説明

引戸のラッチ装置

【課題】操作性のよいラッチ装置を提供するとともに、引戸を軽快に開閉しうるようにする。
【解決手段】引戸2の下部に、左右方向に操作可能な把手部材12を、付勢手段13により常時引戸の閉止方向に付勢するようにして設けるとともに、引戸2の下部の内部空間に、ラッチ作動部材14とラッチ部材15とを、上下方向に移動可能に収容し、把手部材12とラッチ作動部材14とを、把手部材を引戸の開き方向に操作してラッチ作動部材が上昇させられたとき、これと連動してラッチ部材15が上昇するとともに、把手部材を引戸の閉じ方向に操作してラッチ作動部材が下降させられたとき、ラッチ部材が自重により下降して係止部9aと係合しうるように、連係する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばキャビネット等におけるガラス引戸を、閉止状態に拘束するラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の引戸のラッチ装置としては、例えば特許文献1及び2に記載されているものがある。
【特許文献1】実開昭62−140168号公報
【特許文献2】特開平8−193448号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1に記載されているラッチ装置においては、引戸の下端を案内するガイドレールの側端に、引戸の側端下部に設けた上下方向に操作可能な係止具の下端を突入させることにより、引戸を閉止状態に拘束するようになっており、引戸を開く際には、係止具を上方に移動させる必要がある。
【0004】
そのため、引戸を開く水平方向の動作と、係止具を解除操作する動作とが90°異なり、それらを一方向の動作で同時に操作できないため、操作性や使い勝手が悪い。
【0005】
特許文献2に記載されているラッチ装置は、引戸を開く方向の動作と、ラッチ(ロックプレート)のロック解除方向の動作とがほぼ同方向であるため、操作性がよい。しかし、ラッチは、ばねにより常にレールと係合する方向に付勢されており、ロックを解除して引戸を開閉する際にも、ラッチの係合爪がレールの上面と圧接しながら摺動するため、引戸の開閉抵抗が大きくなったり、摺動音を発したりすることがある。
【0006】
また、把手(つまみ)は、ラッチと直接連結され、ラッチの上下回動と連動して左右方向に動いてしまうため、操作者に違和感を与える。
さらに、把手を操作する際、その側方の固定側の把持片にも指を掛ける必要があるため、操作性が悪い。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、引戸のロックを解除する動作と、引戸を開く動作とを同方向として、同時に行いうるようにし、操作性を向上するとともに、引戸を開閉する際の抵抗を小さくして軽快に開閉しうるようにし、かつ把手にラッチの動きが伝わらないようにすることにより、違和感を解消しうるようにした引戸のラッチ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、上記課題は、次のようにして解決される。
(1)キャビネット等の前面開口部に設けた左右方向に移動可能な前後の引戸を、開口部を閉止する位置に拘束するようにした引戸のラッチ装置において、前記引戸の下部に、該引戸の前方において左右方向に操作可能な把手部材を、付勢手段により常時引戸の閉止方向に付勢するようにして設けるとともに、引戸の下部の内部空間に、ラッチ作動部材と、これに上下に相対移動自在に連係されたラッチ部材とを、上下方向に移動可能に収容し、前記把手部材とラッチ作動部材とを、把手部材を引戸の開き方向に操作したときラッチ作動部材が上昇し、同じく引戸の閉じ方向に操作したときラッチ作動部材が下降するようにした連動手段をもって連係し、かつラッチ作動部材が上昇させられたとき、これと連動して前記ラッチ部材が上昇することにより、その下端が前記開口部の下部上面に設けた係止部より離脱し、ラッチ作動部材が下降させられたとき、ラッチ部材が自重により下降することにより、その下端が前記係止部と係合して引戸を閉止位置に拘束しうるようにする。
【0009】
(2)上記(1)項において、引戸の下部前面に方形の凹部を設け、この凹部内に、把手部材を、左右方向に移動可能に嵌合するとともに、把手部材の後面に突設した上下の係止片を、凹部の奥面に形成した左右方向を向く係合孔に摺動可能に係止する。
