説明

床暖房用の木質系床材およびこれを用いた床暖房ユニット

【課題】木質繊維板により床表面の耐傷性能を確保すると共に、実部近傍の端部の反り上がりを抑えることができる床暖房用の木質系床材を提供する。
【解決手段】床暖房用の木質系床材1Aは、周縁10cに実部15が形成されると共に、裏面10bに温水パイプ20を収容する複数のパイプ収容溝13が形成された木質系基材10と、木質系基材10の表面10aに貼着された木質繊維板30と、を少なくとも備えている。パイプ収容溝13のうち一部の収容溝部13aは、実部近傍において、実部に沿って形成されている。木質繊維板30は、収容溝部13aの溝幅13bの中心13c、かつ、収容溝部13aの溝長手方向Lに沿った位置において、分割されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質系床材に係り、特に、温水パイプを収容するパイプ収容溝を有した床暖房用に好適な木質系床材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、木質系基材の表面に、突き板、化粧合成樹脂シート、化粧紙等のような表面化粧材を貼着した木質系床材は知られている。木質系基材には、ラワン系合板基材や、芯層部の単板を針葉樹単板、表裏層の単板を広葉樹単板とする練り合わせ基材等が用いられている。このような木質系床材において、合板系の基材の比重が0.4〜0.6のように小さいことから、フロア施工時あるいはフロア使用時にフロア表面に物を落下させると、木質系床材の表面に凹みが生じることがあった。また、キャスター付きの椅子やキャビネット等を移動させると、やはり凹みが生じることがあった。
【0003】
それを改善するために、木質系基材と表面化粧材との間に、木質系基材に比べて、高比重(0.6〜1.2程度)である木質繊維板を貼着するようにした木質系床材が知られている。それにより、耐キャスター性や耐凹み性は改善される。しかし、基材である合板に比べてMDF等の木質繊維板は水分変化に対する寸法安定性が悪く、乾燥すると木質系基材に比べて大きな収縮が起こる。それにより、木質系床材に反りが生じることがある。
【0004】
このような点を鑑みて、木質繊維板に、木質系基材の表面に達する多数のスリットを形成した木質系床材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この木質系床材によれば、木質繊維板は、スリットにより、多数の独立した木質繊維片として分断されるため、各木質繊維片は、独立した挙動をとることができる。この結果として、木質繊維板の寸法変化に起因した木質系床材の反りを確実に抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−313874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来から床暖房ユニットとして、温水パイプに温水を通湯することにより、床の暖房を行う温水式の床暖房ユニットは一般的に知られており、この床暖房ユニットにおいても木質系床材が用いられている。
【0007】
具体的には、図8(a)及び(b)に示すように、床暖房ユニット9は、熱源25に接続された温水パイプユニット2と、この上に敷設される木質系床材6とを少なくとも備えている。温水パイプユニット2は、平面視矩形状の金属製の基材シート21と、その上に、複数列のパイプパターンに形成された長尺の温水パイプ22と、これらを覆う上部カバー23とを備えている。さらに、木質系床材6は、木質系基材61、木質繊維板62、及び表面化粧材63を順次積層したものであり、その裏面には、上部カバー23に収容された温水パイプ22を覆うように、そのパターンに沿ったパイプ収容溝65が形成されている。
【0008】
ここで、パイプ収容溝65を有した木質系床材6を用いた場合、パイプ収容溝65の直上に配置された木質繊維板62の部分62aは、他の部分に比べて裏面側から水分が抜け易く、温水パイプ22に温水を通湯する際には、この現象は顕著なものとなる。これにより、この部分62aの木質繊維が、他の部に比べてより大きく収縮する。さらに、木質系基材61のうち、パイプ収容溝65が形成された部分の肉厚は、他の部分の肉厚よりも薄いので、パイプ収容溝65の近傍は、木質繊維板62の収縮により変形し易い。
【0009】
