説明

微生物安定性ビタミンE溶液

本出願は、水溶化させた親油性ビタミン類(例えばビタミンE)の微生物安定性溶液を開示する。これらの溶液は、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウム、硫酸カリウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、ヨウ化カリウム、及びこれらの塩の混合物から選択された塩を、約0.5%〜約30%含有する。同様に、水溶化させた親油性ビタミン類の微生物安定性溶液を提供する方法、並びに微生物安定性の水溶化させた親油性ビタミン類を含有している食品及び飲料品も開示する。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
本出願は、参照により本明細書に組み込まれる米国仮特許出願第61/230,148号(2009年7月31日出願)に関し、当該案件由来の優先権を請求する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、微生物安定性ビタミン溶液(microbially-stable vitamin solutions)、特に食品及び飲料品に使用することができるビタミンE溶液に関する。
【背景技術】
【0003】
食品組成物又は飲料組成物を配合する際、ビタミン類を添加することで製品の栄養価を仕上げるという手法がしばしば有用である。ビタミン類は、水溶性(親水性)であるか又は脂溶性(親油性)であるかのいずれかである。脂溶性ビタミン類(ビタミンA、D、E又はKなど)を、水ベースの製品、例えば健康飲料などに配合することは特に難しい。
【0004】
親油性ビタミン類を水溶液に配合するための1つの既知のアプローチでは、元になる親油性の分子上に親水性の側鎖を付加する。親水性の側鎖を付加することで、分子全体の親水性−親油性バランス(HLB)を水溶性側に調整して、分子を水溶性にすることができる。このようなビタミンE(トコフェロール)の水溶性変異体の一例は、ビ夕ミンEポリエチレングリコール(PEG)1000コハク酸(Vitamin E succinate polyethylene glycol (PEG) 1000)(ビタミンE TPGSとも呼ばれる)であり、これは以下の式:
【化1】