【0010】
(3)上記(1)または(2)項において、連動手段が、把手部材の後面に後向きに突設された作動軸と、ラッチ作動部材に設けられ、前記作動軸が摺動可能に嵌合された、引戸の閉止方向に向かって斜上向きに傾斜する長孔とからなるものとする。
【0011】
(4)上記(1)〜(3)項のいずれかにおいて、ラッチ作動部材とラッチ部材との対向部のいずれか一方に、上下方向を向く前後1対のガイド溝を設け、他方に設けた前後方向に弾性変形しうる前後1対の連結片における対向面の係合突部を、前記両ガイド溝に上下に摺動可能に係止することにより、ラッチ作動部材とラッチ部材とを上下に相対移動自在に連係する。
【0012】
(5)上記(4)項において、ラッチ作動部材側にガイド溝を設け、このガイド溝の下端に、ラッチ部材に設けた連結片の下端が当接するストッパ段部を設けることにより、ラッチ作動部材の上昇と連動してラッチ部材が上昇するようにする。
【0013】
(6)上記(1)〜(5)項のいずれかにおいて、ラッチ作動部材の下降時にラッチ部材を、把手部材の付勢手段よりも微弱な付勢力で下方に付勢する補助付勢手段を設ける。
【0014】
(7)上記(6)項において、補助付勢手段が、ラッチ作動部材に一体的に連設され、先端部の下面がラッチ部材の上面中央に当接する弾性付勢片とする。
【0015】
(8)上記(1)〜(7)項のいずれかにおいて、ラッチ部材の前後両面と、それと対向する引戸の内面に、互いに上下方向に摺動可能に嵌合し合うガイド溝とガイド突条とを設ける。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の発明によれば、把手部材を引戸の開き方向に操作してラッチ作動部材を上昇させると、これと連動してラッチ部材も上昇し、その下端が係止部より離脱して引戸を開くことができる。従って、把手部材を操作してラッチ部材のロックを解除する動作と、引戸を開く動作とが同じ水平方向となり、かつそれらの動作を、把手部材から手を離すことなく連続して同時に行いうるので、操作性が向上する。
【0017】
また、ラッチ部材は自重により下降して、係止部と係合するようになっており、従来のように、ばねにより係合方向に積極的に付勢していないので、引戸を開閉する際にラッチ部材が開口部の下端部上面に強く圧接しながら摺動することはない。従って、引戸の開閉抵抗が小さくなることにより、それを軽快に開閉しうるとともに、大きな摺動音を発することもない。
【0018】
さらに、把手部材のみに指を掛けて操作しうるので、従来のような固定側の把持片を突設して、これに指を掛ける必要はなく、簡単かつ円滑な操作が可能となるとともに、見栄えもよくなる。
【0019】
把手部材、ラッチ作動部材及びラッチ部材は、それぞれ別体をなし、かつ互いに直接的に連結されていないので、ラッチ部材の上下方向の動きが、把手部材に伝達されてこれが動くということはなく、操作者に違和感を与えることがない。
【0020】
請求項2記載の発明によれば、把手部材は、引戸の前面の凹部内を左右方向に移動するので、体裁がよくなるとともに、引戸の前方から簡単に取付けることができ、また交換も容易となる。
【0021】
請求項3記載の発明によれば、把手部材に突設した作動軸を、ラッチ作動部材の長孔に嵌合するだけで、それらの部材同士を連動可能に容易に連係することができる。
また、把手部材の左右方向の移動操作に追従して、ラッチ作動部材を確実に昇降させることができる。
【0022】
請求項4記載の発明によれば、ガイド溝に向かって連結片を押し込むだけで、ラッチ作動部材とラッチ部材とを、上下に相対移動自在に簡単に連係することができ、また着脱も容易である。
【0023】
請求項5記載の発明によれば、ラッチ作動部材が上昇させられ、ラッチ部材の連結片がガイド溝の下端まで相対移動すると、ストッパ段部に自動的に当接して、ラッチ部材が上昇するのて、複雑な連動手段を設ける必要はなく、コスト低減が図れる。
【0024】
請求項6記載の発明によれば、万一ラッチ部材が自重により下降しないときでも、補助付勢手段により強制的に下降させられるので、ラッチ部材を係止部に確実に係止することができる。
【0025】
また、ラッチ装置の各部材を上下反対向きとすると、ラッチ部材は補助付勢手段により上向きに移動させられるので、引戸の上部にラッチ装置を取付けても正常に機能させることができる。
