説明

延伸フィルムの製造方法、位相差フィルム、偏光板、並びに、画像表示装置

【課題】液晶表示装置等の視認性が向上する光学特性を備えた広幅の位相差フィルムを低コストで取得する技術を提供する。
【解決手段】縦一軸方向に延伸された長尺状のフィルムを延伸方向に搬送し、前記フィルムの一部領域又は全域を凹凸形状が設けられた部材によって予め前記延伸方向に弛ませた状態でフィルムの両端を搬送装置に保持し、前記搬送装置によってフィルムの両端を保持しつつ延伸方向に搬送させながらフィルムを加熱してフィルムを前記延伸方向に熱収縮させる延伸フィルムの製造方法が提供される。当該方法で製造された延伸フィルムからなる位相差フィルム、当該位相差フィルムを利用した偏光板、並びに、当該位相差フィルムを備えた画像表示装置も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸フィルムの製造方法、位相差フィルム、偏光板、並びに、画像表示装置に関し、さらに詳細には、位相差フィルムとして好適に利用される延伸フィルムの製造方法、当該方法により製造された位相差フィルム、当該位相差フィルムを利用した偏光板、並びに、当該位相差フィルムを備えた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータやテレビジョン受信機用のモニター(ディスプレイ)に代表される液晶表示装置が、種々の表示手段として広く普及している。そして、表示を見る角度、特に斜め方向から見た際のコントラスト低下や色調変化による視認性の低下を改善するためにIPSモードやVAモードといった液晶セルの改善が提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
一般的に、これらの液晶セルの両側には偏光子が配置されており、さらに液晶セルと偏光子の間に位相差フィルムを設けることにより表示の視認性が大きく向上することが知られている。特に、位相差フィルムの光学特性の指標であるNZの値が0.1以上かつ0.9以下(0.1≦NZ≦0.9)の範囲にある位相差フィルムをその配向角と偏光子の吸収軸とが直交するように積層して使用すると、表示の視認性が著しく向上することが確認されている(特許文献3)。ここで、NZ値は以下のように定義されている。
【0004】
NZ=(nx−nz)/(nx−ny)
[nxは位相差フィルムの遅相軸方向の屈折率を示し、
ここで、遅相軸方向とは位相差フィルム面内の屈折率が最大となる方向を指し、
nyは位相差フィルムの進相軸方向の屈折率を示し、
nzは位相差フィルムの厚さ方向の屈折率を示す。]
【0005】
また、熱収縮性フィルムを使用することで0.1≦NZ≦0.9の範囲となる位相差フィルムを製造する方法が提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−311948号公報
【特許文献2】特開平11−305217号公報
【特許文献3】特開2008−247933号公報
【特許文献4】特開2006−72309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
液晶表示装置はその大画面化に伴い、液晶表示装置の視認性向上のために使用される位相差フィルムへの要求品質が急速に高まってきている。特に、配向角精度や位相差バラツキがフィルムの大面積にわたり良好であることが求められている。
また、液晶表示装置が世の中に広く普及していくためには、液晶表示装置に使用される部材の革新的低コスト化、即ち、構造・材料・作り方・供給等の革新や、標準化による生産性の向上が必要である。
【0008】
前述したように、NZの値が0.1≦NZ≦0.9の範囲にある位相差フィルムを使用すると表示の視認性が向上する。このような光学特性を有する位相差フィルムを製造する方法としては、高分子フィルムの片面または両面に熱収縮性フィルムを粘着剤などによって貼り合せた後に縦方向に延伸を行って製造する方法(特許文献4)が開示されている。しかしながらこの方法は、高分子フィルムに対して縦延伸を行いつつ貼り合わされた熱収縮性フィルムによる熱収縮を与えるため、延伸後の位相差フィルムは非常に狭い幅となる。また、熱収縮性フィルムや粘着剤などの副次部材が必要であり、貼り合せる工程も必要なために製造コストの低減が困難であった。さらに高分子フィルムと熱収縮性フィルムを貼り合せる際に、少なからず微小異物が混入し、製品の収率を低下させることも製造コストの低減を妨げる一因であった。
以上のように、液晶表示装置の視認性が向上する0.1≦NZ≦0.9の範囲である広幅の位相差フィルムを低コストで取得する技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、以下に示す延伸フィルムの製造方法、位相差フィルム、並びに、画像表示装置により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下のとおりである。
【0010】
1.縦一軸方向に延伸された長尺状のフィルムを延伸方向に搬送し、前記フィルムの一部領域又は全域を凹凸形状が設けられた部材によって予め前記延伸方向に弛ませた状態で、フィルムの両端を搬送装置に保持し、前記搬送装置によってフィルムの両端を保持しつつ延伸方向に搬送させながらフィルムを加熱してフィルムを前記延伸方向に熱収縮させることを特徴とする延伸フィルムの製造方法。
【0011】
2.フィルムの一部領域又は全域を延伸方向に弛ませた状態で凹凸形状をした保持部材片を備えた保持部材でフィルムの端部を保持してフィルムの両端を搬送装置に保持することを特徴とする上記1に記載の延伸フィルムの製造方法。
【0012】
3.フィルムの一方の面と他方の面とを互い違いに押圧することによってフィルムの一部領域又は全域を弛ませた後にフィルムの両端を搬送装置に保持することを特徴とする上記1又は2に記載の延伸フィルムの製造方法。
【0013】
4.フィルムを前記延伸方向に収縮させる際には、フィルムの両端の距離を変えることなく保持するか、或いは両端を搬送方向に対して横方向に拡幅することを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の延伸フィルムの製造方法。
【0014】
5.上記1〜4のいずれかに記載の方法により製造された延伸フィルムからなることを特徴とする位相差フィルム。
【0015】
6.下記式(1):
0.1≦NZ≦0.9・・・(1)
[NZ=(nx−nz)/(nx−ny)であり、
nxは位相差フィルムの遅相軸方向の屈折率を示し、
ここで、遅相軸方向とは位相差フィルム面内の屈折率が最大となる方向を指し、
nyは位相差フィルムの進相軸方向の屈折率を示し、
nzは位相差フィルムの厚さ方向の屈折率を示す。]
を満たす光学特性を有することを特徴とする上記5に記載の位相差フィルム。
【0016】
7.波長590nmの光に対するフィルム面内の位相差(Re)が下記式(2):
20nm≦Re≦70nm・・・(2)
[Re=(nx−ny)×dであり、
d(nm)はフィルムの厚みを示し、
nx、nyは前記式(1)と同様の意味を有する。]
を満たすことを特徴とする上記6に記載の位相差フィルム。
【0017】
8.波長590nmの光に対するフィルム面内の位相差(Re)が下記式(3):
100nm≦Re≦350nm・・・(3)
[Re=(nx−ny)×dであり、
d(nm)はフィルムの厚みを示し、
nx、nyは前記式(1)と同様の意味を有する。]
を満たすことを特徴とする上記6に記載の位相差フィルム。
【0018】
9.波長590nmの光に対するフィルム面内の位相差(Re)が下記式(4):
400nm≦Re≦700nm・・・(4)
[Re=(nx−ny)×dであり、
d(nm)はフィルムの厚みを示し、
nx、nyは前記式(1)と同様の意味を有する。]
を満たすことを特徴とする上記6に記載の位相差フィルム。
【0019】
10.フィルム面内の配向角が±1.0°以内であることを特徴とする上記5〜9のいずれかに記載の位相差フィルム。
【0020】
11.上記5〜10のいずれかに記載の位相差フィルムの少なくとも片面に、偏光子が直接又は偏光子保護フィルムを介して積層されてなる偏光板。
【0021】
12.上記5〜10のいずれかに記載の位相差フィルムを備えたことを特徴とする画像表示装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、優れた光学特性を有する延伸フィルムを簡単に製造することができる。特に本発明によると、0.1≦NZ≦0.9を満足する光学特性を有する延伸フィルムを簡単に製造することができ、視認性のよい液晶表示装置の低コスト化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)は第一の実施形態におけるクリップの側面図(破線は波状把持部材)、(b)はクリップとフィルムとの関係を示す説明図である。
【図2】(a)は第二の実施形態におけるクリップの側面図(破線は波状把持部材)、(b)はクリップとフィルムとの関係を示す説明図である。
【図3】本発明の延伸フィルムの製造方法に使用可能なフィルム延伸機の一例を示す概略平面図であり、フィルムを横方向に延伸する場合の形態を示す。
【図4】クリップと波状把持部材の正面図である。
【図5】図3のフィーダチェインと波状把持部材の側面図である。
【図6】図3のフィーダチェインと波状把持部材の部分拡大側面図である。
【図7】図3のフィルム延伸機の斜視図である。
【図8】フィルムを保持している状態におけるフィルム延伸機の断面斜視図である。
【図9】第一の実施形態におけるクリップの斜視図である。
【図10】(a)は、第一の実施形態におけるフィルムを保持する直前におけるクリップの正面図、(b)は、第一の実施形態におけるフィルムを保持する直前におけるクリップの側面図である。
【図11】(a)は、第一の実施形態におけるフィルムを保持した状態におけるクリップの正面図、(b)は、第一の実施形態におけるフィルムを保持した状態におけるクリップの側面図である。
【図12】波状把持部材の斜視図である。
【図13】第一の実施形態におけるフィルムの位置と、クリップ及び波状把持部材の姿勢との関係を示す説明図である。
【図14】第二の実施形態におけるクリップの斜視図である。
【図15】(a)は、第二の実施形態におけるフィルムを保持する直前におけるクリップの正面図、(b)は、第二の実施形態におけるフィルムを保持する直前におけるクリップの側面図である。
