説明

微生物によるコエンザイムQ10の製造法

【課題】従来、コエンザイムQ10の微生物による発酵を利用する方法では、コエンザイムQ10を安価に生産することは困難であった。本発明は、コエンザイムQ10を安価で効率的に製造するために、コエンザイムQ10生産微生物の、細胞中のコエンザイムQ10含有量をさらに増大させる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】コエンザイムQ10生産微生物を、脂肪酸部分の炭素数が14〜18のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含有する培地で培養することを特徴とするコエンザイムQ10の製造法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を利用するコエンザイムQ10の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
コエンザイムQ10は、人の生体内の細胞中におけるミトコンドリアの電子伝達系構成因子であり、酸化的リン酸化反応における電子の運搬子として働くことによりATPの生成に関与している。従来から、コエンザイムQ10は、各種疾病に対して優れた薬理及び生理効果を示す物質として、医薬品以外にも栄養補助食品や化粧品に使用される等、幅広い用途で用いられている。
【0003】
コエンザイムQ10の製法としては、化学合成法が考えられるが、その合成プロセスは煩雑・危険で、コスト高と予想される。また、化学合成法の場合は、安全性が懸念される(Z)−異性体の副生・混入を最小化する必要もある(非特許文献1)。たとえば、ヨーロッパ局方においては、酸化型のコエンザイムQ10中の(Z)−異性体の含有量は0.1%以下でなければならないと規定されている。
【0004】
コエンザイムQ10の別の製法として、微生物による発酵を利用する方法、すなわち、コエンザイムQ10生産微生物を培養し、生産されたコエンザイムQ10を採取する方法が報告されているが、いずれも細胞中のコエンザイムQ10含有量が低いために、コエンザイムQ10を安価に生産することは困難であった。特許文献1には、コエンザイムQ10生産微生物を、特定のポリエーテル系非イオン界面活性剤の存在下で培養する方法が開示されているが、この界面活性剤は、高価であるため、この方法ではコストがかかり、生産性向上のメリットがあまりない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−59197号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】バイオメディカル アンド クリニカル アスペクト オブ コエンザイムQ(Biomedical and clinical aspects of coenzyme Q)、3巻、19項−30項、1981
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のとおり、コエンザイムQ10のより効率的な製造方法が求められていた。本発明は、コエンザイムQ10生産微生物の、細胞中のコエンザイムQ10含有量を増大させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するべく検討を重ねた結果、コエンザイムQ10を生産することができる微生物を、特定のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含有する培地で培養することにより、細胞中のコエンザイムQ10を顕著に増加させることができることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、コエンザイムQ10生産微生物を、脂肪酸部分の炭素数が14〜18のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含有する培地で培養することを特徴とするコエンザイムQ10の製造法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安価かつ簡便な方法で、コエンザイムQ10生産微生物の細胞中のコエンザイムQ10含有量を、顕著に増加させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のコエンザイムQ10の製造法では、コエンザイムQ10生産微生物を、脂肪酸部分の炭素数が14〜18のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含有する培地で培養することを特徴とする。
【0012】
本発明で用いられるコエンザイムQ10生産微生物としては、コエンザイムQ10を生産することが出来る微生物であれば、細菌、酵母、カビのいずれも制限無く使用することができるが、培地当たりのコエンザイムQ10の生産能力として、1μg/mL以上、好ましくは2μg/mL以上、より好ましくは3μg/mL以上、さらに好ましくは5μg/mL以上、特に好ましくは10μg/mL以上の生産能力を有する微生物を用いるのが良い。なおここでいう生産能力は、従来公知の一般的な培養法における生産能力を意味し特に限定されないが、例えば後述する実施例でのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル無添加の条件で培養した場合の生産能力である。そのようなコエンザイムQ10生産微生物としては、具体的には、例えば、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、アセトバクター(Acetobacter)属、アミノバクター(Aminobacter)属、アグロモナス(Agromonas)属、アシドフィラス(Acidiphilium)属、ブレロミセス(Bulleromyces)属、ブレラ(Bullera)属、ブレブンジモナス(Brevundimonas)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、キオノスファエラ(Chionosphaera)属、カンジタ(Candida)属、セリノステルス(Cerinosterus)属、エキソフィアラ(Exisophiala)属、エキソバシジウム(Exobasidium)属、フィロミセス(Fellomyces)属、フィロバシジエラ(Filobasidiella)属、フィロバシジウム(Filobasidium)属、ゲオトリカム