説明

建物のダブルスキン構造

【課題】 簡素な構成にしたがって無動力で上側換気口の開閉を行うことのできるダブルスキン構造。
【解決手段】 建物の外壁とファサードとの間の内部空間へ下側換気口から流入した外気を、上側換気口から外部へ排出するダブルスキン構造は、上側換気口を無動力で開閉する開閉機構を備えている。開閉機構は、外壁とほぼ平行に延びる回転軸の廻りに回動可能なプレート状の本体と、本体が重力の作用によりファサード側から外壁側へ傾いた上側換気口の閉状態から、本体の傾きが増大する第1の向きへ本体が回動することを阻止するストッパとを有する。本体は、内部空間を上昇する高温空気の圧力の作用により第1の向きとは逆の第2の向きへ回動して上側換気口の閉状態とは逆向きに傾くことにより上側換気口を開状態にし、且つ高温空気の外部への排出後に重力の作用により第1の向きへ回動して上側換気口を閉状態に戻すように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物のダブルスキン構造に関する。さらに詳細には、本発明は、建物のダブルスキン構造において上側換気口を開閉する開閉機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の建築において、日射遮蔽性能の向上および室内温熱環境の改善のためにダブルスキン構造が用いられる。ダブルスキン構造では、建物の外壁とその外側に設けられたファサードとの間の内部空間へ下側換気口から流入した外気を、上側換気口から外部へ排出する。すなわち、ダブルスキン構造は、ガラス面を含む本来の外壁と、その更に外側に設けられてガラス面を含むファサードとの間の内部空間に外気を通すことにより、日射の影響を緩和するものである。
【0003】
ただし、冬期にダブルスキン構造の内部空間に外気を通すことは、暖房負荷の増加につながるため、上下の換気口を閉じてダブルスキン構造の内部空間に外気が流入しないような制御が行われる。また、ダブルスキン構造の内部空間へ建物内から外壁を介して空調排気を投入する構成の場合には、上下の換気口について最適制御が行われる。ダブルスキン構造における換気口の開閉には、電動ダンパーが用いられることが多く、その場合には電力、制御設備などが必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ダブルスキン構造では、夏期に内部空間の上部に高温空気が溜まり易く、この高温空気溜まりに起因して冷房負荷が増大する。このため、従来のダブルスキン構造では、高温空気溜まりを解消するために、センサーを用いて上側換気口の開閉を制御する比較的複雑な開閉機構を組み込む必要があった。
【0005】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたものであり、簡素な構成にしたがって無動力で上側換気口の開閉を行うことのできるダブルスキン構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明では、建物の外壁と該外壁の外側に設けられたファサードとの間の内部空間へ下側換気口から流入した外気を、上側換気口から外部へ排出するダブルスキン構造において、
前記上側換気口を無動力で開閉する開閉機構を備え、該開閉機構は、
前記外壁とほぼ平行に延びる回転軸の廻りに回動可能なプレート状の本体と、
前記本体が重力の作用により前記ファサード側から前記外壁側へ傾いた前記上側換気口の閉状態から、前記本体の傾きが増大する第1の向きへ前記本体が回動することを阻止するストッパとを有し、
前記本体は、前記内部空間を上昇する高温空気の圧力の作用により前記第1の向きとは逆の第2の向きへ回動して前記上側換気口の閉状態とは逆向きに傾くことにより前記上側換気口を開状態にし、且つ前記高温空気の外部への排出後に重力の作用により前記第1の向きへ回動して前記上側換気口を閉状態に戻すように構成されていることを特徴とするダブルスキン構造を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のダブルスキン構造では、外壁とファサードとの間の内部空間の上部に高温空気溜まりが発生すると、高温空気の上昇気流の圧力により、無動力で上側換気口が開状態になる。そして、高温空気が外部へ排出されると、重力の作用により、無動力で上側換気口が閉状態に戻る。すなわち、本発明では、簡素な構成にしたがって無動力で上側換気口の開閉を行うことのできるダブルスキン構造が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態にかかるダブルスキン構造の要部構成を概略的に示す斜視図である。
