強化用繊維材料と強化用繊維材料を用いた繊維強化セラミックス複合材料及びこれらの製造方法
【課題】炭素繊維束を多層の異なる炭素組織で充填し、炭素繊維束に界面を複数形成することにより高いすべり効果を炭素繊維束の内部に付与し、強化用繊維材料の破壊エネルギーを向上させる強化用繊維材料と強化用繊維材料を用いた繊維強化セラミックス複合材料及びこれらの製造方法を提供すること。
【解決手段】炭素を含む複数本の繊維束と、繊維束の表層の繊維間に形成され、層状構造の炭素からなる層状構造炭素組織と、層状構造炭素組織の内部を充填するように形成され、樹脂を含有する炭素からなる樹脂由来炭素組織と、層状構造炭素組織と樹脂由来炭素組織との間に存在する少なくとも一つの界面と、を備えることを特徴とする強化用繊維材料。
【解決手段】炭素を含む複数本の繊維束と、繊維束の表層の繊維間に形成され、層状構造の炭素からなる層状構造炭素組織と、層状構造炭素組織の内部を充填するように形成され、樹脂を含有する炭素からなる樹脂由来炭素組織と、層状構造炭素組織と樹脂由来炭素組織との間に存在する少なくとも一つの界面と、を備えることを特徴とする強化用繊維材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量かつ高強度であり、特にブレーキ部材用などの構造部材として好適である強化用繊維材料と強化用繊維材料を用いた繊維強化セラミックス複合材料及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素等のセラミックス材料は、金属材料に比べて軽量かつ高温耐食性、耐摩耗性に優れているが、破壊靭性が十分でない。そこで、これらの特性を向上させたものとして、例えば、短繊維と呼ばれる形態の繊維を用いた繊維強化セラミックス材料がある。
【0003】
炭素繊維強化SiCセラミックスでは、その繊維−マトリックス界面にすべり層を形成させることで、繊維の引き抜きを導いていることが多く、おもにSiC繊維強化SiCコンポジットにおいて、カーボン層やBN層をCVD法で形成する研究が進んでいる。
【0004】
一例として、特許文献1には、繊維プリフォームにSiC又はCコーティング層を直接形成することにより、SiC又はC繊維/SiCマトリックスの界面に層間剥離のないSiC又はC繊維/SiC複合材料を得ることを目的として、反応器に収容されたSiC又はC繊維プリフォームの反応ガス供給側と排気側とを同じ一定圧力に維持し、最大流量300cc/分でメタン、エタン、プロパン等の炭化水素ガスを供給しながら、圧力15kPa以下、最高反応温度1100℃の条件下で炭化水素ガスを熱分解し、熱分解生成物であるCをSiC又はC繊維の周りに析出させる、という技術が開示されている。
【0005】
また、一例として、特許文献2には、炭素繊維で構造材を強化する技術思想の例として、マトリックスが炭素繊維の繊維束の内部がピッチの炭化された炭素から主としてなり、繊維束と繊維束との間はガラス状炭素を含む炭素からなる炭素繊維/炭素複合材、という技術が開示されている。
【0006】
また、一例として、特許文献3には、高温、または腐食摩耗性環境で強度と靭性を必要とされる機械構造部品を対象とした繊維強化セラミックスの例として、成形体の空隙中にセラミックス前駆体を含浸させ、その含浸させたセラミックス前駆体をセラミックスとしたのち、全体を焼結することで、空隙率がほぼ0となり、緻密化の際のセラミック短繊維の損傷がほとんどなくなる、という技術が開示されている。
【0007】
また、一例として、特許文献4には、引張強度の高い炭素繊維強化SiC系複合材の例として、炭素繊維強化複合材の炭素繊維がピッチ系炭素繊維の短繊維であり、該ピッチ系炭素短繊維が該炭素繊維強化SiC系複合中において二次元ランダムに配向している、という技術について開示にされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−211985号公報
【特許文献2】特開平3−271163号公報
【特許文献3】特開昭63−288974号公報
【特許文献4】特開2007−039319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
例えば特許文献1では、炭素繊維でプリフォームを形成した後にCVD法によってすべり層を形成している。この方法は、あらかじめCVD法により繊維へすべり層を形成し、プリフォームを形成するよりも生産性の向上やコストの低減を見込めるが、コストが十分に低減されているとはいえない。また、プリフォームの表層近くと内部との成膜厚さに違いが出やすいなど、製造上の問題がある。さらに、炭素などのコーティングが不十分である場合、破壊エネルギーが向上しない。
【0010】
また、例えば、特許文献2では、炭素繊維成形体にマトリックス原料を複数回炭化処理する際、マトリックス原料を初回はピッチを用いて、2回目以降の少なくとも1回は熱硬化性樹脂を用いて炭素繊維/炭素複合材を形成している。この方法は、C/C複合材の強度の向上は見込めるが、C/SiC複合材のマトリックスはSiC、繊維はCという構成を作製する方法としてはマトリックス、繊維の周囲共に炭素分で充填されるため、不適格である。
【0011】
また、例えば、特許文献3では、繊維強化セラミックスを緻密化させるために、液状のセラミックス前駆体をセラミック単繊維とセラミック粉とを混合し、成形した成形体に含浸させている。この方法は、セラミック繊維へのダメージは少ないが、繊維束の周りにはすべり層となるコーティングが別途必要であり、繊維強化セラミックスの破壊エネルギー向上のためには必ずしも十分とはいえない。また、複数回の処理が不可欠であり、高価な設備及び原料コストがかかる。
【0012】
また、例えば、特許文献4では、引張強度を向上させるため、ピッチ系炭素繊維が二次元ランダムに配向したシートを積層して用いている。この方法では、ピッチの炭素繊維に対する含浸及び炭化プロセスを複数回行う必要があり、簡便に炭素繊維強化SiC系複合材を形成することができなかった。また、炭素繊維以外のマトリックス部分にも炭素が残存してしまうため、SiCマトリックスのもつ、耐酸化性、高い強度を十分に生かせる方法とはいえなかった。
【0013】
一方、これまで、セラミックスの破壊エネルギーを向上させ、脆性を克服するため、単体の繊維表面へのすべり層のコーティングが研究されていた。すべり層の形成にはCVD法などが用いられ、すべり層形成用の設備導入が必要であること、すべり層の形成に時間がかかることなどから、生産性、コストの面で問題があった。
【0014】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、すべり層形成用の設備を簡略化し、かつ、すべり層の形成を短時間で行う生産性の向上及びコストの低減を図った強化用繊維材料と強化用繊維材料を用いた繊維強化セラミックス複合材料及びこれらの製造方法を提供することである。
【0015】
また、本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、炭素繊維束を多層の異なる炭素組織で充填し、炭素繊維束に界面を形成することにより高いすべり効果を炭素繊維束の内部、及び外周部分に付与し、強化用繊維材料の破壊エネルギーを向上させる強化用繊維材料と強化用繊維材料を用いた繊維強化セラミックス複合材料及びこれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一実施形態に係る強化用繊維材料は、炭素を含む複数本の繊維束と、前記繊維束の表層の繊維間に形成され、層状構造の炭素からなる層状構造炭素組織と、前記層状構造炭素組織の内部を充填するように形成され、樹脂を含有する炭素からなる樹脂由来炭素組織と、前記層状構造炭素組織と前記樹脂由来炭素組織との間に存在する少なくとも一つの界面と、を備えることを特徴とする。
【0017】
前記繊維束は、さらにセラミックスを含んでもよい。
【0018】
前記層状構造炭素組織は、前記炭素繊維束の表層から前記界面までの距離が5μm以上200μm以下の範囲であってもよい。
【0019】
前記層状構造炭素組織は、異方性の構造を有する炭素であり、前記樹脂由来炭素組織は、等方性の構造を有する炭素であってもよい。
【0020】
前記層状構造炭素組織は、黒鉛質であってもよい。
【0021】
本発明の一実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料は、前記強化用繊維材料を、セラミックスのマトリックス中に配したことを特徴とする。
【0022】
本発明の一実施形態に係る強化用繊維材料の製造方法は、炭素を含む複数本の繊維束とフェノール樹脂とピッチ及びメソフェーズピッチとを溶媒を用いて混合し炭化処理して炭素繊維束を形成し、前記炭素繊維束を第1の混合液に含浸させて含浸処理し、さらに、前記炭素繊維束を第2の混合液に含浸させて含浸処理することを特徴とする。
【0023】
前記炭素繊維束を形成するための混合時には、溶媒分の揮発を促すことや、ピッチの溶融を目的に、加熱または減圧してもよい。
【0024】
前記第1の混合液及び前記第2の混合液を含浸する方法としては、加圧含浸又は減圧含浸を用いてもよい。
【0025】
前記第1の混合液及び前記第2の混合液は、同じ溶質及び溶解からなり、前記第1の混合液及び前記第2の混合液の濃度は、同一または異なってもよい。
【0026】
前記第1の混合液及び前記第2の混合液は、溶媒にフェノール樹脂、粉末状のピッチ及びメソフェーズピッチを混合してもよい。
【0027】
前記溶媒は、水または有機溶媒であってもよい。
【0028】
本発明の一実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料の製造方法は、前記強化用繊維材料を、前記強化用繊維材料中の炭素繊維の体積含有率が10%以上60%以下になるようにセラミックス材料中に混合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、すべり層形成用のCVD装置などの高価な設備を不要とし、かつ、すべり層の形成を短時間で大量に行う生産性の向上及びコストの低減を図った強化用繊維材料と強化用繊維材料を用いた繊維強化セラミックス複合材料及びこれらの製造方法を提供することができる。
【0030】
