541の概念的な断面構造を示す図である。図4(b)および(c)は、偏光回折素子541の作用を説明するための図である。偏光回折素子541は、第1の回折格子551と、第2の回折格子552とを積層され備えていて、石英ガラス基板302、303と、石英ガラス基板302、303の間に挟持された波長410nm帯用の回折格子の凸条部542、波長660nm帯用の回折格子の凸条部543および充填材544とによって構成される。基板302、303は、偏光回折素子541を使用する波長帯において高透過率の材料であれば、石英ガラスに限定されず他の材料からなる基板を用いることもできる。
【0050】
第1、第2の回折格子551、552は、それぞれ波長410nm帯、波長660nm帯および波長780nm帯の直線偏光を、光の波長と偏光方向に応じて回折または透過させるようになっていて、それぞれが回折または透過させる直線偏光の偏光方向が一致するように積層されている。以下、これらの回折格子が透過させる直線偏光の偏光方向を第1偏光といい、これらの回折格子が回折させる、第1偏光と直交する直線偏光の偏光方向を第2偏光という。
【0051】
第1、第2の回折格子の積層順は問わない。また、図4の断面図のように回折格子面を対向させて積層させてもよく、また、回折格子面を同一方向として積層させてもよい。
【0052】
ある波長の光を回折させるように設計された回折格子は、近接する他の波長の光をも一部回折させるため、波長410nm帯の第2偏光を回折させる第1の回折格子551は、波長660nm帯の第2偏光に対しても回折作用を持ち、入射した波長660nm帯の第2偏光を、一部回折させ一部を透過する。同様に、波長660nm帯の第2偏光を回折させる第2の回折格子552は、波長410nm帯の第2偏光の光に対しても回折作用を持ち、入射した波長410nm帯の第2偏光の光を、一部回折させ一部を透過する。また、第1、第2の回折格子551、552は、波長780nm帯の第1偏光を透過させるようになっている。
【0053】
ここで、偏光回折素子541の波長410nm帯の光の利用効率を、波長410nm帯の第2偏光に対する第1の回折格子551の回折効率と第2の回折格子552の透過率との積とし、波長660nm帯の光の利用効率を、波長660nm帯の第2偏光に対する第2の回折格子552の回折効率と第1の回折格子551の透過率との積とする。このとき、偏光回折素子541は、波長410nm帯の光の利用効率が波長660nm帯の光の利用効率よりも高いことが好ましい。この構成とすることにより、本発明の偏光回折素子541を光ヘッド装置に用いたときに、波長660nm帯および780nm帯の光を用いた光記録媒体の読み書きの特性を保ちつつ、光記録媒体による反射率や光検出器での検出感度が低い波長410nm帯の光を有効に利用することができる。
【0054】
このような偏光回折素子541は、第1の回折格子551として、一方向に伸長する、鋸歯形状の断面をもつ凸条部が、周期的かつ互いに平行に形成されたブレーズド回折格子を、第2の回折格子552として、一方向に伸長する、矩形形状の断面をもつ凸条部が、周期的かつ互いに平行に形成された回折格子を、それぞれ用いて、前述のように、それぞれの回折格子に対する第1偏光および第2偏光の方向を一致させて積層させた構成とすることにより実現される。
【0055】
第1の回折格子551は、鋸歯状断面の凸条部を形成する光学異方性材料が、回折格子面内の互いに直交する方向の直線偏光に対して示す屈折率をそれぞれn、n(n≠n)としたときに、nまたはnを充填材544の屈折率と実質的に等しくすることが好ましい。充填剤544と等しい屈折率を示す偏光方向が、第1偏光の偏光方向とされる。
【0056】
このような鋸歯状断面の凸条部をもつブレーズド回折格子は、例えば、光学異方性材料からなる層を形成した後、グレーマスクを用いたドライエッチングにより形成することができる。また、凸条部の断面形状を、鋸歯状形状に代えて、所望の鋸歯状形状を同一のステップ幅で、同一の段差をもつ多段の階段状で近似した形状とした、擬似ブレーズド回折格子とすることもできる。このような擬似ブレーズド回折格子は、開口を変化させた複数のマスクを用いて、形成することができる。階段状の段差は、回折させる波長すなわち405nmを、Δnおよびステップ数で割った値とする。ここで、Δnは、鋸歯状断面の凸条部を構成する光学異方性材料の、波長410nm帯の第2偏光に対する屈折率と充填材の屈折率との差であり、ステップ数は8以上とされる。
【0057】
この構成とすることにより、鋸歯状断面の凸条部と充填剤544の屈折率が実質的に等しい第1偏光をそのまま透過させるとともに、屈折率が互いに異なる第2偏光に対しては、波長410nm帯では回折させ、波長660nm帯では一部回折させ一部透過させる回折格子が得られる。
【0058】
第2の回折格子552は、矩形断面の凸条部が一方向に伸長した回折格子とし、矩形断面の凸条部を光学異方性材料で形成し、回折格子面内の互いに直交する方向の直線偏光に対して光学異方性材料が示す屈折率をそれぞれn、n(n≠n)としたときに、nまたはnが充填材544の屈折率と実質的に等しくすることが好ましい。充填剤544と等しい屈折率を示す偏光方向が、第1偏光の偏光方向とされる。
【0059】
このような鋸歯状断面は、光学異方性材料からなる層を形成した後、ストライプ状のマスクを用いたドライエッチングにより形成することができる。矩形断面の凸条部の高さは、回折させる波長すなわち660nmを、Δnおよび2で割った値とする。ここで、Δnは、矩形断面の凸条部を構成する光学異方性材料の、波長660nm帯の第2偏光に対する屈折率と充填材の屈折率との差である。