(Geotrichum)属、グラフィオラ(Graphiola)属、グルコノバクター(Gluconobacter)属、コッコバエラ(Kockovaella)属、クルツマノミセス(Kurtzmanomyces)属、ララリア(Lalaria)属、ロイコスポリジウム(Leucosporidium)属、レギオネラ(Legionella)属、メチロバクテリウム(Methylobacterium)属、ミコプラナ(Mycoplana)属、オースポリジウム(Oosporidium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、シュドジマ(Psedozyma)属、パラコッカス(Paracoccus)属、ペトロミセス(Petromyc)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属、リゾモナス(Rhizomonas)属、ロドビウム(Rhodobium)属、ロドプラネス(Rhodoplanes)属、ロドシュードモナス(Rhodopseudomonas)属、ロドバクター(Rhodobacter)属、スポロボロミセス(Sporobolomyces)属、スポリジオボラス(Sporidiobolus)属、サイトエラ(Saitoella)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属、スポトリクム(Sporotrichum)属、シンポジオミコプシス(Sympodiomycopsis)属、ステリグマトスポリジウム(Sterigmatosporidium)属、タファリナ(Tapharina)属、トレメラ(Tremella)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、チレチアリア(Tilletiaria)属、チレチア(Tilletia)属、トリポスポリウム(Tolyposporium)属、チレチオプシス(Tilletiopsis)属、ウスチラゴ(Ustilago)属、ウデニオミセス(Udeniomyce)属、キサントフィロミセス(Xanthophllomyces)属、キサントバクテリウム(Xanthobacter)属、ペキロマイセス(Paecilomyces)属、アクレモニウム(Acremonium)属、ハイホモナス(Hyhomonus)属、リゾビウム(Rhizobium)属等の微生物を挙げることができる。
【0013】
培養の容易さや生産性の観点からは、細菌(好ましくは非光合成細菌)及び酵母が好ましく、例えば、細菌ではアグロバクテリウム(Agrobacterium)属、グルコノバクター(Gluconobacter)属等が、酵母ではシゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属、サイトエラ(Saitoella)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属等が挙げられる。好ましい種としては、例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefacience IFO13263)、アグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter ATCC4718)、アスペルギルス・クラバータス(Aspergillus clavatus JCM1718)、アセトバクター・キシリヌム(Acetobacter xylinum IFO15237)、アミノバクター・アガノウエンシス(Aminobacter aganouensis JCM7854)、アグロモナス・オリゴトロフィカ(Agromonas oligotrophica JCM1494)、アシドフィラス・ムルチボルム(Acidiphilium multivorum JCM8867)、ブレロミセス・アルバス(Bulleromyces albus IFO1192)、ブレラ・アルメニカ(Bullera armeniaca IFO10112)、ブレブンジモナス・ジミヌタ(Brevundimonas diminuta JCM2788)、クリプトコッカス・ラウレンティー(Cryptococcus laurentii IFO0609)、キオノスファエラ・アポバシジアリス(Chionosphaera apobasidialis CBS7430)、カンジタ・クルバータ(Candida curvata ATCC10567)、セリノステルス・ルテオアルバス(Cerinosterus luteoalbus JCM2923)、エキソフィアラ・アルカロフィラ(Exisophiala alcalophila JCM12519)、エキソバシジウム・グラシル(Exobasidium gracile IFO7788)、フィロミセス・フゾエンシス(Fellomyces fuzhouensis IFO10374)、フィロバシジエラ・ネオフォルマス(Filobasidiella neoformans CBS132)、フィロバシジウム・カプスロイゲヌム(Filobasidium capsuloigenum CBS1906)、ゲオトリカム ・カピタウム(Geotrichum capitatum JCM6258)、グラフィオラ・シリンドリカム(Graphiola cylindrica IFO6426)、グルコノバクター・スボキシダンス(Gluconobacter suboxydans IFO3257)、コッコバエラ・イムペラタエ(Kockovaella imperatae JCM7826)、クルツマノミセス・ネクタイレイ(Kurtzmanomyces nectairei IFO10118)、ララリア・セラシ(Lalaria cerasi CBS275.28)、ロイコスポリジウム・スコティー(Leucosporidium scottii IFO1212)、レギオネラ・アニーサ(Legionella anisa JCM7573)、メチロバクテリウム・エキトルグエンス(Methylobacterium extorguens JCM2802)、ミコプラナ・ラモーサ(Mycoplana ramosa JCM7822)、オースポリジウム・マルガリチフェルム(Oosporidium margaritiferum CBS2531)、シュードモナス・デニトリフィカンス(Pseudomonas denitrificans IAM 12023)、シュードモナス・シルキリエンシス(Pseudomonas shuylkilliensis