説明

床暖房用の木質系床材

【課題】発熱体を収容する収容凹部の一部が、雄実部に隣接して形成された木質系床材であっても、釘等の固定部材の打ち込みなどの施工時の際、雄実部近傍で破損することなく、床材表面の膨れを抑えることができる床暖房用の木質系床材を提供する。
【解決手段】周縁に雄実部12と雌実部13とが形成され、床材裏面1bに発熱体31を収容する収容凹部14の一部が少なくとも雄実部12に隣接して形成された床暖房用の木質系床材1Aであって、木質系床材1Aには、収容凹部14よりも雄実部12側に凹溝15Aが設けられており、凹溝15Aは、雄実部12が形成された位置よりも木質系床材1Aの床材表面1a側の雄実部12近傍の位置に、少なくとも空間18Aを有するように形成されており、凹溝15A内には、少なくとも空間18Aの一部を残すように、木質系床材1Aを構成する木材よりも比重が大きい接着剤19が挿入されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周縁に雄実部と雌実部とが形成され、裏面から内部に発熱体を収容する床暖房用の木質系床材に係り、特に、釘などの固定部材を木質系床材に貫通させて、好適に床下地面に固定することができ床暖房用の木質系床材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、木質系床材の裏面側から内部に、電気ヒータなどの発熱体を配置し、床暖房を行うことは、一般的に知られている。このような木質系床材の周縁には、床下地面の上に、複数の木質系床材を連結して敷設するために、雄実部と、隣接する雄実部に嵌合するための雌実部が形成されている。
【0003】
床暖房用も含む木質系床材を床下地面に固定する場合、釘などの固定部材を雄実部近傍の木質系床材に上方から貫通させて、固定部材により床下地面に木質系床材を固定している。このような固定部材により固定される木質系床材として、以下に示す、種々の床材が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、図6(a)に示すように、周縁に凹溝を設け、凹溝に木質系床材6Aの木材よりも強度の高い樹脂製の板材65を挿入して接着することにより、周縁に板材65と床材とからなる雄実部62Aが形成された木質系床材6Aが提案されている。
【0005】
また、別の態様として、特許文献2及び3には、周縁に形成された床材表面6a側の雄実部62B近傍に、釘頭用の凹溝(切り欠き)65Bが形成された木質系床材6Bが提案されている。この床材6Bによれば、釘頭用凹溝(切り欠き)が形成されることにより、雄実部と雌実部を連結する際に、雄実部近傍の釘材の釘頭が、雌実部に直接接触することがなく、床面の平坦度が良好に維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平7−10182号公報
【特許文献2】実開平4−36042号公報
【特許文献3】特開2007−63768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図6(a)に示すような木質系床材6Aの場合、釘等の固定部材5の打ち込み時には、床材内への固定部材5の挿入により、木質系床材6Aの一部及び床材よりも比重の高い板材65が共に、表面側に押しやられ(厚さ方向に木材が変形し)、この結果、図6(a)に示すように、床材表面6aが膨れることがある。特に、近年使用されている植林木合板のような高比重合板は、これまでの合板に比べて、比重が高いため、木材内でこのような変形を吸収することが容易ではない。従って、このような膨れは顕著に現れ、床材表面6aが光沢性の高い表面である場合、この膨れが目立ってしまう。
【0008】