【0060】
この構成とすることにより、矩形断面の凸条部と充填剤544の屈折率が実質的に等しい第1偏光をそのまま透過させるとともに、前記の屈折率が互いに異なる第2偏光に対しては、波長410nm帯では一部回折させ一部透過させて、波長660nm帯では回折させる回折格子が得られる。
【0061】
第1および第2の回折格子の光学異方性材料としては、液晶を重合硬化させた高分子液晶を用いると、材料を選ぶことにより屈折率の調整が可能で、基板の配向処理により所望の屈折率を示す方向を制御でき、また、格子の加工が容易なため好ましい。
【0062】
高分子液晶を用いた回折格子面は、2枚の基板を、前述の所望の段差が得られるように決められたギャップで対向配置させたセル中に、重合性液晶を注入し、光照射や熱重合により重合硬化させて高分子液晶層を形成し、次いで一方の基板を除去して、フォトリソグラフィグラフィおよびエッチングにより高分子液晶層を加工して、作製される。2枚の基板の、液晶が接する面に、配向膜を形成して一方向にラビングする配向処理を施して液晶分子が揃う方向を制御することにより、第1偏光および第2偏光に対して所望の屈折率を示す光学異方性材料層が得られる。
【0063】
第1および第2の回折格子の凸条部が伸長する方向は、第1および第2偏光の方向によらず、任意に決めることができる。すなわち、光ヘッド装置に組み込んだときに、戻り光が光検出器の所望の受光面に導かれるように、決められる。
【0064】
また、第1および第2の回折格子を、回折格子面内が複数の領域からなる回折格子とし、それぞれの領域の、周期的かつ互いに平行で一方向に伸長する凸条部が伸長する方向を、互いに異なる所定の方向とする構成により、フォーカスエラー信号および/またはトラッキング信号の検出に必要な光ビームを生成させることができる。
【0065】
以下、本発明の広帯域位相板と他の光学素子とを積層一体化した積層光学素子について説明する。
【0066】
本発明の広帯域位相板を、他の光学素子と積層一体化して積層光学素子とすると、光ヘッド装置を構成する部品数をさらに減らすことができ、また調整が容易になり好ましい。その場合、複屈折層が1枚の透明基板上に保持されている前記構成とすることが、積層光学素子の厚さを薄型化や軽量化が図れるためより好ましい。積層一体化する他の素子としては、入射した直線偏光の光束の偏光方向によって光束を直進透過させたり回折させたりする偏光回折素子が好ましく例示される。図5に、広帯域位相板と偏光回折素子とが積層一体化された積層光学素子の一例の概略断面図を示す。この場合、本発明の広帯域位相板305は1枚の石英ガラス基板301上に複屈折層304が保持された構成とされている。また、偏光回折素子は、410nm波長帯用偏光回折素子306が形成された石英ガラス基板302と、660nm波長帯用偏光回折素子307が形成された石英ガラス基板303とを、偏光回折素子が形成された面を対向させて積層し、2枚の基板間を等方性透明材料からなる充填材308で充填した構成とされている。すなわち、積層光学素子は、波長410nm帯および660nm帯における所定の偏光方向の直線偏光、すなわち第1偏光を、偏光回折素子306、307は直進透過させ、広帯域位相板305は略円偏光に変換するように、また、所定の偏光方向と直交する偏光方向の直線偏光、すなわち第2偏光を偏光回折素子306、307が回折させるように、広帯域位相板305と、石英基板302と303に挟持された偏光回折素子306、307とを、方向を揃えて積層一体化して作製される。
【0067】
以下、本発明の広帯域位相板と本発明の偏光回折素子とを積層一体化した積層光学素子540の作用について、図6(b)および(c)を用いて説明する。
【0068】
積層光学素子540は、図6(a)に示した概念的な断面構造のように、石英ガラス基板301、302に挟持された広帯域位相板305と、石英ガラス基板302、303に挟持された偏光回折素子541とが積層されて構成される。石英ガラス基板302は、共通に用いられている。この構成により、積層光学素子540は、偏光回折格子541側から入射した波長410nm帯、660nm帯および780nm帯の第1偏光を、それぞれ円偏光、円偏光および第1偏光に変換して直進透過させ、積層光学素子540の広帯域位相板305側から入射した波長410nm帯、660nm帯の逆回りの円偏光を、いずれも第2偏光に変換し、回折して出射させる。また、広帯域位相板305側から入射した波長780nm帯の第1偏光を、偏光状態を実質的に変えずに直進透過させる。
【0069】
なお、積層光学素子540は、波長780nm帯の光を回折させる回折格子がさらに積層された構成としてもよい。このように構成することによって、光ヘッド装置の一層の小型化が可能となる。
【0070】
(第2の実施の形態)
