説明

微生物触媒を用いた化合物の製造方法

【課題】微生物触媒を用いて、反応基質から化合物を製造するにあたり、経済的かつ高品質の化合物を製造する。
【解決手段】微生物触媒懸濁液を、供給用配管を介して微生物触媒貯槽から反応槽まで供給するに際して、微生物触媒懸濁液の配管内線速度を、通常設定される線速度よりも遅い
0.02〜0.13m/s とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物触媒を用いた、反応基質から化合物を製造する方法に関する。好ましくは、微生物触媒を用いた、アミド化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物触媒を用いた、反応基質から化合物を製造する方法としては、微生物の増殖を伴う発酵生産法と、微生物菌体を酵素源とした酵素法が知られている。微生物触媒を用いて製造される化合物は様々なものが知られており、代表的な化合物としてアクリルアミドなどのアミド化合物が挙げられる。
アクリルアミドを原料としたアクリルアミド系ポリマーは、凝集剤、抄紙用増粘剤等の用途に利用される。いずれの用途においても、高分子量、高溶解性、および色調が無色に近いアクリルアミド系ポリマーが所望されている。
【0003】
一方、アクリルアミドの製造方法に関しては、微生物触媒を用いた酵素法を採用することが好適であることが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
酵素法でアクリルアミドを製造する場合においても、アクリルアミド系ポリマーのさらなる品質向上のために、様々な取り組みがなされている。例えば、触媒使用量を制限する方法(特許文献3参照)、製造したアクリルアミド水溶液中から、触媒由来の不純物を除去する方法(特許文献4参照)、微生物触媒およびアミド化合物を含む液の移送に容積型ポンプを用いる方法(特許文献5参照)、が知られている。
しかしながら、微生物触媒を用いた酵素法によって得られたアクリルアミドを原料としたアクリルアミド系ポリマーは、いまだ分子量、溶解性が不充分であり、色調は無色とは言えない。
【0004】
現在まで、酵素法でアクリルアミドを製造する際、微生物触媒を反応槽に供給する条件について検討された報告例はこれまでほとんどない。なお、液体を移送する際の配管内線速度については、一般的に以下のような値が採用されている(非特許文献1参照)。
【0005】
【表1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−316714号公報
【特許文献2】特開平09−118704号公報
【特許文献3】特開2001−299376号公報
【特許文献4】特開2001−78749号公報
【特許文献5】特開2006−187257号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「化学プラント建設便覧」 ISBN 4−621−02786−7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高品質な化合物を得ることができる化合物の製造方法を提供することにある。また、不純物の少ないアミド化合物を得ることができるアミド化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行い、従来着目されなかった反応槽への微生物触媒懸濁液の供給工程に着目した。そして、該供給工程における微生物触媒の摩耗を抑制することで、高品質な化合物が得られるという知見を得た。本発明者らは、該知見に基づいて、微生物触媒懸濁液を反応槽まで供給するに際して、配管内線速度を、通常設定される線速度よりも遅い0.02〜0.13m/sとすることで、高品質な化合物を製造できることを突き止め、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明は、微生物触媒を用いて、反応基質から化合物を製造する方法であって、前記微生物触媒を溶媒に懸濁した微生物触媒懸濁液を、供給用配管を介して前記微生物触媒懸濁液を反応槽内に供給する供給工程を有し、前記供給工程において、供給用配管における前記微生物触媒懸濁液の配管内線速度を0.02〜0.13m/sとすることを特徴とする化合物の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の化合物の製造方法によれば、高品質な化合物を得ることができる。加えて、微生物触媒の沈降による損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】参考実施例1で用いた、微生物触媒の供給系を模した装置の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<化合物の製造方法>
