説明

建物の熱利用構造

【課題】居室での快適性及び省エネルギー性を大幅に向上しうる。
【解決手段】1階の床12に床暖房装置2を具えた建物Bの熱利用構造である。この建物Bは、床下空間13に、外気17を地熱20と熱交換させて予備加熱する地熱交換領域3が設けられる。また、床下空間13には、床12と床下断熱部6との間に、床暖房装置2の下側への放熱を利用して空気18を暖める加温空間4が設けられる。加温空間4は、予備加熱された空気18が導入される一方、加温空間4で暖められた空気18を居室に供給する給気手段5を具える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床暖房装置を利用した建物の熱利用構造に関し、詳しくは、居室での快適性及び省エネルギー性を大幅に向上しうる建物の熱利用構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、床下空間において、床暖房装置の下方への放熱エネルギーを利用して暖められた空気を居室に供給する建物の熱利用構造が提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。このような建物の熱利用構造は、エアコンやヒータ等を使用することなく、床暖房装置の下方への放熱を利用して、居室を暖めることができるため、居室での快適性及び省エネルギー性を向上するという作用効果を期待している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−192542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような建物の熱利用構造では、床下空間の床暖房装置の下方に外気を直接導入するため、空気が十分に暖められないまま居室に供給されやすく、居室での快適性を十分に向上できないという問題があった。
【0005】
また、空気を十分に暖めるために、床暖房装置を連続運転して加熱時間を増やしたり、加熱温度を高めることも考えられるが、より大きなエネルギーが消費されるため、省エネルギー性を十分向上できないという問題もあった。
【0006】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、床下空間に進入した外気を予備加熱する地熱交換領域と、床暖房装置の下側への放熱を利用して空気を暖める加温空間とを具え、かつ加温空間に、予備加熱された床下空気を導入する一方、加温空間で暖められた空気を居室に供給する給気手段を具えることを基本として、居室での快適性及び省エネルギー性を大幅に向上しうる建物の熱利用構造を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のうち請求項1記載の発明は、1階の床に床暖房装置を具えた建物の熱利用構造であって、基礎と、前記床との間で区画された床下空間に、該床下空間に進入した外気を地熱と熱交換させて予備加熱する地熱交換領域が設けられ、前記床下空間には、前記床から距離を隔てて、前記床暖房装置の下方に配される床下断熱部により、前記床と前記床下断熱部との間に、前記床暖房装置の下側への放熱を利用して空気を暖める加温空間が設けられ、前記加温空間は、前記予備加熱された空気が導入される一方、前記加温空間で暖められた空気を居室に供給する給気手段を有することを特徴とする。
【0008】
また、請求項2記載の発明は、前記建物は、前記地熱交換領域を除いて、前記基礎が断熱材で覆われた基礎断熱構造を有する請求項1記載の建物の熱利用構造である。
【0009】
また、請求項3記載の発明は、前記床下断熱部は、前記床暖房装置の下方に配された第1の断熱部と、床暖房装置が敷設されていない床下に配された第2の断熱部とを有する請求項1又は2に記載の建物の熱利用構造である。
【0010】
また、請求項4記載の発明は、前記床暖房装置は、温水が循環する温水循環式であり、該床暖房装置の行き温水、及び戻り温水が前記加温空間を通過する請求項1乃至3のいずれかに記載の建物の熱利用構造である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の建物の熱利用構造は、1階の床内に床暖房装置を具える。また、本発明では、建物の基礎と、前記床との間で区画された床下空間に、該床下空間に進入した外気を地熱と熱交換させて予備加熱する地熱交換領域が設けられる。
【0012】
