説明

微粒状農薬組成物およびその製造方法

【課題】鉱物質微粒に被覆された農薬活性成分の剥離を抑制することができる、新たな農薬組成物の提供。
【解決手段】農薬活性成分、水溶性結合剤および常温で結晶化しない液体の糖類を鉱物質微粒に被覆して含む、微粒状農薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農薬活性成分、水溶性結合剤、常温で結晶化しない液体の糖類、鉱物質微粒を含有して成る、農薬活性成分の剥離が軽減された微粒状農薬組成物、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水稲栽培における本田後期の病害虫防除法として、DL粉剤散布あるいは液状製剤の希釈液を地上または無人ヘリで散布する方法や粒剤の水面施用が広く普及している。これらの方法の内、DL粉剤(粒径:45μm以下)は製剤を水に希釈することなく直接散布出来ること、また、安価であることから、本田後期の主要な製剤として使用されている。その一方で、DL粉剤は散布時の飛散が大きく、散布者への農薬被曝、住宅近郊圃場における周辺住環境への影響とともに、更にポジティブリスト制施行後は周辺作物への影響が大きくクローズアップされ、DL粉剤の散布を手控え、飛散の少ない粒剤散布に切り替える生産者も増加している。しかしながら、粒剤(粒径:300〜1700μm)の水面施用等では効果が不安定となる場合があり、また、DL粉剤に比べ防除コストが高いという問題がある。そのため、安価であり、かつ飛散の少ない茎葉散布剤の開発が望まれている。
【0003】
一方、DL粉剤よりも散布時の飛散が少ない農薬製剤として粉粒剤(粒径:45〜300μm)があり、当該農薬製剤には、粒径の大きさが相互に異なる4種類の製剤、すなわち、微粒剤(粒径:106〜300μm)、微粒剤F(粒径:63〜212μm)、粗粉剤(粒径:45〜106μm)および細粒剤F(粒径:180〜710μm)がある(非特許文献1)。これらのうち、微粒剤Fは飛散の量、コストおよび農薬としての効果のバランスが良い。
微粒剤Fは、前記のとおり粒径が63〜212μmの粒度分布を有する製剤である。非特許文献1によると、微粒剤Fを包含する粉粒剤の基本構成は、農薬原体、結合剤、増量剤からなり、必要に応じて有効成分の分解防止剤等を添加するところ、これらの成分のうち、結合剤としてはPVA(ポリビニルアルコール)、デンプン、樹脂エマルションなどが使用され、増量剤としては珪砂、クレー、タルク、ベントナイト、炭酸カルシウムなどがあるが、珪砂を使用する場合が多い。また、粉粒剤の製造方法としては、先に押し出し造粒などにより所望の製剤より大きい粒剤を造り、それを粉砕して必要な粒度をもつものを得る方法(破砕造粒法)のほか、適当な粒度分布を持つ珪砂などの表面に農薬原体を結合剤とともに被覆する方法(表面被覆法:コーティング法)がある。これらの製造方法のうち、破砕造粒法は、比較的軟らかい造粒物や天然基剤を破砕して製造を行うため、破砕により生じた微粉の混入や、物理的衝撃による微粉の発生によるドリフトの可能性が高く、また、生産性が必ずしも高くない。これに対して、表面被覆法においては、破砕工程は不要であるため、微粒剤Fのように農耕地に直接散布する製剤を安価に製造する方法として、表面被覆法は好適である。
一方、表面被覆法によって製造された微粒剤Fを包含する粉粒剤は、粒子表面に有効成分が被覆されているため、散布時の摩擦で有効成分が剥離しやすく、結合剤の選択が重要であり(非特許文献1)、かかる結合剤について種々の選択・改良がなされている。例えば、特許文献1には、非吸油性鉱物の粒状担体の表面に10μm以下の非吸油性鉱物の粉末を、ポリビニルアルコールやリグニンスルホン酸塩等の水溶性結合剤を用いてコーティングし粒状基剤を製造した後、これに液状農薬成分を含浸させる微粒剤Fの製造法が開示されている。また、特許文献2には、陽イオン基を有する茎葉部吸収型の除草剤化合物と水溶性結合剤を、粒径0.1〜0.3mmの珪砂、または炭酸カルシウムを主体とする担体に保持させる技術が開示されており、また、水溶性結合剤として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の高粘度有機溶剤、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の糊料、及び各種の界面活性剤の使用が記載されている。