本発明の化合物の製造方法は、微生物触媒懸濁液を供給用配管を介して生体触媒懸濁液を反応槽内に供給する供給工程を有する。
本発明の製造方法は、微生物触媒を用いるあらゆる化合物の製造、例えば、アルコール類やアミド類などの汎用化学品、抗生物質・生理活性物質などの医薬品、その原料や中間体などの製造に適用が可能である。特にニトリル化合物からアミド化合物を製造する際に用いることが好ましい。アミド化合物の場合、具体的には、微生物触媒の存在下、水中でニトリル化合物を水和する反応によりアミド化合物水溶液を得る。
【0014】
ニトリル化合物からアミド化合物を製造する場合、微生物触媒によるニトリル化合物の水和反応は、常温、常法により行うことができる。ニトリル化合物がアクリロニトリルの場合、アクリロニトリルの水和反応は、例えば、以下のように行われる。
【0015】
本発明のアクリロニトリルの水和反応には、(i) 反応原料(微生物触媒、アクリロニトリル、原料水を含む)を反応槽に一度に全量仕込んでから反応させる方法(回分反応)、(ii) 反応原料の一部を反応槽に仕込んだ後、連続的又は間歇的に残りの反応原料を供給して反応させる方法(半回分反応)、及び(iii) 反応原料の連続的又は間歇的な供給と、反応混合物(反応原料及び生成したアクリルアミドを含む)の連続的又は間歇的な取り出しを行いながら、反応槽内の反応混合物を全量抜き出すことなく連続的に製造する方法(連続反応)のいずれの反応を適用することもできる。工業的にアクリルアミドを大量にかつ効率的に製造しやすい点で、連続反応が好ましい。また、反応槽は1つのみを使用してもよいし、複数個を併用してもよい。複数の反応槽を用いて連続的に反応を行う際には、微生物触媒、アクリロニトリルの供給は、反応の効率等を悪化させすぎない範囲内であれば、最も上流に位置する反応槽のみには限定されず、それよりも下流の反応槽に導入してもよい。本発明の製造方法における反応温度(反応混合物温度)は、限定はされないが、10〜40℃であることが好ましく、20〜35℃であることがより好ましい。反応温度が10℃以上であれば、微生物触媒の反応活性を充分に高められるだけでなく、冷却水温度を上げることができるため、冷凍機に替えて冷水塔を利用することができ、冷却水の冷却エネルギーを低減することができる。また、反応温度が40℃以下であれば、微生物触媒の失活を抑制しやすい。
また、本発明の製造方法における反応時間は、限定はされないが、例えば、1〜50時間であることが好ましく、より好ましくは3〜20時間である。
【0016】
<微生物触媒>
本発明における「微生物触媒」とは、反応基質から化合物を生産する能力のある酵素活性を有する微生物、または微生物の処理物である。本発明が、ニトリル化合物からアミド化合物を製造する場合、微生物触媒はニトリルヒドラターゼを有する微生物である。「ニトリルヒドラターゼ」とは、ニトリル化合物をこれに対応するアミド化合物に変換する酵素である。ニトリルヒドラターゼとしては、例えば、バチルス(Bacillus)属、ジオバチルス(Geobacillus)属、バクテリジューム(Bacteridium)属、マイクロコッカス(Micrococcus)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ノカルディア(Nocardia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、フザリウム(Fusarium)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属等に属する微生物由来のものが知られている。
【0017】