特に、図9に示すように、雄実部67a及び雌実部67b近傍にある収容溝部65a直上の木質繊維板62の部分62aに図の矢印の方向に収縮が発生すると、その収縮により木質系基材61の雄実部67a及び雌実部67b近傍である床材端部が反り上がってしまう。しかしながら、特許文献1の如く、例えば木質繊維板に単に複数のスリットを設けた場合、床材の全体的な反りを抑えることはできるが、この実部近傍の端部の反り上がりを充分に抑えることができない。
【0010】
本発明は、このような課題を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、木質繊維板により床表面の耐傷性能を確保すると共に、実部近傍の端部の反り上がりを抑えることができる床暖房用の木質系床材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、木質系床材の実部近傍の反りを抑えるためには、木質繊維の収縮の方向と、木質系床材の強度との関係を把握した上で、より最適な位置で、木質繊維板の木質繊維の収縮を制御し、収縮を抑制する構造を採ることが重要であるとの知見を得た。
【0012】
本発明は、この新たな知見に基づくものであり、第1発明に係る床暖房用の木質系床材は、周縁に実部が形成されると共に、裏面に温水パイプを収容する複数のパイプ収容溝が形成された木質系基材と、該木質系基材の表面に貼着された木質繊維板と、を少なくとも備え、前記パイプ収容溝のうち一部の収容溝部が、前記実部近傍において、該実部に沿って形成された床暖房用の木質系床材であって、前記木質繊維板は、前記収容溝部の溝幅の中心、かつ、前記収容溝部の溝長手方向に沿った位置において、分割されていることを特徴とする。
【0013】
第1発明に係る床暖房用の木質系床材を用いて、床暖房を行った場合、実部近傍かつ実部に沿って形成された収容溝部では、その近傍の木質系基材の木材及び木質繊維板の木質繊維の水分が抜け易くなる。これにより、この部分の木質繊維板の木質繊維は、他の部分に比べて大きく収縮することになる。
【0014】
そこで、第1発明によれば、前記収容溝部の溝幅の中心、かつ、前記収容溝部の溝長手方向に沿った位置において、前記木質繊維板を分割したので、この分割位置である溝幅の中心を挟んで、中央に位置する木質繊維板の木質繊維と、実部近傍に位置する木質繊維板の木質繊維とのそれぞれが独立して収縮することになる。すなわち、中央に位置する木質繊維板は、分割位置を挟んで中央側に収縮し、実部近傍に位置する木質繊維板の繊維は、端部側(実部側)に収縮することになる。
【0015】
このような結果、木質系床材の実部近傍の端部の反り上がりを抑えることができる。さらに、木質系基材の表面には、木質繊維板が貼着されているので、床表面の耐傷性能を確保することができる。
【0016】
第1発明に係るより好ましい態様としては、前記木質系基材は、溝幅方向に沿った繊維方向の幅方向単板と、前記溝長手方向に沿った繊維方向の長手方向単板とが、複数層になるように積層した合板であり、前記収容溝部の底部から木質系基材の表面までの前記幅方向単板の厚みは、前記収容溝部の底部から前記木質系基材の表面までの前記長手方向単板の厚みよりも厚い。
【0017】
この態様の木質系基材を構成する幅方向単板は、溝幅方向に沿って(溝幅方向と同じ方向に)単板の繊維が配列されているので、木質系基材の乾燥時には、溝幅方向の木材の収縮は、溝長手方向の木材の収縮に比べて小さい。一方、木質系基材の構成する長手方向単板は、溝長手方向に沿って(同じ方向に)単板の繊維が配列されているので、木質系基材の乾燥には、溝長手方向の木材の収縮は、溝幅方向の木材の収縮に比べて大きい。
【0018】
従って、収容溝部の形成により床材の肉厚の薄い部分、すなわち前記収容溝部の底部から木質系基材の表面までの部分において、幅方向単板の総厚みが、長手方向単板の総厚みよりも厚くなり、溝幅方向の木質繊維板の収縮を、幅方向単板によって抑えることができる。これにより、より一層、実部近傍の端部の反り上がりを抑えることができる。
【0019】
また、第2発明に係る床暖房用の木質系床材は、周縁に実部が形成されると共に、裏面に温水パイプを収容する複数のパイプ収容溝が形成された木質系基材と、該木質系基材の表面に貼着された木質系緩衝板と、を少なくとも備え、前記パイプ収容溝のうちの一部の収容溝が、前記実部近傍において、該実部に沿って形成された床暖房用の木質系床材であって、前記木質系緩衝板は、前記木質系基材の表面の中央に配置された木質繊維板と、該木質繊維板に隣接するように配置された、前記木質系基材よりも比重の高い木質単板とからなり、前記木質単板は、該収容溝部の溝長手方向に沿って、かつ、前記溝幅方向において前記周縁から前記収容溝部を覆う位置まで、配置されており、前記木質単板の繊維方向は、前記収容溝の溝長手方向に対して、交差していることを特徴とする。