【0004】
【非特許文献1】日本農薬学会 農薬製剤・施用法研究会編「農薬製剤ガイド」、 社団法人 日本植物防疫協会、平成9年10月30日、p.17〜19
【特許文献1】特公昭63−11322号公報
【特許文献2】特開2005−112836号公報
【特許文献3】特開2000−063205号公報
【特許文献4】特表2004−504331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉱物質微粒を結合剤水溶液で湿潤させ、農薬活性成分を被覆した後乾燥することで製造される農薬製剤、特に、106〜300μmの粒度分布を有する微粒剤のみならず、63〜212μmの粒度分布を有する微粒剤Fにおいては、前記のような結合剤について種々の選択・改良がなされているにも拘らず、乾燥工程での農薬活性成分を含む微粒子の剥離により、期待した有効成分含有率が得られないばかりでなく、散布時、特に動力散布機による散布においては、剥離した農薬活性成分を含む微粒子が飛散して、作業者の健康や周辺作物に重大な悪影響を与える場合が、依然としてある。そのため、鉱物質微粒に被覆された農薬活性成分の剥離を、好ましくは大幅に、抑制することができる農薬組成物に対する継続的な需要が存在するところ、本発明は、かかる新たな農薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、驚くべきことに、鉱物質微粒に被覆せしめる成分の種類を改変することによって農薬活性成分の剥離を抑制することが可能であることを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、農薬活性成分、水溶性結合剤および常温で結晶化しない液体の糖類を鉱物質微粒に被覆して含む、微粒状農薬組成物に関する。
また、本発明は、常温で結晶化しない液体の糖類が、還元糖を含有する転化型液糖である、前記微粒状農薬組成物に関する。
さらに、本発明は、農薬活性成分が、20℃における水溶解度が100ppm以上である農薬活性成分を1種または2種以上含有する、前記微粒状農薬組成物に関する。
また、本発明は、鉱物質微粒が63〜300μmの粒径を有する粒子を90%以上含有する珪砂である、前記微粒状農薬組成物に関する。
さらに、本発明は、20℃における水溶解度が100ppm以上である農薬活性成分が、ジノテフランまたはトリシクラゾールである、前記微粒状農薬組成物に関する。
そして、本発明は、水溶性結合剤および常温で結晶化しない液体の糖類の混合水溶液で鉱物質微粒を湿潤させる工程、農薬活性成分で被覆する工程、およびそれを乾燥する工程を有する、微粒状農薬組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、微粒状農薬組成物において、製造工程(とくに乾燥工程)および散布時における農薬活性成分の担体からの剥離を抑制することができる。すなわち、本発明によれば、製造工程においては乾燥時の農薬有効成分の剥離を低く抑えることが出来、期待した成分含有率が得られる。また、散布時においては農薬活性成分を含有する剥離した微粒子の飛散を抑え、周辺作物や散布者への影響、近隣住民の不安を軽減することが可能となる。
また、本発明による微粒状農薬組成物のうち、
・常温で結晶化しない液体の糖類が、還元糖を含有する転化型液糖であるもの、
・農薬活性成分が、20℃における水溶解度が100ppm以上である農薬活性成分を1種または2種以上含有するもの、とくに20℃における水溶解度が100ppm以上である農薬活性成分が、ジノテフランまたはトリシクラゾールであるもの、
のそれぞれによれば、製造工程および散布時における農薬活性成分の剥離を、より顕著に抑制することができる。
また、本発明による微粒状農薬組成物のうち、鉱物質微粒が63〜300μmの粒径を有する粒子を90%以上含有する珪砂であるものによれば、茎葉処理における対象作物への付着性や土壌処理における均一性が保持され、期待する生物効果が得られるばかりでなく、散布時の飛散が小さく、散布者や周辺作物への影響を排除することができる。
さらに、本発明の微粒状農薬組成物の製造方法によれば、製造工程および散布時における農薬活性成分の剥離が抑制された微粒状農薬組成物を製造することができる。