さらに、床下空間には、床から距離を隔てて床暖房装置の下方に配される床下断熱部が設けられることにより、床と床下断熱部との間に、床暖房装置の下側への放熱を利用して空気を暖める加温空間が設けられる。この加温空間は、予備加熱された空気が導入される一方、加温空間で暖められた空気を居室に供給する給気手段を有する。
【0013】
このような建物の熱利用構造は、床下断熱部によって地熱交換領域から断熱された加温空間において、床暖房装置の下側への放熱を逃がすことなく空気を効率的に暖めることができる。さらに、加温空間では、地熱交換領域で予備加熱された空気をさらに暖めるため、該空気の温度を少ないエネルギーで早期に高めることができる。
【0014】
従って、建物の熱利用構造は、加温空間で十分に暖められた空気を居室に供給することにより、エアコンやヒータ等を使用することなく、居室を暖めることができるため、居室での快適性及び省エネルギー性を向上しうる。しかも、空気の予備加熱には、地熱が利用されるため、省エネルギー性をさらに向上しうる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の熱利用構造を示す断面図である。
【図2】図1の基礎を示す斜視図である。
【図3】比較例1の熱利用構造を示す断面図である。
【図4】比較例2の熱利用構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1に示されるように、本実施形態の建物の熱利用構造(以下、単に「熱利用構造」ということがある)は、例えば、住宅等の建物Bに適用することができる。
【0017】
本実施形態の建物Bは、該建物Bの土台や壁等を支持する基礎11、該基礎11の上方で支持される1階の床12、該基礎11と前記床12との間で区画される床下空間13を有する。
【0018】
前記基礎11は、例えば、地盤Gから小高さで突出して設けられた布基礎15と、布基礎15で囲まれた領域に配される土間コンクリート16とを含む。
【0019】
図2に示されるように、前記布基礎15は、建物Bの外周に配置される外の布基礎15Aと、該外の布基礎15Aの内側面15Aiと直交して縦横に配される内の布基礎15Bとを含む。これにより、床下空間13は、内の布基礎15Bによって複数の小空間13sに区分される。
【0020】
前記外の布基礎15Aには、床下空間13内に、外気17を進入させる外側開口部15Amが設けられる。一方、前記内の布基礎15Bには、該内の布基礎15Bを挟んで隣り合う小空間13s、13s間を連通させる内側開口部15Bmが設けられる。これにより、基礎11は、外側開口部15Amから進入した外気17を、内側開口部15Bmを介して各小空間13sに流通させることができる。
【0021】
図1及び図2に示されるように、本実施形態では、外の布基礎15Aの内側面15Aiの全域が、断熱材19で覆われる。これにより、建物Bには、床下空間13が断熱された基礎断熱構造が形成される。
【0022】
前記断熱材19は、後述する地熱交換領域3を除いて、外の布基礎15A側から内の布基礎15B及び土間コンクリート16側に向かって小長さで延びる断面略L字状をなす。これにより、床下空間13は、断熱性が効果的に高められる。なお、断熱材19としては、特に限定されないが、ポリスチレンフォーム等の樹脂材料が用いられるのが望ましい。
【0023】
本実施形態の熱利用構造は、建物Bの1階の床12に配置される床暖房装置2、外気17を地熱20と熱交換させて予備加熱する前記地熱交換領域3、床暖房装置2の下側への放熱14bを利用して空気18を暖める加温空間4、及び該加温空間4で暖められた空気18を居室Lに供給する給気手段5を含む。
【0024】
本実施形態の床暖房装置2は、例えば、温水2Awが循環する温水循環式であり、床12の内部に温水2Awを通過させる床パイプ2Aと、該温水2Awを加熱する熱源2Bと、該熱源2Bで加熱された高温の行き温水を床パイプ2Aに案内する行きパイプ2Caと、床12への放熱14aを終えて温度が低下した戻り温水を熱源2Bに案内する戻りパイプ2Cbとを含む。
【0025】
前記地熱交換領域3は、床下空間13の各小空間13sにおいて、前記断熱材19が配されていない領域に形成される。このような地熱交換領域3は、各小空間13sに進入した外気17を、土間コンクリート16を介して伝達される地熱20と熱交換させて、予備加熱することができる。
【0026】
さらに、本実施形態では、建物Bが基礎断熱構造を有するため、地熱交換領域3は、屋外の気温に影響されることなく、前記外気17を効率的かつ確実に予備加熱することができる。