【図2】ダブルスキン構造における上側換気口の開閉動作を説明する図である。
【図3】スライド部材と変形部材とを有する開閉補助機構の構成および動作を概略的に説明する図である。
【図4】変形例にかかるダブルスキン構造における上側換気口の開閉動作を説明する第2の図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態を、添付図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態にかかるダブルスキン構造の要部構成を概略的に示す斜視図である。本実施形態にかかるダブルスキン構造は、図1に示すように、ガラス面を含む建物の外壁11と、外壁11の外側に設けられてガラス面を含むファサード12とを備え、外壁11とファサード12との間の内部空間へ下側換気口(不図示)から流入した外気を上側換気口から外部へ排出する。
【0010】
また、本実施形態のダブルスキン構造は、上側換気口を無動力で開閉する開閉機構10を備えている。開閉機構10は単体で設けられていても良いし、あるいは複数の開閉機構10を並列配置しても良い。具体的に、開閉機構10は、外壁11およびファサード12と平行に且つ水平に延びる回転軸1a廻りに回動可能なプレート状の本体1と、本体1の回転軸1a廻りの回動を所定の位置で停止させる一対のストッパ2a,2bとを有する。
【0011】
本体1の回転軸1aを挟んでファサード12側には、錘部材4が設けられている。回転軸1aは、外壁11とファサード12との中間位置よりも錘部材4側にある。図1の状態に対応する図2(a)に明瞭に示すように、本体1は、錘部材4側からその反対側へ下向きに傾いた姿勢で、上側換気口を閉状態にする。図1および図2ではファサード12側が高く外壁11側が低くなるように本体1は傾いて設置されているが、逆にファサード12側が低く外壁11側が高くなるように本体1を設置しても良い(不図示)。
【0012】
外力の作用を全く受けることなく重力の作用だけを受ける環境において、本体1には回転軸1aを中心として時計廻り(図2の紙面において時計廻り)のモーメントが常に作用する。しかしながら、外壁11側に設けられたストッパ2aとファサード12側に設けられたストッパ2bとにより、図2(a)に示す閉状態から本体1が時計廻りにさらに回動すること、すなわち閉状態から本体1の傾きがさらに増大することが阻止される。
【0013】
換言すれば、本体1は、外力の作用を全く受けない環境において図2(a)に示す安定状態にあり、ひいては上側換気口を安定的に閉状態に保持する。一対のストッパ2a,2bは、例えば衝撃吸収・消音材により形成されている。一対のストッパ2a,2bのうちのいずれか一方の設置を省略することができる。
【0014】
前述したように、ダブルスキン構造では、夏期に内部空間の上部に高温空気が溜まり易く、この高温空気溜まりを放置すると、冷房負荷が増大する。すなわち、図2(b)に示すように、下側換気口から内部空間に流入した外気は日射により温められて高温の空気となり、この高温空気の上昇気流の圧力が開閉機構10の本体1の下側面に作用する。
【0015】
本体1の回転軸1aは、上述したように、外壁11とファサード12との中間位置よりもファサード12側にある。したがって、図2(c)に示すように、高温空気の上昇気流を受けた本体1には、回転軸1aを中心として反時計廻り(図2の紙面において反時計廻り)のモーメントが作用する。その結果、本体1はファサード12側から外壁11側へ上向きに傾いた姿勢に変化し、ひいては上側換気口の開状態になって、高温空気が外部へ排出される。
【0016】
高温空気が上側換気口を介して外部へ排出されると、高温空気の上昇気流の圧力が弱くなる。上述したように、外力の作用を全く受けることなく重力の作用だけを受ける環境において、本体1には回転軸1aを中心として時計廻りのモーメントが常に作用する。したがって、風などの外気の影響をあまり受けない場合、高温空気の排出後に速やかに、本体1は回転軸1aを中心として時計廻りに回動し、開閉機構10は図2(a)に示す状態すなわち上側換気口の閉状態に戻る。
【0017】
このとき、錘部材4自体は、回転軸1aを中心として反時計廻りのモーメントを本体1に作用させる機能を有し、ひいては上側換気口の閉状態に戻るときに本体1が一対のストッパ2a,2bに与える衝撃を緩和する機能を有する。また、ストッパ2a,2bが衝撃吸収・消音材により形成されている場合、上側換気口の閉状態に戻るときに本体1が一対のストッパ2a,2bに与える衝撃は吸収され、この衝撃に起因して発生する音は低減される。
【0018】