なお、「常温で結晶化しない液体の糖類」とは、一般に糖蜜と呼ばれるものであるところ、糖蜜が造粒助剤、親水性結合剤として農薬粒剤に用いることができることは知られている(特許文献3)。また、糖蜜を包含する保湿剤が、シリコーン界面活性剤と一緒になって除草剤の活性を増大し得ることも知られている(特許文献4)。しかしながら、従来技術における糖類は、農薬粒剤の製造や粒剤自体において、上記各剤として、補助的に用いてもよいことが知られていたにすぎないのであって、糖蜜を用いた具体的な微粒状農薬組成物についての知見はない。まして、本発明のように糖蜜を水溶性結合剤とともに併用することや、かかる併用によって農薬活性成分の微粒状農薬組成物からの剥離に対する格別な効果が奏されることは、上記各文献には記載も示唆もなされていないことは勿論、これまでまったく知られていなかったのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の、微粒状農薬組成物について具体的に説明する。
なお、本発明においてある成分を「鉱物質微粒に被覆して含む」とは、ある成分が当該鉱物質微粒の表面の一部または全体に、直接または他の成分を介して間接的に存在することを意味するものであり、鉱物質微粒の形状により、ある成分が鉱物質微粒の内部にも存在する場合も包含される。
(1)農薬活性成分
本発明に用いられる農薬活性成分としては、特に限定されず殺虫剤、殺菌剤、除草剤、殺線虫剤、植物生長調整剤等、農業分野で使用されている農薬活性成分が挙げられ、1種または2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0009】
本発明の微粒状農薬組成物における農薬活性成分の含有量は、目的とした効果を発揮するために必要な量であり、特に限定されないが、例えば微粒状農薬組成物100重量部に対し、農薬活性成分の総量として0.01〜20重量部であり、好ましくは0.1〜5重量部である。
【0010】
具体的な農薬活性成分としては、例えば下記のものを挙げることが出来る。
トリシクラゾール、アゾキシストロビン、IBP、イミノクタジン酢酸塩、カスガマイシン、バリダマイシン、フェリムゾン、BPMC、カルタップ塩酸塩、ジノテフラン、クロチアニジン、イミダクロプリド、メプロニル、ペンシクロン、EDDP、フェノキサニル、フルトラニル、フサライド、ジクロシメット、イソプロチオラン、ジクロメジン、MPP、エトフェンプロックス、メトキシフェノジド、ブプロフェジン、MEP、テブフェノジド、PAP、シラフルオフェン、エチプロール、ベンスルタップなど。これらのうち、ジノテフラン、トリシクラゾール、ペンシクロンおよびブプロフェジンからの1種または2種以上を含むものが好ましく、ジノテフランおよびトリシクラゾールを含むもの、ならびにジノテフランおよびトリシクラゾールに加えてペンシクロンおよび/またはブプロフェジンを含むものがより好ましい。
【0011】
農薬活性成分、水溶性結合剤、鉱物質微粒を含む従来の微粒状農薬組成物においては、20℃における水溶解度が100ppm以上の農薬活性成分を製剤化した場合、製造工程および散布時における農薬活性成分を含む微粒子の剥離が非常に大きいのに対し、本発明の微粒状農薬組成物における剥離軽減効果は、20℃における水溶解度が100ppm以上の農薬活性成分において特に顕著である。
したがって、上記の農薬活性成分のうち、20℃における水溶解度が100ppm以上の農薬活性成分として、トリシクラゾール、アゾキシストロビン、IBP、イミノクタジン酢酸塩、カスガマイシン、バリダマイシン、フェリムゾン、BPMC、カルタップ塩酸塩、ジノテフラン、クロチアニジン、イミダクロプリドが挙げられるところ、これらの農薬活性成分を含む本発明の微粒状農薬組成物は好適である。
【0012】
本発明の微粒状農薬組成物は、上記農薬活性成分の中から目的に応じて1種または2種以上を任意に組み合わせて使用することが出来る。
【0013】
本発明の微粒状農薬組成物における農薬活性成分は、必要に応じて予めクレー、炭酸カルシウム、タルク、酸性白土、珪藻土、ホワイトカーボン等と共に混合粉砕し、原末として添加することが出来る。
【0014】
(2)常温で結晶化しない液体の糖類
本発明の微粒状農薬組成物における常温で結晶化しない液体の糖類とは、一般に糖蜜と呼ばれるものである。