【図16】(a)は、第二の実施形態におけるフィルムを保持した状態におけるクリップの正面図、(b)は、第二の実施形態におけるフィルムを保持した状態におけるクリップの側面図である。
【図17】第二の実施形態におけるフィルムの位置と、クリップ及び波状把持部材の姿勢との関係を示す説明図である。
【図18】第一の実施形態におけるクリップでフィルムを保持する際におけるフィルムの挙動を示す断面図である。
【図19】第二の実施形態におけるクリップでフィルムを保持する際におけるフィルムの挙動を示す断面図である。
【図20】凹凸形状が設けられた部材の変形例を示す正面図である。
【図21】凹凸形状が設けられた部材の他の変形例を示す斜視図である。
【図22】フィーダチェインと波状把持部材の変形例を示す側面図である。
【図23】フィルムを波打たせる方法の変形例を示す概念図である。
【図24】フィルムを波打たせる方法の他の変形例を示す概念図である。
【図25】フィルムを波打たせる方法のさらに他の変形例を示す概念図である。
【図26】図3に示す実施形態のフィルム延伸機の概略平面図であり、フィルムを横方向に延伸しない場合の形態を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、予め一方方向(例えば、縦一軸方向)に延伸したフィルムを延伸方向に搬送するとともに、その一部領域又は全域を搬送方向に弛ませた状態とし、それを加熱することにより延伸方向(搬送方向)に熱収縮させるものであり、熱収縮によって厚み方向に配向されたフィルムを製造できることを基本とするものである。
【0025】
本発明の延伸フィルムの製造方法は、縦一軸方向に延伸された長尺状のフィルムを延伸方向に搬送し、前記フィルムの一部領域又は全域を凹凸形状が設けられた部材によって予め前記延伸方向に弛ませた状態で、フィルムの両端を搬送装置に保持し、前記搬送装置によってフィルムの両端を保持しつつ延伸方向に搬送させながらフィルムを加熱してフィルムを前記延伸方向に熱収縮させることを特徴とする。
【0026】
即ち本発明では、縦一軸方向に延伸された長尺状のフィルムを使用する。ここで一般に、一方方向に延伸されたフィルムは、熱を加えることにより、延伸前の形状に復帰しようとする性質がある。
そして本発明では、縦一軸方向に延伸された長尺状のフィルムを延伸方向(縦方向、長手方向)に搬送し、前記フィルムの一部領域又は全域を凹凸形状が設けられた部材によって予め前記延伸方向に弛ませた状態で、フィルムの両端を搬送装置に保持する。そして前記搬送装置によってフィルムの両端を保持しつつ延伸方向に搬送させながらフィルムを加熱してフィルムを前記延伸方向に熱収縮させる。
ここで本発明では、フィルムを弛ませた状態でフィルムの両端を搬送装置に保持するから、熱収縮による縮みしろがあり、収縮を妨げる応力が生じにくい。
またフィルムは、その両端が保持されているので、横方向(搬送方向に対して垂直方向)には収縮しない。
そのため縦一軸方向に延伸されたフィルムは、収縮方向にのみ変形し、この過程で、樹脂が厚み方向に配向する。
【0027】
好ましい実施形態では、フィルムの一部領域又は全域を延伸方向に弛ませた状態で凹凸形状をした保持部材片を備えた保持部材でフィルムの端部を保持してフィルムの両端を搬送装置に保持する。
【0028】
好ましい実施形態では、フィルムの一方の面と他方の面とを互い違いに押圧することによってフィルムの一部領域又は全域を弛ませた後にフィルムの両端を搬送装置に保持する。
【0029】
フィルムを前記延伸方向に収縮させる際には、フィルムの両端の距離を変えることなく保持するか、或いは両端を搬送方向に対して横方向に拡幅してもよい。
【0030】
後述する実施形態では、フィルムを波形にした(弛ませた)状態で保持するために、フラッパ方式のクリップの上下の保持部材の内の少なくとも一方を波形の形状としている。このとき、原則として波形形状のクリップでフィルムを挟むことによってフィルムを波打たせる様に賦形する。ここで「賦形」の意義であるが、フィルムを塑性変形させるのではなく、フィルムを平面状ではなく波うち状にするという意味である。
【0031】
更に下記の実施形態は、上記の波形の保持部材でのフィルムの挟み込みと搬送とを円滑に且つ確実に実施し、厚み方向に配向成分を有する延伸フィルムを製造するための手段を提供するものである。
即ち、フラッパ方式のクリップの保持部材を波形にすると、フィルムをフラッパに把持する際に平坦なフィルムに当接した保持部材の上歯(突起)と下歯(突起)とを咬合させる過程で上流側からフィルムを引き込む必要がある。このとき、保持部材の上歯および下歯とフィルムとの間には大きな摩擦力が作用するため、相当に大きな力でフラッパを回動させなければ、クリップでフィルムを波型に把持することが出来ないという問題がある。
【0032】
一般に、フラッパは、振り子の如く揺動してフィルム載置面に近接・離反するものであり、その揺動方向は、フィルムの搬送方向に対して垂直である。そのためフラッパは、当初フィルムの側辺の外側にあり、円弧軌跡を描いて揺動し、フィルムの中心に向かって移動する。そして遂にはフラッパの先端がフィルムと接する。その後にもフラッパは円弧軌跡を描いて揺動を続けるので、フラッパはフィルムと接した後にもフィルムの中心に向かって揺動し、フィルムの表面を押さえるだけでなく、内側方向にも力を加えてしまう。
【0033】
この様にフラッパは、フィルムの幅方向に移動しつつフィルムを押さえるものである。そのため、フラッパを波形に改造すると、フィルムとの間の摩擦力が増大する。そのため波形に改造したフラッパは、フィルムとの間に相当の摩擦力が生じるから、フィルムの端辺部がフラッパの横方向移動に伴って中央方向に移動し、フィルムにしわを発生させたり、フィルムを損傷することがあった。
【0034】
したがって、フィルムとクリップとの間に摩擦力を発生させないようにするためには、クリップの咬合力によってフィルムを上流側から引き込むのではなく、クリップの把持形状に合わせて波打つようにフィルムをオーバーフィードすればよい。
【0035】
そこで、下記の実施形態では、フィルムを波形に賦形しながらオーバーフィードできるフィルムオーバーフィード装置を使用し、フィルムを無理なく波形に把持する。
「賦形」の意義は前述した通りであり、フィルムを塑性変形させるのではなく、フィルムを平面状ではなく波うち状にするという意味である。
フィルムを波形に賦形しながらオーバーフィードできるフィルムオーバーフィード装置を使用する場合には、上下の保持部材の内の少なくとも一方が波形をしたクリップでフィルムを保持してフィルムを延伸することが推奨されるが、他の公知のクリップでフィルムを保持してフィルムを延伸することも可能である。
【0036】
本発明において、「弛む」という状態は、搬送状態において特定間隔に存在するフィルムの実際の長さが前記した特定間隔よりも長い状態を言う。フィルムが過剰供給された状態であるとも言える。
「弛む」状態の形状を外観すると、例えば波打った状態が考えられる。「波打った状態」は山・谷の形状や周期が不規則である状態であってもよいが、品質を均一にする目的から、山・谷の形状や周期が規則的であることが望ましい。
「弛む」状態の形の中で推奨されるものとして、サインカーブの様な山と谷とが規則的に存在する状態の他、脈動状態の様に、山だけが存在する状態や谷だけが存在する状態が挙げられる。また微細振動状であってもよい。
本発明は、フィルムを例えば波形に賦形した状態となる様に弛ませて縦方向に熱収縮するものであるが、フィルムを弛ませる(波形に賦形する)方策は任意である。一つの方策として、保持部材片自体によってフィルムを波形に賦形することができる。即ち双方ともに凹凸形状をした一対の保持部材片を使用し、保持部材片の間で挟んでフィルムを弛ませる。
1つの態様では、双方の保持部材片がそれぞれ凸形部と凹形部を有している。凹凸形状としては、特に限定は無く、山頂部や谷底部の形状が丸いものや、平坦なものが考えられる。凹凸形状の具体例としては、サインカーブの様な山と谷とが交互に出現するものがあるが、山又は谷だけが存在して外観状凹凸形状に見えるものも含まれる。また針状形状のものも凹凸形状に含む。
最も推奨される凹凸形状は、サインカーブの様な山と谷とを有する波形形状である。
前記した様に双方ともに凹凸形状をした一対の保持部材片を使用して保持部材片の間で挟んでフィルムを波打った状態にすることが推奨されるが、本発明はこの構成に限定されるものではない。即ち一方だけが凹凸形状をした保持部材片を使用し、保持部材片でフィルムを押さえることによってフィルムを波形に賦形することもできる。本態様では、一方の保持部材片が凸形部と凹形部を有している。
さらに一方の保持部材片が凸形部だけを有していたり、一方の保持部材片が凹形部だけを有しているものを使用してフィルムを波形に賦形することもできる。
さらにはフィルムを波形に賦形するための装置を別途用意し、この装置によってフィルムを波形に賦形してもよい。
【0037】
かかる構成により、フィルムを弛ませた状態(好ましくは波形に賦形した状態)で横方向の収縮を阻止し、縦方向にのみ熱収縮させることができる。
【0038】
本発明の別の態様として、フィルムの両端を保持部材で挟みながら搬送し、保持部材でフィルムの両端を挟む以前に、或いは前記保持部材でフィルムの両端を挟む際に、フィルムの少なくとも一方の面を搬送方向に間隔をあけて押圧することによってフィルムの一部領域又は全域を弛ませ、弛んだ状態のままでフィルムを熱収縮させる方策が考えられる。
【0039】
ここで「フィルムの少なくとも一方の面を搬送方向に間隔をあけて押圧する」とはフィルムの一部を押し、さらにそれから搬送方向に離れた位置を押すことである。例えば波形の様な凹凸形状が設けられた部材同士の間でフィルムを挟むことによって「フィルムの少なくとも一方の面を搬送方向に間隔をあけて押圧する」ことができる。
即ち凹凸形状が設けられた部材は、凸部分が一定の間隔をあけて形成されているから、凹凸形状が設けられた部材同士の間でフィルムを挟むと、フィルムの両面が搬送方向に間隔をあけて押圧される。
また凸形状のみを有する部材でフィルムを押してもよい。
また「弛む」状態の代表的な外観形状は、前記した様に波打った状態である。
【0040】
凹凸形状が設けられた部材として、フィルムに向かって互い違いに突出する過給突起を備えた波状把持部材があげられる。前記波状把持部材は、咬合時に、前記フィルムの厚みより大きな隙間を形成するものを採用することが望ましい。
【0041】
この方法によれば、フィルムの中央部に過剰な圧力を加えてキズを付けたり、供給過多によりフィルムに皺を形成することがない。
【0042】
