説明

復水脱塩方法及び復水脱塩装置

【課題】 カチオン樹脂とアニオン樹脂から溶出する有機性不純物由来の硫酸イオン及び硝酸イオン濃度が低い、高純度な処理水質を得ることができる復水脱塩方法及び装置を提供する。
【解決手段】 原子力発電プラントの復水をイオン交換樹脂で脱塩処理する方法において、前記イオン交換樹脂が、強酸性均一粒径ゲル型カチオン樹脂と強塩基性1型ガウス粒径分布アニオン樹脂を混合した混床を形成しており、該形成した混床の上層部から下層部までほぼ均一にカチオン樹脂とアニオン樹脂が混合されている状態で、復水を処理することとしたものであり、前記カチオン樹脂としては、架橋度が10%から16%で、平均粒径値が450〜600μmであり、平均粒径値±100μmの範囲に樹脂粒存在率が95%以上となるようなイオン交換樹脂を用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラントのイオン交換樹脂による復水処理に係り、特に、カチオン樹脂から溶出する有機性不純物由来の硫酸イオン濃度とアニオン樹脂から溶出する有機性不純物由来の硝酸イオン濃度の低い、高純度な処理水質を長期間に渡り安定的に得ることができる復水脱塩方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントでは、原子炉もしくは蒸気発生器にて発生した蒸気で発電した後に、海水にて蒸気を冷却し、その復水を、粒状イオン交換樹脂を用いた復水脱塩装置にて処理し、原子炉もしくは蒸気発生器に給水している。復水脱塩装置では、イオン交換樹脂が使用され、系統内に流入した海水成分や、プラント構成材料より生成した鉄酸化物を主体とした懸濁性腐食生成物や、イオン性不純物を除去している。
復水脱塩装置にて使用するイオン交換樹脂としては、陽イオンを吸着するカチオン樹脂と陰イオンを吸着するアニオン樹脂があり、これらをカチオン樹脂/アニオン樹脂体積比で、通常、1/2から3/1の範囲で使用し、混合した状態で使用している。
使用するイオン交換樹脂の粒径分布は、直径が350〜1200μmの範囲に存在し、平均値が700〜800μm程度の、いわゆるガウス分布のものが広く使用されている。
【0003】
イオン交換樹脂は、通水によりイオン負荷が増加して交換容量が徐々に減少するため、ある程度使用した時点で薬品による通薬再生を実施している。この際、カチオン樹脂とアニオン樹脂の比重差を利用して、上向流により逆洗分離している。この分離効率を高めるために、粒径分布を均一にしたゲル型イオン交換樹脂が市販され、復水脱塩装置で広く使用されている。これは、ガウス分布のイオン交換樹脂の場合、比重の軽いアニオン樹脂の大粒径のものと、比重の重い小粒径のカチオン樹脂の分離が十分ではないため、この分離性能を向上させるために均一粒径化したものである。
これらの理由から、通常、復水脱塩装置で使用されているイオン交換樹脂は、均一粒径樹脂同士の組み合わせ、若しくは、通薬再生頻度の低い復水脱塩装置では従来から使用されているとおりのガウス分布樹脂同士の組み合わせにより使用されている。
【0004】
原子力発電プラントの復水脱塩装置で使用しているイオン交換樹脂は、上流側より流入するNaClに代表される海水成分などのイオン成分の除去能力は高いが、カチオン樹脂から溶出する有機性不純物(以下、TOCと称す)は、原子炉や蒸気発生器に持ち込まれると分解して硫酸を生成し、アニオン樹脂から溶出するTOCは硝酸を生成するため、水質を低下させる原因となる。
従って、水質を高純度にするためには、イオン交換樹脂から溶出するTOCのリーク量を少なくする必要がある。
これらを解決する方法としては、特開平11−352283号公報にあるような、架橋度が通常使用されている8〜10%より高い、12〜16%の強酸性ゲル型カチオン樹脂を適用する方法や、特開2001−314855号公報にあるような、アニオン樹脂を樹脂層下層部に配して、カチオン樹脂から溶出するTOCを吸着する方法、特開平8−224579号公報にあるような、強酸性ゲル型カチオン樹脂と粒径分布がガウス分布のポーラス型アニオン樹脂にて混床を形成する方法、などが提案されている。
【0005】