当該糖類の種類として、砂糖の製造工程で生成される甘蔗糖蜜、甜菜糖蜜、精製糖最終糖蜜、氷糖蜜や、還元糖を含有する転化糖、例えばショ糖をブドウ糖と果糖に加水分解した転化糖およびショ糖等の非還元糖とともに転化糖を含むもの、などが挙げられるところ、還元糖分を20%以上含むものが好ましく、より好ましくは還元糖分を40%以上含有したものであり、還元糖分を約50%含有する液糖がとくに好ましい。還元糖分を45%〜54%含有する液糖も、とくに好ましい。
また、当該糖類の添加量は限定されないが、例えば微粒状農薬組成物100重量部に対して0.1〜1.0重量部であり、好ましくは0.3〜0.7重量部である。
【0015】
(3)鉱物質微粒
本発明の微粒状農薬組成物における鉱物質微粒とは、珪砂、軽石、炭酸カルシウム、クレー等を挙げることが出来、好ましくは珪砂が挙げられる。本発明において鉱物質微粒の粒度分布は63〜300μmの粒子が90%以上であると好ましい。粒度分布の上限が300μmである鉱物質微粒では、茎葉処理における対象作物への付着性や土壌処理における均一性が保持され、期待する生物効果が得られる。また、粒度分布の下限が63μmである鉱物質微粒では、散布時の飛散が小さく、散布者や周辺作物への影響を排除することができる。
なお、「63〜300μmの粒子」または「63〜300μmの粒径を有する粒子」とは、目開き300μmおよび63μmの篩で篩分して得られる粒子を意味する。
鉱物質微粒の添加量は、微粒状農薬組成物100重量部に対して例えば85〜99重量部であり、好ましくは93〜97重量部である。
【0016】
(4)水溶性結合剤
本発明の微粒状農薬組成物は、水溶性結合剤を含むものであるところ、水溶性結合剤としてポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース等を添加することが出来、特にポリビニルアルコールが好ましい。
また、本発明においては、農薬活性成分を粒度が63〜300μmの粒子を90%以上含む鉱物質微粒に被覆した後、固結防止のためホワイトカーボン、クレー、炭酸カルシウム等の微粉を添加することが出来、特にホワイトカーボンが好ましい。水溶性結合剤の添加量は、例えば0.1〜1.0重量部であり、好ましくは0.3〜0.8重量部である。
【0017】
本発明の微粒状農薬組成物は、上記以外の補助剤として、更に必要に応じて1種または2種以上の界面活性剤、安定化剤、pH調整剤、着色剤等を添加することが出来る。
界面活性剤 としては、例えばソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、アルキルポリオキシエチレンポリプロピレンブロックポリマーエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレン脂肪酸ビスフェニルエーテル、ポリアルキレンベンジルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル、アセチレンジオール、ポリオキシアルキレン付加アセチレンジオール、ポリオキシエチレンエーテル型シリコーン、エステル型シリコーン、フッ素系界面活性剤 、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油等の非イオン性界面活性剤 、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物の塩、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物の塩、脂肪酸塩、ポリカルボン酸塩、N‐メチル‐脂肪酸サルコシネート、樹脂酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩等のアニオン性界面活性剤 、ラウリルアミン塩酸塩、ステアリルアミン塩酸塩、オレイルアミン塩酸塩、ステアリルアミン酢酸塩、ステアリルアミノプロピルアミン酢酸塩、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルジメチルベンザルコニウムクロライド等のアルキルアミン塩等のカチオン界面活性剤 、アミノ酸型またはベタイン型等の両性界面活性剤等があげられる。
安定化剤としては、例えば脂肪酸、アスコルビン酸、炭化水素系溶剤、尿素などが挙げられる。