本発明のさらに別の態様として、凹凸形状が設けられた部材によってフィルムの両端を弛ませる工程と、弛んだ状態のフィルムの両端を搬送装置に保持する保持工程と、前記搬送装置によってフィルムを搬送させながら熱収縮させる工程を含むことができる。
【0043】
かかる構成により、連続的に供給されるフィルムを予め弛ませてから(好ましくは波形に賦形してから)、弛んだ状態(好ましくは波形)を維持しながら搬送装置に把持することが可能となり、波形に賦形されたフィルムを縦方向に熱収縮させることが可能となる。
【0044】
弛ませる工程(好ましくは波打たせる工程、以下同じ)は、凹凸形状が設けられた部材をフィルムに徐々に押しつける工程であってもよい。
【0045】
ここで「徐々に」とは動作の開始から完了までにある程度の時間がかかる状況を言い、目視で動く状況が確認できる程度の動作速度で凹凸形状が設けられた部材が動作する状況をさす。弛ませる工程(波打工程)の開始から完了までの間に、1秒以上を要することが望ましい。
【0046】
また他の好ましい態様は、弛ませる工程が、凹凸形状が設けられた部材同士の間でフィルムを徐々に挟む工程である前記延伸フィルムの製造方法に関する。
【0047】
上記した二つの態様により、連続的に供給されるフィルムをより円滑に波形に賦形することが可能となる。
【0048】
凹凸形状が設けられた部材同士の距離を変化させることにより、弛ませる工程において賦形されるフィルムの波の形状を変化させてもよい。
【0049】
かかる態様により、フィルムの弛み状態、例えば波形の形状を自由に調整することができ、搬送方向へのフィルムの延伸を抑制する効果を自由に制御することが可能となる。
【0050】
例えば波形に賦形されたフィルムの両端を搬送装置に保持する工程は、近接・離反する部材を有する保持部材で挟み込む工程であってもよい。
【0051】
「近接・離反する部材を有する保持部材」の代表的な例としてクリップがあげられる。かかる態様により、例えば波形に賦形されたフィルムの形状を維持しつつ搬送装置に保持することが可能となる。
【0052】
保持部材は一対の保持部材片を有し、保持部材片同士の間でフィルムの端部を挟むものであり、前記一対の保持部材片がいずれも凹凸形状をしている構成が推奨される。
【0053】
かかる態様により、例えば波形に賦形されたフィルムの波形を確実に維持しつつ搬送装置に保持することが可能となる。
【0054】
本発明の別の好ましい態様は、保持部材は一対の保持部材片を有し、保持部材片同士の間でフィルムの端部を挟むものであり、前記一対の保持部材片の一方が凹凸形状であり、他方が平面形状である前記延伸フィルムの製造方法に関する。
【0055】
かかる態様により、例えば予め波形に賦形されたフィルムの波形の大小や波の周期にかかわらず、確実に搬送装置に固定することが可能となる。
【0056】
また弛ませる工程(波打工程)はフィルムオーバーフィード装置を使用して行うことが推奨される。
ここで推奨されるフィルムオーバーフィード装置は、
フィルム延伸部と組み合わされてフィルム延伸機を構成するフィルムオーバーフィード装置において、
前記フィルム延伸部は搬送状態のフィルムの側端を保持する構成を備え、フィルムオーバーフィード装置は、前記フィルム延伸部の上流側または前記フィルム延伸部と同等の位置に配置されるものであり、
表側把持片と裏側把持片を有する波状把持部材を有し、表側把持片と裏側把持片にはそれぞれ過給突起が有り、表側把持片の過給突起と裏側把持片の過給突起はフィルムの搬送方向に互い違いの位置にあって表側把持片と裏側把持片とが近接した状態においては過給突起同士が咬み合い姿勢となり、
前記表側把持片と裏側把持片はフィルムの表裏両側に対向して配置され、波状把持部材はフィルムの搬送方向に移動しながら表側把持片と裏側把持片の間で前記フィルムを挟み込んでフィルムを弛ませることを特徴とするフィルムオーバーフィード装置である。
【0057】
ここで咬み合い姿勢とは、歯車の様に嵌合する状態の他、凹凸形状が向き合って一方の凹の中に他方の凸が入り込んでいる状態をさす。
本発明で採用されるフィルムオーバーフィード装置は、平面的に送られてきたフィルムを一時的に波打たせ、この波打ち状態でフィルムをフィルム延伸部に供給することができる。
即ち本実施形態のフィルムオーバーフィード装置は、フィルム延伸部の上流側または前記フィルム延伸部と同等の位置に配置されるものであり、フィルム延伸部がフィルムを保持する以前か、或いはフィルム延伸部がフィルムを保持するのと同時に機能する。
以下、説明を簡単にするためにフィルム延伸部がフィルムを保持する以前にフィルムオーバーフィード装置が機能することとして説明する。
本実施形態のフィルムオーバーフィード装置は、表側把持片と裏側把持片を有する波状把持部材を有し、フィルム延伸部がフィルムを保持するのに先立って、フィルムを挟む。
そして本実施形態のフィルムオーバーフィード装置では、表側把持片と裏側把持片の双方に過給突起が有り、表側把持片の過給突起と裏側把持片の過給突起はフィルムの搬送方向に互い違いの位置にあって表側把持片と裏側把持片とが近接した状態においては過給突起同士が咬み合い姿勢となる。
そのため表側把持片と裏側把持片を有する波状把持部材でフィルムを挟むと、フィルムが波打つ。
そのため本実施形態のフィルムオーバーフィード装置によると、フィルムを予め波打たせて、フィルム延伸部に供給することができる。
【0058】
他の態様のフィルムオーバーフィード装置は、フィルムの表裏両側に対向して配置され、前記フィルムの搬送方向に移動しながら前記フィルムを挟み込む波状把持部材を有し、前記波状把持部材は、前記フィルムの搬送方向に配列され、前記フィルムの幅方向に延伸するように前記フィルムに向かって互い違いに突出する過給突起を備えるものとする。
【0059】
この構成によれば、波状把持部材でフィルムを挟み込むことで過給突起がフィルムを上流側から引き込んでゆるませる。これによって、フィルムをフィルム延伸機が把持する形状にして供給できるので、フィルム延伸機が無理なくフィルムを波状に把持できる。
【0060】
また、前記波状把持部材は、前記フィルムの搬送面に直交する平面内を周回する環状の無端部材に等間隔で複数保持されていてもよい。
【0061】
こうすることによって、複数の波状把持部材を、フィルムを一定間隔で表裏から挟み込むように規則正しく周回させられる。
【0062】
また、本実施形態のフィルムオーバーフィード装置において、前記波状把持部材は、前記フィルムを徐々に挟み込み、挟み込んだフィルムを一定時間把持して搬送した後に解放してもよい。
【0063】
この構成によれば、波状把持部材がゆっくりとフィルムを挟み込むことでフィルムを上流側から無理なく引き込んで波打たせることができる。また、フィルムを把持している間にフィルム延伸機にフィルムの両側端を無理なく把持させることができる。
【0064】
また、本実施形態のフィルムオーバーフィード装置において、前記波状把持部材は、咬合時に、前記フィルムの厚みより大きな隙間を形成してもよい。
【0065】
この構成によれば、フィルムの中央部に過剰な圧力を加えてキズを付けたり、供給過多によりフィルムに皺を形成することがない。
【0066】
また、フィルム延伸機は、前記フィルムオーバーフィード装置の前記波状把持部材と等しい速度で前記フィルムの両側をそれぞれ周回し、前記フィルムの側端を把持する複数のクリップを有し、前記クリップは、前記波状把持部材の過給突起と対応する波形に咬合して前記フィルムを把持する歯部を備え、前記波状把持部材に挟み込まれているときに前記フィルムの側端を把持するものとする。
【0067】
この構成によれば、波状把持部材で波打たせたフィルムを把持形状が波形のクリップで把持するので、クリップがフィルムを無理なく把持でき、フィルムにしわやキズができない。
【0068】
本発明の別の一態様では、長尺状のフィルムであって予め長手方向に延伸されたフィルムを、長手方向に搬送しつつ、フィルムの一部領域又は全域を予め長手方向に弛ませた状態でフィルムを縦方向(長手方向、搬送方向)にのみ熱収縮させる。
【0069】
また前記フィルムの少なくとも一方の面を搬送方向に間隔をあけて押圧することによってフィルムの一部領域又は全域を予め長手方向に弛ませることができる。
【0070】
前記フィルムの一方の面と他方の面とを互い違いに押圧することによってフィルムの一部領域又は全域を予め長手方向に弛ませることが推奨される。
【0071】
また凹凸形状が設けられた部材同士の間でフィルムを挟むことによってフィルムを押圧し、フィルムの一部領域又は全域を予め長手方向に弛ませることも可能である。
【0072】
フィルムの幅方向の中央部分を押圧することによってフィルムの一部領域又は全域を予め長手方向に弛ませることが推奨される。
【0073】
即ちフィルムの幅方向の内の両端部分を器具で挟んでフィルムを弛ませても良いが、端以外の部分(中央部分)を器具で挟んでフィルムを弛ませる方が、全体を均一に弛ませやすい。
【0074】
また長尺状のフィルムを搬送手段で搬送し、当該フィルムを当該フィルムに搬送手段に対して搬送方向の自由度を付与した状態にしておいてフィルムの一部領域又は全域を波打ち状態となる様に弛ませることが推奨される。
【0075】
本実施形態では、フィルムに搬送手段に対して搬送方向の自由度を持つから、器具でフィルムを挟んだ際に、搬送方向の上流側又は下流側のフィルムを引き込み易い。例えばフィルムの両端を挟む保持部材に凹凸形状を設け、保持部材でフィルムの両端を挟むことによってフィルムを弛ませる構成を採用する場合に本実施形態を併用することが望ましい。
【0076】
またフィルムの一部領域又は全域を予め長手方向に弛ませた状態でフィルムの両端を保持し、長手方向に搬送しつつ搬送方向に対して縦方向に熱収縮させることが推奨される。
【0077】
次に、本発明の延伸フィルムの製造方法、並びに、製造するための装置の例について、図面を参照しながら以下に詳述する。しかし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0078】
本発明は、特定の形状の保持部材2,55で予め縦一軸方向に延伸したフィルムFを保持し、それを加熱することにより、フィルムFを波形に賦形した状態で搬送方向に対して縦方向(延伸方向)に熱収縮させるものであり、フィルムFは熱収縮によって厚み方向に配向しつつ搬送方向への収縮を可能とすることができ、厚み方向に配向されたフィルムFを製造できることを基本的な考え方とするものである。
【0079】