【0026】
請求項7記載の発明によれば、圧縮ばね等の補助付勢手段を別途設ける必要がないので、部品点数や組付工数が削減される。
【0027】
請求項8記載の発明によれば、ラッチ部材は、ぐらつくことなく安定して上下動することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本発明を適用したキャビネットの正面図で、両開き扉を有する下部キャビネット(1)と、その上面に載置された、3枚の引違いガラス引戸(2)を有する上部キャビネット(3)とからなり、この上部キャビネット(3)の左右両側のガラス引戸(2)の外方の下端に、本発明のラッチ装置(4)が設けられている。
【0029】
各ガラス引戸(2)は、ガラス製の引戸本体(5)と、その上下の端部に嵌め込まれた硬質合成樹脂製の横桟(6)(7)とからなり、下部の横桟(7)の内部には、図2にも示すように、上部キャビネット(3)の下部横枠(8)の上面に固定された左右方向を向くガイドレール(9)上を転動しうる左右2個の戸車(10)が、回転自在に組込まれている。上部の横桟(6)の上端部は、上部横枠(11)の下面に形成された左右方向を向くガイド溝(図示略)に摺動可能に嵌合して保持されている。
【0030】
最後部と最前部に位置する左右のガラス引戸(2)のラッチ装置(4)は、図2〜図4に示すように(左右対称で同一構造につき、右方のみ図示する)、把手部材(12)と、付勢手段としてのねじりコイルばね(13)と、ラッチ作動部材(14)と、ラッチ部材(15)とを備えている。
【0031】
合成樹脂よりなる把手部材(12)は、やや縦長の平板状をなし、その前面中央には、上下方向を向く操作突部(16)が前向きに突設されている。
【0032】
把手部材(12)の裏面の上端部と下端部との中央部には、上向きの係合爪(17a)を有する、左右寸法の大きな係止片(17)と、左右寸法が短寸の下向鉤状の係止片(18)が一体的に突設され、また同じく裏面のやや右端部寄りには、上下1対の作動軸(19)(19)が一体的に突設されている。さらに、裏面の左端寄りの上部には、上下寸法の大きな平板状のばね受片(20)が、把手部材(12)と直交するように突設されている。
【0033】
横桟(7)における前面板(7a)の右側端部の前面には、上下の対向面間の寸法が把手部材(12)の上下寸法とほぼ等しく、左右の対向面間の寸法が把手部材(12)の左右寸法より所要寸法大とされた方形の操作枠(21)が、前向きに突設され、この操作枠(21)により囲まれた凹部内に、把手部材(12)を左右方向に摺動可能に嵌合しうるようになっている。
【0034】
操作枠(21)で囲まれた前面板(7a)の前面上部には、把手部材(12)における上部の係止片(17)、上部の作動軸(19)及びばね受片(20)が挿通可能な、正面視倒立L字状の開口(22)が形成され、また同じく前面下部には、下部の係止片(18)及び下部のガイド軸(19)が挿通可能な横長方形状の開口(23)が形成されている。
【0035】
上下の開口(22)(23)は、係合孔としての機能を有し、上部の開口(22)における上端縁の裏面には、上部の係止片(17)の係合爪(17a)が係合されるとともに、下部の開口(23)における下端の裏面には、下部の係止片(18)が係合されて抜け止めされるようになっている。また、それらを係合した状態のまま、把手部材(12)は、操作枠(21)内を左右方向に移動しうるようになっている。
【0036】
横桟(7)の後面板(7b)の右端部には、左右方向を向く上下1対のガイド孔(24)が穿設され、このガイド孔(24)には、把手部材(12)の上下の作動軸(19)の後端部が摺動可能に嵌合されるようになっている。
【0037】
(25)は、後面板(7b)の右端部に後向きに突設されたストッパ突部で、ガラス引戸(2)を開いた際、中央のガラス引戸(2)における下部の横桟(7)の右端と当接しうるようになっている。
【0038】
合成樹脂により形成されたラッチ作動部材(14)は、横桟(7)内において上下に摺動しうる前後寸法とされた、上片(26a)と垂下片(26b)とからなる正面視T字状の基片(26)と、上片(26a)と垂下片(26b)の後端縁に連設された内方を向く垂直平板状の摺動片(27)と、垂下片(26b)の右側面の上端に連設された斜め下向きの弾性付勢片(28)とを備えている。
【0039】