本発明によれば、炭素繊維束を2層の異なる炭素組織で充填し、炭素繊維束内部及び外周部に界面を形成することにより高いすべり効果を炭素繊維束の内部及び外周部に付与し、強化用繊維材料の破壊エネルギーを向上させる強化用繊維材料と強化用繊維材料を用いた繊維強化セラミックス複合材料及びこれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料の概念を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料における強化用繊維材料の製造方法の概念を示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料における強化用繊維材料の製造方法の概念を示す断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料における強化用繊維材料の製造方法の概念を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料における強化用繊維材料の製造方法の概念を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料における強化用繊維材料の2層構造の炭素繊維束を示す光学顕微鏡写真である。
【図7】本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料における炭素繊維束の断面を示す光学顕微鏡写真である。
【図8】図7のA部分を拡大して示す光学顕微鏡写真である。
【図9】図8のB部分を拡大して示す光学顕微鏡写真である。
【図10】本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料における強化用繊維材料の断面を示す光学顕微鏡写真である。
【図11】図10のC部分を拡大して示す光学顕微鏡写真である。
【図12】図11のD部分を拡大して示す光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料の概念を示す断面図である。
【0033】
[強化用繊維材料]
図1に示すように、本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料1は、セラミックスマトリックス2の内部に形成された強化用繊維材料4を備えている。この強化用繊維材料4は、炭素繊維束3と、炭素繊維束3の内部を層状構造炭素組織32と樹脂由来炭素組織33との異なる種類の炭素組織で構成することによって、少なくとも一つの界面34を有し、かつ、炭素繊維束3の炭素単繊維31が分散される構造を備えている。
【0034】
本実施形態に係るセラミックスマトリックス2は、炭化ケイ素(SiC)、炭素(C)及びシリコン(Si)で構成される。これらは、セラミックスマトリックス2として適用できる材料であれば、広く既存のものを用いてもよい。また、セラミックスマトリックス2を構成する炭化ケイ素、炭素及びシリコンの重量比は、設計される強化用繊維材料1の仕様に応じて、適宜設定してもよい。
【0035】
本実施形態で用いる繊維の材質は、炭素繊維又は炭化ケイ素繊維のいずれか1種以上の材料で構成される。いずれか一方のみでもよいし、この2つの材料を混合してもよい。しかしながら、製造が容易、強度などの諸特性が優れている点では、炭素を用いることが好適である。この場合、炭素の品質、純度は、通常のセラミックス材料に用いられるものでもよく、特に限定されない。
【0036】
なお、その他の繊維の材質としては、セラミックス繊維を生成できる有機物繊維、例えばセルロース繊維、アクリル繊維、ピッチ繊維なども適用できる。この場合、後述する樹脂由来炭素組織33を形成した後、加熱処理によってセラミックス繊維となれば、繊維強化複合材料として問題なく使えるからである。また、セラミックス製造時の高温に対して耐熱性のある種々の金属も使用できる。好適にはタングステン(W)などがある。
【0037】
本発明の実施形態において、炭素繊維束3とは短繊維が複数本集合し、かつ繊維同士によって空間が形成された状態であるものをいう。ただし、炭素繊維束3の形状は特に限定されるものではなく、例えばフェルト状、不織布状でも良いが、纖維が数本から数千本束ねられ、長さが2mm〜50mm、径が3μm〜500μmであり、全体として針状、棒状小片状、板状、塊状の形態を成している、いわゆる短繊維束が好ましい。また、断面状態が炭素繊維束3と同様である長繊維においても同様の効果が得られるため、好ましい。
【0038】
ここで、炭素繊維束3を構成する繊維の炭素の品質、純度は通常のセラミックス材料に用いられるものでよく、特に限定されない。また、設計する繊維強化用繊維材料1に応じて、繊維の長さと径は適宜選択できるが、径については0.5μm以上50μm以下が好ましい。0.5μm未満では、繊維間の空間が狭くなりすぎて、層状構造の炭素材料が形成されにくくなるため好ましくなく、50μmを超えると、繊維の高アスペクト比に由来する可逆変形性が失われるため好ましくない。
【0039】
本実施形態で用いる炭素材料は、ピッチ又はメソフェーズピッチの少なくともいずれか一つからなり、樹脂との重量比を適正化することで、炭素の層状または等方性の構造を決定できる。すなわち、加熱処理を行った場合に易黒鉛性を示す材料であるピッチ又はメソフェーズピッチと、難黒鉛性を示すフェノールなどの樹脂を混合することによる組織制御である。なお、炭素材料として用いるピッチとメソフェーズピッチは、それぞれ単体でもよいし、両方を混合してもよい。
【0040】
本実施形態に係る強化用繊維材料4は、炭素繊維束3の表面近傍および層状構造の炭素繊維束3内でも短繊維束を構成する短繊維周囲に形成された空間が、へき開性の高い組織及び、緻密な組織でかつ、層状、年輪状、縞状に充填される層状構造炭素組織32で充填されていることを特徴とする。
【0041】
本実施形態に係る強化用繊維材料4の層状構造炭素組織32は、異方性の結晶構造を持った、例えば黒鉛のようにある結晶軸がファンデルワールス力で弱く結合した層状のもの、および層状の結晶構造を持つ組織が重量分率で材料全体に対して50%以上含まれており、かつ、これらの組織が小薄片、膜、層に堆積して、マクロの形態として流れ形状を成しているものとする。
【0042】
層状構造炭素組織32において、層間は堆積方向に対して相対的に弱い結合力または非結合の構造をもち、亀裂が進展してくると容易に堆積方向と垂直な平面方向に多数の亀裂の進展を促しエネルギーを消費させるという、いわゆるすべり機能を有する。本発明の実施形態においては、層状構造炭素組織32とマトリックスの界面及び層状構造部分の内部と樹脂由来炭素組織33との界面34で無数のすべり機能をもたせることにより、層状構造炭素組織32が効率よくエネルギーを消費することを可能とする。
【0043】
層状構造炭素組織32は、すべり面を有しておりエネルギーの消費効果が高い反面、層間の結合力は弱いので層状構造の材料自身は剥離しやすくもろい。よって、層状構造炭素組織32の材料の内部に相対的に機械的強度が優れた構造材料、ここでは等方性材料で耐衝撃性を保持することで、双方の長所を併せ持つ炭素単繊維束とすることが可能となる。
【0044】
層状構造炭素繊維32の膜厚tは5μm以上500μm以下であることが好ましい。層状構造炭素繊維32の膜厚tが5μm未満の場合、被膜のもつすべり機能が十分に得られず、層状構造炭素繊維32の膜厚tが500μmを超える場合、被膜の熱処理により被膜に生じる亀裂に起因して繊維束自体の分裂が生じやすく、断面の構成が変化してしまう。これが繊維強化複合材料全体の強度に影響を及ぼすことが懸念され好ましくないからである。
【0045】
本実施形態に係る強化用繊維材料4の樹脂由来炭素組織33は、大部分を等方性の組織構造を持った炭素で構成され、樹脂由来炭素組織33の表面の大部分が層状構造炭素組織32で覆われている。なお、結晶レベルでは黒鉛構造であるが、結晶のサイズが微視的で、方位がランダムなため、マクロには等方的である。結晶構造は光学偏光顕微鏡などにより確認可能である。
【0046】
樹脂由来炭素組織33の樹脂は、等方性の組織構造の材料となる炭素の供給源として、また加熱分解にて炭素を生成させる目的で用いられる。樹脂の種類は、熱硬化性または熱可塑性であることが好ましく、例えば、フェノール、シリコーン、フッ素、エポキシ、フラン、PVA、フルフリル、メラミン、尿素ポリエステル及びポリイミドのうちから1ないし複数の混合体として選択でき、より好適には、フェノールレジンが用いられる。
【0047】
フェノールレジンは、固体と液体の両方の状態で存在して、水または有機溶剤中に溶解していることがより好ましい。フェノールレジンは、等方性の炭素材料を形成する供給源となるので、固体のフェノールレジンを使用する場合、完全に融解した状態ではなく、固体のフェノールレジンが残存した状態がより高い炭化収率を得ることができるので好ましい。しかしながら、固形分が多すぎると、繊維間、炭素繊維束3間の狭い空間への浸透の妨げになるので、設計する繊維強化セラミックス複合材料1に応じて適時変更してよい。好適には、固形分は5%以下の範囲で用いられるが、5%を上回る場合、固形分が溶液中に多くなり、繊維束内部への樹脂の浸透性が低下するので好ましくない。
【0048】
溶媒には、水または有機溶媒が用いられるが、樹脂を溶解できればこれらに限定されるものではなく、さらにはこれら複数の液体を混合して用いても良い。好適には、有機溶媒エタノール、2−ブタノール、アセトンを用いることができ、より好適には、エタノールが用いられる。
【0049】
本発明の実施形態に係る炭素単繊維31は黒鉛質の炭素であることが好ましい。充填性、繊維表面近傍の内部への選択的な浸透性、製法の容易さを考慮すると、黒鉛質の炭素がより好適に用いられる。
【0050】
上述したように、本実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料1は、強化用繊維材料4として、炭素単繊維31を分散させた炭素繊維束3に、樹脂由来炭素組織33と層状構造炭素繊維32との界面34を有するすべり層を含有し、結果として高いすべり機能をもち、層状構造の脆弱性を補う組織構造の異なる材料、例えば等方性構造材料と異方性構造材料との組み合わせの層を有することで、これらの構成をもたない従来技術と比べて、より効果的に破壊エネルギーを向上させることが可能となる。ここで、破壊エネルギーとは、破壊するまでに物体に加えることができるエネルギーのことで、セラミックスのような脆弱材料はその値は低く、金属のような塑性を示す材料は高い。
【0051】