また、前記微生物由来のニトリルヒドラターゼ遺伝子を取得し、常法により、該遺伝子をそのまま、または人為的に改良して任意の宿主に該遺伝子を導入した形質転換体を用いることもできる(Molecular Cloning 2nd Edition.Cold Spring Habor Laboratory Press.1989参照)。このような形質転換体としては、例えば、アクロモバクター(Achromobacter)属細菌のニトリルヒドラターゼで形質転換した大腸菌MT10770(FERM P−14756)(特開平8−266277号公報)、シュードノカルディア(Pseudonocardia)属細菌のニトリルヒドラターゼで形質転換した大腸菌MT10822(FERM BP−5785)(特開平9−275978号公報)、ジオバチルス(Geobacillus)属細菌細菌のニトリルヒドラターゼで形質転換したロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)M33(VKMAc−1515DあるいはKCCM−10635)(国際公開第2006/062189号公報)、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)種のニトリルヒドラターゼ(特開平4−211379号公報)、で形質転換した微生物等が挙げられる。
【0018】
微生物触媒の形態としては、前記微生物等を定法に従い培養した培養液、培養液から分離し必要に応じて洗浄された休止菌体の形態が挙げられる。
化合物の品質を考慮すると、本発明においては、培養液から分離し洗浄した休止菌体を用いることが好ましい。微生物触媒の調製は、本発明が、ニトリル化合物からアミド化合物を製造する場合、例えば、以下のように行われる。
【0019】
炭素源(グルコース等の糖類)、窒素源(例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム等の無機窒素源;酵母エキス、ペプトン、肉エキス等の有機窒素)および必要に応じて無機塩類、金属塩、ビタミン等を添加した培地中で、20〜40℃、pH5〜9でニトリルヒドラターゼ産生微生物を培養する。培養は、適宜、振盪培養または回転培養としてもよい。培養終了後、菌体を有機酸水溶液で洗浄し、微生物触媒を調製する。
【0020】
<反応基質>
本発明で用いられる反応基質とは、微生物触媒によって化合物が製造され得るものであればよい。反応基質はカウンターイオンとの塩であってもよい。製造される化合物がアミド化合物である場合、反応基質はニトリル化合物である。
本発明における「ニトリル化合物」とは、ニトリルヒドラターゼの作用によりアミド化合物に変換されるものである。ニトリル化合物としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、サクシノニトリル、アジポニトリル等の脂肪族飽和ニトリル;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等の脂肪族不飽和ニトリル;ベンゾニトリル、フタロジニトリル等の芳香族ニトリル;3−シアノピリジン、2−シアノピリジン等の複素環式ニトリルが挙げられる。
【0021】
<微生物触媒懸濁液>
微生物触媒懸濁液とは、上記微生物触媒を溶媒に懸濁させた懸濁液である。微生物触媒を懸濁させる溶媒は特段の限定はされないが、有機酸水溶液に懸濁することが好ましい。この有機酸水溶液としては、酵素活性を阻害しない有機酸水溶液であれば特に限定されない。例えば、アクリル酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、カルボン酸等が挙げられ、製造する化合物に適した有機酸を適宜選択することができる。例えば、アミド化合物を製造する場合には、特開2002−281994に記載の方法を用いることができる。
【0022】
培養液から分離し洗浄した休止菌体を化合物製造に用いる場合、懸濁させる休止菌体の乾燥菌体濃度は、乾燥菌体として4質量%以上、好ましくは5質量%以上である。但し、菌体濃度が20質量%を超えると、菌体懸濁液の流動性が低下するために液体としての取り扱いが困難になる。従って、菌体懸濁液の濃度は、乾燥菌体として4〜20質量%、好ましくは、5〜15質量%、より好ましくは、5〜10質量%、更に好ましくは、8質量%である。
【0023】
ここでの休止菌体の乾燥菌体濃度は、菌体懸濁液に含まれる菌体の乾燥質量の比率により表され、具体的には、菌体懸濁液を120℃の乾燥機で3時間乾燥させた時の乾燥前後の質量比(百分率:菌液乾燥残渣濃度[%])と、菌体懸濁液を微生物菌体層と実質的に菌体を含まない液層に分離した際の該液層を同様に乾燥させた時の乾燥前後の質量比(百分率:上清塩濃度[%])を以下の式に代入することにより求められる:
【0024】
【数1】

【0025】
微生物触媒懸濁液は、反応槽への懸濁液の供給に支障が可能な粘度であればよく、特段の限定はされないが、通常、25℃での粘度が10,000cp以下であり、好ましくは1,000cp以下であり、より好ましくは100cp以下である。粘度が極端に高い場合には、供給用配管を介しての反応槽への微生物触媒の供給が困難になったり、高品質の化合物が得られない場合がある。