IAM 1092)、シュドジマ・アフィジス(Psedozyma aphidis CBS517.23)、パラコッカス・デニトリフィカンス(Paracoccus denitrificans JCM6892)、ペトロミセス・アリアセウス(Petromyces alliaceus IFO7538)、ロドトルラ・グルティニス(Rhodotorula glutinis IFO1125)、ロドトルラ・ミヌタ(Rhodotorula minuta IFO0387)、ロドスポリジウム・ジオボバツム(Rhodosporidium diobovatum ATCC1830)、リゾモナス・スベリファシエンス(Rhizomonas suberifaciens IFO15212)、ロドビウム・オリエンツ(Rhodobium orients JCM9337)、ロドプラネス・エレガンス(Rhodoplanes elegans JCM9224)、ロドシュードモナス・パルトリス(Rhodopseudomonas palustris JCM2524)、ロドバクター・カプスレータス(Rhodobacter capsulatus SB1003)、スポロボロミセス・ホルサティカス(Sporobolomyces holsaticus IFO1034)、スポロボロミセス・パラロセウス(Sporobolomyces pararoseus IFO0471)、スポリジオボラス・ジョンソニー(Sporidiobolus johnsonii IFO1840)、サイトエラ・コンプリカタ(Saitoella complicata IFO10748)、シゾサッカロミセス・ポンペ(Schizosaccharomyces pombe IFO0347)、スフィンゴモナス・パラパウシモビリス(Sphingomonas parapaucimobilis IFO15100)、スポトリクム・セルロフィリウム(Sporotrichum cellulophilium ATCC20493)、シンポジオミコプシス・パフィオペジリ(Sympodiomycopsis paphiopedili JCM8318)、ステリグマトスポリジウム・ポリモルファ(Sterigmatosporidium polymorphum IFO10121)、スフィンゴモナス・アドヘシバ(Sphingomonas adhesiva JCM7370)、タファリナ・カエルレスセンス(Tapharina caerulescens CBS351.35)、トレメラ・メセンテリカ(Tremella mesenterica ATCC24438)、トリコスポロン・クタネウム(Trichosporon cutaneum IFO1198)、チレチアリア・アノマラ(Tilletiaria anomala CBS436.72)、チレチア・カリエス(Tilletia caies JCM1761)、トリポスポリウム・ブラタム(Tolyposporiumbullatum JCM2006)、チレチオプシス・ワシントネシス(Tilletiopsis washintonesis CBS544)、ウスチラゴ・エスクレンタ(Ustilago esculenta IFO9887)、ウデニオミセス・メガロスポラス(Udeniomyces megalosporus JCM5269)、キサントフィロミセス・デンドロロウス(Xanthophllomyces dendrorhous IFO10129)、キサントバクテリウム・フラブス(Xanthobacter flavus JCM1204)、ペキロマイセス・リアシヌス(Paecilomyces lilacinus ATCC10114)、アクレモニウム・クリソゲナム(Acremonium chrysogenum ATCC11550)、ハイホモナス・ヒシアナ(Hyphomonas hirschiana ATCC33886)、リゾビウム・メロッティ(Rhizobium meliloti ATCC9930)等が挙げられる。
【0014】
本発明では、コエンザイムQ10生産微生物としては、上記微生物の野生株のみならず、例えば、上記の微生物のコエンザイムQ10生合成に関与する遺伝子の転写及び翻訳活性、或いは発現蛋白質の酵素活性を、改変或いは改良した微生物も好ましく使用することができる。遺伝子の転写及び翻訳活性、或いは発現蛋白質の酵素活性を、改変或いは改良する手段としては、遺伝子組換え(自己遺伝子の改良、増幅、破壊や、外来遺伝子の導入及び該遺伝子の改良、増幅を含む)や、変異源による変異誘発が挙げられるが、変異源による変異誘発が好ましい。
【0015】
変異誘発は単一の変異誘発として行うことができるが、各変異誘発段階によりコエンザイムQ10を生産する能力が改良されうることから、2回以上の変異誘発を行うのが好ましい。変異誘発処理にかけられる微生物細胞の候補としては、通常は、前記増殖方法並びに測定方法により評価した場合にできるだけ高いコエンザイムQ10生産能力を有するものが好ましいことは言うまでもない。例えばこのような変異誘発を行った場合、培地当たりのコエンザイムQ10の生産能力として、上述した範囲のみならず、より好ましくは15μg/mL、さらに好ましくは20μg/mL以上の生産能力を有する微生物をも用いることが出来る。
【0016】
変異誘発処理は、任意の適当な変異源を用いて行うことができる。「変異源」なる語は、広義の意味において、例えば変異誘発効果を有する薬剤のみならず、UV照射のような変異誘発効果を有する処理も含む。適当な変異源の例として、エチルメタンスルホネート、UV照射、N−メチル−N′−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、ブロモウラシルのようなヌクレオチド塩基類似体及びアクリジン類等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。常用の変異誘発技法に従えば、変異誘発に続き、より高いコエンザイムQ10生産能力を有する微生物細胞の適切な選択を行うことができる。
【0017】
本発明において、生産されるコエンザイムQ10の形態としては、酸化型あるいは還元型のどちらでも良く、その混合物でも良い。
【0018】