このような膨れの現象を鑑みると、特許文献2及び3に記載と同様の釘頭用凹溝(切り欠き)などの凹溝65Bを、床暖房用の木質系床材6Bに設けた場合、この凹溝65Bが、膨れの原因となる厚さ方向の木材の変形を吸収することができると考えられる。しかしながら、図6(b)に示すように、床暖房用の木質系床材6Bの場合には、裏面6bにPTCヒータなどの発熱体31及びウレタン樹脂発泡体34を収容する収容凹部64の一部が、雄実部62Bに隣接して形成されることになる。この結果、収容凹部64と凹溝65Bとは近接することになり、収容凹部64と凹溝65Bとの間の部分の強度は、凹溝65Bが無いものに比べて低くなり、釘打ちなどの施工時には、凹溝65Bの底部近傍のプライ間で、床材がせん断破壊するおそれがある。
【0009】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電気ヒータなどの発熱体を収容する収容凹部の一部が、雄実部に隣接して形成された木質系床材であっても、釘等の固定部材の打ち込みなどの施工時の際、雄実部近傍で破損することなく、床材表面の膨れを抑えることができる床暖房用の木質系床材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決すべく、発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、釘等の固定部材の打ち込みにより、床材が雄実部近傍で破損することなく、表面方向に床材が膨らむことを抑えるためには、(1)固定部材の挿入が起因とした床材の厚さ方向の変形を吸収しつつ、(2)破損し易い部分を機械的に補強することが重要であると考えた。このような観点から、発明者らは、その補強する材料の比重(密度)に着眼し、床材を構成する木材の比重と、補強する材料の比重との相対的な関係に応じて、(1)及び(2)を同時に満たす最適構造があることを新たに知見した。
【0011】
本発明は、発明者らの前記新たな知見に基づくものであり、第1の発明に係る床暖房用の木質系床材は、周縁に雄実部と雌実部とが形成され、かつ裏面に発熱体を収容する収容凹部の一部が少なくとも前記雄実部に隣接して形成された床暖房用の木質系床材であって、該木質系床材には、前記収容凹部よりも前記雄実部側に凹溝が設けられており、該凹溝は、前記雄実部が形成された位置よりも前記木質系床材の表面側の前記雄実部近傍の位置に、少なくとも空間を有するように形成されており、前記凹溝内には、少なくとも前記空間の一部を残すように、前記木質系床材を構成する木材よりも比重が大きい材料が挿入されていることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、凹溝への釘等の固定部材の打ち込みによる、床材の厚さ方向の変形を残された空間で吸収し、床材表面の膨れを抑制することができる。また、凹溝に比重が大きい材料を挿入することにより、凹溝近傍の木材の強度が局所的に向上するので、釘等の固定部材の打ち込みによる凹溝を起点とした床材の損傷を抑制することができる。ここで、本発明にいう、「少なくとも前記空間の一部を残すように、前記木質系床材を構成する木材よりも比重が大きい材料が挿入されている」とは、雄実部の上方から釘等の固定部材を木質系床材に打ち込んだ際に生じる木質系床材の厚さ方向の変形を吸収するように少なくとも前記空間の一部を残しつつ、木質系床材を構成する木材よりも比重が大きい材料が挿入されていることをいう。
【0013】
このような比重が大きい材料としては、金属材料、高分子樹脂材料など、を挙げることができ、凹溝近傍の木材を補強することができるのであれば、特にその材料は限定されるものではない。しかしながら、より好ましい態様としては、前記比重が大きい材料は、前記木材の比重よりも硬化時の比重が大きい接着剤であり、該接着剤は、前記凹溝内に、挿入されて硬化している。
【0014】
この態様によれば、凹溝に接着剤を挿入し、凹溝の壁面から木材の壁部に接着剤を含浸させて、その後、これを硬化させるので、接着剤と木材の密着性を向上させることができるばかりでなく、木材の凹溝の壁面を含む壁部をも補強することができる。
【0015】
さらに、第1の発明に係る木質系床材の凹溝構造の態様として、前記凹溝は、前記雄実部に隣接した前記周縁に沿って形成されていることがより好ましい。すなわち、この態様によれば、凹溝は、雄実部が形成された位置よりも前記木質系床材の表面側の前記雄実部近傍に位置する周縁(床材表面側の雄実部に隣接した周縁)に形成されることになる。これにより、この凹溝を利用して固定部材を打ち込み、床下地面に木質系床材を固定することができる。