【0020】
第2発明に係る床暖房用の木質系床材を用いて、床暖房を行った場合、第1の発明と同様に、収容溝部では水分が抜け易い。そこで、第2発明によれば、前記木質単板の繊維方向は、前記収容溝部の溝長手方向に対して、交差しているので、水分変化に対する溝幅方向の木質単板の寸法変化は、木質繊維板の寸法変化に比べて小さい(寸法安定性が高い)。
【0021】
これにより、たとえ、収容溝部において水分が抜け易くなったとしても、木質単板は、該収容溝部の溝長手方向に沿って、かつ、前記溝幅方向において前記周縁から前記収容溝部を覆う位置まで配置されているので、溝幅方向における収容溝部直上の木質単板の寸法変化はほとんどない。
【0022】
この結果、前記収容溝部近傍の溝幅方向における寸法変化はほとんどないので、木質系床材の実部近傍の端部の反り上がりを抑えることができる。さらに、木質系基材の表面には、木質系基材よりも比重が高い木質単板と、木質繊維板とからなる木質系緩衝板が貼着されているので、床表面の耐傷性能を確保することができる。
【0023】
第2発明に係るより好ましい態様としては、前記木質系基材は、溝幅方向に沿った繊維方向の幅方向単板と、前記溝長手方向に沿った繊維方向の長手方向単板と、を複数層になるように積層した合板であり、前記収容溝部の底部から木質系基材の表面までの前記幅方向単板の厚みと前記木質単板の厚みを合わせた厚みは、前記収容溝部の底部から前記木質系基材の表面までの前記長手方向単板の厚みよりも厚い。
【0024】
この態様の木質系基材を構成する幅方向単板及び木質単板の木材の収縮は、溝長手方向単板の木材の収縮に比べて小さい。従って、収容溝部の形成により肉厚の薄い部分、すなわち前記収容溝部の底部から木質系基材の表面までの部分において、幅方向単板の総厚み及び木質単板の厚みを合計した厚みが、長手方向単板の総厚みよりも厚いので、溝幅方向の木質繊維板の収縮を、幅方向単板及び木質単板によって抑えることができる。これにより、より一層、実部近傍の端部の反り上がりを抑えることができる。
【0025】
なお、第1及び第2の発明でいう「収容溝部の底部から木質系基材の表面までの幅方向単板の厚み」とは、収容溝部の底部から木質系基材の表面までに幅方向単板が複数層あるときは、これらの合計の厚み(総厚み)であり、長手方向単板の場合も同様である。
【0026】
第1及び第2の発明のさらにより好ましい形態としては、前記木質系基材は、長辺及び短辺からなる矩形状の基材であり、前記収容溝部は、短辺方向に沿って形成されている。この態様によれば、収容溝部が、短辺方向に沿って形成された場合、長辺方向に沿って形成された場合に比べて、木質繊維板の収縮により、短辺端部が反り上がりやすいので、より効果的に反り上がりを抑制することができる。さらに、上述した木質系床材のパイプ収容溝に、温水パイプを収容して、床暖房ユニットとすることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る床暖房用の木質系床材によれば、床表面の耐傷性能を確保すると共に、床暖房時における実部近傍の端部の反り上がりを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1発明の実施形態に係る床暖房システムの一例を説明する模式図であり、(a)は、床暖房システムの斜視図、(b)は、表面化粧材を省略した状態における、木質系基材と木質繊維板との配置関係を示した分解斜視図。
【図2】図1(b)のA−A線に沿う断面を含む木質系床材の模式的斜視図。
【図3】図1に示す床暖房システムにおける、木質系床材の実部近傍の状態を説明するための図。
【図4】第2発明の実施形態に係る床暖房システムの木質系床材の模式的斜視図であり、第1発明の図2に相当する模式的斜視図。
【図5】図4に示す床暖房システムにおける、木質系床材の実部近傍の状態を説明するための図。
【図6】別の態様に係る表面化粧材を省略した状態における、木質系基材と木質繊維板との配置関係を示した分解斜視図。
【図7】実施例1〜3及び比較例1及び2に係る木質系床材の模式的断面図であり、(a)は、実施例1に係る木質系床材の断面図、(b)は、実施例2に係る木質系床材の断面図、(c)は、実施例3に係る木質系床材の断面図、(d)は、比較例1に係る木質系床材の断面図、(e)は、比較例2に係る木質系床材の断面図。