図7は、本発明の第2の実施の形態に係る光ヘッド装置の第2の構成例を示すブロック図である。図7において、光ヘッド装置500は、波長410nm帯の直線偏光の光束を出射する第1の光源511と、波長660nm帯の直線偏光の光束を出射する第2の光源528と、第1の光源511から出射された光束と第2の光源528から出射された光束とを合波する合波手段529と、合波された光束を平行光束化する第1のコリメータ512と、第1のコリメータ512を透過した光束の一部を反射し、残りを透過させる偏光ビームスプリッタ513と、偏光ビームスプリッタ513で反射した光束を受光して光記録媒体600に向かう光束の光量をモニタする第1のモニタ用光検出器514と、光記録媒体600で反射した波長410nm帯の光束の戻り光を受光する第1の光検出器516と、第1の光検出器516上に上記の戻り光を集光する第1の集光レンズ515と、波長780nm帯の直線偏光の光束を出射する第3の光源521と、第3の光源521が出射した光束を複数のビームに変換するビーム変換用回折格子522と、入射した光束の一部を透過させ、残りを反射させるビームスプリッタ523と、ビームスプリッタ523で反射した光束を平行光束化する第2のコリメータ524と、ビームスプリッタ523を透過した光束を受光して光記録媒体600に向かう光束の光量をモニタする第2のモニタ用光検出器525と、光記録媒体600で反射した波長780nm帯の戻り光を受光する第2の光検出器527と、第2の光検出器527上に波長780nm帯の戻り光を集光する第2の集光レンズ526と、偏光ビームスプリッタ513を透過した光束と第2のコリメータ524を透過した光束を合波する合波手段531と、偏光回折素子と広帯域位相板とが積層された積層光学素子540と、積層光学素子540を出射した光束を光記録媒体600に集光させる対物レンズ532とを備えている。ここで、偏光回折素子と広帯域位相板とは、第1の実施形態におけるものと同様である。
【0071】
第1の光源511、第2の光源528および第3の光源521は、それぞれ波長405nm、660nm、780nmの直線偏光の光束を出射する半導体レーザ等である。ビーム変換用回折格子522は、波長780nm帯の直線偏光を例えば3ビーム等の複数ビームにするようになっている。コリメータ512、524は、入射光を平行光束化するようになっている。偏光ビームスプリッタ513は入射光を偏光方向に応じて反射または透過させるようになっている。
【0072】
モニタ用光検出器514、525および光検出器516、527は、入射光の光量に応じた電気信号を出力するようになっている。集光レンズ515、526は、入射光をそれぞれ光検出器516、527の受光面上に集光するようになっている。合波手段531は、入射した波長410nm帯の直線偏光、波長660nm帯の直線偏光および波長780nm帯の直線偏光とを合波するようになっている。対物レンズ532は入射した光を光記録媒体600上に集光するようになっている。
【0073】
以下、本発明の第2の実施の形態に係る光ヘッド装置500の作用について説明する。
【0074】
この光ヘッド装置500では、積層光学素子540は、偏光回折素子と広帯域位相板とが積層されていて、光源側に偏光回折素子が、光記録媒体側に広帯域位相板が、それぞれ置かれて配置されている。
【0075】
第1の光源511および第2の光源528が出射した波長410nm帯および660nm帯の直線偏光のうち、偏光ビームスプリッタ513を透過する成分が、第1偏光として積層光学素子540に入射するように構成され、第2偏光成分は、偏光ビームスプリッタ513で反射される。同様に、第3の光源521が出射した波長780nm帯の直線偏光は、第1偏光として積層光学素子540に入射するように構成されている。
【0076】
第1の光源511を出射した波長410nm帯の直線偏光は、合波手段529を透過し、第1のコリメータ512を透過して平行光束化され、偏光ビームスプリッタ513に入射する。偏光ビームスプリッタ513に入射した波長410nm帯の直線偏光は、偏光ビームスプリッタ513を透過する第1偏光と偏光ビームスプリッタ513で反射する第2偏光とに振り分けられる。
【0077】
偏光ビームスプリッタ513で反射した波長410nm帯の第2偏光は第1のモニタ用光検出器514に入射し、第1のモニタ用光検出器514によって第1の光源511の出射光量が検出される。偏光ビームスプリッタ513を透過した波長410nm帯の第1偏光は、合波手段531を透過し、積層光学素子540の偏光回折素子にまず入射し直進透過して広帯域位相板で円偏光に変換されて直進して出射する。
【0078】
積層光学素子540を出射した波長410nm帯の円偏光は、対物レンズ532で光記録媒体600上に集光され、光記録媒体600で反射されて逆回りの円偏光の戻り光となる。波長410nm帯の戻り光は、対物レンズ532を透過し、積層光学素子540の広帯域位相板にまず入射して第2偏光に変換され、偏光回折素子で所定の角度回折してフォーカスエラー信号検出用の光束が生成される。次いで、合波手段531を透過し、偏光ビームスプリッタ513で反射され、第1の集光レンズ515によって第1の光検出器516上の受光面に集光され、第1の光検出器516によって情報が読み出される。
【0079】
第2の光源528が出射した波長660nm帯の直線偏光は、合波手段529を反射して、波長410nm帯の場合と同様に、第1のコリメータ512、偏光ビームスプリッタ513、合波手段531を経て、積層光学素子540に第1偏光として入射する。偏光ビームスプリッタ513で反射した波長660nm帯の第2偏光は、波長410nm帯の場合と同様に、第1のモニタ用光検出器514に入射し、第2の光源528の出射光量が検出される。積層光学素子540に入射した波長660nm帯の第1偏光は、波長410nm帯の場合と同様に、偏光回折素子を直進透過し広帯域位相板で円偏光に変換されて、積層光学素子540を円偏光として直進して出射する。
【0080】