【0016】
また、このような凹溝の態様の場合、凹溝内に空間の一部が残るのであれば、比重が大きい材料の挿入位置は特に限定されるものではなない。しかしながら、第1の態様としては、前記比重の大きい材料が、前記凹溝の少なくとも底部の溝内面に被覆されていることがより好ましい。これにより、凹溝底部を、木材よりも強度の高い材料で補強することができ、凹溝への固定部材の打ち込みによる凹溝の底部のせん断破壊を防止することができる。
【0017】
また、第2の態様としては、前記周縁に沿って形成された前記凹溝の一部は、固定部材を前記木質系床材に貫通させて、床下地面に前記木質系床材を固定するための固定領域を含み、該固定領域に形成された前記空間の一部を少なくとも残しつつ、前記固定領域以外の凹溝内を埋めるように、前記凹溝内に、前記比重の大きい材料が充填されていることがより好ましい。
【0018】
この態様によれば、固定領域において、空間の一部を少なくとも残すことにより、固定部材の打ち込みによる床材表面の膨れを抑制すると共に、その他の凹溝の内部空間全部を埋めるように、比重が大きい材料を充填するので、固定領域の凹溝の破損に起因した凹溝の底部の変形を拘束し、木材の強度を向上させることができる。さらにより好ましくは、固定領域において空間の一部を残すように比重が大きい材料が、前記凹溝の少なくとも底部の溝内面に被覆されていてもよい。これにより、凹溝への釘打ちによる凹溝の底部のせん断破壊をより確実に防止することができる。
【0019】
また、第1の発明に係る木質系床材の凹溝構造の別の態様として、該凹溝は、木質系床材の裏面から表面側に向って形成されていることがより好ましい。すなわち、この態様における凹溝は、裏面から、雄実部が形成された位置よりも前記木質系床材の表面側の位置まで、厚さ方向に沿って形成された溝であるので、この凹溝の空間により、固定部材の打ち込みによる床材の厚さ方向に沿った変形を吸収することができる。
【0020】
さらに、このような凹溝に対して、凹溝に空間が残るように、比重が大きい材料が挿入されるのであれば、その挿入箇所は、特に限定されるものではない。しかしながら、より好ましい態様としては、前記凹溝の対向する溝内面が連結されるように、前記比重が大きい材料が裏面側の位置に挿入されている。この態様によれば、比重が大きい材料(床材よりも強度の高い材料)が裏面側の位置に挿入されることにより、固定部材の打ち込みによる凹溝の変形を抑制して、木質系床材の剛性を高めることができる。また、厚さ方向に沿って形成された凹溝の空間により、床材の厚さ方向に沿った木材の変形が吸収される。
【0021】
第2の発明に係る床暖房用の木質系床材は、周縁に雄実部と雌実部とが形成され、かつ、裏面に発熱体を収容する収容凹部の一部が少なくとも前記雄実部に隣接して形成された床暖房用の木質系床材であって、前記収容凹部よりも前記雄実部側に凹溝が設けられており、該凹溝は、前記雄実部が形成された位置よりも前記木質系床材の表面側の前記雄実部近傍の位置に、少なくとも空間を有するように、形成されており、前記凹溝内には、前記凹溝内を埋めるように、前記木質系床材を構成する木材よりも比重が小さい材料が充填されていることを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、凹溝への釘等の固定部材の打ち込みによる、床材の厚さ方向の変形を比重が小さい材料で吸収し、床材表面の膨れを抑制することができる。また、凹溝にこのような材料が満たされるので、釘等の固定部材の打ち込みによる凹溝そのものの変形が抑制されるので、凹溝を起点とした、床材のせん断破壊を防止することができる。
【0023】
このような比重が小きい材料としては、高分子樹脂材料などを挙げることができ、凹溝近傍の木材を補強すること、床材の厚さ方向の変形を吸収することができるのであれば、特にその材料は限定されるものではない。しかしながら、より好ましい態様としては、前記比重が小きい材料は、前記木材の比重よりも硬化時の比重が小さい接着剤であり、該接着剤は、前記凹溝内に、充填されて硬化している。