また、本実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料1は、マトリックス2の内部に層状構造炭素組織32と樹脂由来炭素組織33との界面34を有する強化用繊維材料4を用いることによって、層状構造炭素組織32の高いへき開性及び層状構造炭素組織32と樹脂由来炭素組織33との界面34による、高いすべり効果により、高い破壊エネルギーを実現することができる。
【0052】
[強化用繊維材料の製造方法]
次に、本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料1における強化用繊維材料の製造方法について図2〜図12を参照して説明する。図2〜図12に示すように、本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料1における強化用繊維材料の製造方法は、炭素繊維束3の表面近傍に層状構造の炭素を浸透、配置し、さらに、層状構造の炭素の内部に樹脂由来の炭素で充填することによって、強化用繊維材料4の内部に2層の異なる炭素組織の界面34を形成する。強化用繊維材料4の内部に界面34を形成することによって、微細な繊維一本一本の表面へのコーティングや、強化用繊維材料4の表面への多層のコーティングを必要とせずに、破壊エネルギーを向上させることができる。
【0053】
本実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料1における強化用繊維材料の製造方法は、まず、図2に示すように、炭素単繊維31を分散させた炭素繊維束3を形成する。炭素繊維束3は、樹脂とピッチ及びメソフェーズピッチの粉末と溶媒と炭素を含む複数の繊維束(長さ6mm繊維束軸方向の断面直径1mm)とを混合して形成した。ここで、炭素繊維束3を形成するための混合時に、溶媒分の揮発を促すことや、ピッチの溶融を目的に、加熱処理または減圧処理を行ってもよい。
【0054】
ここで、内部が表面近傍から中心にかけて異なる炭素組織で構成されている炭素繊維束3の材質、構成繊維本数、構成繊維の平均直径、長さは特に問わない。しかし、長さ2mm未満の短繊維では、浸漬、混合工程において炭素繊維束3が崩壊してしまうため、2mm以上の炭素繊維束3が好ましい。また、50mm以上の長繊維束ではサイズが大きく、炭素繊維束3をランダムに配置することを特徴とする部材の場合、成形時の充填性が低くなるため、成形性が不良となり好ましくない。繊維を連続的に配置する部材の場合、特に上限はない。
【0055】
次に、図3に示すように、混合した炭素繊維束3を乾燥させ、炭化処理し、層状構造炭素組織32を含む炭素繊維束3を形成する。形成した炭素繊維束3は、炭化処理した際に発生するクラック42を有している。
【0056】
図3に示すように、本実施形態において、層状構造炭素組織32は、炭素繊維束3の表層から内部にかけて浸透深さtが5μm以上より好ましくは20μm以上炭素繊維束3の内部に浸透するように形成され、かつ、その浸透深さtが炭素繊維束軸方向の断面直径の20%以下であることが望ましい。
【0057】
浸透深さtが5μm未満である場合、繊維により層状構造炭素組織32が分断されやすく、炭素組織として機能しない。一方、浸透深さtが10μm以上である場合、炭素繊維束3の表面に溶融Siが接触した場合に、表面から10μm以上の距離の内部の炭素繊維を保護することができる。そのため、20μm以上の浸透深さがあることが、黒鉛質のすべり効果を得る目的においては好ましい。また、浸透深さtが炭素繊雑束の繊維束軸方向の断面直径が20%を超えて充填される場合、炭素繊維束3表面への層状構造炭素組織32の被膜及び、塊状の余分な炭素付着物が生じてしまう。
【0058】
ここで、このような工程を経て作製された炭素繊維束3を図7〜図9に示す。図7は、本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料における炭素繊維束の断面を示す光学顕微鏡写真であり、図8は、図7のA部分を拡大して示す光学顕微鏡写真であり、図9は、図8のB部分を拡大して示す光学顕微鏡写真である。図7〜図9に示す炭素繊維束3は、断面方向から光学顕微鏡にて観察したものである。ここでは、炭素繊維束3において、炭化処理した際に発生するクラック42を有し、炭素繊維束3の表層近傍に層状構造炭素組織32の炭素分が形成されていることがわかる。
【0059】
次に、図4に示すように、第1の混合液5として樹脂を希釈した溶液を作製する。そして、この第1の濃度の混合液5(以下、第1の混合液という。)に炭素繊維束3を浸漬し、加圧含浸又は減圧含浸した。その後、第1の混合液5中から炭素繊維束3を取り出し、加熱処理し、樹脂を硬化させた後、炭化処理することで内部を充填し、層状構造炭素組織32の内部に樹脂由来炭素組織33を形成する。形成された樹脂由来炭素組織33は、加熱処理した際に発生した層状構造炭素組織32のクラック42を通って、第1の混合液5が内部に含浸することで充填されたものである。
【0060】
次に、図5に示すように、第1の混合液5よりも好ましくは濃度を低減させた樹脂の溶液または樹脂を溶媒で希釈した第2の濃度の混合液6(以下、第2の混合液という。)を作製する。そして、この第2の混合液6に炭素繊維束3を浸漬し、加圧含浸又は減圧含浸した。その後、第2の混合液6中から炭素繊維束3を取り出し、加熱処理することにより、層状構造炭素組織32のクラック42から第2の混合液6を含浸させて、樹脂由来の炭素組織を充填する。ここで、第2の混合液6は、第1の混合液5で用いた樹脂の溶液または樹脂を溶媒で希釈した溶液を用い、好ましくは濃度を低下させたものである。従って第1の混合液5と第2の混合液6とは同じ溶質及び溶解からなる。本実施形態においては、溶液の濃度を低減させることによって、炭素単繊維31同士が固着すること、すなわち、炭素単繊維31が固まり、炭素単繊維31の分散能力の劣化を防止している。第1の混合液5の濃度が十分薄い場合は、第2の混合液6の濃度を上昇しても炭素単繊維31同士の固着が生じにくい。また、必要に応じて第3、第4の混合液を作製して同様の処理を通して内部を緻密化してもよい。しかし工程の増加はコストの増加につながるため、上述した本実施形態がより好ましい。なお、上述では第1の混合液5より第2の混合液6の溶液の濃度を低減させる例について説明したが、第1の混合液5の溶液濃度と第2の混合液6の溶液濃度との関係はこれに限定されるものではなく、第1の混合液5及び第2の混合液6の溶液の濃度は同じ、もしくは第1の混合液5を第2の混合液6より上昇させてもよい。
【0061】
以上のように、炭素繊維束3を炭化する際に発生する層状構造炭素組織32のクラック42に濃度を順次低減させた混合液を複数回加圧含浸又は減圧含浸することで、層状構造炭素組織32の内部に樹脂由来炭素組織33を形成し、層状構造炭素組織32内に有する空隙を減少する。
【0062】
次に、図6に示すように、炭素繊維束3の内部の樹脂は熱処理工程で炭化される。こうして炭素繊維束3の内部が表面近傍から中心にかけて異なる炭素組織で構成されることを特徴とする強化用繊維材料4が作製でき、炭素繊維束3の内部形成された異なる組織の界面34による高いすべり効果により高い破壊エネルギーを示す。
【0063】
このような工程を経て作製された強化用繊維材料4を図10〜図12に示す。図10は、本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料における強化用繊維材料の断面を示す光学顕微鏡写真であり、図11は、図10のC部分を拡大した光学顕微鏡写真であり、図12は、図11のD部分を拡大した光学顕微鏡写真である。図10〜図12に示す繊維強化複合材料4は、炭素繊維束3の断面方向から光学顕微鏡にて観察したものである。ここでは、炭素単繊維31間の層状構造炭素組織32の材料が小板状の黒鉛質の炭素で充填された状態となっていることがわかる。
【0064】
次に以下において、本発明の実施形態に係る強化用繊維材料4の製造工程における留意点について記載する。
【0065】
繊維と浸漬、混合させる液体(以下、含浸用材料という。)は、フェノール樹脂等の加熱分解で炭素を生成する有機材料を溶解させて調整したものに粉末状のピッチ及びメソフェーズピッチを混合したものである。
【0066】
溶媒としてはエタノールや水溶性のものであれば水を選択するのが作業性と環境・安全衛生の観点から的に好ましいが、これに限られるものではなく、加熱分解で炭素を生成する有機材料を溶解できれば問題なく使用できる。
【0067】
混合物と混合した繊維は樹脂の乾燥・硬化のため40℃〜200℃で熱処理し、さらに樹脂と、ピッチ及びメソフェーズピッチの溶融・炭化を目的に成形以前に500℃〜3000℃の炭素が生成する温度域で熱処理してもかまわない。
【0068】
浸漬用材料を作製するにあたり、炭素材の重量分率が溶媒以外の固形分のなかで80%以上になるように樹脂溶液を混合して浸漬用材料を作製する。ここで、浸漬用材料とは、繊維間および繊維集合体の表面に層状構造材料を形成するための役割をするもので、液体状で層状構造を形成するのに適切な炭素材料を含有しているものである。
【0069】
炭素材料の重量分率は、重量分率が50%を下回ると、浸漬用材料による層状構造形成がされにくい。また、炭素材が30%以下、とくに10%以下では炭素は等方的な構造を示す。なお、樹脂が0の場合、すなわち炭素材のみでも、層状構造を形成させることは可能であるが、粉状である炭素材を液体状の樹脂に溶かした状態のほうが、繊維束への付着性が増し、より繊維間に浸透しやすいので好ましい。
【0070】
炭素繊維束3中の炭素繊維と浸漬用材料は、重量比で1:0.1〜1:0.4の範囲で混合することが好ましい。この範囲を外れると、破壊エネルギー向上の効果が顕著には得られなくなり好ましくない。
【0071】
次に、炭素繊維束3と浸漬用材料を均一になるよう混合する工程を実施するが、混合方法と混合時間については、既存の製造方法を適切に適用する範囲で任意に決めてよい。なお混合時に溶媒の揮発を目的に、乾燥工程、加熱工程、またはその両方を含めてもよい。
【0072】
混合後は、すぐに乾燥を実施してもよく、適切な時間放置してから乾燥してもよい。放置する時間は、例えば1時間以上、あるいは溶媒が完全に気化してなくなるまで実施してよい。また、溶媒が完全に気化してなくなった以降も放置することは、工程上作業ロスとなるので、これも好ましくない。なお、溶媒が完全に気化してなくなるまでというのは、厳密な判断を必要とせず、作業者の目視による浸漬用材料の乾燥状態で判断してもよい。
【0073】
また炭素繊維束3と浸漬用材料の混合は、一回だけ浸漬用材料と混合してもよいし、一度浸漬用材料に混合した炭素繊維束3を取り出して、再度浸漬用材料と混合する作業を繰り返してもよい。その際の工程移行の間は、そのまま放置してもよく、その放置時間も特に限定されない。