【0027】
前記加温空間4は、床下空間13において、床暖房装置2の下方に、床12から距離を隔てて配される板状の床下断熱部6により、床12と床下断熱部6とで区分されて形成される。また、加温空間4には、地熱交換領域3において予備加熱された空気18を進入させる開口部4mが設けられる。
【0028】
前記床下断熱部6としては、例えば、ポリスチレンフォーム等の樹脂材料、又はシート状の真空断熱材等が用いられるのが望ましい。
【0029】
このような加温空間4は、床下断熱部6によって、地熱交換領域3から断熱されるため、床暖房装置2の下側への放熱14bを逃がすことなく、該加温空間4の空気18を効率的に暖めることができる。さらに、加温空間4では、地熱交換領域3で予備加熱された空気18を暖めるため、該空気18の温度を少ないエネルギーで早期に高めることができる。
【0030】
従って、本実施形態の熱利用構造は、加温空間4で十分に暖められた空気18を、居室Lに供給することにより、エアコンやヒータ等を使用することなく、又はこれらの使用を最小限として、該居室Lを早期に暖めることができる。従って、熱利用構造は、居室Lでの快適性及び省エネルギー性を向上しうる。しかも、空気18の予備加熱には、地熱が利用されるため、省エネルギー性をさらに向上しうる。
【0031】
上記作用を効果的に発揮させるために、前記床下断熱部6は、床暖房装置2の床パイプ2Aの下方の全域を覆うのが望ましい。これにより、加温空間4は、温水2Awの放熱14bを最大限に利用して、前記空気18をより効率的に暖めることができる。
【0032】
さらに、加温空間4の少なくとも一部には、床暖房装置2の行きパイプ2Ca、及び戻りパイプ2Cbが配されるのが望ましい。これにより、加温空間4には、行き温水及び戻り温水が通過するため、該行き温水及び該戻り温水による放熱を利用して、空気18をさらに効率的に加熱できる。
【0033】
また、加温空間4には、1階の床12の下面に当接する断熱材が配されないのが望ましい。これにより、加温空間4は、床暖房装置2の下側への放熱率を高めることができ、空気18を効果的に暖めることができる。なお、加温空間4には、地熱交換領域3において予備加熱された空気18が進入するため、上記のような断熱材等が配置されなくても、床12の温度の低下を抑制でき、居室Lでの快適性を損なうこともない。
【0034】
さらに、床下断熱部6は、前記床暖房装置2の下方に配される第1の断熱部6Aと、床暖房装置2が敷設されていない床12の下に配される第2の断熱部6Bとを有するのが望ましい。これにより、床下断熱部6は、第1の断熱部側で暖められた空気18を第2の断熱部6B側に供給することができ、例えば、床暖房装置2が敷設されていない洗面脱衣所T等の床12も暖めることができる。
【0035】
前記給気手段5は、建物Bの1階の居室L1に、加温空間4内の空気18を供給する第1給気手段5Aと、2階の居室L2に空気18を供給する第2給気手段5Bとを含む。
【0036】
本実施形態の第1給気手段5Aは、1階の居室L1の間仕切り壁26の内部を上下にのび、かつ加温空間4と連通する空気流路21、該空気流路21と1階の居室L1とを連通する壁開口部22、及び空気流路21内に設けられ、かつ加温空間4で暖められた空気18を1階の居室L1に送風する換気ファン23を含む。
【0037】
このような第1給気手段5Aは、換気ファン23の送風により、加温空間4内の空気18を、空気流路21を介して1階の居室L1内に供給できる。これにより、1階の居室L1は、第1給気手段5Aによって供給される空気18と、床暖房装置2による放熱14aとの相乗効果によって、効果的に暖められる。
【0038】
また、本実施形態の第2給気手段5Bは、1階の外壁29の内部を上下にのび、かつ加温空間4と連通する第1空気流路31、2階の居室L2の間仕切り壁28の内部を上下にのびる第2空気流路32、該第1空気流路31内(及び/又は第2空気流路32内)に設けられ、かつ加温空間4で暖められた空気18を2階の居室L2内に送風する換気ファン33A(33B)、該第2空気流路32と2階の居室L2とを連通する壁開口部34、及び該第1空気流路31と該第2空気流路32とを連通する連結部35を有する。
【0039】
このような第2給気手段5Bは、換気ファン33A(33B)の送風により、加温空間4内の空気18を、第1空気流路31、連結部35、及び第2空気流路32を介して、2階の居室L2内に供給できる。これにより、2階の居室L2は、エアコンやヒータ等を使用することなく、空気18によって暖められる。
