説明

建設機械

【課題】フロント作業機の長手方向に沿う中心線が、走行体の車幅の中心線よりも運転室から離れる側に位置するように設定されたものにあって、走行体の車幅の中心線よりも左側に位置する車体部分の重量と、右側に位置する車体部分の重量とを略均等にすることができる建設機械の提供。
【解決手段】本発明は、前方に向かって運転室7の右側に配置されるフロント作業機3が、走行体1の車幅の中心線CL上に位置するものの、当該フロント作業機3の長手方向に沿う中心線FLが、走行体1の車幅の中心線CLよりも運転室7から離れる側に位置するように旋回体2に取り付けられ、このフロント作業機3は縦断面が四角形状に形成されているホイールショベルにおいて、フロント作業機3の運転室7に近い側の重量を、運転室7から遠い側の重量に比べて重く設定した構成にしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前方に向かって運転室の右側に位置する旋回体の部分に、縦断面が四角形状に形成されたフロント作業機が取り付けられた油圧ショベル等の建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械、例えば油圧ショベルは一般に、走行体と、この走行体の上に配置され、運転室を有する旋回体と、この旋回体に取り付けられ、前方に向かって運転室の右側に配置されるフロント作業機とを備えている。フロント作業機は、旋回体に取り付けられるブーム、このブームの先端に取り付けられるアーム、このアームの先端に取り付けられるバケット等を含んでいる。
【0003】
図6は、このような建設機械すなわち油圧ショベルに備えられるフロント作業機のブームの縦断面図である。この図6に示すように、フロント作業機のブーム4は、上板4aと、下板4bと、これらの上板4aと下板4bのそれぞれに溶接され、前方に向かって左側に配置される左側板4e、及び右側に配置される右側板4fとを含む縦断面が四角形状に形成されている。左側板4eの板厚と右側板4fの板厚は、同じ板厚tに設定されている。なお、図示しないが、このブーム4に接続されるアームも、上板、下板、左側板、右側板を有する縦断面が四角形状に形成されている。この種の従来技術として、特許文献1に示されるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−193512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで昨今、例えば油圧ショベルにあっては、全体のコンパクト化、及び居住空間を形成する運転室の大型化指向に伴って、フロント作業機が走行体の車幅の中心線上に位置するものの、フロント作業機の長手方向に沿う中心線が、走行体の車幅の中心線よりも運転室から離れる側に位置するように、フロント作業機が旋回体に取り付けられるものがある。
【0006】
このような油圧ショベルが例えばホイールショベルである場合、すなわち走行体が前輪と後輪を含むものである場合には、前方に向かって右側に位置する車輪の接地圧が、左側に位置する車輪の接地圧よりも高くなる傾向にある。したがって、車体の左右で重量バランスが崩れ、走行直進性能、ステアリング性能に影響を与え、乗り心地も悪化させる可能性がある。
【0007】
このことは、油圧ショベルがクローラ式のショベルであっても同様であり、前方に向かって右側に位置するクローラの接地圧が、左側に位置するクローラの接地圧よりも高くなる傾向にある。したがって、車体の左右で重量バランスが崩れ、走行直進性能、ステアリング性能に影響を与える可能性がある。これら性能への影響を防ぐため、右側に位置するクローラを駆動する右走行モータの容量を、左側に位置するクローラを駆動する左走行モータの容量よりも大きくするなどの煩雑な走行系の構成が要求される。
【0008】
本発明は、上述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、フロント作業機の長手方向に沿う中心線が、走行体の車幅の中心線よりも運転室から離れる側に位置するように設定されたものにあって、走行体の車幅の中心線よりも左側に位置する車体部分の重量と、右側に位置する車体部分の重量とを略均等にすることができる建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために、本発明は、走行体と、この走行体の上に配置され、運転室を有する旋回体と、この旋回体に取り付けられ、前方に向かって上記運転室の右側に配置されるフロント作業機とを備え、上記フロント作業機は、上記走行体の車幅の中心線上に位置するものの、上記フロント作業機の長手方向に沿う中心線が、上記走行体の車幅の中心線よりも上記運転室から離れる側に位置するように上記旋回体に取り付けられ、上記フロント作業機は、上板と、下板と、これらの上板と下板のそれぞれに溶接され、上記前方に向かって左側に配置される左側板、及び上記前方に向かって右側に配置される右側板とを含む縦断面が四角形状に形成された建設機械において、上記フロント作業機の上記運転室に近い側の重量を、上記運転室から遠い側の重量に比べて重く設定したことを特徴としている。
【0010】
このように構成した本発明は、フロント作業機上に形成される走行体の車幅の中心線よりも運転室側に位置するフロント作業機の部分の重量を重くすることができる。これに応じて、フロント作業機の長手方向に沿う中心線が、走行体の車幅の中心線よりも運転室から離れる側に位置するように設定されたものにあって、走行体の車幅の中心線よりも左側に位置する車体部分の重量と、右側に位置する車体部分の重量とを略均等にすることができる。これにより本発明は、車体の左側の接地圧と右側の接地圧を略等しくすることができる。