更に、本発明の別の要点は、前記熱収縮操作を連続的に且つ円滑に実現するために、予め縦一軸方向に延伸したフィルムFの供給工程、フィルムFを搬送方向に沿って連続的に波形に賦形する工程、波形に賦形されたフィルムFの両端を搬送装置に把持する工程、予め縦一軸方向に延伸したフィルムFを搬送しながら加熱して熱収縮させる工程を連続的に実施することにある。
【0080】
本発明において、フィルムFを波型に賦形した状態で搬送方向に対して横方向に保持し、さらにフィルムFを無理なく熱収縮させるための保持部材2の好ましい態様としては、保持部材2の上歯と下歯が咬合する凹凸の形状をしたクリップがあげられる。かかる構造のクリップを用いれば、フィルムFを波型に賦形することが可能であり、且つフィルムFを搬送方向に対して熱収縮させることが可能となる。フィルムFを咬合する凹凸の形状の周期や大きさは、フィルムFの物性や延伸倍率に従って任意に選択される。
【0081】
前記クリップ型の保持部材2の一例(第一の実施形態)を図1に示す。保持部材2のフィルムFを挟む面は、互いに咬合する波形の上歯部(保持部材片)12と下歯部(保持部材片)11からなる。かかるクリップで把持されたフィルムFは波型の形状を形成するため、本発明の目的を達成することが可能となる。
フィルムFを波型に賦形した状態で搬送方向に対して熱収縮を許容させるための保持部材の別の好ましい態様としては、図2に示すように保持部材55の様に保持部材片56,57の片方が凹凸形状を有しており他方が平面状である構造のクリップが挙げられる(第二の実施形態)。かかる構造のクリップは、フィルムFを任意の高さや周期の波形に賦形して延伸することが可能となり好ましい。更に、前述のフィルムオーバーフィード装置等のフィルムFを連続的に波形に賦形する装置を用いる場合には、賦形されたフィルムFの波形の周期や高さが一定でなくても、フィルムF端部を確実に挟み込むことが可能であり、最も好ましい実施形態となる。
【0082】
保持部材55のフィルムFを挟む面の上面は波型の凹凸形状をした上歯部(保持部材片)56である。これに対して下面は平面57である。かかるクリップを用いて、後述するフィルムオーバーフィード装置などで波形に賦形されたフィルムFを把持すると、フィルムFは収縮しろを維持しながら縦方向に熱収縮することが可能となる。
【0083】
次に、本発明の延伸フィルムの製造方法に使用可能なフィルム延伸機1についてその概要を説明する。
【0084】
図3,図26に、本発明の1つの実施形態のフィルム延伸機1を示す。フィルム延伸機1は、フィルムFの両側端を把持するクリップ2が等間隔で設けられたテンタチェイン3と、テンタチェイン3に把持されたフィルムFを熱風によって加熱する加熱炉4とを有し、フィルムFを把持するテンタチェイン3の間隔を広げることでフィルムFを幅方向に延伸するものである。なお、図示しない調節装置によってテンタチェイン3の間隔を変更することが可能であり、図26に示すように、テンタチェイン3の間隔を常に一定にすることもできる。図26に示すように、テンタチェイン3の間隔を常に一定にすれば、フィルムFは幅方向に延伸されず、幅方向の収縮を阻止するに止まる。
また、フィルム延伸機1は、フィルムFの表裏でそれぞれ、フィルムFの搬送方向に平行で、フィルムFの搬送面(水平面)に垂直な平面内をそれぞれ周回する2対のフィーダチェイン(無端部材)5と、フィーダチェイン5にクリップ2と等しい間隔で保持され、フィルムFを表裏から挟み込む波状把持部材6aおよび6bとを備えるフィルムオーバーフィード装置7を有する。
【0085】
本発明に用いるフィルムFを搬送方向に沿って連続的に波形に賦形する装置は、フィルムFを連続的に波形に賦形することができる装置であれば、その構造は特に限定されない。例えば、図3,図26で示したようなフィルムオーバーフィード装置7は、フィルムFに無理な摩擦や張力を与えることが無く、円滑に波形を賦形させることが可能であり、好ましい。
図5にフィルムオーバーフィード装置7を側面から見た図を示す。このフィルムオーバーフィード装置7では、フィルムFの表裏両面に対向して配置され、前記フィルムFの搬送方向に移動しながら前記フィルムFを挟み込む波状把持部材(表側把持片と裏側把持片)6a,6bを有し、前記波状把持部材6は、前記フィルムFの搬送方向に配列され、互いに突出する過給突起15を備えるものである。
【0086】
フィルムオーバーフィード装置7の波状把持部材(表側把持片と裏側把持片)6a,6bは、上下のフィーダチェイン5のコマにそれぞれ等間隔に固定されている。また、図5,6に示すように、波状把持部材(表側把持片と裏側把持片)6a,6bには、フィルムFの搬送方向にクリップ2の下歯部11および上歯部12の波形の周期と同じピッチで互い違いに、フィルムFの幅方向(搬送方向と直角)に延伸するようにフィルムFに向かって突出する過給突起15が形成されている。波状把持部材(表側把持片と裏側把持片)6a,6bは、上下のフィーダチェイン5がフィーダガイド16,17によって接近させられることで咬合するようになっている。
【0087】
ただし、波状把持部材(表側把持片と裏側把持片)6a,6bは、過給突起15を受け入れあうように再接近したときにも、互いに当接せず、フィルムFの厚みよりも十分に大きな隙間を残すように咬合する。これにより、フィルムFの中央部に過剰な圧縮応力を作用させて傷つけることがないようにしている。
なお過給突起15は、フィルムFの面を搬送方向に間隔をあけて押圧することによってフィルムの全域を予め長手方向に弛ませるものである。
また、本発明に用いるフィルムオーバーフィード装置7においては、前記波状把持部材(表側把持片と裏側把持片)6a,6bは、前記フィルムFの搬送面に直交する平面内を周回する環状の無端部材に等間隔に複数保持されていても良い。
波状把持部材6の互いに突出する過給突起15の凹凸の高さ、幅、形状、周期、上下の過給突起15が近づく早さ等は、フィルムFを収縮させるために必要な長さ、フィルムFの破損を避けるための最小曲げ半径等から自由に選択することが可能である。
【0088】
以上の構成からなるフィルム延伸機1は、クリップ2がフィルムFを把持する前に、まず、フィルムオーバーフィード装置7の波状把持部材6a,6bが徐々にフィルムFを上下面から挟み込んで行く。即ち過給突起15が、フィルムFの面を徐々に押圧する。
クリップ2は、フィルムオーバーフィード装置7が波状把持部材6a,6bを接近させてフィルムFを挟み込んでいる間に、フィルムFの両側端を保持部材2で把持するようになっている。
【0089】
波状把持部材6で、フィルムFを上下から挟み込む位置は任意であるが、フィルムFの端部より内側でフィルムFを挟み込む必要がある。即ち、フィルムFの波形を維持しつつ、波形のフィルムFの端部を搬送装置に保持させる必要があるためである。具体的なフィルムFを挟み込む位置としては、フィルムFの両端部に近すぎると保持部材(クリップ)2等と干渉してしまうため両端部から5mm以上内側を挟むことが好ましく、フィルムFをクリップ2に確実に固定する観点から両端部から10mm以上内側を挟むことがより好ましい。一方、フィルムFを上下から挟み込む位置が、フィルム両端部から離れすぎていると,保持部材(クリップ)2で挟み込む部分の波形が弱くなるし、フィルムFの無駄が生じるので、両端部から20mm以内の位置であることが好ましい。
【0090】
フィルムFを搬送しながら横方向に延伸する(或いは横方向の収縮を阻止する)装置は、従来の延伸装置を特に制限無く使用することができる。テンター炉(加熱炉4)の中に二組のチェーンを通し、チェーンに前述のフィルムFの両端部を固定する装置を取り付け、チェーンが移動するに従い二組のチェーンの間隔が拡幅するものが一般的であり、本発明にも適している。なお前記した様に、本実施形態で採用する装置は、二組のチェーンの間隔が一定であって平行状態を維持させることもできる(図26)。
テンター炉の温度、フィルムFの延伸倍率、延伸ステップ等の条件は任意であり、フィルムFの物性に合わせて最適値を選択することができる。
前述の通り、フィルムFは、予め縦一軸方向に延伸しておく。なお周知の通り、縦方向に延伸したフィルムは、加熱することによって、縦方向(延伸方向)に収縮する。
【0091】
次に、本発明を実施するためのフィルム延伸機1の具体的構造について説明する。
図3,7に示す様に、フィルム延伸機1は、フィルム延伸部20と、加熱炉4と、フィルムオーバーフィード装置7によって構成されている。
またフィルム延伸部20は、二系統のテンタチェイン3a,3bを有し、当該テンタチェイン3a,3bにフィルムF(予め縦一軸方向に延伸されている)の両側端を把持するクリップ2が等間隔で設けられている。
テンタチェイン3a,3bは、いずれも駆動側スプロケット21a,21bと従動側スプロケット22a,22bに懸架されている。
テンタチェイン3a,3bを懸架する4個のスプロケット21a,21b,22a,22bは、図3,7の様にいずれも同一平面に配置されている。図3,7を基準に説明すると、テンタチェイン3a,3bを懸架する4個のスプロケット21a,21b,22a,22bは、いずれも紙面に対して垂直方向に回転軸があり、4個のスプロケット21a,21b,22a,22bはいずれも紙面に対して平行な平面に配置されている。
【0092】
2系統のテンタチェイン3a,3bは、図3,7の様に一方の走行面を互いに対向して配置されている。そして2系統のテンタチェイン3a,3bの対向する走行面が延伸作用部27として機能する。
【0093】
2系統のテンタチェイン3a,3bの対向する走行面(延伸作用部27)は、導入側直線部23,傾斜部24,及び末端側直線部25によって構成されている。
そしてテンタチェイン3a,3bの走行面(延伸作用部27)は、導入側直線部23と末端側直線部25が、対向するテンタチェイン3a,3bの導入側直線部23及び末端側直線部25と平行である。また対向するテンタチェイン3a,3bの傾斜部24によってテーパー部が形成されている。なお、前記した様に、本実施形態で採用する装置は、二組のテンタチェイン3a,3bの間隔が常に一定であって平行状態を維持させることもできる(図26)。
【0094】
テンタチェイン3a,3bには、クリップ(保持部材)2が等間隔で設けられており、当該クリップ2によってフィルムFの両側端が把持される。
クリップ2の形状については後記する。
【0095】
加熱炉4は、テンタチェイン3a,3bに把持されたフィルムFを熱風によって加熱するものである。
本実施形態では、予め縦一軸方向に延伸されたフィルムFを加熱炉4で加熱するので、フィルムFは縦方向(延伸方向)に収縮する。
【0096】
次にフィルムオーバーフィード装置7について説明する。