弾性付勢片(28)の直下における垂下片(26b)の右側面中央部には、図3にも示すように、前後両面に上下方向を向くガイド溝(29)(29)を有するガイド片(30)が、外側方に向かって一体的に突設されている。
【0040】
また、ガイド片(30)の下方の前後部には、高さの異なる水平のストッパ段部(31)(32)が、ガイド片(30)を挟むようにして、その下端と垂下片(26b)の下端の右側面とに一体的に連設されている。
【0041】
摺動片(27)には、把手部材(12)の上下1対の作動軸(19)が摺動可能に挿通される、正面視において右上がり、すなわち引戸(2)の閉止方向に向かって斜上向きにほぼ40°に傾斜する上下1対の作動長孔(33)(33)が穿設されている。この両作動長孔(33)の上端部と、上記横桟(7)の後面板(7b)に穿設した上下のガイド孔(24)の右端部とは、把手部材(12)が右限に位置しているとき、互いに前後に整合するようになっている(図2参照)。
【0042】
両作動長孔(33)の上方の開口縁は、ラッチ作動部材(14)を上昇させる上昇用傾斜カム面(33a)として、また下方の開口縁は、ラッチ作動部材(14)を下降させる下降用傾斜カム面(33b)として、それぞれ機能する。
【0043】
合成樹脂により形成されたラッチ部材(15)は、横桟(7)内を上下に摺動可能な前後寸法を有する縦長のブロック状をなし、左方(内方)の側面における前端縁と後端縁とには、それぞれ図3及び図4に示すように、左側方(内側方)を向く1個の連結片(34)と、上下2個の連結片(35)(35)とが、正面視において前部の連結片(34)が後部の上下の連結片(35)との間に位置するように一体的に突設されている。
【0044】
前部の連結片(34)の後面と、後部の上下の連結片(35)の前面との中間部には、上記ラッチ作動部材(14)におけるガイド片(30)の前後のガイド溝(29)(29)に、上下方向に摺動自在に係合される係合突部(36)が突設されている。この係合時において、前部の連結片(34)の下端は、ラッチ作動部材(14)の前部のストッパ段部(31)の上面に、後部の下側の連結片(35)の下端は、同じく後部のストッパ段部(32)の上面に、それぞれラッチ部材(15)の自重により当接し、ラッチ部材(15)の下方への最大移動量が規制されるようになっている。
【0045】
この当接時において、ラッチ部材(15)の下端部は、ラッチ作動部材(14)の下端よりも所要寸法下方に突出し、ガイドレール(9)の外側端の切欠係止部(9a)と係合しうるようになっている(図2、図5参照)。また、この際、ラッチ部材(15)の上面中央に、弾性付勢片(28)の先端下面が軽く当接するようになっている。
【0046】
ラッチ部材(15)の前後両面のやや上方寄りの中央部には、上下2個の方形をなす凹部(37)と、上下方向を向くガイド溝(38)とが、互いに連通するようにして形成されている。
【0047】
前後のガイド溝(38)は、図3及び図4に示すように、横桟(7)における前面板(7a)と後面板(7b)との外側端部内面の対向面に突設された上下方向を向くガイド突条(39)に、上下に摺動可能に嵌合されるようになっている。なお、上記とは反対に、ガイド溝(38)を横桟(7)側に、ガイド突条(39)をラッチ部材(15)側に設けてもよい。
【0048】
次に、上記ラッチ装置(4)における各部材の組付け手順について説明する。
まず、ラッチ作動部材(14)に、ラッチ部材(15)を、上述した要領で上下に摺動可能に組付けたのち、それらを、引戸本体(5)取付前の横桟(7)内に上方から挿入し、ラッチ部材(15)の前後のガイド溝(38)を、前面板(7a)と後面板(7b)のガイド突条(39)に嵌合する。
【0049】
ついで、横桟(7)の前面板(7a)に形成した操作枠(21)内に、把手部材(12)を挿入し、その上下の係止片(17)(18)を、前面板(7a)の上下の開口(22)(23)に係止することにより、抜け止めしつつ、左右方向に摺動可能に取付ける。かつ同時に、把手部材(12)の上下の作動軸(19)を、ラッチ作動部材(14)における斜め上下方向を向く作動長孔(33)と、後面板(7b)の左右方向を向く上下のガイド孔(24)とに摺動可能に嵌合する。
【0050】