積層光学素子540を出射した波長660nm帯の円偏光は、対物レンズ532で光記録媒体600上に集光され、光記録媒体600で反射されて逆回りの円偏光の戻り光となる。波長660nm帯の戻り光は、対物レンズ532を透過し、波長410nm帯の場合と同様に、積層光学素子540の、広帯域位相板により第2偏光に変換され、偏光回折素子により所定の角度回折してフォーカスエラー信号検出用の光束が生成される。次いで、合波手段531、偏光ビームスプリッタ513、第1の集光レンズ515を経て、第1の光検出器516上の受光面に集光され、第1の光検出器516によって情報が読み出される。
【0081】
また、第3の光源521が出射した波長780nm帯の直線偏光は、ビーム変換用回折格子522で例えば3ビーム化されてビームスプリッタ523に入射し、一部がビームスプリッタ523を透過して第2のモニタ用光検出器525に入射し、第3の光源521の出射光量がモニタされる。ビームスプリッタ523で反射された直線偏光は、合波手段531で反射して第1偏光として積層光学素子540に入射し、偏光状態を実質的に変化されずに積層光学素子540を、直進透過する。
【0082】
積層光学素子540を出射した波長780nm帯の第1偏光は、対物レンズ532で光記録媒体600上に集光され、光記録媒体600で反射されて第1偏光の戻り光となる。戻り光は、対物レンズ532を透過し、積層光学素子540を再び直進透過し、合波手段531で反射し、ビームスプリッタ523を透過して、第2の集光レンズ526によって、第2の光検出器527上の受光面に集光される。第2の光検出器527によって情報が読み出される。
【0083】
(第3の実施の形態)
図8は、本発明の第3の実施の形態に係る光ヘッド装置の第3の構成例を示すブロック図である。図8において、光ヘッド装置700は、波長410nm帯、660nm帯および780nm帯の直線偏光の光束を出射する光源711と、偏光回折素子と広帯域位相板とが積層された積層光学素子540に、波長780nm帯の光束を直進透過させるとともに一部回折させる波長780nm帯用の回折格子721をさらに積層した3波長用積層光学素子720と、コリメータ712と、対物レンズ713と、光検出器714と、を備えている。ここで、偏光回折素子、広帯域位相板と、それらが積層された積層光学素子とは、第1の実施形態におけるものと同様である。
【0084】
ここで、光源711から出射される波長410nm帯および660nm帯の光束は直線偏光であって偏光方向はともに第1偏光とする。波長780nm帯の光束はコヒーレントであれば、円偏光でも楕円偏光でもよいが、上記の第1偏光とすると、波長780nm帯の光の利用効率を高くできるため、好適である。
【0085】
波長780nm帯用の回折格子721は偏光型である必要はなく、例えば、透明基板の一方の面に、一方向に伸長する、透明材料からなる凸条部が周期的かつ互いに平行に形成されている無偏光回折素子を用いることができる。また、波長780nm帯用の回折格子721は、少なくとも1枚の透明基板の一方の面に、一方向に伸長する、光学多層膜からなる凸条部が周期的かつ互いに平行に形成されていて、前記凸条部の間の凹部の空間部分を満たすように、かつ、前記凸条部の最上面を覆うまで透明な充填材料によって充填、被覆された構造を有する回折格子を用いることがより好ましい。この構成とすると、波長780nm帯の光を選択的に一部回折するとともに一部を透過させ、また波長410nm帯および660nm帯の光を実質的に回折させずに透過させることができるためである。
【0086】
このような波長780nm帯用の回折格子721は、より具体的には以下のようにして形成することができる。まず、石英ガラス、ガラスなどの透明基板上に、真空蒸着法、スパッタリング法などにより、使用波長における光学吸収が十分に小さい、屈折率nの低屈折率材料層と、屈折率nの高屈折率材料層と、を所定の膜厚で積層した光学多層膜を形成する。各層の材料としては、SiO、SiON、ZrO、Ta、Nb、TiO、Al、MgFなどの無機材料や、有機材料を用いることができるが、低屈折率材料層としてはSiO、高屈折率材料層としてはTaが好ましく例示される。
【0087】
光学多層膜の各層の膜厚構成は、光学膜厚の和(n+n)が、反射帯波長λの(2m+1)/2倍(ただしmは0または正の整数)となるように、それぞれの膜厚が決められた、膜厚dの低屈折材料層と、膜厚dの高屈折率材料層との2層からなる組を、交互に積層し、かつ、積層された光学多層膜の平均屈折率、すなわち、各層の光学膜厚の総和を総膜厚で除した値が、後述する充填剤の屈折率nと、波長410nm帯および660nm帯において実質的に等しくなるようにされた膜構成を基本構成として決められる。ここで反射帯波長λは、波長410nm帯、660nm帯および780nm帯の3つの波長帯の光を透過させるように決められた波長で、720nmとされる。
【0088】
次いで、この光学多層膜を、フォトリソグラフィとドライエッチングにより加工して、一方向に伸長するストライプ状の、光学多層膜からなる凸条部と、光学多層膜が除去されて基板面が露出された凹部とが、互いに平行かつ周期的に形成された格子状とする。さらに、凹部を充填するとともに凸条部の周囲を覆って表面が平滑となるように、屈折率nの充填材からなる層を形成して、波長780nm帯用の回折格子が得られる。このようにして得られた波長780nm帯用の回折格子は、波長780nm帯の光を直進透過させるとともに一部回折させ、波長410nm帯および660nm帯の光は回折させずに直進透過させる。
【0089】