本発明で用いられるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、ソルビトールのエチレンオキシド付加物に、炭素数が14〜18の脂肪酸がエステル結合したものであれば特に限定されない。また、該脂肪酸としては、脂肪酸部分の炭素数は14〜18であれば特に限定されないが、その炭素数は14、16または18が好ましく、14または18がより好ましい。該脂肪酸としては、不飽和あるいは飽和のいずれでもよく限定されない。本発明で使用されるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミチン酸エステル(Tween40)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン酸エステル(Tween80)またはポリオキシエチレンソルビタンモノステアリン酸エステル(Tween60)であり、より好ましくは、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミチン酸エステルまたはポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン酸エステルである。
【0019】
本発明で用いられる培地は、微生物の増殖に適した多量栄養素や微量栄養素を含む一般的な培地が使用できる。上記栄養素としては、例えば、炭素源(例えば、グルコース、シュークロース、マルトース、デンプン、コーンシロップ、糖蜜等の炭水化物;メタノール、エタノール等のアルコール等)、窒素源(例えば、コーンスチープリカー、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、水酸化アンモニウム、尿素、ペプトン等)、リン源(例えば、リン酸アンモニウム、リン酸等)、並びに、微量栄養素(例えば、マグネシウム、カリウム、亜鉛、銅、鉄、マンガン、モリブデン、硫酸、塩酸等のミネラル;ビオチン、デスチオビオチン、ビタミンB1等のビタミン類;アラニン、ヒスチジン等のアミノ酸;酵母エキスやマルトエキスのビタミン類を含有する天然原料等)からなるが、これらに制限されるものではない。なお、酵母エキス等の天然培地成分中には、リン酸塩等のリン源も含まれる。また、上記の栄養素は、適宜、組み合わせて用いられる。
【0020】
上記培地に、脂肪酸部分の炭素数が14〜18のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを添加する場合の、培地に対するその添加濃度は特に限定されないが、好ましくは、0.005〜0.03重量%、より好ましくは、0.01〜0.03重量%、さらに好ましくは、0.015〜0.03重量%である。0.005重量%未満では、その添加効果が十分に発揮されないことがあり、0.03重量%を超える濃度では、微生物の生存が傷害されることがある。
【0021】
脂肪酸部分の炭素数が14〜18のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの添加方法としては、初発仕込み培地に添加しても良いし、連続的に供給しても良いし、培養途中に添加しても良いが、初発仕込み培地に添加するのが好ましい。
【0022】
培養時の温度は、通常、15〜45℃、好ましくは20〜37℃である。15℃未満では、工業生産のために許容されるには微生物の増殖速度が低くなる傾向があり、45℃を越える高温では、微生物の生存が傷害され易い傾向にある。
【0023】
培養時のpHは、通常4〜9、好ましくは5〜8である。pH3以下及び、pH10以上では、いずれも微生物の増殖が阻害され易い傾向がある。
【0024】
工業規模での発酵生産においては、微生物の種類にもよるが、培養中、炭素源(生成したアルコールも含む)の濃度を、コエンザイムQ10生産能力に実質的に悪影響を及ぼさない濃度に制御するのが好ましい。よって、培養液中の炭素源の濃度が、コエンザイムQ10生産能力に実質的に悪影響を及ぼさない濃度、つまり、通常20g/L以下、好ましくは5g/L以下、より好ましくは2g/L以下となるように、培養を制御するのが好ましい。
【0025】
炭素源の濃度制御のためには、流加培養法を採用するのが好ましい。pH、溶存酸素濃度(DO)或いは残糖濃度等の培養管理指標に基づき、栄養源(特に炭素源)の供給を調節することにより、培養液中の炭素源濃度を制御することができる。栄養源の供給は、微生物の種類にもよるが、培養の当初から開始しても良いし、培養途中から開始してもよい。
【0026】
栄養源の供給は、連続的であっても良いし、断続的であってもよい。なお、栄養源の供給にあたっては、上記炭素源を他の成分から分離して、別に培地に供給するのが好ましい。
【0027】
培養は、所望のコエンザイムQ10の生産量に達した時点で終了することができる。培養時間は特に制限されないが、好ましくは、20〜200時間であり、特に好ましくは、60〜100時間である。
【0028】
上記の培養は、通常、好気的に行われる。ここで、「好気的」なる語は、培養中に酸素の制限(酸素の欠乏)が生じないように酸素の供給が行われることを意味し、好ましくは、培養中に酸素の制限が実質的に生じないように酸素の供給が充分に行われることを意味する。培養は、通常は通気下、好ましくは通気攪拌下に行われる。
【0029】
本発明では、コエンザイムQ10生産微生物を用いて、上記のようにして、脂肪酸部分の炭素数が14〜18のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを添加した培地で培養することで、培地当たり1μg/mL以上、好ましくは2μg/mL以上、さらに好ましくは3μg/mL以上という高い値で、コエンザイムQ10を生産することができる。
【0030】
次に、上記培養により生産されたコエンザイムQ10の回収について説明する。コエンザイムQ10の回収は、公知の方法にて行うことができる。例えば、上記培養で得られた微生物細胞からの有機溶剤を用いる抽出が一般的である。
【0031】
抽出に用いる有機溶剤としては、炭化水素類、脂肪酸エステル類、エーテル類、アルコール類、脂肪酸類、ケトン類、窒素化合物類(ニトリル類、アミド類を含む)、硫黄化合物類等を挙げることができる。
【0032】
炭化水素類としては、特に制限されないが、例えば、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素等を挙げることができる。脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素が好ましく、脂肪族炭化水素がより好ましい。
【0033】