ついで、ねじりコイルばね(13)を、図2、図3及び図5に示すように、把手部材(12)の内側方(左側方)において、前面板(7a)と後面板(7b)との対向面のいずれか一方に突設した支持軸(40)に嵌合したのち、内方の上方を向く足片(13a)における上端の逆U字状の引掛け部(13b)を、前面板(7a)と後面板(7b)の対向面に形成された上下方向を向く補強リブ(41)の上端部に、上方より掛止するとともに、外方の上方を向く足片(13c)の上端部を、把手部材(12)の後面に突設したばね受片(20)の内側面(左側面)に、付勢力を付与した状態で圧接させる。
【0051】
これにより、各部材の組付けは完了し、把手部材(12)は、ねじりコイルばね(13)の付勢力により、操作枠(21)内の右端側に位置させられるとともに、上下の作動軸(19)が、後面板(7b)におけるガイド孔(24)の右端及びラッチ作動部材(14)の作動長孔(33)の上端に位置することにより、ラッチ作動部材(14)は、下限位置に強制的に移動させられる。
【0052】
また、ラッチ作動部材(14)が下限に位置することにより、これに上下に摺動自在に連結されているラッチ部材(15)も、下限位置まで自重により移動可能となる。
【0053】
次に、図5〜図7の概略正面図を参照して、上記ラッチ装置(4)の作用を説明する。
【0054】
図5に示すように、右側のガラス引戸(2)が閉じられ、その下部の横桟(7)の右側面(外側面)が上部キャビネット(3)の側枠(42)と当接している状態において、把手部材(12)を操作していないときには、把手部材(12)は、ねじりコイルばね(13)の付勢力により、横桟(7)の操作枠(21)内の右限位置に移動させられ、それに突設した上下の作動軸(19)は、ガイド孔(24)の右端及び作動長孔(33)の上端に位置する。
【0055】
これにより、ラッチ作動部材(14)は下限位置まで下降するとともに、それに上下に摺動自在に連結されているラッチ部材(15)も、前後の連結片(34)(一方のみ図示)の下端が前後のストッパ段部(31)(一方のみ図示)と当接する下限位置まで、自重もしくは弾性付勢片(28)の付勢力により下降する。その結果、ラッチ部材(15)の下端部が下方に突出し、ガイドレール(9)における外側端の切欠係止部(9a)と係合することにより、ガラス引戸(2)はロックされ、閉止状態に拘束される。
【0056】
この状態において、把手部材(12)に手を掛け、これを、ねじりコイルばね(13)の付勢力に抗して左限まで移動させると、図6に示すように、上下の作動軸(19)が、ガイド孔(24)の左端に移動するのに伴なって、両作動軸(19)は、上下の作動長孔(33)における上昇用傾斜カム面(33a)を強く押圧しながら、相対的に下端まで移動する。これにより、ラッチ作動部材(14)は上昇させられ、それと連動して、ストッパ段部(31)と当接して下限に位置しているラッチ部材(15)も上昇する。
【0057】
その結果、ラッチ部材(15)の下端部が、ガイドレール(9)の切欠係止部(9a)より離脱して上限まで移動することにより、ロックが解除され、ガラス引戸(2)を開くことができる。この際、ねじりコイルばね(13)のばね力を、ガラス引戸(2)の開き抵抗よりも小さく設定すれば、把手部材(12)は右限の定位置に復帰することがないので、ラッチ部材(15)の下端をガイドレール(9)の上面から離間させた状態のまま、ガラス引戸(2)を開くことができ、摺動音を発したり、開き抵抗が増大したりするのが防止される。
【0058】
一方、ねじりコイルばね(13)のばね力を、ガラス引戸(2)の開き抵抗より大きく設定すると、図7に示すように、ロックが解除されてガラス引戸(2)を開き始めた直後に、把手部材(12)は右限の定位置まで移動する。
【0059】
すると、上下の作動軸(19)が、ガイド孔(24)の右端に移動するのに伴なって、作動長孔(33)における下降用傾斜カム面(33b)が作動軸(19)により強く押圧され、ラッチ作動部材(14)は下降させられる。その結果、ラッチ部材(15)も自重により下降し、その下端がガイドレール(9)の上面と当接した時点で、ラッチ作動部材(14)の弾性付勢片(28)を上方に撓ませながら相対的に上方に移動する。
【0060】
この状態で、把手部材(12)を左方に操作することにより、これを右限の定位置に位置させたままでガラス引戸(2)を開くことができる。また、把手部材(12)を右方に操作してガラス引戸(2)を閉じる際も、図7と同様、把手部材(12)は右限の定位置に保持され、ガラス引戸(2)が閉止される間際に、ラッチ部材(15)がその自重と弾性付勢片(28)との付勢力により、ガイドレール(9)の切欠係止部(9a)に自動的に係合してロックされる。
