説明

廃液処理方法

【課題】セメントクリンカ焼成のための熱量原単位、プレヒータ排気ファンの電力原単位の悪化を招くことなく、装置及び運転コストを低く抑えながら効率よく廃液を処理する。
【解決手段】廃液を浄化処理した後、セメント製造工程において、焼成工程の主熱帯以外の場所で工業用水として利用する。廃液は、石油精製における脱硫、植物油の生成によって排出される廃液、有機物含有廃液、含油廃液から選択される1種以上を含むことができ、廃液に含まれる有害成分を吸着、酸化又は凝集沈殿して除去することで、廃液を浄化処理することができる。工業用水を、セメント製造工程のプレヒータのガス出口部、スタビライザの内部、原料ドライヤのガス入口部、又は竪型原料ミル内部のいずれかでの散水に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃液処理方法に関し、特に、各種工場から排出される廃液をセメント製造工程で処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種工場から排出される廃液中には、例えば臭気の原因となる有害成分が含まれるため、廃液をセメント製造工程で処理する場合には、有害成分を分解することのできる焼成工程の800℃以上の高温領域を通過させる必要がある。この際、高温領域での温度低下を補填するために燃料の増し焚きを行うと、セメントクリンカ焼成のための熱量原単位が悪化する。また、燃料の増し焚きにより生成する燃焼ガス、廃液処理によって生成する水蒸気を処理する必要があるため、その分セメントクリンカ生産量の低下を招き、プレヒータ排気ファンの電力原単位が悪化する。
【0003】
そこで、特許文献1には、各種工場からの廃液を焼却設備において安定して処理するため、発熱量が7000kcal/kg以上の疎水性微粉体を廃液に混合し、廃液の発熱量を2700kcal/kg以上に上昇させて燃焼処理する廃液の処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−41920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の廃液処理方法では、廃液に疎水性微粉体を混合するための設備が必要になると共に、混合操作が煩雑で運転コストの上昇に繋がるという問題がある。また、この方法でも、スラリーを焼却処理するため、熱量原単位が悪化すると共に、焼却処理によって生成する水蒸気等を含むガスを処理する必要があり、セメントクリンカ生産量の低下を招き、プレヒータ排気ファンの電力原単位が悪化するという問題が依然として残る。
【0006】
そこで、本発明は、上記従来の廃液処理方法における問題点に鑑みてなされたものであって、セメントクリンカ焼成のための熱量原単位、プレヒータ排気ファンの電力原単位の悪化を招くことなく、装置及び運転コストを低く抑えながら効率よく廃液を処理することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、廃液を浄化処理した後、セメント製造工程において、焼成工程の主熱帯以外の場所で工業用水として利用することを特徴とする。ここで、焼成工程の主熱帯とは、セメントキルン、仮焼炉、プレーヒータ等で構成される焼成装置において、セメント原料の脱炭酸、クリンカ生成反応に直接関係する場所であって、その場所の温度低下がセメントクリンカ焼成の熱量原単位の低下を招く場所をいう。また、廃液とは、臭気の原因となるVOC等の有害成分を含むため、直接焼成工程で処理するには800℃程度以上の高温領域を通過させる必要があるものをいう。
【0008】
そして、本発明によれば、浄化処理によって有害成分を除去処理し、廃液を焼成工程の主熱帯以外の場所で利用するため、燃料の増し焚きによるセメントクリンカ焼成のための熱量原単位の悪化や、プレヒータ排気ファンの電力原単位の悪化を招くことなく、装置及び運転コストを低く抑えながら効率よく廃液を処理することができる。また、工業用水として利用するため、セメント製造工程での工業用水の使用量の低減にも繋がる。
【0009】
上記廃液処理方法において、前記廃液を、石油精製における脱硫、植物油の生成によって排出される廃液、有機物含有廃液、含油廃液から選択される1種以上を含むものとすることができる。
【0010】
また、前記廃液に含まれる有害成分を吸着、酸化又は凝集沈殿して除去することで、前記廃液を浄化処理することができる。
【0011】
さらに、前記工業用水を、前記セメント製造工程のプレヒータのガス出口部、スタビライザの内部、原料ドライヤのガス入口部、又は竪型原料ミル内部のいずれかでの散水に用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、セメントクリンカ焼成のための熱量原単位悪化、プレヒータ排気ファンの電力原単位の悪化を招くことなく、装置及び運転コストを低く抑えながら効率よく廃液を処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る廃液処理方法を適用したセメント製造設備を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明に係る廃液処理方法を適用したセメント製造設備を示し、このセメント製造設備1は、セメント焼成装置を構成するセメントキルン2及びサスペンションプレヒータ(以下「プレヒータ」という)3と、プレヒータ排ガスの調湿を行うスタビライザ(調湿塔)10と、セメント原料Rを乾燥粉砕する原料工程を構成する原料ドライヤ4、竪型原料ミル5及び原料ボールミル11と、集塵装置6と、煙突7と、廃液Wの浄化装置8及び供給配管9等を備える。また、図示を省略するが、セメントキルン2とプレヒータ3との間には、仮焼炉が設けられ、セメントキルン2にはクリンカクーラが付設される。プレヒータ3と、原料ドライヤ4又は竪型原料ミル5との間には、廃熱発電設備等が配置される。
【0016】
上記セメントキルン2〜煙突7、スタビライザ10、原料ボールミル11、仮焼炉、クリンカクーラ、廃熱発電設備等は、一般的なセメント製造設備に設けられているものであって、本発明に係る廃液処理方法を適用したセメント製造設備1は、廃液Wの浄化装置8及び供給配管9を備えることを特徴とする。
【0017】
浄化装置8は、廃液Wを浄化処理するために設けられ、吸着や酸化凝集沈殿によって廃液に含まれる臭気の原因となるVOC等の有害成分を除去する。後述するように、浄化装置8で浄化した廃液Wは、工業用水として利用するため、浄化装置8による浄化は、河川や海洋に放流する排水処理のような高度な浄化処理は不要で、工業用水として利用できる程度までの浄化処理で足りる。
【0018】
廃液Wの供給配管9は、浄化装置8からプレヒータ3のガス出口部までの第1配管9a、原料ドライヤ4のガス入口部までの第2配管9b、竪型原料ミル5の内部までの第3配管9cとで構成される。
【0019】
次に、上記構成を有するセメント製造設備1を用いた本発明に係る廃液処理方法について、図1を参照しながら説明する。
【0020】
受け入れた廃液Wを浄化装置8で浄化処理する。浄化処理にあたっては、廃液に含まれる有害成分を活性炭等を用いて吸着したり、酸化剤を用いて酸化処理して浄化する。凝集剤を用いて凝集沈殿処理して、例えば、有機溶剤成分を含む廃液を活性炭を用いて浄化処理すると、表1に示すように、廃液中のVOCをほとんどを除去することができる。
【0021】
【表1】