【0026】
<反応槽への微生物触媒懸濁液の供給工程>
反応槽への微生物触媒懸濁液の供給工程は、供給用配管を介して行う。供給用配管は、微生物触媒懸濁液の供給量に応じた適当な管径を有する管を用いることができる。また、化合物の製造において、実質的に影響を及ぼさない材料で形成することができる。このような材料としては、製造する化合物がアミド化合物の場合には、ステンレス、銅、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びフッ素系樹脂などが挙げられる。
本発明の製造方法では、供給工程において、供給過程における微生物触媒の磨耗を抑制するために、配管内線速度を0.13m/s以下で行う。すなわち、微生物触媒の摩耗を抑制することで、高品質の化合物を製造することができる。また、供給過程における微生物触媒の配管内での沈降を抑制するために、配管内線速度を 0.02m/s以上で行う。すなわち、反応槽に供給されない微生物触媒を抑制することで、経済的に化合物を製造することができる。
したがって、反応槽への微生物触媒懸濁液の供給工程では、供給用配管における微生物触媒懸濁液の配管内線速度は、0.02〜0.13m/sであり、好ましくは0.05〜0.10m/s、より好ましくは0.05〜0.09m/sである。なお、配管内線速度は次式で表される。
【0027】
【数2】

【0028】
【数3】

【0029】
ここでの「配管内線速度」とは、微生物触媒懸濁液を保存する微生物触媒貯槽と、反応槽とをつなぐ供給用配管において、その全長の内80%以上の長さを占める、同一の配管内径をもつ配管内での線速度を指し、触媒貯槽、反応槽、微生物触媒を供給するために使用する移送ポンプ等と配管とを接続するフランジや異径ユニオンなどの接続部分を除く。
【0030】
本発明の供給工程において、微生物触媒懸濁液は触媒貯槽に貯留され、供給用配管を介して触媒貯槽から反応槽内に供給される。微生物触媒懸濁液が、触媒貯槽から反応槽に供給されるまでの微生物触媒懸濁液の移送時間は、供給工程での微生物触媒の供給配管内での沈降や腐敗を抑制するために、短時間であることが好ましく、2時間以内とすることがより好ましい。なお、化合物製造における反応様式が、連続反応である場合においては、触媒貯槽と反応槽とをつなぐ供給配管内での微生物触媒の滞留時間を2時間以内とすることが好ましい。
【0031】
本発明の供給工程において、触媒貯槽から反応槽内に添加されるまでの微生物触媒懸濁液の温度は、室温で可能である。但し供給過程での微生物触媒の失活や腐敗を抑制するには低温であることがより好ましい。具体的には氷点〜35℃、好ましくは氷点〜30℃、より好ましくは氷点〜20℃、さらに好ましくは氷点〜10℃である。ここで、「氷点」とは、微生物触媒懸濁液の固体状態と液体状態の平衡温度を意味し、微生物触媒懸濁液の
組成や配管内の圧力によって変化する温度である。
本発明の供給工程において、触媒貯槽から反応槽内に添加されるまでの微生物触媒懸濁液の温度が上昇することを防ぐために、供給用配管に断熱材・保冷材などを用いることが好ましい。
【0032】
以上説明した本発明の化合物の製造方法にあっては、微生物触媒貯槽から反応槽まで供給するに際して、供給用配管における配管内線速度を 0.02〜0.13m/s とすることで、微生物触媒の磨耗を抑えることができ、結果、高品質の化合物を提供することができる。特に、アミド化合物を製造する場合には、上記配管内線速度とすることで、微生物触媒に由来する不純物の発生を抑制できる。また、微生物触媒の配管内での沈降が抑制され、微生物触媒を有効に利用でき、経済的な化合物の製造が可能になる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されるものではない。
[実施例1]
(1)微生物触媒懸濁液の調製:
ニトリルヒドラターゼ活性を有するロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)J−1株(FERM BP−1478)を、グルコース2質量%、尿素1質量%、ペプトン0.5質量%、酵母エキス0.3質量%、塩化コバルト0.05質量%を含む培地(pH7.0)により好気的に培養した。