しかし、架橋度の高い強酸性ゲル型カチオン樹脂を使用しても、長期間の使用により酸化劣化が進行して、有機性不純物の溶出は徐々に増加するため、水質の低下は避けられない。また、アニオン樹脂を樹脂層下層部に配する方法では、カチオン樹脂より溶出する有機性不純物は、主としてポリスルホン酸であり、マイナスに帯電しているためある程度は低減できるが、逆にアニオン樹脂より溶出するトリメチルアミンなど、プラスに帯電している有機性不純物が、カチオン樹脂で除去されず、リークして分解により硝酸イオンなどが生成するため、やはり水質低下を引き起こす。また、ポーラス型アニオン樹脂は、マクロポアを有するため有機性不純物の吸着能力は高いが、原子力発電プラントの復水脱塩装置で通常使用されているオルガノ株式会社のIRA900や、三菱化学株式会社のPA312などのポーラス型アニオン樹脂は、粒径分布が420〜1180μmに分布するいわゆるガウス分布で平均粒径が800μm程度であることと、ポーラス型イオン交換樹脂がマクロポアを有するがために、樹脂マトリックスの部分は非常に緻密な構造を有しており、反応速度の面でゲル型樹脂に劣ることとなる。
【0006】
また、復水脱塩装置は、前述の通り、カチオン樹脂とアニオン樹脂を混床にて使用している。これは、カチオン樹脂でのイオン交換反応とアニオン樹脂のイオン交換反応を同時に進行させることで、発生する水素イオンと水酸イオンを水とし、イオン交換反応を行わせ易くするものである。通常は、イオン交換樹脂分離混合塔若しくは脱塩塔にてカチオン樹脂とアニオン樹脂を空気により混合し、通水に供している。しかし、ガウス粒径分布、若しくは均一粒径分布のいずれにおいても完全に混合することは難しく、特に均一粒径樹脂同士の組み合わせの場合、分離操作の向上を目的としたものであるため、より混合しにくい。ガウス粒径分布樹脂同士の場合は、均一粒径樹脂よりは混合しやすいが、理想的に混合することは難しく、また、分離混合塔にて混合しても、その後の操作で、脱塩塔に移送する際に分離してしまう可能性があり、この組み合わせでも、理想的に混合することは難しい。
【特許文献1】特開平11−352283号公報
【特許文献2】特開2001−314855号公報
【特許文献3】特開平8−224579号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術に鑑み、原子力発電プラントのイオン交換樹脂による復水処理において、カチオン樹脂とアニオン樹脂から溶出する有機性不純物由来の硫酸イオン及び硝酸イオン濃度の低い、高純度な処理水質を得ることができる復水脱塩方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では、原子力発電プラントの復水をイオン交換樹脂で脱塩処理する方法において、前記イオン交換樹脂が、強酸性均一粒径ゲル型カチオン樹脂(以下、カチオン樹脂と記す)と強塩基性1型ガウス粒径分布アニオン樹脂(以下、アニオン樹脂と記す)を混合した混床を形成しており、該形成した混床の上層部から下層部までほぼ均一に前記カチオン樹脂とアニオン樹脂が混合されている状態で、復水を処理することを特徴とする復水脱塩方法としたものである。
また、本発明では、復水をイオン交換樹脂で脱塩処理する原子力発電プラントの復水脱塩装置において、該脱塩装置のイオン交換樹脂層が、強酸性均一粒径ゲル型カチオン樹脂と強塩基性1型ガウス粒径分布アニオン樹脂を混合した混床で形成され、該樹脂層の上層部から下層部までほぼ均一に前記カチオン樹脂とアニオン樹脂とが混合された状態であることを特徴とする復水脱塩装置としたものである。
前記本発明において、強酸性均一粒径ゲル型カチオン樹脂は、架橋度が10%から16%、望ましくは14%から15%のものがよく、また、カチオン樹脂は、平均粒径値が450〜600μmであり、平均粒径値±100μmの範囲に樹脂粒存在率が95%以上となるようなイオン交換樹脂を用いることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、カチオン樹脂の粒径分布を均一粒径とし、更に平均粒径をガウス分布平均値である700〜800μmより小さくし、且つガウス分布のアニオン樹脂を用いることで、カチオン樹脂とアニオン樹脂の混合性が高まり、脱塩塔の上層部から下層部までほぼ理想的な混床状態となり、脱塩塔下部にある程度のアニオン樹脂が存在することとなる。これらにより、カチオン樹脂より発生した有機性不純物はアニオン樹脂により、アニオン樹脂により発生した有機性不純物はカチオン樹脂により除去されることとなり、復水脱塩装置からの有機性不純物のリーク量を低減することができ、高純度の処理水を得ることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を図面を用いて詳細に説明する。