【0024】
この態様によれば、凹溝に接着剤を挿入し、凹溝の壁面から木材の内部に接着剤を含浸させて、その後、これを乾燥させて硬化させるので、接着剤と木材の密着性を向上させることができると共に、凹溝への固定部材の打ち込みによる、凹溝を起点とした床材のせん断破壊を防止することができる。
【0025】
さらに、第2の発明に係る木質系床材の凹溝構造の態様として、前記凹溝は、前記雄実部に隣接した前記周縁に沿って形成されていることがより好ましい。すなわち、この態様によれば、この凹溝は、床材表面側の雄実部に隣接した周縁に形成されることになる。
【0026】
さらに、第2の発明に係る木質系床材の凹溝構造の他の態様として、前記凹溝は、前記裏面から前記表面側に向って形成されていることがより好ましい。すなわち、この凹溝は、裏面から、雄実部が形成された位置よりも前記木質系床材の表面側の位置まで、厚さ方向に沿って形成された溝である。したがって、この凹溝に充填された比重の小さい材料により、固定部材の打ち込みによる床材の厚さ方向に沿った変形を吸収することができる。これにより、床材表面の膨れを抑制することができる。
【0027】
第3の発明に係る床暖房用の木質系床材は、周縁に雄実部と雌実部とが形成され、かつ、裏面に発熱体を収容する収容凹部の一部が少なくとも前記雄実部に隣接して形成された床暖房用の木質系床材であって、前記収容凹部よりも前記雄実部側に凹溝が設けられており、該凹溝は、前記雄実部が形成された位置よりも前記木質系床材の表面側の前記雄実部近傍の位置に、少なくとも空間を有するように、前記裏面から前記表面側に向って形成されており、前記凹溝内には、少なくとも前記空間を残すように、前記木質系床材を構成する木材の比重と比重が同等の材料が裏面側の位置に挿入されていることを特徴とする。
【0028】
本発明によれば、凹溝への釘等の固定部材の打ち込みによる、床材の厚さ方向の変形を厚さ方向に沿って形成された空間の一部で吸収し、床材表面の膨れを抑制することができる。また、木質系床材を構成する木材の比重と比重が同等の材料を裏面側の位置に挿入することにより、固定部材の打ち込みによる凹溝の変形を抑制して、木質系床材の剛性を高めることができる。
【発明の効果】
【0029】
電気ヒータなどの発熱体を収容する収容凹部の一部が、雄実部に隣接して形成された木質系床材であっても、釘等の固定部材の打ち込みなどの施工時の際、雄実部近傍で破損することなく、床材表面の膨れを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1の発明の実施形態に係る床暖房用の木質系床材を説明する図であり、(a)は木質系床材の模式的斜視図であり、(b)は、(a)のA−A線矢視断面図である。
【図2】第1の発明の別の実施形態に係る床暖房用の木質系床材を説明する図であり、(a)は木質系床材の模式的斜視図であり、(b)は、(a)のB−B線矢視断面図であり、(c)は、(a)のC−C線矢視断面図である。
【図3】第1の発明のさらなる別の実施形態に係る床暖房用の木質系床材を説明する図であり、(a)は木質系床材の模式的斜視図であり、(b)は、(a)のD−D線矢視断面図である。
【図4】第2の発明の実施形態に係る床暖房用の木質系床材を説明する図であり、(a)は木質系床材の模式的斜視図であり、(b)は、(a)のE−E線矢視断面図である。
【図5】第2の発明の別の実施形態に係る木質系床材を説明する図であり、(a)は木質系床材の模式的斜視図であり、(b)は、(a)のF−F線矢視断面図である。
【図6】従来の木質系床材の模式的断面図であり、(a)の床材表面の膨れを説明するための図、(b)は、雄実部近傍の破損状態を説明するための図であり
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明のいくつかの実施形態を、図面を参照して以下に説明する。図1は、第1の発明の実施形態に係る床暖房用の木質系床材を説明する図であり、(a)は木質系床材の模式的斜視図であり、(b)は、(a)のA−A線矢視断面図である。