このとき、前述の光学多層膜は、前記基本構成から、さらに全積層数と各層の膜厚を微調整することが好ましく、また、充填材には、使用する波長に対して光学吸収が十分に小さい材料を用いることが好ましく、SiO、SiONなどの酸化物、酸窒化物や、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などの有機物材料や、含フッ素芳香族ポリマー材料、液晶などの複屈折性材料などを用いることができる。
【0090】
この光ヘッド装置700の構成では、3波長用積層光学素子720は、偏光回折素子と広帯域位相板とが積層された積層光学素子540に、さらに波長780nm帯用の回折格子721が積層されていて、この構成により、光ヘッド装置の一層の小型化が可能となる。このとき、3波長用積層光学素子720において、第1および第2の偏光回折格子は、広帯域位相板層より光源側に置かれていれば、積層する順番や回折格子面の方向は任意である。また、波長780nm帯用の回折格子721は、この3波長用積層光学素子中で積層される順番や方向は任意である。
【0091】
以下、本発明の第3の実施の形態に係る光ヘッド装置700の作用について説明する。光源711を出射した波長410nm帯および660nm帯の第1偏光の直線偏光は、3波長用積層光学素子720を円偏光に変換されて直進透過し、コリメータ712を透過して平行光束化され、対物レンズ713で光記録媒体600上に集光される。光記録媒体600で反射された波長410nm帯および660nm帯の戻り光は、対物レンズ713およびコリメータ712を透過し、3波長用積層光学素子720でともに第2偏光に変換されると共に所定の角度で回折されてフォーカスエラー信号検出用の光束が生成され、光検出器714上の受光面に入射し、光検出器714によって情報が読み出される。
【0092】
光源711を出射した波長780nm帯の光束は、3波長用積層光学素子720を構成する積層光学素子540をほぼ直進透過し、波長780nm帯用の回折格子721を一部の回折する部分を除き直進透過する。3波長用積層光学素子720を透過した波長780nm帯の光束は、コリメータ712を透過して平行光束化され、対物レンズ713で光記録媒体600上に集光され、光記録媒体600で反射されて戻り光となる。波長780nm帯の戻り光は、対物レンズ713およびコリメータ712を透過し、3波長用積層光学素子720を構成する波長780nm帯用の回折格子721の作用により所定の角度で回折され、光検出器714上の受光面に入射し、光検出器714によって情報が読み出される。
【0093】
なお、上記では、光源711を出射した光束の光量を検出するためのビームスプリッタと光検出器等からなるモニタ手段が設けられていない構成について説明したが、係るモニタ手段を所定の光路中に設けた構成としてもよい。
【実施例】
【0094】
以下に本願発明を、例を挙げてさらに具体的に説明するが、本願発明は以下の説明に限定されるものではない。例1〜3および例5〜9は実施例で、例4は比較例である。
【0095】
[例1]
まず、高分子液晶からなる複屈折材料1層で構成された広帯域位相板について、図2の模式的断面図を用いて説明する。
【0096】
波長405nmでの屈折率が1.47の石英ガラス基板101、105にポリイミド膜102、104を塗布し、表面を矢印106、107の方向に不織布によりラビングして水平配向膜を形成した。図1(b)に矢印106、107に示すようにラビングは、基板の一辺を基準方向とし、基準方向となす角が45度であって基板を対向させたときにそれぞれの基板のラビング方向が同じ方向になるようにおこなった。その後、周囲にスペーサーを混入したシール(図示せず)を施し間隔が12.8μmで一定となるように両基板を配置して空セルを形成した。次いで[化1]に示す液晶化合物(1)、(2)、(3)および(4)をモル比1:1:1:1で混合した光重合性液晶化合物を調整し、これをシールに設けた注入孔から空セル中に注入して注入孔を封止後、紫外光を照射して液晶化合物を光重合させて、厚さは12.8μmの高分子液晶層103を形成した。
【化1】

【0097】
形成された高分子液晶層103は、分散係数の理想解である前述の式(3)に十分近い分散係数 A=0.05052、B=9.824、C=−615.9を有する。また、波長405nm、660nm、785nmにおける常光屈折率nはそれぞれ1.566、1.537、1.532、異常光屈折率nはそれぞれ1.637、1.601、1.594であった。本例の広帯域位相板に対して、偏光方向が前記基準方向と平行な直線偏光を入射させて、発生した位相差を求めると、波長405nm、660nmおよび785nmの光に対して、それぞれ808度、447度および364度であった。また、位相板面内で基準方向と45度の角度をなす方向を位相板の光学軸としてそれぞれの波長に対する楕円率を求めると、0.97、0.95、0.03で良好な値であった。
【0098】
[例2]
次に、延伸配向された延伸ポリカーボネート層2層が積層された構成の広帯域位相板について、図3を用いて説明する。
【0099】
波長405nmでの屈折率が1.47の石英ガラス基板201に、ガラス基板の一辺を基準方向とし、第1の複屈折層として厚さ75μmの第1のポリカーボネート層203を、図3(b)の矢印205で示したように、進相軸方向が基準方向となす角が12度になるように接着した。次に第1のポリカーボネート層203の上に、第2の複屈折層として厚さ66μmの第2のポリカーボネート層204を、図3(b)の矢印206で示したように、進相軸方向が基準方向となす角が65度で第1のポリカーボネート層203の進相軸方向となす角が53度となるように接着し、さらに石英ガラス基板202を接着、積層した。