【図8】従来に係る床暖房システムの一例を説明する模式図であり、(a)は、床暖房システムの斜視図、(b)は、B−B線に沿う断面図。
【図9】図8に示す床暖房システムにおける、木質系床材の実部近傍の状態を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、いくつかの実施の形態に基づき本発明を説明する。
図1は、第1発明の実施形態に係る床暖房システムの一例を説明する模式図であり、(a)は、床暖房システムの斜視図、(b)は、表面化粧材を省略した状態における、木質系基材と木質繊維板との配置関係を示した分解斜視図である。図2は、図1(b)のA−A線に沿う断面を含む木質系床材の模式的斜視図であり、図3は、図1に示す床暖房システムにおける、木質系床材の実部近傍の状態を説明するための図である。
【0030】
図1に示すように、本実施形態に係る床暖房システム100は、温水パイプユニット2と、この上に敷設される木質系床材1Aとを少なくとも備えている。温水パイプユニット2は、上述した図8(a)と同じ構造である。より詳細に説明すると、温水パイプユニット2は、床下地面に載置されるアルミニウム等の金属製の基材シート21を備えている。基材シート21は平面視矩形状であり、その上に、複数列の直線状部22aとその両端側のUターン部22bとを有するパイプパターンに形成された長尺の温水パイプ22がほぼ全面にわたって配置される。温水パイプ22を覆うように、基材シート21と同じ大きさでありかつパイプ収容部23aを備えた上部カバー23が、パイプ収容部23aに温水パイプ22を収容した状態で載置され、基材シート21と上部カバー23の少なくとも4周囲の部分が適宜の粘着剤を用いて粘着積層されることにより、全体が一体化されている。さらに、温水パイプユニット2の温水パイプ22は、ボイラなどの熱源25との間に閉じた温水の循環流路を形成し、床暖房フロア用の温水循環システムが構築される。
【0031】
また、温水パイプユニット2には、複数の床暖房用の木質系床材1Aが敷設されている。各木質系床材1Aを構成する木質系基材10は、長辺及び短辺からなる矩形状の基材であり、その周縁10cには、雄実部15a及び雌実部15bが形成されている。雄実部15aと雌実部15bを係合させることにより、木質系床材同士を連結することができる。
【0032】
また、木質系基材10の表面10aには、木質繊維板30及び表面化粧材40が、例えば酢酸ビニル系接着剤により順次貼着されている。木質系基材10としては、例えば、広葉樹や針葉樹からなる通常の合板であり、本実施形態ではラワン合板を用いている。また、木質繊維板としては、MDFを用いており、硬質繊維板等であってもよい。木質繊維板MDFの厚さ0.3〜6.0mm程度、密度0.6〜1.2g/cm程度である。さらに、表面化粧材40としては、例えば、ナラ材、カバ材、ブナ材、チーク材等からなる、好ましくは厚さ0.2〜1.0mm程度の突き板、化粧合成樹脂シート、金属シート、化粧木目印刷された薄葉紙のような化粧紙、等が挙げられる。
【0033】
一方、各木質系基材10の裏面には、上方からパイプ収容部23aに収容された温水パイプ22を覆うように、そのパターンに沿った複数のパイプ収容溝13が形成されている。パイプ収容溝13には、短辺方向の雄実部15a及び雌実部15b近傍において、短辺方向の雄実部15a及び雌実部15bに沿って、収容溝部13aが形成されている。
【0034】
そして、図1(b)及び図2に示すように、木質繊維板30は、収容溝部13aの溝幅13bの中心13c(中心線に沿った位置)、かつ、収容溝部13aの溝長手方向Lに沿った位置において、中央木質繊維片31及び一対の端部木質繊維片32に、分割されている。なお、溝長手方向Lと短辺方向とは同一方向であり、溝幅方向Wと長辺方向とは同一方向である。
【0035】
木質繊維板を分割する方法としては、例えば、木質系基材10と木質繊維板を貼着したものを作り、それに対して、表面化粧材側から、レーザー加工、ウォータージェット加工、超音波カッター、エンドミル(ルーター)、のこ(丸のこ等)、ナイフ刃、トムソン刃、等の従来知られている加工手段により切り込みを入れることにより、木質繊維板30を中央木質繊維片31及び一対の端部木質繊維片32に分割してもよい。また、中央木質繊維片31及び一対の端部木質繊維片32を個別に製作して、これらを木質系基材10の表面に貼着してもよい。