【0032】
本実施形態に係る木質系床材1Aは、床暖房用の床材であり、ユーカリなどを原材料とした植林木合板(高比重合板)からなる。図1(a),(b)に示すように、木質系床材1Aの床材表面1aには、化粧材11が設けられており、周縁には、雄実部12と雌実部13とが形成されている。また、木質系床材1Aの床材裏面1bには、雄実部12と雌実部13に隣接して、雄実部12と雌実部13を残すように、矩形状の収容凹部14が形成されている。
【0033】
収容凹部14には、均熱シート32を雌雄コネクター付き面状PTCヒータ(発熱体)31の上面に貼着し、その下面にウレタン樹脂発泡体(断熱材)34を一体成形した一体成型物が、収容されている。なお、この一体成型物は、収容凹部14の側壁に嵌め合わせて、収容凹部14の底面に接着剤で貼り合わされている。このようにして、電気式一体型床暖房床材を構成する。
【0034】
ここで、木質系床材1Aには、水平方向において、収容凹部14よりも雄実部12側で、長手及び短手方向の雄実部12に隣接した木質系床材1Aの周縁に沿って、凹溝15Aが設けられている。より具体的には、凹溝15Aは、雄実部12が形成された位置よりも木質系床材1Aの床材表面1a側の雄実部12近傍の位置に(床材表面1a側の雄実部12に隣接した周縁に)、少なくとも空間18Aを有するように形成されている。
【0035】
そして、凹溝15A内には、少なくとも空間18Aの一部を残すように、接着剤19が挿入されて、硬化している。より具体的には、接着剤19は、木質系床材1Aを構成する木材の比重よりも硬化時の比重が大きい接着剤であり、凹溝15A内の少なくとも底部15aの溝内面15bに被覆されている。
【0036】
このような接着剤19としては、一般的な接着剤の中でも、接着強度が強く、弾力性を有し、かつ硬化収縮が小さい接着剤が好ましく、(1)一成分型のポリウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤などの湿気により化学反応し硬化する機能を有した接着剤、(2)ポリアミド系接着剤、EVA系接着剤などのホットメルト系接着剤、などを挙げることができる。ここで、例えば、硬化時のポリウレタン系接着剤の比重は、1.51であり、高比重合板の木材の比重は、0.6〜0.9であり、硬化時の接着剤の比重は、木材の比重よりも2倍程度大きい。また、硬化時のポリウレタン系接着剤のせん断強さは、5〜6N/mmであり、木質系床材1Aを構成するプライ間のせん断強さは、0.7N/mm以上であり、硬化時の接着剤のせん断強さは、木材のせん断強さの8倍程度大きい。
【0037】
また、接着剤19は、凹溝15Aの空間18Aが、釘等の固定部材5を木質系床材1Aに打ち込んだ際の、木質系床材1Aの厚さ方向の変形を吸収することができる程度に挿入されている。
【0038】
このように構成された木質系床材1Aを用いて、木質系床材1Aを床下地面Cに敷設し、固定部材5を、凹溝15Aを利用して木質系床材1Aに打ち込む。この際、凹溝15Aへの固定部材5を打ち込んだ際に生じる床材の厚さ方向の変形を、空間18Aの一部で吸収し、床材表面1aの膨れを抑制することができる。また、凹溝15Aに比重が大きい接着剤を底部15aの溝内面15bに被覆することにより、凹溝15A近傍の木材の強度が局所的に向上するので、固定部材5の打ち込みによる凹溝15Aを起点とした床材のせん断破壊を抑制することができる。
【0039】
また、製造時においては、凹溝15Aに接着剤19を挿入し、凹溝15Aの壁面から木材の内部に接着剤を含浸させて、その後、これを硬化させるので、硬化時の接着剤19と木材の密着性を向上させることができるばかりでなく、木材の凹溝15Aの壁面を含む壁部をも補強することができる。
【0040】
図2は、第1の発明の別の実施形態に係る床暖房用の木質系床材を説明する図であり、(a)は木質系床材の模式的斜視図であり、(b)は、(a)のB−B線矢視断面図であり、(c)は、(a)のC−C線矢視断面図である。
【0041】