【0100】
例1と同様にして、本例の広帯域位相板に対して偏光方向が前記基準方向と平行な直線偏光を入射させて求めた波長405nm、660nmおよび785nmの光に対する位相差はそれぞれ805度、445度、365度であり、楕円率はそれぞれ0.91、0.91および0.04と良好な値であった。
【0101】
[例3]
次に、2層の高分子液晶層が積層された構成の広帯域位相板について説明する。例1と同様にして、石英ガラス基板に、表面がラビングされたポリイミド膜からなる水平配向膜を形成しシールを施して、基板間隔がそれぞれ1.7μm、7μmの空セルを2組形成した。ラビングは、基板間隔1.7μmの空セルに対しては、基板を対向させたときに基準方向とした基板の一辺となす角が8度の方向、基板間隔7μmの空セルに対しては147度の方向となるように施した。次いで、[化2]に示す液晶化合物(5)、(6)、(7)および(8)を質量比1:1:1:1で混合した光重合性液晶化合物を調整し、例1と同様にそれぞれのセルに注入し光重合させて高分子液晶層を形成した。このようにして形成された高分子液晶層はA=0.1011、B=0、C=9230なる分散係数を有し、波長405nm、660nm、785nmにおける常光屈折率nがそれぞれ1.608、1.557、1.551、異常光屈折率nがそれぞれ1.765、1.679、1.667であった。
【化2】

【0102】
次いで、高分子液晶層を挟持する液晶セルの一方の基板を離型剥離し、基準方向を一致させかつ互いのラビング方向がなす角が139度となるように高分子液晶層を重ね合わせて前記3波長帯で透明な接着剤を用いて接着して、本例の高分子液晶層が2層積層された構成の広帯域位相板を得た。
【0103】
例1と同様にして、本例の広帯域位相板に対して前記基準方向と平行な偏光方向の直線偏光を入射させて出射された光の位相差を求めると波長405nm、660nmおよび785nmの光に対して、それぞれ990度、452度、356度であり、楕円率はそれぞれ0.99、0.97および0.03であった。
【0104】
[例4]
例2と同様に延伸配向させた延伸ポリカーボネート1層を、進相軸方向が基準方向となす角が45度になるように石英ガラス基板に接着して広帯域位相板を形成した。波長405nm、660nmおよび785nmの光に対して発生させる位相差がそれぞれ810度、450度および360度となるように延伸させたポリカーボネート層の厚さは70μmであった。例1と同様にして、本例の広帯域位相板が発生させる位相差を測定したところ、波長405nm、660nmおよび785nmの光に対して、それぞれ869度、451度、367度であり、各波長に対する所望の位相差は得られなかった。
【0105】
[例5]
例1の広帯域位相板を組み込んで、図1に構成を示す光ヘッド装置を構成した。この光ヘッド装置において、半導体レーザ401、402および403から出射された波長405nm、660nmおよび780nmの直線偏光は、波長660nmの光を反射し波長780nmの光を透過させる合波プリズム409および波長405nmの光を反射し波長660nmおよび780nmの光を透過させる合波プリズム408により合波され、コリメートレンズ410、アクチュエータ414に保持された偏光回折素子411、例1の広帯域位相板412、対物レンズ413を経て光ディスク415の情報記録面に集光、照射される。情報記録面に形成されたピットの情報を含んで光ディスク415から反射された戻り光束は、それぞれの経路を逆方向に進行する。
【0106】
ここで、前記3つの波長の光源は、出射する光束の直線偏光の偏光方向は偏光回折素子411で回折を生じない方向に揃えられているので、波長405nmおよび660nmの光束は、往路では偏光回折素子411で回折されずに直進透過して例1の広帯域位相板412に入射し、それぞれ9λ/4、5λ/4の位相差を生じて円偏光に変換されて光ディスクに照射される。復路においては、情報記録面で反射されて逆回りの円偏光になった戻り光束は例1の広帯域位相板412により光源と直交する直線偏光に変換されるので、偏光回折素子411で回折され、コリメートレンズ410、合波プリズム408、409を経てそれぞれの波長の光検出器404、405に導かれて、記録された情報が読み出される。
【0107】
また波長780nmについては、半導体レーザ403から出射された直線偏光のレーザ光は、無偏光回折格子407を透過した後、合波プリズム409、408により各々透過され、コリメートレンズ410と、アクチュエータ414に保持された偏光回折素子411、例1の広帯域位相板412および対物レンズ413とを経て光ディスク415に集光、照射される。波長780nmの光束は例1の広帯域位相板412により偏光状態を変えられないので、復路においても波長780nmの戻り光束は偏光回折素子411を回折されずに直進透過し、コリメートレンズ410、合波プリズム408、409を透過して、無偏光回折格子407により回折された1次回折光が光検出器406に導かれて、光ディスク415に記録された情報が読み出される。
【0108】
以上述べたように、例1の広帯域位相板を用いた本例の光ヘッド装置では、波長405nm、660nmおよび780nmの光束を用いて、光ディスクに対して、良好な記録・再生特性で書き込み、読み取りをおこなうことができた。
【0109】
[例6、例7]