【0040】
また、本実施形態では、床暖房装置2が敷設されていない洗面脱衣所Tの両側に、前記空気18が通過する間仕切り壁26及び外壁29が配置されるため、該洗面脱衣所Tを暖めることができる。
【0041】
なお、第2給気手段5Bの換気ファン33Aは、床下断熱部6の第2の断熱部6B側に配置されるのが望ましい。これにより、換気ファン33Aは、第1の断熱部6A側で暖められた空気18を、第2の断熱部6B側に誘導することができるため、床暖房装置2が敷設されていない床12を効果的に暖めることができる。
【0042】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0043】
図1に示される基本構造を有する熱利用構造を具えた建物(実施例)が製造され、その性能が実験された。さらに、前記実施例の建物、図3に示される1階の居室に床暖房装置のみからなる熱利用構造を具え、かつ基礎断熱構造を有さない建物(比較例1)、及び図4に示される加温空間、及び第2給気手段を有さない熱利用構造を具えた建物(比較例2)について、コンピュータを用いたシミュレーションによって評価された。なお、実験・シミュレーションの各条件は次のとおりである。
・実験:
・プラン(延床面積:113.95m2、1階の居室の床面積:30.78m2
1階の居室の床暖房装置に敷設率:47%)
・外気温2℃
・第2給気手段による2階の居室への給気量:100m3/hr
・シミュレーション:
・プラン(延床面積:113.95m2、1階の居室の床面積:30.78m2
1階の居室の床暖房装置に敷設率:50%)
・ソフトウェア:建築環境ソリューションズ社製のAE−Sim/Heat
・気象データ:外気温(大阪IV地域)
・実施例における第2給気手段による2階の居室への給気量:100m3/hr
・比較例1、比較例2における2階の居室への外気の給気量:20m3/hr
【0044】
<居室での快適性・省エネルギー性>
外気2℃における暖房開始4時間後における実施例の建物の各部屋(2階の居室、洗面脱衣所)の室温、及び洗面脱衣所の床表面の温度が測定された。さらに、外気2℃における暖房開始4時間後における実施例、比較例1、及び比較例2の建物の各部屋の温度等がシミュレーションされた。
暖房条件、及び結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
実施例の熱利用構造は、エアコンやヒータ等を用いることなく、1階の居室、2階の居室、及び洗面脱衣所の室温を効果的に高めることができ、居室での快適性及び省エネルギー性を大幅に向上しうることが確認できた。また、実験結果とシミュレーション結果は、相関が高いことも確認できた。
【符号の説明】
【0047】
2 床暖房装置
3 熱交換領域
4 加温空間
5 給気手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1階の床に床暖房装置を具えた建物の熱利用構造であって、
基礎と、前記床との間で区画された床下空間に、該床下空間に進入した外気を地熱と熱交換させて予備加熱する地熱交換領域が設けられ、
前記床下空間には、前記床から距離を隔てて、前記床暖房装置の下方に配される床下断熱部により、前記床と前記床下断熱部との間に、前記床暖房装置の下側への放熱を利用して空気を暖める加温空間が設けられ、
前記加温空間は、前記予備加熱された空気が導入される一方、
前記加温空間で暖められた空気を居室に供給する給気手段を有することを特徴とする建物の熱利用構造。
【請求項2】
前記建物は、前記地熱交換領域を除いて、前記基礎が断熱材で覆われた基礎断熱構造を有する請求項1記載の建物の熱利用構造。
【請求項3】
前記床下断熱部は、前記床暖房装置の下方に配された第1の断熱部と、床暖房装置が敷設されていない床下に配された第2の断熱部とを有する請求項1又は2に記載の建物の熱利用構造。
【請求項4】
前記床暖房装置は、温水が循環する温水循環式であり、該床暖房装置の行き温水、及び戻り温水が前記加温空間を通過する請求項1乃至3のいずれかに記載の建物の熱利用構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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