【0022】
浄化処理された廃液Wは、有害成分が除去されているため、焼成工程の800℃程度以上の高温領域を通過させる必要はない。
【0023】
次に、浄化処理した廃液Wを、供給配管9を用いて工業用水としてセメント製造設備1の各所で使用する。例えば、第1配管9aによって搬送した廃液Wをプレヒータ3のガス出口部やスタビライザ10の内部に散水する。この部分で散水するのは、後段の廃熱発電設備等で耐熱温度の比較的低い部材等を使用している場合があるからである。
【0024】
また、第2配管9bによって搬送した廃液Wを原料ドライヤ4のガス入口部に散水する。この部分での散水は、プレヒータ3からの排ガスを調温及び調湿して後段の集塵装置6における集塵を効率よく行うためなどの目的で行う。
【0025】
さらに、第3配管9cによって搬送した廃液Wを竪型原料ミル5の内部で粉砕機の振動を抑えるために散水することもできる。
【0026】
尚、上記実施の形態においては、浄化処理した廃液Wを、プレヒータ3のガス出口部、スタビライザ10の内部、原料ドライヤ4のガス入口部、竪型原料ミル5の内部に散水したが、セメント製造工程のその他の場所で工業用水として利用することもできる。
【0027】
以上説明したように、本実施の形態では、受け入れた廃液Wを浄化装置8で浄化処理し、工業用水としてプレヒータ3のガス出口部等に散水するため、焼成工程の主熱帯で利用した場合のように、燃料の増し焚きによるセメントクリンカ焼成のための熱量原単位の悪化や、プレヒータ排気ファンの電力原単位の悪化を招くことがない。
【0028】
また、廃液Wの浄化処理は、排水処理のような高度な処理までは不要であるため、浄化のための装置及び運転コストを低く抑えることができる。
【0029】
さらに、浄化処理した廃液Wを、セメント製造設備1で使用される工業用水の一部として利用するため、その分工業用水使用量を低減することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 セメント製造設備
2 セメントキルン
3 プレヒータ
4 原料ドライヤ
5 竪型原料ミル
6 集塵装置
7 煙突
8 浄化装置
9 供給配管
9a 第1配管
9b 第2配管
9c 第3配管
10 スタビライザ
11 原料ボールミル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃液を浄化処理した後、セメント製造工程において、焼成工程の主熱帯以外の場所で工業用水として利用することを特徴とする廃液処理方法。
【請求項2】
前記廃液は、石油精製における脱硫、植物油の生成によって排出される廃液、有機物含有廃液、含油廃液から選択される1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の廃液処理方法。
【請求項3】
前記廃液に含まれる有害成分を吸着、酸化又は凝集沈殿して除去することで、前記廃液を浄化処理することを特徴とする請求項1又は2に記載の廃液処理方法。
【請求項4】
前記工業用水を、前記セメント製造工程のプレヒータのガス出口部、スタビライザの内部、原料ドライヤのガス入口部、又は竪型原料ミル内部のいずれかでの散水に用いることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の廃液処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−79165(P2013−79165A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219690(P2011−219690)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】