本実施形態が、図1に示す実施形態と相違する点は、凹溝15Aにおける接着剤の挿入箇所である。従って、図2において、同じ機能を有する構成には、同じ符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0042】
図2(a)〜(c)に示すように、本実施形態に係る木質系床材1Bは、周縁に沿って形成された凹溝15Aを、固定領域15cと、それ以外の非固定領域15dに区分して、これらの領域15c,15dに応じて、接着剤の挿入箇所を変更するものである。ここで、固定領域15cは、凹溝15A内から固定部材5を木質系床材1Bに貫通させて、床下地面Cに木質系床材1Bを固定するための領域である。
【0043】
そして、図2(b)に示すように、固定領域15cに形成された空間18Aを全て残しつつ、図2(c)に示すように非固定領域(固定領域以外の領域)15dの凹溝内の内部空間全体を埋めるように、凹溝内に、接着剤19が充填されている。
【0044】
このようにして、固定領域15cにおいて、空間18Aを全て残すことにより、固定部材5の打ち込みによる床材表面1aの膨れを抑制することができる。また、非固定領域15dの凹溝15Aの内部空間全部を埋めるように、接着剤19を充填するので、凹溝の木材の強度を向上させることができる。なお、本実施形態では、固定領域15cにおいて形成された空間18Aを全て残したが、図1(b)に示すように、接着剤19が、固定領域15cの凹溝15Aの少なくとも底部の溝内面に被覆されていてもよい。
【0045】
図3は、第1の発明のさらなる別の実施形態に係る床暖房用の木質系床材を説明する図であり、(a)は木質系床材の模式的斜視図であり、(b)は、(a)のD−D線矢視断面図である。
【0046】
本実施形態が、図1に示す実施形態と相違する点は、凹溝の構造と、接着剤の挿入箇所である。従って、図3において、同じ機能を有する構成には、同じ符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0047】
図3(a),(b)に示すように、本実施形態の凹溝15Bは、木質系床材1Cの床材裏面1bから床材表面1a側に向って形成されている。すなわち、この凹溝15Bは、床材裏面1bから、雄実部12が形成された位置よりも木質系床材1Cの床材表面1a側の位置まで、厚さ方向に沿って形成された溝である。さらに、凹溝15Bに空間18Bが残り、かつ、凹溝15Bの対向する溝内面15eが連結されるように、接着剤19が床材裏面1b側の位置に挿入されている。
【0048】
このように構成された木質系床材1Cを用いて、木質系床材1Cを床下地面Cに敷設し、固定部材5が、凹溝15Bを横切るように、固定部材5を木質系床材1Cに打ち込んで、固定部材5を貫通させる。この際、厚さ方向に沿って形成された凹溝15Bの空間18Bにより、木質系床材1Cの厚さ方向に沿った変形が吸収される。また、比重が大きい接着剤(木材よりも強度の高い材料)が床材裏面1b側の位置に挿入されることにより、固定部材5の打ち込みによる凹溝の変形を抑制して、木質系床材1Cの剛性を高めることができる。
【0049】
図4は、第2の発明の実施形態に係る床暖房用の木質系床材を説明する図であり、(a)は木質系床材の模式的斜視図であり、(b)は、(a)のE−E線矢視断面図である。
【0050】
本実施形態が、図1に示す実施形態と相違する点は、接着剤の比重、及び接着の挿入箇所である。従って、図4において、同じ機能を有する構成には、同じ符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0051】
本実施形態に係る床暖房用の木質系床材2Aの凹溝15A内には、凹溝15Aの内部空間全体を埋めるように、木質系床材2Aを構成する木材よりも硬化時の比重が小さい接着剤29が充填されている。
【0052】
このような接着剤29としては、一般的な接着剤の中でも、接着強度が強く、弾力性を有し、かつ硬化収縮が小さい接着剤が好ましく、発泡樹脂の接着剤を挙げることができ、その発泡樹脂としては、ポリウレタン系樹脂、エチレンビニルアルコール系樹脂、またはポリエチレン系樹脂など挙げることができる。ここで、例えば、硬化時の発泡ポリウレタン系接着剤の比重は、その発泡倍率を調整することにより、高比重合板の木材の比重の0.6〜0.9よりも、小さくすること(比重:0.3〜0.5)ができる。