脂肪族炭化水素としては、環状、非環状を問わず、又、飽和、不飽和を問わず、特に制限されないが、一般に、飽和のものが好ましく用いられる。通常、炭素数3〜20、好ましくは炭素数5〜12、より好ましくは炭素数5〜8のものが用いられる。具体例としては、例えば、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、2−メチルブタン、ヘキサン、2−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、ヘプタン、ヘプタン異性体(例えば、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、2,3−ジメチルペンタン、2,4−ジメチルペンタン)、オクタン、2,2,3−トリメチルペンタン、イソオクタン、ノナン、2,2,5−トリメチルヘキサン、デカン、ドデカン、2−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、p−メンタン、シクロヘキセン等を挙げることができる。好ましくは、ペンタン、2−メチルブタン、ヘキサン、2−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、ヘプタン、ヘプタン異性体(例えば、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、2,3−ジメチルペンタン、2,4−ジメチルペンタン)、オクタン、2,2,3−トリメチルペンタン、イソオクタン、ノナン、2,2,5−トリメチルヘキサン、デカン、ドデカン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、p−メンタン等である。より好ましくは、ペンタン、2−メチルブタン、ヘキサン、2−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、ヘプタン、ヘプタン異性体(例えば、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、2,3−ジメチルペンタン、2,4−ジメチルペンタン)、オクタン、2,2,3−トリメチルペンタン、イソオクタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等である。
一般に、ヘプタン類、ヘプタンはもちろん、炭素数7を有するメチルシクロヘキサン等の異種ヘプタンやそれらの複数混合物が好ましく用いられる。さらに好ましくは、炭素数5のペンタン類(例えば、ペンタン等)、炭素数6のヘキサン類(例えば、ヘキサン、シクロヘキサン等)、炭素数7のヘプタン類(例えば、ヘプタン、メチルシクロヘキサン等)等である。特に好ましくは、上記酸化からの防護効果が特に高いという点から、ヘキサン類(例えば、ヘキサン、シクロヘキサン等)またはヘプタン類(例えば、ヘプタン、メチルシクロヘキサン等)等であり、最も好ましくはヘキサンまたはヘプタンである。
【0034】
芳香族炭化水素としては、特に制限されないが、通常、炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜12、より好ましくは炭素数7〜10のものが用いられる。具体例としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン、クメン、メシチレン、テトラリン、ブチルベンゼン、p−シメン、シクロヘキシルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、ジペンチルベンゼン、ドデシルベンゼン、スチレン等を挙げることができる。好ましくは、トルエン、キシレン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン、クメン、メシチレン、テトラリン、ブチルベンゼン、p−シメン、シクロヘキシルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン等である。より好ましくは、トルエン、キシレン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、クメン、テトラリン等である。最も好ましくは、クメンである。
【0035】
ハロゲン化炭化水素としては、環状、非環状を問わず、又、飽和、不飽和を問わず、特に制限されないが、一般に、非環状のものが好ましく用いられる。より好ましくは塩素化炭化水素、フッ素化炭化水素であり、さらに好ましくは塩素化炭化水素である。また、炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜4、より好ましくは炭素数1〜2のものが好適に用いられる。具体例としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、ヘキサクロロエタン、1,1−ジクロロエチレン、1,2−ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロプロパン、1,2,3−トリクロロプロパン、クロロベンゼン,1,1,1,2−テトラフルオロエタン等を挙げることができる。好ましくは、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1−ジクロロエチレン、1,2−ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、クロロベンゼン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン等である。より好ましくは、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、クロロベンゼン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン等である。
【0036】
脂肪酸エステル類としては、特に制限されないが、例えば、プロピオン酸エステル、酢酸エステル、ギ酸エステル等を挙げることができる。好ましくは、酢酸エステル、ギ酸エステルであり、より好ましくは酢酸エステルである。エステル基としては、特に制限されないが、通常、炭素数1〜8のアルキルエステル、炭素数7〜12のアラルキルエステルが、好ましくは炭素数1〜6のアルキルエステルが、より好ましくは炭素数1〜4のアルキルエステルが用いられる。
【0037】
プロピオン酸エステルの具体例としては、例えば、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソペンチル等を挙げることができる。好ましくはプロピオン酸エチル等である。
【0038】