このように、本実施形態のダブルスキン構造において、本体1は、外壁11とファサード12との間の内部空間を上昇する高温空気の圧力の作用により回転軸1aを中心として反時計廻りに回動して、上側換気口の閉状態とは逆向き(ファサード12側から外壁11側へ上向き)に傾くことにより、上側換気口を開状態にする。また、本体1は、高温空気の外部への排出後に、重力の作用により回転軸1aを中心として時計廻りに回動して、上側換気口を閉状態に戻す。
【0019】
すなわち、本実施形態のダブルスキン構造では、内部空間の上部に高温空気溜まりが発生すると、高温空気の上昇気流の圧力作用により、換言すると内部と外部との温度差による浮力の作用により、無動力で自動的に上側換気口が開状態になる。そして、高温空気が外部へ排出されると、重力の作用により、無動力で自動的に上側換気口が閉状態に戻る。
【0020】
したがって、本実施形態のダブルスキン構造では、従来技術とは異なり、上側換気口の開閉のために動力を用いたり、センサーを用いて上側換気口の開閉を制御したりする必要がなく、内部空間の上部の高温空気に起因して冷房負荷が増大することが回避される。すなわち、本実施形態では、簡素な構成にしたがって無動力で上側換気口の開閉を行うことのできるダブルスキン構造が実現される。
【0021】
ところで、高温空気が排出された後においても、外気などの影響(例えば風圧力などの外部要因)により、本体1がファサード12側から外壁11側へ上向きに傾いた姿勢を維持し、上側換気口の閉状態へ戻りにくいことがある。この状態が長く続くと、ダブルスキン構造の効果を良好に発揮することができず、ひいては外壁11とファサード12との間の内部空間の気温を適度に維持することができなくなる。
【0022】
そこで、高温空気の排出後に上側換気口の閉状態へ戻り易くするために、図3(a)に示すように、回転軸1aを挟んで外壁11側において本体1に開口部1bを設け、上側換気口の閉状態において開口部1bを覆い且つ上側換気口の開状態において開口部1bの少なくとも一部を開放するような開閉補助機構を付設する変形例が可能である。
【0023】
具体的に、変形例にかかる開閉補助機構は、重力の作用により本体1の上側面に沿って滑動自在に設けられたスライド部材3aと、スライド部材3aの回転軸1a側(図3(a)中左側)に設けられて高ストレッチ材(または低反発材)により形成された変形部材3bと、スライド部材3aおよび変形部材3bを本体1の傾斜方向に挟む一対の枠部材3cとを有する。一対の枠部材3cは、本体1に固定的に取り付けられている。
【0024】
したがって、図3(a)に示すように、本体1がファサード12側から外壁11側へ下向きに傾いた姿勢(すなわち上側換気口の閉状態)にある場合、変形部材3bは、スライド部材3aからの重力による押圧作用を受けることなく、原形からほとんど変形しない。その結果、上側換気口の閉状態において、スライド部材3aは開口部1bを覆う。換言すれば、スライド部材3aは、上側換気口の閉状態において開口部1bを覆うように配置されている。
【0025】
一方、図3(b)に示すように、本体1がファサード12側から外壁11側へ上向きに傾いた姿勢(すなわち上側換気口の開状態)になると、変形部材3bは、スライド部材3aからの重力による押圧作用を受けて、本体1の傾斜方向に沿って徐々に縮小変形する。その結果、スライド部材3aは、変形部材3bの縮小変形に伴って本体1の傾斜方向に沿って回転軸1a側(図3(b)中左側)へ移動し、開口部1bの全部または一部を開放する。
【0026】
すなわち、開閉補助機構が付設された変形例では、図3(b)および図4(b)に示すように、スライド部材3aは、上側換気口の開状態において本体1の開口部1bの全部または一部を開放する。この開口部1bの全部または一部の開放により、外気などの影響による外力が回転軸1aと外壁11との間において本体1に作用する面積が減少し、ひいては本体1に作用する反時計廻り(図4の紙面において反時計廻り)のモーメントが減少する。なお、図4(a)には、説明の理解を容易にするために、図2(c)に対応する状態が示されている。
【0027】
こうして、外気などの影響による外力の作用を受ける環境においても、高温空気の排出後には、本体1は回転軸1aを中心として時計廻りに徐々に回動し、図4(c)に示す状態すなわち上側換気口の閉状態へ確実に戻る。開閉機構10が上側換気口の閉状態に戻る際に、スライド部材3aは外壁11寄りの元の位置に復帰し、スライド部材3aの押圧作用から解放された変形部材3bは徐々に初期形状に復元する。スライド部材3aが外壁11寄りの元の位置に復帰すると、本体1に作用する時計廻りのモーメントが僅かに増大することになり、開閉機構10が上側換気口を安定的に閉状態に保持することに寄与する。