フィルムオーバーフィード装置7は、2対(4系統)のフィーダチェイン5a,5b,5c,5dによって構成されている。
フィーダチェイン5a,5b,5c,5dは、図7の様にフィーダチェイン5a,5bが一組となっており、フィーダチェイン5c,5dがもう一つの組を形成している。
一組のフィーダチェイン5a,5bを懸架する4個のスプロケット30,31,32,33は、図3,7の様にいずれも同一平面に配置されている。ただし4個のスプロケット30,31,32,33が構成する平面は、前記したテンタチェイン3a,3bを懸架する4個のスプロケット21a,21b,22a,22bが構成する平面に対して直交する平面である。
【0097】
なお前記した4個のスプロケット30,31,32,33の内、スプロケット30,32は駆動側スプロケットであり、スプロケット31,33は従動側スプロケットである。
【0098】
また他方の対のフィーダチェイン5c,5dは、前記したフィーダチェイン5a,5bと平行に配されている。
また一方の対に含まれるスプロケット30,31,32,33と、他方の対に含まれるスプロケット30',31',32',33'は、対応するスプロケット同士が共通の軸36,37,38,39で連通されている。従って各スプロケット30,31,32,33は同期的に回転し、フィーダチェイン5c,5dについても同期的に走行する。
【0099】
2対(4系統)のフィーダチェイン5a,5b,5c,5dの内、図7を基準として上側のフィーダチェイン5a,5cには、表側把持片6aが等間隔に複数取り付けられている。一方、図7を基準として下側のフィーダチェイン5b,5dには、裏側把持片6bが等間隔に複数取り付けられている。
上側のフィーダチェイン5a,5cに取り付けられた表側把持片6aと、下側のフィーダチェイン5b,5dに取り付けられた裏側把持片6bは、一対となって波状把持部材6を構成する。表側把持片6aと、裏側把持片6bの形状については後記する。
【0100】
前記した2対(4系統)のフィーダチェイン5a,5b,5c,5dは、いずれもフィルム延伸部20のテンタチェイン3a,3bで略囲まれる領域にある。
ただしフィルムオーバーフィード装置7のフィーダチェイン5a,5b,5c,5dの長さ(スプロケットの軸間距離)は、フィルム延伸部20のテンタチェイン3a,bよりも短い。
そのためフィルムオーバーフィード装置7のフィーダチェイン5a,5b,5c,5dの始端部は、フィルム延伸部20のテンタチェイン3a,3bの始端部はよりも僅かに上流側にあり、フィーダチェイン5a,5b,5c,5dの終端部は、導入側直線部23の終端部にある。
【0101】
またフィルムオーバーフィード装置7のフィーダチェイン5a,5b,5c,5dと、テンタチェイン3a,3bは同期的に走行する。
【0102】
また加熱炉4は、フィルム延伸部20におけるテンタチェイン3a,3bの傾斜部24,の位置に設けられている。
【0103】
次に、テンタチェイン3a,3bに取り付けられたクリップ(保持部材)2について説明する。
【0104】
クリップ2は、図4,9,10,11の様にベース8を介してテンタチェイン3に取り付けられている。即ち公知の手段によってテンタチェイン3のピンにベース8が固定され、当該ベース8上にクリップ2が載置されている。
クリップ2は、図4,9,10,11の様に、フィルムF側に開放した概略コの字型をなすフレーム9を有し、当該フレーム9にフラッパ10が取り付けられたものである。
即ちフレーム9は、上辺40と垂直辺41及び下辺42を有するコの字形状である。そしてフレーム9の下辺42の上面(内面)は、フィルム載置面45として機能するものであり、本実施形態では、波形(下歯部11)をしている。即ち保持部材片たるフィルム載置面45は、波形をしていて凸形部と凹形部の双方を備えている。またフィルム載置面45は、凸形部が一定の間隔をあけて設けられたものであるともいえる。
【0105】
またフラッパ10は、棹部46と押圧部47を有し、棹部46の中間部がフレーム9の上辺40に軸止めされており、フラッパ10は振り子の如く揺動する。フラッパ10の揺動方向は、フィルムFの幅方向である。即ちフラッパ10の押圧部47は、円弧軌跡を描いて移動する。そのため図10の様に揺動して棹部46が斜め姿勢にあるときには、押圧部47はフィルム載置面45から離れる。一方、棹部46が垂下姿勢であるときには押圧部47の下面がフィルム載置面45に近接してフィルム載置面45を押圧する。
ここで本実施形態のフラッパ10では、押圧部47の下面が波形(上歯部12)をしている。即ち保持部材片たる押圧部47についても波形をしていて凸形部と凹形部の双方を備えている。また押圧部47についても、凸形部が一定の間隔をあけて設けられたものであるともいえる。
そして棹部46が垂下姿勢となったとき、押圧部47の下面の波形形状(上歯部12)と、フィルム載置面45の波形形状(下歯部11)が合致する。
【0106】
前記した様にフラッパ10は、棹部46の中間部がフレーム9の上辺に軸止めされているから、棹部46の上端はフレーム9の上辺40よりも上に突出する。
そのため、棹部46の上端を横方向に押圧することによってフラッパ10を揺動させることができ、前記した様にフラッパ10の押圧部47をフィルム載置面45に近接・離反させることができる。
なお本実施形態では、テンタチェイン3a,3bの近傍に長尺状のクリップガイド14を設け、クリップガイド14に棹部の上端を接触させている。そしてクリップガイド14とフレーム9の位置関係が場所ごとに変わる様に設計されており、クリップガイド14で棹部46の上端を押圧してフラッパ10を揺動させている。
【0107】
図4には、フィルムFを保持している状態のクリップ2と、波状把持部材6との詳細が示されている。クリップ2は、テンタチェイン3のコマに等間隔に取り付けられたベース8に固定され、フィルムF側に開放した概略コの字型をなすフレーム9と、フレーム9の上辺先端に揺動可能に枢支されたフラッパ10とを有する。フラッパ10は、先端に、フレーム9の下辺先端に設けた下歯部11と咬合する上歯部12が設けられている。また、フラッパ10は、フレームの上方に延伸するアーム部13がクリップガイド14に案内されて揺動するようになっている。クリップ2は、フラッパ10の揺動によって、下歯部11と上歯部12とでフィルムFの側端を把持または解放する。
【0108】
図9に示すように、クリップ2の下歯部11と上歯部12とは、フィルムFの搬送方向に所定ピッチで周期的に上下する波形に咬合するようになっている。
【0109】
次に、フィーダチェイン5a,5b,5c,5dに取り付けられた表側把持片6a、及び裏側把持片6bについて説明する。
前記した様に4個のフィーダチェイン5a,5b,5c,5dは、2対に分かれて配置されており、それぞれ一対のフィーダチェイン(5a,5b)(5c,5d)は、上下に並べて配置されている。図5は、その内の一対のフィーダチェイン5a,5bを図示したものである。また図6は、図5の一部を拡大したものであり、表側把持片6aと裏側把持片6bによって構成される波状把持部材6を図示している。
本実施形態では、図5の様にフィーダチェイン5a,5b(又は5c,5d)の対向する走行面がフィード作用部50として機能する。
そして本実施形態では、上側に位置するフィーダチェイン5aで囲まれる領域であって、フィード作用部50側の走行路に、フィーダガイド16が設けられている。フィーダガイド16は、フィード作用部50側の走行路の略全域に渡る長さを持つ。そしてフィーダガイド16は、走行路の中間部分を外側(図を基準にすると下側)に張り出す形状となっている。より具体的には、フィーダガイド16はガイド面が緩やかに傾斜しており、走行路の終端近傍が外側に張り出している。
【0110】
また下部に位置するフィーダチェイン5bについても同様にフィーダガイド17が設けられている。フィーダガイド17はガイド面が緩やかに傾斜しており、走行路の終端近傍が外側に張り出している。
【0111】
そして本実施形態では、上部側のフィーダチェイン5aに表側把持片6aが取り付けられ、下側のフィーダチェイン5bに裏側把持片6bが取り付けられている。
フィーダチェイン5aに設けられた表側把持片6aは、図12の様に下面に過給突起15が3個形成されている。
過給突起15は、フィルムF側に向かって突出するものであり、リブ状であって、峰に長さを持つ。即ち一つの過給突起15は、表側把持片6aの全幅に渡って延びる。過給突起15の峰の方向は、フィルムFの幅方向に沿っている。
過給突起15が存在しない部位、即ち過給突起15の谷の部位は、平坦である。過給突起15の幅Wは、過給突起15同士の間隔wよりも小さい。
表側把持片6aは、過給突起15が、一定の間隔をあけて設けられたものであると言える。なお本実施形態では、推奨される構成として過給突起15の間隔を一定としたが、過給突起15の間隔は不規則であってもよい。後記する裏側把持片6bについても同様である。
なお表側把持片6aの下面をサインカーブの様な波打ち面としてもよい。
本実施形態では、上部側のフィーダチェイン5aに表側把持片6aが複数等間隔に設けられている。この点からも過給突起15が、一定の間隔をあけて設けられたものであると言える。
表側把持片6a同士の間隔は、前記したクリップ2の間隔と等しい。
【0112】
下側のフィーダチェイン5bに設けられた裏側把持片6bについても、過給突起15が設けられている。
裏側把持片6bについても、過給突起15が、一定の間隔をあけて設けられたものであると言える。
下側の裏側把持片6bに設けられた過給突起15の形状及び間隔は、先に説明した表側把持片6aと同一である。しかしながら、先に説明した表側把持片6aでは、過給突起15を3個有していたのに対し、下側の裏側把持片6bでは、過給突起15を4個有している。
本実施形態では、下側のフィーダチェイン5bに裏側把持片6bが複数等間隔に設けられている。
この点からも過給突起15が、一定の間隔をあけて設けられたものであると言える。
裏側把持片6b同士の間隔は、前記した表側把持片6aのそれと等しい。
【0113】
上側に位置するフィーダチェイン5aと、下部に位置するフィーダチェイン5bは同期的に走行し、両者が対向する走行面(フィード作用部)50においては、表側把持片6aと裏側把持片6bとの軸心が常に一致する。
ただし前記した様にフィーダチェイン5a,5bには、それぞれフィーダガイド16,17が設けられており、フィーダチェイン5a,5bの走行軌跡は、中央が外側に膨らんでいるから、表側把持片6aと裏側把持片6bとの相対距離は、フィーダチェイン5a,5bの走行位置によって変化する。