酢酸エステルの具体例としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸sec−ヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル等を挙げることができる。好ましくは、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸sec−ヘキシル、酢酸シクロヘキシル等である。より好ましくは、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等であり、最も好ましくは、酢酸エチルである。
【0039】
ギ酸エステルの具体例としては、例えば、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸イソプロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸sec−ブチル、ギ酸ペンチル等を挙げることができる。好ましくは、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸ペンチル等である。最も好ましくは、ギ酸エチルである。
エーテル類としては、環状、非環状を問わず、又、飽和、不飽和を問わず、特に制限されないが、一般に、飽和のものが好ましく用いられる。通常、炭素数3〜20、好ましくは炭素数4〜12、より好ましくは炭素数4〜8のものが用いられる。具体例としては、例えば、ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、アニソール、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ジオキサン、フラン、2−メチルフラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等を挙げることができる。好ましくは、ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、アニソール、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ジオキサン、2−メチルフラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等である。より好ましくは、ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、アニソール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等である。さらに好ましくは、ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、アニソール等であり、最も好ましくは、メチルtert−ブチルエーテルである。
【0040】
アルコール類としては、環状、非環状を問わず、又、飽和、不飽和を問わず、特に制限されないが、一般に、飽和のものが好ましく用いられる。通常、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜6である。なかでも、炭素数1〜5の1価アルコール、炭素数2〜5の2価アルコール、炭素数3の3価アルコールが好ましい。
これらアルコール類の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、イソペンチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、3−メチル−2−ブタノール、ネオペンチルアルコール、1−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、1−ノナノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1−ドデカノール、アリルアルコール、プロパルギルアルコール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、1−メチルシクロヘキサノール、2−メチルシクロヘキサノール、3−メチルシクロヘキサノール、4−メチルシクロヘキサノール等の1価アルコール;1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール等の2価アルコール;グリセリン等の3価アルコールを挙げることができる。
【0041】
1価アルコールとしては、好ましくは、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、イソペンチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、3−メチル−2−ブタノール、ネオペンチルアルコール、1−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、1−ノナノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1−ドデカノール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、1−メチルシクロヘキサノール、2−メチルシクロヘキサノール、3−メチルシクロヘキサノール、4−メチルシクロヘキサノール等である。より好ましくは、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、イソペンチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、3−メチル−2−ブタノール、ネオペンチルアルコール、1−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、シクロヘキサノール等である。さらに好ましくは、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、イソペンチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、3−メチル−2−ブタノール、ネオペンチルアルコール等である。特に好ましくは、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、2−メチル−1−ブタノール、イソペンチルアルコール等であり、最も好ましくは、2−プロパノールである。2価アルコールとしては、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール等が好ましく、1,2−エタンジオールが最も好ましい。3価アルコールとしては、グリセリンが好ましい。