pH調整剤としては、例えばクエン酸、クエン酸三ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸などが挙げられる。
着色剤としては、例えば酸化鉄、酸化チタン、プルシアンブルーのような無機顔料、アリザリン染料、アゾ染料、金属フタロシアニン染料のような有機染料等が挙げられる。
【0018】
本発明の微粒状農薬組成物は、特に水稲栽培における本田後期病害虫防除を目的とした茎葉散布剤、畑地における土壌中有害生物の防除を目的とした土壌処理剤等として有用であるが、用途はこれらに限定はされない。また、施用量も特に制限されるものではないが、例えば10アール当たり1kg〜30kgであり、好ましくは3kg〜20kgを施用することが出来る。
【0019】
本発明の微粒状農薬組成物は、本技術分野における通常の手法を組み合わせることによって製造することができる。例えば、適当な粒度分布を持つ鉱物質微粒の表面に農薬原体を結合剤とともに被覆する方法である、表面被覆法(コーティング法)を採用することができる。
また、下記工程(a)〜(c)を含む本発明の製造方法によれば、本発明の微粒状農薬組成物のように、製造工程および散布時における農薬活性成分の剥離が抑制された微粒状農薬組成物を製造することができる:
(a)水溶性結合剤および常温で結晶化しない液体の糖類の混合水溶液で鉱物質微粒を湿潤させる工程、
(b)該鉱物質微粒を農薬活性成分で被覆する工程、および
(c)該被覆した鉱物質微粒を乾燥する工程。
本発明の製造方法は、好ましくは、水溶性結合剤および常温で結晶化しない液体の糖類の混合水溶液で湿潤させた鉱物質微粒に、農薬活性成分を被覆した後、乾燥、篩分することを含む。被覆工程において使用する事が出来る装置として、円錐形の容器の内壁に沿ってスクリューが自転しながら公転する混合機(例えば、ホソカワミクロン社製のナウタミキサー)、V型に組み合わせた二つの円筒容器が回転する混合機(例えば、不二パウダル社製のV型混合機)、容器底面の羽根と側面の羽根が高速回転する混合機(例えば、パウレック社製のバーチカルグラニュレーター、深江パウテック社製のハイスピードミキサー)等が挙げられるがこれらに限定されない。乾燥工程において使用する事が出来る装置として、熱風を送り込むことにより粒を流動させる乾燥機(例えば不二パウダル社製の流動層乾燥機)、熱風を送り込みながら装置自体が振動することにより粒を流動させる乾燥機(例えば、不二パウダル社製の振動流動乾燥機、神鋼電機社製の振動乾燥機)等が挙げられるがこれらに限定されない。また、篩分工程において使用する事が出来る装置として、ダルトン社製の振動ふるい等が挙げられるが、特に限定されない。
【0020】
実施例
本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例、比較例における部は重量部、%は重量%を示す。なお、各原料の総量が100部を超えるのは、ポリビニルアルコールの15%水溶液中の水が乾燥により蒸発するためである。
【0021】
(実施例1)
ポリビニルアルコールの15%水溶液3.0部、還元糖分を約50%含有する液糖(ニットーハイスイートデラックス 三菱化学フーズ社製)0.5部を混合した結合剤水溶液を、63〜300μmの粒子を90%以上含有する珪砂95.05部に添加し、全体を湿潤させた。これにジノテフラン0.35部と炭酸カルシウム2.65部を予め混合した原末を添加して混合被覆し、更にホワイトカーボン1.0部を添加して混合被覆する。その後流動層乾燥機により熱風温度80℃で5分間乾燥して、目開き300μmおよび63μmの篩で篩分し、300μm以上の粒子および63μm以下の粒子を除いて、本発明の微粒状農薬組成物を得た。
【0022】
(実施例2)
ポリビニルアルコールの15%水溶液3.6部、還元糖分を約50%含有する液糖(ニットーハイスイートデラックス 三菱化学フーズ社製)0.5部を混合した結合剤水溶液を、63〜300μmの粒子を90%以上含有する珪砂94.96部に添加し、全体を湿潤させた。これにジノテフラン0.35部、トリシクラゾール0.5部および炭酸カルシウム2.15部を予め混合した原末を添加して混合被覆し、更にホワイトカーボン1.0部を添加して混合被覆した。その後振動流動乾燥機により熱風温度80℃で5分間乾燥して、目開き300μmおよび63μmの篩で篩分し、300μm以上の粒子および63μm以下の粒子を除いて、本発明の微粒状農薬組成物を得た。