例2、例3の広帯域位相板をそれぞれ用いた以外は例5と同様の構成の光ヘッド装置を作製して評価をおこなった。その結果、例5と同様に、波長405nm、660nmおよび780nmの光束を用いて、光ディスクに対して、良好な記録・再生特性で書き込み、読み取りをおこなうことができた。
【0110】
[例8]
図4(a)の概略断面図を示した偏光回折素子541は、重合時に、波長405nmの光に対して常光屈折率nが1.541で異常光屈折率nが1.588、波長660nmの光に対して常光屈折率nが1.517で異常光屈折率nが1.556のアクリル系の光重合性高分子液晶、および、屈折率が波長405nmの光に対して1.541、波長660nmの光に対して1.519の充填材を用いて以下のように形成する。まず、石英ガラス基板303の1つの基板面に配向膜を形成し、ラビング法によって配向処理を施す。本例ではラビング方向は、回折格子の長手方向とした。
【0111】
次に、不図示のシール用の材料としてエポキシ樹脂系接着剤を用い、エポキシ樹脂系接着剤を、石英ガラス基板303の配向膜が形成された基板面の光学的有効領域の外周に印刷する。同様に、所定の不図示の基板(以下、取替え基板という。)の1つの基板面に配向膜を形成してラビング法によって配向処理を施し、配向処理面を対向させて、石英ガラス基板303と取替え基板とを対向させて熱圧着し、シールを形成し、セルを作製する。取替え基板のラビング方向は、基板を対向させたときに互いに平行となるようにおこなった。
【0112】
次に、このセルに、真空注入法で、上記の光重合性高分子液晶を注入してUV露光をおこない、高分子液晶を固化させる。次に、取替え基板を除去し、フォトリソグラフィ技術とエッチング技術を用いて高分子液晶をエッチングし、8ステップで、ステップの幅が同一で、各ステップ間の段差が同一の擬似ブレーズ回折格子面を形成する。ここで、擬似ブレーズ回折格子面は、ピッチpが20μmで、各ステップの段差が第1の回折格子で回折させる波長405nmをΔnおよびステップ数で割った値とされる。Δnは、高分子液晶の異常光屈折率n1.588と充填材の屈折率1.541との差0.047であり、ステップ数は、上記の「8」である。
【0113】
同様に、石英ガラス基板302の1つの基板面に、高分子液晶からなる、矩形断面形状を有する回折格子面を形成する。ここで、矩形断面の回折格子は、ピッチpが33μmで、段差が第2の回折格子で回折させる波長660nmをΔnおよび2で割った値とされる。
【0114】
最後に、石英ガラス基板303と石英ガラス基板302とを、それぞれの基板の回折格子形成面を対向させるとともに、それぞれの基板のラビング方向が平行となるように配置し、基板間およびそれぞれの回折格子面の凹部を充填するように充填材を充填して、波長410nm帯用の鋸歯状断面の第1の回折格子551と、波長660nm帯用の矩形断面の第2の回折格子552とが積層された偏光回折素子541が形成される。
【0115】
最後に、偏光回折素子541と広帯域位相板305とを積層して、例8の積層光学素子540が得られる。
【0116】
例5の構成の光ヘッド装置における広帯域位相板および偏光回折素子を、本例の積層光学素子に代えた以外は同様の構成の光ヘッド装置を作製して、例5と同様の評価をおこなった。その結果、波長405nm、660nmおよび780nmの光束を用いて、光ディスクに対して、良好な記録・再生特性で書き込み、読み取りをおこなうことができた。
【0117】
[例9]
第1および第2の回折格子のピッチを、それぞれ1.0μmおよび1.7μmとした以外は例8と同様にして作製した積層光学素子540に、さらに波長780nm帯用の無偏光回折格子721を積層して、例9の、3波長用積層光学素子720が得られる。この無偏光回折素子721は、一方の透明基板の一方の面に、光学多層膜を形成し、フォトリソグラフィおよびドライエッチングにより光学多層膜を加工して、断面形状が矩形で、一方向に伸長する凸条部と、光学多層膜が除かれて基板表面が露出された凹部とが、互いに平行かつ周期的に形成された回折格子面を形成し、この格子形成面を内側にしてもう1枚の透明基板と対向配置してセルを形成し、充填材を充填して形成される。
【0118】
充填材としては、含フッ素芳香族ポリマーを用いる。前記光学多層膜は、低屈折率材料層としてSiO膜、高屈折率材料層としてTa膜をそれぞれ用い、光学膜厚の和が反射波長帯とされた波長720nmの1/2倍となるようにそれぞれの膜厚を決めた、SiO膜とTa膜の2層の組を、交互に16組積層した、合計32層、総膜厚3.85μmの膜構成をもち、真空蒸着法により形成される。この光学多層膜の平均屈折率は、充填材として用いる含フッ素芳香族ポリマーの屈折率、すなわち光の波長410nm帯において1.58、660nm帯において1.54と実質的に等しくされる。また前記格子の格子ピッチは2μmでデューティは0.5である。
【0119】
[例10]
例9の3波長用積層光学素子を用いて、図8に構成を示した光ヘッド装置を構成する。光源光として、波長405nm、660nmおよび780nmの光束を用いて、光ディスクに対して書き込み、読み取りをおこなうと、良好な記録・再生特性が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の広帯域位相板を用いると、波長410nm帯、660nm帯および780nm帯の光を用いる光ディスクに対して、安定して記録および/または再生が可能な光ヘッド装置が実現される。
【符号の説明】
【0121】