【0061】
なお、上記ガラス引戸(2)の開閉時には、ラッチ部材(15)の下端がガイドレール(9)の上面と摺接することとなるが、弾性付勢片(28)の下向き付勢力を極く小さいものとすることにより、摺動音や摺動抵抗を最小限に抑えることができる。
【0062】
以上説明したように、上記実施形態のラッチ装置においては、把手部材(12)を操作してラッチ部材(15)によるロックを解除する動作と、ガラス引戸(2)を開く動作とが、同じ水平方向であり、かつそれらの動作を、把手部材(12)から手を離すことなく、連続して同時に行うことができるので、操作性が向上する。
【0063】
また、従来のように、把手部材(12)を操作する際に、固定側の把持片にも指を掛ける必要がないので、円滑な操作が可能となり、かつ固定側の把持片を突設する必要もないので、見栄えがよくなる。
【0064】
さらに、ラッチ部材(15)は、実質的にその自重によりガイドレール(9)と係合するようになっており、従来のように、ばねにより係合方向に積極的に付勢していないので、ラッチ部材(15)の下端がガイドレール(9)の上面と強く圧接しながら摺動することはなく、ガラス引戸(2)の開閉抵抗が小さくなることにより、それを軽快に開閉することができる。また、大きな摺動音を発したりすることもない。
【0065】
ラッチ装置を構成している把手部材(12)、ラッチ作動部材(14)及びラッチ部材(15)は、それぞれ別体をなし、かつ互いに直接的に連結されていないので、ラッチ部材(15)の上下方向の動きが、把手部材(12)に伝達されてこれが動くということはなく、操作者に違和感を与えることがない。
【0066】
本発明は、上記実施形態に限定されるものでない。
上述したように、ラッチ部材(15)は、ラッチ作動部材(14)に上下に移動自在に連結され、かつ自重により下降してガイドレール(9)と係合するようになっているため、弾性付勢片(28)は省略することもある。
【0067】
上記実施形態のようなラッチ装置を、上下反対向きとして上部の横桟(6)に組付け、ラッチ部材(15)を、上方のガイドレールの側端又は上部横枠(11)の側端部下面に設けた係止孔等に係合して、ガラス引戸(2)をロックしうるようにすることもできる。この際には、ラッチ部材(15)を上方に移動させる必要があるため、上記弾性付勢片(28)のような上向付勢手段を設ければよい。
【0068】
上記実施形態では、ラッチ作動部材(14)にラッチ部材(15)を上下に摺動自在に連結する手段に、ガイド溝(29)と連結片(34)(35)を用いているが、ラッチ作動部材(14)とラッチ部材(15)との対向部に、互いに上下に摺動自在に嵌合し合う軸状部と筒状部等を設けるなどしてもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、把手部材(12)とラッチ作動部材(14)との連動手段を、把手部材(12)に設けた上下の作動軸(19)と、ラッチ作動部材(14)に設けた斜め上下方向を向く作動長孔(33)とからなるものとし、それらを嵌合することにより、ラッチ作動部材(14)を上下に移動させるようにしているが、作動長孔(33)の代わりに、斜め上下方向を向くカム板を突設し、その下面の傾斜カム面を、ラッチ作動部材(14)の自重により作動軸(19)の上部外周面に常時摺接するようにしてもよい。
【0070】
このようにしても、作動軸(19)が左右方向に移動すると、その動きに連動してラッチ作動部材(14)が上下動するようになる。なお、この際は、作動軸(19)の動きに追従しうるように、ラッチ作動部材(14)の重量を若干大とするのがよい。
【0071】
ラッチ部材(15)の下端を係合させる係止手段は、ガイドレール(9)又は下部横枠(8)の側端部上面に形成された係止孔等としてもよい。
本発明は、上記のようなガラス引戸(2)以外の引戸にも適用しうることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明を適用したキャビネットの正面図である。
【図2】同じく、ガラス引戸のラッチ装置取付部の拡大正面図である。
【図3】図2のIII−III線拡大横断平面図である。
【図4】ラッチ装置の分解斜視図である。
【図5】ラッチ部材によるロック時の拡大概略正面図である。