を有する。
【0005】
他のビタミンE水溶性変異体は、コハク酸を他のジカルボン酸(炭酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸、グリコール酸、乳酸、マンデル酸(mendelic acid)、クエン酸、及びこれらの混合物など)で置き換えることで製造できる。加えて、ポリエチレングリコール成分は約200〜約2000個(好ましくは約1000個)のサブユニットを含有するよう調節することもできる。同様に、PEG以外のポリエーテル材料、例えば約200〜約2000個(好ましくは約1000個)のサブユニットを含有するポリプロピレングリコールなどを使用することもできる。更に、PEG及びPPG化合物を、モノラウレート誘導体、モノミリステート誘導体、モノパルミテート誘導体又はモノステアレート誘導体として提供することもできる。市販されている具体的な水溶性ビタミンE材料としては、ビ夕ミンEポリエチレングリコール(PEG)1000コハク酸が挙げられる。
【0006】
これらの材料は、水溶液中に入れることができるものの、微生物汚染という課題を生じる可能性がある。特に保存時に、これらの材料は酵母、バクテリア及びかびの増殖に理想的な培地を提供し得る。この材料を食品及び飲料品に使用するには、まず汚染課題に対処しなくてはならない。課題に対処する一つの方法は、この材料を無菌的にパックするというものである。これを行うのに必要とされる追加的加工により、パッケージングは非常に高価なものになる。課題に対処する別の方法は、広範な防腐剤を溶液に入れるというものである。これは効果的ではあるが、防腐剤を最終製品に使用することが最適ではない場合があり、あるいは防腐剤を含まない最終製品を配合することが望ましい場合があることから、最終製品の一成分として防腐剤を含まないことが好ましい。課題に対処する第三の方法は、ビタミンE溶液のpHを非常に低く(すなわち、約2〜約4の間に)維持するというものである。しかしながら、この方法ではビタミンEの酸加水分解が生じ、ビタミンが損なわれてしまう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ビタミンA、D、E及びK(特にビタミンE)から選択された脂溶性ビタミンを水溶化させた誘導体を約0.5%〜約30%(重量)、並びにKCl、MgCl、CaCl、KPO、Ca(PO、KSO、CaSO、Mg(PO、MgSO、KI、及びこれらの混合物(特にKCl又はKI)から選択された塩を約0.5%〜約30%(重量)含む、水溶液を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、微生物安定性の課題に対処する、簡単で、効果的で安価な方法を提供する。本方法は、抗菌に有効な量の塩化カリウム(KCl)を、可溶化させたビタミンE材料を含有する水溶液の中に入れることで達成される。溶液中pHが比較的中性(pH約6〜約8、好ましくは約7)なものである限り、他の塩類もKClの代わりに使用することができる。pHがこの範囲外にある場合、親水性側鎖中のエーテル結合又はエステル結合が加水分解され、ビタミンが不溶性に、すなわち有効でなくなる恐れがあるためである。KClの代わりに使用できる塩類の例としては、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化カルシウム(CaCl)、リン酸カリウム(KPO)、リン酸カルシウム(Ca(PO)、硫酸カリウム(KSO)、硫酸カルシウム(CaSO)、リン酸マグネシウム(Mg(PO)、硫酸マグネシウム(MgSO)、ヨウ化カリウム(KI)、又はこれらの物質の組み合わせが挙げられる。これらの塩類は、可溶性のビタミンE成分を微生物安定化させる上、これらの材料が食品又は飲料品に使用される場合にはミネラル(例えば、カリウム、マグネシウム、カルシウム)の供給源としても機能し得る。有効性という観点からは、ナトリウム塩は本発明で使用できるが、飲食物中のナトリウムは健康課題(例えば、高血圧)に関連することから、概してナトリウム塩は回避される。
【0009】
概して、本発明の水溶液は、約0.5%〜約30%(重量)の濃度の可溶化されたビタミンE成分を含む。溶液の一実施形態は、約20重量%の可溶化されたビタミンE成分を含有する。可溶化されたビタミンEの含有は概してビタミンEの臨界ミセル濃度(CMC)により制限されるが、塩を存在させることで、形成されたミセルが塩析され、CMCを超える濃度でさえ溶液の粘性が低くなり、かつより高濃度のビタミンEを溶液に使用できるようになる。概して、塩は約0.5%〜約30%(重量)の濃度で溶液に使用され、一実施形態では、塩は約5%〜約20%(重量)の濃度で使用され、別の実施形態では、塩は約10%〜約15%(重量)の濃度で使用される。
【0010】
脂溶性ビタミン類を水溶化させた誘導体は当該技術分野において既知である。これらの誘導体は、元になる親油性の分子上に親水性側鎖を付加することで配合することができる。親水性の側鎖を付加することで、分子全体の親水性−親油性バランス(HLB)を水溶性側に調整して、分子を水溶性にすることができる。このようなビタミンE(トコフェロール)の水溶性変異体の一例は、ビ夕ミンEポリエチレングリコール(PEG)1000コハク酸であり、これは以下の式:
【化2】

を有する。
【0011】
この物質は、ビタミンE TPGSとしても既知である。他のビタミンE水溶性変異体は、コハク酸を他のジカルボン酸(炭酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸、グリコール酸、乳酸、マンデル酸、及びこれらの混合物など)で置き換えることで製造できる。加えて、ポリエチレングリコール成分は約200〜約2000個(好ましくは約1000個)のサブユニットを含有するよう調節することもできる。同様に、PEG以外のポリエーテル材料、例えば約200〜約2000個(好ましくは約1000個)のサブユニットを含有するポリプロピレングリコール(PPG)などを使用することもできる。更に、PEG及びPPG化合物を、モノラウレート誘導体、モノミリステート誘導体、モノパルミテート誘導体又はモノステアレート誘導体として提供することもできる。市販されている具体的な水溶性ビタミンE材料としては、ビ夕ミンEポリエチレングリコール(PEG)1000コハク酸が挙げられる。同様のアプローチを用いて、ビタミンA、D及びKを含む他の親油性ビタミン類の水溶性型を調製することもできる。
【0012】
ビタミン及び栄養補助食品溶液類に頻繁に、かつ従来より見られる、微生物作用を支持し得る他の材料を、それらの分野で確立された濃度で本発明の溶液に含ませることができる。
【0013】
本発明の一実施形態では、水溶液は、約20%(重量)のビタミンE PEG1000コハク酸と、約15%(重量)の塩化カリウムを含有する。製品は透明であり、良好な粘性を有し、少なくとも24カ月にわたってかび、酵母及びバクテリアの増殖を阻害する。この溶液は、1グラムにつき2.5〜3.0 RDIのd−α−トコフェロールと、0.022 RDIのカリウムをユーザーに送達する。
【0014】
この技法は、ビタミンE以外の脂溶性ビタミン類、具体的にはビタミンA、D及びKにも使用することができる。
【0015】
本明細書に定義されるビタミン溶液を、栄養学的に有効な量で食品及び飲料品に添加することで、これらの製品に栄養分を補充することもできる。従来の既知の食品及び飲料品を使用することができる。
【0016】
以下の非限定例は本発明の例示である。
【実施例】
【0017】
(実施例1)(対照)
200グラムのビタミンE TPGSチップ(chipped Vitamin E TPGS)を加えた800グラムの脱イオン水を使用して溶液を調製する。混合物を37℃に加温し、ビタミンEが全て溶解して均一な溶液が調製されるまで混合する。次いでCandida albicans、Aspergillus brasiliensis、Escherichia coli及びStaphylococcus aureusを用いて溶液に3週間の微生物負荷(3 week micro challenge)をかけることにより、この混合物のサンプルを微生物への感染しやすさについて評価する。結果は、微生物が非保存性のビタミンE溶液中で増殖可能であることを示す。
【表1】