【0011】
また本発明は、上記発明において、上記左側板の板厚を、上記右側板の板厚に比べて厚く設定したことを特徴としている。このように構成した本発明は、フロント作業機の左側板の板厚を厚く設定したことにより、フロント作業機上に形成される走行体の車幅の中心線よりも運転室側に位置するフロント作業機の部分の重量を、容易に重くすることができる。
【0012】
また本発明は、上記発明において、上記左側板は複数枚の板材から成ることを特徴としている。このように構成した本発明は、フロント作業機の左側板の重量を、複数枚の板材を設けることによって容易に重くすることができる。
【0013】
また本発明は、上記発明において、上記左側板の板厚と上記右側板の板厚を同等に設定するとともに、上記左側板と上記右側板間の中心線よりも左側板側に位置する上記フロント作業機の部分に、重りを設けたことを特徴としている。このように構成した本発明は、重りによって、フロント作業機上に形成される走行体の車幅の中心線よりも運転室側に位置するフロント作業機の部分の重量を、容易に重くすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、フロント作業機の運転室に近い側の重量を、運転室から遠い側の重量に比べて重く設定した構成にしてあり、この構成に伴って本発明は、フロント作業機の長手方向に沿う中心線が、走行体の車幅の中心線よりも運転室から離れる側に位置するように設定されたものにあって、走行体の車幅の中心線よりも左側に位置する車体部分の重量と、右側に位置する車体部分の重量とを略均等にすることができる。これにより本発明は、車体の左側の接地圧と右側の接地圧とを略等しくすることができ、車体の左右で安定した重量バランスを確保することができる。したがって本発明は、優れた走行直進性能、及びステアリング性能が得られ、また良好な乗り心地を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る建設機械の第1実施形態を構成するホイールショベルを示す側面図である。
【図2】図1に示すホイールショベルの旋回体部分を簡略に示した平面図である。
【図3】本発明の第1実施形態の要部を構成するフロント作業機のブームの縦断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態の要部を構成するフロント作業機のブームの縦断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態の要部を構成するフロント作業機のブームの縦断面図である。
【図6】従来の建設機械に備えられるフロント作業機のブームの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る建設機械の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0017】
図1に示すように、第1実施形態に係るホイールショベルは、前輪1a及び後輪1bを有する走行体1と、この走行体1の上に配置される旋回体2と、この旋回体2に取り付けられるフロント作業機3とを備えている。フロント作業機3は、旋回体2に上下方向の回動可能に設けられるブーム4と、このブーム4の先端に上下方向の回動可能に設けられるアーム5と、このアーム5の先端に上下方向の回動可能に設けられるバケット6とを含んでいる。旋回体2の旋回フレーム2aの前側位置には運転室7が配置され、後側位置には重量バランスを確保するカウンタウエイト8が配置され、運転室7とカウンタウエイト8の間には、エンジン、油圧ポンプ等が収容されるエンジンルーム9が配置されている。
【0018】
また図2に示すように、第1実施形態に係るホイールショベルのフロント作業機3は、前方に向かって運転室7の右側に配置されている。このフロント作業機3は、走行体1の車幅の中心線CL上に位置するものの、フロント作業機3の長手方向に沿う中心線FLが、走行体1の車幅の中心線CLよりも運転室7から離れる側に位置するように旋回体2に取り付けられている。
【0019】
図3に示すように、フロント作業機3に含まれる例えばブーム4は、上板4aと、下板4bと、これらの上板4aと下板4bのそれぞれに溶接され、前方に向かって左側に配置される左側板4c、及び前方に向かって右側に配置される右側板4dとを含む縦断面が四角形状に形成されている。
【0020】
この第1実施形態は、フロント作業機3の運転室7に近い側の重量を、運転室7から遠い側の重量に比べて重く設定したものである。例えば、フロント作業機3のブーム4の運転室7に近い側の重量を、運転室7から遠い側の重量に比べて重く設定してある。すなわち図3に示すように、左側板4cの板厚t1を、右側板4dの板厚t2に比べて厚く設定してある。
【0021】
このように構成した第1実施形態にあっては、フロント作業機3上に形成される走行体1の車幅の中心線CLよりも運転室7側に位置するフロント作業機3の部分、例えばブーム4の部分の重量を重くすることができる。これに応じて、フロント作業機3の長手方向に沿う中心線FLが、走行体1の車幅の中心線CLよりも運転室7から離れる側に位置するように設定されたものにあって、走行体1の車幅の中心線CLよりも左側に位置する車体部分の重量と、右側に位置する車体部分の重量とを略均等にすることができる。これにより、この第1実施形態に係るホイールショベルは、車体の左側の接地圧と右側の接地圧を略等しくすることができ、車体の左右で安定した重量バランスを確保できる。したがってこの第1実施形態は、優れた走行直進性能、及びステアリング性能が得られ、また、良好な乗り心地を確保できる。
【0022】