【0042】
脂肪酸類としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等を挙げることができる。好ましくは、ギ酸、酢酸であり、最も好ましくは酢酸である。
【0043】
ケトン類としては、特に制限されず、炭素数3〜6のものが好適に用いられる。具体例としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン等を挙げることができる。好ましくは、アセトン、メチルエチルケトンであり、最も好ましくはアセトンである。
【0044】
ニトリル類としては、環状、非環状を問わず、又、飽和、不飽和を問わず、特に制限されないが、一般に飽和のものが好ましく用いられる。通常、炭素数2〜20、好ましくは炭素数2〜12、より好ましくは炭素数2〜8のものが用いられる。
【0045】
具体例としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、マロノニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、スクシノニトリル、バレロニトリル、グルタロニトリル、ヘキサンニトリル、ヘプチルシアニド、オクチルシアニド、ウンデカンニトリル、ドデカンニトリル、トリデカンニトリル、ペンタデカンニトリル、ステアロニトリル、クロロナセトニトリル、ブロモアセトニトリル、クロロプロピオニトリル、ブロモプロピオニトリル、メトキシアセトニトリル、シアノ酢酸メチル、シアノ酢酸エチル、トルニトリル、ベンゾニトリル、クロロベンゾニトリル、ブロモベンゾニトリル、シアノ安息香酸、ニトロベンゾニトリル、アニソニトリル、フタロニトリル、ブロモトルニトリル、メチルシアノベンゾエート、メトキシベンゾニトリル、アセチルベンゾニトリル、ナフトニトリル、ビフェニルカルボニトリル、フェニルプロピオニトリル、フェニルブチロニトリル、メチルフェニルアセトニトリル、ジフェニルアセトニトリル、ナフチルアセトニトリル、ニトロフェニルアセトニトリル、クロロベンジルシアニド、シクロプロパンカルボニトリル、シクロヘキサンカルボニトリル、シクロヘプタンカルボニトリル、フェニルシクロヘキサンカルボニトリル、トリルシクロヘキサンカルボニトリル等を挙げることができる。好ましくは、アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、バレロニトリル、シアノ酢酸メチル、シアノ酢酸エチル、ベンゾニトリル、トルニトリル、クロロプロピオニトリルであり、より好ましくは、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリルであり、最も好ましくは、アセトニトリルである。
【0046】
ニトリル類を除く窒素化合物類としては、例えば、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類やニトロメタン、トリエチルアミン、ピリジン等を挙げることができる。
【0047】
硫黄化合物類としては、例えば、ジメチルスルホキシド、スルホラン等を挙げることができる。
【0048】
上記有機溶剤の中でも、沸点、粘性等の性質(例えば、溶解度を高めるための適度な加温ができ、且つ、湿体からの溶剤の乾燥除去や晶析濾液等からの溶剤回収の行いやすい沸点(1気圧下、約30〜150℃)、室温での取り扱い時及び室温以下に冷却した時も固化しにくい融点(約20℃以下、好ましくは約10℃以下、より好ましくは約0℃以下)を持ち、粘性が低い(20℃において約10cp以下等))を考慮して選定するのが好ましい。
【0049】
上記有機溶剤のうち、微生物細胞又は該細胞破砕物の湿菌体や乾燥菌体から、コエンザイムQ10を抽出・回収するには、親水性有機溶剤を用いるのが好ましい。具体的には、アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等を挙げることができる。
【0050】
また、上記有機溶剤のうち、微生物細胞又は該細胞破砕物の水性懸濁液から、コエンザイムQ10を抽出・回収するには、疎水性有機溶剤を用いるのが好ましく、これは微生物由来の水溶性物質の除去を助成する。また、疎水性有機溶剤としては、炭化水素類、脂肪酸エステル類、エーテル類が好ましい。
【0051】
上記の親水性有機溶剤と疎水性有機溶剤の使用量としては、特に制限はされないが、抽出時の濃度として、全溶液の容量に対して、好ましくは親水性有機溶剤が5〜50容量%、疎水性有機溶剤が25〜65容量%の範囲である。両者は混合して使用しても良い。コエンザイムQ10の回収において、抽出時の温度は、特に制限さない。
【0052】
このようにして得られたコエンザイムQ10を含有する抽出液を、所望によりカラムクロマトグラフィー、還元処理等により精製した後、晶析操作を用いて、高純度のコエンザイムQ10結晶を取得することができる。
【実施例】
【0053】
以下に実施例をあげて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0054】
コエンザイムQ10生産微生物ロドトルラ・グルティニス(Rhodotorula glutinis)IFO1125株を、5リットル容培養器を用いて、2500mLの培地(硫酸カリウム0.33重量%、硫酸マグネシウム七水和物0.153重量%、塩化ナトリウム0.017重量%、硫酸亜鉛七水和物0.017重量%、硫酸マンガン五水和物0.00168重量%、ビタミンB1硝酸塩0.000278重量%、リン酸0.225重量%、硫酸鉄(II)七水和物0.0105重量%、硫酸銅(II)五水和物0.00054重量%、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミチン酸エステル(Tween40) 0.02重量%、グルコース7.5重量%、pH4.9)中で20時間培養し、20時間目以降から、培養液濃度が0.36重量%となるようにエタノールを添加しながら、95時間通気撹拌培養した。得られた培養液に抽出溶媒(メタノール/クロロホルム=3/1)を添加し、30分間激しく振とうしてコエンザイムQ10の抽出を行った。得られた溶媒相を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析して、コエンザイムQ10生産量を調べた。比較例として、Tween40を無添加とした条件で同様に実施した。その結果を表1に示す。