即ちフィーダガイド16,17は、いずれもフィーダチェイン5a,5bのフィード作用部50の終端部を外側に張り出すから、フィーダチェイン5a,5bのフィード作用部50の終端部に表側把持片6aと裏側把持片6bとが移動した時に両者の距離が最も近づく(図13 C列)。
これに対してフィード作用部50の始端部においては、図8のA列、図13のA列の様に表側把持片6aと裏側把持片6bとの間が開いている。
【0114】
従ってフィーダチェイン5a,5bが走行し、表側把持片6aと裏側把持片6bが周回してフィード作用部50(対向する走行面)側に至ると、表側把持片6aと裏側把持片6bが対向することとなり、以後、表側把持片6aと裏側把持片6bは対向姿勢のままでフィード作用部50を走行する。
【0115】
そしてフィード作用部50の始端部においては、図13のA列の様に、表側把持片6aと裏側把持片6bの間が大きく開いている。
具体的には、表側把持片6aの峰と裏側把持片6bの峰とは図13のA列の様に上下方向に離れている。そしてフィード作用部50を走行するに連れて両者の間隔が図13のB列の様に狭まり、表側把持片6aの峰と裏側把持片6bの峰とが咬みあう。
【0116】
そしてフィード作用部50を走行するにつれて両者の間隔がますます近づき、表側把持片6a及び裏側把持片6bがフィルムFの表面を押圧する。ここで、表側把持片6a及び裏側把持片6bには、互い違いの位置に過給突起15があるから、例えば表側把持片6a側の過給突起15の先端がフィルムFの表面を図面下側に押圧する際の反力が、対向する位置にある裏側把持片6bの過給突起15で保持される。
そのためフィルムFは、全体的に上下することなく、波状把持部材6で挟まれた部位だけが波形に賦形される。
前記した様に表側把持片6a及び裏側把持片6bは、共に過給突起15が、一定の間隔をあけて設けられたものであると言えるから、フィルムFの表裏面が搬送方向に間隔をあけて押圧されたと考えることもでき、その結果、波状把持部材6で挟まれた部位だけが弛んで波形に賦形される。
【0117】
また表側把持片6aと裏側把持片6bは、フィーダチェイン5a,5bの走行に伴って徐々に近接するので、フィルムFは表側把持片6aと裏側把持片6bの間に徐々に挟み込まれることとなる。
【0118】
そして表側把持片6aと裏側把持片6bとが、フィード作用部50の終端部近傍に至った時に、表側把持片6aと裏側把持片6bとが最も近接する。
表側把持片6aと裏側把持片6bとが、フィード作用部50の終端部近傍に至ると、図8のC列、図13C列に示すように表側把持片6aと裏側把持片6bとが咬み合い姿勢となるが、表側把持片6aと裏側把持片6bとは接触しない。
より具体的に説明すると、表側把持片6aと裏側把持片6bとが最も近接しても、表側把持片6aの峰は、裏側把持片6bの谷と接触せず、表側把持片6aの谷は、裏側把持片6bの山と接触しない。
【0119】
また過給突起15の幅Wは、過給突起15同士の間隔wよりも小さいから、表側把持片6aの過給突起15と裏側把持片6bの過給突起15が入れ子状態になるものの、両者が接触することはない。
【0120】
テンタチェイン3とフィーダチェイン5とは、同じ周速で周回するようになっており、図3,図8に示すように、クリップ2と波状把持部材6a,6bとは、両者がフィルムFを把持する時点で、フィルムFの搬送方向に同じ位置になるように、等しい間隔で配設されている。また、波状把持部材6a,6bの過給突起15は、それぞれ、クリップ2の下歯部11および上歯部12の波形の頂点と対応して同じ数だけ設けられている。
【0121】
次に、フィルム延伸機1の作用について説明する。
【0122】
先ず、最初に、予め縦一軸方向に延伸されたフィルムFは、フィルムオーバーフィード装置7の波状把持部材6a,6bに挟み込まれ、過給突起15が互い違いに上下から圧接されるので、各過給突起15を頂点とする波形を形成する(図8,13のB列参照)。即ち弛む。このとき、フィルムFは、波打つ分だけ余分に長さが必要になるので、フィルムオーバーフィード装置7は、フィーダチェイン5の搬送速度(例えば15m/sec)よりも速い速度(例えば1.2倍の18m/sec)で上流側からフィルムFを引き込むことになる。
フィルムオーバーフィード装置7の搬送速度は、前記した様にフィーダチェイン5の搬送速度よりも速いことが望ましく、適正な速度範囲は、フィーダチェイン5の搬送速度の1.05倍以上1.50倍以下である。
【0123】
フィルムオーバーフィード装置7が上流側からフィルムFを引き込む際、フィルムFが過給突起15を擦過することになるため、過給突起15は、フィルムFとの摩擦が小さくなるような材質で形成することが望ましい。また、過給突起15をそれぞれ独立して回転可能なローラにしてもよい。
【0124】
また、波状把持部材6a,6bの間に挟み込んだフィルムFの長さが、クリップ2の下歯部11および上歯部12の咬合形状の長さと完全に一致することが理想的であるが、フィルムFがクリップ2の把持形状よりも過剰に供給されていると、クリップ2によってフィルムFにひだを形成してしまうおそれがある。本実施形態では、波状把持部材6a,6bの間に挟み込んだフィルムFの長さが、クリップ2の把持形状の長さよりも僅かに短くなるように調整されており、クリップ(保持部材)2は、フィルムFを把持する際に、フィルムFをさらに上流側から引き込む。しかしながら、クリップ2がフィルムFを引き込む長さはごく僅かであるため、クリップガイド14に過剰な力が加わったり、フィルムFを傷つけることはない。
【0125】
クリップ2がフィルムFの両端を完全に保持する位置に至ると、図13のD列の様に波状把持部材6a,6b同士が離間し、波状把持部材6a,6bがフィルムFを開放する。
【0126】
フィルム延伸機1は、フィルムオーバーフィード装置7の波状把持部材6a,6bがフィルムFを解放した後も、クリップ(保持部材)2でフィルムFを波打たせて把持して搬送する。即ちフィルム延伸機1は、フィルムFの一部領域を予め長手方向に弛ませた状態で横方向の延伸を開始する。
フィルムFは、加熱炉4内で加熱される。ここでフィルムFは、予め縦一軸方向に延伸されたものであるから、加熱炉4内で加熱されることによって縦方向(予め延伸された方向)に縮む。このとき、フィルムが厚み方向に配向する。
ここで図26の様に、テンタチェイン3の間隔が一定である場合は、フィルムFの幅方向の収縮が阻止される。即ち本実施形態では、フィルムFの両端が、クリップ(保持部材)2で保持されているので、フィルムFの横方向への収縮が阻止される。また図3の様にテンタチェイン3の間隔を広げる構成を採用すると、フィルムFの横方向への収縮が阻止されるだけでなく、逆に、フィルムFが幅方向に僅かに延伸(拡幅)する。
【0127】
フィルム延伸機1は、各クリップ(保持部材)2がフィルムFを波打たせて保持するので、加熱炉4の中でフィルムFが熱収縮したとき、フィルムFの中央の有効部分を縦方向(搬送方向)に自由に収縮させることができる。これによって、フィルムFの配向軸(分子鎖の向き)を厚み方向に揃えることができる。なお、クリップ2で把持されるフィルムFの両側端近傍は、後工程において切除される。
【0128】
図3以下に図示したフィルムオーバーフィード装置7では、フィルムFの端部を保持するクリップ2を有し、当該クリップ2は、押圧部47側とフィルム載置面45の双方の表面が波形をしている。即ち先の実施形態における図9,10,11,13では、押圧部47側とフィルム載置面45の双方の表面が波形をしているクリップ(保持部材)2を例示した。
しかしながらクリップ2は、押圧部47側とフィルム載置面45の双方が波形のものに限定されるのではなく、前記した図2の様に、いずれか一方だけが波形や歯形等であり、他方が平板状であってもよい。
【0129】
図14,15,16,17は、押圧部47側だけが波形であり、他方が(フィルム載置面53)が平板状のクリップ55を採用した場合の外観形状や動作を示したものである。即ち図14は図9に相当するクリップの斜視図であり、図15は、図10に相当するクリップの側面図及び平面図であり、図16は、図11に相当するクリップの側面図及び平面図であり、図17は、図13に相当する説明図である。
クリップ55は、一方の保持部材片だけに凸形部と凹形部の双方を備えている。クリップ55は、一方の保持部材片に凸形部が一定の間隔をあけて設けられたものであるともいえる。
【0130】
ただし、先の実施形態の図13では、クリップ2が波状把持部材6aおよび6bの動作と同期して、ゆっくりと閉じる様に図示したが、図17に示す実施形態では、波状把持部材6が完全に咬合うまで、クリップ2は全開状態であり、波状把持部材6が完全に咬合った後に、瞬間的な動作によって閉じ、フィルムFを保持するものとして図示している。
【0131】
クリップ55に関する他の構成は、前述したクリップ2と同一であるから、同一の部材に同一の番号を付して重複した説明を省略する。
【0132】
図1,9,10,11,13に示した様な双方に波形を有するクリップ2と、図2,14,15,16,17の様な片側だけが波形であって、他方が平板状であるクリップ55とを比較すると、次の様な得失がある。
即ち前者の様に双方が波形である場合は、フィルムFを広い面積で保持して延伸するので、フィルムFに掛かる引っ張り力がより均一となる。
一方、前者の様に双方が波形である場合は、クリップ2でフィルムFを保持する前に、フィルムFの波形が崩れた場合に、フィルムFに皺が発生する懸念がある。
即ち先の実施形態では、クリップ2でフィルムFを保持する前に、フィルムオーバーフィード装置7でフィルムFを波形に賦形する。賦形された波形は、クリップ2と完全に一致することが理想であるが、フィルムFの厚さや材質によって両者の形状が僅かに異なってしまう場合がある。例えばごくまれに、図18(a)の様に、フィルムFの波形状の一部が崩れる場合があり、この様な状態で、双方に波形が設けられたクリップ2でフィルムFを挟むと、図18(b)の様に波の一部が二重に挟まれ、フィルムFに皺が生じてしまう。
【0133】
これに対して図2,14,15,16,17の様な片側だけが波形のクリップ2では、図19の様に押圧部47とフィルム載置面46との間に空隙52があるので、波形状の一部が崩れていても、当該部分が空隙52に逃げ、フィルムFが二重に挟まれる事態が回避される。
【0134】
以上説明した実施形態では、予め縦一軸方向に延伸されたフィルムFを弛ませ、波打たせるための装置として、表側把持片6aと裏側把持片6bからなる波状把持部材6を採用し、これでフィルムFを挟むことによってフィルムFを波状に賦形した。