【0053】
本実施形態に係る床暖房用の木質系床材2Aによれば、凹溝15Aへの釘等の固定部材の打ち込みによる、床材の厚さ方向の変形を比重が小さい接着剤29で吸収し、床材表面の膨れを抑制することができる。また、凹溝15Aに接着剤29を充填することにより、凹溝15Aそのものの変形が抑制されるので、釘等の固定部材5の打ち込みによる凹溝15Aを起点とした、床材のせん断破壊を防止することができる。また、凹溝15Aに接着剤を挿入し、凹溝15Aの壁面から木材の内部に接着剤を含浸させて、その後、これを乾燥させて硬化させるので、接着剤29と木材の密着性を向上させることができる。
【0054】
図5は、第2の発明の他の実施形態に係る床暖房用の木質系床材を説明する図であり、(a)は木質系床材の模式的斜視図であり、(b)は、(a)のF−F線矢視断面図である。
【0055】
本実施形態が、図4に示す実施形態と相違する点は、凹溝の構造と、接着剤の挿入箇所である。従って、図4において、同じ機能を有する構成には、同じ符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0056】
図5(a),(b)に示すように、本実施形態の凹溝15Bは、木質系床材2Bの床材裏面1bから床材表面1a側に向って形成されている。すなわち、この凹溝15Bは、床材裏面1bから、雄実部12が形成された位置よりも木質系床材2Bの床材表面1a側の位置まで、厚さ方向に沿って形成された溝である。さらに、凹溝15Bの内部空間の全体には、木材よりも比重が小さい接着剤29が充填されている。
【0057】
このような木質系床材2Bに、図示の如く固定部材5を打ち込んで固定部材5を凹溝15Bに貫通させた場合、厚さ方向に沿って形成された凹溝15B内に充填された接着剤29により、木質系床材2Bの厚さ方向に沿った変形を吸収することができ、凹溝15B近傍の損傷も防止することができる。また凹溝15Bに接着剤29を充填することにより、凹溝15Bそのものの変形が抑制されるので、釘等の固定部材5の打ち込みによる凹溝15Bを起点とした、床材のせん断破壊を防止することができる。
【0058】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【0059】
例えば、図2に示す実施形態では、木質系床材を構成する木材よりも比重が大きい接着剤を用いたが、凹溝近傍の破損を防止することができるのであれば、第2の発明に係る接着剤を用いてもよい。
【0060】
例えば、図3に示す実施形態では、少なくとも空間を残すように、凹溝内に木質系床材を構成する木材の比重よりも比重が大きい接着剤を裏面側の位置に挿入したが、例えば、本願の第3の発明の如く、少なくとも空間を残すように、凹溝内に木質系床材を構成する木材の比重と比重が同等の材料(たとえば床材の木材と同じ木材)を裏面側の位置に挿入してもよい。
【0061】
また、本実施形態では、凹溝に収容される発熱体としてPTCヒータを用いた電気式床暖房用の木質系床材を例示したが、発熱体として温水パイプを用いた床暖房用の木質系床材であってもよい。
【符号の説明】
【0062】
1A〜1C…木質系床材、1a:床材表面、1b:床材裏面、2A,2B…木質系床材、5…固定部材、11:化粧材、12:雄実部、13:雌実部、14:収容凹部、15A,15B:凹溝、15a:底部、15b:溝内面、15c:固定領域、15d:非固定領域、15e:溝内面、18A,18B:空間、19:接着剤(木材よりも比重が大きい接着剤)、29:接着剤(木材よりも比重が小さい接着剤)、31:PTCヒータ(発熱体)、32:均熱シート、34:ウレタン樹脂発泡体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周縁に雄実部と雌実部とが形成され、かつ裏面に発熱体を収容する収容凹部の一部が少なくとも前記雄実部に隣接して形成された床暖房用の木質系床材であって、