【0023】
(実施例3)
ポリビニルアルコールの15%水溶液3.6部、還元糖分を約50%含有する液糖(ニットーハイスイートデラックス 三菱化学フーズ社製)0.5部を混合した結合剤水溶液を、63〜300μmの粒子を90%以上含有する珪砂95.46部に添加し、全体を湿潤させた。これにジノテフラン0.35部、トリシクラゾール0.5部、ペンシクロン1.5部および炭酸カルシウム0.65部を予め混合した原末を添加して混合被覆し、更にホワイトカーボン0.5部を添加して混合被覆した。その後流動層乾燥機により熱風温度80℃で5分間乾燥して、目開き300μmおよび63μmの篩で篩分し、300μm以上の粒子および63μm以下の粒子を除いて、本発明の微粒状農薬組成物を得た。
【0024】
(実施例4)
ポリビニルアルコールの15%水溶液3.0部、還元糖分を約50%含有する液糖(ニットーハイスイートデラックス 三菱化学フーズ社製)0.5部を混合した結合剤水溶液を、63〜300μmの粒子を90%以上含有する珪砂95.55部に添加し、全体を湿潤させた。これにジノテフラン0.35部、トリシクラゾール0.5部、ブプロフェジン1.0部および炭酸カルシウム1.15部を予め混合した原末を添加して混合被覆し、更にホワイトカーボン0.5部を添加して混合被覆した。その後振動流動乾燥機により熱風温度80℃で5分間乾燥して、目開き300μmおよび63μmの篩で篩分し、300μm以上の粒子および63μm以下の粒子を除いて、本発明の微粒状農薬組成物を得た。
【0025】
(比較例1)
ポリビニルアルコールの15%水溶液3.6部を、63〜300μmの粒子を90%以上含有する珪砂95.46部に添加し、全体を湿潤させた。これにジノテフラン0.35部、トリシクラゾール0.5部および炭酸カルシウム2.15部を予め混合した原末を添加して混合被覆し、更にホワイトカーボン1.0部を添加して混合被覆した。その後流動層乾燥機により熱風温度80℃で5分間乾燥して、目開き300μmおよび63μmの篩で篩分し、300μm以上の粒子および63μm以下の粒子を除いて、微粒状農薬組成物を得た。
【0026】
(比較例2)
ポリビニルアルコールの15%水溶液3.6部を、63〜300μmの粒子を90%以上含有する珪砂95.96部に添加し、全体を湿潤させた。これにジノテフラン0.35部、トリシクラゾール0.5部、ペンシクロン1.5部および炭酸カルシウム0.65部を予め混合した原末を添加して混合被覆し、更にホワイトカーボン0.5部を添加して混合被覆した。その後振動流動乾燥機により熱風温度80℃で5分間乾燥し、目開き300μmおよび63μmの篩で篩分して、300μm以上の粒子および63μm以下の粒子を除いて、微粒状農薬組成物を得た。
【0027】
(比較例3)
ポリビニルアルコールの15%水溶液3.0部に、結晶性の糖類であるショ糖0.5部を溶解した結合剤水溶液を、63〜300μmの粒子を90%以上含有する珪砂95.55部に添加し、全体を湿潤させた。これにジノテフラン0.35部、トリシクラゾール0.5部、ブプロフェジン1.0部および炭酸カルシウム1.15部を予め混合した原末を添加して混合被覆し、更にホワイトカーボン0.5部を添加して混合被覆した。その後振動流動乾燥機により熱風温度80℃で5分間乾燥し、目開き300μmおよび63μmの篩で篩分して、300μm以上の粒子および63μm以下の粒子を除いて、微粒状農薬組成物を得た。
【0028】
(比較例4)
ポリビニルアルコールの15%水溶液3.0部に、結晶性の還元糖類であるフラクトース0.5部を溶解した結合剤水溶液を、63〜300μmの粒子を90%以上含有する珪砂95.55部に添加し、全体を湿潤させた。これにジノテフラン0.35部、トリシクラゾール0.5部、ブプロフェジン1.0部および炭酸カルシウム1.15部を予め混合した原末を添加して混合被覆し、更にホワイトカーボン0.5部を添加して混合被覆した。その後流動層乾燥機により熱風温度80℃で5分間乾燥し、目開き300μmおよび63μmの篩で篩分して、300μm以上の粒子および63μm以下の粒子を除いて、微粒状農薬組成物を得た。
【0029】
(比較例5)