【0074】
乾燥は、大気中に40℃〜200℃の範囲で数時間保持することでなされるが、不活性雰囲気で実施してもよい。また、加熱処理については、保持温度は500℃〜3000℃、好適には600℃〜1000℃の範囲にて、保持時間は5分〜3時間、好適には1時間〜2時間の範囲で、不活性雰囲気下でなされることが好ましい。この加熱処理で樹脂とピッチまたはメソフェーズピッチが炭化され、黒鉛質の層状炭素が生成して、繊維間の空間に充填される。また、炭化のための加熱処理は、マトリックスとなるセラミック材料と成形した後行ってもよい。
【0075】
加熱処理の温度は、500℃未満では炭化が不十分であり好ましくない。また、3000℃を超える温度ではほぼ炭素の黒鉛化が収東するため、加熱処理としての作用が少なく、これも好ましくない。また、加熱処理の保持時間は、5分未満では温度の安定化が不十分のため好ましくないし、3時間を越えて保持しても、こちらもほぼ炭素の黒鉛化が収東するため好ましくない。
【0076】
また、Siを高温で含浸すると炭素繊維はSiCへと反応し、マトリックス2と一体化して破壊エネルギーを低下させるが、炭素繊維束3の表面近傍を10μm以上の層状構造の炭素組織で構成するとSiの融液を内部へ通しにくく、大部分の炭素繊維表面と接触しないため、炭素繊維をSiC化させないですむ。
【0077】
本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料1の一態様にかかる製造方法においては、本発明の実施形態に係る繊維強化複合材料4は、マトリックス2に炭素繊維の体積含有率が10%以上50%以下になるように混合し、その後成型、乾燥、焼成することを特徴とする。
【0078】
このときのマトリックス2中の炭素繊維の含有率は、10%未満では繊維集合体での亀裂進展が起こる確率が低くなってしまい、また50%を超えるとセラミックスのマトリックスがもつ耐熱性、耐酸化性、強度などの優れた特性を損なう恐れがあり、いずれも好ましくない。より好ましくは、セラミックス複合材中の繊維の体積含有率が20%以上40%以下である。
【0079】
本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料1における強化用繊維材料の製造方法においては、CVD法やスパッタリング法のような、繊維1本単位の成膜を目指し、すべり面の少ない、製造コストも高くつく方法に比べて、液体材料の浸漬と混合による繊維集合体全体に層状構造の材料を含有するように材料の比率の最適化などを行うことによって、繊維表面と繊維間及び炭素繊維束表面にすべり効果を付与し、破壊エネルキーの高い繊維強化セラミックス複合材料1を、比較的簡単な装置で容易にかつ効率よく提供することが可能となる。
【0080】
また、既存の強化用繊維材料に対しても、本発明の実施形態に係る炭素繊維束3を適用することで、マトリックス材の種類にかかわらず、本発明の実施形態を適用しなかった場合に比べて、簡易に破壊エネルギーを向上させることが可能となる。
【実施例】
【0081】
以下、図2〜図6を参照して、本発明の好ましい実施形態を実施例に基づき説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【0082】
以下に示す条件で繊維強化セラミックス複合材料1に用いる強化用繊維材料4を作製し、破壊エネルギーを測定した。得られた強化用繊維材料4からなる3×3×40(mm)の試験片を切り出し、これを評価サンプルとして、日本セラミックス協会規格JCRS−201「シェブロンノッチ試験片の準静的3点曲げ破壊によるセラミック系複合材料の破壊エネルギー試験方法」に準拠した破壊エネルギーの測定を行った。
【0083】
まず、図2に示すように、炭素繊維束31を分散させた炭素繊維束3を形成した。次に、フェノール樹脂とピッチ及びメソフェーズピッチの粉末を混合し、炭素繊維束3(長さ6mm繊維束軸方向の断面直径1mm)と混合した。
【0084】
次に、図3に示すように、混合した炭素繊維束3を80℃で乾燥させ、Ar雰囲気中で1000℃まで昇温し、2時間保持し炭化処理した。炭化処理した炭素繊維束3は、炭化処理した際に発生するクラック42を有している。ここで、このような工程で作製した炭素繊維束3を図7〜図10に示す。図7〜図10に示すように、炭素繊維束3において、炭化処理した際に発生するクラック42を有し、炭素繊維束3の表層近傍に層状構造炭素組織32の炭素分が形成されている。
【0085】
次に、図4に示すように、第1の混合液5としてフェノール樹脂をエタノールで希釈した溶液に炭素繊維束3を浸漬し、圧力10kPaで減圧含浸した。その後、溶液中より炭素繊維束3を分離し、190℃で加熱処理し樹脂を硬化させた後、Ar雰囲気中で1000℃まで昇温し炭化することでクラック42を介して層状構造炭素組織32を形成した。
【0086】
上記処理を行った炭素繊維束3をSiCと混合後、加圧成形した後、Ar雰囲気2000℃で焼成した。
【0087】
次に、図5に示すように、上記処理を行った炭素繊維束3に第2の混合液6として、フェノール樹脂をエタノールで希釈した溶液に炭素繊維束3を浸漬し、圧力10kPaで減圧含浸した。その後、溶液中より炭素繊維束3を分離し、190℃で加熱処理し樹脂を硬化させた後、真空雰囲気1500℃でSiを含浸させて内部を充填して、強化用繊維材料4を作製した。ここで、このような工程で作製した繊維強化複合材料4を図10〜図12に示す。図10〜図12に示すように、強化用繊維材料4は、炭素単繊維31間の層状構造炭素組織32の材料が小板状の黒鉛質の炭素で充填された状態となっている。この強化用繊維材料4から3×3×40(mm)の試験片を作製し、破壊エネルギーを計測した。
【0088】
強化用繊維材料4の評価は、炭素繊維束3の層状構造炭素組織32の平面浸透深さ(μm)を0〜500(μm)に各々変更して行なった。評価はまず、10%以下のものを○印とし、10%以上30%未満のものを△、30%以上を×として30g程度の量をサンプリングし目視観察による選別後、重量比により測定し、破壊エネルギー(J)が、800以上かつ、炭素繊維束の分裂が○印のものを判定○印とし、範囲外のものを判定×印とした。その結果を下記の表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
[比較例1]
コバレントマテリアル(株)製のSiCセラミックスを3×3×40(mm)の試験片に加工し、破壊エネルギーを計測したところ、20J/m2であった。
【0091】
[比較例2]
東レ(株)製の炭素繊維6mmとSiCと混合後、加圧成形した後、Ar雰囲気2000℃で焼成した。得られた複合セラミックスから3×3×40(mm)の試験片を作製し、破壊エネルギーを計測したところ、40J/m2であった。
【0092】
以上、説明したとおり、本発明の実施例では、強化用繊維材料4における炭素繊維束3の内部のみを異なる組織で充填して、界面を形成することにより高いすべり効果を繊維束内部に付与し、繊維強化セラミックス複合材料の破壊エネルギーを向上させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、自動車や鉄道車両などのブレーキディスク用セラミックス部材として特に好適であるが、軽量で高強度である利点を活かし、例えば、高速回転部の流体用メカニカルシール部材などにも適用が可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量かつ高強度であり、特にブレーキ部材用などの構造部材として好適である強化用繊維材料と強化用繊維材料を用いた繊維強化セラミックス複合材料及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素等のセラミックス材料は、金属材料に比べて軽量かつ高温耐食性、耐摩耗性に優れているが、破壊靭性が十分でない。そこで、これらの特性を向上させたものとして、例えば、短繊維と呼ばれる形態の繊維を用いた繊維強化セラミックス材料がある。
【0003】
炭素繊維強化SiCセラミックスでは、その繊維−マトリックス界面にすべり層を形成させることで、繊維の引き抜きを導いていることが多く、おもにSiC繊維強化SiCコンポジットにおいて、カーボン層やBN層をCVD法で形成する研究が進んでいる。
【0004】
一例として、特許文献1には、繊維プリフォームにSiC又はCコーティング層を直接形成することにより、SiC又はC繊維/SiCマトリックスの界面に層間剥離のないSiC又はC繊維/SiC複合材料を得ることを目的として、反応器に収容されたSiC又はC繊維プリフォームの反応ガス供給側と排気側とを同じ一定圧力に維持し、最大流量300cc/分でメタン、エタン、プロパン等の炭化水素ガスを供給しながら、圧力15kPa以下、最高反応温度1100℃の条件下で炭化水素ガスを熱分解し、熱分解生成物であるCをSiC又はC繊維の周りに析出させる、という技術が開示されている。
【0005】
また、一例として、特許文献2には、炭素繊維で構造材を強化する技術思想の例として、マトリックスが炭素繊維の繊維束の内部がピッチの炭化された炭素から主としてなり、繊維束と繊維束との間はガラス状炭素を含む炭素からなる炭素繊維/炭素複合材、という技術が開示されている。
【0006】
また、一例として、特許文献3には、高温、または腐食摩耗性環境で強度と靭性を必要とされる機械構造部品を対象とした繊維強化セラミックスの例として、成形体の空隙中にセラミックス前駆体を含浸させ、その含浸させたセラミックス前駆体をセラミックスとしたのち、全体を焼結することで、空隙率がほぼ0となり、緻密化の際のセラミック短繊維の損傷がほとんどなくなる、という技術が開示されている。
【0007】
また、一例として、特許文献4には、引張強度の高い炭素繊維強化SiC系複合材の例として、炭素繊維強化複合材の炭素繊維がピッチ系炭素繊維の短繊維であり、該ピッチ系炭素短繊維が該炭素繊維強化SiC系複合中において二次元ランダムに配向している、という技術について開示にされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−211985号公報
【特許文献2】特開平3−271163号公報
【特許文献3】特開昭63−288974号公報
【特許文献4】特開2007−039319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