【0036】
さらに、図2に示すように、木質系基材10は、前述したラワン合板からなり、具体的には、溝幅方向Wに沿った繊維方向の幅方向単板11b,11dと、溝長手方向Lに沿った繊維方向の長手方向単板11a,11c,11eとが、複数層になるように交互に積層した合板からなる。なお、本実施形態では、5プライの合板であるが、このプライ数は特に限定されるものではない。
【0037】
また、収容溝部13aの底部13fから木質系基材10の表面10aまでの幅方向単板11bの厚みt2は、収容溝部13aの底部13fから木質系基材10の表面10aまでの長手方向単板11aの厚みt1よりも厚くなっている。
【0038】
そして、温水パイプユニット2の上に木質系床材1Aを敷設し、温水パイプ22に温水を通湯することにより床暖房を行う。この際、収容溝部13aを含むパイプ収容溝13では、その近傍の木質系基材10の木材及び木質繊維板30の木質繊維の水分が抜け易くなる。
【0039】
そこで、本実施形態では、木質繊維板30を、収容溝部13aの溝幅13bの中心13c、かつ、収容溝部13aの溝長手方向Lに沿った位置において、中央木質繊維片31及び一対の端部木質繊維片32に、分割したので、溝幅13bの中心13cを挟んで、中央木質繊維片31の木質繊維と、端部木質繊維片32の木質繊維とのそれぞれが独立して収縮することになる。このような結果、実部近傍の端部の反り上がりを抑えることができる。さらに、木質系基材の表面には、木質繊維板30が貼着されているので、床表面の耐傷性能を確保することができる。
【0040】
また、幅方向単板11bは、溝幅方向Wに沿って単板の繊維が配列されているので、木質系基材10の乾燥時には、溝幅方向Wの木材の収縮は、溝長手方向Lの木材の収縮に比べて小さい。従って、収容溝部13aの形成により床材1Aの肉厚の薄い部分、すなわち収容溝部13aの底部13fから木質系基材10の表面までの部分において、幅方向単板11bの厚みt2が、長手方向単板11aの厚みt1よりも厚いので、溝幅方向Wの木質繊維板30の収縮を、幅方向単板11bによって抑えることができる。これにより、より一層、実部近傍の端部の反り上がりを抑えることができる。
【0041】
図4は、第2発明の実施形態に係る床暖房システムの木質系床材の模式的斜視図であり、第1発明の図2に相当する模式的斜視図であり、図5は、図4に示す床暖房システムにおける、木質系床材の実部近傍の状態を説明するための図である。図6は、別の態様に係る表面化粧材を省略した状態における、木質系基材と木質繊維板との配置関係を示した分解斜視図である。
【0042】
本実施形態では、図1に示す実施形態と、床暖房用システムのうち木質系床材の木質繊維板(木質系緩衝板)の構造のみが相違し、他の装置構成は同じである。したがって、木質系床材のみを説明し、他の構成は、同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0043】
図4及び図5に示すように、本実施形態に係る木質系床材1Bは、上述した木質系床材1Aと同様に、長辺及び短辺からなる矩形状の基材であり、その周縁には、雄実部15a及び雌実部15bが形成されている。木質系基材10の表面10aには、木質系緩衝板30A及び表面化粧材40が、例えば酢酸ビニル系接着剤により順次貼着されている。
【0044】
一方、各木質系基材10の裏面10bには、上方からパイプ収容部23aに収容された温水パイプ22を覆うように、そのパターンに沿った複数のパイプ収容溝13が形成されている。パイプ収容溝13には、短辺方向の雄実部15a及び雌実部15b近傍において、短辺方向の雄実部15a及び雌実部15bに沿って、収容溝部13aが形成されている。
【0045】
木質系緩衝板30Aは、木質系基材10の表面10aの中央に配置された木質繊維板33と、木質繊維板33に隣接するように配置された、木質単板34とからなる。木質繊維板33は、上述した材料と同じ材料からなる。木質単板34の比重は0.6〜1.2程度であり、木質系基材10の比重(0.4〜0.6)よりも高い材料である。木質単板34としては、堅木等を挙げることができ、カバ、ブナ、ナラ、ケヤキ、マホガニー、チーク、アピトン、カポールなどの広葉樹の木材を挙げることができる。
【0046】