【図6】同じく、ロック解除時の拡大概略正面図である。
【図7】同じく、ロック解除後のガラス引戸の開閉状態を示す拡大概略正面図である。
【符号の説明】
【0073】
(1)下部キャビネット
(2)ガラス引戸
(3)上部キャビネット
(4)ラッチ装置
(5)引戸本体
(6)(7)横桟
(7a)前面板
(7b)後面板
(8)下部横枠
(9)ガイドレール
(9a)切欠係止部
(10)戸車
(11)上部横枠
(12)把手部材
(13)ねじりコイルばね
(13a)(13b)足片
(14)ラッチ作動部材
(15)ラッチ部材
(16)操作突部
(17)係止片
(17a)係合爪
(18)係止片
(19)作動軸
(20)ばね受片
(21)操作枠
(22)(23)開口(係合孔)
(24)ガイド孔
(25)ストッパ突部
(26)基片
(26a)上片
(26b)垂下片
(27)摺動片
(28)弾性付勢片
(29)ガイド溝
(30)ガイド片
(31)(32)ストッパ段部
(33)作動長孔
(34)(35)連結片
(36)係合突部
(37)凹部
(38)ガイド溝
(39)ガイド突条
(40)支持軸
(41)補強リブ
(42)側枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビネット等の前面開口部に設けた左右方向に移動可能な前後の引戸を、開口部を閉止する位置に拘束するようにした引戸のラッチ装置において、
前記引戸の下部に、該引戸の前方において左右方向に操作可能な把手部材を、付勢手段により常時引戸の閉止方向に付勢するようにして設けるとともに、引戸の下部の内部空間に、ラッチ作動部材と、これに上下に相対移動自在に連係されたラッチ部材とを、上下方向に移動可能に収容し、前記把手部材とラッチ作動部材とを、把手部材を引戸の開き方向に操作したときラッチ作動部材が上昇し、同じく引戸の閉じ方向に操作したときラッチ作動部材が下降するようにした連動手段をもって連係し、かつラッチ作動部材が上昇させられたとき、これと連動して前記ラッチ部材が上昇することにより、その下端が前記開口部の下部上面に設けた係止部より離脱し、ラッチ作動部材が下降させられたとき、ラッチ部材が自重により下降することにより、その下端が前記係止部と係合して引戸を閉止位置に拘束しうるようにしたことを特徴とする引戸のラッチ装置。
【請求項2】
引戸の下部前面に方形の凹部を設け、この凹部内に、把手部材を、左右方向に移動可能に嵌合するとともに、把手部材の後面に突設した上下の係止片を、凹部の奥面に形成した左右方向を向く係合孔に摺動可能に係止してなる請求項1記載の引戸のラッチ装置。
【請求項3】
連動手段が、把手部材の後面に後向きに突設された作動軸と、ラッチ作動部材に設けられ、前記作動軸が摺動可能に嵌合された、引戸の閉止方向に向かって斜上向きに傾斜する長孔とからなるものとした請求項1または2記載の引戸のラッチ装置。
【請求項4】
ラッチ作動部材とラッチ部材との対向部のいずれか一方に、上下方向を向く前後1対のガイド溝を設け、他方に設けた前後方向に弾性変形しうる前後1対の連結片における対向面の係合突部を、前記両ガイド溝に上下に摺動可能に係止することにより、ラッチ作動部材とラッチ部材とを上下に相対移動自在に連係してなる請求項1〜3のいずれかに記載の引戸のラッチ装置。
【請求項5】
ラッチ作動部材側にガイド溝を設け、このガイド溝の下端に、ラッチ部材に設けた連結片の下端が当接するストッパ段部を設けることにより、ラッチ作動部材の上昇と連動してラッチ部材が上昇するようにした請求項4記載の引戸のラッチ装置。
【請求項6】
ラッチ作動部材の下降時にラッチ部材を、把手部材の付勢手段よりも微弱な付勢力で下方に付勢する補助付勢手段を設けてなる請求項1〜5のいずれかに記載の引戸のラッチ装置。
【請求項7】
補助付勢手段が、ラッチ作動部材に一体的に連設され、先端部の下面がラッチ部材の上面中央に当接する弾性付勢片としてなる請求項6記載の引戸のラッチ装置。
【請求項8】
ラッチ部材の前後両面と、それと対向する引戸の内面に、互いに上下方向に摺動可能に嵌合し合うガイド溝とガイド突条とを設けてなる請求項1〜7のいずれかに記載の引戸のラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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