11、12、13 半導体レーザ
14、15、16 光検出器
17、18、19 偏光回折素子
20、21、22 1/4位相板
23、24 合波プリズム
25 コリメートレンズ
26 対物レンズ
27 アクチュエータ
28 光ディスク
101、105 石英ガラス基板
102、104 配向膜(ポリイミド膜)
103 高分子液晶層
106、107 ラビング方向
201、202 石英ガラス基板
203、204 ポリカーボネート層
205、206 ポリカーボネート層の進相軸方向
301、302、303 石英ガラス基板
304 複屈折層
305 広帯域位相板
306 410nm波長帯用偏光回折素子
307 660nm波長帯用偏光回折素子
308 充填材
401、402、403 半導体レーザ
404、405、406 光検出器
407 無偏光回折格子
408、409 合波プリズム
410 コリメートレンズ
411 偏光回折素子
412 広帯域位相板
413 対物レンズ
414 アクチュエータ
415 光ディスク
500、700 光ヘッド装置
511、521、528、711 光源
512、524、712 コリメータ
513 偏光ビームスプリッタ
514、525 モニタ用光検出器
515、526 集光レンズ
516、527、714 光検出器
522 ビーム変換用回折格子
523 ビームスプリッタ
529、531 合波手段
532、713 対物レンズ
540 積層光学素子
541 偏光回折素子
542 第1の回折格子の鋸歯状断面の凸条部
543 第2の回折格子の矩形断面の凸条部
544 充填材
551 第1の回折格子
552 第2の回折格子
600 光記録媒体
720 3波長用積層光学素子
721 波長780nm帯用の回折格子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複屈折を示す層と1枚以上の透明基板とを備え、波長410nm帯の光束に対して略(2m−1)・λ/4、波長660nm帯の光束に対して略(2m−1)・λ/4、波長780nm帯の光束に対して略m・λ(λは波長、m、m、mは自然数)のそれぞれの位相差を発生させることを特徴とする広帯域位相板。
【請求項2】
前記広帯域位相板が発生させる位相差が、波長410nm帯の光束に対して略9λ/4、波長660nm帯の光束に対して略5λ/4、波長780nm帯の光束に対して略λである請求項1に記載の広帯域位相板。
【請求項3】
前記広帯域位相板が発生させる位相差が、波長410nm帯の光束に対して略11λ/4、波長660nm帯の光束に対して略5λ/4、波長780nm帯の光束に対して略λである請求項1に記載の広帯域位相板。
【請求項4】
前記複屈折を示す層が、1層の複屈折材料からなる層を有している請求項1、2または3に記載の広帯域位相板。
【請求項5】
前記複屈折を示す層が、2層の複屈折材料からなる層を有している請求項1、2または3に記載の広帯域位相板。
【請求項6】
前記複屈折材料が高分子液晶である請求項4または5に記載の広帯域位相板。
【請求項7】
前記複屈折材料が延伸ポリカーボネートである請求項5に記載の広帯域位相板。
【請求項8】
光学異方性材料からなり、鋸歯形状の断面をもつ一方向に伸長する凸条部が周期的かつ互いに平行に形成されたブレーズド回折格子、または、光学異方性材料からなり、所望の鋸歯形状を8段以上の階段状に近似した鋸歯形状の断面をもつ一方向に伸長する凸条部が周期的かつ互いに平行に形成された擬似ブレーズド回折格子である第1の回折格子と、
光学異方性材料からなり、矩形断面をもつ一方向に伸長する凸条部が周期的かつ互いに平行に形成された回折格子である第2の回折格子と、が積層され、
前記第1の回折格子が、所定の偏光方向の、波長410nm帯、660nm帯および780nm帯の直線偏光を直進透過させ、前記所定の偏光方向と直交する偏光方向の、波長410nm帯の直線偏光を回折させ、波長660nm帯の直線偏光を直進透過させ、
前記第2の回折格子が、前記所定の偏光方向の、波長410nm帯、660nm帯および780nm帯の直線偏光を直進透過させ、前記所定の偏光方向と直交する偏光方向の、波長410nm帯の直線偏光を直進透過させ、波長660nm帯の直線偏光を回折させることを特徴とする偏光回折素子。
【請求項9】
前記所定の偏光方向と直交する偏光方向の直線偏光に対して、波長410nm帯における前記第1の回折格子の回折効率と前記第2の回折格子の透過率との積が、波長660nm帯における前記第1の回折格子の透過率と前記第2の回折格子の回折効率との積より大きい請求項8に記載の偏光回折素子。
【請求項10】
請求項1に記載の広帯域位相板と、請求項8に記載の偏光回折素子との両方を有する積層光学素子。
【請求項11】
請求項10に記載の積層光学素子と、波長780nm帯の直線偏光を回折させる回折格子とが積層された3波長用積層光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−165450(P2010−165450A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38209(P2010−38209)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【分割の表示】特願2005−240033(P2005−240033)の分割
【原出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】