培養終了後、培養液をクロスフロー型中空糸膜モジュール(株式会社クラレ製MLE7101)に通して循環濾過し、濾液の量に対応する量の0.1質量%のアクリル酸ナトリウム水溶液(pH7.0)を連続的に培養液に供給して洗浄を行った。洗浄後、前記アクリル酸ナトリウム水溶液の供給を停止した状態でろ過を継続し、乾燥菌体濃度が5質量%となるまで濃縮したものを、微生物触媒懸濁液とした。この微生物触媒懸濁液の粘度を25℃で測定したところ10cpであった。
【0034】
(アクリルアミドの生成)
ジャケット冷却器付反応槽(槽内径:0.8m、高さ:1.4m)を4槽直列に連結した。
第1槽目に、50mMリン酸緩衝液(pH7.0)を50.6L/hr、アクリロニトリルを27.1L/hr、及び菌体懸濁液を690g/hrで連続的に添加し、第2槽目に、アクリロニトリルのみを11.6L/hrで連続的に添加した。菌体懸濁液の供給用配管長さは2mとし、配管内径は1.6mmとした(線速度0.1m/s相当)。
第1槽から第4槽までの各槽の反応液量を500Lに調整し、第1槽から第4槽までの反応液温度がそれぞれ22℃、23℃、24℃及び25℃となるようにジャケットの冷却水(10℃)を用いて温度制御した。2枚パドル翼(翼径:350mm、翼幅:100mm)を用いて、第1槽から第4槽までの全ての反応器における反応液流体あたりの攪拌動力を0.08kW/m3となるように調整した(フルード数:0.057)。ただし、反応液流体あたりの攪拌所要動力は、各反応器における攪拌所要動力を液量(500L=0.5m3)で除して算出した。
反応開始から4日後、第4槽から流出してくる反応液を、ガスクロマトグラフィー(カラム:Waters社製、PoraPak−PS、1m、180℃;キャリアガス:ヘリウム;検出器:FID)により測定した。
その結果、未反応のアクリロニトリルは検出されず、50.5%のアクリルアミドが検出された。この反応液の一部を採取し、孔径0.45μmのフィルターでろ過することで、菌体を除き、アクリルアミド水溶液を得た。得られたアクリルアミド水溶液は、無色透明であった。
【0035】
[比較例1]
ステンレス配管の配管内径を0.8mm(線速度0.38m/s相当)とした以外は、実施例1と同様にして、菌体を除いたアクリルアミド水溶液を得た。得られたアクリルアミド水溶液は、透明であったがやや黄色味を帯びていた。
【0036】
送液過程での微生物触媒の破砕などにより、比較例1では製造されたアクリルアミド水溶液は着色しており、好ましくない。
【0037】
[参考実施例1]
次に、微生物触媒懸濁液を送液した際の、微生物触媒濃度について実験を行った。
(1)微生物触媒の調製:
乾燥菌体濃度が12質量%となるまで濃縮した以外は、実施例1と同様にして、微生物触媒懸濁液を得た。この微生物触媒懸濁液の粘度を25℃で測定したところ250cpであった。
【0038】
(2)微生物触媒懸濁液の送液:
参考実施例1で用いた微生物触媒懸濁液の供給系を模した装置を図1に示す。長さが1mのステンレス配管(内径8mm)3本を、90°エルボ(ウシオZユニオン FLZ−8−00 PP)で接続した。前記(1)で調製した微生物触媒懸濁液を2年7ヶ月冷蔵保存した後、微生物触媒貯槽に加え、チューブポンプ(ポンプ:Cole-Parmer 7553-70、ヘッド:Cole-Parmer 77201-62)により、ステンレス配管内に送液した。このとき、ステンレス配管内の微生物触媒懸濁液の線速度が0.09m/sとなるように送液した。
【0039】
(3)微生物触媒懸濁液の濃度測定:
ステンレス配管より吐出された微生物触媒懸濁液を回収し、希釈した後に、波長630nmにおける濁度を測定することで、微生物触媒懸濁液中における微生物触媒の濃度を測定した。
【0040】
(4)微生物触媒懸濁液から流出する不純物濃度測定:
前記(3)で希釈した微生物触媒懸濁液を遠心分離(4℃、12700×G、5min)し、微生物触媒を沈降させ、上清を得た。上清を分光光度計(日立計器製、GeneSpecIII)を用いて、波長260nmにおける吸光度を測定することで、微生物触媒懸濁液から流出する不純物濃度を測定した。
【0041】
[参考比較例1]
ステンレス配管内の線速度が0.41m/sとなるように送液した以外は、参考実施例1と同様にして、送液後の微生物触媒懸濁液中における微生物触媒濃度と、微生物触媒懸濁液から流出する不純物濃度を測定した。
【0042】
[参考比較例2]
ステンレス配管内の線速度が0.003m/sとなるように送液した以外は、参考実施例1と同様にして、送液後の微生物触媒懸濁液中における微生物触媒濃度と、微生物触媒懸濁液から流出する不純物濃度を測定した。
【0043】