ポリビニルアルコールの15%水溶液3.0部に、高粘性の溶剤であるグリセリン0.5部を混合した結合剤水溶液を、63〜300μmの粒子を90%以上含有する珪砂95.55部に添加し、全体を湿潤させた。これにジノテフラン0.35部、トリシクラゾール0.5部、ブプロフェジン1.0部および炭酸カルシウム1.15部を予め混合した原末を添加して混合被覆し、更にホワイトカーボン0.5部を添加して混合被覆した。その後流動層乾燥機により熱風温度80℃で5分間乾燥し、目開き300μmおよび63μmの篩で篩分して、300μm以上の粒子および63μm以下の粒子を除いて、微粒状農薬組成物を得た。
【0030】
上記の微粒状農薬組成物における有効成分の剥離性を、下記の試験により評価した。
試験例1 乾燥時成分減少率の測定
実施例1〜4および比較例1〜5の微粒状農薬組成物の製造工程において、流動層乾燥の熱風により飛散する農薬活性成分の割合を次に示す方法により求めた。農薬活性成分を含む原末およびホワイトカーボンを混合被覆した後、一部を採取して60℃に調整した乾燥機中で30分間静置乾燥して、目開き300μmおよび63μmの篩いで篩分し、300μm以上の粒子および63μm以下の粒子を除いて、微粒状農薬組成物静置乾燥品を得た。流動層乾燥で得られた微粒状農薬組成物と共に農薬活性成分の含有率を測定し、次式により(流動層)乾燥時成分減少率を算出した。なお、当該乾燥時成分減少率は低いほど良い。
【化1】


A:静置乾燥品中の農薬活性成分含有率
B:流動層乾燥品中の農薬活性成分含有率
【0031】
試験例2 微粒状農薬組成物における農薬活性成分剥離率の測定
実施例1〜4および比較例1〜5の微粒状農薬組成物10gをグラスフィルター(型番11G−2)に入れ、フィルター下部から風量30L/分の割合で2分間通風した。グラスフィルター上に残った試料を回収し、次式により剥離率を算出した。なお、剥離率は低いほど良いが、10%以下が実用上の許容値である。
【化2】


C:試験前の農薬活性成分含有率
D:試験後の農薬活性成分含有率
結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1に示す結果から明らかなとおり、本願発明にかかる実施例の微粒状農薬組成物は、流動層乾燥時成分減少率および剥離率のいずれもが、比較例より顕著に少ない。すなわち、本願発明にかかる微粒状農薬組成物においては、製造工程における乾燥時および散布時における農薬活性成分の剥離が、顕著に抑制される。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の微粒状農薬組成物は、製造工程における乾燥時の活性成分の減少を軽減し、また、製剤からの活性成分の剥離を極めて低減することにより、製造コストおよび製造時・散布時の飛散を抑制することが出来る組成物として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
農薬活性成分、水溶性結合剤および常温で結晶化しない液体の糖類を鉱物質微粒に被覆して含む、微粒状農薬組成物。
【請求項2】
常温で結晶化しない液体の糖類が、還元糖を含有する転化型液糖である、請求項1記載の微粒状農薬組成物。
【請求項3】
農薬活性成分が、20℃における水溶解度が100ppm以上である農薬活性成分を1種または2種以上含有する、請求項1または2に記載の微粒状農薬組成物。
【請求項4】
鉱物質微粒が、63〜300μmの粒径を有する粒子を90%以上含有する珪砂である、請求項1乃至3記載の微粒状農薬組成物。
【請求項5】
20℃における水溶解度が100ppm以上である農薬活性成分が、ジノテフランまたはトリシクラゾールである、請求項3記載の微粒状農薬組成物。
【請求項6】
水溶性結合剤および常温で結晶化しない液体の糖類の混合水溶液で鉱物質微粒を湿潤させる工程、該鉱物質微粒を農薬活性成分で被覆する工程、および該被覆した鉱物質微粒を乾燥する工程を有する、微粒状農薬組成物の製造方法。

【公開番号】特開2010−100565(P2010−100565A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273700(P2008−273700)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(000000169)クミアイ化学工業株式会社 (86)
【Fターム(参考)】