【0135】
しかしながら本発明は、この構成に限定されるものではなく、例えば図20の様なラック58と歯車59に似た構造の凹凸形状が設けられた部材を利用し、ラック様部材と、歯車様部材の間にフィルムFを挟む構成を採用してもよい。
【0136】
また図21の様な2個の歯車様部材(凹凸形状が設けられた部材)60の間でフィルムFを挟む構成を採用してもよい。
図20,21の態様によっても、フィルムFは双方の面が搬送方向に間隔をあけて押圧され、フィルムFの一部領域又は全域が長手方向に弛む。
【0137】
また前述した実施形態では、フィルムオーバーフィード装置7は、波状把持部材(表側把持片と裏側把持片)6a,6bを有し、当該波状把持部材6a,6bでフィルムFを挟む構成を採用したが、図22に示す様に、一つの突起だけを有するブロック61を設け、このブロック61で、フィルムFは双方の面を押圧してもよい。図22の態様によっても、フィルムFは双方の面が搬送方向に間隔をあけて押圧され、フィルムFの一部領域又は全域が長手方向に弛む。
【0138】
またチェーンによらず、シリンダー62によってフィルムFの表面を押圧してもよい。図23は、シリンダー62によってフィルムFの表面を押圧する構成を示している。
図23に示す構成では、フィルムFの搬送経路にダンサーロール63が配され、シリンダー62の下部のフィルムFは、搬送手段(図示せず)に対して搬送方向に自由度がある。即ちフィルムFは、昇降自在に設けられたロール(ダンサーロール63)によって一定の張力が付与されている(図23(a))。ただしダンサーロール63は、昇降方向に自由度があるから、フィルムFに外力を掛けて進行方向に引くと、図23(b)の様にダンサーロール63が上昇し、フィルムFを下流側に繰り出す。
本実施形態では、図23(b)の様に、シリンダー62によってフィルムFの表面を押圧すると、ダンサーロール63が上昇してフィルムFが繰り出され、フィルムFが弛む。シリンダー62は、一定の時間間隔で昇降し、フィルムFは表面側が搬送方向に間隔をあけて押圧され、フィルムFの一部領域又は全域が長手方向に弛む(図23(c))。
【0139】
またフィルムオーバーフィード装置7によらず、クリップ(保持部材)2でフィルムFを挟むことによって波打たせてもよい。
クリップ(保持部材)2でフィルムFを挟むことによって波打たせる場合には、図24に示すようにフィルムFの搬送経路にダンサーロール63を配し、フィルムFに搬送方向に自由度を付与させることが望ましい。
【0140】
フィルムFを波打たせる(弛ませる)ためのさらに他の方策として、フィルムFを過剰に供給する方法が考えられる。例えば図25の様に送り装置75を複数配し、当該送り装置75でフィルムFを矢印方向に送る。そして各ロールの送り速度を下流に至る程遅くする。その結果、図25の様にフィルムFは次第に波打つ。
【0141】
次に、本発明の延伸フィルムの製造方法で用いる長尺状のフィルム(予め縦一軸方向に延伸されている)等について、順次説明する。
本発明で用いる長尺状のフィルムの原料樹脂としては、目的に応じて適宜、適切なものが選択される。具体例としては、ポリカーボネート系樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、アクリロニトリル・スチレン系樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、液晶性樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂等が挙げられる。特に、ポリカーボネート系樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂はフィルムにした際の光学特性や強度が良好であるために好ましい。
【0142】
上記の原料樹脂は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いられる。また、上記の原料樹脂は、任意の適切なポリマー変性を行ってから用いることもできる。上記ポリマー変性の例としては、共重合、架橋、分子末端、立体規則性等の変性が挙げられる。
【0143】
本発明で採用される前記フィルムは、種々の方法で成形・取得することができる。例えば、有機溶剤に樹脂を溶解して支持体上にキャストし、加熱により溶剤を乾燥してフィルム化するキャスティング法や、樹脂を溶融してTダイなどから押出してフィルム化する溶融押出し法により得ることができる。また、成形した高分子フィルムの片面又は両面にさらにグラビアコーターなどによって薄膜層を形成し、積層フィルムとしたものを採用することもできる。
【0144】
前記フィルムには、本発明の目的を損なわない範囲で、可塑剤、安定剤、残存溶媒、帯電防止剤、紫外線吸収剤など、その他の成分を必要に応じて含有させることができる。また、表面粗さを小さくするため、レベリング剤を添加することもできる。これらは樹脂との相溶性の良いものが好ましい。
【0145】
前記フィルムの厚みの範囲は、設計する位相差値や延伸性、位相差の発現性等に応じて選択できるが、10〜500μmのものが好ましく用いられる。より好ましくは、10〜200μmである。上記の範囲であれば、フィルムの十分な自己支持性が得られ、広範囲の位相差値を得ることができる。
【0146】
前記フィルムの光線透過率については、液晶表示装置の輝度やコントラストへの影響を低減するため、波長590nmにおいて光線透過率は85%以上が好ましく、より好ましくは、90%以上である。また、前記フィルムのヘイズについては、2%以下が好ましく、より好ましくは1%以下である。得られる位相差フィルムについても同様の光線透過率およびヘイズであることが好ましい。光線透過率及びヘイズについては、JIS K 7105に準じた積分球式ヘイズメーターを用いて測定する。
【0147】
前記フィルムのガラス転移温度(Tg)は、特に制限はないが、110〜200℃であることが好ましい。すなわち、Tgが110℃以上であれば、耐久性の高いフィルムが得やすくなり、200℃以下の温度であれば延伸によってフィルム面内及び厚み方向の位相差値を制御しやすい。より好ましくは120〜195℃である。特に好ましくは、130〜195℃である。Tgは、JIS K 7121に準じたDSC法により求めた値である。
【0148】
次に、本発明の位相差フィルムについて説明する。本発明の位相差フィルムは、本発明の延伸フィルムの製造方法によって製造された延伸フィルムからなるものである。
【0149】
本発明の位相差フィルムにおけるNZは、好ましくは0.1≦NZ≦0.9である。より好ましくは、0.2≦NZ≦0.8である。更に好ましくは、0.3≦NZ≦0.7である。特に好ましくは、0.4≦NZ≦0.6である。最も好ましくは、0.45≦NZ≦0.55である。NZの値は液晶表示装置の駆動方法や光学特性の補償方法によって適時設計する必要があるが、0.5にすることにより液晶表示の視認性を大きく向上することができる。NZの定義は上記式(1)で示した通りである。
【0150】
本発明の位相差フィルムの位相差(Re)については特に制限はないが、波長590nmの光に対するフィルム面内の位相差として、0nm≦Re≦2000nm(nmはナノメートル)の範囲であることが好ましい。Reは、より好ましくは、0nm≦Re≦70nm、100nm≦Re≦350nm、又は400nm≦Re≦700nmである。更に好ましくは、20nm≦Re≦70nm、120nm≦Re≦200nm、240nm≦Re≦300nm、又は500nm≦Re≦700nmである。特に好ましくは、40nm≦Re≦60nm、130nm≦Re≦150nm、180nm≦Re≦200nm、260nm≦Re≦280nm、又は550nm≦Re≦700nmである。Reの値は液晶表示装置の駆動方法や光学特性の補償方法によって適時設計する必要があるが、上記範囲とすることにより、液晶表示装置の視認性をより一層向上することができる。Reの定義は上記式(2)、(3)、(4)で示した通りである。
【0151】
本発明の位相差フィルムの配向角の角度は、フィルム幅方向5cm間隔で測定した配向角のバラツキの範囲が好ましくは±1.0°以内である。より好ましくは±0.7°以内である。更に好ましくは±0.5°以内である。特に好ましくは±0.3°以内である。配向角の角度はバラツキが大きいと、偏光子又は偏光板に積層した場合に偏光度が低下するため、上記配向角のバラツキは小さければ小さいほど良い。
本発明の位相差フィルムの厚みの範囲は、設計する位相差値や延伸性、位相差の発現性等に応じて選択できるが、5〜450μmが好ましい。より好ましくは、5〜200μmである。更に好ましくは、5〜100μmである。上記の範囲であれば、フィルムの十分な自己支持性が得られ、広範囲の位相差値を得ることができる。
本発明の位相差フィルムの幅は、液晶表示装置の大画面化や各画面サイズに応じた位相差フィルムサイズの取り効率の観点から、1000mm幅以上であることが好ましい。より好ましくは、1200mm幅以上である。更に好ましくは、1300mm以上である。特に好ましくは、1400mm幅以上である。
【0152】
次に、本発明の偏光板について説明する。本発明の偏光板は、本発明の位相差フィルムの少なくとも片面に、偏光子が直接又は偏光子保護フィルムを介して積層されてなるものである。
【0153】
積層される偏光子としては、特に制限されず各種のものを使用できる。例えば、ポリビニルアルコール(PVA)フィルムを、二色性を有するヨウ素または二色性染料で染色し、延伸して配向させた後に架橋、乾燥させた偏光子と、透明保護フィルムとを貼り合わせて製造される吸収型偏光板を好ましく用いることができる。偏光子は光線透過率や偏光度に優れるものが好ましい。光線透過率は30%〜50%が好ましく、41%〜50%がさらに好ましく、43%〜50%であることが最も好ましい。偏光度は97%以上であることが好ましく、98%以上であることがさらに好ましく、99%以上であることが最も好ましい。41%未満の光線透過率、もしくは97%未満の偏光度の場合には液晶表示装置の輝度やコントラストが低く、表示品位が低下する。偏光子の厚さは1〜50μmが好ましく、1〜40μmがさらに好ましく、8〜30μmであることが最も好ましい。
【0154】