図1に原子力発電プラントのうち、沸騰水型(BWR)原子力発電プラントの概略フローを示す。原子炉で蒸気を発生させ、その蒸気でタービンを回転して電力を生成する。その蒸気は、復水器にて水に戻し、浄化設備である復水ろ過器や復水脱塩装置で浄化して、原子炉に給水している。加圧水型原子力発電プラントも、BWR原子力発電プラントと構成は類似しており、蒸気発生器で蒸気を発生させ、タービンで発電して、復水器で水に戻して、浄化して蒸気発生器に給水している。
ここでの復水脱塩装置は、図2に示すような装置構成をしており、2000〜7000m/hの流量の復水を3〜10塔のイオン交換樹脂塔1で処理している。1つの脱塩塔には、処理流量により2000〜15000Lのイオン交換樹脂が充填されており、カチオン樹脂/アニオン樹脂が体積比で1/2〜3/1程度の範囲で混床を形成している。樹脂層高は、90〜200cmの範囲で、通常は100cm程度である。また、通水線流速は50〜200m/hの範囲で、通常は100m/h程度である。図2において、2は樹脂ストレーナ、3は再循環ポンプである。
【0011】
通常、復水脱塩装置で使用しているイオン交換樹脂は、その粒径分布が420〜1180μmに分布するいわゆるガウス分布で、カチオン樹脂の比重は1.2程度で、アニオン樹脂の比重は1.08程度である。復水脱塩装置のイオン交換樹脂塔は、カチオン樹脂とアニオン樹脂が混合された、いわゆる混床状態にて使用されるが、カチオン樹脂とアニオン樹脂には比重差があると共に、ある程度使用した後には逆洗操作にて両樹脂を分離した上で、薬品による通薬再生操作が行われるため、分離効率を高めるために、若干カチオン樹脂の平均粒径の方が大きくなっている。通薬再生後の使用前には、空気による撹拌混合操作を行い両樹脂を混合するが、完全混合状態とは言い難く理想的な状態ではない。
【0012】
本発明においては、均一粒径ゲル型カチオン樹脂とガウス分布アニオン樹脂を使用することで理想的な混合状態を得るものである。特に、カチオン樹脂の平均粒径を450〜600μmとすることで、一般的な平均粒径が700μm程度のガウス分布アニオン樹脂を用いることで、理想的な混合状態が得られ、これらにより、カチオン樹脂より発生した有機性不純物はアニオン樹脂により、アニオン樹脂により発生した有機性不純物はカチオン樹脂により除去されることとなり、復水脱塩装置からの有機性不純物のリーク量を低減することができる。
使用する均一粒径ゲル型樹脂としては、ダウケミカル日本株式会社より販売されているMonosphere575CやMonosphere545Cなどがあり、またガウス分布アニオン樹脂としては、ダウケミカル社より販売されているSBR−Cなどを適用してもよい。また、通常使用されているイオン交換樹脂を水篩などの操作により粒径分布を調整して使用してもよい。
【実施例】
【0013】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
この実施例で使用するイオン交換樹脂は、いずれもダウケミカル日本(株)より販売されているもので、以下の性状を有する。
(1)Monosphere545C
総交換容量=2.5eq/L、平均粒径値=525±50μm、均一係数=1.1
(2)Monosphere550A
総交換容量=1.1eq/L、平均粒径値=590±50μm、均一係数=1.1
(3)HCR−W2
総交換容量=1.8eq/L、粒径分布=350〜1200μm、均一係数=1.6
(4)SBR−C
総交換容量=1.1eq/L、粒径分布=350〜1200μm、均一係数=1.6
【0014】
実施例1
均一粒径樹脂とガウス分布樹脂を用い、次の3つの組み合わせにて樹脂の混合試験を行い、従来技術と本発明の比較試験を行った。
(a)本発明:均一粒径ゲル型カチオン樹脂Monosphere545C
+ガウス分布アニオン樹脂SBR−C
(b)従来技術1:均一粒径ゲル型カチオン樹脂Monosphere545C
+均一粒径アニオン樹脂Monosphere550A
(c)従来技術2:ガウス分布ゲル型カチオン樹脂HCR−W2
+ガウス分布アニオン樹脂SBR−C