例えば特許文献1では、炭素繊維でプリフォームを形成した後にCVD法によってすべり層を形成している。この方法は、あらかじめCVD法により繊維へすべり層を形成し、プリフォームを形成するよりも生産性の向上やコストの低減を見込めるが、コストが十分に低減されているとはいえない。また、プリフォームの表層近くと内部との成膜厚さに違いが出やすいなど、製造上の問題がある。さらに、炭素などのコーティングが不十分である場合、破壊エネルギーが向上しない。
【0010】
また、例えば、特許文献2では、炭素繊維成形体にマトリックス原料を複数回炭化処理する際、マトリックス原料を初回はピッチを用いて、2回目以降の少なくとも1回は熱硬化性樹脂を用いて炭素繊維/炭素複合材を形成している。この方法は、C/C複合材の強度の向上は見込めるが、C/SiC複合材のマトリックスはSiC、繊維はCという構成を作製する方法としてはマトリックス、繊維の周囲共に炭素分で充填されるため、不適格である。
【0011】
また、例えば、特許文献3では、繊維強化セラミックスを緻密化させるために、液状のセラミックス前駆体をセラミック単繊維とセラミック粉とを混合し、成形した成形体に含浸させている。この方法は、セラミック繊維へのダメージは少ないが、繊維束の周りにはすべり層となるコーティングが別途必要であり、繊維強化セラミックスの破壊エネルギー向上のためには必ずしも十分とはいえない。また、複数回の処理が不可欠であり、高価な設備及び原料コストがかかる。
【0012】
また、例えば、特許文献4では、引張強度を向上させるため、ピッチ系炭素繊維が二次元ランダムに配向したシートを積層して用いている。この方法では、ピッチの炭素繊維に対する含浸及び炭化プロセスを複数回行う必要があり、簡便に炭素繊維強化SiC系複合材を形成することができなかった。また、炭素繊維以外のマトリックス部分にも炭素が残存してしまうため、SiCマトリックスのもつ、耐酸化性、高い強度を十分に生かせる方法とはいえなかった。
【0013】
一方、これまで、セラミックスの破壊エネルギーを向上させ、脆性を克服するため、単体の繊維表面へのすべり層のコーティングが研究されていた。すべり層の形成にはCVD法などが用いられ、すべり層形成用の設備導入が必要であること、すべり層の形成に時間がかかることなどから、生産性、コストの面で問題があった。
【0014】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、すべり層形成用の設備を簡略化し、かつ、すべり層の形成を短時間で行う生産性の向上及びコストの低減を図った強化用繊維材料と強化用繊維材料を用いた繊維強化セラミックス複合材料及びこれらの製造方法を提供することである。
【0015】
また、本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、炭素繊維束を多層の異なる炭素組織で充填し、炭素繊維束に界面を形成することにより高いすべり効果を炭素繊維束の内部、及び外周部分に付与し、強化用繊維材料の破壊エネルギーを向上させる強化用繊維材料と強化用繊維材料を用いた繊維強化セラミックス複合材料及びこれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一実施形態に係る強化用繊維材料は、炭素を含む複数本の繊維束と、前記繊維束の表層の繊維間に形成され、層状構造の炭素からなる層状構造炭素組織と、前記層状構造炭素組織の内部を充填するように形成され、樹脂を含有する炭素からなる樹脂由来炭素組織と、前記層状構造炭素組織と前記樹脂由来炭素組織との間に存在する少なくとも一つの界面と、を備えることを特徴とする。
【0017】
前記繊維束は、さらにセラミックスを含んでもよい。
【0018】
前記層状構造炭素組織は、前記炭素繊維束の表層から前記界面までの距離が5μm以上200μm以下の範囲であってもよい。
【0019】
前記層状構造炭素組織は、異方性の構造を有する炭素であり、前記樹脂由来炭素組織は、等方性の構造を有する炭素であってもよい。
【0020】
前記層状構造炭素組織は、黒鉛質であってもよい。
【0021】
本発明の一実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料は、前記強化用繊維材料を、セラミックスのマトリックス中に配したことを特徴とする。
【0022】
本発明の一実施形態に係る強化用繊維材料の製造方法は、炭素を含む複数本の繊維束とフェノール樹脂とピッチ及びメソフェーズピッチとを溶媒を用いて混合し炭化処理して炭素繊維束を形成し、前記炭素繊維束を第1の混合液に含浸させて含浸処理し、さらに、前記炭素繊維束を第2の混合液に含浸させて含浸処理することを特徴とする。
【0023】
前記炭素繊維束を形成するための混合時には、溶媒分の揮発を促すことや、ピッチの溶融を目的に、加熱または減圧してもよい。
【0024】
前記第1の混合液及び前記第2の混合液を含浸する方法としては、加圧含浸又は減圧含浸を用いてもよい。
【0025】
前記第1の混合液及び前記第2の混合液は、同じ溶質及び溶解からなり、前記第1の混合液及び前記第2の混合液の濃度は、同一または異なってもよい。
【0026】
前記第1の混合液及び前記第2の混合液は、溶媒にフェノール樹脂、粉末状のピッチ及びメソフェーズピッチを混合してもよい。
【0027】
前記溶媒は、水または有機溶媒であってもよい。
【0028】
本発明の一実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料の製造方法は、前記強化用繊維材料を、前記強化用繊維材料中の炭素繊維の体積含有率が10%以上60%以下になるようにセラミックス材料中に混合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、すべり層形成用のCVD装置などの高価な設備を不要とし、かつ、すべり層の形成を短時間で大量に行う生産性の向上及びコストの低減を図った強化用繊維材料と強化用繊維材料を用いた繊維強化セラミックス複合材料及びこれらの製造方法を提供することができる。
【0030】
本発明によれば、炭素繊維束を2層の異なる炭素組織で充填し、炭素繊維束内部及び外周部に界面を形成することにより高いすべり効果を炭素繊維束の内部及び外周部に付与し、強化用繊維材料の破壊エネルギーを向上させる強化用繊維材料と強化用繊維材料を用いた繊維強化セラミックス複合材料及びこれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料の概念を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料における強化用繊維材料の製造方法の概念を示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料における強化用繊維材料の製造方法の概念を示す断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料における強化用繊維材料の製造方法の概念を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料における強化用繊維材料の製造方法の概念を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料における強化用繊維材料の2層構造の炭素繊維束を示す光学顕微鏡写真である。
【図7】本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料における炭素繊維束の断面を示す光学顕微鏡写真である。
【図8】図7のA部分を拡大して示す光学顕微鏡写真である。
【図9】図8のB部分を拡大して示す光学顕微鏡写真である。
【図10】本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料における強化用繊維材料の断面を示す光学顕微鏡写真である。
【図11】図10のC部分を拡大して示す光学顕微鏡写真である。
【図12】図11のD部分を拡大して示す光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料の概念を示す断面図である。
【0033】
[強化用繊維材料]
図1に示すように、本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料1は、セラミックスマトリックス2の内部に形成された強化用繊維材料4を備えている。この強化用繊維材料4は、炭素繊維束3と、炭素繊維束3の内部を層状構造炭素組織32と樹脂由来炭素組織33との異なる種類の炭素組織で構成することによって、少なくとも一つの界面34を有し、かつ、炭素繊維束3の炭素単繊維31が分散される構造を備えている。
【0034】
本実施形態に係るセラミックスマトリックス2は、炭化ケイ素(SiC)、炭素(C)及びシリコン(Si)で構成される。これらは、セラミックスマトリックス2として適用できる材料であれば、広く既存のものを用いてもよい。また、セラミックスマトリックス2を構成する炭化ケイ素、炭素及びシリコンの重量比は、設計される強化用繊維材料1の仕様に応じて、適宜設定してもよい。
【0035】
本実施形態で用いる繊維の材質は、炭素繊維又は炭化ケイ素繊維のいずれか1種以上の材料で構成される。いずれか一方のみでもよいし、この2つの材料を混合してもよい。しかしながら、製造が容易、強度などの諸特性が優れている点では、炭素を用いることが好適である。この場合、炭素の品質、純度は、通常のセラミックス材料に用いられるものでもよく、特に限定されない。
【0036】
なお、その他の繊維の材質としては、セラミックス繊維を生成できる有機物繊維、例えばセルロース繊維、アクリル繊維、ピッチ繊維なども適用できる。この場合、後述する樹脂由来炭素組織33を形成した後、加熱処理によってセラミックス繊維となれば、繊維強化複合材料として問題なく使えるからである。また、セラミックス製造時の高温に対して耐熱性のある種々の金属も使用できる。好適にはタングステン(W)などがある。
【0037】
本発明の実施形態において、炭素繊維束3とは短繊維が複数本集合し、かつ繊維同士によって空間が形成された状態であるものをいう。ただし、炭素繊維束3の形状は特に限定されるものではなく、例えばフェルト状、不織布状でも良いが、纖維が数本から数千本束ねられ、長さが2mm〜50mm、径が3μm〜500μmであり、全体として針状、棒状小片状、板状、塊状の形態を成している、いわゆる短繊維束が好ましい。また、断面状態が炭素繊維束3と同様である長繊維においても同様の効果が得られるため、好ましい。