【0028】
なお、上述の説明では、スライド部材3aの回転軸1a側に設けられて高ストレッチ材(または低反発材)により形成された変形部材3bを用いている。しかしながら、これに限定されることなく、例えば変形部材3bに代えて、スライド部材の回転軸側と本体の所定位置との間に取り付けられて回転軸と交差する方向に伸縮自在なばね部材を用いることもできる。
【0029】
また、上述の説明では、本体1がファサード12側から外壁11側へ下向きに傾いた姿勢から上向きに傾いた姿勢に変化することにより、上側換気口が閉状態から開状態に切り換わる。しかしながら、これに限定されることなく、本体がファサード側から外壁側へ上向きに傾いた姿勢から下向きに傾いた姿勢に変化することにより、上側換気口が閉状態から開状態に切り換わるように構成することもできる。すなわち、例えば図1において、外壁11とファサード12とが入れ替わった構成も可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 本体
1a 回転軸
2a,2b ストッパ
3a スライド部材
3b 変形部材
4 錘部材
10 開閉機構
11 外壁
12 ファサード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の外壁と該外壁の外側に設けられたファサードとの間の内部空間へ下側換気口から流入した外気を、上側換気口から外部へ排出するダブルスキン構造において、
前記上側換気口を無動力で開閉する開閉機構を備え、該開閉機構は、
前記外壁とほぼ平行に延びる回転軸の廻りに回動可能なプレート状の本体と、
前記本体が重力の作用により前記ファサード側から前記外壁側へ傾いた前記上側換気口の閉状態から、前記本体の傾きが増大する第1の向きへ前記本体が回動することを阻止するストッパとを有し、
前記本体は、前記内部空間を上昇する高温空気の圧力の作用により前記第1の向きとは逆の第2の向きへ回動して前記上側換気口の閉状態とは逆向きに傾くことにより前記上側換気口を開状態にし、且つ前記高温空気の外部への排出後に重力の作用により前記第1の向きへ回動して前記上側換気口を閉状態に戻すように構成されていることを特徴とするダブルスキン構造。
【請求項2】
前記ストッパは、前記外壁側に設けられた第1ストッパと、前記ファサード側に設けられた第2ストッパとを有することを特徴とする請求項1に記載のダブルスキン構造。
【請求項3】
前記ストッパは、衝撃吸収・消音材により形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のダブルスキン構造。
【請求項4】
前記本体の前記回転軸を挟んだ一方の側には開口部が設けられ、
前記開閉機構は、前記上側換気口の閉状態において前記開口部を覆い且つ前記上側換気口の開状態において前記開口部の少なくとも一部を開放するように、重力の作用により前記本体の上側面に沿って滑動自在に設けられたスライド部材を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のダブルスキン構造。
【請求項5】
前記開閉機構は、前記スライド部材の前記回転軸側に設けられて高ストレッチ材または低反発材により形成された変形部材を有することを特徴とする請求項4に記載のダブルスキン構造。
【請求項6】
前記開閉機構は、前記スライド部材の前記回転軸側と前記本体の所定位置との間に取り付けられて前記回転軸と交差する方向に伸縮自在なばね部材を有することを特徴とする請求項4に記載のダブルスキン構造。
【請求項7】
前記本体の前記回転軸を挟んだ他方の側には、錘部材が設けられていることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載のダブルスキン構造。
【請求項8】
前記回転軸は、前記ファサードと前記外壁との中間位置よりも前記錘部材側にあることを特徴とする請求項7に記載のダブルスキン構造。
【請求項9】
並列的に配置された複数の前記開閉機構を備えていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のダブルスキン構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−50016(P2013−50016A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−91496(P2012−91496)
【出願日】平成24年4月13日(2012.4.13)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】