【0018】
(実施例2)
第2試験では、100グラムの塩化カリウムを加えて溶解させた700グラムの脱イオン水を用いることにより、溶液を調製する。混合物を37℃に加温する。混合物に、200グラムのビタミンE TPGSチップを添加する。混合物を、ビタミンEが全て溶解して均一な溶液が調製されるまで混合する。次いでCandida albicans、Aspergillus brasiliensis、Escherichia coli及びStaphylococcus aureusを用いて溶液に12週間の微生物負荷をかけることにより、この混合物のサンプルを微生物への感染しやすさについて評価する。結果は被試験微生物に対する制御を示し、これにより抗微生物効果(hostility)を証明している。
【表2】

【0019】
(実施例3)
第3試験では、150グラムの塩化カリウムを加えて溶解させた650グラムの脱イオン水を用いることにより、溶液を調製する。混合物を40℃に加温する。混合物に、200グラムのビタミンE TPGSチップを添加する。混合物を、ビタミンEが全て溶解して均一な溶液が調製されるまで混合する。次いでCandida albicans、Aspergillus brasiliensis、Escherichia coli及びStaphylococcus aureusを用いて溶液に12週間の微生物負荷をかけることにより、この混合物のサンプルを微生物への感染しやすさについて評価する。結果は被試験微生物に対する良好な制御を示し、これにより抗微生物効果を証明している。
【表3】

【0020】
(実施例4)
650.0グラムの脱イオン水、150.0グラムの塩化カリウム及び200.0グラムのビタミンE TPGSを組み合わせることで、ビタミンE TPGS溶液を前もって調製し、保管する。混合物を35℃に加熱し、均一になるまで混合し、周囲温度に冷却して、使用前に数週間にわたって保管する。
【0021】
以下の成分を組み合わせ、混合することで飲料品を調製した。
【表4】

【0022】
(実施例5)
650.0グラムの脱イオン水、149.5グラムの塩化カリウム、0.5グラムのヨードカリウム及び200.0グラムのビタミンE TPGSを組み合わせることで、ビタミンE TPGS溶液を調製し、保管する。混合物を30℃に加熱し、均一になるまで混合し、周囲温度に冷却し、使用のため保管する。
【0023】
以下の成分を組み合わせ、混合することで飲料品を調製した。
【表5】