【0038】
ここで、炭素繊維束3を構成する繊維の炭素の品質、純度は通常のセラミックス材料に用いられるものでよく、特に限定されない。また、設計する繊維強化用繊維材料1に応じて、繊維の長さと径は適宜選択できるが、径については0.5μm以上50μm以下が好ましい。0.5μm未満では、繊維間の空間が狭くなりすぎて、層状構造の炭素材料が形成されにくくなるため好ましくなく、50μmを超えると、繊維の高アスペクト比に由来する可逆変形性が失われるため好ましくない。
【0039】
本実施形態で用いる炭素材料は、ピッチ又はメソフェーズピッチの少なくともいずれか一つからなり、樹脂との重量比を適正化することで、炭素の層状または等方性の構造を決定できる。すなわち、加熱処理を行った場合に易黒鉛性を示す材料であるピッチ又はメソフェーズピッチと、難黒鉛性を示すフェノールなどの樹脂を混合することによる組織制御である。なお、炭素材料として用いるピッチとメソフェーズピッチは、それぞれ単体でもよいし、両方を混合してもよい。
【0040】
本実施形態に係る強化用繊維材料4は、炭素繊維束3の表面近傍および層状構造の炭素繊維束3内でも短繊維束を構成する短繊維周囲に形成された空間が、へき開性の高い組織及び、緻密な組織でかつ、層状、年輪状、縞状に充填される層状構造炭素組織32で充填されていることを特徴とする。
【0041】
本実施形態に係る強化用繊維材料4の層状構造炭素組織32は、異方性の結晶構造を持った、例えば黒鉛のようにある結晶軸がファンデルワールス力で弱く結合した層状のもの、および層状の結晶構造を持つ組織が重量分率で材料全体に対して50%以上含まれており、かつ、これらの組織が小薄片、膜、層に堆積して、マクロの形態として流れ形状を成しているものとする。
【0042】
層状構造炭素組織32において、層間は堆積方向に対して相対的に弱い結合力または非結合の構造をもち、亀裂が進展してくると容易に堆積方向と垂直な平面方向に多数の亀裂の進展を促しエネルギーを消費させるという、いわゆるすべり機能を有する。本発明の実施形態においては、層状構造炭素組織32とマトリックスの界面及び層状構造部分の内部と樹脂由来炭素組織33との界面34で無数のすべり機能をもたせることにより、層状構造炭素組織32が効率よくエネルギーを消費することを可能とする。
【0043】
層状構造炭素組織32は、すべり面を有しておりエネルギーの消費効果が高い反面、層間の結合力は弱いので層状構造の材料自身は剥離しやすくもろい。よって、層状構造炭素組織32の材料の内部に相対的に機械的強度が優れた構造材料、ここでは等方性材料で耐衝撃性を保持することで、双方の長所を併せ持つ炭素単繊維束とすることが可能となる。
【0044】
層状構造炭素繊維32の膜厚tは5μm以上500μm以下であることが好ましい。層状構造炭素繊維32の膜厚tが5μm未満の場合、被膜のもつすべり機能が十分に得られず、層状構造炭素繊維32の膜厚tが500μmを超える場合、被膜の熱処理により被膜に生じる亀裂に起因して繊維束自体の分裂が生じやすく、断面の構成が変化してしまう。これが繊維強化複合材料全体の強度に影響を及ぼすことが懸念され好ましくないからである。
【0045】
本実施形態に係る強化用繊維材料4の樹脂由来炭素組織33は、大部分を等方性の組織構造を持った炭素で構成され、樹脂由来炭素組織33の表面の大部分が層状構造炭素組織32で覆われている。なお、結晶レベルでは黒鉛構造であるが、結晶のサイズが微視的で、方位がランダムなため、マクロには等方的である。結晶構造は光学偏光顕微鏡などにより確認可能である。
【0046】
樹脂由来炭素組織33の樹脂は、等方性の組織構造の材料となる炭素の供給源として、また加熱分解にて炭素を生成させる目的で用いられる。樹脂の種類は、熱硬化性または熱可塑性であることが好ましく、例えば、フェノール、シリコーン、フッ素、エポキシ、フラン、PVA、フルフリル、メラミン、尿素ポリエステル及びポリイミドのうちから1ないし複数の混合体として選択でき、より好適には、フェノールレジンが用いられる。
【0047】
フェノールレジンは、固体と液体の両方の状態で存在して、水または有機溶剤中に溶解していることがより好ましい。フェノールレジンは、等方性の炭素材料を形成する供給源となるので、固体のフェノールレジンを使用する場合、完全に融解した状態ではなく、固体のフェノールレジンが残存した状態がより高い炭化収率を得ることができるので好ましい。しかしながら、固形分が多すぎると、繊維間、炭素繊維束3間の狭い空間への浸透の妨げになるので、設計する繊維強化セラミックス複合材料1に応じて適時変更してよい。好適には、固形分は5%以下の範囲で用いられるが、5%を上回る場合、固形分が溶液中に多くなり、繊維束内部への樹脂の浸透性が低下するので好ましくない。
【0048】
溶媒には、水または有機溶媒が用いられるが、樹脂を溶解できればこれらに限定されるものではなく、さらにはこれら複数の液体を混合して用いても良い。好適には、有機溶媒エタノール、2−ブタノール、アセトンを用いることができ、より好適には、エタノールが用いられる。
【0049】
本発明の実施形態に係る炭素単繊維31は黒鉛質の炭素であることが好ましい。充填性、繊維表面近傍の内部への選択的な浸透性、製法の容易さを考慮すると、黒鉛質の炭素がより好適に用いられる。
【0050】
上述したように、本実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料1は、強化用繊維材料4として、炭素単繊維31を分散させた炭素繊維束3に、樹脂由来炭素組織33と層状構造炭素繊維32との界面34を有するすべり層を含有し、結果として高いすべり機能をもち、層状構造の脆弱性を補う組織構造の異なる材料、例えば等方性構造材料と異方性構造材料との組み合わせの層を有することで、これらの構成をもたない従来技術と比べて、より効果的に破壊エネルギーを向上させることが可能となる。ここで、破壊エネルギーとは、破壊するまでに物体に加えることができるエネルギーのことで、セラミックスのような脆弱材料はその値は低く、金属のような塑性を示す材料は高い。
【0051】
また、本実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料1は、マトリックス2の内部に層状構造炭素組織32と樹脂由来炭素組織33との界面34を有する強化用繊維材料4を用いることによって、層状構造炭素組織32の高いへき開性及び層状構造炭素組織32と樹脂由来炭素組織33との界面34による、高いすべり効果により、高い破壊エネルギーを実現することができる。
【0052】
[強化用繊維材料の製造方法]
次に、本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料1における強化用繊維材料の製造方法について図2〜図12を参照して説明する。図2〜図12に示すように、本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料1における強化用繊維材料の製造方法は、炭素繊維束3の表面近傍に層状構造の炭素を浸透、配置し、さらに、層状構造の炭素の内部に樹脂由来の炭素で充填することによって、強化用繊維材料4の内部に2層の異なる炭素組織の界面34を形成する。強化用繊維材料4の内部に界面34を形成することによって、微細な繊維一本一本の表面へのコーティングや、強化用繊維材料4の表面への多層のコーティングを必要とせずに、破壊エネルギーを向上させることができる。
【0053】
本実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料1における強化用繊維材料の製造方法は、まず、図2に示すように、炭素単繊維31を分散させた炭素繊維束3を形成する。炭素繊維束3は、樹脂とピッチ及びメソフェーズピッチの粉末と溶媒と炭素を含む複数の繊維束(長さ6mm繊維束軸方向の断面直径1mm)とを混合して形成した。ここで、炭素繊維束3を形成するための混合時に、溶媒分の揮発を促すことや、ピッチの溶融を目的に、加熱処理または減圧処理を行ってもよい。
【0054】
ここで、内部が表面近傍から中心にかけて異なる炭素組織で構成されている炭素繊維束3の材質、構成繊維本数、構成繊維の平均直径、長さは特に問わない。しかし、長さ2mm未満の短繊維では、浸漬、混合工程において炭素繊維束3が崩壊してしまうため、2mm以上の炭素繊維束3が好ましい。また、50mm以上の長繊維束ではサイズが大きく、炭素繊維束3をランダムに配置することを特徴とする部材の場合、成形時の充填性が低くなるため、成形性が不良となり好ましくない。繊維を連続的に配置する部材の場合、特に上限はない。
【0055】
次に、図3に示すように、混合した炭素繊維束3を乾燥させ、炭化処理し、層状構造炭素組織32を含む炭素繊維束3を形成する。形成した炭素繊維束3は、炭化処理した際に発生するクラック42を有している。
【0056】
図3に示すように、本実施形態において、層状構造炭素組織32は、炭素繊維束3の表層から内部にかけて浸透深さtが5μm以上より好ましくは20μm以上炭素繊維束3の内部に浸透するように形成され、かつ、その浸透深さtが炭素繊維束軸方向の断面直径の20%以下であることが望ましい。
【0057】
浸透深さtが5μm未満である場合、繊維により層状構造炭素組織32が分断されやすく、炭素組織として機能しない。一方、浸透深さtが10μm以上である場合、炭素繊維束3の表面に溶融Siが接触した場合に、表面から10μm以上の距離の内部の炭素繊維を保護することができる。そのため、20μm以上の浸透深さがあることが、黒鉛質のすべり効果を得る目的においては好ましい。また、浸透深さtが炭素繊雑束の繊維束軸方向の断面直径が20%を超えて充填される場合、炭素繊維束3表面への層状構造炭素組織32の被膜及び、塊状の余分な炭素付着物が生じてしまう。
【0058】
ここで、このような工程を経て作製された炭素繊維束3を図7〜図9に示す。図7は、本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料における炭素繊維束の断面を示す光学顕微鏡写真であり、図8は、図7のA部分を拡大して示す光学顕微鏡写真であり、図9は、図8のB部分を拡大して示す光学顕微鏡写真である。図7〜図9に示す炭素繊維束3は、断面方向から光学顕微鏡にて観察したものである。ここでは、炭素繊維束3において、炭化処理した際に発生するクラック42を有し、炭素繊維束3の表層近傍に層状構造炭素組織32の炭素分が形成されていることがわかる。