参考実施例1、並びに参考比較例1及び2の測定結果を表2に示す。なお、微生物触媒濃度および不純物濃度は、参考実施例1での測定結果を1とした相対値で示す。
【表2】

【0044】
送液過程で微生物触媒が破砕されたためか、線速度を0.41m/sとした参考比較例1では、参考実施例1よりも不純物濃度が高かった。この線速度で微生物触媒懸濁液を供給した場合、製品となるアミド化合物濃度中に、微生物触媒由来の不純物濃度が増加し、好ましくない。
一方、線速度を0.003m/sとした参考比較例2では、送液過程で微生物触媒が沈降したためか、送液後の微生物触媒懸濁液濃度が、参考実施例1よりも低かった。この線速度で微生物触媒懸濁液を供給した場合、微生物触媒を送液過程で損失することとなり、非経済的なアミド化合物製造法となる。
【0045】
[参考実施例2]
3ヶ月冷蔵保存した微生物触媒懸濁液を用いた以外は、参考実施例1と同様にして、送液後の微生物触媒懸濁液中の微生物触媒濃度を測定した。また、送液後の微生物触媒懸濁液について、アクリルアミド生成反応速を測定し、ニトリルヒドラターゼ活性を算出した。測定は、適宜希釈した微生物触媒懸濁液を調製し、ここに基質のアクリロニトリル水溶液を添加して開始し、10℃10分の振盪ののち、微生物触媒を濾過分離して反応を停止し、ガスクロマトグラフィ(GC-14B、島津製作所)で分析した。分析条件は、Porapack PS(ウォーターズ社)を充填した1mガラスカラムを用い、カラム温度210℃、検出器は230℃のFIDを使用した。
【0046】
[参考実施例3]
ステンレス配管内の線速度が0.05m/sとなるように送液した以外は、参考実施例2と同様にして、送液後の微生物触媒懸濁液中の微生物触媒懸濁液濃度とニトリルヒドラターゼ活性を測定した。
【0047】
[参考比較例3]
ステンレス配管内の線速度が0.17m/sとなるように送液した以外は、参考実施例2と同様にして、送液後の微生物触媒懸濁液中の微生物触媒懸濁液濃度とニトリルヒドラターゼ活性を測定した。
【0048】
[参考比較例4]
ステンレス配管内の線速度が0.01m/sとなるように送液した以外は、参考実施例2と同様にして、送液後の微生物触媒懸濁液中の微生物触媒懸濁液濃度とニトリルヒドラターゼ活性を測定した。
【0049】
測定結果を表3に示す。なお、微生物触媒懸濁液濃度および不純物濃度は、参考実施例2での測定結果を1とした相対値で示す。
【表3】

【0050】
送液過程での微生物触媒の破砕や沈降により、参考比較例3、参考比較例4では送液後の微生物触媒濃度とニトリルヒドラターゼ活性が低く、微生物触媒を送液過程で損失することとなり、非経済的なアミド化合物製造法となる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の化合物の製造方法により、経済的で高品質な化合物を得ることができる。特にアミド化合物を製造した場合には、経済的で不純物の少ないアミド化合物を得ることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 菌液リザーバー
2 チューブポンプ
3 菌液回収

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物触媒を用いて、反応基質から化合物を製造する方法であって、
前記微生物触媒を溶媒に懸濁した微生物触媒懸濁液を、供給用配管を介して反応槽内に供給する供給工程を有し、
前記供給工程において、供給用配管における前記微生物触媒懸濁液の配管内線速度を0.02〜0.13m/sとする
ことを特徴とする化合物の製造方法。
【請求項2】
前記微生物触媒懸濁液中、微生物触媒が乾燥重量として4〜20質量%の濃度で存在する
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記微生物触媒を反応槽に連続的に供給する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記反応基質がニトリル化合物であり、化合物がアミド化合物である
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−217351(P2012−217351A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83559(P2011−83559)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(301057923)ダイヤニトリックス株式会社 (127)
【Fターム(参考)】