【0024】
〔実施の態様〕
(1) 水溶液であって、水溶化させたビタミンE材料を約0.5%〜約30%(重量)と、KCl、MgCl、CaCl、KPO、CaSO、Ca(PO、KSO、CaSO、Mg(PO、MgSO、KI、及びこれらの混合物から選択される塩を約0.5%〜約30%(重量)含む、水溶液。
(2) 前記塩が、KCl、KI、及びこれらの混合物から選択される、実施態様1に記載の水溶液。
(3) 前記塩がKClである、実施態様2に記載の水溶液。
(4) 前記水溶化させたビタミンE材料がビ夕ミンE PEG1000コハク酸である、実施態様3に記載の水溶液。
(5) 約20%のビタミンE PEG1000コハク酸と、約15%のKClとを含む、実施態様4に記載の水溶液。
【0025】
(6) 水溶性ビタミンE材料の微生物安定性水溶液を提供する方法であって、KCl、MgCl、CaCl、KPO、Ca(PO、KSO、CaSO、Mg(PO、MgSO、KI、及びこれらの混合物から選択される約0.5%〜約30%(重量)の塩を、前記溶液に添加することを含む、方法。
(7) 前記塩が、KCl、KI、及びこれらの混合物から選択される、実施態様6に記載の方法。
(8) 栄養学的に有効な量の実施態様1に記載の溶液を、食品又は飲料品に添加することで、前記食品又は飲料品にビタミンEを補充する方法。
(9) 水溶液であって、ビタミンA、D、E及びKから選択される脂溶性ビタミンを水溶化させた誘導体を約0.5%〜約30%(重量)と、KCl、MgCl、CaCl、KPO、Ca(PO、KSO、CaSO、Mg(PO、MgSO、KI、及びこれらの混合物から選択される塩を約0.5%〜約30%(重量)含む、水溶液。
(10) 前記塩が、KCl、KI、及びこれらの混合物から選択される、実施態様9に記載の水溶液。
【0026】
(11) 実施態様1に記載の溶液を栄養学的に有効な濃度で含む、食品。
(12) 実施態様1に記載の溶液を栄養学的に有効な濃度で含む、水ベースの飲料品。
(13) 実施態様5に記載の溶液を栄養学的に有効な濃度で含む、食品組成物。
(14) 実施態様5に記載の溶液を栄養学的に有効な濃度で含む、水ベースの飲料組成物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液であって、水溶化させたビタミンE材料を約0.5%〜約30%(重量)と、KCl、MgCl、CaCl、KPO、CaSO、Ca(PO、KSO、CaSO、Mg(PO、MgSO、KI、及びこれらの混合物から選択される塩を約0.5%〜約30%(重量)含む、水溶液。
【請求項2】
前記塩が、KCl、KI、及びこれらの混合物から選択される、請求項1に記載の水溶液。
【請求項3】
前記塩がKClである、請求項2に記載の水溶液。
【請求項4】
前記水溶化させたビタミンE材料がビ夕ミンE PEG1000コハク酸である、請求項3に記載の水溶液。
【請求項5】
約20%のビタミンE PEG1000コハク酸と、約15%のKClとを含む、請求項4に記載の水溶液。
【請求項6】
水溶性ビタミンE材料の微生物安定性水溶液を提供する方法であって、KCl、MgCl、CaCl、KPO、Ca(PO、KSO、CaSO、Mg(PO、MgSO、KI、及びこれらの混合物から選択される約0.5%〜約30%(重量)の塩を、前記溶液に添加することを含む、方法。
【請求項7】
前記塩が、KCl、KI、及びこれらの混合物から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
栄養学的に有効な量の請求項1に記載の溶液を、食品又は飲料品に添加することで、前記食品又は飲料品にビタミンEを補充する方法。
【請求項9】
水溶液であって、ビタミンA、D、E及びKから選択される脂溶性ビタミンを水溶化させた誘導体を約0.5%〜約30%(重量)と、KCl、MgCl、CaCl、KPO、Ca(PO、KSO、CaSO、Mg(PO、MgSO、KI、及びこれらの混合物から選択される塩を約0.5%〜約30%(重量)含む、水溶液。
【請求項10】
前記塩が、KCl、KI、及びこれらの混合物から選択される、請求項9に記載の水溶液。
【請求項11】
請求項1に記載の溶液を栄養学的に有効な濃度で含む、食品。
【請求項12】
請求項1に記載の溶液を栄養学的に有効な濃度で含む、水ベースの飲料品。
【請求項13】
請求項5に記載の溶液を栄養学的に有効な濃度で含む、食品組成物。
【請求項14】
請求項5に記載の溶液を栄養学的に有効な濃度で含む、水ベースの飲料組成物。

【公表番号】特表2013−500716(P2013−500716A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522932(P2012−522932)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/043218
【国際公開番号】WO2011/115639
【国際公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(512025757)
【氏名又は名称原語表記】Sunny Delight Beverages
【住所又は居所原語表記】4747 East Lake Forest Drive, Cincinnati, OH 45242, United States of America
【Fターム(参考)】