【0059】
次に、図4に示すように、第1の混合液5として樹脂を希釈した溶液を作製する。そして、この第1の濃度の混合液5(以下、第1の混合液という。)に炭素繊維束3を浸漬し、加圧含浸又は減圧含浸した。その後、第1の混合液5中から炭素繊維束3を取り出し、加熱処理し、樹脂を硬化させた後、炭化処理することで内部を充填し、層状構造炭素組織32の内部に樹脂由来炭素組織33を形成する。形成された樹脂由来炭素組織33は、加熱処理した際に発生した層状構造炭素組織32のクラック42を通って、第1の混合液5が内部に含浸することで充填されたものである。
【0060】
次に、図5に示すように、第1の混合液5よりも好ましくは濃度を低減させた樹脂の溶液または樹脂を溶媒で希釈した第2の濃度の混合液6(以下、第2の混合液という。)を作製する。そして、この第2の混合液6に炭素繊維束3を浸漬し、加圧含浸又は減圧含浸した。その後、第2の混合液6中から炭素繊維束3を取り出し、加熱処理することにより、層状構造炭素組織32のクラック42から第2の混合液6を含浸させて、樹脂由来の炭素組織を充填する。ここで、第2の混合液6は、第1の混合液5で用いた樹脂の溶液または樹脂を溶媒で希釈した溶液を用い、好ましくは濃度を低下させたものである。従って第1の混合液5と第2の混合液6とは同じ溶質及び溶解からなる。本実施形態においては、溶液の濃度を低減させることによって、炭素単繊維31同士が固着すること、すなわち、炭素単繊維31が固まり、炭素単繊維31の分散能力の劣化を防止している。第1の混合液5の濃度が十分薄い場合は、第2の混合液6の濃度を上昇しても炭素単繊維31同士の固着が生じにくい。また、必要に応じて第3、第4の混合液を作製して同様の処理を通して内部を緻密化してもよい。しかし工程の増加はコストの増加につながるため、上述した本実施形態がより好ましい。なお、上述では第1の混合液5より第2の混合液6の溶液の濃度を低減させる例について説明したが、第1の混合液5の溶液濃度と第2の混合液6の溶液濃度との関係はこれに限定されるものではなく、第1の混合液5及び第2の混合液6の溶液の濃度は同じ、もしくは第1の混合液5を第2の混合液6より上昇させてもよい。
【0061】
以上のように、炭素繊維束3を炭化する際に発生する層状構造炭素組織32のクラック42に濃度を順次低減させた混合液を複数回加圧含浸又は減圧含浸することで、層状構造炭素組織32の内部に樹脂由来炭素組織33を形成し、層状構造炭素組織32内に有する空隙を減少する。
【0062】
次に、図6に示すように、炭素繊維束3の内部の樹脂は熱処理工程で炭化される。こうして炭素繊維束3の内部が表面近傍から中心にかけて異なる炭素組織で構成されることを特徴とする強化用繊維材料4が作製でき、炭素繊維束3の内部形成された異なる組織の界面34による高いすべり効果により高い破壊エネルギーを示す。
【0063】
このような工程を経て作製された強化用繊維材料4を図10〜図12に示す。図10は、本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料における強化用繊維材料の断面を示す光学顕微鏡写真であり、図11は、図10のC部分を拡大した光学顕微鏡写真であり、図12は、図11のD部分を拡大した光学顕微鏡写真である。図10〜図12に示す繊維強化複合材料4は、炭素繊維束3の断面方向から光学顕微鏡にて観察したものである。ここでは、炭素単繊維31間の層状構造炭素組織32の材料が小板状の黒鉛質の炭素で充填された状態となっていることがわかる。
【0064】
次に以下において、本発明の実施形態に係る強化用繊維材料4の製造工程における留意点について記載する。
【0065】
繊維と浸漬、混合させる液体(以下、含浸用材料という。)は、フェノール樹脂等の加熱分解で炭素を生成する有機材料を溶解させて調整したものに粉末状のピッチ及びメソフェーズピッチを混合したものである。
【0066】
溶媒としてはエタノールや水溶性のものであれば水を選択するのが作業性と環境・安全衛生の観点から的に好ましいが、これに限られるものではなく、加熱分解で炭素を生成する有機材料を溶解できれば問題なく使用できる。
【0067】
混合物と混合した繊維は樹脂の乾燥・硬化のため40℃〜200℃で熱処理し、さらに樹脂と、ピッチ及びメソフェーズピッチの溶融・炭化を目的に成形以前に500℃〜3000℃の炭素が生成する温度域で熱処理してもかまわない。
【0068】
浸漬用材料を作製するにあたり、炭素材の重量分率が溶媒以外の固形分のなかで80%以上になるように樹脂溶液を混合して浸漬用材料を作製する。ここで、浸漬用材料とは、繊維間および繊維集合体の表面に層状構造材料を形成するための役割をするもので、液体状で層状構造を形成するのに適切な炭素材料を含有しているものである。
【0069】
炭素材料の重量分率は、重量分率が50%を下回ると、浸漬用材料による層状構造形成がされにくい。また、炭素材が30%以下、とくに10%以下では炭素は等方的な構造を示す。なお、樹脂が0の場合、すなわち炭素材のみでも、層状構造を形成させることは可能であるが、粉状である炭素材を液体状の樹脂に溶かした状態のほうが、繊維束への付着性が増し、より繊維間に浸透しやすいので好ましい。
【0070】
炭素繊維束3中の炭素繊維と浸漬用材料は、重量比で1:0.1〜1:0.4の範囲で混合することが好ましい。この範囲を外れると、破壊エネルギー向上の効果が顕著には得られなくなり好ましくない。
【0071】
次に、炭素繊維束3と浸漬用材料を均一になるよう混合する工程を実施するが、混合方法と混合時間については、既存の製造方法を適切に適用する範囲で任意に決めてよい。なお混合時に溶媒の揮発を目的に、乾燥工程、加熱工程、またはその両方を含めてもよい。
【0072】
混合後は、すぐに乾燥を実施してもよく、適切な時間放置してから乾燥してもよい。放置する時間は、例えば1時間以上、あるいは溶媒が完全に気化してなくなるまで実施してよい。また、溶媒が完全に気化してなくなった以降も放置することは、工程上作業ロスとなるので、これも好ましくない。なお、溶媒が完全に気化してなくなるまでというのは、厳密な判断を必要とせず、作業者の目視による浸漬用材料の乾燥状態で判断してもよい。
【0073】
また炭素繊維束3と浸漬用材料の混合は、一回だけ浸漬用材料と混合してもよいし、一度浸漬用材料に混合した炭素繊維束3を取り出して、再度浸漬用材料と混合する作業を繰り返してもよい。その際の工程移行の間は、そのまま放置してもよく、その放置時間も特に限定されない。
【0074】
乾燥は、大気中に40℃〜200℃の範囲で数時間保持することでなされるが、不活性雰囲気で実施してもよい。また、加熱処理については、保持温度は500℃〜3000℃、好適には600℃〜1000℃の範囲にて、保持時間は5分〜3時間、好適には1時間〜2時間の範囲で、不活性雰囲気下でなされることが好ましい。この加熱処理で樹脂とピッチまたはメソフェーズピッチが炭化され、黒鉛質の層状炭素が生成して、繊維間の空間に充填される。また、炭化のための加熱処理は、マトリックスとなるセラミック材料と成形した後行ってもよい。
【0075】
加熱処理の温度は、500℃未満では炭化が不十分であり好ましくない。また、3000℃を超える温度ではほぼ炭素の黒鉛化が収東するため、加熱処理としての作用が少なく、これも好ましくない。また、加熱処理の保持時間は、5分未満では温度の安定化が不十分のため好ましくないし、3時間を越えて保持しても、こちらもほぼ炭素の黒鉛化が収東するため好ましくない。
【0076】
また、Siを高温で含浸すると炭素繊維はSiCへと反応し、マトリックス2と一体化して破壊エネルギーを低下させるが、炭素繊維束3の表面近傍を10μm以上の層状構造の炭素組織で構成するとSiの融液を内部へ通しにくく、大部分の炭素繊維表面と接触しないため、炭素繊維をSiC化させないですむ。
【0077】
本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料1の一態様にかかる製造方法においては、本発明の実施形態に係る繊維強化複合材料4は、マトリックス2に炭素繊維の体積含有率が10%以上50%以下になるように混合し、その後成型、乾燥、焼成することを特徴とする。
【0078】
このときのマトリックス2中の炭素繊維の含有率は、10%未満では繊維集合体での亀裂進展が起こる確率が低くなってしまい、また50%を超えるとセラミックスのマトリックスがもつ耐熱性、耐酸化性、強度などの優れた特性を損なう恐れがあり、いずれも好ましくない。より好ましくは、セラミックス複合材中の繊維の体積含有率が20%以上40%以下である。
【0079】
本発明の実施形態に係る繊維強化セラミックス複合材料1における強化用繊維材料の製造方法においては、CVD法やスパッタリング法のような、繊維1本単位の成膜を目指し、すべり面の少ない、製造コストも高くつく方法に比べて、液体材料の浸漬と混合による繊維集合体全体に層状構造の材料を含有するように材料の比率の最適化などを行うことによって、繊維表面と繊維間及び炭素繊維束表面にすべり効果を付与し、破壊エネルキーの高い繊維強化セラミックス複合材料1を、比較的簡単な装置で容易にかつ効率よく提供することが可能となる。
【0080】
また、既存の強化用繊維材料に対しても、本発明の実施形態に係る炭素繊維束3を適用することで、マトリックス材の種類にかかわらず、本発明の実施形態を適用しなかった場合に比べて、簡易に破壊エネルギーを向上させることが可能となる。
【実施例】
【0081】
以下、図2〜図6を参照して、本発明の好ましい実施形態を実施例に基づき説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【0082】
以下に示す条件で繊維強化セラミックス複合材料1に用いる強化用繊維材料4を作製し、破壊エネルギーを測定した。得られた強化用繊維材料4からなる3×3×40(mm)の試験片を切り出し、これを評価サンプルとして、日本セラミックス協会規格JCRS−201「シェブロンノッチ試験片の準静的3点曲げ破壊によるセラミック系複合材料の破壊エネルギー試験方法」に準拠した破壊エネルギーの測定を行った。
【0083】
まず、図2に示すように、炭素繊維束31を分散させた炭素繊維束3を形成した。次に、フェノール樹脂とピッチ及びメソフェーズピッチの粉末を混合し、炭素繊維束3(長さ6mm繊維束軸方向の断面直径1mm)と混合した。
【0084】