このような木質単板34は、収容溝部13aの溝長手方向Lに沿って、かつ、溝幅方向Wにおいて、周縁10cから収容溝部13aを覆う位置Pまで、配置されている。木質単板34の繊維方向は、収容溝部13aの溝長手方向Lに対して、直交している。本実施形態では、木質単板34の繊維方向を、収容溝部13aの溝長手方向Lに対して、直交させたが、溝幅方向Wにおける水分変化に対する収縮を抑えることができるのであれば、所定の角度で、木質単板34の繊維方向を、収容溝部13aの溝長手方向Lに対して、交差させてもよい。
【0047】
また、木質系基材10は、溝幅方向Wに沿った繊維方向の幅方向単板11b,11dと、溝長手方向Lに沿った繊維方向の長手方向単板11a,11c,11eと、を複数層(複数プライ)になるように積層した合板である。なお、本実施形態では、5プライの合板であるが、このプライ数は特に限定されるものではない。
【0048】
また、収容溝部13aの底部13fから木質系基材10の表面10aまでの幅方向単板11bの厚みt5と木質単板34の厚みt3を合わせた総厚みt3+t5は、収容溝部13aの底部13fから木質系基材10の表面10aまでの長手方向単板11aの厚みt4よりも厚くなっている。
【0049】
本実施形態によれば、木質単板34の繊維方向は、収容溝部13aの溝長手方向Lに対して、直交しているので、水分変化に対する溝幅方向Wの木質単板の寸法変化は、木質繊維板33の寸法変化に比べて小さい。これにより、たとえ、収容溝部13aにおいて水分が抜け易くなったとしても、木質単板34は、収容溝部13aの溝長手方向Lに沿って、かつ、溝幅方向Wにおいて、周縁10cから、収容溝部13aを覆う位置まで、配置されているので、溝幅方向Wにおける収容溝部直上の木質単板の寸法変化はほとんどない。
【0050】
この結果、収容溝部13aの底部13fから木質系基材10の表面までの溝幅方向Wにおける寸法変化はほとんどないので、木質系床材1Bの実部近傍の端部の反り上がりを抑えることができる。さらに、木質系基材10の表面には、木質系基材10よりも比重が高い木質単板34と、木質繊維板33とからなる木質系緩衝板30Aが貼着されているので、床表面の耐傷性能を確保することができる。
【0051】
また、幅方向単板11b及び木質単板34は、溝幅方向Wに沿って単板の繊維が配列されているので、木質系基材10の乾燥時には、溝幅方向Wの木材の収縮は、溝長手方向Lの木材の収縮に比べて小さい。従って、収容溝部13aの形成により肉厚の薄い部分、すなわち収容溝部13aの底部13fから木質系基材10の表面までの部分において、幅方向単板11b及び木質単板34の厚みを合わせた総厚みt3+t5が、長手方向単板11aの厚みt4よりも厚いので、溝幅方向Wの木質繊維板30の収縮を、幅方向単板11b及び木質単板34によって抑えることができる。これにより、より一層、実部近傍の端部の反り上がりを抑えることができる。
【0052】
また、本実施形態では、木質系床材1Bを構成する木質系基材10にラワン合板を用いたが、例えば、図6に示すように、木質系基材10に、上述した堅木単板を用いても良く、木質単板と木質系基材とを一体成形した成形体10Aに、木質繊維板33を配置して、さらに、表面化粧材(図示せず)を積層して、木質系床材1Cとしてもよい。
【実施例】
【0053】
以下に実施例に従って、第1及び第2の発明の木質系床材を説明する。
[実施例1]
以下の実施例1は、第1の発明に係る木質系床材の実施例であり、以下の(1)〜(7)の手順に従って、木質系床材を作製し、評価した。
(1)945mm×1840mm×11.0mm(厚さ)のラワン合板を木質系基材として用意した。具体的には、図7(a)に示すように、木質系基材の表面から、溝長手方向Lに沿った繊維方向の長手方向単板11a,11c,11eと、溝幅方向Wに沿った繊維方向の幅方向単板11b,11dと、を交互に積層した5プライのラワン合板であり、表面から順に、0.4mm、3.2mm×3層、1.0mmの厚さの単板を積層したものである。
(2)945mm×1840mm×1.0mm(厚さ)、比重0.85のMDFを用意した。
【0054】
(3)上記ラワン合板と木質繊維板としてのMDFとを酢酸ビニル系接着剤で貼り合わせた。接着剤は合板側に16g/尺角の量で塗布し、MDFを載せて、8kg/cmの圧力をかけ、コールドプレスで60分間プレスした。