【0055】
(HPLC条件)
カラム:YMC−Pack4.6×250mm
移動相:メタノール/ヘキサン=85/15
流速:1mL/分
検出:UV275nm
【0056】
【表1】

【実施例2】
【0057】
コエンザイムQ10生産微生物サイトエラ・コンプリカタ(Saitoella complicata)IFO 10748株を、5リットル容培養器を用いて、2500mLの培地(硫酸カリウム0.33重量%、硫酸マグネシウム七水和物0.153重量%、塩化ナトリウム0.017重量%、硫酸亜鉛七水和物0.017重量%、硫酸マンガン五水和物0.00168重量%、ビタミンB1硝酸塩0.000278重量%、リン酸0.225重量%、硫酸鉄(II)七水和物0.0105重量%、硫酸銅(II)五水和物0.00054重量%、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン酸エステル(Tween80)0.02重量%、グルコース7.5重量%、pH4.9)中で20時間培養し、20時間目以降から、培養液濃度が0.36重量%となるようにエタノールを添加しながら、95時間通気撹拌培養した。得られた培養液に抽出溶媒(メタノール/クロロホルム=3/1)を添加し、30分間激しく振とうしてコエンザイムQ10の抽出を行った。得られた溶媒相を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析して、コエンザイムQ10生産量を調べた。比較例として、Tween80を無添加とした条件と、Tween80の代わりにポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル(Tween20)を添加した条件でも、同様にそれぞれ実施した。その結果を表2に示す。
【0058】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コエンザイムQ10生産微生物を、脂肪酸部分の炭素数が14〜18のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含有する培地で培養することを特徴とするコエンザイムQ10の製造法。
【請求項2】
培地に対するポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの添加濃度が、0.005〜0.03重量%である請求項1記載の製造法。
【請求項3】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミチン酸エステル又はポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン酸エステルである請求項1または2記載の製造法。
【請求項4】
培養時間が60〜100時間である請求項1〜3いずれか1項記載の製造法。
【請求項5】
コエンザイムQ10生産微生物が、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、アセトバクター(Acetobacter)属、アミノバクター(Aminobacter)属、アグロモナス(Agromonas)属、アシドフィラス(Acidiphilium)属、ブレロミセス(Bulleromyces)属、ブレラ(Bullera)属、ブレブンジモナス(Brevundimonas)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、キオノスファエラ(Chionosphaera)属、カンジタ(Candida)属、セリノステルス(Cerinosterus)属、エキソフィアラ(Exisophiala)属、エキソバシジウム(Exobasidium)属、フィロミセス(Fellomyces)属、フィロバシジエラ(Filobasidiella)属、フィロバシジウム(Filobasidium)属、ゲオトリカム(Geotrichum)属、グラフィオラ(Graphiola)属、グルコノバクター(Gluconobacter)属、コッコバエラ(Kockovaella)属、クルツマノミセス(Kurtzmanomyces)属、ララリア(Lalaria)属、ロイコスポリジウム(Leucosporidium)属、レギオネラ(Legionella)属、メチロバクテリウム(Methylobacterium)属、ミコプラナ(Mycoplana)属、オースポリジウム(Oosporidium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、シュドジマ(Psedozyma)属、パラコッカス(Paracoccus)属、ペトロミセス(Petromyc)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属、リゾモナス(Rhizomonas)属、ロドビウム(Rhodobium)属、ロドプラネス(Rhodoplanes)属、ロドシュードモナス(Rhodopseudomonas)属、ロドバクター(Rhodobacter)属、スポロボロミセス(Sporobolomyces)属、スポリジオボラス(Sporidiobolus)属、サイトエラ(Saitoella)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属、スポトリクム(Sporotrichum)属、シンポジオミコプシス(Sympodiomycopsis)属、ステリグマトスポリジウム(Sterigmatosporidium)属、タファリナ(Tapharina)属、トレメラ(Tremella)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、チレチアリア(Tilletiaria)属、チレチア(Tilletia)属、トリポスポリウム(Tolyposporium)属、チレチオプシス(Tilletiopsis)属、ウスチラゴ(Ustilago)属、ウデニオミセス(Udeniomyce)属、キサントフィロミセス(Xanthophllomyces)属、キサントバクテリウム(Xanthobacter)属、ペキロマイセス(Paecilomyces)属、アクレモニウム(Acremonium)属、ハイホモナス(Hyhomonus)属、又は、リゾビウム(Rhizobium)属の微生物である請求項1〜4いずれか1項記載の製造法。