次に、図3に示すように、混合した炭素繊維束3を80℃で乾燥させ、Ar雰囲気中で1000℃まで昇温し、2時間保持し炭化処理した。炭化処理した炭素繊維束3は、炭化処理した際に発生するクラック42を有している。ここで、このような工程で作製した炭素繊維束3を図7〜図10に示す。図7〜図10に示すように、炭素繊維束3において、炭化処理した際に発生するクラック42を有し、炭素繊維束3の表層近傍に層状構造炭素組織32の炭素分が形成されている。
【0085】
次に、図4に示すように、第1の混合液5としてフェノール樹脂をエタノールで希釈した溶液に炭素繊維束3を浸漬し、圧力10kPaで減圧含浸した。その後、溶液中より炭素繊維束3を分離し、190℃で加熱処理し樹脂を硬化させた後、Ar雰囲気中で1000℃まで昇温し炭化することでクラック42を介して層状構造炭素組織32を形成した。
【0086】
上記処理を行った炭素繊維束3をSiCと混合後、加圧成形した後、Ar雰囲気2000℃で焼成した。
【0087】
次に、図5に示すように、上記処理を行った炭素繊維束3に第2の混合液6として、フェノール樹脂をエタノールで希釈した溶液に炭素繊維束3を浸漬し、圧力10kPaで減圧含浸した。その後、溶液中より炭素繊維束3を分離し、190℃で加熱処理し樹脂を硬化させた後、真空雰囲気1500℃でSiを含浸させて内部を充填して、強化用繊維材料4を作製した。ここで、このような工程で作製した繊維強化複合材料4を図10〜図12に示す。図10〜図12に示すように、強化用繊維材料4は、炭素単繊維31間の層状構造炭素組織32の材料が小板状の黒鉛質の炭素で充填された状態となっている。この強化用繊維材料4から3×3×40(mm)の試験片を作製し、破壊エネルギーを計測した。
【0088】
強化用繊維材料4の評価は、炭素繊維束3の層状構造炭素組織32の平面浸透深さ(μm)を0〜500(μm)に各々変更して行なった。評価はまず、10%以下のものを○印とし、10%以上30%未満のものを△、30%以上を×として30g程度の量をサンプリングし目視観察による選別後、重量比により測定し、破壊エネルギー(J)が、800以上かつ、炭素繊維束の分裂が○印のものを判定○印とし、範囲外のものを判定×印とした。その結果を下記の表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
[比較例1]
コバレントマテリアル(株)製のSiCセラミックスを3×3×40(mm)の試験片に加工し、破壊エネルギーを計測したところ、20J/m2であった。
【0091】
[比較例2]
東レ(株)製の炭素繊維6mmとSiCと混合後、加圧成形した後、Ar雰囲気2000℃で焼成した。得られた複合セラミックスから3×3×40(mm)の試験片を作製し、破壊エネルギーを計測したところ、40J/m2であった。
【0092】
以上、説明したとおり、本発明の実施例では、強化用繊維材料4における炭素繊維束3の内部のみを異なる組織で充填して、界面を形成することにより高いすべり効果を繊維束内部に付与し、繊維強化セラミックス複合材料の破壊エネルギーを向上させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、自動車や鉄道車両などのブレーキディスク用セラミックス部材として特に好適であるが、軽量で高強度である利点を活かし、例えば、高速回転部の流体用メカニカルシール部材などにも適用が可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素を含む複数本の繊維束と、
前記繊維束の表層の繊維間に形成され、層状構造の炭素からなる層状構造炭素組織と、
前記層状構造炭素組織の内部を充填するように形成され、樹脂を含有する炭素からなる樹脂由来炭素組織と、
前記層状構造炭素組織と前記樹脂由来炭素組織との間に存在する少なくとも一つの界面と、
を備えることを特徴とする強化用繊維材料。
【請求項2】
前記繊維束は、さらにセラミックスを含むことを特徴とする請求項1に記載の強化用繊維材料。
【請求項3】
前記層状構造炭素組織は、前記炭素繊維束の表層から前記界面までの距離が5μm以上200μm以下の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の強化用繊維材料。
【請求項4】
前記層状構造炭素組織は、異方性の構造を有する炭素であり、前記樹脂由来炭素組織は、等方性の構造を有する炭素であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の強化用繊維材料。
【請求項5】
前記層状構造炭素組織は、黒鉛質であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の強化用繊維材料。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の前記強化用繊維材料を、セラミックスマトリックス中に配したことを特徴とする繊維強化セラミックス複合材料。
【請求項7】
炭素を含む複数本の繊維束とフェノール樹脂とピッチ及びメソフェーズピッチとを溶媒を用いて混合し炭化処理して炭素繊維束を形成し、
前記炭素繊維束を第1の混合液に含浸させて含浸処理し、
さらに、前記炭素繊維束を第2の混合液に含浸させて含浸処理することを特徴とする強化用繊維材料の製造方法。
【請求項8】
前記第1の混合液及び前記第2の混合液は、同じ溶質及び溶解からなり、前記第1の混合液及び前記第2の混合液の濃度は、同一または異なることを特徴とする請求項7に記載の強化用繊維材料の製造方法。
【請求項9】
前記繊維束は、さらにセラミックスを含むことを特徴とする請求項7に記載の強化用繊維材料の製造方法。
【請求項10】
前記第1の混合液及び前記第2の混合液は、溶媒にフェノール樹脂、粉末状のピッチ及びメソフェーズピッチを混合したものであることを特徴とする請求項7または8に記載の強化用繊維材料の製造方法。
【請求項11】
前記溶媒は、水または有機溶媒であることを特徴とする請求項9に記載の強化用繊維材料の製造方法。
【請求項12】
請求項7乃至請求項11のいずれか一項に記載の前記強化用繊維材料を、前記強化用繊維材料中の炭素繊維の体積含有率が10%以上60%以下になるようにセラミックス材料中に混合することを特徴とする繊維強化セラミックス複合材料の製造方法。
【請求項1】
炭素を含む複数本の繊維束と、
前記繊維束の表層の繊維間に形成され、層状構造の炭素からなる層状構造炭素組織と、
前記層状構造炭素組織の内部を充填するように形成され、樹脂を含有する炭素からなる樹脂由来炭素組織と、
前記層状構造炭素組織と前記樹脂由来炭素組織との間に存在する少なくとも一つの界面と、
を備えることを特徴とする強化用繊維材料。
【請求項2】
前記繊維束は、さらにセラミックスを含むことを特徴とする請求項1に記載の強化用繊維材料。
【請求項3】
前記層状構造炭素組織は、前記炭素繊維束の表層から前記界面までの距離が5μm以上200μm以下の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の強化用繊維材料。
【請求項4】
前記層状構造炭素組織は、異方性の構造を有する炭素であり、前記樹脂由来炭素組織は、等方性の構造を有する炭素であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の強化用繊維材料。
【請求項5】
前記層状構造炭素組織は、黒鉛質であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の強化用繊維材料。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の前記強化用繊維材料を、セラミックスマトリックス中に配したことを特徴とする繊維強化セラミックス複合材料。
【請求項7】
炭素を含む複数本の繊維束とフェノール樹脂とピッチ及びメソフェーズピッチとを溶媒を用いて混合し炭化処理して炭素繊維束を形成し、
前記炭素繊維束を第1の混合液に含浸させて含浸処理し、
さらに、前記炭素繊維束を第2の混合液に含浸させて含浸処理することを特徴とする強化用繊維材料の製造方法。
【請求項8】
前記第1の混合液及び前記第2の混合液は、同じ溶質及び溶解からなり、前記第1の混合液及び前記第2の混合液の濃度は、同一または異なることを特徴とする請求項7に記載の強化用繊維材料の製造方法。
【請求項9】
前記繊維束は、さらにセラミックスを含むことを特徴とする請求項7に記載の強化用繊維材料の製造方法。
【請求項10】
前記第1の混合液及び前記第2の混合液は、溶媒にフェノール樹脂、粉末状のピッチ及びメソフェーズピッチを混合したものであることを特徴とする請求項7または8に記載の強化用繊維材料の製造方法。
【請求項11】
前記溶媒は、水または有機溶媒であることを特徴とする請求項9に記載の強化用繊維材料の製造方法。
【請求項12】
請求項7乃至請求項11のいずれか一項に記載の前記強化用繊維材料を、前記強化用繊維材料中の炭素繊維の体積含有率が10%以上60%以下になるようにセラミックス材料中に混合することを特徴とする繊維強化セラミックス複合材料の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−14445(P2013−14445A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146399(P2011−146399)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(2008年(平成20年)度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 ナノテク・先端部材実用化研究開発 新幹線用ハイブリッドセラミックスディスクブレーキ部材開発 業務委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)」
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(2008年(平成20年)度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 ナノテク・先端部材実用化研究開発 新幹線用ハイブリッドセラミックスディスクブレーキ部材開発 業務委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)」
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
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