内径50mmのカラムに、カチオン樹脂とアニオン樹脂を体積比で2/1にて層高が50cmになるよう充填し、SV20にて5分間空気スクラビングを行う混合操作を実施した後、樹脂層上部より5cmずつ樹脂を採取しカチオン樹脂とアニオン樹脂の混合状況を確認した。その結果を図3に示す。表からわかるように、本発明は樹脂層上部から下部までほぼ均一に混合されていることがわかる。
【0015】
実施例2
均一粒径ゲル型カチオン樹脂Monosphere545Cとガウス分布アニオン樹脂SBR−Cを用い、次の2つの組み合わせにて通水試験を行い、比較試験を行った。
・ケース1(本発明):完全混合状態
・ケース2:上層部にアニオン樹脂、下層部にカチオン樹脂を配した2層状態
・ケース3:上層部にカチオン樹脂、下層部にアニオン樹脂を配した2層状態
・ケース4(従来技術):実施例1の従来技術2に相当する混合状態
試験は,内径25mmのカラムに,カチオン樹脂とアニオン樹脂を体積比2/1にて充填し,上記4ケースの樹脂層を形成し、通水線流速120m/hにて、温度45℃、導電率0.006mS/m、溶存酸素濃度20μg/Lの十分に脱気された純水を通水し、処理水中の不純物濃度を測定した。
【0016】
カチオン樹脂から溶出する有機性不純物は主としてポリスチレンスルホン酸、アニオン樹脂から溶出する有機性不純物は主としてトリメチルアミンであることから、処理水に紫外線を照射して有機物を酸化分解し、生成する硫酸イオンと硝酸イオン濃度を測定した。その結果を表1に示す。ケース2では,下層部にカチオン樹脂のみが存在するため,硫酸イオンが最も多く検出され、ケース3では,逆にアニオン樹脂のみが存在するため、硝酸イオンが最も多く検出された。従来技術のケース4と本発明のケース1を比較すると、従来技術では、硫酸イオンが比較的高い濃度で検出されているのに対して、本発明では、硫酸・硝酸のいずれのイオンも低い濃度であることがわかる。
【0017】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】沸騰水型原子力発電プラントの概略フロー構成図。
【図2】復水脱塩装置の一例を示す概略フロー構成図。
【図3】樹脂層高によるアニオン樹脂存在率を示すグラフ。
【符号の説明】
【0019】
1:脱塩塔、2:樹脂ストレーナ、3:再循環ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電プラントの復水をイオン交換樹脂で脱塩処理する方法において、前記イオン交換樹脂が、強酸性均一粒径ゲル型カチオン樹脂と強塩基性1型ガウス粒径分布アニオン樹脂を混合した混床を形成しており、該形成した混床の上層部から下層部までほぼ均一に前記カチオン樹脂とアニオン樹脂が混合されている状態で、復水を処理することを特徴とする復水脱塩方法。
【請求項2】
前記強酸性均一粒径ゲル型カチオン樹脂は、架橋度が10%から16%であることを特徴とする請求項1記載の復水脱塩方法。
【請求項3】
前記強酸性均一粒径カチオン樹脂は、平均粒径値が450〜600μmであり、平均粒径値±100μmの範囲に樹脂粒存在率が95%以上となるようなイオン交換樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載の復水脱塩方法。
【請求項4】
復水をイオン交換樹脂で脱塩処理する原子力発電プラントの復水脱塩装置において、該脱塩装置のイオン交換樹脂層が、強酸性均一粒径ゲル型カチオン樹脂と強塩基性1型ガウス粒径分布アニオン樹脂を混合した混床で形成され、該樹脂層の上層部から下層部までほぼ均一に前記カチオン樹脂とアニオン樹脂とが混合された状態であることを特徴とする復水脱塩装置。
【請求項5】
前記強酸性均一粒径カチオン樹脂は、架橋度が10から16%で、平均粒径値が450〜600μmで、平均粒径値±100μmの範囲に樹脂粒存在率が95%以上であることを特徴とする請求項4記載の復水脱塩装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−64646(P2007−64646A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−247337(P2005−247337)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】