(4)(3)で得た積層基材を1日養生後、溝加工前の収容溝部13aの溝幅の中心13cとなる位置(具体的には、端部から距離d37.875mmの位置)、かつ、収容溝部13aの溝長手方向に沿った位置において、中央木質繊維片31及び一対の端部木質繊維片32に、MDFを分割した。切り込み深さを1.0mmに固定した刃物で切込みを入れ、その後、MDFが0.6mmの厚さになるまで研磨した。刃物の厚みは0.4mmのものを使用した。なお、MDFを分割する際には、レーザー加工機を用いて、レーザー加工条件を、例えば、加工速度2000mm/min、出力60W、周波数300Hzとし、アシストガスとしてエアーを用いてもよい。
【0055】
(5)(4)で得たMDF分割後の積層基材に、1尺×6尺、0.3mm厚のナラ材突き板を3列貼り付けた。用いた接着剤は尿素樹脂+酢酸ビニル混合接着剤であり、MDF表面に8g/尺角の量で塗布し、突き板を載せて、圧力8kg/cm、120℃のホットプレスで1分間プレスした。
(6)(5)で得た床材(床台板)を3分割し、その周囲に実加工を施し、着色ワイピング塗装、下塗り塗装、透明上塗り塗装を行った。さらに、端部から距離d37.875mmの位置を溝幅の中心として、溝幅w15mm、深さ7.7mm、底部がR3.0mmとなるパイプ収容溝が形成されるように、溝加工を施して、木質系床材とした。なお、収容溝部の底部から木質系基材の表面までの部分において、幅方向単板の厚みが2.9mm、長手方向単板の厚みが、0.4mmとなり、幅方向単板の厚みが、長手方向単板の厚みよりも厚くなっている。
(7)(6)で得た木質系床材を、温水パイプユニットに組み込んで、所定の条件で床暖房を行い、木質系床材の端部の反りを計測した。この結果を表1に示す。
【0056】
[実施例2]
実施例1と同じようにして、木質系床材を製作し、評価した。実施例1と相違する点は、(1)の木質系基材の構成である。具体的には、図7(b)に示すように、木質系基材の表面から、溝長手方向Lに沿った繊維方向の長手方向単板11a,11c,11e、11gと、溝幅方向Wに沿った繊維方向の幅方向単板11b,11d、とを交互に積層した7プライのラワン合板であり、表面から順に、0.63mm、19.5mm×5層、0.62mmの厚さの単板を積層したものである。従って、収容溝部の溝加工により、収容溝部の底部から木質系基材の表面までの部分において、幅方向単板の総厚み(合計の厚み)が1.35mm、長手方向単板の総厚み(合計の厚み)が、1.95mmとなり、幅方向単板の総厚みが、長手方向単板の総厚みよりも薄くなっている。木質系床材の端部の反りの計測結果を表1に示す。
【0057】
[実施例3]
以下の実施例3は、第2の発明に係る木質系床材の実施例であり、実施例1と相違する点は、(2)において、945mm×1666.5mm×1.0mm(厚さ)、比重0.85のMDF34と、945mm×86.75mm×1.0mm(厚さ)の一対の堅木単板(カバ材)33を準備して、これらを、上述する(3)の条件で、ラワン合板に貼り合わせた点である。なお、収容溝部13aの底部13fから木質系基材10の表面までの部分において、幅方向単板及び木質単板34の厚みを合わせた総厚みが3.5mm、長手方向単板の厚みが、0.4mmであり、幅方向単板及び木質単板34の厚みを合わせた総厚みが、長手方向単板の厚みよりも厚くなっている。木質系床材の端部の反りの計測結果を表1に示す。
【0058】
[比較例1]
実施例1と同じように、木質系床材を作製し、評価した。実施例1と相違する点は、MDFを分割していないMDF62を用いた点である。木質系床材の端部の反りの計測結果を表1に示す。
[比較例2]
実施例2と同じように、木質系床材を作製し、評価した。実施例2と相違する点は、MDFを分割していないMDF62を用いた点である。木質系床材の端部の反りの計測結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
[結果及び考察]
実施例3、実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2の順で、端部の反りが小さくなった。実施例3における木質系床材の端部の反りが小さかったのは、収容溝部の直上には、堅木単板が配置されており、収容溝部の近傍の木材は、水分の変化に対するMDFの収縮(図7(c)の矢印方向の収縮)の影響をほとんど受けなかったからであると考えられる。
【0061】
また、実施例1及び2の反り量のほうが比較例1及び2のものに比べて、小さくなったのは、実施例1及び2の場合には、収容溝部の溝幅の中央を挟んで、中央木質繊維片31及び端部木質繊維片32が個別に収縮(図7(a)、(b)の矢印方向の収縮)し、比較例1及び2の場合には、溝幅の中心に向って収縮(図7(d)、(e)の矢印方向の収縮)したためであると考えられる。