前記偏光子には、片面又は両面に透明保護フィルムが設けられる。本発明において偏光子と透明保護フィルムとの接着処理は、特に限定されるものではないが、例えば、ビニルアルコール系ポリマーからなる接着剤、或いは、ホウ酸やホウ砂、グルタルアルデヒドやメラミン、シュウ酸などのビニルアルコール系ポリマーの水溶性架橋剤から少なくともなる接着剤などを介して行うことができる。特に、ポリビニルアルコール系フィルムとの接着性が最も良好である点で、ポリビニルアルコール系接着剤を用いることが好ましい。かかる接着層は、水溶液の塗布乾燥層などとして形成しうるが、その水溶液の調製に際しては必要に応じて、他の添加剤や、酸等の触媒も配合することができる。
【0155】
前記透明保護フィルムを形成する材料としては、透明性、熱安定性や強度の観点から、例えば、ジアセチルセルロースやトリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体、スチレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、アクリロニトリル・エチレン・スチレン樹脂、スチレン・マレイミド共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体等のスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が挙げられる。また、シクロオレフィン系樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系樹脂、芳香族ポリイミドやポリイミドアミド等のイミド系樹脂、スルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ビニルブチラール系樹脂、アリレート系樹脂、ポリオキシメチレン系樹脂、エポキシ系樹脂、又は前記樹脂のブレンド物等からなる高分子フィルムなども前記透明保護フィルムを形成する樹脂の例として挙げられる。また、上記透明保護フィルムは、アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型、紫外線硬化型の樹脂の硬化層として形成することもできる。特に、セルロース系樹脂及びノルボルネン系樹脂及びシクロオレフィン系樹脂が透明性や熱安定性の観点から好ましい。
【0156】
次に、本発明の画像表示装置について説明する。本発明の画像表示装置は、本発明の位相差フィルムを備えたものである。
【0157】
本発明の画像表示装置の種類には特に制限はないが、一例としては、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(有機EL)、プラズマディスプレイ、プロジェクター、プロジェクションテレビなどが挙げられる。
特に液晶ディスプレイは画像を視認する角度によって表示性能が変化する。本発明の位相差フィルムはこの視認する角度によって生じる表示性能の変化を補償する機能を有するため、特に好ましく用いられる。液晶ディスプレイの種類に特に制限はなく、透過型、反射型、反射透過型いずれの形でも使用することができる。上記液晶ディスプレイに用いられる液晶セルとしては、例えばツイステッドネマチック(TN)モード、スーパーツイステッドネマチック(STN)モードや、垂直配向(VA)モード、インプレーンスイッチング(IPS)モード、水平配向(ECB)モード、フリンジフイールドスイッチング(FSS)モード、ベンドネマチック(OCB)モード、ハイブリッド配向(HAN)モード、強誘電性液晶(SSFLC)モード、反強誘電液晶(AFLC)モードの液晶セルなど種々の液晶セルが挙げられる。このうち、本発明の位相差フィルムは、特に、TNモード、VAモード、IPS モード、OCBモード、FSSモード、OCBモードの液晶セルと組み合わせて用いることが好ましい。最も好ましくは、本発明の位相差フィルムは、IPSモードもしくはVAモードの液晶セルと組み合わせて用いられる。
【実施例】
【0158】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0159】
各種物理物性や光学特性の測定方法は、以下の通りである。
【0160】
(1)位相差(Re)、NZ測定、配向角
王子計測機器(株)製自動複屈折計KOBRA−WRを用いて、測定波長590nmの値で幅手方向を5cm間隔で測定した。また、NZ測定時の傾斜角度は45°で測定した。ReおよびNZは平均値とし、配向角はバラツキの範囲とした。
【0161】
(2)厚み
(株)ミツトヨ製厚み計デジマチックインジケータID−C112を使用して測定した。
【0162】
〔実施例1〕
図2に示したクリップと図3に示した延伸装置および図4〜5に示したフィルムオーバーフィード装置を使用して、縦一軸延伸された長尺状のポリカーボネートフィルム(株式会社カネカ製、エルメックR−フィルム570nm)を搬送方向に18%弛めた状態でフィルムの両端部を保持し、150℃で延伸を行わずに工程を通過させた。得られた位相差フィルムの特性は表1の通りであった。表1の「倍率」は原反幅に対する横延伸倍率を示し、例えば、原反幅1000mm、倍率5%の場合、延伸後幅は1050mmとなる。また、表1の「弛み量」はフィルム搬送方向の弛み量を示し、例えば、搬送方向の長さが1000mm、弛み量10%の場合、フィルムは100mm弛んでいる。
【0163】
〔実施例2〕
図2に示したクリップと図3に示した延伸装置および図4〜5に示したフィルムオーバーフィード装置を使用して、縦一軸延伸された長尺状のポリカーボネートフィルム(株式会社カネカ製、エルメックR−フィルム570nm)を搬送方向に18%弛めた状態でフィルムの両端部を保持し、150℃で搬送方向に対して横方向に5%延伸を行った。得られた位相差フィルムの特性は、表1の通りであった。
【0164】
〔実施例3〕
ポリカーボネートフィルムとして、株式会社カネカ製、エルメックR−フィルム900nmを使用し、延伸温度155℃、フィルム弛み量を30%とした以外は実施例1と同様に工程を通過させた。得られた位相差フィルムの特性は、表1の通りであった。
【0165】
〔実施例4〕
ポリカーボネートフィルムとして、株式会社カネカ製、エルメックR−フィルム900nmを使用し、延伸温度155℃、フィルム弛み量を30%、延伸倍率を8%とした以外は実施例2と同様に横方向に延伸を行った。得られた位相差フィルムの特性は、表1の通りであった。
【0166】
【表1】

【符号の説明】
【0167】
1 フィルム延伸機(搬送装置)
2 クリップ(保持部材)
6 波状把持部材
6a 表側把持片
6b 裏側把持片
11 下歯部(保持部材片、波状把持部材)
12 上歯部(保持部材片)
55 保持部材
56 上歯部(保持部材片)
57 平面(保持部材片)
F フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦一軸方向に延伸された長尺状のフィルムを延伸方向に搬送し、前記フィルムの一部領域又は全域を凹凸形状が設けられた部材によって予め前記延伸方向に弛ませた状態で、フィルムの両端を搬送装置に保持し、前記搬送装置によってフィルムの両端を保持しつつ延伸方向に搬送させながらフィルムを加熱してフィルムを前記延伸方向に熱収縮させることを特徴とする延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
フィルムの一部領域又は全域を延伸方向に弛ませた状態で凹凸形状をした保持部材片を備えた保持部材でフィルムの端部を保持してフィルムの両端を搬送装置に保持することを特徴とする請求項1に記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項3】
フィルムの一方の面と他方の面とを互い違いに押圧することによってフィルムの一部領域又は全域を弛ませた後にフィルムの両端を搬送装置に保持することを特徴とする請求項1又は2に記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項4】
フィルムを前記延伸方向に収縮させる際には、フィルムの両端の距離を変えることなく保持するか、或いは両端を搬送方向に対して横方向に拡幅することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法により製造された延伸フィルムからなることを特徴とする位相差フィルム。
【請求項6】
下記式(1):
0.1≦NZ≦0.9・・・(1)
[NZ=(nx−nz)/(nx−ny)であり、
nxは位相差フィルムの遅相軸方向の屈折率を示し、
ここで、遅相軸方向とは位相差フィルム面内の屈折率が最大となる方向を指し、
nyは位相差フィルムの進相軸方向の屈折率を示し、
nzは位相差フィルムの厚さ方向の屈折率を示す。]
を満たす光学特性を有することを特徴とする請求項5に記載の位相差フィルム。
【請求項7】
波長590nmの光に対するフィルム面内の位相差(Re)が下記式(2):
20nm≦Re≦70nm・・・(2)
[Re=(nx−ny)×dであり、
d(nm)はフィルムの厚みを示し、
nx、nyは前記式(1)と同様の意味を有する。]
を満たすことを特徴とする請求項6に記載の位相差フィルム。
【請求項8】
波長590nmの光に対するフィルム面内の位相差(Re)が下記式(3):
100nm≦Re≦350nm・・・(3)
[Re=(nx−ny)×dであり、
d(nm)はフィルムの厚みを示し、
nx、nyは前記式(1)と同様の意味を有する。]
を満たすことを特徴とする請求項6に記載の位相差フィルム。
【請求項9】
波長590nmの光に対するフィルム面内の位相差(Re)が下記式(4):
400nm≦Re≦700nm・・・(4)
[Re=(nx−ny)×dであり、
d(nm)はフィルムの厚みを示し、
nx、nyは前記式(1)と同様の意味を有する。]
を満たすことを特徴とする請求項6に記載の位相差フィルム。
【請求項10】
フィルム面内の配向角が±1.0°以内であることを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項11】
請求項5〜10のいずれかに記載の位相差フィルムの少なくとも片面に、偏光子が直接又は偏光子保護フィルムを介して積層されてなる偏光板。
【請求項12】
請求項5〜10のいずれかに記載の位相差フィルムを備えたことを特徴とする画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2011−16246(P2011−16246A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160659(P2009−160659)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】