また、ホイールショベルにおいては、運転室7内のオペレータの良好な視界の確保を考慮して、図2に示す状態から運転室7の方向に、すなわち左周りにフロント作業機3を旋回させながら、土砂や岩石の掘削作業等が実施される傾向にある。このような左旋回しながらの作業時には、フロント作業機3の例えばブーム4に硬い岩石等が接触する虞があるが、そのようなときでも、岩石等は大きな強度を有する板厚t1の左側板4cに接触することになる。したがって、この第1実施形態によれば、左旋回しながらの作業時におけるフロント作業機3の損傷、すなわちブーム4の損傷を防ぐことができる。
【0023】
図4は本発明の第2実施形態の要部を構成するフロント作業機のブームの縦断面図である。この図4に示す第2実施形態は、フロント作業機3の例えばブーム4の左側板4を、複数枚の板材、すなわち第1左側板4c1と第2左側板4c2とによって構成したものである。この第2実施形態も、第1実施形態と同様に、ブーム4の右側板4dの板厚はt2に、第1左側板4c1と第2左側板4c2から成る左側板4cの板厚はt2よりも厚いt1に設定してある。その他の構成は第1実施形態と同等である。このように構成したものも、フロント作業機3のブーム4の左側板4cの重量を、複数枚の板材、すなわち第1左側板4c1と第2左側板4c2を設けることによって、容易に重くすることができ、第1実施形態と同等の作用効果が得られる。
【0024】
図5は本発明の第3実施形態の要部を構成するフロント作業機のブームの縦断面図である。この図5に示す第3実施形態は、フロント作業機3の例えばブーム4の左側板4eの板厚と右側板4fの板厚を同等の板厚tに設定するとともに、左側板4eと右側板4f間の中心線FL1よりも左側板4e側に位置するフロント作業機3の部分、すなわちブーム4の部分に、重り10を設けた構成にしてある。重り10は、ボルト11によって着脱可能に設けてある。その他の構成は、上述した第1実施形態と同等である。
【0025】
このように構成した第3実施形態は、フロント作業機3上に形成される走行体1の車幅の中心線CLよりも運転室7側に位置するフロント作業機3の部分の重量、すなわちブーム4の中心線FL1よりも運転室7側に位置するブーム4の部分の重量を、重り10によって容易に重くすることができる。
【0026】
また、この第3実施形態は、走行時には、ブーム4の部分に重り10をボルト11を介して装着することにより、ブーム4の中心線FL1よりも運転室7側に位置するブーム4の部分の重量を、容易に重くすることができ、これによって蛇行を防ぐことができる。また、フロント作業機3の駆動によって実施される作業時には、ボルト11を緩めてブーム4の部分から重り10を離脱させることにより、重り10の影響を受けない円滑なフロント作業機3の駆動を実現させることができる。
【0027】
なお、上記実施形態にあっては、建設機械がホイールショベルから成っているが、本発明をクローラ式ショベルに適用することもできる。このように本発明をクローラ式ショベルに適用した場合には、上述したホイールショベルの場合と同様の主要な作用効果が得られる他、左右走行モータを容量の等しいものとすることができ、走行系の構成を簡単にすることができる。
【0028】
また、上記各実施形態にあっては、本発明の特徴をフロント作業機3のブーム4に設けたが、ブーム4に代えてアーム5に設けるようにしてもよい。さらに、ブーム4とアーム5の双方に本発明の特徴を設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 走行体
2 旋回体
3 フロント作業機
4 ブーム
4a 上板
4b 下板
4c 左側板
4c1 第1左側板
4c2 第2左側板
4d 右側板
4e 左側板
4f 右側板
5 アーム
7 運転室
10 重り
11 ボルト
CL 中心線
FL 中心線
FL1 中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行体と、この走行体の上に配置され、運転室を有する旋回体と、この旋回体に取り付けられ、前方に向かって上記運転室の右側に配置されるフロント作業機とを備え、
上記フロント作業機は、上記走行体の車幅の中心線上に位置するものの、上記フロント作業機の長手方向に沿う中心線が、上記走行体の車幅の中心線よりも上記運転室から離れる側に位置するように上記旋回体に取り付けられ、
上記フロント作業機は、上板と、下板と、これらの上板と下板のそれぞれに溶接され、上記前方に向かって左側に配置される左側板、及び上記前方に向かって右側に配置される右側板とを含む縦断面が四角形状に形成された建設機械において、
上記フロント作業機の上記運転室に近い側の重量を、上記運転室から遠い側の重量に比べて重く設定したことを特徴とする建設機械。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械において、
上記左側板の板厚を、上記右側板の板厚に比べて厚く設定したことを特徴とする建設機械。
【請求項3】
請求項2に記載の建設機械において、
上記左側板は複数枚の板材から成ることを特徴とする建設機械。
【請求項4】
請求項1に記載の建設機械において、
上記左側板の板厚と上記右側板の板厚を同等に設定するとともに、上記左側板と上記右側板間の中心線よりも左側板側に位置する上記フロント作業機の部分に、重りを設けたことを特徴とする建設機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−64299(P2013−64299A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204844(P2011−204844)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)