【0062】
さらに、実施例2は、幅方向単板の厚みが、長手方向単板の厚みよりも厚いので、実施例2の反り量は、実施例1のものに比べて、小さくなったと考えられる。なお、実施例1及び2は、実施例3に比べて、上述した(6)の研磨工程において、容易に精度良くMDFの厚みを調節することができた。
【0063】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【0064】
例えば、本実施形態では、温水式の床暖房用の木質系床材を例示したが、これに限定されるものではなく、例えば、電気式の床暖房用の木質系床材であってもよい。
【符号の説明】
【0065】
1A,1B:木質系床材、2:温水パイプユニット、10:木質系基材、11a,11c,11d:長手方向単板、11b,11d:幅方向単板、13:パイプ収容溝、13a:収容溝部、15a:雄実部、15b:雌実部、21:基材シート、22:温水パイプ、23:上部カバー、30:木質繊維板、30A:木質系緩衝板、31:中央木質繊維片、32:端部木質繊維片、L:溝長手方向、W:溝幅方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周縁に実部が形成されると共に、裏面に温水パイプを収容する複数のパイプ収容溝が形成された木質系基材と、該木質系基材の表面に貼着された木質繊維板と、を少なくとも備え、前記パイプ収容溝のうち一部の収容溝部が、前記実部近傍において、該実部に沿って形成された床暖房用の木質系床材であって、
前記木質繊維板は、前記収容溝部の溝幅の中心、かつ、前記収容溝部の溝長手方向に沿った位置において、分割されていることを特徴とする床暖房用の木質系床材。
【請求項2】
前記木質系基材は、溝幅方向に沿った繊維方向の幅方向単板と、前記溝長手方向に沿った繊維方向の長手方向単板とが、複数層になるように積層した合板であり、
前記収容溝部の底部から木質系基材の表面までの前記幅方向単板の厚みは、前記収容溝部の底部から前記木質系基材の表面までの前記長手方向単板の厚みよりも厚いことを特徴とする請求項1に記載の床暖房用の木質系床材。
【請求項3】
周縁に実部が形成されると共に、裏面に温水パイプを収容する複数のパイプ収容溝が形成された木質系基材と、該木質系基材の表面に貼着された木質系緩衝板と、を少なくとも備え、前記パイプ収容溝のうちの一部の収容溝部が、前記実部近傍において、該実部に沿って形成された床暖房用の木質系床材であって、
前記木質系緩衝板は、前記木質系基材の表面の中央に配置された木質繊維板と、該木質繊維板に隣接するように配置された、前記木質系基材よりも比重の高い木質単板とからなり、
前記木質単板は、該収容溝部の溝長手方向に沿って、かつ、前記溝幅方向において前記周縁から前記収容溝部を覆う位置まで、配置されており、
前記木質単板の繊維方向は、前記収容溝部の溝長手方向に対して、交差していることを特徴とする床暖房用の木質系床材。
【請求項4】
前記木質系基材は、溝幅方向に沿った繊維方向の幅方向単板と、前記溝長手方向に沿った繊維方向の長手方向単板とが、複数層になるように積層した合板であり、
前記収容溝部の底部から木質系基材の表面までの前記幅方向単板の厚みと前記木質単板の厚みを合わせた厚みは、前記収容溝部の底部から前記木質系基材の表面までの前記長手方向単板の厚みよりも厚いことを特徴とする請求項3に記載の床暖房用の木質系床材。
【請求項5】
前記木質系基材は、長辺及び短辺からなる矩形状の基材であり、前記収容溝部は、短辺方向に沿って形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の床暖房用の木質系床材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の床暖房用の木質系床材と、該床暖房用の木質系床材のパイプ収容溝に収容される温水パイプとを少なくとも含む床暖房ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−92513(P2012−92513A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238703(P2010−238703)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000000413)永大産業株式会社 (243)
【Fターム(参考)】