該木質系床材には、前記収容凹部よりも前記雄実部側に凹溝が設けられており、該凹溝は、前記雄実部が形成された位置よりも前記木質系床材の表面側の前記雄実部近傍の位置に、少なくとも空間を有するように形成されており、
前記凹溝内には、少なくとも前記空間の一部を残すように、前記木質系床材を構成する木材よりも比重が大きい材料が挿入されていることを特徴とする床暖房用の木質系床材。
【請求項2】
前記比重が大きい材料は、前記木材の比重よりも硬化時の比重が大きい接着剤であり、該接着剤は、前記凹溝内に、挿入されて硬化していることを特徴とする請求項1に記載の床暖房用の木質系床材。
【請求項3】
前記凹溝は、前記雄実部に隣接した前記周縁に沿って形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の床暖房用の木質系床材。
【請求項4】
前記凹溝の少なくとも底部の溝内面に、前記比重が大きい材料被覆されていることを特徴とする請求項3に記載の床暖房用の木質系床材。
【請求項5】
前記周縁に沿って形成された前記凹溝の一部は、固定部材を前記木質系床材に貫通させて、床下地面に前記木質系床材を固定するための固定領域を含み、
該固定領域に形成された前記空間の一部を少なくとも残しつつ、前記固定領域以外の凹溝内を埋めるように、前記凹溝内に、前記比重の大きい材料が充填されていることを特徴とする請求項3または4に記載の床暖房用の木質系床材。
【請求項6】
前記凹溝は、前記裏面から前記表面側に向って形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の床暖房用の木質系床材。
【請求項7】
前記凹溝の対向する溝内面が連結されるように、前記比重が大きい材料が裏面側の位置に挿入されていることを特徴とする請求項6に記載の床暖房用の木質系床材。
【請求項8】
周縁に雄実部と雌実部とが形成され、かつ、裏面に発熱体を収容する収容凹部の一部が少なくとも前記雄実部に隣接して形成された床暖房用の木質系床材であって、
該木質系床材には、前記収容凹部よりも前記雄実部側に凹溝が設けられており、該凹溝は、前記雄実部が形成された位置よりも前記木質系床材の表面側の前記雄実部近傍の位置に、少なくとも空間を有するように、形成されており、
前記凹溝内には、前記凹溝内を埋めるように、前記木質系床材を構成する木材よりも比重が小さい材料が充填されていることを特徴とする床暖房用の木質系床材。
【請求項9】
前記比重が小さい材料は、前記木材の比重よりも硬化時の比重が小さい接着剤であり、該接着剤は、前記凹溝内に、充填されて硬化していることを特徴とする請求項8に記載の床暖房用の木質系床材。
【請求項10】
前記凹溝は、前記雄実部の上面に隣接した前記周縁に沿って形成されていることを特徴とする請求項8または9に記載の床暖房用の木質系床材。
【請求項11】
前記凹溝は、前記裏面から前記表面側に向って形成されていることを特徴とする請求項8または9に記載の床暖房用の木質系床材。
【請求項12】
周縁に雄実部と雌実部とが形成され、かつ、裏面に発熱体を収容する収容凹部の一部が少なくとも前記雄実部に隣接して形成された床暖房用の木質系床材であって、
該木質系床材には、前記収容凹部よりも前記雄実部側に凹溝が設けられており、該凹溝は、前記雄実部が形成された位置よりも前記木質系床材の表面側の前記雄実部近傍の位置に、少なくとも空間を有するように、前記裏面から前記表面側に向って形成されており、
前記凹溝内には、少なくとも前記空間を残すように、前記木質系床材を構成する木材の比重と比重が同等の材料が裏面側の位置に挿入されていることを特徴とする床暖房用の木質系床材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−26166(P2012−26166A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165921(P2010−165921)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(000000413)永大産業株式会社 (243)
【Fターム(参考)】